説明

脱色素剤または抗突然変異および抗発癌剤として使用のチオ尿素を含んでなる医薬

本発明は、一般式(I)の少くとも1種のチオ尿素、または一般式(IIa)、(IIb)および(III)のそのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体の少くとも1種、またはそれらの混合物を含んでなる医薬または化粧品組成物に関する。この医薬は、チロシナーゼを阻害するために、メラニン合成を阻害するために、皮膚をライトニングまたは脱色素するために、または老班を除去するために、並びに抗突然変異および抗発癌剤として有利に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
本発明は、特に脱色素作用を有するが、抗突然変異および/または抗発癌剤としても、チオ尿素類またはそれらのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体を含有した医薬品に関する。
【0002】
ヒトにおける皮膚色素沈着は、メラノサイトと称される独特な細胞群で起こる、複雑な一連の細胞プロセスから生じている。メラノサイトは表皮の下部に存在し、それらの機能は、紫外線の有害作用から体を防御する、メラニンと称される褐色色素を合成することである。メラニンは、メラノサイトの内側に存在する顆粒、メラノソームに蓄積される。メラノソームはメラノサイトから放出され、メラノソームに含有されたメラニンを同化させるケラチノサイトにより皮膚の表面へ輸送される。皮膚の黒さは、メラノサイトにより合成されてケラチノサイトへ移されたメラニンの量と比例する。ある場合には、メラニン形成を減少または阻害させて、例えば皮膚を白くすること、老化による斑点を除去すること、またはメラノサイトの過剰活性を減少させることが好ましい。
【0003】
過酸化水素または過酸化亜鉛のような過酸化物を含有した化粧品組成物は、皮膚に現れる赤色部分のような斑点を除去する目的でずっと用いられてきた。しかしながら、過酸化物は極端に不安定であり、それらの貯蔵に問題を起こす。更に、化粧品基剤へのこれら過酸化物の安定的配合は困難であり、過酸化物自体も十分な漂白効果を有していない。
【0004】
他方、ビタミンC、システインまたはコロイド状イオウを含有した化粧品は、皮膚を漂白するために用いられ始めた。しかしながら、これら物質の効果は満足しうるものではない。
【0005】
長い間、ヒドロキノンが標準の脱色素分子となっており、多数の皮膚化粧品で用いられてきた。しかしながら、この物質は危険性がないとは言えず、メラノサイトに対して非常に細胞毒性があり、不可逆的な脱色素を引き起こす可能性がある。
【0006】
最近、コウジ酸が、ヒト皮膚でメラニンの形成を阻害する物質として、有効に用いられている。その結果、コウジ酸(日本国特許出願公報No.56‐18569)、コウジ酸とケイ皮酸または安息香酸のような芳香族カルボン酸とのエステル(日本国特許出願公報No.60/100005)、またはコウジ酸のジエステル(日本国特許出願公報No.61‐60801および60‐17961)を含有する、皮膚を脱色素させるための様々な化粧品が記載されてきた。したがって、これらのコウジ酸およびコウジ酸のエステルは、メラニン形成を阻害しうる物質である、として知られている。しかしながら、コウジ酸の効力は個々に異なっており、平均すると不十分である。
【0007】
イソチオシアネート類およびチオシアネート類も脱色素剤として記載されている(WO02/058664)。
【0008】
したがって、他の脱色素剤を見出す差し迫った必要性がなお存在しているのである。
【0009】
現在までに、フェニルチオ尿素類のみが、脱色素活性を有するとして記載されてきた(特許出願US2002/0044914)。他のあるチオ尿素類、例えばチオ尿素、フェニルチオ尿素およびジメチルチオ尿素は、感作性であることが知られている(Contact and Photocontact sensitivity problems associated with thiourea and its derivatives(チオ尿素およびその誘導体に伴う接触および光接触感作問題):A review of the literature and case reports.A.Dooms-Goosens et al.,British Journal of Dermatology,116,4,573-579)。更に、それらのうち一部、カルビマゾールは、抗甲状腺剤として用いられている。
【0010】
意外にも、本発明者らは、チオ尿素群に属するある分子が、インビトロでメラニン合成に対して著しい阻害効果を有することを発見したのである。
【0011】
確かに、1,3‐ビス‐(5‐メタンスルフィニルブチル)チオ尿素は、皮膚との、特に下記プロセスによる熱水との長期接触に際する、スルフォラファン(脱色素活性を有するイソチオシアネート:WO02/058664)の分解産物の1つであることは知られている:
【化1】

(Thermal degradation of sulforaphane in aqueous solution(水溶液中におけるスルフォラファンの熱分解),Yi Jin,Mingfu Wang,Robert T.Rosen,and Chi-Tang-Ho.J.Agric.Food Chem.1999,47,3121-3123)。しかしながら、その医薬または美容活性は、特に脱色素剤として、先行文献で記載または示唆されたことが全くなく、脱色素物質の分解産物が該脱色素物質より大きな活性を有するであろうことなどは自明ではなかった。
【0012】
突然変異誘発は、自発的または自然に、あるいは化学物質、高エネルギー照射、ストレスなどに起因する二次作用として、DNAでおよび細胞の発達に際して生じる。
【0013】
突然変異原は、このような突然変異を起こす因子である。しばしば、それらは発癌性(即ち、癌を誘導しうる)でもある。現代社会は、環境上における突然変異原の存在に現在では気付き、懸念している。突然変異原はどこでも生じる;一部は植物で自然に生じ、他の多くは(特に調理中に)有機物質を燃やすことで生じ、他は工業により生じる。今日、人々は多くの健康問題に直面している。これら健康問題の多くは、細胞およびDNAの損傷の増加に関与する突然変異原、更には突然変異誘発因子による人体の細胞およびDNAの損傷から派生している。これらの突然変異原および突然変異誘発因子には、特に汚染、ストレス、老化、喫煙、紫外線、過度の運動、組織障害などがある。細胞およびDNAの損傷に起因する疾患として、我々は老化、老化による斑点、癌、白内障、乾皮症、疲労、皮膚癌、ストレス性ダメージおよびシワを挙げられる。
【0014】
医薬組成物は体内で抗突然変異活性を生じさせるために利用しうるが、それらは時には重篤な副作用を有することがある。
【0015】
結果的に、体内の突然変異誘発を防ぐ抗突然変異効果、および抗癌効果を有する新製品を見出す必要性がある。
【発明の具体的な説明】
【0016】
意外にも、本発明者らは、チオ尿素群に属するある分子が、突然変異原物質およびUVBの双方に対して、顕著な抗突然変異および抗癌効果を有することを発見したのである。
【0017】
本発明は、下記一般式Iの少くとも1種のチオ尿素:
【化2】

(上記式中:
nは1〜12の整数である;
mは1〜12の整数である;
、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、C‐Cアルキル基またはアリール基を表わす)
または下記一般式IIa、IIbおよびIIIのそのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体の少くとも1種:
【化3】

(上記式中R、R、R、R、mおよびnは前記の通りである)またはそれらの混合物を含有した医薬品に関する。
【0018】
本発明の意味において、用語“C‐Cアルキル基”は、直鎖または分岐で炭素原子1〜6のあらゆるアルキル基、特にCH基を意味する。
【0019】
本発明の意味において、用語“アリール基”は、共役または縮合してもよい、炭素原子5〜8の1以上の芳香環を意味する。特に、アリール基はフェニルまたはナフチル基であり、ハロゲン原子、上記のようなアルキル基、OH基またはニトロ基で置換してもよい。
【0020】
有利には、一般式I、IIa、IIbおよびIIIのチオ尿素類は、基RおよびRが同一、RおよびRが同一で、m=nであるようなものである。
更に一層有利には、R=R=CHである。
有利にはm=n=4である。
有利にはR=R=Hである。
更に一層有利には、それには、下記式の1,3‐ビス‐(5‐メタンスルフィニルブチル)チオ尿素、1‐(5‐メタンスルフィニルブチル)‐3‐(5‐メタンスルホニルブチル)チオ尿素または1,3‐ビス‐(5‐メタンスルホニルブチル)チオ尿素がある:
【化4】

【0021】
本発明によるチオ尿素類は市販されているか、または例えば1,3‐ビス‐(5‐メタンスルフィニルブチル)チオ尿素の場合は、スルフォラファンの熱分解により製造される。特に、モノオキシドまたはジオキシド誘導体は、例えば過酸化水素のような酸化剤の作用により、対応する未酸化チオ尿素から得られる。
【0022】
有利には、本発明による医薬品は、チロシナーゼを阻害するために、特にチロシナーゼの作用を50%減少させるために、メラニンの合成を阻害するために、およびメラノサイトの過剰活性を減少させるために用いうる。
【0023】
有利には、本発明による医薬品は、特に突然変異原物質および/またはUVBに対する抗突然変異剤として、および/または抗発癌剤として用いうる。
【0024】
有利には、この医薬品は、癌、特に皮膚の癌、老化による斑点、老化、特に皮膚の老化、およびシワなどの出現を防止しうる。
【0025】
本発明は、下記一般式Iの、本発明による、少くとも1種のチオ尿素:
【化5】

(上記式中:
nは1〜12の整数である;
mは1〜12の整数である;
、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、C‐Cアルキル基またはアリール基を表わす)
または下記一般式IIa、IIbおよびIIIのそのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体の少くとも1種:
【化6】

(上記式中R、R、R、R、mおよびnは前記の通りである)またはそれらの混合物を含有した化粧品組成物にも関する。
【0026】
有利には、上記の化粧品組成物は脱色素用組成物である。それは、表皮をライトニング、ホワイトニングまたは脱色素するために、特に老化またはシミによる、皮膚の斑点を除去するために、または表皮の色素沈着を防止するために用いうる。有利には、上記の組成物は局所適用向けである。
【0027】
有利には、本発明による医薬品または化粧品組成物は、経口または局所用、有利には局所用の形態をとる。それらは、特に皮膚の浸透により活性成分の性質および到達性を改善させる補助剤を加えて、このタイプの投与向けによく知られた形態、即ち、特に、例えばローション、ムース、ジェル、分散液、スプレー、セラム、マスク、ボディローションまたはクリームの形態をとる。これらの組成物は、本発明による医薬品または化粧品とは別に、通常水または溶媒、例えばアルコール類、エーテル類またはグリコール類をベースにした、生理学的に許容される媒体を通常含有している。それらは、界面活性剤、保存剤、安定剤、乳化剤、増粘剤、相加または可能であれば相乗効果を発揮する他の活性成分、微量元素、精油、香料、着色料、コラーゲン、ケミカルまたはミネラルフィルター、モイスチャライザーまたは温泉水も含有してよい。
【0028】
本発明は、皮膚への本発明による化粧品組成物の適用による、皮膚の美容トリートメントにも関する。
【実施例】
【0029】
下記例は説明のために示されており、限定するためではない。
【0030】
例1:スルフォラファンから出発する1,3‐ビス‐(5‐メタンスルフィニルブチル)チオ尿素の合成
(D,L)‐スルフォラファンの合成:
予めナトリウムで蒸留した無水エタノール800mlに4‐クロロブチロニトリル(ref.Aldrich C 3,000-0)40gを溶解させる。次いで、メタンチオエート(ref.Fluka 71742)27gを加え、25℃で15時間攪拌する。懸濁液をペーパーで濾過し、減圧下で蒸発させる。エチルエーテル400mlに入れる。再びペーパーで濾過する。未精製4‐メチルチオブチロニトリル32gを含有したエーテル溶液を得る。エチルエーテル400ml中水素化アルミニウムリチウム25gの懸濁液を調製する。水素化アルミニウムリチウムの懸濁液へ徐々に4‐メチルチオブチロニトリルの溶液を加え、2時間30分還流する。次いで、還流下、蒸留水80mlをゆっくり加えることにより、懸濁液を中和する。沸騰が止んだら、蒸留水120mlを加えて、残留した水素化物の中和を完了させる。ガラスフリットで濾過する。フィルターにおいて不溶性物質をエチルエーテル200mlで洗浄する。エーテルフラクションを合わせ、蒸発乾固させる。メチルチオブチルアミン26.9gを得る。得られた生成物をアセトン80mlに入れ、次いで35%過酸化水素23mlを一度に少しずつ加える。水浴に50℃で一夜放置する。次いで、少量の活性炭を加え、濾過し、チオホスゲン20mlを含有したクロロホルム200ml、次いで水酸化ナトリウムの5%水溶液300mlをゆっくり加える。30分間放置して作用させる。次いで、ジクロロメタン200mlで8回にわたり混合液を向流抽出する。有機相を集め、硫酸ナトリウムで乾燥させ、蒸発させる。次いで、7.10−2torr下135℃で残渣を再蒸留する。我々はD,L‐スルフォラファン12.5gを得、これを質量スペクトル測定により同定する。
【0031】
1,3‐ビス‐(5‐メタンスルフィニルブチル)チオ尿素の合成
赤外スペクトルをPerkin-Elmer 1600 F11R(ニート)で得た。プロトンおよび炭素‐13 NMRスペクトルを、プロトンの場合200MHz、炭素の場合50.3MHzで、Brucker AM 200SYで得た。化学シフトは、プロトンの場合7.25ppmおよび炭素の場合76.9ppm(重水素置換クロロホルムの中心線)における、重水素置換クロロホルムCDClのシグナルに対する百万分率(ppm)に相当する。質量スペクトルは、化学イオン化(NH)または電子衝撃の方法により、Normag/SIDAR V2.3で得た。
【0032】
クロマトグラフィー
反応は、シリカゲルタイプ60F254(Merck,Art.7735)のプレート上で、薄層クロマトグラフィーによりモニターした。試薬および生成物は、リンモリブデン酸の10%エタノール溶液との処理、次いで加熱により、UV光で視覚化させた。フラッシュクロマトグラフィーは、230〜400メッシュのシリカゲルICN60で行った。
【0033】
溶媒の蒸留
エチルエーテルおよびTHFを窒素下においてナトリウム/ベンゾフェノンで蒸留した。クロマトグラフィーに用いられるシクロヘキサン、酢酸エチルおよびメタノールは、使用前に蒸留した。
【0034】
方法
不活性雰囲気下において、上記で得られたスルフォラファン2g(11mmol)を水15mlで希釈し、次いで光から保護しながらその溶液を24時間還流する。室温で、減圧下溶液を濃縮し、シリカゲルのカラムでのクロマトグラフィーのためにジクロロメタンに残渣を入れて(溶離液:CHCl/CHOH:90/10)、43%の収率で無色油状物として1,3‐ビス‐(5‐メタンスルフィニルブチル)チオ尿素(ビスMSiBT)1.70g(5mmol)を得る。
H NMR(300MHz):6.45(dl,2H,NH),3.53(t,H,J=6.0Hz),2.87(m,4H),2.65(s,6H),1.78(m,8H)。
13C NMR(50.3MHz):24.0(CH),32.1(CH),41.2(CH‐CH),47.2(CH),57.4(CHSO),C(IV)観察されず。
IR(ν,cm−1):2176,2096,1140,940cm−1
IC.MS m/z:312(MH)。
【0035】
例2:1‐(5‐メタンスルフィニルブチル)‐3‐(5‐メタンスルホニルブチル)チオ尿素の製造
スルフォラファン分子の2イオウ原子のうち1つのみの酸化を、不活性雰囲気下ではなく、大気中で、1,3‐ビス‐(5‐メタンスルフィニルブチル)チオ尿素の合成の例1の反応を行うことにより達成した。
スルフォラファン1g(5.5mmol)を水10mlで希釈し、次いで光から保護しながらその溶液を24時間還流する。室温で、減圧下溶液を濃縮し、シリカゲルのカラムでのクロマトグラフィーのためにジクロロメタンに残渣を入れて(溶離液:CHCl/CHOH:90/10)、12%の収率で無色油状物として1‐(5‐メタンスルフィニルブチル)‐3‐(5‐メタンスルホニルブチル)チオ尿素(MSBMSBT)200mgを得る。
H NMR(300MHz):6.55(solid,2H,NH),3.55(t,4H,CH),3.15(t,2H,SOCH),2.80(t,2H,SOCH),2.60(s,3H,SOCH),2.90(s,3H,SOCH),1.80‐1.87(m,8H,CH)。
13C NMR(50.3MHz):20.5(CH),28.5(CH),39.8(CHSO),41.0(CHSO),43.5(CH‐NH),54.1(CHSO),44.8(CHSO),183.35(C=S)。
IR(ν,cm−1):2176,2096,1140,940cm−1
IC.MS m/z:328(MH)。
【0036】
例3:1‐イソチオシアナト‐4‐メチルスルホニルブタンから1,3‐ビス‐(5‐メタンスルホニルブチル)チオ尿素の製造
水15ml中1‐イソチオシアナト‐4‐メチルスルホニルブタン1g(5mmol)の溶液を3時間還流する。室温で、減圧下溶液を濃縮し、メタノールからの再結晶化により残渣を精製して、40%の収率でベージュ色固体物として1,3‐ビス‐(5‐メタンスルホニルブチル)チオ尿素(ビスMSoBT)535mgを得る。
H NMR(300MHz):6.50(sl,H,NH),3.55(t,4H,J=6.0Hz),2.75(t,4H,SOCH),2.60(s,6H,SOCH),1.70‐1.90(m,8H,CHCH)。
13C NMR(50.3MHz):21.0(CH),29.2(CH),38.5(CH),44.0(CH‐NH),53.9(CHSO),182.6(C=S)。
IR(ν,cm−1):2168,2096,1144,930cm−1
IC.MS m/z:344(MH)。
融点:142℃。
【0037】
例4:ビスMSiBTからビス(MSoBT)の製造
0℃で、アセトン10ml中ビスMSiBT(1g,3mmol)の溶液へ35%過酸化水素0.70ml(2.2equiv.,6.6mmol)をゆっくり加える。次いで、反応媒体を室温で40時間放置して反応進行させる。真空蒸発によりアセトンを除去する。水性残渣をクロロホルムに入れ、その相を硫酸ナトリウムで直接トラップする。真空下で有機相を濃縮し、メタノールからの再結晶化で残渣を精製して、30%の収率でベージュ色固体物としてビスMSoBTを得る。
【0038】
例5:コウジ酸と比較したビスMSoBTの抗チロシナーゼ効果の研究
チロシナーゼを阻害する能力の測定:
下記反応を用いる:無色のL‐ドーパ(L‐3,4‐ジヒドロキシフェニルアラニン、Sigma社から得られる(ref.D‐9626))を、475nmで吸収する有色ドーパクロムに酸化させる。この反応は真菌チロシナーゼ(EC1.14.18.1、Sigma社から得られる(ref.T‐7755))により触媒させる。30℃で時間の関数として光学濃度(O.D.)を測定することにより、反応の速度を記録する。
【0039】
用いられた各溶液は下記組成を有している:
緩衝液pH6.8:
リン酸緩衝液0.1M,pH6.8
基質溶液:
緩衝液pH6.8中L‐ドーパ5mM
インヒビターの溶液:
インヒビター分子は、溶解度に応じて、緩衝液pH6.8、50%メタノール(メタノール‐蒸留水)または純粋メタノールに直接溶解させる。
インヒビターの各溶液の重量/容量としての濃度は、0.2%、0.1%、0.05%、0.025%、0.0125%、0.00625%および0.00312%である。
酵素の溶液:
緩衝液pH6.8中チロシナーゼ250単位
【0040】
チロシナーゼの作用は、O.D.記録で測定された初期反応速度から評価する。インヒビターなし(濃度0)の初期反応速度および異なる試験濃度時の速度に関する曲線をプロットする。分子の阻害力は、チロシナーゼの作用を50%減少させる濃度として規定される。記録は3分間行い、阻害率(阻害および飽和プラトーの率)を計算する。上記のように得られたビスMSoBTは、8.3mMの最終濃度で、チロシナーゼの酵素活性を50%阻害する。コウジ酸(Aldrich社から入手、ref.22,046-9)は、0.670mMの最終濃度で、同阻害率を示す。ビスMSiBTおよびMSBMSBTの低溶解度は、抗チロシナーゼ作用についてそれら分子を試験することが不可能であることを意味した。
【0041】
例6:コウジ酸およびジメチルチオ尿素と比較したビスMSiBT、MSBMSBTおよびビスMSoBTの脱色素効果の研究
生体系で脱色素効果を試験して、機能ヒト皮膚に存在するメラニン化単位を表示するために、ビスMSiBT、MSBMSBTおよびビスMSoBT分子をメラニン産生ヒトメラノサイト‐ケラチノサイト共培養物でも試験した。
コウジ酸およびジメチルチオ尿素をこの試験で陽性コントロールで用いた。
色素沈着表皮の試料(黒色表現型/空気/液体界面における正常ケラチノサイト‐メラノサイトの共培養物)をMatteKcorporation,USAから入手し、その指示に従い培養する。培地もこの製造業者から入手している。物質(コウジ酸35mM、Aldrich社,ref.D-18,870-0から得たジメチルチオ尿素2.8mM、上記の方法で得たビスMSiBT2.8mM、上記の方法で得たMSBMSBT2.8mMおよび上記の方法で得たビスMSoBT2.8mM)を21日間培地に適用する。
各物質を培地に溶液として4つの培養ウェルへ適用する。表皮のコントロール試料は徐々に色素沈着するが、最も活性な物質で処理された表皮の試料はさほど黒ずまないという色素沈着性を示すことから、各物質の脱色素効果は明確に目で見える。
【0042】
脱色素効果は培養ウェルからメラニンの抽出により評価する。
抽出は2つの培養ウェルのプールで行い、0.05mM EDTAおよび10mMトリスHCl(アミノ‐2‐(ヒドロキシメチル)‐2‐プロパンジオール‐1,3),pH6.8を含有した1%ドデシル硫酸ナトリウム0.45ml中でホモゲナイズする。各ホモゲネートへ5mg/mlでプロテイナーゼK20μLを加える。45℃で一夜消化させる。次いで、更にプロテイナーゼK20μLを加え、インキュベートを4時間続ける。次いで、炭酸ナトリウムの0.5M溶液50μLおよび過酸化水素の30%溶液10μLを加える。試料を80℃で30分間維持し、次いでそれらを冷却する。試料をクロロホルム‐メタノール混合液(2:1,v/v)100μLで抽出する。10,000gで10分間遠心後、405nmで上澄の光学濃度を測定する。物質は下記表1で比較されている(結果は共培養物でメラニンの阻害率として表示されている):
【0043】
【表1】

【0044】
意外にも、ビスMSiBTはMSBMSBT、特にビスMSoBTより弱い脱色素活性を示し、約30%阻害を得るために必要なその濃度は、皮膚をライトニングするための製品として商業上広く用いられている対照分子である、コウジ酸の場合より25倍低い。したがって、本発明による物質は脱色素活性を有している。
【0045】
例7:ビスMSoBTの抗突然変異効果の評価
この特性はAmes試験の修正法:Thermolab Systems社のVitotox 10キット(6400000)試験で証明した。
一般的に、Vitotox試験は、(細菌のSOS系により調節される)変異recNプロモーターの転写調節下でVibrio fisheriのluxオペロンを含有した細菌に基づいている。細菌と遺伝毒性産物とのインキュベート後、recNプロモーターを抑制解除させ、luxオペロンを発現させる:発光,該発光は産物の遺伝毒性と比例する。一部の産物は光の発生に直接作用するか、または細菌の代謝を増して、偽陽性を生じる。更に、構成luxオペロンを有する細菌株をコントロールとして用いる。同株は細胞毒性コントロール(偽陰性)として用いる。
【0046】
例7.1.:MMS(メチルメタンスルホネート)に対するビスMSoBTの抗突然変異効果の評価
遺伝毒性分子に対する抗突然変異効果を調べるために、遺伝毒性分子メチルメタンスルホネート(MMS)を用い、標準の突然変異原分子、4‐ニトロキノリンオキシドおよびベンゾ(a)ピレンの混合物の遺伝毒性に対して比較する。MMSを単独でまたはビスMSoBTとその濃度を増しながら混合して入れ、発光を比較する。こうして、突然変異誘発の50%阻害濃度を規定することが可能となる。
(遺伝毒性試験の場合)Salmonella typhimurium TA104 recN2‐4および(細胞毒性試験の場合)Salmonella typhimurium TA104 prlの培養をNutrient Broth8g/L培地中で行い、その際に一夜攪拌しながら37℃でインキュベートする(遺伝毒性試験用の細菌の場合で0.2〜0.5および細胞毒性試験用の細菌の場合で0.4〜0.6のO.D.)。翌日、遺伝毒性試験用の細菌はNutrient Broth培地で1/10、および細胞毒性試験用の細菌は1/2希釈する。
O中90mMのMMSストック溶液を調製し、1/2連続希釈を96ウェルプレートで行う。標準遺伝毒性物質(4‐ニトロキノリンオキシド(NQO)/ベンゾ(a)ピレン(BAP))をNQOの場合0.4ppmおよびBAPの場合800ppmで用いる。試験物質は代謝活性(フラクションS9:シトクロムP450を含有したミクロソームホモゲネート:2.45ml/ml最終)下でまたはそれなしで用いる。
発光速度は、物質の遺伝毒性および細胞毒性の関数として、Fluoroskan Ascent FL(ThermoLabsystems)で3時間にわたり(5分毎に測定)測定する。
物質はSigma‐Aldrich社から入手している。
【0047】
結果:
ビスMSoBTは、S9無しの場合で17ppmおよびS9有りの場合で20ppmの、MMSの突然変異効果の50%阻害濃度を有している。
【0048】
例7.2.:UVBに対するビスMSoBTの抗突然変異効果の評価
UVBに対する抗突然変異効果を評価するために、20単位(RLU)の平均発光をもたらす時間にわたり細菌培養物に照射する。次いで、ビスMSoBTを照射前に濃度を増しながら培地に入れ、50%阻害濃度を調べる。
例1の操作に従うが、但しMMSなしで行い、UVB254nmで20秒間にわたり細菌培養物に照射する。
これらの条件下で、MSoBTは、25ppmの、UVBにより誘導される突然変異効果の50%阻害濃度を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式Iの少くとも1種のチオ尿素:
【化1】

(上記式中:
nは1〜12の整数である;
mは1〜12の整数である;
、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、C‐Cアルキル基またはアリール基を表わす)
または下記一般式IIa、IIbおよびIIIのそのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体の少くとも1種:
【化2】


(上記式中R、R、R、R、mおよびnは前記の通りである)またはそれらの混合物を含有した医薬品。
【請求項2】
チロシナーゼを阻害するための、メラニンの合成を阻害するための、またはメラノサイトの過剰活性を減少させるための、請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
抗突然変異および/または抗発癌剤としての、請求項1に記載の医薬品。
【請求項4】
癌、特に皮膚の癌の出現を防止するための、請求項3に記載の医薬品。
【請求項5】
基RおよびRが同一、RおよびRが同一で、m=nである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項6】
=R=CHである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項7】
m=n=4である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項8】
=R=Hである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項9】
局所用の形態をとる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項10】
下記一般式Iの少くとも1種のチオ尿素:
【化3】

(上記式中:
nは1〜12の整数である;
mは1〜12の整数である;
、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、C‐Cアルキル基またはアリール基を表わす)
または下記一般式IIa、IIbおよびIIIのそのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体の少くとも1種:
【化4】

(上記式中R、R、R、R、mおよびnは前記の通りである)またはそれらの混合物を含有した脱色素用化粧品組成物。
【請求項11】
表皮をライトニング、ホワイトニングまたは脱色素するための、特に老化またはシミによる皮膚斑点を除去するための、または表皮の色素沈着を防止するための、請求項10に記載の化粧品組成物の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式Iの少くとも1種のチオ尿素:
【化1】

(上記式中:
nは1〜12の整数である;
mは1〜12の整数である;
、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、C‐Cアルキル基またはアリール基を表わす)
または下記一般式IIa、IIbおよびIIIのそのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体の少くとも1種:
【化2】


(上記式中R、R、R、R、mおよびnは前記の通りである)またはそれらの混合物を含有した医薬品。
【請求項2】
チロシナーゼを阻害するための、メラニンの合成を阻害するための、またはメラノサイトの過剰活性を減少させるための、請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
有利には、突然変異原および突然変異誘発因子による人体の細胞およびDNAの損傷の治療および予防のための、抗突然変異および/または抗発癌剤としての、請求項1に記載の医薬品。
【請求項4】
癌、特に皮膚の癌の出現を防止するための、請求項3に記載の医薬品。
【請求項5】
基RおよびRが同一、RおよびRが同一で、m=nである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項6】
=R=CHである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項7】
m=n=4である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項8】
=R=Hである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項9】
局所用の形態をとる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬品。
【請求項10】
下記一般式Iの少くとも1種のチオ尿素:
【化3】

(上記式中:
nは1〜12の整数である;
mは1〜12の整数である;
、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、C‐Cアルキル基またはアリール基を表わす)
または下記一般式IIa、IIbおよびIIIのそのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体の少くとも1種:
【化4】

(上記式中R、R、R、R、mおよびnは前記の通りである)またはそれらの混合物を含有した脱色素用化粧品組成物。
【請求項11】
表皮をライトニング、ホワイトニングまたは脱色素するための、特に老化またはシミによる皮膚斑点を除去するための、または表皮の色素沈着を防止するための、請求項10に記載の化粧品組成物の使用。
【請求項12】
下記一般式Iのチオ尿素:
【化5】

(上記式中:
nは1〜12の整数である;
mは1〜12の整数である;
、R、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、C‐Cアルキル基またはアリール基を表わす)
または下記一般式IIa、IIbおよびIIIのそのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体の1種:
【化6】

(上記式中R、R、R、R、mおよびnは前記の通りである)(但し、N,N‐ジ(メチルスルフィニルブチル)チオ尿素およびジケイロリンチオ尿素を除く)。
【請求項13】
老化、乾皮症、疲労および/またはシワに対する、請求項10に記載された一般式Iの少くとも1種のチオ尿素または一般式IIa、IIbおよびIIIのそのモノオキシドもしくはジオキシド誘導体の少くとも1種を含有している化粧品組成物の使用。

【公表番号】特表2006−509733(P2006−509733A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542546(P2004−542546)
【出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【国際出願番号】PCT/FR2003/002907
【国際公開番号】WO2004/032912
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(503323763)
【氏名又は名称原語表記】LMD
【Fターム(参考)】