説明

繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物

【課題】 繊維質材料に付与した後、比較的低温度で乾燥固化させても、繊維質材料に良好な防汚性及び耐湿摩擦性を与えうる水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 この水性樹脂組成物は、乳化剤の存在下で重合性単量体を乳化重合して得られた重合体粒子(P)を含む水性樹脂エマルジョン(A)と、フッ素系撥水撥油剤(B)と、有機系シランカップリング剤(C)と、乳酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、アスコルビン酸、マレイン酸及びp−トルエンスルホン酸よりなる群から選ばれた有機酸(D)を含有する。重合体粒子(P)は、一種の重合体粒子であってもよいし、二種以上の重合体粒子であってもよい。本発明は特定の有機酸(D)を含有することが特徴で、これにより上記課題を解決しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙、不織布又は編織物等の繊維質材料に塗布又は含浸して付与する水性樹脂組成物に関し、特に、繊維質材料に防汚性や耐湿摩擦性を与えるために付与する水性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維質材料に防汚性や耐湿摩擦性を与えるために、水性樹脂組成物が付与されている。たとえば、乳化剤の存在下で重合性単量体を乳化重合して得られた水性樹脂エマルジョンと、フッ素系撥水撥油剤と、有機系シランカップリング剤を含有する水性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。特許文献1に記載されている水性樹脂組成物は、これを繊維質材料に塗布又は含浸した後、乾燥固化させると、繊維質材料に良好な防汚性と耐湿摩擦性を与えるものであり、好ましいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2007−252634
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特許文献1に係る発明を利用した改良発明に関するものである。つまり、本発明は、特許文献1に記載されている水性樹脂組成物に、特定の有機酸を含有させることにより、繊維質材料に付与した後、比較的低温度で乾燥固化させても、繊維質材料に良好な防汚性及び耐湿摩擦性を与えうるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、乳化剤の存在下で重合性単量体を乳化重合して得られた重合体粒子(P)を含む水性樹脂エマルジョン(A)と、フッ素系撥水撥油剤(B)と、有機系シランカップリング剤(C)と、乳酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、アスコルビン酸、マレイン酸及びp−トルエンスルホン酸よりなる群から選ばれた有機酸(D)を含有することを特徴とする繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物に関するものである。
【0006】
まず、本発明で用いる水性樹脂エマルジョン(A)について説明する。この水性樹脂エマルジョン(A)は、乳化剤の存在下で重合性単量体を乳化重合して重合体粒子(P)を含有するものである。ここで、重合性単量体としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオリド、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーチサック酸ビニル、(メタ)アクリル酸(これはアクリル酸とメタクリル酸の両者を含む表記法である。)、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル又はその四級化物、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はそのナトリウム塩、スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩、N−ビニルピロリドン、ブタジエン、イソプレン又はクロロプレン等が単独で又は混合して用いられる。この中でも特に、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル又は(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルが単独で又は混合して用いられる。
【0007】
重合性単量体を乳化重合する際に用いる乳化剤としては、従来公知の乳化重合用界面活性剤、すなわち、陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤が用いられる。陰イオン界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩又はポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩等が用いられる。この中でも特に、反応性乳化剤として用いられている重合性アリル基含有ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が用いられる。非イオン界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が用いられる。この中でも特に、反応性乳化剤として用いられている重合性アリル基含有ポリオキシエチレンアルキルエーテルが用いられる。反応性乳化剤を使用すると、水性樹脂エマルジョン(A)中に遊離した乳化剤が残存しないため、水性樹脂組成物の使用にあたって悪影響を及ぼす恐れが少なくなるのである。
【0008】
上記した乳化剤の存在下で、上記した重合性単量体を乳化重合することによって、重合体粒子(P)を含有する水性樹脂エマルジョン(A)を得る。乳化剤の使用量は、重合性単量体100質量部に対して1〜10質量部程度が好ましい。乳化重合する際に、乳化剤と共に、エマルジョンの性能を損なわない範囲でカチオン系界面活性剤やポリビニルアルコール等の保護コロイドを添加してもよい。また、乳化重合する際に、イソプロパノールやメルカプタン類等の重合調節剤、金属塩、有機酸又は可塑剤等を適宜添加してもよい。
【0009】
乳化重合に用いられる重合開始剤としては、たとえば、水溶性ラジカル重合触媒、油溶性ラジカル重合触媒又はレドックス重合触媒の中から適宜選択して使用できる。水溶性ラジカル重合触媒の例としては、過硫酸カリウムや過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩が挙げられる。油溶性ラジカル重合触媒としては、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイドなどの過硫酸物等が挙げられる。レドックス重合触媒としては、過酸化水素、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド又は過硫酸塩等の酸化剤と、グルコース、デキストロース、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート又は亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤との組み合わせが挙げられる。重合開始剤の使用量は、使用する重合性単量体100質量部に対して0.01〜0.5質量部程度が好ましい。
【0010】
水性樹脂エマルジョン(A)中に含有される重合体粒子(P)は、一種の重合体粒子であっても、二種以上の重合体粒子であってもよい。特に、本発明においては、ガラス転移温度−70℃〜0℃である重合体粒子(P1)と、ガラス転移温度60℃〜105℃である重合体粒子(P2)の二種の重合体粒子であるのが好ましい。かかる二種の重合体粒子を組み合わせることにより、重合体粒子(P1)及び(P2)が凝集して生成する皮膜に、ガラス転移温度−70℃〜0℃である重合体粒子(P1)により発現する成膜性と、60℃〜105℃である重合体粒子(P2)により発現する耐ブロッキング性という特性を安定して得ることが可能となる。重合体粒子(P1)と(P2)とは、各々が独立した粒子として存在していてもよいし、両者が一体となって存在していてもよい。一体となる構造としては、コア−シェル構造(たとえば、コアが重合体粒子(P1)でシェルが重合体(P2)である構造)であってもよいし、数珠状構造(重合体粒子(P1)と(P2)の表面同士が付着して繋がっている構造)であってもよい。また、独立した粒子と一体となった粒子とが併存していてもよい。重合体粒子(P1)と重合体粒子(P2)の質量割合は、P1:P2=30〜70:70〜30(質量%)であるのが好ましい。両者の質量割合がこの範囲外になると、重合体粒子(P1)又は重合体粒子(P2)により発現される特性が弱くなり、成膜性と耐ブロッキング性という特性を安定して得にくくなる傾向が生じる。
【0011】
二種の重合体粒子を組み合わせる場合、用いられる重合性単量体は、主として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いるのが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル及び/又は(メタ)アクリル酸ブチルを用いるのが好ましい。さらに、ガラス転移温度の調整のために、その他の重合性単量体、たとえば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル又はその四級化物、(メタ)アクリルアミド、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、ブタジエン、エチレン等を適宜量用いてもよい。
【0012】
重合体粒子(P1)及び(P2)のガラス転移温度は、各々一種の重合性単量体を用いて得られるホモポリマーの場合は、当該ホモポリマーのガラス転移温度を意味している。一方、各重合体粒子が二種以上の重合性単量体を用いて得られるコポリマーの場合は、FOXの式に基づいて求められるガラス転移温度を意味している。FOXの式は、以下のとおりである。
1/Tg=Σ(an/Tgn
(式中、Tgはコポリマーのガラス転移温度であり、anは第n番目の重合性単量体の質量分率であり、Tgnは第n番目の重合性単量体より得られるホモポリマーのガラス転移温度である。なお、式中で用いるガラス転移温度はケルビン温度である。)
【0013】
ここで、各種ホモポリマーのガラス転移温度の例を挙げれば、以下の表1のとおりである。
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
メタクリル酸メチルのホモポリマー 105℃
アクリロニトリルのホモポリマー 105℃
スチレンのホモポリマー 100℃
塩化ビニルのホモポリマー 81℃
酢酸ビニルのホモポリマー 28℃
アクリル酸メチルのホモポリマー 6℃
アクリル酸エチルのホモポリマー −24℃
アクリル酸ブチルのホモポリマー −55℃
アクリル酸−2−エチルヘキシルのホモポリマー −70℃
ブタジエンのホモポリマー −86℃
エチレンのホモポリマー −125℃
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
また、コポリマーのガラス転移温度の算出例を挙げられば、以下のとおりである。たとえば、メタクリル酸メチル72質量部とアクリル酸ブチル224質量部とを共重合して得られるコポリマーの場合、メタクリル酸メチルの質量分率は(72/296)であり、そのホモポリマーのガラス転移温度は105℃(ケルビン温度で378K)であり、アクリル酸ブチルの質量分率は(224/296)であり、そのホモポリマーのガラス転移温度は−55℃(ケルビン温度で218K)である。したがって、FOXの式は、以下のとおりになる。
1/Tg=(72/296)/378+(224/296)/218
この式を解くと、Tg=243K=−30℃となる。
【0014】
次に、本発明で用いられるフッ素系撥水撥油剤(B)について説明する。フッ素系撥水撥油剤(B)としては、従来公知の各種のものを用いることができる。たとえば、長鎖パーフルオロアルキル基(アルキル基の炭素数は3〜20)を含有する化合物を用いることができる。一般的に、フッ素系撥水撥油剤(B)は、これを水中に分散したエマルジョン形態で市販されているので、本発明においても、エマルジョン形態で取り扱うのが好ましい。また、エマルジョンは、非カチオン性エマルジョンであるのが好ましい。これは、水性樹脂エマルジョン(A)がアニオン性又はノニオン性エマルジョンであることが多く、水性樹脂エマルジョン(A)との混合安定性に優れているからである。アニオン性フッ素系撥水撥油剤エマルジョンとしては、たとえばエフトーンGMW−801(ダイキン工業社製)等が用いられ、ノニオン性フッ素系撥水撥油剤エマルジョンとしては、アサヒガードAG−7015(旭硝子社製)等が用いられる。
【0015】
フッ素系撥水撥油剤(B)の含有量は、重合体粒子(P)100質量部に対して、0.6〜30質量部であるのが好ましい。フッ素系撥水撥油剤(B)の含有量が、0.6質量部未満であると、十分な防汚性が得難くなる傾向が生じる。また、フッ素系撥水撥油剤(B)の含有量が、30質量部を超えると、成膜性が低下する傾向が生じる。
【0016】
次に、本発明で用いられる有機系シランカップリング剤(C)について説明する。有機系シランカップリング剤(C)としては、従来公知のものが用いられ、特に分子内に少なくとも1つ以上の官能基と、2つ以上の加水分解性アルコキシシラン基を有する化合物を用いるのが好ましい。かかるシランカップリング剤としては、たとえば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が単独で又は混合して用いられる。これらの中でも特にグリシジル基を分子内に有する有機系シランカップリング剤を用いるのが好ましい。
【0017】
有機系シランカップリング剤(C)の含有量は、重合体粒子(P)100質量部に対して、0.5〜50質量部であるのが好ましい。有機系シランカップリング剤(C)の含有量が0.5質量部未満になると、繊維質材料に耐湿摩擦性を付与しにくくなる傾向が生じる。また、有機系シランカップリング剤(C)の含有量が50質量部を超えると、相対的に重合体粒子(P)及びフッ素系撥水撥油剤(B)の含有量が少なくなり、防汚性等が低下する傾向が生じる。
【0018】
次に、本発明で用いられる有機酸(D)について説明する。本発明で用いられる有機酸(D)は特定の有機酸であり、乳酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、アスコルビン酸、マレイン酸及び/又はp−トルエンスルホン酸が用いられる。この特定の有機酸を用いることにより、水性樹脂組成物を繊維質材料に塗布又は含浸して、比較的低温で乾燥固化させても、繊維質材料に良好な防汚性と耐湿摩擦性を与えることができるのである。
【0019】
有機酸(D)の含有量は、重合体粒子(P)100質量部に対して、0.5〜10質量部であるのが好ましく、好ましくは1.5〜8質量部であり、最も好ましくは2.5〜5質量部である。有機酸(D)の含有量が0.5質量部未満になると、比較的低温で乾燥させた場合、繊維質材料に耐湿摩擦性を付与しにくくなる傾向が生じる。また、有機酸(C)の含有量が10質量部を超えると、防汚性が低下する傾向が生じる。有機酸(D)の含有量が、重合体粒子(P)100質量部に対して、2.5〜5質量部であると、低温で乾燥固化させても、耐湿摩擦性及び防汚性共に十分満足するものが得られる。
【0020】
本発明に係る水性樹脂組成物は、乳化剤の存在下で重合性単量体を乳化重合して得られた重合体粒子(P)を含む水性樹脂エマルジョン(A)を得た後、この水性樹脂エマルジョン(A)中に、フッ素系撥水撥油剤(B)、有機系シランカップリング剤(C)及び特定の有機酸(D)を添加混合することによる得ることができる。本発明においては、上記各成分の他に第三成分を添加混合しても差し支えない。たとえば、中和剤、安定剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、防カビ剤等の添加剤や、クレー、タルク、炭酸カルシウム、コロイダルシリカのような無機充填剤が適宜添加混合してもよい。
【0021】
本発明に係る水性樹脂組成物は、有効成分である重合体粒子(P)、フッ素系撥水撥油剤(B)、有機系シランカップリング剤(C)及び特定の有機酸(D)と、水とを含有するものであり、エマルジョン形態となっている。そして、有効成分の含有量は10〜65質量%程度である。また、粘度は1〜3000mPa・s程度であるのが好ましく、特に1〜800mPa・s程度であるのがより好ましい。かかる有効成分量及び粘度で、本発明にかかる水性樹脂組成物は提供されるが、使用の際には、そのまま使用してもよいて、希釈又は濃縮して使用しても差し支えない。
【0022】
本発明に係る水性樹脂組成物は、紙、不織布又は編織物等の繊維質材料に塗布又は含浸された後、乾燥固化することによって、繊維質材料に防汚性や耐湿摩擦性を与えることができる。塗布方法や含浸方法は従来公知の方法を採用することができ、たとえば、繊維質材料にグラビアコーター等で水性樹脂組成物を塗布したり、水性樹脂組成物浴中に繊維質材料を浸漬して含浸させた後、乾燥固化するのである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る水性樹脂組成物は、乳化剤の存在下で重合性単量体を乳化重合して得られた重合体粒子(P)、フッ素系撥水撥油剤(B)及び有機系シランカップリング剤(C)と共に、特定の有機酸(D)が含有されてなるものである。かかる水性樹脂組成物は、特定の有機酸(D)が含有されているため、繊維質材料に付与した後、比較的低温で乾燥固化させても、繊維質材料に良好な防汚性及び耐湿摩擦性を与えうるという効果を奏するものである。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、特許文献1に記載された水性樹脂組成物に特定の有機酸を添加混合しておけば、比較的低温で乾燥固化させても、繊維質材料に良好な防汚性及び耐湿摩擦性を与えうるとの知見に基づくものとして、解釈されるべきである。
【0025】
[水性樹脂エマルジョン(A)の製造例1]
撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を275質量部仕込み、乳化剤(アデカリアソープSR−10:旭電化工業社製)16.3質量部をその中に添加し、撹拌して乳化剤水溶液を得た。この中にメタクリル酸メチル315部、アクリル酸ブチル214部の混合物を徐々に添加して重合性単量体乳化物を得た。
【0026】
別のコンデンサー及び撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を250質量部と、乳化剤(アデカリアソープSR−10:旭電化工業社製)1.3質量部を仕込み溶解した。この乳化剤水溶液の温度を80℃に設定して、上記重合性単量体乳化物を過硫酸アンモニウム水溶液(10質量%溶液)10質量部とともに撹拌下、窒素ガス気流中で150分にわたって滴下して乳化重合し、メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体粒子(P)を含む水性樹脂エマルジョン(A−1)を得た。水性樹脂エマルジョン(A−1)中に含有されるメタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体粒子(P)の質量割合は、50質量%とした。なお、メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体粒子(P)のガラス転移温度は、FOXの式に基づき、18.5℃である。
【0027】
[水性樹脂エマルジョン(A)の製造例2]
撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を153質量部仕込み、乳化剤(アデカリアソープSR−10:旭電化工業社製)9.1質量部をその中に添加し、撹拌して乳化剤水溶液を得た。この中にメタクリル酸メチル72質量部、アクリル酸ブチル224質量部の混合物を徐々に添加して重合性単量体乳化物(M−1)を得た。
【0028】
次に、撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を122質量部仕込み、乳化剤(アデカリアソープSR−10:旭電化工業社製)7.2質量部をその中に添加し、撹拌して乳化剤水溶液を得た。この中にメタクリル酸メチル191質量部、アクリル酸ブチル42質量部の混合物を徐々に添加してモノマー乳化物(M−2)を得た。
【0029】
別のコンデンサー及び撹拌装置付きフラスコに脱イオン水を250質量部と乳化剤(アデカリアソープSR−10:旭電化工業社製)1.3質量部を仕込み、撹拌して乳化剤水溶液を得た。この乳化剤水溶液の温度を80℃に設定して、上記重合性単量体乳化物(M−1)を撹拌下、75分にわたって滴下して乳化重合し、メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体粒子(P1)を含むエマルジョンを得た後、30分間温度を維持したまま熟成した。その後、このエマルジョンの温度を80℃に維持したまま、上記重合性単量体乳化物(M−2)を75分にわたって滴下して乳化重合し、メタクリル酸メチル−アクリル酸ブチル共重合体粒子(P2)を生成させ、60分間温度を維持したまま熟成した。なお、重合性単量体乳化物(M−1)及び(M−2)の滴下は、窒素ガス気流中で行い、過硫酸アンモニウム水溶液(10質量%溶液)10質量部を重合開始剤として滴下しながら行った。
【0030】
以上のようにして、重合体粒子(P1)及び重合体粒子(P2)を含む水性樹脂エマルジョン(A−2)を得た。ここで、重合体粒子(P1)は、メタクリル酸メチル72質量部とアクリル酸ブチル224質量部とが共重合されたものであり、重合体粒子(P2)は、メタクリル酸メチル191質量部とアクリル酸ブチル42質量部とが共重合されたものであるから、両者の質量割合は、P1:P2=56:44(質量%)である。また、水性樹脂エマルジョン(A−2)中に含有される重合体粒子(P1)及び(P2)の質量割合は、50質量%とした。なお、重合体粒子(P1)のガラス転移温度は、FOXの式に基づき、−30℃であり、重合体粒子(P2)のガラス転移温度は61℃である。
【0031】
実施例1
製造例1で得られた水性樹脂エマルジョン(A−1)40質量部(固形分20質量部)に、フッ素系撥水撥油剤(B)の水性エマルジョン(旭硝子社性「アサヒガードAG7105」、固形分30質量%の水性エマルジョン)2部(固形分であるフッ素系撥水撥油剤(B)は0.6質量部)を加えて撹拌した。さらに、有機系シランカップリング剤(C)としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製「KBM403」)2質量部及び有機酸(D)として乳酸0.5質量部を加えて撹拌した後、全体の有効成分量が40質量%となるように、水を添加し調整して水性樹脂組成物を得た。
【0032】
実施例2
有機酸(D)としての乳酸に代えて、グリコール酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0033】
実施例3
有機酸(D)としての乳酸に代えて、酒石酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0034】
実施例4
有機酸(D)としての乳酸に代えて、クエン酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0035】
実施例5
有機酸(D)としての乳酸に代えて、L−リンゴ酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0036】
実施例6
有機酸(D)としての乳酸に代えて、マロン酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0037】
実施例7
有機酸(D)としての乳酸に代えて、コハク酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0038】
実施例8
有機酸(D)としての乳酸に代えて、アスコルビン酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0039】
実施例9
有機酸(D)としての乳酸に代えて、p−トルエンスルホン酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0040】
実施例10
有機酸(D)としての乳酸に代えて、マレイン酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0041】
実施例11
水性樹脂エマルジョン(A−1)に代えて、水性樹脂エマルジョン(A−2)を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0042】
実施例12
水性樹脂エマルジョン(A−1)に代えて、水性樹脂エマルジョン(A−2)を用いる他は、実施例2と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0043】
参考例1
有機酸(D)としての乳酸を添加混合しない他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0044】
参考例2
有機酸(D)としての乳酸に代えて、酢酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0045】
参考例3
有機酸(D)としての乳酸に代えて、プロピオン酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0046】
参考例4
有機酸(D)としての乳酸に代えて、リン酸を用いる他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0047】
実施例1〜12及び参考例1〜4で得られた水性樹脂組成物を、繊維質材料である紙(呉竹社製、書道半紙五号)に塗布量15g/m2(有効成分量換算)で塗布し、130℃で60秒間乾燥し、水性樹脂組成物を固化させて試験体を得た。この試験体につき、耐湿摩擦性、防汚性、耐ブロッキング性及び成膜性を、以下の条件で測定及び評価した。そして、この結果を表2に示した。
【0048】
[耐湿摩擦性]
試験体の塗布面を、水で湿らせた綿布を用い、JIS L 0849の摩擦試験機II型(学振形)で擦過した。擦過条件は、荷重1000gとし擦過回数を30回往復とした。そして、擦過後の表面のケバ立ちを、以下の基準で評価した。
◎:ケバ立ちがない。
○:ケバ立ちが出るが目立たない。
△:ケバ立ちが少し見られる。
×:ケバ立ちがかなり多く見られる。
【0049】
[防汚性]
試験体に、インスタントコーヒー(熱水100gに、インスタントコーヒー粉末2g、砂糖1.5g及び区リーミングパウダー1.5gを溶解させた溶液)をかけ、1時間後に濡らした紙製拭き布(日本製紙クレシア社製「キムワイプ」)で拭き取り、汚れの程度を、目視によって以下の基準で評価した。
○:染みが殆ど見られない。
△:少し染みが残っているのが見られる。
×:染みが明確に見られる。
【0050】
[耐ブロッキング性]
二枚の試験体の塗布面同士を重ね合わせ、荷重100g/cm2をかけて、温度50℃で湿度95%の雰囲気下に48時間放置した。その後、室温の雰囲気下に戻し、塗布面同士のブロッキングを、官能によって以下の基準で評価した。
○:塗布面同士を引き剥がす際に殆ど音がせず、ブロッキングしていない。
△:塗布面同士を引き剥がす際に小さい音がし、部分的にブロッキングしていた。
×:塗布面同士を引き剥がす際に音がし、全面的にブロッキングしていた。
【0051】
[成膜性]
試験体の塗布面を、目視によって以下の基準で評価した。
○:白化しておらず、成膜性は良好である。
×:白化しており、成膜性は不良である。
【0052】
[表2]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
耐湿摩擦性 防汚性 耐ブロッキング性 成膜性
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 ◎ ○ ○ ○
実施例2 ◎ ○ ○ ○
実施例3 ○ ○ ○ ○
実施例4 ○ ○ ○ ○
実施例5 ○ ○ ○ ○
実施例6 ○ ○ ○ ○
実施例7 △ ○ ○ ○
実施例8 △ ○ ○ ○
実施例9 ◎ ○ ○ ○
実施例10 ◎ ○ ○ ○
実施例11 ◎ ○ ○ ○
実施例12 ◎ ○ ○ ○
参考例1 × ○ ○ ○
参考例2 × ○ ○ ○
参考例3 × ○ ○ ○
参考例4 × ○ ○ ○
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0053】
表2の結果から明らかなように、特定の有機酸(D)を用いている実施例1〜12のものに比べて、かかる特定の有機酸(D)を用いていない参考例1〜4のものは、耐湿摩擦性に劣ることが分かる。
【0054】
実施例13
乳酸を0.5質量部添加混合するのに代えて、乳酸を0.1質量部添加混合する他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0055】
実施例14
乳酸を0.5質量部添加混合するのに代えて、乳酸を0.3質量部添加混合する他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0056】
実施例15
乳酸を0.5質量部添加混合するのに代えて、乳酸を0.75質量部添加混合する他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0057】
実施例16
乳酸を0.5質量部添加混合するのに代えて、乳酸を1質量部添加混合する他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0058】
実施例17
乳酸を0.5質量部添加混合するのに代えて、乳酸を2質量部添加混合する他は、実施例1と同一の方法で水性樹脂組成物を得た。
【0059】
実施例13〜17で得られた水性樹脂組成物を用い、実施例1と同一の方法で試験体を得た。そして、実施例1の場合と同様にして、耐湿摩擦性、防汚性、耐ブロッキング性及び成膜性を評価した。この結果を表3に示した。
【0060】
[表3]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
耐湿摩擦性 防汚性 耐ブロッキング性 成膜性
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例13 △ ○ ○ ○
実施例14 ○ ○ ○ ○
実施例15 ◎ ○ ○ ○
実施例16 ◎ ○ ○ ○
実施例17 ◎ △ ○ ○
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0061】
表3の結果及び表2中の実施例1及び実施例11の結果から明らかなように、特定の有機酸(D)の使用量が、重合体粒子100質量部に対して、2.5〜5質量部の範囲内であると、耐湿摩擦性に優れると共に、防汚性、耐ブロッキング性及び成膜性も良好となることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤の存在下で重合性単量体を乳化重合して得られた重合体粒子(P)を含む水性樹脂エマルジョン(A)と、フッ素系撥水撥油剤(B)と、有機系シランカップリング剤(C)と、乳酸、グリコール酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、アスコルビン酸、マレイン酸及びp−トルエンスルホン酸よりなる群から選ばれた有機酸(D)を含有することを特徴とする繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。
【請求項2】
重合性単量体として、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルよりなる群から選ばれた化合物を用いる請求項1記載の繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。
【請求項3】
乳化剤として、反応性乳化剤を用いる請求項1記載の繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。
【請求項4】
重合体粒子(P)が、ガラス転移温度−70℃〜0℃である重合体粒子(P1)と、ガラス転移温度60℃〜105℃である重合体粒子(P2)とからなる請求項1記載の繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。
【請求項5】
重合体粒子(P1)と重合体粒子(P2)との質量割合が、P1:P2=30〜70:70〜30(質量%)である請求項4記載の繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。
【請求項6】
重合体粒子(P1)及び重合体粒子(P2)が、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルよりなる群から選ばれた重合体単量体を乳化重合して得られたものである請求項4記載の繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。
【請求項7】
重合体粒子(P)100質量部に対して、フッ素系撥水撥油剤(B)が0.6〜30質量部含有されている請求項1記載の繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。
【請求項8】
重合体粒子(P)100質量部に対して、有機系シランカップリング剤(C)が0.5〜50質量部含有されている請求項1記載の繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。
【請求項9】
有機系シランカップリング剤(C)が、分子内にグリシジル基を有しているものである請求項1記載の繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。
【請求項10】
重合体粒子(P)100質量部に対して、有機酸(D)が0.5〜10質量部含有されている請求項1記載の繊維質材料に付与するための水性樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−222745(P2010−222745A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72935(P2009−72935)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000105648)コニシ株式会社 (217)
【Fターム(参考)】