説明

羽ばたき飛行機

【課題】複雑かつ重量な駆動制御回路装置を要することなく、回転モータを高速回転駆動して大出力を得るとともに、回転モータが出力する大出力を大きな機械的損失を伴うことなく羽ばたき運動に変換することにより、パワー伝達効率に優れ、加えて高い羽ばたき振動数で羽ばたき運動することにより機敏な高機動飛行をすることができる優れた羽ばたき飛行機を提供する。
【解決手段】共振型羽ばたき飛行機において、羽ばたき翼がフラッピング振動およびフェザリング振動の2自由度において連成共振振動する翼振動系を構成し、フラッピング振動支軸で軸支された羽ばたき翼により円周方向に慣性力を発生する振動モータを支持して設け、前記振動モータが発生する慣性力によりフラッピング振動トルクおよびフェザリング振動トルクを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は羽ばたき飛行機に関し、詳細には共振型羽ばたき飛行機に関する。本発明は羽ばたき飛行により飛翔する小型飛翔体(MicroAerialVehicle)に好適である。
【背景技術】
【0002】
近年、産業製品の小型化、微細化とその製造技術の進歩に伴い、小型飛翔体(MicroAerialVehicle)の実現的開発が急速に進められている。小型飛翔体(MicroAerialVehicle)とは、主に自律飛行が可能な小型で無人の航空機を指し、その特徴である機動性及び自律性を活かして有意義な観測活動をおこなうことができるものとされている。
【0003】
なかでも羽ばたき飛行により飛翔する昆虫型の小型飛翔体(MicroAerialVehicle)の開発は、閉鎖小空間内における自律観測活動をも可能とするホバリングや急発進、急停止、急旋回といった高機動飛行を実現することができるものと期待され、具体的に例示すれば、人による観測活動に危険を伴う火災現場や、有害物質漏洩現場、あるいは倒壊のおそれのある建物内等における迅速な状況把握を目的とする無人観測活動他において活躍することが期待されている。
【0004】
羽ばたき飛行により飛翔する昆虫型の小型飛翔体(MicroAerialVehicle)は優れた飛行特性を有する昆虫の羽ばたき運動を利用することにより、従来の航空機の飛行性能を大幅に凌ぐ驚異的な高機動飛行を実現しようとするものであるが、それら昆虫の優れた飛行特性はその高い羽ばたき振動数によって瞬間的に大きな空気力を発生させることができることによるものといえる。最近の非定常空気力学の分野における研究では、羽ばたき運動により生じる空気力は羽ばたき振動数の2乗に比例するものであることが明らかとされているが、より一般的に、例えば100Hz超の高い羽ばたき振動数で飛行する蜂などの昆虫は比較的機敏な飛行をすることができるのに対し、羽ばたき振動数が10Hz程度にとどまる蝶などの昆虫はそうした機敏な飛行をすることができないものということができる。
【0005】
羽ばたき飛行機の羽ばたき機構については数多くの発明がなされているが、その大多数は多様なカム、リンク機構等を用いた強制振動型羽ばたき機構である。強制振動型羽ばたき機構は概して剛体に設けられた翼軸をアクチュエータにより一定振幅で強制振動駆動して羽ばたき運動を得るものであって、例えば直流電磁モータあるいは超音波モータ等の回転出力を適度にギア・ダウンしてスコッチ・ヨーク機構に伝達し、当該スコッチ・ヨーク機構において前記入力された回転出力を往復直線出力へと出力変換することで、当該往復直線出力を以って剛体に設けられた羽ばたき翼の翼軸を一定振幅で強制振動駆動してフラッピング運動を得る羽ばたき機構を挙げることができる。(なおこの際、いわゆるメンブレイン方式を併用することにより、前記フラッピング運動によって生じる慣性力と空気力とを羽ばたき翼に作用させることで、当該羽ばたき翼にフェザリング運動を生じさせることもできる。)
【0006】
しかしながらこのような強制振動型の羽ばたき機構は、当該フラッピング運動の全行程を機械的に強制駆動によって生じさせるものであるため、例えば当該羽ばたき翼のフラッピング回転支軸周りにおける摺動摩擦抵抗による摺動摩擦損失をはじめとして、スコッチ・ヨーク機構および回転モータのギア・ダウン機構等の駆動機構他による機械的仕事損失が大きな負担となって、当該直流電磁モータあるいは超音波モータの供給する限られた回転出力によっては当該強制振動型羽ばたき飛行機を20Hz以上の高い羽ばたき振動数で羽ばたき運動させることは困難であった。このためこのような強制振動型羽ばたき飛行機においては、既述の昆虫型超小型羽ばたき飛行機に対して要求される機敏な高機動飛行を実現することは不可能であった。
【0007】
一方、羽ばたき翼の翼軸を板バネ等の弾性体で弾性支持するよう構成し、当該羽ばたき翼を翼振動系の固有振動数において共振振動させてフラッピング振動を得る共振型羽ばたき機構は、わずかな振幅の加振振動によって大きなフラッピング振動振幅を得ることができるため、強制振動型羽ばたき機構のようにその長大な駆動ストロークを摩擦力他に抗して強制機構駆動する必要が無く、強制振動型羽ばたき機構において問題であった摺動摩擦損失をはじめとする機械的仕事損失を比較的小さく抑えることができるために、同一の直流電磁モータあるいは超音波モータを出力源として用いる場合にも出力に対する機構的負荷が小さく、強制振動型羽ばたき機構に比べてより高い羽ばたき振動数での羽ばたき運動を実現することができる優れた羽ばたき機構であるといえる。
【0008】
このように強制振動型羽ばたき機構によっては実現することのできない高い羽ばたき振動数による羽ばたき運動を実現し得る共振型羽ばたき機構に係る発明が特許文献1に開示されている(特許文献1参照。)。特許文献1においては、電磁モータ又は超音波モータを翼駆動用モータとして用い、当該翼駆動用モータの回転出力軸を正、逆転駆動させることで当該羽ばたき翼の翼軸たる駆動ロッドを加振することにより、当該弾性部材によって弾性支持された駆動ロッドを当該構成された振動系の固有振動数において共振振動させることで、当該羽ばたき翼のフラッピング振動を得ることができるものと共振型羽ばたき機構に係る発明の開示がされている。(なお特許文献1においては、羽ばたき翼に空気抵抗を作用させることにより、すなわちメンブレイン方式によってパッシブにフェザリング運動を得ることができるものと当該発明の開示がされている。)
【特許文献1】特開2006−088769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、電磁モータあるいは超音波モータを正・逆転駆動することにより羽ばたき翼の翼軸を高い振動数で加振してフラッピング振動を得るものとする場合には、当該回転モータおよび羽ばたき翼の回転慣性に抗して当該回転モータの回転方向を繰り返し反転させて駆動する当該回転モータの正・逆転駆動の切り替え制御を都度おこなうこととなるから、当該方式によって実現することのできる加振振動の振動数は当該制御応答遅れの影響によって時間的に制限されるものであるということができる。
【0010】
また、繰り返し高い振動数で回転モータを正・逆転駆動するものとする当該方式の場合には、当該回転モータの回転速度(回転数)が十分に加速して高速回転に達することが無く、これにより当該回転モータが出力できるパワー(出力)が制限されてしまうため、羽ばたき飛行に必要なパワーを出力して供給するという当該回転モータ本来の出力装置としての目的を十分に達成することができないこととなる。すなわち、回転モータを正・逆転駆動して用いる当該方式の場合には、羽ばたき飛行に必要な必要パワーを出力して賄うに十分な当該回転モータの大出力での高速回転駆動を望むことが困難であるものといえる。
【0011】
さらに、当該回転モータを正・逆転駆動するための複雑な駆動制御回路装置の当該羽ばたき飛行機への搭載は相当の重量増を伴うものであり、当該羽ばたき飛行機の飛行にとって大きな負担となるものといえる。こうした駆動制御回路装置の重量増大の問題はピエゾ振動素子や人工筋肉などを用いた共振型羽ばたき飛行機の加振振動装置においてより顕著に見ることができる。例えば、4.8gのピエゾ振動素子を振動駆動するために、駆動制御回路装置として7.4Vの直流電源を2000Vにまで昇圧するDC−DCコンバータを用いる必要があり、当該駆動制御回路装置(昇圧回路)の重量がおよそ126gとなるために、当該駆動制御回路装置の重量が加振振動出力素子自体の重量の約26倍を占めることとなる設定例が知られている。
【0012】
本発明はこれらの事情に鑑みてなされたものであり、複雑かつ重量な駆動制御回路装置を要することなく回転モータを高速回転駆動して大出力を得るとともに、当該回転モータが出力する大出力を大きな機械的損失を伴うことなく羽ばたき運動に変換することによりパワー伝達効率に優れ、加えて高い羽ばたき振動数で羽ばたき運動することにより機敏な高機動飛行をすることができる優れた羽ばたき飛行機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記の課題を解決するために次の構成を備える。即ち、本発明による羽ばたき飛行機は、共振型羽ばたき飛行機において、羽ばたき翼がフラッピング振動およびフェザリング振動の2自由度において連成共振振動する翼振動系を構成し、フラッピング振動支軸で軸支された羽ばたき翼により円周方向に慣性力を発生する振動モータを支持して設け、前記振動モータが発生する慣性力によりフラッピング振動トルクおよびフェザリング振動トルクを得ることを特徴とする。
【0014】
また前記フラッピング振動支軸で軸支された羽ばたき翼を左右一対として係合する接合継手をさらに設け、前記接合継手に固定して前記振動モータを備えたことを特徴とする。
【0015】
また前記接合継手は弾性体により成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、共振型羽ばたき飛行機において、羽ばたき翼がフラッピング振動およびフェザリング振動の2自由度において連成共振振動する翼振動系を構成し、フラッピング振動支軸で軸支された羽ばたき翼により円周方向に慣性力を発生する振動モータを支持して設け、前記振動モータが発生する慣性力によりフラッピング振動トルクおよびフェザリング振動トルクを得ることにより、複雑かつ重量な駆動制御回路装置を要することなく振動モータを一定方向に高速回転駆動することで、当該振動モータが円周方向に発生する慣性力を用いて、大出力かつ高振動数のフラッピング振動トルクおよびフェザリング振動トルクを得ることができる。
【0017】
また本発明によれば、前記振動モータの出力たるフラッピング振動トルクおよびフェザリング振動トルクを摩擦損失などの大きな機械的損失を伴うことなく当該羽ばたき翼振動系の固有振動数で共振振動により最大のパワー伝達効率をもって当該羽ばたき翼振動系に伝達することができるため、フラッピング振動およびフェザリング振動の2自由度連成共振振動系に構成された当該羽ばたき翼振動系において効率良く大振幅の羽ばたき運動を実現することができる。
【0018】
また本発明によれば、前記フラッピング振動支軸で軸支された羽ばたき翼を左右一対として係合する接合継手をさらに設け、前記接合継手に固定して前記振動モータを備える構成とすることで、一の振動モータによって左右一対の羽ばたき翼を同時に加振することができる。
【0019】
また本発明によれば、前記接合継手を弾性体で構成することで、複雑な接合機構を設けることなく当該弾性体によって前記振動モータを弾性支持するとともに、前記左右一対の羽ばたき翼を弾性接合することができるから、当該振動モータの振動変位および当該羽ばたき翼の前記フラッピング振動支軸を回転軸とする羽ばたき運動に伴う回転運動変位を前記弾性体の弾性変形によって許容することで前記発明の効果を好適に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る羽ばたき飛行機の実施の形態について詳述する。図1は、本実施例の羽ばたき飛行機における羽ばたき翼駆動部の全景を左翼前上方翼端側より見た説明図である。本実施例の羽ばたき飛行機は2対4枚の羽ばたき翼を備えたトンボ型MAV(MicroAerialVehicle)であり、実際のトンボ(Anax−Parthenope−julius)の2倍の大きさで重量は20gに設計されている。その全長は250mmであり、スパン長は200mmである。
【0021】
4枚の低発泡スチレン樹脂(密度40kg/m)製の羽ばたき翼1は矩形に設けられていて、そのコード長は20mmであり、その板厚は3mmの平板であって、当該羽ばたき翼1枚の重量はその内部構造物の重量を含めて1.43gに設計されている。これら4枚の羽ばたき翼が2枚1対の前翼および同じく2枚1対の後翼に分けられてそれぞれジュラルミン製のマウントブロック2に取り付け支持されている。本実施例においては、製作に易くまた比較的丈夫な矩形平板による羽ばたき翼に定めてその設計が成されているが、もちろん羽ばたき翼は任意の平面形状および翼型を備えることもできる。なお、本実施例の説明図たる図1から図5までおよび他の実施例を示す図8においては、その視覚的理解を助けるために説明上図中の羽ばたき翼に翼型を持たせて描くものとする。
【0022】
図2および図3は、本実施例における羽ばたき飛行機の前翼の取り付け支持部を拡大して見る説明図である。羽ばたき翼1はその露出部において長さ10mm、幅5mm、板厚0.37mmのアルミニウム製のフラッピング振動用スプリング11によって片持ち支持されていて、当該フラッピング振動用スプリング11の一端はジュラルミン製の支点ブロック10の内部に、また逆の一端は羽ばたき翼1の内部にそれぞれ埋没固定されている。
【0023】
図4および図5は、本実施例における羽ばたき飛行機の前翼の取り付け支持部をさらに拡大して見る説明図である。当該前翼の取り付け基部たる支点ブロック10はマウントブロック2に設けられた1対のフランジによって軸支される円柱軸形状のフラッピング振動支軸21によって軸支されていて、当該フラッピング振動支軸21の周りを回動自在に設けられている。さらに左右一対の支点ブロック10は接合継手3によって係合されていて、当該接合継手3には図示のように振動モータ4が圧入によって固定保持されている。なお、接合継手3はシリコーン・ゴムにより成る弾性体であって、適度に弾性変形することができるように設けられているため、支点ブロック10がフラッピング振動支軸21の周りを微小振幅によって回転振動する際に、当該回転振動動作が大きく妨げられることはない。また勿論、図示する接合継手3に適度な放熱孔を設けることで、回転駆動により発熱する振動モータ4の放熱が効率良くおこなわれるよう設けるものとすることもできる。
【0024】
振動モータ4は直径4mmの直流電磁モータ41の出力軸にタングステン焼結合金製の偏心重錘42が取り付けられたもので、直流電磁モータ41の電極43は小型のリチウム・ポリマー電池に接続されている。これら偏心重錘42の重量分布および回転慣性モーメント、加えて当該直流電磁モータ41に供給される電流および電圧値は予めそのバランスを調整されていて、当該振動モータ4が2040rpmで一定方向に定速回転するように設けられている。この際、振動モータ4は偏心重錘42の当該回転面の円周方向に向けて均等に大きな慣性力(遠心力)を出力することができるため、特異的に当該慣性力の出力ベクトル線上に当該羽ばたき翼のフラッピング振動支軸21が位置することとなるために一時的にそのモーメント・アームが失われてフラッピング振動支軸21の周りに回転トルクを作用させることができないこととなるごく一部の慣性力を除き、ほぼ全ての前記偏心重錘42の当該回転面の円周方向に向けて均等に発生される慣性力による出力をフラッピング振動支軸21周りのフラッピング振動トルクへと変換して出力することができる。
【0025】
以上示した機構において、既述のとおり振動モータ4を2040rpmで一定方向に定回転駆動することにより、フラッピング振動支軸21周りに本実施例の羽ばたき飛行機における設計羽ばたき振動数である34Hzでフラッピング振動トルクが発生し、当該フラッピング振動トルクによってフラッピング振動支軸21周りに支点ブロック10が微小振幅で回転振動することとなるから、本実施例において示す当該フラッピング振動の固有振動数ωφが32.7Hzに設計された羽ばたき翼1およびフラッピング振動用スプリング11より成る羽ばたき翼振動系が当該フラッピング振動において共振振動することにより、直ちに40°のフラッピング振動振幅を得ることができる。
【0026】
また、本実施例に示す羽ばたき飛行機は、以上説明した羽ばたき翼のフラッピング振動(運動)にフェザリング振動(運動)が自然に連成されるように設けられている。図6は、本実施例における羽ばたき飛行機の羽ばたき翼の内部構造を示す説明図である。羽ばたき翼の前縁より5mmのフェザリング軸上には当該羽ばたき飛行機の主桁である直径0.5mmのジュラルミン製の内桁12がフラッピング振動用スプリング11に固定されて設けられている。
【0027】
内桁12の外周には樹脂製の薄肉カラーである外形0.51mmの外桁13が固定されずに組み付けられている。よって外桁13は内桁12の外周面上を摺動し、内桁12と同軸を保って自在に回動することができるように設けられている。ここで、低発泡スチレン樹脂製の羽ばたき翼1は前記外桁13と同様に内桁12には固定されずに設けられている一方で、前記外桁13の外周面上に接着固定されて設けられているため、外桁13と一体となって内桁12の外周面上を摺動し、内桁12の外周を自在に回動することができる機構とされている。
【0028】
また内桁12と垂直に、当該羽ばたき翼の翼弦線上には、長さ12mm、幅2.5mm、板厚0.1mmのアルミニウム製のフェザリング振動用スプリング14が図示のとおり2本、内桁12に埋没固定されて設けられている。ここで、低発泡スチレン樹脂製の羽ばたき翼1は、前記フェザリング振動用スプリング14の先端部のみと固定されていて、当該固定部を除き、当該羽ばたき翼1と前記フェザリング振動用スプリング14とは接触しないように離間して設けられている。
【0029】
これはフェザリング振動用スプリング14の振動による自由な変形を許容するためのもので、フェザリング振動用スプリング14の振動モードを考慮して当該羽ばたき翼1の内部にはフェザリング振動用スプリング14の周辺に内部空間が設けられている。もちろん必要であれば当該羽ばたき翼1の翼面を切り開けてフェザリング振動用スプリング14が振動するための空間を設けるものとしても良く、あるいは、フェザリング振動用スプリング14を当該羽ばたき翼1の翼根および翼端に設け、前記羽ばたき翼1との連結固定部を除きその全体を露出させるものとしても良い。
【0030】
以上に加えて、前記フラッピング振動用スプリング11の支点ブロック10への埋没固定面である支点ブロック10の端面より起算して50.6mmスパン方向へ外側、かつ当該羽ばたき翼の後縁の位置には、重量1.22gの鋼鉄製の集中荷重用錘15が設けられている。この集中荷重用錘15は当該羽ばたき翼がフラッピング運動をすることにより、前記集中荷重用錘15に働く慣性力が自然に当該羽ばたき翼のフラッピング運動に連成するフェザリング運動を生成することができるように設けられたものであり、当該フラッピング運動に対するフェザリング運動の位相進み角が、羽ばたき運動の推進効率の見地より見て最も効率が良いと考えられる位相差90°となるように前記集中荷重用錘15の重量および配置位置が考慮されて設けられているものである。
【0031】
本実施例に示す羽ばたき飛行機の当該羽ばたき翼の形状、材質、重量および重量分布、またその羽ばたき運動は、簡易軽量な構造によって十分大きな翼振動系の振動振幅が得られるように、具体的には本発明の発明者によるコンピュータを用いた数値解析に基づく最適構造設計により決定されたものであるが、その過程の詳述についてはここでは省略する。もちろん本発明は、自由な構造設計に基づくあらゆる共振型羽ばたき飛行機においてその適用が可能である。
【0032】
以上示した機構における当該羽ばたき翼のフェザリング振動の固有振動数ωθは、前記振動モータ4による加振振動の振動数と同値の34Hzに設計されているため、当該フェザリング振動への加振エネルギーの注入が効率良く行なわれる結果、直ちに30°のフェザリング振動振幅を得ることができる。もちろん、ここで当該羽ばたき翼のフラッピング振動に連成して生じる当該フェザリング振動は、本実施例に示すフラッピング振動とフェザリング振動との2自由度連成共振振動系に設けられた当該羽ばたき翼において前記フラッピング振動と連成して共振振動する共振振動によるフェザリング振動であって、本実施例に示す2自由度連成共振型羽ばたき飛行機における当該加振振動出力から当該フェザリング振動へのパワー伝達効率は、単純な強制振動型駆動機構であるメンブレイン方式によるフェザリング運動のパワー伝達効率と比較して、大幅に向上されているものということができる。
【0033】
図7は本実施例に示すトンボ型MAV(MicroAerialVehicle)の全体を示す説明図である。図7は配置図であって、本実施例の羽ばたき飛行機を左舷より見る説明図である。本実施例のトンボ型MAV(MicroAerialVehicle)においては、そのホバリング飛行に適するストローク面傾斜角(羽ばたきストローク面の水平面に対する傾斜角をいう。)であるストローク面傾斜角10°を取り付け角として、既にその機構について詳述したマウントブロック2及び羽ばたき翼1を主要構成部品とする当該羽ばたき翼駆動部を機体に斜めに取り付けているもので、羽ばたき翼1は紙面に対して垂直の方向に設けられている。
【0034】
図7において、61は当該羽ばたき飛行機における唯一のペイ・ロードである観測用の超広角CCDカメラであり、62は慣性航法用の振動ジャイロ(重量0.5g)、63は飛行制御及び無線通信用のICパッケージを備えたコントロール・ユニットである。本実施例のトンボ型MAV(MicroAerialVehicle)は遠隔観測ミッションに用いられるものであって、コントロール・ユニット63を介して無線通信により送信される超広角CCDカメラ61の映像を観測者が遠隔地において観測しながら、新たに観測の必要な方向を同じく無線通信によって指示することで、コントロール・ユニット63および振動ジャイロ62が慣性航法により自律飛行するトンボ型MAV(MicroAerialVehicle)の自動操縦をおこない、当該指定された観測映像を得るものである。
【0035】
また、64は当該羽ばたき飛行機の重心位置に設けられたバッテリー(重量3.7g)であり、65はピエゾ振動素子を用いたリニア・モーター駆動によるストローク面傾斜角変更用の可動式水平尾翼(フライング・テール)である。当該羽ばたき飛行機が前進飛行をする場合には、当該前進速度の2乗に比例して増加する抗力を凌ぐために必要な推力を前記ストローク面傾斜角を大きく傾けることにより得なければならない。可動式水平尾翼65はこのために設けられているものであり、当該羽ばたき飛行機の飛行制御命令に従い、空気力を利用して機体重心周りに必要なピッチング・モーメントを与え、所望のストローク面傾斜角を得る作用を成す。
【0036】
なお、本実施例に示すトンボ型MAV(MicroAerialVehicle)は実際のトンボ(Anax−Parthenope−julius)の羽ばたき振動数と略同値の高い羽ばたき振動数で羽ばたき運動を実現するものであるため、従来の航空機の飛行性能を大幅に凌ぐ機敏な高機動飛行をすることができる。また出力源として一定方向に高速回転駆動する振動モータを用いるものであるため、複雑かつ重量な駆動制御回路装置を要することなく高い出力を得て羽ばたき飛行をすることができる。また当該振動モータを固定保持する弾性体より成る接合継手によって左右一対の羽ばたき翼を係合する構成とされているため、一の振動モータによって左右一対の羽ばたき翼を同時に加振することができる。また、当該羽ばたき翼はフラッピング振動およびフェザリング振動の2自由度において連成共振振動するように翼振動系が設けられているために、最大のパワー伝達効率をもって効率良く大振幅の羽ばたき運動を実現することができる。
【0037】
以上、本発明に係る羽ばたき飛行機の実施の形態について個別具体的な形態を提示して詳述したが、ここに提示した例示的実施の形態は、本発明について好適な実施を導くために開示されたものであって本発明の実施の形態についてその技術的適用範囲を規定するものではなく、本発明に係る実施の形態は、本発明に基づくあらゆる実施の形態に及ぶものである。例えば、図8に示すように振動モータ2台を左右並列に配置するものとし、当該2台の振動モータをそれぞれ逆方向に回転させることで、当該2台の振動モータが発生する慣性力の鉛直方向成分以外の出力成分をキャンセル(相殺)し、フラッピング振動トルクおよびフェザリング振動トルクを得る構成とするものも、あるいはまた、一の支点ブロック10に複数の羽ばたき翼1を備え、当該複数の羽ばたき翼1を当該一の支点ブロック10により同時に加振する構成とするものも、当然に本発明に係る実施の形態であるものと解される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】 本発明による共振型羽ばたき飛行機の羽ばたき翼駆動部を左翼前上方翼端側より見て示す説明図である。
【図2】 本発明による共振型羽ばたき飛行機の前翼の羽ばたき翼駆動部を左翼前上方翼端側より見て示す説明図である。
【図3】 本発明による共振型羽ばたき飛行機の前翼の羽ばたき翼駆動部を右翼後上方翼端側より見て示す説明図である。
【図4】 本発明による共振型羽ばたき飛行機の前翼の羽ばたき翼駆動部を前方より見て示す拡大説明図である。
【図5】 本発明による共振型羽ばたき飛行機の前翼の羽ばたき翼駆動部を後方より見て示す拡大説明図である。
【図6】 本発明による共振型羽ばたき飛行機の前翼の羽ばたき翼の内部構造を左翼前上方翼端側より見る説明図である。
【図7】 本発明による共振型羽ばたき飛行機を左舷側より見て示す配置説明図である。
【図8】 本発明による共振型羽ばたき飛行機の他の実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 羽ばたき翼
2 マウントブロック
3 接合継手
4 振動モータ
10 支点ブロック
11 フラッピング振動用スプリング
12 内桁
13 外桁(薄肉カラー)
14 フェザリング振動用スプリング
15 集中荷重用錘
21 フラッピング振動支軸
41 直流電磁モータ
42 偏心重錘
43 電極
61 超広角CCDカメラ
62 ジャイロ・センサー
63 コントロール・ユニット
64 バッテリー
65 可動式水平尾翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振型羽ばたき飛行機において、羽ばたき翼がフラッピング振動およびフェザリング振動の2自由度において連成共振振動する翼振動系を構成し、フラッピング振動支軸で軸支された羽ばたき翼により円周方向に慣性力を発生する振動モータを支持して設け、前記振動モータが発生する慣性力によりフラッピング振動トルクおよびフェザリング振動トルクを得ることを特徴とする羽ばたき飛行機。
【請求項2】
前記フラッピング振動支軸で軸支された羽ばたき翼を左右一対として係合する接合継手をさらに設け、前記接合継手に固定して前記振動モータを備えたことを特徴とする請求項1に記載の羽ばたき飛行機。
【請求項3】
前記接合継手は弾性体により成ることを特徴とする請求項2に記載の羽ばたき飛行機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−81094(P2008−81094A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289239(P2006−289239)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(596056519)学校法人文理学園 (9)
【Fターム(参考)】