耐震部材
【課題】地震発生時に塑性変することで地震エネルギーを吸収するだけでなく、塑性変時に架構に与える衝撃を抑制できる耐震部材を提供する。
【解決手段】複数の構造部材3a〜3eを結合して作った架構2に組み込まれて、架構2に所定の大きさ以上の外力が作用した時に塑性変形することで外力によるエネルギーを吸収する耐震部材10であって、架構2に外力が作用した時に、構造部材3a〜3eよりも先に塑性変形する低強度部材5を有する。低強度部材はアルミニウム合金で形成されている。
【解決手段】複数の構造部材3a〜3eを結合して作った架構2に組み込まれて、架構2に所定の大きさ以上の外力が作用した時に塑性変形することで外力によるエネルギーを吸収する耐震部材10であって、架構2に外力が作用した時に、構造部材3a〜3eよりも先に塑性変形する低強度部材5を有する。低強度部材はアルミニウム合金で形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の構造部材を結合して作った橋梁や建築物などの架構に耐震性を備えさせる技術に関する。特に、本発明は、前記架構に組み込まれる耐震部材に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や建築物などの架構は、複数の構造部材を結合して作られる。このような架構に耐震性を備えさせるために、様々な手段が採用されている。
【0003】
1つの手段として、鋼部材などの構造部材が、大地震発生時に降伏しないように設計することができる。この場合には、鋼部材の板厚が増加し、鋼部材が大型化してしまう。また、鋼部材の大型化に伴い、各部材を設けるスペースを確保できない場合も生じる。なお、降伏とは、材料が外力により弾性変形の限界を超えて塑性変形してしまうことである。
【0004】
別の手段として、耐震性を備えさせるために、前記架構に耐震部材を組み込むことができる。耐震部材は、地震発生時に大きな外力が作用すると、塑性変形して地震エネルギーを吸収する。このような耐震部材(履歴型ダンパー)は、例えば、下記特許文献1、2に開示されている。
特許文献1の構成は、図12に示すものである。図12は、橋梁の脚31の側面図である。特許文献1では、脚31に斜部材33を設け、斜部材33の端部に履歴型ダンパー35を設けている。地震発生時に、履歴型ダンパー35を塑性変形させることで、地震エネルギーを吸収し、地震時に生じる橋梁の変位を抑制している。
特許文献2の構成は、図13に示すものである。特許文献2でも、斜部材41の中間部に中間材43を配しその両端に履歴型ダンパー45を設けている。
【特許文献1】特開2002−180419号公報
【特許文献2】特開2007−132524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、地震による外力が架構に作用して耐震部材(履歴型ダンパー)が塑性変形・降伏した時、耐震部材が急激に変形することで、架構に衝撃が生じる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、地震発生時に塑性変形することで地震エネルギーを吸収するだけでなく、塑性変形時に架構に与える衝撃を抑制できる耐震部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によると、
複数の構造部材を結合して作った架構に組み込まれて、該架構に所定の大きさ以上の外力が作用した時に塑性変形することで前記外力によるエネルギーを吸収する耐震部材であって、
前記架構に外力が作用した時に、前記構造部材よりも先に塑性変形する低強度部材を有し、
該低強度部材はアルミニウム合金で形成されている、ことを特徴とする耐震部材が提供される。
【0008】
上記構成では、耐震部材は、前記架構に外力が作用した時に、前記構造部材よりも先に塑性変形する低強度部材を有するので、大地震発生時に塑性変形して地震エネルギーを吸収する。しかも、前記低強度部材は、大きな伸び性能を持つアルミニウム合金で形成されているので、低強度部材の塑性変形時に低強度部材が急激に変形することを防止することができる。これにより、低強度部材の塑性変形時に架構に与える衝撃を無くしまたは低減できる。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によると、前記低強度部材の周囲を囲む囲み部材を備え、
該囲み部材は、前記低強度部材が座屈した時に前記低強度部材の変形を制限する内壁面を有する。
【0010】
このように、囲み部材が低強度部材の周囲を囲むことで、前記低強度部材が座屈した時に囲み部材の内壁面で前記低強度部材の変形を制限するので、地震発生時に低強度部材に引張り力が作用する場合だけでなく、地震発生時に低強度部材に圧縮力が作用する場合にも、地震エネルギーを低強度部材に吸収させることができる。
【0011】
前記低強度部材の両端部がそれぞれ着脱可能に結合される第1および第2の高強度部材を備え、
前記架構に外力が作用した時に、前記低強度部材は、第1および第2の高強度部材よりも先に塑性変形し、
第1および第2の高強度部材は、それぞれ前記構造部材または前記架構の付帯物に結合され、
第1および第2の高強度部材が前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合された状態で、前記低強度部材を第1および第2の高強度部材から取り外して前記囲み部材の外部に取り出し、新しい前記低強度部材を当該外部から前記囲み部材の内部に入れて第1および第2の高強度部材に結合させるために、前記低強度部材を通す開口が前記囲み部材に形成され、前記開口を塞ぐ蓋部材が前記囲み部材に設けられる。
【0012】
このように、前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合される第1および第2の高強度部材に対し、前記低強度部材の両端部を着脱可能にし、第1および第2の高強度部材が前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合された状態で、前記低強度部材を第1および第2の高強度部材から取り外して前記囲み部材の外部に取り出し、新しい前記低強度部材を当該外部から前記囲み部材の内部に入れて第1および第2の高強度部材に結合させるために、前記低強度部材を通す開口が前記囲み部材に形成され、前記囲み部材は、前記開口を開閉する蓋部材を有する。これにより、第1および第2の高強度部材が前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合された状態で、低強度部材を交換することができる。例えば、地震発生により低強度部材が地震エネルギーを吸収して、この低強度部材の地震エネルギー吸収力が無くなりまたは低下した場合には、これを新しい低強度部材と交換することができる。一方、地震発生時に塑性変形しなかった第1および第2の高強度部材はそのまま架構の前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合した状態で使用することができる。
なお、前記開口を形成しても、これを塞ぐ前記蓋部材を設けることで、低強度部材の座屈による変形を制限できる。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明の耐震部材によると、地震発生時に塑性変形することで地震エネルギーを吸収するだけでなく、その塑性変形時に架構に与える衝撃を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明による耐震部材を適用できるアーチ橋2の正面図である。図2(A)は、図1のA−A線矢視図であり、図2(B)は図1のB−B線矢視図である。図1、図2において、アーチ橋2は、符号3a〜3eが示す複数の構造部材を結合して作られる。符号3aは橋桁を示し、符号3bはアーチリブを示し、符号3cは垂直部材を示し、符号3dは水平部材を示し、符号3eは柱部材を示す。これら構造部材3a〜3eは、例えば鋼で形成された鋼部材である。
【0016】
図2の例では、本発明の耐震部材10は、斜材として使用される。図2において、耐震部材10は、複数の構造部3a〜3e材を結合して作ったアーチ橋2に組み込まれて、アーチ橋2に所定の大きさ以上の外力が作用した時に塑性変形することで前記外力によるエネルギーを吸収する。図2では、耐震部材10の両端部がそれぞれ構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合される。
【0017】
以下、本発明の実施形態による耐震部材10の構成について説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図3は、本発明の第1実施形態による耐震部材10の構成図である。図3に示すように、耐震部材10は、低強度部材5、囲み部材11、第1の高強度部材7、第2の高強度部材9を備える。図3(A)は、耐震部材10の側面図であるが、囲み部材11を透視した状態の図である。図3(B)は図3(A)のB−B線矢視図であり、図3(C)は図3(A)のC−C線矢視図であり、図3(D)は図3(A)のD−D線矢視図であり、図3(E)は図3(A)のE−E線矢視図であり、図3(F)は図3(A)のF−F線矢視図またはG−G線矢視図である。
【0019】
低強度部材5は、図1のアーチ橋2に外力が作用した時に構造部材3a〜3eよりも先に塑性変形する。低強度部材5はアルミニウム合金で形成されている
【0020】
囲み部材11は、低強度部材5の周囲を囲む部材である。囲み部材11は、低強度部材5が塑性変形した時に低強度部材5の変形を制限する内壁面を有する。そのため、囲み部材11は、低強度部材5よりも降伏強度および引張り強度が高い材料(例えば、鋼)で形成される。従って、低強度部材5が、地震エネルギーにより塑性変形した場合に、囲み部材11の内壁面に沿うように低強度部材5を変形させることができる。
【0021】
第1および第2の高強度部材7,9には、低強度部材5の両端部がそれぞれ着脱可能に結合される。即ち、第1の高強度部材7の一端部に低強度部材5の一端部が着脱可能に結合され、第1の高強度部材7の他端部は前記アーチ橋2の構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合される。第2の高強度部材9の一端部に低強度部材5の他端部が着脱可能に結合され、第2の高強度部材9の他端部はアーチ端の構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合される。前記アーチ橋2に外力が作用した時に、低強度部材5は、第1および第2の高強度部材7,9よりも先に塑性変形する。第1および第2の高強度部材7,9は、例えば、鋼により形成してよい。
【0022】
以下、第1実施形態による耐震部材10の構成をより詳細に説明する。
【0023】
低強度部材5は、第1実施形態では、長手方向からみた形状が図3(B)のようにH型となっている。即ち、低強度部材5は、アルミニウム合金で形成された一対のアルミニウム合金フランジ5aと、アルミニウム合金で形成されたアルミニウム合金ウェブ5bとを有し、アルミニウム合金ウェブ5bの両端にそれぞれアルミニウム合金フランジ5aが結合される。アルミニウム合金ウェブ5bとアルミニウム合金フランジ5aとは、図3においては最初から一体的に製作されているが、図4の代替例のように高力ボルト15aとナット15bを用いて結合してもよい。図4(A)は、低強度部材5の側面図であり、図4(B)は図4(A)のB−B線矢視図である。図4の例では、アルミニウム合金ウェブ5bは、平板状のウェブ本体5b−1と、ウェブ本体5b−1の両端部にそれぞれウェブ本体5b−1から折れ曲った折れ曲り部5b−2を設け、折れ曲り部5b−2とアルミニウム合金フランジ5aとを高力ボルト15aとナット15bにより結合している。なお、図4(A)では、裏ナット12bの一部を省略している。
第1実施形態によると、図4の構成の場合、耐震部材10を前記アーチ橋2の構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合させた状態で、低強度部材5を新しい低強度部材5と交換することができる。
囲み部材11の側面には、低強度部材5を通すことができる開口11aが形成される。また、開口11aを開閉する蓋部材11bが囲み部材11に設けられる。従って、第1および第2の高強度部材7,9が前記構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合された状態で、低強度部材5を第1および第2の高強度部材7,9から取り外し、開口11aを通して、囲み部材11の外部に取り出し、新しい低強度部材5を当該外部から囲み部材11の内部に入れて第1および第2の高強度部材7,9に結合させることができる。なお、囲み部材11に対する蓋部材11bの着脱(開閉)は、ボルト12aと裏ナット12bにより行える。裏ナット12bは、囲み部材11の内壁面に溶接接合されている。
低強度部材5の交換手順について説明する。まず、図4において、ボルト12aを裏ナット12bから取り外して、両方の蓋部材11を囲み部材11から取り外す。次に、高力ボルト13aをナット13bから取り外して、低強度部材5と第1および第2の高強度部材7,9との結合を解くとともに(なお、各ナット13bは、第1または第2の高強度部材7,9に溶接接合されていてよい)、高力ボルト15aをナット15bから取り外して、アルミニウム合金フランジ5aとアルミニウム合金ウェブ5bとの結合を解く(なお、各ナット15bは、アルミニウム合金ウェブ5bに溶接接合されていてよい)。次に、アルミニウム合金フランジ5aとアルミニウム合金ウェブ5bを、開口部11aを通して囲み部材11の外部に取り出す。その後、上述と逆の手順で、新しいアルミニウム合金フランジ5aとアルミニウム合金ウェブ5bを囲み部材11の内部に入れて高力ボルト15aとナット15bにより互いに結合させるとともに、アルミニウム合金フランジ5aを高力ボルト13aとナット13bにより第1および第2の高強度部材7,9に結合させる。これにより、低強度部材5と第1および第2の高強度部材7,9に結合させる。最後に、ボルト12aと裏ナット12bにより両方の蓋部材11を囲み部材11に取り付ける。
【0024】
低強度部材5の一端部を第1の高強度部材7の一端部に着脱可能にし、低強度部材5の他端部を第2の高強度部材9の一端部に着脱可能にする手段としては、図3に示すように高力ボルト13aとナット13bを用いることができる。
低強度部材5の材料は、例えばAA3003のアルミニウム合金であってよい。このアルミニウム合金(AA3003)は、降伏強度が170N/mm2であり、引張り強さが200N/mm2である。なお、降伏強度170N/mm2とは、アルミニウム合金に170N/mm2の圧縮力が作用したときに、アルミニウム合金が塑性変形することを意味する。引張り強さ200N/mm2とは、アルミニウム合金に200N/mm2の引張り力(引き延ばす力)が作用したときに、アルミニウム合金が塑性変形することを意味する。これに対し、上述の構造部材3a〜3eは、降伏強度が170N/mm2よりも高く引張り強さが200N/mm2よりも高い材料で形成されている。例えば、構造部材の材料は、例えばSS400の鋼である。この鋼(SS400)は、降伏強度が245N/mm2であり、引張り強さが400N/mm2〜510N/mm2である。
【0025】
囲み部材11は、内部に低強度部材5を配置するために中空になっており、その両端が開口している。図3において、囲み部材11の長手方向と垂直な断面外形は、矩形または正方形となっており、囲み部材11の内部空間の長手方向と垂直な断面形状も、矩形または正方形となっている。
囲み部材11の材料は、低強度部材5の材料よりも降伏強度および引張り強度が高いものであり、第1および第2の高強度部材7,9の材料と同じであっよい。
【0026】
第1および第2の高強度部材7,9について説明するが、第1の高強度部材7と第2の高強度部材9の構成は同様であるので、第1の高強度部材7の構成についてのみ説明する。第1の高強度部材7の形状は、図3(C)の左右方向に対称であってよく、図3(C)の上下方向にも対称であってよい。第1の高強度部材7は、H型鋼である。即ち、第1の高強度部材7は、2枚の平板状のフランジ7aと、平板状のウェブ7bとを有し、その長手方向から見た形状がH型となっている。第1の高強度部材7と囲み部材11との間において、高力ボルト13aを配置するための空間が確保される。また、第1の高強度部材7には、前方隔壁板7dと後方隔壁板7eとが結合される、第1の高強度部材7と前方隔壁板7dおよび後方隔壁板7eとの結合は溶接によりなされてよい。前方隔壁板7dは、図3(D)に示すように2枚設けられ、後方隔壁板7eも図3(C)に示すように2枚設けられる。なお、第2の高強度部材9には前記後方隔壁板は設けられず、前方隔壁板9dがやや後方側に設けられているが、第2の高強度部材9の他の構成は第1の高強度部材7と同じであってよい。
好ましくは、2枚のアルミニウム合金フランジ5aの間の空間に、ゴム、ウレタン、モルタル等のエネルギ吸収体を充填する。エネルギ吸収体は、力が作用すると変形することで、当該力によるエネルギを吸収するものである。従って、2枚のアルミニウム合金フランジ5aがエネルギ吸収体を介して互いに力を作用させることで、耐震部材10の地震エネルギー吸収力を高めることができる。
さらに、好ましくは、各アルミニウム合金フランジ5aと蓋部材11bとの間の空間に、ゴム、ウレタン、モルタル等のエネルギ吸収体を充填する。エネルギ吸収体は、力が作用すると変形することで、当該力によるエネルギを吸収するものである。従って、アルミニウム合金フランジ5aと蓋部材11bとがエネルギ吸収体を介して互いに力を作用させることで、耐震部材10の地震エネルギー吸収力を高めることができる。
なお、好ましくは、第1の高強度部材7と第2の高強度部材9のうちいずれか一方のみを囲み部材11に溶接やボルトなどの手段により結合する。この場合、第1の高強度部材7と第2の高強度部材9のうち囲み部材11に結合されていない方が、地震時において囲み部材11に対して移動可能(スライド可能)であるので、この移動により第1の高強度部材7と第2の高強度部材9との間の距離が変化し、これにより、低強度部材3を効果的に塑性変形させることができる。なお、第1の高強度部材7または第2の高強度部材9と囲み部材11との結合は、両者の間の空間を埋める適切な金属部材を介して溶接やボルト等により行ってもよい。図3(A)の例では、前方隔壁板9dと部材8を介して隅肉溶接により第2の高強度部材9を囲み部材11に結合させている。
【0027】
上述した第1実施形態によると、以下の効果が得られる。
(1)耐震部材10は、前記アーチ橋2に外力が作用した時に、前記構造部材3a〜3eよりも先に塑性変形する低強度部材5を有するので、大地震発生時に地震エネルギーを吸収する。しかも、低強度部材5は、大きな伸び性能を持つアルミニウム合金で形成されているので、低強度部材5の塑性変形時に低強度部材5が急激に変形することを防止することができる。これにより、低強度部材5の塑性変形時にアーチ橋2に与える衝撃を無くしまたは低減できる。
図5を用いて説明する。図5(A)は、アルミニウム合金に作用する荷重とアルミニウム合金の変形量との関係を示すグラフであり、図5(B)は、鋼に作用する荷重と鋼の変形量との関係を示すグラフである。アルミニウム合金の場合には、図5(A)に示すように降伏点前後にわたって滑らかな曲線を示しているが、鋼の場合には、図5(B)に示すように降伏点の直後で、鋼に作用する荷重に対する鋼の変形量の比率が急激に増加している。このように、アルミニウム合金を塑性変形・降伏させて地震エネルギーを吸収する場合には、降伏点前後にわたってその変形量が滑らかに変化するので、低強度部材5の降伏時にアーチ橋2に与える衝撃を無くしまたは低減できる。
(2)また、囲み部材11が低強度部材5の周囲を囲むことで、低強度部材5が座屈した時に囲み部材11の内壁面で低強度部材5の変形を制限するので、地震発生時に低強度部材5に引張り力が作用する場合だけでなく、地震発生時に低強度部材5に圧縮力が作用する場合にも、地震エネルギーを低強度部材5に吸収させることができる。
(3)構造部材3a〜3eに結合される第1および第2の高強度部材7,9に対し、低強度部材5の両端部を着脱可能にし、第1および第2の高強度部材7,9が構造部材3a〜3eに結合された状態で、低強度部材5を第1および第2の高強度部材7,9から取り外して囲み部材11の外部に取り出し、新しい低強度部材5を当該外部から囲み部材11の内部に入れて第1および第2の高強度部材7,9に結合させるために、低強度部材5を通す開口11aが囲み部材11に形成される。これにより、第1および第2の高強度部材7,9が構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合された状態で、低強度部材5を交換することができる。例えば、地震発生により低強度部材5が地震エネルギーを吸収して、この低強度部材5の地震エネルギー吸収力が無くなりまたは低下した場合には、これを新しい低強度部材5と交換することができる。一方、地震発生時に塑性変形しなかった第1および第2の高強度部材7,9はそのままアーチ橋2に結合した状態で使用することができる。なお、開口11aを形成しても、これを塞ぐ蓋部材11bを設けることで、低強度部材5の座屈による変形を制限できる。
【0028】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態による耐震部材10について説明する。第2実施形態による耐震部材10は、第1実施形態と同様に、低強度部材5、囲み部材11、第1および第2の高強度部材7,9を備える。第2実施形態の低強度部材5は第1実施形態の低強度部材5と異なるが、第2実施形態の囲み部材11と第1および第2の高強度部材7,9は、それぞれ第1実施形態の囲み部材11と第1および第2の高強度部材7,9と同じである。
【0029】
図6は、本発明の第2実施形態による耐震部材10の構成図である。図6(A)は、耐震部材10の側面図であるが、囲み部材11を透視した状態の図である。図6(B)は図6(A)のB−B線矢視図であり、図6(C)は図6(A)のC−C線矢視図であり、図6(D)は図6(A)のD−D線矢視図であり、図6(E)は図6(A)のE−E線矢視図である。なお、図6(A)では、裏ナット12bの一部を省略している。
【0030】
第2実施形態によると、第1実施形態のアルミニウム合金ウェブ5bの代わりにアルミニウム合金リブ5cが用いられる。即ち、低強度部材5は、2枚のアルミニウム合金フランジ5aと、これらアルミニウム合金フランジ5aにそれぞれ結合される2つのアルミニウム合金リブ5cとを有する。アルミニウム合金フランジ5aは、平板状のものであり、アルミニウム合金リブ5cは、図6(B)に示すように、その長手方向からみた形状がL字型となっている。図6では、アルミニウム合金リブ5cは、高力ボルト15aとナット15bによりアルミニウム合金フランジ5aに結合されている。また、アルミニウム合金フランジ5aおよびアルミニウム合金リブ5cは、AA3003などのアルミニウム合金で形成されている。第2実施形態の低強度部材5の他の構成は、第1実施形態の低強度部材5と同じである。
【0031】
第2実施形態の他の構成は第1実施形態の場合と同じであってよい。
上述した第2実施形態の耐震部材10によると、第1実施形態の耐震部材10と同じ効果を得ることができる。
【0032】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態による耐震部材10について説明する。第3実施形態による耐震部材10は、第1実施形態と同様に、低強度部材5、囲み部材11、第1および第2の高強度部材7,9を備える。第2実施形態の低強度部材5は第1実施形態の低強度部材5と異なるが、第2実施形態の囲み部材11と第1の高強度部材7は、それぞれ第1実施形態の囲み部材11と第1の高強度部材7と同じである。また、第2実施形態の第2の高強度部材9は、後述するように第1実施形態の第2の高強度部材9と構成が一部異なる。
【0033】
図7(A)は、第3実施形態による低強度部材5を示す斜視図である。
図7(B)は、囲み部材11を示す斜視図である。図7(B)においては、開口11a、蓋部材11bを省略しているが、囲み部材11には、第1実施形態と同じ開口11a、蓋部材11bが設けられる。
図7(C)は第1の高強度部材7を示す斜視図であり、図7(D)は第2の高強度部材9を示す斜視図である。図7(C)、(D)における細線で示す部分は、第1および第2の高強度部材7,9の延長部分である。図7(C)、図7(D)においては、前方隔壁板7d、後方隔壁板7eを省略しているが、第3実施形態でも第1実施形態と同じ前方隔壁板7d、後方隔壁板7eが設けられる。第2の高強度部材9については後述する。
図8は、低強度部材5、囲み部材11、第1の高強度部材7および第2の高強度部材9を結合させて組み立てられた耐震部材10の構成図であるが、囲み部材11を透視した状態で耐震部材10を示している。
図9は、図8において囲み部材11を省略した図である。
図10(A)は図9のA−A線矢視図であり、図10(B)は図10(A)のB−B線矢視図であり、図10(C)は図10(A)のC−C線矢視図であり、図10(D)は図10(A)のD−D線矢視図である。
【0034】
低強度部材5は、図7(A)に示すように、2枚のアルミニウム合金フランジ5aと、これらアルミニウム合金フランジ5aに結合されるアルミニウム合金ウェブ5bとから構成される。アルミニウム合金ウェブ5bは、平板状のウェブ本体5b−1とウェブ本体5b−1の両端に設けられウェブ本体5b−1から折れ曲がっている折れ曲り部5b−2を有する。これら折れ曲り部5b−2と各アルミニウム合金フランジ5aとは、図7(A)や図10(A)に示すように高力ボルト15aとナット15bにより結合される。
また、2枚のアルミニウム合金フランジ5a同士の間隔は、第2の高強度部材9の側に移行するにつれ小さくなっている。
各平板状のアルミニウム合金フランジ5aは、平板状のフランジ本体5a−1と、フランジ本体5a−1の両端部に設けられそれぞれフランジ本体5a−1から折れ曲った折れ曲り部5a−2を有する。折れ曲り部5a−2は、図10(A),(B),(C)に示すように高力ボルト13aとナット13bにより、第1の高強度部材7、結合用板9fに結合される(結合用板9fは図7〜図9では省略している)。結合用板9fは、第2の高強度部材9のウェブ9bの両面にそれぞれ溶接により結合されている。結合用板9fは、第2の高強度部材9と材料が同じでよく、低強度部材5よりも降伏強度および引張り強度が高い材料(この例では、鋼)で形成される。このように、第3実施形態における第2の高強度部材9は結合用板9fが結合されている点で、第1実施形態の第2の高強度部材9と異なる。
【0035】
前方隔壁板7d、9d、後方隔壁板7eは、図7〜図9では図示を省略しているが、図10では図示している。なお、第3実施形態では、前方隔壁板9d,9eはそれぞれ4枚設けられている。また、第3実施形態でも、好ましくは、2枚のアルミニウム合金フランジ5aの間の空間に、ゴム、ウレタン、モルタル等のエネルギ吸収体を充填する。エネルギ吸収体は、力が作用すると変形することで、当該力によるエネルギを吸収するものである。従って、2枚のアルミニウム合金フランジ5aがエネルギ吸収体を介して互いに力を作用させることで、耐震部材10の地震エネルギー吸収力を高めることができる。
さらに、好ましくは、第3実施形態でも、各アルミニウム合金フランジ5aと蓋部材11bとの間の空間に、ゴム、ウレタン、モルタル等のエネルギ吸収体を充填する。エネルギ吸収体は、力が作用すると変形することで、当該力によるエネルギを吸収するものである。従って、アルミニウム合金フランジ5aと蓋部材11bとがエネルギ吸収体を介して互いに力を作用させることで、耐震部材10の地震エネルギー吸収力を高めることができる。
【0036】
第3実施形態の他の構成は第1実施形態の場合と同じであってよい。例えば、第3実施形態においても、第1実施形態において説明した開口部11a、蓋部材11b、ボルト12a、裏ナット12bが設けられる。
上述した第3実施形態の耐震部材10によると、第1実施形態の耐震部材10と同じ効果を得ることができる。
【0037】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【0038】
例えば、上述の実施形態では、本発明の耐震部材10をアーチ橋2に適用した場合を説明したが、本発明の耐震部材10の適用箇所はこれに限定されない、即ち、本発明による耐震部材10は、複数の構造部材を結合して作った他の橋梁や建築構造物など架構に適用できる。
図11は、本発明の耐震部材10が、桁橋17に結合される場合を示す。図11において、耐震部材10の一端部(上述の第1の高強度部材7)が、横桁19に結合されたブラケット21に結合され、耐震部材10の他端部(上述の第2の高強度部材9)が地面などに打ち込まれたストッパー23に結合されている。図9では、橋桁19に所定の大きさ以上の水平外力が作用した時に、横桁19などの桁橋17の構造部材や、ブラケット21、ストッパー23などの橋桁17の付帯物よりも先に塑性変形して、この水平外力によるエネルギーを吸収する。図11に示す耐震部材10の適用であっても、上述の第1実施形態と同じ効果が得られる。なお、図11において、符号25は主桁を示し、符号27は橋桁の基礎を示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の耐震部材が適用可能のアーチ橋の正面図である。
【図2】(A)は図1のA−A銭矢視図であり、(B)は図1のB−B線矢視図である。
【図3】図3(A)は、本発明の第1実施形態による耐震部材の構成図であり、図3(B)は図3(A)のB−B線矢視図であり、図3(C)は図3(A)のC―C線矢視図であり、図3(D)は図3(A)のD−D線矢視図であり、図3(E)は図3(A)のE−E線矢視図であり、図3(F)は図3(A)のF−F線矢視図またはG−G線矢視図である。
【図4】図4(A)は低強度部材の別の構成例を示す図であり、図4(B)は図4(A)のA−A線矢視図である。
【図5】図5(A)はアルミニウム合金に作用する荷重とその変位との関係を示すグラフであり、図5(B)は鋼に作用する荷重とその変位との関係を示すグラフである。
【図6】図6(A)は、本発明の第2実施形態による耐震部材の構成図であり、図6(B)は図6(A)のB−B線矢視図であり、図6(C)は図6(A)のC―C線矢視図であり、図6(D)は図6(A)のD−D線矢視図である。
【図7】本発明の第3実施形態による耐震部材の各構成要素を示す斜視図であり、図7(A)は低強度部材を示し、図7(B)は囲み部材を示し、図7(C)は第1の高強度部材を示し、図7(D)は第2の高強度部材を示す。
【図8】第3実施形態による耐震部材を示す斜視図である。
【図9】図8において囲み部材を省略した図である。
【図10】図10(A)は図9のA−A線矢視図であり、図10(B)は図10(A)のB−B線矢視図であり、図10(C)は図10(A)のC−C線矢視図であり、図10(D)は図10(A)のD−D線矢視図である。
【図11】本発明の耐震部材が適用可能な橋桁の構成の正面図である。
【図12】特許文献1において耐震部材が組み込まれた橋梁の側面図である。
【図13】特許文献2の耐震部材を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
2・・・アーチ橋(架構)、3a・・・橋桁(構造部材)、3b・・・アーチリブ(構造部材)、3c・・・垂直部材(構造部材)、3d・・・水平部材(構造部材)、3e・・・柱部材、5・・・低強度部材、5a・・・アルミニウム合金フランジ、5a−1・・・フランジ本体、5a−2・・・折れ曲り部、5b・・・アルミニウム合金ウェブ、5b−1・・・ウェブ本体、5b−2・・・折れ曲り部、5c・・・アルミニウム合金リブ,7・・・第1の高強度部材、7a・・・フランジ、7b・・・ウェブ、7d・・・前方隔壁板、7e・・・後方隔壁板、9・・・第2の高強度部材、9a・・・フランジ、9b・・・ウェブ、9d・・・前方隔壁板、9f・・・結合用板、10・・・耐震部材、11・・・囲み部材、11a・・・開口、11b・・・蓋部材、12a・・・ボルト、12b・・・裏ナット、13a・・・高力ボルト(低強度部材と高強度部材との結合)、13b・・・ナット、15a・・・高力ボルト,15b・・・ナット
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の構造部材を結合して作った橋梁や建築物などの架構に耐震性を備えさせる技術に関する。特に、本発明は、前記架構に組み込まれる耐震部材に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や建築物などの架構は、複数の構造部材を結合して作られる。このような架構に耐震性を備えさせるために、様々な手段が採用されている。
【0003】
1つの手段として、鋼部材などの構造部材が、大地震発生時に降伏しないように設計することができる。この場合には、鋼部材の板厚が増加し、鋼部材が大型化してしまう。また、鋼部材の大型化に伴い、各部材を設けるスペースを確保できない場合も生じる。なお、降伏とは、材料が外力により弾性変形の限界を超えて塑性変形してしまうことである。
【0004】
別の手段として、耐震性を備えさせるために、前記架構に耐震部材を組み込むことができる。耐震部材は、地震発生時に大きな外力が作用すると、塑性変形して地震エネルギーを吸収する。このような耐震部材(履歴型ダンパー)は、例えば、下記特許文献1、2に開示されている。
特許文献1の構成は、図12に示すものである。図12は、橋梁の脚31の側面図である。特許文献1では、脚31に斜部材33を設け、斜部材33の端部に履歴型ダンパー35を設けている。地震発生時に、履歴型ダンパー35を塑性変形させることで、地震エネルギーを吸収し、地震時に生じる橋梁の変位を抑制している。
特許文献2の構成は、図13に示すものである。特許文献2でも、斜部材41の中間部に中間材43を配しその両端に履歴型ダンパー45を設けている。
【特許文献1】特開2002−180419号公報
【特許文献2】特開2007−132524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、地震による外力が架構に作用して耐震部材(履歴型ダンパー)が塑性変形・降伏した時、耐震部材が急激に変形することで、架構に衝撃が生じる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、地震発生時に塑性変形することで地震エネルギーを吸収するだけでなく、塑性変形時に架構に与える衝撃を抑制できる耐震部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明によると、
複数の構造部材を結合して作った架構に組み込まれて、該架構に所定の大きさ以上の外力が作用した時に塑性変形することで前記外力によるエネルギーを吸収する耐震部材であって、
前記架構に外力が作用した時に、前記構造部材よりも先に塑性変形する低強度部材を有し、
該低強度部材はアルミニウム合金で形成されている、ことを特徴とする耐震部材が提供される。
【0008】
上記構成では、耐震部材は、前記架構に外力が作用した時に、前記構造部材よりも先に塑性変形する低強度部材を有するので、大地震発生時に塑性変形して地震エネルギーを吸収する。しかも、前記低強度部材は、大きな伸び性能を持つアルミニウム合金で形成されているので、低強度部材の塑性変形時に低強度部材が急激に変形することを防止することができる。これにより、低強度部材の塑性変形時に架構に与える衝撃を無くしまたは低減できる。
【0009】
本発明の好ましい実施形態によると、前記低強度部材の周囲を囲む囲み部材を備え、
該囲み部材は、前記低強度部材が座屈した時に前記低強度部材の変形を制限する内壁面を有する。
【0010】
このように、囲み部材が低強度部材の周囲を囲むことで、前記低強度部材が座屈した時に囲み部材の内壁面で前記低強度部材の変形を制限するので、地震発生時に低強度部材に引張り力が作用する場合だけでなく、地震発生時に低強度部材に圧縮力が作用する場合にも、地震エネルギーを低強度部材に吸収させることができる。
【0011】
前記低強度部材の両端部がそれぞれ着脱可能に結合される第1および第2の高強度部材を備え、
前記架構に外力が作用した時に、前記低強度部材は、第1および第2の高強度部材よりも先に塑性変形し、
第1および第2の高強度部材は、それぞれ前記構造部材または前記架構の付帯物に結合され、
第1および第2の高強度部材が前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合された状態で、前記低強度部材を第1および第2の高強度部材から取り外して前記囲み部材の外部に取り出し、新しい前記低強度部材を当該外部から前記囲み部材の内部に入れて第1および第2の高強度部材に結合させるために、前記低強度部材を通す開口が前記囲み部材に形成され、前記開口を塞ぐ蓋部材が前記囲み部材に設けられる。
【0012】
このように、前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合される第1および第2の高強度部材に対し、前記低強度部材の両端部を着脱可能にし、第1および第2の高強度部材が前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合された状態で、前記低強度部材を第1および第2の高強度部材から取り外して前記囲み部材の外部に取り出し、新しい前記低強度部材を当該外部から前記囲み部材の内部に入れて第1および第2の高強度部材に結合させるために、前記低強度部材を通す開口が前記囲み部材に形成され、前記囲み部材は、前記開口を開閉する蓋部材を有する。これにより、第1および第2の高強度部材が前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合された状態で、低強度部材を交換することができる。例えば、地震発生により低強度部材が地震エネルギーを吸収して、この低強度部材の地震エネルギー吸収力が無くなりまたは低下した場合には、これを新しい低強度部材と交換することができる。一方、地震発生時に塑性変形しなかった第1および第2の高強度部材はそのまま架構の前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合した状態で使用することができる。
なお、前記開口を形成しても、これを塞ぐ前記蓋部材を設けることで、低強度部材の座屈による変形を制限できる。
【発明の効果】
【0013】
上述した本発明の耐震部材によると、地震発生時に塑性変形することで地震エネルギーを吸収するだけでなく、その塑性変形時に架構に与える衝撃を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明による耐震部材を適用できるアーチ橋2の正面図である。図2(A)は、図1のA−A線矢視図であり、図2(B)は図1のB−B線矢視図である。図1、図2において、アーチ橋2は、符号3a〜3eが示す複数の構造部材を結合して作られる。符号3aは橋桁を示し、符号3bはアーチリブを示し、符号3cは垂直部材を示し、符号3dは水平部材を示し、符号3eは柱部材を示す。これら構造部材3a〜3eは、例えば鋼で形成された鋼部材である。
【0016】
図2の例では、本発明の耐震部材10は、斜材として使用される。図2において、耐震部材10は、複数の構造部3a〜3e材を結合して作ったアーチ橋2に組み込まれて、アーチ橋2に所定の大きさ以上の外力が作用した時に塑性変形することで前記外力によるエネルギーを吸収する。図2では、耐震部材10の両端部がそれぞれ構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合される。
【0017】
以下、本発明の実施形態による耐震部材10の構成について説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図3は、本発明の第1実施形態による耐震部材10の構成図である。図3に示すように、耐震部材10は、低強度部材5、囲み部材11、第1の高強度部材7、第2の高強度部材9を備える。図3(A)は、耐震部材10の側面図であるが、囲み部材11を透視した状態の図である。図3(B)は図3(A)のB−B線矢視図であり、図3(C)は図3(A)のC−C線矢視図であり、図3(D)は図3(A)のD−D線矢視図であり、図3(E)は図3(A)のE−E線矢視図であり、図3(F)は図3(A)のF−F線矢視図またはG−G線矢視図である。
【0019】
低強度部材5は、図1のアーチ橋2に外力が作用した時に構造部材3a〜3eよりも先に塑性変形する。低強度部材5はアルミニウム合金で形成されている
【0020】
囲み部材11は、低強度部材5の周囲を囲む部材である。囲み部材11は、低強度部材5が塑性変形した時に低強度部材5の変形を制限する内壁面を有する。そのため、囲み部材11は、低強度部材5よりも降伏強度および引張り強度が高い材料(例えば、鋼)で形成される。従って、低強度部材5が、地震エネルギーにより塑性変形した場合に、囲み部材11の内壁面に沿うように低強度部材5を変形させることができる。
【0021】
第1および第2の高強度部材7,9には、低強度部材5の両端部がそれぞれ着脱可能に結合される。即ち、第1の高強度部材7の一端部に低強度部材5の一端部が着脱可能に結合され、第1の高強度部材7の他端部は前記アーチ橋2の構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合される。第2の高強度部材9の一端部に低強度部材5の他端部が着脱可能に結合され、第2の高強度部材9の他端部はアーチ端の構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合される。前記アーチ橋2に外力が作用した時に、低強度部材5は、第1および第2の高強度部材7,9よりも先に塑性変形する。第1および第2の高強度部材7,9は、例えば、鋼により形成してよい。
【0022】
以下、第1実施形態による耐震部材10の構成をより詳細に説明する。
【0023】
低強度部材5は、第1実施形態では、長手方向からみた形状が図3(B)のようにH型となっている。即ち、低強度部材5は、アルミニウム合金で形成された一対のアルミニウム合金フランジ5aと、アルミニウム合金で形成されたアルミニウム合金ウェブ5bとを有し、アルミニウム合金ウェブ5bの両端にそれぞれアルミニウム合金フランジ5aが結合される。アルミニウム合金ウェブ5bとアルミニウム合金フランジ5aとは、図3においては最初から一体的に製作されているが、図4の代替例のように高力ボルト15aとナット15bを用いて結合してもよい。図4(A)は、低強度部材5の側面図であり、図4(B)は図4(A)のB−B線矢視図である。図4の例では、アルミニウム合金ウェブ5bは、平板状のウェブ本体5b−1と、ウェブ本体5b−1の両端部にそれぞれウェブ本体5b−1から折れ曲った折れ曲り部5b−2を設け、折れ曲り部5b−2とアルミニウム合金フランジ5aとを高力ボルト15aとナット15bにより結合している。なお、図4(A)では、裏ナット12bの一部を省略している。
第1実施形態によると、図4の構成の場合、耐震部材10を前記アーチ橋2の構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合させた状態で、低強度部材5を新しい低強度部材5と交換することができる。
囲み部材11の側面には、低強度部材5を通すことができる開口11aが形成される。また、開口11aを開閉する蓋部材11bが囲み部材11に設けられる。従って、第1および第2の高強度部材7,9が前記構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合された状態で、低強度部材5を第1および第2の高強度部材7,9から取り外し、開口11aを通して、囲み部材11の外部に取り出し、新しい低強度部材5を当該外部から囲み部材11の内部に入れて第1および第2の高強度部材7,9に結合させることができる。なお、囲み部材11に対する蓋部材11bの着脱(開閉)は、ボルト12aと裏ナット12bにより行える。裏ナット12bは、囲み部材11の内壁面に溶接接合されている。
低強度部材5の交換手順について説明する。まず、図4において、ボルト12aを裏ナット12bから取り外して、両方の蓋部材11を囲み部材11から取り外す。次に、高力ボルト13aをナット13bから取り外して、低強度部材5と第1および第2の高強度部材7,9との結合を解くとともに(なお、各ナット13bは、第1または第2の高強度部材7,9に溶接接合されていてよい)、高力ボルト15aをナット15bから取り外して、アルミニウム合金フランジ5aとアルミニウム合金ウェブ5bとの結合を解く(なお、各ナット15bは、アルミニウム合金ウェブ5bに溶接接合されていてよい)。次に、アルミニウム合金フランジ5aとアルミニウム合金ウェブ5bを、開口部11aを通して囲み部材11の外部に取り出す。その後、上述と逆の手順で、新しいアルミニウム合金フランジ5aとアルミニウム合金ウェブ5bを囲み部材11の内部に入れて高力ボルト15aとナット15bにより互いに結合させるとともに、アルミニウム合金フランジ5aを高力ボルト13aとナット13bにより第1および第2の高強度部材7,9に結合させる。これにより、低強度部材5と第1および第2の高強度部材7,9に結合させる。最後に、ボルト12aと裏ナット12bにより両方の蓋部材11を囲み部材11に取り付ける。
【0024】
低強度部材5の一端部を第1の高強度部材7の一端部に着脱可能にし、低強度部材5の他端部を第2の高強度部材9の一端部に着脱可能にする手段としては、図3に示すように高力ボルト13aとナット13bを用いることができる。
低強度部材5の材料は、例えばAA3003のアルミニウム合金であってよい。このアルミニウム合金(AA3003)は、降伏強度が170N/mm2であり、引張り強さが200N/mm2である。なお、降伏強度170N/mm2とは、アルミニウム合金に170N/mm2の圧縮力が作用したときに、アルミニウム合金が塑性変形することを意味する。引張り強さ200N/mm2とは、アルミニウム合金に200N/mm2の引張り力(引き延ばす力)が作用したときに、アルミニウム合金が塑性変形することを意味する。これに対し、上述の構造部材3a〜3eは、降伏強度が170N/mm2よりも高く引張り強さが200N/mm2よりも高い材料で形成されている。例えば、構造部材の材料は、例えばSS400の鋼である。この鋼(SS400)は、降伏強度が245N/mm2であり、引張り強さが400N/mm2〜510N/mm2である。
【0025】
囲み部材11は、内部に低強度部材5を配置するために中空になっており、その両端が開口している。図3において、囲み部材11の長手方向と垂直な断面外形は、矩形または正方形となっており、囲み部材11の内部空間の長手方向と垂直な断面形状も、矩形または正方形となっている。
囲み部材11の材料は、低強度部材5の材料よりも降伏強度および引張り強度が高いものであり、第1および第2の高強度部材7,9の材料と同じであっよい。
【0026】
第1および第2の高強度部材7,9について説明するが、第1の高強度部材7と第2の高強度部材9の構成は同様であるので、第1の高強度部材7の構成についてのみ説明する。第1の高強度部材7の形状は、図3(C)の左右方向に対称であってよく、図3(C)の上下方向にも対称であってよい。第1の高強度部材7は、H型鋼である。即ち、第1の高強度部材7は、2枚の平板状のフランジ7aと、平板状のウェブ7bとを有し、その長手方向から見た形状がH型となっている。第1の高強度部材7と囲み部材11との間において、高力ボルト13aを配置するための空間が確保される。また、第1の高強度部材7には、前方隔壁板7dと後方隔壁板7eとが結合される、第1の高強度部材7と前方隔壁板7dおよび後方隔壁板7eとの結合は溶接によりなされてよい。前方隔壁板7dは、図3(D)に示すように2枚設けられ、後方隔壁板7eも図3(C)に示すように2枚設けられる。なお、第2の高強度部材9には前記後方隔壁板は設けられず、前方隔壁板9dがやや後方側に設けられているが、第2の高強度部材9の他の構成は第1の高強度部材7と同じであってよい。
好ましくは、2枚のアルミニウム合金フランジ5aの間の空間に、ゴム、ウレタン、モルタル等のエネルギ吸収体を充填する。エネルギ吸収体は、力が作用すると変形することで、当該力によるエネルギを吸収するものである。従って、2枚のアルミニウム合金フランジ5aがエネルギ吸収体を介して互いに力を作用させることで、耐震部材10の地震エネルギー吸収力を高めることができる。
さらに、好ましくは、各アルミニウム合金フランジ5aと蓋部材11bとの間の空間に、ゴム、ウレタン、モルタル等のエネルギ吸収体を充填する。エネルギ吸収体は、力が作用すると変形することで、当該力によるエネルギを吸収するものである。従って、アルミニウム合金フランジ5aと蓋部材11bとがエネルギ吸収体を介して互いに力を作用させることで、耐震部材10の地震エネルギー吸収力を高めることができる。
なお、好ましくは、第1の高強度部材7と第2の高強度部材9のうちいずれか一方のみを囲み部材11に溶接やボルトなどの手段により結合する。この場合、第1の高強度部材7と第2の高強度部材9のうち囲み部材11に結合されていない方が、地震時において囲み部材11に対して移動可能(スライド可能)であるので、この移動により第1の高強度部材7と第2の高強度部材9との間の距離が変化し、これにより、低強度部材3を効果的に塑性変形させることができる。なお、第1の高強度部材7または第2の高強度部材9と囲み部材11との結合は、両者の間の空間を埋める適切な金属部材を介して溶接やボルト等により行ってもよい。図3(A)の例では、前方隔壁板9dと部材8を介して隅肉溶接により第2の高強度部材9を囲み部材11に結合させている。
【0027】
上述した第1実施形態によると、以下の効果が得られる。
(1)耐震部材10は、前記アーチ橋2に外力が作用した時に、前記構造部材3a〜3eよりも先に塑性変形する低強度部材5を有するので、大地震発生時に地震エネルギーを吸収する。しかも、低強度部材5は、大きな伸び性能を持つアルミニウム合金で形成されているので、低強度部材5の塑性変形時に低強度部材5が急激に変形することを防止することができる。これにより、低強度部材5の塑性変形時にアーチ橋2に与える衝撃を無くしまたは低減できる。
図5を用いて説明する。図5(A)は、アルミニウム合金に作用する荷重とアルミニウム合金の変形量との関係を示すグラフであり、図5(B)は、鋼に作用する荷重と鋼の変形量との関係を示すグラフである。アルミニウム合金の場合には、図5(A)に示すように降伏点前後にわたって滑らかな曲線を示しているが、鋼の場合には、図5(B)に示すように降伏点の直後で、鋼に作用する荷重に対する鋼の変形量の比率が急激に増加している。このように、アルミニウム合金を塑性変形・降伏させて地震エネルギーを吸収する場合には、降伏点前後にわたってその変形量が滑らかに変化するので、低強度部材5の降伏時にアーチ橋2に与える衝撃を無くしまたは低減できる。
(2)また、囲み部材11が低強度部材5の周囲を囲むことで、低強度部材5が座屈した時に囲み部材11の内壁面で低強度部材5の変形を制限するので、地震発生時に低強度部材5に引張り力が作用する場合だけでなく、地震発生時に低強度部材5に圧縮力が作用する場合にも、地震エネルギーを低強度部材5に吸収させることができる。
(3)構造部材3a〜3eに結合される第1および第2の高強度部材7,9に対し、低強度部材5の両端部を着脱可能にし、第1および第2の高強度部材7,9が構造部材3a〜3eに結合された状態で、低強度部材5を第1および第2の高強度部材7,9から取り外して囲み部材11の外部に取り出し、新しい低強度部材5を当該外部から囲み部材11の内部に入れて第1および第2の高強度部材7,9に結合させるために、低強度部材5を通す開口11aが囲み部材11に形成される。これにより、第1および第2の高強度部材7,9が構造部材3a〜3eの少なくともいずれかに結合された状態で、低強度部材5を交換することができる。例えば、地震発生により低強度部材5が地震エネルギーを吸収して、この低強度部材5の地震エネルギー吸収力が無くなりまたは低下した場合には、これを新しい低強度部材5と交換することができる。一方、地震発生時に塑性変形しなかった第1および第2の高強度部材7,9はそのままアーチ橋2に結合した状態で使用することができる。なお、開口11aを形成しても、これを塞ぐ蓋部材11bを設けることで、低強度部材5の座屈による変形を制限できる。
【0028】
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態による耐震部材10について説明する。第2実施形態による耐震部材10は、第1実施形態と同様に、低強度部材5、囲み部材11、第1および第2の高強度部材7,9を備える。第2実施形態の低強度部材5は第1実施形態の低強度部材5と異なるが、第2実施形態の囲み部材11と第1および第2の高強度部材7,9は、それぞれ第1実施形態の囲み部材11と第1および第2の高強度部材7,9と同じである。
【0029】
図6は、本発明の第2実施形態による耐震部材10の構成図である。図6(A)は、耐震部材10の側面図であるが、囲み部材11を透視した状態の図である。図6(B)は図6(A)のB−B線矢視図であり、図6(C)は図6(A)のC−C線矢視図であり、図6(D)は図6(A)のD−D線矢視図であり、図6(E)は図6(A)のE−E線矢視図である。なお、図6(A)では、裏ナット12bの一部を省略している。
【0030】
第2実施形態によると、第1実施形態のアルミニウム合金ウェブ5bの代わりにアルミニウム合金リブ5cが用いられる。即ち、低強度部材5は、2枚のアルミニウム合金フランジ5aと、これらアルミニウム合金フランジ5aにそれぞれ結合される2つのアルミニウム合金リブ5cとを有する。アルミニウム合金フランジ5aは、平板状のものであり、アルミニウム合金リブ5cは、図6(B)に示すように、その長手方向からみた形状がL字型となっている。図6では、アルミニウム合金リブ5cは、高力ボルト15aとナット15bによりアルミニウム合金フランジ5aに結合されている。また、アルミニウム合金フランジ5aおよびアルミニウム合金リブ5cは、AA3003などのアルミニウム合金で形成されている。第2実施形態の低強度部材5の他の構成は、第1実施形態の低強度部材5と同じである。
【0031】
第2実施形態の他の構成は第1実施形態の場合と同じであってよい。
上述した第2実施形態の耐震部材10によると、第1実施形態の耐震部材10と同じ効果を得ることができる。
【0032】
(第3実施形態)
次に本発明の第3実施形態による耐震部材10について説明する。第3実施形態による耐震部材10は、第1実施形態と同様に、低強度部材5、囲み部材11、第1および第2の高強度部材7,9を備える。第2実施形態の低強度部材5は第1実施形態の低強度部材5と異なるが、第2実施形態の囲み部材11と第1の高強度部材7は、それぞれ第1実施形態の囲み部材11と第1の高強度部材7と同じである。また、第2実施形態の第2の高強度部材9は、後述するように第1実施形態の第2の高強度部材9と構成が一部異なる。
【0033】
図7(A)は、第3実施形態による低強度部材5を示す斜視図である。
図7(B)は、囲み部材11を示す斜視図である。図7(B)においては、開口11a、蓋部材11bを省略しているが、囲み部材11には、第1実施形態と同じ開口11a、蓋部材11bが設けられる。
図7(C)は第1の高強度部材7を示す斜視図であり、図7(D)は第2の高強度部材9を示す斜視図である。図7(C)、(D)における細線で示す部分は、第1および第2の高強度部材7,9の延長部分である。図7(C)、図7(D)においては、前方隔壁板7d、後方隔壁板7eを省略しているが、第3実施形態でも第1実施形態と同じ前方隔壁板7d、後方隔壁板7eが設けられる。第2の高強度部材9については後述する。
図8は、低強度部材5、囲み部材11、第1の高強度部材7および第2の高強度部材9を結合させて組み立てられた耐震部材10の構成図であるが、囲み部材11を透視した状態で耐震部材10を示している。
図9は、図8において囲み部材11を省略した図である。
図10(A)は図9のA−A線矢視図であり、図10(B)は図10(A)のB−B線矢視図であり、図10(C)は図10(A)のC−C線矢視図であり、図10(D)は図10(A)のD−D線矢視図である。
【0034】
低強度部材5は、図7(A)に示すように、2枚のアルミニウム合金フランジ5aと、これらアルミニウム合金フランジ5aに結合されるアルミニウム合金ウェブ5bとから構成される。アルミニウム合金ウェブ5bは、平板状のウェブ本体5b−1とウェブ本体5b−1の両端に設けられウェブ本体5b−1から折れ曲がっている折れ曲り部5b−2を有する。これら折れ曲り部5b−2と各アルミニウム合金フランジ5aとは、図7(A)や図10(A)に示すように高力ボルト15aとナット15bにより結合される。
また、2枚のアルミニウム合金フランジ5a同士の間隔は、第2の高強度部材9の側に移行するにつれ小さくなっている。
各平板状のアルミニウム合金フランジ5aは、平板状のフランジ本体5a−1と、フランジ本体5a−1の両端部に設けられそれぞれフランジ本体5a−1から折れ曲った折れ曲り部5a−2を有する。折れ曲り部5a−2は、図10(A),(B),(C)に示すように高力ボルト13aとナット13bにより、第1の高強度部材7、結合用板9fに結合される(結合用板9fは図7〜図9では省略している)。結合用板9fは、第2の高強度部材9のウェブ9bの両面にそれぞれ溶接により結合されている。結合用板9fは、第2の高強度部材9と材料が同じでよく、低強度部材5よりも降伏強度および引張り強度が高い材料(この例では、鋼)で形成される。このように、第3実施形態における第2の高強度部材9は結合用板9fが結合されている点で、第1実施形態の第2の高強度部材9と異なる。
【0035】
前方隔壁板7d、9d、後方隔壁板7eは、図7〜図9では図示を省略しているが、図10では図示している。なお、第3実施形態では、前方隔壁板9d,9eはそれぞれ4枚設けられている。また、第3実施形態でも、好ましくは、2枚のアルミニウム合金フランジ5aの間の空間に、ゴム、ウレタン、モルタル等のエネルギ吸収体を充填する。エネルギ吸収体は、力が作用すると変形することで、当該力によるエネルギを吸収するものである。従って、2枚のアルミニウム合金フランジ5aがエネルギ吸収体を介して互いに力を作用させることで、耐震部材10の地震エネルギー吸収力を高めることができる。
さらに、好ましくは、第3実施形態でも、各アルミニウム合金フランジ5aと蓋部材11bとの間の空間に、ゴム、ウレタン、モルタル等のエネルギ吸収体を充填する。エネルギ吸収体は、力が作用すると変形することで、当該力によるエネルギを吸収するものである。従って、アルミニウム合金フランジ5aと蓋部材11bとがエネルギ吸収体を介して互いに力を作用させることで、耐震部材10の地震エネルギー吸収力を高めることができる。
【0036】
第3実施形態の他の構成は第1実施形態の場合と同じであってよい。例えば、第3実施形態においても、第1実施形態において説明した開口部11a、蓋部材11b、ボルト12a、裏ナット12bが設けられる。
上述した第3実施形態の耐震部材10によると、第1実施形態の耐震部材10と同じ効果を得ることができる。
【0037】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【0038】
例えば、上述の実施形態では、本発明の耐震部材10をアーチ橋2に適用した場合を説明したが、本発明の耐震部材10の適用箇所はこれに限定されない、即ち、本発明による耐震部材10は、複数の構造部材を結合して作った他の橋梁や建築構造物など架構に適用できる。
図11は、本発明の耐震部材10が、桁橋17に結合される場合を示す。図11において、耐震部材10の一端部(上述の第1の高強度部材7)が、横桁19に結合されたブラケット21に結合され、耐震部材10の他端部(上述の第2の高強度部材9)が地面などに打ち込まれたストッパー23に結合されている。図9では、橋桁19に所定の大きさ以上の水平外力が作用した時に、横桁19などの桁橋17の構造部材や、ブラケット21、ストッパー23などの橋桁17の付帯物よりも先に塑性変形して、この水平外力によるエネルギーを吸収する。図11に示す耐震部材10の適用であっても、上述の第1実施形態と同じ効果が得られる。なお、図11において、符号25は主桁を示し、符号27は橋桁の基礎を示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の耐震部材が適用可能のアーチ橋の正面図である。
【図2】(A)は図1のA−A銭矢視図であり、(B)は図1のB−B線矢視図である。
【図3】図3(A)は、本発明の第1実施形態による耐震部材の構成図であり、図3(B)は図3(A)のB−B線矢視図であり、図3(C)は図3(A)のC―C線矢視図であり、図3(D)は図3(A)のD−D線矢視図であり、図3(E)は図3(A)のE−E線矢視図であり、図3(F)は図3(A)のF−F線矢視図またはG−G線矢視図である。
【図4】図4(A)は低強度部材の別の構成例を示す図であり、図4(B)は図4(A)のA−A線矢視図である。
【図5】図5(A)はアルミニウム合金に作用する荷重とその変位との関係を示すグラフであり、図5(B)は鋼に作用する荷重とその変位との関係を示すグラフである。
【図6】図6(A)は、本発明の第2実施形態による耐震部材の構成図であり、図6(B)は図6(A)のB−B線矢視図であり、図6(C)は図6(A)のC―C線矢視図であり、図6(D)は図6(A)のD−D線矢視図である。
【図7】本発明の第3実施形態による耐震部材の各構成要素を示す斜視図であり、図7(A)は低強度部材を示し、図7(B)は囲み部材を示し、図7(C)は第1の高強度部材を示し、図7(D)は第2の高強度部材を示す。
【図8】第3実施形態による耐震部材を示す斜視図である。
【図9】図8において囲み部材を省略した図である。
【図10】図10(A)は図9のA−A線矢視図であり、図10(B)は図10(A)のB−B線矢視図であり、図10(C)は図10(A)のC−C線矢視図であり、図10(D)は図10(A)のD−D線矢視図である。
【図11】本発明の耐震部材が適用可能な橋桁の構成の正面図である。
【図12】特許文献1において耐震部材が組み込まれた橋梁の側面図である。
【図13】特許文献2の耐震部材を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
2・・・アーチ橋(架構)、3a・・・橋桁(構造部材)、3b・・・アーチリブ(構造部材)、3c・・・垂直部材(構造部材)、3d・・・水平部材(構造部材)、3e・・・柱部材、5・・・低強度部材、5a・・・アルミニウム合金フランジ、5a−1・・・フランジ本体、5a−2・・・折れ曲り部、5b・・・アルミニウム合金ウェブ、5b−1・・・ウェブ本体、5b−2・・・折れ曲り部、5c・・・アルミニウム合金リブ,7・・・第1の高強度部材、7a・・・フランジ、7b・・・ウェブ、7d・・・前方隔壁板、7e・・・後方隔壁板、9・・・第2の高強度部材、9a・・・フランジ、9b・・・ウェブ、9d・・・前方隔壁板、9f・・・結合用板、10・・・耐震部材、11・・・囲み部材、11a・・・開口、11b・・・蓋部材、12a・・・ボルト、12b・・・裏ナット、13a・・・高力ボルト(低強度部材と高強度部材との結合)、13b・・・ナット、15a・・・高力ボルト,15b・・・ナット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造部材を結合して作った架構に組み込まれて、該架構に所定の大きさ以上の外力が作用した時に塑性変形することで前記外力によるエネルギーを吸収する耐震部材であって、
前記架構に外力が作用した時に、前記構造部材よりも先に塑性変形する低強度部材を有し、
該低強度部材はアルミニウム合金で形成されている、ことを特徴とする耐震部材。
【請求項2】
前記低強度部材の周囲を囲む囲み部材を備え、
該囲み部材は、前記低強度部材が座屈した時に前記低強度部材の変形を制限する内壁面を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の耐震部材。
【請求項3】
前記低強度部材の両端部がそれぞれ着脱可能に結合される第1および第2の高強度部材を備え、
前記架構に外力が作用した時に、前記低強度部材は、第1および第2の高強度部材よりも先に塑性変形し、
第1および第2の高強度部材は、それぞれ前記構造部材または前記架構の付帯物に結合され、
第1および第2の高強度部材が前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合された状態で、前記低強度部材を第1および第2の高強度部材から取り外して前記囲み部材の外部に取り出し、新しい前記低強度部材を当該外部から前記囲み部材の内部に入れて第1および第2の高強度部材に結合させるために、前記低強度部材を通す開口が前記囲み部材に形成され、前記開口を塞ぐ蓋部材が前記囲み部材に設けられる、ことを特徴とする請求項2に記載の耐震部材。
【請求項1】
複数の構造部材を結合して作った架構に組み込まれて、該架構に所定の大きさ以上の外力が作用した時に塑性変形することで前記外力によるエネルギーを吸収する耐震部材であって、
前記架構に外力が作用した時に、前記構造部材よりも先に塑性変形する低強度部材を有し、
該低強度部材はアルミニウム合金で形成されている、ことを特徴とする耐震部材。
【請求項2】
前記低強度部材の周囲を囲む囲み部材を備え、
該囲み部材は、前記低強度部材が座屈した時に前記低強度部材の変形を制限する内壁面を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の耐震部材。
【請求項3】
前記低強度部材の両端部がそれぞれ着脱可能に結合される第1および第2の高強度部材を備え、
前記架構に外力が作用した時に、前記低強度部材は、第1および第2の高強度部材よりも先に塑性変形し、
第1および第2の高強度部材は、それぞれ前記構造部材または前記架構の付帯物に結合され、
第1および第2の高強度部材が前記構造部材または前記架構の前記付帯物に結合された状態で、前記低強度部材を第1および第2の高強度部材から取り外して前記囲み部材の外部に取り出し、新しい前記低強度部材を当該外部から前記囲み部材の内部に入れて第1および第2の高強度部材に結合させるために、前記低強度部材を通す開口が前記囲み部材に形成され、前記開口を塞ぐ蓋部材が前記囲み部材に設けられる、ことを特徴とする請求項2に記載の耐震部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−191482(P2009−191482A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31786(P2008−31786)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
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