説明

耐熱性パッキング部材及び延焼防止工法

【課題】防火区画の貫通部における延焼防止工法において、貫通部に対する防火措置を安価かつ容易に実施でき、しかも所要の防火性能を確保できる延焼防止工法を提供する。
【解決手段】不燃材料からなる可撓性及び圧縮性を有する第1層12と、第1層12に積層され、熱膨張性材料からなる可撓性を有する第2層14とを備える耐熱性パッキング部材10を用意する。防火区画の貫通部26を通して敷設される貫通体22に、貫通部26の外側で、耐熱性パッキング部材10を、第2層14を貫通体22の外面22aに対向させて巻き付ける。貫通体22に巻き付けた耐熱性パッキング部材10を、第2層14が貫通体22の外面22aに対向したままの状態で、第1層12を圧縮しながら貫通部26の内側に押し込んで、貫通部26と貫通体22との間に、第1層12が少なくとも部分的に圧縮された状態の耐熱性パッキング部材10を固定的に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火区画の貫通部の防火措置に使用可能な耐熱性パッキング部材に関する。本発明はまた、防火区画の貫通部における延焼防止工法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の防火区画を画定する耐火構造の壁、床等に、給排水管、ガス管、空調管、配電管等の配管や電力ケーブル、通信ケーブル等の配線(これら配管、配線類を、本願では貫通体と総称する)を敷設するための貫通部を形成する場合には、1つの防火区画での火災発生時に貫通部を通して他の防火区画への延焼が生じることを防止する延焼防止システムを構築することが要求されている。
【0003】
例えば特許文献1は、「建築物等の防火区画を画成する仕切り部に形成された貫通孔をケーブルや配管等の貫通物が貫通する構造であって、前記貫通孔の内周面と前記貫通物の外周面との間に、熱膨張性耐火材料と発泡体とが積層された耐火積層体が巻回挿着されていることを特徴とする防火区画貫通部構造」を開示する。耐火積層体の構造として、「熱膨張性耐火材料からなるシート体2aの表面側にアルミニウム箔離型紙を積層し、裏面側に発泡体として樹脂発泡体であるウレタンフォーム2bを積層して構成されている。」と記載されている。「軽量気泡コンクリート板(ALC板)またはモルタルで形成された防火壁」であるいわゆる中実の「仕切り壁10」への施工方法として、「貫通孔11の近傍で、ケーブル1の外周にテープ状成形体2を巻回する。すなわち、ケーブル1の外周にウレタンフォーム2bが内側となるようにして、凸部に当接するウレタンフォームが潰れるように複数回巻回し、ケーブル1との間やテープ状成形体同士の重なり部分に空間ができないようにして巻回された耐火積層体3を形成する。」、「巻回された耐火積層体3を、僅かに縮径してケーブル1に沿って移動させ、貫通孔11の内周面と巻回された耐火積層体3の外周面とを対向させると、ウレタンフォーム2bの復元力により巻回された耐火積層体3は膨らみ、貫通孔11の内周面に密着して挿着される。」と記載されている。また、「鋼製スタッド21の両側に、それぞれ2枚の石膏ボード22を固定したものであり、合計4枚の石膏ボード22の中間には空洞部23が形成され」てなる、いわゆる中空の「仕切り壁20」への施工方法として、「仕切り壁20の空洞部23を埋めるための不燃材料から形成された筒状体としてロックウール保温筒5が貫通孔25の内周に密着するように挿着されている。」、「ロックウール保温筒5の内部に巻回された耐火積層体3Aの外周面が圧接して密着するような外径になるまでテープ状成形体6を巻回する。」、「巻回された耐火積層体3Aを僅かにつぼめてケーブル1に沿って移動させ、貫通孔25の内周面に挿着されているロックウール保温筒5内に配置し、ロックウール保温筒の内周面と巻回された耐火積層体3Aの外周面とを対向させると、ポリエチレンフォーム6bの復元力により巻回された耐火積層体3Aは膨らみ、ロックウール保温筒5の内周面に圧接して密着し、ロックウール保温筒5内に巻回された耐火積層体3Aが挿着される。」と記載されている。
【0004】
特許文献2には、特許文献1と同様の「前記貫通孔の内周面と前記貫通物の外周面との間に、熱膨張性耐火材料と発泡体とが積層された耐火積層体が巻回挿着されていることを特徴とする防火区画貫通部構造」であって、「押出成形セメント板で形成された防火壁であり、・・・図の例では上下方向に断面形状が矩形の空洞の中空部10aが並設され」てなる、いわゆる準中空の「仕切り壁10」に適用した構成が記載されている。実施形態の構成として、「図2は貫通物であるパイプ1に巻回される耐火積層体としてのテープ状成形体2を示しており、熱膨張性耐火材料からなるシート体2aの表面側にアルミガラスクロス2cを積層し、裏面側に発泡体として樹脂発泡体であるウレタンフォーム2bを積層して構成されている。テープ状成形体2は貫通孔11に対応してパイプ1の外周に巻回され、貫通孔11と略同じ直径の円柱状に巻回された耐火積層体3が形成され、貫通孔11とパイプ1との間に挿着され隙間を塞いでいる。・・・テープ状成形体2のシート体2aの表面にアルミガラスクロス2cを積層すると、シート体2aが熱膨張し耐火断熱層が形成されたとき、この耐火断熱層の一方の面を支持できて強度を向上させることができる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−351305号公報(請求項1、0018、0028、0029、0033、0035、0036、図3、図5)
【特許文献2】特開2007−154566号公報(請求項1、0026、0028、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱膨張性耐火材料と発泡体とを積層した耐火積層体が、貫通孔の内周面と貫通物の外周面との間に巻回挿着されている従来の防火区画貫通部構造(特許文献1)では、耐火構造体の発泡体がウレタンフォームのような可燃材から形成されているから、火災発生時の発泡体の焼失を考慮して貫通部構造を構築する必要がある。特に、石膏ボード等の耐火性壁材の間に空洞部が形成される中空壁に適用する際には、空洞部を埋めるための不燃材料から形成された筒状体(ロックウール保温筒)を別に用意して貫通孔に設置するようにしているので、コストが上昇する傾向がある。
【0007】
また、同様の耐火積層体を、並設された複数の中空部を有する準中空壁に適用する構成(特許文献2)においても、火災により発泡体が焼失した後の耐火断熱層の強度を向上させるべく、熱膨張性シート体の、発泡体とは反対側の表面に、予めアルミガラスクロスを積層するようにしているので、コストが上昇する傾向がある。しかもアルミガラスクロスの存在により、柔軟性が減少するため施工作業性が悪化したり、或いはアルミガラスクロスが高熱で溶融するため熱膨張性シート体の膨張による貫通孔封止作用が妨げられたりすることが懸念される。
【0008】
本発明の目的は、防火区画の貫通部の防火措置に使用可能な耐熱性パッキング部材であって、それ自体安価に作製でき、しかも貫通部に対して容易に施工できるとともに高水準の防火性能を発揮できる耐熱性パッキング部材を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、防火区画の貫通部における延焼防止工法において、貫通部に対する防火措置を安価かつ容易に実施でき、しかも所要の防火性能を確保できる延焼防止工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、不燃材料からなる可撓性及び圧縮性を有する第1層と、第1層に積層され、熱膨張性材料からなる可撓性を有する第2層とを備えることを特徴とする耐熱性パッキング部材を提供する。
【0011】
本発明の他の態様は、防火区画の貫通部における延焼防止工法において、不燃材料からなる可撓性及び圧縮性を有する第1層と、第1層に積層され、熱膨張性材料からなる可撓性を有する第2層とを備える耐熱性パッキング部材を用意する工程と、防火区画の貫通部を通して敷設される貫通体に、貫通部の外側で、耐熱性パッキング部材を、第2層を貫通体の外面に対向させて巻き付ける工程と、貫通体に巻き付けた耐熱性パッキング部材を、第2層が貫通体の外面に対向したままの状態で、第1層を圧縮しながら貫通部の内側に押し込んで、貫通部と貫通体との間に、第1層が少なくとも部分的に圧縮された状態の耐熱性パッキング部材を固定的に配置する工程と、を有することを特徴とする延焼防止工法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る耐熱性パッキング部材は、熱膨張性材料からなる第2層を担持する第1層が、不燃材料から形成されているから、火災等の熱による第1層の体積減少率が極めて小さい。したがって、耐熱性パッキング部材を防火区画の貫通部の防火措置に使用する際に、火災発生時の第1層の焼失を考慮する必要が殆ど無いので、熱膨張した第2層を第1層により貫通部に安定して保持でき、また石膏ボード等の耐火性壁材の間に空洞部が形成される中空壁に適用する場合であっても、空洞部を埋めるための不燃材料を別部材として用いたり熱膨張性材料からなる第2層の使用量を増加したりすることなく、高水準の防火性能を発揮することができる。さらに、不燃性の第1層自体が可撓性及び圧縮性を有する構成であるから、第2層の膨張による貫通部封止作用を第1層が妨げることを確実に防止でき、また耐熱性パッキング部材を防火区画の貫通部に極めて容易に設置することができる。このように、本発明に係る耐熱性パッキング部材は、それ自体安価に作製でき、かつ防火区画貫通部に対して容易に施工できるとともに高水準の防火性能を発揮できる。
【0013】
本発明に係る延焼防止工法は、耐熱性パッキング部材を貫通体に巻き付けた後に、耐熱性パッキング部材を、貫通体に巻き付けたままの状態で、第1層を圧縮しながら貫通部の内側に押し込むだけの極めて簡易な作業で、耐熱性パッキング部材を貫通部に確実に固定して設置できる。また、不燃材料からなる可撓性及び圧縮性を有する第1層を備えた耐熱性パッキング部材を用いたことで、火災発生時の第1層の焼失を考慮する必要が実質的に無くなるから、熱膨張した第2層を第1層により貫通部に安定して保持でき、また石膏ボード等の耐火性壁材の間に空洞部が形成される中空壁に適用する場合であっても、空洞部を埋めるための不燃材料を別部材として用いたり熱膨張性材料からなる第2層の使用量を増加したりすることなく所要の防火性能を確保でき、しかも第2層の膨張による貫通部封止作用を第1層が妨げることを確実に防止できるとともに、耐熱性パッキング部材を貫通部に極めて容易に設置することができる。このように、本発明に係る延焼防止工法は、貫通部に対する防火措置を安価かつ容易に実施でき、かつ所要の防火性能を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態による耐熱性パッキング部材の斜視図である。
【図2】(a)図1の耐熱性パッキング部材の断面図、及び(b)変形例による耐熱性パッキング部材の断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態による延焼防止工法を説明する図で、耐熱性パッキング部材、貫通体及び貫通部を概略で示す斜視図である。
【図4】図3の延焼防止工法に従って耐熱性パッキング部材を設置した防火区画の貫通部を示す断面図である。
【図5】図4の貫通部を示す正面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態による延焼防止工法に従って耐熱性パッキング部材を設置した防火区画の貫通部を示す断面図である。
【図7】防火区画の貫通部の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0016】
図1及び図2は、本発明の一実施形態による耐熱性パッキング部材10を示す。耐熱性パッキング部材10は、後述するように、建築物の防火区画に設けられる貫通部の防火措置に好適に使用できる。
【0017】
図1に示すように、耐熱性パッキング部材10は、不燃材料からなる可撓性及び圧縮性を有する第1層12と、第1層12に積層され、熱膨張性材料からなる可撓性を有する第2層14とを備える。好適な実施形態では、第1層12は、無機短繊維群16を無機長繊維群18で支持してなる複合素材層として構成され、また第2層14は、複合素材層である第1層12の表面12aに塗布された流動性素材の硬化層か、或いは予めシート状に成形されて第1層の表面に接着された成形層として構成される(図2(a))。また、図示の耐熱性パッキング部材10は、第1層12及び第2層14のみを有する二層構造体からなるものであるが、耐熱性パッキング部材10の変形例として、第1層12の表面12a及び裏面12bの双方に、第2層14を形成することもできる(図2(b))。
【0018】
第1層(複合素材層)12を構成する無機短繊維群16は、例えば、ロックウール、グラスウール、その他のミネラルウール等の不燃性物質からなり、第1層12において例えば30〜100kg/m、好ましくは50〜80kg/mの密度を有する。また、第1層(複合素材層)12を構成する無機長繊維群18は、例えば、グラスファイバー、カーボンファイバー、メタルファイバー等の不燃性物質からなり、第1層12において無機短繊維群16の多数の短繊維を軽度に相互結合する結合材として機能する。第1層12は、綿状の無機短繊維群16を無機長繊維群18が支持及び結合することにより、常態で粗い不織布状の形態を有するとともに、自在に撓曲できる可撓性及び適度に圧縮(つまり密度増加)できる圧縮性を有するものとなっている。さらに第1層12は、所望の大きさの切片に、工具を使用せずに手で容易に分断することができる。
【0019】
第2層(硬化層)14は、例えば、ポリ塩化ビニル、変性シリコーン系ポリマー、クロロプレンゴム系ポリマー等の難燃性ポリマーに、膨張黒鉛、含水ケイ酸ナトリウム、バーミキュライト等の熱膨張性基材を分散させた、初期状態でペースト状ないし糊状の硬化性物質から形成できる。第2層14は、このような流動性素材を、第1層12の表面12a(及び所望により裏面12b)に手作業により所望厚みに塗布した後、乾燥等により硬化させることで形成できる。第2層14は、加熱による膨張開始時の温度が例えば120℃の場合、180℃まで温度が上昇した時点で少なくとも2倍の体積膨張率を呈するような、所期の熱膨張性を有する。
【0020】
なお、常態での耐熱性パッキング部材10の形状及び寸法は、常態での第1層12の形状及び寸法によって実質的に定められる。つまり、第2層14は、第1層12上に形成される皮膜であって、常態での耐熱性パッキング部材10の形状及び寸法に、その膜厚を除いて実質的に影響を及ぼさないものである。また第2層14は、第1層12の多様な撓曲や圧縮に対して例えば軽度の弾性を示しながら追従する可撓性を有することができる。火災等の高温環境では、不燃性の第1層12が熱により僅かな体積減少を生じる場合があるが、熱膨張性の第2層14は、第1層12の僅かな体積減少を遥かに凌ぐ多大な体積増加を生じ得る。
【0021】
第1層12の上記した複合素材層に好適に用いることができる製品として、例えば、住友スリーエム株式会社(東京都世田谷区)から市販されている「PM4」を挙げることができる。「PM4」は、ミネラルウールとグラスファイバーとを含有する延焼防止用パッキング材である。また、第2層14の上記した流動性素材に好適に用いることができる製品として、例えば、住友スリーエム株式会社(東京都世田谷区)から市販されている「3000WT」を挙げることができる。「3000WT」は、一液性湿気硬化型の延焼防止用水密性熱膨張シーリング材である。
【0022】
上記構成を有する耐熱性パッキング部材10は、熱膨張性材料からなる第2層14を担持する第1層12が、不燃材料から形成されているから、火災等の高温環境下での第1層12の熱による体積減少率が極めて小さいものである。したがって、耐熱性パッキング部材10を防火区画の貫通部の防火措置に使用する際に、例えば既述の特許文献1に記載される熱膨張性耐火材料と発泡体とを積層した耐火積層体に対比して、火災発生時の第1層12の焼失を考慮する必要が殆ど無いので、熱膨張した第2層14を第1層12により貫通部に安定して保持でき、また石膏ボード等の耐火性壁材の間に空洞部が形成される中空壁に適用する場合であっても、空洞部を埋めるための不燃材料を別部材として用いたり熱膨張性材料からなる第2層14の使用量を増加したりすることなく、高水準の防火性能を発揮することができる。
【0023】
また、耐熱性パッキング部材10は、第1層12の表面12aに第2層14を塗布や接着により積層しただけの単純構造を有するから、比較的安価に作製できる。さらに、不燃性の第1層12自体が自在な可撓性及び適度な圧縮性を有する構成であるから、耐熱性パッキング部材10を防火区画の貫通部の防火措置に使用する際に、例えば既述の特許文献2に記載されるアルミガラスクロス付きの構成に対比して、第2層14の膨張による貫通部封止作用を第1層12が妨げることを確実に防止でき、また耐熱性パッキング部材10を貫通部に極めて容易に設置することができる。なお、耐熱性パッキング部材10を用いた防火区画貫通部の延焼防止工法については後述する。このように、耐熱性パッキング部材10は、それ自体安価に作製でき、しかも防火区画貫通部に対して容易に施工できるとともに高水準の防火性能を発揮できるものである。
【0024】
次に、図3〜図5を参照して、耐熱性パッキング部材10を用いた本発明の第1の実施形態による延焼防止工法を説明する。
図示実施形態では、前提として、建築物の防火区画を画定する壁や床等の耐火構造物20に、給排水管、ガス管、空調管、配電管等の配管や電力ケーブル、通信ケーブル等の配線からなる貫通体22を敷設するための円筒状の貫通穴24が、貫通部26として形成されている。耐火構造物20は、石膏ボード等からなる一組の耐火性壁材20Aの間に広範囲に広がる空洞部20Bが形成されてなる、いわゆる中空壁の構成を有し、それら壁材20Aの対応位置にそれぞれ貫通穴24が形成されている。そして図では、外径寸法の異なる3本の貫通体22が、貫通部26(一対の貫通穴24)を通して敷設されている。なお、本発明に係る延焼防止工法は、耐火構造物20の(図4で左右)いずれか一方の側にのみ防火区画が画定される場合と、耐火構造物20の両側に防火区画が画定される場合との、いずれにも適用できる。
【0025】
図示の延焼防止工法において、耐熱性パッキング部材10は、予め所定の寸法(厚み、幅、長さ)を有する帯状体として用意される。帯状の耐熱性パッキング部材10は、例えばコンパクトなロール状にまとめた形態で提供できる。上述のように貫通体22を敷設した防火区画の貫通部26に対し、作業者は、貫通部26(貫通穴24)の外側の所望位置で、耐熱性パッキング部材10を、その第2層14を各貫通体22の外面22aに対向させた状態で、3本の貫通体22をまとめて囲繞するようにそれら貫通体22に巻き付ける。このとき、3本の貫通体22の外面22aと貫通穴24の内面24aとの間の予め設定された空間の寸法を考慮して、貫通穴24を充填した耐熱性パッキング部材10の一部分が適当な圧縮状態となるように、耐熱性パッキング部材10の巻き付け長さを決定する。また、そのような空間寸法を考慮して、耐熱性パッキング部材10の厚みを予め適当な寸法に設定することもできる。耐熱性パッキング部材10を用いた施工作業性や、耐熱性パッキング部材10の第2層14の使用量及び熱膨張率を勘案すれば、耐熱性パッキング部材10が貫通部26から容易には脱落しない程度(特に耐火構造物20が床である場合に自重により脱落しない程度)に第1層12が適度に圧縮されることを前提として、二巻き以上の耐熱性パッキング部材10を貫通体22に巻き付ける寸法関係を、耐熱性パッキング部材10、貫通体22及び貫通部26が有していることが望ましい。
【0026】
なお、耐熱性パッキング部材10は、図示のように複数巻きの長さを連続して貫通体22に巻き付けても良いし、最初に一巻きの耐熱性パッキング部材10を貫通体22に巻き付けた上に、一巻き以上の耐熱性パッキング部材10を連続して、又は一巻きずつ個別に巻き付けるようにしても良い。後者の手法では、最も内側の一巻きの耐熱性パッキング部材10が、その第2層14を各貫通体22の外面22aに対向させていることを条件に、その上の一巻き以上の耐熱性パッキング部材10は、第2層14を内側及び外側のいずれに向けていても良い。
【0027】
次に、3本の貫通体22に巻き付けた耐熱性パッキング部材10を、少なくとも最内側の一巻きの耐熱性パッキング部材10の第2層14が各貫通体22の外面22aに対向したままの状態で、各貫通体22の外面22a上で長手方向へ滑らせて、第1層12を圧縮しながら貫通部26(一対の貫通穴24)の内側に押し込む。そして、貫通部26(一対の貫通穴24)と各貫通体22との間に、第1層12が少なくとも部分的に圧縮された状態の耐熱性パッキング部材10を固定的に配置する(図4)。これにより耐熱性パッキング部材10は、その軸線方向両端部分10aで、各貫通体22と個々の貫通穴24との間の空間を実質的に充填し、圧縮された第1層12の復元力により、貫通体22の外面22aと貫通穴24の内面24aとに適度な圧力で押し付けられて、貫通部26から脱落しない状態に両貫通穴24に固定されて保持される。
【0028】
貫通部26が壁や床等の耐火構造物(中空壁)20に形成された一対の貫通穴24からなる図示構成では、個々の貫通穴24に軸線方向両端部分10aが押し込まれた耐熱性パッキング部材10は、図示のように、貫通部26の全長(つまり両貫通穴24の外側開口24bに至る長さ)に渡って存在することが望ましい。この場合、帯状の耐熱性パッキング部材10を、予め設定されている耐火構造物20の厚み(例えば100mm程度)と同等の幅寸法を有するように形成することで、1回の押し込み作業により耐熱性パッキング部材10を貫通部26の実質的全長に渡って配置することができる。
【0029】
上記手順により貫通部26に設置された耐熱性パッキング部材10は、防火区画における火災発生時に、不燃材からなる第1層12が焼失することなく、熱膨張性材料からなる第2層14が2〜20倍の体積増加を生じる。それにより、各貫通体22の外面22aと個々の貫通穴24の内面24aとの間の空間が、第1層12及び膨張後の第2層14により隙間無く充填されるとともに、耐火構造物(中空壁)20の空洞部20Bを含む貫通部26の全長に渡って、熱膨張した第2層14が第1層12により安定して保持され、以て、貫通部26を通した延焼が耐熱性パッキング部材10により確実に防止される。なお、必要に応じて、第1層12の両面12a、12bに第2層14を積層した耐熱性パッキング部材10(図2(b))を使用することもできる。
【0030】
上記した延焼防止工法によれば、耐熱性パッキング部材10を貫通体22に巻き付けた後に、耐熱性パッキング部材10を、貫通体22に巻き付けたままの状態で、第1層12を圧縮しながら貫通部26(一対の貫通穴24)の内側に押し込むだけの極めて簡易な作業で、耐熱性パッキング部材10を貫通部26に確実に固定して設置できる。また、不燃材料からなる可撓性及び圧縮性を有する第1層12を備えた耐熱性パッキング部材10を用いたことで、火災発生時の第1層12の焼失を考慮する必要が実質的に無くなるから、熱膨張した第2層14を第1層12により貫通部26に安定して保持でき、また中空壁からなる耐火構造物20に対しても、空洞部20Bを埋めるための不燃材料を別部材として用いたり熱膨張性材料からなる第2層14の使用量を増加したりすることなく、所要の防火性能を確保できる。
【0031】
また、耐熱性パッキング部材10を貫通穴24の中に押し込む際に、無機短繊維群16と無機長繊維群18とを含有する複合素材層である第1層12は、貫通穴24の内面24aに対する動摩擦力が比較的小さいから、貫通体22に巻き付けた状態を崩すことなく、耐熱性パッキング部材10を貫通穴24に容易かつ迅速に押し込むことができる。さらに、耐熱性パッキング部材10の不燃性の第1層12自体が可撓性及び圧縮性を有する構成であるから、第2層14の膨張による貫通部封止作用を第1層12が妨げることを確実に防止できる。このように、図示実施形態による延焼防止工法は、貫通部26に対する防火措置を安価かつ容易に実施でき、しかも所要の防火性能を安定的に確保できるものである。
【0032】
次に図6を参照して、本発明の第2の実施形態による延焼防止工法を説明する。この工法では、前提として、建築物の防火区画を画定する壁や床等の耐火構造物(中空壁)20に設けられる貫通部26が、耐火構造物20の壁材20Aに形成される一対の貫通穴24と、それら貫通穴24の外側開口24bから外方へ突出する長さを有して両貫通穴24に固定される円筒状の耐火性スリーブ30とを備えて構成される。図示実施形態では、スリーブ30は、耐火構造物20の両側に同一長さだけ突出している。第2実施形態による延焼防止工法は、貫通部26にスリーブ30を設置している点以外は、前述した第1実施形態による延焼防止工法と実質的に同一であるから、対応する構成要素には共通の参照符号を付してその説明を省略する。
【0033】
第2実施形態による延焼防止工法では、第1実施形態に関して説明した、貫通体22と貫通部26(一対の貫通穴24)との間に耐熱性パッキング部材10を固定的に配置する工程において、耐熱性パッキング部材10を貫通穴24に直接に押し込む代わりに、スリーブ30の内面30aと各貫通体22の外面22aとの間の空間に、第1層12を圧縮しながら耐熱性パッキング部材10を押し込むようにする。このとき、第1実施形態と同様に、3本の貫通体22に巻き付けた耐熱性パッキング部材10を、少なくとも最内側の一巻きの耐熱性パッキング部材10の第2層14が各貫通体22の外面22aに対向したままの状態で、各貫通体22の外面22a上で長手方向へ滑らせて、スリーブ30内に押し込む。そして、貫通部26(スリーブ30)の内側における各貫通体22の周囲の空間を、圧縮状態の耐熱性パッキング部材10で充填する。この状態で耐熱性パッキング部材10は、圧縮された第1層12の復元力により、貫通体22の外面22aとスリーブ30の内面30aとに適度な圧力で押し付けられて、貫通部26から脱落しない状態に固定されて保持される。
【0034】
貫通部26にスリーブ30を設置した第2実施形態の構成では、図示のように、一対の耐熱性パッキング部材10を、スリーブ30の長手方向両端の所定長さ領域のそれぞれに配置することができる。耐火構造物20の両側で施工作業を実施可能な場合には、スリーブ30の全長の半分よりも短い所定の幅寸法をそれぞれに有する一対の帯状の耐熱性パッキング部材10を、耐火構造物20の両側で貫通体22に巻き付けて、それら巻付け形態の一対の耐熱性パッキング部材10を、スリーブ30の両方の開口端30bからスリーブ30内に押し込むことで、両開口端30bに隣接するスリーブ30の長手方向両端領域にそれぞれ固定することができる。この構成によれば、第1実施形態による延焼防止工法と同様に、耐火構造物20の両側の防火区画に対する所要の延焼防止機能(遮炎性能)を安定的に確保できる。
【0035】
或いは、図示しないが、1つの耐熱性パッキング部材10を、スリーブ30の長手方向中央の所定長さ領域に配置することもできる。この構成によれば、火災発生時にスリーブ30の内部に侵入する高温ガスによる貫通体22の熱損傷が、耐熱性パッキング部材10の両側で均等になるので、やはり、耐火構造物20の両側の防火区画に対する所要の延焼防止機能(遮炎性能)を安定的に確保できる。この場合、耐熱性パッキング部材10をスリーブ30のいずれか一方の開口端30bから、スリーブ30内の各貫通体22の周囲空間に押し込んで、スリーブ30の長手方向中央に配置すればよい。
【0036】
上記手順により貫通部26に設置された耐熱性パッキング部材10は、防火区画における火災発生時に、不燃材からなる第1層12が焼失することなく、熱膨張性材料からなる第2層14が2〜20倍の体積増加を生じる。それにより、各貫通体22の外面22aとスリーブ30の内面30aとの間の空間が、第1層12及び膨張後の第2層14により隙間無く充填されるとともに、スリーブ30の所定長さ領域において、熱膨張した第2層14が第1層12により安定して保持され、以て、貫通部26を通した延焼が耐熱性パッキング部材10により確実に防止される。
【0037】
上記第2実施形態による延焼防止工法によっても、第1実施形態による延焼防止工法と同等の効果が奏される。特に、耐熱性パッキング部材10をスリーブ30の中に押し込む際に、無機短繊維群16と無機長繊維群18とを含有する複合素材層である第1層12は、スリーブ30の内面30aに対する動摩擦力が比較的小さいから、貫通体22に巻き付けた状態を崩すことなく、耐熱性パッキング部材10をスリーブ30の所定長さ領域に容易に押し込むことができる。このように、第2実施形態による延焼防止工法も、貫通部26に対する防火措置を安価かつ容易に実施でき、しかも所要の防火性能を安定的に確保できるものである。
【0038】
第1及び第2実施形態による延焼防止工法は、耐火構造物20に設けられる貫通部26が、いずれも円筒状の貫通穴24及びスリーブ30を有する構成を前提としているが、本発明はこれに限定されず、例えば図7に示すような、角筒状の貫通穴24(及び図示しないスリーブ30)を有する貫通部26に対しても適用できる。また、本発明に係る延焼防止工法は、中空壁からなる耐火構造物20だけでなく、中実壁や準中空壁からなる耐火構造物にも適用できる。
【実施例1】
【0039】
幅100mm、厚み10mmの帯状の「PM4」からなる第1層12の表面12aに、「3000WT」を塗布して硬化させることで厚み1mmの第2層14を積層形成し、耐熱性パッキング部材10を作製した(図2(a))。他方、それぞれが厚み12.5mmの石膏ボード(「タイガーボード」、吉野石膏株式会社、東京都)を2枚重ねて形成される一対の壁材20Aを、両者間に空洞部20Bが形成されるように離間平行配置で互いに固定してなる、全体厚み100mmの耐火構造物(中空壁)20を用意し、それら壁材20Aの対応位置に直径160mmの貫通穴24をそれぞれ形成して貫通部26とし、この貫通部26に、3本の単芯ケーブルを撚り合わせたCVTケーブル(公称断面積325mm)からなる貫通体22を挿通、敷設した。この貫通部26に対し、前述した第1実施形態による延焼防止工法に従い、長さ1700mmの帯状の耐熱性パッキング部材10を、その第2層14を貫通体22の外面22aに対向させた状態で貫通体22に巻き付けた後、巻付け形態の耐熱性パッキング部材10を、貫通体22の外面22a上で長手方向へ滑らせて、第1層12を圧縮しながら貫通部26(一対の貫通穴24)の内側に押し込んで固定的に配置した(図4)。このようにして構成された延焼防止システムに対し、耐火構造物20の一方の区画を加熱側として、ISO834に準拠する1時間の耐火性能試験を行ったところ、貫通部26を通した非加熱側区画への火炎の噴出は確認されなかった。
【実施例2】
【0040】
実施例1で用意した耐火構造物(中空壁)20の一対の貫通穴24に、長さ200mm、内径104mmの鋼製のスリーブ30を、耐火構造物20の両側から50mmずつ突出するように設置して貫通部26とし、この貫通部26に、3本の単芯ケーブルを撚り合わせたCVTケーブル(公称断面積250mm)からなる貫通体22を挿通、敷設した。この貫通部26に対し、前述した第2実施形態による延焼防止工法に従い、実施例1で用いた耐熱性パッキング部材10を幅50mmに切断してなる長さ700mmの一対の帯状の耐熱性パッキング部材10を、耐火構造物20の両側で、その第2層14を貫通体22の外面22aに対向させた状態で貫通体22に巻き付けた後、巻付け形態の個々の耐熱性パッキング部材10を、貫通体22の外面22a上で長手方向へ滑らせて、スリーブ30の両開口端30bからスリーブ30の長手方向両端領域に押し込んで固定的に配置した(図6)。このようにして構成された延焼防止システムに対し、耐火構造物20の一方の区画を加熱側として、ISO834に準拠する1時間の耐火試験を行ったところ、貫通部26を通した非加熱側区画への火炎の噴出は確認されなかった。
【符号の説明】
【0041】
10 耐熱性パッキング部材
12 第1層
14 第2層
16 無機短繊維群
18 無機長繊維群
20 耐火構造物
22 貫通体
24 貫通穴
26 貫通部
30 スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不燃材料からなる可撓性及び圧縮性を有する第1層と、該第1層に積層され、熱膨張性材料からなる可撓性を有する第2層とを備えることを特徴とする耐熱性パッキング部材。
【請求項2】
前記第1層が、無機短繊維群を無機長繊維群で支持してなる複合素材層である、請求項1に記載の耐熱性パッキング部材。
【請求項3】
前記第2層が、前記第1層の表面に塗布された流動性素材の硬化層か、或いは予めシート状に成形されて前記第1層の表面に接着された成形層である、請求項1又は2に記載の耐熱性パッキング部材。
【請求項4】
前記第1層及び前記第2層のみを有する二層構造体からなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐熱性パッキング部材。
【請求項5】
防火区画の貫通部における延焼防止工法において、
不燃材料からなる可撓性及び圧縮性を有する第1層と、該第1層に積層され、熱膨張性材料からなる可撓性を有する第2層とを備える耐熱性パッキング部材を用意する工程と、
防火区画の貫通部を通して敷設される貫通体に、該貫通部の外側で、前記耐熱性パッキング部材を、前記第2層を該貫通体の外面に対向させて巻き付ける工程と、
前記貫通体に巻き付けた前記耐熱性パッキング部材を、前記第2層が前記貫通体の前記外面に対向したままの状態で、前記第1層を圧縮しながら前記貫通部の内側に押し込んで、前記貫通部と前記貫通体との間に、前記第1層が少なくとも部分的に圧縮された状態の前記耐熱性パッキング部材を固定的に配置する工程と、
を有することを特徴とする延焼防止工法。
【請求項6】
前記耐熱性パッキング部材の前記第1層が、無機短繊維群を無機長繊維群で支持してなる複合素材層である、請求項5に記載の延焼防止工法。
【請求項7】
前記耐熱性パッキング部材の前記第2層が、前記第1層の表面に塗布された流動性素材の硬化層か、或いは予めシート状に成形されて前記第1層の表面に接着された成形層である、請求項5又は6に記載の延焼防止工法。
【請求項8】
前記耐熱性パッキング部材が、前記第1層及び前記第2層のみを有する二層構造体からなる、請求項5〜7のいずれか1項に記載の延焼防止工法。
【請求項9】
前記貫通体に前記耐熱性パッキング部材を巻き付ける前記工程は、前記第2層を前記貫通体の前記外面に対向させて一巻きの前記耐熱性パッキング部材を巻き付ける工程と、該一巻きの前記耐熱性パッキング部材の上に、一巻き以上の前記耐熱性パッキング部材をさらに巻き付ける工程とを含む、請求項5〜8のいずれか1項に記載の延焼防止工法。
【請求項10】
前記貫通部は、前記防火区画の中空壁を構成する一対の壁材に形成された一対の貫通穴を備え、前記貫通部と前記貫通体との間に前記耐熱性パッキング部材を固定的に配置する前記工程は、該一対の貫通穴に、前記貫通体に巻き付けた前記耐熱性パッキング部材の軸線方向両端部分を、圧縮された前記第1層の復元力により固定する工程を含む、請求項5〜9のいずれか1項に記載の延焼防止工法。
【請求項11】
前記貫通部は、前記防火区画の壁又は床に形成される貫通穴と、該貫通穴の両端開口から外方へ突出する長さを有して該貫通穴に固定される耐火性のスリーブとを備え、前記貫通部と前記貫通体との間に前記耐熱性パッキング部材を固定的に配置する前記工程は、該スリーブの長手方向両端領域の内面と前記貫通体の前記外面との間の空間に、前記貫通体に巻き付けた一対の前記耐熱性パッキング部材を、圧縮された前記第1層の復元力によりそれぞれ固定する工程を含む、請求項5〜9のいずれか1項に記載の延焼防止工法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−255792(P2010−255792A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108345(P2009−108345)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】