説明

脱りん処理における気体酸素及び炭材を含む固体酸素源の供給方法

【課題】脱りん処理における気体酸素と固体酸素源との供給量や供給タイミング及び炭材の供給量を規定することによって、スラグのフォーミングを抑制しつつ確実に所望の[P]を得られることができるようにする。
【解決手段】第1吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲とし、第2吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.5〜0.8Nm3/t/minの範囲とし、第3吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲とする。粒径が1〜10mmの酸化鉄に粒径が1〜5mmの炭材を炭素成分における質量配合率で1〜5%配合したものを前記固体酸素源とする。第1期間では、固体酸素源の平均供給速度を1.1〜4.5kg−O/t/minの範囲とし、第2期間では、固体酸素源の供給を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱りん処理における気体酸素及び炭材を含む固体酸素源の供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高炉から出銑した溶銑を転炉型精錬容器に装入して、転炉型精錬容器内の溶銑に酸素を供給すると共に脱りん剤を投入することによって溶銑の脱りんが行われている。溶銑の脱りん処理を行う技術として、特許文献1〜特許文献3に示すものがある。
特許文献1では、ガスの上底吹き機能を備えた転炉に保持した溶銑に精錬剤を添加し、酸素ガスを上吹きしつつ炉底羽口から吹込むガスで該溶銑を撹拌して脱燐する溶銑の予備処理方法において、精錬剤の一部に粒度が2〜5mmの焼結鉱を20kg/t以上用い、且つ該焼結鉱が溶銑中へ持ち込む酸素量が、30%≦A/(A+B)×100≦60%となるように精錬している。ただし、上記Aは、焼結鉱原単位(kg/t)×0.17)であり、上記Bは酸素ガス原単位(m3標準状態/t))、焼結鉱酸素比率(%)=A/(A+B)×100である。
【0003】
特許文献2では、溶銑にCaO源と酸素源を添加して脱りん処理を行うに際し、脱りん処理開始時の溶銑温度が1280℃以上とし、Si量が0.07wt%以下の溶銑に対して、脱りん処理を行うと共に、溶銑の脱珪処理として、取鍋内での脱珪処理では脱珪材として少なくとも気体酸素を供給し、且つ、気体酸素の供給を溶銑への吹き付け及び/又は溶銑内への吹き込みにより行っている。
【0004】
特許文献3では、上底吹き機能を有する転炉形式の溶銑脱りん炉にて、底吹きガス撹拌を行いつつ酸素ガスを上吹きして溶銑脱燐を行うことにより低りん銑を溶製する方法において、受銑後、フッ素レスで Al23含有量が5wt%未満の脱りんフラックスを添加し、吹錬初期から滓化が終了するまでの間、上吹きランスの高さを2.0 〜3.0mの範囲内に維持し、吹錬初期から滓化が終了するまでの間の上吹き酸素ガス流量を0.5 〜3Nm3/min・tに制御し、その後は、酸素ガス流量を0.5Nm3/min・t以下に制御している。
【0005】
特許文献4では、溶銑を脱燐精錬し、その後脱炭精錬する転炉製鋼方法において、溶銑の酸素吹錬の終了時におけるスラグの塩基度(CaO/SiO2 )を2.2〜4.0とし、かつ酸素吹錬終了前後において炭素材を1kg/ton(溶銑)以上を転炉に装入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3705170号公報
【特許文献2】特開2004−156146号公報
【特許文献3】特開2002−275519号公報
【特許文献4】特許3772918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜特許文献3では、脱りん処理の際に、固体酸素源や気体酸素を用いることが開示されている。特許文献1〜特許文献3では、固体酸素源の供給量や気体酸素の流量が開示されているが、吹錬開始から吹錬終了までの全体の期間において、固体酸素源や気体酸素の供給量と供給のタイミングとの両者を詳細に開示されていないのが実情であり、脱りん後の溶銑の[P]を所定値に安定的にすることが困難であった。
【0008】
また、特許文献4では、脱りん処理の際に炭素材を1kg/ton以上投入することが開示されているが、炭素材と固体酸素源や気体酸素の関係は開示されていないのが実情であり、スラグのフォーミングを抑制しながら溶銑の[P]を所定値に安定的にすることは困難であった。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、脱りん処理における気体酸素と固体酸素源との供給量や供給タイミング及び炭材の供給量を規定することによって、スラグのフォーミングを抑制しつつ確実に所望の[P]を得られることができる脱りん処理における気体酸素及び固体酸素源の供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、転炉型精錬容器内の溶銑に、気体酸素及び固体酸素源を供給すると共に脱りん剤を投入して脱りんを行うに際し、前記転炉型精錬容器に供給する気体酸素供給量の全量を比率で100%としたとき、前記気体酸素の供給量が30%となるまでに、前記転炉型精錬容器の上方から添加する前記脱りん剤の投入を完了し、前記気体酸素に関して、第1吹き込み期間と第2吹き込み期間と第3吹き込み期間との順に全量を吹き込むものとし、前記吹錬開始から前記気体酸素の供給量が30%〜40%となる第1吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲とし、前記気体酸素の供給量が30%〜60%となる第2吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.5〜0.8Nm3/t/minの範囲とし、前記気体酸素の供給量が50%〜60%から吹錬終了までの第3吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲とし、前記固体酸素源に関して、粒径が1〜10mmの酸化鉄に粒径が1〜5mmの炭材を炭素成分における質量配合率で1〜5%配合したものを前記固体酸素源とし、吹錬開始から気体酸素の供給量が50%〜60%となる第1期間では、固体酸素源の平均供給速度を1.1〜4.5kg−O/t/minの範囲とし、第1期間を経過してから吹錬が終了する第2期間では、固体酸素源の供給を停止する点にある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脱りん処理における気体酸素と固体酸素源との供給量や供給タイミング及び炭材の供給量を規定することによって、スラグのフォーミングを抑制しつつ確実に所望の[P]を得られることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】転炉型精錬容器の全体側面図である。
【図2】気体酸素の供給量を基準とした脱りん剤の投入時期を示した図である。
【図3】気体酸素の供給量を基準とした時期における気体酸素の供給速度を示した図である。
【図4】炭材を供給したときのイメージ図である。
【図5】気体酸素の供給量を基準とした時期における固体酸素源の供給速度を示した図である。
【図6】気体酸素の供給量を基準とした時期における固体酸素源の平均供給速度を示した他の図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の溶銑の脱りん処理方法を行う転炉型精錬容器の全体側面図を示している。
図1に示すように、転炉型精錬容器1は、上吹き機能を有するものであり、脱りん処理を行うことができるものである。転炉型精錬容器1は、上方に向かって開口する炉口2を備えている。転炉型精錬容器1には、当該転炉型精錬容器1に装入された溶銑3に対して酸素を吹き込む上吹ランス4が炉口2から挿入自在に設けられている。
【0013】
また、転炉型精錬容器1には、当該転炉型精錬容器1内の溶銑3を攪拌するためのガス(例えば、窒素ガス)を吹き込むための吹き込みランス(耐火物ランス)7が炉口2から挿入自在に設けられている。転炉型精錬容器1には、脱りん剤などの副原料等を投入するシュート5が配備されている。転炉型精錬容器1の炉壁には炉体の傾動により溶銑3を出湯できるように出湯口6が形成されている。
【0014】
転炉型精錬容器1を用いて脱りん処理を行うには、高炉から出銑した溶銑3を転炉型精錬容器1に装入し、CaO源である生石灰などの脱りん剤をシュート5を介して溶銑に投入すると共に、酸素を供給する。溶銑3への酸素の供給は、上吹きランス4による気体酸素の吹き込みと、固体酸素源として投入する酸化鉄により行う。また、脱りん処理では、耐火物ランス7から窒素を吹き込んで溶銑3を攪拌しながら処理を行う。
【0015】
なお、溶銑の攪拌方法については、炉底の羽口からアルゴン、窒素、一酸化炭素等のガスを吹き込んで溶銑3を攪拌しながら処理を行う方法もある。
以下、本発明の脱りん処理における気体酸素及び炭材を含む固体酸素源の供給方法について詳しく説明する。
[脱りん剤の投入時期について]
本発明では、転炉型精錬容器1の溶銑3に対して、シュート5等を用いて上方からCaOを主成分とする脱りん剤を投入しているが、図2に示すように、上吹きランス4から供給している気体酸素の供給量の全量を100%としたとき、その供給量が30%になるまでに、脱りん剤の投入を完了することにしている。
【0016】
つまり、脱りん処理においては、吹錬開始から気体酸素を吹き込むことになるが、式(1)にて示される値(百分率)が30%に到達するまでに、上方から添加する脱りん剤の投入を完了する。
気体酸素の供給量(%)=[(吹錬開始から供給している気体酸素の積算量)/(脱りん処理に使用する気体酸素の全量)]×100 ・・・(1)
気体酸素の供給量が30%に達するまでの期間は、溶銑の脱珪反応が進行して、スラグ中にSiO2が生成され、投入した脱りん剤中のCaOと反応しながら脱りん反応に必要な塩基度を有するスラグを形成していくため、この期間に脱りん剤の投入を完了することが必要である。
【0017】
一方、脱りん剤の投入を気体酸素の供給量が30%に達するまでの期間に完了せず、気体酸素の供給量が30%を超える期間でも脱りん剤の投入を行ってしまうと、脱りん反応に必要な塩基度を有するスラグの形成が遅れてしまうことになり、所望も[P]を達成することができない。
このように、脱りん剤の投入は、処理の前半に完了する必要があり、上述したように、本発明では、気体酸素の供給量が30%に達するまでに、脱りん剤の投入を完了している。
[気体酸素について]
上吹ランス4にて気体酸素を吹き付けることにより、脱りん処理を行うが、本発明においては、図3に示すように、この気体酸素の吹きつけを3つの期間に分けて、第1吹き込み期間、第2吹き込み期間、第3吹き込み期間の順に気体酸素を吹き込んでいる。
【0018】
具体的には、吹錬開始から気体酸素の供給量が30%〜40%となる第1吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲としている。つまり、脱りん処理を開始して上吹きランス4から供給する気体酸素量が、脱りん処理に使用する気体酸素の全量に対して30%〜40%(30%以上40%以下)となる第1吹き込み期間では、上吹きランス4の気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minにしている(ハードブローということがある)。
【0019】
そして、気体酸素の供給量が30%〜60%(30%以上60%以下)となる第2吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.5〜0.8Nm3/t/minの範囲としている。つまり、第1吹き込み期間(ハードブローしている期間)が終了してから気体酸素の供給量が60%になるまでの期間では、上吹きランス4の気体酸素の供給速度を0.5〜0.8Nm3/t/minにしている(ソフトブローということがある)。
【0020】
なお、本発明の第1吹き込み期間は、吹錬開始から気体酸素の供給量が30%〜40%となる間のことであり、第2吹き込み期間は、気体酸素の供給量が30%〜60%となる間のことであり、期間に幅がある。ここで、第1吹き込み期間と第2吹き込み期間とがオーバラップしている部分が存在するが、脱りん処理を行うにあたっては、第1吹き込み期間後に第2吹き込み期間が続くことになる。即ち、第1吹き込み期間終了後に第2吹き込み期間に移行することとしている。例えば、第1吹き込み期間を気体酸素の供給量が0%〜35%の間としてハードブローを行った場合は、第2吹き込み期間の開始は、35%から始まることになる。さらに補足するならば、第2吹き込み期間とは、第1吹き込み期間終了後であり且つ気体酸素の供給量が30%〜60%となる間のことである。
【0021】
気体酸素の供給量が50%〜60%(50%以上60%以下)から吹錬終了までの第3吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲にしている(ハードブローということがある。つまり、第3吹き込み期間は、第2吹き込み期間によるソフトブローを終了後から気体酸素の供給量が100%になるまで(吹錬終了まで)のことで、この第3吹き込み期間では、気体酸素をハードブローに切り替えている。例えば、気体酸素の供給量が50%となったときに、第2吹き込み期間を終了した場合は、第3吹き込み期間の開始は、50%から始まることになる。また、気体酸素の供給量が60%となったときに、第2吹き込み期間を終了した場合は、第3吹き込み期間の開始は、60%から始まることになる。
【0022】
以上のように、脱りん処理を行うにあたって、気体酸素を供給する期間を、第1吹き込み期間と、第2吹き込み期間と、第3吹き込み期間との3つの期間とし、それぞれの期間における気体酸素の供給速度を制御することによって、効率良く脱りん処理を行うようにしている。
吹錬開始から気体酸素の供給量が30%〜40%に達する期間(第1吹き込み期間)は、主に、気体酸素や固体酸素源によって進行した脱珪反応が進行して溶銑の[Si]が0.10質量%以下になる時期である。そのため、脱珪反応を促進させるために、気体酸素の供給速度を高めの0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲としたハードブローによる吹錬を行っている。
【0023】
ここで、吹錬を行うにあたっては、固体酸素源も供給することになるが、この固体酸素源によってスラグの温度が低下し、スラグの温度が低すぎるとCaOの滓化が阻害される可能性がある。そこで、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minとしたハードブローとすることによって、脱珪反応を促進させるだけでなく、気体酸素よるスラグへの熱供給をも行ってCaOの滓化促進をしている。ただし、気体酸素の供給速度を1.2Nm3/t/minよりも大きくしてしまうと、脱珪反応を促進できるものの、急激な脱炭反応が進んでしまうことから、気体酸素の供給速度を1.2Nm3/t/min以下にしている。なお、気体酸素の供給速度が0.9Nm3/t/min未満であれば、ハードブローを行う効果が低下し、脱珪反応が進まず、スラグの滓化性も良くない。
【0024】
気体酸素の供給量が30%〜60%に達する期間(第2吹き込み期間)は、主に、気体酸素や固体酸素源によって進行した脱珪反応が進行して溶銑の[Si]が0.10質量%以下になり、脱りん処理を行うためのスラグの滓化が進む。[Si]が0.1質量%以下となってから継続的に気体酸素の供給速度をハードブローにしてしまうと、溶銑中の炭素の脱炭に寄与する気体酸素の比率が増加し、脱炭反応が進みスラグの滓化が阻害されるため、気体酸素の供給速度をソフトブローにする必要がある。そのため、第2吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を低めの0.5〜0.8Nm3/t/minの範囲としたソフトブローによる吹錬を行っている。
【0025】
ここで、気体酸素の供給速度を0.5〜0.8Nm3/t/minの範囲にすることによってソフトブローとしているが、このソフトブローでは、スラグ中のFeと酸素とを反応させることによって、ハードブローとは異なる方法により、スラグにも熱供給を行っている。気体酸素の供給速度を0.8Nm3/t/minよりも大きくしてしまうと、スラグへの熱供給を促進できるものの、脱炭に寄与する酸素を増加して、スラグと溶銑との界面付近での酸化鉄濃度が低下してしまい(気体酸素がスラグに比べて溶銑に多く供給されてしまう)、スラグの滓化が阻害される。なお、気体酸素の供給速度を0.5Nm3/t/min未満であれば、溶銑への衝突圧力が低下し、気体酸素による昇温効果が低下し、ソフトブローをしていることにはならず、スラグへの熱供給(気体酸素の供給)が十分に行えない。
【0026】
第2吹き込み期間を経過してから吹錬終了する期間(第3吹き込み期間)は、主に、滓化が完了したスラグと気体酸素とにより、脱りん反応が進むことになる。そのため、脱りん反応を促進させるために、気体酸素の供給速度を高めの0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲としたハードブローによる吹錬を行っている。
この第3吹き込み期間では、後述するように、固体酸素源の供給量を少なくしている状況下にあり、この固体酸素源との関係も考慮して、脱りん反応を促進させるためには、0.9〜1.2Nm3/t/minにする必要がある。つまり、固体酸素源の供給量を少なくしている状況下で、スラグと溶銑との界面の酸化鉄の濃度を10〜20質量%に維持するために、気体酸素の供給範囲を上述した範囲にする必要がある。ただし、気体酸素の供給速度を1.2Nm3/t/minよりも大きくしてしまうと、脱りん反応を促進できるものの、急激な脱炭反応が進んでしまうことから、気体酸素の供給速度を1.2Nm3/t/min以下にしている。なお、気体酸素の供給速度を0.9Nm3/t/min未満であれば、ハードブローをしていることにはならず、脱りん反応が進まない。
[固体酸素源について]
脱りん処理において、酸化鉄などの固体酸素源を転炉型精錬容器の上方から添加しているが、この固体酸素源は、酸化鉄と炭材とを含むものであり、言い換えれば、酸化鉄に炭材を配合したものである。なお、炭材とは主として炭素を含むものであって、例えば、コークス、石炭、土壌黒鉛であるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明によれば、酸化鉄に炭材を配合することによって、スラグのフォーミングを抑制しつつ、脱りんスラグを効率よく滓化を促進している。この点について説明する。
上方からシュート等により投入した酸化鉄が溶銑の表面又は表面近傍に達すると、当該酸化鉄が溶融して溶銑表面近傍に濃度が非常に高い溶融相を形成する。そして、酸化鉄の濃度が高い酸化鉄溶融相に上方から添加されたCaOとの反応により、低融点のCaO・Fe23が生成する。また、脱珪反応により生成したSiO2と反応して、CaO−SiO2−Fe23系のスラグ(脱りんスラグ)を形成することになる。なお、酸化鉄を添加することによって、2CaO・SiO2被膜の抑制して、CaO−SiO2−Fe23系のスラグ(脱りんスラグ)を形成する。なお、脱りんスラグのことを単にスラグということがある。
【0028】
脱りんスラグを形成する初期段階では、脱りんスラグと比較して溶銑との界面付近にて酸化鉄が溶融した酸化鉄融体が過剰に存在するため、銑中の炭素とが反応してCOガスが発生し、当該界面付近にて発生したCOガスによる気泡によってスラグのフォーミングが発生し易くなる。ここで、図4に示すように、酸化鉄に炭材を配合したものを投入すると、炭材は酸化鉄に比べて比重が軽いため、酸化鉄融体上に浮かんだ状態となり、形成中の脱りんスラグと界面付近ではなく酸化鉄融体の上側にて酸化鉄融体の還元[(FeOn)+nC=nFe+nCO]が優位になり、これにより、溶銑の界面付近におけるCOガスの発生を抑えてフォーミングを抑制することができる。即ち、形成中の脱りんスラグと接触していない上側の酸化鉄融体が還元されることで生成されたFeは沈降して溶銑に達することになり、その結果、界面付近の炭素濃度がFeにより希釈されて低下し、COガスの発生速度が低下し、フォーミングが抑制される。なお、上述したように、炭材によって酸化鉄(酸化鉄融体)を還元した場合は、COガスは形成中の脱りんスラグの上側にて発生するために、スラグのフォーミングにはなり難い。
【0029】
ここで、炭材は、炭素成分における質量配合率(炭素分質量配合率)で酸化鉄に1〜5%配合したものである。即ち、固体酸素源中に含まれる炭材の量は、固体酸素源中の炭素成分が1質量%以上5質量%以下となるように酸化鉄に当該炭材を配合することにより求まるもので、例えば、炭材の量(kg)=[炭素分質量配合率(%)×固体酸素源量(kg)]/炭材中の含有炭素量(%)によって求めることができる。
【0030】
炭素分質量配合率が5%を超えると、炭材によって酸化鉄(FeOn)の約1/3を還元することになり、多くの酸化鉄が還元されるため、脱りん剤として供給したCaOを溶解するために必要な酸化鉄の量が確保できなくなる。一方で、炭素分質量配合率が1%未満であると、炭材によって還元される酸化鉄(FeOn)の割合は5%程度であり、還元される酸化鉄が少ないために、界面付近における酸化鉄と炭素との反応を十分に抑制することができず、スラグのフォーミングを抑えることができない。
【0031】
したがって、炭材を酸化鉄に配合するに際しては、炭素成分における質量配合率で1〜5%になるようにすることが必要である。
炭材の粒径は、1mm以上5mm以下としている。ここで、炭材の粒径とは、炭材をJISZ8801−1に準拠している篩にかけることによって設定されるものである。炭材の粒径が1mm未満であって微粉であると、炭材を添加した際に、転炉型精錬容器1(炉内)からの上昇気流により飛散する。その結果、酸化鉄の上側に到達する比率は極端に低減し、酸化鉄を還元に寄与する炭材が非常に少なくなる。そこで、炭材の粒径は、1mm以上である必要がある。
【0032】
一方、炭材の粒径が5mmより大きいと、反応界面積が小さくなり、酸化鉄の上側において酸化鉄の還元に寄与する比率が小さくなり、その結果、十分にスラグのフォーミングを抑制することができない。
したがって、効率よくスラグのフォーミングを抑制するためには、炭材の粒径を1mm以上5mm以下にする必要がある。
【0033】
本発明では、固体酸素源に含まれる酸化鉄の粒径は、1mm以上10mm以下としている。ここで、酸化鉄の粒径とは、酸化鉄をJISZ8801−1に準拠している篩にかけることによって設定されるものである。
酸化鉄の粒径が10mmより大きいと、酸化鉄の溶融反応が進行するまでに時間がかかり、酸化鉄溶融相の生成が遅れて少なくなることから、上方から添加された脱りん剤との反応が進まず、脱りんスラグの生成に時間が非常にかかり、スラグの滓化性が低下する。
【0034】
一方で、酸化鉄の粒径が10mm以下であると、酸化鉄の溶融反応が速やかに進行し、酸化鉄溶融相の生成が進んで多くなることから、上方から添加された脱りん剤との反応が進み、スラグの滓化が促進する。
そのため、酸化鉄の粒径が10mm以下であることが必要である。ここで、酸化鉄の粒径が1mm未満であって微粉であると、酸化鉄を添加した際に、転炉型精錬容器1(炉内)からの上昇気流により飛散する。その結果、溶銑表面に到達する比率は、極端に低減し、脱りんスラグの生成に寄与する酸化鉄が非常に少なくなる(脱りんスラグの生成が極端に低下する)。そこで、酸化鉄の粒径は、1mm以上であって、多少大きいものにする必要がある。
【0035】
したがって、効率よく脱りんスラグを生成させるためには、酸化鉄の粒径を1mm以上10mm以下にする必要がある。
図5、図6に示すように、吹錬開始から気体酸素の供給量が50〜60%となる第1期間では、固体酸素源(酸化鉄と炭材)の平均供給速度を1.1〜4.5kg−O/t/minの範囲としている。即ち、気体酸素の供給量を基準として、気体酸素の供給量が50%〜60%に到達するまでの第1期間においては、上方から供給する固体酸素源の平均供給速度を1.1kg−O/t/min以上4.5kg−O/t/min以下としている。
【0036】
ここで、固体酸素源の供給速度とは、当該固体酸素源を投入したときにおいて、固体酸素源に含まれる酸素における供給速度を基準としたものであり、単位時間当たりに換算した固体酸素源から供給される酸素の質量供給速度のことである。即ち、「kg−O」とは、固体酸素源に含まれる酸素の質量を意味するもので、その量を基に供給速度を定義している。
【0037】
また、平均供給速度とは、気体酸素の供給量が50%〜60%に到達するまでの時間に供給した固体酸素源の量(酸素換算)を当該時間で割ることにより求めた値であって、第1期間の時間(単位、min)をT(1)とすると、このT(1)中に供給した固体酸素源の量(酸素換算)を第1期間の時間T(1)にて割った値である。平均供給速度は、例えば、式(2)により表される。
【0038】
第1期間での平均供給速度(kg−O/t/min)=T(1)時間中に供給された溶銑1トン当たりの固体酸素源質量(kg/t)×(固体酸素源中の酸素質量%)÷T(1) ・・・(2)
言い換えるならば、第1期間での平均供給速度(kg−O/t/min)=T(1)時間中に供給された溶銑1トン当たりの酸化鉄の量(kg/t)×(酸化鉄中の酸素質量%)÷T(1) ・・・(3)
例えば、吹錬開始から気体酸素の供給量が55%となる期間を第1期間として設定した場合は、吹錬開始から気体酸素の供給量が55%となるまでの時間がT(1)となる。
【0039】
吹錬開始から気体酸素の供給量が50%〜60%になるまでの期間(第1期間)は、主に、脱珪反応により生成したSiO2と、2CaO・SiO2被膜の抑制しつつ、SiO2と固体酸素源との反応を促進して、脱りんスラグを形成させる必要がある。
つまり、第1期間では、脱りんスラグの形成を促進させる、即ち、CaOの溶解を促進するためには、スラグ中のFeO濃度を20%以上にする必要があり、これを達成するためには、固体酸素源の平均供給速度を高めにしている。固体酸素源の平均供給速度を4.5kg−O/t/minよりも大きくしてしまうと、スラグと溶銑との界面付近の温度を低下させ過ぎてしまう。その結果、スラグ(脱りんスラグ)が固化し、スラグの脱りん能が低下する。
【0040】
つまり、第1期間では固体酸素源の平均供給速度を高めにしているが、固体酸素源の平均供給速度が大きいと、精錬中にスラグが完全に固化し、溶銑表面に固化層が形成され、上部から供給された気体酸素が溶銑へ到達しない状態となり、脱りん処理が出来なくなる。
一方、固体酸素源の平均供給速度が1.1kg−O/t/min未満である場合、固体酸素源の供給速度が小さすぎてしまう。固体酸素源の供給速度が小さい場合には、酸化鉄の溶融反応で生成したFeOが溶銑中のSi,Cにより直ちに消費され、上部から脱りん用に添加されたCaOを溶解するためのFeO濃度が確保できないため、スラグが形成できない。
【0041】
したがって、第1期間では、1.1kg−O/t/min以上4.5kg−O/t/min以下としている。
第1期間を経過してから吹錬が終了する第2期間では、固体酸素源の供給を停止している。即ち、第2期間では、酸化鉄や炭素の供給を行わず、気体酸素のみを吹き込むことにしている。
【0042】
第1期間を経過してから吹錬が終了する第2期間は、スラグによって脱りんを促進させることが好ましく、酸素を供給することにより、脱りん反応を促進させることが必要である。この第2期間において、気体酸素と固体酸素源との両方を供給することが考えられるが、固体酸素源の供給によってスラグの温度が低下し過ぎることと炭材による還元で酸化鉄濃度が低下することによりスラグの液相率が低下し、脱りん反応に寄与するスラグが減少し、脱りん能が低下する可能性がある。そのため、第2期間では、固体酸素源の供給を停止して気体酸素のみでスラグの酸素の供給を行うこととしている。
【0043】
表1は、溶銑の脱りん処理を行った実施条件を示している。表2〜表4は、表1の実施条件に基づき、本発明の脱りん処理における気体酸素及び炭材を含む固体酸素源の供給方法によって処理を行った実施例をまとめたものである。また、表5〜表7は、表1の実施条件に基づき、本発明の溶銑の脱りん方法とは異なる方法で処理を行った比較例をまとめたものである。
【0044】
【表1】

【0045】
実施条件について詳しく説明する。
表1に示すように、脱りん処理は、90tonクラスの転炉型脱りん炉にて行った。上吹きにおいては、孔数が3個である上吹きランスを用いた。転炉型脱りん炉に装入した溶銑3において、[C]=4.5〜4.8質量%、[P]=0.10〜0.12質量%、[Si]=0.2〜0.6質量%とした。溶製鋼種において、[C]の規格上限は、0.45質量%、[P]の規格上限値は、0.020質量%とした。
【0046】
脱りん処理において、CaO等の副原料の制御は、当業者常法通りの方法にて行った。 上方から供給する酸化鉄や炭材は、篩い分け等を行うことによって整粒して所定の粒径に分けたものとした。供給する酸化鉄において、粒径が10mm以下のものは酸素成分(固体酸素源中の鉄と結合している酸素の質量%)が22質量%であるミルスケールを使用し、粒径が10mmより大きいものは酸素成分が27質量%である鉄鉱石を用いた。
【0047】
また、脱りん処理において、上吹きランス以外に、耐火物ランス7を用いて粉体を吹き込むことにより溶銑を攪拌した。溶銑3を攪拌するためにガスのみを行った場合、吹き込みガスの圧力・流量変動によりガス吹き込み孔へ溶銑3が差込、閉塞する可能性があるため、酸化鉄を主体とし、若干CaOを含む粉体を吹き込んでいる。なお、この場合、上吹きランス4から溶銑3を攪拌するためのガスと共に、CaOの粉体を添加しない場合と比較しても処理後[P]に影響が無いことを確認しており、ノズル閉塞防止目的で吹込んでいるCaOは本発明の脱りん用に用いるCaO(脱りん剤)からは除外している。
【0048】
その他、転炉型脱りん炉1の吹錬制御(転炉吹錬)、転炉型脱りん炉1の出鋼後の溶鋼処理(精錬処理)、連続鋳造についても、当業者常法通りに行った。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【0054】
【表7】

【0055】
実施例1〜実施例37では、気体酸素の供給量が30%となるまでに、転炉型精錬容器の上方から添加する脱りん剤の投入を完了している(脱P剤投入完了時期の欄)。また、第1吹き込み期間を吹錬開始から気体酸素の供給量が30%〜40%となるものとし、第1吹き込み時期の気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲としている(第1吹込期間の欄)。そして、第2吹き込み期間を気体酸素の供給量が30%〜60%となるものとし、第2吹き込み時期の気体酸素の供給速度を0.5〜0.8Nm3/t/minの範囲としている(第2吹込期間の欄)。さらに、第2吹き込み期間を経過してから吹錬が終了する第3吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲としている(第3吹き込期間の欄)。
【0056】
また、実施例1〜実施例37では、粒径が1〜10mmの酸化鉄に粒径が1〜5mmの炭材を炭素成分における質量配合率で1〜5%配合したものを固体酸素源としている(酸化鉄の粒径の欄、炭材の粒径の欄、炭素分質量配合率)。さらに、吹錬開始から気体酸素の供給量が50%〜60%となる第1期間では、固体酸素源の平均供給速度を1.1〜4.5kg−O/t/minの範囲とし(第1期間の欄)、第1期間を経過してから吹錬が終了する第2期間では、固体酸素源の供給を停止している(第2期間の欄)。
【0057】
上述した条件を満たした実施例では、脱りん処理後の溶銑の[P]において、規格上限値よりも低い値にすることができた(評価「○」)。即ち、実施例では、確実に所望の[P]を得られることができた。
比較例1〜比較例2では、気体酸素の供給量が30%となった後に、上方から添加する脱りん剤の投入が完了しており、脱りん剤の投入完了が遅かった。そのため、脱りん処理においてスラグの滓化が遅くなり、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0058】
比較例3〜比較例4では、転炉型精錬容器の上方から添加する酸化鉄の粒径が1mm未満であり非常に小さいため、酸化鉄を添加した際に、転炉型精錬容器1(炉内)からの上昇気流により飛散するものとなった。その結果、スラグの生成に寄与する酸化鉄が非常に少ないために、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0059】
比較例5〜比較例6では、転炉型精錬容器の上方から添加する酸化鉄の粒径が10mmよりも大きいために、酸化鉄の溶融反応が進行するまでに時間がかかり、スラグの滓化時期が遅れるものとなった。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
比較例7〜比較例8では、転炉型精錬容器の上方から添加する炭材の粒径が1mm未満であり非常に小さいため、炭材を添加した際に、転炉型精錬容器1(炉内)からの上昇気流により飛散するものとなった。その結果、酸化鉄を還元する炭材が非常に少ないためにフォーミングを抑制することができず、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0060】
比較例9〜比較例10では、転炉型精錬容器の上方から添加する炭材の粒径が5mmよりも大きいために、反応界面積が小さく、素早く酸化鉄の還元が行えないためにフォーミングを抑制することができなかった。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
比較例11〜比較例12では、炭材の質量配合率が1%未満であり、酸化鉄に十分に炭材が配合されていないため、十分に酸化鉄の還元が行えずにフォーミングを抑制することができなかった。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0061】
比較例13〜比較例14では、炭材の質量配合率が5%よりも大きく、酸化鉄に対しての炭材の量が多いため、多くの酸化鉄を還元し過ぎてCaOを溶解するための酸化鉄量が不足した。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
比較例15〜比較例16や比較例25〜比較例26では、第1投入時期が短い。そのため、処理前半に供給された酸化鉄(溶融した酸化鉄)が溶銑中のSiやCの還元反応で消費され、処理後半でスラグの酸化鉄濃度が低下し、スラグの脱りん能が低下した。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0062】
比較例17〜比較例18では、第1投入時期が長く、第2投入時期が短い。そのため、処理の前半にて大量の酸化源が供給されることになり、生成したスラグが半凝固し、スラグの脱りん能が低下し、脱りん反応速度が低下する。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
比較例19〜比較例20や比較例23〜比較例24では、第1時期における固体酸素源の平均供給速度が4.5kg−O/t/minよりも大きい。そのため、処理の前半にて大量の酸化源が供給されることになり、生成したスラグが半凝固し、脱りん能が低下し、脱りん反応速度が低下する。
【0063】
比較例21〜比較例22では、第1時期における固体酸素源の平均供給速度が1.1kg−O/t/min未満であり非常に小さい。そのため、処理前半に供給された酸化鉄(溶融した酸化鉄)が溶銑中のSiやCの還元反応で消費され、処理後半でスラグの酸化鉄濃度が低下し、スラグの脱りん能が低下した。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0064】
比較例27〜比較例28では、第1吹き込み時期における気体酸素の供給速度が1.2Nm3/t/minよりも大きい。そのため、急激に脱炭反応が進んでしまったり、スラグと溶銑との界面付近の温度が上昇し過ぎて、スラグの脱りん能が低下する。また、溶銑への衝突圧力が大きくなり、溶銑中Cの酸化反応に寄与する酸素量が増加し、スラグをフォーミングさせ、スラグを噴出させ、所定の脱りん反応を進行させるための脱りんスラグが不足する場合もある。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0065】
比較例29〜比較例30では、第1吹き込み時期における気体酸素の供給速度が0.9Nm3/t/min未満であり、非常に小さい。そのため、溶銑への衝突圧力が小さくなり、溶銑中SiやCの酸化反応に寄与する酸素量が低下し、酸化反応熱による熱供給が不足し、溶融したスラグを形成する時期がおくれ、脱りん反応が阻害される。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0066】
比較例31では、第2吹き込み時期における気体酸素の供給速度が0.5Nm3/t/min未満であり、非常に小さい。そのため、スラグへの熱供給が小さすぎることになり、脱りん反応が阻害される。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
比較例32では、第2吹き込み時期における気体酸素の供給速度が0.8Nm3/t/minを超えており、非常に大きい。そのため、急激に脱炭反応が進んでしまい、スラグの滓化が阻害される。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0067】
比較例33では、気体酸素を弱く吹く(ソフトブロー期間)、即ち、第2吹き込み時期が長い。そのため、気体酸素のソフトブロー化によるスラグ中の酸化鉄濃度が上昇し過ぎて、スラグ中のCaO濃度が結果として希釈され、スラグの脱りん能が低下し、脱P反応が阻害される。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0068】
比較例34〜比較例35では、第2時期において固体酸素源の供給を停止していないため、スラグの温度低下が促進されると共に、炭材によりスラグ中の酸化鉄が還元されてしまうため脱りん能が低下する。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
比較例36〜比較例37では、ソフトブロー期間後にハードブローを行う際、即ち、第3吹き込み時期において、気体酸素の供給速度が1.2Nm3/t/minを超えており、非常に大きい。そのため、脱りん処理末期での脱炭反応に寄与する気体酸素の比率が増加することになり、スラグや溶銑温度が上昇し、脱りん能が低下することになる。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0069】
比較例38〜比較例39では、第3吹き込み時期における気体酸素の供給速度が0.9Nm3/t/min未満であり、非常に小さい。そのため、脱りん処理末期でスラグの酸化鉄の濃度を維持するための気体酸素が不足し、スラグの脱りん能が低下することになる。その結果、脱りん処理後の[P]が規格上限値を超えてしまう結果となった(評価、「×」)。
【0070】
以上のように、転炉型精錬容器において脱りん処理を行う際は、本発明の条件を全て満たすように、脱りん剤、気体酸素及び固体酸素源を制御する必要があり、これにより、脱りん処理後の溶銑中の[P]を確実に規格上限値以内に納めることができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0071】
1 転炉型精錬容器
2 炉口
3 溶銑
4 上吹ランス
5 シュート
6 出湯口
7 耐火物ランス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉型精錬容器内の溶銑に、気体酸素及び固体酸素源を供給すると共に脱りん剤を投入して脱りんを行うに際し、
前記転炉型精錬容器に供給する気体酸素供給量の全量を比率で100%としたとき、 前記気体酸素の供給量が30%となるまでに、前記転炉型精錬容器の上方から添加する前記脱りん剤の投入を完了し、
前記気体酸素に関して、第1吹き込み期間と第2吹き込み期間と第3吹き込み期間との順に全量を吹き込むものとし、前記吹錬開始から前記気体酸素の供給量が30%〜40%となる第1吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲とし、前記気体酸素の供給量が30%〜60%となる第2吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.5〜0.8Nm3/t/minの範囲とし、前記気体酸素の供給量が50%〜60%から吹錬終了までの第3吹き込み期間では、気体酸素の供給速度を0.9〜1.2Nm3/t/minの範囲とし、
前記固体酸素源に関して、粒径が1〜10mmの酸化鉄に粒径が1〜5mmの炭材を炭素成分における質量配合率で1〜5%配合したものを前記固体酸素源とし、吹錬開始から気体酸素の供給量が50%〜60%となる第1期間では、固体酸素源の平均供給速度を1.1〜4.5kg−O/t/minの範囲とし、第1期間を経過してから吹錬が終了する第2期間では、固体酸素源の供給を停止していることを特徴とする脱りん処理における気体酸素及び炭材を含む固体酸素源の供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−74481(P2011−74481A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278617(P2009−278617)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】