説明

耐熱絶縁層付きセパレータ及び非水電解質二次電池

【課題】非水電解質二次電池において、使用充電上限電圧を高く設定した場合であっても、過熱時の安全性と高温サイクル特性の双方が優れた非水電解質二次電池を実現し得る耐熱絶縁層付きセパレータを提供する。
【解決手段】耐熱絶縁層付きセパレータ14は、ポリオレフィン層14Aと、その片面又は両面に耐熱性樹脂及び耐酸化性セラミック粒子を含有する耐熱絶縁層14Bとを備える。非水電解質二次電池は、正極11、負極12と上述の耐熱絶縁層付きセパレータ、非水電解質とを備え、一対の正極及び負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.25〜4.55Vである。耐熱絶縁層は、耐酸化性セラミック粒子を60〜90%の割合で含有し、且つ少なくとも正極とポリオレフィン層との間に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱絶縁層付きセパレータ及び非水電解質二次電池に係り、更に詳細には、ポリオレフィン層と、耐熱性樹脂に耐酸化性セラミック粒子を所定の割合で含有させて成る耐熱絶縁層とを備える耐熱絶縁層付きセパレータ、及びこれを用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ビデオカメラ、ノート型パーソナルコンピューターなどの携帯情報電子機器の普及に伴い、これらの機器の高性能化、小型化及び軽量化が図られている。
これらの機器の電源には、使い捨ての一次電池や繰り返し使用できる二次電池が用いられているが、高性能化、小型化、軽量化、経済性などの総合的なバランスの良さから、二次電池、特にリチウムイオン二次電池の需要が伸びている。
また、これらの機器では、更なる高性能化や小型化などが進められており、リチウムイオン二次電池に関しても、高エネルギー密度化が要求されている。
【0003】
これに伴い、電極材料の改良や変更、更には電池構造の改善などによって、リチウムイオン二次電池の高容量化が進められている。
その中で、高容量化の手法の一つとして、使用充電上限電圧(一対の正極及び負極当たりの完全充電状態における開回路電圧)(以下、「使用充電上限電圧」と略記する。)の増大が注目されている。
従来のリチウムイオン二次電池は、正極にコバルト酸リチウム、負極に炭素材料を用い、使用充電上限電圧は4.1〜4.2Vとされている。このように使用充電上限電圧を設計したリチウムイオン二次電池では、正極に用いられるコバルト酸リチウムなどの正極活物質は、その理論容量に対して50〜60%程度の容量を活用しているに過ぎない。
このため、更に使用充電上限電圧を上げることにより、残存容量を活用することが原理的には可能である。
実際に、使用充電上限電圧を4.25V以上にすることにより、高エネルギー密度化を図れることが知られている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】国際公開第03/019713号パンフレット
【0004】
また、リチウムイオン二次電池は、その高容量化に伴い、エネルギー密度も増加するため、過熱試験や内部短絡試験において、大きなエネルギーが放出された場合の信頼性向上に対する要請も極めて大きくなっている。
そのため、このような試験に対する高い信頼性と、高容量化を両立させたリチウムイオン二次電池が強く求められている。
【0005】
一般的なリチウムイオン二次電池は、リチウム複合酸化物を含む正極と、リチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な材料を含む負極と、正極と負極との間に介在するセパレータと、非水電解液とを備え、正極と負極とがセパレータを介在して巻回され、柱状の極板群を構成したものである。
そして、セパレータは、正極と負極との間を電気的に絶縁する役目と非水電解液を保持する役目を持つ。このようなリチウムイオン二次電池のセパレータとしては、ポリオレフィン微多孔膜を使用するのが一般的である。
これは、リチウムイオン二次電池の外部短絡若しくは微小な内部短絡に誘発されることにより異常な大電流が流れたときに、電池温度が著しく上昇して、可燃性ガスが発生することや電池が破裂することや発火することを防ぐため、その熱によって、ポリオレフィン微多孔膜が収縮又は溶融し、微孔を閉塞してイオン透過を遮断する機能(シャットダウン機能)を兼ね備えていると考えられているためである。
【0006】
しかし、シャットダウン機能が働いたとしても、リチウムイオン二次電池の温度が更に上昇すると、セパレータが溶融及び熱収縮して、正極と負極とが大規模な短絡を起こす、いわゆるメルトダウンが発生するという問題がある。
また、シャットダウン機能を向上させるために、セパレータの熱溶融性を高めると、セパレータのメルトダウン温度が低くなるという問題もある。
【0007】
そこで、シャットダウン性と耐メルトダウン性の両方を向上させるために、例えば、多孔質のフィルムを含む基材層と、芳香族ポリアミドやポリイミドのような耐熱性の含窒素芳香族重合体およびセラミック粉末を含む層とから成るセパレータが提案されている(特許文献2参照。)。
【特許文献2】特許第3175730号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2に記載のセパレータを適用したリチウムイオン二次電池においては、使用充電上限電圧を高く設定した場合、過熱時の内部短絡等を抑制し得るものの、高温サイクル特性において十分な性能が得られないという問題点があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、使用充電上限電圧を高く設定した場合であっても、過熱時の安全性と高温サイクル特性の双方が優れた非水電解質二次電池を実現し得る耐熱絶縁層付きセパレータ及びこれを用いた非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねたところ、ポリオレフィン層の片面又は両面に、耐熱性樹脂に耐酸化性セラミック粒子を所定の割合で含有させて成る耐熱絶縁層を形成して耐熱絶縁層付きセパレータを作製し、これを適用することなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の耐熱絶縁層付きセパレータは、ポリオレフィン層と、このポリオレフィン層の片面又は両面に形成され、耐熱性樹脂及び耐酸化性セラミック粒子を含有する耐熱絶縁層とを備え、かかる耐熱絶縁層が、耐酸化性セラミック粒子を60〜90%の割合で含有するものである。
【0012】
また、本発明の耐熱絶縁層付きセパレータの好適形態は、耐酸化性セラミック粒子が、少なくともアルミナを含有するものである。
【0013】
更に、本発明の耐熱絶縁層付きセパレータの他の好適形態は、耐熱性樹脂が、少なくとも芳香族ポリアミドを含有するものである。
【0014】
本発明の非水電解質二次電池は、正極集電体に正極活物質を含む正極合剤層を形成して成る正極と、負極集電体に負極合剤層を形成して成る負極と、耐熱絶縁層付きセパレータと、非水電解質とを備え、一対の正極及び負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.25〜4.55Vであるものである。
また、本発明の非水電解質二次電池においては、かかる耐熱絶縁層付きセパレータが、ポリオレフィン層と、このポリオレフィン層の片面又は両面に形成され、耐熱性樹脂及び耐酸化性セラミック粒子を含有する耐熱絶縁層とを備える。
更に、本発明の非水電解質二次電池においては、かかる耐熱絶縁層が、耐酸化性セラミック粒子を60〜90%の割合で含有し、且つ正極とポリオレフィン層との間に少なくとも配設されている。
【0015】
また、本発明の非水電解質二次電池の好適形態は、負極合剤層の面密度に対する正極合剤層の面密度の比が1.90〜2.10であるものである。
【0016】
更に、本発明の非水電解質二次電池の他の好適形態は、正極活物質が、少なくともコバルト酸リチウムの表面の全部又は一部をニッケル及びマンガンのいずれか一方又は双方を含む酸化物で被覆した正極活物質であるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ポリオレフィン層の片面又は両面に、耐熱性樹脂に耐酸化性セラミック粒子を所定の割合で含有させて成る耐熱絶縁層を形成して耐熱絶縁層付きセパレータを作製し、これを適用することなどとしたため、使用充電上限電圧を高く設定した場合であっても、過熱時の安全性と高温サイクル特性の双方が優れた非水電解質二次電池を実現し得る耐熱絶縁層付きセパレータ、及びこれを用いた非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の耐熱絶縁層付きセパレータ及び非水電解質二次電池の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、含有量や濃度などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0019】
図1は、本発明の非水電解質二次電池の一実施形態であって、円筒型二次電池の一例を示す断面図である。
同図に示すように、この二次電池は、外装部材の一部であって、ほぼ中空円柱状の電池缶1Aの内部に、電池素子10を有している。電池素子10は、正極11と負極12とが耐熱絶縁層付きセパレータ14を介して対向して位置し、図示しない非水電解質を含有するものである。
また、詳しくは後述するが、耐熱絶縁層付きセパレータ14は、正極11と耐熱絶縁層付きセパレータ14の図示しないポリオレフィン層との間に少なくとも耐熱絶縁層付きセパレータ14の図示しない耐熱絶縁層が配設されるように組み込まれる。
なお、電池素子10から非水電解質を除いたものを巻回電極体10Aということにする。
また、巻回電極体10Aを作製する際に用いる帯状の正極、負極及び耐熱絶縁層付きセパレータは、それぞれの幅について、例えば(セパレータ幅)>(負極幅)>(正極幅)の関係のものを用いることができる。このような巻回電極体は、正極からの回り込みを原因とする負極におけるデンドライト状結晶の成長を防止することができ、また、デンドライト状結晶の正極への到達による内部短絡を防止することもできる。
【0020】
電池缶1Aは、例えばニッケルのめっきが施された鋼により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶1Aの内部には、電池素子10を上下から挟むように絶縁板2A、2Bが配置されている。
また、電池缶1Aの開放端部には、外装部材の一部を構成する電池蓋1Bと、この電池蓋1Bの内側に設けられた安全弁機構3及び熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)4とが、ガスケット5を介してかしめて取り付けられており、電池缶1Aの内部は密封されている。
【0021】
電池蓋1Bは、例えば電池缶1Aと同様の材料により構成されている。安全弁機構3は、熱感抵抗素子4を介して電池蓋1Bと電気的に接続されており、内部短絡又は外部からの加熱などにより電池内部の圧力が一定以上となった場合に、ディスク板3Aが反転して電池蓋1Bと電池素子10との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子4は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものであり、例えば、チタン酸バリウム系半導体セラミックスにより構成されている。ガスケット5は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0022】
電池素子10は、例えばセンターピン6を中心にして巻回されている。電池素子10の正極11にはアルミニウムなどより成る正極リード7が接続されており、負極12には銅やニッケル、ステンレスなどより成る負極リード8が接続されている。正極リード7は安全弁機構3に溶接されることにより電池蓋1Bと電気的に接続されており、負極リード8は電池缶1Aに溶接され電気的に接続されている。
【0023】
図2は、図1に示した円筒型二次電池における巻回電極体の一部を拡大して示す断面図である。
同図に示すように、巻回電極体10Aは、正極11と負極12と耐熱絶縁層付きセパレータ14とを有する。
ここで、正極11は、対向する一対の面を有する正極集電体11Aの両面に正極合剤層11Bが被覆された構造を有している。正極集電体11Aは、例えばアルミニウム箔などの金属箔により構成される。なお、図示しないが、正極集電体には、長手方向における一方の端部に正極合剤層が被覆されずに露出している部分があり、この露出部分に上述した正極リードが取り付けられている。
また、正極11と同様に、負極12も対向する一対の面を有する負極集電体12Aの両面に負極合剤層12Bが被覆された構造を有している。負極集電体12Aは、例えば銅箔、ニッケル箔又はステンレス箔などの金属箔により構成される。なお、図示しないが、負極集電体には、長手方向における一方の端部に負極合剤層が被覆されずに露出している部分があり、この露出部分に上述した負極リードが取り付けられている。
更に、耐熱絶縁層付きセパレータ14は、ポリオレフィン層14Aと耐熱絶縁層14Bとにより構成される。また、耐熱絶縁層14Bは、正極11とポリオレフィン層14Aとの間に少なくとも配設されている。
なお、耐熱絶縁層14Bは、正極11とポリオレフィン層14Aとの間に少なくとも配設されているが、正極11とポリオレフィン層14Aとの間の全領域に配設されていなくとも、一部領域に配設されていれば本発明の範囲に含まれる。
また、図示しないが、正極及び負極において、対向する一対の面を有する正極集電体及び負極集電体のそれぞれ片面に、それぞれ正極合剤層及び負極合剤層が被覆された構造を有するようにしてもよい。更に、図示しないが、耐熱絶縁層は、正極とポリオレフィン層との間だけでなく、負極とポリオレフィン層との間にも配設してよい。更にまた、図示しないが、耐熱絶縁層は、正極や負極の片面だけに配設されていてもよい。
【0024】
[正極]
正極合剤層11Bは、例えば正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な正極材料を含んでおり、必要に応じて導電剤と結着剤を含んでいてもよい。
ここで、正極活物質、導電剤及び結着剤は均一に分散していればよく、その混合比は問わない。
【0025】
正極活物質として用いられるリチウムを吸蔵及び放出することが可能な正極材料としては、目的とする電池の種類に応じて、例えば、リチウム酸化物、リチウムリン酸化物、リチウム硫化物又はリチウムを含む層間化合物などのリチウム含有化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。エネルギー密度を高くするには、リチウムと遷移金属元素と酸素(O)とを含むリチウム含有化合物が好ましく、中でも、遷移金属元素として、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及び鉄(Fe)から成る群のうちの少なくとも1種を含むものであればより好ましい。
このようなリチウム含有化合物としては、例えば、式(1)や式(2)に示した平均組成で表されるリチウム複合酸化物を挙げることができる。
【0026】
LiCo(1−b)M1(2−c)…(1)
(式中、M1は、バナジウム(V)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)及び鉄(Fe)から成る群のうちの少なくとも1種を表す。a、b及びcは、0.9≦a≦1.1、0≦b≦0.3、−0.1≦c≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、aの値は完全放電状態における値を表している。)
【0027】
LiNiCoMnM2(1−e−f−g)(2−h)…(2)
(式中、M2は、バナジウム(V)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、イットリウム(Y)及び鉄(Fe)から成る群のうちの少なくとも1種を表す。d、e、f、g及びhは、0.9≦d≦1.1、0<e<1、0<f<1、0<g<0.5、0≦1−e−f−g、−0.1≦h≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、dの値は完全放電状態における値を表している。)
【0028】
更に、リチウム含有化合物としては、例えば、式(3)に示した平均組成で表されるスピネル型の構造を有するリチウム複合酸化物や、式(4)に示した平均組成で表されるオリビン型の構造を有するリチウム複合リン酸塩などを挙げることができる。具体的には、LiMn(i≒1)やLiFePO(j≒1)などを挙げることができる。
【0029】
LiMn2−lM3…(3)
(式中、M3は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、スズ(Sn)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びタングステン(W)から成る群のうちの少なくとも1種を表す。k、l、m及びnは、0.9≦k≦1.1、0≦l≦0.6、3.7≦m≦4.1、0≦n≦0.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、kの値は完全放電状態における値を表している。)
【0030】
LiM4PO…(4)
(式中、M4は、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、タングステン(W)及びジルコニウム(Zr)から成る群のうちの少なくとも1種を表す。oは、0.9≦o≦1.1の範囲内の値である。なお、リチウムの組成は充放電の状態によって異なり、oの値は完全放電状態における値を表している。)
【0031】
正極活物質として用いられるリチウムを吸蔵及び放出することが可能な正極材料としては、上述した正極材料の他にも、例えばMnO、V、V13、NiS、MoSなどのリチウムを含まない無機化合物を挙げることができる。
【0032】
中でも、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)などの異種元素を固溶させた正極活物質、リチウムニッケルマンガン複合酸化物などを含有する正極活物質、コバルト酸リチウムの表面をスピネル構造を有するマンガン酸リチウムやニッケルコバルト複合酸化物で被覆した正極活物質などは、高い充電電圧でも安定な構造を有するという観点から好ましいものである。
また、より高い電極充填性とサイクル特性が得られるという観点から、式(1)〜(4)に示したリチウム含有化合物のいずれかより成る芯粒子の表面を他のリチウム含有化合物のいずれかより成る微粒子で被覆した複合粒子としてもよい。更に、コバルト酸リチウムの表面の全部又は一部をニッケル及びマンガンの少なくとも一方を含む酸化物で被覆した複合粒子を用いることもできる。なお、かかる酸化物はコバルト酸リチウムと複合酸化物を形成していても、しないなくてもよい。
【0033】
また、導電剤としては、例えばアセチレンブラック、黒鉛、ケッチェンブラックなどの炭素材料を用いることができる。
【0034】
更に、結着剤としては、例えばポリフッ化ビニリデン若しくはフッ化ビニリデンの共重合体又はこれらの変性物、ポリテトラフルオロエチレン又はポリテトラフルオロエチレンの共重合体などのフルオロカーボン系樹脂や、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステルなどのアクリル系樹脂等を用いることができる。特に、フッ化ビニリデンは、耐久性、特に耐膨潤性に優れているので好ましい。
【0035】
フッ化ビニリデンの共重合体としては、より具体的には、例えばフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体を挙げることができる。
また、上記例示した共重合体に、更に他のエチレン性不飽和モノマーを共重合したものを挙げることができる。
なお、共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとしては、より具体的には、例えばアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン、ブタジエン、スチレン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルビニルエーテルなどを挙げることができる。
【0036】
このような結着剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
また、結着剤の正極合剤層における含有量としては、好ましくは、0.5〜7%の範囲内であり、より好ましくは、1.2〜4%の範囲内である。結着剤の含有量が少ないと、結着性が十分ではなく、正極活物質などを正極集電体に結着させるのが難しくなるからである。また、結着剤の含有量が多いと、電子伝導性及びイオン伝導性の低い結着剤が正極活物質を被覆してしまい、充放電効率が低下してしまうことがあるからである。
【0037】
[負極]
負極合剤層12Bは、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な負極材料のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、正極合剤層と同様に、必要に応じて、導電剤と結着剤を含んでいてもよい。更に、粘度調整剤などの充電に寄与しない他の材料を含んでいてもよい。
ここで、例えば負極活物質、導電剤及び結着剤は均一に分散していればよく、その混合比は問わない。
【0038】
リチウムを吸蔵及び放出することが可能な負極材料としては、例えば難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、天然若しくは人造黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維又は活性炭などの炭素材料を挙げることができる。
ここで、コークス類としては、ピッチコークス、ニードルコークス又は石油コークスなどを挙げることができる。また、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素又は易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。
これら炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるので好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れた特性が得られるので好ましい。更にまた、充放電電位が低いもの、具体的には充放電電位がリチウム金属に近いものは、電池の高エネルギー密度化を容易に実現することができるので好ましい。
【0039】
負極材料として、炭素材料を用いる場合には、負極の負極合剤層の面密度に対する正極の正極合剤層の面密度の比(正極合剤層面積密度/負極合剤層面積密度)が、1.90〜2.10の範囲内であることが好ましい。合剤層面密度比が2.10より大きいと、負極の表面に金属リチウムが析出してしまうことがあり、充放電効率や安全性などが低下してしまうことがあるからである。また、合剤層面密度比が1.90より小さいと、電極反応物質であるリチウム(Li)との反応に関与しない負極材料が増加してしまい、エネルギー密度が低下してしまうことがあるからである。
また、この二次電池は、完全充電時における開回路電圧(すなわち電池の使用充電上限電圧)が4.25〜4.55Vの範囲内になるように設計されている。よって、完全充電時における開回路電圧が4.20Vの電池よりも、同じ正極活物質であっても、単位質量当たりのリチウムの放出量が多くなる。また、それに応じて正極活物質と負極活物質との量が調整されており、これにより高いエネルギー密度が得られるようになっている。特に、完全充電時における開回路電圧が4.35V以上4.45V以下の範囲内とした場合に、実際上利用できる効果が高くなっている。
【0040】
また、リチウムを吸蔵及び放出することが可能な他の負極材料としては、リチウムを吸蔵及び放出することが可能であり、金属元素及び半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として含む材料を挙げることができる。このような材料を用いれば、高いエネルギー密度を得ることができるからである。特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。
この負極材料は金属元素又は半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、また、これらの1種又は2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、本明細書において、合金には2種以上の金属元素から成るものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含める。また、非金属元素を含んでいてもよい。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物又はそれらのうちの2種以上が共存するものがある。
【0041】
この負極材料を構成する金属元素又は半金属元素としては、例えばマグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)又は白金(Pt)を挙げることができる。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0042】
中でも、この負極材料としては、短周期型周期表における4B族の金属元素又は半金属元素を構成元素として含むものが好ましく、特に好ましいのはケイ素(Si)及びスズ(Sn)の少なくとも一方を構成元素として含むものである。ケイ素(Si)及びスズ(Sn)は、リチウム(Li)を吸蔵及び放出する能力が大きく、高いエネルギー密度を得ることができるからである。
【0043】
スズ(Sn)の合金としては、例えばスズ(Sn)以外の第2の構成元素として、ケイ素(Si)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)及びクロム(Cr)から成る群のうちの少なくとも1種を含むものを挙げることができる。また、ケイ素(Si)の合金としては、例えばケイ素(Si)以外の第2の構成元素として、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)及びクロム(Cr)から成る群のうちの少なくとも1種を含むものを挙げることができる。
【0044】
スズ(Sn)の化合物又はケイ素(Si)の化合物としては、例えば酸素(O)又は炭素(C)を含むものを挙げることができ、スズ(Sn)又はケイ素(Si)に加えて、上述した第2の構成元素を含んでいてもよい。
【0045】
更に、リチウムを吸蔵及び放出することが可能な更に他の負極材料としては、他の金属化合物又は高分子材料を挙げることができる。他の金属化合物としては、例えばMnO、V、V13などの酸化物、NiS,MoSなどの硫化物、又はLiNなどのリチウム窒化物などを挙げることができる。他の高分子材料としては、例えばポリアセチレン、ポリアニリン又はポリピロールなどを挙げることができる。
【0046】
また、導電剤としては、例えば人造黒鉛又は膨張黒鉛などのグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック又はファーネストブラックなどのカーボンブラック類、炭素繊維又は金属繊維などの導電性繊維類、銅粉末又はニッケル粉末などの金属粉末類、ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料等を挙げることができ、中でも、アセチレンブラック、ケッチェンブラック又は炭素繊維が好ましい。
導電剤の含有量は、負極材料100質量部に対して0.1〜30質量部の範囲内とすることが好ましく、0.5〜10質量部の範囲内とすればより好ましい。導電剤には、1種を単独で用いてもよいが、複数種を混合して用いてもよい。
【0047】
更に、結着剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン又はポリフッ化ビニリデンなどを挙げることができ、1種を単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
更にまた、粘度調整剤としては、例えばカルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
【0048】
[耐熱絶縁層付きセパレータ]
耐熱絶縁層付きセパレータ14は、正極11と負極12とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものであって、ポリオレフィン層14Aと耐熱絶縁層14Bとを備える。
【0049】
ポリオレフィン層14Aは、例えばポリプロピレン又はポリエチレンなどのポリオレフィン系の合成樹脂から成る多孔質膜であって、イオン透過度が大きく、所定の機械的強度を有する絶縁性の薄膜から構成される。また、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造としてもよい。ポリオレフィン系の多孔質膜を含むものは、正極と負極との分離性に優れ、内部短絡や開回路電圧の低下をいっそう低減できる。
【0050】
耐熱絶縁層14Bは、耐熱性樹脂と耐酸化性セラミック粒子とを含有する。
また、耐熱絶縁層は、上述したように正極とポリオレフィン層との間に少なくとも配設されていればよく、このような耐熱絶縁層としては、耐熱性樹脂と耐酸化性セラミック粒子との混合物を層状に形成したのものや、それぞれを層状に形成させたものを挙げることができる。
【0051】
耐熱性樹脂とは、本明細書及び特許請求の範囲においては、主鎖に窒素原子と芳香族環を含む重合体であり、例えば芳香族ポリアミド(以下、「アラミド」ということがある。)、芳香族ポリイミド(以下、「ポリイミド」ということがある。)、芳香族ポリアミドイミドなどを挙げることができる。
【0052】
アラミドとしては、例えばメタ配向芳香族ポリアミド(以下、「メタアラミド」ということがある。)と、パラ配向芳香族ポリアミド(以下、「パラアラミド」ということがある。)を挙げることができ、多孔質になりやすい点でパラアラミドが好ましい。
ここで、パラアラミドとは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位又はそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸又は平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的に成るものである。
具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型又はパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドを例示することができる。
【0053】
パラアラミドは、極性有機溶媒に溶けて低粘度の溶液とすることができ、塗工性が優れるので、固有粘度1.0〜2.8dl/gのパラアラミドであることが好ましく、更には固有粘度1.7〜2.5dl/gであることが好ましい。
固有粘度が1.0dl/g未満では、十分なフィルム強度が得られない場合がある。また、固有粘度が2.8dl/gを超えると安定なパラアラミド溶液となりにくく、パラアラミドが析出しフィルム化が困難となる場合がある。
上記極性有機溶媒としては、例えば極性アミド系溶媒又は極性尿素系溶媒を挙げることができ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチルウレア等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
また、パラアラミドは、多孔質であり、フィブリル状ポリマーであることが好ましい。このようなフィブリル状ポリマーは、微視的には、不織布状であり、層状で多孔状の空隙を有するものであり、いわゆるパラアラミド多孔質樹脂を形成している。
【0055】
一方、ポリイミドとしては、例えば芳香族の二酸無水物とジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。
上記二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。
また、上記ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンヂアニリン、3,3’−ジアミノベンソフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5’―ナフタレンジアミンなどを挙げることができる。しかしながら、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0056】
また、ポリイミド溶液から直接的に多孔質フィルムを作成する場合には、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの重縮合物であるポリイミドを挙げることができる。
ポリイミドに用いる極性有機溶媒としては、上記アラミドの場合で例示したもののほか、ジメチルスルホキサイド、クレゾール又はo−クロロフェノール等が好適に使用できる。
【0057】
更に、ポリイミドは、多孔質であることが好ましい。例えば中実フィルムを機械加工又はレーザー加工等により穴あけして多孔質にすることができる。また、溶液流延法でポリイミドフィルムを作成する際、塗工時のポリマー濃度等のポリイミドの成形条件の制御により、多孔質のものを作製することができる。更に、セラミック粉末を複合化することにより、任意のポリマー濃度の溶液で、均一で、かつ微細な多孔質を形成することができる。更にまた、セラミック粉末の含有量により、透気度を制御することもできる。
【0058】
耐熱絶縁層は、耐酸化性セラミック粒子を60〜90%の割合で含有するものであり、好ましくは、65〜85%の割合で含有するものである。
また、耐酸化性セラミック粒子の含有量が、60%未満のときは、高充電域での劣化が抑制できない可能性があり、90%を超えるときは、セパレータが脆くなり、取り扱いが難しくなる場合がある。
【0059】
耐酸化性セラミック粒子としては、電気絶縁性の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物等から成るセラミック粒子を挙げることができる。例えばアルミナ、シリカ、二酸化チタン又は酸化ジルコニウム等を好適に用いることができる。これらの粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。
また、耐酸化性セラミック粒子の形状は、特に限定されるものではなく、球状のものでもランダムな形状のものでも使用できる。
更に、耐酸化性セラミック粒子は、セパレータの強度に与える影響、塗工面の平滑性の観点から、一次粒子の平均粒径が1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることが更に好ましい。このような一次粒子の平均粒径は、電子顕微鏡により得た写真を、粒子径計測器で解析する方法により測定することができる。
耐酸化性セラミック粒子の一次粒子の平均粒径が1.0μmを超えると、セパレータが脆くなり、塗工面も粗くなる場合がある。
このような耐酸化性セラミック粒子は、例えば耐熱性樹脂と耐酸化性セラミック粒子との混合物を層状に形成した場合には、耐熱性樹脂と絡まって、捕捉され、セパレータ中の全体又は部分的に分散して含まれる。
【0060】
耐熱絶縁層付きセパレータは、基材層を更に有していてもよく、このような基材層としては、例えば電気絶縁性の有機、無機繊維若しくはパルプから成る多孔質の織物、不織布、紙又は多孔質のフィルムを挙げることができる。これらの中で、価格、薄さの面から、不織布、紙又は多孔質のフィルムが好ましい。
具体的には、有機繊維として、レーヨン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリスチレン、ナイロン等の熱可塑性ポリマーから成る繊維や、マニラ麻などの天然繊維などを挙げることができる。また、無機繊維としては、ガラス繊維、アルミナ繊維などを挙げることができる。
また、耐熱絶縁層付きセパレータの単位面積当たりの重量は、40g/m以下であることが好ましく、15g/m以下であることがより好ましい。
更に、耐熱絶縁層付きセパレータの空隙率は、電子及びイオンの透過性、素材又は厚みにより決定されるが、一般には、30〜80%の範囲内であり、より好ましくは35〜50%の範囲内である。空孔率が低いとイオン伝導性が低下してしまい、空孔率が高いとショートが発生することがあるからである。
更にまた、耐熱絶縁層付きセパレータの厚みは、例えば10〜300μmの範囲内が好ましく、15〜70μmの範囲内がより好ましく、15〜25μmの範囲内が更に好ましい。耐熱絶縁層付きセパレータ厚みが薄いと、ショートが発生してしまうことがあり、厚みが厚いと、正極材料の充填量が低下してしまうからである。
【0061】
また、耐熱絶縁層付きセパレータは、260℃以下で溶融する熱可塑性ポリマーを10%以上含有するものであることが好ましく、30%以上含有するものであることがより好ましく、40%以上含有するものであることが更に好ましい。
このような熱可塑性ポリマーが、温度上昇時に溶融し、耐熱絶縁層付きセパレータの空隙を閉塞することができる。このような熱可塑性ポリマーは、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用する場合、シャットダウン機能の観点から、260℃以下で溶融するポリマーであることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。また、溶融温度は、シャットダウン温度として適当なので、100℃程度以上であることが好ましい。
このような熱可塑性ポリマーとしては、例えばポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリエステル樹脂又はナイロン樹脂などを挙げることができる。
特に、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレン、もしくはそれらの低分子量ワックス分、またはポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂が溶融温度が適当で、入手が容易なので好適に用いられる。これらは、1種または2種以上を混合して使用することができる。
【0062】
[非水電解質]
非水電解質は、例えば上述した耐熱絶縁層付きセパレータ14や正極合剤層11B及び負極合剤層12Bの全部又は一部などに含有されている。このような非水電解質としては、例えば非水溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることができる。
【0063】
電解質塩としては、電解液の高いイオン伝導性が得られるという観点から、例えば六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を含んでいるものを用いることが好ましい。
【0064】
六フッ化リン酸リチウム(LiPF)の濃度は、電解液において、0.1〜2.0mol/kgの範囲内であることが好ましい。この範囲内でイオン伝導性をより高くすることができるからである。
【0065】
電解質塩としては、更に他の電解質塩を混合して用いてもよい。他の電解質塩としては、例えばLiAsF 、LiClO、LiB(C、LiCHSO、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiN(SOCF)(SO)、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiAlCl、LiSiF、LiCl、LiBrなどを挙げることができる。他の電解質塩は、1種を単独で混合して用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0066】
また、電解質塩は、アニオン中心となるホウ素(B)原子に対して、酸素原子を介してカルボニル基やスルホニル基などの電子求引性の有機置換基が結合した有機リチウム塩を含んでいてもよい。
アニオン中心となるホウ素(B)原子に対して、酸素原子を介してカルボニル基又はスルホニル基などの電子求引性の有機置換基が結合した有機リチウム塩としては、具体的に以下のものを挙げることができる。
アニオン中心となるIII族bからV族bの原子は、B(ホウ素)、N(窒素)、P(リン)、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)などのいずれでもよいが、結合数を考慮するとIII族bからIV族bの原子が好ましく、特にIII族bの原子が好ましい。アニオン中心となる原子としては、B(ホウ素)が最も適している。即ち、ホウ素(B)は、原子量が10.8と小さい上に、有機物に含まれる元素としては酸素(O)や窒素(N)よりも多い4本の結合が可能であり、酸素原子を介して多くの電子求引性を有する有機置換基と結合できる能力を持っているからである。
アニオン中心の原子と電子求引性の有機置換基とを直接結合させずに、その間に酸素原子を介在させているのは、酸素原子の電気陰性度が高く、酸素原子がアニオン中心の原子を安定化させる上に、2本しか結合を持たないため、立体障害が少ない状態で電子求引性の有機置換基を結合させ得るからである。そして、電子求引性の有機置換基はアニオン中心の原子に対して酸素原子を介して電子を求引し、アニオン中心の原子の電子密度を低下させて、アニオン中心から電子を取り出しにくくすることによって、アニオンが酸化されるのを防止する。
電子求引性の有機置換基としては、たとえばカルボニル基、スルホニル基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン化アルキル基などがあるが、特にカルボニル基、スルホニル基が容易に合成できることから適している。
【0067】
上記のような有機リチウム塩の具体例としては、次の式(5)や(6)で表されるものを挙げることができる。
LiBXX’…(5)
LiBFX…(6)
(式中、X及びX’は、ホウ素(B)原子に結合する酸素を有する電子求引性の有機置換基であり、例えば、X及びX’はそれぞれ独立して、−O−C(=O)−(CRR’)−C(=O)−O−、−O−S(=O)−O−(CRR’)−O−S(=O)−O−を示し、R及びR’はそれぞれ独立して、アルキル基、水素原子(H)、ハロゲン原子(F、Cl等)を示し、nは0〜5までの整数である。)
【0068】
更に、他の有機リチウム塩として、ジフルオロ[オキソラト−O,O’]ホウ酸リチウムやリチウムビスオキサレートボレートを好適例として挙げることができる。
【0069】
非水溶媒としては、例えば炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの環状の炭酸エステルを用いることができ、炭酸エチレン及び炭酸プロピレンのうちの一方、特に両方を混合して用いることが好ましい。サイクル特性を向上させることができるからである。
【0070】
また、非水溶媒としては、これらの環状の炭酸エステルに加えて、例えば炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピルなどの鎖状の炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。高いイオン伝導性を得ることができるからである。
【0071】
更に、非水溶媒としては、炭酸ビニレンや4−フルオロエチレンカーボネートを含んでいることが好ましい。負極に被膜を形成することができ、ジフルオロ[オキソラト−O,O’]ホウ酸リチウムやリチウムビスオキサレートボレートのようなイオン性金属錯体の負極上での分解を抑制することができ、サイクル特性を向上させることができるからである。
炭酸ビニレンや4−フルオロエチレンカーボネートの含有量は、非水電解質において0.1〜30%の範囲内であることが好ましい。0.1%未満であるとサイクル特性の向上効果が少なくなるおそれがあり、また、30%を超えると負極上で過剰に分解され充放電効率が低下してしまうおそれがあるからである。
【0072】
更にまた、他の非水溶媒としては、炭酸ブチレン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピロニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、リン酸トリメチルなどを挙げることができる。
なお、非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0073】
次に、上述した二次電池の製造方法の一例につき説明する。
上述した円筒型二次電池は、以下のようにして製造することができる。
まず、正極11を作製する。例えば粒子状の正極活物質を用いる場合には、正極活物質と必要に応じて導電剤及び結着剤とを混合して正極合剤を調製し、N‐メチル‐2‐ピロリドンなどの分散媒に分散させて正極合剤スラリーを作製する。
次いで、この正極合剤スラリーを正極集電体11Aに塗布し乾燥させ、ロールプレス機などにより圧縮成型して、正極合剤層11Bを形成する。
【0074】
また、負極12を作製する。例えば粒子状の負極活物質を用いる場合には、負極活物質と必要に応じて導電剤及び結着剤とを混合して負極合剤を調製し、N‐メチル‐2‐ピロリドンや水などの分散媒に分散させて負極合剤スラリーを作製する。この後、この負極合剤スラリーを負極集電体12Aに塗布し乾燥させ、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極合剤層12Bを形成する。
【0075】
更に、耐熱絶縁層付きセパレータ14を作製する。まず、N−メチル−2−ピロリドンなどの分散媒に微孔形成用の無機塩を溶解させ、これに耐熱性樹脂を溶解させて、耐熱性樹脂溶液を得る。次いで、耐酸化性セラミック粒子を加えて、耐熱絶縁層形成用スラリーを得る。更に、ポリオレフィン層14Aとなる微多孔性ポリオレフィン樹脂膜の片面又は両面に、上記得られた耐熱絶縁層形成用スラリーをドクターブレードなどにより塗布し乾燥させる。しかる後、耐熱絶縁層形成用スラリーの乾燥膜を水洗し、微孔形成用の無機塩を除去し、微孔を形成して耐熱絶縁層14Bを形成する。若しくは、ポリオレフィン層14Aとなる微多孔性ポリオレフィン樹脂膜の片面又は両面に、上記得られた耐熱絶縁層形成用スラリーをドクターブレードなどにより塗布し、直接、水中に触れさせることにより、耐熱性樹脂を不溶化させ、更に水洗し、微孔形成用の無機塩を除去し、微孔を形成して耐熱絶縁層14Bを形成してもよい。
【0076】
次いで、正極集電体11Aから正極リード7を導出し、負極集電体12Aから負極リード8を導出する。その後、例えば、正極11と負極12とを耐熱絶縁層付きセパレータ14を介して巻回して巻回電極体20Aを形成し、正極リード7の先端部を安全弁機構3に溶接すると共に、負極リード8の先端部を電池缶1Aに溶接して、巻回した正極11及び負極12を一対の絶縁板2A、2Bで挟み電池缶1Aの内部に収納する。正極11及び負極12を電池缶1Aの内部に収納した後、図示しない非水電解液を電池缶1Aの内部に注入し、耐熱絶縁層付きセパレータ14などに含浸させる。その後、電池缶1Aの開口端部に電池蓋1B、安全弁機構3及び熱感抵抗素子4をガスケット5を介してかしめることにより固定する。これにより、図1及び図2に示した円筒型二次電池が完成する。
【0077】
以上に説明した二次電池では、充電を行うと、正極合剤層11Bからリチウムイオンが放出され、図示しない非水電解質を介して負極合剤層12Bに含まれるリチウムを吸蔵及び放出することが可能な負極材料に吸蔵される。次に、放電を行うと、負極合剤層12Bに含まれるリチウムを吸蔵及び放出することが可能な負極材料に吸蔵されたリチウムイオンが放出され、非水電解質を介して正極合剤層11Bに吸蔵される。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。具体的には、以下の各例に記載したような操作を行い、図1及び図2に示したような円筒型二次電池を作製し、その性能を評価した。
【0079】
(実施例1−1)
<正極の作製>
まず、LiOH及びCo0.98Al0.01Mg0.01(OH)で表される共沈水酸化物を、Li:全遷移金属=1:1(モル比)となるように乳鉢にて混合した。次いで、この混合物を、空気雰囲気中、800℃で12時間熱処理し、粉砕して、リチウム−コバルト複合酸化物(組成式:LiCo0.98Al0.01Mg0.01、BET比表面積:0.44m/g、平均粒子径:6.2μm)(以下、「リチウム−コバルト複合酸化物(A)」ということがある。)と、リチウム−コバルト複合酸化物(組成式:LiCo0.98Al0.01Mg0.01、BET比表面積:0.20m/g、平均粒子径:16.7μm)(以下、「リチウム−コバルト複合酸化物(B)ということがある。)とを得た。
しかる後、得られたリチウム−コバルト複合酸化物(A)及び(B)をリチウム−コバルト複合酸化物(A):リチウム−コバルト複合酸化物(B)=85:15(質量比)で混合して、正極活物質Iを得た。正極活物質IをCuKαによるX線回折分析したところR−3菱面体層状岩塩方構造であることがわかった。
【0080】
次に、正極活物質Iと、平均粒子径が1μmの酸化ニッケルと、平均粒子径が1μmの酸化マンガンを、正極活物質I:酸化ニッケル:酸化マンガン=96:2:2(質量比)で混合し、ホソカワミクロン社製メカノフュージョンシステムを利用して、乾式混合を行い、ニッケル酸化物及びマンガン酸化物を、正極活物質Iに被覆した。
しかる後、空気中、950℃で10時間焼成して、ニッケル酸化物及びマンガン酸化物で正極活物質Iの表面を覆った構造を持つ正極活物質IIを得た。
この正極活物質IIを本例の正極の作製において用いる正極活物質とした。なお、平均粒子径は、正極活物質Iと大きな違いが見られなかった。
【0081】
次に、得られた正極活物質と、導電剤としてのケッチェンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを混合して正極合剤を調製した。次いで、この正極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて正極合剤スラリーとし、厚み15μmの帯状アルミニウム箔より成る正極集電体の両面に塗布し、乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型し、正極合剤層を形成して、正極を作製した。
しかる後、正極集電体にアルミニウム製の正極リードを取り付けた。
なお、正極合剤層について単位面積当たりの密度(面密度)を調べたところ、3.65g/cmであった。
【0082】
<負極の作製>
次に、負極材料としての粒状人造黒鉛粉末(BET比表面積:3.0m/g)と、導電剤としての気相成長炭素繊維と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロースとをイオン交換水と共に混合して負極合剤スラリーを調製した。
次いで、負極合剤スラリーを厚み8μmの帯状銅箔より成る負極集電体の両面に塗布し、乾燥させ、ロールプレス機で圧縮成型し、負極合剤層を形成して、負極を作製した。
しかる後、負極集電体にニッケル製の負極リードを取り付けた。
なお、負極合剤層について単位面積当たりの密度(面密度)を調べたところ、1.70g/cmであった。また、正極材料と負極材料の量は、完全充電時における開回路電圧が4.35Vになるように設計した。
【0083】
<耐熱絶縁層付きセパレータの作製>
次に、NMPに、乾燥した無水塩化カルシウムを溶解させ、6%の塩化カルシウム溶液を作製した。次いで、得られた塩化カルシウムのNMP溶液に、アラミド樹脂(繊維状)を加え、アラミド樹脂のNMP溶液を調製した。次いで、得られたアラミド樹脂のNMP溶液に、更にアルミナをアラミド樹脂:アルミナ=40:60(質量比)となるように加えて、アルミナを分散させたアラミド溶液を調製した。次いで、アルミナを分散させたアラミド溶液を、厚み16μmの微多孔性ポリエチレンセパレータの片面に、ドクターブレードにより塗布し、80℃の熱風で乾燥させた。更に、アラミド樹脂の膜を純水で十分に水洗し、塩化カルシウムを除去すると同時に膜に微孔を形成して、乾燥させた。
これにより、微多孔性ポリエチレンセパレータの片面に、4μmの耐熱絶縁層を形成して、耐熱絶縁層付きセパレータを作製した。
耐熱絶縁層は 孔が不規則に形成されており 耐熱絶縁層付きセパレータの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)により測定した結果、平均孔径は約0.7μmであり、空隙率は約50%であった。
【0084】
<非水電解質の調製>
一方、非水電解液には、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート及び4−フルオロエチレンカーボネートを、エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:メチルエチルカーボネート:4−フルオロエチレンカーボネート=23:67:6:4(質量比)の割合で混合した溶媒に、更に電解質塩として、LiPFを溶解させたものを用いた。LiPFの濃度は、1.5mol/kgとなるように溶解させた。
【0085】
<巻回電極体の作製>
次に、得られた正極と負極を、得られた耐熱絶縁層付きセパレータを介して積層して渦巻状に多数回巻回し、ジェリーロール型の巻回電極体を作製した。
なお、3.5φの巻き芯を用い、素子径17.20mmになるように、正極と負極の電極長を調整した。
また、帯状のセパレータ、負極及び正極の幅は、(セパレータ幅)>(負極幅)>(正極幅)の関係にあるようにした。
【0086】
<円筒型二次電池の組み立て>
次に、作製した巻回電極体を一対の絶縁板で挟み、負極リードを電池缶に溶接するとともに、正極リードを安全弁機構に溶接して、巻回電極体を電池缶の内部に収納した。
しかる後、電池缶の内部に、非水電解液を注入し、ガスケットを介して電池蓋を電池缶にかしめることにより、外径18mm、高さ65mmである本例の円筒型二次電池を得た。
各例の円筒型二次電池の仕様の一部を表1に示す。
【0087】
(実施例1−2、実施例1−3、比較例1−1〜比較例1−3)
耐熱絶縁層におけるアラミドとアルミナの割合を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を繰り返し、各例の円筒型二次電池を得た。
【0088】
(比較例1−4)
耐熱絶縁層におけるアラミドとアルミナの割合を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を繰り返したところ、円筒型二次電池を作製することができなかった。
【0089】
(比較例1−5)
使用充電上限電圧を4.20Vに設定したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を繰り返し、本例の円筒型二次電池を得た。
【0090】
【表1】

【0091】
(実施例2−1)
耐熱絶縁層を正極側及び負極側の両面に形成したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を繰り返し、本例の円筒型二次電池を得た。なお、その際、耐熱絶縁層は、微多孔性ポリエチレンセパレータの片面に厚み2μmづつ形成させて、両面層の合計厚みを4μmとした。
【0092】
(比較例2−1)
耐熱絶縁層を負極側に形成したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を繰り返し、本例の円筒型二次電池を得た。
各例の円筒型二次電池の仕様の一部を表2に示す。
【0093】
【表2】

【0094】
(実施例3−1〜実施例3−4)
負極合剤層の面密度に対する正極合剤層の面密度の比を表3に示すように変更したこと外は、実施例1−1と同様の操作を繰り返し、各例の円筒型二次電池を得た。
各例の円筒型二次電池の仕様の一部を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
[性能評価]
<初期充放電>
作製した各例の円筒型二次電池について、25℃で、0.1Cに相当する電流で、表1〜3に示す使用充電上限電圧で定電流−定電圧充電(CCCV充電)を行った。次いで、45℃で2日間充電保管を行った。次いで、23℃で1日間保管を行った。更に、0.2Cに相当する電流で、3.0Vになるまで放電を行った。しかる後、0.5C相当の電流で表1〜3に示す使用充電上限電圧と3.0Vの範囲で充放電を5回繰り返した。
そして、5サイクル目の放電容量を、定格放電容量とした。表1〜3には、正極活物質1gあたりの定格放電容量(定格容量)併記する。
【0097】
<高温サイクル試験>
初期充放電を行った各例の円筒型二次電池について、25℃で、表1〜3に示す使用充電上限電圧で定電流−定電圧充電(CCCV充電)を行った。次いで、0.5C放電を行い、初期容量とした。
次いで、再度、得られた各例の円筒型二次電池について、25℃で、充放電を行い、5サイクル目の放電容量、並びに200サイクル目の放電容量を調べ、容量維持率(高温サイクル特性)を算出した。表1〜3に、得られた結果を併記する。
その際、充電は0.7Cで使用充電上限電圧まで、定電圧−定電流充電をした後、使用充電上限電圧で充電電流が50mAに減衰するまで行い、放電は0.5Cの一定電流で端子電圧が3.0Vに達するまで行った。
200サイクル目の容量維持率は、5サイクル目の放電容量に対する200サイクル目の放電容量の比率(200サイクル目の放電容量/5サイクル目の放電容量)×100(%)として求めた。
【0098】
<加熱試験>
初期充放電を行った各例の円筒型二次電池について、25℃で、0.5Cの一定電流で表1〜3に示す使用充電上限電圧まで充電し、その後、定電圧で50mAまで充電を行った。次いで、オーブンで25℃から5℃/分の速度で135℃となるまで過熱し、その後135℃で3時間放置した。その際の電池表面温度を評価し、電池が燃焼したものを不可(×)、燃焼しなかったものを良し(○)とした。検体数(n)=3で行った。表1〜3に、得られた結果を併記する。
【0099】
表1より、アラミドとアルミナの割合が40:60〜10:90においては、高温サイクルにおいて高い容量維持率を示しており、かつ加熱試験結果が全て良好であることが分かる。一方で、アラミドとアルミナの割合が100:0〜50:50においては、加熱試験は良好であるものの、高温サイクル特性が著しく低下していることが分かる。
また、アラミドとアルミナの割合が8:92の耐熱絶縁層付きセパレータを用いた場合は、加熱試験の結果が悪化してしまうことが分かる。更に、アルミナだけでは、セパレータを作製することができず、電池の組み立てに至らなかった。
このことは次のように考えられる。アラミド:アルミナが100:0〜50:50までの範囲では、耐熱性樹脂であるアラミドが基材であるポリエチレンに接着しているために、加熱時のポリエチレンセパレータの熱収縮を抑制し、高い加熱試験での耐性を持つことができる。しかし、高い充電電圧にさらされているために、酸化劣化してしまい、高温サイクル時の劣化が大きいと考えられる。
そこで、耐酸化性セラミック粒子であるアルミナの割合を増やすことで、高充電域における酸化劣化を防ぎ、かつ耐熱性樹脂を含むことで、熱収縮を防ぎ、良好な加熱試験を得ることができたものと推測される。
なお、比較例1−5は、正極活物質Ni−Mn被覆したコバルト酸リチウムを用い、且つ、完全充電時の開回路電圧を、4.20Vにした実験結果を示した。このときの面密度比は、2.25であった。また、表には示さなかったが、アラミドとアルミナの割合がどのような場合においても、高温サイクルにおける高い容量維持率、及び良好な加熱試験結果が得られている。更に、表には示さなかったが、表3に示す例とは異なり、面積比が2.15以上であっても、高い高温サイクル特性を示している。
しかしながら、正極の充電電位が低いために、正極の利用率が低くなり、従って、低い電池容量しか得られないことが分かる。
【0100】
表2より、耐熱絶縁層を負極側に配設した例において、加熱試験では良好な結果が得られているが、高温サイクル特性は低下していることから、耐熱絶縁層は、正極側に配設されている必要があることが分かる。
【0101】
表3より、面密度比が、1.90〜2.10の範囲においては、高いサイクル特性と良好な加熱試験が得られていることが分かる。
その際、面密度比が小さくなると、相対的に正極質量よりも負極質量が多くなるために、電池セル容量が小さくなる傾向にある。一方で、面密度比が、2.15以上であると、サイクル特性、加熱試験ともに低下していることが分かる。これは、正極から引き抜かれる総リチウム充電容量が、負極が受け入れる総リチウム放電容量に対して、相対的に多くなりすぎたために、充電時した際に、電解液と高い反応性を示す金属リチウムが負極上に析出してしまい劣化したためと考えられる。
【0102】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
例えば、上記の実施形態では、負極及び正極を積層して巻回した電池素子を備える場合について説明したが、一対の正極と負極とを折り畳んだ若しくは積層した構造を有する平板状の電池素子、又は複数の正極と負極とを積層した積層型の電池素子を備える場合についても、本発明を適用することができる。
また、上記の実施形態では、電池缶やフィルム状の外装部材を用いる場合について説明したが、いわゆる角型、コイン型、ボタン型などの他の形状を有する電池についても同様に本発明を適用することができる。
【0103】
更に、上記実施の形態及び実施例では、負極の容量が、リチウムの吸蔵及び放出による容量成分により表されるいわゆるリチウムイオン二次電池について説明したが、本発明は、負極活物質にリチウム金属を用い、負極の容量が、リチウムの析出および溶解による容量成分により表されるいわゆるリチウム金属二次電池、または、リチウムを吸蔵及び放出することが可能な負極材料の充電容量を正極の充電容量よりも小さくすることにより、負極の容量がリチウムの吸蔵及び放出による容量成分と、リチウムの析出および溶解による容量成分とを含み、かつその和により表されるようにした二次電池についても同様に適用することができる。
【0104】
更にまた、本発明は、上述の如く、電極反応物質としてリチウムを用いる電池に関するものであるが、本発明の技術的思想は、ナトリウム(Na)若しくはカリウム(K)などの他のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)若しくはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属、又はアルミニウムなどの他の軽金属を用いる場合についても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の非水電解質二次電池の一実施形態であって、円筒型二次電池の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示した円筒型二次電池における巻回電極体の一部を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0106】
1A…電池缶、1B…電池蓋、2A、2B…絶縁板、3…安全弁機構、3A…ディスク板、4…熱感抵抗素子、5…ガスケット、6…センターピン、7…正極リード、8…負極リード、10…電池素子、10A…巻回電極体、11…正極、11A…正極集電体、11B…正極合剤層、12…負極、12A…負極集電体、12B…負極合剤層、14…耐熱絶縁層付きセパレータ、14A…ポリオレフィン層、14B耐熱絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン層と、このポリオレフィン層の片面又は両面に形成され、耐熱性樹脂及び耐酸化性セラミック粒子を含有する耐熱絶縁層と、を備える耐熱絶縁層付きセパレータであって、
上記耐熱絶縁層が、上記耐酸化性セラミック粒子を60〜90%の割合で含有する、
ことを特徴とする耐熱絶縁層付きセパレータ。
【請求項2】
上記耐酸化性セラミック粒子が、少なくともアルミナを含有する、ことを特徴とする請求項1に記載の耐熱絶縁層付きセパレータ。
【請求項3】
上記耐熱性樹脂が、少なくとも芳香族ポリアミドを含有する、ことを特徴とする請求項1に記載の耐熱絶縁層付きセパレータ。
【請求項4】
正極集電体に正極活物質を含む正極合剤層を形成して成る正極と、負極集電体に負極合剤層を形成して成る負極と、耐熱絶縁層付きセパレータと、非水電解質と、を備えた非水電解質二次電池であって、
一対の正極及び負極当たりの完全充電状態における開回路電圧が4.25〜4.55Vであり、
上記耐熱絶縁層付きセパレータが、ポリオレフィン層と、このポリオレフィン層の片面又は両面に形成され、耐熱性樹脂及び耐酸化性セラミック粒子を含有する耐熱絶縁層と、を備え、
上記耐熱絶縁層が、上記耐酸化性セラミック粒子を60〜90%の割合で含有し、且つ上記正極と上記ポリオレフィン層との間に少なくとも配設されている、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項5】
上記負極合剤層の面密度に対する上記正極合剤層の面密度の比が1.90〜2.10である、ことを特徴とする請求項4に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
上記正極活物質が、少なくともコバルト酸リチウムの表面の全部又は一部をニッケル及び/又はマンガンを含む酸化物で被覆した正極活物質である、ことを特徴とする請求項4に記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−87889(P2009−87889A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259645(P2007−259645)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】