説明

耐食性および耐アルカリ性に優れた塗装鋼板

【課題】強アルカリ性の腐食環境下においても耐食性を維持することができる、耐食性および耐アルカリ性に優れた塗装鋼板を提供すること。
【解決手段】本発明の塗装鋼板は、鋼板と、前記鋼板の表面に形成された化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の表面に形成されたプライマー塗膜と、前記プライマー塗膜の表面に形成されたトップ塗膜とを有する。化成処理皮膜は、チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と、チタンの酸化物またはチタンの水酸化物と、ジルコニウムの酸化物またはジルコニウムの水酸化物とを含む。プライマー塗膜は、有機樹脂と、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムからなる群から選択される1種類または2種類の化合物からなる防錆顔料と、硫酸バリウムとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性および耐アルカリ性に優れた塗装鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品を加熱する際にふっくら感を与えるため、加熱室内に水蒸気を供給する電子レンジが開発されている。このようなスチーム機能を有する電子レンジでは、蒸発皿を加熱して蒸発皿内の水を煮沸させることで、水蒸気を発生させている(例えば、特許文献1〜3参照)。蒸発皿の材料としては、セラミック、ステンレスやアルミニウムなどの金属材料、金属材料に塗装を施した塗装鋼板などが使用されている。
【0003】
一方、電子レンジの加熱室内の部材は、煮沸塩水に曝されるため、腐食による塗膜剥離やフクレが生じやすいことが知られている。このような塗膜剥離やフクレを抑制することを目的として、溶融アルミニウムめっき鋼板の表面に、フルオロアシッド皮膜、耐熱樹脂にリン酸系防錆顔料を配合したプライマー塗膜、耐熱樹脂にフッ素樹脂粒子を配合したトップ塗膜を順次積層した塗装鋼板が提案されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−343844号公報
【特許文献2】特開2005−055142号公報
【特許文献3】特開2008−170149号公報
【特許文献4】特開2005−186287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スチーム機能を有する電子レンジでは、蒸発皿における金属材料の腐食が問題となっている。すなわち、スチーム機能を有する電子レンジでは、水道水の補給および煮沸を繰り返し行うため、蒸発皿には水道水の水垢(カルシウムやマグネシウムなど)が大量に蓄積する。この水道水の水垢に水が付着すると強いアルカリ性を示し、厳しい腐食環境となるため、金属材料を用いた蒸発皿および加熱室内の部材の腐食が問題となる。
【0006】
耐食性を向上させる手段の一つとして、蒸発皿に塗装鋼板を適用することが考えられる。しかしながら、塗装鋼板を用いた蒸発皿であっても、強アルカリ性の腐食環境下では、長時間使用すると塗膜下において金属材料が腐食してしまい、長期間の使用に耐えられる蒸発皿を提供することはできなかった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、強アルカリ性の腐食環境下においても耐食性を維持することができる、耐食性および耐アルカリ性に優れた塗装鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、所定のチタン化合物およびジルコニウム化合物を含む化成処理皮膜を形成し、さらにその上に所定のリン酸塩および硫酸バリウムを含むプライマー塗膜を形成することで上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の耐熱非粘着塗装鋼板に関する。
[1]鋼板と、前記鋼板の表面に形成された化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の表面に形成されたプライマー塗膜と、前記プライマー塗膜の表面に形成されたトップ塗膜とを有する塗装鋼板であって:前記化成処理皮膜は、チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と、チタンの酸化物またはチタンの水酸化物と、ジルコニウムの酸化物またはジルコニウムの水酸化物とを含み;前記プライマー塗膜は、有機樹脂と、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムからなる群から選択される1種類または2種類の化合物からなる顔料Aと、硫酸バリウムからなる顔料Bとを含み;前記プライマー塗膜における前記顔料Aの含有量および前記顔料Bの含有量は、それぞれ、前記有機樹脂100質量部に対して20〜100質量部であり;前記プライマー塗膜における前記顔料Aおよび前記顔料Bの合計含有量は、前記有機樹脂100質量部に対して40〜160質量部である、塗装鋼板。
[2]前記化成処理皮膜における、前記チタンのフッ化物および前記ジルコニウムのフッ化物の合計含有量に対する、前記チタンの酸化物および水酸化物ならびに前記ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量のモル比は、0.2〜3の範囲内である、[1]に記載の塗装鋼板。
[3]前記化成処理皮膜における、前記チタンの酸化物および水酸化物の合計含有量に対する、前記ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量のモル比は、0.4〜2の範囲内である、[1]または[2]に記載の塗装鋼板。
[4]前記有機樹脂は、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される1種類または2種類以上の樹脂を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の塗装鋼板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性、耐食性、耐水(湿)性および耐アルカリ性に優れた塗装鋼板を提供することができる。したがって、本発明によれば、強アルカリ性の腐食環境下においても長期間使用されうる塗装鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1Aは、No.7−1の塗装鋼板の加工部の写真である。図1Bは、No.7−2の塗装鋼板の加工部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の塗装鋼板は、鋼板(塗装原板)と、前記鋼板の表面に形成された化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の表面に形成されたプライマー塗膜と、前記プライマー塗膜の表面に形成されたトップ塗膜とを有する。すなわち、本発明の塗装鋼板では、鋼板表面に、化成処理皮膜、プライマー塗膜およびトップ塗膜が順次積層されている。
【0013】
以下、本発明の塗装鋼板の各構成要素について説明する。
【0014】
[塗装原板]
塗装原板となる鋼板の種類は、特に限定されない。塗装原板となる鋼板の例には、亜鉛めっき鋼板(電気Znめっき、溶融Znめっき)、合金化亜鉛めっき鋼板(溶融Znめっき後に合金化処理した合金化溶融Znめっき)、亜鉛合金めっき鋼板(溶融Zn−Mgめっき、溶融Zn−Al−Mgめっき、溶融Zn−Alめっき)、溶融Alめっき鋼板、溶融Al−Siめっき鋼板、ステンレス鋼板などが含まれる。高温環境における耐食性を向上させる観点からは、溶融Al−Siめっき鋼板が好ましい。
【0015】
また、高温環境における耐食性に加えて、さらに加工部耐食性も要求される場合は、塗装原板となる鋼板としては、めっき層を形成した後にさらに焼鈍した溶融Al−Siめっき鋼板が好ましい。180度折り曲げ加工などの曲げ加工を行った部位では、めっき層にクラックや剥離などの欠陥が発生して、下地鋼が露出する可能性がある。このように下地鋼が露出してしまうと、スチーム機能を有する電子レンジまたはオーブンレンジの庫内などの厳しい腐食環境下では、下地鋼が露出している部位において赤錆が発生してしまい、見栄えが低下するおそれがある。このように加工部耐食性が問題となる場合は、めっき層を形成した後にさらに焼鈍した溶融Al−Siめっき鋼板を使用すればよい。溶融Al−Siめっき層を形成した後にさらに焼鈍することで、溶融Al−Siめっき層を軟質化することができる。その結果、溶融Al−Siめっき層は、圧縮、引っ張りを伴う複合加工によってもクラックの発生や剥離が生じず、加工に追従した変形が可能になる。したがって、複合加工を行っても、下地鋼を露出させるクラックや剥離などの欠陥が発生せず、加工部耐食性を向上させることができる。
【0016】
溶融Al−Siめっき層を焼鈍するには、めっき層を形成した溶融Al−Siめっき鋼板を350〜500℃で30分間以上保持すればよい(特開昭62−50454号公報参照)。このとき、溶融Al−Siめっき浴から引き上げてから焼鈍するまでの冷却速度を調整することで、めっき層と下地鋼との界面に形成される合金層の膜厚を薄くすることができ、溶融Al−Siめっき層の加工性をより向上させることができる。具体的には、溶融Al−Siめっき浴(浴温640℃以上)から引き上げられた鋼板(鋼帯)を平均冷却速度10℃/秒以上で400℃まで冷却した後に、350〜500℃で30分間以上加熱することが好ましい(特開2000−256816号公報参照)。
【0017】
[化成処理皮膜]
化成処理皮膜は、1)チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と、2)チタンの酸化物またはチタンの水酸化物と、3)ジルコニウムの酸化物またはジルコニウムの水酸化物とを含む。これらのチタン化合物およびジルコニウム化合物を化成処理皮膜に含ませることで、環境負荷を小さくしつつ優れたバリア作用を付与することができる。
【0018】
まず、化成処理皮膜は、1)チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物を含む。これらのフッ化物は、水に溶解してフッ素イオンを遊離させる。遊離したフッ素イオンは、塗膜損傷部において下地の塗装原板と反応して不溶性の金属塩を形成することにより、自己修復性を付与する。
【0019】
これらのフッ化物は、自己修復性を付与するためには必要な成分であるが、水との接触機会が多い部材では、フッ化物の溶出量が多くなり、化成処理皮膜が多孔質状になるため、化成処理皮膜の塗装原板への密着性が低下してしまうおそれがある。特に、アルカリ性の水溶液に対しては、フッ素イオンが遊離しやすく、化成処理皮膜の塗装原板への密着性がより低下してしまう。また、化成処理皮膜が多孔質状になると、皮膜の耐透水性および耐イオン透過性が低下してしまうため、塗装鋼板の耐水(湿)性および耐アルカリ性が低下してしまうおそれもある。したがって、過剰量のフッ化物の存在は、化成処理皮膜の塗装原板への密着性の低下および耐水(湿)性および耐アルカリ性の低下に繋がるため、好ましくない。
【0020】
また、化成処理皮膜は、2)チタンの酸化物またはチタンの水酸化物と、3)ジルコニウムの酸化物またはジルコニウムの水酸化物とを含む。これらの酸化物および水酸化物は、水やアルカリ性の水溶液にほとんど溶解せず、塗装原板の表面に強固なバリア皮膜を形成して、塗装鋼板の耐食性、耐水(湿)性および耐アルカリ性を向上させることができる。
【0021】
本発明者らの予備実験によれば、化成処理皮膜のみを形成した状態で耐食性を比較したところ、チタンの酸化物は、ジルコニウムの酸化物に比べて耐食性をより向上させることができた。同様に、チタンの水酸化物は、ジルコニウムの水酸化物に比べて耐食性をより向上させることができる。これは、チタンの酸化物(水酸化物)は、化成処理皮膜形成時に無機高分子となって、ジルコニウムの酸化物(水酸化物)よりも強固なバリア皮膜を形成するためと推測された。一方、化成処理皮膜の上にプライマー塗膜およびトップ塗膜を形成した状態で耐食性を比較したところ、ジルコニウムの酸化物は、チタンの酸化物に比べて塗膜密着性および耐食性をより向上させることができた。同様に、ジルコニウムの水酸化物は、チタンの水酸化物に比べて塗膜密着性および耐食性をより向上させることができる。これは、ジルコニウムの酸化物(水酸化物)は、有機樹脂の架橋剤として作用することにより、塗膜密着性および塗膜緻密性を向上させるためと推測された。
【0022】
したがって、チタンの酸化物または水酸化物と、ジルコニウムの酸化物または水酸化物とを併用することで、バリア性、塗膜密着性および塗膜緻密性を向上させることができ、その結果として耐食性、耐水(湿)性および耐アルカリ性をより向上させることができると考えられる。しかしながら、これらの酸化物および水酸化物は、耐食性を付与するためには必要な成分であるが、不溶性であるため、自己修復性についてはほとんど期待できない。
【0023】
本発明の塗装鋼板の化成処理皮膜は、チタンのフッ化物およびジルコニウムのフッ化物を配合することにより自己修復性を付与し、チタンの酸化物または水酸化物とジルコニウムの酸化物または水酸化物とを配合することによりバリア性、塗膜密着性および塗膜緻密性を向上させた。したがって、本発明の塗装鋼板の化成処理皮膜は、優れた耐食性、耐水(湿)性および耐アルカリ性を発揮することができる。
【0024】
化成処理皮膜の膜厚は、特に限定されないが、チタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量が3〜100mg/mの範囲内となるように調整することが好ましい。合計金属換算付着量が3mg/m未満の場合、耐食性、耐水(湿)性および耐アルカリ性を十分に付与することができない。一方、合計金属換算付着量が100mg/m超の場合、塗膜の加工性が低下してしまうおそれがある。チタンおよびジルコニウムの合計金属換算付着量は、ICP分析などにより測定することができる。
【0025】
酸化物および水酸化物(チタンの酸化物および水酸化物ならびにジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量)に対するフッ化物(チタンのフッ化物およびジルコニウムのフッ化物の合計含有量)のモル比は、0.2〜3の範囲内が好ましい。モル比が0.2未満の場合、自己修復性を十分に付与できないため、傷が付いた箇所の耐食性が低下してしまうおそれがある。一方、モル比が3超の場合、可溶成分が多くなるため、耐水性および耐アルカリ性が低下してしまうおそれがある。
【0026】
チタンの酸化物および水酸化物の合計に対する、ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計のモル比は、0.4〜2の範囲内が好ましい。モル比が0.4未満の場合、ジルコニウムの酸化物および水酸化物による塗膜の架橋効果および塗膜密着性の向上効果を十分に発揮させることができないため、耐食性、耐水(湿)性および耐アルカリ性が低下してしまうおそれがある。一方、モル比が2超の場合、チタンの酸化物および水酸化物によるバリア効果を十分に発揮させることができないため、耐食性、耐水(湿)性および耐アルカリ性が低下してしまうおそれがある。
【0027】
化成処理皮膜は、その他の任意の成分を含んでいてもよい。たとえば、化成処理皮膜は、プライマー塗膜との密着性をより向上させるために、ポリフェノールなどの有機樹脂を含んでいてもよい。また、化成処理皮膜は、バリア性向上のため、SiやAl、Mgなどの酸化物や、金属化合物を含んでいてもよい。さらに、化成処理皮膜は、自己修復性をより向上させるため、可溶性のリン酸塩や酸化性を有するMoやVなどの酸素酸塩を含んでいてもよい。酸化性を有する硝酸や前記酸素酸塩は、チタンやジルコニウムの酸化物の無機高分子化を促進するとともに、化成処理液を塗布した際にフッ化物の解離を促進する。したがって、これらの酸化性化合物を配合することで化成処理皮膜のフッ化物と酸化物および水酸化物との割合を制御することができる。
【0028】
化成処理皮膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、チタンのフッ化物塩やジルコニウムのフッ化物塩などを含む化成処理液をロールコート法、スピンコート法、スプレー法などの方法で塗装原板の表面に塗布し、水洗せずに乾燥させればよい。乾燥温度および乾燥時間は、水分を蒸発させることができれば特に限定されない。生産性の観点からは、乾燥温度は、到達板温で60〜150℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、2〜10秒の範囲内が好ましい。また、化成処理液中においてチタン塩およびジルコニウム塩が安定して存在できるように、キレート作用のある有機酸を化成処理液に添加してもよい。有機酸の例には、タンニン酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、乳酸および酢酸が含まれる。
【0029】
[プライマー塗膜]
プライマー塗膜は、有機樹脂をベースとして、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムからなる群から選択される1種類または2種類の防錆顔料(顔料A)と、硫酸バリウム(顔料B)とを含む。
【0030】
プライマー塗膜のベースとなる有機樹脂は、特に限定されないが、耐熱性を付与する観点から、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される1または2以上の耐熱性樹脂が好ましい。
【0031】
防錆顔料(顔料A)としては、リン酸マグネシウム、リン酸ジルコニウムまたはこれらの組み合わせが使用される。後述するように、プライマー塗膜には、防錆顔料の溶出抑制のために硫酸バリウムが配合されるが、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムは、硫酸バリウムにより溶出を抑制されうる。一方、硫酸バリウムは、その他の防錆顔料(カルシウム系、ケイ酸系、リン酸亜鉛など)に対してはほとんど溶出を抑制できない。
【0032】
リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウム(顔料A)の含有量は、ベースとなる有機樹脂100質量部に対して20〜100質量部の範囲内が好ましい。含有量が20質量部未満の場合、耐食性を十分に発揮させることができない。一方、含有量が100質量部超の場合、防錆顔料の溶出量が多くなり、耐水性および耐アルカリ性が低下してしまうおそれがある。
【0033】
硫酸バリウム(顔料B)は、アルカリ雰囲気におけるリン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウム(顔料A)の過剰な溶出を抑制する。この抑制は、溶出したリン酸イオンとバリウムイオンが反応し、再析出するためと推察される。これにより、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムの溶出量が低減し、耐透水性および耐イオン透過性を維持することができるため、耐水性および耐アルカリ性を付与することができる。
【0034】
硫酸バリウムの含有量は、ベースとなる有機樹脂100質量部に対して20〜100質量部の範囲内が好ましい。含有量が20質量部未満の場合、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムの溶出を十分に抑制することができない。一方、含有量が100質量部超の場合、プライマー塗膜が多孔質状になり、耐水性が低下してしまうおそれがある。
【0035】
リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウム(顔料A)ならびに硫酸バリウム(顔料B)の合計含有量は、有機樹脂100質量部に対して40〜160質量部の範囲内が好ましい。合計含有量が40質量部未満の場合、耐食性を十分に発揮させることができない。一方、合計含有量が160質量部超の場合、プライマー塗膜が多孔質状になり、耐水性が低下してしまうおそれがある。
【0036】
リン酸系防錆顔料(顔料A)に対する硫酸バリウム(顔料B)の質量比は、0.5〜1.6の範囲内が好ましい。質量比が0.5未満の場合、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムの溶出を十分に抑制することができない。一方、質量比が1.6超の場合、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムの溶出を過剰に抑制するため、耐食性が低下してしまうおそれがある。
【0037】
プライマー塗膜は、透明でもよいが、任意の着色顔料を加えて着色されていてもよい。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄などが含まれる。また、プライマー塗膜には、鱗片状無機質添加材や無機質繊維などを加えて塗膜硬度および耐摩耗性を向上させてもよい。鱗片状無機質添加材の例には、ガラスフレーク、グラファイトフレーク、合成マイカフレーク、合成アルミナフレーク、シリカフレークなどが含まれる。また、無機質繊維の例には、チタン酸カリウム繊維、ウォラスナイト繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維、炭素繊維などが含まれる。
【0038】
プライマー塗膜の膜厚は、特に限定されないが、0.5〜30μmの範囲内が好ましい。膜厚が0.5μm未満の場合、耐食性および塗膜密着性の効果が十分に得られない可能性がある。また、プライマー塗膜が着色塗膜の場合は、塗装原板を隠蔽するために3μm以上の膜厚が好ましい。一方、膜厚が30μm超の場合、塗膜表面が柚子肌状になって外観が劣化するとともに、焼き付けする際にワキが発生しやすくなる。
【0039】
プライマー塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、有機樹脂や、リン酸マグネシウムまたはリン酸ジルコニウム(顔料A)、硫酸バリウム(顔料B)などを含むプライマー塗料を化成処理鋼板の表面に塗布し、焼き付ければよい。プライマー塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。また、乾燥温度は、到達板温で200℃〜400℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、20〜180秒の範囲内が好ましい。特に、有機樹脂として、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される1または2以上の耐熱性樹脂を用いる場合は、乾燥温度は、到達板温で300℃〜400℃の範囲内がより好ましく、乾燥時間は、30〜180秒の範囲内がより好ましい。この範囲で乾燥させると、ベース樹脂が十分に硬化するため、特性を発揮させやすい。
【0040】
[トップ塗膜]
トップ塗膜は、特に限定されないが、耐熱性および易洗浄性(非粘着性)の観点から、耐熱性樹脂をベースとしてフッ素樹脂を含有する塗膜が好ましい。
【0041】
トップ塗膜に含まれる耐熱性樹脂は、プライマー塗膜に含まれる耐熱性樹脂と同一であってもよいし、異なるものであってもよい。たとえば、トップ塗膜に含まれる耐熱性樹脂は、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂またはこれらの組み合わせである。
【0042】
フッ素樹脂としては、耐熱性および易洗浄性を付与する観点から融点が270℃以上の熱溶融性フッ素樹脂が好ましい。そのようなフッ素樹脂の例には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレンなどの重合体または共重合体が含まれる。これらの中では、易洗浄性の持続性および耐熱性の観点から、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体が特に好ましい。
【0043】
フッ素樹脂の含有量は、耐熱性樹脂100質量部に対し10〜200質量部の範囲内が好ましい。含有量が10質量部未満の場合、易洗浄性を十分に発揮させることができない。一方、含有量が200質量部超の場合、プライマー塗膜に対するトップ塗膜の密着性が低下しやすい。
【0044】
トップ塗膜は、透明でもよいが、任意の着色顔料を加えて着色されていてもよい。着色顔料の例には、酸化チタン、カーボンブラック、酸化クロム、酸化鉄などが含まれる。
【0045】
トップ塗膜には、着色顔料として濃色系(黒色系)近赤外線反射顔料を配合してもよい。たとえば、本発明の塗装鋼板をオーブンレンジの庫内材に適用する場合、オーブンレンジの庫内材としては、意匠性の観点から濃色系の色調が好まれることが多い。しかし、オーブンレンジの庫内材に濃色系の色調のトップ塗膜が形成されている場合、オーブンの加熱時に放射される赤外線がトップ塗膜に吸収されてしまうため、加熱効率の低下および消費電力の増加に繋がる。このように本発明の塗装鋼板をオーブンレンジの庫内材などに適用する場合は、濃色系の色調を維持しつつ加熱効率を向上させる観点から、400〜750nmの波長域(可視光)における平均反射率が10%以下であり、かつ750〜2500nmの波長域(近赤外線)における平均反射率が20%以上の濃色系(黒色系)熱反射顔料をトップ塗膜に配合することが好ましい。濃色系(黒色系)近赤外線反射顔料の例には、Fe、Cr、CoOまたはこれらの組み合わせを含有する焼成顔料が含まれる。濃色系(黒色系)近赤外線反射顔料の含有量は、有機樹脂に対して5〜35質量部の範囲内が好ましい。含有量が5質量部未満の場合、濃い色調を付与することができない。一方、含有量が35質量部超の場合、塗膜の凝集力が低下し、加工性が劣るおそれがある。
【0046】
また、トップ塗膜には、鱗片状無機質添加材や無機質繊維などを加えて塗膜硬度および耐摩耗性を向上させてもよい。鱗片状無機質添加材の例には、ガラスフレーク、グラファイトフレーク、合成マイカフレーク、合成アルミナフレーク、シリカフレークなどが含まれる。また、無機質繊維の例には、チタン酸カリウム繊維、ウォラスナイト繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、シリカ繊維、ロックウール、スラグウール、ガラス繊維、炭素繊維などが含まれる。
【0047】
トップ塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5〜40μmの範囲内が好ましい。膜厚が5μm未満の場合、易洗浄性を十分に持続させることができない。一方、膜厚が40μm超の場合、塗膜表面が柚子肌状になって外観が劣化するとともに、焼き付けする際にワキが発生しやすくなる。加工性の観点からは、トップ塗膜の膜厚は、5〜20μmの範囲内が好ましい。
【0048】
トップ塗膜は、公知の方法で形成されうる。たとえば、有機樹脂や、フッ素樹脂(粒子状が好ましい)、着色顔料などを含むトップ塗料をプライマー塗布鋼板の表面に塗布し、焼き付ければよい。トップ塗料の塗布方法は、特に限定されず、プレコート鋼板の製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法、フローコート法、カーテンフロー法、スプレー法などが含まれる。また、乾燥温度は、到達板温で200℃〜450℃の範囲内が好ましく、乾燥時間は、20〜180秒の範囲内が好ましい。特に、耐熱性樹脂として、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂またはこれらの組み合わせを用いる場合は、乾燥温度は、到達板温で300℃〜400℃の範囲内がより好ましく、乾燥時間は、30〜180秒の範囲内がより好ましい。この範囲で乾燥させると、ベース樹脂が十分に硬化するため、特性を発揮させやすい。また、トップ塗料が熱溶融性フッ素樹脂を含む場合は、乾燥温度は、到達板温で350℃〜450℃の範囲内がより好ましく、乾燥時間は、60〜180秒の範囲内がより好ましい。この範囲で乾燥させると、十分な量のフッ素樹脂をトップ塗膜の表面に移動させて、優れた易洗浄性(非粘着性)を発揮させることができる。
【0049】
以上のように、本発明の塗装鋼板では、プライマー塗膜に硫酸バリウムを含ませることで、プライマー塗膜からの防錆顔料の過度の流出によるプライマー塗膜の多孔質化を抑制し、耐透水性および耐イオン透過性を向上させている。また、本発明の塗装鋼板では、化成処理皮膜に所定のチタン化合物およびジルコニウム化合物を含ませることで、化成処理皮膜のバリア性および自己修復性を向上させている。本発明の塗装鋼板は、耐水(湿)性、耐アルカリ性および耐食性に優れており、強アルカリ性の腐食環境下においても耐食性を維持することができる。
【0050】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
1.塗装鋼板の作製
塗装原板として、板厚0.5mm、片面めっき付着量40g/mの溶融Al−9Siめっき鋼板を準備した。塗装原板の表面に、表1に示す組成の化成処理液(実施例:No.1−1〜No.1−7、比較例:No.1−8〜No.1−10)を所定付着量になるようにバーコーターで塗布し、到達板温100℃で10秒間乾燥させて、表2に示す化成処理鋼板(実施例:No.2−1〜No.2−11、比較例:No.2−12〜No.2−15)を作製した。各化成処理鋼板の表面におけるフッ化物と酸化物および水酸化物とのモル比は、X線光電子分光法(XPS;ESCA)で測定した。具体的には、TiおよびZrのピークをX−F、X−OおよびX−OH(X:Ti,Zr)に波形分離した後、各成分を定量化して、比率を特定した。ここで測定されたフッ化物の量は、化成処理皮膜に含まれるチタンのフッ化物およびジルコニウムのフッ化物の合計含有量に相当する。同様に、測定された酸化物および水酸化物の量は、化成処理皮膜に含まれるチタンの酸化物および水酸化物ならびにジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量に相当する。チタンとジルコニウムのモル比は、チタンの酸化物および水酸化物と、ジルコニウムの酸化物および水酸化物とのモル比に相当する。
【0052】
【表1】

【表2】

【0053】
化成処理鋼板(No.2−1〜No.2−15)の表面に、表3に示すプライマー塗料(実施例:No.3−1〜No.3−6、比較例:No.3−7〜No.3−14)を所定膜厚になるようにバーコーターで塗布し、到達板温220℃で30秒間(No.3−1の塗料)または到達板温320℃で60秒間(No.3−2〜14の塗料)焼き付けて、プライマー塗布鋼板を作製した。次いで、プライマー塗布鋼板の表面に、表4に示すトップ塗料(No.4−1〜No.4−4)を所定膜厚になるようにバーコーターで塗布し、到達板温380℃で60秒間焼き付けて、表5に示す塗装鋼板(実施例:No.5−1〜No.5−23、比較例:No.5−24〜No.5−40)を作製した。
【0054】
プライマー塗料およびトップ塗料について、ポリエステルをベースとする場合は、フレキコート5000(日本ファインコーティングス株式会社)を用いた。また、ポリアミドイミドをベースとする場合は、トーロン4000TF(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社)を混合溶剤(N−メチル−2−ピロリドン、メチルイソブチルケトン、キシレン)に加え、ボールミルを用いて溶解および分散させたものを用いた。また、ポリエーテルスルホンをベースとする場合は、PES5003P(住友化学工業株式会社)を前記混合溶剤に加え、ボールミルを用いて溶解および分散させたものを用いた。また、ポリフェニルスルホンをベースとする場合は、レーデルR−5000(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社)を前記混合溶剤に加え、ボールミルを用いて溶解および分散させたものを用いた。
【0055】
パーフルオロアルキルビニルエーテル重合体としては、ネオフロンAP(ダイキン工業株式会社)を用いた。ヘキサフルオロエチレン重合体としては、ポリフロンM(ダイキン工業株式会社)を用いた。テトラフルオロエチレン重合体としては、ネオフロンNP(ダイキン工業株式会社)を用いた。
【0056】
【表3】

【表4】

【表5】

【0057】
2.加工密着性試験
各塗装鋼板から試験片(50mm×50mm)を切り出し、加工密着性試験を実施した。各試験片について180度密着折り曲げ加工(内R:1mm)を行った。各試験片の曲げ加工部にセロハンテープを貼り付けた後、曲げ稜線に対して垂直にテープを剥がして、塗膜の残存率を測定し、加工密着性を評価した。塗膜の残存率が、100%の場合を「◎」、90%以上100%未満の場合を「○」、80%以上90%未満の場合を「△」、50%以上80%未満の場合を「▲」、50%未満の場合を「×」と評価した。
【0058】
3.耐水性試験
各塗装鋼板から試験片(50mm×50mm)を切り出し、耐水性試験を実施した。各試験片を95℃以上の熱水に120時間浸漬した後、1mm各の碁盤目を100個作製した。各試験片の碁盤目部分にセロハンテープを貼り付けた後、試験片表面に対して垂直にテープを剥がして、塗膜の残存率を測定し、耐水性を評価した。塗膜の残存率が、100%の場合を「◎」、90%以上100%未満の場合を「○」、80%以上90%未満の場合を「△」、50%以上80%未満の場合を「▲」、50%未満の場合を「×」と評価した。
【0059】
4.耐アルカリ性試験
各塗装鋼板から試験片(50mm×50mm)を切り出し、耐水性試験を実施した。各試験片を95℃以上のNaOH水溶液(pH14)に浸漬し、塗膜フクレが発生する時間を測定し、耐アルカリ性を評価した。塗膜フクレが発生する時間が、120時間以上の場合を「◎」、80時間以上120時間未満の場合を「○」、24時間以上80時間未満の場合を「△」、2時間以上24時間未満の場合を「▲」、2時間未満の場合を「×」と評価した。
【0060】
5.耐食性試験
各塗装鋼板から試験片(150mm×70mm)を切り出し、耐食性試験を実施した。各試験片の上下端部をポリエステルテープでシールし、中央部にクロスカットを入れた後、塩水噴霧試験(5%NaCl、35℃、500時間)を行った。試験後、各試験片の左右の端部の最大フクレ片幅およびクロスカット部の最大フクレ片幅を測定し、耐食性を評価した。最大フクレ片幅が、0.5mm未満の場合を「◎」、0.5mm以上1mm未満の場合を「○」、1mm以上2mm未満の場合を「△」、2mm以上3mm未満の場合を「▲」、3mm以上の場合を「×」と評価した。
【0061】
6.分析結果
表6は、各塗装鋼板の分析結果を示す表である。各塗装鋼板について、加工密着性試験、耐水性試験、耐アルカリ性試験、耐食性試験の評価結果のうち最も低い評価を、その塗装鋼板の「総合評価」とした。
【0062】
【表6】

【0063】
表6に示されるように、本発明の塗装鋼板(塗装鋼板No.5−1〜No.5−23)は、加工部密着性、耐水性、耐アルカリ性および耐食性のすべてにおいて良好な結果を示した。
【0064】
これに対し、化成処理皮膜にチタンの酸化物および水酸化物が含まれていないNo.5−35の塗装鋼板は、クロスカット部の耐食性が劣っていた。これは、チタンの酸化物および水酸化物によるバリア効果を発揮させることができなかったためと考えられる。一方、化成処理皮膜にジルコニウムの酸化物および水酸化物が含まれていないNo.5−34の塗装鋼板は、端面部の耐食性が劣っていた。これは、ジルコニウムの酸化物および水酸化物による塗膜の架橋効果および塗膜密着性の向上効果を発揮させることができなかったためと考えられる。また、化成処理皮膜にチタンのフッ化物およびジルコニウムのフッ化物が含まれていないNo.5−37およびNo.5−38の塗装鋼板は、クロスカット部の耐食性が劣っていた。これは、フッ素イオンによる自己修復効果を発揮させることができなかったためと考えられる。
【0065】
また、プライマー塗膜におけるリン酸ジルコニウムの含有量が少ないNo.5−29の塗装鋼板は、耐食性が劣っていた。これは、リン酸ジルコニウムによる耐食性を発揮させることができなかったためと考えられる。一方、リン酸ジルコニウムの含有量が多いNo.5−27の塗装鋼板は、耐アルカリ性が劣っていた。これは、リン酸ジルコニウムの溶出量が多く、プライマー塗膜が多孔質状になったためと考えられる。また、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムの代わりにリン酸亜鉛が配合されているNo.5−30の塗装鋼板は、耐アルカリ性が劣っていた。これは、リン酸亜鉛の溶出を抑制できず、プライマー塗膜が多孔質状になったためと考えられる。
【0066】
また、プライマー塗膜における硫酸バリウムの含有量が少ないNo.5−28の塗装鋼板は、耐アルカリ性が劣っていた。同様に、プライマー塗膜に硫酸バリウムが配合されていないNo.5−31の塗装鋼板は、耐アルカリ性が劣っていた。これは、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムの溶出を十分に抑制できず、プライマー塗膜が多孔質状になったためと考えられる。一方、硫酸バリウムの含有量が多いNo.5−26の塗装鋼板は、耐水性が劣っていた。これは、過剰量の硫酸バリウムにより、プライマー塗膜が多孔質状になったためと考えられる。
【0067】
また、プライマー塗膜における顔料Aおよび顔料Bの合計含有量が少ないNo.5−24の塗装鋼板は、耐食性が劣っていた。これは、有機樹脂に対する顔料の割合が小さく、十分に耐食性を付与できなかったためと考えられる。一方、プライマー塗膜における顔料Aおよび顔料Bの合計含有量が多いNo.5−25、No.5−36およびNo.5−39の塗装鋼板は、耐水性が劣っていた。これは、過剰量の顔料により、プライマー塗膜が多孔質状になったためと考えられる。
【0068】
また、化成処理皮膜が形成されていないNo.5−40の塗装鋼板は、加工部密着性、耐水性、耐アルカリ性および耐食性のすべてにおいて劣っていた。同様に、プライマー塗膜が形成されていないNo.5−32の塗装鋼板は、加工部密着性、耐水性、耐アルカリ性および耐食性のすべてにおいて劣っていた。また、トップ塗膜が形成されていないNo.5−33の塗装鋼板では、耐食性が劣っていた。
【0069】
以上の結果から、本発明の塗装鋼板は、耐食性、耐水性および耐アルカリ性に優れていることがわかる。
【0070】
[実施例2]
実施例2では、塗装原板のめっき層を焼鈍することで、塗装鋼板の加工部耐食性も向上させうることを示す。
【0071】
1.塗装鋼板の作製
塗装原板として、以下の2種類の溶融Al−9Siめっき鋼板を準備した。塗装原板Aと塗装原板Bとは、めっき層を形成した後に焼鈍処理を行ったかどうかという点のみ異なる。
[塗装原板A]
・溶融Al−9Siめっき鋼板(板厚0.5mm、片面めっき付着量40g/m
・めっき層を形成した後に焼鈍処理無し
[塗装原板B]
・溶融Al−9Siめっき鋼板(板厚0.5mm、片面めっき付着量40g/m
・めっき層を形成した後に焼鈍処理有り(420℃で30時間加熱)
【0072】
塗装原板Aおよび塗装原板Bを用いて、実施例1のNo.5−3の塗装鋼板と同様の条件で塗装鋼板(実施例:No.7−1〜7−2)を作製した。塗装原板Aを用いたNo.7−1の塗装鋼板は、実施例1のNo.5−3の塗装鋼板と同じものである。
【0073】
具体的には、塗装原板の表面に、表1に示すNo.1−1の化成処理液を、Ti付着量が1.2mg/m、Zr付着量が2.3mg/mになるようにバーコーターで塗布し、到達板温100℃で10秒間乾燥させて、化成処理皮膜を形成した。次いで、化成処理鋼板の表面に、表3に示すNo.3−3のプライマー塗料を膜厚4μmになるようにバーコーターで塗布し、到達板温320℃で60秒間焼き付けて、プライマー塗膜を形成した。次いで、プライマー塗布鋼板の表面に、表4に示すNo.4−1のトップ塗料を膜厚10μmになるようにバーコーターで塗布し、到達板温380℃で60秒間焼き付けて、表7に示す塗装鋼板(実施例:No.7−1〜7−2)を作製した。
【0074】
【表7】

【0075】
2.加工部耐食性試験
各塗装鋼板から試験片を切り出し、加工部耐食性試験を実施した。180度密着折り曲げ加工を行った後、各試験片の端面をシールした。加工後の各試験片について、JIS K2246に準拠して70℃で200時間湿潤試験を行った。試験後、各試験片の表面に赤錆が発生しているか否かを観察して、加工部耐食性を評価した。
【0076】
図1は、湿潤試験を行った後の塗装鋼板の加工部の写真である。図1Aは、No.7−1の塗装鋼板(塗装原板A;焼鈍処理無し)の加工部の写真であり、図1Bは、No.7−2の塗装鋼板(塗装原板B;焼鈍処理有り)の加工部の写真である。
【0077】
図1Aに示されるように、めっき層を焼鈍していない塗装原板Aを使用したNo.7−1の塗装鋼板では、加工部において赤錆が発生していた。これは、加工時にめっき層などにクラックが発生して、下地鋼が露出したためと考えられる。一方、図1Bに示されるように、めっき層を焼鈍した塗装原板Bを使用したNo.7−2の塗装鋼板では、赤錆が全く発生しなかった。これは、めっき層を焼鈍して軟質化することで、加工時にめっき層にクラックが発生するのが抑制されたためと考えられる。
【0078】
以上の結果から、本発明の塗装鋼板は、めっき層を焼鈍した塗装原板を使用することで、加工部耐食性も向上させうることがわかる。
【0079】
[実施例3]
実施例3では、トップ塗膜に近赤外線反射顔料を配合することで、塗装鋼板の熱反射特性も向上させうることを示す。
【0080】
1.塗装鋼板の作製
塗装原板として、板厚0.5mm、片面めっき付着量40g/mの溶融Al−9Siめっき鋼板を準備した。
【0081】
表4に示すNo.4−1のトップ塗料の代わりに、表8に示すNo.8−1またはNo.8−2のトップ塗料を使用する点を除いては、実施例1のNo.5−3の塗装鋼板と同様の条件で塗装鋼板(実施例:No.9−1〜9−2)を作製した。No.4−1のトップ塗料とNo.8−1〜8−2のトップ塗料とは、黒色顔料を配合しているか否かが異なる。また、No.8−1のトップ塗料とNo.8−2のトップ塗料とは、配合されている黒色顔料が近赤外線反射性(熱反射性)の黒色顔料であるか否かが異なる。
【0082】
【表8】

【0083】
具体的には、塗装原板の表面に、表1に示すNo.1−1の化成処理液を、Ti付着量が1.2mg/m、Zr付着量が2.3mg/mになるようにバーコーターで塗布し、到達板温100℃で10秒間乾燥させて、化成処理皮膜を形成した。次いで、化成処理鋼板の表面に、表3に示すNo.3−3のプライマー塗料を膜厚4μmになるようにバーコーターで塗布し、到達板温320℃で60秒間焼き付けて、プライマー塗膜を形成した。次いで、プライマー塗布鋼板の表面に、表8に示すNo.8−1またはNo.8−2のトップ塗料を膜厚10μmになるようにバーコーターで塗布し、到達板温380℃で60秒間焼き付けて、表9に示す塗装鋼板(実施例:No.9−1〜9−2)を作製した。
【0084】
【表9】

【0085】
No.8−1のトップ塗料に配合した鉄・クロム系近赤外線反射顔料としては、42−706A(東罐マテリアル・テクノロジー株式会社)を使用した。No.8−2のトップ塗料に配合したカーボンブラック顔料としては、MA−100(三菱カーボン株式会社)を使用した。
【0086】
2.熱反射性試験
各塗装鋼板(No.9−1〜9−2)について、熱反射性試験を実施した。No.9−1またはNo.9−2の塗装鋼板を壁面材として用いて加熱室(幅34cm×奥行36cm×高さ23cm)を作製し、加熱室内にはガラスセラミックプレートを設置した。ガラスセラミックプレートを用いて加熱室内を赤外線加熱し、加熱室の壁面の温度を経時的に測定した。表10に、加熱室の天井面温度の測定結果を示す。
【0087】
【表10】

【0088】
表10に示されるように、トップ塗膜に一般的な黒色系顔料(カーボンブラック)を配合したNo.9−2の塗装鋼板では、加熱開始してから3分過ぎには天井面の温度が100℃を超えてしまい、5分後には134.2℃まで上昇していた。これは、黒色系顔料が近赤外線を吸収してしまったためと考えられる。一方、トップ塗膜に黒色系近赤外線反射顔料を配合したNo.9−1の塗装鋼板では、5分経過しても天井面の温度が80℃に達しておらず、優れた熱反射特性を有していた。天井面の温度の上昇速度を比較すると、黒色系近赤外線反射顔料を配合したNo.9−1の塗装鋼板の天井面の温度の上昇速度は、一般的な黒色系顔料を配合したNo.9−2の塗装鋼板の天井面の温度の上昇速度の約50%であった。
【0089】
以上の結果から、本発明の塗装鋼板は、トップ塗膜に近赤外線反射顔料を配合することで、塗装鋼板の熱反射特性も向上させうることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の塗装鋼板は、耐熱性、耐食性、耐水性および耐アルカリ性に優れているため、例えば水蒸気供給機能を有する過熱調理器の加熱室内の部材用のプレコート鋼板として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、前記鋼板の表面に形成された化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜の表面に形成されたプライマー塗膜と、前記プライマー塗膜の表面に形成されたトップ塗膜とを有する塗装鋼板であって、
前記化成処理皮膜は、チタンのフッ化物またはジルコニウムのフッ化物と、チタンの酸化物またはチタンの水酸化物と、ジルコニウムの酸化物またはジルコニウムの水酸化物とを含み、
前記プライマー塗膜は、有機樹脂と、リン酸マグネシウムおよびリン酸ジルコニウムからなる群から選択される1種類または2種類の化合物からなる顔料Aと、硫酸バリウムからなる顔料Bとを含み、
前記プライマー塗膜における前記顔料Aの含有量および前記顔料Bの含有量は、それぞれ、前記有機樹脂100質量部に対して20〜100質量部であり、
前記プライマー塗膜における前記顔料Aおよび前記顔料Bの合計含有量は、前記有機樹脂100質量部に対して40〜160質量部である、
塗装鋼板。
【請求項2】
前記化成処理皮膜における、前記チタンのフッ化物および前記ジルコニウムのフッ化物の合計含有量に対する、前記チタンの酸化物および水酸化物ならびに前記ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量のモル比は、0.2〜3の範囲内である、請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項3】
前記化成処理皮膜における、前記チタンの酸化物および水酸化物の合計含有量に対する、前記ジルコニウムの酸化物および水酸化物の合計含有量のモル比は、0.4〜2の範囲内である、請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項4】
前記有機樹脂は、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニルスルフィド樹脂、ポリイミド樹脂およびポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される1種類または2種類以上の樹脂を含む、請求項1に記載の塗装鋼板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−168875(P2011−168875A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149013(P2010−149013)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】