説明

耐還元性誘電体磁器組成物およびその使用

【課題】 焼成時の耐還元性に優れ、焼成後に優れた容量温度特性及び誘電特性を有するとともに、絶縁抵抗の寿命が高められた、耐還元性誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】 (BaO)m・TiO2(ここで、mは、0.990〜0.994である)100重量%に対して、
23を0.6〜1.2重量%、
MgOを0.6〜1.5重量%、
BaSiO3を0.6〜2.0重量%、
WO3を0.02〜0.2重量%、
MnCO3を0.1〜0.4重量%、および
MoO3を0.02〜0.2重量%
で含む、耐還元性誘電体磁器組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐還元性誘電体磁器組成物および該誘電体磁器組成物を用いて得られる誘電体層を有する積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、プロセッサ、特に高出力マイクロプロセッサの電源の減結合用および緩衝用として用いられる。高出力モードで動作する間、これらの能動電子部品は多量の熱を発生し、たとえ集中的に冷却しても、永続的な動作における高出力プロセッサの温度は70〜80℃にもなる。一方、これらの積層セラミックコンデンサは、例えば寒冷地の冬季には−20℃程度以下まで周囲の環境温度が下がることもある。このように、積層セラミックコンデンサは、広い温度範囲で使用されうるため、温度特性が平坦であることが要求される。
【0003】
さらに、近年では、積層セラミックコンデンサの内部電極に、Pd、Au、Ag等の高価な貴金属の他、Ni等の卑金属も用いることができるよう、誘電体磁気組成物は、還元性雰囲気中で焼成可能であることが要求される。
【0004】
これらを受けて、種々の誘電体磁器組成物が開発されている(特許文献1〜3参照)。特許文献1では、主成分であるBaTiOと、MgO、CaO、BaO、SrOおよびCrから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、(Ba,Ca)SiO2+x (ただし、x=0.8〜1.2)で表される第2副成分と、V、MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、R1の酸化物(ただし、R1はSc、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分と少なくとも有する誘電体磁器組成物であって、主成分であるBaTiO100モルに対する各副成分の比率が、第1副成分:0.1〜3モル、第2副成分:2〜10モル、第3副成分:0.01〜0.5モル、第4副成分:0.5〜7モル(ただし、第4副成分のモル数は、R1単独での比率である)である誘電体磁器組成物が提案されている。
【0005】
特許文献2では、チタン酸バリウムを含む主成分と、MgO、CaO、BaO、SrOおよびCrから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分と、V、MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、R1の酸化物(ただし、R1はSc、Er、Tm、YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分と、CaZrOまたはCaO+ZrOを含む第5副成分とを少なくとも有する誘電体磁器組成物であって、チタン酸バリウムを含む主成分100モルに対する各副成分の比率が、第1副成分:0.1〜3モル、第2副成分:2〜10モル、第3副成分:0.01〜0.5モル、第4副成分:0.5〜7モル(ただし、第4副成分のモル数は、R1単独での比率である)、第5副成分:0<第5副成分≦5モルである誘電体磁器組成物が提案されている。
【0006】
特許文献3では、チタン酸バリウムを含む主成分と、AEの酸化物(ただし、AEはMg、Ca、BaおよびSrから選択される少なくとも1種)を含む第1副成分と、Rの酸化物(ただし、RはY、Dy、HoおよびErから選択される少なくとも1種)を含む第2副成分とを有し、前記主成分100モルに対する各副成分の比率が、第1副成分:0モル<第1副成分<0.1モル、第2副成分:1モル<第2副成分<7モルである誘電体磁器組成物が提案されている。
【0007】
しかし、これらの誘電体磁器組成物は、誘電率が低く、特に誘電特性の点で更なる改善が要求されていた。
【特許文献1】特開2000−154057号公報
【特許文献2】特開2001−192264号公報
【特許文献3】特開2002−255639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、焼成時の耐還元性に優れ、焼成後に優れた容量温度特性及び誘電特性を有するとともに、絶縁抵抗の寿命が高められた、耐還元性誘電体磁器組成物を提供することである。また、本発明の目的は、該誘電体磁器組成物を用いて製造された、信頼性が高められた積層セラミックコンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(BaO)m・TiO2(ここで、mは、0.990〜0.994である)100重量%に対して、Y23を0.6〜1.2重量%、MgOを0.6〜1.5重量%、BaSiO3を0.6〜2.0重量%、WO3を0.02〜0.2重量%、MnCO3を0.1〜0.4重量%、およびMoO3を0.02〜0.2重量%で含む、耐還元性誘電体磁器組成物に関する。また、本発明は、上記の耐還元性誘電体磁器組成物を用いて得られる誘電体層を有する積層セラミックコンデンサに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼成時の耐還元性に優れ、焼成後に優れた容量温度特性及び誘電特性を有するとともに、絶縁抵抗の寿命が高められた、耐還元性誘電体磁器組成物が提供される。
【0011】
例えば、本発明の耐還元性誘電体磁器組成物を、酸素分圧P(O2)が、例えば10−9〜10−12MPaの低酸素分圧下において、例えば1200℃以下で焼成しても、誘電率が3500以上と高く、誘電体損失tanδは6%以下で、25℃での静電容量を基準とした−55℃〜+85℃での静電容量変化率が±15%以下とEIA規格のX5R特性を満足する良好な容量温度特性を有し、常温における容量・絶縁抵抗積(C・R積)が1000以上で、かつ高温負荷加速寿命試験10時間後においても著しい劣化を生じなく、かつ直流破壊電圧が150V/μm以上と高い、耐還元性誘電体磁器組成物が得られる。本発明の耐還元性誘電体磁器組成物を用いて製造された積層セラミックコンデンサには、従来の貴金属より安価な卑金属を使用することができ、たとえば積層セラミックコンデンサの大幅なコストの低減が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の耐還元性誘電体磁器組成物は、(BaO)m・TiO2(ここで、mは、0.990〜0.994を表す)を含む。mがこの範囲にあると、焼成後において、温度による容量変化が抑制され、かつ寿命も長い。mは、0.990〜0.994であることが好ましく、より好ましくは、0.992〜0.994である。
【0013】
(BaO)m・TiO2(ここで、mは、0.990〜0.994を表す)の製造方法は、特に限定されない。例えば、BaCO3のモル数:TiO2のモル数がm:1となるように秤量し、湿式混合して粉砕した後、乾燥させて、次いで1000〜1300℃の温度で、1〜3時間、か焼することにより製造することができる。BaCO3に代えて、BaC24を使用することも可能である。
【0014】
本発明の組成物は、(BaO)m・TiO2(ここで、mは、上記と同義である)100重量%に対して、Y23を0.6〜1.2重量%、好ましくは、0.6〜0.9重量%で含む。Y23がこの範囲にあると、焼成後において、温度による容量変化が抑制され、誘電率が十分高く、かつ寿命も長い。
【0015】
本発明の組成物は、(BaO)m・TiO2(ここで、mは、上記と同義である)100重量%に対して、MgOを0.6〜1.5重量%、好ましくは、0.6〜1.2重量%で含む。MgOがこの範囲にあると、焼成後において、温度による容量変化が抑制され、絶縁破壊電圧が十分高い上に、誘電率も十分高く、かつ寿命も長い。
【0016】
本発明の組成物は、(BaO)m・TiO2(ここで、mは、上記と同義である)100重量%に対して、BaSiO3を0.6〜2.0重量%、好ましくは、0.8〜1.5重量%で含む。BaSiO3がこの範囲にあると、焼成後において、温度による容量変化が抑制され、誘電率が十分高く、かつ寿命も長い。
【0017】
本発明の組成物は、(BaO)m・TiO2(ここで、mは、上記と同義である)100重量%に対して、WO3を0.02〜0.2重量%、好ましくは、0.02〜0.1重量%で含む。WO3がこの範囲にあると、焼成後において、C・R積が大きく、絶縁破壊電圧も十分高く、かつ寿命も長い。
【0018】
本発明の組成物は、(BaO)m・TiO2(ここで、mは、上記と同義である)100重量%に対して、MnCO3を0.1〜0.4重量%、好ましくは、0.2〜0.4重量%で含む。MnCO3がこの範囲にあると、焼成後において、温度による容量変化が抑制され、C・R積が大きく、誘電率も十分高く、かつ寿命も長い。
【0019】
本発明の組成物は、(BaO)m・TiO2(ここで、mは、上記と同義である)100重量%に対して、MoO3を0.02〜0.2重量%、好ましくは、0.05〜0.15重量%で含む。MoO3がこの範囲にあると、焼成後において、温度による容量変化が抑制され、C・R積が大きく、絶縁破壊電圧も十分高く、かつ寿命も長い。
【0020】
本発明の組成物を用いて、積層セラミックコンデンサの誘電体層を形成することができる。
【0021】
積層セラミックコンデンサの製造方法は、特に限定されず、例えば、以下により製造することができる。
【0022】
基材に、(1)本発明の組成物を印刷または塗布する。本発明の組成物は、場合により、慣用の成分、例えばエタノール、トルエン、プロパノール、ポリビニルアルコール、水等の溶媒、ポリビニルブチラール、エチルセルロース等のバインダ、フタル酸ベンジル部シル等の可塑剤と混合して用いてもよい。印刷または塗布は、通常、焼成後の誘電体層の厚さが2.5〜3.5μmになるようにすることが好ましい。印刷または塗布の方法は、特に限定されず、スクリーン印刷、転写、ドクターブレード等により行うことができる。
【0023】
(2)次いで、工程(1)で印刷または塗布された層を乾燥させる。乾燥は、通常、 80〜100℃で、5〜10分間加熱することによって実施される。
【0024】
(3)形成された層に、内部電極用ペーストを印刷または塗布する。内部電極ペーストは、ニッケル等の卑金属のペーストを好適に用いることができる。印刷または塗布の方法は、特に限定されない。印刷する厚さは、通常、焼成後の内部電極の厚さが0.8〜1.2μmになるような厚さである。
【0025】
(4)次いで、工程(3)で印刷された層を乾燥して、内部電極ペースト層を形成する。乾燥は、通常、80〜100℃で5〜10分間加熱することによって実施される。
【0026】
(5)次いで、上記の工程(1)〜(4)を、所望の積層回数が得られるまで反復する。
【0027】
(6)このようにして得られた未焼成の積層体を、基材から外し、切断して積層ブロックを作製した後、焼成を行う。焼成は、酸素分圧P(O2)が、例えば10−9〜10−12MPaの低酸素分圧下において、1100〜1300℃、好ましくは1180〜1200℃で焼成し、その後、必要に応じて、N2−H2O雰囲気中900〜1100℃で再酸化処理を行うことができる。
【0028】
(7)焼成後の積層セラミックコンデンサに外部電極用の導電ペーストを塗布し、その後に別途、焼成を行うことにより、一対の外部電極を形成して、チップとすることができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例および比較例によって説明する。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。実施例および比較例において、部は重量部、組成の%は重量%で示す。
【0030】
表1に示した各試料の組成となるように各成分を配合した。なお、(BaO)m・TiO2 およびBaSiO3は以下のようにして調製した。
(BaO)m・TiO2の調製
BaC24のモル数:TiO2のモル数が、表中のmの値:1となるよう秤量し、これをボールミルで6時間湿式混合、粉砕した後乾燥させ、1100℃で2時間空気中でか焼した。さらに擂潰攪拌機等で粗粉砕したあと再度ボールミルで20時間湿式粉砕し、乾燥させて(BaO)m・TiO2を得た。
BaSiO3の調製
BaCO3とSiO2が等モルになるよう秤量し、これをボールミルで6時間湿式混合、粉砕した後乾燥させ、840℃で2時間空気中でか焼した。さらに擂潰攪拌機等で粗粉砕したあと再度ボールミルで20時間湿式粉砕し、乾燥させてBaSiO3を得た。
【0031】
次いで、これらをボールミルで、エタノール、トルエンを加えて湿式混合粉砕した。含まれる粒子の平均粒径は0.3μmである。その後ポリビニルブチラール系バインダとフタル酸ベンジルブチルをさらに投入し、混合してペーストを調整した。このペーストをドクターブレード法でシート成形し、厚さ2.3μmのグリーンシートを得た。そしてこのグリーンシート上にニッケル電極ペーストをスクリーン印刷し、乾燥後互いに対向電極になるように積層し、熱圧着により一体化した。なお、ニッケル電極ペーストは、平均粒径0.2μmのニッケル粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をターピネオール92重量部に溶解したもの)40重量部と、ターピネオール10重量部とを3本ロールにより混練してペースト化したものである。
【0032】
熱圧着により一体化した積層体から個々のコンデンサ用積層ブロックをブレードで切り出した。このようにして得られた積層ブロックを、H2:N2が体積比で1:99の雰囲気中で500℃まで加熱しバインダを燃焼させた後、酸素分圧10−9〜10−12MPaのH2-N2-H2Oからなる還元性雰囲気中において表2に示す温度で2時間焼成し、その後N2−H2O雰囲気中1000℃で再酸化処理を行い、積層セラミックコンデンサとした。
【0033】
得られた積層セラミックコンデンサの表面に銅電極ペーストを塗布し、中性雰囲気中900℃で焼付けし、外部電極を形成し、積層セラミックコンデンサとした。この実施例で作成したチップ積層セラミックコンデンサの寸法は、それぞれ以下のとおりである。
外観寸法:幅=1.4mm、長さ=2.1mm、厚み=0.4mm
誘電体厚み:t=1.7μm
有効積層数:N=29
【0034】
実施例の各試料について各種特性を測定した。測定方法は以下のとおりである。
静電容量(C)、誘電正接(tanδ):自動ブリッジで1KHz、1Vrmsで測定した。
絶縁抵抗(R):高絶縁抵抗により6.3Vを1分間印加した後の値を測定した。
C・R積:上記CとRの積を求めた。
容量温度変化率:25℃での静電容量を基準とし、−55℃と85℃での変化率で最大である値を示した。尚、全ての試料は85℃での変化率が最大であったので、85℃での変化率を示した。
高温負荷加速寿命試験(HALT):各試料を10個づつ105℃の恒温槽に入れて直流電圧25Vを印加し、直流電界下で絶縁抵抗を測定した。絶縁抵抗が1×10Ω以下になるまでの時間を寿命時間とした。
絶縁破壊電圧(VB):10V/秒の昇圧スピードで直流電圧を印加し、5mAの漏洩電流が観察されたときの電圧を測定することにより求めた。
【0035】
表1に、測定結果を示す。*は、比較例である。
【0036】
【表1−1】

【0037】
【表1−2】

【0038】
mがそれぞれ1.004および0.996の例1、2では、容量温度変化率が−15%より大きく、かつ寿命時間が短い。mが0.985の例6では、寿命時間が短い。
【0039】
の配合量が、0.5重量%の例7では、容量温度変化率が−15%より大きく、1.4重量%の例12では、誘電率が小さく、かつ寿命時間が短い。
【0040】
MgOの配合量が、0.4重量%の例13では、容量温度変化率が−15%より大きく、絶縁破壊電圧が150V/μm以下と低く、かつ寿命時間が短い。1.7重量%の例18では、誘電率が3500以下と小さい。
【0041】
BaSiOの配合量が、0.4重量%の例19では、容量温度変化率が−15%より大きく、かつ寿命時間が短い。2.5重量%の例24では、誘電率が3500以下と小さい。
【0042】
WO3の配合量が、0重量%の例25では、C・R積が1000以下となり、絶縁破壊電圧が150V/μm以下と低く、かつ寿命時間が短い。0.3重量%の例30では、C・R積が1000以下となり、絶縁破壊電圧が150V/μm以下と低く、かつ寿命時間が短い。
【0043】
MnCO3の配合量が、0.05重量%の例31では、容量温度変化率が−15%より大きくなり、C・R積が1000以下となり、かつ寿命時間が短い。0.6重量%の例35では、誘電率が3500以下と小さい。
【0044】
MoO3の配合量が、0重量%の例36では、絶縁破壊電圧が150V/μm以下と低く、かつ寿命時間が短い。0.3重量%の例40では、容量温度変化率が−15%より大きくなり、C・R積が1000以下となり、絶縁破壊電圧が150V/μm以下と低い。
【0045】
一方、本発明の実施例にあたる、例3〜5、8〜11、14〜17、20〜23、26〜29、32〜34、37〜39は、いずれの特性もバランスよく良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、焼成時の耐還元性に優れ、焼成後に優れた容量温度特性及び誘電特性を有するとともに、絶縁抵抗の寿命が高められた、耐還元性誘電体磁器組成物が提供される。該誘電体磁器組成物を用いて製造された積層セラミックコンデンサなどの電子部品は信頼性が高く、産業上の有用性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(BaO)m・TiO2(ここで、mは、0.990〜0.994である)100重量%に対して、
23を0.6〜1.2重量%、
MgOを0.6〜1.5重量%、
BaSiO3を0.6〜2.0重量%、
WO3を0.02〜0.2重量%、
MnCO3を0.1〜0.4重量%、および
MoO3を0.02〜0.2重量%
で含む、耐還元性誘電体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1記載の耐還元性誘電体磁器組成物を用いて得られる誘電体層を有する、積層セラミックコンデンサ。

【公開番号】特開2006−169061(P2006−169061A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365588(P2004−365588)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(591252862)ナミックス株式会社 (133)
【Fターム(参考)】