説明

耐熱性樹脂ベルト及びこれを具備する画像形成装置

【課題】画像形成装置を構成する耐熱性樹脂ベルトに導電性を付与し、静電気の低減化を図り、かつ膜の耐摩耗性を向上させ、膜の剥離を効果的に防止し、定着画像の画質の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】耐熱性樹脂シート10の一端部分の表面側を断面において傾斜形状となるように切削加工された第1の切削加工部11と、他端部分の裏面側を断面において傾斜形状となるように切削加工された第2の切削加工部12とが、各々の傾斜形状部分を重合した状態で接着剤14により接合されており、内周面側に被覆層15が形成されており、前記被覆層15は、ビッカース硬度が3000Hv以上であり、表面抵抗値が105Ω・cm以下であることとした耐熱性樹脂ベルトを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、プリンタ、ファクシミリ、及びこれらの複合機等、各種画像形成装置を構成する無端状の耐熱性樹脂ベルト、及びこれを具備する画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来公知の電子写真装置等の画像形成装置に適用される耐熱性樹脂ベルトとしては、定着ベルト、紙搬送用ベルト、中間転写体ベルト等が知られているが、これらは動作中、高圧力がかかる。特に定着ベルトには、高温と高圧がかかるものであり、高い耐熱性と機械的強度とが要求される。
【0003】
前記のような画像形成装置を構成する耐熱性無端ベルトとしては、ポリイミド樹脂が用いられている。
このような耐熱性無端ベルトの作製方法としては、ポリイミドワニスを金属で構成される円筒体の外周面にキャスト成形した後、加熱してイミド化することによりポリイミド無端ベルトを作製する技術が提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
しかしながら、イミド化に実用面から時間がかかりすぎるため、製造コストが高くなるという問題があった。また、寸法規格が変更される度に新たな金型が必要になり金型タイプがその都度要求され、イニシャルコストがかかるという問題があった。
【0004】
かかる問題に鑑みて、安価なポリイミドシートを利用して無端ベルトを得る技術が提案された(例えば、下記特許文献2参照。)。
この技術においては、非熱可塑性ポリイミドフィルムと熱可塑性ポリイミド樹脂とを貼り合わせ、熱可塑性ポリイミド樹脂を溶融接着させることにより、ポリイミド無端ベルトを得ている。
しかしながら、接合部を溶融接着して膜厚を非接合部の膜厚とほぼ同一にすることは、実際には極めて困難であり、また、硬さを変化させず、かつ表面性を損なうことなく接合することも困難であるので、実機に組み込んで画像形成を行うと、接合部分に対応する箇所にスジ状の画像不良が発生するという問題があった。
【0005】
また、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂シートの両端部に厚さ方向に溝形状の凹凸部を互いに形成し、それらの凹凸部を嵌め合わせて接着することによりポリイミド無端ベルトを作製する技術が提案された(例えば、下記特許文献3参照。)。
しかしながら、画像形成装置の定着ベルトとして機能させるためには、表層に弾性層、離型層を設ける必要があるが、接合部からの気泡混入により、膜質が劣化するという問題があった。
【0006】
また、ベルトの静電気による動作不良を防止するため、低抵抗化を図らなければならないという課題がある。電子写真装置に用いるベルトは、動作時に静電気を発生するため、一般的にポリイミド樹脂内に導電性材料(カーボン)を配合し、抵抗値を低減化している(105〜108Ω・cm)。
しかし、安価なポリイミド樹脂シート材料は絶縁材料であり、抵抗値を制御した導電性樹脂シートは非常に高コストであり、コスト高の原因となっていた。
かかる問題に鑑みて、ポリイミド樹脂シートに導電性被膜を形成する技術についての提案もなされてはいるが、しかしながら、実機に組み込んだときの耐久性について、導電性被膜の削れが発生するという不具合があり、削れた粉が定着画像に影響を及ぼし、点状、線状の画像ムラが発生するという問題を生じた。
【0007】
【特許文献1】特開平7−295396号特公報
【特許文献2】特開平11−291348号公報
【特許文献3】特開平10−698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑み、画像形成装置を構成する耐熱性樹脂ベルトに導電性を付与し、静電気の低減化を図り、かつ膜の耐摩耗性を向上させ、膜の剥離を効果的に防止し、定着画像の画質の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明においては、画像形成装置を構成する無端状の耐熱性樹脂ベルトであって、耐熱性樹脂シートの一端部分の表面側を断面において傾斜形状となるように切削加工された第1の切削加工部と、前記耐熱性樹脂シートの他端部分の裏面側を断面において傾斜形状となるように切削加工された第2の切削加工部とが、各々の傾斜形状部分を重合した状態で接着剤により接合されており、内周面側に被覆層が形成されており、前記被覆層は、ビッカース硬度が3000Hv以上であり、表面抵抗値が105Ω・cm以下であることを特徴とする耐熱性樹脂ベルトを提供する。
【0010】
請求項2の発明においては、前記被覆層が、アモルファスカーボン膜であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性樹脂ベルトを提供する。
【0011】
請求項3の発明においては、前記接着剤が、耐熱性付加重合型シリコーン系接着剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱性樹脂ベルトを提供する。
【0012】
請求項4の発明においては、前記耐熱性樹脂シートが、熱硬化性ポリイミドシートであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルトを提供する。
【0013】
請求項5の発明においては、前記第1の切削加工部と前記第2の切削加工部とを接合した接合部は、プラズマ処理、コロナ放電処理、シリコーン化合物の酸化炎処理、の少なくともいずれか一種よりなる表面処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルトを提供する。
【0014】
請求項6の発明においては、前記接着剤が、スクリーン印刷工法により塗布されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルトを提供する。
【0015】
請求項7の発明においては、前記第1及び第2の切削加工部の先端部分の厚さが18μm以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルトを提供する。
【0016】
請求項8の発明においては、前記耐熱性樹脂シートの外周面側に、シリコーン化合物よりなる弾性層と、フッ素樹脂化合物よりなる離型層とが、順次積層されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルトを提供する。
【0017】
請求項9の発明においては、請求項1乃至8のいずれか一項の耐熱性樹脂ベルトが、中間転写ベルトであることを特徴とする画像形成装置を提供する。
【0018】
請求項10の発明においては、請求項1乃至8のいずれか一項の耐熱性樹脂ベルトが、定着ベルトであることを特徴とする画像形成装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐熱性樹脂シートの一方の先端部分を傾斜形状に切削加工して第1の切削加工部とし、その他端部分を傾斜形状に切削加工して第2の切削加工部とし、これらの切削加工部を重ね合わせて接着剤で接合し、かつ内周面側に被覆層を備えたものとし、かかる被覆層に関して、ビッカース硬度、及び表面抵抗値の具体的な特定を行ったことにより耐久性に優れ、かつ画像形成特性に優れた耐熱性樹脂ベルトが得られた。
【0020】
請求項2の発明によれば、被覆層をアモルファスカーボン膜で形成したことにより、200℃程度の温度ならば、充分な硬度が維持でき、かつ導電性を得ることができる。すなわち、成膜時の温度ストレスを低減化でき、歪、変形が回避でき、寸法精度に優れた低抵抗の耐熱性樹脂ベルトが得られた。
【0021】
請求項3の発明によれば、接着剤として耐熱性付加重合シリコーン系接着剤を適用したことにより、ポリイミド基材等へ優れた接着性を発揮でき、さらには、シート材の柔軟性を維持できた。
また、耐熱性も後工程の300〜350℃の短時間(30分以下)熱処理では、接着剤材料を適宜選定することにより、熱酸化劣化を抑えることが可能であり、接着力低下が少ない、信頼性の高い耐熱性樹脂ベルトを提供できた。
【0022】
請求項4の発明によれば、耐熱性樹脂として熱硬化性ポリイミドを用いたことにより、耐熱性と機械的強度に優れた耐熱性樹脂ベルトを提供することができた。
【0023】
請求項5の発明によれば、接合部からはみ出した接着剤表面に、プラズマ処理、コロナ放電処理、酸化炎処理のうちの、少なくとも一種の表面処理を施したことにより、接着部表面のぬれ性が改善され、塗布性の向上効果が得られた。また、密着力も向上し、膜強度の高い信頼性に優れた耐熱性樹脂ベルトが得られた。
【0024】
請求項6の発明によれば、前記接着剤をスクリーン印刷工法により塗布したので、幅や高さのばらつきを低減化できた。
【0025】
請求項7の発明によれば、前記切削加工部の先端部分を厚さ18μm以上残したことにより、先端部分における欠けを防止できた。
【0026】
請求項8の発明によれば、耐熱性樹脂ベルトの外側表面に、導電性シリコーンからなる弾性層及びフッ素樹脂からなる離型層を順次積層形成したことにより、実用上優れた画像形成装置用の定着ベルトが低コストで得られた。
【0027】
請求項9の発明によれば、本発明の耐熱性樹脂ベルトを中間転写ベルトとして適用したことにより、当該中間転写ベルトにおける耐熱性樹脂シートの両先端部分の切削加工部が重ね合わされて接着された接合部の接着強度が長期に亘って維持でき、画像形成装置の耐久性の向上に寄与することができた。
【0028】
請求項10の発明によれば、本発明の耐熱性樹脂ベルトを定着ベルトとして適用したことにより、当該定着ベルトにおける耐熱性樹脂シートの両先端部分の切削加工部が重ね合わされて接着された接合部の接着強度が長期に亘って維持でき、画像形成装置の耐久性の向上に寄与することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の耐熱性樹脂ベルトについて、以下、具体的に説明する。
本発明の耐熱性樹脂ベルトは、画像形成装置を構成する無端状ベルトであるものとし、具体的には、定着ベルトや中間転写ベルトとして適用されるものである。
図1に、本発明の耐熱性樹脂ベルトを定着ベルトとして具備する画像形成装置の定着装置の部分の概略図を示す。
この定着装置においては、耐熱性樹脂ベルト(定着ベルト)1に、定着ローラ5を装着し、定着ベルト1を挟んで定着ローラ5と加圧ローラ6と圧接し、その間を転写紙8が通紙して転写紙上のトナーを定着させる構成となっている。
また、定着ベルト1の一端側には、加熱ローラ2が装着されており、この加熱ローラ2には中空部に回転中心線に沿ってハロゲンランプ等のヒーター3が配置されており、輻射熱によって加熱ローラ2を内側から加熱し、定着ベルト1へ伝熱するようになされている。
加熱ローラ2には、その表面温度を測定して、ハロゲンランプ3を点灯させるサーミスタ4が接続されており、また、定着ベルト1には、定着ベルト1を回転させた際の撓みを抑制する機能を有するテンションローラ7が装着してある。
【0030】
耐熱性樹脂ベルト(定着ベルト)1は、定着ローラ5、加圧ローラ6、加熱ローラ2と接触しているため摺動時に静電気が発生する。よって静電気の低減化を図るべく、本発明の耐熱性樹脂ベルトは、後述する構成を有している。
【0031】
本発明の耐熱性樹脂ベルトは、所定の耐熱性樹脂シートの一端部分の表面側を断面において傾斜形状となるように切削加工された第1の切削加工部と、前記耐熱性樹脂シートの他端部分の裏面側を断面において傾斜形状となるように切削加工された第2の切削加工部とが、各々の傾斜形状部分を重合した状態で接着剤によって接合された無端状のベルトであり、内周面側に被覆層を具備しており、この被覆層はビッカース硬度が3000Hv以上であり、表面抵抗値が105Ω・cm以下であるものとする。
【0032】
本発明の耐熱性樹脂ベルトの具体的な構成について、その製造方法とともに説明する。
先ず、耐熱性樹脂シートを所定の長さに裁断する。
耐熱性樹脂シートの材料としては、例えば、熱硬化性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン等が挙げられるが、熱硬化性ポリイミドが最も耐熱性と機械的強度の観点から好適である。
【0033】
図2(a)に本発明の耐熱性樹脂ベルトの横断面図を示し、図2(b)に、(a)の破線部分の拡大図を示す。
前記耐熱性樹脂シート10の両端部二箇所を、断面において傾斜形状となるように切削し、第1の切削加工部11と第2の切削加工部12を形成する。
【0034】
続いて、前記第1の切削加工部11と第2の切削加工部12とをマスキングし、FCVA方式で被覆層(アモルファスカーボン膜)15を膜厚100nmに形成した。
この被覆層15は、表面電気抵抗を低減化する機能を有している。
前記FCVA(Filtered
Cathodic Vaccum Arc)方式では固体である陰極の蒸発物質によってプラズマを形成するため、放電の発生及び維持のためのガス(水素)を導入する必要はないという利点を有している。
なお、陰極材料から発生する数μm〜数十μmのパーティクル等が膜に付着すると膜質が低下するおそれがあるため、電磁気的空間フィルターを設けることとする。
【0035】
本発明の耐熱性樹脂ベルトを定着ベルトとして適用する場合には、図2(b)に示すように、シリコーン化合物から成る弾性層16、フッ素樹脂化合物からなる離型層17を順次積層形成する。
フッ素樹脂は熱可塑性材料を用い、融点以上の温度をかけることにより密着力を向上させる処理を施す。フッ素樹脂の融点は300〜350℃と高いため、ウェット法により被覆層15を形成する場合にはバインダーとしては300℃以上の耐熱性を具備していることが必要となる。例えば、ポリイミド系、ポリアミドイミド系の分子骨格にイミド基を有するものが挙げられる。しかし、イミド化合物中に導電性カーボン、銀、ITO、ATO等の導電性材料を配合した導電被膜は耐摩耗性が低いため、磨耗による膜剥がれが発生するおそれがある。
一方、PVD(物理気相成長法:イオンプレーテイング、スパッター、イオンビームスパッター、イオンビームアラスタ)で各種金属や合金材料(Cu、Ni-Cr、SUS、Al、TiN、TiCN、CrN等)を成膜することにより被覆層15を形成した定着ベルトを得たところ、ポリイミドシートの耐熱温度(380℃以下)で成膜できた。
上記検討結果から、本発明においては、被覆層15として、ビッカース硬度が3000Hv以上であること、表面抵抗値が105Ω・cm以下であることを条件とした。
具体的には、ビッカース硬度が3000Hv以上、表面抵抗が102Ω・cmのDLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)や、ビッカース硬度が約5000Hv、表面抵抗が102Ω・cmのta-C膜(テトラヘデラルアモルファスカーボン:水素を含まない非晶質(アモルファス)炭素系硬質薄膜)が好適である。
TiCN膜もビッカース硬度が3000Hv以上、表面抵抗が105Ω・cmであり、特性としては良好であるが、成膜温度が400℃と高温であるため、ポリイミドシートが熱変形してしまい、周長精度が低下するため、望ましくない。一方、DLC膜の成膜温度は150〜200℃、ta-C膜の成膜温度は50〜120℃であり実用的に好適である。
なお、被覆層15の膜厚は、50〜2000nmが好適である。
【0036】
次に、両切削加工部11、12を合致させる位置に配し、それぞれ接着剤14をスクリーン印刷等の方法により均一に塗布し、外部からの加圧と熱によって加圧接着させて円筒状の耐熱性樹脂ベルトの基体を得た。
【0037】
前記接着剤としては、耐熱性付加重合シリコーン系接着剤が好適なものとして挙げられる。
特に鉄酸化物(ベンガラ等)、チタン酸化物、金属酸化物等の顔料が分散されたシリコーン等、酸素ラジカルの影響を受けにくい材料が好適である。
従来から、耐熱性樹脂シート、主としてポリイミドフィルムを接着する接着剤としては、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリイミド系接着剤等の接着剤が用いられていたが、(1)ポリイミドフィルムを強固に接着できてポリイミドシート破断レベルのせん断強度を有すること、(2)300〜350℃30分の熱処理で接着力の低下が少ないこと。(3)150〜200℃の動作環境で接着力が低下しないこと、及び、(4)接合部(繋ぎ)が部品の機能に影響を与えないこと、の全要件を満足する接着材としては、シリコーン系接着剤が最も好ましい。
【0038】
シリコーン系接着剤は、縮合反応型シリコーン系接着剤と付加重合型シリコーン系接着剤の二つに分類される。
縮合反応型シリコーン系接着剤は、脱オキシム型シリコーン系接着剤、脱酢酸型シリコーン系接着剤、脱アセトン型シリコーン系接着剤の3種類があるが、いずれも空気中の水分で反応が進むので、その硬化物の強度が弱く、そのために、ポリイミドフィルムへの接着強度がフィルム破断レベルまで到達しない。また、これらの縮合反応型シリコーン系接着剤は、室温でも反応が進むので、ポットライフが短く、そのために、塗布方法に制約が発生する。また、これらの縮合反応型シリコーン系接着剤は、スクリーン印刷等の生産性の良い塗布方法には使えないことが多い。
一方、付加重合型シリコーン系接着剤は、加熱により付加重合するので、100〜150℃の加熱で架橋反応が進む。その硬化物の強度は、縮合反応型より強く、ポリイミドフィルムへの接着強度は、フィルム破断レベルまで到達するものがある。また、付加重合型シリコーン系接着剤は、室温での反応性が低いので、ポットライフも室温で24時間確保でき、そのために、スクリーン印刷による連続加工が可能になるという利点を有している。よって本発明においては、付加重合型シリコーン系接着剤を適用する。
【0039】
接着剤をスクリーン印刷工法により塗布することにより均一な膜厚(±1.0μm)とすることができ、画像不良の発生を効果的に防止できる。また、接着剤の位置合わせが正確になり、接合部の接着強度が向上する。
【0040】
なお、耐熱性樹脂シートの両端の切削加工部11、12の先端部分の厚さは18μm以上残しておくことが好ましい。
先端部分の厚さを18μm以上残して切削加工すると、先端における欠損を防止できるので、量産化のために望ましい。
【0041】
次に、最終的に目的とする耐熱性樹脂ベルトの性能・機能に応じて、シリコーン化合物よりなる弾性層16、及びフッ素樹脂膜よりなる離型層17を順次形成する。
ただし、適用する画像形成装置の仕様によっては、前記フッ素樹脂膜よりなる離型層17が不要となる場合がある。この場合は、弾性層16が離型層としての機能を兼ねている。
【0042】
シリコーン化合物よりなる弾性層16の密着性を高めるためには、被形成面にシランカップリング剤を塗布されていてもよい。しかし、耐熱性樹脂シートの両端の接合部から接着剤がはみ出して表面に露出している場合には、シリコーン化合物よりなる弾性層が形成されないおそれがある。
そこで、接着剤が露出している場合にも、充分な塗布性や密着性を得るために、(a)プラズマ処理、(b)コロナ放電処理、(c)シリコーン化合物の酸化炎処理プラズマ処理の少なくともいずれかの表面処理を行うことが好ましい。
(b)のコロナ放電処理は、被膜形成面の表面分子鎖を切り、表面活性な官能基(カルボニル基やカボキシル基)を導入する方法である。
(c)のシリコーン化合物の酸化炎処理は、通常のフレーム処理とは異なり、フレームバーナーによる酸化炎を介して、被着体表面にナノレベルの酸化ケイ素膜を形成する方法である。
接着剤がはみ出した面に酸化ケイ素膜が導入されることにより、ぬれ性が向上し、シリコーン弾性層を均一形成できるようになる。また、密着性についても実用上充分に確保することができる。
【0043】
上述のようにして作製される本発明の耐熱性無端ベルトは、画像形成装置の中間転写ベルトや定着ベルトとして利用できる。
【0044】
次に、本発明の耐熱性無端ベルトについて具体的なサンプルを作製し、特性の評価を行った。
〔実施例1〕
(a)厚さ75μmの熱硬化性ポリイミドシートを447mm×400mmの大きさに裁断する。
(b)上記熱硬化性ポリイミドシートの長辺側の両端部7.5mm位置における、表面側と裏面側とを断面において傾斜形状となるように切削加工し、かつ先端部の厚さを19μmとした第1の切削加工部と第2の切削加工部とを形成する。
(c)上記切削加工部を設けた熱硬化性ポリイミドシートの切削部をマスキングし、FCVA方式でアモルファスカーボン(ta-C膜)を、膜厚100nmに成膜した。形成した膜のビッカース硬度は5700Hv、表面抵抗は3.5×102Ω・cmであった。
(d)ベンガラを配合した付加重合型シリコーン接着剤を調製し、更に、平均粒径8.0μm、CV値4.5%のSiO2微粒子を0.8重量%混合して接着剤を得た。
(e)前記接着剤を、熱硬化性ポリイミドシートの第1の切削加工部もしくは第2の切削加工部に対して塗布幅7.0mmかつ厚さ10±1.5μmとなるように、スクリーン印刷する。
(f)前記接着剤を塗布した熱硬化性ポリイミドシートを、前記アモルファスカーボン膜が内側面となるようにして、図3に示すように、内部に中空部を具備するコア20内に挿入し、前記第1の切削加工部と第2の切削加工部とを重ね合せる。続いて、図4に示すように、熱硬化性ポリイミドシートの中心に、エアーを満たすことにより膨張するエアーバッグ30を挿入し、エアーを導入し、0.5MPaに増圧する。これにより、熱硬化性ポリイミドシートがコア20の内壁に沿うようになり、コアの内径と同一径の無端状ベルトが得られる。その後、図5に示すようにヒーター40により130℃程度に加熱し、5分間放置し、接着剤を1次硬化させる。
(g)上記により得られた無端状ベルトを、250℃で30分間熱処理し、接着剤を完全硬化させ、耐熱性樹脂ベルトを得る。
(h)前記耐熱性樹脂ベルトの表裏全体に、シリコーン樹脂を導入したフレーム処理を施し、SiO2膜を形成する。
(i)シリコーン樹脂溶液をスプレー塗装して塗膜を形成し、次に、この塗膜を150℃で2時間のベーク処理を行い、膜厚205μmのシリコーン弾性層を形成する。
(j)シリコーン弾性層の表面にPFAの水分散液をスプレー塗装して塗膜を形成し、次に、この塗膜を340℃で20分間の熱処理を施し、膜厚25μmの離型層を形成し、目的とする無端状の耐熱性樹脂ベルトを得る。
【0045】
上述のようにして作製した耐熱性樹脂ベルトを、図1に示すような構成のユニットに組み込み、空回し試験を400×1000枚実施した。
その後、ベルト内周面のアモルファスカーボン膜の表面の外観を観察し、下記基準により評価を行ったところ、削れランクは4であった。
また、空回し試験の後、耐熱性樹脂ベルトを定着ベルトとして画像形成装置の実機に搭載し、通紙を行い、定着画像の評価を行ったところ、ベルト接合部における画像スジは目視で確認されず、実用的に良好な評価が得られた。
【0046】
(削れランクの評価基準)
ランク5:削れ痕が無い。
ランク4:削れ痕が確認できるが、粉状付着物は確認されない。
ランク3:削れ痕が確認でき、粉状付着物が確認される。
ランク2:膜剥離が発生し、一部に地肌露出部が確認される。
ランク1:膜剥離が発生し、ほぼ全面に地肌露出が確認される。
上記評価により、ランク4以上であれば、形成画像にスジ状の不良が発生せず、実用上良好であるものと判断される。
【0047】
〔実施例2〕
(a)厚さ75μmの熱硬化性ポリイミドシートを447mm×400mmの大きさに裁断する。
(b)上記熱硬化性ポリイミドシートの長辺側の両端部7.5mm位置における、表面側と裏面側とを断面において傾斜形状となるように切削加工し、かつ先端部の厚さを19μmとした第1の切削加工部と第2の切削加工部を形成する。
(c)上記切削加工部を設けた熱硬化性ポリイミドシートの切削部をマスキングし、FCVA方式でアモルファスカーボン(ta-C膜)を、膜厚50nmに成膜した。形成した膜のビッカース硬度は5100Hv、表面抵抗は9.3×102Ω・cmであった。
(d)ベンガラを配合した付加重合型シリコーン接着剤を調製し、更に、平均粒径8.0μm、CV値4.5%のSiO2微粒子を0.8重量%混合して接着剤を得た。
(e)前記接着剤を、熱硬化性ポリイミドシートの第1の切削加工部もしくは第2の切削加工部に対して塗布幅7.0mmかつ厚さ10±1.5μmとなるように、スクリーン印刷する。
(f)前記接着剤を塗布した熱硬化性ポリイミドシートを、前記アモルファスカーボン膜が内側面となるようにして、図3に示すように、内部に中空部を具備するコア20内に挿入し、前記第1の切削加工部と第2の切削加工部とを重ね合せる。続いて、図4に示すように、熱硬化性ポリイミドシートの中心に、エアーを満たすことにより膨張するエアーバッグ30を挿入し、エアーを導入し、0.5MPaに増圧する。これにより、熱硬化性ポリイミドシートがコア20の内壁に沿うようになり、コアの内径と同一径の無端状ベルトが得られる。その後、図5に示すようにヒーター40により130℃程度に加熱し、5分間放置し、接着剤を1次硬化させる。
(g)上記により得られた無端状ベルトを、250℃で30分間熱処理し、接着剤を完全硬化させ、耐熱性樹脂ベルトを得る。
(h)前記耐熱性樹脂ベルトの表裏全体に、シリコーン樹脂を導入したフレーム処理を施し、SiO2膜を形成する。
(i)シリコーン樹脂溶液をスプレー塗装して塗膜を形成し、次に、この塗膜を150℃で2時間のベーク処理を行い、膜厚203μmのシリコーン弾性層を形成する。
(j)シリコーン弾性層の表面にPFAの水分散液をスプレー塗装して塗膜を形成し、次に、この塗膜を340℃で20分間の熱処理を施し、膜厚22μmの離型層を形成し、目的とする無端状の耐熱性樹脂ベルトを得る。
【0048】
上述のようにして作製した耐熱性樹脂ベルトを、図1に示すような構成のユニットに組み込み、空回し試験を400×1000枚実施した。
その後、ベルト内周面のアモルファスカーボン膜の表面の外観を観察し、上記基準により評価を行ったところ、削れランクは4であった。
また、空回し試験の後、耐熱性樹脂ベルトを定着ベルトとして画像形成装置の実機に搭載し、通紙を行い、定着画像の評価を行ったところ、ベルト接合部における画像スジは目視で確認されず、実用的に良好な評価が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の耐熱性樹脂ベルトを組み込んだ定着装置の要部の概略図を示す。
【図2】(a)耐熱性樹脂ベルトの横断面図を示す。(b)拡大断面図を示す。
【図3】耐熱性樹脂ベルトの両端部の接着工程図を示す。
【図4】耐熱性樹脂ベルトの両端部の接着工程図を示す。
【図5】接着剤の加熱硬化の工程図を示す。
【符号の説明】
【0050】
1 耐熱性樹脂ベルト(定着ベルト)
2 加熱ローラ
3 ヒーター
5 定着ローラ
6 加圧ローラ
7 テンションローラ
8 転写紙
10 耐熱性樹脂シート
11 第1の切削加工部
12 第2の切削加工部
14 接着剤
15 被覆層
16 弾性層
17 離型層
20 コア
30 エアーバッグ
40 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像形成装置を構成する無端状の耐熱性樹脂ベルトであって、
耐熱性樹脂シートの一端部分の表面側を断面において傾斜形状となるように切削加工された第1の切削加工部と、前記耐熱性樹脂シートの他端部分の裏面側を断面において傾斜形状となるように切削加工された第2の切削加工部とが、各々の傾斜形状部分を重合した状態で接着剤により接合されており、
内周面側に、被覆層が形成されており、
前記被覆層は、ビッカース硬度が3000Hv以上であり、表面抵抗値が105Ω・cm以下であることを特徴とする耐熱性樹脂ベルト。
【請求項2】
前記被覆層が、アモルファスカーボン膜であることを特徴とする請求項1に記載の耐熱性樹脂ベルト。
【請求項3】
前記接着剤が、耐熱性付加重合型シリコーン系接着剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐熱性樹脂ベルト。
【請求項4】
前記耐熱性樹脂シートが、熱硬化性ポリイミドシートであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルト。
【請求項5】
前記第1の切削加工部と前記第2の切削加工部とを接合した接合部は、プラズマ処理、コロナ放電処理、シリコーン化合物の酸化炎処理、の少なくともいずれか一種よりなる表面処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルト。
【請求項6】
前記接着剤が、スクリーン印刷工法により塗布されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルト。
【請求項7】
前記第1及び第2の切削加工部の先端部分の厚さが18μm以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルト。
【請求項8】
前記耐熱性樹脂シートの外周面側に、シリコーン化合物よりなる弾性層と、フッ素樹脂化合物よりなる離型層とが、順次積層されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の耐熱性樹脂ベルト。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項の耐熱性樹脂ベルトが、中間転写ベルトであることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項の耐熱性樹脂ベルトが、定着ベルトであることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−58661(P2009−58661A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224535(P2007−224535)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】