説明

腹膜透析及び潅流用ラージポアカテーテル

【課題】 腹膜透析や腹膜潅流を実施するにあたり、腹腔内への透析液の注入、また腹腔内からの透析液の排出に要する時間を短縮することが出来る腹腔留置内カテーテルを提供する。
【解決手段】 腹腔留置カテーテルの径を4.5〜6.0mmとし、腹腔内留置部に内径が0.5mmから2.5mmの範囲内で段階的に変化する側孔を有する、または1.0mmから2.0mmの範囲で均一の側孔有することでカテーテル内における透析液の流速を高め、腹腔内への透析液の注入、また腹腔内からの透析液の排出に要する時間を短縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカテーテルに関するものである。より詳細には、腹膜透析療法に好適なカテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
腹膜透析(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:略称CAPD)は、腹腔内に透析液を貯留し、透析液に血液中の毒素や余分な水分を移行させ、それを1日に複数回入れ替えることによって体内の毒素や余分な水分を体外に排出することで腎臓の働きを補完するものである。血液透析と比べ、生体内で長時間かけて透析を行うために循環器に与える影響が少ないという点、また透析実施時の拘束時間が短いという点で有用な治療法である。
【0003】
腹膜透析の実施においては、腹腔内に留置する腹膜潅流カテーテルが必須である。このカテーテルは内径1.0mmから3.5mmの可撓性を有するチューブであり、先端部には直径0.01μmから1.0mmの排液用の側孔を少なくとも一つ以上備えている。該カテーテルは、腹腔内に留置して使用され、感染防止の役割を担う多孔質のカフを備えていることもある。(特許文献1乃至5)
【0004】
実際に透析患者の体内に腹膜潅流カテーテルを留置する際、図3に示すようにカテーテルと薬液を貯留したバッグを接続するための延長チューブ(エキステンションチューブともいう)を使用する。エキステンションチューブとカテーテルの接続にはチタンなどの金属製のアダプターを使用する。
【0005】
腹膜潅流カテーテルにおいてはこれまでに様々な改良が行われてきた。例えば特許文献4においては、側孔を廃止する代わりにカテーテルの先端部を切込み溝によって複数に分割することで腹腔内容物による閉塞を予防したカテーテルや、カテーテル本体に複数の補強部分を設けることでカテーテル出口部からの感染を防止するカテーテルが記載されている。
【0006】
また特許文献5においては、側孔列をカテーテルの先端部分に備え、かつ前記側孔の直径より狭い1本の溝を側孔列のそれぞれに対応させて前期先端部分の外周面に形成することで、一つの側孔が閉塞されても他の側孔より排液を実施できるカテーテルが記載されている。
【0007】
しかし、これまでにカテーテルの内径・側孔の内径を変化させることで腹膜透析時の腹腔内への透析液の注液や貯留後の排液の操作、特に排液に要する時間が影響するかについての詳細な検討や研究は行われていない。腹膜透析を実施している患者にとって、注排液の操作は必須であり、注液操作には平均して10分程度、排液操作には平均して30分から40分程度かかる。その間患者の行動は制限されるため、日常生活において問題となっている。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−79466号公報
【特許文献2】特開平8−266616号公報
【特許文献3】特開平9−313602号公報
【特許文献4】特開2003−250902号公報
【特許文献5】特許3272716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、腹膜透析時の腹腔内への注排液時の流量を増大させることで、注排液に要する時間を短縮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は前記留置部に軸方向に連なる側孔列を備え、それぞれの側孔の内径が留置部から突出部の方向に向かって0.5mmから2.5mmの範囲で徐々に大きくなる側孔を有する、または側孔の内径が1.0mmから2.0mmの範囲で均一であるカテーテルを提供する。従来好適とされてきた側孔の内径より大幅に大きい内径を備えることで、カテーテル内に取り込む透析液の量を増やし、流量の増加を図るものである。
【0011】
また、本発明においては、側孔の内径を上記の規格に設定してもカテーテル本体の強度を保てるように、また、カテーテル内の透析液の流量をより多く確保するために、カテーテルの中央部の内径を4.5mmから6.0mmの範囲で成形することを特徴とする。
【0012】
また、本発明によるカテーテルは、図7から図9において示すように、金属製のアダプターの内径を変更することなく使えるよう、両端若しくはいずれかの先端から少なくとも20mmの範囲における内径が1.5mmから3.5mmに設定されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記のカテーテルを用いて腹腔内への注排液を行うことでカテーテル内における透析液の流量を高めることが可能となり、腹膜透析時の注排液操作に要する時間が短縮される。透析に要する時間が短縮されることで腹膜透析患者の日常生活の時間に余裕が生まれ、腹膜透析患者のQOLの向上が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について図面と共に詳細に説明する。
【0015】
本実施の形態のカテーテルは、内径が4.5mmから6.0mm、外径が6.5mmから9.0mmの両端部が開口した単管チューブで構成され、腹腔内に留置される腹腔内留置部と腹部外壁より外部に突出されて透析液が貯留されたバッグにつながる突出部とを備えている。なお、カテーテルは可撓性があり生体適合性に優れた物質(シリコンゴムなど)で形成されることが望ましい。またカテーテルの全長は、小児への使用やカテーテルの体内への留置方法などを考慮して、300mmから900mm程度が望ましい。
【0016】
前期留置部には、図1に示すように留置部から突出部の方向に向かって内径が0.5mmから2.5mmの範囲で徐々に大きくなる排液用貫通孔である側孔、または図2に示すように1.0mmから2.0mmの大きさで均一の内径の排液用貫通孔である側孔が該カテーテルに対し直径方向に貫通する形で多数穿設されている。前記側孔は該カテーテルの軸方向に沿って列をなす形で一定の間隔を隔てて穿設されてもよい。また、前記側孔の列が複数あってもよい。
【実施例】
【0017】
本発明品と従来の腹膜潅流カテーテル(シリコンゴム製、カテーテル内径約3.0mm、側孔内径0.5から1.0mm)につき、カテーテル内における透析液の流速の比較検討を行った。
【0018】
前記のとおり、腹膜潅流カテーテルを使用する場合には必ずエキステンションチューブを接続する。そこで、本発明品と従来の腹膜潅流カテーテルにそれぞれ同じ規格のエキステンションチューブを接続し、流量に差が生じるかについて検討を行った。単にカテーテル内径、および側孔の内径による流速の違いであれば金属性アダプターまたはエキステンションチューブの径が律速となるため、カテーテルを変えてもチューブ内の流速は変わらないはずである。
【0019】
まず、従来の腹膜潅流カテーテルと本発明による腹膜潅流カテーテルそれぞれに、現在広く使用されているエキステンションチューブ(チューブ内径3.0mm)をチタニウムアダプター(通液部内径3.0mm)を用いて接続し、透析液の流速の比較を行った。In Vitroで流速の比較を行った結果、図4に示すとおり本発明品の流速は従来品と比較して1.5倍程度増加した。
【0020】
次に、従来の腹膜潅流カテーテルと本発明による腹膜潅流カテーテルそれぞれに内径5.0mmのエキステンションチューブをチタニウムアダプター(通液部内径3.0mm)を用いて接続し、透析液の流速の比較を行った。In Vitroで流速の比較を行った結果、図4に示すとおり本発明品の流速は従来品の流速と比較して1.6から1.7倍程度増加した。
【0021】
次に、従来の腹膜潅流カテーテルと本発明による腹膜潅流カテーテルそれぞれに内径5.0mmのエキステンションチューブを金属性アダプターを用いずに直接接続し、透析液の流速の比較を行った。In Vitroで流速の比較を行った結果、図4に示すとおり本発明品の流速は従来品と比較して1.6から1.7倍程度増加した。
【0022】
【表1】

(単位:ml/分)
【0023】
以上の結果より、エキステンションチューブの径に関わらず、本発明品の方が従来の腹膜潅流カテーテルと比較して流速が増大するということが認められた。
【0024】
以上より、本発明品を使用して腹膜透析液の注排液を行うと、従来品と比較して流速の増加が認められるということが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態の側面図である。
【図2】本発明の実施の形態における別の例の側面図である。
【図3】実施例における、腹膜潅流カテーテルにエキステンションチューブを接続した場合の概略図である。
【図4】本発明の実施の形態における他の例を表す図である。
【図5】本発明の実施の形態における他の例を表す図である。
【図6】本発明の実施の形態における他の例を表す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 腹膜潅流カテーテル本体
11 腹腔内留置部
12 突出部
13 側孔
14 カフ
2 エキステンションチューブ
3 金属性アダプター
4 薬液バッグ先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹腔内に留置される腹腔内留置部と腹部外壁より外部に露出される突出部からなり、カテーテルの中央部が4.5mmから6.0mmの内径を有するカテーテルであって、生体適合性材料にて成形され、前記留置部に内径が0.5mmから2.5mmの範囲内で段階的に変化する側孔を有する、または内径が1.0mmから2.0mmの範囲で均一の側孔を有するカテーテル。
【請求項2】
前記カテーテルにおいて、一方の先端から少なくとも20mmの範囲における内径が1.5mmから3.5mmである、請求項1に記載のカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−117256(P2007−117256A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310990(P2005−310990)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】