説明

耐薬品性が向上した芳香族ポリアミド粒子及びその製造方法

【課題】芳香族ポリアミドが本来有する高い耐熱性を維持しつつ、優れた耐薬品性を有し、溶剤、特にNMP溶剤を使用する環境下において好適に使用できる芳香族ポリアミド粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】芳香族ポリアミドからなる芳香族ポリアミド粒子であって、広角X線回折より求めた該粒子の結晶化度が8〜35%であることを特徴とする耐薬品性が向上した芳香族ポリアミド粒子とする。芳香族ポリアミドからなる芳香族ポリアミド粒子を、下記式を満足する温度範囲T(℃)内で熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐薬品性が向上した芳香族ポリアミド粒子及びその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、高い耐薬品性を有し、NMP溶剤を使用する環境下においても好適に使用できる芳香族ポリアミド粒子を効率良く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂やポリアミドイミド樹脂等のバインダー樹脂にPTFEで代表されるフッ素化ポリマー、グラファイト、二硫化モリブデン等の固体潤滑剤を配合した組成物から形成される被膜を、その表面に形成させた摺動部材が知られている。中でも、優れた耐熱性を有している点から、自動車等の摺動部材にはポリアミドイミド樹脂やポリイミド樹脂からなる被膜が好適に用いられる。一方で、塗膜の強度と摩擦・摩耗特性とを両立させるために、耐摩耗性付与剤を添加することが知られている。耐摩耗性付与剤として、有機粒子は、金属に比べて軽量かつ相手材を傷つけないという点で優れており、中でも耐熱性に優れたポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂等が用いられる(例えば、特許文献1、2等)。ポリアミドイミド樹脂等のバインダー樹脂はNMP溶剤系で用いる場合が多く、芳香族ポリアミド樹脂を添加剤として用いた場合に、粒子が溶解または膨潤して塗料の粘度が上がるために用いることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−120213号公報
【特許文献2】特開2008−106086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、芳香族ポリアミドが本来有する高い耐熱性を維持しつつ、優れた耐薬品性を有し、溶剤、特にNMP溶剤を使用する環境下において好適に使用できる芳香族ポリアミド粒子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、芳香族ポリアミド粒子を特定の条件下で熱処理したとき、所望の芳香族ポリアミド粒子が得られることを究明し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明によれば、芳香族ポリアミドからなる芳香族ポリアミド粒子であって、広角X線回折より求めた該粒子の結晶化度が8〜40%であることを特徴とする耐薬品性が向上した芳香族ポリアミド粒子が提供される。
【0007】
また、芳香族ポリアミドからなる芳香族ポリアミド粒子を、下記式を満足する温度範囲T(℃)内で熱処理することを特徴とする耐薬品性が向上した芳香族ポリアミド粒子の製造方法が提供される。
350≦T<Tm−30
(但し、Tmは芳香族ポリアミドの融点または擬融点を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明の芳香族ポリアミド粒子は、適度な結晶化度を有しているため、優れた高い耐薬品性を発揮し、溶剤を使用する環境下においても好適に使用することができる。このため、溶剤を含むコーティング材(塗料等を含む)等に添加して用いても、芳香族ポリアミド粒子が凝集や膨潤して、コーティング材の粘度を上げたりすることがなく、これをスプレーする場合はノズル詰まりを発生せず、また、これを塗布する場合でもスムーズに塗布を行うことができるといった効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いる芳香族ポリアミドは、メタ型芳香族ポリアミドであっても、パラ型芳香族ポリアミドであってもよいが、特に強度や耐熱性、耐薬品性の点で、パラ型芳香族ポリアミドが好ましい。該パラ型芳香族ポリアミドとはポリアミドを構成する繰り返し単位の80モル%以上、好ましくは90モル%以上が、下記式(1)で表される芳香族ホモポリアミド、または、芳香族コポリアミドからなるものである。
−NHAr−NHCO−Ar−CO− ……(1)
【0010】
ここでAr、Arは芳香族基を表し、なかでも下記式(2)から選ばれた同一の、または、相異なる芳香族基からなるものが好ましい。但し、芳香族基の水素原子は、ハロゲン原子、低級アルキル基、フェニル基などで置換されていてもよい。
【0011】
【化1】

【0012】
このような芳香族ポリアミド粒子成形体の製造方法や成形体特性については、例えば、英国特許第1501948号公報、米国特許第3733964号明細書、第3767756号明細書、第3869429号明細書、日本国特許の特開昭49−100322号公報、特開昭47−10863号公報、特開昭58−144152号公報、特開平4−65513号公報などに記載されており、具体的には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミド等が例示される。
【0013】
上記パラ型芳香族ポリアミドは、有機溶媒に可溶で、且つ等方性溶液であることが好ましい。該溶液(ドープ)は、パラ型芳香族ポリアミドが溶解するのであれば、溶液重合を行った後の有機溶媒ドープでも、別途得られたパラ型芳香族ポリアミドを有機溶媒に溶解せしめたものでもよい。特に、溶液重合反.応を行った後のものが好ましい。
【0014】
パラ型芳香族ポリアミドの重合溶媒としては、一般的に公知の非プロトン性有機極性溶媒を用いるが、例を挙げるとN−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N、N−ジエチルアセトアミド、N、N−ジメチルプロピオンアミド、N、N−ジメチルブチルアミド、N、N−ジメチルイソブチルアミド、N−メチルカプロラクタム、N、N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−アセチルピロリジン、N−アセチルピペリジン、N−メチルピペリドン−2、N、N’−ジメチルエチレン尿素、N、N’−ジメチルプロピレン尿素、N、N、N’、N’−テトラメチルマロンアミド、N−アセチルピロリドン、N、N、N’、N’−テトラメチル尿素、ジメチルスルホキシドなどである。また、具体的な商品としては、テクノーラ(登録商標)(帝人テクノプロダクツ株式会社製)、トワロン(登録商標)(帝人アラミドBV社製)等が挙げられる。
【0015】
本発明においては、広角X線回折より求めた結晶化度が8〜35%であることが肝要であり、該結晶化度は好ましく8〜30%、より好ましく8〜20%である。かかる結晶化度を有する芳香族ポリアミド粒子とすることで、耐薬品性が格段に向上し、NMP系溶剤を含むバインダー樹脂中に、上記芳香族ポリアミド粒子を添加剤として含有させても、該粒子が溶解または膨潤し、コーティング材(塗料等を含む)の粘度が上がるといった問題が発生しない。上記結晶化度は、低いと十分な耐薬品性が得られず、上記以上に高くしようとすると後述する熱処理でポリマー分解が進み、かえって耐薬品性が低下し好ましくない。
【0016】
本発明において用いられる芳香族ポリアミド粒子の平均粒径は、通常5〜100μmである。この様な芳香族ポリアミド粒子は、特開2005−120213号公報、特開2008−106086号公報に記載された方法で製造したものであってよい。つまり、該芳香族ポリアミドを溶液紡糸により繊維化し単離した後、粉砕してパウダー化した粒子であってもよく、その形状は、球状の他、パルプ状、リン片状、針状、繊維状等が混在していてもよい。
【0017】
以上に説明した芳香族ポリアミド粒子は、以下に述べるような高温熱処理をすることによって製造することができる。この際の熱処理温度は、後述の測定法によって測定される芳香族ポリアミド粒子の融点または擬融点Tmqに対し、下記式を満足する温度範囲T(℃)内であることが必要である。
350≦T<Tm−30
(但し、Tmは芳香族ポリアミドの融点または擬融点を示す。)
【0018】
かくして得られた芳香族ポリアミド粒子は、広角X線回折より求めた結晶化度が4%以下であることが好ましく、2〜3%であることがより好ましい。結晶化度が4%を越える場合は、該芳香族ポリアミドを繊維化して単離した後、粉砕してパウダー化することが難しく、5〜100μm粒径の均一な粒子が得られない恐れがある。
【0019】
熱処理温度T(℃)が350℃未満の場合は、熱処理による耐薬品性向上の効果が得られない。一方、熱処理温度T(℃)がTmq−30℃以上の場合には、短時間の処理でも繊維自身の劣化が大きくなり、また均一な処理が困難となる為好ましくない。好ましい熱処理温度は、350℃以上440℃未満であり、より好ましくは350℃以上400℃未満である。
【0020】
このようにして得られた芳香族ポリアミド粒子は、樹脂、溶剤を含む組成物とし、これをコーティング材(塗料等を含む)として、機械部品、電気電子部品、建築物、精密機械の部品等に塗布やスプレーして用いることができる。この際、本発明の芳香族ポリアミド粒子は、高い耐薬品性を有し、溶剤、特に特にNMP(N−メチル−2−ピロリドン)が含まれていても、芳香族ポリアミド粒子が凝集や膨潤して、コーティング材の粘度を上げたりすることがなく、これをスプレーする場合にノズル詰まりを発生せず、また、これを塗布する場合でもスムーズに塗布を行うことができる。
【0021】
上記溶剤としては、NMPにキシレン等の芳香族系溶剤や、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤を加えた混合溶剤等も用いることができる。また、上記樹脂としては、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリイミドなどを挙げることができる。
【0022】
上記のように、塗布やスプレー等をした後、前記の機械部品などの表面には、本発明の芳香族ポリアミド粒子と樹脂とを含む組成物が形成され、その際、該組成物においては、芳香族ポリアミド粒子が凝集することなく均一に分散して該表面をコートする。このため、機械部品等に優れた耐摩耗性を付与することができる。
【0023】
また、上記組成物には、固体潤滑剤が含まれていてもよく、これにより、機械部品等に、耐摩耗性に加え、さらに、高い摺動性を付与することができる。
上記、固体潤滑剤は、公知のものから適切なものを選択して用いることができるが、固体潤滑剤を上記樹脂に分散させて潤滑膜を摺動部材の表面に形成することにより、摩擦係数を低減させて、なじみ性を確保することができる。なお2硫化モリブデン(MoS)及び2硫化タングステン(WS)等の硫化物、ポリテトラフルオロチエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロフロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド及びポリクロロトリフルオロチレン等のフッ素化合物、黒鉛(グラファイト)、フッ化黒鉛等から選択することが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例で用いた物性の測定方法は下記の通りである。
(1)結晶化度
広角X線回折の回折強度曲線から結晶化度を以下の方法により求めた。リガク電機株式会社「X線ハンドブック」(2000年2月21日 3版発行)に記載のピーク分離による結晶化度算出方法に従い、全散乱曲線から非晶成分と結晶成分のピークを分離し、全散乱強度における結晶成分の散乱強度の割合から求めた。
(2)NMP溶液粘度
80℃のNMP溶液中で粒子を30分間攪拌し、振動型粘度計にて粘度を求めた。
(3)凝集物の発生有無
粒子がNMP溶剤に浸漬させた際、膨潤または凝集が発生したかどうかを確かめるため、NMP溶液中に粒子を300時間浸漬させた後、150メッシュの金網に通し、残渣物がないかを目視で判断した。残渣物がなかったものを○、残渣物があったものを×とした。
(4)スプレー性
粒子100重量部に対して、ポリアミドイミド(日立化成株式会社製、商品名HPC−5000)600重量部、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名ルブロンL2)180重量部からなるコーティング材を作成し、これを金属面に孔直径1.0mmのノズルから20分間スプレーし、ノズル詰まりが発生しなかったものを○、発生したものを×とした。
(5)重量減少率
粒子を熱処理することによる重量減少率を熱処理前後の重量より測定した。
【0025】
[実施例1]
結晶化度2.14%、粒径5μmのパラ型芳香族ポリアミド粒子(帝人テクノプロダクツ製テクノーラ)を用いた。
(融点、擬融点Tmqの測定)
上記ポリマーに真の融点Tmが存在するか否かははっきりしない、つまり、このポリマーは共重合ポリマーであるので、融点範囲が広く、正確なTmを決定することができないからである。
しかしながらこのポリマーの融解開始温度はフローテスター、DTA、DSCにより観察することができる。ここで、窒素雰囲気下におけるDTAの10℃/分の昇温速度のとき検知される融解開始温度(べースラインと吸熱ピークの勾配との交点における温度)を擬融点Tmqとする。DSCにおいても同様に定義される。
また、フローテスターにおいては、Tmqになると100kg/cm以上の押し出し圧のもとに、直径1mm以上、流路10mm以下のノズルからポリマーが流出する。しかし、同時に架橋化が進行して流出は中断される。Tmqの決定は上記DTA、DSC、フローテスターの併用によって確実なものとなる。
このようにして求められた擬融点Tmqは、470℃であった。
上記に限らず、パラ型芳香族ポリアミド粒子が、DTA、DSCにより、結晶化ピークにより明確な融点を有する場合は、その温度を用いる。
(耐薬品性向上処理)
上記粒子を、350℃のオーブン内で30分間乾熱処理を行った。得られた粒子の物性を表1に示す。
【0026】
[実施例2]
実施例1において、耐薬品性向上処理時の温度を、350℃から400℃に変更した以外は実施例1と同様に実施した。得られた粒子の物性を表1に示す。
【0027】
[比較例1]
実施例1において、耐薬品性向上処理を行わなかった、即ち得られた粒子をそのまま測定に供した以外は実施例1と同様に実施した。得られた粒子の物性を表1に示す。
【0028】
[比較例2]
実施例1において、耐薬品性向上処理時の温度を、350℃から300℃に変更した以外は実施例1と同様に実施した。得られた粒子の物性を表1に示す。
【0029】
[比較例3]
実施例1において、耐薬品性向上処理時の温度を、350℃から450℃に変更した以外は実施例1と同様に実施した。得られた粒子の物性を表1に示す。
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の芳香族ポリアミド粒子は、耐熱性が良好であり、優れた耐薬品性を発揮し、溶剤を使用する環境下においても問題なく使用することができ、溶剤を含むコーティング材(塗料等を含む)等に極めて好適に用いることができる。本発明の芳香族ポリアミド粒子を含むコーティング材は、これをスプレーする場合にノズル詰まりが発生せず、これを塗布する場合でもスムーズな塗布を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドからなる芳香族ポリアミド粒子であって、広角X線回折より求めた該粒子の結晶化度が8〜35%であることを特徴とする耐薬品性が向上した芳香族ポリアミド粒子。
【請求項2】
芳香族ポリアミド粒子が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミドである請求項1記載の耐薬品性が向上した芳香族ポリアミド粒子。
【請求項3】
芳香族ポリアミドからなる芳香族ポリアミド粒子を、下記式を満足する温度範囲T(℃)内で熱処理することを特徴とする耐薬品性が向上した芳香族ポリアミド粒子の製造方法。
350≦T<Tm−30
(但し、Tmは芳香族ポリアミドの融点または擬融点を示す。)
【請求項4】
熱処理前の芳香族ポリアミド粒子の、広角X線回折より求めた結晶化度が4%以下である請求項3記載の耐薬品性が向上した芳香族ポリアミド粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2記載の芳香族ポリアミド粒子と、樹脂とを含む組成物。
【請求項6】
請求項1または2記載の芳香族ポリアミド粒子、樹脂、及び固体潤滑剤を含む組成物。
【請求項7】
請求項1または2記載の芳香族ポリアミド粒子、樹脂、及び溶剤を含む組成物。
【請求項8】
樹脂がポリアミドイミド樹脂である請求項5〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれかに記載の組成物からなるコーティング材。

【公開番号】特開2012−46690(P2012−46690A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192123(P2010−192123)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】