説明

脆性材料基板の分断方法

【課題】脆性材料基板のスクライブ操作のみによって従来のブレイク工程を必要とすることなく裏面に達する垂直クラックを伴うスクライブラインを形成することによって作業工程を簡略化すること。
【解決手段】分断の際に脆性材料基板に関する情報(厚さ、種類等)を入力し、その厚さ等の情報に対応したスクライビングホイールを選択してスクライブヘッドに装着する。脆性材料基板の厚さに応じた所定のスクライブ荷重をかけてスクライブすることによって従来のブレイク工程を要することなく裏面に達する垂直クラックを伴うスクライブラインを形成(フルカット)することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脆性材料基板を分断する脆性材料基板の分断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来ガラス板等の脆性材料基板、例えば液晶ディスプレイ用パネル基板等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造では、1枚のマザー基板を分断して複数個のパネル基板を取り出すようにしている。脆性材料基板を分断する場合にはマザー基板が所定の大きさの単個のパネルとなるように、スクライブ工程でスクライブラインを形成する。スクライブ工程では、例えば特許文献1に示すスクライブ装置によってスクライビングホイールをスクライブヘッドの下端に回転自在に保持し、スクライビングホイールを脆性材料基板に圧接し転動させてスクライブを実行している。その後のブレイク工程では、例えば特許文献2に示すブレイク装置によって脆性材料基板をスクライブラインに沿ってブレイクしている。
【0003】
ここでスクライブ装置に用いるスクライビングホイールとして、脆性材料基板の厚さ方向に深く伸展したクラックを伴うスクライブラインを形成できるようにするために特許文献3に記載された高浸透型のスクライビングホイールが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2000−119030号公報
【特許文献2】特開平2004−131341号公報
【特許文献3】特許第3074143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるにこのような従来の分断方法では、スクライブ装置とブレイク装置とが必要であり、製造工程も複数となるため、広い作業場所が必要となり、又製造に要する時間も長いという問題点があった。
【0006】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目ししてなされたものであって、1回の操作によって基板の裏面に達する垂直クラックを伴うスクライブラインを形成することで、一工程でスクライブとブレイクとを同時に行ったかのような基板の分断を完了できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明の脆性材料基板の分断方法は、外周をV字形状とした円板形の刃先の円周に沿って所定深さの溝を所定ピッチで形成したスクライビングホイールを用いて脆性材料基板を分断する分断方法であって、分断する脆性材料基板に関する情報(例えば、脆性材料基板の厚さ、種類等)を入力し、前記脆性材料基板に関する情報に対応したスクライビングホイールを選択し、前記選択されたスクライビングホイールをスクライブヘッドの先端に保持し、テーブル上の脆性材料基板に対して降下させ、前記スクライビングホイールを前記脆性材料基板の表面に前記脆性材料基板に関する情報に対応して選択されたスクライブ荷重で押圧した状態で前記スクライブヘッド及び脆性材料基板を相対的に移動させ、前記脆性材料基板に裏面に達する垂直クラックを伴うスクライブラインを形成することによってブレイク工程を必要とすることなく分断(フルカットともいう)するものである。
【0008】
ここで前記脆性材料基板に関する情報は脆性材料基板の厚さについての情報であってもよい。
【0009】
ここで前記脆性材料基板に関する情報は脆性材料基板の種類及び厚さについての情報であってもよい。
【0010】
ここで前記脆性材料基板は無アルカリガラス基板としてもよい。
【0011】
ここで前記選択されたスクライビングホイールは、脆性材料基板の厚さが厚くなるに従って刃先角度を大きくし、軸芯方向に向けた溝の深さを大きくするようにしてもよい。
【0012】
ここで前記スクライブ荷重は、前記脆性材料基板の厚さが厚くなるに従ってスクライブ荷重を大きくするようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
このような特徴を有する本発明によれば、脆性材料基板の厚さ、種類等の脆性材料基板に関する情報に応じてスクライビングホイールを選択し、このスクライビングホイールを用いてスクライブする。このときブレイク工程なしにフルカットを行うことができるので、作業工程を簡略化できるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態による分断方法を実行する分断装置を示す斜視図である。
【図2】この分断装置のコントローラを示すブロック図である。
【図3】本実施の形態による分断方法の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施の形態による分断方法を実行する分断装置の一例を示す概略斜視図である。この分断装置100は、従来のスクライブ装置と同様に移動台101が一対の案内レール102a、102bに沿って、y軸方向に移動自在に保持されている。ボ−ルネジ103は移動台101と螺合している。ボールネジ103はモータ104の駆動により回転し、移動台101を案内レール102a,102bに沿ってy軸方向に移動させる。移動台101の上面にはモータ105が設けられている。モータ105はテーブル106をxy平面で回転させて所定角度に位置決めするものである。脆性材料基板107はガラス板や貼り合わせ基板である。この基板107はテーブル106上に載置され、図示しない真空吸引手段などにより保持される。
【0016】
分断装置100には、移動台101とその上部のテーブル106をまたぐようにブリッジ110がx軸方向に沿って支柱111a,111bにより架設されている。ブリッジ110はリニアモータ113によってスクライブヘッド112を移動自在に保持している。リニアモータ113はスクライブヘッド112をx軸方向に沿って直線駆動するものである。スクライブヘッド112の先端部には、ホルダ114を介してスクライビングホイール115が取付けられている。スクライブヘッド112は、先端に取付けたスクライビングホイール115を脆性材料基板の表面上に適切な荷重にて圧接しながら転動させていき、スクライブラインを形成し、基板を分断するものである。テーブル106の上部にはCCDカメラ116a,116bが取付けられる。
【0017】
分断装置としては、例えば、テーブル106に代えて基板支持機構としてベルトコンベア等の基板移動手段としての基板支持機構を有し、当該基板支持機構上に配置した基板をスクライブするタイプの分断装置を使用することができる。また、基板を基板支持機構から基板の一部(分断すべきラインの部分)がはみ出すように支持し、はみ出した部分の下面にスクライブラインを形成するタイプの分断装置を用いることができる。さらに、基板を基板支持機構から基板の一部(分断すべきラインの部分)がはみ出すように支持し、はみ出した部分の両面(上面及び下面)にそれぞれスクライブラインを形成するタイプの分断装置を用いることができる。これらの分断装置は、例えば、再公表2004/048057号に示されている。
【0018】
スクライビングホイール115としては、日本特許第3074153号に示されている高浸透型のスクライビングホイールを用いる。このスクライビングホイールは刃先の稜線にほぼ一様にホイールの軸芯方向に向けて複数の溝が設けられている。スクライビングホイールの詳細については後述する。スクライビングホイールの材質としては、焼結ダイヤモンド(PCD)、超硬合金等を使用できるが、スクライビングホイールの寿命の点より、焼結ダイヤモンド(PCD)が好ましい。
【0019】
本発明で用いるスクライビングホイールは、外周の垂直断面形状をV字形状とした円板形の刃先の円周に沿って所定深さの溝を所定ピッチで形成したスクライビングホイールであって、(1)円板形の中心軸方向にそって形成された貫通孔に棒状のピンを挿入し、ピンの両端をホルダで保持することによって、回転可能に保持されるタイプと、(2)円板形の中心軸に沿って両側にそれぞれピンが一体形成され、両側に形成されたピンそれぞれの端部をホルダで保持することによって、回転可能に保持されるタイプがある。スクライビングホイールは、ホルダを介してスクライブヘッドの端部に取り付けられる。
【0020】
例えば、スクライビングホイールに関する情報(例えば、外径、刃先角度、刃先の稜線に設けた溝の深さ及びピッチ等)を、スクライビングホイールの円周の刃先(V字形状とした外周の稜線)以外の部分に記録しておくことによって、スクライビングホイール選択時(取付け時、取替え時)のスクライビングホイールの判別を容易にし、取り違えを防止することができる。また、スクライビングホイールに関する情報は、ホルダに記録しておいくこともできる。この場合、記録可能なスペースを広くとることができ、記録が容易になる。スクライビングホイールに関する情報は、スクライビングホイールやホルダの材質等にもよるが、例えば、レーザーマーキングによって記録することができ、1次元バーコードや2次元バーコード等の記号として記録することができる。
【0021】
さらに、スクライビングホイールをホルダとともに一体(スクライビングホイールを保持したホルダ構造体)として取り扱うこと(スクライビングホイール取付け時、取替え時にスクライビングホイールを保持したホルダと一体として取付け、取替えを行うこと)によって、スクライビングホイールの選択作業(取付け、取替え)が容易になり、特に、スクライビングホイールに関する情報をホルダに記録する場合に有効である。そのようなホルダ構造体としては、再公表2007/063979号に示されているチップホルダを用いることができる。
【0022】
ここで移動台101、案内レール102a,102bやテーブル106及びこれらを駆動するモータ104,105及びスクライブヘッド112を移動させるリニアモータ113は、スクライブヘッドと脆性材料基板をその基板のスクライブされる面に平行な方向で相対的に移動させる移動手段を構成している。
【0023】
次に本実施の形態による分断装置100のコントローラの構成について、ブロック図を用いて説明する。図2は分断装置100のコントローラ120のブロック図である。本図においてCCDカメラ116a,116bからの出力はコントローラ120の画像処理部121を介して制御部122に与えられる。入力部123は後述するように脆性材料基板に関する情報(厚さ、種類等)やスクライブラインのデータを入力するものである。制御部122にはXモータ駆動部124が接続され、更にYモータ駆動部125,回転用モータ駆動部126及びスクライブヘッド駆動部127が接続される。Xモータ駆動部124はリニアモータ113を駆動するものである。Yモータ駆動部125はモータ104を駆動するものである。回転用モータ駆動部126はモータ105を駆動するものである。制御部122はスクライブラインのデータに基づいて、テーブル106のy軸方向の位置を制御し、テーブル106を回転制御する。又制御部122はスクライブヘッド駆動部127を介してスクライブヘッドをx軸方向に駆動すると共に、スクライビングホイール115の転動時にスクライビングホイール115が脆性材料基板の表面上を適切な荷重にて圧接するように駆動するものである。更に制御部122にはモニタ128及びデータ保持部129が接続される。データ保持部129は脆性材料基板の厚さに応じたスクライブ荷重などのデータを保持するものである。
【0024】
次にこの実施の形態による分断方法について、図3のフローチャートを用いて説明する。この実施の形態では、まず入力部123によりステップS1において分断する脆性材料基板107の厚さ等の脆性材料基板に関する情報を入力する。この厚さの入力では、例えば0.4mm未満、0.4mm以上0.6mm未満、0.6以上1.1mm未満、1.1mm以上のように、いくつかのランクに分けた厚さを選択して入力するようにしてもよい。
【0025】
さてこうして入力部123で入力された脆性材料基板107の厚さに応じて、ステップS2では適切なスクライビングホイールを選択し、スクライブヘッドの先端に保持する。脆性材料基板107がガラス板、特に無アルカリガラス基板である場合の基板の厚さと選択すべきスクライビングホイールの一例を以下に示す。
(1)厚さが0.4mm未満の脆性材料基板に対しては、
刃先外径は1〜3mm、
刃先角度90〜105°のスクライビングホイールを用いる。
スクライビングホイールの刃先の稜線にホイールの軸芯方向に設けた溝については、
溝深さ1〜6μm、
ピッチ7〜45μmとする。
(2)厚さが0.4mm以上0.6mm未満の脆性材料基板に対しては、
刃先外径は2〜4mm、
刃先角度100〜105°のスクライビングホイールを用いる。
スクライビングホイールの刃先の稜線にホイールの軸芯方向に設けた溝については、
溝深さ3〜8μm、
ピッチ15μm〜70μmとする。
(3)厚さが0.6mm以上1.1mm未満の脆性材料基板に対しては、
刃先外径は2〜4mm、
刃先角度110〜140°のスクライビングホイールを用いる。
スクライビングホイールの刃先の稜線にホイールの軸芯方向に設けた溝については、
溝深さ5〜12μm、
ピッチ35μm〜80μmとする。
(4)厚さが1.1mm以上の脆性材料基板に対しては、
刃先外径は2〜5mm、
刃先角度125〜160°のスクライビングホイールを用いる。
スクライビングホイールの刃先の稜線にホイールの軸芯方向に設けた溝については、
溝深さ7〜150μm、
ピッチ40μm〜300μmとする。
【0026】
次にステップS3において入力された脆性材料基板107の脆性材料基板に関する情報(厚さ、種類等)に応じて適切なスクライブ荷重を選択する。このスクライブ荷重の値はスクライブ操作によって深くスクライブが浸透しブレイクが完了する値を選択するものとし、あらかじめ試験を行っておいてデータとしてデータ保持部129に保持している。一般的には脆性材料基板の厚さが厚くなれば、それに応じてスクライブ荷重も大きくする。そして入力された脆性材料基板に関する情報(厚さ、種類等)に応じたスクライブ荷重を読み出してスクライブヘッドを駆動する。そしてステップS4において分断すべきラインに沿ってスクライブヘッド及び脆性材料基板を相対的に移動させ、一工程の操作で、従来のスクライブ及びブレイクの二工程に相当する分断(フルカット、基板の裏面に達する垂直クラックを伴うスクライブラインの形成)を実行する。
【0027】
一般的に刃先角度が大きくなればスクライブ荷重を大きくすることができ、スクライブに伴って形成される垂直クラックを深くすることができる。又溝深さは刃先の外径に対応して大きくすることによって深い垂直クラックを伴うスクライブラインを形成することができる。このような観点から選択されたスクライビングホイールを用い脆性材料基板107をテーブル106上に載置し、選択されたスクライブ荷重でスクライブラインの形成を行う。
【0028】
脆性材料基板、例えばガラス板では製造時に外側の表面及び裏面がまず凝固し、次にその内部が固まるため、内部に収縮しようとする応力が生じる。従って内部の応力によってガラス板はほぼ3層に分けることができる。特許文献3に示されている高浸透刃先を用いた通常のスクライブでは、表面の高応力層(圧縮層)を超えた深さまで達する垂直クラックを伴うスクライブラインが形成され、垂直クラックの基板内の先端がこの深さを超えると垂直クラックは一気に深く浸透して裏面側の高応力層(圧縮層)にまで達するが、高応力層(圧縮層)の内部にまでは浸透しない。しかしこの発明では脆性材料基板に関する情報(厚さ、種類等)との関係で更に通常よりも高い荷重を選択しておくことによって、垂直クラックが裏面に到るまで深く浸透したスクライブラインを形成する。このように高浸透の刃先を用い適切な荷重を選択して従来のスクライブ装置と同様にスクライブを実行することで、そのまま脆性材料基板をフルカットすることができ、分断までの工程を終了することができる。従ってスクライブ工程の後でブレイク工程を設ける必要がなく、工程数を大幅に簡略化することができる。
【0029】
尚ここで説明したスクライビングホイールの数値は一例であり、この数値に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明はガラス基板等の脆性材料基板を分断する工程に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
100 分断装置
101 移動台
102a,102b 案内レール
103 ボールねじ
104,105 モータ
106 テーブル
107 脆性材料基板
110 ブリッジ
111a,111b 支柱
112 スクライブヘッド
113 リニアモータ
114 ホルダ
115 スクライビングホイール
116a,116b CCDカメラ
120 コントローラ
121 画像処理部
122 制御部
123 入力部
124 Xモータ駆動部
125 Yモータ駆動部
126 回転用モータ駆動部
127 スクライブヘッド駆動部
128 モニタ
129 データ保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周をV字形状とした円板形の刃先の円周に沿って所定深さの溝を所定ピッチで形成したスクライビングホイールを用いて脆性材料基板を分断する分断方法であって、
分断する脆性材料基板に関する情報を入力し、
前記脆性材料基板に関する情報に対応したスクライビングホイールを選択し、
前記選択されたスクライビングホイールをスクライブヘッドの先端に保持し、
テーブル上の脆性材料基板に対して降下させ、前記スクライビングホイールを前記脆性材料基板の表面に前記脆性材料基板に関する情報に対応して選択されたスクライブ荷重で押圧した状態で前記スクライブヘッド及び脆性材料基板を相対的に移動させ、
前記脆性材料基板に裏面に達する垂直クラックを伴うスクライブラインを形成することによって分断する脆性材料基板の分断方法。
【請求項2】
前記脆性材料基板に関する情報が脆性材料基板の厚さである請求項1記載の脆性材料基板の分断方法。
【請求項3】
前記脆性材料基板に関する情報が脆性材料基板の種類及び厚さである請求項1記載の脆性材料基板の分断方法。
【請求項4】
前記脆性材料基板が無アルカリガラス基板である請求項1〜3のいずれか記載の脆性材料基板の分断方法。
【請求項5】
前記選択されたスクライビングホイールは、脆性材料基板の厚さが厚くなるに従って刃先角度を大きくし、軸芯方向に向けた溝の深さを大きくした請求項1〜3のいずれか記載の脆性材料基板の分断方法。
【請求項6】
前記スクライブ荷重は、前記脆性材料基板の厚さが厚くなるに従ってスクライブ荷重を大きくした請求項1〜3のいずれか記載の脆性材料基板の分断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−112534(P2013−112534A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257253(P2011−257253)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】