説明

腐食抑制剤、金属酸洗浄液組成物および金属の酸洗浄方法

【課題】 高酸濃度および高温という過酷な金属酸洗条件下でも、金属素地の腐食を大幅に抑制し、酸洗速度を遅らせることが非常に少ない腐食防止剤を提供する。
【解決手段】 イミダゾリウム系4級アンモニウム塩100重量部、ポリアミン化合物10〜100重量部および有機硫黄化合物10〜100重量部を含む腐食抑制剤を金属酸洗液に添加することによって、たとえば、硫酸を高濃度で含み、90℃以上の高温下での酸洗処理においても顕著な腐食防止効果が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食抑制剤、金属酸洗浄液組成物および金属の酸洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱延鋼板などの金属鋼板表面には、ミルスケールなどの黒色酸化物皮膜が付着しており、該金属鋼板を防錆、めっきなどの次工程に供するには、酸化物皮膜を除去する必要がある。酸化物皮膜の除去によって、鋼板表面に防錆性が均一に付与され、鋼板表面とめっき皮膜との密着性が向上する。また、熱交換器の内部の金属表面には、水に含まれるシリカと金属との反応物であるスケールが付着して熱交換器の性能を低下させるので、このスケールを除去する必要がある。また、鋼板に塗装処理などを施す場合にも、やはり鋼板と塗膜との密着性向上のために、鋼板表面の錆を除去する必要がある。スケール、錆などの除去には、金属酸洗浄液を用いる酸洗を行うのが一般的である。金属酸洗浄液には、たとえば、硫酸、塩酸、硝酸などの無機酸、リン酸、スルファミン酸、フッ酸、シュウ酸、クエン酸、グリコール酸、蟻酸などの有機酸、エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤、これらの混合物などの水溶液が挙げられる。金属酸洗浄液による酸洗には、スケール、錆などが金属表面に極めて強固に付着することから、これらを完全に除去するためにはかなりの長時間を要するという問題がある。また、酸洗を行うと、スケール、錆だけでなく金属素地をも溶解して腐食させるという問題が生ずる。このような問題を解消するため、従来から、酸に腐食抑制剤を添加することが行われる。腐食抑制剤としては、含窒素有機化合物が代表的である。
【0003】
たとえば、腐食抑制剤である含窒素有機化合物として、4級アンモニウム塩が提案される(たとえば、特許文献1参照)。4級アンモニウム塩としては、1−ビニル−3−エチルイミダゾリニウムブロミド、3−エチルベンゾチアゾリウムブロミド、エチルトリエタノールアンモニウムブロミドなどが用いられる。また、特許文献1には、4級アンモニウム塩以外の窒素含有有機化合物を併用することが記載され、たとえば、ヘキサメチレンテトラミンが使用される。このような含窒素有機化合物は、酸洗速度を遅らせるという欠点を有する。したがって、これらの含窒素有機化合物を金属酸洗浄液に含有させると、酸洗時間がさらに長くなり、作業能率の低下が避けられない。その腐食抑制効果も充分満足できる水準にはない。また、腐食抑制剤である含窒素有機化合物として、チオ尿素およびその誘導体が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。しかしながら、チオ尿素およびその誘導体も4級アンモニウム塩と同様の欠点を有する。
【0004】
また、腐食抑制剤である含窒素有機化合物として、4級アンモニウム塩置換ビニル化合物のホモポリマー、アミノアルキル基置換ビニル化合物のホモポリマー、芳香族ポリアミンなどのポリアミン化合物(たとえば、特許文献3参照)、ピロリジニウムハライドのホモポリマー、ピロリジニウムハライドと二酸化硫黄とのポリマーなどのポリアミン化合物(たとえば、特許文献4参照)などが挙げられる。これらのポリアミン化合物は、従来の含窒素有機化合物に比べて腐食抑制効果が高く、酸洗速度を遅らせることも少なく、金属酸洗浄液の添加剤として有用である。しかしながら、最近では、酸洗の効率化のために酸洗時間を短縮化が図られており、そのために、金属酸洗浄液における酸含有量が増量され、洗浄温度すなわち金属酸洗浄液の液温が90℃以上の高温域に設定される。このような高酸濃度の金属酸洗浄液による高温域での酸洗では、金属素地の溶解速度が大きくなる。特に、金属酸洗浄液が高濃度の硫酸を含む場合には、溶解速度の増大が顕著である。したがって、高酸濃度および高温という過酷な酸洗条件下でも、特許文献3および4の腐食抑制剤よりも腐食抑制効果がさらに高く、金属素地の溶解を充分に防止できる腐食抑制剤が望まれる。また、前記のような過酷な酸洗条件下でも、金属素地を損傷させることなく、スケールや錆のみを選択的にかつ短時間で除去し得る金属酸洗浄液が望まれる。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−037988号公報
【特許文献2】特開平11−050280号公報
【特許文献3】特開2000−54171号公報
【特許文献4】特開2000−96049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高酸濃度および高温という過酷な酸洗条件下でも、金属素地の溶解防止効果すなわち腐食抑制効果が高く、酸洗速度を遅らせることが非常に少ない腐食防止剤、該腐食防止剤を含む金属酸洗浄液ならびに該金属酸洗浄液を用いる金属の酸洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、イミダゾリウム系4級アンモニウム塩100重量部に対してポリアミン化合物10〜100重量部(10重量部以上、100重量部以下)および有機硫黄化合物10〜100重量部(10重量部以上、100重量部以下)を含み、金属用酸洗浄液に添加されることを特徴とする腐食抑制剤である。
【0008】
また本発明の腐食抑制剤は、イミダゾリウム系4級アンモニウム塩が、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムハライド)−2,2’−オクタンおよび/または2−ウンデシル−1−ヒドロキシアルキル−1−ベンジルイミダゾリウムハライドであることを特徴とする。
【0009】
さらに本発明の腐食抑制剤は、ポリアミン化合物が、一般式(1)で表されるポリアミン化合物および一般式(2)で表されるポリアミンスルホンから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする。
【0010】
【化3】

【0011】
〔式中、3つのRは同一または異なって炭素数1〜3のアルキレン基を示す。nは2以上の整数を示す。〕
【0012】
【化4】

【0013】
〔式中nは前記に同じ。2つのRは同一または異なって水素原子またはメチル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。〕
【0014】
さらに本発明の腐食抑制剤は、有機硫黄化合物が、チオ尿素化合物、チオカルボン酸化合物およびチオアルコール化合物から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする。
【0015】
さらに本発明の腐食抑制剤は、金属用酸洗浄液が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸およびフッ酸から選ばれる1種または2種以上の酸を含む酸水溶液であることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、酸水溶液1リットルに対し、前述のいずれか1つの腐食抑制剤0.1mg〜50g(0.1mg以上、50g以下)を含有することを特徴とする金属酸洗浄液組成物である。
【0017】
さらに本発明の金属酸洗浄液組成物は、酸水溶液が硫酸水溶液であることを特徴とする。
【0018】
さらに本発明の金属酸洗浄液組成物は、硫酸水溶液が、硫酸濃度10〜50重量%(10重量%以上、50重量%以下)および液温90℃以上であることを特徴とする。
【0019】
また本発明は、金属表面に前述のいずれか1つの金属酸洗浄液組成物を接触させることを特徴とする金属の酸洗浄方法である。
【0020】
さらに本発明の金属の酸洗浄方法は、金属表面への前述のいずれか1つの金属酸洗浄液組成物の接触方法が、金属表面への該金属酸洗浄液組成物の吹き付けまたは金属の該金属酸洗浄液組成物への浸漬であることを特徴とする。
さらに本発明の金属の酸洗浄方法は、金属が鉄または銅を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、イミダゾリウム系4級アンモニウム塩100重量部と、ポリアミン化合物10〜100重量部と、有機硫黄化合物10〜100重量部とを含み、金属用酸洗浄液に添加される腐食抑制剤が提供される。本発明の腐食抑制剤は、高酸濃度および高温という過酷な酸洗条件下でも、特に酸が硫酸であっても、金属素地の溶解防止効果すなわち腐食抑制効果が高く、酸洗速度を遅らせることが非常に少ない。したがって、その工業的な利用価値は大きい。前記3種の化合物の特定量が存在する水系では、該水系が90℃以上の高温に加熱されても、また該水系内に酸が高濃度で存在しても、前記3種の化合物の相乗作用によって前記3種の化合物が安定的に存在し、かつ酸洗速度を遅らせることなく、金属素地の腐食を防止できる。
【0022】
本発明によれば、イミダゾリウム系4級アンモニウム塩としては、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムハライド)−2,2’−オクタンおよび2−ウンデシル−1−ヒドロキシアルキル−1−ベンジルイミダゾリウムハライドが好ましい。これらのイミダゾリウム系4級アンモニウム塩を用いれば、本発明の腐食抑制剤の効果が特に良好である。また、これらのイミダゾリウム系4級アンモニウム塩は水系特に高温水系での安定性に優れ、分解、沈殿などを起さないので、他成分であるポリアミン化合物および有機硫黄化合物とともに金属酸洗浄液中にて安定に存在する。さらに、金属酸洗浄液のスケール、錆などの除去性能を損なうことがない。したがって、金属酸洗浄液に添加した状態でも長期的な保存が可能である。
【0023】
本発明によれば、ポリアミン化合物としては、一般式(1)で表されるポリアミン化合物(以後「ポリアミン化合物(1)」と称す)および一般式(2)で表されるポリアミンスルホン(以後「ポリアミンスルホン(2)」と称す)が好ましい。これらのポリアミン化合物はイミダゾリウム系4級アンモニウム塩と相乗的に金属表面のスケール、錆などに作用するので、金属表面の腐食抑制効果が大きい。さらに、水系特に高温水系での安定性などにも優れる。
【0024】
本発明によれば、有機硫黄化合物として、チオ尿素化合物、チオカルボン酸化合物およびチオアルコール化合物が好ましい。これらの有機硫黄化合物はイミダゾリウム系4級アンモニウム塩と相乗的に金属表面のスケール、錆などに作用するので、金属表面の腐食抑制効果が大きい。さらに、水系特に高温水系での安定性などにも優れる。
【0025】
本発明によれば、本発明の腐食抑制剤の効果が充分に発揮される金属用酸洗浄液としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸およびフッ酸から選ばれる1種または2種以上の酸を含む酸水溶液が挙げられる。
【0026】
本発明によれば、酸水溶液1リットルに対して、本発明の腐食抑制剤を0.1mg〜50g含有させることによって、酸水溶液に含まれる酸の種類および酸濃度に影響を受けることなく、本発明の腐食抑制剤の効果が最大限に発揮される。また、酸洗後の金属表面が適度な粗面になるので、めっき皮膜、塗膜などの密着性が向上し、めっきむら、塗装むらなどが非常に発生し難い。
【0027】
本発明によれば、本発明の腐食抑制剤は、スケール、錆などの除去性能が非常に高い硫酸水溶液に添加すると、該硫酸水溶液が10〜50重量%という高硫酸濃度であっても、また該硫酸水溶液の液温が90℃以上の高温であっても、その腐食抑制効果を特に顕著に発揮する。本発明の腐食抑制剤と硫酸水溶液との組み合わせによって、短い酸洗時間で、スケールおよび錆が付着しない部分の金属素地を腐食させることなく、金属表面のスケールおよび錆のみを選択的に除去できる。
【0028】
本発明によれば、本発明の金属酸洗浄液組成物を用いて金属を酸洗するには、金属表面を本発明の金属酸洗浄液組成物に接触させればよい。それによって、金属表面のスケールおよび錆が効率的に除去される。接触方法には、金属表面への金属酸洗浄液組成物の吹き付け、金属の金属酸洗浄液組成物への浸漬などがある。これらの接触方法を採用すれば、工業的な規模での酸洗が可能であり、金属表面を均一にかつ効率的に酸洗できる。
【0029】
本発明によれば、本発明の金属酸洗浄液組成物を用いる酸洗浄方法は、被酸洗金属が鉄または銅を含む金属である場合に特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の腐食抑制剤は、イミダゾリウム系4級アンモニウム塩100重量部と、ポリアミン化合物10〜100重量部と、有機硫黄化合物10〜100重量部とを含む。本発明の腐食抑制剤は、金属酸洗浄液に添加して用いられる。
【0031】
イミダゾリウム系4級アンモニウム塩としては公知のものを使用でき、1−ヒドロキシ−1−エチル−2−ステアリルイミダゾリウムエトサルフェート、1−ヒドロキシ−1−エチル−2−ステアリルイミダゾリウムクロライド、1−ヒドロキシ−1−エチル−2−ステアリルイミダゾリウムブロマイド、1−ヒドロキシ−1−エチル−2−ステアリルイミダゾリウムアイオダイド、1−ヒドロキシ−1−エチル−2−ステアリルイミダゾリウムフルオライド、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムエトサルフェート、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムクロライド、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムブロマイド、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムアイオダイド、1−ドデシル−2−メチル−3−ベンジルイミダゾリウムフルオライド、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾリウムエトサルフェート、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾリウムクロライド、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾリウムブロマイド、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾリウムアイオダイド、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾリウムフルオライド、2−ウンデシル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムエトサルフェート、2−ウンデシル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムクロライド、2−ウンデシル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムブロマイド、2−ウンデシル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムアイオダイド、2−ウンデシル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムフルオライド、2−アビエチル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムエトサルフェート、2−アビエチル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムクロライド、2−アビエチル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムブロマイド、2−アビエチル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムアイオダイド、2−アビエチル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムフルオライド、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムエトサルフェート)−2,2’−オクタン、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムクロライド)−2,2’−オクタン、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムブロマイド)−2,2’−オクタン、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムアイオダイド)−2,2’−オクタン、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムフルオライド)−2,2’−オクタンなどが挙げられる。これらの中でも、腐食抑制効果の大きさ、高温水系での安定性などを考慮すると、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリニウムハライド)−2,2’−オクタン、2−ウンデシル−1−ヒドロキシアルキル−1−ベンジルイミダゾリニウムハライドなどが好ましく、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムクロライド)−2,2’−オクタンまたは2−ウンデシル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムクロライドなどがさらに好ましい。イミダゾリウム系4級アンモニウム塩は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。
【0032】
ポリアミン化合物としても公知のものを使用でき、たとえば、下記一般式(1)〜(9)の各種ポリアミン化合物が挙げられる。
【0033】
[ポリアミン化合物(1)]
【化5】

〔式中nおよびRは前記に同じ。〕
【0034】
[ポリアミンスルホン(2)]
【化6】

〔式中n、RおよびXは前記に同じ。〕
【0035】
[一般式(3)で表されるポリビニルカチオン樹脂]
【化7】

【0036】
〔式中n、RおよびXは前記に同じ。3つのRは同一でも異なっていてもよい。Rメチレン基、エチレン基、基−Ph−CH−(Phはフェニレン基である)または基−CO−OCHCH−を示す。〕
【0037】
[一般式(4)で表されるポリアルキレンポリアミン]
N[−R−NH−]H …(4)
〔式中Rおよびnは前記に同じ。〕
【0038】
[一般式(5)で表されるポリアミン化合物]
【化8】

〔式中nは前記に同じ。Rはピリジル基またはアミノメチル基を示す。〕
【0039】
[一般式(6)で表される芳香族ポリアミン]
【化9】

〔式中nは前記に同じ。〕
【0040】
[一般式(7)で表される芳香族ポリアミン]
【化10】

【0041】
[一般式(8)で表されるポリアミン]
【化11】

〔式中R、Xおよびnは前記に同じ。〕
【0042】
[一般式(9)で表されるポリアミン化合物]
【化12】

〔式中Rおよびnは前記に同じ。mは1〜4の整数を示す。〕
【0043】
一般式(1)、(4)および(9)において、符号Rで示される炭素数1〜3のアルキレン基としては、たとえば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基などの炭素数1〜3の直鎖アルキレン基が挙げられる。一般式(2)、(3)および(8)において、符号Xで示されるハロゲン原子としては、たとえば、塩素、フッ素、臭素、沃素などが挙げられる。また、一般式(1)〜(9)において、nは好ましくは2〜6000である。
【0044】
これらのポリアミン化合物の中でも、腐食抑制効果の大きさ、高温水系での安定性などを考慮すると、ポリアミン化合物(1)、ポリアミンスルホン(2)などが好ましく、ポリアミン化合物(1)の1種であるポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン(2)の1種であるポリアミンスルホン酸、ポリアリルアミンなどが特に好ましい。本発明の腐食防止剤におけるポリアミン化合物の配合量は、イミダゾリウム系4級アンモニウム塩100重量部に対して10〜100重量部、好ましくは20〜100重量部である。ポリアミン化合物の配合量が10重量部未満では本発明腐食防止剤の腐食防止効果が不充分になるおそれがあり、100重量部を超えて配合しても、腐食防止効果のそれ以上の向上が少ないので、作業性、経済性の面などで好ましくない。
【0045】
有機硫黄化合物としても公知のものを使用でき、たとえば、チオ尿素化合物、チオカルボン酸化合物、チオアルコール化合物、チオ芳香族化合物、チオ複素環化合物、チオアミド化合物、スルホン酸化合物、スルホキシド化合物、スルフィン酸化合物、スルホン化合物、クリオキザール重亜硫酸ナトリウムなどが挙げられる。チオ尿素化合物の具体例としては、たとえば、チオ尿素、エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、フエニルチオ尿素、トリルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、S−メチルチオ尿素、N−メチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、メチルイソチオ尿素、二酸化チオ尿素、グアニルチオ尿素、ベンジルイソチオ尿素、ジイソブチルチオ尿素などが挙げられる。チオカルボン酸化合物の具体例としては、たとえば、チオグリコール酸、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸ナトリウム、チオ酢酸、3,3−チオジプロピオン酸、メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸−3−メトキシブチル、β−メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシル、3,3−ジチオジプロピオン酸、チオジグリコール酸、ジチオジグリコール酸ジアンモニウム、チオ乳酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトブチル酸、チオシアン酸ベンジルなどが挙げられる。チオアルコール化合物の具体例としては、たとえば、チオグリセロール、チオグリコール(エチレンチオグリコール)、β−チオプロピロール、トリグリコールジメルカプタン、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート、ペンタエリストールテトラキスチオグリコレート、2,2−ジチオエタノール、エチレングリコールジチオグリコレート、チオジグリコールなどが挙げられる。チオ芳香族化合物の具体例としては、たとえば、チオフェノール、ベンジルメルカプタン、チオ安息香酸、チオサリチル酸、2−アミノチオフェノールなどが挙げられる。チオ複素環化合物の具体例としては、たとえば、2−メルカプトイミダゾリン、2−メルカプトベンゾチアゾール、2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジンなどが挙げられる。チオアミド化合物の具体例としては、たとえば、チオアセトアミド、イソチアン酸アミド、ジエチルチオカルバミン酸ナトリウム、p−ジエチルチオカルバミン酸ナトリウムなどが挙げられる。スルホン酸化合物の具体例としては、たとえば、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸などが挙げられる。スルホキシド化合物の具体例としては、ジメチルスルホキシド、ブタンジスルホキシド、ベンゼンスルホキシド、ピリジンスルホキシドなどが挙げられる。スルフィン酸化合物の具体例としては、たとえば、ブタンスルフィン酸、ベンジンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸、ピリジンスルフィン、ベンゼンスルフィン酸アンモニウム、トルエンスルフィン酸アンモニウム、ベンゼンスルフィン酸エチル、塩化ベンゼンスルフィン酸フィニル、N−メチルベンゼンスルフィニルアミド、ブタンスルフェニルクロライド、塩化ベンゼンスルフェニル、ピリジンスルフェニルクロライド、ベンゼンスルフィン酸などが挙げられる。スルホン化合物の具体例としては、たとえば、ブタンジスルホン、ジフェニルスルホン、p−トルエンスルホンヒドラジン、ジビリジンスルホン1−チオグリセロールなどが挙げられる。これらの有機硫黄化合物の中でも、腐食抑制効果の大きさ、高温水系での安定性などを考慮すると、チオ尿素化合物、チオカルボン酸化合物、チオアルコール化合物などが好ましく、チオ尿素、チオグリコール酸、β―メルカプトプロピオン酸、1−チオグリセロール、エチレングリコールジチオグリコレートなどが特に好ましい。有機硫黄化合物は1種を単独で使用できまたは2種以上を併用できる。本発明の腐食防止剤における有機硫黄化合物の配合量は、イミダゾリウム系4級アンモニウム塩100重量部に対して10〜100重量部、好ましくは20〜100重量部である。有機硫黄化合物の配合量が10重量部未満では、腐食抑制効果が不充分になるおそれがある。一方有機硫黄化合物の配合量が100重量部を超えて配合しても、腐食防止効果のそれ以上の向上が少ないので、作業性、経済性の面などで好ましくない。
【0046】
本発明の腐食抑制剤は、たとえば、必須成分であるイミダゾリウム系4級アンモニウム塩、ポリアミン化合物および有機硫黄化合物のそれぞれの所定量を混合することによって製造できる。得られる腐食抑制剤はそのままの形態で用いてもよくまたは水で希釈した水溶液もしくは水分散液の形態で用いてもよい。また、使用時に前記3種の化合物の所定量を混合してもよく、混合してものを保存してもよい。さらに、使用時に前記3種の化合物の所定量を別々に金属酸洗浄液に添加混合してもよい。
【0047】
本発明の金属酸洗浄液組成物は、金属酸洗浄液と本発明の腐食抑制剤とを含む。金属酸洗浄液としては従来から使用されるものをいずれも使用でき、たとえば、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、リン酸、スルファミン酸、フッ酸などの有機酸の1種または2種以上の酸を含む酸水溶液が挙げられる。これらの中でも、硫酸を含む酸水溶液が好ましく、硫酸水溶液が特に好ましい。硫酸水溶液における硫酸濃度は特に制限はないけれども、好ましくは硫酸水溶液全量の10〜50重量%、さらに好ましくは硫酸水溶液全量の15〜30重量%である。硫酸濃度が10重量%未満では、硫酸による金属表面のスケール、錆などの除去に長時間を要するおそれがある。一方、硫酸濃度が50重量%を超えると、本発明の腐食抑制剤を添加しても、金属表面の腐食が進み過ぎるおそれがある。なお、金属酸洗浄液には、該金属酸洗浄液に含まれる酸と同種の酸の塩を含んでもよい。たとえば、金属酸洗浄液が硫酸水溶液である場合は、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウムなどの1種または2種以上の硫酸塩を含んでもよい。硫酸塩の種類は、通常は、酸洗の対象になる金属の金属種と同じになるように決定される。
【0048】
本発明の腐食抑制剤の金属酸洗浄液への添加量は、金属酸洗浄液(酸水溶液)1リットルに対して、0.1mg〜50g、好ましくは1〜20gである。添加量が0.1mg未満では腐食抑制効果が充分に発揮されないおそれがある。一方50gを超えて添加しても、腐食防止効果のそれ以上の向上が少ないので、作業性、経済性の面などで好ましくない。本発明の腐食抑制剤を金属酸洗浄液に添加するに際しては、所定量の腐食抑制剤を添加してもよく、また、所定量よりも多い腐食抑制剤を添加し、水で希釈して濃度を調整してもよい。また、本発明の腐食抑制剤と金属酸洗浄液とを均一に混合するために、有機溶剤、界面活性剤などの適量を添加してもよい。有機溶剤および界面活性剤の種類および添加量は、本発明の腐食抑制剤に含まれる各成分の種類と含有量、金属酸洗浄液に含まれる酸の種類および濃度、金属酸洗浄液の設定液温などの各種条件に応じて適宜選択される。有機溶剤および/または界面活性剤は、予め本発明の腐食抑制剤と混合しておき、これと金属酸洗浄液とを混合してもよく、また有機溶剤および/または界面活性剤と、本発明の腐食抑制剤を別々に金属酸洗浄液と混合してもよい。界面活性剤としては特に制限されないけれども、たとえば、アルキル(C12)ベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤を好ましく使用できる。このようにして、本発明の金属酸洗浄液組成物が得られる。本発明の金属酸洗浄液組成物は、各種金属の酸洗浄に使用できるけれども、鉄および/または銅を含む金属(合金をも含む)の酸洗浄に特に好適に使用できる。具体的には、たとえば、鉄鋼、銅、銅合金などが挙げられる。鉄鋼には普通鋼、特殊鋼などがあり、それぞれの鋼について熱間圧延製品、冷間圧延製品、電磁鋼板、鋳造品、鍛造品などがある。鉄合金としては、たとえば、高張力鋼、高速度鋼、刃物鋼、ステンレス鋼、マルエージング鋼、インバー、コバール、センダスト、パーメンデュール、KS鋼、スピーゲルアイゼンなどが挙げられる。銅合金としては、たとえば、タフピッチ銅、丹銅、黄銅、快削黄銅、りん青銅、洋白、ベリリウム銅、トムパック、赤銅、白銅、コンスタン、ノルディックゴールドなどが挙げられる。
【0049】
本発明の金属酸洗浄方法は、酸洗処理を施そうとする金属の表面に本発明の金属酸洗浄液組成物を接触させることによって行われる。接触方法としては特に制限されないけれども、酸洗浄を効率的に実施することを考慮すると、たとえば、金属表面に本発明の金属酸洗液組成物を噴霧する方法、本発明の金属酸洗浄液組成物に金属を浸漬する方法などが挙げられる。このとき、金属酸洗浄液組成物の液温は特に制限されないけれども、好ましくは20〜85℃である。本発明の金属酸洗浄液組成物に含まれる金属酸洗浄液が硫酸水溶液であれば、液温は90℃以上、好ましくは90〜98℃である。
【実施例】
【0050】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。なお、以下において、「%」は「重量%」を意味する。
【0051】
(実施例1〜9)
水1リットルに硫酸300gと硫酸第1鉄(硫酸第1鉄イオンとして50g)とを溶解し金属酸洗浄液を調製した。この金属酸洗浄液に、表1に示すイミダゾリウム系4級アンモニウム塩、ポリアミン化合物および有機硫黄化合物をそれぞれ100mgずつ含む本発明の腐食抑制組成物を添加し、本発明の金属酸洗浄液組成物を調製した。この金属酸洗状液組成物における表1に示す前記3種の成分の濃度は100ppmである。
【0052】
なお、表1において、実施例1〜6および比較例3〜4のポリアミン化合物は、ポリアミン化合物(1)において、3つのRがメチレン基であり、数平均分子量75万のポリエチレンイミンである。実施例7のポリアミン化合物は、一般式(3)のポリビニルカチオン樹脂において、3つのRがいずれも水素原子、Rがメチレン基およびXが塩素原子であり、数平均分子量15000のポリアリルアミンである。実施例8のポリアミン化合物は、ポリアミンスルホン(2)において、Rがメチル基およびXが塩素原子であり、数平均分子量5000であるポリアミンスルホンである。実施例9のポリアミン化合物は、ポリアミンスルホン(2)において、Rが水素原子およびXが塩素原子であり、数平均分子量10000であるポリアミンスルホンである。数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算法により算出した。ただし、GPCカラムとしてポリスチレン架橋ゲルを充填したもの(たとえば、shodexGPCK−804;昭和電工(株)製)、GPC溶媒としてクロロホルムを用いた。また表1において、イミダゾリウム系4級アンモニウム塩(A)は1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムクロライド)−2,2’−オクタンであり、イミダゾリウム系4級アンモニウム塩(B)は2−ウンデシル−1−ヒドロキシエチル−1−ベンジルイミダゾリウムクロライドである。
【0053】
上記で得られた本発明の金属酸洗浄液組成物を95℃に加熱し、熱間圧延鋼板を3cm×5cmに切断した試験片を10分間浸漬した。浸漬前後試験片の重量および浸漬前の試験片表面積を測定し、下記式に基づいて腐食量(mg/cm)を求めた。結果を表1に併記する。
腐食量(mg/cm)=(X−Y)/Z
〔式中Xは浸漬前の試験片重量(mg)である。Yは浸漬後の試験片重量(mg)である。Zは浸漬前の試験片面積(cm)である。〕
【0054】
(比較例1)
本発明の腐食抑制剤を添加しない金属酸洗浄液を用いる以外は、実施例1と同様にして試験片(3cm×5cm、熱間圧延鋼板)の浸漬を行い、腐食量を求めた。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例2)
(B)のポリアミン化合物を用いない以外は、実施例1と同様にして試験片(3cm×5cm、熱間圧延鋼板)の浸漬を行い、腐食量を求めた。結果を表1に示す。
【0056】
(比較例3)
(C)の有機硫黄化合物を用いない以外は、実施例1と同様にして試験片(3cm×5cm、熱間圧延鋼板)の浸漬を行い、腐食量を求めた。結果を表1に示す。
【0057】
(比較例4)
(A)のイミダゾリウム系4級アンモニウム塩用いない以外は、実施例1と同様にして試験片(3cm×5cm、熱間圧延鋼板)の浸漬を行い、腐食量を求めた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1から、本発明の腐食抑制剤が、金属酸洗時における腐食抑制効果に優れることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イミダゾリウム系4級アンモニウム塩100重量部に対してポリアミン化合物10〜100重量部および有機硫黄化合物10〜100重量部を含み、金属用酸洗浄液に添加されることを特徴とする腐食抑制剤。
【請求項2】
イミダゾリウム系4級アンモニウム塩が、1,8−ビス(1−ヒドロキシ−1−ベンジルイミダゾリウムハライド)−2,2’−オクタンおよび/または2−ウンデシル−1−ヒドロキシアルキル−1−ベンジルイミダゾリウムハライドであることを特徴とする請求項1記載の腐食抑制剤。
【請求項3】
ポリアミン化合物が、一般式(1)で表されるポリアミン化合物および一般式(2)で表されるポリアミンスルホンから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または2記載の腐食抑制剤。
【化1】

〔式中、3つのRは同一または異なって炭素数1〜3のアルキレン基を示す。nは2以上の整数を示す。〕
【化2】

〔式中nは前記に同じ。2つのRは同一または異なって水素原子またはメチル基を示す。Xはハロゲン原子を示す。〕
【請求項4】
有機硫黄化合物が、チオ尿素化合物、チオカルボン酸化合物およびチオアルコール化合物から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の腐食抑制剤。
【請求項5】
金属用酸洗浄液が、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、スルファミン酸およびフッ酸から選ばれる1種または2種以上の酸を含む酸水溶液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の腐食抑制剤。
【請求項6】
酸水溶液1リットルに対し、請求項1〜4のいずれか1つの腐食抑制剤0.1mg〜50gを含有することを特徴とする金属酸洗浄液組成物。
【請求項7】
酸水溶液が硫酸水溶液であることを特徴とする金属酸洗浄液組成物。
【請求項8】
硫酸水溶液が、硫酸濃度10〜50重量%および液温90℃以上であることを特徴とする請求項6または7記載の金属酸洗浄液組成物。
【請求項9】
金属表面に請求項6〜8のいずれか1つの金属酸洗浄液組成物を接触させることを特徴とする金属の酸洗浄方法。
【請求項10】
金属表面への請求項6〜8のいずれか1つの金属酸洗浄液組成物の接触方法が、金属表面への該金属酸洗浄液組成物の吹き付けまたは金属の該金属酸洗浄液組成物への浸漬であることを特徴とする請求項9記載の金属の酸洗浄方法。
【請求項11】
金属が鉄または銅を含むことを特徴とする請求項9または10記載の金属の酸洗浄方法。

【公開番号】特開2007−302986(P2007−302986A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135821(P2006−135821)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000213840)朝日化学工業株式会社 (47)
【Fターム(参考)】