説明

腎臓、血管および軟骨の病理を治療におけるレニン−アンギオテンシン系の阻害

GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患または状態、特に軟骨または皮膚の疾患を治療するための方法が開示される。方法は、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量を対象に局所投与することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GAGのアップレギュレーションが治療的に有益であると考えられる状態を治療するための方法、より具体的には、レニン−アンギオテンシン系を阻害することによってそのような状態を治療するための方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
グリコサミノグリカン(GAG)は体内における最も多く存在するヘテロ多糖であることが知られている。グリコサミノグリカンは本質的には、2つの修飾された糖の1つ(N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)またはN−アセチルグルコサミン(GlcNAc))と、ウロン酸(例えば、グルクロン酸またはイズロン酸など)とを順に含む反復する二糖ユニットを含む長鎖の非分枝状多糖である。GAGは主として細胞表面または細胞外マトリックス(ECM)に存在する。生理学的に重要である具体的なGAGには、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸およびケラタン硫酸が含まれる。
【0003】
体内におけるGAGの大部分はコアタンパク質に連結され、プロテオグリカン(ムコ多糖とも呼ばれる)を形成している。GAGは刷毛様構造でコアから垂直に延びる。タンパク質コアへのGAGの連結は、2つのガラクトース残基および1つのキシロース残基から構成される特異的な三糖を伴う(GAG−GalGalXyl−O−CH−タンパク質)。
【0004】
GAGに付随する大きな負荷電、ならびに、その広がった立体配座により、大きい粘性がECMにもたらされる。GAGの圧縮性が低いために、関節滑液においてその存在は不可欠である。同時に、その堅さは構造的一体性を細胞にもたらし、また、細胞間の通路を提供し、これにより細胞遊走を可能にしている。
【0005】
生命維持に必要な多くの身体機能が、一般にはプロテオグリカンによって、具体的にはGAGによって発揮されるので、その産生またはその迅速な分解における欠損が広範囲の様々な疾患に関連する。加えて、多くの疾患が、GAGの増大によって利益を受けることが示されている。
【0006】
変形性関節症は、合衆国だけで2千万人を超える人々が罹患している関節炎の最も一般的な形態である。変形性関節症の発生率は年齢とともに増大する。この疾患は、最小限の炎症とともに関節軟骨の進行性の悪化を伴う[Schoenherr他、Small Animal Clinical Nutrition(第4版、Hand他編、Walsworth Publishing Company、Marceline、Mo、2000)、907〜921;Hedbom他、Cell Mol.Life Sci.、59:45〜53、2002;Pool、Front Biosci、4:D662〜70、1999]。
【0007】
関節軟骨は軟骨細胞(約5%)および細胞外マトリックス(約95%)を含む。軟骨細胞は、コラーゲン、プロテオグリカンおよびGAG、ならびに、軟骨代謝のための酵素を産生することによるマトリックスの代謝回転の制御において重要である。関節軟骨の機能的一体性が、細胞外マトリックスの軟骨細胞による生合成と、その分解との間におけるバランスによって決定される。
【0008】
コンドロイチン硫酸は、関節軟骨に見出される主要なGAGである。その会合したコアタンパク質とともにコンドロイチン硫酸は、リウマチ様関節炎だけでなく変形性関節症を含む様々な形態の関節炎において減少し、これにより軟骨の厚さおよびスチフネスにおける低下を引き起こすことが示されている[Altman RD他、Arthritis Rheum、16:179、1973;Jasin HE、Dingle JT、J Clin Invest、68:571〜581、1981]。
【0009】
関節炎を治療するための標準的薬物治療では、痛みおよび炎症が、主に非ステロイド系抗炎症性薬物(NSAID)の使用によって抑制される。しかしながら、これらの薬物はまた、GAG合成および軟骨修復を阻害することによって疾患プロセスの進行を促進させる。従って、いくつかの試みが、様々な方法を使用して、関節軟骨のGAGおよびプロテオグリカンの構成成分に直接に影響を及ぼすために行われている。
【0010】
そのような方法の1つが、GAG合成における必須成分であるグルコサミン硫酸の投与である。いくつかのヒト研究では、経口または関節内注射を使用するグルコサミン硫酸の投与による、変形性関節症の症状において軽度の低下が示されている[Reichelt A他、Arzneimittelforschung、44:75〜80、1994;Reginster JY他、Lancet、357:251〜256、2001;Vajaradul Y、Clin Ther、3:336〜343、1981]。6件の最も良く設計された試験のメタ分析では、痛みに対するグルコサミンの小さい有益な効果から、適度な有益な効果までが見出された[McAlindon TE、JAMA、15:1469〜1675、2000]。
【0011】
別の方法がコンドロイチン硫酸の投与である。2003年のメタ分析では、コンドロイチン硫酸または偽薬を受けるように割り当てられた、膝の変形性関節症を有する755名の患者を伴った8件の試験が評価された[Richy F、Arch Intern Med、163:1514〜1522、2003]。利益に関して、コンドロイチン硫酸に応答するという可能性が、偽薬と比較して著しく増大した。しかしながら、これらの補充物の長期間の効果およびそれらの潜在的な相互作用に関する情報は限られている。加えて、コンドロイチンおよびグルコサミンは通常、何らかの利益が感じられるまでに何ヶ月にもわたる投与を必要とする。
【0012】
遺伝的に遺伝するいくつかの疾患(例えば、リソソーム蓄積症)が、複雑な膜結合GAGの代謝に関わるリソソーム酵素における欠如から生じている。これらの特定の疾患(これらは、より初期の用語を参照してムコ多糖症(MPS)と呼ばれ、この場合、ムコ単糖はグリコサミノグリカン類に関して使用される)では、分泌または分解することができない不完全なGAGの細胞内での蓄積が引き起こされる。GAG代謝に影響を及ぼす少なくとも14のタイプのリソソーム蓄積症が知られており、より一般的に遭遇する例のいくつかが、ハーラー症候群、ハンター症候群、サンフィリッポ症候群、マロトー・ラミー症候群およびモルキオ症候群である。ハンター症候群を除いて、これらの疾患のすべてが常染色体劣性様式で遺伝する。
【0013】
いくつかの方法がMPSの治療のために今も使用または追求されており、それらの大部分が、疾患管理において単独で使用されるための遺伝子治療または酵素置換治療に集中する。加えて、研究者はMSPの管理のためのいくつかの小分子を特定している。しかしながら、これらの方法はどれも、完全な治療的効力を示していない。
【0014】
嚢胞性線維症は、GAGにおける増大に関連する疾患の別の一例である。嚢胞性線維症(CF)の患者は、粘性でかつ不溶性の粘液分泌物による気道閉塞を伴う慢性的な肺感染症を発症する。コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)が、CFの痰が不溶性であることの一因であることが示されており、また、コンドロイチナーゼによる治療は、この影響を改善することが示された[Khatri他、Pediatr Res.、2003(Apr)、53(4):619〜27]。
【0015】
従って、上記の制限を有しない、GAGの過少産生または過剰産生に関連する疾患を治療するための新規な治療計画が必要であることが広く認識されており、また、そのような治療計画を有することは非常に好都合である。
【0016】
アンギオテンシン変換酵素(ACE)は、アンギオテンシンII(AII)およびブラジキニンを伴う組織の調節ペプチド系に関与するメタロペプチダーゼである。ACEは、AIIがその不活性な前駆体(アンギオテンシンI自体はプロテアーゼのレニンによるアンギオテンシノーゲンの切断によって生じる)から形成されることを触媒する。AIIは、その生物学的作用を、特異的な細胞表面受容体を介して発揮する。特異的な細胞表面受容体の2つの主要なサブタイプ(これらはAT1受容体およびAT2受容体と呼ばれる)がヒトにおいて特定されている。AIIは強力な血管収縮剤であり、血管形成、線維芽細胞増殖および増殖因子発現を刺激することができ、これらのそれぞれがAT1受容体によって媒介される[Timmermans PB、Pharmacol Review、45:205〜251、1993]。さらに、ACE阻害剤(ACE−I)およびAT1受容体アンタゴニスト(ARB)はこれらの作用を阻害する。
【0017】
ACE阻害剤およびARBは典型的には、心不全、高血圧および心筋梗塞の管理のために処方される。それらはまた、慢性的腎臓疾患において、また、タンパク尿を伴う腎臓疾患において腎臓機能を保護するための治療の標準であると見なされる。これらの薬剤に関連する腎臓保護の正確な機構は依然として明らかにされてない。
【0018】
ACE阻害剤およびARBがタンパク尿の病理発生に関して有する治療的効果に関与する機構を研究している間に、本発明者らは、予想外ではあったが、レニン−アンギオテンシン系の阻害により、GAGがアップレギュレーションされることを発見した。従って、GAGのアップレギュレーションから利益を受けると考えられる病理を治療することにおけるACE阻害剤およびARBの使用が本明細書中に提案される。特に注目されるのが、軟骨における低いレベルのGAGに関連する疾患を治療するためのそのような薬剤の局所投与である。
【0019】
米国特許出願第20030078190号は、ARBを場合によりACE−I阻害剤との組合せで使用する、リウマチ様関節炎(RA)および紅斑性狼瘡を含む広範囲の様々な疾患の治療を教示する。
【0020】
米国特許出願第20030040509号は、低レベルのアンギオテンシンIIに関連する疾患を治療するためのACE阻害剤の使用に関連する。疾患のそれらの列挙にはまた、低レベルのGAGに関連する疾患が含まれる。
【0021】
本発明に反して、これらの特許出願はともに、レニン−アンギオテンシン調節薬剤の局所投与を教示していない。さらに、治療的効力は、軟骨、皮膚またはリソソーム蓄積症についてではなく、心臓血管疾患(例えば、高血圧、慢性的心不全など)および腎臓疾患(例えば、タンパク尿および慢性腎疾患など)について示されただけであった。
【0022】
リウマチ様関節炎の患者におけるACE阻害剤のいくつかの小規模な非盲検試験が、ACE阻害剤のカプトプリルを使用して行われているが、結果が一定していない[Martin MF他、Lancet、1984、1:1325〜8;Bird HA他、J.Rheumatol、1990、17:603〜8]。カプトプリルの臨床的利益は、そのチオール残基のためにペニシラミンとの構造的類似性に起因すると考えられた[Martin MF他、Lancet、1984、1:1325〜8]。その後の研究において、ACE−Iのキナプリルがマウスにおける炎症性関節炎を抑制することが示された[Dalbeth他、Rheumatology、44:24〜31、2004]。ARBのカンデサルタンも同様に、疾患活性に対して類似する阻害作用を有していた。これらの研究のすべてにおいて、レニン−アンギオテンシン系阻害剤の局所投与は示唆されず、また、GAGに対するこれらの薬剤の作用は仮定されていなかった。
【発明の開示】
【0023】
本発明の1つの目的は、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患または状態を治療するための方法を提供することである。
【0024】
本発明の別の目的は、軟骨または皮膚の疾患または状態を治療するための方法を提供することである。
【0025】
本発明のさらに別の目的は、変形性関節症を治療するための方法を提供することである。
【0026】
本発明のさらに別の目的は、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である対象における治療計画を決定する方法を提供することである。
【0027】
本発明のさらに別の目的は、対象における高いレベルのGAGによって特徴づけられる状態または疾患を治療する方法を提供することである。
【0028】
従って、本発明の1つの態様によれば、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量を対象に局所投与し、それにより、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患または状態を治療することを含む、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患または状態を治療する方法が提供される。
【0029】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、対象は低いレベルのGAGを示す。
【0030】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、方法はさらに、対象の生物学的サンプルにおけるGAGレベルを、薬剤を投与する前に、および/または、薬剤を投与するのと同時に、および/または、薬剤を投与した後で分析することを含む。
【0031】
本発明の別の態様によれば、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与し、それにより、対象における軟骨または皮膚の疾患または状態を治療することを含む、対象における軟骨または皮膚の疾患または状態を治療する方法が提供される。
【0032】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、軟骨の疾患はリウマチ様関節炎ではない。
【0033】
本発明のさらに別の態様によれば、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与し、それにより、対象における変形性関節症を治療することを含む、対象における変形性関節症を治療する方法が提供される。
【0034】
本発明のさらに別の態様によれば、軟骨または皮膚の疾患または状態を治療するために特定される医薬品を製造するための、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の使用が提供される。
【0035】
本発明のさらに別の態様によれば、GAGをアップレギュレーションすることが対象において治療的に有益である疾患の治療方針を決定する方法が提供され、この場合、この方法は、(a)レニン−アンギオテンシン系をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与すること;および(b)前記対象の生物学的サンプルにおけるGAGレベルを(a)の後で分析し、それにより、GAGレベルによって、治療方針が示されることを含む。
【0036】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、方法はさらに、対象のさらなる生物学的サンプルを工程(a)の前および/または工程(b)と同時に得ることを含む。
【0037】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、方法はさらに、生物学的サンプルにおけるGAGレベルをさらなる生物学的サンプルと比較することを含む。
【0038】
本発明のさらに別の態様によれば、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患に苦しむ対象における治療方針を決定する方法が提供され、この場合、この方法は、(a)対象の生物学的サンプルにおけるGAGレベルを分析すること;および(b)レニン−アンギオテンシン系をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量を前記GAGレベルに従って対象に投与することを含む。
【0039】
下記に記載される本発明の好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、方法はさらに、工程(a)を工程(b)の後で繰り返すことを含む。
【0040】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、疾患または状態は、軟骨または皮膚の疾患または状態からなる群から選択される。
【0041】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、薬剤はアンギオテンシン変換酵素阻害剤である。
【0042】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、アンギオテンシン変換酵素阻害剤は、AB−103、アンコベニン、ベナゼプリラト、BRL−36378、BW−A575C、CGS−13928C、CL242817、CV−5975、Equaten、EU4865、EU4867、EU−5476、ホロキシミチン、FPL66564、FR−900456、Hoe−065、I5B2、インドラプリル、ケトメチルウレアス(ketomethylureas)、KRI−1177、KRI−1230、L681176、リベンザプリル、MCD、MDL−27088、MDL−27467A、モベルチプリル、MS−41、ニコチアナミン、ペントプリル、フェナセイン、ピボプリル、レンチアプリル、RG−5975、RG−6134、RG−6207、RGH0399、ROO−911、RS−10085−197、’RS−2039、RS5139、RS86127、RU−44403、S−8308、SA−291、スピラプリラト、SQ26900、SQ−28084、SQ−28370、SQ−28940、SQ−31440、Synecor、ウチバプリル、WF−10129、Wy−44221、Wy−44655、Y−23785、Yissum、P−0154、ザビシプリル、Asahi Brewery AB−47、アラトリオプリル、BMS182657、Asahi Chemical C−111、Asahi Chemical C−112、Dainippon DU−1777、ミキサンプリル(mixanpril)、Prentyl、ゼフェノプリラト、1(−(I−カルボキシ−6−(4−ピペリジニル)ヘキシル)アミノ)−1−オキソプロピルオクタヒドロ−1H−インドール−2−カルボン酸、Bioproject BP1.137、Chiesi CHF1514、Fisons FPL−66564、イドラプリル、ペリンドプリラトおよびServier S−5590、アラセプリル、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラト、ホシノプリル、ホシノプリラト、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、ラミプリラト、酢酸サララシン、テモカプリル、トランドラプリル、トランドラプリラト、セラナプリル、モエキシプリル、キナプリラトおよびスピラプリルからなる群から選択される。
【0043】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、薬剤はNEP/ACE阻害剤である。
【0044】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、薬剤はAT1受容体アンタゴニストである。
【0045】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、AT1受容体アンタゴニストは、酢酸サララシン、カンデサルタンシレキセチル、CGP−63170、EMD−66397、KT3−671、LR−B/081、バルサルタン、A−81282、BIBR−363、BIBS−222、BMS−184698、カンデサルタン、CV−11194、EXP−3174、KW−3433、L−161177、L−162154、LR−B/057、LY−235656、PD−150304、U−96849、U−97018、UP−275−22、WAY−126227、WK−1492.2K、YM−31472、ロサルタンカリウム、E4177、EMD−73495、エプロサルタン、HN−65021、イルベサルタン、L−159282、ME−3221、SL−91.0102、Tasosartan、Telmisartan、UP−269−6、YM−358、CGP−49870、GA−0056、L−159689、L−162234、L−162441、L−163007、PD−123177、A−81988、BMS−180560、CGP−38560A、CGP−48369、DA−2079、DE−3489、DuP−167、EXP−063、EXP−6155、EXP−6803、EXP−7711、EXP−9270、FK−739、HR−720、ICI−D6888、ICI−D7155、ICI−D8731、イソテオリン(isoteoline)、KRI−1177、L−158809、L−158978、L−159874、LR B087、LY−285434、LY−302289、LY−315995、RG−13647、RWJ−38970、RWJ−46458、S−8307、S−8308、サプリサルタン、サララシン、Sarmesin、WK−1360、X−6803、ZD−6888、ZD−7155、ZD−8731、BIBS39、CI−996、DMP−811、DuP−532、EXP−929、L−163017、LY−301875、XH−148、XR−510、ゾラサルタンおよびPD−123319からなる群から選択される。
【0046】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、薬剤はレニン阻害剤である。
【0047】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、レニン阻害剤は、エナルクレイン、RO42−5892、A65317、CP80794、ES1005、ES8891、SQ34017、CGP29287、CGP38560、SR43845、U−71038、A62198、A64662、A−69729、FK906およびFK744からなる群から選択される。
【0048】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、薬剤は、レニン−アンギオテンシン系の少なくとも1つの成分を発現する内因性の核酸配列に向けられたオリゴヌクレオチドである。
【0049】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、低いレベルのGAGが、対象の軟骨、皮膚または滑液において存在する。
【0050】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、投与することが局所的に行われる。
【0051】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、局所投与することが、関節内投与、局部投与または滑液嚢内投与によって行われる。
【0052】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、関節内投与は、膝関節、肘関節、股関節、胸鎖関節、顎関節、手根関節、足根関節、手関節、足関節、椎間円板および黄色靭帯からなる群から選択される関節の中に投与することを含む。
【0053】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、軟骨の疾患または状態は、変形性関節症、制限された関節の運動性、痛風、リウマチ様関節炎、軟骨融解、強皮症、変性椎間板疾患および全身性エリテマトーデスからなる群から選択される。
【0054】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、皮膚の疾患または状態は、しわ形成、乾癬、ケロイドおよび火傷からなる群から選択される。
【0055】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、前記アンギオテンシン変換酵素阻害剤の局所用量は1日あたり5mgを超えない。
【0056】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、前記AT1受容体アンタゴニストの局所用量は1日あたり5mgを超えない。
【0057】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患は、腎臓の疾患または状態、血管の疾患または状態、皮膚の疾患または状態、および、軟骨の疾患または状態からなる群から選択される。
【0058】
本発明のさらに別の態様によれば、GAGをダウンレギュレーションすることが対象において治療的に有益である状態または疾患を治療する方法が提供され、この場合、この方法は、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性および/または発現をアップレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与し、それにより、GAGをダウンレギュレーションすることが対象において治療的に有益である状態または疾患を治療することを含む。
【0059】
記載された好ましい実施形態におけるさらなる特徴によれば、薬剤はアンギオテンシンIIアゴニストまたはアンギオテンシンII活性化因子である。
【0060】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、状態はリソソーム蓄積状態である。
【0061】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、リソソーム蓄積状態はムコ多糖症の状態である。
【0062】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、疾患は嚢胞性線維症である。
【0063】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、投与することが全身的に行われる。
【0064】
記載された好ましい実施形態におけるなおさらなる特徴によれば、投与することが局所的に行われる。
【0065】
本発明は、低いレベルまたは高いレベルのGAGに関連する状態または疾患を治療するための方法およびその使用を提供することによって、現在知られている形態の欠点に対処することに成功している。
【0066】
別途定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が下記に記載される。本明細書中で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参考として援用される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【0067】
図面の簡単な記述
本明細書では本発明を単に例示し図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の好ましい実施形態を例示考察することだけを目的としており、本発明の原理や概念の態様の最も有用でかつ容易に理解される説明であると考えられるものを提供するために提示していることを強調するものである。この点について、本発明を基本的に理解するのに必要である以上に詳細に本発明の構造の詳細は示さないが、図面について行う説明によって本発明のいくつもの形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
図1A〜図1Cは、アルデヒドおよび四酸化オスミウムにより固定処理され、アラルダイトに包埋されたラット腎臓の薄い切片の電子顕微鏡写真画像の写真である(x10000の原倍率)。図1Aは、0.9%NaClが注射されたコントロールラットの腎臓の切片の電子顕微鏡写真画像の写真である。写真は、無数の足突起を有する正常な足細胞構造を示す。図1Bは、ピューロマイシンアミノヌクレオシド(PAN)注射ラットの腎臓の切片の電子顕微鏡写真画像の写真である。写真は、足突起の平坦化および消失を伴う糸球体における足細胞構造の喪失を示す。足細胞の細胞体において、細胞質内空胞を認めることができる。図1Cは、エナラプリル治療(50mg/ml)と一緒でのPAN注射ラットの腎臓の切片の電子顕微鏡写真画像の写真である。写真は、正常な足細胞構造の類似する喪失を示す。
図2A〜図2Cは、アルデヒドにより固定処理され、LR−ホワイトに包埋され、CCGにより標識されたラット腎臓の切片の電子顕微鏡写真画像の写真である。図2Aは、0.9%NaClが注射されたコントロールラットの腎臓の切片の電子顕微鏡写真画像の写真である。写真は、GBMに対する強いCCG結合を示す(x15000の原倍率)。図2Bは、PAN注射ラットの腎臓の切片の電子顕微鏡写真画像の写真である。写真は、GBMに対するCCG結合における顕著な低下を示す。対照的に、高CCG密度の標識化がボーマン嚢において認められる(x15000の原倍率)。図2Cは、エナラプリル治療(50mg/ml)と一緒でのPAN注射ラットの腎臓の切片の電子顕微鏡写真画像の写真である。写真は、コントロールに類似する強いCCG結合を示す(x18000の原倍率)。
図3は、薄いLR−ホワイト腎臓切片でのGBMに対するCCG結合の形態計測分析を例示する棒グラフである。結果が、コントロール腎臓、PAN腎臓およびエナラプリル治療のPAN腎臓におけるCCG密度を比較する、1μmのGBMに結合したCCG粒子の数として示される。
図4は、培養におけるRMC結合GAGの濃度を例示する棒グラフである。RMCを40μg/mlのPANおよび増大する用量のエナラプリルとインキュベーションした。結果がμgGAG/10細胞として示される。
図5A〜図5Dは、Rolli Moskowitzの部分的半月板切除の知られているOAモデルを使用する変形性関節症(OA)誘導ラットの組織学的切片の代表的なサンプルの写真である。図5A〜図5Bは、何らかのさらなる治療を伴わないラット(すなわち、コントロール)の切片を例示する(図5A〜図5B)。図5C〜図5Dは、カプトプリルにより治療されたOA誘導ラットである(図5C〜図5D)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
本発明は、レニン−アンギオテンシン系を調節する薬剤の投与によるGAGレベルの変化から利益を受けると考えられる疾患を治療する方法に関連する。
【0069】
具体的には、本発明は、レニン−アンギオテンシン阻害剤の薬剤を投与することによるGAGのアップレギュレーションから利益を受けると考えられる疾患、および、レニン−アンギオテンシン活性化因子の薬剤を投与することによるGAGのダウンレギュレーションから利益を受けると考えられる疾患を治療するために使用することができる。
【0070】
低いレベルまたは高いレベルのGAGに関連する状態を治療する原理および作用は、実施例および付随する説明を参照してより十分に理解することができる。
【0071】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明において示される細部、または、実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または、様々な方法で実施または実行される。また、本明細書中で用いられる表現法および用語法は記述のためであって、限定であると見なしてはならないことを理解しなければならない。
【0072】
アンギオテンシンII変換酵素(ACE)阻害剤およびアンギオテンシン受容体遮断剤(ARB)は一般には、心不全、高血圧および心筋梗塞の管理のために処方される。それらはまた、慢性的腎臓疾患において、また、タンパク尿を伴う腎臓疾患において腎臓機能を保護するための治療の標準であると見なされる。これらの薬剤に関連する腎臓保護の正確な機構は依然として明らかにされてない。
【0073】
ヒトおよび動物モデルにおけるタンパク尿の病理発生に関与する機構の1つが、糸球体の毛細血管壁(GCW)におけるアニオン性部位の喪失である[Raats CJI他、Kidney Int、57:385〜400、2000;Groffen AJA他、Nephrol Dial Transplant、14:2119〜2129、1999]。これらの部位における変化が、ピューロマイシンアミノヌクレオシド(PAN)によるネフローゼを有するラットにおいて明らかにされており、従って、このネフローゼは、タンパク尿の病態生理学を研究するための有用なモデルとなっている。
【0074】
PANネフローゼのラットの糸球体における機能的電荷バリアを調べている間に、本発明者らは、予想外ではあったが、ACE−Iのエナラプリルが、(実施例1に示されるように)GAGの合成を増大させることによってこれらのラットにおける糸球体のアニオン分布に影響を及ぼしたことを見出している。
【0075】
このことは、RAS経路がGAGの代謝に関与していることの最初のものである。本発明では、GAGのアップレギュレーションが治療的に有益である疾患または状態、特に、GAGのレベルにおける不足に関連する疾患または状態を治療するための新規な治療計画を提供するためにこの発見が利用される。本発明ではまた、GAGレベルの増大に関連する疾患を治療するための治療計画の新規な使用が教示される。
【0076】
本明細書中下記において、また、下記の実施例の節において例示されるように、PANは軟骨細胞結合GAGの合成における著しい低下をインビトロ系で引き起こした。ACE−Iおよびアンギオテンシン受容体遮断剤(ARB)を加えることにより、35Sの増大した取り込みによって証明されるように、コントロールレベルへの細胞結合GAGの完全な回復が達成されるまで、この作用の用量依存的な阻害がもたらされた。下記の実施例の節の実施例3において例示されるように、変形性関節症ラットへのACE−Iの関節内投与は疾患の症状発現を最小限に抑えた。
【0077】
いくつかの特許出願(例えば、米国特許出願第20030078190号および米国特許出願第20030040509号)が従来から、本発明によって想定される疾患を含む広範囲の様々な疾患を治療するためのレニン−アンギオテンシン阻害剤の使用を示唆していることが理解される。しかしながら、本発明とは際立って対照的に、これらの特許出願はともに、レニン−アンギオテンシン調節薬剤をそのような状態の治療のために局所投与することを示唆していない。局所投与の利点は、RAS調節剤のより大きい用量の投与が、関連した全身的な副作用を伴うことなく許容され得ることである。
【0078】
さらに、本発明は、ACE−IおよびARBが軟骨細胞結合GAGを増大させることができることを明らかにすることによって、そのような状態を治療することの実現可能性についての実験的証拠を初めて提供する。
【0079】
ACE−Iのキナプリルの治療的効果は、マウスにおける炎症性関節炎を抑制することが示された[Dalbeth他、Rheumatology、44:24〜31、2004]。ARBのカンデサルタンも同様に、疾患の進行に対する類似する阻害作用を有していた。しかしながら、レニン−アンギオテンシン系調節剤の局所投与は示唆されず、また、GAGに対するこれらの薬剤の作用は仮定されていなかった。
【0080】
従って、本発明の1つの態様によれば、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患または状態を治療する方法が提供される。
【0081】
本発明のこの態様の方法は、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に局所投与し、それにより、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患または状態を治療することを含む。
【0082】
本明細書中で使用される用語「GAG」(グリコサミノグリカン)は、細胞結合型でもあり得る、細胞外マトリックスの大きい分子を示す。GAGは、タンパク質コアに典型的には連結される反復する二糖ユニットから構成される。二糖ユニットはグルコサミンおよびグルクロン酸から構成される。N−Ac−グルコサミン上の硫酸分子の位置により、GAGのタイプが決定される(例えば、ヒアルロン酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸およびケラタン硫酸、または、これらの組合せなど、これらに限定されない)。本発明のGAGはコアタンパク質に結合してもよく、または、結合しなくてもよい。GAGは、軟骨、骨、皮膚、筋肉、角膜、心臓弁、緩い結合組織のECM、基底膜、ならびに、肺、肝臓および皮膚の組織の動脈を裏打ちするマスト細胞(これらに限定されない)を含む組織または組織の一部に存在し得る。
【0083】
本明細書中で使用される表現「GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患または状態」は、炎症性疾患、骨格筋疾患、軟骨疾患および皮膚疾患を示す。そのような疾患の様々な例が本明細書中下記においてさらに提供される。
【0084】
本発明のこの態様の好ましい実施形態によれば、治療されている対象は、好ましくは、低いレベルのGAGを示す。低いレベルのGAGは、特定の罹患組織において、コントロールの健康な個体における同じ組織領域に対する比較で決定することができる。
【0085】
本明細書中で使用される表現「低いレベルのGAG」は、例えば、軟骨、滑液または皮膚における罹患組織領域に限定される、低いレベルの正常(すなわち、機能的)GAGを示すか、あるいは、全身的に示される場合がある。低いレベルのGAGは、GAG合成およびGAG分解の間における崩れた平衡の結果としてであり得る。GAGの生合成は、糖側鎖のアクセプターとしてのコアタンパク質の利用性によって、ならびに、関連した細胞内部におけるグリコシルトランスフェラーゼ[すなわち、コアタンパク質へのグリコシル(糖)残基の転移を触媒する酵素]のレベルおよび利用性によって調節される。GAGの分解は主として、メタロペプチダーゼによるコアタンパク質の分解によって行われる。
【0086】
低いレベルのGAGは、例えば、変形性関節症でのように、コアタンパク質(プロテオグリカン)含有量の減少から生じ得る[Altman RD他、Arthritis Rheum、16:179、1973;Jasin HE、Dingle JT、J Clin Invest、68:571〜581、1981]。あるいは、低いレベルのGAGは、リウマチ様関節炎などでは、自己抗体のアップレギュレーションから生じ得る[Wang他、P.N.A.S.、2002(Oct 29)、99(22):14362〜7]。GAGレベルはまた、加齢の関数として低下すること[Hickery他、J.Biol.Chem.、第278巻、第52号、53063〜53071]が、例えば、皮膚[Zimnitskii他、Biomed Khim、2004(May−Ju)、50(3)、309〜13]で示されている。GAGレベルはまた、狼瘡に関連する皮膚疾患でも低下する[Alahlafi A.M.、Lupus、2004、13(8)、594〜600]。
【0087】
本明細書中で使用される用語「対象」は哺乳動物対象を示し、好ましくは、ヒト対象を示す。非ヒト哺乳動物の例には、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、イヌおよびネコが含まれるが、これらに限定されない。
【0088】
表現「その必要性のある対象」は、上記疾患のいずれか1つに罹患する対象、または、そのような疾患を発症する危険性がある対象を示す。そのような対象は低いレベルのGAGを示す場合がある。
【0089】
本明細書中で使用される表現「レニン−アンギオテンシン系」(RAS)は、アンギオテンシンIIの産生に関わるカスケード系を示す。この系において、プロテアーゼのレニンが前駆体のアンギオテンシノーゲンを切断して、アンギオテンシンIを産生し、このアンギオテンシンI自身がメタロペプチダーゼのアンギオテンシン変換酵素(ACE)によって切断されて、アンギオテンシンIIを産生する。レニン−アンギオテンシン系の成分は、酵素(例えば、レニン(EC3.4.23.15)およびACE(EC3.4.15.1))、その対象物[アンギオテンシノーゲン(K02215)およびアンギオテンシンIを含む]、アンギオテンシンIIが相互作用する受容体(例えば、AT1(NM_009585)およびAT2(NM_000686))、および、その下流側エフェクターを示す場合がある。
【0090】
本明細書中で使用される「下流側エフェクター」は、作用(すなわち、アンギオテンシンIIがその受容体と相互作用することによるGAGの増大)に関わるシグナル伝達カスケードにおける標的分子を示す。アンギオテンシンIIの下流側エフェクターの一例がアルドステロンである。従って、レニン−アンギオテンシン系の成分にはまた、アルドステロンおよびアルドステロン受容体が含まれる場合がある。
【0091】
RASの成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤は、RASの少なくとも1つの成分の活性または発現を阻害することができる分子(例えば、化学物質、核酸またはタンパク質性分子またはそれらの組合せなど)を示す。
【0092】
タンパク質またはタンパク質をコードするmRNA転写物の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる様々な薬剤が当技術分野で周知である。
【0093】
化学的阻害剤
例えば、RASの成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤はRASの化学的阻害剤である場合がある。これには、投与したとき、GAGの産生に対するRASの作用を、アンギオテンシンIIの合成を低下させることによって、または、その作用を受容体において遮断することによって阻止する任意の化合物が含まれる。
【0094】
RASの化学的阻害剤には、ACE阻害剤、アンギオテンシンII受容体アンタゴニスト、アルドステロン阻害剤、アルドステロン受容体アンタゴニスト、レニン阻害剤、および、それらの医薬的に許容され得る誘導体(プロドラッグおよび代謝産物を含む)が含まれるが、これらに限定されない。
【0095】
RAS阻害剤の医薬的に許容され得る誘導体は、RAS阻害剤の生理学的に許容可能な塩を含むことが理解され、そのような生理学的に許容可能な塩は、その有機塩および無機塩の両方を意味するとして理解され、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(第17版、1418頁(1985))などに記載される。物理的および化学的な安定性ならびに溶解性のために、酸性基については、とりわけ、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびアンモニウム塩が好ましく、塩基性基については、とりわけ、塩酸、硫酸、リン酸の塩、あるいは、カルボン酸またはスルホン酸(例えば、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸およびp−トルエンスルホン酸など)の塩が好ましい。
【0096】
本明細書中で使用される用語「代謝産物」は、その投与の後での、例えば、肝臓における加水分解の後での本発明の薬剤の分解生成物を示す。活性な代謝産物の一例がエナロプリラト(enaloprilat)であり、これはエナロプリル(enalopril)の生物転換生成物である。
【0097】
表現「ACE阻害剤」は、ACEの活性(例えば、アンギオテンシンのオクタペプチド形態(「アンギオテンシンII」)へのアンギオテンシンの生理学的に不活性なデカペプチド形態(「アンギオテンシンI」)の酵素変換)を少なくとも部分的にダウンレギュレーションすることができる化学的薬剤を示す。典型的なACE阻害剤が、中性エンドペプチダーゼ(NEP)阻害活性および/またはアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性によって特徴づけられるNEP/ACE阻害剤である。
【0098】
本発明のこの態様による使用に好適なACE阻害剤の例には、AB−103、アンコベニン、ベナゼプリラト、BRL−36378、BW−A575C、CGS−13928C、CL242817、CV−5975、Equaten、EU4865、EU4867、EU−5476、ホロキシミチン、FPL66564、FR−900456、Hoe−065、I5B2、インドラプリル、ケトメチルウレアス(ketomethylureas)、KRI−1177、KRI−1230、L681176、リベンザプリル、MCD、MDL−27088、MDL−27467A、モベルチプリル、MS−41、ニコチアナミン、ペントプリル、フェナセイン、ピボプリル、レンチアプリル、RG−5975、RG−6134、RG−6207、RGH0399、ROO−911、RS−10085−197、’RS−2039、RS5139、RS86127、RU−44403、S−8308、SA−291、スピラプリラト、SQ26900、SQ−28084、SQ−28370、SQ−28940、SQ−31440、Synecor、ウチバプリル、WF−10129、Wy−44221、Wy−44655、Y−23785、Yissum、P−0154、ザビシプリル、Asahi Brewery AB−47、アラトリオプリル、BMS182657、Asahi Chemical C−111、Asahi Chemical C−112、Dainippon DU−1777、ミキサンプリル(mixanpril)、Prentyl、ゼフェノプリラト、1(−(I−カルボキシ−6−(4−ピペリジニル)ヘキシル)アミノ)−1−オキソプロピルオクタヒドロ−1H−インドール−2−カルボン酸、Bioproject BP1.137、Chiesi CHF1514、Fisons FPL−66564、イドラプリル、ペリンドプリラトおよびServier S−5590、アラセプリル、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラト、ホシノプリル、ホシノプリラト、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、ラミプリラト、酢酸サララシン、テモカプリル、トランドラプリル、トランドラプリラト、セラナプリル、モエキシプリル、キナプリラトおよびスピラプリルが含まれるが、これらに限定されない。
【0099】
そのようなACE阻害剤は市販されている。例えば、ACE阻害剤のラミプリル(これは欧州特許EP79022から知られている)が、Aventisによって、例えば、Delix(登録商標)またはAltace(登録商標)の商標で販売される。エナラプリルまたはマレイン酸エナラプリル、および、リシノプリルの2つが、Merck and CoおよびSigma(カタログ番号0773)によって販売される。エナラプリルはVasotec(登録商標)の商標で販売される。リシノプリルはPrinivil(登録商標)の商標で販売される。
【0100】
本明細書中での使用のために好適であるNEP/ACE阻害剤の例には、米国特許第5508272号、同第5362727号、同第5366973号、同第5225401号、同第4722810号、同第5223516号、同第5552397号、同第4749688号、同第5504080号、同第5612359号、同第5525723号、同第5430145号および同第5679671号、ならびに、欧州特許出願第0481522号、同第0534263号、同第0534396号、同第0534492号および同第0671172号に開示されるNEP/ACE阻害剤が含まれる。
【0101】
表現「アンギオテンシンII受容体アンタゴニスト」は、アンギオテンシン受容体(好ましくは、AT1受容体)に結合することによりアンギオテンシンIIの活性を部分的または完全にダウンレギュレーションすることができる(例えば、GAGを低下させることができる)化学的薬剤を示す。
【0102】
本発明のこの態様による使用に好適なアンギオテンシンII受容体アンタゴニストの例には、酢酸サララシン、カンデサルタンシレキセチル、CGP−63170、EMD−66397、KT3−671、LR−B/081、バルサルタン、A−81282、BIBR−363、BIBS−222、BMS−184698、カンデサルタン、CV−11194、EXP−3174、KW−3433、L−161177、L−162154、LR−B/057、LY−235656、PD−150304、U−96849、U−97018、UP−275−22、WAY−126227、WK−1492.2K、YM−31472、ロサルタンカリウム、E4177、EMD−73495、エプロサルタン、HN−65021、イルベサルタン、L−159282、ME−3221、SL−91.0102、Tasosartan、Telmisartan、UP−269−6、YM−358、CGP−49870、GA−0056、L−159689、L−162234、L−162441、L−163007、PD−123177、A−81988、BMS−180560、CGP−38560A、CGP−48369、DA−2079、DE−3489、DuP−167、EXP−063、EXP−6155、EXP−6803、EXP−7711、EXP−9270、FK−739、HR−720、ICI−D6888、ICI−D7155、ICI−D8731、イソテオリン(isoteoline)、KRI−1177、L−158809、L−158978、L−159874、LR B087、LY−285434、LY−302289、LY−315995、RG−13647、RWJ−38970、RWJ−46458、S−8307、S−8308、サプリサルタン、サララシン、Sarmesin、WK−1360、X−6803、ZD−6888、ZD−7155、ZD−8731、BIBS39、CI−996、DMP−811、DuP−532、EXP−929、L−163017、LY−301875、XH−148、XR−510、ゾラサルタンおよびPD−123319が含まれるが、これらに限定されない。これらの阻害剤は市販されている。
【0103】
本発明のこの態様による使用に好適なレニン阻害剤の例には、エナルクレイン;RO42−5892;A65317;CP80794;ES1005;ES8891;SQ34017;CGP29287;CGP38560;SR43845;U−71038;A62198;A64662;A−69729;FK906およびFK744が含まれるが、これらに限定されない。
【0104】
表現「アルドステロン阻害剤」は、アルドステロンの合成または活性を直接的または間接的に低下させるか、または妨げることによってプレ受容体機構を介してアルドステロンの活性を部分的または完全にダウンレギュレーションすることができる(すなわち、GAGを低下させることができる)化学的薬剤を示す。
【0105】
本発明のアルドステロン阻害剤の例には、アロマターゼ阻害剤、例えば、R−76713、R−83842、CGS−16949A(ファドロゾール)、CGS−20267(レトロゾール)、CGS−20267、アミノグルテタミド、CGS−47645、ICI−D−1033、クロモン誘導体&キサントン誘導体およびYM−511など;12−リポキシゲナーゼ阻害剤、例えば、PDGF、TNF、IL−1、IL−1β、BW755c、フェニドン、バイカレイン、アミノグアニジン、ノルジヒドログアイアレチン酸(NDGA)、シンナミル−3,4−ジヒドロキシ−α−シアノシンナマート(CDC)、パナキシノール、ピオグリタゾンおよびmRNA切断リボザイムなど;P450.sub.11.beta.阻害剤、例えば、18−ビニルプロゲステロンおよび18−エチニルプロゲステロンなど、脂肪酸、例えば、オレイン酸など;18−ビニルデオキシコルチコステロン、ケトコナゾール、クロトリマゾール、ミコナゾール、エトミダート、スピロノラクトンおよび23−0586など;心房性ナトリウム利尿因子、例えば、ANP、ANFおよびANFフラグメントなど;17,20リサーゼ(lysase)阻害剤、例えば、YM−55208およびYM−53798など;プロスタグランジン合成阻害剤、例えば、インドメタシン、メクロフェナマート、アミノグルテタミドおよびアスピリンなど;PKC阻害剤、例えば、スフィンゴシン、レチナール、H−7、スタウロスポリンおよびトリフルオペラジンなど;ベンゾジアゼピン系薬剤、例えば、ジアゼパムおよびミダゾラムなど;カルシウム遮断剤、例えば、アムロジピンおよびミベフラジルなど;ジアシルグリセロールリパーゼ阻害剤、例えば、RHC−80267[1,6−ビス(シクロヘキシルオキシミノカルボニルアミノ)ヘキサン]など;カリウムイオノホア、例えば、バリノマイシンおよびクロマカリムなど;電子伝達遮断剤(代謝拮抗剤)、例えば、アンチマイシンA、シアニド、ロテノンおよびアミタールなど;ドーパミン(プロラクチン阻害ホルモン)、クロルブトール、18−エチニル−11−デオキシコルチコステロン(18−EtDOC)など;およびエタノールが含まれるが、これらに限定されない。
【0106】
表現「アルドステロンアンタゴニスト」は、アルドステロン受容体に結合することによってアルドステロンの活性を部分的または完全にダウンレギュレーションすることができる(すなわち、GAGを低下させることができる)化学的薬剤を示す。
【0107】
アルドステロンアンタゴニストの例には、スピロノラクトン、アルダクトン、ドロスピレノン、エポキシメキスレノンおよびエプレレノンが含まれるが、これらに限定されない。
【0108】
タンパク質薬剤
RASをダウンレギュレーションすることができる薬剤の別の一例が、RASの成分と特異的に結合し、その活性を少なくとも部分的にダウンレギュレーションすることができる抗体または抗体フラグメント(すなわち、中和抗体)である。例えば、抗体は、ACEに、好ましくは、その2つの触媒作用ドメインの一方に結合し、それにより、その機能を妨げることができる。あるいは、抗体または抗体フラグメントは、ACEに存在する活性化部位に結合することができる。ACEセクレターゼは、ACEの膜結合形態を切断することに関わっており、従って、ACEが、「シェディング(shedding)」として知られているプロセスで可溶性酵素として細胞外液(例えば、血漿ならびに精液および脳脊髄液など)に放出され得る。シェディングプロセスを妨げる、ACEのシェディングドメインに対して惹起された抗体が当技術分野で既知である(例えば、mAb 3G8[Balyasnikova他、Biochem.J.(2002)、362(585〜595)]。ACEに対して惹起された他のモノクローナル抗体が市販されている(例えば、カタログ#ACE23−MADI、San Antonio(米国))。
【0109】
レニンについての抗体(例えば、カタログ番号:RDI−rtreninabm)、および、アンギオテンシノーゲンについての抗体(例えば、カタログ番号:RDI−rtangtenabm)もまた市販されており、これらはともに、Research Diagnostics(New Jersey、米国)から得られる。
【0110】
好ましくは、抗体はタンパク質の少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する。本明細書中で使用される用語「エピトープ」は、抗体のパラトープが結合する抗原における任意の抗原性決定基を示す。ACE触媒作用ドメインのエピトープは好ましくは、Arg−1203およびSer−1204を含む[Parkin他、Protein and Peptide Letters、2004(10月)、第11巻、第5号、423頁〜432頁(10)]。
【0111】
エピトープ決定基は、通常、分子の化学的に活性な表面基(例えば、アミノ酸または炭水化物側鎖など)からなり、また、通常、特異的な電荷特徴と同様に、特異的な三次元の構造的特徴を有する。
【0112】
本発明で使用される用語「抗体」には、完全な分子ならびにマクロファージによって示される抗原に結合することができるその機能的フラグメント(Fab、F(ab’)、およびFvなど)が含まれる。これらの機能的抗体フラグメントを以下のように定義する:(1)Fab:抗体分子の1価の抗原結合フラグメントを含み、完全な軽鎖および1つの重鎖の一部を得るために酵素パパインでの完全な抗体の消化によって産生される、フラグメント;(2)Fab’:完全な軽鎖および重鎖の一部を得るためにペプシンでの完全な抗体の処理およびその後の還元によって得ることができる抗体分子のフラグメント;抗体分子あたり2つのFab’フラグメントが得られる;(3)(Fab’):その後に還元することなく酵素ペプシンでの完全な抗体の処理によって得ることができる抗体のフラグメント;(Fab’)は、2つのジスルフィド結合により互いに結合した2つのFab’フラグメントの二量体である;(4)Fv:2つの鎖として発現された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む遺伝子操作されたフラグメントとして定義される;および(5)単鎖抗体(「SCA」):適切なペプチドリンカーによって連結された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む、遺伝子融合された1本鎖分子としての遺伝子操作された分子。
【0113】
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ならびにそれらのフラグメントの作製方法は、当該分野で周知である(例えば、HarlowおよびLane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1988(本明細書中で参考として援用されている)を参照のこと)。
【0114】
本発明の抗体フラグメントは、抗体のタンパク質加水分解によって、またはE.coliまたは哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養物または他のタンパク質発現系)でフラグメントをコードするDNAを発現させることによって調製することができる。従来の方法による完全な抗体のペプシンまたはパパイン消化によって、抗体フラグメントを得ることができる。例えば、F(ab’)と呼ばれる5Sフラグメントを得るためのペプシンでの抗体の酵素分解によって抗体フラグメントを産生することができる。チオール還元剤、および必要に応じて、ジスルフィド結合の切断により生じるスルフヒドリル基をブロックする基を使用してこのフラグメントをさらに切断して、1価の3.5SFab’フラグメントを産生することができる。あるいは、ペプシンを使用した酵素切断により、2つの1価のFab’フラグメントおよびFcフラグメントを直接産生する。これらの方法は、例えば、Goldenberg、米国特許第4036945号、および同第4331647号ならびにこれらに記載の参考文献(これらの特許は、その全体が本明細書中で参考として援用されている)によって記載されている。Porter,R.R.(Biochem.J.,73:119−126,1959)もまた参照のこと。フラグメントが完全な抗体によって認識される抗原に結合する限りは、1価の軽鎖−重鎖フラグメントを形成するための重鎖の分離、フラグメントのさらなる切断、または他の酵素技術、化学的技術、または遺伝子技術などの抗体を切断するための他の方法を使用することもできる。
【0115】
Fvフラグメントは、V鎖およびV鎖の結合を含む。Inbar他(Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 69:2659−62,1972)に記載のように、この結合は非共有結合であり得る。あるいは、可変鎖は、分子内ジスルフィド結合によって結合するか、グルタルアルデヒドなどの化学物質によって架橋することができる。好ましくは、Fvフラグメントは、ペプチド結合によって連結したV鎖およびV鎖を含む。これらの単鎖抗原結合タンパク質(sFv)を、オリゴヌクレオチドによって連結されたVおよびVドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子の構築によって調製する。構造遺伝子を発現ベクターに挿入し、その後E.coliなどの宿主細胞に導入する。組換え宿主細胞は、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを有する単鎖ポリペプチドを合成する。sFvの産生方法は、例えば、Whitlow およびFilpula((1991)Methods,2:97−105);Bird他((1988)Science 242:423−426);Pack他((1993)Bio/Technology 11:1271−77);および米国特許第4946778号(本明細書中で参考として援用されている)によって記載されている。
【0116】
抗体フラグメントの別の形態は、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)を、目的の抗体のCDRをコードする遺伝子の構築によって得ることができる。このような遺伝子は、例えば、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成するためのポリメラーゼ連鎖反応を使用して調製する。例えば、LarrickおよびFry((1991)Human Antibodies and Hybridomas,2:172−189および米国特許第6580016号)を参照のこと。
【0117】
非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態は、免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖または非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含むそのフラグメント(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)、または抗体の他の抗原結合配列など)のキメラ分子である。ヒト化抗体には、レシピエントの相補性決定領域(CDR)を形成する残基が所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、またはウサギなどのヒト以外の種(ドナー抗体)のCDR由来の残基に置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が含まれる。いくつかの例では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基を、対応する非ヒト残基に置換する。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体、取り込まれたCDR、またはフレームワーク配列のいずれにも見出されない残基を含み得る。一般に、ヒト化抗体は、全てのまたは実質的に全てのCDR領域が非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、全てのまたは実質的に全てのFR領域がヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である、実質的に全ての、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、必要に応じて、免疫グロブリン定常領域(Fc)(典型的には、ヒト免疫グロブリンの定常領域)の少なくとも一部を含む(Jones他,Nature,321:522−525(1986);Riechmann 他,Nature,332:323−329(1988);and Presta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593−596(1992))。
【0118】
非ヒト抗体のヒト化方法は、当該分野で周知である。一般に、ヒト化抗体は、ヒト以外の供給源由来のアミノ酸残基に導入された1つ以上のアミノ酸残基を有する。典型的には導入可変ドメインから採取されるこれらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば導入残基といわれる。本質的に、げっ歯類CDRまたはCDR配列の対応するヒト抗体配列との置換によるWinter and co−workersの方法(Jones他,Nature,321:522−525(1986);Riechmann他,Nature 332:323−327(1988);Verhoeyen他,Science,239:1534−1536(1988))にしたがってヒト化を行うことができる。したがって、このようなヒト化抗体は、実質的に完全ではないヒト可変ドメインがヒト以外の種由来の対応配列に置換されているキメラ抗体である(米国特許第4816567号)。実際には、ヒト化抗体は一般に、いくつかのCDR残基およびおそらくいくつかのFR残基がげっ歯類抗体中の類似の部位由来の残基によって置換されているヒト抗体である。
【0119】
当該分野で公知の種々の技術(ファージディスプレイライブラリーを含む)を使用してヒト抗体を産生することもできる(HoogenboomおよびWinter,J.Mol.Biol.,227:381(1992);Marks他,J.Mol.Biol.,222:581(1991))。ヒトモノクローナル抗体の調製のためのCole他およびBoerner他の技術も利用可能である(Cole他,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985)およびBoerner他,J.Immunol.,147(1):86−95(1991))。同様に、トランスジェニック動物(例えば、外因性免疫グロブリン遺伝子が部分的または完全に不活化されているマウス)へのヒト免疫グロブリン遺伝子座の導入によってヒト抗体を作製することができる。チャレンジにより、ヒト抗体産生が認められる。これは、遺伝子の再配置、構築、および抗体レパートリーを含むあらゆる点でヒトで認められる特徴に非常に類似している。このアプローチは、例えば、米国特許第5545806号、同第5545807号、同第5569825号、同第5625126号、同第5633425号、同第5661016号、および以下の科学刊行物:Marks他,Bio/Technology 10,779−783(1992);Lonberg他,Nature 368 856−859(1994);Morrison,Nature 368 812−13(1994);Fishwild他,Nature Biotechnology 14,845−51(1996);Neuberger,Nature Biotechnology 14,826(1996);Lonberg and Huszar,Intern.Rev.Immunol.13 65−93(1995)に記載されている。
【0120】
あるいは、RASの活性をダウンレギュレーションすることができる別のタンパク質性薬剤は、その非機能的誘導体(すなわち、優性ネガティブ体)が可能である。タンパク質を不活性にする様々な変異を含むACE形態が当技術分野で既知である[Rigat他、J Clin Invest、86、1343]。様々な変異がレニン遺伝子においてもまた生じ得る。これらには、例えば、2つのナンセンス変異が含まれる[Hasimu他、Hypertension、2003(Feb)、41(2):308〜12;Villard他、J Biol Chem、1994(Dec 2)、269(48):30307〜12]。
【0121】
これらの非機能的誘導体および他の誘導体を模倣するペプチドを、当技術分野では周知であり、また、John Morrow StewartおよびJanis Dillaha Young[Solid Phase Peptide Syntheses(第2版、Pierce Chemical Company、1984)]によって記載される固相ペプチド合成法を使用して合成することができる。合成ペプチドは調製用高速液体クロマトグラフィーによって精製することができ[Creighton T.(1983)、Proteins,structures and molecular principles、WH Freeman and Co.、N.Y.]、また、その組成をアミノ酸配列決定によって確認することができる。
【0122】
多量のペプチドが所望される場合、多量のペプチドを、例えば、Bitter他(1987)、Methods in Enzymol.、153:516〜544;Studier他(1990)、Methods in Enzymol.、185:60〜89;Brisson他(1984)、Nature、310:511〜514;Takamatsu他(1987)、EMBO J.、6:307〜311;Coruzzi他(1984)、EMBO J.、3:1671〜1680;Brogli他(1984)、Science、224:838〜843;Gurley他(1986)、Mol.Cell.Biol.、6:559〜565;Weissbach&Weissbach、1988、Methods for Plant Molecular Biology(Academic Press、NY)、第VIII節、421頁〜463頁などによって記載される組換え技術を使用して作製することができる。
【0123】
核酸薬剤
あるいは、本発明のこの態様の薬剤は、RASに関与する成分を発現する内因性の核酸配列に向けられたオリゴヌクレオチドである場合がある。
【0124】
小さい干渉性RNA(siRNA)分子は、RASに関与する成分をダウンレギュレーションすることができるオリゴヌクレオチド薬剤の例である。RNA干渉は2つの工程プロセスである。開始工程と称される第一工程では、加えられたdsRNAがたぶんダイサー(dsRNA特異的リボヌクレアーゼのRNAase IIIファミリーの一員であり、dsRNA(直接導入されたか、または発現ベクター、カセットまたはウイルスを介して導入される)をATP依存性の様式で開裂する)の作用によって21〜23個のヌクレオチド(nt)の小さい干渉性RNA(siRNA)分子へと消化される。連続する開裂事象はRNAを19〜21bpの二本鎖(siRNA)に分解し、それぞれの鎖は2−ヌクレオチド3’オーバーハングを有する(HutvagnerおよびZamore Curr.Opin.Genetics and Development 12:225−232(2002);およびBernstein Nature 409:363−366(2001))。
【0125】
エフェクター工程では、siRNA二本鎖はヌクレアーゼ複合体に結合してRNAによって誘導されるサイレンシング複合体(RISC)を形成する。siRNA二本鎖のATP依存性巻き戻しがRISCの活性化のために要求される。次に、活性なRISCは、塩基対合相互作用によって相同な転写物を標的とし、mRNAをsiRNAの3’末端から12ヌクレオチドの断片へと開裂する(HutvagnerおよびZamore Curr,Opin.Genetics and Development 12:225−232(2002);Hammond他(2001)Nat.Rev.Gen.2:110−119(2001);およびSharp Genes.Dev.15:485−90(2001))。開裂のメカニズムは未だ解明されようとしているが、研究は各RISCが単一のsiRNAおよびRNaseを含むことを示している(HutvagnerおよびZamore Curr.Opin.Genetics and Development 12:225−232(2002))。
【0126】
RNAiの顕著な有効性のため、RNAi経路内の増幅工程が示唆されている。増幅は、加えられたdsRNAを複写すること(これはより多くのsiRNAを生み出す)によって、または形成されたsiRNAを複製することによって生じることがありうる。代わりにまたは追加的に、増幅はRISCの多数の代謝事象によって行われることがありうる(Hammond他 Nat.Rev.Gen.2:110−119(2001),Sharp Genes.Dev.15:485−90(2001),HutvagnerおよびZamore Curr.Opin.Genetics and Development 12:225−232(2002))。RNAiについてのさらなる情報については、Tuschl ChemBiochem.2:239−245(2001);Cullen Nat.Immunol.3:597−599(2002);およびBrantl Biochem.Biophys.Act.1575:15−25(2002)の解説を参照されたい。
【0127】
本発明で用いるのに好適なRNAi分子の合成は以下のようにして行われることができる。まず、mRNA配列標的はAAジヌクレオチド配列についてAUG開始コドンの下流に走査される。各AAおよび3’隣接19ヌクレオチドの存在は潜在的なsiRNA標的部位として記録される。好ましくはsiRNA標的部位はオープンリーディングフレームから選択される。なぜなら、非翻訳領域(UTR)は制御タンパク質結合部位に富んでいるからである。UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体はsiRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合に干渉するかもしれない(Tuschl(2001)ChemBiochem.2:239−245)。しかし、非翻訳領域に指向されたsiRNAもGAPDHについて示されているように効果的であることは理解されるであろう。GAPDHについては、5’UTRに指向されたsiRNAは細胞内GAPDH mRNAの約90%の減少を媒介し、タンパク質レベルを有意に減少させた(www.ambion.com/techlib/tn/91/912.html)。
【0128】
次に、可能性のある標的部位は、NCBIサーバ(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)から入手可能なBLASTソフトウェアなどのいかなる配列アラインメントソフトウェアを用いて適切なゲノムデータベース(例えばヒト、マウス、ラットなど)と比較される。他のコード配列に対して顕著な相同性を示す仮想的な標的部位は取り除かれる。
【0129】
定性化する標的配列はsiRNA合成のための鋳型として選択される。好ましい配列は低いG/C含有量を含む配列である。なぜなら、かかる配列は、55%より高いG/C含有量を有する配列と比較してより効果的に遺伝子サイレンシングを媒介することが証明されているからである。いくつかの標的部位は評価のために標的遺伝子の長さに沿って選択されることが好ましい。選択されたsiRNAのより良好な評価のためには、陰性コントロールを併用することが好ましい。陰性コントロールsiRNAは、siRNAと同じヌクレオチド組成を含むがゲノムに対する顕著な相同性を欠くことが好ましい。従って、いかなる他の遺伝子に対しても顕著な相同性を示さないという条件の下で、siRNAの混合されたヌクレオチド配列は用いられることが好ましい。
【0130】
dsRNAを使用して、ACEを首尾よく阻害した一例が、Brooks他[J.Biol.Chem.、第278巻、第52号、52340〜52346、2003]によって提供される。
【0131】
RASに関与する成分をダウンレギュレーションすることができる別のオリゴヌクレオチド薬剤が、標的のmRNA転写物またはDNA配列を特異的に切断することができるDNAザイム分子である。DNAザイムは、一本鎖および二本鎖の両方の標的配列を切断することができる一本鎖ポリヌクレオチドである(Breaker,R.R.およびJoyce,G.、G.Chemistry and Biology、1995、2:655;Santoro、S.W.&Joyce,G.F.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1997、94:4262)。DNAザイムについての一般的なモデル(「10−23」モデル)が提案されている。「10−23」DNAザイムは、それぞれが7個〜9個のデオキシリボヌクレオチドからなる2つの基質認識ドメインが隣接する、15個のデオキシリボヌクレオチドからなる触媒作用ドメインを有する。このタイプのDNAザイムはその基質RNAをプリン:ピリミジン接合部において効率的に切断することができる(Santoro、S.W.&Joyce,G.G.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、199;DNAザイムの総説については、Khachigian,L.M.[Curr Opin Mol Ther、4:119〜21(2002)]を参照のこと)。
【0132】
一本鎖および二本鎖の標的の切断部位を認識する合成および操作されたDNAザイムの構築および増幅の様々な例が米国特許第6326174号(Joyce他)に開示されている。ヒトウロキナーゼ受容体に対して向けられた類似する設計のDNAザイムが最近、ウロキナーゼ受容体の発現を阻害し、また、結腸ガン細胞の転移をインビボで首尾よく阻害することが認められた(Itoh他、2002、アブストラクト409、Ann Meeting Am Soc Gen Ther、www.asgt.org)。別の適用では、bcr−ab1ガン遺伝子に対して相補的なDNAザイムが、白血病細胞におけるガン遺伝子の発現を阻害すること、ならびに、慢性骨髄性白血病(CML)および急性リンパ性白血病(ALL)の場合には自家骨髄移植における再発率を低下させることに成功していた。
【0133】
RASに関与する成分のダウンレギュレーションはまた、RASに関与する成分をコードするmRNA転写物と特異的にハイブリダイゼーションすることができるアンチセンスポリヌクレオチド(例えば、ACEの2つの触媒作用部位の一方に向けられたアンチセンスオリゴヌクレオチド)を使用することによって行うことができる。
【0134】
RAS系に関与する成分を有効にダウンレギュレーションするために使用されることができるアンチセンス分子の設計は、アンチセンスアプローチに対する2つの重要な側面を考慮に入れて行われなければならない。第一の側面は適切な細胞の細胞質中へのオリゴヌクレオチドの送達であり、第二の側面は細胞内の指定されたmRNAの翻訳を阻害するような態様で細胞内の指定されたmRNAに特異的に結合するオリゴヌクレオチドの設計である。
【0135】
従来技術は、幅広い種類の細胞中にオリゴヌクレオチドを効果的に送達するために用いられることができる多数の送達戦略を教示する(例えばLuft J Mol Med 76:75−6(1998);Kronenwett他,Blood 91:852−62(1998);Rajur他,Bioconjug Chem 8:935−40(1997);Lavigne他,Biochem Biophys Res Commun 237:566−71(1997)およびAoki他 Biochem Biophys Res Commun 231:540−5(1997)を参照)。
【0136】
加えて、標的mRNAおよびオリゴヌクレオチドの両方における構造的変化のエネルギーを計算に入れる熱動力学サイクルに基づく標的mRNAに対する最高の予想された結合親和性を有する配列を同定するためのアルゴリズムも利用可能である(例えばWalton他,Biotechnol Bioeng 65:1−9(1999)参照)。
【0137】
かかるアルゴリズムは、細胞におけるアンチセンスアプローチを実行するために成功して用いられている。例えば、Walton他によって開発されたアルゴリズムを用いて科学者はウサギのベータグロブリン(RBG)およびマウスの腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)転写物に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを設計するのに成功している。同じ研究グループは、動的PCR技術によって評価されるように細胞培養物中で3つのモデル標的mRNA(ヒトの乳酸デヒドロゲナーゼAおよびBおよびラットのgp130)に対する合理的に選択されたオリゴヌクレオチドのアンチセンス活性がホスホジエステルおよびホスホロチオエートオリゴヌクレオチド化学を用いた2つの細胞型における3つの異なる標的に対する試験を含むほぼ全ての場合において有効であることを証明したことを最近報告している。
【0138】
加えて、インビトロシステムを用いて特定のオリゴヌクレオチドを設計してその有効性を予測するためのいくつかのアプローチも発表されている(Matveeva他,Nature Biotechnology 16,1374−1375(1998))。
【0139】
いくつかの臨床試験はアンチセンスオリゴヌクレオチドの安全性、実行可能性および活性を証明している。例えばがんの治療のために好適なアンチセンスオリゴヌクレオチドは成功して用いられており(Holmund他,Curr Opin Mol Ther 1:372−85(1999))、一方、アンチセンスオリゴヌクレオチド標的化c−myb遺伝子、p53およびBcl−2を介した血液の悪性腫瘍の治療は、臨床試験の段階に入っており、患者によって耐えられることが示されている(Gerwitz Curr Opin Mol Ther 1:293−306(1999))。
【0140】
最近、ヒトのヘパラナーゼ遺伝子発現のアンチセンス媒介された抑制は、マウスモデル中のヒトがん細胞の胸膜転移を阻害することが報告されている(Uno他,Cancer Res 61:7855−60(2001))。
【0141】
RASにおける遺伝子のアンチセンス媒介による抑制もまた首尾よく行われている(例えば、アンギオテンシノーゲン合成の阻害[Schinke他、Hypertension、1996、27:508〜513])。
【0142】
従って、現在のコンセンサスは、上記で記載されたように、非常に正確なアンチセンス設計アルゴリズムおよび広範囲の様々なオリゴヌクレオチド送達システムをもたらしているアンチセンス技術の分野における最近の開発により、当業者は、過度な試行錯誤実験に頼ることを必要とすることなく、既知配列の発現をダウンレギュレーションするために好適なアンチセンス法を設計し、実行することができるということである。
【0143】
RASの成分をダウンレギュレーションすることができる別の薬剤が、RASに関与する成分をコードするmRNA転写物を特異的に切断することができるリボザイム分子である。リボザイムは、目的とするタンパク質をコードするmRNAの切断による遺伝子発現の配列特異的な阻害のためにますます使用されている[Welch他、Curr Opin Biotechnol、9:486〜96(1998)]。任意の特定の標的RNAを切断するためにリボザイムを設計することができることにより、リボザイムは基礎研究および治療的適用の両方において貴重なツールになっている。治療剤の領域では、リボザイムは、感染性疾患におけるウイルスRNA、ガンにおける優勢なガン遺伝子、および、遺伝病における特定の体細胞変異を標的化するために利用されている[Welch他、Clin Diagn Virol、10:163〜71(1998)]。最も注目すべきことは、HIV患者のためのいくつかのリボザイム遺伝子治療プロトコルが既に第1相試験中である。より近年には、様々なリボザイムが、トランスジェニック動物研究、遺伝子標的妥当性確認および経路解明のために使用されている。いくつかのリボザイムが臨床試験の様々な段階にある。ANGIOZYMEは、ヒト臨床研究で研究されるための最初の化学合成されたリボザイムであった。ANGIOZYMEは、血管形成経路における重要な成分であるVEGF−r(血管内皮増殖因子受容体)の形成を特異的に阻害する。Ribozyme Pharmaceuticals,Inc.、ならびに、他の企業が、抗血管形成治療剤の重要性を動物モデルで明らかにしている。HEPTAZYME、すなわち、C型肝炎ウイルス(HCV)RNAを選択的に破壊するために設計されたリボザイムは、C型肝炎ウイルスのRNAを細胞培養アッセイで低下させることにおいて効果的であることが見出された(Ribozyme Pharmaceuticals,Incorporated−www.rpi.com/index.html)。
【0144】
細胞におけるRAS遺伝子の成分の発現を調節するさらなる方法が、三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)による方法である。最近の十年間において、様々な研究により、二本鎖のらせんDNAにおけるポリプリン/ポリピリミジン領域を配列特異的な様式で認識し、かつ、これに結合することができるTFOを設計できることが示されている。これらの認識規則がMaher III,L.J.他、Science(1989)、245:725〜730;Moser、H.E.他、Science(1987)、238:645〜630;Beal,P.A.他、Science(1991)、251:1360〜1363;Cooney,M.他、Science(1988)、241:456〜459;およびHogan,M.E.他、欧州特許公開375408号によって概略される。オリゴヌクレオチドの改変(例えば、インターカレーターおよび骨格置換の導入など)、および、結合条件(pHおよびカチオン濃度)の最適化は、TFO活性に対する本来的な疾患(例えば、電荷反発および不安定性など)を克服することを助けており、また、最近では、合成オリゴヌクレオチドが特定の配列に標的化され得ることが示された(最近の総説については、SeidmanおよびGlazer(2003)、J Clin Invest、112:487〜94を参照のこと)。
【0145】
一般に、三重鎖形成オリゴヌクレオチドは下記の配列対応を有する:
オリゴ 3’−A G G T
二重鎖 5’−A G C T
二重鎖 3’−T C G A
しかしながら、A−ATおよびG−GCの三重鎖は、最大の三重らせん安定性を有することが示されている(ReitherおよびJeltsch(2002)、BMC Biochem、Sept 12、Epub)。同じ著者らは、A−ATおよびG−GCの規則に従って設計されたTFOが非特異的な三重鎖を形成しないことを明らかにしている。このことは、三重鎖形成が実際に、配列特異的であることを示している。
【0146】
従って、調節領域における任意の所与の配列について、三重鎖形成配列を考案することができる。三重鎖形成オリゴヌクレオチドは好ましくは、長さが少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは25ヌクレオチド、さらにより好ましくは30ヌクレオチドまたはそれ以上から、50bpまたは100bpまでである。
【0147】
TFOによる細胞のトランスフェクション(例えば、カチオン性リポソームによるトランスフェクション)、および、標的DNAとの三重鎖らせん構造の形成は、立体的および機能的な変化を誘導し、これにより、転写の開始および伸長を妨げ、内因性DNAにおける所望される配列変化の誘導を可能にし、また、遺伝子発現の特異的なダウンレギュレーションをもたらす。TFOにより治療された細胞における遺伝子発現のそのような抑制の例には、哺乳動物細胞におけるエピソームsupFG1遺伝子および内因性HPRT遺伝子のノックアウト(Vasquez他、Nucl Acids Res.(1999)、27:1176〜81;Puri他、J Biol Chem(2001)、276:28991〜98)、ならびに、Ets2転写因子(これは前立腺ガンの病因において重要である)の発現の配列特異的および標的特異的なダウンレギュレーション(Carbone他、Nucl Acids Res.(2003)、31:833〜43)、ならびに、前炎症性ICAM−1遺伝子の配列特異的および標的特異的なダウンレギュレーション(Besch他、J Biol Chem(2002)、277:32473〜79)が含まれる。加えて、VuyisichおよびBealは近年、配列特異的なTFOがdsRNAに結合し、これにより、dsRNA依存性酵素(例えば、RNA依存性キナーゼなど)の活性を阻害することができることを示している(VuyisichおよびBeal、Nuc.Acids Res(2000)、28:2369〜74)。
【0148】
加えて、上記の原理に従って設計されたTFOは、DNA修復を行うことができる誘導された変異誘発を誘導することができ、従って、内因性遺伝子の発現のダウンレギュレーションおよびアップレギュレーションの両方をもたらすことができる[SeidmanおよびGlazer、J Clin Invest(2003)、112:487〜94]。効果的なTFOの設計、合成および投与の詳細な記載を、米国特許出願公開第2003017068号および同第20030096980(Froehler他)、同第20020128218号および同第20020123476号(Emanuele他)、ならびに、米国特許第5721138号(Lawn)に見出すことができる。
【0149】
オリゴヌクレオチド薬剤のさらなる記載がさらに本明細書中下記に提供される。治療的オリゴヌクレオチドはさらに、生物学的利用能、治療的効力を増大させることができ、また、細胞毒性を低下させることができる塩基修飾および/または骨格修飾を含み得ることが理解される。そのような修飾が、Younes(2002)、Current Pharmaceutical Design、8:1451〜1466に記載される。
【0150】
例えば、本発明のオリゴヌクレオチドは、3’〜5’ホスホジエステル結合で結合したプリン塩基およびピリミジン塩基からなる複素環式ヌクレオシドを含み得る。
【0151】
好ましくは、使用するオリゴヌクレオチドは、以下で広く説明するように、骨格、ヌクレオシド間結合、または塩基で修飾されたものである。
【0152】
本発明のこの態様で有用な好ましいオリゴヌクレオチドの特定の例には、修飾された骨格または非天然のヌクレオシド内結合を含むオリゴヌクレオチドが含まれる。修飾された骨格を有するオリゴヌクレオチドとして、米国特許第4469863号、同第4476301号、同第5023243号、同第5177196号、同第5188897号、同第5264423号、同第5276019号、同第5278302号、同第5286717号、同第5321131号、同第5399676号、同第5405939号、同第5453496号、同第5455233号、同第5466677号、同第5476925号、同第5519126号、同第5536821号、同第5541306号、同第5550111号、同第5563253号、同第5571799号、同第5587361号、および同第5625050号に開示の骨格中にリン原子を保持するものが挙げられる。
【0153】
好ましい修飾されたオリゴヌクレオチド骨格としては、例えば、通常の3’−5’結合を有するホスホロチオエート、キラルなホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルおよび他のアルキルのホスホネート(3’アルキルホスホネートおよびキラルなホスホネートを含む)、ホスフィナート、ホスホラミデート(3’−アミノホスホラミデートおよびアミノアルキルホスホラミデート、チオノホスホラミデート、チオノアルキルホスホネートを含む)、チオノアルキルホスホトリエステル、およびボラノホスフェート、これらの2’−5’結合アナログ、およびヌクレオシド単位の隣接対が3’−5’から5’−3’または2’−5’から5’−2’で結合している逆の極性を有するものが挙げられる。種々の塩、混合塩、および遊離酸形態も使用することができる。
【0154】
あるいは、リン原子を中に含まない修飾されたオリゴヌクレオチド骨格は、短鎖アルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド内結合、混合へテロ原子、およびアルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド内結合、または1つ以上の短鎖へテロ原子もしくは複素環ヌクレオシド内結合によって形成された骨格を有する。これらには、モルホリノ結合(一部がヌクレオシドの糖部分から形成される);シロキサン骨格;スルフィド、スルフォキシド、およびスルホン骨格;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファマート骨格;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格;スルホネートおよびスルホンアミド骨格;アミド骨格;および混合N、O、S、およびCH成分を有する他の骨格を有するものが含まれ、これらは、米国特許第5034506号、同第5166315号、同第5185444号、同第5214134号、同第5216141号、同第5235033号、同第5264562号、同第5264564号、同第5405938号、同第5434257号、同第5466677号、同第5470967号、同第5489677号、同第5541307号、同第5561225号、同第5596086号、同第5602240号、同第5608046語、同第5610289号、同第5618704号、同第5623070号、同第5663312号、同第5633360号、同第5677437号、同第5677439号に開示されている。
【0155】
本発明で使用することができる他のオリゴヌクレオチドは、糖およびヌクレオシド内結合の両方が修飾されたものである(すなわち、ヌクレオチド単位の骨格が新規の基に置換されている)。適切なポリヌクレオチド標的との相補性のために塩基単位は維持される。このようなオリゴヌクレオチド模倣物の例には、ペプチド核酸(PNA)が含まれる。PNAオリゴヌクレオチドは、糖−骨格がアミド含有骨格(特に、アミノエチルグリシン骨格)に置換されたオリゴヌクレオチドをいう。塩基は、保持され、骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接または間接的に結合する。PNA化合物の調製を教示する米国特許には、米国特許第5539082号、同第5714331号および同第5719262号(それぞれ本明細書中で参考として援用されている)が含まれるが、これらに限定されない。本発明で使用することができる他の骨格修飾は、米国特許第6303374号に開示されている。
【0156】
本発明のオリゴヌクレオチドには、塩基の修飾または置換も含み得る。本明細書中で使用される場合は、「非修飾」または「天然の」塩基には、プリン塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)ならびにピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)が含まれる。修飾塩基には、5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2−アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6−メチルおよび他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2−プロピルおよび他のアルキル誘導体、2−チオウラシル、2−チオチミン、および2−チオシトシン、5−ハロウラシルおよびシトシン、5−プロピルウラシルおよびシトシン、6−アゾウラシル、シトシン、およびチミン、5−ウラシル(偽ウラシル)、4−チオウラシル、8−ハロ、8−アミノ、8−チオール、8−チオアルキル、8−ヒドロキシル、および他の8−置換アデニンおよびグアニン、5−ハロ、特に5−ブロモ、5−トリフルオロメチルおよび他の5−置換ウラシルおよびシトシン、7−メチルグアニンおよび7−メチルアデニン、8−アザグアニンおよび8−アザアデニン、7−デアザグアニンおよび7−デアザアデニンおよび3−デアザグアニンおよび3−デアザアデニンなどの他の合成および天然の塩基が含まれるが、これらに限定されない。さらなる塩基としては、米国特許第3687808号に開示の塩基、The Concise Encycloipedia Of Polymer Science And Engineering,pages858−859,Kroschwitz,J.I.ed.John Wiley & Sons,1990に開示の塩基、Englisch他,Angewandte Chemie,International Edition,1991,30,613に開示の塩基、およびSanghvi,Y.S.,Chapter 15,Antisense Research and Applications,pages289−302,Crooke,S.T.and Lebleu,B.ed.,CRC Press,1993に開示されている塩基を挙げることができる。このような塩基は、特に、本発明のオリゴマー化合物の結合親和性の増大に有用である。これらには、5置換ピリミジン、6−アザピリミジン、およびN−2、N−6、およびO−6置換プリン(2−アミノプロピルアデニン、5−プロピニルウラシル、および5−プロピニルシトシンが含まれる)が含まれる。5−メチルシトシン置換により、核酸二重鎖の安定性が0.6〜1.2℃増大することが示されており(Sanghvi YS他(1993)Antisense Research and Applications,CRC Press,Boca Raton 276−278)、これが現在好ましい塩基置換であり、特に2’−O−メトキシエチル糖修飾と組み合わせるとさらに好ましい。
【0157】
RASタンパク質の発現をダウンレギュレーションするために使用されているオリゴヌクレオチド薬剤の様々な例が(Morishita他、Arteriosclerosis,Thrombosis,and Vascular Biology、2000、20:915)に記載される。
【0158】
本発明の組換え薬剤またはオリゴヌクレオチド薬剤は、本明細書中下記に記載される任意の好適な投与様式を用いて対象に投与することができる(すなわち、インビボ遺伝子治療)。あるいは、核酸構築物を、適切な遺伝子送達ビヒクル/方法(トランスフェクション、形質導入など)および適切な発現システムを使用して好適な細胞に導入することができる。改変された細胞が続いて培養で拡大され、個体に戻される(すなわち、エクスビボ遺伝子治療)。好適な構築物の例には、pcDNA3、pcDNA3.1(+/−)、pGL3、PzeoSV2(+/−)、pDisplay、pEF/myc/cyto、pCMV/myc/cyto(これらのそれぞれがInvitrogen Co.(www.invitrogen.com)から市販されている)が含まれるが、これらに限定されない。レトロウイルスおよびパッケージングシステムの例には、Clontech(San Diego、Calif.)によって販売されるものがあり、これには、マルチクローニング部位内へのクローニングおよびCMVプロモーターから導かれる導入遺伝子の転写を可能にするRetro−XベクターのpLNCXおよびpLXSNが含まれる。Mo−MuLVに由来するベクターもまた含まれる(例えば、導入遺伝子が5’LTRプロモーターから転写されるpBabeなど)。
【0159】
本発明の核酸薬剤は、RAS系の天然の変異を模倣することなどによって非機能的タンパク質の形成をもたらす周知の「遺伝子ノックイン法」を使用して対象に導入することができることが理解される[例えば、Matsuda他、Methods Mol Biol.、2004、259:379〜90を参照のこと]。
【0160】
ACEのアミノ酸配列は、その3D構造とともに、ACEを点変異および遺伝子ノックイン法のための比較的容易な標的にしている。この酵素は、酵素の活性化のために絶対的に要求されるクロリド結合中心をそれらのそれぞれが含む2つの触媒作用ドメインから構成される。従って、これらの部位のいずれかにおける点変異はACEを不活性にすると考えられ、また、そのような点変異を、本明細書中で述べられるような遺伝子ノックイン法を使用して対象に導入することができる。当技術分野で既知である天然に存在するACE点変異の一例には、茎領域におけるPro1199Leuを引き起こす点変異が含まれる[Kramers他、Circulation、2001、104:1236]。
【0161】
述べられたように、本発明の薬剤は、GAGのアップレギュレーションから利益を受けると考えられる任意の疾患を治療するために使用することができる。
【0162】
本明細書中において本明細書および下記の特許請求の範囲の節で使用される場合、用語「治療(処置)」および用語「治療する(処置する)」は、疾患の有害な作用を防止すること、治療すること、逆戻りさせること、弱めること、改善すること、最小限に抑えること、抑制すること、または、停止させることを示す。
【0163】
GAGレベルを増大させることが治療的に有益であり得る疾患または状態の一群の一例には、炎症性疾患が含まれる[Chou他、Exp Biol Med、2005(Apr)、230(4)、255〜62]。本明細書中で使用される表現「炎症性疾患」には、慢性的な炎症性疾患および急性の炎症性疾患が含まれるが、これらに限定されない。そのような疾患および状態の様々な例が下記にまとめられる。
【0164】
過敏症に関連する炎症性疾患
過敏症の例には、I型過敏症、II型過敏症、III型過敏症、IV型過敏症、即時型過敏症、抗体媒介過敏症、免疫複合体媒介過敏症、Tリンパ球媒介過敏症およびDTHが含まれるが、これらに限定されない。
【0165】
I型過敏症または即時型過敏症、例えば、喘息など。
II型過敏症には、下記が含まれるが、それらに限定されない:リウマチ様疾患、リウマチ様自己免疫疾患、リウマチ様関節炎(Krenn V他、Histol Histopathol、2000(Jul)、15(3):791)、脊椎炎、強直性脊椎炎(Jan Voswinkel他、Arthritis Res、2001、3(3):189)、全身性疾患、全身性自己免疫疾患、全身性エリテマトーデス(Erikson J他、Immunol Res、1998、17(1−2):49)、硬化症、全身性硬化症(Renaudineau Y他、Clin Diagn Lab Immunol、1999(Mar)、6(2):156;Chan OT他、Immunol Rev、1999(Jun)、169:107)、腺疾患、腺の自己免疫疾患、膵臓の自己免疫疾患、糖尿病、I型糖尿病(Zimmet P、Diabetes Res Clin Pract、1996(Oct)、34 Suppl:S125)、甲状腺疾患、自己免疫性甲状腺疾患、グレーヴズ病(Orgiazzi J、Endocrinol Metab Clin North Am、2000(Jun)、29(2):339)、甲状腺炎、突発性自己免疫性甲状腺炎(Braley−Mullen HおよびYu S、J Immunol、2000(Dec 15)、165(12):7262)、橋本甲状腺炎(Toyoda N他、Nippon Rinsho、1999(Aug)、57(8):1810)、粘液水腫、特発性粘液水腫(Mitsuma T、Nippon Rinsho、1999(Aug)、57(8):1759);自己免疫性生殖疾患、卵巣疾患、卵巣の自己免疫性(Garza KM他、J Reprod Immunol、1998(Feb)、37(2):87)、自己免疫性抗精子不妊症(Diekman AB他、Am J Reprod Immunol、2000(Mar)、43(3):134)、反復した胎児消失(Tincani A他、Lupus、1998、7 Suppl 2:S107〜9)、神経変性疾患、神経学的疾患、神経学的自己免疫疾患、多発性硬化症(Cross AH他、J Neuroimnnunol、2001(Jan 1)、112(1−2):1)、アルツハイマー病(Oron L他、J Neural Transm Suppl、1997、49:77)、重症筋無力症(Infante AJおよびKraig E、Int Rev Immunol、1999、18(1−2):83)、運動神経障害(Kornberg AL、J Clin Neurosci、2000(May)、7(3):191)、ギラン・バレー症候群、神経障害および自己免疫性神経障害(Kusunoki S、Am J Med Sci、2000(Apr)、319(4):234)、筋無力症疾患、ランバード・イートン筋無力症症候群(Takamori M、Am J Med Sci、2000(Apr)、319(4):204)、腫瘍随伴性神経学的疾患、小脳萎縮症、腫瘍随伴性小脳萎縮症、腫瘍非随伴性スティッフマン症候群、小脳萎縮症、進行性小脳萎縮症、脳炎、ラスムッセン脳炎、筋萎縮性側索硬化症、シドナム舞踏病、ジル・ド・ラ・ツレット症候群、多発性内分泌腺症、自己免疫性多発性内分泌腺症(Antoine JCおよびHonnorat J、Rev Neurol(Paris)、2000(Jan)、156(1):23)、神経障害、異常免疫による神経障害(Nobile−Orazio E他、Electroencephalogr Clin Neurophysiol Suppl、1999、50:419);ニューロミオトニー、後天性ニューロミオトニー、先天性多発性関節拘縮症(Vincent A他、Ann N Y Acad Sci、1998(May 13)、841:482)、心臓血管疾患、心臓血管の自己免疫疾患、アテローム性動脈硬化(Matsuura E他、Lupus、1998、7 Suppl 2:S135)、心筋梗塞(Vaarala O、Lupus、1998、7 Suppl 2:S132)、血栓症(Tincani A他、Lupus、1998、7 Suppl 2:S107〜9)、肉芽腫症、ヴェーゲナー肉芽腫症、動脈炎、高安動脈炎および川崎症候群(Praprotnik S他、Wien Klin Wochenschr、2000(Aug 25)、112(15−16):660);抗第VIII因子による自己免疫疾患(Lacroix−Desmazes S他、Semin Thromb Hemost、2000、26(2):157);血管炎、壊死性小血管血管炎、顕微鏡的多発血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、糸球体腎炎、少免疫性(pauci−immune)巣状壊死性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎(Noel LH、Ann Med Interne(Paris)、2000(May)、151(3):178);抗リン脂質症候群(Flamholz R他、J Clin Apheresis、1999、14(4):171);心不全、心不全におけるアゴニスト様β−アドレナリン作動性受容体抗体(Wallukat G他、Am J Cardiol、1999(Jun 17)、83(12A):75H)、血小板減少性紫斑病(Moccia F、Ann Ital Med Int、1999(Apr−Jun)、14(2):114);溶血性貧血、自己免疫性溶血性貧血(Efremov DG他、Leuk Lymphoma、1998(Jan)、28(3−4):285)、胃腸疾患、胃腸管の自己免疫疾患、腸疾患、慢性炎症性腸疾患(Garcia Herola A他、Gastroenterol Hepatol、2000(Jan)、23(1):16)、セリアック病(Landau YEおよびShoenfeld Y、Harefuah、2000(Jan 16)、138(2):122)、筋組織の自己免疫疾患、筋炎、自己免疫性筋炎、シェーグレン症候群(Feist E他、Int Arch Allergy Immunol、2000(Sep)、123(1):92);平滑筋の自己免疫疾患(Zauli D他、Biomed Pharmacother、1999(Jun)、53(5−6):234)、肝疾患、肝臓の自己免疫疾患、自己免疫性肝炎(Manns MP、J Hepatol、2000(Aug)、33(2):326)および原発性胆汁性肝硬変(Strassburg CP他、Eur J Gastroenterol Hepatol、1999(Jun)、11(6):595)。
【0166】
IV型過敏症またはT細胞媒介過敏症には、リウマチ様疾患、リウマチ様関節炎(Tisch R、McDevitt HO、Proc Natl Acad Sci USA、1994(Jan 18)、91(2):437)、全身性疾患、全身性自己免疫疾患、全身性エリテマトーデス(Datta SK、Lupus、1998、7(9):591)、腺疾患、腺自己免疫疾患、膵臓疾患、膵臓自己免疫疾患、1型糖尿病(Castano L.およびEisenbarth GS.、Ann.Rev.Immunol.、8:647);甲状腺疾患、自己免疫による甲状腺疾患、グレーヴズ病(Sakata S他、Mol Cell Endocrinol、1993(Mar)、92(1):77);卵巣疾患(Garza KM他、J Reprod Immunol、1998(Feb)、37(2):87)、前立腺炎、自己免疫による前立腺炎(Alexander RB他、Urology、1997(Dec)、50(6):893)、多腺性症候群、自己免疫による多腺性症候群、I型自己免疫多腺性症候群(Hara T他、Blood、1991(Mar 1)、77(5):1127)、神経学的疾患、自己免疫による神経学的疾患、多発性硬化症、神経炎、視神経炎(Soderstrom M他、J Neurol Neurosurg Psychiatry、1994(May)、57(5):544)、重症筋無力症(Oshima M他、Eur J Immunol、1990(Dec)、20(12):2563)、スティッフマン症候群(Hiemstra HS他、Proc Natl Acad Sci USA、2001(Mar 27)、98(7):3988)、心臓血管疾患、シャガス病における心臓の自己免疫性(Cunha−Neto E他、J Clin Invest、1996(Oct 15)、98(8):1709)、自己免疫による血小板減少性紫斑病(Semple JW他、Blood、1996(May 15)、87(10):4245)、抗ヘルパーTリンパ球自己免疫性(Caporossi AP他、Viral Immunol、1998、11(1):9)、溶血性貧血(Sallah S他、Ann Hematol、1997(Mar)、74(3):139)、肝臓疾患、肝臓自己免疫疾患、肝炎、慢性活動性肝炎(Franco A他、Clin Immunol Immunopathol、1990(Mar)、54(3):382)、胆汁性肝硬変、原発性胆汁性肝硬変(Jones DE、Clin Sci(Colch)、1996(Nov)、91(5):551)、腎臓疾患、腎臓自己免疫疾患、腎炎、間質性腎炎(Kelly CJ、J Am Soc Nephrol、1990(Aug)、1(2):140)、結合組織疾患、耳疾患、自己免疫による結合組織疾患、自己免疫による耳疾患(Yoo TJ他、Cell Immunol、1994(Aug)、157(1):249)、内耳の疾患(Gloddek B他、Ann N Y Acad Sci、1997(Dec 29)、830:266)、皮膚(skin)疾患、皮膚(cutaneous)疾患、皮膚(dermal)疾患、水疱性皮膚疾患、尋常性天疱瘡、水疱性天疱瘡および落葉状天疱瘡が含まれるが、これらに限定されない。
【0167】
遅発型過敏症の例には、接触性皮膚炎および薬疹が含まれるが、これらに限定されない。
【0168】
Tリンパ球媒介過敏症の例には、ヘルパーTリンパ球および細胞傷害性Tリンパ球が含まれるが、これらに限定されない。
【0169】
ヘルパーTリンパ球媒介過敏症の例には、T1リンパ球媒介過敏症およびT2リンパ球媒介過敏症が含まれるが、これらに限定されない。
【0170】
自己免疫疾患
心臓血管疾患、リウマチ様疾患、腺疾患、胃腸疾患、皮膚疾患、肝疾患、神経学的疾患、筋疾患、腎疾患、生殖関連疾患、結合組織疾患および全身性疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0171】
自己免疫性による心臓血管疾患の例には、アテローム性動脈硬化(Matsuura E他、Lupus、1998、7 Suppl 2:S135)、心筋梗塞(Vaarala O、Lupus、1998、7 Suppl 2:S132)、血栓症(Tincani A他、Lupus、1998、7 Suppl 2:S107〜9)、ヴェーゲナー肉芽腫症、高安動脈炎および川崎症候群(Praprotnik S他、Wien Klin Wochenschr、2000(Aug 25)、112(15−16):660)、抗第VIII因子による自己免疫疾患(Lacroix−Desmazes S他、Semin Thromb Hemost、2000、26(2):157)、壊死性小血管血管炎、顕微鏡的多発血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、少免疫性巣状壊死性糸球体腎炎および半月体形成性糸球体腎炎(Noel LH、Ann Med Interne(Paris)、2000(May)、151(3):178)、抗リン脂質症候群(Flamholz R他、J Clin Apheresis、1999、14(4):171)、抗体誘導の心不全(Wallukat G他、Am J Cardiol、1999(Jun 17)、83(12A):75H)、血小板減少性紫斑病(Moccia F、Ann Ital Med Int、1999(Apr−Jun)、14(2):114;Semple JW他、Blood、1996(May 15)、87(10):4245)、自己免疫性溶血性貧血(Efremov DG他、Leuk Lymphoma、1998(Jan)、28(3−4):285;Sallah S他、Ann Hematol、1997(Mar)、74(3):139)、シャガス病における心臓の自己免疫性(Cunha−Neto E他、J Clin Invest、1996(Oct 15)、98(8):1709)、および、抗ヘルパーTリンパ球による自己免疫性(Caporossi AP他、Viral Immunol、1998、11(1):9)が含まれるが、これらに限定されない。
【0172】
自己免疫によるリウマチ様疾患の例には、リウマチ様関節炎(Krenn V他、Histol Histopathol、2000(Jul)、15(3):791;Tisch R、McDevitt HO、Proc Natl Acad Sci units S A、1994(Jan 18)、91(2):437)および強直性脊椎炎(Jan Voswinkel他、Arthritis Res、2001、3(3):189)が含まれるが、これらに限定されない。
【0173】
自己免疫による腺疾患の例には、膵臓疾患、I型糖尿病、甲状腺疾患、グレーヴズ病、甲状腺炎、突発性自己免疫性甲状腺炎、橋本甲状腺炎、特発性粘液水腫、卵巣の自己免疫性、自己免疫性抗精子不妊症、自己免疫性前立腺炎およびI型自己免疫性多腺性症候群が含まれるが、これらに限定されない。疾患には、膵臓の自己免疫疾患、I型糖尿病(Castano LおよびEisenbarth GS、Ann.Rev.Immunol.、8:647;Zimmet P、Diabetes Res Clin Pract、1996(Oct)、34 Suppl:S125)、自己免疫性甲状腺疾患、グレーヴズ病(Orgiazzi J、Endocrinol Metab Clin North Am、2000(Jun)、29(2):339;Sakata S他、Mol Cell Endocrinol、1993(Mar)、92(1):77)、突発性自己免疫性甲状腺炎(Braley−Mullen HおよびYu S、J Immunol、2000(Dec 15)、165(12):7262)、橋本甲状腺炎(Toyoda N他、Nippon Rinsho、1999(Aug)、57(8):1810)、特発性粘液水腫(Mitsuma T、Nippon Rinsho、1999(Aug)、57(8):1759)、卵巣の自己免疫性(Garza KM他、J Reprod Immunol、1998(Feb)、37(2):87)、自己免疫性抗精子不妊症(Diekman AB他、Am J Reprod Immunol、2000(Mar)、43(3):134)、自己免疫性前立腺炎(Alexander RB他、Urology、1997(Dec)、50(6):893)およびI型自己免疫性多腺性症候群(Hara T他、Blood、1991(Mar 1)、77(5):1127)が含まれるが、これらに限定されない。
【0174】
自己免疫による胃腸疾患の例には、慢性炎症性腸疾患(Garcia Herola A他、Gastroenterol Hepatol、2000(Jan)、23(1):16)、セリアック病(Landau YEおよびShoenfeld Y、Harefuah、2000(Jan 16)、138(2):122)、大腸炎、回腸炎およびクローン病が含まれるが、これらに限定されない。
【0175】
自己免疫による皮膚疾患の例には、自己免疫による水疱性の皮膚疾患(例えば、尋常性天疱瘡、水疱性天疱瘡および落葉状天疱瘡など、これらに限定されない)が含まれるが、これらに限定されない。
【0176】
自己免疫による肝疾患の例には、肝炎、自己免疫性慢性活動性肝炎(Franco A他、Clin Immunol Immunopathol、1990(Mar)、54(3):382)、原発性胆汁性肝硬変(Jones DE、Clin Sci(Colch)、1996(Nov)、91(5):551;Strassburg CP他、Eur J Gastroenterol Hepatol、1999(Jun)、11(6):595)および自己免疫性肝炎(Manns MP、J Hepatol、2000(Aug)、33(2):326)が含まれるが、これらに限定されない。
【0177】
自己免疫による神経学的疾患の例には、多発性硬化症(Cross AH他、J Neuroimmunol、2001(Jan 1)、112(1−2):1)、アルツハイマー病(Oron L他、J Neural Transm Suppl、1997、49:77)、重症筋無力症(Infante AJおよびKraig E、Int Rev Immunol、1999、18(1−2):83;Oshima M他、Eur J Immunol、1990(Dec)、20(12):2563)、神経障害、運動神経障害(Kornberg AJ、J Clin Neurosci、2000(May)、7(3):191)、ギラン・バレー症候群および自己免疫性神経障害(Kusunoki S、Am J Med Sci、2000(Apr)、319(4):234)、筋無力症、ランバード・イートン筋無力症症候群(Takamori M、Am J Med Sci、2000(Apr)、319(4):204)、腫瘍随伴性神経学的疾患、小脳萎縮症、腫瘍随伴性の小脳萎縮症およびスティッフマン症候群(Hiemstra HS他、Proc Natl Acad Sci units S A、2001(Mar 27)、98(7):3988);腫瘍非随伴性スティッフマン症候群、進行性小脳萎縮症、脳炎、ラスムッセン脳炎、筋萎縮性側索硬化症、シドナム舞踏病、ジル・ド・ラ・ツレット症候群および自己免疫性多発性内分泌腺症(Antoine JCおよびHonnorat J、Rev Neurol(Paris)、2000(Jan)、156(1):23);異常免疫による神経障害(Nobile−Orazio E他、Electroencephalogr Clin Neurophysiol Suppl、1999、50:419);後天性ニューロミオトニー、先天性多発性関節拘縮症(Vincent A他、Ann N Y Acad Sci、1998(May 13)、841:482)、神経炎、視神経炎(Soderstrom M他、J Neurol Neurosurg Psychiatry、1994(May)、57(5):544)および神経変性疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0178】
自己免疫による筋疾患の例には、筋炎、自己免疫性筋炎および原発性シェーグレン症候群(Feist E他、Int Arch Allergy Immunol、2000(Sep)、123(1):92)、および、平滑筋の自己免疫疾患(Zauli D他、Biomed Pharmacother、1999(Jun)、53(5−6):234)が含まれるが、これらに限定されない。
【0179】
自己免疫による腎疾患の例には、腎炎、および、自己免疫性間質性腎炎(Kelly CJ、J Am Soc Nephrol、1990(Aug)、1(2):140)が含まれるが、これらに限定されない。
【0180】
生殖に関連する自己免疫疾患の例には、反復した胎児消失(Tincani A他、Lupus、1998、7 Suppl 2:S107〜9)が含まれるが、これらに限定されない。
【0181】
自己免疫による結合組織疾患の例には、耳の疾患、自己免疫による耳の疾患(Yoo TJ他、Cell Immunol、1994(Aug)、157(1):249)、および、内耳の自己免疫疾患(Gloddek B他、Ann N Y Acad Sci、1997(Dec 29)、830:266)が含まれるが、これらに限定されない。
【0182】
全身性自己免疫疾患の例には、全身性エリテマトーデス(Erikson J他、Immunol Res、1998、17(1−2):49)および全身性硬化症(Renaudineau Y他、Clin Diagn Lab Immunol、1999(Mar)、6(2):156;Chan OT他、Immunol Rev、1999(Jun)、169:107)が含まれるが、これらに限定されない。
【0183】
感染性疾患
感染性疾患の例には、慢性的な感染性疾患、亜急性の感染性疾患、急性の感染性疾患、ウイルス性疾患、細菌性疾患、原虫性疾患、寄生虫性疾患、真菌性疾患、マイコプラズマ疾患およびプリオン疾患が含まれるが、これらに限定されない。
【0184】
移植片拒絶疾患
移植片の移植に関連する疾患の例には、移植片拒絶、慢性的移植片拒絶、亜急性移植片拒絶、超急性移植片拒絶、急性移植片拒絶および移植片対宿主病が含まれるが、これらに限定されない。
【0185】
アレルギー性疾患
アレルギー性疾患の例には、喘息、皮疹、じんま疹、花粉アレルギー、ダスト・ダニアレルギー、毒液アレルギー、化粧品アレルギー、ラテックスアレルギー、化学品アレルギー、薬物アレルギー、昆虫咬刺アレルギー、動物鱗屑アレルギー、刺毛植物アレルギー、ウルシアレルギーおよび食物アレルギーが含まれるが、これらに限定されない。
【0186】
ガン性疾患
ガンの例には、ガン腫、リンパ腫、芽細胞種、肉腫および白血病が含まれるが、これらに限定されない。ガン性疾患の具体的な例には、骨髄性白血病、例えば、慢性骨髄性白血病、成熟化に伴う急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、増大した好塩基球を伴う急性非リンパ性白血病、急性単球性白血病、好酸球増加症を伴う急性骨髄単球性白血病など;悪性リンパ腫、例えば、バーキットリンパ腫、非ホジキンリンパ腫など;リンパ性白血病、例えば、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病など;骨髄増殖性疾患、例えば、固形腫瘍、良性髄膜種、唾液腺の混合腫瘍、結腸腺腫など;腺ガン、例えば、小細胞肺ガン、腎臓、子宮、前立腺、膀胱、卵巣、結腸、肉腫、脂肪肉腫、粘液様、滑膜肉腫、横紋筋肉腫(肺胞)、骨外性粘液様軟骨肉腫、ユーイング腫瘍などが含まれるが、これらに限定されない;他のガンには、精巣および卵巣の未分化胚細胞腫、網膜芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、神経芽細胞腫、悪性メラノーマ、中皮腫、乳房、皮膚、前立腺および卵巣が含まれる。
【0187】
本明細書中上記で述べられたように、炎症性疾患のリウマチ様関節炎はGAGにおける増大から利益を受けることができる。このことは、Dalbeth他[Rheumatology、44:24〜31、2204]によって示されている。GAGレベルにおける上昇から利益を受けることができる他の関節炎疾患には、変形性関節症が含まれる[Richy F、Arch Intern Med、163:1514〜1522、2003]。
【0188】
本明細書中で使用される用語「変形性関節症」は、最小限の炎症とともに関節軟骨の進行性の悪化を伴う関節炎疾患を示す[Schoenherr他、Small Animal Clinical Nutrition(第4版、Hand他編、Walsworth Publishing Company、Marceline、Mo.)、2000、907〜921;Hedbom他、Cell Mol.Life Sci.、59:45〜53、2002;Pool、Front Biosci、4:D662〜70、1999]。
【0189】
GAGレベルを増大させることが治療的に有益であり得る疾患または状態の一群の別の例には、骨格筋を冒すものが含まれる。GAGミメティクスは、骨格筋の修復を促進させることが示された[Zimowska M、J.Cell Physiol.、2005(May 10)]。GAGにおける増大から利益を受けることができる骨格筋疾患の例には、筋ジストロフィー、構造的筋疾患、炎症性筋疾患、筋緊張性疾患、イオンチャネル疾患および代謝性筋疾患が含まれる。
【0190】
膀胱の感染症および腫瘍もまた、GAGの減少に関連し、これらは、それらの投与から利益を受けると考えられる状態のさらなる一例を提供する[Kyker K.D.他、BMC Urol.、2005(Mar 23)、5(1):4;Cengiz N.他、Pediatr Nephrol.、2005(May 5)]。
【0191】
GAGの投与から利益を受けることができる具体的な疾患の他の例には、子宮頸ガン[Shinyo他、Gynecol Oncol、2005(Mar)、96(3)、776〜83]、アルツハイマー病[Ubranyi Z他、Neurochem Int、2005(May)、46(6)、471〜7]、変性椎間板疾患[Stoeckelhuber M、Ann Anat、2005(Mar)、187(1):35〜42]および糖尿病性神経疾患[Lensen他、J.Am.Soc.Nephrol.、2005(May)、16(5)、1279〜88]がある。
【0192】
眼の合併症もまた、GAGレベルにおける上昇から利益を受けることが示されている。例えば、角膜切開部の封着[Reyes他、Inves Opthalmol Vis Sci、2005(Apr)、46(4)、1247〜50]、および、MPSに関連する眼の合併症[Ashworth J.L.、Eye、2005(May 20)]。
【0193】
GAGは軟骨のそのような重要な成分であり、かつ、正常な関節運動におけるこの組織の機能発現のために不可欠であるので、1つの好ましい疾患群が軟骨疾患である。本明細書中下記の実施例の節に記載されるように、ACE−IのエナラプリラトおよびARBのカンデサルタンはともに、35Sの増大した取り込みによって証明されるように、GAG合成をコントロールレベルに著しく増大させた。
【0194】
本明細書中で使用される「軟骨疾患」は、軟骨を含む組織(例えば、関節など)において機能発現に影響を及ぼすか、または、痛みを引き起こす任意の疾患を示す。本明細書中で使用される用語「関節」は、例えば、膝関節、肘関節、股関節、胸鎖関節、顎関節、手根関節、足根関節、手関節、足関節、椎間円板または黄色靭帯を示す。
【0195】
軟骨疾患の例には、変形性関節症、制限された関節運動性、痛風、リウマチ様関節炎、軟骨溶解、線維筋痛、強皮症、腱炎、脊椎炎、変性椎間板疾患、全身性エリテマトーデおよび手根管症候群が含まれるが、これらに限定されない。
【0196】
GAGはまた、皮膚において極めて重要な役割を果たしており、従って、疾患の別の好ましい一群に属する。GAGは、皮膚の老化に関連する皮膚状態に利益をもたらすことが示されている:例えば、しわ形成[Isnard他、Biomed Pharmacother、2004(Apr)、58(3):202〜4;Titz他、Am J Physiol Heart Curc Physiol、2004(Sep)、287(3):H1433;Nomura他、J Dermatol、2003(Sep)、30(9):655〜64]、乾癬[Verges、Med Clin(Barc)、2004(Nov 27)、123(19):739〜42]、ケロイド[Alaish他、J Pediatr Surg、1995(Jul)、30(7):949〜52]および火傷[Heitland他、Burns、2004(Aug)、30(5):471〜5]。
【0197】
本発明ではまた、GAGをダウンレギュレーションすることが対象において治療的に有益である疾患または状態を治療することが想定され、この場合、この方法は、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性および/または発現をアップレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与し、それにより、GAGをダウンレギュレーションすることが対象において治療的に有益である状態または疾患を治療することを含む。
【0198】
GAGをダウンレギュレーションすることが治療的に有益であり得る状態の例には、ムコ多糖症(MPS)などのリソソーム蓄積症(これらには、ハーラー症候群、ハンター症候群、サンフィリッポ症候群、マロトー・ラミー症候群およびモルキオ症候群が含まれるが、これらに限定されない)を含めて、高いレベルのGAGによって特徴づけられる状態がある。
【0199】
GAGをダウンレギュレーションすることが治療的に有益であり得る疾患の別の一例が嚢胞性線維症である[Khatri他、Pediatr Res、2003(Apr)、53(4):619〜27]。
【0200】
レニン−アンギオテンシン系(RAS)の成分の活性をアップレギュレーションすることができる薬剤には、酵素のACE(EC3.4.15.1)またはレニン(EC3.4.23.15)を含むRASの構成成分そのものが含まれる。RASの成分をアップレギュレーションすることができる他の薬剤には、AT受容体においてアゴニストとして作用する化学的薬剤またはペプチド薬剤(例えば、L−162,313)、あるいは、ACEの活性化因子として作用する化学的薬剤またはペプチド薬剤[Elisseeva他、Biochem Mol Biol Int、1993(Jul)、30(4):665〜73]、または、レニンの活性化因子として作用する化学的薬剤またはペプチド薬剤がある。
【0201】
RASの成分の発現をアップレギュレーションすることができる薬剤にはまた、RASの構成成分の少なくとも機能的部分を発現させるために設計および構築された外因性のポリヌクレオチド配列が含まれ得る。従って、そのような外因性ポリヌクレオチド配列は、GAGのレベルを低下させることができるRASの構成成分をコードするDNA配列またはRNA配列であり得る。本明細書中で使用される表現「機能的部分」は、活性(すなわち、GAGの低下)を発揮するために十分である、レニンまたはACEの一部分(すなわち、ポリペプチド)を示す。これらの遺伝子を投与するための遺伝子治療技術が本明細書中上記で議論される。
【0202】
本発明のRAS調節薬剤(すなわち、上記で記載されるような、GAGをアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションするためのRAS調節薬剤)は、それ自体で生物に投与することができ、あるいは、RAS調節薬剤が好適なキャリアまたは賦形剤と混合される医薬組成物で生物に投与することができる。
【0203】
本明細書中で使用される「医薬組成物」は、本明細書中に記載される有効成分の1つまたは複数と、他の化学的成分(例えば、生理学的に好適なキャリアおよび賦形剤など)との調製物を示す。医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
【0204】
本明細書中において、用語「有効成分(活性成分)」は、生物学的効果を担うRAS調節剤を示す。
【0205】
以降、交換可能に使用されうる表現「医薬的に許容され得るキャリア」および表現「生理学的に許容され得るキャリア」は、生物に対する著しい刺激を生じさせず、投与された化合物の生物学的な活性および性質を阻害しないキャリアまたは希釈剤を示す。アジュバントはこれらの表現に含まれる。
【0206】
本明細書中において、用語「賦形剤」は、有効成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を示す。賦形剤の非限定的な例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖およびデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが含まれる。
【0207】
薬物の配合および投与のための様々な技術が“Remington’s Pharmaceutical Sciences”(Mack Publishing Co.、Easton、PA、最新版)に見出され得る(これは参考として本明細書中に組み込まれる)。
【0208】
本発明の医薬組成物は、この分野で十分に知られている様々なプロセスによって、例えば、混合、溶解、造粒、糖衣錠作製、研和、乳化、カプセル化、包括化または凍結乾燥の従来のプロセスによって製造することができる。
【0209】
本発明に従って使用される医薬組成物は、医薬品として使用され得る調製物への有効成分の加工を容易にする賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の医薬的に許容され得るキャリアを使用して従来の様式で配合することできる。適正な配合は、選ばれた投与経路に依存する。
【0210】
好適な投与経路には、例えば、経口送達、直腸送達、経粘膜送達、特に経鼻送達、腸管送達または非経口送達(これには、筋肉内注射、皮下注射および髄内注射、ならびに、クモ膜下注射、直接的な脳室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻内注射または眼内注射が含まれる)が含まれ得る。
【0211】
本発明の薬剤は、好ましくは、例えば、医薬組成物を患者の組織領域に直接に注入することにより局所投与される。
【0212】
特定の疾患のための局所投与方法が本明細書中下記において表1に詳しく記載される:
表1
疾患または病状 局所的投与方法
軟骨疾患 関節内/滑液包内
皮膚疾患 局所的
筋疾患 筋肉内
変性椎間板疾患 椎間板領域内への直接注入
腹膜透析により治療される末期腎臓不全 透析液を介して腹膜腔内に直接に
アルツハイマー病 脳内に直接に
膀胱感染症 カテーテルを介して膀胱に
眼疾患 局所的
【0213】
局所適用のために、本発明のRAS調節剤は、局所適用のために好適なゲルに懸濁することができる。局所適用、経粘膜適用または経鼻適用のために好適な医薬組成物の他の例には、クリーム、軟膏、ペースト、ローション、乳状物、懸濁物、フォームおよび漿液が含まれるが、これらに限定されない。
【0214】
注射の場合、医薬組成物の有効成分は、水溶液において、好ましくは生理学的に適合し得る緩衝液(例えば、ハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理学的な生理的食塩緩衝液など)において配合することができる。経粘膜投与の場合、浸透されるバリアに対して適切な浸透剤が配合において使用される。そのような浸透剤はこの分野では一般に知られている。
【0215】
経口投与の場合、医薬組成物は、活性化合物をこの分野で広く知られている医薬的に許容され得るキャリアと組み合わせることによって容易に配合され得る。そのようなキャリアは、医薬組成物が、患者によって経口摂取される錠剤、ピル、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー剤および懸濁物などとして配合されることを可能にする。経口使用される薬理学的調製物を、固体の賦形剤を使用し、得られた混合物を場合により粉砕し錠剤または糖衣錠コアを得るために、所望する場合には好適な補助剤を添加した後、顆粒の混合物を加工して作製することができる。好適な賦形剤には、特に、ラクトース、スクロース、マンニトールまたはソルビトールを含む糖などの充填剤;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボメチルセルロースなど;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容され得るポリマーがある。所望する場合には、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(例えば、アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を加えることができる。
【0216】
糖衣錠コアには、好適なコーティングが施される。この目的のために、高濃度の糖溶液を使用することができ、この場合、糖溶液は、場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液および好適な有機溶媒または溶媒混合物を含有し得る。色素または顔料を、活性化合物の量を明らかにするために、または活性化合物の量の種々の組合せを特徴づけるために、錠剤または糖衣錠コーティングに加えることができる。
【0217】
経口使用され得る医薬組成物には、ゼラチンから作製されたプッシュ・フィット型カプセル、ならびに、ゼラチンおよび可塑剤(例えば、グリセロールまたはソルビトールなど)から作製された軟いシールされたカプセルが含まれる。プッシュ・フィット型カプセルは、充填剤(例えば、ラクトースなど)、結合剤(例えば、デンプンなど)、滑剤(例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)および場合により安定化剤との混合で有効成分を含有することができる。軟カプセルでは、有効成分を好適な液体(例えば、脂肪油、流動パラフィンまたは液状のポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁させることができる。また、安定化剤を加えることができる。経口投与される配合物はすべて、選ばれた投与経路について好適な投薬形態でなければならない。
【0218】
口内投与の場合、組成物は、従来の様式で配合された錠剤またはトローチの形態を取ることができる。
【0219】
鼻吸入による投与の場合、本発明による使用のための有効成分は、好適な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンまたは二酸化炭素)の使用により加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー提示物の形態で都合よく送達される。加圧されたエアロゾルの場合、投薬量単位が、計量された量を送達するためのバルブを備えることによって決定され得る。ディスペンサーにおいて使用される、例えば、ゼラチン製のカプセルおよびカートリッジで、化合物および好適な粉末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプンなど)の粉末混合物を含有するカプセルおよびカートリッジを配合することができる。
【0220】
本明細書中に記載される医薬組成物は、例えば、ボーラス注射または連続注入による非経口投与のために配合することができる。注射用配合物は、場合により保存剤が添加された、例えば、アンプルまたは多回用量容器における単位投薬形態で提供され得る。組成物は、油性ビヒクルまたは水性ビヒクルにおける懸濁物または溶液剤またはエマルションにすることができ、また、懸濁化剤、安定化剤および/または分散化剤などの配合剤を含有することができる。
【0221】
非経口投与される医薬組成物には、水溶性形態での活性調製物の水溶液が含まれる。また、有効成分の懸濁物を適切な油性または水性の注射用懸濁物として調製することができる。好適な親油性の溶媒またはビヒクルには、脂肪油(例えば、ゴマ油など)、または合成脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、トリグリセリドまたはリポソームが含まれる。水性の注射用懸濁物は、懸濁物の粘度を増大させる物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールまたはデキストランなどを含有することができる。場合により、懸濁物はまた、高濃度溶液の調製を可能にするために有効成分の溶解性を増大させる好適な安定化剤または薬剤を含有することができる。
【0222】
本発明の医薬組成物はまた、特に本明細書中上記に記載される関節炎疾患を治療するためには、長期放出組成物または持続放出組成物として配合することができる。
【0223】
表現「長期放出」配合物または表現「持続放出」配合物は、活性な阻害剤の放出または活性化が、持続した期間または長期間にわたって、すなわち、少なくとも、薬剤が未加工状態または非配合状態でインビボで利用可能になった場合よりも長い期間にわたってもたらされる本発明の薬剤の配合物を示す。場合により、長期放出組成物は一定の速度で存在し、かつ/または、活性なポリペプチドの持続した濃度および/または連続した濃度をもたらす。好適な長期放出組成物は、マイクロカプセル化、固体の疎水性ポリマーの半透過性マトリックス、生分解性ポリマー、生分解性ヒドロゲル、懸濁物またはエマルション(例えば、水中油型または油中水型)を含むことができる。場合により、長期放出組成物はポリ−ラクチド−co−グリコール酸(PLGA)を含み、Lewis、“ラクチド/グリコリドポリマーからの生物活性剤の制御された放出”、Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systems(M.Chasin&R.Langeer編(Marcel Dekker、New York)、1頁〜41頁)に記載されるように調製することができる。場合により、長期放出組成物は安定であり、従って、RAS阻害剤の活性は長期にわたる貯蔵により認められ得るほど低下しない。より具体的には、そのような安定性は、安定化剤(例えば、水溶性の多価金属塩など)を存在させることにより高めることができる。
【0224】
あるいは、有効成分は、好適なビヒクル(例えば、無菌の、パイロジェン非含有水溶液)を使用前に用いて構成される粉末形態にすることができる。
【0225】
本発明の医薬組成物はまた、例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの従来の座薬基剤を使用して、座薬または停留浣腸剤などの直腸用組成物に配合することができる。
【0226】
本発明に関連した使用のために好適な医薬組成物には、有効成分が、その意図された目的(例えば、ACEの阻害またはアンギオテンシンII受容体のブロック)を達成するために効果的な量で含有される組成物が含まれる。より具体的には、治療効果的な量は、治療されている対象の病状(例えば、虚血)を予防、緩和あるいは改善するために効果的であるか、または、治療されている対象の生存を延ばすために効果的である、有効成分(核酸構築物)の量を意味する。
【0227】
治療効果的な量の決定は、特に本明細書中に提供される詳細な説明に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0228】
本発明のRAS阻害剤の治療効果的な量を決定する1つの方法が、GAGレベルを、薬剤を投与する前に、および/または、薬剤を投与するのと同時に、および/または、薬剤を投与した後で分析することによる方法である。そうすることにおいて、さらなる情報を、治療計画、治療方針の決定、および/または、疾患の重篤度の測定に関して集めることができる。
【0229】
GAGレベルは、生物学的流体(例えば、滑液)または組織(例えば、軟骨)を、当技術分野で既知である技術を使用して対象から取り出すことによって測定することができる。GAGを測定する様々な方法が当技術分野で既知であり、これらには、下記において実施例1および実施例2に記載される方法が含まれる。好ましくは、分析されたサンプルにおけるGAGレベルが、コントロール個体から得られたGAGレベルと比較される。コントロールサンプルは、同じ生物種、年齢の対象に由来すること、また、同じ亜組織(sub−tissue)に由来することが好ましい。あるいは、コントロールのデータをデータベースおよび文献から選ぶことができる。
【0230】
考えられ得るところでは、GAGレベルを分析する工程および投与する工程を治療の方針期間中に何回か繰り返すことができる。例えば、GAGレベルを薬剤投与後1週間で分析することができる。GAGレベルが、コントロールと比較されたGAGレベルよりも高いならば、薬剤の用量を減らすことができる。GAGレベルが、対照と比較されたGAGレベルよりも低いままであるならば、薬剤の用量を増大させることができる。
【0231】
本発明のこの態様の好ましい実施形態において、治療方針を、腎臓の疾患または状態、血管の疾患または状態、皮膚の疾患または状態および軟骨の疾患または状態(これらに限定されない)を含めて、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である任意の疾患についてこのように決定することができる。これらの疾患には、下記の実施例の節において例示されるように、GAGの低下が付随する場合がある。具体的には、実施例1におけるインビボ結果、図2A〜図2Cおよび図3A〜図3C、ならびに、実施例2におけるインビトロ結果、図4および表3から理解されるように、GAGが、タンパク尿に関連する腎臓疾患において減少する。実施例2の表4には、内皮細胞でのGAGの低下が例示され、また、実施例2の表5には、軟骨細胞でのGAGにおける低下が例示される。
【0232】
本発明の方法において使用される任意の調製物について、治療効果的な量または用量は、最初はインビトロでアッセイおよび細胞培養アッセイから推定することができる。例えば、用量は所望の濃度または滴定量を得るために動物モデルにおいて配合することが可能である。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。
【0233】
本明細書中に記載される有効成分の毒性および治療効力は、細胞培養または実験動物における、インビトロで標準的な薬学的手法によって、明らかにすることができる。これらのインビトロでの細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用に対する投薬量範囲を決定するために使用することができる。投薬量は、用いられる投薬形態および利用される投与経路に依存して変化し得る。正確な配合、投与経路および投薬量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選ぶことができる(Fingl,et al,(1975年)「The Pharmacological Basis of Therapeutics」,Ch.1p.1参照)。
【0234】
投薬量および投薬間隔は、有効成分の局所レベルが生物学的効果を誘導または抑制するために十分であるように個々に調節することができる(最小有効濃度、MEC)。MECはそれぞれの調製物について変化するが、インビトロデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は、個体の特徴、および、投与経路に依存する。様々な検出アッセイを、血漿中濃度を求めるために使用することができる。
【0235】
本発明の薬剤(例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、AT1受容体アンタゴニスト)の局所投与される治療的用量は好ましくは、約10mgを超えず、好ましくは約9mgを超えず、好ましくは約8mgを超えず、好ましくは約7mgを超えず、好ましくは約6mgを超えず、好ましくは約5mgを超えず、好ましくは約4mgを超えず、好ましくは約3mgを超えず、好ましくは約2mgを超えず、好ましくは約1mgを超えず、好ましくは約0.5mgを超えず、好ましくは約0.1mgを超えない。
【0236】
本発明の薬剤を全身投与するための全身用量は、対象の必要性に従って決定することができ、例えば、1日あたり1mg〜250mgの薬剤などである。
【0237】
処置される状態の重篤度および応答性に依存して、投薬は、単回または複数回投与で行うことができ、この場合、処置期間は、数日から数週間まで、または治療が達成されるまで、または疾患状態の軽減が達成されるまで続く。
【0238】
投与される組成物の量は、当然のことではあるが、処置されている患者、苦痛の重篤度、投与様式、処方医の判断などに依存する。
【0239】
本発明の組成物は、所望されるならば、有効成分を含有する1つまたは複数の単位投薬形態物を含有し得るパックまたはディスペンサーデバイス(例えば、FDA承認キットなど)で提供され得る。パックは、例えば、金属ホイルまたはプラスチックホイルを含むことができる(例えば、ブリスターパックなど)。パックまたはディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が付随し得る。パックまたはディスペンサーデバイスはまた、医薬品の製造、使用または販売を規制する政府当局によって定められた形式で、容器に関連した通知によって適応させることがあり、この場合、そのような通知は、組成物の形態、あるいはヒトまたは動物への投与の当局による承認を反映する。そのような通知は、例えば、処方薬物について米国食品医薬品局によって承認されたラベル書きであり得るか、または、承認された製品添付文書であり得る。適合し得る医薬用キャリアに配合された本発明の調製物を含む組成物もまた、上でさらに詳述されたように、適応される状態を処置するために調製され、適切な容器に入れられ、かつ標識され得る。
【0240】
本発明の薬剤はまた、他の医薬用薬剤との組合せで投与することができる。混合治療の一例が、リソソーム蓄積症を治療するための混合治療である場合がある。本明細書中上記で述べられたように、リソソーム蓄積症(例えば、MPSなど)はリソソームのヒドロラーゼ酵素における変異に関連する。従って、リソソームのヒドロラーゼ酵素もまた、RAS活性化薬剤と一緒に患者に投与される。酵素を患者に導入する1つの方法が、本明細書中上記で議論されるような遺伝子治療技術を使用することによる方法である。
【0241】
別の一例が腎臓患者において例示される。腹膜透析によって治療された末期腎臓疾患に苦しむ患者に関連する共通の問題が、その選択的透過性にとって非常に重要であるアニオン性部位の減少、それにより、長期間の腹膜透析(PD)のときの患者における腹膜の輸送特性が損なわれることである。流体の高い重量モル浸透圧濃度のために要求される透析液における高濃度のグルコースが膜の機能喪失の原因であると考えられており、グルコースが、そのGAG含有量を低下させることによって膜に影響を及ぼすことが示されている[Yung他、J Am Soc Nephrol、2004(May)、15(5):1178〜88]。従って、本発明の薬剤を、腹膜中皮におけるGAGレベルを増大させ、それにより、高いグルコース濃度の有害な影響を改善するために透析液に加えることができる。
【0242】
本発明のさらなる目的、利点および新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業技術者には明らかになるであろう。なおこれら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施形態と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0243】
上記説明とともに、以下の実施例を参照して本発明を例示する。なおこれら実施例によって本発明は限定されない。
【0244】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技法は文献に詳細に説明されている。例えば以下の諸文献を参照されたい:「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら1989年;Ausubel, R.M.編1994年「Current Protocols in Molecular Biology」I〜III巻;Ausubelら著1989年「Current Protocols in Molecular Biology」John Wiley and Sons,米国メリーランド州バルチモア;Perbal著「A Practical Guide to Molecular Cloning」John Wiley & Sons,米国ニューヨーク1988年;Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1〜4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク1998年;米国特許の4666828号、4683202号、4801531号、5192659号および5272057号に記載される方法;Cellis, J.E.編「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I〜III巻1994年;Freshney「Culture of Animal Cells−A Mamual of Basic Technique」Wiley−Liss、N.Y.、1994年、第3版;Coligan, J.E.編「Current Protocols in Immunology」I〜III巻1994年;Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク1994年;MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク1980年;また利用可能な免疫検定法は、例えば以下の特許と科学文献に広範囲にわたって記載されている。米国特許の3791932号、3839153号、3850752号、3850578号、3853987号、3867517号、3879262号、3901654号、3935074号、3984533号、3996345号、4034074号、4098876号、4879219号、5011771号および5281521号;Gait,M.J.編「Oligonucleotide Synthesis」1984年;Hames, B.D.およびHiggins S.J.編「Nucleic Acid Hybridization」1985年;Hames,B.D.およびHiggins S.J.編「Transcription and Translation」1984年;Freshney, R.I.編「Animal Cell Culture」1986年;「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press 1986年;Perbal, B.著「A Practical Guide to Molecular Cloning」1984年および「Methods in Enzymology」1〜317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ1990年;Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」、CSHL Press、1996年;なお、これらの文献は、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである。その他の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。これらの文献に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。これらの文献に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0245】
(実施例1)
PANネフローゼのラットの糸球体における機能的電荷バリアの研究
本研究の目的は、ACE−Iの投与によるRASの阻害がピューロマイシン投与後にGAG合成を増大させるかどうかを、電子顕微鏡観察形態学および組織化学の技術を使用してインビボで確認することであった。
【0246】
材料および方法
動物および治療計画
26匹のオスのWistarラット(Belinson、イスラエル、それぞれが220gr〜260gr)を個々の代謝ケージに収容し、標準食および水を自由に取らせた。3日の順応期間の後、ラットを無作為に3つの群に分けた:コントロール、ピューロマイシンアミノヌクレオシド処置(PAN処置)およびPAN+エナラプリル処置。6匹のコントロールには0.9%NaClを注射し、20匹のラットにはPAN(75mg/kg、Sigma、St.Louis、Missouri)を尾静脈経由により注射した。後者のうちの10匹を、PAN注射の3日前に、飲み水中のエナラプリル(Merck Research Laboratories、50mg/L)により処置した。9日目に、24時間の尿採取を行い、タンパク質含有量を、Beckman Array−Proteinシステムを使用して測定した。10日目に、ラットの体重を測定し、血液を、血清アルブミン、血清クレアチニンおよび血清コレステロールの測定のために集めた(Autoanalyzer、Hitachi、日本)。すべての動物実験は、実験動物の管理および使用のためのRabin Medical Center倫理委員会によって制定された指針に従って行われた。
【0247】
組織調製:腎臓を直ちに取り出し、氷上に置き、皮質を髄質から分離した。それぞれの腎臓の薄片を形態学的研究および組織化学的研究のために0.5%グルタルアルデヒド/リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)(pH7.4)において固定処理した。電子顕微鏡観察(EM)のために、GA固定処理された腎臓の1mmの組織ブロックを洗浄し、エタノールで脱水し、LR−white樹脂(Polysciences、Washington PA)に包埋した。EM形態学のために、類似する組織ブロックを、4℃で1時間、Veronal酢酸緩衝液(pH7.4)における1%四酸化オスミウム(OsO)により後固定処理し、エタノールおよびプロピレンオキシドにおいて脱水し、アラルダイト(Polysciences)に包埋した。
【0248】
電子顕微鏡観察による形態学および組織化学:EM形態学のために、超薄アラルダイト切片を400メッシュの格子に載せ、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛により染色し、炭素により被覆した。EM組織化学のために、超薄LR−white切片を200メッシュのニッケル格子に載せ、ホルムバルフィルムにより被覆し、カーボンにより含浸処理した。ポリカチオンのコロイド状金(CCG)を、Weinstein他[J Am Soc Nephrol、8:586〜595、1997]によって記載されるように、ポリ−L−リシンによるコロイド状金(12nm)の安定化により調製した。切片をCCGにより染色し、洗浄し、その後、50%エタノールにおける飽和酢酸ウラニルにより染色した。すべての切片の検査を、JEOL−100B EMを80kVで使用して行った。
【0249】
形態測定:CCG標識化密度の分析をCCG染色されたLR−white包埋の腎臓組織に対して盲検様式で行った。分析を、無作為に切断された膜の1μmの面積あたりの金粒子の密度を計算することによって行った。それぞれの群からの5匹のラットを調べた。それぞれのラットにおいて、10個の糸球体からの100回の測定を行った。すべての測定を、Macintosh用のNIH−Image1.49プログラムを使用して、5000倍の倍率でのデジタル化された電子顕微鏡写真に対して行った。
【0250】
結果
血液検査および尿検査の結果が下記の表2に示される。

【0251】
血清アルブミンが、コントロールと比較して、PAN群では、非処置ラット(p<0.001)およびエナラプリル処置ラット(p<0.005)の両方で低下していた。血清コレステロールがPAN群では著しく増大していた(p<0.001)。24時間の尿採取では、著しいタンパク尿が非処置のPAN群(p<0.001)で示されたが、これはエナラプリル処置のPAN群では著しく改善した(p<0.02)。
【0252】
形態学:コントロールラットの電子顕微鏡観察分析では、無数の足突起を有する正常な足細胞構造が示された(図1A)。しかしながら、PANラットにおいて、糸球体は、足突起の平坦化および消失とともに足細胞構造の喪失を示した(図1B)。足細胞の細胞体において、細胞質内空胞を認めることができる。変化が糸球体基底膜(GBM)または内皮において全く観察されなかった。エナラプリル処置されたPANラットでもまた、正常な足細胞構造の類似した喪失が認められた。
【0253】
GBMに対するCCGの結合:電子顕微鏡観察によるCCG染色の形態測定分析では、CCGの結合が主として、GBM、ボーマン嚢、ならびに、細管および血管の基底膜に限定されたことが示された。糸球体のCCG結合が図2A〜図2Cに例示される。形態測定分析の結果が図3A〜図3Cに例示される。コントロール群では、1μmのGBMあたり67.3±5.6個の粒子が存在した(図3A);非処置のPAN群では、CCGの結合が1μmのGBMあたり39.1±1.0個の粒子に著しく低下し(p<0.001(対コントロール)、図3B)、エナラプリル処置のPAN群では、CCGの結合が1μmのGBMあたり56.0±5.5個の粒子に増大した(p<0.02(対PAN、NS対コントロール)、図3C)。これらの結果から、ネフローゼのPANラットでは、GBMにおけるアニオン性GAG部位が減少していたことが明らかにされる。エナラプリル処置は、ネフローゼのPANラットのGBMにおけるGAGの維持に対する有益な作用を有していた。
【0254】
(実施例2)
インビトロでのプロテオグリカン合成に対するRAS系の影響の決定
本研究の目的は、RASの阻害が、GAG合成を、腎臓メサンギウム細胞培養物、内皮細胞培養物および軟骨細胞培養物においてインビトロで増大させるかどうかを、細胞結合GAGアッセイおよび放射能取り込みアッセイを使用して確認することであった。
【0255】
材料および方法
すべての組織培養培地および添加剤をBiologic Industries(Beit Haemek、イスラエル)から得た。エナラプリラト(E)はMSD(イスラエル)からの譲渡物であり、カンデサルタン(C)はAstra Zeneka(スウェーデン)からの譲渡物であった。
【0256】
細胞および細胞株
ラットのメサンギウム細胞(RMC):Sprauge−Dawleyラットに由来するRMC(#ATCC−メサンギウム−CRL−2573)を、ATCCの説明書に従って、15%ウシ胎児血清(FCS)および抗生物質が補充されたDMEMで培養した。メサンギウム細胞は腎臓の糸球体間質に由来し、従って、GBMを分析するための貴重なツールとして役立つ。
【0257】
内皮細胞:ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)をコラゲナーゼ処理によって単離した。培養を、10%FCS、25μl/mlの内皮マイトジェン(Biomedical Technologies、MA、米国)および抗生物質を含有するM−199培地において確立した。HUVECを0.25%トリプシン/0.02%EDTAによる処理によって継代培養し、2回〜3回の継代培養物を実験のために使用した。
【0258】
軟骨細胞:関節軟骨由来の組織片をインビトロでインキュベーションし、外植片細胞培養物を記載されたように確立した[Nevo他、1972、Dev Biol、28:219〜228]。細胞培養物を免疫組織化学によって評価した。
【0259】
細胞結合GAGアッセイ
比色アッセイ:細胞結合GAGを、(Nevo他、1972)によって記載されるように、塩化セチルピリジニウム(CPC、Sigma)沈殿によってRMCから単離した。簡単に記載すると、細胞を、2%FCSにおいて24時間、休止状態(すなわち、飢餓状態)にし、その後、下記のプロトコルに従って、増大用量のエナラプリラト[(E)、エナラプリルの活性形態]の存在下、40μg/mlのPAN(Sigma)とともにDMEMにおいて36時間インキュベーションした:コントロール、PAN、PAN+E(200μg/ml)、PAN+E(400μg/ml)、PAN+E(800μg/ml)。PBSで徹底的に洗浄した後、RMCを、0.05%トリプシン/EDTAを使用して集めた。0.1M酢酸ナトリウム、0.005M EDTA(Sigma)、0.005Mシステイン(Sigma)および0.1%パパイン(Sigma)を含有する緩衝液(pH5.4)を加えた後、混合物を65℃で48時間インキュベーションし、その後、蒸留水に対して24時間透析した。NaClを30mMの最終濃度に透析液に加え、十分に混合した。GAGを、CPCを0.5%の最終濃度に加えることによって沈殿させ、溶液を37℃で一晩インキュベーションした。沈殿物を遠心分離によって集め、2M CaClに溶解し、エタノール:エーテル(2:1)により再沈殿させ、遠心分離によって集め、乾燥した。GAGを、へパラン硫酸を標準物として使用して比色法によって求め(ウロン酸含有量x3.3=GAG含有量)、10細胞あたりのμgGAGとして表した。
【0260】
放射性アッセイ(35S標識化):細胞をコンフルエンスに成長させ、2%FCSにおいて24時間、休止状態にし、その後、細胞を血清非含有培地+下記添加剤の1つに移した:1μCi/mlの35Sの存在下において、コントロール、PAN(40μg/ml)、PAN+E(200μg/ml)、PAN+E(400μg/ml)、PAN+E(800μg/ml)、PAN+C(10−7Mカンデサルタン)。24時間後、培地を集め、細胞をトリプシン処理によって集め、アリコットを細胞測定およびタンパク質測定のために得た。細胞を、記載されたようにパパインで消化し、続いて、水が100cpm/ml未満を含有するまで、非放射性の硫酸ナトリウムを含有する水に対して徹底的に透析した。透析液をCorexチューブに移し、同じ手順を、非放射性GAGについて、記載されたように行った。放射能をベータカウンターで測定した。
【0261】
統計学的分析:データが平均±SEとして示される。インビボ研究では、群間の比較を一元配置分散分析(ANOVA)の使用によって行った。マン・ホイットニー検定を、インビトロ研究における比較のために使用した。両側でp<0.05を有意であると見なした。
【0262】
結果
比色アッセイ:PANはRMCにおける細胞結合GAGの著しい低下を誘導した(図4)。コントロール群では、10細胞あたり5.03±0.06μgのGAGが存在し、PAN群では、10細胞あたり2.35±0.54μgのGAGが存在し、コントロール群での場合よりも著しく少なかった(p<0.001)。培養培地へのエナラプリラト(E)の添加は、GAG含有量における用量依存的な上昇を引き起こした。PAN+E(200μg/ml)では、10細胞あたり2.43±0.42μgのGAGが存在した。PAN+E(400μg/ml)では、10細胞あたり2.8±0.65μgのGAGへの、著しくはないが、わずかな上昇が認められた。PAN+E(800μg/ml)では、10細胞あたり5.3±0.43μgのGAGが存在し、これはPAN群での場合よりも著しく大きかったが、コントロール群とは差がなかった。
【0263】
放射性アッセイ:
1.RMC
下記の表3に示されるように、PANは、コントロールの69%へのRMCにおける細胞結合GAGの著しい低下を誘導した。培養培地へのエナラプリラト(800μg/ml)の添加はGAG合成を80%に上昇させ、これに対して、カンデサルタン(M−7)の添加はGAG合成をコントロール値の102%に上昇させた(すべて、PANの存在下において)。

【0264】
2.内皮細胞
下記の表4に示されるように、PANは、コントロールの81%への細胞結合GAGにおける著しい減少を誘導し、これに対して、エナラプリラト(800μg/ml)の添加はGAG合成をコントロールの96%に上昇させ、カンデサルタン(M−7)はコントロールの107%に上昇させた。

【0265】
3.軟骨細胞
下記の表5に示されるように、PANは、コントロールの68%への細胞結合GAGにおける著しい減少を誘導し、これに対して、エナラプリラト(200μg/ml)の添加はGAG合成をコントロールの152%に上昇させた。

【0266】
結論
まとめると、ACE阻害剤およびアンギオテンシンII受容体遮断剤はともに、GAGのピューロマイシン誘導による低下の影響を、GAGの合成を活性化することによって改善することができた。このことはラット腎臓においてインビボで示され、また、腎臓、軟骨および内皮細胞培養物においてインビトロで明らかにされた。
【0267】
(実施例3)
変形性関節症の動物モデルにおけるACE阻害剤の関節内投与
本研究の目的は、変形性関節症誘導ラットへのACE阻害剤の関節内投与が、変形性関節症の症状発現を遅らせるために、または、最小限に抑えるために役立つかどうかを確認することであった。
【0268】
材料および方法
変形性関節症(OA)を、Rolli Moskowitzの部分的半月板切除のモデル[Moskowitz、RWおよびGoldberg,VM、J Rheumatol、1987(May)、14 Spec No:116〜8;Moskowitz、RW他、Ann Rheum Dis、1981(Dec)、40(6):584〜92]を使用して32匹のラットにおいて誘導した。部分的半月板切除を受けているコントロールラット(8匹)の組織を縫合によって直ちに閉じ、一方、ACE−I処置群(24匹)に対しては、部分的半月板切除の後直ちに、ACE−Iを含有するコンポジットゲル(5%カプトリル)を加え、その後、関節層を縫合した。6週間後、動物を屠殺した。実験終了前に、健康診断により、跛行の程度および手術した下肢の運動制限の程度を、健常な足に対する疾患の程度(これは、手術した足によって作動されるガラム単位での圧力に転換される)のデジタル測定を行う装置を使用して確保した。関節、大腿骨および脛骨の組織学的切片を調製し、ヘマトキシリン−エオシン(H&E)により、同様にまた、pH2.5およびpH1.0でのアルシアンブルー、および、Masson三色染料(Dako、California、米国)により染色した。まとめると、これらの染色技術により、プロテオグリカン含有量および細胞外マトリックス沈着が評価される。
【0269】
結果
図5A〜図5Bに例示されるように、コントロール動物は重度のOAを大腿骨および脛骨の両方の軟骨表面において発症した。ほんのわずかな半月板残渣が残っただけであった。軟骨下骨に達する深い線維攣縮が認められた。関節軟骨は主に無細胞であり、そのプロテオグリカンの大部分を失っていた。
【0270】
図5C〜図5Dに例示されるように、カプトプリルにより処置された動物は、プロテオグリカンを濃く示すとともに、非常に細胞性である関節軟骨を呈した。OAのほんの穏やかな開始があったにすぎず、これは最小限の線維攣縮および細胞クローン化によって明白であった。
【0271】
結論
部分的半月板切除により、古典的なOAが、明瞭な解剖学的徴候および組織学的徴候を伴って数週間以内に誘導される。ACE−I(カプトプリル)の関節内投与はOAの症状発現を遅らせ、また、OAの症状発現を最小限に抑える。
【0272】
明確にするため別個の実施形態で説明されている本発明の特定の特徴は単一の実施形態に組み合わせて提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0273】
本発明はその特定の実施形態によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。本明細書中で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0274】
【図1】図1A〜図1Cは、アルデヒドおよび四酸化オスミウムにより固定処理され、アラルダイトに包埋されたラット腎臓の薄い切片の電子顕微鏡写真画像の写真である(x10000の原倍率)。
【図2】図2A〜図2Cは、アルデヒドにより固定処理され、LR−ホワイトに包埋され、CCGにより標識されたラット腎臓の切片の電子顕微鏡写真画像の写真である。
【図3】図3は、薄いLR−ホワイト腎臓切片でのGBMに対するCCG結合の形態計測分析を例示する棒グラフである。
【図4】図4は、培養におけるRMC結合GAGの濃度を例示する棒グラフである。
【図5】図5A〜図5Dは、Rolli Moskowitzの部分的半月板切除の知られているOAモデルを使用する変形性関節症(OA)誘導ラットの組織学的切片の代表的なサンプルの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量を対象に局所投与し、それにより、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患または状態を治療することを含む、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患または状態を治療する方法。
【請求項2】
前記対象は低いレベルのGAGを示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象の生物学的サンプルにおけるGAGレベルを、前記薬剤を投与する前に、および/または、前記薬剤を投与するのと同時に、および/または、前記薬剤を投与した後で分析することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与し、それにより、対象における軟骨または皮膚の疾患または状態を治療することを含む、対象における軟骨または皮膚の疾患または状態を治療する方法。
【請求項5】
レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与し、それにより、対象における変形性関節症を治療することを含む、対象における変形性関節症を治療する方法。
【請求項6】
軟骨または皮膚の疾患または状態を治療するために特定される医薬品を製造するための、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性または発現をダウンレギュレーションすることができる薬剤の使用。
【請求項7】
(a)レニン−アンギオテンシン系をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与すること;および
(b)前記対象の生物学的サンプルにおけるGAGレベルを(a)の後で分析し、それにより、前記GAGレベルによって治療方針が示されること
を含む、GAGをアップレギュレーションすることが対象において治療的に有益である疾患の治療方針を決定する方法。
【請求項8】
対象のさらなる生物学的サンプルを工程(a)の前および/または工程(b)と同時に得ることをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記生物学的サンプルにおける前記GAGレベルを前記さらなる生物学的サンプルと比較することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
(a)対象の生物学的サンプルにおけるGAGレベルを分析すること;および
(b)レニン−アンギオテンシン系をダウンレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量を前記GAGレベルに従って対象に投与すること
を含む、GAGをアップレギュレーションすることが治療的に有益である疾患に苦しむ対象における治療計画を決定する方法。
【請求項11】
工程(a)を工程(b)の後で繰り返すことをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
疾患または状態は、軟骨または皮膚の疾患または状態からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
軟骨の疾患はリウマチ様関節炎ではない、請求項4に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤はアンギオテンシン変換酵素阻害剤である、請求項1、4〜7または10のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項15】
前記アンギオテンシン変換酵素阻害剤は、AB−103、アンコベニン、ベナゼプリラト、BRL−36378、BW−A575C、CGS−13928C、CL242817、CV−5975、Equaten、EU4865、EU4867、EU−5476、ホロキシミチン、FPL66564、FR−900456、Hoe−065、I5B2、インドラプリル、ケトメチルウレアス、KRI−1177、KRI−1230、L681176、リベンザプリル、MCD、MDL−27088、MDL−27467A、モベルチプリル、MS−41、ニコチアナミン、ペントプリル、フェナセイン、ピボプリル、レンチアプリル、RG−5975、RG−6134、RG−6207、RGH0399、ROO−911、RS−10085−197、’RS−2039、RS5139、RS86127、RU−44403、S−8308、SA−291、スピラプリラト、SQ26900、SQ−28084、SQ−28370、SQ−28940、SQ−31440、Synecor、ウチバプリル、WF−10129、Wy−44221、Wy−44655、Y−23785、Yissum、P−0154、ザビシプリル、Asahi Brewery AB−47、アラトリオプリル、BMS182657、Asahi Chemical C−111、Asahi Chemical C−112、Dainippon DU−1777、ミキサンプリル、Prentyl、ゼフェノプリラト、1(−(I−カルボキシ−6−(4−ピペリジニル)ヘキシル)アミノ)−1−オキソプロピルオクタヒドロ−1H−インドール−2−カルボン酸、Bioproject BP1.137、Chiesi CHF1514、Fisons FPL−66564、イドラプリル、ペリンドプリラトおよびServier S−5590、アラセプリル、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラト、ホシノプリル、ホシノプリラト、イミダプリル、リシノプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、ラミプリラト、酢酸サララシン、テモカプリル、トランドラプリル、トランドラプリラト、セラナプリル、モエキシプリル、キナプリラトおよびスピラプリルからなる群から選択される、請求項14に記載の方法または使用。
【請求項16】
前記薬剤はNEP/ACE阻害剤である、請求項1、3〜6または9のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項17】
前記薬剤はAT1受容体アンタゴニストである、請求項1、4〜7または10のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項18】
前記AT1受容体アンタゴニストは、酢酸サララシン、カンデサルタンシレキセチル、CGP−63170、EMD−66397、KT3−671、LR−B/081、バルサルタン、A−81282、BIBR−363、BIBS−222、BMS−184698、カンデサルタン、CV−11194、EXP−3174、KW−3433、L−161177、L−162154、LR−B/057、LY−235656、PD−150304、U−96849、U−97018、UP−275−22、WAY−126227、WK−1492.2K、YM−31472、ロサルタンカリウム、E4177、EMD−73495、エプロサルタン、HN−65021、イルベサルタン、L−159282、ME−3221、SL−91.0102、Tasosartan、Telmisartan、UP−269−6、YM−358、CGP−49870、GA−0056、L−159689、L−162234、L−162441、L−163007、PD−123177、A−81988、BMS−180560、CGP−38560A、CGP−48369、DA−2079、DE−3489、DuP−167、EXP−063、EXP−6155、EXP−6803、EXP−7711、EXP−9270、FK−739、HR−720、ICI−D6888、ICI−D7155、ICI−D8731、イソテオリン、KRI−1177、L−158809、L−158978、L−159874、LR B087、LY−285434、LY−302289、LY−315995、RG−13647、RWJ−38970、RWJ−46458、S−8307、S−8308、サプリサルタン、サララシン、Sarmesin、WK−1360、X−6803、ZD−6888、ZD−7155、ZD−8731、BIBS39、CI−996、DMP−811、DuP−532、EXP−929、L−163017、LY−301875、XH−148、XR−510、ゾラサルタンおよびPD−123319からなる群から選択される、請求項17に記載の方法または使用。
【請求項19】
前記薬剤はレニン阻害剤である、請求項1、4〜7または10のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項20】
前記レニン阻害剤は、エナルクレイン、RO42−5892、A65317、CP80794、ES1005、ES8891、SQ34017、CGP29287、CGP38560、SR43845、U−71038、A62198、A64662、A−69729、FK906およびFK744からなる群から選択される、請求項19に記載の方法または使用。
【請求項21】
前記薬剤は、前記レニン−アンギオテンシン系の少なくとも1つの成分を発現する内因性の核酸配列に向けられたオリゴヌクレオチドである、請求項1、4〜7または10のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項22】
前記低いレベルのGAGが、対象の軟骨、皮膚または滑液において存在する、請求項2に記載の方法。
【請求項23】
前記投与することが局所的に行われる、請求項4、5、7または10のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記局所投与することが、関節内投与、局部投与または滑液嚢内投与によって行われる、請求項1または23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記関節内投与は、膝関節、肘関節、股関節、胸鎖関節、顎関節、手根関節、足根関節、手関節、足関節、椎間円板および黄色靭帯からなる群から選択される関節の中に投与することを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記軟骨の疾患または状態は、変形性関節症、制限された関節の運動性、痛風、リウマチ様関節炎、軟骨融解、強皮症、変性椎間板疾患および全身性エリテマトーデスからなる群から選択される、請求項4、6または12のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項27】
前記皮膚の疾患または状態は、しわ形成、乾癬、ケロイドおよび火傷からなる群から選択される、請求項4、6または12のいずれかに記載の方法または使用。
【請求項28】
前記アンギオテンシン変換酵素阻害剤の局所用量は1日あたり5mgを超えない、請求項14に記載の方法または使用。
【請求項29】
前記AT1受容体アンタゴニストの局所用量は1日あたり5mgを超えない、請求項17に記載の方法または使用。
【請求項30】
前記GAGをアップレギュレーションすることが対象において治療的に有益である疾患は、腎臓の疾患または状態、血管の疾患または状態、皮膚の疾患または状態、および、軟骨の疾患または状態からなる群から選択される、請求項7または10のいずれかに記載の方法。
【請求項31】
GAGをダウンレギュレーションすることが対象において治療的に有益である状態または疾患を治療する方法であって、レニン−アンギオテンシン系の成分の活性および/または発現をアップレギュレーションすることができる薬剤の治療効果的な量をその必要性のある対象に投与し、それにより、GAGをダウンレギュレーションすることが対象において治療的に有益である状態または疾患を治療することを含む方法。
【請求項32】
前記薬剤はアンギオテンシンIIアゴニストまたはアンギオテンシンII活性化因子である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
状態はリソソーム蓄積状態である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
リソソーム蓄積状態はムコ多糖症の状態である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
リソソームのヒドロラーゼを投与することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
疾患は嚢胞性線維症である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記投与することが全身的に行われる、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記投与することが局所的に行われる、請求項31に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−502903(P2009−502903A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523539(P2008−523539)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/IL2006/000871
【国際公開番号】WO2007/013078
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(508029240)モル リサーチ アプリケーションズ リミテッド (4)
【Fターム(参考)】