説明

耐振比例バルブおよび流体の流れ調整時の振動減衰方法

【課題】流体の流れの調整に悪影響を及ぼす振動を排除できる比例バルブを提供する。
【解決手段】比例バルブはオリフィスを交互に閉鎖および開放するためにオリフィスに対して近接する方向およびオリフィスから離隔する方向に移動可能なバルブステムを備え、バルブステムはオリフィスが開状態にある間、オリフィスから流出する流体を調整する。流体的制動空間がバルブステムとオリフィスを取り巻く面との間に形成される。制動空間またはその中に存在する流体は、バルブステムの振動を減衰させるかまたは振動に抗する制動(減衰)機構として機能し、それによって流体の流れを安定化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の流れ(フロー)を制御し調整するために用いられる比例バルブ全般に関し、より詳細には、比例バルブにおける振動を減衰して、その性能を改善することに関する。
【背景技術】
【0002】
比例バルブは多種多様の装置および機器において、気体または液体等の流体の流れを調整するために利用されている。通常、比例バルブは流体流入口と、流体流出口と、上記流入口および流出口の間に介在されて封止または閉塞可能なオリフィスとを備えている。流体は流入口経由で比例バルブに流入し、オリフィスを貫流する。オリフィスを貫流した流れは、オリフィス上方に一定距離をおいて浮動するバルブステム(弁軸)に装着されたバルブシールによって制御される。バルブステムは通常、バルブシールをオリフィスから軸方向に離隔移動させるよう駆動される。オリフィスが開いている間、オリフィスを貫流した流体の流れは、バルブシールとオリフィスとの間の距離を変動させることにより調整可能である。バルブステム(ひいてはバルブシール)をオリフィスから離間移動させて上記距離を増大させると、オリフィスから流出する流体の流れが増加する。一方、バルブステムをオリフィスに対し近接移動させて上記距離を減少させると、流れが減少する。
【0003】
上記バルブステムは機械的、電気的、および/または磁気的手段により作動されてもよい。通常の比例バルブにおいて、バルブステムは、ばねにより上記オリフィスに近接する方向に付勢される。バルブステムは通常、その周りを取り巻くバルブコイルを介して印加される規定量の電圧または電流によって形成される磁力により、ばねの付勢力に抗してオリフィスから離隔する方向に駆動される。したがって、上記比例バルブの動作中、バルブステムの位置は、それぞれ反対方向からバルブステムにかけられるばねの荷重の力と磁力(または他の種類の駆動力)との間の均衡によるものである。
【0004】
比例バルブが流体の流れを調整している間、浮動しているバルブステムはオリフィスとバルブシールとの間に一定の間隙を保持している。この均衡位置は、外部の震動または振動、特にバルブステムの移動方向と同じ軸方向に伝えられる振動によって容易に乱されることがある。外部振動はバルブステムの不要で制御不可能な運動、とりわけ比例バルブのオリフィスに対して近接および/またはそこから離隔する軸方向の平行移動を引き起こすことがある。そのため、外部振動により比例バルブを貫流する流体の量が変動し、これによって比例バルブの精密な流れ調整能力が損なわれる。
【0005】
比例バルブにおける振動に伴う問題は、分析、計測、検知、および検出機器などの用途において特に深刻となる場合がある。一例として、比例バルブはクロマトグラフィ装置における流体の流れの調整に頻用される。例えば、ガスクロマトグラフィ(GC)技術によって行われる計測は、1種以上の気体流が不安定であることにより阻害されることがあるが、上記の説明から明らかなように、この不安定さはGC装置における気体流調整に利用される比例バルブで生じる振動に起因する可能性がある。この様な阻害または不安定さは、検出器信号によって表されるノイズ量を増加させるおそれがある。バルブステム中またはバルブステムに伝達される有害な振動は、例えばファンモータ、標本化装置、または周囲の領域で動作する他の装置等の多数の振動源や、比例バルブのバルブステムに作用する磁力の乱れおよび比例バルブに設けられた機械ばねの撓みによって起きる振動から生じる可能性がある。振動はまた、流体の流れ自体の摂動によって引き起こされる場合もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記から鑑みて、比例バルブにおいて貫流する流体の流れの調整に悪影響を及ぼす振動を排除するか、無効にするか、抑制するか、または軽減する必要がある。分析、計測、検知、および検出機器などの用途において、流れ障害およびその結果生じるノイズを低減することにより、この様な分析的または計測的機能の精度を高める必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題に全面的または部分的に対処および/または当業者によって報告される可能性のある他の問題に対処するため、本開示は下記の実施態様の説明において例示される比例バルブに係る装置、機器、システムおよび/または方法を提供する。
1つの実施態様によれば、比例バルブは長手方向軸に沿って移動可能な第1の面を含むバルブステムと、上記第1の面に略対向する第2の面を含む本体部とを備えている。上記本体部は上記第2の面に形成されたオリフィスと、上記オリフィスと連通する流体通路とを有している。上記第2の面は上記オリフィスから、上記第1の面の表面領域のうちのかなりの部分と同一の広がりを有する横方向距離にわたり、主として上記長手方向軸に垂直な軸に沿って外方に延びている。上記バルブステムは閉位置から、開位置へ移動可能である。上記閉位置において、上記第1の面の少なくとも一部が上記オリフィスを流体的に封止する。上記開位置において、流体的制動空間が形成される。上記流体的制動空間は上記第1の面と上記第2の面とによって規定される軸方向寸法と、上記第2の面の上記横方向距離と同一の広がりを有する横方向寸法とを有している。
【0008】
他の実施態様によれば、比例バルブは、バルブステムと、本体部とを含んでいる。上記本体部は、上記バルブステムとその長手方向軸方向に沿って略対向するオリフィスと、上記オリフィスと連通する流体通路とを有する。上記比例バルブは、上記バルブステムと上記本体部との間に流体的制動空間を形成して、流体が上記オリフィスから流出している間、上記バルブステムの振動を減衰するための手段を更に含んでいる。
【0009】
他の実施態様によれば、比例バルブのバルブステムの振動を減衰させるための方法が提供される。上記バルブステムを上記比例バルブのオリフィスから軸方向距離位置に配置して、初期的に上記バルブステムに向かう方向に上記オリフィスを貫通する流れ経路を形成する。流体は、上記流体経路に沿って上記オリフィスを貫流される。上記オリフィスから流出する上記流体の少なくとも一部に、上記バルブステムと上記オリフィス体を取り巻く面との間に介在される制動流体の空間を形成させ、それによって上記制動流体が上記バルブステムの振動を減衰させる。
【0010】
本発明の他の装置、機器、システム、方法、特徴および/または利点は、以下の図面および詳細な説明を検討することにより当業者に明らかになろう。この様な付加的な装置、機器、システム、方法、特徴および/または利点は、この説明および本発明の範囲内に包含され、特許請求の範囲により保護されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書において使用される「流体」という語は、気相または液相いずれかにおける流動可能な物質全般のほか、超臨界流体ならびに気相および液相の両成分の混合物を含む流体を包含する。
一般に、「連通する」という語(例えば、第1の構成要素が第2の構成要素と「連通する」または「連通している」)は、本明細書において2個以上の構成要素または部材の間の構造的、機能的、機械的、電気的、光学的、磁気的、イオン的、または流体的な関係を示すために用いられる。よって、1個の構成要素が第2の構成要素と連通するということは、他の付加的な構成要素がその間に介在され、および/または第1および第2の構成要素と動作可能に関連または係合する可能性を排除することを意図するものではない。
【0012】
本明細書に開示される内容は、概して比例バルブ全般および比例バルブに関連するいくつかの構成要素、特徴、および機能に関する。本発明に係る実施態様の例は、図1ないし図5を参照して以下により詳細に説明する。
図1は先行技術による従来の比例バルブのバルブ封止領域100を示している。この様な比例バルブは通常、図1に部分的にのみ示されるバルブステム(弁軸)104とオリフィス体108とを備えている。参照のために、バルブステム104とオリフィス体108とは、バルブ封止領域100の長手方向軸112に沿って略整列配置されていると考えてよい。通常、バルブステム104は図1の矢印116によって示される様に、比例バルブの動作中は長手方向軸112に沿って移動可能である一方、オリフィス体108はバルブステム104に対して定常的に静止している。バルブステム104はバルブステム封止端部、すなわち側部120において終端し、オリフィス体108はバルブステム封止端部、すなわち側部120と略対向するオリフィス体封止端部、すなわち側部124において終端している。バルブステム封止端部120は、通常平坦である。バルブステム104は、通常バルブステム封止端部120に配置されたバルブ封止部材128を備えている。バルブ封止部材128は、当業者に理解される適切な弾性またはエラストマー材料から構成してもよい。バルブステム104は、バルブ封止部材128の外向面がバルブステム104の軸方向端面136と面一になるよう、内部にバルブ封止部材128が配置される凹部132を備えていてもよい。バルブ封止部材128の外向面はバルブステム封止側部120の大部分を構成していてもよいが、実際には、比例バルブが閉位置にある間、バルブ封止部材128のより狭い表面領域が往々にして流体の流れを遮断するよう機能する。
【0013】
図1に更に示されているように、内部流体通路140はオリフィス体108を貫通して形成され、オリフィス体封止端部124に形成されているオリフィス144と連通している。通常、流体の流れは矢印148によって示される方向に生じる。すなわち、流体はオリフィス144に向かって流体通路140を貫流し、オリフィス144から流出した後、比例バルブのバルブ封止領域100に形成された流体チャンバ152に直接流れ込む。図1は、上記の従来のバルブが開位置にあって図示されている流体の流れを流す様子を示している。
【0014】
上記の従来のオリフィス体108のオリフィス体封止端部124は、明らかに円錐切頭形の断面を有する。すなわち、オリフィス体封止側部124は、オリフィス144を直接取り巻く平坦な環状バルブ封止面156、つまりバルブシート156と、バルブ封止面156から下方に延びている円錐面160とを有する。図1に示されている従来のバルブの開位置において、バルブステム封止端部120とオリフィス体封止端部124とは、長手方向軸112の軸方向に隔てられている。特に、バルブ封止部材128とオリフィス144を取り巻くバルブ封止面156とは、間隙164によって軸方向に隔てられている。間隙164の軸方向の幅または高さは、バルブステム104のオリフィス体108に対する軸方向の位置決めをソレノイド駆動により行うことで調節可能であり、これによってオリフィス144を貫流する流体の流れの調整が可能となる。比例バルブの全閉位置(図示せず)において、バルブ封止部材128はバルブ封止面156と接触し、この位置において間隙164は消失する。
【0015】
図1に示されるように、従来のオリフィス体108の円錐切頭形断面は急勾配、つまり鋭角的である。図1の矢印168によって示されるように、バルブ封止面156の最外径は、バルブ封止部材128、バルブステム104、および円錐面160それぞれの最外径に比して極めて小さい。しかも、バルブ封止面156から円錐面160にかけての移行部は、先鋭、つまり急であり、円錐面160とバルブ封止面156が存在する水平面との間の角度は通常約20度より大きい。したがって、流体が流過する空間は流体がオリフィス144から流出して流体チャンバ152内に拡がり始めるに従って急激に増大する。その結果、流体によって付与される力は、バルブステム104を作動させるためにはほとんど利用できない。というのも、従来の比例バルブは、流体をこの様な目的で利用するようには意図または設計されていないからである。実際、この従来の構成は上記バルブステム104における振動がもたらす悪影響に対処できない。
【0016】
図2は本発明の一つの実施態様の一例に係る比例バルブ200に包含される構成要素または特徴の一部を示している。一般に、比例バルブ200は、流体バルブ部204と駆動部208とを備えていてもよい。流体バルブ部204は、一般にバルブ体212を備えている。バルブ体212内には、流体流入ポート、つまり流入路216と、流体流出ポート、つまり流出路220と、上記の流体流入ポート216と流体流出ポート220との間に介在されたバルブ内部チャンバ224とが形成されている。オリフィス体228は、バルブ体212内に位置してバルブ内部チャンバ224内に配置されているか、またはオリフィス体228の少なくとも一部がバルブ内部チャンバ224内まで延びている。オリフィス体228はバルブ体212と一体に製造されるか、任意の適切な手段によってバルブ体212に装着または支持される別体の構成要素であってもよい。オリフィス体228はオリフィス体封止端部、つまり側部232において終端している。オリフィス236は、オリフィス体封止端部232においてオリフィス体228内に形成され、バルブ内部チャンバ224と流体的に連通している。オリフィス体228に内部通路240を形成して、オリフィス236と流体流入ポート216とを流体的に相互接続してもよい。
【0017】
図2に更に示されるように、比例バルブ200の駆動部208は、通常電磁ソレノイド式であるが、他の実施態様において、他の公知の駆動手段を用いてもよい。図示される電磁式の例において、駆動部208は、バルブステム、つまりプランジャ244と、バルブステム244の周囲に同軸状に配置されたソレノイドコイルアセンブリ248とを備えている。当業者に理解されるように、コイルアセンブリ248は適切な支持構造(特に図示せず)の周りに幾度も巻回された巻線を備え、電磁石となってもよい。コイルアセンブリ248は中空の芯部、つまりボア252を有しており、その中を通ってバルブステム244が、芯部252と非接触または少なくとも低摩擦状態で軸方向に平行移動する。バルブステム244は、オリフィス体封止端部232と略対向するバルブステム封止端部、つまり側部256において終端している。バルブステム封止端部256の、オリフィス236と対向する軸方向端面は、平坦または実質的に平坦であってもよい。バルブステム244は、バルブステム封止端部256に配置されたバルブ封止部材260を有していてもよい。バルブ封止部材260は、当業者に理解される適切な弾性またはエラストマー材料から構成してもよい。バルブ封止部材260は、任意の適切な手段によってバルブステム244に装着されてもよい。図示された例において、バルブステム244は、バルブ封止部材260がバルブステム封止端部256の軸方向端面と面一になるか、またはその一部を構成するように、内部にバルブ封止部材260が配置される凹部264を備えている。バルブ封止部材260の外向面が、バルブステム封止端部256の全表面領域の大部分を構成していてもよい。
【0018】
参照のために、図2に例として示される比例バルブ200は一般に、オリフィス236、オリフィス体封止端部232、およびバルブステム封止端部256が位置するバルブ封止領域272を備えていると考えてもよい。また、バルブステム244およびオリフィス体228は、バルブ封止領域272の長手方向軸268に沿って略整列配置されていると考えてもよい。当業者に理解されるように、バルブステム244は、図2の矢印276によって示される、コイルアセンブリ248に印加される電気的エネルギーに応じて、長手方向軸268に沿って移動可能である。コイルアセンブリ248の極性は通常、コイルアセンブリ248が適切な電源(図示せず)によって通電されているとき、バルブステム244が長手方向軸268に沿って、オリフィス236から離隔する方向に(つまり図2で上方に)直線駆動されるように向いている。
【0019】
図2に更に示されるように、上記の比例バルブ200は、環状の、板ばねと称するばね280を備えていてもよい。ばね280の周縁部は、比例バルブ200の適切な構成部によって定位置に取り付けられていてもよい。ばね280は、同軸状にバルブステム244の周りを取り巻いて接触しており、その結果、バルブステム244の線状平行移動にともなってばね280が収縮する。ばね280は、長手方向軸268に沿ってオリフィス236に向かう方向、すなわちコイルアセンブリ248によって付与される駆動力と反対方向(つまり図2で下方)の付勢力を、バルブステム244に付与するよう構成され、取り付けられている。よって、コイルアセンブリ248が非通電状態のとき、ばね280は比例バルブ200を閉位置に保持し、その閉位置において、バルブ封止部材260はオリフィス236を取り巻くバルブシート(もし設けられているとすれば)、または少なくともオリフィス236の最上縁部と接触し、これによってオリフィス236を封止して、比例バルブ200を通る流体の流れを阻止する。ばね280はまた、コイルアセンブリ248の芯部252内の中心位置にあるバルブステム244を支持し、これによってコイルアセンブリ248と何ら接触することなく、またはバルブステム244を横(左右)方向に移動させることなく、バルブステム244の移動を長手方向軸268に沿って線状平行移動に制限するよう補助的な役割を果たしてもよい。
【0020】
図2に更に示されるように、比例バルブ200は例えばコイル状ばねの様な圧縮ばねとして設けられる制御バネ284を備えていてもよい。制御バネ284は、ねじまたはノブのような制御部材292の支柱またはボスの周囲に取り付けられて、制御部材292と、バルブステム244のオリフィス248から遠い方の端部との間に延びていてもよい。当業者に理解されるように、制御部材292を、コイルアセンブリ248の構成部と嵌合ねじ山等により整合させ、制御部材292の回転が制御バネ282の圧縮量を決定するようにしてもよい。制御バネ284を、比例バルブ200の開始流を設定するために用いてもよい。
【0021】
図2は、比例バルブ200が「開いている」状態に対応する通電状態のコイルアセンブリ248を示している。コイルアセンブリ248の電磁作用が、ばね280の下向きの付勢力に抗して(図2で)上方にバルブステム244を駆動し、オリフィス体228から離隔する。特に、バルブシール260は、間隙によってオリフィス236とオリフィス体228の周囲のバルブシートから長手方向軸268に沿って分離される。この開位置において、流体の流れの経路は矢印296によって示されるように流入口216から内部通路240およびオリフィス298を通り、更にバルブ内部チャンバ224内を通って、矢印298によって示されるように流出口220まで、比例バルブ200内に貫通形成される。比例バルブの特徴として、バルブ封止部材260とオリフィス236との間の間隙の大きさと、ひいてはオリフィス236を通る流れの流量とは、バルブステム244の軸方向の位置との関係から相対的に定まり、一方、バルブステム244の軸方向の位置は、コイルアセンブリ248に印加される電流の量によって調整される。
【0022】
図3は、図2に示される比例バルブ200のバルブ封止領域272のより詳細な図である。オリフィス体228のオリフィス体封止端部232は、段下げ部または凹部を有する略平坦断面を有している。すなわち、オリフィス体封止端部232は、オリフィス236を直接取り巻く平坦(または略平坦)な環状バルブ封止面、つまりバルブシート304と、バルブ封止面304を環状に取り巻く平坦(または略平坦)な後退面308とを備えている。後退面308は、バルブ封止面304から後退面308にかけての移行部が、掘り下げ部、つまり肩部を構成しているという意味で凹んでいる。この様に、後退面308とバルブステム封止端部256(バルブ封止部材260の外向面を含む)との間の軸方向距離、つまり間隙312は、バルブ封止面304とバルブステム封止端部256の端面との間の軸方向距離よりも大きい。後退面308を、バルブ封止面304またはオリフィス236を画成している縁部よりも「低い」または「下げられた」面と考えてもよい。後退面308が平坦な本実施態様においては、間隙312の大きさは、長手方向軸268に対して半径方向に沿って(すなわち、横方向、つまり直交軸に沿って)一定である。図3において、矢印316によって示されるバルブ封止面304の外径は、オリフィス236の直径より若干大きくてもよい。一方、後退面308の外径は、バルブ封止面304の外径よりかなり大きくてもよい。図3に示されるように、後退面308の外径は、バルブシール260の外径と同じか、ほぼ同じであってよく、そのため、後退面308の表面領域はバルブシール260の表面領域と同一の広がりを有するか、実質的に同一の広がりを有する。あるいは、後退面308の外径は、更に半径方向外方に延びて、バルブステム244の外径と同じか、実質的に同じであってもよい。
【0023】
図3に示される構成の結果、流体的制動空間、つまりチャンバ320がオリフィス体封止端部232の後退面308とバルブステム封止端部256との間、特に後退面308とバルブ封止部材260との間に画成される。流体的制動空間320の軸方向における(すなわち、長手方向軸268に沿った)寸法は、バルブステム封止端部256の端面と後退面308とによって境界が定められる狭い間隙312と略一致し、よってバルブステム244の移動に応じて変化する。垂直または半径方向(つまり、長手方向軸268と垂直方向)における流体的制動空間320の横寸法は、後退面308の外径と略一致する(すなわち、後退面308の表面領域と同一の広がりを有する)。流体的制動空間320は、周囲のバルブ内部チャンバ224(図2)とは構造的および機能的に異なっており、オリフィス236とバルブ内部チャンバ224との間に流体的に介在されている。その結果、流体的制動空間302は大きな半径方向成分を、図2に一例として示される比例バルブ200の様な、関連する比例バルブを貫流する流体の流れの経路に導入する。言い換えると、流体的制動空間320を画成する構造上の境界部は流体を、主として半径方向の(つまり横方向のまたは垂直な)経路に沿って、後退面308の横寸法と略一致する距離にわたって流れるよう強制する。図3に示されるように、比例バルブ200が開(通電)状態にあるとき、流体は流入口216(図2)からオリフィス体228の内部通路240を通って、矢印324によって示されるようにオリフィス236まで流れる。流体はその後、オリフィス236から流出して、流体的制動空間320に流入する。オリフィス236から流出すると、流体は流体的制動空間320によって強制され、矢印328によって示されるように、主として半径方向外向きの経路を、垂直軸に沿った相当距離にわたって辿る。最終的に流体は、流体的制動空間320から流出してバルブ内部チャンバ224に流入し、比例バルブ200の流出口220(図2)を貫流する。
【0024】
以上より、また図2および図3を参照すれば、比例バルブ200内を通って導かれる流体が、比例バルブ200によって備えられる流体循環路のいずれかの下流部(例えば、バルブ内部チャンバ224、導出口220等)にまで流れ込むか、または拡がる前に、軸方向に狭い流体的制動空間320を満たすか、またはその隅々にまで拡がる必要があることは明らかである。流体的制動空間320は、流体材料の層または膜をオリフィス体228の後退面308とバルブステム244との間に形成する。流体制動層は、バルブステム244の端面の表面領域のうち、かなりの部分の下に位置する。例えば、流体制動層はこの表面領域の50%を超える部分と同一の広がりを有していてもよい。流体的制動空間320と、その下の定位置後退面308に支持された流体塊との寸法により、この流体の空間は浮いているバルブステム244の下面(バルブステム封止端部256の端面)に向かう方向に力を加える。その結果、流体的制動空間320(または流体的制動空間320中に収容される流体の層)は、バルブステム244用の制動(減衰)機構、ばね、または衝撃吸収材として作用する。流体的制動空間320は、外部振動によって引き起こされるバルブステム244の不要な移動の量を制限し、それによってバルブステム244の位置がこの様な振動から受ける影響を軽減する。したがって、図3に示される実施態様において、関連する比例バルブ200を通る流体の流れは安定性を増し、その結果、比例バルブ200によって行われる比例フロー調整の精度が増す。なお、流体的制動空間320内の流体によって加えられる力は、バルブステム244の軸方向位置に比例して変化し、流体的制動空間320は比例バルブ200が定常開状態にある間、バルブステム244の移動全域にわたって制動機構として有効に機能する。
【0025】
図4はオリフィス体228の上平面図である。図4はオリフィス236と、バルブ封止面304と、後退面306との相対的な寸法を示している。上記の流体的制動空間320(図3)を支持するために、かなりの表面領域が利用可能であることが明らかである。
図5は他の実施態様の一例に係るバルブ封止領域572を示している。バルブ封止領域572は、図2に例として示される比例バルブまたは他の任意の適切な比例バルブにおいて実現されてもよい。バルブ封止領域572の様々な構成要素または特徴は、図3に示されるバルブ封止領域272の構成要素または特徴と同様であってよく、したがって同一構成要素または特徴は、便宜上同一の参照符号によって示されている。
【0026】
図5に示される例において、オリフィス体528は若干角度のついた、つまり傾斜した形状を有するオリフィス体封止端部532を備えている。すなわち、バルブステム244に対向するオリフィス体封止端部532の表面は、オリフィス236またはオリフィス236近傍の半径方向位置から次第に(図5で)下方に傾斜し、バルブステム封止端部256から離隔する。オリフィス体封止端部532は、オリフィス236を直接取り巻く環状のバルブ封止面504を備えていてもよく、環状のバルブ封止面504はバルブ封止面504を取り巻く傾斜面508へと移行する。バルブ封止面504は、実施態様によっては、図3に示されるバルブ封止面304の場合の様に平坦(または実質的に平坦)であってもよく、または若干(すなわち、傾斜面508よりも緩勾配で)傾斜していてもよい。この様な場合、図4に示されるオリフィス体228の上平面図は、図5に示されるオリフィス体528を表していてもよい。
【0027】
他の実施態様において、バルブ封止面504の外径は、オリフィス236自体の直径よりもほんの僅か大きいだけでもよい。その場合、バルブ封止面504は傾斜面508とほとんど見分けがつかなくなる可能性がある。更に他の実施態様において、バルブ封止面504はオリフィス362を画成する縁部、つまり境界線そのものに略一致してもよい。その場合、バルブ封止面504は本質的に傾斜面508と見分けがつかないか、オリフィス体封止端部532に存在しなくなると考えてもよく、その結果、バルブ封止面504のうちオリフィス236に近接する部分がバルブシートとして機能する。この様な実施態様全てにおいて、オリフィス体封止端部532は、関連する比例バルブが閉状態にあるとき、オリフィス236とバルブステム244のバルブシール260との間で耐漏封止を実現することができる。
【0028】
図3に示される後退面308の場合の様に、図5に示される傾斜面508は、傾斜面508とバルブステム封止端部256(バルブ封止部材260の外向面を含む)との間の軸方向距離、つまり間隙が、バルブ封止面504(もしあれば)またはオリフィス236の最上縁部とバルブステム封止端部256の端面との間の軸方向距離よりも大きいという意味で、後退している、つまり低くなっている。図3に示される実施態様とは異なり、面508は軸方向の間隙の大きさがオリフィス236から半径方向外方に沿って変化(増す)よう傾斜されている。したがって、図5に示される様に、軸方向の間隙はオリフィス236付近で(において、またはその近傍で)最小値562を有し、傾斜面508の外径付近で(において、またはその近傍で)最大値566を有する。傾斜面508は平坦であるか、実質的に平坦であるか、または若干曲折するかもしくは半球形であってもよい。
【0029】
図5に示される構成は、流体的制動空間520の軸方向寸法が上記の傾斜断面に従って垂直軸に沿って変化している点を除き、図3に示される実施態様と同様の、軸方向に狭い流体的制動空間、つまりチャンバ520を形成している。本実施態様により形成された流体の流れの経路は、図5の矢印524および530によって図示されている。断面の角度は従来設けられていた(例えば図1参照)円錐形状ほど急勾配ではない。傾斜面508と、オリフィス236の最上縁部を含む水平面との間の角度は比較的小さい。この様に、流体的制動空間520は流体を、オリフィス236から流出した後、関連する比例バルブの下流部に流入するまで、かなりの表面領域(傾斜面508の表面領域と略同一の広がりを有する表面領域)にわたり、主として半径方向または直交方向の経路530を辿らせる。更に、面508は傾斜してはいるものの、構造上および機能上異なる流体的制動空間520を依然として支持することができ、上記の制動(減衰)機能の実現が可能である。ただし、本実施態様において制動機能は、オリフィス236から半径方向に離れるにつれて減少してもよい。
【0030】
図2ないし図5はそれぞれ、その断面図の構成要素または部分のうち多くのものが円筒形状であり、図示される基準の長手方向軸と同軸である実施態様の例を示すが、本発明は円筒形状または円形の形状に限定されるものではない。本発明は1個以上の構成要素が多角形状である実施態様を包含する。したがって、本発明のより広い局面において、「同軸の」、「環状の」、および「直径」等の記述用語は、「周囲の」、「周辺の」、および「外径」等の記述用語を包含するか、またはそれらと同等であると考えてもよく、よって特定の構成要素または特徴が円筒形状または円形形状を有するよう限定するものではない。
【0031】
上記から、本明細書において開示された実施態様は、比例バルブ内に存在する構造および流体を利用して比例バルブの制動機構を提供することが理解されよう。制動機構は、振動が比例バルブの性能に及ぼす影響を排除、または少なくとも軽減することができる。この様な比例バルブが、精密検知や計測等の目的のために安定した流体の流れに依存する装置または工程と併せて用いられると、制動機構はこの様な装置の性能または工程を改善することができる
本発明の様々な局面または詳細が、発明の範囲を逸脱することなく変更可能であることは言うまでもない。更に、上記の説明は例示のみを目的とし、特許請求の範囲で定義される本発明を何ら制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】先行技術による従来の比例バルブのバルブ封止領域の立断面図である。
【図2】本発明の一実施態様による比例バルブの一例の立断面図である。
【図3】図2に示される比例バルブのバルブ封止領域のより詳細な立断面図である。
【図4】図3に示されるバルブ封止領域に設けられたオリフィス体の上平面図である。
【図5】本発明の他の実施態様の一例に係るバルブ封止領域の詳細な立断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向軸に沿って移動可能な第1の面を含むバルブステムと、
上記第1の面に略対向する第2の面を含む本体部であって、上記第2の面に形成されたオリフィスと、上記オリフィスと連通する流体通路とを有する本体部とを備え、
上記第2の面は、上記オリフィスから、上記第1の面の表面領域のうちのかなりの部分と同一の広がりを有する横方向距離にわたり、主として上記長手方向軸に垂直な軸に沿って外方に延びており、
上記バルブステムは、上記第1の面の少なくとも一部が上記オリフィスを流体的に封止する閉位置から、流体的制動空間が形成される開位置へ移動可能であり、上記流体的制動空間は、上記第1の面と上記第2の面とによって規定される軸方向寸法と、上記第2の面の上記横方向距離と同一の広がりを有する横方向寸法とを有している、比例バルブ。
【請求項2】
上記第2の面が主として上記垂直な軸に沿って延びている上記横方向距離は、上記第1の面の表面領域の50%を超える部分と同一の広がりを有している、請求項1に記載の比例バルブ。
【請求項3】
上記本体部は上記オリフィスを取り巻くバルブシートを含み、上記第2の面は上記バルブシートから外方に延びている、請求項1に記載の比例バルブ。
【請求項4】
上記第2の面は実質的に平坦であり、それによって上記流体的制動空間の上記軸方向寸法は、上記垂直な軸に沿って実質的に一定である、請求項1に記載の比例バルブ。
【請求項5】
上記第2の面は傾斜した面を有し、それによって上記流体的制動空間の上記軸方向寸法は、上記オリフィス近傍における最小値から、上記第2の面の、上記オリフィスから遠い方の最外域における最大値まで増大する、請求項1に記載の比例バルブ。
【請求項6】
上記バルブステムは、上記第1の面の少なくとも一部を構成し上記長手方向軸に沿って上記オリフィスと整列しているバルブシールを含んでいる、請求項1に記載の比例バルブ。
【請求項7】
上記バルブシールは、上記第2の面が主として上記垂直な軸に沿って延びている上記横方向距離と実質的に等しい横方向寸法を有している、請求項6記載の比例バルブ。
【請求項8】
上記流体的制動空間よりも大きい空間を有する流体チャンバを更に含み、上記流体的制動空間は上記オリフィスと上記流体チャンバとの間に流体的に介在されている、請求項1に記載の比例バルブ。
【請求項9】
上記本体部は上記オリフィスを取り巻くバルブシートを含み、上記第2の面は、上記バルブシートから外方に延び、上記バルブシートから後退しており、それによって上記流体的制動空間の上記軸方向寸法が、上記第1の面と上記バルブシートとの間の軸方向距離よりも大きくなっている、請求項1に記載の比例バルブ。
【請求項10】
上記本体部は上記オリフィスを取り巻くバルブシートを含み、また上記第2の面は上記バルブシートから外方に延び、傾斜した面を有しており、それによって上記流体的制動空間の上記軸方向寸法は、上記バルブシート近傍における最小値から、上記第2の面の、上記バルブシートから遠い方の最外域の近傍における最大値まで増大する、請求項1に記載の比例バルブ。
【請求項11】
バルブステムを比例バルブのオリフィスから軸方向距離位置に配置して、初期的に上記バルブステムに向かう方向に上記オリフィスを貫通する流体の流れの経路を形成する工程と、
流体を、上記流体経路に沿って上記オリフィスを貫流させる工程と、
上記オリフィスから流出する上記流体の少なくとも一部に、上記バルブステムと上記オリフィス体を取り巻く面との間に介在される制動流体の空間を形成させる工程とを含み、
それによって上記制動流体が上記バルブステムの振動を減衰させる、比例バルブのバルブステムの振動を減衰するための方法。
【請求項12】
上記バルブステムは、上記オリフィスと、上記オリフィスを取り巻く上記面とに略対向する端面を含み、
上記流体の上記部分に上記制動流体の空間を形成させる工程は、上記バルブステムが、上記端面のうちのかなりの部分と同一の広がりを有する横方向距離にわたり、軸に沿う移動方向に主として垂直な方向に、上記オリフィスから流出する上記流体が流れるように強制することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記バルブステムは、上記オリフィスと、上記オリフィスを取り巻く上記面とに略対向する端面を含み、
上記流体の上記部分に上記制動流体の空間を形成させる工程は、上記オリフィスから流出する上記流体を、上記バルブステムと上記オリフィスを取り巻く面との間の軸方向の間隙内に規制することを含み、上記軸方向の間隙は上記端面のうちのかなりの部分と同一の広がりを有する横方向距離にわたり延びている、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−101777(P2008−101777A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−268031(P2007−268031)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(506027273)
【Fターム(参考)】