説明

脆性板材の割断方法と割断装置

【課題】スクライブ線11が形成された脆性板材1をスクライブ線11に沿って高い寸法精度で割断することができる脆性板材の割断方法と割断装置10を提供すること。
【解決手段】脆性板材1のスクライブ線11を、載置台2の側方に上下動可能に設けられたプッシャ4の先端部41の直上位置に位置決めする位置決め工程と、位置決めされた脆性板材1の一端側を押上部61で押し上げて載置台2から離間させる離間工程と、脆性板材1の一端側を載置台2から離間させたまま、アンビル3の一対の突起部31とプッシャ4の先端部41とで挟圧することによって、脆性板材1をスクライブ線11に沿って割断する割断工程と、を行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性板材の割断方法と割断装置、より詳しくは、ガラス、結晶化ガラス、セラミック等の脆性材料から成る平板材を高い寸法精度で割断する脆性板材の割断方法と割断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大寸のガラス板から所定寸法のガラス小片を得る場合、まず、大寸ガラス板の一のガラス面に工具やレーザ光によりスクライブ線を形成し、次いで、このスクライブ線を引き裂く方向にガラス板に応力を作用させてガラス板を割断する方法が採られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、上面にスクライブ線を形成したガラス板を、下向きの一対の突起部を有するアンビルと上向きのプッシャとで上下から挟圧することによって、ガラス板に曲げ応力を作用させてガラス板をスクライブ線に沿って割断するガラス折断具が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、レーザ光により上面に碁盤目状にスクライブ線を形成し、このガラス板の上面を治具で押さえながら、その下面側を線状ヘッドで押圧することにより、ガラス板を各スクライブ線に沿って割断する方法が開示されている。碁盤目状に形成された複数のスクライブ線のうち、一の方向のスクライブ線でガラス板を一端部から順に割断することにより、まず、複数の短冊状のガラス板を得て、次いで、これら複数の短冊状ガラス板を並べ、他の方向のスクライブ線を揃えて再び割断することにより、例えば光学素子用カバーガラス等の矩形のガラス小片を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭62−37050号公報
【特許文献2】特開2004−221541号公報(段落0083、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のガラス折断具は、プッシャをガラス板に対し直角方向に直線移動させてガラス板を押圧することができるものの、ガラス折断具を手持ちしながら手動で割断操作を行わなければならないことから、プッシャでスクライブ線の形成位置を正確にガラス板の下面側から押圧することが容易でなく、スクライブ線に沿って高い寸法精度でガラス板を割断することが困難であった。
【0007】
また、特許文献2に記載のガラス割断方法は、大寸のガラス板から多数のガラス小片を効率的に得ることができるものの、各ガラス小片の割断面の欠損や突起、或いはガラス板面に対する直角度等について高い寸法精度を安定して得られないおそれがあり、したがって、その後のガラス小片の選別作業の負担が過大となり、高い信頼性と低コストが要求される例えば大量生産用の光学カバーガラス等の割断方法としては適していなかった。
【0008】
本発明は、従来の脆性板材の割断方法に上記のような問題があったことに鑑みて為されたもので、スクライブ線が形成された脆性板材をそのスクライブ線に沿って高い寸法精度で割断することができる脆性板材の割断方法と割断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上面にスクライブ線が形成された脆性板材を、下向きの一対の突起部及び該突起部同士の間の窪み部を有するアンビルと、該アンビルの窪み部に対し接近離反移動する上向きのプッシャとにより上下から挟圧して該脆性板材を該スクライブ線に沿って割断する脆性板材の割断方法であって、
載置台上に前記スクライブ線を上にして載置された前記脆性板材の一端側を該載置台の端部から側方へ突出させ、該脆性板材の割断すべきスクライブ線を、該載置台の側方に上下動可能に設けられた前記プッシャの先端部の直上位置に位置決めする位置決め工程と、位置決めされた前記脆性板材の一端側を押し上げて該脆性板材の一端側を前記載置台から離間させる離間工程と、前記脆性板材の一端側を前記載置台から離間させたまま、前記アンビルの一対の突起部を該脆性板材の上面における前記スクライブ線に対する対称位置に当接させた状態で前記プッシャで該スクライブ線を該脆性板材の下面側から押圧することにより該脆性板材を該スクライブ線に沿って割断する割断工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記離間工程において、前記プッシャで前記脆性板材の前記スクライブ線を下面側から押し上げて該脆性板材の一端側を前記載置台から離間させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、前記割断工程により前記脆性板材を割断して得られた割断片を、前記アンビルの窪み部に設けられた吸気孔を通じて該アンビルで吸引保持する保持工程と、該アンビルで吸引保持した割断片を、該アンビルを移動させて搬出する搬出工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上面にスクライブ線が形成された脆性板材を該スクライブ線に沿って割断する脆性板材の割断装置であって、
前記脆性板材を前記スクライブ線を上にして載置可能な載置台と、前記載置台の上方に設けられ、下向きの一対の突起部及び該突起部同士の間の窪み部を有するアンビルと、前記載置台の側方に上下動可能に設けられ、前記アンビルの窪み部に対し接近離反移動する上向きのプッシャと、前記載置台に設けられ、該載置台上に載置された前記脆性板材の一端側を該載置台の端部から側方へ突出させ、該脆性板材の割断すべきスクライブ線を前記プッシャの先端部の直上位置に位置決めする位置決め手段と、位置決めされた前記脆性板材の一端側を押上部で押し上げて該脆性板材の一端側を前記載置台から離間させる離間手段と、を備え、前記離間手段により前記脆性板材の一端側を前記載置台から離間させたまま、前記アンビルの一対の突起部を該脆性板材の上面における前記スクライブ線に対する対称位置に当接させた状態で前記プッシャで該スクライブ線を該脆性板材の下面側から押圧することにより該脆性板材を該スクライブ線に沿って割断することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、前記離間手段の押上部が、前記プッシャであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、前記脆性板材を割断して得られた割断片を、前記アンビルの窪み部に設けられた吸気孔を通じて吸引する吸引手段と、前記吸引手段により該アンビルで吸引保持した割断片を、該アンビルを移動させて搬出する移動手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る脆性板材の割断方法及び割断装置によれば、載置台上において脆性板材のスクライブ線をプッシャの先端部の直上位置に正確に位置決めした後、脆性板材をアンビルとプッシャとにより挟圧するので、プッシャでスクライブ線の形成位置を正確に脆性板材の下面側から押圧することができ、脆性板材をスクライブ線に沿って高い寸法精度で割断することができる。
【0016】
しかも、脆性板材の一端側を載置台から離間させた状態で、脆性板材の一端側をアンビルとプッシャとにより挟圧するので、割断時に、アンビルの一対の突起部間において、脆性板材の一端側がスクライブ線について対称に湾曲変形し得る空間を確保することができ、脆性板材の一端側に対し曲げ応力を対称に作用させることができる。したがって、割断面の欠損や突起、或いは板面に対する直角度等について高い寸法精度で安定に脆性板材を割断することができる。
【0017】
また、離間手段の押上部をプッシャと共通化すれば、装置構成を簡素化することができる。また、プッシャで脆性板材の下面におけるスクライブ線の直下位置を押し上げることができるので、脆性板材の位置決め精度を安定に維持することができ、より高い寸法精度で割断作業を行うことができる。
【0018】
また、吸引手段により割断直後の割断片をアンビルで吸引保持し、そして、移動手段によりアンビル自体を移動させて割断片を搬出すれば、従来のように、搬出時に、割断片が他の部材と接触して欠け、割れ等を生じるおそれがない。しかも、割断片を、アンビルの片側の突起部と窪み部とで支えて吸引保持することができるので、割断片の中央部を吸引していた従来の吸引ピンセットのように、例えばカバーガラス等の機能確保に重要な割断片の中央部を傷付けるおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の脆性板材の割断装置の全体側面図である。
【図2】本実施形態の脆性板材の上面図であり、(a)は複数の格子状のスクライブ線のうち一の方向のスクライブ線11Aで割断した状態を表し、(b)は他の方向のスクライブ線11Bで割断した状態を表すものである。
【図3】本実施形態の脆性板材の割断方法の各工程を説明する側面図であり、(a)は位置決め工程を表し、(b)は離間工程を表し、(c)、(d)は割断工程及び吸引工程を表すものである。
【図4】本実施形態の脆性板材の割断方法の搬出工程を説明する側面図である。
【図5】本発明に係る他の実施形態の脆性板材の割断方法の各工程を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態の脆性板材の割断装置10は、図1に示すように、上面に複数のスクライブ線11が形成された脆性板材1を載置可能な載置台2と、載置台2の上方に設けられたアンビル3と、載置台2の側方に上下動可能に設けられ、アンビル3と協働して脆性板材1を上下から挟圧するプッシャ4と、載置台2に設けられ、脆性板材1を所定位置に位置決めする位置決め手段5と、位置決めされた脆性板材1の一端側を載置台2から離間させる離間手段6と、アンビル3に設けられ、脆性板材1を割断して得られた割断片をアンビル3で吸引保持する吸引手段7と、アンビル3自体を移動させて割断片を搬出する不図示の移動手段と、を備えている。
【0021】
脆性板材1は、平板形状のガラス板やセラミックス板から成り、図2に示すように、その上面に、予め公知の熱加工レーザ切断装置により複数のスクライブ線11(11A、11B)が格子状に所定深さまで形成されている。脆性板材1は、まず、図2(a)に示すように、本実施形態の脆性板材の割断装置10によって、複数の格子状のスクライブ線のうち、一の方向のスクライブ線11Aにおいて一端部から順に割断され、複数の短冊状の割断片12が形成される。その後、図2(b)に示すように、得られた複数の短冊状の割断片12は、他の方向のスクライブ線11Bを揃えて並べられ、各スクライブ線11Bにおいて一端部から順に再び割断され、複数の矩形状の割断片13が形成される。本実施形態の脆性板材の割断装置10は、脆性板材として複数の短冊状の割断片12を並列させた状態で同時に割断することもできる。
【0022】
載置台2は、図1に示すように、上部に水平な載置面21を有し、載置面21上に脆性板材1がそのスクライブ線11を上にして水平姿勢で載置される。また、載置台2には、載置された脆性板材1のスクライブ線11が載置台2の端部22と平行になるように脆性板材1の向きを規制する不図示のガイド機構が設けられている。
【0023】
アンビル3は、載置台2の端部22と平行な方向(図1の紙面垂直方向)に延びる略長板形状を成しており、脆性板材1の全幅以上の長さを有する。アンビル3の下部には、互いに平行な一対の下向きの突起部31と、これら突起部31同士の間の窪み部32とが形成されており、窪み部32の中央33が、次述するプッシャ4の先端部41の直上に位置するように載置台2の上方に設けられている。
【0024】
プッシャ4は、載置台2の端部22の近傍に設けられており、載置台2の端部22と平行な方向(図1の紙面垂直方向)に延びる略長板形状を成し、脆性板材1の全幅以上の長さを有する。プッシャ4の上部には、載置台2の端部22と平行な先端部41が形成されており、上昇時に脆性板材1の下面と直線接触する。そして、プッシャ4の下方には、エアシリンダから成る押圧用アクチュエータ42が設けられており、この押圧用アクチュエータ42を作動させることによって、プッシャ4を鉛直方向上下に直線移動させることができ、プッシャ4の先端部41をアンビル3の窪み部32の中央33に対し接近離反移動させることができる。
【0025】
位置決め手段5は、載置台2の上部に設けられており、載置台2上の脆性板材1を直接押し出す押出部51と、押出部51を載置台2の載置面21に沿って水平に進退移動させる駆動部52とから構成されている。本実施形態の駆動部52は、不図示の制御モータにより駆動する送りねじ機構から構成されており、制御モータを作動させることによって、押出部51を正確に進退移動させることができる。このことで、位置決め手段5は、脆性板材1の一端側を載置台2の端部22から側方へ突出させ、割断すべきスクライブ線11をプッシャ4の先端部41の直上位置に正確に位置決めすることができる。
【0026】
離間手段6は、載置台2の端部22から突出した脆性板材1の一端側の下面を直接押し上げる押上部61と、押上部61を鉛直方向上下に直線移動させるエアシリンダから成る押上用アクチュエータ62とから構成されている。本実施形態では、離間手段6の押上部61をプッシャ4と共通化しており、押上部61はプッシャ4と一体に形成されている。このことで、押上用アクチュエータ62を作動させることによって、プッシャ4を鉛直方向上下に直線移動させることができ、プッシャ4で脆性板材1の一端側の下面を押し上げて脆性板材1の一端側を載置台2の載置面21から離間させることができる。
【0027】
なお、離間手段6の押上部61を、プッシャ4と共通化せず、プッシャ4とは別個独立に設けてもよい。また、離間手段6の押上用アクチュエータ62を、プッシャ4の押圧用アクチュエータ42と共通化してもよい。また、プッシャ4の押圧用アクチュエータ42及び/又は離間手段6の押上用アクチュエータ62を、制御モータにより作動する送りねじ機構により構成してもよい。
【0028】
吸引手段7は、上記アンビル3の窪み部32に開設された吸気孔71と、吸気孔71に吸気パイプ72を介して接続された不図示の吸気ポンプとから構成されている。この吸気ポンプを作動させることによって、吸気孔71を通じて窪み部32内の空気を吸引し、脆性板材1を割断して得られた割断片をアンビル3で吸引保持することができる。
【0029】
また、アンビル3は、不図示の移動手段によって、互いに直交する三軸方向に移動できるように構成されている。移動手段は、例えば送りねじ機構やラック−ピニオン機構等の公知の直線移動機構や、いわゆるロボットアーム等の移動機構を採用することができる。この移動手段を作動させることによって、アンビル3で吸引保持した割断片を、アンビル3自体を移動させて載置台2から搬出することができる。
【0030】
以下、図3及び図4を参照しながら、本実施形態の脆性板材の割断装置10による脆性板材1の割断方法について説明する。
【0031】
まず、図3(a)に示すように、上面にスクライブ線11が形成された脆性板材1を載置台2上に載置し、載置台2上の所定位置に位置決めする位置決め工程を行う。つまり、位置決め手段5の押出部51で脆性板材1を押し出すことによって、脆性板材1の一端側を載置台2の端部22から側方へ突出させ、脆性板材1の割断すべきスクライブ線11をプッシャ4の先端部41の直上位置に位置決めする。なお、脆性板材1を載置台2上に載置した後、脆性板材1の上面にスクライブ線11を形成し、その後、脆性板材1の位置決め工程を行うようにしてもよい。
【0032】
次いで、図3(b)に示すように、位置決めされた脆性板材1の一端側を押し上げて載置台2から離間させる離間工程を行う。つまり、離間手段6の押上用アクチュエータ62を作動させ、プッシャ4の先端部41で脆性板材1のスクライブ線11を下面側から押し上げることによって、脆性板材1の一端側を載置台2の載置面21から離間させる。このことで、アンビル3の一対の突起部31のうちの位置決め手段5側の突起部31の直下において、脆性板材1の下面と載置台2の載置面21との間に隙間Cを形成する。
【0033】
隙間Cの間隔は、脆性板材1の材質、寸法、スクライブ線11の深さ等に応じて適宜、設定することができる。例えば、2.5mmの間隔をあけて多数のスクライブ線11が格子状に形成された、縦200mm×横300mm×厚さ0.5mmのガラス材から成る脆性板材1を割断する場合、約0.2mmの隙間Cをあける。隙間Cの間隔は、数ミリ角の割断片を得る場合、0.01〜0.5mmが好ましく、数十ミリ角の割断片を得る場合、0.5〜3.0mmが好ましい。隙間Cの間隔が、0.01mmより小さいと、割断時に必要な隙間が確保できなくなり、脆性板材1を高い精度で割断できなくなる一方、隙間Cの間隔が、3.0mmを超えると、位置決めされた脆性板材1が位置ずれを起こすおそれが生じる。
【0034】
次いで、図3(c)、(d)に示すように、脆性板材1の一端側を載置台2から離間させたまま、脆性板材1の一端側をアンビル3とプッシャ4とにより上下から挟圧して脆性板材1を割断する割断工程を行う。本実施形態では、まず、図3(c)に示すように、プッシャ4で脆性板材1の一端側を下面側から支えたまま、アンビル3を鉛直方向に下降させることによって、アンビル3の一対の突起部31・31を脆性板材1の上面におけるスクライブ線11に対する対称位置に当接させ、次いで、図3(d)に示すように、押圧用アクチュエータ42を作動させることによって、プッシャ4でスクライブ線11を脆性板材1の下面側から押圧し、脆性板材1をスクライブ線11に沿って割断する。こうして、脆性板材1から所定寸法の割断片12を得る。
【0035】
次いで、割断工程により得られた割断片12を、アンビル3で吸引保持する保持工程を行う。つまり、図3(d)に示すように、割断直後に、割断片12を吸引手段7の吸気孔71を通じて吸引してアンビル3で保持する。本実施形態では、図3(c)に示すように、アンビル3の一対の突起部31を脆性板材1の上面に当接させる割断工程の段階から、吸引孔71による吸気を開始している。このことで、割断直後の割断片12を確実にアンビル3で吸引保持することができる。
【0036】
次いで、図4に示すように、アンビル3で保持した割断片12を、アンビル3自体を移動させて次工程へ搬出する搬出工程を行う。本実施形態では、まず、図4(a)に示すように、吸引手段7により割断片12を吸引したまま、不図示の移動手段によりアンビル3を鉛直方向に上昇させ、次いで、図4(b)に示すように、アンビル3を側方へ移動させることによって割断片12を載置台2から搬出する。
【0037】
そして、アンビル3は、搬出先で吸気孔71による吸気を停止し、或いは、吸気孔71から噴気して割断片12を離した後、移動手段により、図3(a)に示す待機位置に復帰する。また、この搬出工程時に、プッシャ4は、図4(a)に示すように、押圧用アクチュエータ42及び押上用アクチュエータ62の作動により下降して待機位置に復帰する一方、図4(b)に示すように、位置決め手段5の押出部51が再び設定距離分、脆性板材1を押し出すことによって、次に割断すべきスクライブ線11をプッシャ4の先端部41の直上位置に位置決めする。こうして、脆性板材1の次のスクライブ線11における割断作業が行われる。
【0038】
本実施形態の脆性板材の割断装置10によれば、寸法が一辺2.5±0.05mm×他辺2.5±0.05mm×厚さ0.5mmのガラス材から成る割断片について、割断面の直角度が90±3°以内、突起寸法20μm以内、欠け寸法が幅200μm以内、長さ300μm以内の高い寸法精度を実現することができた。
【0039】
このように本実施形態の脆性板材の割断装置10及び割断方法によれば、位置決め手段5により載置台2上において脆性板材1のスクライブ線11をプッシャ4の先端部41の直上位置に正確に位置決めした後、脆性板材1をアンビル3とプッシャ4とにより挟圧するので、プッシャ4でスクライブ線11の形成位置を正確に脆性板材1の下面側から押圧することができ、脆性板材1をスクライブ線11に沿って高い寸法精度で割断することができる。
【0040】
しかも、離間手段6により脆性板材1の一端側を載置台2から離間させた状態で、脆性板材1の一端側をアンビル3とプッシャ4とにより挟圧するので、図3(c)に示すように、割断時に、アンビル3の一対の突起部31間において、脆性板材1の一端側がスクライブ線11について対称に湾曲変形し得る空間を確保することができ、脆性板材1の一端側に対し曲げ応力を対称に作用させることができる。したがって、割断面の欠損や突起、或いは板面に対する直角度等について高い寸法精度で安定に脆性板材1を割断することができる。
【0041】
仮に、脆性板材1の一端側を載置台2から離間させることなく、脆性板材1の一端側をアンビル3とプッシャ4とにより挟圧すると、割断時に、脆性板材1の一端側がアンビル3の位置決め手段5側の一の突起部31と載置台2とよって拘束され、或いは、脆性板材1の他端側が載置台2の載置面21と干渉することになり、脆性板材1に対し曲げ応力を対称に作用させることができず、割断面に所定の直角度等を実現することができない。
【0042】
また、本実施形態の脆性板材の割断装置10及び割断方法によれば、離間手段6の押上部61をプッシャ4と共通化しているので、装置構成を簡素化することができる。また、プッシャ4で脆性板材1の下面におけるスクライブ線11の直下位置を押し上げることができるので、脆性板材1の位置決め精度を安定に維持することができ、より高い寸法精度で割断作業を行うことができる。
【0043】
また、本実施形態の脆性板材の割断装置10及び割断方法によれば、吸引手段7により割断直後の割断片12をアンビル3で吸引保持し、そして、移動手段によりアンビル3自体を移動させて割断片12を搬出するので、従来のように、搬出時に、割断片12が他の部材と接触して欠け、割れ等を生じるおそれがない。しかも、図4(a)に示すように、割断片12を、アンビル3の片側の突起部31の先端と窪み部32の底面とで支えて吸引保持することができるので、割断片の中央部を吸引していた従来の吸引ピンセットのように、例えばカバーガラス等の機能確保に重要な割断片12の中央部を傷付けるおそれもない。
【0044】
以上、本実施形態の脆性板材の割断装置及び割断方法について説明したが、本発明は他の実施形態でも実施することができる。
【0045】
例えば、上記実施形態では、割断工程において、図3(c)に示すように、アンビル3を下降させ、一対の突起部31・31を脆性板材1の上面に当接させた後、図3(d)に示すように、プッシャ4を上昇させて脆性板材1の下面を押圧しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、図5(a)に示すように脆性板材1の一端側を載置台2から離間させた後、図5(b)に示すように、アンビル3を下降させて片側の突起部31のみを脆性板材1の上面に当接させ、次いで、図5(c)、(d)に示すように、プッシャ4を上昇させて脆性板材1の下面を押圧し、脆性板材1を割断するようにしてもよい。
【0046】
また、アンビル3を、予め載置台2に対して例えば図5(b)に示す位置に待機させておき、アンビル3を下降動作させずに、プッシャ4の上昇動作のみによって、脆性板材1の離間工程及び割断工程を行うようにしてもよい。アンビル3とプッシャ4とによる相対的な挟圧動作については、割断すべき脆性板材1の材質、寸法、スクライブ線11の深さ等に応じて種々の設計変更が可能である。
【0047】
また、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内で、当業者の知識に基づいて種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得る。同一の作用又は効果が生じる範囲内でいずれかの発明特定事項を他の技術に置換した形態で実施しても良く、また、一体に構成されている発明特定事項を複数の部材から構成したり、複数の部材から構成されている発明特定事項を一体に構成した形態で実施してもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 脆性板材の割断装置
1 脆性板材
11 スクライブ線
12 割断片
2 載置台
3 アンビル
31 突起部
32 窪み部
4 プッシャ
41 先端部
5 位置決め手段
6 離間手段
61 押上部
7 吸引手段
71 吸気孔
C 脆性板材と載置台との間の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面にスクライブ線が形成された脆性板材を、下向きの一対の突起部及び該突起部同士の間の窪み部を有するアンビルと、該アンビルの窪み部に対し接近離反移動する上向きのプッシャとにより上下から挟圧して該脆性板材を該スクライブ線に沿って割断する脆性板材の割断方法であって、
載置台上に前記スクライブ線を上にして載置された前記脆性板材の一端側を該載置台の端部から側方へ突出させ、該脆性板材の割断すべきスクライブ線を、該載置台の側方に上下動可能に設けられた前記プッシャの先端部の直上位置に位置決めする位置決め工程と、
位置決めされた前記脆性板材の一端側を押し上げて該脆性板材の一端側を前記載置台から離間させる離間工程と、
前記脆性板材の一端側を前記載置台から離間させたまま、前記アンビルの一対の突起部を該脆性板材の上面における前記スクライブ線に対する対称位置に当接させた状態で前記プッシャで該スクライブ線を該脆性板材の下面側から押圧することにより該脆性板材を該スクライブ線に沿って割断する割断工程と、
を含むことを特徴とする脆性板材の割断方法。
【請求項2】
前記離間工程において、
前記プッシャで前記脆性板材の前記スクライブ線を下面側から押し上げて該脆性板材の一端側を前記載置台から離間させることを特徴とする請求項1に記載の脆性板材の割断方法。
【請求項3】
前記割断工程により前記脆性板材を割断して得られた割断片を、前記アンビルの窪み部に設けられた吸気孔を通じて該アンビルで吸引保持する保持工程と、
該アンビルで吸引保持した割断片を、該アンビルを移動させて搬出する搬出工程と、
を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の脆性板材の割断方法。
【請求項4】
上面にスクライブ線が形成された脆性板材を該スクライブ線に沿って割断する脆性板材の割断装置であって、
前記脆性板材を前記スクライブ線を上にして載置可能な載置台と、
前記載置台の上方に設けられ、下向きの一対の突起部及び該突起部同士の間の窪み部を有するアンビルと、
前記載置台の側方に上下動可能に設けられ、前記アンビルの窪み部に対し接近離反移動する上向きのプッシャと、
前記載置台に設けられ、該載置台上に載置された前記脆性板材の一端側を該載置台の端部から側方へ突出させ、該脆性板材の割断すべきスクライブ線を前記プッシャの先端部の直上位置に位置決めする位置決め手段と、
位置決めされた前記脆性板材の一端側を押上部で押し上げて該脆性板材の一端側を前記載置台から離間させる離間手段と、
を備え、
前記離間手段により前記脆性板材の一端側を前記載置台から離間させたまま、前記アンビルの一対の突起部を該脆性板材の上面における前記スクライブ線に対する対称位置に当接させた状態で前記プッシャで該スクライブ線を該脆性板材の下面側から押圧することにより該脆性板材を該スクライブ線に沿って割断することを特徴とする脆性板材の割断装置。
【請求項5】
前記離間手段の押上部が、前記プッシャである請求項4に記載の脆性板材の割断装置。
【請求項6】
前記脆性板材を割断して得られた割断片を、前記アンビルの窪み部に設けられた吸気孔を通じて吸引する吸引手段と、
前記吸引手段により該アンビルで吸引保持した割断片を、該アンビルを移動させて搬出する移動手段と、
を備える請求項4または請求項5に記載の脆性板材の割断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−43348(P2013−43348A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182156(P2011−182156)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】