説明

肺疾患高血圧の治療効果を有するKMUP−1

【課題】本発明は、抗肺高血圧の医薬組成物およびその合成方法を提供する。
【解決手段】 本発明による医薬組成物は、7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチン及び7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルキサンチンから成る群から選択される何れか1つの化合物、その医薬的に許容可能な塩並びにその溶媒和化合物から成る群から選択される何れか1つの化合物を包含する。ここにおいて、前記化合物は、cGMPを増加することによりRhoキナーゼを抑制して抗高血圧の治療効果を達成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状グアノシン一リン酸塩(cGMP)の含有量を上昇させることができるテオフィリンを基礎構造とした化合物に関し、特に、cGMPを増加させることによりRhoキナーゼを抑制して高血圧を治療する7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチン(以下KMUP-1と略称)および7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルキサンチンの化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第6,979,687号には、テオフィリンを基礎構造としたKMUP-1およびKMUP-2が、ホスホジエステラーゼ(PDE)に対して最小の抑制作用を有するとともに、可溶性グアニルシクラーゼ(sGC)の活性化が可能であることが開示されている。PDEの抑制が環状グアノシン一リン酸塩(cGMP)の含有量を上昇させるほか、sGCの活性化はcGMPの生成に寄与し得る。cGMP分子はNO放出関連タンパク質の制御を改変し、ひいてはNO分子の放出を促して血管弛緩させることができる。したがって、米国特許第6,979,687号において、KMUP-1が陰茎構造中のアクチン(smooth muscle)の血管弛緩作用の向上に寄与することが裏付けられた。
【0003】
先前の研究ではすでに、cGMPの下流調節作用が、(1)RhoAタンパク質をリン酸化し、それによりRhoAキナーゼを失活させ、(2)IRAGをリン酸化して、筋小胞体中におけるカルシウムイオンに対するIP3/IRAGの調節作用を抑制し、及び(3)タンパク質キナーゼG(Protein Kinase G, PKG)を介してカルシウムイオンチャネルをリン酸化することを裏付けている(参考文献6,7,21参照)。
【0004】
cGMPおよびRhoキナーゼ(以下ROCKと略称)は肺動脈収縮性の調節において非常に重要な役割を持っている。不適な動脈収縮及び抵抗性は、関連する肺動脈高血圧(pulmonary attery hypertension, PAHT)において解決すべき問題である。ROCKにより調節制御されるカルシウム敏感性(Ca2+−sensitization)は、血管反応性の向上、血管収縮性の維持および高血圧の調節において中心的役割を担う(参考文献1-4参照)。そしてcGMPの生成量は、内皮細胞の機能障害による内皮細胞NOシンテターゼ(endothelial NOs; eNOs)の失活によって、低下する可能性がある(参考文献8-10参照)。
【0005】
現状において、既知なこととは:(1)cGMP依存性タンパク質キナーゼのシグナル経路は、動脈アクチン収縮におけるRho誘導型カルシウムイオン敏感性を制御できること(参考文献11参照);(2)cGMPの下流調節作用は、PKCが介在するカルシウムイオン敏感性を回復できること;及び(3)cGMP依存性タンパク質キナーゼは、Rhoタンパク質により調整制御され得ることである(参考文献12参照)。
【0006】
市販されるU46619は、動物モデルのPAHTを誘導でき、持続的な動脈収縮の増大及び肺動脈の抵抗性を再現することができる。しかしながら、U46619により誘導された肺動脈高血圧の動物モデルにおいて、cGMPのエンハンサーであるKMUP-1が、カリウムイオンチャネルの開口及び動脈中のeNOs・sGCの活性化、及びPDE5A/pKCα/ROCKの抑制により、協同作用を造成することで、PAHTを抑制できるか否かは未知である。
【0007】
PAHTの治療する方法には、PDE5阻害剤Sildenafil及びsGC活性化剤Bay-41-2272を利用してcGMPの含有量を増加する方法、および、Y27632を利用してROCKの活性を抑制する方法が存在する(参考文献13-16参照)。本発明者はさらに一歩進み、Sildenafil、Bay-41-2272及びY27632を用いて、cGMP依存型ROCK阻害剤、KMUP-1がPAHTを抑制できるか否かの研究を行っている。
【特許文献1】米国特許第6,979,687号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、抗肺高血圧の医薬組成物およびその合成方法を提供することである。
【発明を解決するための手段】
【0009】
本発明は、U46619により誘導したPAHTおよび血管収縮を抑制でき、肺動脈中のeNOs、sGC、PKGの発現の向上及びROCKの逆向きの還元、PDE5Aの活性化、単離された未処理の肺動脈中におけるPKCαのトランスロケーションを向上できるKMUP-1を提供する。
【0010】
したがって、本発明は、抗肺高血圧の治療効果を有する医薬組成物を提供する。この医薬組成物は、7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチン及び7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルキサンチンから成る群から選択される何れか1つの化合物、並びにその医薬的に許容可能な塩及びその溶媒和化合物から成る群から選択される何れか一つを包含する。ここにおいて、前記化合物はcGMPを増加することによりRhoキナーゼを抑制して肺疾患高血圧の治療効果を達成する。
【0011】
本発明の一側面によると、前記高血圧は比較的良好な自発性高血圧である。
【0012】
本発明はさらに、医薬的有効量の7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチン及び7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルキサンチンから成る群から選択される何れか1つの化合物、並びにその医薬的に有効なキャリアを哺乳動物に注入するステップを包含する、肺高血圧治療方法を提供する。
【0013】
本発明の一側面によると、前記注入は、経口、静脈注射および腹腔注射のいずれか1つである。
【0014】
本発明は他に、7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチンまたは7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルキサンチンの化合物を提供し、このような化合物は、肺高血圧治療の製造にも用いられる。
【0015】
本発明の一側面によると、前記高血圧は、肺動脈高血圧である。
【0016】
また、本発明の一側面によると、前記高血圧は比較的好適な自発性高血圧である。
【0017】
わかりやすく説明するために、本発明を下記の好適な実施例及び図面を参照しながら説明する。これによって、当該分野の当業者は本発明について理解でき本発明を実施することができるが、本発明の技術的思想は下記の実施態様に制限されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、抗高血圧薬理活性のKMUP-1化合物を提供する。以下は、KMUP-1薬理活性試験結果の詳細な説明である。
【0019】
薬理試験
1.化合物の合成方法
(A)0.2モルのテオフィリンを、100mLメチルアルコールを入れた500mLの3フラスコに入れ、溶解を行った後還流し、さらに0.4モルの1,2-ジブロムエタンを添加して持続的に撹拌して100℃で加熱反応した後、1.6モル水酸化ナトリウム125mLを添加して持続的に撹拌し、30分間反応後、さらに持続的に3〜5時間撹拌し、7-[2-ブロム(エチル)]-1,3-ジメチルキサンチンを得た。
【0020】
10mmolの7-[2-ブロム(エチル)]-1,3-ジメチルキサンチンを500mLの3フラスコに入れ、100mLのメチルアルコールで溶解して還流を行い、さらに30ミリモルの1-(2-クロロフェニル)ピペラジン)を添加して持続的に撹拌して60℃に加熱反応した後、さらに持続的に3〜5時間撹拌し、KMUP-1を得た。
【0021】
(B)0.2モルのテオフィリンを、100mLメチルアルコールを入れた500mLの3フラスコに入れ、溶解を行った後還流し、さらに0.4モルの1,2-ジブロムプロパンを添加して持続的に撹拌し、100℃で加熱反応した後、1.6モル水酸化ナトリウム125mLを添加して持続的に撹拌し、30分間反応後、さらに持続的に3〜5時間撹拌し、7-[2-ブロム(プロピル)]-1,3-ジメチルテオフィリン(xanthine)を得た。
【0022】
10mmolの7-[2-ブロム(プロピル)]-1,3-ジメチルテオフィリンを500mLの3フラスコに入れ、100mLのメチルアルコールで溶解して還流を行い、さらに30mmolの1-(2-クロロフェニル)ピペラジン)を添加して持続的に撹拌して60℃に加熱反応した後、さらに持続的に3〜5時間撹拌し、7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルテオフィリンを得た。
【0023】
2.血圧測定
肺動脈圧は、U46619(2.5mg・kg-1・min-1×20min)で誘導した後、測定を行った。平均肺動脈圧(Mean Pulmonary Artery Pressure, MMPAP)は、開胸した実験ラットの肺動脈にて測定した。経口、腹腔注射及び静脈注射にて、KMUP-1を実験ラット中に、それぞれU46619の誘導の30、30、及び20分前に投与した。動脈尾端の血圧を、8週齢の自発性高血圧実験ラット(Spontaneous hyperson rat, SHR)及び非自発性高血圧ラット(non-genomic disease type rat, WKY)をKMUP-1およびベヒクルで4週間処理した後、測定した。上昇血圧は、第9〜12週目の血圧から、8週目の初期血圧を引いた値とした。
【0024】
3.肺動脈張力の測定
実験ラットの肺動脈輪を約2〜3mm取り出し、それぞれ作用変換器(force transducer)と増幅器(amplifier)とに接続した(参考文献6参照)。血管弛張は下式で計算した。
弛緩度(Relaxation)%=KMUP-1による弛緩値−溶媒による弛緩値/KMUP-1による弛緩値。
【0025】
4.ウェスタンブロット分析
肺動脈輪は、まずU46619(0.15μM)またはPhenylerine(1.0μM)で60分間インキュベートした後、続いてKMUP-1を添加して60分間インキュベートした。肺動脈輪中タンパク質の発現はラットモノクローナル抗体で分析した(参考文献18参照)。U46619での誘導前に、阻害剤及びKMUP-1で前処理した。
【0026】
5.PKCα及びCa2+電流
実験ラット肺動脈中のアクチン細胞を酵素で分離し、そして0.5mg/mLの膠原酵素(コラゲナーゼ1A)、0.6mg/mLのpapain及び0.2mg/mLのdithioerythritolで45分間インキュベートした。ホールセルのPKCαとCa2+電流を従来のパッチクランプ法で測定した(参考文献23参照)。
【0027】
6.カルシウムイオンの移動性測定
Fura-2/AMカルシウムの蛍光探測剤を用いて実験ラットの肺動脈におけるアクチン細胞の遊離カルシウムの含有量を、蛍光スペクトル分析器(Shimadzu,RF-5301PC,日本)で測定した。
【0028】
動脈中のeNOs及びsGCは多量体複合体の形をとることがわかった(参考文献17参照)。同様に、KMUP-1、Bay-41-2271及びSildenafilは、主として、eNOs/sGC/PDEの複合的に機能する酵素系を調節することで、cGMPの作用を模倣している(参考文献18参照)。対照的に、Gタンパク質依存的カルシウム敏感性およびアゴニスト活性化カルシウムイオン流入に関与するROCKは、eNOsの共局在を抑制することができる。
【0029】
図1乃至図3は、経口、静脈注射及び腹腔注射による、U46619で誘導した実験ラットの平均肺動脈圧(MPAP)に対する本発明によるKMUP-1の効果を示す図である。経口KMUP-1の投与量はそれぞれ15、20及び30mg/kgであり、静脈注射のKMUP-1の投与量は20分間ごとに0.5、1.0及び2.0mg/kgであり、腹腔注射の投与量はそれぞれ0.05、0.1及び1.0mg/kgである。図1乃至図3の結果から、KMUP-1のU46619で誘導したMPAPにおける阻害作用は、投与量と比例することがわかる。
【0030】
図4は、U46619で誘導した実験ラットのMPAPに対する、市販の抗血圧薬物Milrinone、Sildenafil、Zaprinast及びUrapidilとの比較による、本発明によるKMUP-1の効果を示す図である。図4の結果から、市販の抗血圧薬物Milrinone、Sildenafil、Zaprinast及びUrapidilはいずれもU46619で誘導した実験ラットのMPAPを降下させることができるが、本発明によるKMUP-1の抑制効果が最も顕著であることがわかる。
【0031】
図5は、U46619を注入する前のラットの平均肺動脈圧(MPAP)に対する、本発明によるKMUP-1並びに市販の抗血管収縮薬物Milrinone(1μg kg-1min-1)、Zaprinast(1μg kg-1min-1)及びUrapidil(1μg kg-1min-1)の効果を示す図である。図6は、本発明によるKMUP-1並びに市販の抗血管収縮薬物Milrinone(1μg kg-1min-1)、Zaprinast(1μg kg-1min-1)及びUrapidil(1μg kg-1min-1)の、ラットの心拍数に対する効果を示す図である。図5及び図6の結果から、本発明によるKMUP-1と市販の各種抗血管収縮薬物は、系統性のMPAP及び心拍数に対して有意な効果が無いことがわかる。
【0032】
図7は、自発性高血圧ラット(SHR)及び非自発性高血圧ラット(WKY)における、本発明によるKMUP-1の抗高血圧活性を示す図である。経口的に、それぞれ10mg/kg及び30mg/kgのKMUP-1を8週齢のSHR(S)及びWKY(W)に投与した。S1は、KMUP-1を投与しない対照群である。実験の結果から、本発明によるKMUP-1は、SHRの血圧上昇の低下に有意な効果があるが、WKYでは降血圧作用についてはっきりした変化がないことがわかる。
【0033】
図8及び図9は、本発明によるKMUP-1の、Phenylephrine及びU46619で誘導した実験ラット肺動脈輪の収縮性に対する弛緩作用を示す図である。KMUP-1、KMUP-3、Milrinone、Sildenafil、Zaprinast及びUrapidilの注射量はいずれも100μMである。図8の結果から、実験ラットの分離された肺動脈輪において、KMUP-1は、U46619及びPhenylephrineにより誘導された収縮性を抑制できることから、本発明によるKMUP-1は、カルシウムイオン敏感性及び動脈アクチン中におけるカルシウムイオン流入を抑制することがわかる(参考文献21,5参照)。
【0034】
図10は、本発明によるKMUP-1の、Phenylephrineで誘導したラット肺動脈輪に対する弛緩作用を示す図である。PMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)、ODQ、L-NAME及びSQ22536は、いずれもKMUP-1(100μM)の適用前に注射した。実験の結果から、U46619で誘導される実験ラット動脈収縮に対する効果は、L-NAME(eNOs阻害剤)、ODQ(sGC阻害剤)、SQ22536(cAMP阻害剤)及びPMA(PKC活性剤)の存在下で減少することがわかる。したがって、上記実験結果から、eNOs/sGC複合酵素系が部分的に肺動脈の血管弛緩作用に関与していることが証明された。
【0035】
図11は、本発明によるKMUP-1の、U46619で誘導した実験ラット肺動脈輪におけるROCK及びeNOs発現に対する効果を示す図である。単離した血管を、各濃度(0.1、1.0及び10μM)のKMUP-1中で60分間インキュベートし、さらに続いてU46619(0.5μM)を添加して60分間インキュベートした。実験結果から、ROCKの発現量はKMUP-1の投与量と反比例し、eNOsの発現量はKMUP-1の投与量と比例することがわかる。
【0036】
図12は、本発明によるKMUP-1の、U46619で誘導した肺動脈輪におけるeNOs、sGCα及びsGCβの発現に対する効果を示す図である。単離した血管のサンプル群の1つは、U46619で60分間処理し、測定を行った。単離した血管のその他のサンプル群は、KMUP-1(10μM)で60分間処理した後、さらにU46619(0.5μM)を添加して60分間処理し、測定を行った。これに続いて再度それぞれL-NAME(10μM)及びOPQ(10μM)を添加して60分間処理し測定した群を作った。実験の結果から、U46619のみで処理した肺動脈輪中のeNOs、sGCα、sGCβの発現量はいずれも対照群と同等であり、先にKMUP-1で処理した後、さらにU46619で処理した場合の肺動脈輪中のeNOs、sGCα、sGCβ発現量は有意に向上したことがわかった。L-NAMEおよびODQにて処理した場合は、eNOsの発現量は有意に減少した。
【0037】
図13の(A)及び(B)は、本発明によるKMUP-1及び市販のY27632の、ROCK(A)及びPKG(B)発現量に対する効果を示す図である。単離した血管をそれぞれKMUP-1(100μM)、Y27632(100μM)及びRP-8pCPT-cGMP(100μM)で60分間インキュベートした。図13(A)は、RP-8pCPT-cGMP(cGMP)が存在する場合および存在しない場合における、KMUP-1およびY27632のROCK発現に対する影響を示す。図13(A)の結果から、KMUP-1は、Y27632と同様に、ROCKの発現量を低下させることが可能であり、図13(B)の結果から、KMUP-1は、Y27632よりはるかにPKGの発現を向上させることができることがわかる。しかしながら、ROCKの発現量の降下およびPKGの発現量の活性化に対するKMUP-1の効果は、cGMP阻害剤によって戻されることがわかる。つまり、ROCKは主としてeNOsの下流作用を調整制御するため、本発明によるKMUP-1は主としてcGMP作用に依存している。即ち、KMUP-1がROCKを抑制する作用は、eNOsの発現量を増加させることによるということである。対照的に、KMUP-1のeNOsに対する直接的活性化作用は、やはりROCKに対する抑制に起因する。
【0038】
図14は、KMUP-1の、U46619で誘導したラット肺動脈輪におけるPKCαのトランスロケーションに対する効果を示す図である。単離した血管を、最初にKMUP-1(100μM)で60分間培養し、さらにU46619(0.5μM)を添加して60分間培養した後、sGCα、PDE5A、及びPKGの発現量を測定した。図14の実験結果から、sGCα及びPKGの発現量は、KMUP-1の投与量と正比例し、PDE5Aの表現量はKMUP-1の投与量と反比例することがわかった。L-NAMEとODQで前処理を行っても、KMUP-1はやはりROCKの発現を阻害できることがわかった。したがって、本発明のKMUP-1のcGMPへの依存性は、sGCの活性化によるばかりでなく、PDE5Aの抑制にもよる(このことはいずれもU46619の存在と関係している)。そのうえ、cGMP阻害剤RP-8pCPT-cGMPは、KMUP-1に誘導されるROCKの減少、PKG発現量の上昇及びPKCαのトランスロケーションを弱めることができ、さらにKMUP-1のcGMP依存性及びROCK阻害特性を表している。
【0039】
図15の(A)及び(B)は、U46619が存在する場合および存在しない場合における、細胞質及び膜上のPKCα発現量に対する、それぞれの濃度のKMUP-1の効果を示す図である。実験の結果から、U46619の有無を問わず、膜上のPKCαの発現量は、KMUP-1の投与量の増大に応じて下がることがわかる。
【0040】
上述の通り、本発明の研究から、KMUP-1が、cGMPの上流にある多酵素複合系に関与し、ROCKの発現量を制御し、さらに単離された未処理の肺動脈中においてPKCαのトランスロケーションに関与することが示される。したがって、本発明によって提供されるKMUP-1は、cGMP合成を促進し及びROCKの発現量を減少させることで、PAHT及び動脈高血圧を抑制しうる。
【0041】
上記実施例は、本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明の実施範囲を限定するものではない。したがって本発明の請求項にて定義された形状、構造、特徴、及び精神による均等変化または修飾はいずれも本発明の請求項の範囲内に包括される。
【参考文献】
【0042】
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【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、経口による、U46619で誘導した実験ラットの平均肺動脈圧(MPAP)に対する本発明によるKMUP-1の効果を示す図である。KMUP-1の投与量は、それぞれ15、20及び25mg/kgとした。U46619は、静脈注射により、20分間で2.5μg/min/kgで行った。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図2】図2は、腹腔注射による、U46619で誘導した実験ラットの平均肺動脈圧(MPAP)に対する本発明によるKMUP-1の効果を示す図である。KMUP-1の投与量、はそれぞれ0.05、0.1及び1.0mg/kgとした。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図3】図3は、静脈注射による、U46619で誘導した実験ラットの平均肺動脈圧(MPAP)に対する本発明によるKMUP-1の効果を示す図である。KMUP-1の投与量は、それぞれ0.5、1.0及び2.0mg/kgとした。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図4】図4は、U46619で誘導した実験ラットの平均肺動脈圧(MPAP)に対する、市販の抗血管収縮薬物Milrinone(1μg kg-1min-1)、Zaprinast(1μg kg-1min-1)及びUrapidil(1μg kg-1min-1)との比較による、本発明によるKMUP-1の効果を示す図である。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図5】図5は、U46619を注入する前のラットの平均肺動脈圧(MPAP)に対する、本発明によるKMUP-1並びに市販の抗血管収縮薬物Milrinone(1μg kg-1min-1)、Zaprinast(1μg kg-1min-1)及びUrapidil(1μg kg-1min-1)の効果を示す図である。
【図6】図6は、本発明によるKMUP-1並びに市販の抗血管収縮薬物Milrinone(1μg kg-1min-1)、Zaprinast(1μg kg-1min-1)及びUrapidil(1μg kg-1min-1)の、ラットの心拍数に対する効果を示す図である。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図7】図7は、自発性高血圧ラット(SHR)及び非自発性高血圧ラット(WKY)における、本発明によるKMUP-1の抗高血圧活性を示す図である。経口的にそれぞれ10mg/kg及び30mg/kgのKMUP-1を8週齢のSHR(S)及びWKY(W)に投与した。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図8】図8は、本発明によるKMUP-1の、Phenylephrineで誘導した実験ラット肺動脈輪の収縮性に対する弛緩作用を示す図である。KMUP-1、KMPU-3、Milrinone、Sildenafil、Zaprinast及びUrapidilの注射量は100μMである。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図9】図9は、本発明によるKMUP-1の、U46619で誘導した実験ラット肺動脈輪の収縮性に対する弛緩作用を示す図である。KMUP-1、KMPU-3、Milrinone、Sildenafil、Zaprinast及びUrapidilの注射量は100μMである。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図10】図10は、本発明によるKMUP-1の、Phenylephrineで誘導したラット肺動脈輪の収縮に対する弛緩作用を示す図である。PMA、ODQ、L-NAME及びSQ22536は、いずれもKMUP-1(100μM)の適用前に注射した。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図11】図11は、本発明によるKMUP-1の、U46619で誘導した実験ラット肺動脈輪におけるROCK及びeNOs発現に対する影響を示す図である。単離した血管を、各濃度(0.1、1.0及び10μM)のKMUP-1中で60分間インキュベートし、さらに続いてU46619(0.5μM)を添加して60分間インキュベートした。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図12】図12は、本発明によるKMUP-1の、U46619で誘導した肺動脈輪におけるeNOs、sGCα及びsGCβの発現に対する効果を示す図である。単離した血管を、各濃度(0.1、1.0及び10μM)のKMUP-1中で60分間インキュベートし、さらに続いてU46619(0.5μM)を添加して60分間インキュベートした。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図13】図13は、cGMP阻害剤(RP-8pCPT-cGMP)の存在および非存在下における、U46619で誘導した実験ラット肺動脈輪におけるROCK及びPKG表現量に対する本発明によるKMUP-1の効果を示す図である。単離した血管をそれぞれKMUP-1(100μM)、Y27632(100μM)で60分間インキュベートし、続いてさらにRP-8pCPT-cGMPで60分間インキュベートした。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図14】図14は、KMUP-1の、U46619で誘導したラット肺動脈輪におけるPKCαのトランスロケーションに対する効果を示す図である。単離した血管を、最初にKMUP-1(100μM)で60分間培養し、さらにU46619(0.5μM)を添加して60分間培養した。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。
【図15】図15は、U46619が存在する場合および存在しない場合における、細胞質及び膜上のPKCα発現量に対する、それぞれの濃度のKMUP-1の効果を示す図である。数値は、平均値±標準誤差で表し、サンプル数は6(Dunnett多重範囲検定で計算、*p<0.05及び**p<0.01)とした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチン及び7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルキサンチンから成る群から選択される何れか1つの化合物、その医薬的に許容可能な塩並びにその溶媒和化合物から成る群から選択される何れか1つの化合物を包含する医薬組成物であって、前記化合物がcGMPを増加することによりRhoキナーゼを抑制して肺疾患高血圧の治療効果を達成する抗肺高血圧の医薬組成物。
【請求項2】
前記高血圧が好適には自発性高血圧である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
医薬的に有効量の7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチン及び7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルキサンチンから成る群から選択される何れか1つの化合物、並びにその医薬的に有効なキャリアを哺乳動物中に注入する工程を備える、肺高血圧の治療方法。
【請求項4】
前記注入が、経口、静脈注射および腹腔注射から成る群から選択される何れか1つである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
抗肺高血圧薬物に用いられる7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチンの化合物。
【請求項6】
抗肺高血圧薬物の製造に用いられる7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルキサンチンの化合物。
【請求項7】
7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]エチル]-1,3-ジメチルキサンチンを合成する方法であって、
(1)テオフィリンを1,2-ジブロムエタンと反応させ、中間生成物を得るステップと、
(2)前記中間生成物を1-(2-クロロフェニル)ピペラジンと反応させ、7-[2-[4-(2-クロロフェニル)ピペラジニル]-1,3-ジメチルキサンチンを得るステップと
を備えてなる方法。
【請求項8】
前記テオフィリン及び前記中間生成物がメチルアルコール中に溶解され、前記ステップ(1)の反応がアルカリ触媒下で進行し、かつ前記アルカリ触媒が水酸化ナトリウムである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]プロピル]-1,3-ジメチルキサンチンを合成する方法であって、
(1)テオフィリンを1,2-ジブロムプロパンと反応させ、中間生成物を得るステップと、
(2)前記中間生成物を1-(2-クロロフェニル)ピペラジンと反応させ、7-[2-[4-(2-クロロベンゼン)ピペラジニル]-1,3-ジメチルキサンチンを得るステップと
を備えてなる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−308484(P2008−308484A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65460(P2008−65460)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(505302362)高雄醫學大學 (11)
【Fターム(参考)】