説明

耐酸性複合体及び補修工法

【課題】硫酸等で劣化したコンクリート構造物の補修が容易でしかも耐久性に優れる耐酸性複合体及び補修工法を提供する。
【解決手段】セメント及び高炉スラグを含有する水硬材料の硬化体層にアクリル樹脂の硬化体層を複合した耐酸性複合体である。水硬材料の硬化体層はシリカフューム及び/又はフライアッシュを含有する前記耐酸性複合体であることが好ましく、セメントはアルミナセメントであることが好ましく、前記硬化体層の空隙率は10〜50体積%であることが好ましく、アクリル樹脂の硬化体層は1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレート及び/又は1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する多官能(メタ)アクリレートを含有する(メタ)アクリレート類、重合開始剤、分解促進剤を主成分とする液を重合したものであることが好ましい。また、前記耐酸性複合体をコンクリート表面に形成するコンクリートの補修工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、コンクリート構造物の劣化箇所の修復、特に温泉地帯や下水処理施設等のコンクリート構造物の補修に用いる、耐酸性複合体及び補修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や温泉地帯等では、微生物や火山ガスの影響で硫化水素が発生し、そこに水が介在すると硫酸が生成する。このような箇所においては、コンクリート構造物の腐食が問題となる。コンクリート等のセメント硬化体は、硫酸に接触するとコンクリート中の水酸化カルシウムと反応することでニ水石膏が生成し、さらに、エトリンガイトが生成することによってコンクリートの膨張・劣化が起こる。
硫酸による劣化箇所の補修方法としては、劣化部をウォータージェットにより除去し断面修復あるいは不陸調整してから樹脂ライニングを行う方法が実施されている。これに用いる修復材としては、高炉水砕スラグにポリマーを配合した材料(特許文献1)、アルミナセメントからなる材料(特許文献2、3)、高炉水砕スラグやシリカフューム等の微粉末を多量に混和したセメントモルタルが使用されている(特許文献4)。また、アルミナセメントと高炉スラグ微粉末を用いた材料で、5μm以下のアルミナセメント粒子を25重量%以下とし、リチウム塩を含有する材料(特許文献5)や、置換基としてスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物をセメント100重量部に対して0.5〜4質量部含有する材料(特許文献6)等が提案されている。
【特許文献1】特開平03−290348号公報
【特許文献2】特開2003−89565号公報
【特許文献3】特開2004−292245号公報
【特許文献4】特開2000−128618号公報
【特許文献5】特開2002−293603号公報
【特許文献6】特開2003−292362号公報
【0003】
また、樹脂ライニングに使用する樹脂の成分としては、タールエポキシ樹脂、エポキシ樹脂、セラミックパウダー入りエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ノンスチレン型ビニルエステル樹脂、ガラスフレーク入りビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウィスカ入り変性シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、アクリル樹脂(ここでのアクリル樹脂は、アクリルゴムベースポリマーにウレタン結合を介してアクリロイル基が付加したプレポリマーをラジカル重合して得られるアクリロイル変性アクリル樹脂で1回の塗布で1mmの塗膜が形成されることから比較的粘度が高いものを指す)等が知られている(非特許文献1)。
【非特許文献1】日本下水道事業団編著、下水道コンクリート構造物の腐食防食抑制技術及び防食技術指針・同マニュアル、発行元(財)下水道業務管理センター、平成14年12月
【0004】
コンクリートをセメント系材料で修復した後に樹脂をライニングする方法では、プライマー塗布、中塗り塗布、上塗り塗布といった複数層の樹脂ライニングを行うのが通常である。樹脂の種類によっては、中塗りや上塗りを2回実施するケースもあり、最終的に樹脂層を形成するために多くの工程が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、硫酸等で劣化したコンクリート構造物の補修が容易でしかも耐久性に優れる耐酸性複合体及び補修工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、(1)セメント及び高炉スラグを含有する水硬材料の硬化体層にアクリル樹脂の硬化体層を複合した耐酸性複合体、(2)水硬材料の硬化体層がシリカフューム及び/又はフライアッシュを含有することを特徴とする耐酸性複合体、(3)セメントがアルミナセメントであることを特徴とする(1)又は(2)の耐酸複合体、(4)水硬材料の硬化体層の空隙率が10〜50体積%であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかの耐酸性複合体、(5)アクリル樹脂の硬化体層が、1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレート及び/又は1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する多官能(メタ)アクリレートを含有する(メタ)アクリレート類、重合開始剤、分解促進剤を主成分とする液を重合したものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかの耐酸性複合体、(6)(1)〜(5)のいずれかの耐酸性複合体をコンクリート表面に形成することを特徴とするコンクリートの補修工法、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の耐酸複合体は、通常のコンクリートやモルタルよりも耐酸性に優れ、従来の樹脂と異なり数層に分けて塗布する必要がないので補修が効率的にでき、さらに、補修箇所の接着性に優れる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明で使用するセメントとは、特に限定されるものではなく、JIS R 5210に規定されている各種ポルトランドセメント、JIS R 5211、 JIS R 5212、及びJIS R 5213に規定された各種混合セメント、JISに規定された以上の混和材混入率で製造した高炉セメント、フライアッシュセメント及びシリカセメント、石灰石粉末等を混合したフィラーセメント、アルミナセメントから選ばれる1種又は2種以上等が挙げられる。
【0010】
本発明では耐硫酸性をより向上するセメントとしてはアルミナセメントを使用することが好ましい。アルミナセメントは、ポルトランドセメントと異なり、水和生成物として消石灰を生成せずに硬化体を形成するため耐硫酸性に優れる。アルミナセメントは、モノカルシウムアルミネートを主要鉱物として含有するクリンカー粉砕物から得られるものであり、例えば、アルミナセメント1号やアルミナセメント2号等が使用できる。
アルミナセメントの粉末度は、ブレーン比表面積2000〜8000cm/gが水和活性の点で好ましい.また、粒度調整を行ったアルミナセメントとして、粒子径5μm以下の粒子を全体の30質量%未満に抑制したものが硬化するときの収縮が小さくなるので好ましい。
【0011】
これらセメントを修復材として用いる場合は、通常、砂や砂利を配合したモルタルやコンクリートで施工することが好ましい。
また、セメント用混和材(剤)として利用されているあらゆる混和材との併用が耐硫酸性能を阻害しない範囲で使用可能である。例えば、AE剤、減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、発泡剤、起泡剤、分離低減剤、凝結調整剤、急結剤、防錆剤、防水剤、収縮低減剤、膨張剤、高強度混和材、防凍剤、ポリマーディスパージョン、消泡剤、水和熱低減剤、アルカリ骨材反応抑制剤、エフロレッセンス防止剤、急硬材、繊維、粘土鉱物等が挙げられる。
【0012】
本発明で使用する高炉スラグは、溶鉱炉で銑鉄と同時に生成する副産物である溶融スラグを水、空気などによって急冷した高炉スラグを粉砕して製造される微粉末であり、本発明においては高炉スラグ微粉末として、例えば、JIS A 6206に定めたものまたはこれに準ずるものを用いることが好ましい。
高炉スラグの使用量は、耐酸性能や硬化性能に影響のない範囲で使用すれば特に限定するものではないが、セメント100質量部に対して50〜150質量部が好ましい。
【0013】
本発明で使用するフライアッシュは、火力発電所などで微粉炭を燃焼する際に副生されるガラス質で20〜30μm程度の球状に近い粒子であり、例えば、JISA 6201に規定されているようなフライアッシュが使用される。
フライアッシュの使用量は、耐酸性能や硬化性能に影響のない範囲で使用すれば特に限定するものではないが、セメント100質量部に対して5〜30質量部が好ましい。
【0014】
本発明で使用するシリカフュームは、金属シリコンやフェロシリコン等を製造する際に発生する非晶質のSiOを主成分とし(一般に85〜90%)、平均直径0.1μm程度以下の球状の超微粒子である。
シリカフュームの使用量は、耐酸性能や硬化性能に影響のない範囲で使用すれば特に限定するものではないが、セメント100質量部に対して2〜15質量部が好ましい。
【0015】
本発明で使用する骨材は、特に限定されるものではなく、一般的に入手可能な骨材である。例えば、珪石骨材、石灰石骨材、重量骨材、軽量骨材などが挙げられる。耐酸性の点で石灰石骨材以外の骨材の使用が好ましい。
骨材の使用量は、耐酸性能や流動性に影響のない範囲で使用すれば特に限定するものではないが、セメントと高炉スラグ又はこれらにフライアッシュやシリカフュームを加えた混合物の合計100質量部に対して質量部が好ましい。150〜400質量部が好ましい。
【0016】
本発明で使用する水硬性材料は、施工時に水を加えて練り混ぜた後、コテ塗り工法、吹付け工法、グラウト工法等で施工する。各工法においては、適切な練混ぜ状態となるように調整し施工することが重要である。
水量は、各工法によって異なるので一概に限定するのは難しいが、セメントと高炉スラグ又はこれらにフライアッシュやシリカフュームを加えた混合物100質量部に対して、40〜60質量部が好ましい。通常、市販されているものであれば、各工法に合わせた材料設計がなされているので、材料を供給している各メーカーの施工要領書やカタログを参照し適切な水を加え練り混ぜて施工すればよい。
【0017】
本発明の耐酸性複合体は、水硬性材料の硬化体層にアクリル樹脂を複合する時に、アクリル樹脂が水硬性材料の硬化体表層に含浸し複合化した層をできるだけ深部まで形成させることが重要である。そのため、水硬性材料の硬化体の空隙率は、10体積%未満でも本発明のアクリル樹脂は粘性が低いので複合層の形成は可能であるが、10〜50体積%の範囲にあることが好ましい。10体積%未満では、浸透深さが小さいためピンホールが生じやすくなる場合があり、50体積%を超えるとアクリル樹脂が浸透しすぎて使用量が増大し経済性へ影響を与える。
本発明の水硬性材料の硬化体の空隙率は、特に限定するものではないが、例えば、空気連行剤、発泡剤、起泡剤、軽量骨材、粒度分布や粒径を調整した骨材等を使用することで調整を行うことができる。
【0018】
本発明で使用するアクリル樹脂は、水硬性材料の硬化体層に複合化するものである。主に、水硬性材料の硬化体表面に塗布し、硬化体内部に含浸させ、硬化体とアクリル樹脂の複合層を形成することが可能である低粘性のものが好ましい。
未硬化のアクリル樹脂は、(メタ)アクリレート類、重合開始剤、分解促進剤を主成分とするものである。調製方法としては、重合開始剤と分解促進剤を含まない(メタ)アクリレート類を2つに分け、一方に重合開始剤(A液)、他方に分解促進剤(B液)を加えることで二液型のアクリル樹脂とし、塗布する時に、A液とB液を混合して硬化体表面に刷毛やローラー等を用いて塗布すればよい。塗布後、(メタ)アクリレート類は重合して、アクリル樹脂の硬化体層が形成される。
混合した未硬化のアクリル樹脂の粘度は、通常、50〜2000mPa・sが好ましく、100〜1500mPa・sがより好ましい。50mPa・s未満であると、塗布したときにダレることがあり、2000mPa・sを超えると浸透性が低下することがある。
【0019】
本発明の未硬化のアクリル樹脂(以下、単に「アクリル樹脂」という。)を構成する各成分について説明する。
本発明の(メタ)アクリレート類とは、1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレート、1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する多官能(メタ)アクリレート、1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有しない(メタ)アクリレート等であり、これらの1種又は2種以上を使用することが可能であるが、1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレート及び/又は1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する多官能(メタ)アクリレートを含有することが特に好ましい。
【0020】
1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレートとしては、アリル(メタ)アクリレート等のアリル基を有する(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、安全性や接着性の点でジシクロペンテニル基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。
1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、両末端メタクリル変性液状ポリブタジエン、両末端アクリル変性液状ポリアクリロニトリルブタジエン、両末端メタクリル変性液状部分水素添加ポリブタジエン、両末端アクリル変性液状ポリブタジエン等が挙げられ、これらの中で両末端を(メタ)アクリル変性したブタジエン系オリゴマーが接着性の点で好ましい。
【0021】
1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有しない(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート,エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウラリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アルキルオキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アルキルオキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート、エトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性フタル酸(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性コハク酸(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、テトラフロロプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルアンモニウムクロリド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2−ビス(4−(メタ)アクリロテトラエトキシフェニル)プロパン、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
【0022】
本発明の重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤の働きがあるものが使用できる。例えば、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
有機過酸化物には次のようなものが挙げられる。メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド等のアルキルパーオキサイド類、アセチルパーオキサイド等のアシルパーオキサイド類、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、t−ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル類等が挙げられる。
アゾ化合物には次のようなものが挙げられる。アゾイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド等のアゾアミジン化合物類、2,2’−アゾビス{2−メチル−ノルマル−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}等のアゾアミド化合物類、2,2’−アゾビス(2,2,4−トリメチルペンタン)等のアルキルアゾ化合物類等が挙げられる。
重合開始剤として、これらの1種又は2種以上を使用することができるが、接着性や硬化性の点で有機過酸化物の使用が好ましい。
【0023】
本発明の分解促進剤としては、重合開始剤の分解を促進させる働きをするもので、チオ尿素誘導体、アミン類、有機酸の金属塩、有機金属キレート化合物等が挙げられる。チオ尿素誘導体としては、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、エチレンチオ尿素等が挙げられる。アミン類としては、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エチルジエタノールアミン等が挙げられる。有機酸の金属塩としては、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸コバルト、オクチル酸鉄等が挙げられる。
有機金属キレート化合物としては、銅アセチルアセトネート、マンガンアセチルアセトネート、鉄アセチルアセトネート、コバルトアセチルアセトネート等が挙げられる。
分解促進剤として、これらの1種又は2種以上を使用することができるが、硬化性、湿潤面での接着性に優れる点で有機金属塩及び/又は有機金属キレート化合物の使用が好ましい。
【0024】
本発明のアクリル樹脂には、本発明の目的を損なわない範囲で、重合禁止剤、着色剤、溶剤、防錆剤、増粘剤、パラフィン類、シランカップリング剤、キレート化剤、染料、顔料、難燃剤、界面活性剤、炭酸カルシウムやシリカに代表される無機質フィラー等の各種添加剤を併用することが可能である。
【0025】
本発明の耐酸性複合体の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、水硬性材料に水を加えミキサで練り混ぜ、得られた混練物をコテ塗り工法、吹付け工法、グラウト工法等のいずれかの方法により、コンクリートの劣化部を除去した箇所に打ち継いで硬化させる。さらに、その硬化した表面に、2液型のアクリル樹脂を刷毛やローラー等を用いて塗布する方法が挙げられる。
本発明では、水硬性材料の硬化体層にアクリル樹脂を塗布した後に、さらに、各種パテ状の粘度の高い硬化性樹脂組成物、板状の成形物、ネット状の成形物、セメント組成物等で被覆してもかまわない。
【実施例1】
【0026】
表1に示す配合割合で、アルミナセメントを含有する水硬性材料に水を加え練り混ぜた後、4×4×16cmの型枠に詰め、20℃の室内で1日気中養生した後に脱型した。その硬化体の表面に、アクリル樹脂を刷毛で全面に塗布し(塗布回数:1回)アクリル樹脂を硬化させたものを試験体とした。アルミナセメントを含有する水硬性材料の硬化空隙率(アクリル樹脂を塗布しないもの)、アクリル樹脂の浸透深さ、5質量%硫酸水溶液の中に28日間浸漬し硫酸浸透深さを測定した。なお、比較として、アクリル樹脂の替わりにエポキシ樹脂を使用した場合と、アクリル樹脂を塗布しない場合と、アルミナセメントの替わりに普通ポルトランドセメントを用いた場合についても同様に行った。結果を表2に示す。
【0027】
(使用材料)
セメント:電気化学工業社製、普通ポルトランドセメント
アルミナセメント:電気化学工業社製、アルミナセメント1号
高炉スラグ:高炉水砕スラグ、市販品、ブレーン比表面積6100cm/g
骨材:珪砂、最大粒子径2.5mm、市販品
軽量骨材:黒曜石を焼成して製造した軽量骨材、最大粒子径1.5mm、市販品
空気連行剤:長鎖オレフィンスルホン酸塩系、市販品
アクリル樹脂A:1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレート(ジシクロペンテニル基を有するメタアクリレート)と、1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する多官能(メタ)アクリレート(両末端メタクリル変性液状ポリブタジエン)を含有するアクリル樹脂、電気化学工業社製、商品名「ハードロックII、DK550−003」、粘度300mPa・s、混合比A液(重合開始剤:クメンハイドロパーオキサイドを含有):B液(分解促進剤:オクチル酸コバルトを含有)=1:1、塗布回数1回
アクリル樹脂B:1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレート(ジシクロペンテニル基を有するメタアクリレート)を含有するアクリル樹脂、電気化学工業社製、商品名「ハードロックII、DK530−005」、粘度500mPa・s、混合比A液(重合開始剤:クメンハイドロパーオキサイドを含有):B液(分解促進剤:オクチル酸コバルトを含有)=1:1、塗布回数1回
アクリル樹脂C:1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレート(ジシクロペンテニル基を有するメタアクリレート)と、1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有しない(メタ)アクリレート(2−エチルへキシルメタアクリレート)を含有するアクリル樹脂、電気化学工業社製、商品名「ハードロックII、DKP−63」、粘度1000mPa・s、混合比A液(重合開始剤:クメンハイドロパーオキサイドを含有):B液(分解促進剤:オクチル酸コバルトを含有)=1:1、塗布回数1回
エポキシ樹脂A:変性ポリアミドアミン系硬化剤系、市販品、粘度:9000mPa・s、混合比A液(主剤):B液(硬化剤)=4:1、塗布回数1回
エポキシ樹脂B:変性ポリアミドアミン系硬化剤系(低粘度タイプ)、市販品、粘度:950mPa・s、混合比A液(主剤):B液(硬化剤)=2:1、塗布回数1回
【0028】
(測定方法)
空隙率:アクリル樹脂を塗布していない水硬性材料の硬化体の試験体について、脱型1日後にASTM−C−642に準拠し求めた。
アクリル樹脂の浸透深さ:アクリル樹脂を試験体に塗布しアクリル樹脂が硬化した後、試験体をカッターで切断し切断面を走査型電子顕微鏡で観察し浸透深さを求めた。
硫酸浸透深さ:アルミナセメントを含有する水硬性材料の硬化体あるいはアクリル樹脂を塗布しアクリル樹脂が硬化した試験体を、温度20℃で5質量%の硫酸水溶液中に28日間浸漬後、硫酸イオンの浸透深さを測定した。浸透深さの判定はフェノールフタレイン法で行った。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表2から、本発明の耐酸性複合材は、硫酸の浸透が無く耐酸性に優れていることが分かる。普通セメントを用いた場合、硫酸の浸透は、浸透している部分とそうでない部分が存在し、アルミナセメントを用いた場合と比較(実験No.1-15〜1-21と実験No.1-23〜1-26の比較)して硫酸イオンの遮蔽性能がやや低くかった。また、空隙率が50体積%を超えるもの(実験No.1-22)は、1回塗りでは浸透しすぎて表層部分にアクリル樹脂分が残らないため若干硫酸イオンの浸透が認められた。また、エポキシ樹脂を塗布した場合(実験No.1-31〜1-34)は塗りむらが生じており塗布されていない箇所から硫酸イオンの浸透が観察された。
【実施例2】
【0032】
実施例1の配合No.2と配合No.13のアルミナセメント又はセメント100質量部に対して、シリカフューム及び/又はフライアッシュを表3に示す量を内割となるように配合して水硬性材料を調製し、硬化体層を作り、アクリル樹脂Aを塗布し、実施例1と同様に試験を行った。結果を表3に示す。
【0033】
(使用材料)
シリカフューム:市販品、密度2.19g/cm、比表面積2×10cm/g
高炉スラグ:市販品、密度2.92g/cm、比表面積6000cm/g
【0034】
【表3】

【0035】
表3から、本発明の耐酸性複合材は、シリカフューム及び/又はフライアッシュを含有させた場合でも、硫酸の浸透が無く耐酸性に優れていることが分かる。
【実施例3】
【0036】
実施例1の配合No.2、No.7、No.10、No.12の水硬性材料に、実施例1と同様に水を加え練り混ぜた後、縦30cm×横30cm×厚さ6cmのコンクリート製平板に厚み1cmとなるようにコテで塗り付け、硬化後(12時間気中養生後)に、実施例1のアクリル樹脂を塗布(2回)した。塗布後1日で付着強度を測定した。結果を表4に示す。なお、比較として、実施例1のエポキシ樹脂A及びBを塗布(2回)した場合と、普通ポルトランドセメントを用いた場合についても同様に付着強度を測定した。
【0037】
(測定方法)
付着強度:アクリル樹脂を塗布したコンクリートの表面が4×4cmの正方形になるようにコンクリートカッターで切れ目を入れ、建研式付着力試験器で測定した。
【0038】
【表4】

【0039】
表4から、本発明の耐酸性複合材は、水硬性材料の硬化体と塗布したアクリル系樹脂との付着強度に優れていることが分かる。普通ポルトランドセメント(配合No.10、No.12)の硬化体の場合は、アルミナセメント(配合No.2、No.7)の硬化体の場合と比較(実験No.3-1、3-2と実験No.3-3、3-4、実験No.3-5、3-6と実験No.3-7、3-8、実験No.3-9、3-10と実験No.3-11、3-12の比較)して、アクリル樹脂との付着強度がやや低下している。エポキシ樹脂を塗布した場合(実験No.3-13〜3-20)は、アクリル樹脂と比較して水硬性材料の硬化体との付着強度が低い。
【実施例4】
【0040】
実施例1と同様に、表1の配合No.7の水硬性材料の硬化体(4×4×16cm)を作製し、アクリル樹脂とエポキシ樹脂の塗布回数を変えたものについて、硫酸浸透深さを確認した。結果を表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
表5から、本発明の耐酸性複合材は、硫酸の浸透が無く耐酸性に優れていることが分かる。
【実施例5】
【0043】
実施例1の配合No.2及び配合No.7の水硬性材料を練り混ぜ、下水処理場の水路壁面にコテで塗り付け、硬化後に実施例1のアクリル樹脂をローラーで1回塗布した。なお、比較として、アクリル樹脂を塗布しない場合、エポキシ樹脂A及びBを塗布した場合についても行った。1年後に施工した箇所の表面状態の観察と、一部分をコアドリルでサンプリングし硫酸浸透深さを測定した。施工箇所の1年間の硫化水素平均濃度は約10ppmであった。
その結果、本発明のアクリル樹脂を塗布した硬化体(耐酸性複合体)は、その表面状態が1年前とほとんど変化せず、硫酸浸透深さは0mmあった。一方、何も塗布しない硬化体は、表面状態はほとんど変化していないが、硫酸浸透深さ0.8mmであった。また、エポキシ樹脂A及びBを塗布した場合は、ピンホールから硫酸イオンが浸透した形跡があり、エポキシ樹脂Aは最大硫酸イオン浸透深さが1回塗りで0.7mm、2回塗りで0.3mm、エポキシ樹脂Bは最大硫酸イオン浸透深さが1回塗りで0.5mm、2回塗りで0.1mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の耐酸複合体は、通常のコンクリートやモルタルよりも耐酸性に優れ、従来の樹脂と異なり数層に分けて塗布する必要がないので補修が効率的にでき、さらに、補修箇所の接着性に優れる等の効果を奏するので、主に、下水処理設備などのコンクリート構造物の分野で広範に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント及び高炉スラグを含有する水硬材料の硬化体層にアクリル樹脂の硬化体層を複合した耐酸性複合体。
【請求項2】
前記水硬材料の硬化体層がシリカフューム及び/又はフライアッシュを含有することを特徴とする請求項1記載の耐酸性複合体。
【請求項3】
前記セメントがアルミナセメントであることを特徴とする請求項1又は2記載の耐酸複合体。
【請求項4】
前記水硬材料の硬化体層の空隙率が10〜50体積%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の耐酸性複合体。
【請求項5】
前記アクリル樹脂の硬化体層が、1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する単官能(メタ)アクリレート及び/又は1分子中にエチレン性不飽和二重結合を有する多官能(メタ)アクリレートを含有する(メタ)アクリレート類、重合開始剤、分解促進剤を主成分とする液を重合したものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の耐酸性複合体。
【請求項6】
請求項1〜5記載のいずれか一項記載の耐酸性複合体をコンクリート表面に形成することを特徴とするコンクリートの補修工法。

【公開番号】特開2009−126762(P2009−126762A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305731(P2007−305731)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年6月29日 社団法人 日本下水道協会発行の「第44回下水道研究発表会講演集」に発表
【出願人】(000230571)日本下水道事業団 (46)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】