説明

耐摩耗性を改良されたジョイント部材を製造するための方法

改良された耐摩耗性を有するジョイント部材が得られる方法を提供するという課題を解決するために、第1ステップでは、鋼の総量に対して約0.4〜約0.6重量%の範囲内の炭素成分を有する鋼から製造されるジョイント部材が、少なくとも部分的に、成形部材の表面から最大0.5mmの深さまでにおいて、鋼の総量に対して1.3重量%までの炭素成分まで浸炭され、第2ステップでは、浸炭されたジョイント部材が、第1ステップでの浸炭によって得られる深さよりも大きな深さまで焼入れされる方法が提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その耐摩耗性を改良されたジョイント部材を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジョイント部材、例えば等速ジョイント用のジョイント部材は、ふつう、型鍛造法によって製造されるが、管、棒等の加工によっても製造される。ジョイント部材において特別の応力を受けるのは特にジョイント外側部品およびジョイント内側部品の摺動面である。そこでは、しばしばジョイント部材の動作中に亀裂が発生し、これによりジョイント部材は相応に早く摩耗する。
【0003】
ジョイント部材、詳細にはジョイントケージ、ジョイント外側部品およびジョイント内側部品は、ふつう、鋼の総量に対して約0.45〜約0.55重量%の範囲内の炭素含有量を有する高周波焼入れ可能な構造用鋼から製造される。例えば、鋼の総量に対して約0.5重量%の炭素含有量を有する焼ならし炭素構造用鋼CF53等のような構造用鋼が、代表的にはジョイント部材の製造に利用される。技術の現状によれば、このように製造された成形部材は引き続き、例えば、高周波焼入れによって焼入れされ、比較的微粒の耐摩耗性表面が高周波焼入れによって得られる。しかし、その際の欠点として、得られる部材の硬さが小さく、特に亀裂伝搬に対する抵抗力も小さい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、改良された耐摩耗性と特に亀裂伝搬に対する高い抵抗力とを有するジョイント部材を製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、本発明によれば、第1ステップでは、鋼の総量に対して約0.4〜約0.6重量%の範囲内の炭素成分を有する鋼から製造されるジョイント部材が、少なくとも部分的に、成形部材の表面から最大0.5mmの深さまでにおいて、鋼の総量に対して1.3重量%までの炭素成分まで浸炭され、第2ステップでは、浸炭されたジョイント部材が、第1ステップでの浸炭によって得られる深さよりも大きな深さまで、有利には約2mmの深さまで焼入れされ、その深さが部材表面から測定されるようになった方法によって解決される。
【0006】
本発明におけるジョイント部材とは、特にジョイントケージ、ジョイント外側部品およびジョイント内側部品をいう。
【0007】
第2ステップにおける焼入れは主に誘導式にて行われるが、しかし、炉内焼入れまたは火炎焼入れも可能である。本発明に係る方法によって、有利なことに、高められた耐摩耗性と亀裂伝搬に対する改良された抵抗力とを有するジョイント部材が得られる。本発明に係る方法で製造される部材の表面領域は通常のCF53鋼と比べて高い硬さを有する。それにもかかわらず、製造されたジョイント部材のコアは延性があり、支持部材としての機能も有している。1.3重量%までの上記炭素含有量において、好ましくは約0.7〜約1.2重量%の範囲内の炭素含有量、なお一層好ましくは約0.8〜約1.1重量%の範囲内の炭素含有量が、マルテンサイトや残留オーステナイトの他になお存在するので、このように製造されるジョイント部材は自己補充特性を有する。本発明における「自己補充」とは、焼入れ表面層中に存在する残留オーステナイトが変形時もしくは成形時にマルテンサイトに転位することをいう。これにより、本発明により製造される部材の一定した強度値および摩耗値が長期にわたって達成される。
【0008】
第1ステップで行われる浸炭は、特にガス浸炭または塩浴浸炭として実行することができ、これは炭化または浸炭窒化として行うことができる。しかし、場合によっては、H2および/またはN2を添加してCO/CH4雰囲気中でのガス浸炭が好ましい。
【0009】
浸炭は、好ましくは、部材表面から測定して部材のヘルツ応力の極大を超えて少なくとも約0.1mmの深さまで行われ、それゆえにジョイント部材表面から測定して好ましくは約0.15mm〜0.35mm、一層好ましくは約0.2mm〜約0.3mmの範囲内の深さまで行われる。さらに好ましくは浸炭が全面で行われ、すなわち成形部材全体の表面が浸炭される。結局、本発明に係る方法によってジョイント部材表面に2層構造が得られ、表面に最も近い層中には残留オーステナイト成分を有するマルテンサイトが存在し、それに続く表面層中には約2mm、好ましくは約0.8mm〜約1.5mmの深さまでマルテンサイト組織が、但し残留オーステナイトなしに存在する。焼入れジョイント部材の支持部材としての機能を有する未焼入れコアがこれに続く。このように製造されるジョイント部材の寿命は有利なことにかなり延長される。
【0010】
表面に最も近い層中の残留オーステナイトはそれぞれ、利用された鋼の総量に対して約5重量%〜約35重量%、好ましくは約20重量%〜約32重量%の量で存在する。残留オーステナイトは延性があり、高い硬さを有するので、一度発生した亀裂が部材表面に留まり、亀裂が伝搬することはない。これにより、本発明により製造されるジョイント部材の破損は、現状の技術レベルで知られているものと比較して著しく高い数の負荷変動(特にオーバーランニング)において初めて起こる。
【0011】
好ましい1実施形態において、本発明に係る方法の第1ステップで利用される構造用鋼は実質的にスズ、ヒ素および/またはアンチモンを含まない。特にアンチモンが含まれずまたは極力僅かな割合で存在することは、本発明に係る方法の第1ステップにおける浸炭にとって重要である。というのは、特にアンチモンによって浸炭時間がかなり長くなり、そのため本発明に係る方法を実行することが費用の観点から事情によってはもはや経済的に成り立たないからである。
【0012】
本発明に係る方法の第1ステップにおける浸炭は主に約800℃〜約1000℃の範囲内、好ましくは850℃〜950℃の範囲内の温度で行われる。その際、浸炭は有利には約2〜6時間にわたって、さらに好ましくは約3〜約4時間にわたって行われる。浸炭後、浸炭された成形部材は約250℃の温度まで、マルテンサイト変態が起きないようにゆっくりと、好ましくは炉内雰囲気中で冷却される。
【0013】
有利には、第2ステップで行われる高周波焼入れは約5kHz〜約45kHzの範囲内の周波数で実行される。その際、焼入れは有利には100kW〜300kW、一層好ましくは150kW〜250kWの範囲内の出力で、約1〜15秒、好ましくは2〜10秒の範囲内の加熱時間にわたって行われる。高周波焼入れされた成形部材は引き続き、好ましくは約20℃〜約40℃の範囲内の温度を有する高分子溶液中で焼入れされる。このようなパラメータで高周波焼入れするとき、外側表面層の下にある第2の多少柔らかいマルテンサイト組織構造が得られ、有利なことにこれが表面層を支持する。
【0014】
本発明に係る方法の選択的1実施形態において、第2ステップにおける焼入れが異なる温度における高周波焼入れによる2つの部分に分かれ、第1部分における温度が少なくとも750℃で行われ、後続の第2部分における温度が最大で300℃で行われるように(焼戻し)することができる。その際、第1部分で選択される温度は第1ステップで得られる浸炭部材のコア材料の変態温度より上であり、ここでは極力完全なマルテンサイト変態が得られる。第2部分では部材の焼戻しが行われる。
【0015】
さらに本発明は、本発明に係る方法によって製造されるジョイント部材に関する。本発明に係る方法によって製造される焼入れ表面を有する成形部材は、なお、例えば、研削または超硬フライス加工によってさらに加工することができる。
【実施例】
【0016】
以下、添付図を基に本発明を詳しく説明する。
【0017】
図1の上部の図は、本発明に係る方法によって製造されたジョイント部材、例えば、等速ジョイント内側部品の表面層を符号1として示した部分の断面を示している。これは、場合によっては微量の残留オーステナイトを有するマルテンサイト2とフェライトまたはパーライト3とを有する。部材表面7に直接隣接する最外層4において組織は専ら、場合によっては残留オーステナイト成分を有するマルテンサイト2からなる。この最外層に続く他の層5はマルテンサイト2とフェライトまたはパーライト3とからなる混合物である。層5に続く柔らかいコア6は専らフェライトまたはパーライト3からなる。
【0018】
図1の中央部の図には上記ジョイント部材の表面から出発して深さ方向の炭素含有量の概略が示されている。明らかに分かるように、炭素含有量は鋼の総量に対して、図示ジョイント部材の表面7に直接隣接する約1.1重量%の値から、最外層4および他の層5を経てコア6にかけて漸次減少しており、コア6内で炭素含有量は一定している。
【0019】
最後に図1の下部の図には上記ジョイント部材の表面から出発して深さ方向の硬さHの概略が示されており、硬さはロックウェル硬さまたはビッカース硬さに相当する。硬さ曲線はS字状と呼ぶことができ、硬さは部材表面7からコア6の方向に向かって最外層4の領域では減少しておらず、ほぼ同じである。中間層5の領域では硬さが比較的急激に減少し、製造された成形部材のコア領域6では再び均一な値を占める。
【0020】
具体的には、炭素含有量約0.5重量%の構造用鋼CF53からなる熱間鍛造等速ジョイントの内側部品が第1ステップにおいて深さ約0.25mmまでの最外層4中で浸炭された。浸炭は約930℃の温度において3〜4時間かけてCO/CH4雰囲気中で実行された。その後、最外層4の炭素含有量は約1.1重量%であった。
【0021】
浸炭された成形部材は第2ステップにおいて周波数8kHz、出力260KW、加熱時間約2.5〜3秒、部材と誘導子との間の距離約1.5mmにおいて高周波焼入れされた。引き続き、このように高周波焼入れされた部材は、ドイツ・ヒルデスハイムのペトローファー化学社(Firma Petrofer Chemie HR Fischer GmbH & Co. KG)から「アクアテンシド(Aquatensid LBF)」の名称で販売される高分子の約12%高分子溶液中で約28℃の温度において約5〜6秒焼入れされた。引き続き、部材はなお1.5時間、約185℃まで焼戻された。このように高周波焼入れされた成形部材はいまや付加的に、等速ジョイント内側部品の表面7から測定して約0.9mmの深さまで中間層5を有していた。
【0022】
それに加えて、このように製造された等速ジョイントの内側部品は最外層4中に残留オーステナイト成分を有し、本発明により製造された等速ジョイントの内側部品は自己補充特性を有していた。
【0023】
本発明で提供される方法によって比較的安価な構造用鋼が高強度表面特性を備え、これにより、このように製造されるジョイント部材は著しく改良された耐摩耗性、従って長い寿命を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る方法によって製造されたジョイント部材の表面層の概略構造と炭素成分曲線および硬さ曲線とを示す。
【符号の説明】
【0025】
1 表面層
2 マルテンサイト
3 フェライトまたはパーライト
4 最外層
5 中間層
6 コア
7 部材表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジョイント部材を製造するための方法であって、
第1ステップでは、鋼の総量に対して約0.4〜約0.6重量%の範囲内の炭素成分を有する鋼から製造されるジョイント部材が、少なくとも部分的に、成形部材の表面から最大0.5mmの深さまでにおいて、鋼の総量に対して1.3重量%までの炭素成分まで浸炭され、
第2ステップでは、浸炭されたジョイント部材が、第1ステップでの浸炭によって得られる深さよりも大きな深さまで焼入れされる方法。
【請求項2】
第2ステップにおける焼入れが誘導式にて行われることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1ステップで利用される鋼が実質的にスズ、ヒ素および/またはアンチモンを含まないことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
第1ステップにおける浸炭が約800〜約1000℃の範囲内の温度で行われることを特徴とする先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
第1ステップにおける浸炭が約2〜6時間にわたって行われることを特徴とする先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
第2ステップにおける高周波焼入れが約8〜約15kHzの範囲内の周波数で実行されることを特徴とする先行請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
第2ステップにおける焼入れが異なる温度における2つの部分に分かれており、第1部分における温度が少なくとも750℃で行われ、後続の第2部分における温度が最大で300℃で行われることを特徴とする先行請求項のいずれか1項記載の方法。






















【図1】
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【公表番号】特表2007−510057(P2007−510057A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534618(P2006−534618)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010294
【国際公開番号】WO2006/029641
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(506008641)ジーケイエヌ ドライブライン インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【Fターム(参考)】