説明

耐環境性の軟質防護具複合体の作製方法

海水および有機溶媒(例えばガソリンやその他の石油ベースの製品など)の液体に曝された後、その優れた耐被弾衝撃性能を保持する繊維状基材および物品に関する。繊維状基材は、少なくとも2つの異なるポリマー層を含む多層ポリマーコーティングでコーティングされ、これらの層の少なくとも1つはフッ素含有ポリマーから形成されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体曝露による劣化に対して優れた抵抗力を有する、耐被弾衝撃性物品に関する。より具体的には、本発明は、海水や有機溶媒、例えばガソリンやその他の石油ベースの製品などの液体に曝された後に、その優れた耐被弾衝撃性能を保持する、耐被弾衝撃性ファブリックおよび物品に関する。
【背景技術】
【0002】
発射物に対して優れた性質を有する高強度繊維を含有する耐被弾衝撃性物品は、周知である。軍装備品用の、防弾ベスト、ヘルメット、車両パネル、および構造部材などの物品は、典型的には、高強度繊維を含むファブリックから作製される。従来から使用されてきた高強度繊維には、ポリエチレン繊維、ポリ(フェニレンジアミンテレフタルアミド)などのアラミド繊維、黒鉛繊維、ナイロン繊維、およびガラス繊維などが含まれる。ベストやベストの一部などの多くの適用例では、繊維を、織布または編地で使用することができる。その他の適用例では、繊維は、織布または不織布である剛性のまたは柔軟なファブリックに形成されるよう、ポリマーマトリックス(母材)材料に包封されまたは埋め込まれることができる。
【0003】
ヘルメットやパネル、ベストなどの、硬質または軟質防護具物品の形成に有用な、様々な耐被弾衝撃性構造が知られている。例えば、参照によりそのすべてが本明細書に組み込まれる米国特許第4,403,012号明細書(特許文献1)、第4,457,985号明細書(特許文献2)、第4,613,535号明細書(特許文献3)、第4,623,574号明細書(特許文献4)、第4,650,710号明細書(特許文献5)、第4,737,402号明細書(特許文献6)、第4,748,064号明細書(特許文献7)、第5,552,208号明細書(特許文献8)、第5,587,230号明細書(特許文献9)、第6,642,159号明細書(特許文献10)、第6,841,492号明細書(特許文献11)、第6,846,758号明細書(特許文献12)は、伸びきり鎖超高分子量ポリエチレンなどの材料から作製された高強度繊維を含む、耐被弾衝撃性複合体について記述している。これらの複合体は、弾丸、砲弾、および榴散弾(銃弾や爆弾の破片)などの発射物の高速度衝撃による貫通に対して、様々な程度の抵抗力を示す。
【0004】
例えば、米国特許第4,623,574号明細書(特許文献4)および第4,748,064号明細書(特許文献7)は、エラストマーマトリックス(母材)に埋め込まれた高強度繊維を含む、単純な複合体構造を開示している。米国特許第4,650,710号明細書(特許文献5)は、高強度の伸びきり鎖ポリオレフィン(ECP;extended chain polyolefin)繊維からなる複数の柔軟な層を含む、柔軟な物品の製造について開示している。網状構造の繊維は、低モジュラス(低引張係数)のエラストマー材料でコーティングされる。米国特許第5,552,208号明細書(特許文献8)および第5,587,230号明細書(特許文献9)は、高強度繊維の少なくとも1つの網状構造と、ビニルエステルおよびジアリルフタレートを含むマトリックス(母材)組成物とを含む、物品とその物品を作製するための方法を開示する。米国特許第6,642,159号明細書(特許文献10)は、マトリックス(母材)中に配置されたフィラメントの網状構造を含む複数の繊維層を有し、かつそれらの間にエラストマー層が存在している耐衝撃性剛性複合体を開示する。複合体は、徹甲砲弾(防護物を貫く発射物)に対する防護を増大させるため、硬質プレートに結合される。
【0005】
硬質または軟質の身体防護具は、良好な耐被弾衝撃性をもたらすが、非常に堅く嵩張る可能性がある。したがって、耐被弾衝撃性ベストなどの身体防護衣は、柔軟なまたは軟質の防護材料から形成されることが好ましい。しかしながら、そのような柔軟なまたは軟質の材料は優れた耐被弾衝撃性を示す一方で、一般に、淡水、海水、および石油やガソリン、銃潤滑油、石油由来のその他の溶媒などの有機溶媒を含めた液体に対し、不十分な抵抗力を示す。これは、そのような材料の耐被弾衝撃性能が一般に、液体に曝されまたは沈められたときに低下することが知られているので、問題となる。さらに、ファブリックの耐久性および耐摩耗性、ならびに耐水性または耐薬品性を高めるために、防護フィルムをファブリック表面に施すことが知られているが、これらのフィルムはファブリックの重量を増加させる。したがって当技術分野では、様々な液体に接触しまたは沈められた後に許容される耐被弾衝撃性標準を発揮し、かつ結合剤ポリマーコーティングに加えて防護表面フィルムを使用することなく優れた耐久性も有する、軟質で柔軟な耐被弾衝撃性材料を提供することが望ましいと考えられる。
【0006】
一般に当技術分野でポリマー「マトリックス(母材)」材料と呼ばれる従来の結合剤材料の中で、本明細書で論じられる所望の性質すべてを提供することが可能なものは、ほとんどない。フッ素含有ポリマーは、その他の分野において、海水による溶解、浸透、および/または蒸散に対するその抵抗力と、ディーゼルガソリンや非ディーセルガソリン、銃潤滑油、石油、石油由来の有機溶媒などの1種または複数の有機溶媒による溶解、浸透、および/または蒸散に対するその抵抗力ゆえに、望ましい。耐被弾衝撃性材料の分野では、フッ素含有コーティングは、場合によっては有害な液体に長時間曝された後に、耐被弾衝撃性ファブリックの耐被弾衝撃性を維持するのに有利に寄与することが発見されており、したがってそのような利益を実現するのに防護表面フィルムの必要性が排除される。より具体的には、優れた耐被弾衝撃および環境特性は、耐被弾衝撃性繊維材料を従来のポリマーマトリックス(母材)材料層とフッ素含有ポリマー層との両方でコーティングするときに、実現されることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,403,012号明細書
【特許文献2】米国特許第4,457,985号明細書
【特許文献3】米国特許第4,613,535号明細書
【特許文献4】米国特許第4,623,574号明細書
【特許文献5】米国特許第4,650,710号明細書
【特許文献6】米国特許第4,737,402号明細書
【特許文献7】米国特許第4,748,064号明細書
【特許文献8】米国特許第5,552,208号明細書
【特許文献9】米国特許第5,587,230号明細書
【特許文献10】米国特許第6,642,159号明細書
【特許文献11】米国特許第6,841,492号明細書
【特許文献12】米国特許第6,846,758号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、ポリマー結合剤材料の多数の層で形成された耐被弾衝撃性ファブリックを提供する。これらの層の少なくとも1つは、良好な柔軟性および優れた耐被弾衝撃特性を維持しながら、液体に対する所望の防護、ならびに耐熱性および耐寒性と摩滅および摩耗に対する抵抗力をもたらす、フッ素含有ポリマーを含む。これらのポリマー層は、それらの接触界面でその混和性および接着性を容易にするため、液体として互いに接触することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、その表面上に多層コーティングを有する少なくとも1つの繊維状基材を含む、繊維状複合体を提供する。ここで、前記繊維状基材は、約7g/デニール以上の靭性(テナシティ;tenacity)および約150g/デニール以上の引張係数を有する1つまたは複数の繊維を含むものであり;前記多層コーティングは、前記1つまたは複数の繊維の表面にある、第1のポリマーを含む第1のポリマー層と、前記第1のポリマー層上にある、第2のポリマーを含む第2のポリマー層とを含み、前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーは異なり、前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーの少なくとも1つはフッ素を含むものである。
【0010】
本発明は、
(a)表面を有する少なくとも1つの繊維状基材を提供する工程であって、前記少なくとも1つの繊維状基材が、約7g/デニール以上の靭性(テナシティ;tenacity)および約150g/デニール以上の引張係数を有する1つまたは複数の繊維を含み;
(b)第1のポリマーを含む第1のポリマー層を、少なくとも1つの繊維状基材の表面に施す工程;
(c)その後、第2のポリマーを含む第2のポリマー層を、前記第1のポリマー層上に施す工程;
を含み、
前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーが異なり;前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーの少なくとも1つがフッ素を含む、
繊維状複合体を形成する方法も提供する。
【0011】
本発明の繊維状複合体から形成される物品もまた、提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】複合型のコーティング技法を利用して繊維状基材表面に多重コーティングを施すプロセスを例示するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、水、特に海水と、有機溶媒、特にガソリンなどの石油由来の溶媒に曝された後に、優れた耐被弾衝撃貫通性を維持する繊維状複合体および物品を提示する。特に、本発明は、多層コーティングを少なくとも1つの繊維状基材に施用することによって形成された、繊維状複合体を提供する。繊維状基材は、ほとんどの実施形態で単繊維と見なされるが、あるいは、複数の織られた繊維を含む織布の場合など、多層コーティングの施用前に複数の繊維がモノリシック構造として一体化された場合には、ファブリックと見なすこともできる。本発明の方法は、コーティング時にファブリックとは技術的に見なされない、繊維ウェブまたはその他の配置構成として配列された複数の繊維に関して実施してもよく、本明細書では複数の繊維状基材上のコーティングと称される。本発明は、複数のコーティングされた繊維から形成されたファブリック、および前記ファブリックから形成された物品も提供する。
【0014】
本発明の繊維状基材は、少なくとも2つの異なるポリマー層を含む多層コーティングでコーティングされ、これらの層の少なくとも1つは、フッ素含有ポリマーから形成されるものである。本明細書で使用される「フッ素含有」ポリマー結合剤は、フッ素原子を含む少なくとも1種のポリマーから形成された材料である。そのような材料には、フルオロポリマーおよび/またはフルオロカーボン含有材料、即ちフルオロカーボン樹脂が含まれる。「フルオロカーボン樹脂」は、一般に、フルオロカーボン基を含むポリマーを指す。
【0015】
多層コーティングは、繊維の表面にある、第1のポリマーを含む第1のポリマー層と、この第1のポリマー層上にある、第2のポリマーを含む第2のポリマー層とを含み、第1のポリマーおよび第2のポリマーは異なり、第1のポリマーおよび第2のポリマーの少なくとも1つはフッ素含有ポリマーを含む。
【0016】
本発明の目的では、優れた耐被弾衝撃貫通性を有する物品は、高速の発射物に対して優れた性質を示すものである。この物品は、榴散弾(銃弾や爆弾の破片)などの破砕片貫通に対して優れた抵抗特性も示す。本発明の目的では、「繊維」は細長い物体であり、その長さ寸法は、幅および厚さの横寸法よりも非常に大きいものである。本発明で使用される繊維の断面は、広く様々でよい。その断面は、円形、平ら、または楕円形でよい。したがって、繊維という用語には、規則的なまたは不規則な断面を有するフィラメント、リボン、およびストリップなどが含まれる。これらの繊維は、繊維の直線または縦軸から突出する1つまたは複数の規則的なまたは不規則な葉(ローブ;lobes)を有する不規則なまたは規則的な、多葉性断面のものでもよい。繊維は、単一の葉状であり、実質的に円形の断面を有することが好ましい。
【0017】
上述のように、多層コーティングは、単一のポリマー繊維または複数のポリマー繊維に施用することができる。複数の繊維は、繊維ウェブ、織布、不織布、またはヤーンの形で存在してよく、ヤーンは、本明細書では多数の繊維からなるストランドと定義され、ファブリックは、複数の一体化された繊維を含む。複数の繊維を含む実施形態では、多層コーティングは、繊維がファブリックもしくはヤーンに配列される前に、または繊維がファブリックもしくはヤーンに配列された後に、施用することができる。
【0018】
本発明の繊維は、任意のポリマー繊維のタイプを含むことができる。最も好ましくは、繊維は、耐被弾衝撃性材料および物品の形成に有用な、高強度、高引張係数の繊維を含む。本明細書で使用される「高強度、高引張係数繊維」は、それぞれASTM D2256によって測定したときに、少なくとも約7g/デニール以上の好ましい靭性(テナシティ;tenacity)、少なくとも約150g/デニール以上の好ましい引張係数、および好ましくは少なくとも約8J/g以上の破断点エネルギーを有するものである。本明細書で使用される「デニール」という用語は、線密度の単位を指し、繊維またはヤーン9000m当たりの質量をg単位で表したものに等しい。本明細書で使用される「靭性(テナシティ;tenacity)」という用語は、応力がかかっていない試験片の、単位線密度(デニール)当たりの力(g)として表した引張応力を指す。繊維の「初期係数(初期モジュラス)」は、変形に対するその抵抗力を表す材料の性質である。「引張係数」という用語は、デニール当たりのg重量(g/d)で表した靭性(テナシティ;tenacity)の変化と、当初の繊維長に対する割合(in/in)として表した歪みの変化との比を指す。
【0019】
繊維を形成するポリマーは、耐被弾衝撃性ファブリックの製造に適した高強度、高引張係数の繊維であることが好ましい。耐被弾衝撃性材料および物品の形成に特に適した、特に適切な高強度、高引張係数の繊維材料には、高密度および低密度ポリエチレンを含むポリオレフィン繊維が含まれる。特に好ましいのは、伸びきり鎖ポリオレフィン繊維、例えば高度に配向した高分子量ポリエチレン繊維、特に超高分子量ポリエチレン繊維およびポリプロピレン繊維、特に超高分子量ポリプロピレン繊維である。アラミド繊維、特にパラ−アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、伸びきり鎖ポリビニルアルコール繊維、伸びきり鎖ポリアクリロニトリル繊維、ポリベンザゾール繊維、例えばポリベンゾキサゾール(PBO)およびポリベンゾチアゾール(PBT)繊維など、液晶コポリエステル繊維およびM5(登録商標)繊維などの剛性ロッド繊維などの繊維も適している。これらの繊維タイプのそれぞれは、当技術分野で従来から知られている。また、ポリマー繊維を生成するのに適しているものは、上述の材料のコポリマー、ブロックポリマー、およびブレンドである。
【0020】
耐被弾衝撃性ファブリックに最も好ましい繊維のタイプには、ポリエチレン、特に伸びきり鎖ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維、液晶コポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、特に高度に配向した伸びきり鎖ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアクリロニトリル繊維、および剛性ロッド繊維、特にM5(登録商標)繊維が含まれる。
【0021】
ポリエチレンの場合、好ましい繊維は、少なくとも500000の分子量、好ましくは少なくとも百万の分子量、より好ましくは2百万から5百万の間の分子量を有する伸びきり鎖ポリエチレンである。そのような伸びきり鎖ポリエチレン(ECPE)繊維は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,137,394号明細書または第4,356,138号明細書に記載されているような、溶液紡糸プロセスで成長させてもよく、または、やはり参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,551,296号明細書および第5,006,390号明細書に記載されているように、溶液から紡糸してゲル構造を形成してもよい。本発明で使用するのに特に好ましい繊維タイプは、Honeywell International Inc.からSPECTRA(登録商標)という商標で販売されているポリエチレン繊維である。SPECTRA(登録商標)繊維は、当技術分野では周知であり、例えば、米国特許第4,623,547号明細書(特許文献4)および第4,748,064号明細書(特許文献7)に記載されている。
【0022】
アラミド(芳香族ポリアミド)またはパラ−アラミド繊維も特に好ましい。そのような繊維は市販されており、例えば、米国特許第3,671,542号明細書に記載されている。例えば、有用なポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントは、KEVLAR(登録商標)という商標でDupont corporationにより商業的に生産されている。NOMEX(登録商標)という商標でDupontにより商業的に生産されているポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)繊維、およびTWARON(登録商標)という商標で帝人により商業的に生産されている繊維;HERACRON(登録商標)という商標で韓国のKolon Industries,Inc.により商業的に生産されているアラミド繊維;ロシアのKamensk Volokno JSCにより商業的に生産されているp−アラミド繊維SVM(商標)およびRUSAR(商標)と、ロシアのJSC Chim Voloknoにより商業的に生産されているARMOS(商標)p−アラミド繊維も、本発明の実施に有用である。
【0023】
本発明の実施に適切なポリベンザゾール繊維は市販されており、例えば、参照によりそのそれぞれが本明細書に組み込まれる米国特許第5,286,833号明細書、第5,296,185号明細書、第5,356,584号明細書、第5,534,205号明細書、および第6,040,050号明細書に開示されている。好ましいポリベンザゾール繊維は、東洋紡のZYLON(登録商標)ブランド繊維である。本発明の実施に適切な液晶コポリエステル繊維は市販されており、例えば、参照によりそのそれぞれが本明細書に組み込まれる米国特許第3,975,487号明細書、第4,118,372号明細書、および第4,161,470号明細書に開示されている。
【0024】
適切なポリプロピレン繊維には、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,413,110号明細書に記載されている、高度に配向した伸びきり鎖ポリプロピレン(ECPP)繊維が含まれる。適切なポリビニルアルコール(PV−OH)繊維は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,440,711号明細書および第4,599,267号明細書に記載されている。適切なポリアクリロニトリル(PAN)繊維は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,535,027号明細書に開示されている。これらの繊維タイプのそれぞれは、従来から知られており、広く市販されている。
【0025】
本発明で使用されるその他の適切な繊維タイプには、M5(登録商標)などの剛性ロッド繊維と、上述のすべての材料の組合せが含まれ、それらのすべては市販されている。例えば、繊維層は、SPECTRA(登録商標)繊維とKevlar(登録商標)繊維との組合せから形成してもよい。M5(登録商標)繊維は、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)から形成され、バージニア州RichmondのMagellan Systems Internationalにより製造されており、例えば、参照によりそのそれぞれが本明細書に組み込まれる米国特許第5,674,969号明細書、第5,939,553号明細書、第5,945,537号明細書、および第6,040,478号明細書に記載されている。特に好ましい繊維には、M5(登録商標)繊維、ポリエチレンSPECTRA(登録商標)繊維、アラミドKevlar(登録商標)繊維、およびアラミドTWARON(登録商標)繊維が含まれる。繊維は、任意の適切なデニール、例えば50から約3000デニール、より好ましくは約200から3000デニール、さらにより好ましくは約650から約2000デニール、最も好ましくは約800から約1500デニールなどのものでよい。その選択は、被弾衝撃に対する効果および費用を考慮することによって決定される。より細い繊維は、製造するのに、また織るのにより費用がかかるが、単位重量当たりでより大きな被弾衝撃に対する効果をもたらすことができる。
【0026】
本発明の目的に最も好ましい繊維は、高強度、高引張係数の伸びきり鎖ポリエチレン繊維、または高強度、高引張係数のパラ−アラミド繊維である。上述のように、高強度、高引張係数繊維は、ASTM D2256によってそれぞれ測定したときに、約7g/デニール以上の好ましい靭性(テナシティ)、約150g/デニール以上の好ましい引張係数、および約8J/g以上の好ましい破断点エネルギーを有するものである。本発明の好ましい実施形態では、繊維の靭性(テナシティ)は、約15g/デニール以上、好ましくは約20g/デニール以上、より好ましくは約25g/デニール以上、最も好ましくは約30g/デニール以上であるべきである。本発明の繊維は、約300g/デニール以上の好ましい引張係数、より好ましくは約400g/デニール以上、より好ましくは約500g/デニール以上、より好ましくは約1000g/デニール以上、最も好ましくは約1500g/デニール以上の引張係数も有する。本発明の繊維は、約15J/g以上の好ましい破断点エネルギー、より好ましくは約25J/g以上、より好ましくは約30J/g以上の破断点エネルギーを有し、最も好ましくは、約40J/g以上の破断点エネルギーを有する。
【0027】
これらの組み合わされた高強度特性は、周知のプロセスを用いることによって得ることが可能である。米国特許第4,413,110号明細書、第4,440,711号明細書、第4,535,027号明細書、第4,457,985号明細書(特許文献2)、第4,623,547号明細書、第4,650,710号明細書(特許文献5)、および第4,748,064号明細書(特許文献7)は、一般に、本発明で用いられる好ましい高強度伸びきり鎖ポリエチレン繊維の形成について、論じている。溶液成長またはゲル繊維プロセスを含めたそのような方法は、当技術分野で周知である。パラ−アラミド繊維を含めたその他の好ましい繊維タイプのそれぞれを形成する方法も、当技術分野で従来から知られており、これらの繊維は市販されている。
【0028】
本発明によれば、多層コーティングは、本明細書に記述される繊維またはファブリック基材の表面の、少なくとも一部に施される。多層コーティングは、前記繊維の表面上に直接存在する第1のポリマー層と、前記第1のポリマー層上にある第2のポリマー層とを含み、この第1のポリマー層および第2のポリマー層は異なるものである。第1のポリマーおよび/または第2のポリマーの1つまたは両方は、それらの接着特性によって、または周知の熱および/または圧力条件に曝した後に、複数の繊維を一緒に結合する結合剤材料として機能することができる。本発明によれば、第1のポリマー層および第2のポリマー層の少なくとも1つは、フッ素含有ポリマーを含む。第1のポリマー層および第2のポリマー層は共に、異なるフッ素含有ポリマーを含むことができるが、前記層のただ1つがフッ素含有ポリマーを含み、それに対してその他の層は実質的にフッ素を含まないことが、最も好ましい。本発明の最も好ましい実施形態では、第1のポリマー層がフッ素含有ポリマーを含み、第2のポリマー層がフッ素を実質的に含まない。追加のポリマー層を繊維表面にコーティングしてもよく、その場合、追加のポリマー層のそれぞれは、すぐ前に施用されたポリマー層上にコーティングされることが好ましい。任意選択の追加のポリマー層は、第1のポリマー層および/または第2のポリマー層と同じであるか異なっていてもよい。
【0029】
フッ素原子を含有するポリマー、特にフルオロポリマーおよび/またはフルオロカーボン樹脂は、水による溶解、浸透、および/または蒸散に対するそれらの抵抗力と、1種または複数の有機溶媒による溶解、浸透、および/または蒸散に対するそれらの抵抗力のため、望ましいことがわかった。重要なことは、フッ素含有ポリマーを、ポリマーマトリックス(母材)材料として耐被弾衝撃性ファブリックの技術分野で従来から使用されてきた別のポリマー材料と共に耐被弾衝撃性繊維に施用したとき、これらから形成された耐被弾衝撃性複合体の被弾衝撃性能が、水、例えば塩水、またはガソリンにこの複合体を浸漬した後に実質的に保たれていることである。
【0030】
より具体的には、フッ素含有ポリマー層および個別に施された従来のマトリックスポリマー層でコーティングされた繊維を含むファブリックは、非フッ素含有ポリマー材料のみで形成されたファブリックに比べ、塩水またはガソリンのいずれかに浸漬した後著しく改善されたV50保持率%、即ち本発明の実施例で例示されるように90%より大きい保持率を有することがわかった。またそのような材料は、フッ素含有ポリマーが、個々のフィラメント、繊維、および/またはファブリックと塩水またはガソリンとの間の障壁として働くので、フッ素含有ポリマー層なしで形成されたファブリックに比べ、塩水またはガソリンを吸収する傾向が著しく低下している。
【0031】
フッ素含有材料、特にフルオロポリマーおよびフルオロカーボン樹脂材料は、一般に、それらの優れた耐薬品性および防湿性で知られている。本明細書で有用なフルオロポリマーおよびフルオロカーボン樹脂材料には、当技術分野で周知のように、フルオロポリマーホモポリマー、フルオロポリマーコポリマー、またはこれらのブレンドが含まれ、例えば、米国特許第4,510,301号明細書、第4,544,721号明細書、および第5,139,878号明細書に記載されている。有用なフルオロポリマーの例には、限定するものではないがクロロトリフルオロエチレンのホモポリマーおよびコポリマー、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ素化エチレン−プロピレンコポリマー、パーフルオロアルコキシエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、およびこれらのコポリマーおよびブレンドが含まれる。
【0032】
本明細書で使用されるコポリマーには、2種以上のモノマー成分を有するポリマーが含まれる。好ましいフルオロポリマーには、ポリクロロトリフルオロエチレンのホモポリマーおよびコポリマーが含まれる。ACLON(商標)という商標で販売されかつニュージャージー州MorristownのHoneywell International Inc.から市販されている、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)ホモポリマー材料が特に好ましい。最も好ましいフルオロポリマーまたはフルオロカーボン樹脂には、フルオロカーボン変性ポリマーが含まれ、特にフルオロオリゴマーおよびフルオロポリマーであって、従来のポリエーテルにフルオロカーボン側鎖をグラフト化することによって形成されたポリエーテル(即ち、フルオロカーボン変性ポリエーテル)、ポリエステル(即ち、フルオロカーボン変性ポリエステル)、ポリアニオン(即ち、フルオロカーボン変性ポリアニオン)、例えばポリアクリル酸(即ち、フルオロカーボン変性ポリアクリル酸)やポリアクリレート(即ち、フルオロカーボン変性ポリアクリレート)など、およびポリウレタン(即ち、フルオロカーボン変性ポリウレタン)が含まれる。これらのフルオロカーボン側鎖またはパーフルオロ化合物は、一般に、テロメリゼーションプロセスによって生成され、Cフルオロカーボンと呼ばれる。例えば、フルオロポリマーまたはフルオロカーボン樹脂は、フルオロテロマーを形成する不飽和フルオロ化合物のテロメリゼーションによって得てもよく、前記フルオロテロマーはさらに変性されて、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアニオン、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、またはポリウレタンとの反応が可能になり、次いでこのフルオロテロマーは、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアニオン、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、またはポリウレタンにグラフト化される。これらのフルオロカーボン含有ポリマーの良好な代表例は、スイスのClariant International,Ltd.から市販されているNUVA(登録商標)フルオロポリマー製品である。パーフルオロ酸をベースにし、またパーフルオロアルコールをベースにした側鎖を有するその他のフルオロカーボン樹脂、フルオロオリゴマー、およびフルオロポリマーも、ほとんど好ましい。オハイオ州FairlawnのOmnova Solutions,Inc.から市販されているPOLYFOX(商標)フルオロケミカルなど、C、C、またはCなどのより短い長さのフルオロカーボン側鎖を有するフルオロポリマーおよびフルオロカーボン樹脂も、適している。
【0033】
フッ素含有ポリマー材料は、フルオロポリマーまたはフルオロカーボン含有材料と別のポリマーとの組合せを含んでもよく、フッ素含有ポリマー材料の、本明細書に記述されるような従来のポリマー結合剤(マトリックス(母材))材料とのブレンドが含まれる。1つの好ましい実施形態では、フッ素含有ポリマーを含むポリマー層は、フッ素含有ポリマーとアクリルポリマーとのブレンドである。好ましいアクリルポリマーは、非排他的に、アクリル酸エステルを含み、特に、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸2−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−ブチルおよびアクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、およびアクリル酸2−エチルヘキシルなどのモノマー由来のアクリル酸エステルを含む。好ましいアクリルポリマーは、特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸2−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、およびメタクリル酸2−エチルヘキシルなどのモノマー由来のメタクリル酸エステルも含む。またこれらの構成モノマーのいずれかから作製されたコポリマーおよびターポリマーは、アクリルアミド、n−メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、および無水マレイン酸も組み込んだものと共に好ましい。非アクリルモノマーで変性させた変性アクリルポリマーも、適している。例えば、(a)エチレン、プロピレン、およびイソブチレンを含めたオレフィン;(b)スチレン、N−ビニルピロリドン、およびビニルピリジン;(c)ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、およびビニルn−ブチルエーテルを含めたビニルエーテル;(d)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ラウリン酸ビニル、およびデカン酸ビニルを含めた脂肪族カルボン酸のビニルエステル;および(f)塩化ビニル、塩化ビニリデン、二塩化エチレン、および塩化プロペニルを含めた、ビニルハロゲン化物などの適切なビニルモノマーを組み込んだアクリルコポリマー及びアクリルターポリマーである。同様に適しているビニルモノマーは、マレイン酸ジエステルおよびフマル酸ジエステル、特に2から10個の炭素原子、好ましくは3から8個の炭素原子を有する1価アルカノールのマレイン酸ジエステルおよびフマル酸ジエステルであり、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジヘキシル、マレイン酸ジオクチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジヘキシル、およびフマル酸ジオクチルが含まれる。
【0034】
アクリルポリマーおよびコポリマーは、これらポリマーの直線的炭素骨格に起因する、それら固有の加水分解安定性のため好ましい。アクリルポリマーも、商業的に生成された材料で得られる広範な物理的性質のため好ましい。アクリル樹脂で得られる物理的性質の範囲は、耐被弾衝撃性複合体マトリックス樹脂のポリマー結合剤材料に望ましいと考えられる物理的性質の範囲と一致し、おそらくはその範囲を凌ぐ。
【0035】
第1のポリマー層または第2のポリマー層の一方は、ポリマー結合剤(マトリックス(母材))材料として耐被弾衝撃性ファブリックの分野で従来から用いられている、非フッ素含有の、即ちフッ素を実質的に含まないポリマー材料を含むことが好ましい。最も好ましくは、第2のポリマー層は、非フッ素含有ポリマー材料から形成される。広く様々な、従来の非フッ素含有ポリマー結合剤材料が、当技術分野で知られている。そのような材料には、低モジュラス(低引張係数)のエラストマー材料と、高モジュラス(高引張係数)の剛性材料との両方が含まれる。ASTM D638により37℃でそれぞれ測定した場合、好ましい低モジュラス(低引張係数)エラストマー材料は、約41.3MPa(約6000psi)未満の初期引張係数を有するものであり、好ましい高モジュラス(高引張係数)剛性材料は、少なくとも約689.5MPa(約100000psi)の初期引張係数を有するものである。本明細書の全体を通して使用される、引張係数という用語は、繊維に関してはASTM 2256によって測定したときの、またポリマー結合剤材料に関してはASTM D638によって測定したときの、弾性係数(弾性率)を意味する。
【0036】
エラストマー性ポリマー結合剤材料は、様々な材料を含んでよい。好ましいエラストマー結合剤材料は、低モジュラス(低引張係数)エラストマー材料を含む。本発明の目的のため、低モジュラス(引張係数)エラストマー材料は、ASTM D638試験手順に従って約41.4MPa(約6000psi)以下で測定された、引張係数を有する。好ましくは、エラストマーの引張係数は、約27.6MPa(約4000psi)以下であり、より好ましくは約16.5MPa(約2400psi)以下であり、より好ましくは8.23MPa(1200psi)以下であり、最も好ましくは約3.45MPa(約500psi)以下である。エラストマーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは0℃以下であり、より好ましくは約−40℃以下であり、最も好ましくは約−50℃以下である。またエラストマーは、少なくとも約50%の好ましい破断点伸びを有し、より好ましくは少なくとも約100%、最も好ましくは、少なくとも約300%の破断点伸びを有する。
【0037】
低モジュラス(低引張係数)を有する広く様々な材料および配合物は、非フッ素含有ポリマー結合剤材料として利用することができる。代表的な例には、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、エチレン−プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー、ポリスルフィドポリマー、ポリウレタンエラストマー、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリクロロプレン、可塑化ポリ塩化ビニル、ブタジエンアクリロニトリルエラストマー、ポリ(イソブチレン−co−イソプレン)、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリエーテル、シリコーンエラストマー、エチレンのコポリマー、およびこれらの組合せと、その他の低モジュラス(低引張係数)ポリマーおよびコポリマーが含まれる。異なるエラストマー材料のブレンド、またはエラストマー材料と1種または複数の熱可塑性樹脂とのブレンドも好ましい。
【0038】
共役ジエンおよびビニル芳香族モノマーのブロックコポリマーが、特に有用である。ブタジエンおよびイソプレンは、好ましい共役ジエンエラストマーである。スチレン、ビニルトルエン、およびt−ブチルスチレンは、好ましい共役芳香族モノマーである。ポリイソプレンを組み込んだブロックコポリマーは、水素化されて、飽和炭化水素エラストマーセグメントを有する熱可塑性エラストマーを生成することができる。ポリマーは、A−B−A型の単純なトリブロックコポリマー、(AB)型(n=2〜10)のマルチブロックコポリマー、またはR−(BA)型(x=3〜150)のラジアル構成コポリマーでよく、ここでAは、ポリビニル芳香族モノマーからのブロックであり、Bは、共役ジエンエラストマーからのブロックである。これらのポリマーの多くは、Houston、TXのKraton Polymersによって商業的に生成され、会報「Kraton Thermoplastic Rubber(Kraton 熱可塑性ゴム)」、SC−68−81に記載されている。最も好ましい低モジュラス(低引張係数)ポリマー結合剤材料には、スチレン系ブロックコポリマー、特にポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン−ブロックコポリマーが含まれ、Kraton Polymersにより商業的に生産されている、KRATON(登録商標)という商標で販売されているものが、また、オハイオ州ClevelandのNoveon,Inc.から市販されているHYCAR(登録商標)T122アクリル樹脂が含まれる。
【0039】
他の好ましい非フッ素含有ポリマー結合剤材料として有用な、好ましい高モジュラス(高引張係数)剛性ポリマーには、ビニルエステルポリマーまたはスチレン−ブタジエンブロックコポリマーなどの材料と、ビニルエステルおよびジアリルフタレート、またはフェノールホルムアルデヒドおよびポリビニルブチラールなどの、ポリマーの混合物も含まれる。特に好ましい高モジュラス(高引張係数)材料は、熱硬化性ポリマーであり、好ましくは、メチルエチルケトンなどの炭素−炭素飽和溶媒に可溶性で、硬化したときに、ASTM D638により測定した場合少なくとも約689.5MPa(約1×10psi)の高引張係数を有するものである。特に好ましい剛性材料は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,642,159号明細書(特許文献10)に記載されたものである。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、第1のポリマー層または第2のポリマー層のいずれか、最も好ましくは第2のポリマー層には、ポリウレタンポリマー、ポリエーテルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタールポリマー、ポリアミドポリマー、ポリブチレンポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、イオノマー、スチレン−イソプレンコポリマー、スチレン−ブタジエンコポリマー、スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、スチレン−エチレン/プロピレンコポリマー、ポリメチルペンテンポリマー、水素化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、無水マレイン酸官能化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、カルボン酸官能化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、アクリロニトリルポリマー、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー、ポリプロピレンポリマー、ポリプロピレンコポリマー、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シリコーン樹脂、ニトリルゴムポリマー、天然ゴムポリマー、セルロースアセテートブチレートポリマー、ポリビニルブチラールポリマー、アクリルポリマー、アクリルコポリマー、または非アクリルモノマーを組み込んだアクリルコポリマーが含まれる。
【0041】
本発明の繊維状複合体から形成された物品の、剛性、衝撃、および被弾衝撃特性は、繊維をコーティングする結合剤ポリマーの引張係数に影響を受ける。例えば米国特許第4,623,574号明細書(特許文献4)は、約41300kPa(約6000psi)未満の引張係数を有するエラストマー材料で構成された繊維強化複合体が、より高いモジュラス(引張係数)のポリマーで構成された複合体に比べ、また同じ繊維構造であってポリマー結合剤材料の1つまたは複数のコーティングを含まないものに比べ、共に優れた耐被弾衝撃特性を有することを開示する。しかしながら、低引張係数のポリマー結合剤ポリマーは、より低い剛性の複合体ももたらす。さらに、ある適用例では、特に、複合体が対被弾衝撃性および構造モードの両方で機能しなければならない適用例では、耐被弾衝撃性および剛性の優れた組合せが求められている。したがって、使用される非フッ素含有ポリマー結合剤材料の最も適切なタイプは、本発明のファブリックから形成される物品のタイプに応じて変わることになる。両方の性質の妥協点を実現するために、適切な非フッ素含有材料は、低モジュラス(低引張係数)と高モジュラス(高引張係数)の両方の材料を組み合わせて、第1のポリマー層として、第2のポリマー層として、または任意の追加のポリマー層として使用される単一のポリマー結合剤材料を形成することができる。各ポリマー層は、当技術分野で周知のように、カーボンブラックまたはシリカなどの充填剤を含んでもよく、油でエクステンド(希釈、増量、改質など)されてもよく、または適切な場合には硫黄、過酸化物、金属酸化物、もしくは放射線硬化システムによって加硫化してもよい。
【0042】
多層コーティングの施用は、多数の繊維プライを一体化(合体あるいは圧密化)する前に実施され、多層コーティングは、スピン仕上げなど、任意の先に存在する繊維仕上げの上面に施される。本発明の繊維は、各層を繊維に施すことによって、各ポリマー層でコーティングし、含浸し、埋め込み、またはその他の手法で施用させてよく、その後、コーティングされた繊維層を一体化(合体あるいは圧密化)して、複合体を形成することができる。個々の繊維は、順次または連続してコーティングされる。各ポリマー層は、最初に複数の繊維に施用され、その後、前記繊維から織布または少なくとも1つの不織繊維プライを形成することが好ましい。好ましい実施形態では、複数の個々の繊維が繊維ウェブとして提供され、その場合、第1のポリマー層が繊維ウェブに施され、その後、第2のポリマー層が、繊維ウェブ上の第1のポリマー層に施される。その後、このコーティングされた繊維ウェブを、ファブリックに形成することが好ましい。
【0043】
あるいは、複数の繊維は、最初にファブリックに配列され、引き続きコーティングされてよく、または、少なくとも1つの不織繊維プライを最初に形成し、その後、各ポリマー層を各繊維プライ表面に施用してもよい。別の実施形態では、繊維状基材は、コーティングされていない繊維が最初に織布に織られ、その織布が引き続き各ポリマー層でコーティングされた織布である。本発明は、本明細書に記述された多層コーティングを有する繊維状基材を生成するその他の方法も、包含すると理解すべきである。例えば、複数の繊維を最初に第1のポリマー層でコーティングし、その後、前記繊維から織布または不織布を形成し、引き続き織布または不織布上の第1のポリマー層に第2のポリマー層を施用してもよい。本発明の最も好ましい実施形態では、本発明の繊維を最初に各ポリマー結合剤材料でコーティングし、その後、複数の繊維を織布または不織布に配列する。そのような技法は、当技術分野では周知である。
【0044】
本発明の目的のため、「コーティングされた」という用語は、ポリマー層を繊維状基材表面に付着させる方法を限定するものではない。ポリマー層を基材に施す任意の適切な方法、即ち、第1のポリマーを最初に施用し、その後、引き続き第2のポリマー層を第1のポリマー層に施用する方法を、利用することができる。例えばポリマー層は、繊維表面にポリマー材料の溶液を噴霧しまたはロールコーティングすることにより、溶液形態で施用してよく、その場合、溶液の一部は所望の(1種または複数の)ポリマーを含んでおり、溶液の一部は(1種または複数の)ポリマーを溶解することが可能な溶媒を含んでおり、その後、乾燥してもよい。別の方法は、各コーティング材料のストレート(ニート)のポリマーを、液体、粘着性のある固体もしくは粒子を懸濁したもの、または流動床として、繊維に施すことである。あるいは、各コーティングは、施用(塗布)温度で繊維の性質に悪影響を与えない適切な溶媒に溶かした溶液、エマルション、または分散液として、施用してもよい。例えば繊維状基材は、ポリマー結合剤材料の溶液を通して移送することにより、第1のポリマー材料で基材を実質的にコーティングし、次いで乾燥して、コーティングされた繊維状基材を形成することができ、その後、同様に第2の異なるポリマー材料でコーティングすることができる。次いで得られた多層コーティングされた繊維を、所望の構成に配置する。別のコーティング技法では、繊維プライまたは織布を最初に並べ、その後、個々の繊維のそれぞれがポリマー結合剤材料で少なくとも部分的にコーティングされるよう、適切な溶媒に溶解した第1のポリマー結合剤材料を含有する溶液の浴中にこれらのプライまたは織布を浸漬し、次いで溶媒の蒸発または揮発を通して乾燥し、引き続き第2のポリマー層を、同じ方法を通じて施用することができる。浸漬手順は、所望量のポリマー材料を繊維表面に置くために、好ましくは個々の繊維のそれぞれを包封するために、または繊維表面積のすべてまたは実質的にすべてをポリマー材料で覆うために、必要に応じて数回繰り返すことができる。
【0045】
繊維から溶媒を除去する前または後に(ゲル紡糸繊維形成技法を使用する場合)、繊維が高温延伸操作にかけられる前の高モジュラス(高引張係数)前駆体(ゲル繊維)をコーティングする工程を含めた、繊維にコーティングを施すためのその他の技法を、使用してもよい。次いで繊維は、高温で延伸されて、コーティングされた繊維を生成することができる。ゲル繊維は、所望のコーティングを実現する条件下で、適切なコーティングポリマーの溶液中を通過することができる。ゲル繊維中の高分子量ポリマーの結晶化は、繊維を溶液中に通す前に行っても行わなくてもよい。あるいは繊維を、適切なポリマー粉末の流動床内に押し出してもよい。さらに、延伸操作またはその他の巧みに操作するプロセス、例えば溶媒交換または乾燥などを実施する場合、コーティングは、最終的な繊維の前駆体材料に施用してもよい。さらに、第1のポリマー層および第2のポリマー層は、2つの異なる方法を使用して施用することができる。
【0046】
第1および第2のポリマー層は、これらの層を形成するポリマーが湿潤性である場合、即ち液体状態にある場合、それぞれ繊維状基材表面に施用(塗布)することが好ましい。第1のポリマーおよび第2のポリマーは、液体として互いに接触させることが最も好ましい。言い換えれば、第2のポリマーは、第1のポリマーが湿潤性である間に、液体として繊維状基材表面に施用することが好ましい。第1のポリマー層または第2のポリマー層の少なくとも1つは、通常なら非フッ素含有ポリマーから形成された層に付着することが難しいフッ素含有ポリマーから形成されているので、湿式塗布が好ましい。各ポリマーの湿式塗布は、異なるポリマー層の層間接着を促進させ、その場合、個々の層の接触面でポリマー層のポリマー分子が互いに入り混じりかつ少なくとも部分的に一緒に融合するので、それらが互いに接触する表面で、一体化される。本発明の目的で、液体ポリマーには、溶媒またはポリマーを溶解しもしくは分散させることが可能なその他の液体と組み合わせたポリマー、ならびに溶媒またはその他の液体と組み合わせていない溶融ポリマーが含まれる。
【0047】
ポリマーを溶解しまたは分散することが可能な任意の液体を使用してよいが、溶媒の好ましい群には、水、パラフィン油、および芳香族溶媒または炭化水素溶媒が含まれ、例示的な特定の溶媒には、パラフィン油、キシレン、トルエン、オクタン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン(MEK)、およびアセトンが含まれる。溶媒中のコーティングポリマーを溶解しまたは分散させるのに使用される技法は、様々な基材上に、類似した材料をコーティングするための、従来から使用されているものになるであろう。
【0048】
フッ素含有ポリマー層は、非フッ素含有ポリマー層に接着させるのが難しい可能性があることが知られている。一般に、フッ素含有固体表面は、非フッ素含有液体で濡らすことまたは接着することが難しい。これは、従来の液体マトリックス樹脂によるフッ素含有仕上げで既にコーティングされている繊維のコーティングを試みる場合、問題になる可能性がある。その他の技術分野では、異なる層を付着するのに特殊な中間接着タイ層(結合層)を使用することが知られているが、そのような接着タイ層は、耐被弾衝撃性複合体の性質に悪影響を及ぼす可能性があるので、そのような複合体で使用するのに望ましくない。しかしながら、接着タイ層を使用することなく、異なるポリマーマトリックス材料の多数の層を繊維に施用できることがわかっている。特に、湿潤性フッ素含有液体および湿潤性非フッ素含有液体は、混和性であり、一緒にしたときに互いに濡れることがわかった。したがって、そのような湿性の異なる材料を、繊維表面に付着させることができ、互いに効果的に接着し、かつ繊維状基材の表面に効果的に接着することができる。
【0049】
有効であることがわかった最も好ましい方法では、第1のポリマー層および第2のポリマー層を、別々の基材上に最初に施用し、その後、これら基材を一緒にしてポリマー層を互いに接触させる。最も好ましくは、この方法は、第1のポリマーを繊維状基材の表面上に施す工程;第2のポリマーを支持体の表面上に施す工程;その後、繊維状基材および支持体を接合して、第1のポリマーおよび第2のポリマーを接触させる工程;次いで、第2のポリマーの少なくとも一部が、支持体から第1のポリマーへと移されるように、支持体を繊維状基材から分離する工程;を含む。支持体は、シリコーンコーティング付き剥離ライナー、固体フィルム、または別のファブリックなど、ポリマー層を支持することが可能な任意の固体基材でよい。支持体は、利用されたファブリック加工装置の一体化部分である、コンベヤベルトを構成してもよい。支持体は、第2のポリマーの少なくとも一部を第1のポリマー上に移すことが可能でなければならない。この方法は、異なるポリマー材料の化学的または物理的不適合性とは無関係に、異なるポリマー材料層を繊維状基材に施用するのに特に魅力的である。この技法を実施するのに好ましい方法については、以下の実施例で述べ、かつ図1に図示する。
【0050】
一般に、ポリマー結合剤コーティングは、複数の繊維プライを効率的に結合すること、即ち、一体化(合体あるいは圧密化)することが必要である。多層マトリックスコーティングは、繊維の表面積全体に、または繊維の表面積の一部に施用してもよい。より好ましくは、多層マトリックスコーティングは、本発明の織布または不織布の各構成繊維の実質的にすべての表面積上に施用する。ファブリックが複数のヤーンを含む場合、ヤーンの単一ストランドを形成する各繊維は、多層ポリマー結合剤コーティングでコーティングすることが好ましい。
【0051】
繊維状基材が個々の繊維である場合、複数の個々の繊維は、順次または連続して多層コーティングでコーティングすることができ、その後、1つまたは複数の不織繊維プライ、不織布に構成し、または織布に編んでもよい。織布に関しては、マトリックスコーティングは、繊維を織る前または織った後のいずれかに施用してよいが、マトリックスコーティングは、潜在的な加工上の制約により、繊維が織布に織られた後に施用することが最も好ましい。不織布に関しては、ポリマーコーティングは、繊維が不織布に形成される前に施用することが好ましい。
【0052】
繊維は、単層モノリシック要素に一体化(合体あるいは圧密化)された、複数の重なり合った不織繊維プライを含む、不織布に形成することができる。この実施形態では、各プライが、一方向性の実質的に平行なアレイに配列された、重なり合っていない繊維の配置構成を含む。このタイプの繊維配置構成は、当技術分野では「ユニテープ」(一方向性テープ;unidirectional tape)として知られており、本明細書では「単一プライ」とも呼ばれる。本明細書で使用される「アレイ(array)」は、繊維またはヤーンの規則正しい配置構成であり、「平行アレイ」は、繊維またはヤーンの規則正しい平行な配置構成である。繊維「層」は、1つまたは複数のプライを含む織繊維もしくはヤーンまたは不織繊維もしくはヤーンの、平面配置構成である。本明細書で使用される「単層」構造とは、単一の一体化構造に一体化(合体あるいは圧密化)された1つまたは複数の個々の繊維プライからなるモノリシック構造を指す。「一体化(合体あるいは圧密化;consolidating)」とは、多層ポリマー結合剤コーティングが各繊維プライと共に、単一の一体化層に結合されることを意味する。一体化(合体あるいは圧密化;consolidation)は、乾燥、冷却、加熱、圧力、またはこれらの組合せを介して引き起こすことができる。湿式積層プロセスの場合は繊維またはファブリック層を一緒に接着するだけでよいので、熱および/または圧力は、必ずしも必要なわけではない。「複合体」という用語は、繊維と多層ポリマー結合剤材料との組合せを指す。そのような例は、当技術分野では従来から知られている。
【0053】
本発明の好ましい不織布は、複数の積層され重なり合った繊維プライ(複数のユニテープ)を含み、この各単一プライ(ユニテープ)の平行繊維は、各単一プライの縦繊維方向に対し、隣接する各単一プライの平行繊維に、直角(0°/90°)に置かれている。重なり合った不織繊維プライの積層体は、熱および圧力下で、または個々の繊維プライのポリマー樹脂コーティングを接着することによって、一体化(合体あるいは圧密化)され、当技術分野で単層一体化網状構造(a single−layer, consolidated network)と呼ばれる単層モノリシック要素が形成されるが、この「一体化網状構造(a consolidated network)」は、繊維プライとポリマー結合剤材料とが一体化(融合)した組合せである。「ポリマー結合剤」および「ポリマーマトリックス」という用語は、本明細書では同義に使用され、繊維を一まとめに結合する材料である。これらの用語は、当技術分野では従来から知られており、本明細書では多層材料を指す。
【0054】
当技術分野で従来から知られているように、優れた耐被弾衝撃性は、1つのプライの繊維配列方向が別のプライの繊維配列方向に対してある角度で回転するように、個々の繊維プライがクロスプライされたときに実現される。最も好ましくは、繊維プライは、0°および90°の角度で直角にクロスプライされるが、隣接するプライは、別のプライの縦繊維方向に対して約0°から約90°の間の実質的に任意の角度で配列させることができる。例えば、5プライ不織構造は、0°/45°/90°/45°/0°でまたはその他の角度で配向されたプライを有することができる。そのような回転した一方向性配列は、例えば、米国特許第4,457,985号明細書(特許文献2)、第4,748,064号明細書(特許文献7)、第4,916,000号明細書、第4,403,012号明細書(特許文献1)、第4,623,573号明細書、および第4,737,402号明細書(特許文献6)に記載されている。
【0055】
最も典型的には、不織布は、1から約6プライを含むが、様々な適用例に望まれる可能性のある、約10から約20プライほど多くを含んでよい。より多くの数のプライはより大きな耐被弾衝撃性をもたらすが、重量もより大きくなる。したがって、本発明のファブリックまたは物品を形成する繊維プライの数は、ファブリックまたは物品の最終使用に応じて様々に変わる。例えば、軍事用途のための身体防護ベスト(防弾チョッキ)では、4.9kg/m(1平方フィート当たり1.0ポンド)の所望の面積密度を実現する物品複合体を形成するために、合計で22の個別プライを必要とする可能性があり、それらのプライは、本明細書に記述された高強度繊維から形成された、織布、編地、フェルト地、または不織布(平行配向繊維またはその他の配置構成を有する)であってもよい。別の実施形態では、警察当局用身体防護ベストは、米国司法学会(NIJ)の脅威レベルに基づいて、いくつかのプライを有していてもよい。例えばNIJ脅威レベルIIIAベストでは、合計で22のプライがあってもよい。より低いNIJ脅威レベルでは、より少ないプライを用いることができる。
【0056】
さらに、本発明の繊維プライは、繊維ではなく、代わりにヤーンを含んでもよく、この「ヤーン」とは、多数の繊維またはフィラメントからなるストランドである。あるいは、不織繊維プライは、平行アレイの代わりにランダム配向の繊維を含む、従来から知られている技法を使用して形成されるフェルト地構造などの、その他の繊維配置構成を含んでもよい。本発明の物品は、織布、一方向性繊維プライから形成された不織布、および不織フェルト地の組合せを含んでもよい。
【0057】
一体化(合体あるいは圧密化)不織布は、参照によりその開示が本明細書に組み込まれる米国特許第6,642,159号明細書(特許文献10)に記載されている方法によるなど、周知の方法を使用して構成することができる。当技術分野で周知のように、一体化(合体あるいは圧密化)は、プライを一体化ファブリックに結合させるのに十分な熱および圧力の条件下、個々の繊維プライを互いの上に置くことによって行われる。一体化(合体あるいは圧密化)は、約50℃から約175℃、好ましくは約105℃から約175℃に及ぶ温度、および約0.034MPa(約5psig)から約17MPa(約2500psig)に及ぶ圧力で、約0.01秒から約24時間にわたり、好ましくは約0.02秒から約2時間にわたり行うことができる。加熱する場合、ポリマー結合剤コーティングは、完全に融解することなく粘着または流動を引き起こす可能性がある。しかしながら、一般に、ポリマー結合剤材料が融解を引き起こすとき、複合体を形成するのに比較的低い圧力しか必要としないが、結合剤材料が粘着点まで加熱されるだけの場合には、典型的にはより高い圧力が必要とされる。当技術分野で従来から知られているように、一体化(合体あるいは圧密化)は、カレンダーセット、平床ラミネータ、プレス、またはオートクレーブ中で実施してもよい。
【0058】
あるいは一体化(合体あるいは圧密化)は、適切な成型装置での、熱および圧力下での成型によって達成してもよい。一般に成型は、約344.7kPa(約50psi)から約34470kPa(約5000psi)の圧力で、より好ましくは約689.5kPa(約100psi)から約10340kPa(約1500psi)、最も好ましくは約1034kPa(約150psi)から約6895kPa(約1000psi)の圧力で実施される。あるいは、成型は、約3447kPa(約500psi)から約34470kPa(約5000psi)のより高い圧力で、より好ましくは約5171kPa(約750psi)から約34470kPa(約5000psi)、より好ましくは約6895kPa(約1000psi)から約34470kPa(約5000psi)で実施してもよい。成型工程は、約4秒から約45分間かけてよい。好ましい成型温度は、約93℃(約200°F)から約177℃(約350°F)に及び、より好ましくは約93℃(約200°F)から約149℃(約300°F)の温度であり、最も好ましくは約93℃(約200°F)から約121℃(約280°F)の温度である。本発明のファブリックが成型される圧力は、得られる成型製品の剛性または柔軟性に直接影響を及ぼす。特に、ファブリックが成型される圧力が高くなるほど、剛性はより高くなり、またその逆も同様である。成型圧力に加え、ファブリックプライの量、厚さ、および組成とポリマー結合剤コーティングのタイプも、本発明のファブリックから形成された物品の剛性に直接影響を及ぼす。
【0059】
本明細書に記述される成型および一体化(合体あるいは圧密化)の技法のそれぞれは、類似しているが、各プロセスは異なる。特に、成型はバッチプロセスであり、一体化は連続プロセスである。さらに成型は、典型的には、フラットパネルを形成するときには成形型やマッチダイ型などの型の使用を含み、平面製品を必ずしももたらさない。通常、一体化は、軟質の身体防護ファブリックを製造するために、平床ラミネータ、カレンダーニップセットで、または湿式ラミネーションとして行われる。成型は、典型的には硬質の防護具、例えば剛性プレートの製造のために、保存される。本発明との関連では、一体化技法および軟質身体防護具の形成が好ましい。
【0060】
どちらのプロセスにおいても、適切な温度、圧力、および時間は一般に、ポリマー結合剤コーティング材料のタイプ、ポリマー結合剤含量(組み合わせたコーティングの)、使用されるプロセス、および繊維タイプに依存する。本発明のファブリックは、任意選択で、それらの表面を平滑化しまたは研磨するために、熱および圧力下でカレンダー処理してもよい。カレンダー法は、当技術分野で周知である。
【0061】
織布は、平織り、千鳥綾織り(crowfoot weave)、かご織り、繻子織り、および綾織りなどの任意の布織りを使用した当技術分野で周知の技法を使用して形成してもよい。平織りは最も一般的であり、繊維が、直交する0°/90°の向きで一緒に織られる。別の実施形態では、一体化(合体あるいは圧密化)などによって、織布および不織布の両方が結合され相互に接続されている、複合構造を作成してもよい。織る前に、各織布材料の個々の繊維は、第1のポリマー層および第2のポリマー層で、またはその他の追加のポリマー層で、コーティングしてもしなくてもよい。
【0062】
十分な耐被弾衝撃特性を有するファブリック製品を製造するために、ファブリックを形成する繊維の割合は、好ましくは、結合したポリマーコーティングの重量と繊維の重量を加えた重量の約50%から約98重量%であり、より好ましくは、結合したポリマーコーティングの重量に繊維の重量を加えた値の約70%から約95%、最も好ましくは約78%から約90重量%である。従って、結合したポリマーコーティングの全重量は、好ましくは、ファブリックの約2%から約50重量%を含み、より好ましくは約5%から約30%、最も好ましくは約10%から約22重量%を含み、16%が最も好ましい。
【0063】
個々のファブリックの厚さは、個々の繊維の厚さに相当することになる。好ましい織布は、層当たり約25μmから約500μmの好ましい厚さを有することになり、より好ましくは層当たり約50μmから約385μm、最も好ましくは約75μmから約255μmである。好ましい不織布、即ち不織単層一体化網状構造は、約12μmから約500μmの好ましい厚さを有することになり、より好ましくは約50μmから約385μm、最も好ましくは約75μmから約255μmであり、この単層一体化網状構造は、典型的には2つの一体化プライ(即ち、2つのユニテープ)を含む。そのような厚さが好ましいけれども、特定の要求を満足させるために、また本発明の範囲内になお包含させるために、その他の厚さに形成してもよいことを理解すべきである。
【0064】
本発明のファブリックは、約50g/m(gsm)(0.01 lb/ft(psf))から約1000g/m(gsm)(0.2psf)の好ましい面積密度を有することになる。本発明のファブリックにより好ましい面積密度は、約70g/m(gsm)(0.014psf)から約500g/m(gsm)(0.1psf)に及ぶことになる。本発明のファブリックに関する最も好ましい面積密度は、約100g/m(gsm)(0.02psf)から約250g/m(gsm)(0.05psf)に及ぶことになる。互いの上に積層されたファブリックの多数の個別の層を含む本発明の物品は、さらに、約1000g/m(gsm)(0.2psf)から約40000g/m(gsm)(8.0psf)の好ましい面積密度を有することになり、より好ましくは約2000g/m(gsm)(0.40psf)から約30000g/m(gsm)(6.0psf)、より好ましくは約3000g/m(gsm)(0.60psf)から約20000g/m(gsm)(4.0psf)、最も好ましくは約3750g/m(gsm)(0.75psf)から約10000g/m(gsm)(2.0psf)を有することになる。
【0065】
本発明の複合体は、周知の技法を使用して、様々な異なる耐被弾衝撃性物品を形成するための様々な用途で使用することができる。例えば、耐被弾衝撃性物品を形成するための適切な技法は、例えば米国特許第4,623,574号明細書、第4,650,710号明細書、第4,748,064号明細書、第5,552,208号明細書、第5,587,230号明細書、第6,642,159号明細書、第6,841,492号明細書、および第6,846,758号明細書に記載されている。この複合体は、9mmフルメタルジャケット(FMJ)弾や、手榴弾、大砲の砲弾、簡易爆発物(IED;Improvised Explosive Devices)、軍事および平和維持活動で遭遇するようなその他の装置の爆発により発生した様々な破片など、多数の被弾衝撃の脅威を克服するために軍関係者(兵士)によって使用される、ベスト、パンツ、帽子、またはその他の衣料物品などの衣服、およびカバーまたはブランケットを含めた、柔軟な軟質防護物品の形成に特に有用である。本明細書で使用される「軟質」または「柔軟な」防護具は、著しい量の応力がかけられたときにその形状を保持せず、かつ壊れずに独立して立つことが不可能な防護具である。複合体は、剛性の硬質防護物品を形成するのにも有用である。「硬質」防護具とは、著しい量の応力がかかったときに構造的剛性が維持され、かつ壊れずに独立して立つことが可能な、十分な機械的強度を有する、ヘルメット、軍用車両用パネル、または防御用シールドなどの物品を意味する。ファブリック複合体は、複数の個別のシートに切断され、物品が形成されるように積層することができ、またはこの複合体は、物品を形成するために引き続き使用される前駆体に形成することができる。そのような技法は、当技術分野で周知である。
【0066】
衣服は、当技術分野で従来から知られている方法を通じて、本発明の複合体から形成することができる。好ましくは、衣服は、本発明の耐被弾衝撃性ファブリック複合体と衣料物品とを隣接させることによって形成することができる。例えばベストは、本発明の耐被弾衝撃性複合体に隣接させた汎用ファブリックベストを含んでよく、本発明の複合体が戦略的に配置されたポケットに挿入されたものである。これにより、ベストの重量を最小限に抑えながら、被弾衝撃からの防護を最大限にすることが可能になる。本明細書で使用される「隣接する」または「隣接させた」という用語は、縫付けや接着などによる取着、ならびに、耐被弾衝撃性材料をベストまたはその他の衣料物品から任意選択で容易に取外し可能にするような、別のファブリックとの非取着結合または並置を含むものである。柔軟シート、ベスト、およびその他の衣服のような柔軟構造を形成するのに使用される物品は、好ましくは、非フッ素含有ポリマー層用に低引張係数の結合剤材料を使用することによって形成される。ヘルメットおよび防護具のような硬質物品は、好ましくは、非フッ素含有ポリマー層用に高引張係数の結合剤材料を使用することによって形成される。
【0067】
耐被弾衝撃性は、当技術分野で周知の標準的な試験手順を使用して、決定される。特に、耐被弾衝撃性複合体の防護力または耐貫通性は、通常、V50値としても知られている、発射物の50%が複合体に貫入しそれと共に50%が防護物(シールド)によって停止する衝撃速度に言及することによって表される。本明細書で使用される、物品の「耐貫通性」は、弾丸、破片、および榴散弾(銃弾や爆弾の破片)などを含めた物理的対象と、爆発による爆風などの非物理的対象など、特定された脅威による貫通に対する抵抗力である。複合体の重量をその面積で割った面積密度が等しい複合体では、V50が高くなるほど、その複合体の耐被弾衝撃性はより良好になる。本発明の物品の耐被弾衝撃性は、多くの要因に応じて変化することになり、特にファブリックの製造に使用される繊維のタイプ、複合体中の繊維の重量%、マトリックス材料の物理的性質の適切性、複合体を構成するファブリックの層の数、および複合体の全面積密度に応じて、様々である。しかしながら、海水による溶解または浸透に対して抵抗力があり、1種または複数の有機溶媒による溶解または浸透に対して抵抗力がある、1つまたは複数のポリマーコーティングの使用は、本発明の物品の耐被弾衝撃特性に悪影響を与えない。
【0068】
以下の実施例は、本発明を例示するのに役立つ。
【実施例】
【0069】
実施例1
シリコーンコーティング付き剥離紙支持体を、標準的なパン供給リバースロールコーティング法を使用して、HYCAR(登録商標)T122(オハイオ州ClevelandのNoveron,Inc.から市販されている)の水ベースのアクリル系分散体であるポリマー結合剤材料でコーティングした。ポリマー結合剤材料は、全長にわたり施用(塗布)した。
【0070】
これとは別に、アラミドヤーン(TWARON(登録商標)1000デニール、タイプ2000アラミドヤーン、オランダのTeijin Twaron BVから市販されているもの)を含む繊維状ウェブを、浸漬および圧搾(スクイズ)技法を使用して、ヤーン含浸機で、フッ素含有樹脂の、希釈した水ベースの分散体(NUVA(登録商標)LB、スイスのClariant International,Ltd.から市販されているもの;希釈:Nuva LB 10%、脱イオン水90%)でコーティングした。
【0071】
この複合コーティング技法の概略図を、図1に示す。パン供給リバースロールコーティング法では、計量ローラおよび塗布ローラを、互いに対して所定の固定距離で平行に置いた。各ローラは、ほぼ同じ物理的寸法を有する。これらのローラを同じ高さで保持し、それらの底部を、パンに入れられたポリマー結合剤材料の液体樹脂浴に沈めた。計量ローラを静止状態に保持し、一方でアプリケータローラは、樹脂浴中の液体の一部を持ち上げてこれらローラ間のギャップに向けることが可能な方向に回転させた。このギャップを通り抜けることになる液体量のみを、アプリケータロールの上面に運び、過剰な分はすべて元の樹脂浴に戻した。
【0072】
同時に、支持体をアプリケータロールの上面に向けて運んだが、その移動方向は、アプリケータロールの上面が回転する方向とは反対であった。支持体がアプリケータロールの直上にある場合は、支持体を、バッキングローラを用いてアプリケータロールの上面に押圧した。その結果、アプリケータローラの上面まで運ばれた液体のすべてを、支持体に移した。この技法は、精密に計量された量の液体樹脂を、シリコーンコーティング付き剥離紙の表面に付着させるのに使用した。
【0073】
浸漬および圧搾(スクイズ)技法は、繊維状ウェブを、以下のステップを使用して希釈樹脂分散体でコーティングするために実施した:
1.TWARON(登録商標)ヤーンの糸巻(スプール)を、クリールから解いた。
2.ヤーンを一連のコームに通して送り出し、それによってヤーンを、均等に間隔を空けてかつ互いに平行にした。この時点で、個々の繊維を実質的に平行なアレイ内で緊密に位置決めし、かつ互いに平行にした。
3.次いで実質的に平行なアレイを、一連の回転しているアイドラーローラに渡し、それによって、実質的に平行なアレイを下方に向け直し、液体樹脂浴に通した。この浴では、液体を各ヤーン束に浸透させるよう、十分な長さの時間にわたってヤーンのそれぞれを液体中に完全に浸漬し、それによって、ヤーン内の個々の繊維またはフィラメントを濡らすようにした。
4.この液体樹脂浴の終わりに、濡れた繊維状ウェブを一連の固定(非回転)スプレッダーバー上に引き出した。スプレッダーバーは、個々のヤーンがそれぞれの隣のヤーンと隣接しまたは重なるまで、個々のヤーンを拡げた。拡げる前の各ヤーン束の断面形状は、ほぼ丸かった。拡げた後の各ヤーン束の断面形状は、ほぼ楕円形であり、長方形になる傾向がある。最終的な拡がりは、各繊維またはフィラメントが、単一繊維平面内で互いに隣り合うようになるためのものと考えられる。
5.濡れた繊維状ウェブが最後のスプレッダーバー上に渡されると、再び方向が変更され、今度は上方にかつ液体の外に向けられた。次いで、この濡れた繊維状ウェブを、大型回転アイドラーローラに巻き付けた。繊維状ウェブは、それと共に過剰な液体を有していた。
6.繊維状ウェブからのこの過剰な液体を除去するために、別の自由に回転するアイドラーローラを、大型回転アイドラーローラの表面に乗るように配置した。これらの2つのアイドラーローラは、互いに平行であり、自由に回転するアイドラーローラは、半径方向に大型回転アイドラーローラを押さえ付けて効果的にニップが形成されるように取り付けた。濡れた繊維状ウェブは、このニップを通して運ばれ、自由に回転するアイドラーローラによって加えられた力は、過剰な液体を絞り取るように働いて、この過剰な液体を元の液体樹脂浴に戻した。
【0074】
この時点で、コーティングされた繊維状ウェブおよびコーティングされたシリコーンコーティング付き剥離紙は、「結合ローラ」上で互いに接触するようになる。濡れた(含浸させた)繊維状ウェブを、シリコーンコーティング付き剥離紙の湿潤面に流延し、結合ローラ上に通して、NUVA(登録商標)LBコーティングされたアラミド繊維ウェブが、シリコーンコーティング付き剥離紙の表面に保持されたHYCAR(登録商標)T122の湿潤コーティングに押圧されるようにする。HYCAR(登録商標)T122のコーティングは、繊維ウェブの良好な拡がりを乱すことなく、飽和アラミド繊維ウェブ内に浸透しまたは押し出されるように見えた。次いでアセンブリを炉内に通して、水を乾燥除去した。
【0075】
一連になった四角形を、この一方向性テープ(UDT;unidirectional tape)から切断した。次いで2つの四角形を、繊維側面同士を重ね合わせて、これら四角形の1つを回転させて、その繊維の方向が最初の四角形の繊維方向と直角になるようにした。次いで、構成されたこれら四角形の対をプレスに配置し、115.56℃(240°F)および689.5kPa(100psi)に15分間おいた。次いでプレスを室温まで冷却し、圧力を解除した。次にこれらの四角形を互いに結合した。剥離紙を、この複合体の両面から除去した結果、単層の不織布が得られた。この手順を、被弾衝撃性試験のために必要に応じて追加の層が生成されるまで繰り返した。
【0076】
全体的に、この複合コーティング技法を使用して作製されたUDTのロールは、非常に良好な品質のものであった。ヤーンの拡がりは良好であり、繊維状ウェブに添加された樹脂の量は非常に一貫しており、UDTは、さらなる加工が可能になるよう十分に、シリコーンコーティング付き剥離紙に至るまで十分固着された。
【0077】
実施例2(比較例)
実施例1と同じ機械設備を使用して、TWARON(登録商標)1000デニール、タイプ2000アラミドヤーンの別のUDTロールを形成した。この実施例(比較例)では、ヤーン含浸機の希釈分散液の代わりに脱イオン水を使用し、シリコーンコーティング付き剥離紙上にコーティングされたHYCAR(登録商標)T122アクリル樹脂の量は、約20%だけ増加した。ヤーン含浸機の脱イオン水は、アラミド繊維が拡がるのを助けた。結合ローラでは、濡れたアラミド繊維ウェブを、シリコーンコーティング付き剥離紙の表面に保持されたHYCAR(登録商標)T122の濡れたコーティングに押圧した。実施例1の場合と同様に、HYCAR(登録商標)T122のコーティングは、繊維ウェブの良好な拡がりを乱すことなく、飽和アラミド繊維ウェブ内に浸透しまたは押し出されるように見えた。シリコーンコーティング付き剥離紙上にコーティングされたHYCAR(登録商標)T122アクリル系分散体の増加量は、ヤーン含浸機から付加された損失重量が相殺され、繊維状ウェブに添加された樹脂性マトリックスの総量が平均化することを意味し、同様の量の全マトリックス(母材)材料が実施例1および2の両方で繊維状ウェブに添加されるようにした。
【0078】
全体として、この複合コーティング技法を使用して作製されたUDTのロールは、非常に良好な品質のものであった。ヤーンの拡がりは良好であり、繊維状ウェブに添加される樹脂の量は非常に一貫しており、UDTは、さらなる加工が可能になるよう十分に、シリコーンコーティング付き剥離紙に至るまで十分固着された。
【0079】
次に、一連の四角形を、実施例1と同様のこの一方向性テープロールから切断し、次いでさらに、クロスプライの不織布に加工して、後続の評価を行った。
【0080】
4つのシュートパック(shoot−pack)を、実施例1および実施例2の両方の不織布から作製した。各シュートパックは、46層の2プライ不織布からなるものであった。各層は、約33cm(13インチ)×約33cm(13インチ)と測定された。46層の積層体を、ナイロン布キャリア内に置き、これを縫い閉じた。次いで各シュートパックを角縫いして、さらなる取扱いおよび試験中のシュートパックの一体性に役立てた。サンプルに番号を付け、計量した。重量およびその他の詳細を、以下の表1にまとめる。
【0081】
【表1】

【0082】
これら8個の試料を、塩水浸漬試験にかけた。この試験では、試料の半分に、乾いたままで、MIL−STD−662E試験法に従って一連の16グレインRCCフラグメントを発射した。発射物の速度は、試料の完全な貫通および部分的な貫入の混合が実現されるように、調節した。各発射の速度を測定し、試料のV50((FPS)ft/秒)を、認められた統計解析ツールを使用して決定した。サンプルの残りは、塩水溶液(3.5%の海水)の浴に24時間浸漬し、同様の衝撃性試験にかける前に15分間ドリップ乾燥した(ぬれたまま干した)。これらの結果を、以下の表2にまとめる。
【0083】
【表2】

【0084】
上述のデータは、アラミド繊維に対するフルオロカーボン含有樹脂の薄いコーティングの施用と、従来のマトリックス結合剤ポリマーによる、濡れたままの繊維のコーティングとが、塩水に浸漬したファブリックの被弾衝撃特性の実質的な改善を実現したことを示している。実施例1では、2つの乾燥試料が、620.9mps(2037ft/秒(fps))の平均V50を有していた。塩水に24時間浸漬され、次いで15分間ドリップ乾燥された2つの試料は、630.0mps(2067fps)の平均V50を有していた。これは、実施例1の構成および組成物が、塩水曝露による性能劣化に対して抵抗力があることを示す。
【0085】
比較例である実施例2では、2つの乾燥試料は、616.3mps(2022fps)の平均V50を有していた。塩水に24時間浸漬し、次いで15分間ドリップ乾燥した2つの試料は、572.1mps(1877fps)の平均V50を有していた。これは、実施例2(比較例)の構成および組成物が、塩水曝露による何らかの性能劣化を経験したことを示す。
【0086】
この試験中になされた別の重要な観察は、24時間の塩水浸漬が行われた試料の重量増加に対する、フルオロカーボン樹脂の見掛けの効果であった。結合剤としてHYCAR(登録商標)T122アクリル系分散体のみ使用して生成された試料2Cおよび2Dは、24時間の塩水浸漬後に平均して27%の重量増加があった。Noveon HYCAR(登録商標)T122でコーティングする前に、Clariant NUVA(登録商標)LBの薄いコーティングを繊維に塗布することによって生成された試料1Cおよび1Dは、平均して約3%重量が増加した。繊維の表面に直接付着されたNUVA(登録商標)LBの一部は、複合体の外面に移動するように処理され、そのバルク撥水度が増大したことが明らかである。これは予期せぬ結果であり、NUVA(登録商標)LBの当初の目的は、塩水に曝した後に、アラミド繊維を劣化から特に保護するために、使用することであった。
【0087】
本発明を、好ましい実施形態に関して特に図示し記述してきたが、当業者なら、本発明の精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および修正を行ってよいことが、容易に理解されよう。特許請求の範囲は、開示された実施形態、上記にて論じられたそれらの代替例、およびそれらのすべての均等物を包含すると解釈するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その表面上に多層コーティングを有する少なくとも1つの繊維状基材を含む、繊維状複合体であって、
前記繊維状基材は、約7g/デニール以上の靭性(テナシティ)および約150g/デニール以上の引張係数を有する1つまたは複数の繊維を含み;
前記多層コーティングは、前記1つまたは複数の繊維の表面にある、第1のポリマーを含む第1のポリマー層と、前記第1のポリマー層上にある、第2のポリマーを含む第2のポリマー層とを含み、前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーは異なり、前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーの少なくとも1つはフッ素を含む、
前記繊維状複合体。
【請求項2】
前記第1のポリマーがフッ素を含み、前記第2のポリマーがフッ素を実質的に含まない、請求項1に記載の繊維状複合体。
【請求項3】
前記第2のポリマーがフッ素を含み、前記第1のポリマーがフッ素を実質的に含まない、請求項1に記載の繊維状複合体。
【請求項4】
前記第1のポリマーがフッ素を含み、前記第2のポリマーがフッ素を含む、請求項1に記載の繊維状複合体。
【請求項5】
前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーの少なくとも1つが、ポリクロロトリフルオロエチレンホモポリマー、クロロトリフルオロエチレンコポリマー、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ素化エチレン−プロピレンコポリマー、パーフルオロアルコキシエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、フルオロカーボン変性ポリエーテル、フルオロカーボン変性ポリエステル、フルオロカーボン変性ポリアニオン、フルオロカーボン変性ポリアクリル酸、フルオロカーボン変性ポリアクリレート、フルオロカーボン変性ポリウレタン、またはこれらのコポリマーもしくはブレンドを含む、請求項1に記載の繊維状複合体。
【請求項6】
前記第1のポリマーまたは前記第2のポリマーのどちらかが、ポリウレタンポリマー、ポリエーテルポリマー、ポリエステルポリマー、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタールポリマー、ポリアミドポリマー、ポリブチレンポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、エチレン−ビニルアルコールコポリマー、イオノマー、スチレン−イソプレンコポリマー、スチレン−ブタジエンコポリマー、スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、スチレン−エチレン/プロピレンコポリマー、ポリメチルペンテンポリマー、水素化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、無水マレイン酸官能化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、カルボン酸官能化スチレン−エチレン/ブチレンコポリマー、アクリロニトリルポリマー、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー、ポリプロピレンポリマー、ポリプロピレンコポリマー、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シリコーン樹脂、ニトリルゴムポリマー、天然ゴムポリマー、セルロースアセテートブチレートポリマー、ポリビニルブチラールポリマー、アクリルポリマー、アクリルコポリマー、非アクリルモノマーを組み込んだアクリルコポリマー、またはこれらの組合せを含む、請求項1に記載の繊維状複合体。
【請求項7】
前記繊維状基材が、1種または複数のポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアクリロニトリル繊維、液晶コポリエステル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)を含む剛性ロッド繊維、またはこれらの組合せを含む、請求項1に記載の繊維状複合体。
【請求項8】
ファブリックの形で複数の繊維を含む、請求項1に記載の繊維状複合体。
【請求項9】
請求項8に記載のファブリックから形成された、耐被弾衝撃性物品。
【請求項10】
(a)表面を有する少なくとも1つの繊維状基材を提供する工程であって、前記少なくとも1つの繊維状基材が、約7g/デニール以上の靭性(テナシティ)および約150g/デニール以上の引張係数を有する1つまたは複数の繊維を含み;
(b)第1のポリマーを含む第1のポリマー層を、前記少なくとも1つの繊維状基材の表面に施す工程;
(c)その後、第2のポリマーを含む第2のポリマー層を、前記第1のポリマー層上に施す工程;を含み、
前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーが異なり;前記第1のポリマーおよび前記第2のポリマーの少なくとも1つがフッ素を含む、
繊維状複合体を形成する方法。
【請求項11】
前記第1のポリマー層および第2のポリマー層が、液体として施用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1のポリマー層および前記第2のポリマー層が、液体として互いに接触する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1のポリマーがフッ素を含み、前記第2のポリマーがフッ素を実質的に含まない、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第2のポリマーがフッ素を含み、前記第1のポリマーがフッ素を実質的に含まない、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記第1のポリマーがフッ素を含み、前記第2のポリマーがフッ素を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
複数の繊維状基材がウェブの形に配置され、工程(b)は、第1のポリマー層を前記繊維状基材に施す工程を含み、工程(c)は、その後、第2のポリマー層を前記繊維状基材の前記第1のポリマー層に施し、それによってコーティングされた繊維状ウェブを形成する工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記コーティングされた繊維状ウェブをファブリックに形成する工程をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記コーティングされた繊維状ウェブを、複数の一方向性プライに形成する工程と、その後、前記複数の一方向性プライを一体化してファブリックを形成する工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ファブリックを含む耐被弾衝撃性物品を形成する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記繊維状基材が、織布として一体化された複数の繊維を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記繊維状基材が、1種または複数のポリオレフィン繊維、アラミド繊維、ポリベンザゾール繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアクリロニトリル繊維、液晶コポリエステル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ピリドビスイミダゾール−2,6−ジイル(2,5−ジヒドロキシ−p−フェニレン)を含む剛性ロッド繊維、またはこれらの組合せを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの追加の第1のポリマー層または第2のポリマー層を、同じ繊維状基材に施用するため、工程(b)および(c)の少なくとも1つを少なくとも1回繰り返す工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項23】
請求項12に記載の方法によって形成された繊維状複合体。
【請求項24】
請求項23に記載の繊維状複合体から形成された物品。

【図1】
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【公表番号】特表2010−522657(P2010−522657A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501212(P2010−501212)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/058377
【国際公開番号】WO2008/121682
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】