説明

耐摩耗性の鉛フリー合金ブッシングおよびその製造方法

耐摩耗性を改善する軸受は銅−スズ−ビスマス合金の軸受材料を有し、銅−スズ−ビスマス合金はリンも含んでいてもよく、リンは優れた強度を有し、銅、スズおよびリン(用いられる場合)の固溶体によって、軸受材料は鋼製の裏当てシェルに取り付けられる。軸受使用中にスズの移動を促進し、軸受面上にスズの層を形成する、ビスマスの存在のため、この材料は良好な潤滑性も有する。比較的小さな硬質粒子、特定的にはFe3P、MoSi2またはその混合物を、銅−スズ−基質に少ない量を添加することで、軸受材料の耐摩耗性を改善するための適した硬質面の影響を提供する。軸受は、鋼製の裏当てシェルに接合する、銅−スズ−ビスマス合金粉末および金属化合物粉末の焼結粉末成形体を含み、金属化合物粉末は10μm未満の平均粒径を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年1月5日に出願された米国仮特許出願番号第60/883,636号および60/883,643号の利益を主張するものであり、その内容は参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
発明の分野
この発明は、一般に滑り型の軸受に関し、より特定的には、エンジン軸受等で用いられる鋼製の裏当てに焼結粉末金属青銅軸受材料が適用される軸受に関する。
発明の背景
エンジン軸受を含む滑り軸受の応用例では、クランク軸等を支持するため、鋼製の裏当てに粉末金属青銅合金を接合することが一般的である。銅スズ合金の基質は、使用中の軸受が受ける負荷に耐え得る強力な軸受面を提供する。このような軸受は、適切な耐摩耗性および耐焼付性の特性も呈示しなければならないため、青銅の基質に対し、一定量の鉛を合金成分に加えることが一般的である。鉛は、軸受面に対する潤滑剤として働く。また、軸受の摩耗および焼付に関する特性をさらに高めるために、軸受面にスズめっきを加えることも一般的である。
【0003】
環境上の考慮事項のために鉛のさまざまな代替物が研究されてきたが、エンジン軸受を含む多くの滑り軸受の応用例における強度、摩耗、焼付および様々な他の特性に関する特性を過度に犠牲にすることなく、真に鉛の代わりとなる能力を示すものはこれまでになかった。
【0004】
出願人は、制御された量のリンおよび制御された量の粉末金属青銅と共にビスマスを合金にした場合、結果的に、その物理的な特性が青銅−鉛の軸受のものに等しいか、またはそれよりも優れており、かつ、鋼で裏当てした焼結金属青銅−鉛のエンジン軸受のものに等しいか、またはそれを超える耐摩耗性および耐焼付性の特性をも呈示する、鋼で裏当てしたエンジン軸受がもたらされることを発見した。
【0005】
出願人自身の以前の発明(すなわち米国特許6,746,154号)に従って構成されたエンジン軸受は、鋼製の裏当てに接合される、本質的に鉛フリーの青銅粉末金属を備える。この軸受材料は、本質的に8〜12重量%のスズと、1質量%以上5質量%未満のビスマスと、0.03〜0.8質量%のリンとからなり、本質的に銅からなる残部を有する。
【0006】
以前の発明に従って構成された青銅−ビスマス−リンのエンジン軸受は、400MPa以上の引張り強度、290Ma以上の降伏強度、10%以上の伸び、および130Hv0.5/15の硬度という物理的特性を呈示する。比較として、10重量%のスズおよび10重量%の鉛を有する従来の銅−スズ−鉛の軸受は、平均として、223MPaというかなり低下した降伏強度、301MPaという同等の引張り強度、約8%という低下した伸び、および約96HV0.5/15という低下した硬度とを呈示する。さらに比較するために、上述のタイプの従来の銅−スズ−鉛の軸受と対照して、以前の発明に従って準備された青銅−ビスマス−リンの軸受に同一のエンジン摩耗試験が実施された。より従来の銅−スズ−鉛のエンジン軸受が、摩耗により約12ミクロンの損失を呈示する一方で、その発明に従って準備された軸受は、平均で約10〜11ミクロンを呈示し、この発明に従った軸受の耐摩耗性および耐焼付性が、たとえ従来の銅−スズ−鉛のエンジン軸受のものに優っていないとしても、少なくともそれと同じ程度良好であることを示した。
【0007】
驚くべきことに、出願人の以前の発明に従って準備された軸受は、使用中に摩擦摺動負荷を受けると、銅とともに固溶体中に存在する一定量のスズを軸受面に移動させる有利な特性を呈示し、その結果、焼結された後あるいは軸受が取り付けられて用いられる前には存在していなかった、スズを多く含む層が軸受面に形成されることが分かった。このようにスズが移動して、スズを極めて多く含む層が軸受面に形成されることは、軸受の潤滑性を大いに増大させ、したがって、軸受が一旦使用されると軸受の耐摩耗性および耐焼付性の特性を高めることに寄与する。このようなスズの移動は、従来の銅−スズ−鉛の軸受では認められず、ニッケル等の他に提案された鉛の代替物でも認められなかった。完全には理解されていないが、ビスマスは、摩擦摺動負荷を受けると基質内のスズと反応してスズを効果的に移動させ、スズを軸受面に引寄せると考えられる。試験の後、その発明に従って準備されたエンジン軸受の目視検査により、軸受面が、光沢のあるスズの色をした軸受面を有することが示され、軸受に対して実施された化学的な分析により、表面のスズの濃度が、表面より下の銅−スズの基質からなるスズの濃度が均一なままの残りの部分よりもかなり高いことが示された。
【0008】
スズの移動というこの驚くべき特性は、軸受を使用する前に、軸受面にスズのフラッシュコートを適用する必要性をなくすか、または最小限にするという利点を有する。フラッシュコートの工程をなくすことにより、時間および設備を節約し、エンジン軸受の製造を単純化するだけではなく、そのコストを下げる。
【0009】
エンジン軸受から鉛を排除することにより、環境に一層適したエンジン軸受を提供するという利点を有し、出願人の以前の発明が必要とする態様で鉛の代わりにビスマスを用いることにより、エンジン軸受を製造する方法を大きく変化させる必要なく、同等のまたはそれ以上の強度および耐摩耗性/耐焼付性の特性を提供するという利点を有する。そのようなものとして、以前の発明に従って準備されたエンジン軸受は、新規の応用例か、またはそうでなければ銅−スズ−鉛の軸受を必要とする既存の応用例にも容易に適合させることができ、その発明に従った軸受の製造者は、新規のまたは実質的に修正した製造設備を必要とすることなく、かつ、おそらくは従来の銅−スズ−鉛の軸受の製造に通常関連する工程および設備のいくつかを省略しながら、このような軸受の作製に適応することができる。
【0010】
出願人自身の以前の発明(すなわち米国特許6,746,154号)のさらに別の局面によると、銅−スズ−ビスマスの焼結成形体が、水アトマイズされた銅−ビスマス粉末とガスアトマイズされた銅−スズ粉末との配合物から生成される場合、際立った利点が認められた。ここでも、完全には理解されていないが、粉末が生成される過程が軸受面の上へスズの移動に寄与すると考えられている。
【0011】
他の関連する重要な技術は大同メタル工業株式会社に割り当てられた米国特許6,905,779号を含む。この特許は、ビスマスを含む合金あるいはならし期間中の耐摩耗性に関連する問題に何も関係せずに、耐焼付性の向上に向けられている。ここで、機械的合金化技術は、材料組成物における均一な硬質粒子の分布を達成していた。
【0012】
さらに他の関連する技術は大同メタル工業株式会社に割り当てられた、0.5−15質量%のスズ、1−20質量%のビスマスおよび平均粒径が1−45μmの0.1−10体積%の硬質粒子を備えた銅合金を開示している、ドイツ特許2355016A号を含む。ビスマスは、合金中に分散されたビスマス相として存在する。硬質粒子は、ホウ化物、ケイ化物、酸化物、窒化物、炭化物および/または金属間化合物の1またはそれ以上を備えていてもよい。合金は、40質量%以下のFe、Al、Zn、Mn、Co、Ni、Siおよび/またはPをさらに備えていてもよい。20体積%の、MoS2、WS2、BNおよびグラファイトの1またはそれ以上をさらに備えていてもよい。軸受合金材料は、純銅、スズおよびビスマス粉末の混合物および種々の硬質粒子粉末を焼結することにより作製される。この特許は、言及された硬質粒子が銅基質におけるビスマス相と共存することを開示している。硬質粒子はビスマス相に位置しているが、ビスマス相の大きさは一般的には、硬質粒子の直径よりも大きい。
【0013】
さらに他の関連する技術は大豊工業株式会社に割り当てられた、燃料噴射ポンプの軸受に要求される疲労抵抗および耐食性を高いレベルで同時に両立し得たCu−Bi合金を開示している、米国特許2006/0000527号を含む。‘527特許は、1−30質量%のBiおよび平均粒径が10−50μmの0.1−10質量%の硬質粒子を含み、残部が銅および不可避的不純物からなり、さらにCu基質中に分散されたBi相が硬質粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径を有する、鉛フリー軸受を開示している。その結果として得られるCu−Bi粉末は、硬質粒子粉末と他の金属成分の粉末とが混合される。硬質粒子粉末以外の成分は、アトマイズ法により準備された合金粉末の形をしていてもよい。硬質粒子は、Cr23、Mo2C、WC、VCおよびNbCのような炭化物であってもよいが、好ましくはFe2P、Fe3P、Fe2BおよびFe3Bである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
米国特許6,746,154号で述べられた銅−スズ−ビスマス軸受材料の使用と関連した利点にもかかわらず、その組成物からなる焼結されたブッシングの使用中に、初期にブッシング摩耗が発生する場合がある。このような摩耗の問題は、典型的には、点検の最初のならし期間中に現れる。上記に提案した硬質粒子のある組み合わせを用いるにもかかわらず、引張強度、および、延性あるいは伸びのような機械的および物理的な特性の適切な組み合わせを維持したまま、軸受材料のさらなる向上が望まれ、特に、初期の耐摩耗性および耐焼付性を含む、軸受の耐摩耗性および耐焼付性のさらなる向上が望まれる。これらの材料は焼結された軸受材料に置き換えられる合金粉末のコストよりも高いので、用いられる硬質粒子粉末材料が付加される量を最小限にして必要な特性に作用することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
本発明は、ブッシングまたは軸受の耐摩耗性を向上することを提供する。ベース材料は、出願人の米国特許6,746,154号に詳細に述べられたリンが加えられた銅−スズ−ビスマス合金であり、銅、スズおよびリンの固溶体のため、優れた強度を有する。ビスマスの存在とそれに関連した軸受使用中に生じるスズの移動の結果、この材料は良好な潤滑性をも有する。しかしながら、場合によっては、まれな一連の状況の動作により、非常に速く過度の摩耗が生じることがある。これらの状況はブッシングの表面のマッチング、および、ピンあるいはジャーナル(軸頸)のマッチングに関連し、上述したスズの移動が発生するよりもブッシングの摩耗が速くなる。特にFe3P、MoSi2、あるいはその混合物などの比較的小さい硬質粒子の少ない量を加えることは、ピンやジャーナルを磨くという適した硬質面の影響を提供し、このように全体で摩耗を大きく低減し、特に上述した軸受面のマッチングに関連した早期の摩耗を大きく低減する。
【0016】
一の局面において、本発明は、鋼製の裏当てに接合される、銅−スズ−ビスマス合金粉末および金属化合物粉末の焼結粉末成形体軸受材料を備え、金属化合物粉末は10μm未満の平均粒径を有する。
【0017】
他の局面において、金属化合物粉末は、金属ホウ化物、金属ケイ化物、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属リン化物、および金属間化合物からなる群より選ばれる。金属化合物は、Fe3P、MoSi2、あるいはそれらの混合物を含んでいてもよい。
【0018】
他の局面において、金属化合物粉末は、焼結粉末成形体の0.1−10体積%含まれる。
【0019】
他の局面において、銅−スズ−ビスマス合金粉末は8−15重量%のスズ、1−30重量%のビスマス、および本質的に銅からなる残部を含んでいてもよく、より特定的には、8−12%のスズ、1−<5%のビスマス、および本質的に銅からなる残部を含んでいてもよい。銅−スズ−ビスマス合金粉末はガスアトマイズされた粉末または水アトマイズされた粉末のいずれを含んでいてもよく、より特定的にはガスアトマイズされた粉末および水アトマイズされた粉末の混合物を含んでいてもよい。
【0020】
他の局面において、銅−スズ−ビスマス合金粉末は、リンも含んでいてもよく、より特定的には銅−スズ−ビスマス合金粉末の0.03−0.8重量%まで含まれていてもよく、より一層特定的には銅−スズ−ビスマス合金粉末の0.03−0.08重量%まで含まれていてもよい。
【0021】
他の局面において、本発明は、鋼製の裏当てシェルに接合され、銅−スズ−ビスマス合金粉末、Fe3P粉末、およびMoSi2粉末の焼結粉末成形体を含む軸受である。
【0022】
他の局面において、Fe3P粉末およびMoSi2粉末はともに、焼結粉末成形体の0.1−10%含まれる。
【0023】
他の局面において、Fe3P粉末およびMoSi2粉末の各々は、10μm未満の平均粒径を有する。
【0024】
他の局面において、本発明は以下の工程を含む軸受の製造方法を含む。鋼製の裏当てシェルに、銅−スズ−ビスマス合金粉末、および10μm未満の平均粒径を有する金属化合物粉末の混合物を適用する。粉末混合物および鋼製の裏当てシェルを加熱して、焼結粉末混合物を生成し、焼結粉末混合物を鋼製の裏当てシェルに接合する。焼結粉末混合物および鋼製の裏当てシェルを圧延して、焼結粉末の空隙率を低減し、十分に緻密な焼結成形体軸受材料を生成する。
【0025】
他の局面において、本発明は、十分に緻密な軸受を加熱して、空隙率に関連付けられる部位の軸受材料の内側への拡散を促進する。
【0026】
他の局面において、本発明は以下の工程を含む軸受の製造方法を含む。鋼製の裏当てシェルに、銅−スズ−ビスマス合金粉末、Fe3P粉末およびMoSi2粉末の混合物を適用する。粉末混合物および鋼製の裏当てシェルを加熱して、焼結粉末混合物を生成し、焼結粉末混合物を鋼製の裏当てシェルに接合する。焼結粉末混合物および鋼製の裏当てシェルを圧延して、焼結粉末の空隙率を低減し、十分に緻密な焼結成形体軸受材料を生成する。
【0027】
本発明のこれらおよび他の特徴および利点は、後述する詳細な説明、および全体を通して同様の要素に同様の参照番号を付けた添付の図面と関連付けて考慮することでより明確となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にしたがって構成されたエンジン軸受の概略斜視図である。
【図2】本発明にしたがって構成されたピンブッシングの概略斜視図である。
【図3】本発明に従った軸受の、製造されたが使用前の状態の拡大部分断面図である。
【図4】図3と同様の図であるが、使用期間後の軸受を示す図である。
【図5】塊になったFe3P粒子を示すSEM顕微鏡写真である。
【図6】塊にならないFe3P粒子を示すSEM顕微鏡写真である。
【図7】MoSi2粒子のSEM顕微鏡写真である。
【図8】図7よりも高い倍率でとられたMoSi2のSEM顕微鏡写真である。
【図9】軸受材料LFC−63の光学顕微鏡写真である。
【図10】図9の軸受材料の二次電子顕微鏡写真である。
【図11】図9の軸受材料の後方散乱電子顕微鏡写真である。
【図12】軸受材料LFC−64の光学顕微鏡写真である。
【図13】図12の軸受材料の二次電子顕微鏡写真である。
【図14】図12の軸受材料の後方散乱電子顕微鏡写真である。
【図15】軸受材料LFC−65の光学顕微鏡写真である。
【図16】図15の軸受材料の二次電子顕微鏡写真である。
【図17】図15の軸受材料の後方散乱電子顕微鏡写真である。
【図18】軸受材料LFC−66の光学顕微鏡写真である。
【図19】図18の軸受材料の二次電子顕微鏡写真である。
【図20】図18の軸受材料の後方散乱電子顕微鏡写真である。
【図21】本発明のいくつかの軸受材料および比較例の軸受材料の摩耗特性のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
好ましい実施の形態の詳細な説明
数枚の図を通して同様の参照番号は同様または対応する部分を示す図面を参照して、この発明に従って構成された軸受が、エンジン軸受の形として図1の10において概略的に、および図2の10′において示され、10′は、ピストンのリストピンを支持するための連接ロッドの小さな端部開口部で用いられるもの等のピンブッシングを示す。簡潔にするために、以下の説明はエンジン軸受10を参照して行なわれるが、この説明がピンブッシング10′にも等しく当てはまることを理解されたい。
【0030】
エンジン軸受10は、エンジンのクランク軸等の回転軸を支持するために、エンジン等内でもう一方のハーフシェルの軸受と組合せて用いられるハーフシェルを備えたタイプのものである。軸受10は、凹状の内面14と凸状の外面16とを有する、鋼製の裏当てシェル12を有する。軸受材料18は、銅−スズ−ビスマス合金粉末および硬質粒子粉末の遊離した粉末混合物のような内面14に適用され、焼結粉末成形体を形成するために焼結され圧延される。銅−スズ−ビスマス合金軸受材料18は鉛フリーである。鉛フリーとは、この軸受材料が鉛を全く含まないか、または不純物による副次的な量の鉛しか含有しないことを意味する(すなわち約0.5重量%未満)。
【0031】
軸受材料18は、銅−スズ−ビスマス合金粉末、または、少なくとも1種の硬質粒子粉末を含み、好ましくは少なくとも2種の硬質粒子粉末を含む、銅−スズ−ビスマス合金粉末の配合物から生成される。少なくとも1種の硬質粒子粉末は軸受材料18および焼結成形体の0.1−10体積%の量で、10μm未満の平均粒径を有する金属化合物粉末でありる。金属成形体粉末の0.1−10体積%は、この材料の最も広い範囲を示し、この材料の0.5−5体積%はより好ましい範囲を示し、1−2体積%のより好ましい範囲はこの材料の最も好ましい範囲を示す。金属化合物粉末は、金属ホウ化物、金属ケイ化物、金属酸化物、金属窒化物、金属リン化物、および金属間化合物からなる群より選ばれ、金属化合物粉末は、種々の金属酸窒化物、金属炭窒化物、金属カルボキシ窒化物、金属酸炭化物等のような材料の種々の混合された金属化合物を含んでいてもよい。出願人は、上記に示した量および大きさの金属化合物として、Fe3PおよびMoSi2のどちらか一方が好適に用いられることを見い出し、MoSi2を用いる場合には摩耗抵抗および延性に優れるものを生成するという点で好ましく、Fe3Pを用いる場合には概してかなりコストを低減できるという点で好ましい。しかしながら、両方の材料の利点を生かすことができるので、上記に示した量および大きさの金属化合物としてFe3PおよびMoSi2の混合物を用いることがより一層好ましい。これらの量および大きさの硬質粒子の使用、特定的にはFe3PまたはMoSi2のいずれかの使用、より特定的にはFe3PおよびMoSi2の混合物としての使用は、関連する特許および公報には議論されていない。
【0032】
重要なことには、銅、スズおよびビスマスは、銅−スズ−ビスマス粉末を形成する前にともに合金化される。これは、これらの各々の成分の純金属粉末の混合物を用いることをより早く報告されてきた他の銅−スズ−ビスマス合金と異なる。出願人が見い出したところによると、ドイツ特許2355016号において、焼結軸受材料を形成するための純金属粉末の使用により、ここで述べた硬質粒子がビスマス相に優先的に位置するか最も近くに位置する傾向を増加するという報告と一致する。本発明の焼結成形体を作製するための銅−スズ−ビスマス合金粉末は、結果的に硬質粒子が合金微細構造全体、特定的には銅−スズ基質内に分布される成形体を生成することが見い出された。銅−スズ−ビスマス合金粒子および金属化合物粒子の概むね均質な分布が推定されるように、ビスマス相内で観察される硬質粒子もあるが、ビスマス相内に硬質粒子を優先的に取り込むことは、記載されていなかった。銅−スズ−ビスマス粉末を形成する前に合金化をすることは、所望の合金成分のすべてをともに合金化することを含んでいてもよく、一種の粉末が形成されてもよく、水アトマイズされた粉末またはガスアトマイズされた粉末が形成されることが好ましく、ガスアトマイズされた粉末および水アトマイズされた粉末の混合物が形成されることがより好ましい。しかしながら、銅−スズ−ビスマス粉末に向けられた本発明およびここでの参考文献は、たとえば米国特許6,746,154号に記載されているように純ビスマス粉末を用いずに、銅−スズ合金および銅−ビスマス合金粉末を分離した後、焼結前にともにそれらを混合することによって、焼結された成形体の所望の合金組成を達成するためにともに混合される合金粉末を形成するための成分のある組み合わせの合金化も意図している。異なる合金粉末が用いられる場合、これらの粉末はガスアトマイズおよび水アトマイズされた粉末として形成されてもよい。硬質粒子粉末は、軸受材料18を形成するために、既知の混合方法を用いて上述した量の銅−スズ−ビスマス合金粉末とともに混合される。
【0033】
金属軸受材料18を形成するために用いられる銅−スズ−ビスマス粉末および硬質粒子粉末の混合物は、鋼製の裏当てシェル12に焼結および接合されることで、特定的には銅−スズ合金基質内に、分散された硬質粒子を含む銅−スズ−ビスマス軸受材料のライニングが裏当て12の内面14に設けられる。青銅−ビスマス軸受を含む青銅軸受の技術の当業者には公知であるように、軸受材料18としての分散された硬質粒子を有する銅−スズ−ビスマス合金粉末を鋼製の裏当てシェル12に接合するために用いられる技術は、遊離した粉末の形をとった軸受材料18を加熱して、焼結して、圧延して、内面14に付けて、軸受材料18からなる本質的に孔のない完全に緻密化された層を生じることを含み、軸受材料18は、冶金学的に、裏当て12に永久に接合または結合されて、結合された多層軸受構造を形成する。完全な緻密化により、粉末の軸受材料18が圧縮されてほぼ完全に理論上の密度まで焼結されて、この発明が向けられていない多孔質の含油青銅軸受の意味において、油または他の物質に対して実質的に不浸透性である焼結された成形体を形成することを意味する。したがって、完全な緻密化またはほぼ完全な緻密化とは、軸受材料18が完全に理論上の密度の99%を超え、好ましくは99.5%より高く、より好ましくは99.9%以上の密度を有することを意味することが理解される。後述する圧延工程では、多層軸受構造は再び十分に(すなわち、十分な時間および温度で)加熱されて、軸受材料18内において、圧延工程によって効果的に低減される空隙率に関連付けられる部位で拡散を促進する。この工程は、微細構造の均質性を向上し、圧延することによって低減される空隙率に関連付けられる微小クラックのネットワークとなるものを内側への拡散を通して効果的に除去することによって、軸受材料18の強度をかなり増加する。
【0034】
軸受適用例において要求される特性によれば、合金組成の範囲を有する銅−スズ−ビスマス合金粉末は、本発明の軸受材料18を作製することに適している。しかしながら、付加されたリンは焼結された成形体の強度を高めるので、銅−スズ−ビスマス−リン合金粉末は、多くの軸受適用例において特に有益である。銅−スズ−ビスマスまたは銅−スズ−ビスマス−リン合金粉末軸受材料18は、8−15重量%、好ましくは8−12重量%、より好ましくは9−11重量%のスズと、1から5重量%未満、より好ましくは3−4重量%のビスマスと、存在する場合には0.03−0.8重量%、より好ましくは0.03−0.08重量%のリンとを含み、残部が銅であり、不可避的不純物を含んでいてもよい。0.5%よりも多い量のリンを含んでいる場合には、銅−スズ−ビスマス合金軸受材料の脆化を促進するという報告があり、0.8重量%のような多い量を含んでいると、MoSi2のようなリンとの反応に適合する硬質粒子との結合に有益であり、リンとの反応の利点による材料は0.5重量%以下レベルの銅−スズ基質におけるリンの量を下回らない。上述した目的のため0.5重量%を超えて用いられるリンの量は、用いられる硬質粒子の量や硬質粒子のために用いられる金属化合物との反応の特性に依存する。スズの移動のように、軸受材料の物理的、摩擦に関する摩耗あるいは他の特性を損なわないような他の合金化の添加物は取り込まれてもよい。
【0035】
軸受材料18の接合層は、スズが銅中に固溶した状態の銅およびスズの基質22を有する。リンを有している場合には、リンも同様に基質中に固溶している。ビスマスは銅中への溶解性は非常に低く、銅−スズまたは銅−スズ−ビスマス基質内に島状に細かく分散したビスマスを多く含む相20として存在する。図3および図4に概略的に示されるように、ビスマスを多く含む相20は、銅−スズの基質22の体積の全体にわたって実質的に均一に分散されている。
【0036】
米国特許6,746,154号で述べられているように、本発明に従った焼結軸受に銅−スズ−ビスマス合金粉末を用いる場合、ビスマスは鉛の代替物として働き、この発明が必要とする制御された量(すなわち、1重量%以上5重量%未満)で用いられると、鉛では得られなかったさらに別の特性を提供することが示されている。硬質粒子の添加がない接合圧延されて焼結され、完全に緻密化された銅−スズ−ビスマス軸受材料は、以下の物理的な特性を呈示することが分かっている。つまり、引張り強度は400MPa以上で、降伏強度は290MPa以上で、伸びは10%以上で、硬度(HV)は130(0.5/15)未満である。
【0037】
これらの物理的な特性は、以前の段落で論じたように、従来の銅−スズ−鉛のエンジン軸受に見合うか、またはそれを超える。加えて、この発明に従って構成されたエンジン軸受は、従来の銅−スズ−鉛のエンジン軸受に比べ、同等のまたはそれよりも優れた耐摩耗性および耐焼付性の特性を有する。エンジンの比較試験において、この発明に従って構成されたエンジン軸受が約10〜11ミクロンの材料の損失を呈示したのに対し、同じ条件下で試験した従来の銅−スズ−鉛軸受は12ミクロンの損失を呈示し、銅−スズ−ビスマスの軸受の摩耗が、従来の銅−スズ−鉛の軸受に比べて約10%減少していることが示された。
【0038】
銅−スズ−ビスマスの軸受材料に対して行なわれた研究では、驚くべきことに、この発明に従って上述した範囲内でエンジン軸受を準備した場合、この発明に従って構成された軸受が、従来の銅−スズ−鉛のエンジン軸受を必要とする現在のまたは将来の応用例に取って代わることを可能にする、非常に優れた物理的特性が得られることが分かった。完全には理解されていないが、この顕著な物理的特性に寄与する重要な要因の1つがリンの存在であり、リンは、溶解および粉末へのアトマイズ化、軸受材料の裏当て12への完全に緻密な接合圧延および焼結の間における、合金の脱ガスに効果的である。加えて、合金に加えるビスマスの量を制御することによって、上述した物理的特性に加えて疲労強度も維持される。ビスマスは、5%以上の量を加えると、基質の構造を弱める作用を有する。なぜなら、ビスマスが基質22内に固溶せず、ビスマスの島状構造20が、事実上ビスマスで充填された孔になってしまうためであり、これがなければ強力な基質になるはずである。存在するビスマスの量が多すぎると、島状構造(したがって、それらが充填する孔)が大きくなりすぎて、この材料の所望の物理的特性が失われる。したがって、この発明が必要とする範囲内のビスマスを加えると、エンジン軸受の応用例に所望されて上に示されたものよりも基質の物理的特性を低下させないことが示された。
【0039】
また、ビスマスは驚くべきことに、軸受層18の耐摩耗性および耐焼付性の特性に対し、極めて望ましい好影響を有することが分かった。図3に示されるように、軸受10が製造されてエンジンに取付けられるときは、スズが銅に完全に固溶して、均一な銅−スズの基質22をもたらす。しかしながら、驚くべきことに、軸受層18の露出された軸受面24に摩擦圧縮摺動負荷がかかる動作中において、基質内の一定量のスズが基質を通って軸受面24に移動して、図4に示すように軸受面24においてスズを多く含む層26を生じることが分かった。このスズを多く含む層26は、軸受面24において潤滑剤として働き、軸受10全体の耐摩耗性および耐焼付性を減じる作用を有する。軸受10が摩耗するにつれて、軸受材料18は、基質22内のスズの移動性によって層26が常に存在して生じるように、スズを多く含む層を連続して補充するという特性を有する。スズの移動性は、軸受を使用する負荷/摩擦の条件下において固溶しているスズとビスマスとの反応から生じるものと考えられる。基質22の完全に緻密な粉末金属構造と組合わさってビスマスが存在することにより、スズを多く含む層26を生じる際に、基質から表面24にスズを輸送するための輸送手段が提供される。銅−スズ−ビスマスの軸受材料18が、軸受面24においてそれ自体のスズを多く含む層26を生じる特性を有しているため、上述した従来のタイプの青銅−鉛のエンジン軸受にしばしば適用されているようなスズのフラッシュコートまたは他のスズの上張りを軸受材料18に適用する必要性が一般になくなる。本発明の上述した硬質粒子も含む軸受層18は、硬質粒子を含まない銅−スズ−ビスマス合金中の合金において観察されるものと比較して、スズの移動を呈示することが観察された。
【0040】
比較として、スズの移動性は、銅−スズ−鉛の軸受では存在することが認められていない。銅−スズ−ニッケルの合金に対しても試験が実施されたが、スズの移動性が存在することは、やはり認められなかった。この発明によって特定された量のビスマスだけが、銅−スズの基質の物理的特性を過度に損なうことなくスズの移動性を提供して、摩耗および焼付の特性を改善することが分かった。
【0041】
前に記載したように、試験片は、ガスアトマイズされた粉末のみから作製された銅−スズ−ビスマスの比較組成から同様に準備され、別の組の試験片が水アトマイズされた粉末のみから作製されるが、第1の試験片のガス/水の配合物に対する比較組成を有する。驚くべきことに、ガス/水アトマイズされた配合物は、100%ガスアトマイズされた粉末または100%水アトマイズされた粉末のいずれかからなる比較組成の試験片に比べ、物理的特性が著しく向上していることが分かった。物理的特性の向上は、降伏強度、引張り強度、延性、硬度、および耐焼付性を含み、これらはすべて、銅が主成分の焼結された粉末金属のブッシングおよび軸受の応用例において重要な役割を果たす。
【0042】
出願人は、銅−スズ−ビスマス合金軸受材料の使用に関連して上述した利点および向上は、硬質粒子をさらに含む本発明の軸受材料によってさらに向上することを見い出した。たとえば、本発明の軸受材料において、耐摩耗性が向上し、ビスマスと関連したスズ移動性および潤滑性も見い出された。引張強度および伸びの全体的な低減ような差異もあるが、これらの特性は、内燃機関のための主エンジン軸受を含む多くの軸受応用例のために適した強度および延性を有する軸受材料を提供するために十分である。
【0043】
本発明の軸受材料は、比較例を含む複数の実施例に関してさらに以下に述べる。出願人は評価のため複数の軸受材料を製造し、結果として得られる微細構造の金属組成および走査型電子顕微鏡評価、特性の評価および摩耗試験を行なった。
【実施例】
【0044】
作製された試料はエンジン主軸受のものであった。用いられた銅−スズ−ビスマス粉末は、概ね米国特許6,746,154号で述べられている。個々に用いられた硬質粒子はFe3PおよびMoSi2粉末を含み、表1に記載された量および大きさの組み合わせとした。
【0045】
【表1】

【0046】
LFC−63からLFC−66までの試料に用いられたLF−5は、Cu−Sn−Bi合金粉末であった。すなわち、各々の組成は合金を形成するために溶解して加えられ、合金粉末を形成するためにアトマイズされた。この材料は下記の表2および3に示されたような特性を有していた。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
LFC−63からLFC−66までの試料に用いられたFe3P粉末は、F.W.Winter Coから購入されたFEP−R15−F4のグレードのものであった。Fe3P粉末は、表4に示すような化学的分析および粉末特性を有していた。
【0050】
【表4】

【0051】
Fe3P粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真は図5および図6に示される。図5は、図6に示されるFe3P粒子に比べて、Fe3P粒子が少し凝集していることを明らかにしている。図6に示される形のFe3P粉末を用いることが好ましいと考えられる。
【0052】
LFC−63の資料を作るために、LF−5およびFe3P粉末は、重量比において、400ポンドのLF−5と、硬質粒子として4.0ポンドのFe3P粉末とがともに混合された。
【0053】
混合されたLFC−63の遊離粉末混合物は複数の鋼帯に適用され、805℃で焼結された。焼結された鋼帯の空隙率は、表5に示すように測定された。
【0054】
【表5】

【0055】
図9を参照して、試料LFC−63の顕微鏡写真は、明るい灰色のビスマス相と隣接し、独立する濃い灰色の領域(Fe3P粒子)の両方を示す。なお、Fe3P粒子は、ビスマス相と青銅粒子の粒界の交点で少し好ましい部位にあるように見え、おそらくビスマスを固定する。
【0056】
図10および図11を参照して、それぞれ、微細構造の二次電子(SE)および後方散乱(BS)写真はビスマス相(SEにおける白、BS中の暗黒)を示し、Fe3P粒子はSE写真における灰色領域およびBS写真における白色領域を示す。
【0057】
LFC63の各々の試料のライニングは、その組成のため分析された。その結果を次の表6に示す。
【0058】
【表6】

【0059】
鋼およびライニングの硬度は、表7に示すように測定された。
【0060】
【表7】

【0061】
引張特性および降伏特性は次の表8のように測定された。
【0062】
【表8】

【0063】
SEM分析も、ビスマス相に位置することに加えて、銅基質中にFe3Pが存在することも示す。
【0064】
LFC−64試料を作るために、LF−5およびMoSi2粉末は、重量比において、352ポンドのLF−5と、硬質粒子として3.52ポンドのMoSi2とがともに混合された。
【0065】
MoSi2粉末はABCR GmbH&Co.KG.から購入されたものであった。MoSi2粉末は、表9に示すような化学的分析および粉末特性を有していた。
【0066】
【表9】

【0067】
MoSi2粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真は、2つの異なる倍率の図7および図8に示す。Fe3P粒子と対比して、MoSi2粉末粒子は図7および図8に見られる凝集の形跡が見られなかった。図7および図8に示される形のMoSi2粉末を用いることが望ましいと考えられる。
【0068】
混合されたLFC−64の遊離粉末混合物は複数の鋼帯に適用され、805℃で焼結された。
【0069】
本発明に従って作られたLFC−64材料の試料の微細構造の低い倍率の光学顕微鏡写真は、空隙に見えるかなりの数の暗黒色領域を示す。図12に示す高い倍率では、これらの暗黒色領域の多くは小さいMoSi2粒子であることが明らかである。この理由は、画像分析技術では、空隙率の正確な測定はできないためである。図12に示されるように、微細構造は多くの暗黒色領域を示し、ビスマス相は灰色領域を示す。MoSi2粒子は、Cu基質のり粒界に沿って配置されているように見えるが、概ねビスマス相と隣接または関連付けられない。
【0070】
図13および図14を参照して、それぞれ、微細構造の二次電子(SE)および後方散乱(BS)写真はビスマス相(SEにおける白、BS中の暗黒)をはっきりと示し、MoSi2粒子はSE写真における灰色領域およびBS写真における白色領域を示す。白色領域は明るい灰色領域よりもSi濃度が高い。
【0071】
LFC64の各々の試料のライニングは、その組成のため分析された。その結果を次の表10に示す。
【0072】
【表10】

【0073】
鋼およびライニングの硬度は、表11に示すように測定された。
【0074】
【表11】

【0075】
引張特性および降伏特性は次の表12のように測定された。
【0076】
【表12】

【0077】
LFC−65試料を作るために、LF−5、Fe3PおよびMoSi2粉末は、重量比において、247.5ポンドのLF−5と、硬質粒子として22.5ポンドのFe3Pおよび2.5ポンドのMoSi2とがともに混合された。またLFC−66試料を作るために、LF−5、Fe3PおよびMoSi2粉末は、重量比において、247.5ポンドのLF−5と、硬質粒子として12.5ポンドのFe3Pおよび12.5ポンドのMoSi2とがともに混合された。LFC−63およびLFC−64を作るために用いられた同じFe3PおよびMoSi2粉末が、それぞれLFC−65およびLFC−66を作るために用いられた。
【0078】
混合されたLFC−63の遊離粉末混合物は複数の鋼帯に適用され、805℃で焼結された。
【0079】
LFC−65およびLFC−66軸受材料は、硬度、引張強度および降伏強度、耐摩耗および合金成分について試験されていないが、LFC−63およびLFC−64の特性の中間の特性を有することが推定される。
【0080】
図15を参照して、試料LFC−65の顕微鏡写真は、明るい灰色のビスマス相と隣接し、独立する濃い灰色の領域(Fe3PおよびMoSi2粒子)を示す。出願人は、硬質粒子がビスマス相に発生するときには、その硬質粒子はFe3P粒子の傾向であることを見い出した。LFC−64の場合には、MoSi2粒子は粒界に位置する傾向にあるが、ビスマス相には見られない傾向にある。
【0081】
図16および図17を参照して、それぞれ、微細構造の二次電子(SE)および後方散乱(BS)写真はビスマス相(SEにおける白、BS中の暗黒)をはっきりと示し、Fe3P粒子はSE写真における灰色領域およびBS写真における白色領域を示す。MoSi2粒子は図16および17の視野内において存在していない。LFC−65におけるこれらの粒子は0.1重量%しか存在していないことは驚くべきことではない。
【0082】
図15を参照して、LFC−65試料の顕微鏡写真は、明るい灰色のビスマス相と隣接し、独立する濃い灰色の領域(Fe3PおよびMoSi2粒子)を示す。出願人は、硬質粒子がビスマス相に発生するときには、その硬質粒子はFe3P粒子の傾向であることを見い出した。LFC−64の場合には、MoSi2粒子は粒界に位置する傾向にあるが、ビスマス相には見られない傾向にある。
【0083】
図16および17を参照して、それぞれ、微細構造の二次電子(SE)および後方散乱(BS)写真はビスマス相(SEにおける白、BS中の暗黒)をはっきりと示し、Fe3P粒子はSE写真における暗い灰色領域およびBS写真における白色領域を示す。MoSi2粒子は図16および17の視野内において存在していない。
【0084】
図18を参照して、LFC−66試料の顕微鏡写真は、明るい灰色のビスマス相と隣接し、独立する濃い灰色の領域(Fe3PおよびMoSi2粒子)を示す。出願人は、硬質粒子がビスマス相に発生するときには、その硬質粒子はFe3P粒子の傾向であることを見い出した。LFC−64の場合には、MoSi2粒子は粒界に位置する傾向にあるが、ビスマス相には見られない傾向にある。
【0085】
図16および17を参照して、それぞれ、微細構造の二次電子(SE)および後方散乱(BS)写真はビスマス相(SEにおける白、BS中の暗黒)をはっきりと示し、参照番号3で示される。MoSi2粒子はSE写真における暗い灰色領域を示し、BS写真における明るい灰色領域および白色領域を示し、参照番号2で示される。これらの材料は、エネルギー分散X線分析(EDX)を用いて特定された。驚くべきことに、顕微鏡写真は、参照符号1で示されるモリブデンリン化合物(MoPx)の存在も明らかにする。これは、合金中にもFe3P粒子に隣接する部分にも見られるMoSi2粒子とリンとの反応の痕跡になり得る。
【0086】
LFC−64からLFC−66に関する事例のように、MoSi2粒子の少量、つまり1%未満の添加は、軸受の成形性および製造可能性を大きく向上するという驚くべき進展を見い出した。これらの材料は、LFC−63材料よりも、圧延する工程の間、横割れの影響を受けず、MoSi2を多く有する材料は横割れの影響をさらに受けないことが見い出された。LFC−63およびLFC−64の表形式のデータの比較から分かるように、LFC−64の伸びはLFC−63の伸びよりもかなり大きい。この改良された延性は、横割れ減少に関連していると考えられる。MoSi2粒子をさらに少なく添加することは、軸受を製造するために非常に重要な特性に大きな影響を与えるように思われる。
【0087】
図21を参照して、LFC−63およびLFC−64のエンジン摩耗性能は、他の合金から得られる比較、すなわち従来の10重量%の銅、10重量%のスズの鉛軸受合金(HF−2F)の摩耗とともにプロットされる。その結果は、硬質粒子の添加と関連付けられる耐摩耗性能を大きく増加し、添加されたMoSi2粒子に関連付けられた改善は大きく、Fe3P粒子に関連付けられた改善は小さいことを示す。しかしながら、MoSi2またはFe3P粒子のいずれかを添加することに関連付けられる改善は非常に重要である。銅−スズ−鉛軸受合金は、硬質粒子の取込に関連付けられた耐摩耗性における改善は評価された。摩耗抵抗に関して、銅−スズ−鉛合金に比較して、銅−スズ−ビスマス合金の同程度に重要またはわずかに改善した特性を与えられるため、硬質粒子を取り込んだ本発明の軸受材料は、硬質粒子を取り込んでいない銅−スズ−ビスマス合金軸受材料と比較して、同程度の耐摩耗性が推定される。
【0088】
上述した本発明は関連する法的基準に従って記載されており、したがって、記載は本来限定的ではなく例示的である。開示された実施例に対する変更および変形は、当業者にとって明らかになり、この発明の範囲内に入り得る。したがって、法的保護を与えられたこの発明の範囲は、以下の特許請求の範囲を検討することによってのみ決定できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製の裏当てシェルに接合される、銅−スズ−ビスマス合金粉末および金属化合物粉末の焼結粉末成形体軸受材料を備え、前記金属化合物粉末は10μm未満の平均粒径を有する、軸受。
【請求項2】
前記金属化合物粉末は、金属ホウ化物、金属ケイ化物、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属リン化物、および金属間化合物からなる群より選ばれる、請求項1に記載の軸受。
【請求項3】
前記銅−スズ−ビスマス合金は、8−15重量%のスズと、1−30重量%のビスマスと、本質的に銅からなる残部とからなる、請求項1に記載の軸受。
【請求項4】
前記銅−スズ−ビスマス合金は、8−12重量%のスズと、1重量%以上5重量%未満のビスマスと、本質的に銅からなる残部とからなる、請求項3に記載の軸受。
【請求項5】
前記銅−スズ−ビスマス合金粉末の合金成分として、リンをさらに備える、請求項1に記載の軸受。
【請求項6】
合金成分として、リンをさらに備え、
前記リンは、前記銅−スズ−ビスマス合金粉末の0.03−0.8重量%含まれる、請求項3に記載の軸受。
【請求項7】
前記リンは、前記銅−スズ−ビスマス合金粉末の0.03−0.08重量%含まれる、請求項4に記載の軸受。
【請求項8】
前記金属化合物粉末は、Fe3P粉末およびMoSi2粉末の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の軸受。
【請求項9】
前記金属化合物粉末は、Fe3P粉末およびMoSi2粉末を含む、請求項8に記載の軸受。
【請求項10】
前記MoSi2粉末は、前記成形体軸受材料の0.1−0.5重量%含まれる、請求項9に記載の軸受。
【請求項11】
前記金属化合物粉末は、前記成形体軸受材料の0.1−10体積%含まれる、請求項1に記載の軸受。
【請求項12】
前記金属化合物粉末は、前記成形体軸受材料の1−2体積%含まれる、請求項11に記載の軸受。
【請求項13】
前記銅−スズ−ビスマス合金粉末は、ガスアトマイズされた粉末と、水アトマイズされた粉末との混合物を備える、請求項1に記載の軸受。
【請求項14】
鋼製の裏当てシェルに接合される、銅−スズ−ビスマス合金粉末、Fe3P粉末およびMoSi2粉末の焼結粉末成形体を備える、軸受。
【請求項15】
前記Fe3P粉末およびMoSi2粉末はともに前記成形体の0.1−10体積%含まれる、請求項14に記載の軸受。
【請求項16】
前記Fe3P粉末およびMoSi2粉末の各々は、10μm未満の平均粒径を有する、請求項14に記載の軸受。
【請求項17】
前記銅−スズ−ビスマス合金は、8−15重量%のスズと、1−30重量%のビスマスと、本質的に銅からなる残部とからなる、請求項14に記載の軸受。
【請求項18】
前記銅−スズ−ビスマス合金は、8−12重量%のスズと、1重量%以上5重量%未満のビスマスと、本質的に銅からなる残部とからなる、請求項17に記載の軸受。
【請求項19】
前記銅−スズ−ビスマス合金粉末の合金成分として、リンをさらに備える、請求項14に記載の軸受。
【請求項20】
合金成分として、リンをさらに備え、
前記リンは、前記銅−スズ−ビスマス合金粉末の0.03−0.8重量%含まれる、請求項17に記載の軸受。
【請求項21】
前記リンは、前記銅−スズ−ビスマス合金粉末の0.03−0.08重量%含まれる、請求項20に記載の軸受。
【請求項22】
前記MoSi2は、前記成形体の0.1−0.5重量%含まれる、請求項14に記載の軸受。
【請求項23】
前記MoSi2粉末と、前記Fe3P粉末または前記リンの少なくとも一方との反応生成物として、モリブデンリン化合物をさらに備える、請求項17に記載の軸受。
【請求項24】
軸受を製造する方法であって、
鋼製の裏当てシェルに、銅−スズ−ビスマス合金粉末と、10μm未満の平均粒径を有する金属化合物粉末との混合物を適用する工程と、
焼結粉末混合物を生成し、前記焼結粉末混合物を鋼製の裏当てシェルに接合するために前記粉末混合物および前記鋼製の裏当てシェルを加熱する工程と、
前記焼結粉末混合物の空隙率を低減し、十分に緻密な焼結成形体軸受材料を生成するために、前記焼結粉末混合物および鋼製の裏当てシェルを圧延する工程とを備える、方法。
【請求項25】
空隙率に関連付けられる部位の前記軸受材料の内部への拡散を促進するために、十分に緻密な軸受を加熱する工程をさらに備える、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
スズを多く含む表面層を生成するために前記軸受を十分に慣らし運転する工程をさらに備える、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記銅−スズ−ビスマス合金粉末は、8−12重量%のスズと、1重量%以上5重量%未満のビスマスと、本質的に銅からなる残部とからなり、前記金属化合物粉末はFe3P粉末およびMoSi2粉末の少なくとも1つを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記金属化合物粉末は、Fe3P粉末およびMoSi2粉末を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
軸受を製造する方法であって、
鋼製の裏当てシェルに、銅−スズ−ビスマス合金粉末、Fe3P粉末およびMoSi2粉末の粉末混合物を適用する工程と、
焼結粉末混合物を生成し、前記焼結粉末混合物を鋼製の裏当てシェルに接合するために前記粉末混合物および前記鋼製の裏当てシェルを加熱する工程と、
前記焼結粉末混合物の空隙率を低減し、十分に緻密な焼結成形体軸受材料を生成するために、前記焼結粉末混合物および鋼製の裏当てシェルを圧延する工程とを備える、方法。
【請求項30】
空隙率に関連付けられる部位の前記軸受材料の内部への拡散を促進するために、十分に緻密な軸受を加熱する工程をさらに備える、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
スズを多く含む表面層を生成するために前記軸受を十分に慣らし運転する工程をさらに備える、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記Fe3P粉末およびMoSi2粉末はともに前記成形体の0.1−10体積%含まれる、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記Fe3P粉末およびMoSi2粉末の各々は、10μm未満の平均粒径を有する、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記銅−スズ−ビスマス合金は、8−12重量%のスズと、1重量%以上5重量%未満のビスマスと、本質的に銅からなる残部とからなる、請求項29に記載の方法。
【請求項35】
前記銅−スズ−ビスマス合金粉末の合金成分として、リンをさらに備える、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記リンは、前記銅−スズ−ビスマス合金粉末の0.03−0.8重量%含まれる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記MoSi2は、前記粉末混合物の0.1−0.5重量%含まれる、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記十分に緻密な焼結成形体軸受材料は、前記MoSi2粉末と、前記Fe3P粉末または前記リンの少なくとも一方との反応生成物として、モリブデンリン化合物を備える、請求項35に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2010−535287(P2010−535287A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519182(P2010−519182)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/074917
【国際公開番号】WO2009/017501
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】