説明

膀胱がん特異的なリガンドペプチド

本発明は、アミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)を含む膀胱がん特異的なリガンドペプチド、ならびに、例えば、膀胱の診断のための画像化検出、経尿道的膀胱がん切除術をガイドするための腫瘍局在、費用のかかる膀胱鏡検査に代わりうるまたはそれを補完しうる初期処置後の経過観察のための膀胱がんの画像化検出、転移性膀胱がんの画像化検出、および表在性かつ転移性の膀胱がんの標的療法のための、その使用の方法に向けられる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2009年9月24日付で出願された米国仮特許出願第61/245,492号の恩典を主張するものであり、その全内容が全ての目的で参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、アミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)を含む膀胱がん特異的なリガンドペプチド、ならびに、例えば、膀胱の診断のための画像化検出、経尿道的膀胱がん切除術をガイドするための腫瘍局在、費用のかかる膀胱鏡検査に代わりうるまたはそれを補完しうる初期処置後の経過観察のための膀胱がんの画像化検出、転移性膀胱がんの画像化検出、および表在性かつ転移性膀胱がんの標的療法のための、その使用の方法に向けられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
膀胱がんは、男性では4番目および女性では9番目に最も多く見られるがんである(Jemal, et al., Cancer J Clin, (2008) 58: 71-96(非特許文献1))。診断時に、患者の約75%が非侵襲段階にある(Fleming, et al., AJCC (American Joint Committee on Cancer) Cancer Staging Manuel, 5th ed., 5th edition. Philadelphia: Lippincott-Raven, 1997(非特許文献2))。処置は、通常、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)の後にカルメットゲラン菌(Bacillus Calmette-Guerin; BCG)またはマイトマイシンCの膀胱内注入療法が行われて、再発を低減する。この処置にもかかわらず、患者の20〜80%が再発し、25%には疾患の進行がある(Herr, et al., J Clin Oncol, (1995) 13: 1404-1408(非特許文献3); Herr, et al., J Urol, (1989) 141: 22-29(非特許文献4); およびCookson, et al., J Urol, (1997) 158: 62-67(非特許文献5))。これらの患者の全てが尿細胞診および膀胱鏡検査による長期の経過観察を要する。尿細胞診の感度は29〜74%に及び、およそ35%の全体感度を有する(Eissa, et al., Curr Opin Obstet Gynecol, (2003) 15: 395-403(非特許文献6); van Rhijn, et al., Eur Urol, (2005) 47: 736-748(非特許文献7); およびLotan, et al., Urology, (2003) 61: 109-118(非特許文献8))。膀胱鏡検査は侵入性で、不快であり、かつ費用がかかる。長期生存および生涯にわたるモニタリングの必要性のため、膀胱がん1症例あたりの費用は全てのがん種のなかで最も高く、1症例あたり$96,000〜$187,000 (2001年値)に及んでいる(Riley, et al., Med Care, (1995) 33: 828-841(非特許文献9); Botteman, et al., Pharmacoeconomics, (2003) 21: 1315-1330(非特許文献10))。
【0004】
本発明は、一つには、膀胱がんの診断、処置および経過観察中の画像化および標的療法に向けた膀胱がん特異的なリガンドを開発するためのコンビナトリアル化学技術の使用に基づく。1ビーズ1化合物コンビナトリアルペプチドライブラリ技術(OBOC) (Lam, et al., Nature, (1991) 354: 82-84, 1991(非特許文献11); およびLam, et al., Chem Rev, (1997) 97: 411-448(非特許文献12))を用いて、膀胱がん特異的なリガンドを特定した。コンビナトリアルライブラリを構築するために「スプリット・ミックス」合成法が行われる場合、何百万ものビーズ(直径が90 μm)のランダムライブラリが作出される。各ビーズは、同じアミノ酸配列を有する最大1013コピーのリガンドを持つ。スクリーニングの各ラウンドで、特定の標的(受容体、抗体、酵素、ウイルスおよび全細胞など)に対して同時に何百万ものライブラリビーズ(リガンド)をスクリーニングすることができる。標的に対して特異的なペプチドを持つ陽性ビーズは、ウエスタンブロットに類似の酵素連結比色アッセイ法を用いて、またはビーズ表面の細胞付着の証拠によって特定することができる(Songyang, et al., J Biol Chem, (1995) 270: 14863-14866(非特許文献13); およびLiu, et al., J Am Chem Soc, (2002) 124: 7678-7680(非特許文献14))。非天然アミノ酸、Dアミノ酸または非ペプチド部分でさえライブラリに組み入れて、分子をタンパク質分解に対して耐性にすること、および結合親和性を増大することができる。OBOCライブラリのスクリーニングを通じて特定されたリガンドのリードをさらに最適化して、高い親和性および特異性を有するがん特異的なリガンドを作出することができる(Peng, et al., Nat Chem Biol, (2006) 2: 381-389(非特許文献15))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Jemal, et al., Cancer J Clin, (2008) 58: 71-96
【非特許文献2】Fleming, et al., AJCC (American Joint Committee on Cancer) Cancer Staging Manuel, 5th ed., 5th edition. Philadelphia: Lippincott-Raven, 1997
【非特許文献3】Herr, et al., J Clin Oncol, (1995) 13: 1404-1408
【非特許文献4】Herr, et al., J Urol, (1989) 141: 22-29
【非特許文献5】Cookson, et al., J Urol, (1997) 158: 62-67
【非特許文献6】Eissa, et al., Curr Opin Obstet Gynecol, (2003) 15: 395-403
【非特許文献7】van Rhijn, et al., Eur Urol, (2005) 47: 736-748
【非特許文献8】Lotan, et al., Urology, (2003) 61: 109-118
【非特許文献9】Riley, et al., Med Care, (1995) 33: 828-841
【非特許文献10】Botteman, et al., Pharmacoeconomics, (2003) 21: 1315-1330
【非特許文献11】Lam, et al., Nature, (1991) 354: 82-84, 1991
【非特許文献12】Lam, et al., Chem Rev, (1997) 97: 411-448
【非特許文献13】Songyang, et al., J Biol Chem, (1995) 270: 14863-14866
【非特許文献14】Liu, et al., J Am Chem Soc, (2002) 124: 7678-7680
【非特許文献15】Peng, et al., Nat Chem Biol, (2006) 2: 381-389
【発明の概要】
【0006】
本発明は、膀胱がん組織に選択的に結合し、正常膀胱組織または非膀胱組織には最小限しか結合しないか、または結合しないペプチドを提供する。したがって、1つの局面において、本発明は、アミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)を含むペプチドを提供し、配列中でX1およびX5は任意のアミノ酸であり、ここでペプチドは長さが10アミノ酸以下であり、かつ膀胱がん細胞に結合する。いくつかの態様において、ペプチドは長さが9アミノ酸以下である。いくつかの態様において、ペプチドは長さが8アミノ酸以下である。いくつかの態様において、ペプチドは長さが7アミノ酸以下である。
【0007】
いくつかの態様において、ペプチドは正常膀胱細胞を含めて、正常細胞に結合しない。
【0008】
関連する態様において、本発明は、アミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)を含む融合タンパク質を提供し、配列中でX1およびX5は任意のアミノ酸および第2の(ペプチドに対して異種性である)ポリペプチドである。いくつかの態様において、第2のポリペプチドは免疫グロブリン、例えばIgGのFc部分である。いくつかの態様において、第2のポリペプチドはヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4アイソタイプのFc領域である。いくつかの態様において、第2のポリペプチドは細胞毒素である。
【0009】
関連する態様において、本発明は、アミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)を含むポリペプチドを提供し、配列中でX1およびX5は任意のアミノ酸であり、ここでポリペプチドは長さが300アミノ酸以下、例えば、長さが250、200、150、100、75、50または25アミノ酸以下であり、かつ膀胱がん細胞に結合する。
【0010】
関連する態様において、本発明は、アミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)を含むポリペプチドまたはペプチドを提供し、ここで:
i) アミノ酸残基の1個もしくは複数個がDアミノ酸であり;
ii) ポリペプチドもしくはペプチドがN末端もしくはC末端の一方もしくは両方に保護基を含み;
iii) ポリペプチドもしくはペプチドが完全にもしくは部分的にレトロインベルソであり;
iv) ポリペプチドもしくはペプチドがアミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)の2つもしくはそれ以上の反復、例えば、3つ、4つ、5つ、6つもしくはそれ以上の反復を含み;
v) ポリペプチドもしくはペプチドが環状化され;
vi) アミノ酸残基の1つもしくは複数がペプトイド骨格に付着され;
vii) アミノ酸残基の1つもしくは複数がβアミノ酸残基であり; または
viii) ポリペプチドもしくはペプチドが炭化水素ステープルで安定化される。
【0011】
いくつかの態様において、X1はGln、GlyまたはAla (SEQ ID NO:2)である。いくつかの態様において、X5はMet、Lys、Gly、AlaまたはGly-Gly (SEQ ID NO:3)である。いくつかの態様において、X1はGln、GlyまたはAlaであり、かつX5はMet、Lys、Gly、AlaまたはGly-Gly (SEQ ID NO:4)である。
【0012】
いくつかの態様において、ペプチドはアミノ酸配列QDGRMGF (SEQ ID NO:5)を有する。いくつかの態様において、ペプチドはアミノ酸配列QDGRKGF (SEQ ID NO:6)を有する。いくつかの態様において、ペプチドはアミノ酸配列QDGRKGGF (SEQ ID NO:7)を有し、配列中でKGは、グリシン残基がリジンの側鎖に付着されているリジン残基をいう。これらのペプチドはN末端および/またはC末端でDシステイン残基と任意で隣接されてもよく、任意で環状化されてもよい。
【0013】
いくつかの態様において、ペプチドは正常膀胱組織に結合しない。
【0014】
いくつかの態様において、ペプチドはインテグリンα5β3に結合する。いくつかの態様において、ペプチドはインテグリンα5β5に結合する。
【0015】
いくつかの態様において、ペプチドは、アミノ末端および/またはカルボキシル末端に1〜5個の隣接アミノ酸残基、例えば、アミノ末端および/またはカルボキシル末端に1、2、3、4または5個のアミノ酸残基をさらに含む。いくつかの態様において、ペプチドは、アミノ末端および/またはカルボキシル末端に1〜5個の隣接アミノ酸残基をさらに含む(SEQ ID NO:8)。いくつかの態様において、ペプチドは、アミノ末端および/またはカルボキシル末端に2個の隣接アミノ酸残基をさらに含む(SEQ ID NO:9)。いくつかの態様において、ペプチドは、アミノ酸配列cX1DGRX5GFc (SEQ ID NO:10)を有し、配列中でX1およびX5は任意のアミノ酸であり、かつcはDシステインである。いくつかの態様において、ペプチドは環状化される。
【0016】
いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチド(またはその反復)は、より長いポリペプチド配列、例えば、融合配列または別の非天然ポリペプチド配列のなかに組み込まれてもよく、またはその配列のなかに位置してもよい。いくつかの態様において、ペプチドは1つまたは複数のさらなるポリペプチドに、例えばアミノ末端および/またはカルボキシル末端で、(例えば、化学結合または融合を介して)連結される。いくつかの態様において、ペプチドは治療部分または検出可能な標識に、(例えば、化学結合または融合を介して)連結される。
【0017】
いくつかの態様において、ペプチドは治療部分に、例えば、細胞毒素、抗がん剤、放射性同位体、または免疫グロブリン(「Ig」)、例えば、IgGのFc部分に連結される。いくつかの態様において、ペプチドはヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4アイソタイプのFc領域に連結される。いくつかの態様において、抗がん剤はリポソーム中にカプセル封入される。いくつかの態様において、ペプチドは検出可能な標識、例えば、画像化標識、ビーズ、色素、フルオロフォア、化学発光部分、磁性粒子(例えば、酸化鉄粒子)、金属粒子(例えば、金粒子)、放射性同位体(例えば、3H、32P、125I、123I、11C、13N、15O、18F、82Rb、テクネチウム-99m (Tc-99m)、タリウム-201)に連結される。
【0018】
関連する局面において、本発明は、本明細書において記述される、膀胱がん特異的なポリペプチドまたはペプチドリガンド、および薬学的に許容される担体を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドはナノ粒子として製剤化される。
【0019】
さらなる局面において、本発明は、膀胱細胞または膀胱組織(もしくは膀胱がん転移を含む疑いがある組織)を本発明の膀胱がん特異的なペプチドと接触させる段階、および細胞または組織とのペプチドの結合を判定する段階を含み、細胞または組織とのペプチドの結合を検出することで膀胱がんまたは膀胱がん転移の存在が示される、膀胱がんの存在を検出する方法を提供する。膀胱がん特異的なペプチドの態様は、本明細書において記述される通りである。
【0020】
関連する局面において、本発明は、尿サンプル中の膀胱細胞を、検出可能な標識に連結された、本明細書において記述される、膀胱がん特異的なポリペプチドまたはペプチドリガンドと接触させる段階、および膀胱細胞とのペプチドの結合を判定する段階を含み、膀胱細胞とのペプチドの結合を検出することで膀胱がん、または膀胱がん転移の存在が示される、膀胱がんの存在を検出する方法を提供する。いくつかの態様において、この方法は尿サンプル中の膀胱細胞を濃縮する段階をさらに含む。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドは標識ビーズに結合される。例えば、ビーズは蛍光標識、化学発光標識または量子ドット標識で標識することができる。膀胱がん特異的なペプチドのさらなる態様は、本明細書において記述される通りである。
【0021】
いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドの結合のシグナルが検出可能であり、膀胱がんの存在が示唆される。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドの結合のシグナルが検出不能であり、膀胱がんの非存在が示唆される。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドの結合のシグナルが閾値レベルを上回り、膀胱がんの存在が示唆される。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドの結合のシグナルが閾値レベルを下回り、膀胱がんの非存在が示唆される。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドの結合のシグナルが正常対照組織(例えば、膀胱細胞または膀胱組織)との膀胱がん特異的なペプチドの結合のシグナルよりも高く、膀胱がんの存在が示唆される。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドの結合のシグナルが正常対照組織(例えば、膀胱細胞または膀胱組織)との膀胱がん特異的なペプチドの結合のシグナルにほぼ等しいか、またはそれよりも低く、膀胱がんの非存在が示唆される。
【0022】
別の局面において、本発明は、必要のある対象において膀胱がん細胞の増殖を阻害する、低減するまたは抑止する方法であって、膀胱がん細胞または膀胱組織(もしくは膀胱がん転移を含む組織)を、治療部分に連結された、本明細書において記述される、膀胱がん特異的なポリペプチドまたはペプチドと接触させる段階を含み、ペプチドが膀胱がん細胞に結合し、かつ治療部分が膀胱がん細胞の増殖を阻害し、低減しもしくは抑止し、または膀胱がん細胞を死滅させる該方法を提供する。膀胱がん特異的なペプチドの態様は、本明細書において記述される通りである。
【0023】
また、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはそれ自体が、それらを用いて膀胱がん細胞の増殖、移動および転移を遮断でき、阻害でき、低減できまたは抑止できるという点で治療的である。したがって、関連する局面において、本発明は、必要のある対象において膀胱がん細胞の増殖を阻害するまたは抑止する方法であって、膀胱がん細胞または膀胱組織(もしくは膀胱がん転移を含む組織)を、本明細書において記述される、膀胱がん特異的なポリペプチドまたはペプチドと接触させる段階を含み、ペプチドが膀胱がん細胞に結合し、かつ膀胱がん細胞の増殖、移動および転移を遮断する、阻害する、低減するまたは抑止する該方法を提供する。膀胱がん特異的なペプチドの態様は、本明細書において記述される通りである。
【0024】
別の局面において、本発明は、組織を、本明細書において記述される、膀胱がん特異的なポリペプチドまたはペプチドリガンドと接触させる段階を含み、ペプチドが組織中の膀胱がん細胞に結合し、それによって組織中の膀胱がん細胞がインサイチューで検出される、組織中の膀胱がんのインサイチュー検出のための方法を提供する。組織は、膀胱がんを有することが疑われるか、または有することが分かっている対象内であってよい。組織は、膀胱組織、または、例えば膀胱がん転移を含むことが疑われる、別の組織であってよい。これは、例えば、画像化または腫瘍切除の円滑化の目的で行われてもよい。いくつかの態様において、この方法は、例えば、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合の検出に基づき、組織内の膀胱がん細胞の画像を捕捉する段階および/または記録する段階をさらに含む。いくつかの態様において、この方法は、例えば、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合の検出に基づき、組織から膀胱がん細胞を除去する段階、切除する段階または切り出す段階をさらに含む。
【0025】
いくつかの態様において、膀胱がん細胞または膀胱組織はインビトロにある。例えば、いくつかの態様において、ペプチドは尿サンプル中の膀胱細胞と接触される。
【0026】
いくつかの態様において、膀胱がん細胞または膀胱組織はインビボ、すなわち、対象内にある。
【0027】
いくつかの態様において、対象は哺乳類、例えば、ヒト、非ヒト霊長類またはイヌである。
【0028】
いくつかの態様において、ペプチドは対象の静脈内に、腫瘍内にまたは尿道内に投与される。
【0029】
本発明は、本明細書において記述される、膀胱がん特異的なリガンドを含むキットをさらに提供する。
【0030】
定義
「毒素部分」は、キメラ分子に関心対象の細胞に対する細胞毒性を付与するキメラ分子の一部分である。
【0031】
「作用部分」または「治療部分」という用語は、標的化部分(すなわち、ペプチドリガンドPLZ4)が標的とする細胞に作用を及ぼすように、または免疫複合体の存在を特定するように意図されたキメラ分子の一部分をいう。
【0032】
「キメラ分子」という用語は、本発明の膀胱がん特異的なペプチドとの作用分子の共有結合への言及を含む。
【0033】
「細胞毒素」という用語は、典型的には、アブリン、リシン、シュードモナス(Pseudomonas)体外毒素(PE)、ジフテリア毒素(DT)、ボツリヌス毒素、またはその修飾毒素への言及を含む。例えば、PEおよびDTは、肝臓毒性を通じて一般的に死に至らしめる強力な有毒化合物である。しかしながら、PEおよびDTは、毒素に元からある標的化成分(例えばPEのドメインIaまたはDTのB鎖)を取り除き、かつ、抗体のような別の標的化部分と交換することによって、免疫毒素として使用するための形態に修飾することができる。
【0034】
「接触させる段階」という用語は、直接の物理的会合に置くことへの言及を含む。
【0035】
本明細書において用いられる場合、「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は互換的に用いられ、アミノ酸残基の重合体への言及を含む。本明細書において用いられる場合、「ペプチド」という用語は、通常のペプチド(すなわちLアミノ酸またはDアミノ酸を含有する短いポリペプチド)、ならびに所望の機能活性を保持するペプチド等価体、ペプチド類似体およびペプチド模倣体をいうようにその最も広い意味で用いられる。ペプチド等価体は、1つもしくは複数のアミノ酸の、関連する有機酸(PABAのような)、アミノ酸などとの交換、または側鎖もしくは官能基の置換もしくは修飾により通常のペプチドとは異なりうる。この用語は、天然アミノ酸重合体のみならず、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然のアミノ酸の人工化学的類似体であるアミノ酸重合体にも適用される。この用語はまた、タンパク質が機能を維持する保存的アミノ酸置換残基を含有する重合体にも適用される。
【0036】
「ペプチド等価体」、「ペプチド類似体」、「ペプチド模倣体(peptide mimetics)」および「ペプチド模倣体(peptidomimetics)」という用語は、特別の定めのない限り互換的に用いられる。ペプチド類似体は、鋳型ペプチドの特性に類似している特性を有する非ペプチド薬として製薬業界において一般に用いられている。(Fauchere, J. (1986) Adv. Drug Res. 15: 29; Veber and Freidinger (1985) TINS p. 392; and Evans et al. (1987) J. Med. Chem 30: 1229)。ペプチド類似体は、通常、コンピュータ化された分子モデリングを用いて開発される。治療的に有用なペプチドに構造的に類似するペプチド模倣体を用いて、同等の治療効果または予防効果をもたらすことができる。一般的に、ペプチド模倣体は、天然の受容体結合ポリペプチドのような、パラダイムポリペプチド(すなわち、生物学的または薬理学的活性を有するポリペプチド)に構造的に類似するが、当技術分野において知られ、以下の参考文献: Spatola, A. F. in 「Chemistry and Biochemistry of Amino Acids, Peptides, and Proteins」, B. Weinstein, eds., Marcel Dekker, New York, p. 267 (1983); Spatola, A. F., Vega Data (March 1983), Vol. 1, Issue 3, 「Peptide Backbone Modifications」(一般的総説); Morley, J. S., Trends Pharm Sci (1980) pp. 463-468 (一般的総説); Hudson, D. et al., Int J Pept Prot Res (1979) 14: 177-185 (-CH2NH-, CH2CH2-); Spatola, A. F. et al., Life Sci (1986) 38: 1243-1249 (-CH2S); Hann, M. M., J Chem Soc Perkin Trans I (1982) 307-314 (-CH-CH-, シスおよびトランス); Almquist, R. G. et al., J Med Chem (1980) 23: 1392-1398 (-COCH2-); Jennings-White, C. et al., Tetrahedron Lett (1982) 23:2533 (-COCH2-); Szelke, M. et al., European Appln. EP 45665 (1982) CA: 97:39405 (1982) (-CH(OH)CH2-); Holladay, M. W. et al., Tetrahedron Lett (1983) 24:4401-4404 (-C(OH)CH2-); ならびにHruby, V. J., Life Sci (1982) 31: 189-199 (-CH2-S-)のなかでさらに記述されている方法により、-CH2NH-、-CH2S-、-CH2-CH2-、-CH=CH- (シスおよびトランス)、-COCH2-、-CH(OH)CH2-ならびに-CH2SO-からなる群より選択される結合によって任意で置換されてもよい1つまたは複数のペプチド結合を有する。ペプチド骨格の一部または全部を、以下の参考文献: 1. Bondinell et al. Design of a potent and orally active nonpeptide platelet fibrinogen receptor (GPIIb/IIIa) antagonist. Bioorg Med Chem 2:897 (1994). 2. Keenan et al. Discovery of potent nonpeptide vitronectin receptor (alpha v beta 3) antagonists. J Med Chem 40:2289 (1997). 3. Samanen et al. Potent, selective, orally active 3-oxo-1,4-benzodiazepine GPIIb/IIIa integrin antagonists. J Med Chem 39:4867 (1996)に記述されているように、立体配座的に制限された環状アルキルまたはアリール置換基により置き換えて、本明細書において指定される機能的なアミノ酸側鎖の可動性を限定することもできる。
【0037】
本発明のペプチドは、当技術分野において周知の組み換え法および合成法などの、広く認められている方法によって産生することができる。組み換え技術は、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (3rd ed.) Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory, (2001)に一般に記述されている。ペプチドの合成の技術は、周知であり、Merrifield, J. Amer. Chem. Soc. 85:2149-2456 (1963)、Atherton, et al., Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press (1989)およびMerrifield, Science 232:341-347 (1986)に記述されているものを含む。
【0038】
「残基」または「アミノ酸残基」または「アミノ酸」という用語は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド(ひとまとめにして「ペプチド」)内に組み入れられるアミノ酸への言及を含む。アミノ酸は、天然のアミノ酸でよく、また特に限定されない限り、天然アミノ酸と同様の様式で機能できる天然アミノ酸の公知の類似体を包含してよい。
【0039】
本明細書に引用されるアミノ酸および類似体は、下表Aの略称によって記述される。
【0040】
(表A) アミノ酸表記法

【0041】
「保存的置換」とは、タンパク質について記述する場合は、タンパク質の活性を実質的に変えない、タンパク質のアミノ酸組成の変化をいう。したがって、特定のアミノ酸配列の「保存的に修飾された変種」とは、タンパク質の活性にとって重要でないアミノ酸のアミノ酸置換、または同様の性質(例えば酸性、塩基性、正もしくは負に電荷している、極性もしくは非極性など)を有する他のアミノ酸によるアミノ酸の置換で、重要アミノ酸の置換であっても活性を実質的に変化させないものをいう。機能的に類似したアミノ酸を示す保存的置換の表は、当技術分野において周知である。表Bの以下の六つの群それぞれには、互いが保存的置換となるアミノ酸が含まれる。
【0042】
(表B)
1) アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2) アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3) アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4) アルギニン(R)、リジン(K);
5) イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V); および
6) フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
Creighton, Proteins : Structures and Molecular Properties, W.H. Freeman and Company, New York (2nd Ed., 1992)も参照されたい。
【0043】
ペプチドとの関連で「実質的に類似する」という用語は、ペプチドが、参照配列に対して、7〜10アミノ酸の比較ウィンドウ全体について少なくとも95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する配列を含むことを示している。配列同一性の割合は、最適にアライメントをとった二つの配列を、比較ウィンドウ全体について比較することによって決定され、このとき比較ウィンドウ内にあるポリヌクレオチド配列部分は、参照配列(付加もしくは欠失を含まない)と比較して、二つの配列のアライメントを最適にしたときに、付加もしくは欠損(すなわちギャップ)を含んでもよい。割合は、両配列において同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が占めている位置の数を決定して一致位置数を算出し、一致位置数を比較ウィンドウ内にある位置の総数で除し、その結果に100を乗じて配列同一性の割合を得ることによって計算される。
【0044】
本明細書において用いられる場合、「レトロインベルソペプチド」という用語は、Lアミノ酸を有するペプチドと同じアミノ酸配列を通例含むが、その配列は部分的または全体的にDアミノ酸から構成され、したがってLアミノ酸を用いて合成されるペプチドとは逆向きの立体化学を有するペプチドをいう。Dアミノ酸を逆の(すなわち配列が左側から右側の方向に、Lアミノ酸の場合に書かれまたは示されるときのN末端からC末端のアミノ酸の方向とは反対にC末端からN末端のアミノ酸の方向に示される; 以下参照)順序で用いてペプチドを構築することにより、側鎖が親のLアミノ酸ペプチドと同じ立体化学を回復するレトロインベルソペプチドが得られる。レトロインベルソペプチド配列の使用によって、酵素分解が最小限に抑えられ、それゆえ、ペプチド部分の生物学的半減期が引き延ばされる。また、これらの配列は、通常のLアミノ酸配列から調製される類似の複合体の潜在的な免疫特性を都合よく変化させることもできる。レトロインベルソ配列(遊離ペプチドまたは複合体として)は、(酵素性分解に対する耐性のために)経口的に活性な作用物質を要するまたは選好する用途において特に有用である。本発明の目的で、レトロインベルソペプチドは「ri」により示され、左側から右側の方向に、C末端からN末端のアミノ酸の方向、例えば、通例のLペプチド表記の反対に書かれる。1つの態様において、本発明のレトロインベルソペプチドには全てD異性体のアミノ酸が組み込まれている。レトロインベルソペプチドに全てD異性体のアミノ酸が組み込まれる場合、これは「D逆ペプチド」と呼ばれる。
【0045】
ペプチドについて記述するために用いられる場合に「実質的に純粋な」または「単離された」という用語は、天然に結び付けられているまたは合成中に結び付けられるタンパク質または他の夾雑物から分離されたペプチドをいう。1つの態様において、ペプチドまたはポリペプチドは、ペプチドを含有する組成物の全ポリペプチド含量の少なくとも50%、ならびに全ポリペプチド含量の、1つの態様では少なくとも60%、1つの態様では少なくとも75%、1つの態様では少なくとも90%、および1つの態様では少なくとも95%を構成する。
【0046】
「結合する」、「つなぐ」、「接合する」または「連結する」という用語は、二つのポリペプチドを一つの連続するポリペプチド分子にすることをいう。本発明の関係では、この用語は、抗体成分を作用分子(EM)につなぐことへの言及を含む。連結は、化学的方法または組み換えによる方法のいずれでもできる。化学的方法は、抗体成分と作用分子とが共有結合して一つの分子を形成するような、二分子間の反応をいう。
【0047】
「インビボ」という用語は、細胞を得た生物の体内への言及を含む。「エクソビボ」および「インビトロ」は、細胞を得た生物の体外を意味する。
【0048】
「悪性細胞」または「悪性腫瘍」という語句は、侵襲性であるおよび/または転移を起こしうる腫瘍または腫瘍細胞、すなわち、がん細胞をいう。
【0049】
本明細書において用いられる場合、「哺乳類細胞」は、ヒト、ラット、マウス、モルモット、チンパンジーまたはマカクを含む哺乳類に由来する細胞への言及を含む。細胞はインビボでまたはインビトロで培養することができる。
【0050】
「選択的に反応する」という用語は、抗原に関して、リガンド(ここでは、膀胱がん特異的なペプチドリガンド)が、その抗原を保持する細胞または組織と、全部または一部で、選択的に結合するが、その抗原を欠く細胞または組織とは結合しないことをいう。もちろん、分子と非標的細胞もしくは組織との間に、ある程度の非特異的な相互作用が起こることがあるものと認識されている。それにもかかわらず、選択的反応は、抗原の特異的認識を通し媒介されるものとして識別されてもよい。選択的に反応するリガンドは、抗原に結合するが、それらは低親和性で結合してもよい。一方、特異的結合は、リガンドと抗原を保持する細胞との間には、リガンドと抗原を欠く細胞との間の結合に比べより強い結合を生ずる。特異的結合は、典型的には、標的抗原を欠く細胞または組織に比べ、標的抗原を保持する細胞または組織に結合するリガンドの量(単位時間あたり)の2倍超、好ましくは5倍超、より好ましくは10倍超および最も好ましくは100倍超の増加をもたらす。このような条件下でのタンパク質への特異的結合は、特定のタンパク質に対するその特異性で選択されるリガンドを必要とする。特定のタンパク質と特異的に免疫反応するリガンドの選択に適した種々のアッセイ形式がある。例えば、固相アッセイは、抗原に特異的に結合するリガンドのために日常的に用いられている。特異的な結合反応性を決定するのに用いることができるアッセイの形式および条件に関する説明については、Harlow & Lane, ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Publications, New York (1988)を参照されたい。
【0051】
「閾値レベル」という用語は、シグナルの(ここでは、膀胱細胞とのまたは膀胱組織との膀胱がん特異的なペプチドの結合の)所定のレベルをいい、これを上回ることで結合かつ膀胱がんの陽性診断が示唆され、これを下回ることで非結合かつ膀胱がんの陰性診断が示唆される。シグナルのレベルは個体の集団からの測定に基づくことができる。
【0052】
「患者」、「対象」、「個体」という用語は、哺乳類、例えば、ヒトまたは非ヒト霊長類、家畜哺乳類(例えば、イヌもしくはネコ)、農業用哺乳類(例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ)、実験哺乳類(マウス、ラット、ハムスター、ウサギ)を互換的にいう。
【0053】
「同時投与する」という用語は、個体の血中での二つの活性薬剤の同時存在をいう。同時投与される活性薬剤は、同時的にまたは連続的に送達されうる。
【0054】
「有効量」または「に有効な量」または「治療的に有効な量」という用語は、膀胱がん細胞成長もしくは腫瘍成長の阻害、低減もしくは抑止; 膀胱腫瘍低減もしくは排除の促進; または膀胱がん増殖、遊走もしくは転移の遮断、低減、阻害もしくは抑止などの、所望の結果をもたらすのに十分な治療剤の投与量への言及を含む。薬学的組成物に関連して用いられる「有効量」という用語は、典型的には、所望の目標を達成するのに必要な、活性成分、例えば、本発明のペプチドの量をいう。例えば、治療用途において、有効量は、処置が求められる特定の障害(例えば、膀胱がん)の処置をもたらすよう患者に投与されるのに必要な量であろう。「障害の処置」という用語は、特定の障害の症状の低減または排除を示す。有効量は、典型的には、障害の性質、使用されるペプチド、投与の方法、ならびに患者のサイズおよび健康状態に応じて変わるであろう。1つの態様において、本発明のペプチドの有効量は70 kgの患者の場合にはペプチド1 μg〜1 g、および1つの態様では1 μg〜10 mgに及ぶ。1つの態様において、投与されるペプチド(またはペプチド類似体)の濃度は、0.1 μM〜10 mM、および1つの態様では5 μM〜1 mM、1つの態様では5 μM〜100 μM、および1つの態様では5 μM〜40 μMに及ぶ。
【0055】
本明細書において用いられる場合、「処置する」および「処置」という用語は、この用語が当てはまる疾患もしくは状態(例えば、膀胱がん)、またはそのような疾患もしくは状態の1つもしくは複数の症状のいずれかの、発症を遅延させること、進行を遅らせもしくは反転させること、または緩和もしくは予防をいう。
【0056】
腫瘍またはがんの増殖または進行に関して「阻害する」、「低減する」、「減少させる」という用語は、当技術分野において公知の任意の方法を用いて測定可能な量だけ対象における腫瘍またはがんの増殖、広がり、転移を阻害することをいう。例えば、キメラ分子の一部としての、本発明のペプチドの同時投与前の腫瘍量と比べて腫瘍量が少なくとも約10%、20%、30%、50%、80%または100%低減されるなら、腫瘍またはがんの増殖、進行または広がりは阻害され、低減され、または減少させられる。いくつかの態様において、腫瘍またはがんの増殖、進行または広がりはペプチドの投与前の腫瘍量と比べて少なくとも約1倍、2倍、3倍、4倍またはそれ以上だけ阻害され、低減され、または減少させられる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】膀胱がん細胞とのリガンドの結合をスクリーニングするための全細胞結合アッセイ法。このアッセイ法において、単一細胞懸濁液をOBOCライブラリとともにインキュベートした。ビーズ表面上のペプチドが細胞表面分子に結合できるなら、それらのビーズは細胞で覆われる。各パネルの中ほどで、1つの陽性ビーズが膀胱がん細胞で覆われており、このビーズ上のペプチドは被験膀胱がん細胞に結合しうるが、他のビーズ上のペプチドは被験細胞に結合しえないことが示唆された。各パネルに隣接してインキュベーション時間、細胞およびライブラリのタイプを示してある。平均のビーズ直径は90 μm前後である。
【図2】PLZ4は膀胱腫瘍細胞に結合しうるが、正常尿路上皮細胞または他の混同細胞には結合しえない。3種の膀胱TCC細胞: 5637細胞(A)、T24細胞(B)およびTCCSUP細胞(C)に結合したが、正常尿路上皮細胞(D)に結合しなかったPLZ4。パネルD中の正常尿路上皮細胞の細胞サイズの不均一性から、尿路上皮の基底層(小細胞)から基底層直上層由来の細胞の存在が示唆される。全血球(E)、PBMC (F)、正常線維芽細胞(G)およびBCG膀胱内療法による積極的処置を受けた患者由来の細胞(H)では顕微鏡検査の下でPLZ4の結合が観察されなかった。ビーズ直径は90 μm前後である。
【図3】ヒトおよびイヌ膀胱がん細胞とのPLZ4の結合。新鮮切除ヒト膀胱がん標本由来の単一細胞懸濁液を、PLZ4でコーティングされたビーズとともにインキュベートした。ヒト患者由来の細胞で顕著な結合が観察された(AおよびB)。パネルBにおいて見られるのと同じ患者の正常膀胱由来の細胞は、PLZ4でコーティングされたビーズに結合しなかった(C)。パネルC中の細胞を洗い流して、細胞とビーズとの重なりを減らした。pH 6.0を有する尿中での4時間のインキュベーション後に、PLZ4でコーティングされたビーズは膀胱がん細胞の5637細胞に結合することができた(D)。PLZ4-FITC結合体はイヌ膀胱がん細胞に結合することができた(E)。ビーズ直径は90 μmである。
【図4A】膀胱がん細胞の蛍光染色。5637細胞とのPLZ4の結合親和性を判定するためのフローサイトメトリー。蛍光強度は、PLZ4-PEの濃度が増すにつれて増した。この図には各濃度での三つ組の実験の平均値を示した。結合親和性(Kd50)は30 μM前後である。
【図4B】膀胱がん細胞の蛍光染色。FITCに結合されたPLZ4による膀胱がんおよび正常尿路上皮細胞の蛍光染色。細胞をチャンバスライド中で培養し、PLZ4-FITCで染色した。膀胱がん細胞5637、TCCSUPおよびT24は緑色に染色されたが、正常尿路上皮細胞は染色されなかった(左から最初のカラム)。全ての細胞核はDAPIによって青色に染色された(左から2番目および4番目のカラム)。ストレプトアビジン-FITCだけが添加され、しかしPLZ4-ビオチンは添加されなかった場合には、細胞は緑色に染色されなかった(左から3番目のカラム)。倍率200×。
【図5】腫瘍担持マウスのインビボNIRF画像化。マウス腫瘍異種移植片は、膀胱がんの切除のために膀胱切除術を受けた患者由来の原発膀胱がん組織で樹立された。PLZ4-Cy5.5 (7 nmol)を尾静脈から注射した。パネルA〜D; 近赤外線画像化。パネルA; SA-CY5.5だけを投与されたマウス。パネルB; PLZ4-CY5.5結合体を投与されたマウス。赤色の矢印は、CY5.5の強力な取り込みを伴う腫瘍異種移植片を指し示す。パネルC; SA-Cy 5.5を投与されたマウス由来の異種移植片および器官のエクスビボ画像化であり、腎臓における取り込みおよび腫瘍異種移植片における弱い自己蛍光を示す。パネルD; PLZ4-Cy5.5を投与されたマウス由来の異種移植片および器官のエクスビボ画像化であり、腫瘍異種移植片および腎臓における蛍光を示す。パネルEおよびF; それぞれ、パネルCおよびDの光画像化。下部に任意単位で蛍光強度を示してある。
【図6A】ανβ3インテグリンとのPLZ4の結合。PLZ4はανβ3インテグリンに結合する。PLZ4ペプチドでコーティングされたビーズを、異なるインテグリンサブユニットでトランスフェクトされたK562細胞とともにインキュベートした。PLZ4は、ανβ3インテグリンが表面上に発現される場合にK562細胞に結合できるのみである。
【図6B】ανβ3インテグリンとのPLZ4の結合。細胞結合に重要なアミノ酸を判定するためのアラニンウォーク。PLZ4中の各アミノ酸を一つずつアラニンと交換して、新しいペプチドでコーティングされたビーズを作出し(アラニンウォーク)、5637膀胱がん細胞とのその結合について試験した。半定量系を用いて結合活性を判定した: ++++ は、75〜100%のビーズ表面が細胞によって覆われ、非常に強い結合を意味し; +++ は、50〜74%のビーズ表面が細胞によって覆われ、強い結合を意味し; ++ は、25〜49%のビーズ表面が細胞によって覆われ、中程度の結合を意味し; + は、1〜24%のビーズ表面が細胞によって覆われ、弱い結合を意味し; - は、結合なしを意味する。
【図6C】ανβ3インテグリンとのPLZ4の結合。膀胱がん細胞とのPLZ4の結合に及ぼすX5位のグリシン残基の影響。各パネルにおけるビーズ上のペプチドは、X5位のMがKと交換されていることを除き、PLZ4 (cQDGRMGFc; SEQ ID NO:12)と同じ骨格配列(cQDGRKGFc; SEQ ID NO:11)を有する。パネルcからhまでKに1個(c)〜6個(h)のグリシンを結合させた(SEQ ID NO:13)。OBOCビーズを5637 TCC細胞とともにインキュベートした。親のPLZ4リガンド(a)と比較して、メチオニンをリジンと交換した場合(b)には、5637細胞との結合の有意な変化は観察されなかった。このリガンドは、ただ1個(c)または2個(d)のグリシン残基を付加した場合、5637細胞に依然として強力に結合することができた。しかし、3個(e)または4個(f)のグリシンを付加した場合には細胞結合の顕著な減少が認められ、5個(g)および6個(h)のグリシンを付加した場合には結合は認められない。
【図7A】PLZ4はイヌTCC細胞株に結合する。細胞結合を判定するための全細胞結合アッセイ法およびPLZ4ビーズとの正常イヌ尿路上皮細胞の結合。ヒト膀胱がん細胞株5637およびイヌK9TCC-PUをトリプシン処理し、洗浄し、完全培地中にて細胞106個/mlで単一細胞懸濁液へ再懸濁した。正常イヌ膀胱尿路上皮細胞を穏やかにかき取り、単一細胞懸濁液へ消化した。また、PLZ4ビーズを水で2回およびPBSで2回洗浄し、60 mmの培養皿中の細胞懸濁液へ添加した。37℃で60分の穏やかな振盪の後、細胞結合を倒立顕微鏡の下で直接観察した。PLZ4が溶液中の細胞に結合するなら、ビーズは細胞で覆われ、顕微鏡検査の下でロゼットパターンを示すであろう。この実験を細胞株に対して3回繰り返した。正常イヌ膀胱尿路上皮細胞の細胞結合アッセイ法を2頭の異なるイヌで繰り返した。a. 5637ヒト膀胱がん細胞株; b. K9TCC-PU細胞株; c. 正常イヌ尿路上皮細胞; d. 慢性膀胱炎のある膀胱由来の細胞。ビーズの平均直径は90 μmである。
【図7B】PLZ4はイヌTCC細胞株に結合する。イヌTCC細胞株に対するPLZ4ペプチドの親和性蛍光。イヌTCC細胞株であるK9TCC-PU、K9TCC-PU-In、K9TCC-PU-AxA、K9TCC-PU-NkおよびK9TCC-PU-AxC、ならびにヒト膀胱がん細胞株5637をチャンバスライド上で培養した。捺印塗抹標本を非膀胱疾患のために安楽死されたイヌ由来の正常イヌ膀胱尿路上皮細胞から作出した。スライドをブロッキングの前に2分間アセトンで固定した。細胞を4℃で1時間1 μMのPLZ4-ビオチンとともに、次いで製造元のプロトコルにしたがって1000分の1の希釈でストレプトアビジン-Alexa Flour (登録商標) 488結合体(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)とともにインキュベートした。洗浄後、核染色のためにDAPI含有培地をスライドに載せ、これをコンバージョン蛍光顕微鏡の下で観察した。この実験を3回繰り返した。(200×)
【図8A】イヌTCC細胞株に対するPLZ4の結合親和性および生物学的効果。K9TCC-PUおよびK9TCC-PU-Inに対するPLZ4の結合親和性。2万個のK9TCC-PUおよびK9TCC-PU-Inを96ウェルプレートに播種した。24時間培養した後に、細胞を固定し、異なる濃度のPLZ4-ビオチンとともに1.5時間、その後、アビジン-HRPとともにさらに1時間インキュベートした。アビジン-HRPだけで処理した細胞をバックグラウンド対照とした。TMB基質を用いて発色させ、これをELISA読取機によって読み取った。実験を三つ組で行い、3回繰り返した。3回の実験の平均値を示した。
【図8B】イヌTCC細胞株に対するPLZ4の結合親和性および生物学的効果。イヌTCC細胞株に及ぼすPLZ4の生物学的効果。1万個のK9TCC-PU-In細胞およびK9TCC-PU細胞を96ウェルプレートに播種し、漸増濃度のPLZ4またはPBSで2日間処理した。WST-8アッセイ法により製造元のプロトコルにしたがって、細胞増殖アッセイによる評価を行った。PBSで処理した細胞を100%対照として用いた。各群を三つ組で行い、3回繰り返した。各濃度での平均値を提示してある。
【図9A】イヌ膀胱がんのマウス異種移植片へのPLZ4のホーミング。PLZ4によるイヌK9TCC-PU-In異種移植片のインビボ画像化。インビボでの近赤外蛍光画像を注射後のさまざまな時点で撮った。
【図9B】イヌ膀胱がんのマウス異種移植片へのPLZ4のホーミング。ストレプトアビジン-Cy5.5を投与された対照マウス。PLZ4: PLZ4-Cy5.5を投与されたマウス。赤色の矢印は腫瘍異種移植片を指し示す。蛍光強度のための器官のエクスビボ画像化。PLZ4-Cy5.5を投与されたマウス由来の腫瘍異種移植片において蛍光の特異的な取り込みが観察された。また、対照マウスでおよびPLZ4-Cy5.5を投与されたマウスで、腎臓および肝臓における非特異的な取り込みが観察された。
【図9C】イヌ膀胱がんのマウス異種移植片へのPLZ4のホーミング。腫瘍異種移植片における蛍光取り込みのエクスビボでの定量分析。腫瘍異種移植片の蛍光強度を同じマウスの肝臓および腎臓の蛍光強度に対して規準化した(肝臓および腎臓の規準化値を1.0と定義する)。規準化の後、PLZ4-Cy5.5を投与されたマウス由来の腫瘍異種移植片の取り込みは、対照マウス由来の異種移植片の取り込みよりもはるかに高かった(それぞれで、規準化した値に対してp = 0.003およびp < 0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0058】
詳細な説明
1. 導入
大部分の膀胱移行上皮がん症例は非侵襲段階で診断される。非侵襲性膀胱がんは、膀胱内注入を通じて容易に接近可能であり、人体の残部から比較的隔絶されており、混同している細胞が少ししかないので、標的療法には理想的である。1ビーズ1化合物コンビナトリアルペプチドライブラリの高速大量処理スクリーニングを行い、例示的な膀胱がん特異的リガンドPLZ4 (アミノ酸配列: cQDGRMGFc; SEQ ID NO:12)を特定した。PLZ4は膀胱がん細胞株および患者由来の原発性膀胱がん細胞に選択的に結合しうるが、しかし正常尿路上皮細胞、膀胱標本由来の正常細胞混合物、線維芽細胞および血液細胞には結合しない。PLZ4は、試験された全5種のイヌ膀胱がん細胞株に結合しうる。このリガンドは、pH 6.0の尿により処理された腫瘍細胞に結合しうるが、しかし膀胱内カルメットゲラン菌注入療法により積極的に処置した患者4人の尿から収集された細胞には結合しない。近赤外色素Cy5.5に連結されたPLZ4の静脈内注射から、切除したヒト原発性膀胱がん標本から発現されたマウス異種移植片における蛍光の取り込みが示された。したがって、このリガンドを画像化検出および膀胱がんの標的療法に用いることができる。PLZ4は、ανβ3インテグリンを発現するK562細胞に結合するが、しかし他のインテグリンには結合しない。アラニンウォークおよびレインボービーズコーディングシステムを用いて、細胞結合に重要なアミノ酸が決定された。構造分析から、細胞結合に必要な二つのドメインがあることが示唆された。PLZ4を含めて、本明細書において記述される膀胱がん特異的なペプチドリガンドは、例えば、診断および経過観察/調査監視のための画像化検出、ならびに膀胱がんの標的療法のために用いることができる。
【0059】
本発明は、一つには、ヒト膀胱移行上皮がん(TCC)細胞株および臨床患者由来の膀胱がん細胞にインビトロで特異的に結合された、かつ患者の膀胱切除標本から発現された腫瘍異種移植片の位置でマウスのインビボにおいて濃縮された、ペプチドPLZ4 (cQDGRMGFc (SEQ ID NO:12)によって例示される、膀胱がん特異的なリガンドに基づく(Zhang, et al, Urologic Oncology: Seminars and Original Investigations (2010) In press)。さらに、前臨床試験から、ヒトおよび他の哺乳類における診断および標的処置の目的での膀胱がん特異的なリガンドの可能性が示される。
【0060】
TCCを持つイヌはヒトTCCの自発的な、非近交系、免疫応答性の、大型動物モデルとして役立つので、かつ膀胱TCCはイヌにおいて最も一般的な尿路がん(全症例の87%)であるので(Fink, et al., Cancer Res (1997) 57: 1841-1845)、膀胱がん特異的なリガンドがイヌ膀胱がんに結合しうることを確認した。膀胱がん特異的なリガンドの結合が起きたばかりか、イヌにおける膀胱腫瘍はヒトでの筋肉侵襲性膀胱TCCと同様にして類似の組織病理学的外見、分子特徴、生物学的挙動および化学療法に対する反応を保有する(Patrick, et al., J Comp Pathol (2006) 135: 190-199. and Mutsaers, et al., J Vet Intern Med (2003) 17: 136-144)ので、天然のイヌ膀胱がんを有するイヌは、ヒトの治療および診断のための前臨床試験で用いる該当モデルである(Deborah, et al., Urologic Oncology (2000) 5:47-59.; Dhawan, et al., Urologic Oncology (2009) 27:284-292)。本発明の膀胱がん特異的なリガンドには膀胱がんの制御における診断および治療の目的で用途がある。
【0061】
2. 膀胱がん特異的なペプチドリガンド
本発明は、膀胱がん組織に選択的かつ特異的に結合する、および正常膀胱組織にまたは非膀胱組織に最小限しか結合しないまたは結合しないペプチドリガンドを提供する。一般的に、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはアミノ酸配列X1DGRX5GFを含み、配列中でX1およびX5はシステイン以外の任意のアミノ酸(例えばA、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y) (SEQ ID NO:1)である。ペプチドは、通常、長さが約7〜10または7〜9アミノ酸である。いくつかの態様において、ペプチドは長さが10アミノ酸以下である。いくつかの態様において、ペプチドは長さが9アミノ酸以下である。いくつかの態様において、ペプチドは長さが8アミノ酸以下である。いくつかの態様において、ペプチドは長さが7アミノ酸以下である。
【0062】
さまざまな態様において、ポリペプチドはアミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)を含み、配列中でX1およびX5は任意のアミノ酸であり、ここでポリペプチドは長さが300アミノ酸以下、例えば、長さが250、200、150、100、75、50または25アミノ酸以下であり、かつ膀胱がん細胞に結合する。
【0063】
さまざまな態様において、ポリペプチドまたはペプチドはアミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)を含み、ここで:
i) アミノ酸残基の1個もしくは複数個、例えば、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個もしくは全てがDアミノ酸であり;
ii) ポリペプチドもしくはペプチドがN末端もしくはC末端の一方もしくは両方に保護基を含み(例えば、N末端はアセチル化されてよく、かつC末端はアミノ基を有してよい);
iii) ポリペプチドもしくはペプチドが完全にもしくは部分的にレトロインベルソであり;
iv) ポリペプチドもしくはペプチドが膀胱がん特異的なペプチドのアミノ酸配列、例えば、X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)の2つもしくはそれ以上の反復、例えば、3つ、4つ、5つ、6つもしくはそれ以上の反復を含み;
v) ポリペプチドもしくはペプチドが環状化され;
vi) アミノ酸残基の1つもしくは複数がペプトイド骨格に付着され;
vii) アミノ酸残基の1つもしくは複数がβアミノ酸残基であり; または
viii) ポリペプチドもしくはペプチドが炭化水素ステープルで安定化される。
【0064】
いくつかの態様において、ペプチドは、例えば、ペプチドの環状化および/または結合を可能とするために、N末端およびC末端に1〜5個の隣接するLシステイン残基またはDシステイン残基を有することができる。例えば、ペプチドリガンドはアミノ酸配列CX1DGRX5GFC (SEQ ID NO:17)またはcX1DGRX5GFc (SEQ ID NO:10)を含むことができ、配列中でX1およびX5はシステイン以外の任意のアミノ酸(例えばA、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり、cはDシステインである。さまざまな態様において、ペプチドリガンドは環状化される。
【0065】
いくつかの態様において、X1はQ、GまたはA (SEQ ID NO:2)であり、かつX5はシステイン以外の任意のアミノ酸(例えばA、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)である。いくつかの態様において、X1はシステイン以外の任意のアミノ酸(例えばA、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり、かつX5はM、K、G、AまたはGG (SEQ ID NO:3)である。いくつかの態様において、X1はQ、GまたはAであり、かつX5はM、K、G、AまたはGG (SEQ ID NO:4)である。
【0066】
いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはアミノ酸配列QDGRMGF (SEQ ID NO:5)を有する。いくつかの態様において、ペプチドはアミノ酸配列QDGRKGF (SEQ ID NO:6)を有する。いくつかの態様において、ペプチドはアミノ酸配列QDGRKGGF (SEQ ID NO:7)を有し、配列中でKGは、グリシン残基がリジンの側鎖に付着されているリジン残基をいう。アミノ末端および/またはカルボキシル末端のどちらかに、さらなるアミノ酸残基、例えば1〜5アミノ酸残基、例えば、1、2、3、4または5アミノ酸残基を付加することができる。システイン残基をアミノ末端およびカルボキシ末端に付加して、環状化を可能にすることができる。
【0067】
いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはアミノ酸配列X(1-5)X6DGRX7GFX(8-12) (SEQ ID NO:8)を有し、配列中でX(1-5)およびX(8-12)は任意のアミノ酸(すなわち、A、C、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり; X6およびX7はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)である。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはアミノ酸配列X1X2X3DGRX4GFX5X6 (SEQ ID NO:9)を有し、配列中でX1、X2、X5、X6は任意のアミノ酸(すなわち、A、C、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり; X3およびX4はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)である。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはアミノ酸配cX1DGRX5GFc (SEQ ID NO:10)を有し、配列中でX1はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり; X5はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり、cはDシステインである。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはアミノ酸配列cQDGRKGFc (SEQ ID NO:11)を有し、配列中でcはDシステインである。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはアミノ酸配列cQDGRMGFc (SEQ ID NO:12)を有し、配列中でcはDシステインである。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはアミノ酸配列cQDGRK(G1-6)Fc (SEQ ID NO:13)を有し、配列中でcはDシステインであり、ここでK(G1-6)は、1〜6個のグリシン残基がリジンの側鎖に付着されているリジン残基をいう。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはアミノ酸配列CQDGRMGFC (SEQ ID NO:14)を有する。いくつかの態様において、ペプチドは環状化される。
【0068】
膀胱がん特異的なペプチド中のアミノ酸の1つまたは複数がDアミノ酸でありうる。いくつかの態様において、ペプチドリガンド中の全てのアミノ酸残基がDアミノ酸である。さまざまな態様において、ペプチドリガンドは部分的なレトロインベルソまたは完全なレトロインベルソである。
【0069】
一般的に、膀胱がん特異的なペプチドは実質的に精製および/または単離される。
【0070】
さらなるアミノ酸残基またはポリペプチド配列がペプチドリガンドのアミノ末端および/またはカルボキシ末端のどちらかに(例えば、化学結合または融合を介して)任意で連結されてもよい。いくつかの態様において、本明細書において記述される膀胱がん特異的なペプチド配列は、より長いポリペプチド配列、例えば、融合配列または別の非天然ポリペプチド配列のなかに組み込まれてもよく、またはその配列のなかに位置してもよい。例えば、さまざまな態様において、ペプチドは免疫グロブリンのFc部分に(例えば、抗体依存性細胞毒性(ADCC)および/もしくは補体依存性細胞毒性(CDC)を促進するために)または細胞毒素に連結される。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはIgG抗体のFc領域に連結される。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドはヒトIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4アイソタイプのFc領域に連結される。
【0071】
いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドは治療剤に結合される。いくつかの態様において、治療剤は新生物剤である。例示的な新生物剤は、非限定的に、アルキル化剤(シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチン); 代謝拮抗物質(例えばアザチオプリンおよびメルカプトプリンを含むプリンまたはピリミジン模倣薬); 植物性アルカロイドおよびテルペノイド(ビンカアルカロイドおよびタキサン); ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビンおよびビンデシン); ポドフィロトキシン(エトポシドおよびテニポシドを含む); タキサン(パクリタキセル、タキソールおよびドセタキセル); トポイソメラーゼ阻害剤(I型阻害剤: カンプトテシン、イリノテカンおよびトポテカン; II型阻害剤: アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシドおよびテニポシド); 抗新生物薬(ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、フルダラビンおよびブレオマイシン)を含む。関心対象のがんを処置するために使用されている任意の化学療法剤を、膀胱がん特異的なペプチドリガンドに結合させることができる。さまざまな態様において、抗新生物剤はリポソーム中にカプセル封入される。
【0072】
いくつかの態様において、治療剤は細胞毒素である。用途がある例示的な細胞毒素は、アブリン、リシン、シュードモナス体外毒素(PE)、ジフテリア毒素(DT)、ボツリヌス毒素、またはその修飾毒素を含む。他の細胞毒素も用途がある。
【0073】
さまざまな態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドは放射性同位体、例えば125I、32P、14C、3H、35S、123I、11C、13N、15O、18F、82Rb、テクネチウム-99m (Tc-99m)またはタリウム-201に結合される。さまざまな態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドは磁性粒子、例えば電磁ビーズまたは酸化鉄粒子(例えば、磁気共鳴映像法(MRI)の場合)に結合される。
【0074】
3. 膀胱がん特異的なリガンドを含む組成物
膀胱がん特異的なペプチドリガンドは液体および固体形態の調製物を含めて、患者への投与のための種々の薬学的製剤として調製することができる。
【0075】
膀胱がん特異的なペプチドリガンドを含む組成物は、予防的および/または治療的処置のため、エアロゾルまたは経皮による投与を含む、非経口投与、局所投与、経口投与または局部投与に有用である。薬学的組成物は、投与方法に依って、種々の単位投与量形態で投与することができる。例えば、経口投与に適した単位投与量形態は、粉末、錠剤、丸剤、カプセルおよび口中錠を含む。本発明のポリペプチドおよび薬学的組成物は、経口的に投与される場合、消化から保護されねばならないものと認識される。これは、典型的には、ポリペプチドを組成物と複合体化してこれを酸加水分解もしくは酵素加水分解に対して耐性とすることにより、またはリポソームのような適切に耐性の担体中にタンパク質を包み込むことにより達成される。タンパク質を消化から保護する手段は、当技術分野において周知である。
【0076】
膀胱がん特異的なペプチドリガンドを含む組成物は、静脈内投与または体腔内もしくは器官(例えば、膀胱)の内腔内への投与のような、非経口投与に特に有用である。投与のための組成物は、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体に溶解されたポリペプチドを含むポリペプチドの溶液を一般的に含むであろう。種々の水性担体、例えば、緩衝食塩水などを用いることができる。これらの溶液は無菌であり、望ましくない物質を一般に含まない。これらの組成物は従来の、周知の滅菌法によって滅菌することができる。組成物はpH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤など、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどのような、生理学的状態に近づけるのに必要とされる薬学的に許容される補助物質を含んでもよい。これらの製剤中のポリペプチドの濃度は大きく異なることができ、選択される投与の特定の方法および患者の要求にしたがって流体の容量、粘度、体重などに主に基づき、選択されるであろう。
【0077】
液体形態の薬学的調製物は、溶液、懸濁液および乳濁液、例えば、水溶液または水/プロピレングリコール溶液を含むことができる。経口使用に適した水溶液は、活性成分を水に溶解し、必要に応じて適当な着色料、香味料、安定剤および増粘剤を添加することにより調製することができる。経口使用に適した水性懸濁液は、天然または合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび他の周知の懸濁化剤のような、粘着性材料と水中で微粉化された活性成分を分散させることにより作出することができる。非経口注射の場合、液体調製物は、ポリエチレングリコール水溶液中に溶解して製剤化することができる。経皮投与は適当な担体を用いて行うことができる。必要に応じて、経皮送達を容易にするようにデザインされた装置を利用することができる。適当な担体および装置は、米国特許第6,635,274号、同第6,623,457号、同第6,562,004号および同第6,274,166号に例示されるように、当技術分野において周知である。
【0078】
いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドはナノ粒子として製剤化される。ペプチドナノ粒子およびその調製の方法は、当技術分野において公知であり、例えば、米国特許出願公開第2006/0251726号、米国特許出願公開第2004/0126900号、米国特許出願公開第2005/0112089号、米国特許出願公開第2010/0172943号、米国特許出願公開第2010/0055189号、米国特許出願公開第2009/0306335号、米国特許出願公開第2009/0156480号および米国特許出願公開第2008/0213377号に記述されており、これらはそれぞれ、全ての目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられる。用途があるさらなるナノ粒子製剤は、例えば、Emerich and Thanos, Curr Opin Mol Ther (2008) 10(2): 132-9; Kogan, et al., Nanomedicine (2007) 2(3):287-306; Zhang, et al., Bioconjug Chem (2008) 19(1): 145-152; Scarberry, et al., J Am Chem Soc (2008) 130(31): 10258-10262; およびFraysse-Ailhas, et al., Eur Cells Materials (2007) 14(Suppl. 3): 115に記述されている。必要に応じて、ペプチドナノ粒子のアッセンブリおよび形成を可能とするために、アミノ酸配列がペプチドリガンドのN末端およびC末端の一方または両方に付加されてもよい。
【0079】
使用の直前に経口投与のための液体形態の調製物に変換されることを意図した固体形態の薬学的製剤も企図される。そのような液体形態には、溶液、懸濁液および乳濁液が含まれる。これらの調製物は、活性成分に加えて、着色料、香味料、安定剤、緩衝液、人工および天然の甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤などを含んでもよい。
【0080】
薬学的製剤は、好ましくは、単位投与量形態である。そのような形態において、調製物は、適切な量の活性成分を含む単位用量へ細分される。単位投与量形態は、包装された錠剤、カプセル、およびバイアルまたはアンプル中の粉末のような、包装容器に別個の量の調製物が含まれている、包装された調製物であってよい。また、単位投与量形態は、カプセル、錠剤、カシェ剤もしくは口中錠それ自体でもよく、または包装された形態の、適切な数のこれらのいずれかでもよい。
【0081】
本明細書において用いられる「単位投与量形態」という用語は、各単位が、必要とされる薬学的希釈剤、担体またはビヒクルとともに所望の薬学的効果を生じるように計算された活性物質の所定量を含む、ヒト対象および動物のための単位用量として適した物理的に別個の単位をいう。本発明の新規の単位投与量形態の仕様は、本明細書において詳細に開示されるように、(a) 活性物質の独特の特徴および実現しようとする特定の効果、ならびに(b) ヒトおよび動物において用いるための、このような活性物質を配合する当技術分野において固有の制限により決定され、かつ直接依存し、これらは本発明の特徴である。
【0082】
本発明の1つの態様において、薬学的製剤は治療的に有効な用量で患者に投与されて、疾患または悪性状態、例えばがんなどを予防、処置または制御する。薬学的組成物または医薬物は、患者での有効な治療的または診断的応答を誘発するのに十分な量で患者に投与される。有効な治療的または診断的応答は、疾患または悪性状態の症状または合併症を少なくとも部分的に停止または遅延させる応答である。これを達成するのに十分な量は「治療的に有効な用量」と定義される。
【0083】
4. 処置および/または予防の方法
a. 処置および/または予防に適している対象
本明細書において記述される膀胱がん特異的なペプチドリガンドには、膀胱がんの処置および予防において用途がある。膀胱がんは膀胱の悪性増殖のいくつかのタイプのいずれかをいう。最も一般的なタイプの膀胱がんは、膀胱の内部を裏打ちしている細胞で始まり、移行上皮がん(TCC) (腎盂がん(UCC)と呼ばれることもある)と呼ばれる。他のタイプの膀胱がんには、扁平上皮がん、腺がん、肉腫および小細胞がんが含まれる。いくつかの態様において、対象は、例えば遺伝的リスク因子、生活習慣リスク因子または環境リスク因子により、膀胱がんを有するか、または発症するリスクがある。いくつかの態様において、対象は、膀胱組織の移行上皮がんを有するか、または発症するリスクがある。いくつかの態様において、対象は、インテグリンα5β3および/もしくはインテグリンα5β5を発現もしくは過剰発現する膀胱がんを有するか、または発症するリスクがある。
【0084】
対象は無症状であっても、または膀胱がんの症状を示していてもよい。対象は、膀胱がんの家族歴、例えば、膀胱がんと診断された父母、祖父母または兄弟姉妹を有してもよい。
【0085】
膀胱がん特異的なペプチドリガンドを患者に投与して、膀胱腫瘍または膀胱がん細胞の増殖または成長の阻害、低減、後退または抑止を達成することができる。処置の達成という文脈において、患者は膀胱がんまたは膀胱腫瘍量を有し、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの投与により疾患の進行を食い止めるか、遅延させるか、または阻害することができる。抑止の達成という文脈において、患者は寛解期にあってよく、または原発腫瘍の除去を受けていてもよく、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの投与により転移がんの成長を遅延させるか、低減するか、阻害するか、またはなくすことができる。
【0086】
b. ポリペプチドを投与する方法
i. 投与経路
本明細書において記述される膀胱がん特異的なペプチドリガンドは、患者への投与のために薬学的製剤に製剤化することができる。薬学的製剤の投与は種々の方法によるものであってよい。方法としては全身投与を挙げることができ、ここではポリペプチドまたはポリペプチドの組成物が循環系により、薬学的作用の標的部位を含む、体内の部位に送達される。全身投与は、経口投与、尿道内投与および非経口投与(すなわち、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、経皮投与および皮下投与のような、消化管による以外の)を含むが、これらに限定されることはない。他の態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの投与は、局部、例えば、直接膀胱内へまたは腫瘍内に行われる。
【0087】
ii. 投薬
膀胱がん特異的なペプチドリガンドは、予防的および/または治療的処置のために投与することができる。治療用途では、膀胱がん特異的なペプチドリガンドを含む組成物は、膀胱がんに罹患している患者に、疾患およびその合併症を治癒するまたは少なくとも部分的に抑制するのに十分な量で投与される。これを成し遂げるのに十分な量は、「治療的に有効な用量」と定義される。この使用に有効な量は、疾患の重症度および患者の健康の全身状態に依るものと考えられ、所与のがん種に最良の用量を判定するために臨床研究が行われることが多い。化合物の有効量は、臨床医またはその他資格を持つ観察者が記すところの、症状の主観的軽減または客観的に識別できる改善をもたらす量である。
【0088】
予防用途では、膀胱がん特異的なペプチドリガンドを含む組成物は、疾患状態にはまだない患者に投与されて、疾患の発症を予防する。そのような量は「予防的に有効な用量」であると定義される。この用途では、的確な量は、この場合もやはり、患者の健康状態に依る。
【0089】
有効量の決定は、とりわけ本明細書において提供される詳細な開示に照らせば、十分に当業者の能力の範囲内である。概して、本発明の1つまたは複数のポリペプチドの組み合わせの効果的または有効な量は、低用量または少量のポリペプチドまたは組成物を最初に投与し、その後、毒性副作用は最小限にまたはなしに処置される対象において所望の効果が観察されるまで、投与される用量または投与量を徐々に増やし、必要に応じて第二または第三の医薬物を添加することによって決定される。本発明の組み合わせの投与に適した用量および投薬スケジュールを決定するために適用可能な方法は、例えば、Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 11th Edition, 2006, 前記に記述され; Physicians' Desk Reference (PDR), 64th Edition, 2010に記述され; Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed., 2006, 前記に記述され; ならびにMartindale: The Complete Drug Reference, Sweetman, 2005, London: Pharmaceutical Press.,に記述され、およびMartindale, Martindale: The Extra Pharmacopoeia, 31st Edition., 1996, Amer Pharmaceutical Assnに記述されており、これらの各々が参照により本明細書に組み入れられる。
【0090】
本明細書において記述される薬学的製剤の例示的な用量は、ミリグラムまたはマイクログラム量の膀胱がん特異的なペプチドリガンド/キログラムの対象またはサンプル重量(例えば、約1マイクログラム/キログラム〜約500ミリグラム/キログラム、約100マイクログラム/キログラム〜約5ミリグラム/キログラム、または約1マイクログラム/キログラム〜約50マイクログラム/キログラム)を含む。膀胱がん特異的なペプチドリガンドの適切な用量は、達成されるべき所望の効果に関する組成物の効能に依ることがさらに理解されよう。膀胱がん特異的なペプチドリガンドを哺乳類に投与しようとする場合、医師、獣医師または研究者は、例えば、最初に比較的低い用量を処方し、その後、適切な応答が得られるまで用量を増加させてもよい。さらに、任意の特定の哺乳類対象についての特異的な用量レベルは、利用される具体的な組成物の活性、対象の年齢、体重、全般的な健康、性別および食事、投与時間、投与経路、排出の速度、任意の薬物組み合わせ、ならびに調節されるべき発現または活性の程度を含む、種々の因子に依ることが理解されよう。
【0091】
本発明のポリペプチドの適切な投与量は、選択される投与経路、組成物の製剤、患者反応、状態の重症度、対象の体重、および処方医師の判断を含む、いくつかの要因にしたがって変わるであろう。投与量は個々の患者によって必要とされるように、経時的に増やされてもまたは減らされてもよい。通常、患者に初めは、低用量を投与し、これをその後、患者に対して許容される効果的な投与量まで増やす。
【0092】
投与される膀胱がん特異的なペプチドリガンドの投与量は、温血動物(哺乳類)の種、体重、年齢、個体の状態、処置すべき部分の表面積および投与の形態に依存する。用量のサイズはまた、特定の対象における特定の化合物の投与に伴う任意の有害作用の存在、性質および程度によって決定されると考えられる。約50〜70 kgの哺乳類への投与用の単位投与量は、約5〜500 mgの活性成分を含んでもよい。典型的には、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの投与量は、所望の効果を達成するのに十分な投与量である。
【0093】
組成物の最適な投与量、毒性および治療的効力は、個々の組成物の相対効力に依ってさらに異なる可能性があり、細胞培養物または実験動物での標準的な薬学的手順によって、例えば、LD50 (集団の50%に対する致死用量)およびED50 (集団の50%で治療的に有効な用量)を決定することによって決定することができる。毒性効果と治療効果との間の用量比が治療指数であり、これはLD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す組成物が好ましい。有毒な副作用を示す組成物が使用されてもよいが、正常細胞に対する潜在的損傷を最小限にし、それによって、副作用を小さくするために、そのような組成物を罹患組織の部位に標的化する送達系をデザインするように注意を払うべきである。
【0094】
例えば、動物実験(例えばげっ歯類およびサル)から得られるデータを使って、ヒトで用いる投与量の範囲を定めることができる。本発明のポリペプチドの投与量は、ほとんどまたは全く毒性を伴わないED50を含む循環血中濃度の範囲内にあることが好ましい。この投与量は、利用される投与量形態および投与経路に応じて、この範囲内で変化しうる。本発明の方法において用いられるいずれかの組成物の場合、治療的に有効な用量は、最初に細胞培養アッセイから推定することができる。ある用量を動物モデルにおいて調製して、細胞培養物で決定されたIC50 (症状の半最大阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度の範囲を達成することができる。そのような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をさらに正確に判定することができる。血漿中のレベルは、例えば、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定することができる。概して、ポリペプチドまたは組成物の相当用量は、典型的な対象に対して約1 ng/kg〜100 mg/kgである。
【0095】
静脈内投与のための本発明の典型的なポリペプチド組成物は、約0.1〜10 mg/kg/患者/日であろう。0.1〜最大約100 mg/kg/患者/日の投与量を用いることができる。投与可能な組成物を調製するための実際の方法は、当業者には知られており、または明らかであり、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed., 2006, Lippincott Williams & Wilkinsのような刊行物のなかでさらに詳細に記述されている。
【0096】
本発明の1つの態様において、本発明の薬学的製剤は、例えば、対象の体重1 kgあたり約1 mgの化合物(1 mg/kg)〜約1 g/kgの範囲の1日用量で投与される。別の態様において、用量は、約5 mg/kg〜約500 mg/kgの範囲の用量である。さらに別の態様において、用量は、約10 mg/kg〜約250 mg/kgである。別の態様において、用量は、約25 mg/kg〜約150 mg/kgである。好ましい用量は、約10 mg/kgである。
【0097】
薬学的製剤の例示的な用量は必要に応じて100〜500 mgの1日用量を含むことができる。薬学的製剤は約25 mg/mL〜約50 mg/mLの濃度で投与することができる。薬学的製剤の例示的な用量は約50〜200 mg/kg、例えば、約100 mg/kgの1日用量を含むことができる。
【0098】
成功的処置の後、対象に維持療法を受けさせて、処置される疾患または悪性状態の再発を予防することが望ましいかもしれない。
【0099】
iii. スケジュール作成
投薬スケジュールは、対象の体内でのポリペプチドの測定から算出することができる。一般に、投与量は、1 ng〜1,000 mg/kg体重であり、必要または適切な場合、毎日、週2回、毎週、隔週、月2回、毎月、隔月または毎年1回または複数回与えられてもよい。当業者は、最適な投与量、投薬方法論および反復速度を容易に決定することができる。当業者は、当技術分野において公知の確立したプロトコルおよび本明細書における開示にしたがってヒトへの本発明のポリペプチドまたはポリペプチド組成物の投与に最適な投薬を決定することができよう。
【0100】
単回または複数回投与の薬学的製剤が、患者によって必要とされ、かつ許容される投与量および頻度に応じて投与されてもよい。いずれの場合も、組成物は、患者を効果的に処置するのに十分な量の本発明のポリペプチドを提供しなければならない。好ましくは、投与量は一回で投与されるが、治療結果が達成されるまで、または副作用により治療の中止が必要となるまで、定期的に適用することもできる。一般的には、用量は、患者にとって許容できない毒性を生じることなしに、疾患の症状または徴候を処置または軽減するのに十分である。
【0101】
1日用量は、1日に1回投与されてもよく、または部分用量に分割して複数用量で、例えば、1日に2回、3回もしくは4回投与されてもよい。しかしながら、当業者によって理解されるように、本明細書において記述される組成物は、異なる量でかつ異なる時点で投与されてもよい。当業者なら、対象の疾患もしくは悪性状態の重症度、以前の処置、全般的な健康および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を含むが、これらに限定されない、ある因子が、対象を有効に処置するのに必要とされる投与量およびタイミングに影響を与えうるということも理解するであろう。さらに、治療的に有効な量の組成物による対象の処置は、単一の処置を含むことができ、または、好ましくは、一連の処置を含むことができる。
【0102】
したがって、静脈内投与のためのその薬学的製剤は、約0.01〜100 mg/kg/患者/日であろう。薬物が隔離された部位に投与され、かつ血流内に、例えば体腔内にまたは器官の内腔内に投与されない場合には特に、0.1〜最大約1000 mg/kg/患者/日の投与量を用いることができる。非経口的に投与可能な組成物を調製するための実際の方法が当業者には公知または明白であり、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Ed., 2006, Lippincott Williams & Wilkinsのような刊行物のなかでさらに詳細に記述されている。
【0103】
所望の治療効果を達成するために、薬学的製剤は複数日の間、治療的に有効な1日用量で投与することができる。したがって、対象において本明細書に記述の疾患または悪性状態を処置するための組成物の治療的に有効な投与では、3日〜2週間またはそれより長くに及ぶ期間にわたって継続する定期的な(例えば、毎日の)投与を必要としうる。典型的には、組成物は、少なくとも3連続日の間、多くの場合には少なくとも5連続日の間、より多くの場合には少なくとも10連続日の間、および時には20、30、40もしくはそれ以上の連続日の間、または必要に応じてそれより長い間、投与されるであろう。連続日用量は、治療的に有効な用量を達成するための好ましい手段であるが、化合物または組成物が毎日投与されない場合でさえも、対象における組成物の治療的に有効な濃度を維持するのに十分高い頻度で投与が繰り返される限り、治療的に有益な効果を達成することができる。例えば、1日おきに、3日ごとに、または、より高い用量範囲が利用されかつ対象が耐えられる場合には、1週間に1回、組成物を投与することができる。
【0104】
c. 確立した抗がん治療との併用療法
i. 化学療法
本明細書において記述される膀胱がん特異的なペプチドリガンドは、併用療法として他の薬剤と同時投与することができる。
【0105】
膀胱がん特異的なペプチドリガンドと同時投与できる化学療法剤の例は、非限定的に、アルキル化剤(シスプラチン、カルボプラチンおよびオキサリプラチン); 代謝拮抗物質(例えばアザチオプリンおよびメルカプトプリンを含むプリンまたはピリミジン模倣薬); 植物性アルカロイドおよびテルペノイド(ビンカアルカロイドおよびタキサン); ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビンおよびビンデシン); ポドフィロトキシン(エトポシドおよびテニポシドを含む); タキサン(パクリタキセル、タキソールおよびドセタキセル); トポイソメラーゼ阻害剤(I型阻害剤: カンプトテシン、イリノテカンおよびトポテカン; II型阻害剤: アムサクリン、エトポシド、リン酸エトポシドおよびテニポシド); 抗新生物薬(ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、フルダラビンおよびブレオマイシン)を含む。関心対象のがんを処置するために使用されている任意の化学療法剤を、膀胱がん特異的なペプチドリガンドと併用療法計画のなかで同時投与することができる。
【0106】
ii. 放射線
膀胱がん特異的なペプチドリガンドは放射線手法と併せて投与することができる。種々の放射線手法が疾患の処置のために利用可能である。当業者によって公知の任意の手法を患者の処置のために本発明のポリペプチドと組み合わせることができる。放射線手法には細胞DNAを損傷するための放射線療法を用いた処置が含まれる。細胞DNAに対する損傷は、光子、電子、陽子、中性子、またはDNA鎖を構成する原子を直接的もしくは間接的にイオン化するイオンビームによって引き起こすことができる。間接的なイオン化が水のイオン化によって起こり、遊離基、とりわけヒドロキシル基を形成し、これがその後、DNAを損傷する。放射線療法の最も一般的な形態では、放射線作用の大部分は遊離基によるものである。細胞DNA修復機構により、放射線療法のような、二本鎖DNA切断を誘導する作用物質の使用は、がん治療に非常に有効な技法であることが証明されている。がん細胞は未分化かつ幹細胞様であることが多く、そのような細胞は、健常かつより分化した細胞と比べてさらに迅速に再生され、亜致死障害を修復する能力が減退している。さらに、DNA損傷は細胞分裂を通じて受け継がれ、がん細胞に対する損傷の蓄積をもたらし、より緩徐な再生、多くの場合には、死を誘導する。
【0107】
放射線療法の手順において用いられる放射線の量はグレイ(Gy)単位で測定され、処置されているがんの種類および病期ならびに患者の健康の全身状態に依り異なる。放射線量の範囲はがん種によって影響を受けることもあり、例えば、固形上皮腫瘍に対する典型的な治療用の放射線量は60〜80 Gyに及び、その一方でリンパ腫に対する放射線量は20〜40 Gyに及ぶ。
【0108】
予防(補助)線量を利用することもでき、それは、典型的には、1.8〜2 Gyに分割して投与される45〜60 Gyに及ぶ(乳房、頭頸部がんの場合)。患者が他の治療(例えば、限定されるものではないが、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの投与、化学療法の投与などのような)を受けているかどうか、患者の共存症、放射線療法のタイミング(例えば、放射線療法が外科手術の前または後に投与されるかどうか)、および任意の外科的手技の成功度を含めて、多くの他の要因が周知であり、線量の選択時に当業者によって考慮されるであろう。
【0109】
当業者は規定の放射線量の送達パラメータを処置計画中に決定することができる。処置計画は、専門の処置計画ソフトウェアを用いて専用コンピュータにて行うことができる。放射線送達法に依り、いくつかの角度または線源を用いて、必要な全線量まで加算することができる。一般に、均一の規定線量を腫瘍に送達し、かつ周辺の健常組織への損傷を最小限に抑える計画が考案される。
【0110】
iii. 外科手術
膀胱がん特異的なペプチドリガンドは、腫瘍の外科的除去またはデバルキングと併せて投与することができる。種々の外科的手技が疾患の処置のために利用可能である。当業者によって知られている任意の手技を患者の処置のために本発明のポリペプチドと組み合わせることができる。外科的手技は、緊急性、手技のタイプ、関わる体組織、浸潤度、および特殊器具によって一般に分類される。
【0111】
外科的手技の例としては緊急および予定の手技を挙げることができる。緊急の外科手術は、生命、四肢または機能的能力を救うために素早く行われなければならない外科手術である。外科的手技のさらなる例としては、試験手術、治療的外科切断術、再移植術、器官もしくは身体部分の再建的な、美容的な、切除術、移植術または除去、および当技術分野において公知のその他のものを挙げることができる。試験手術は診断を補助または確認するために行うことができる。治療的手術では予め診断されていた状態を処置する。切断術では身体部分、通常、四肢または指の切り取りを伴う。再移植術では切断された身体部分の再付着を伴う。再建手術では身体の負傷した部分、損傷した部分、または変形した部分の再建を伴う。美容手術は、その他の点では正常な構造の外観を改善するために、または疾患により傷んだもしくは失われた構造の修復のために行うことができる。切除術は患者から器官、組織または他の身体部分を切り出すことである。移植手術は、患者への異なるヒト(または動物)由来の別物の挿入による器官または身体部分の交換である。移植で用いるための生きているヒトまたは動物からの器官または身体部分の除去も一種の外科手術である。
【0112】
関心対象の部位にアクセスするために大切開を利用する従来の開口外科手技に加えて、外科手技には低侵襲手術がさらに含まれる。低侵襲手術では、典型的には、腹腔鏡手術または血管形成術と同様に、体腔または構造内に小型器具を挿入するために利用されるもっと小さな外面切開を伴う。レーザー手術では外科用メスまたは類似の手術器具に代えて組織を切り取るためにレーザーの使用を伴う。顕微鏡手術(icrosurgery)では、外科医が小構造を見るために手術用顕微鏡の使用を伴う。ロボット外科手術では、例えば外科医のような、当業者の指示を受けて器具を制御するために、手術ロボット(例えばDa Vinci (Intuit Surgical, Sunnyvale, California)のような)を利用する。
【0113】
5. 処置の効力をモニタリングする方法
本明細書において記述される膀胱がん特異的なペプチドリガンドによる治療的および予防的処置の効力を判定するうえで種々の方法を利用することができる。一般に、効力は著しい毒性なしに効果を生み出す能力である。効力は、治療が所与の治療介入(治療介入の例としては、薬学的製剤の投与、医療装置の利用または外科手技の利用を挙げることができるが、これらに限定されることはない)について治療的または予防的効果をもたらすことを示す。効力は、処置個体を未処置個体と比較することにより、または同じ個体を処置の前後で比較することにより測定することができる。処置の効力は、薬理学的研究、診断的研究、予測的研究および予後的研究を含む、種々の方法を用いて判定することができる。効力の指標の例としては、腫瘍細胞成長の阻害および腫瘍細胞死の促進が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0114】
抗がん処置の効力は当技術分野において公知の種々の方法によって評価することができる。膀胱がん特異的なペプチドリガンドは動物モデルで未処置対照またはプラセボ対照と比べて予防的または治療的効力がないかスクリーニングすることができる。そのようなスクリーニングによって特定された膀胱がん特異的なペプチドリガンドを次に、腫瘍細胞死または増強された免疫系活性化を誘導する能力について分析することができる。例えば、複数希釈の血清を培養下の腫瘍細胞株に関して試験することができ、細胞死または細胞増殖の阻害について調べるための標準的な方法を利用することができる。(例えば、Maniatis, et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Lab., New York, 1982; Ausubel, et al. Editor, Current Protocols in Molecular Biology, USA, 1984-2008; およびAusubel, et al. Editor, Current Protocols in Molecular Biology, USA, 1984-2008; Bonifacino, et al., Editor, Current Protocols in Cell Biology, USA, 2010を参照されたい; これらは全て、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。)
【0115】
本発明の方法は、さまざまながんに罹患しているまたはかかりやすい患者における疾患の阻止の検出を提供する。種々の方法を用いて、症状のある患者に対する治療的処置も、症状のない患者に対する予防的処置もモニタリングすることができる。
【0116】
モニタリング方法は、それぞれ、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの投与量を投与する前に患者における腫瘍量のベースライン値を決定する段階、およびこれを処置後の腫瘍量の値と比較する段階を伴うことができる。
【0117】
膀胱がん特異的なペプチドリガンドを用いた治療に関して、腫瘍量の値の有意な減少(すなわち、同じサンプルの反復測定で、典型的な実験誤差限界よりも大きく、そのような測定の平均から1標準偏差として表される)は陽性の処置結果(すなわち、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの投与が腫瘍成長および/または転移の進行を遮断もしくは阻害し、または低減したこと)を示す。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドによる処置は、処置されている対象における腫瘍量が、例えば対象において処置前後の腫瘍量を比較して、少なくとも約10%だけ、例えば、少なくとも約20%、30%、40%もしくは50%だけ低減していれば、または腫瘍量を完全になくすことによって低減していれば、有効であるものと考えられる。
【0118】
他の方法では、腫瘍量の対照値(例えば、平均および標準偏差)は、膀胱がん特異的なペプチドリガンドによる処置を受けた対照の個体集団から決定される。患者の腫瘍量の測定値を対照値と比較する。患者で測定されたレベルは対照値と有意差(例えば、1標準偏差より大きい)がないなら、処置を中断することができる。患者での腫瘍量のレベルが対照値を有意に上回るなら、薬剤の継続投与が正当化される。
【0119】
他の方法では、現在は処置を受けていないが、しかし以前に一連の処置を受けている患者を、処置の再開が必要かどうかを決定するために腫瘍量についてモニタリングする。患者で測定された腫瘍量の値を、以前の一連の処置後に患者で以前達成された腫瘍量の値と比較することができる。以前の測定に比べて腫瘍量の有意な増加(すなわち、同じサンプルの反復測定で、典型的な実験誤差限界よりも大きい)は、処置を再開できることの示唆である。あるいは、患者で測定された値を、一連の処置を受けた後の患者の集団で決定された対照値(平均に標準偏差を加えた)と比較することができる。あるいは、患者で測定された値を、疾患の症状がないままの予防的に処置された患者の集団、または疾患の特徴の改善を示す治療的に処置された患者の集団での対照値と比較することができる。これらの事例の全てで、対照レベルに対して腫瘍量の顕著な増加(すなわち、標準偏差よりも大きい)は、患者での処置を再開すべきであることの指標となる。
【0120】
分析用の組織サンプルは、典型的には、患者に由来する血液、血漿、血清、粘液、組織生検、腫瘍、腹水または脳脊髄液である。新生物の兆候がないかサンプルを分析することができる。新生物または腫瘍量は、当技術分野において公知の任意の方法、例えば、資格を持つ病理学者による生検の目視観測、または他の可視化技法、例えば、ラジオグラフィー、超音波、磁気共鳴映像法(MRI)を用いて検出することができる。
【0121】
6. 診断の方法
a. 診断に供される患者
膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合は、対象における膀胱がんの検出および診断で用途がある。本発明の膀胱がん特異的なリガンドは、細胞の表面上の、インテグリンα5β3およびインテグリンα5β5に結合することができる。膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルは、がんの疑いがある膀胱組織に関して判定することができる。膀胱がん特異的なペプチドリガンドが膀胱組織に結合するかどうかを判定するために、膀胱組織の組織生検をとることができる。他の態様において、尿サンプル中の膀胱細胞との膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合が判定される。
【0122】
したがって、本発明の方法から恩恵を受けうる患者は、膀胱がんの症状を既に呈しうる。例えば、(目視検査もしくは触診による、または走査技法、例えば、磁気共鳴映像法(MRI)もしくは陽電子断層撮影法(PET)走査による)膀胱がんまたは腫瘍の証拠が存在しうる。
【0123】
本発明の診断方法には、現在利用可能ながん診断検査と併せた用途がある。患者は、例えば、血清バイオマーカー、尿中バイオマーカーまたは遺伝分析に基づき、がんの予備的診断を既に有してもよい。膀胱がんの診断を容易にするバイオマーカーは、当技術分野において公知であり、例えば、Netto and Epstein, Pathology. (2010) 42(4):384-94; Gaston and Grossman, Methods Mol Biol. (2010) 641: 303-23; Goebell, et al., Urologe A. (2010) 49(4):547-59; Mowatt, et al., Health Technol Assess. (2010) 14(4): 1-331; Mitra and Cote, Nat Rev Urol. (2010) 7(1): 11-20; Bryan, et al., BJU Int. (2010) 105(5):608-13; Apolo, et al., Future Oncol. (2009) 5(7):977-92に記述されている。そのような場合には、生検が正当化される可能性があり、がんであると疑われる組織における膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルまたはインテグリンα5β3および/もしくはインテグリンα5β5の発現レベルの検出によってがんの予備的診断を確認または否認することができる。
【0124】
他の場合には、患者は膀胱がんの個人歴もしくは家族歴または別の泌尿器組織のがんを有してもよい。例えば、患者は膀胱がんの成功裏の治療的処置後の寛解期にあってもよい。患者はまた、膀胱がんのリスクの増大または膀胱がんの再発と関連した遺伝子の検査で陽性と出ていてもよい。
【0125】
b. 生体サンプルの採取
発現レベルが測定される生体サンプルは、がんであると疑われる組織に依るであろう。通常、生体サンプルは、がんであると疑われる組織、例えば、膀胱細胞または膀胱組織に由来する。
【0126】
いくつかの態様において、生体サンプルは尿サンプルである。膀胱細胞は膀胱組織からはがれ落ち、尿中で排出されうる。尿細胞診は排泄された尿のサンプルでまたは膀胱鏡検査(「膀胱洗浄」)の時点で行うことができる。尿細胞診は、局部的な腫瘍成長の間に尿中に流された悪性細胞の病理学的分析に依る(Sullivan, et al., Am J Transl Res. (2010) 2(4):412-40; Caraway, et al., Cancer Cytopathol. (2010) 118(4): 175-83)。標本は、通常、排尿によりまたは内視鏡手術中の膀胱洗浄から得られる。尿細胞診を尿道膀胱鏡検査(urethrocystoscopy)と組み合わせて用い、検尿によって臨床的に関連する血尿症が明らかな場合には特に、高いリスクがあると考えられる人において膀胱がんを検出することができる。尿サンプル中の膀胱細胞を、例えば、遠心分離によって濃縮し、次いで、膀胱がん特異的なペプチドと接触させることができる。
【0127】
いくつかの態様において、生体サンプルは生検由来である。いくつかの態様において、生体サンプルは上皮膀胱組織である。場合によっては、例えば、膀胱がん転移の存在の判定は、生体サンプルが膀胱組織以外の組織に由来することが適切な場合もある。
【0128】
いくつかの態様において、例えば、転移の存在を判定するために、がんであると疑われる組織とは異なる組織中の膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルを測定することが適切な場合もある。
【0129】
c. 膀胱がんの存在の判定
膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合のレベルは、当技術分野において周知の、および本明細書において記述の方法にしたがって測定することができる。ペプチドリガンドの結合のレベルは、例えば、直接的または間接的に標識された検出剤、例えば、蛍光的に、放射活性的にまたは酵素的に標識された膀胱がん特異的なペプチドリガンドを用いて検出することができる。例えば、ペプチドは標識ビーズ、例えば、蛍光標識、化学発光標識、量子ドット標識、または当技術分野において公知のその他任意の標識によって検出できるビーズに結合させることができる。標識ビーズを用いたアッセイ法は当技術分野において周知である。
【0130】
説明に役立つ実例を提供するために、尿サンプルを対象から採取し、サンプル中の細胞を、例えば遠心分離によって、濃縮する。膀胱細胞を含む、尿サンプルから濃縮された細胞を次いで、本明細書において記述されるように、膀胱がん特異的なペプチドリガンドと接触させる。あるいは、膀胱がん特異的なペプチドリガンドは、細胞をまず初めに濃縮せずに尿サンプルに添加される。細胞はペプチドへの曝露後に濃縮されてもよい。ペプチドは、例えば、標識ビーズへの結合または付着によって、直接的に標識することができる。例えば、ビーズはフルオロフォア、化学発光部分もしくは量子ドット、またはその他任意の検出可能な標識で標識することができる。ビーズに結合されたペプチドは、尿サンプル中のがん細胞とのペプチドリガンドの結合の検出およびペプチドリガンドに結合された膀胱がん細胞の濃縮を容易にする。標識細胞の存在を次いで、検出および定量化することができる。例えば、膀胱がん特異的なペプチドリガンドを結合させたビーズでコーティングされた細胞を、顕微鏡を用いてまたはフローサイトメトリーによって検出することができる。
【0131】
いくつかの態様において、膀胱がん特異的なリガンドは抗体結合で公知のエピトープ(例えば、FLAG-タグまたはc-mycエピトープ)に、(例えば化学結合または融合によって)連結される。単独のまたは抗体エピトープに連結されたペプチドリガンドは、抗体エピトープまたはその断片に選択的に結合する抗体を用いた免疫組織化学的染色、ウエスタンブロッティング、ELISAなどを含む、当技術分野において公知の免疫アッセイ法を用いて測定することができる。免疫アッセイ法における抗体を用いたペプチドの検出は、当技術分野において公知である(例えば、Harlow & Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual (1998); Coligan, et al., eds., Current Protocols in Immunology (1991-2010); Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice (3rd ed. 1996); およびKohler & Milstein, Nature 256:495-497 (1975)を参照のこと)。
【0132】
がんであると疑われる膀胱細胞または膀胱組織との膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルは、当技術分野において公知の任意の方法を用いて検出することができる。例示的な方法としては、フローサイトメトリー、組織溶解物検出、ウエスタンイムノブロットおよび免疫組織化学が挙げられる。
【0133】
説明に役立つ実例を提供するために、膀胱組織サンプル(例えば、生検)を、特異的な結合を可能とするのに十分な条件(すなわち、時間、温度、サンプルの濃度)の下で、単独のまたはエピトープタグに連結された、膀胱がん特異的なペプチドリガンドに特異的に結合する抗体とともにインキュベートする。組織は任意で、抗体とのインキュベーションの前に固定化され(例えばホルムアルデヒド中で)、透過化されてもよい。抗ペプチド抗体を、必要に応じて、約0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0時間、または終夜、約8、10もしくは12時間、組織サンプルに曝露させることができる。しかしながら、インキュベーション時間は、例えば、抗原の組成、サンプルの希釈およびインキュベーションの温度に応じて、多くても少なくてもよい。あまり希釈されていないサンプルおよびより高い温度を用いたインキュベーションを、より短かい時間にわたって行うことができる。インキュベーションは、通常、室温(約25℃)でまたは生体温度(約37℃)で行われ、冷蔵庫(約4℃)の中で行うことができる。二次抗体の添加前に未結合のサンプルを除去するための洗浄は、公知の免疫アッセイ法にしたがって行われる。
【0134】
膀胱がん特異的なペプチドリガンドが直接標識されてもよく、または標識二次抗体を用いて、ペプチドリガンドに結合したサンプル中の抗体を検出してもよい。二次抗体は免疫グロブリンIgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEの異なるクラスまたはアイソタイプの定常領域または「C」領域に結合する。通常、IgG定常領域に対する二次抗体が本発明の方法において用いられる。IgGサブクラス、例えば、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4に対する二次抗体も本発明の方法において用途がある。二次抗体は、フルオロフォア(すなわち、フルオレセイン、フィコエリトリン、量子ドット、Luminexビーズ、蛍光ビーズ)、酵素(すなわち、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、放射性同位体(例えば、3H、32P、125I、123I、11C、13N、15O、18F、82Rb、テクネチウム-99m (Tc-99m)、タリウム-201)または化学発光部分を含む、任意の直接的にまたは間接的に検出可能な部分で標識することができる。標識シグナルはビオチンおよびビオチン結合部分(すなわち、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン)の複合体を用いて増幅することができる。蛍光的に標識された抗ヒトIgG抗体はMolecular Probes, Eugene, ORから市販されている。酵素標識された抗ヒトIgG抗体はSigma-Aldrich, St. Louis, MOおよびChemicon, Temecula, CAから市販されている。
【0135】
サンプル中の膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルの検出方法は、二次抗体の標識の選択に対応するであろう。例えば、ペプチドリガンドに結合されたものを含む組織溶解物がイムノブロッティングに適した膜基材上に転写されるなら、検出可能なシグナル(すなわち、ブロット)は、酵素標識が使われる場合にはデジタル撮像装置を用いて、または放射性同位体標識が使われる場合にはx線フィルム現像機を用いて定量化することができる。同様に、免疫組織化学に供される組織サンプルは、免疫蛍光顕微鏡検査法または走査型顕微鏡、ならびに蛍光シグナル、化学発光シグナル、および/または比色シグナルを検出および定量化できる自動走査ソフトウェアを用いて評価することができる。そのような検出方法は当技術分野において周知であり、本明細書において記述されている。
【0136】
一般的な免疫アッセイ法および免疫組織化学法は当技術分野において周知である。パラメータの最適化のための手引きは、例えば、Wu, Quantitative Immunoassay: A Practical Guide for Assay Establishment, Troubleshooting, and Clinical Application, 2000, AACC Press; Principles and Practice of Immunoassay, Price and Newman, eds., 1997, Groves Dictionaries, Inc.; The Immunoassay Handbook, Wild, ed., 2005, Elsevier Science Ltd.; Ghindilis, Pavlov and Atanassov, Immunoassay Methods and Protocols, 2003, Humana Press; Harlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, 1998, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Immunoassay Automation: An Updated Guide to Systems, Chan, ed., 1996, Academic Press; Dabbs, Diagnostic Immunohistochemistry: Theranostic and Genomic Applications, 2010, Saunders; Renshaw, Immunohistochemistry: Methods Express Series, 2007, Scion Publishing Ltd.; およびBuchwalow and Bocker, Immunohistochemistry: Basics and Methods, 2010, Springerのなかで見出すことができる。
【0137】
膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合または結合の増大の存在は、患者由来の生体サンプルが、ペプチドリガンドまたはエピトープタグに特異的に結合する抗体または抗体断片と接触される免疫アッセイ法または免疫組織化学的アッセイ法において検出可能なシグナル(すなわち、ブロット、蛍光、化学発光、色、放射能)により示される。
【0138】
検出可能なシグナルを膀胱組織もしくは膀胱細胞由来の正常もしくは非がん性の対照サンプルからのシグナルと、または閾値と比較することができる。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合または結合の増大が検出され、例えば、試験サンプル中のペプチドリガンド結合レベルの検出可能なシグナルが正常もしくは非がん性の対照サンプルにおけるペプチドリガンド結合レベルのシグナルまたは所定の閾値と比べて少なくとも約10%、20%、30%、50%、75%高い場合、がんの存在またはリスク増大が示される。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なリガンドの結合レベルの増大が検出され、試験サンプル中の膀胱がん特異的なペプチドリガンド結合レベルの検出可能なシグナルが正常もしくは非がん性の対照サンプルにおける膀胱がん特異的なペプチドリガンド結合レベルのシグナルまたは所定の閾値と比べて少なくとも約1倍、2倍、3倍、4倍またはそれ以上高い場合、がんの存在またはリスク増大が示される。通常、サンプルおよび対照または所定の閾値レベルは同じ組織型由来である。
【0139】
いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルは、がんであることが分かっている対照組織または対照細胞における膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルと比較される。この場合、がんであることが分かっている、陽性対照サンプルに等しいまたはそれよりも高い試験生体サンプルにおける膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルはがんを示す。通常、サンプルおよび対照または所定の閾値レベルは同じ組織型(例えば、膀胱組織)由来である。
【0140】
あるいは、試験生体サンプルにおける膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルが陽性がん組織対照における膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルまたは所定の閾値レベルよりも低いなら、がんの診断は一般的に示されない。同様に、試験生体サンプルにおける膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルが正常もしくは非がん性の対照または所定の閾値レベルに等しいまたはそれよりも低いなら、がんの診断は示されない。
【0141】
いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルの測定の結果は有形的表現媒体中に記録される。例えば、本発明の診断アッセイ法の結果(例えば膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合の存在または存在の増大の観察結果)およびがんの存在またはリスク増大が判定されるか否かの診断結果を、例えば、紙面上にまたは電子媒体(例えば、オーディオテープ、コンピュータディスク、CD、フラッシュドライブなど)上に記録することができる。
【0142】
いくつかの態様において、本方法は、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルの測定の結果に基づき患者にがんの存在またはリスク増大が認められるか否かの診断を患者に提供する段階をさらに含む。
【0143】
いくつかの態様において、本方法は、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合レベルの測定の結果に基づき患者に適切な処置過程を提供または推奨する段階をさらに含む。
【0144】
膀胱細胞または膀胱組織を含有する生体サンプルに対する本明細書において記述の膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合に基づき対象における膀胱がんの存在を判定する方法は、膀胱がんを診断する他の公知の方法と併せて行うことができる。
【0145】
7. インサイチュー画像化の方法
本明細書において記述される膀胱がん特異的なペプチドリガンドには、例えば経尿道的膀胱がん切除術(TURBT)中の、膀胱がんの局部可視化の方法において用途がある。蛍光色素に結合された膀胱がん特異的なペプチドリガンドには、この応用のための用途がある。
【0146】
本明細書において記述される膀胱がん特異的なペプチドリガンドの別の用途は、侵入的かつ高価な膀胱鏡検査を補完または低減できる膀胱がんの画像化検出である。膀胱がんを有することが疑われるまたは分かっている対象において磁気共鳴映像法(MRI)および陽電子断層撮影法(PET)を行うことができる。MRI走査もPET走査も悪性腫瘍の診断に広く用いられており、膀胱悪性腫瘍の診断および検出において用途がある。それゆえ、MRIおよびPETまたは単光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)を用いて、造影剤、例えば、MRIのための酸化鉄およびPET/SPECTのための放射性同位体(例えば、123I、11C、13N、15O、18F、82Rb、テクネチウム-99m (Tc-99m)、タリウム-201)に結合された本明細書において記述の膀胱がん特異的なペプチドリガンドにより膀胱がんの検出を容易にすることができる。
【0147】
インサイチュー画像化を可能とするために、適切な造影剤に付着された膀胱がん特異的なペプチドリガンドを対象内で、膀胱がん細胞を含むことが疑われるまたは分かっている組織と接触させる。患者に対して適切な画像化法を行うことにより、画像化された組織における膀胱がん細胞の位置および程度を判定することができる。
【0148】
いくつかの態様において、本方法は、例えば、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの結合の検出に基づき、組織から膀胱がん細胞を除去する段階、切除する段階または切り出す段階をさらに含む。膀胱がん細胞の摘出および除去のために、膀胱がん特異的なペプチドリガンドに結合された磁性粒子をさらに用いることができる。がん細胞のインビトロおよびインビボ標的化および摘出のための磁性ナノ粒子-ペプチド結合体の使用は、例えば、Scarberry, et al., J Am Chem Soc (2008) 130(31): 10258-10262に記述されている。
【0149】
8. キット
本発明はまた、本明細書において記述される、膀胱がん特異的なペプチドリガンドを含むキットを提供する。キット中の膀胱がん特異的なペプチドリガンドの態様は、本明細書において記述される通りである。いくつかの態様において、膀胱がん特異的なペプチドリガンドは標識ビーズに結合され、または付着される。
【0150】
さらに、キットは、典型的には、膀胱がん特異的なペプチドリガンドの使用の手段を開示している教材を含む。キット中で、膀胱がん特異的なリガンドは投与用に製剤化され、1つまたは複数の単位用量で提供されてもよい。キットは、考案される特定の用途を容易にするためにさらなる成分を含んでもよい。キットは、緩衝液および特定の方法の実践のために日常的に使われる他の試薬をさらに含んでもよい。そのようなキットおよび適切な在中物は、当業者に周知である。
【0151】
理解を明確にするために例証および実例によって上述の発明を少し詳しく記述してきたが、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく本発明にある種の変更および修正を行えることが当業者には容易に明らかであろう。
【実施例】
【0152】
以下の例は、主張する発明を限定するためではなく、例証するために与えられる。
【0153】
実施例1: 膀胱がん特異的なリガンドの発見
材料および方法
初期および集中的OBOCライブラリの合成
OBOCライブラリは固相TentaGel S NH2樹脂(Rapp Polymere Gmbh, Germany)上で「スプリット・ミックス合成」法により合成された(Lam, et al., Nature, (1991) 354: 82-84; Lam, et al., Chem Rev, (1997) 97: 411-448; およびPeng, et al., Nat Chem Biol, (2006) 2: 381-389)。ペプチド模倣体のペプチド部分は、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学およびN-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)/N,N'-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)カップリングを用いて標準的な固相ペプチド合成技法により合成された。それから、カップリングの完了をニンヒドリン試験で確認した。ビーズは使用するまで70%エタノール中にて4℃で保存した。
【0154】
細胞
5637 (HTB-9)、SCaBER、TCCSUP (HTB-5)およびT24 (HTB-4)を含む4種の膀胱がん細胞株をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(Manassas, VA)から購入した。正常尿路上皮細胞の分離、特徴付けおよび維持は、これまでに詳述されている(Bagai, et al., J Biol Chem, (2002) 277: 23828-23837)。正常末梢血単核細胞は健常ドナーの末梢血からFicoll-Paque勾配法を用いることによって調製された。膀胱切除術から得られた膀胱がん組織を細かく切り分け、製造元のプロトコルにしたがってコラゲナーゼにより37℃で1〜2時間消化し、40 μmの篩を通してろ過し、単一細胞懸濁液を作出した。次にFicoll-Paque勾配法(800 g、4℃にて30分)で腫瘍細胞を分離した。標本を回収する前に各患者または健常ドナーからインフォームドコンセントを得た。
【0155】
K9TCC、K9TCC-AxA、K9TCC-AxC、K9TCC-NkおよびK9TCC-Inと名付けられた5種のイヌ膀胱移行上皮がん細胞株はPurdue UniversityのDeborah W. Knappから親切にも提供していただいた(Dhawan, et al., Urol Oncol, (2009) 27: 284-292)。これらの細胞は、10% FBSおよび2 mMグルタミンを含むDMEM/F12中で維持し、5% CO2中37℃でインキュベートした。
【0156】
膀胱がん特異的なリガンドに向けたOBOCライブラリのスクリーニング
スクリーニングの前に、ビーズを再蒸留水およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で十分に洗浄した。膀胱がん細胞および正常尿路上皮細胞をトリプシン/EDTAまたはDetachキット(PromoCell, Heidelberg, Germany)により培養皿から引きはがし、その対応培地で洗浄し、細胞106個/mlで再懸濁し、ペトリ皿中のOBOCビーズとともに37℃の加湿CO2インキュベーター中にて振盪(60 rpm)しながらインキュベートした。細胞が結合したビーズは顕微鏡下で、中心のビーズが細胞の層に覆われてロゼットのように見えた。陽性のビーズを倒立顕微鏡の下でピペットにより選出し、Quanidine HCl (8 M, 20 min)で処理してビーズ表面の細胞およびタンパク質を除去し、同じ細胞とともに第2ラウンドのインキュベーションにかけて結合を確認した。両方のラウンドで細胞結合のあるビーズだけを既報(Peng, et al., Nat Chem Biol, (2006) 2: 381-389)のようにアミノ酸配列決定に出した。
【0157】
ペプチドおよびペプチド-ビオチンの合成
生物学的試験のための液相PLZ4およびPLZ4-ビオチンの合成化学は、HOBt/DICカップリングを用いたライブラリの合成化学と同様である。Rinkアミド樹脂を固体支持体として用い、カルボキシルアミドを有する化合物を調製した。
【0158】
蛍光顕微鏡検査法
膀胱がん細胞および正常尿路上皮細胞(各ウェルに細胞2×104個)をチャンバスライド上に播種した。細胞が70%超の集密まで増殖した時点で、それらをPBSで洗浄し、1時間4℃にて3% BSA-PBSでブロッキングし、TBS緩衝液中にて4℃で1時間ペプチド-ビオチン結合体(1 μM)とともにインキュベートした。細胞を次に、TBSで3回洗浄し、FITC-ストレプトアビジン(0.5 μg/ml) (ZYMED, South San Francisco, California)とともにインキュベートした。細胞を洗浄し、倒立Olympus蛍光顕微鏡(20×)を用いて検査した。
【0159】
フローサイトメトリー
以下の段階は全て氷上で行った。5×105個の5637細胞を冷PBS (pH 7.4)-BSA (1%) 1 mlで3回洗浄し、冷BSA (5%)-PBS (pH 7.4) 300 μlで再懸濁し、次に氷上で1時間インキュベートした。細胞を遠心分離し、800、400、200、100、50、25、10、5、2.5、1、0.1および0 μMのPLZ4-ビオチン溶液50 μlで懸濁し、氷上で1時間インキュベートした。PLZ4-ビオチンなしで処理した細胞を対照と見なした。冷PBS-Tween-20 (0.05%)緩衝液1 mlで6回洗浄した後に、細胞をストレプトアビジン(SA)-PE (PBS-BSA中で500分の1, 1%) (1 mg/ml, Invitrogen, Carlsbad, CA) 50 μlで再懸濁し、氷上で1時間インキュベートし、PBS (pH 7.4)で3回洗浄し、PBS (pH 7.4) 500 μlで再懸濁し、Coulter Epics XL-MCLフローサイトメーター(Beckman Coulter, Inc.)を用いて分析した。この実験を3回繰り返した。平均値を図4に表した。
【0160】
インビボおよびエクスビボでのマウス画像化
PLZ4-CY5.5結合体は、PLZ4-ビオチン結合体をストレプトアビジン(SA)-CY5.5 (Rockland Immunochemicals, Gilbertsville, PA)とともにインキュベートすることによって調製した。1つのストレプトアビジンが最大4分子のビオチンを結合することができる。少なくとも1つのPLZ4-ビオチン分子がSA-CY5.5に結合することを確実にするため、PLZ4-ビオチンをSA-Cy5.5と、5:1のモル比で4℃にて1時間混合した。蛍光標識をインビトロでの細胞結合アッセイ法により確認した。無胸腺ヌードマウスをHarlan Laboratories (Indianapolis, IN)から購入した。全ての実験は施設のガイドラインに応じておよびプロトコルにしたがって行った。原発膀胱がん標本は、患者からインフォームドコンセントを得た後に病理学者によって膀胱切除から採取された。このプロトコルはUC Davis IRBによって承認された。原発がん組織を細かく刻み、コラゲナーゼとともに回転させながら37℃で1時間インキュベートした。40 μmの篩にかけることによって単一細胞懸濁液を得た。原発細胞の一部をOBOCビーズとともにインキュベートして、細胞の結合を判定した(図3)。原発膀胱がん細胞を製造元の使用説明書(BD Biosciences, Sparks, MD)にしたがってマトリゲルと混合し、マウスの肩の片側に皮下注射した。腫瘍は画像化の時点で直径が約0.5〜1.0 cmあった。マウスを、ペントバルビタール(60 mg/kg)の腹腔内注射を用いて麻酔し、励起625 nmおよび放出700 nmの帯域フィルタを備えたKodak multimodal-imaging system IS2000MM (Kodak)を用いて画像化を行った。露光時間は1画像あたり30秒であった。画像を、imaging station IS2000MMソフトウェア(Kodak, Rochester, NY)を用いて分析した。インビボ画像化の後に、マウスをCO2過剰摂取で安楽死させた。腫瘍ならびに他の正常器官および組織を切り出し、上記のようにKodak imaging systemで画像化した。
【0161】
データ処理および統計
実験は二つ組または三つ組で繰り返した。本明細書では平均値を提示した。腫瘍対比の判定のため、腫瘍域の平均蛍光強度および正常組織域の平均蛍光強度を、Kodak 1D Image Analysis Software (Kodak)を用いて関心領域機能によって計算し、次いで、腫瘍および正常組織域内の等面積からの蛍光強度を一体化することによってNIRF画像からの半定量的情報に基づき擬似色による尺度でプロットした(図5)。
【0162】
結果:
膀胱がん特異的なリガンドの特定
全細胞ビーズ結合アッセイ法を用いて、膀胱がん細胞培養物に結合するペプチドについてライブラリをスクリーニングした(図1)。4種の膀胱がん細胞株(3種の移行上皮がん(TCC)細胞株: T24、TCCSUPおよび5637、ならびに1種の扁平上皮がん細胞株SCaBER)のそれぞれに対しておよそ150,000個のライブラリビーズ(ペプチド)をスクリーニングした。スクリーニングに用いた2種の環状ランダムペプチドライブラリは7-merのcX1X2X3X4X5X6X7c (SEQ ID NO:15)および5-merのc(U/Z)5c (SEQ ID NO:16)であり、ここで「c」はDシステインを表し、「X」はシステインを除く19種の天然Lアミノ酸を表し、「U」は8種の非天然アミノ酸を表し、「Z」はアルギニン、システインおよびリジンを除く17種のLアミノ酸を表す。各ペプチドにはアミノ末端およびカルボキシル末端に2つの隣接Dシステイン残基を含めた。これらのペプチドをジスルフィド結合により環状化させて、細胞結合のために中央のアミノ酸をより効率的に曝露させた。最初に、およそ150,000個のライブラリビーズ(ペプチド)を各細胞株でスクリーニングした。がん細胞表面受容体に結合したリガンドを有するビーズは、がん細胞でコーティングされるようになった。陽性ビーズ(すなわち、細胞でコーティングされたビーズ)を分離し、同じ細胞で第2ラウンドのスクリーニングにかけて、偽陽性ビーズを排除した。
【0163】
このスクリーニングから、4つの細胞株のうちの1つに結合しうる28種のペプチドが特定された。これら28種のペプチドのうち、膀胱がん細胞に結合したが、異なる由来の細胞株12種の大部分に結合しなかった21種のペプチドを選択し、これら21種のペプチドを培養下の原発正常尿路上皮細胞に対してスクリーニングした(Bagai, et al., J Biol Chem, (2002) 277:23828-23837)。cQDGRMGFc (SEQ ID NO:12)の配列を有するこれらのリガンドのうちの1つは、全3種の膀胱TCC細胞株に結合した(図2A〜C)が、正常尿路上皮細胞に結合しなかった(図2D)。このリガンドをPLZ4と名付けた。PLZ4は全血球(図2E)、末梢血単核細胞(PBMC、図2F)または線維芽細胞(図2G)に結合しなかったことから、膀胱内部のこれらの混同細胞が膀胱がん細胞とのPLZ4の結合に影響を与えないことが示唆された。これは、PLZ4が異なる由来の細胞株12種のうちの10種に結合しなかったという所見と一致している。PLZ4は、膀胱がんの証拠がないものの、BCG膀胱内療法で積極的に処置された4人の継続患者から回収した尿標本から分離された細胞に結合しなかった(図2H)。これは、PLZ4が、BCGで処置された患者において多く見られる炎症細胞に結合しえないことを示唆している。
【0164】
PLZ4でコーティングされたビーズは患者由来の膀胱腫瘍細胞に結合することができる
培養下の樹立細胞株上の細胞表面分子は、原発膀胱がん細胞上のそれらの分子と同じものではない可能性がある。PLZ4が患者由来の膀胱がん細胞に結合しうるかを評価した。PLZ4でコーティングされたビーズは患者由来の原発膀胱がん細胞に結合することができた(図3AおよびB)。これまでのところ、PLZ4は、試験した全5種の新鮮膀胱がん標本由来の細胞に結合しえた。1人の患者では、同じ膀胱切除標本由来の正常組織も膀胱がん組織も利用可能であった。PLZ4でコーティングされたビーズは、がん標本由来の細胞に結合しえた(図3B)が、同じ膀胱の正常標本由来の細胞には結合しえなかった(図3C)。
【0165】
尿における酸性環境はリガンドの3-D構造を変化させ、リガンドの結合に影響を与えうる。ここでは、がん特異的なビーズが尿中の5637 TCCがん細胞に結合しうるかを確認した。細胞を37℃で4時間pH 6.0の尿中でビーズとともにインキュベートした。4時間のインキュベーションを用いて、患者におけるインビボでの尿貯留を模倣し、立体構造変化およびプロテアーゼ消化を可能にした。PLZ4は、それでもやはり、尿中の細胞に結合することができた(図3D)。
【0166】
イヌは、生来、通常侵襲性の膀胱がんを発現する。PLZ4が膀胱がん細胞に結合しうるなら、ヒトでの臨床試験の前に自然発生の膀胱がんを有するイヌで前臨床試験を行うことができる。5種のイヌがん細胞株を試験した。PLZ4-FITC複合体は全5種のイヌ膀胱がん細胞株に結合しえた(図3E)。非小細胞肺がん細胞株A549細胞を用いた場合には、またはPLZ4の代わりに白血病特異的なリガンドをFITC複合体に用いた場合には検出可能な結合が認められなかった。
【0167】
PLZ4によるヒト膀胱がん細胞の細胞選別および蛍光検出
次に、蛍光細胞選別を用いて膀胱がん細胞を特定できるかを確認した。親水性リンカーを通じてビオチンに結合されたPLZ4ペプチドを合成した。ビオチン化PLZ4を次いで、ストレプトアビジン-PEとともにインキュベートして、ビオチンおよびストレプトアビジンの強力な結合によりPLZ4-PE結合体を作出した。新鮮トリプシン処理膀胱がん5637細胞の懸濁液をPLZ4-PE結合体とともにインキュベートし、フローサイトメトリーによる細胞選別にかけた。5637細胞に対する濃度依存的な蛍光増加が認められた(図4A)。結合親和性(Kd)は30 μM前後である。
【0168】
次に、蛍光標識したPLZ4が膀胱がん細胞に結合しうるかを確認した。PLZ4-FITC結合体を、PLZ4-PE結合体に用いたのと同じ手法を用いて作出し、チャンバスライド上で増殖している5637細胞、TCCSUP細胞、T24細胞および正常尿路上皮細胞の染色に用いた。対照実験では、ストレプトアビジン-FITCをビオチン化リガンドなしで加えた。蛍光顕微鏡検査法の下で、対照細胞と比べて、5637細胞、TCCSUP細胞およびT24細胞で強力な蛍光シグナルを検出することができた(図4B)。同じ染色条件で正常尿路上皮細胞に対して有意な結合は認められなかった。
【0169】
膀胱がん異種移植片を持つヌードマウスのインビボ画像化
PLZ4をインビボでの膀胱がん検出および標的療法に使用できるかを調べるために、膀胱切除術を受けた患者由来の原発膀胱がん組織から作られた膀胱がん異種移植片を有するマウスのインビボでの光学的画像化を用いた。近赤外蛍光(NIRF)色素Cy5.5は、より深部の組織の画像化を可能にする。というのは、近赤外線が高い浸透性、低い組織吸収および散乱率を有するからである。腫瘍異種移植片が5〜10 mmあった時点(移植後4〜5週)で、PLZ4-Cy5.5結合体(7 nmol)を尾静脈経由で注射した。マウスを接種後0、1、2、4、8、16、24時間の時点で画像化した。腫瘍によるPLZ4-Cy5.5の取り込みは、正常組織およびSA-Cy5.5を受けていたマウスの腫瘍域のそれよりもはるかに高く(図5AおよびB)、接種後2時間の時点で始まり、4時間で最大差に達した。
【0170】
PLZ4-Cy5.5複合体のインビボでの取り込みをさらに確認するために、静脈内注射から24時間後に切り出された腫瘍および器官でエクスビボ画像化を行った。PLZ4-CY5.5複合体は腫瘍異種移植片および腎臓において主に蓄積していたが、膀胱を含む他の器官において有意な取り込みは認められなかった(図5CおよびD)。SA-CY5.5だけを注射した対照マウスにおいて、強力な蛍光シグナル(白の疑似色)が腎臓で検出され、腎臓でのPLZ4-Cy5.5複合体の蓄積が、腎臓によるSA-Cy5.5の非特異的な取り込みまたは捕捉に対して二次的なものでありうることが示唆された(図5D)。組織化学的染色を行い、腫瘍異種移植片が膀胱移行細胞であることを確認した。
【0171】
標的インテグリンとのPLZ4の結合
NGRモチーフを含んだペプチドがインテグリンに結合することを示す研究もある。ここでは、表面にPLZ4ペプチドを持つOBOCビーズを、各種のインテグリンでトランスフェクトされたK562細胞とともにインキュベートした。K562細胞は内因性α5β1インテグリンを発現する。PLZ4は、α5β3インテグリンでトランスフェクトされたK562細胞に結合したが、親のK562細胞または他のインテグリンでトランスフェクトされた細胞には結合しなかった(図6A)。また、初期のスクリーニングから得られたいくつかの他のリガンドがDGRモチーフを含む。しかしながら、PLZ4だけが膀胱がん特異的であり、DGRに加えて他のアミノ酸が結合特異性を決定するものと示唆される。どのアミノ酸が細胞結合および結合特異性の決定に関わるかを特定するために、「アラニンウォーク」をレインボービーズコーディング法と組み合わせて行った(Luo, et al., J Comb Chem, (2008) 10: 599-604)。アミノ酸のアスパラギン酸(D、X2位)、アルギニン(R、X4)およびフェニルアラニン(F、X7)が細胞結合に重要である。アラニンによるこれらのアミノ酸のいずれかの交換は、5637細胞とのペプチドの結合を完全に消失させた(図6B)。X3位およびX6位のグリシン残基(G)は、これらの2つのアミノ酸の1つの交換が5637細胞とのペプチドの結合を顕著に減少させたが、消失させなかったので、細胞結合に重要である。X5位のメチオニンは、結合親和性を損なわずにその他多くのアミノ酸に交換することができた。この分析に基づくと、C末端の2つのアミノ酸(GおよびF)とともにN末端の3つのアミノ酸(D、GおよびR)が結合特異性を決定する。それゆえ、結合ポケットはクローバー型: 1つがN末端の3つのアミノ酸、1つがC末端の2つのアミノ酸および中央のポケットでありうる。そこで、異なる数のグリシン残基をX5位に付加することによって中央の結合ポケットの深さを変えた。2つのグリシン残基を、細胞結合に有意な影響を及ぼすことなく中央のポケットを埋めるように負荷することができた(図6C)。5つ以上のグリシンの付加によって、標的細胞とのPLZ4の結合が完全に消失された。
【0172】
考察
膀胱がん特異的なリガンドは膀胱がんの診断および管理を改善することができる。第一に、これらのリガンドを腫瘍局在診断に用いることができる。膀胱がん症例の約75〜80%が非侵襲段階で診断され、通常、TURBTで処置される。しかしながら、泌尿器科医の専門的技術にもかかわらず症例の約3分の1で不完全な切除を見出すことができる(Herr, J Urol, (2005) 174: 2134-2137)。蛍光膀胱鏡検査と組み合わせて5-アミノレブリン酸(ALA)が腫瘍局在診断に用いられている(Daniltchenko, et al., J Urol, (2005) 174: 2129-2133)。とりわけBCG処置による炎症膀胱での、非がん尿路上皮細胞によるALAの非特異的な取り込みは、膀胱鏡検査によるがんの検出を妨げる高いバックグラウンドの蛍光を引き起こす(Grossman, Society of Urological Oncology Winter Meeting 2005 (Podium presentation), Bethesda, Maryland., 2005)。PLZ4は、膀胱がん細胞に特異的に結合しうるが、正常尿路上皮細胞、がんを含む同じ膀胱由来の正常細胞、またはBCGで積極的に処置された患者由来の細胞には結合しえない。FITC結合PLZ4は膀胱がん細胞を染色することが明らかであり、このリガンドを非侵襲性膀胱がんの蛍光検出および腫瘍局在診断に使用できることを示唆している。本発明者らのPLZ4リガンドはpH 6を有する尿中でがん細胞に結合することができ、PLZ4を酸性の尿環境において使用できることを示唆するものであった。膀胱はヒト身体の残部から比較的隔離されているので、フルオロフォア結合がん特異的リガンドの膀胱内注入は最小限の副作用しか引き起こさないか、または望ましくない副作用を引き起こさないであろう。
【0173】
膀胱がん特異的なリガンドを非侵襲性かつ進行性の膀胱がんに対する標的療法に用いることができる。膀胱がんの再発のリスクを低減するためにBCGの膀胱内注入または化学療法が用いられている。しかしながら、この治療はそれでもなお、再発の重大なリスクと結び付いている(Herr, et al., J Clin Oncol, (1995) 13: 1404-1408; およびHerr, et al., J Urol, (1989) 141: 22-29)。PLZ4は、膀胱内注入による、または静脈内注射による標的療法のための化学療法薬に連結させることができる。
【0174】
膀胱がん特異的なリガンドPLZ4を非侵襲性かつ進行性の膀胱がんの画像化検出に用いることができる。いったん膀胱がんが転移してしまうと、その予後は不良であり、膀胱切除術は治癒的でない。コンピュータ断層撮影法(CT)および磁気共鳴映像法(MRI)のような現行の画像診断法は感度および/または特異性がない。膀胱がんの病期分類の目的のために臨床診療で18F-FDG-PETが検査されているが、その感度および特異性が満足のいくものではないため、臨床診療では広く使われていない(Drieskens, et al., Eur J Nucl Med Mol Imaging, (2005) 32: 1412-1417; およびLiu, et al., Urol Int, (2006) 77: 69-75)。PLZ4はNIRF Cy5.5に連結させることにより、転移性膀胱がんに類似した皮下腫瘍異種移植片の検出に使用できることが明らかである(図5)。わずか7 nmolのがん特異的なリガンドしかこの画像化研究に必要とされなかった。がん特異的なリガンドは放射線写真検出の検出特異性および感度を増大し、それによって膀胱がんの診断および経過観察のための高価な膀胱鏡検査法に代わりまたはそれを補完しうる。
【0175】
自然発生の膀胱がんを有するイヌは、ヒトでの臨床試験の前に研究を行うのに優れたモデルでありうる。大部分のがんの研究では、通常は皮下腔の位置に、腫瘍異種移植片を有するがんモデルが使われる。しかしながら、このモデルは、実際に何が起きているかを全く反映していない可能性がある。PLZ4は、試験した全5種のイヌ膀胱がん細胞株に結合し、自然発生のイヌ膀胱がんを前臨床試験のために使用できることを示唆していた。また、PLZ4が1頭のイヌ患者から新鮮切除された原発イヌ膀胱がん細胞に結合しうることが試験され、そのことが分かった。さらなる研究は、自然発生のイヌ膀胱がんを有するイヌにおいてPLZ4を用いた前臨床研究を実施することであろう。
【0176】
PLZ4の結合特異性はDGRおよびいくつかの他のアミノ酸によって決められる。PLZ4はDGRを含む。α5β3およびα5β5を含むいくつかのインテグリンヘテロ二量体に結合するRGDの逆モチーフ(Ruoslahti, et al., Annu Rev Cell Dev Biol, (1996) 12: 697-715)である。DGRモチーフは、Frizzled関連分泌タンパク質に結合する別のタンパク質においては結合モチーフの中核にあった(Chuman, et al., Peptides, (2004) 25: 1831-1838)。低親和性インテグリン結合モチーフとしてもこれまでに特定されている(D/N)GRモチーフは、アデノ随伴ウイルスのキャプシド上で特定されており、ウイルスキャプシドとインテグリン5β1との間の相互作用および細胞への侵入に重要である(Koivunen, et al., J Biol Chem, (1993) 268: 20205-20210, 1993; Koivunen, et al, J Cell Biol, (1994) 124: 373-380; およびAsokan, et al., J Virol, (2006) 80: 8961-8969)。PLZ4は、5β1インテグリンを発現する親のK562細胞には結合しないが、α5β3インテグリンでトランスフェクトされたK562細胞に結合する(図6A)。IsoDGRはまた、腫瘍血管系中のα5β3に結合する(Curnis, et al., Cancer Res, (2008) 68: 7073-7082)。いくつかのペプチドが同じDGRモチーフを含むが、PLZ4だけが膀胱がん特異的である。アラニンウォークにより、DGRに加えて、G (グリシン、X6)およびF (フェニルアラニン、X7)が細胞結合に重要であることが確認された。これらの2つのアミノ酸の変化によって、膀胱がん細胞とのPLZ4の結合が消失され、または大いに減弱される(図6B)。
【0177】
要約すれば、OBOCコンビナトリアルライブラリ法を用いて、PLZ4膀胱がん特異的なリガンドを特定した。臨床的応用には、TURBTをガイドするための腫瘍局在診断、非侵襲性かつ転移性の膀胱がんに対する画像化検出および標的化薬物送達が含まれる。
【0178】
実施例2: イヌ膀胱がん動物モデルの確認
イヌTCC細胞株とのPLZ4の結合を判定するため、全細胞結合アッセイ法を行った。PLZ4をTentaGel S NH2樹脂ビーズ(Rapp Polymere Gmbh, Germany)上で合成し(Pegram, et al., J Clin Oncol (1998) 16:2659-2671)、K9TCC-PU、K9TCC-PU-AxA、K9TCC-PU-In、K9TCC-PU-AxCおよびK9TCC-PU-Nk (Purdue University, West Lafayette, IN, USAのDeborah Knappから親切にも提供していただいた)を含む5種の異なるイヌがん細胞株の単一懸濁液とともに細胞106個/mlでインキュベートした。陰性対照は、非膀胱関連障害のために安楽死させたイヌから得た正常尿路上皮細胞とした。ヒト膀胱がん細胞株5637を陽性対照とした。PLZ4が懸濁状態の細胞に結合したなら、ビーズの表面は細胞で覆われた。ビーズ表面の95%超が5637およびK9TCCで覆われた(それぞれ、図7A-aおよびb)。対照的に、ビーズを正常イヌ膀胱尿路上皮細胞(図7A-c)、または慢性膀胱炎を有するイヌ由来の膀胱細胞(図7A-d)とともにインキュベートした場合には細胞結合が認められず、丸い滑らかなビーズ表面が観察された。
【0179】
イヌTCC細胞株に対するPLZ4の結合をさらに評価するために、親和性蛍光アッセイ法を行った。PLZ4を合成し、ビオチンに共有結合させた。イヌTCC細胞株をチャンバスライド上で培養した。イヌ正常膀胱組織をスライドの表面に捺印し、軽くこすり合わせた捺印塗抹標本でイヌ由来の正常尿路上皮細胞を調製した。固定後、スライドをPLZ4-ビオチンとともにインキュベートし、ストレプトアビジンでプローブした。全5種のイヌTCC細胞株はペプチドのインキュベーションなしの対照(図7B: a)と比べて、びまん性の細胞膜染色(図7B: b-f)を示した。
【0180】
結合親和性をさらに定量化するために、K9TCC-PU細胞およびK9TCC-PU-In細胞を96ウェルプレート中に播種し、固定し、漸増濃度のPLZ4-ビオチン、その後、アビジン-HRPとともにインキュベートした。図8Aに示されるように、PLZ4はイヌTCC細胞株に対して用量依存的に結合を示した。K9TCC-PUおよびK9TCC-PU-Inに対するPLZ4のKd50 (細胞表面受容体の50%を飽和するPLZ4の濃度)値はそれぞれ、21.31 μMおよび10.29 μMであった。
【0181】
細胞表面分子上でのリガンドの結合は細胞シグナル伝達を引き起こし、細胞に生物学的効果を及ぼしうる。PLZ4には潜在的な臨床的応用があるかもしれないので、細胞生存性および増殖に及ぼすPLZ4の効果について判定した。K9TCC細胞、K9TCC-PU-In細胞およびK9TCC-PU-Nk細胞を96ウェルプレートに播種し、各種濃度のPLZ4ペプチドなしでまたはありでインキュベートした。48時間PLZ4との培養の後、WST-8細胞増殖アッセイ法を製造元のプロトコル(Cayman Chemical, Ann Arbor, MI, USA)にしたがって行った。PBS対照で処理した細胞と比べた場合、異なる濃度のPLZ4とともに培養されたこれら3種の細胞株における細胞増殖/生存性には有意な変化が認められなかった(図8B)。
【0182】
イヌTCC異種移植片マウスモデルに対するPLZ4の腫瘍特異的なホーミング/標的化特性およびインビボでの体内分布/結合特異性についても判定した。Matrigelと混合したTCC-PU-In細胞を8週齢のヌードマウスに3〜4週間移植した。異種移植片の直径が0.5〜0.8 cmのサイズになった時点で、マウスを無作為に選んで、プレインキュベートしたPLZ4-ビオチン-ストレプトアビジン-Cy5.5複合体またはストレプトアビジン-Cy5.5色素100 μl (7 nmol)を麻酔下で注射した。注射後0、1、3、6および12時間の時点で全身像を集めた(図9a)。シグナルのかなりの蓄積がPLZ4-Cy5.5複合体を注射したマウスの腫瘍部位に時間依存的に蓄積し、12時間の時点で最大のシグナルが観察された。対照的に、ストレプトアビジン-Cy5.5を投与された対照マウスでは腫瘍によるCy5.5色素の無視できるほど小さな蛍光取り込みが検出された。注射した色素複合体を非特異的に取り込むその他任意の重要器官があるかどうかについて判定するために、マウスを注射後12時間の時点で安楽死させ、重要器官およびがん異種移植片をエクスビボ画像化のために除去した。肝臓も腎臓もともに、ストレプトアビジン-Cy5.5を投与された対照マウスでさえもかなりのシグナルを示し、非特異的な取り込みを示唆していた(図9A)。ストレプトアビジン-Cy5.5で処置した対照マウス由来の腫瘍異種移植片と比べて、PLZ4-Cy5.5を投与されたマウス由来の異種移植片は、蛍光を肝臓(3.2倍、p=0.003)および腎臓(3.8倍、p<0.001)に対して規準化した後にも顕著に高い蛍光シグナルを蓄積していた(図9B)。膀胱を含む他の器官では有意な蛍光の取り込みは観察されなかった。まとめて、これらのデータから、PLZ4がインビボでTCC異種移植片に対して優れたホーミング特性を示すことが実証された。
【0183】
本研究は、ヒト膀胱がん特異的なリガンドがまた、イヌ膀胱TCC細胞を標的化できることを示す。これらの所見は、ヒト用の創薬のために重要であるだけでなく、イヌ膀胱がんの診断および処置のために重要でもある。ヒト用の創薬の間に遭遇する一つの主要な問題は、適切な動物モデルの欠如である。腫瘍異種移植片を有する免疫不全マウスが代わりに最もよく使われる。生理学的に、マウス異種移植片モデルは、ヒト患者において自然発生するがんとは根本的に異なる。最もよく使われる異種移植片モデルは皮下異種移植片であるが、大部分のヒトがんは、ごく末期の段階でさえも、皮下腔にめったに転移しない。さらに、異種移植片モデルにおける急速な腫瘍形成(数週)のため、局部脈管形成および透過性は、数ヶ月から数年かけて発現しうる自然発生がんのものとは劇的に異なりうる。本研究は、PLZ4がまた、インビトロでもインビボでもイヌ膀胱がん細胞に結合できることを示す(図7および9)。PLZ4が一つのイヌ膀胱TCC臨床標本由来のがん細胞に結合しうるが、別の臨床犬由来の膀胱リンパ過形成標本には結合しえないことも分かった(データは示されていない)。本所見は、自然発生の膀胱がんを有するイヌにおいて膀胱がん特異的なリガンドの前臨床試験を実施できることを示唆している。
【0184】
PLZ4の一つの主要な用途は経尿道的膀胱がん切除術(TURBT)中の膀胱がんの局部可視化である。膀胱がんの局部可視化は臨床的に意義がある。これは、TURBT後に症例の最大3分の1で不完全な切除が認められ、治療後に膀胱がんの再発が高いことの一因となるためである。5-アミノレブリン酸(ALA)を用いた蛍光膀胱鏡検査がこの目的に用いられている(Daniltchenko, et al. J Urol (2005) 174: 2129-2133)。しかし、とりわけ炎症膀胱での、非がん尿路上皮細胞によるALAの非特異的な取り込みが、その広い臨床的応用を不可能にしている。本発明者らの以前の所見から、PLZ4がpH 6.0の尿中で膀胱がん細胞に結合しうること、およびPLZ4が、カルメットゲラン菌で積極的に処置された患者の尿標本から収集された細胞に結合しないことが示された。それゆえ、蛍光色素に結合されたPLZ4はこの用途に優れた候補である。同所性マウス膀胱がんモデルが開発されている。サイズ制限のため、マウスでの(場合によりラットでの)膀胱鏡検査による前臨床試験は可能でないかもしれない。膀胱鏡検査は、イヌでは膀胱障害の診断のために日常的に行われている。10.29および21.31 μMのPLZ4のKd50は、局部膀胱内注入で容易に達成可能でありうる。
【0185】
PLZ4の別の用途は、侵入的かつ高価な膀胱鏡検査を補完または低減できる膀胱がんの画像化検出である。マウスではMicroMRIおよびmicroPETを行うことができる。同所性マウス膀胱がんモデルのサイズが小さいため、マウスでの腫瘍のサイズ、数および位置の識別は、とても可能とはいえず、ヒト患者に置き換えることはできないかもしれない。さらに、マウスでの画像化の研究は、外部撮像装置に対して膀胱の位置が近く、組織吸収および散乱がほとんどないため、ヒト患者のような大きい動物でのものには適用できない。MRI走査もPET走査もイヌ悪性腫瘍の診断に広く用いられている。それゆえ、MRIおよびPETまたはSPECTを用いて、造影剤、例えば、MRIのための酸化鉄およびPET/SPECTのための放射性同位体に結合されたPLZ4により膀胱がんの検出を容易にできるかを判定することができる。本インビボ試験(図9)では、7 nmol (75 Kgの患者でのPLZ4 20 mgに等しい)のPLZ4-Cy5.5しか使わず、非特異的な取り込みはほとんど観察されなかった。これは、PLZ4だけが異なる組織/がん由来の12種のヒト細胞株の1種に結合(bought)し、正常尿路上皮細胞、全血球、末梢血単核細胞(PBMC)、線維芽細胞および血管内皮細胞のような、膀胱内に存在する可能性がある混同細胞のいずれにも結合しなかったという本発明者らの以前の所見と一致している。この特異的な結合はPLZ4結合体によるインビボでの標的化に有用である。
【0186】
要約すれば、PLZ4によって例証される本発明のヒト膀胱がん特異的なリガンドはまた、イヌ膀胱がん細胞に結合することができる。それゆえ、ヒト診断薬および治療薬としてのPLZ4の前臨床試験を、自然発生の膀胱TCCを有するイヌにおいて行うことができる。PLZ4によって例証される、本明細書に記述のヒト膀胱がん特異的なリガンドはまた、イヌ膀胱がんの管理において用いることができる。
【0187】
本明細書において記述される実施例および態様は例示する目的のためだけのものと、かつそれに照らしてさまざまな修正および変更が当業者には示唆されると考えられ、それらは本出願の趣旨および範囲ならびに添付の特許請求の範囲のなかに含まれるものと理解されたい。本明細書において引用される全ての刊行物、特許および特許出願は全ての目的でその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0188】
非公式な配列表

SEQ ID NO:1 - X1DGRX5GF、配列中でX1はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり; X5はシステイン以外の任意のアミノ酸(A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)である。

SEQ ID NO:2 - X1DGRX5GF、配列中でX1はGln、GlyまたはAlaであり; X5はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)である。

SEQ ID NO:3 - X1DGRX5GF、配列中でX1は任意のアミノ酸であり; X5はMet、Lys、Gly、AlaまたはGly-Glyである。

SEQ ID NO:4 - X1DGRX5GF、配列中でX1はGln、GlyまたはAlaであり; X5はMet、Lys、Gly、AlaまたはGly-Glyである。

SEQ ID NO:5 - QDGRMGF

SEQ ID NO:6 - QDGRKGF

SEQ ID NO:7 - QDGRKGGF、配列中でKGは、グリシン残基がリジンの側鎖に付着されているリジン残基をいう。

SEQ ID NO:8 - X(1-5)X6DGRX7GFX(8-12)、配列中でX(1-5)およびX(8-12)は存在しないまたは任意のアミノ酸(すなわち、A、C、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり; X6およびX7はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)である。

SEQ ID NO:9 - X1X2X3DGRX4GFX5X6、配列中でX1、X2、X5、X6は存在しないまたは任意のアミノ酸(すなわち、A、C、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり; X3およびX4はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)である。

SEQ ID NO:10 - cX1DGRX5GFc、配列中でX1はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり; X5はシステイン以外の任意のアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり、かつcはDシステインである。

SEQ ID NO:11 - cQDGRKGFc、配列中でcはDシステインである。

SEQ ID NO:12 - cQDGRMGFc、配列中でcはDシステインである。

SEQ ID NO:13 - cQDGRK(G1-6)Fc、配列中でcはDシステインであり、ここでK(G1-6)は、1〜6個のグリシン残基がリジンの側鎖に付着されているリジン残基をいう。

SEQ ID NO:14 - CQDGRMGFC

SEQ ID NO:15 - cX1X2X3X4X5X6X7c、配列中でXはシステインを除く任意の天然Lアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)であり; かつcはDシステインである。

SEQ ID NO:16 - c(U/Z)1(U/Z)2(U/Z)3(U/Z)4(U/Z)5c - 式中でUは非天然アミノ酸であり、かつZはアルギニン、システインおよびリジンを除く任意の天然Lアミノ酸(すなわち、A、D、E、F、G、H、I、L、M、N、P、Q、S、T、V、W、Y)である。

SEQ ID NO:17 - CX1DGRX5GFC、配列中でX1およびX5はシステイン以外の任意のアミノ酸(例えば、A、D、E、F、G、H、I、K、L、M、N、P、Q、R、S、T、V、W、Y)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列X1DGRX5GFを含むペプチドであって、X1およびX5は任意のアミノ酸であり、該ペプチドは、長さが10アミノ酸以下であり、かつ膀胱がん細胞に結合する、該ペプチド。
【請求項2】
アミノ酸配列X1DGRX5GFを含むペプチドであって、X1およびX5は任意のアミノ酸であり、ここで:
i) アミノ酸残基の1個もしくは複数個がDアミノ酸であり;
ii) ペプチドがN末端もしくはC末端の一方もしくは両方に保護基を含み;
iii) ペプチドが完全にもしくは部分的にレトロインベルソであり;
iv) ペプチドがアミノ酸配列X1DGRX5GF (SEQ ID NO:1)の2つもしくはそれ以上の反復を含み; または
v) ペプチドが環状化されている、該ペプチド。
【請求項3】
X1が、Gln、GlyまたはAlaである、請求項1〜2のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項4】
X5が、Met、Lys、Gly、AlaまたはGly-Glyである、請求項1〜3のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項5】
アミノ酸配列QDGRMGFを有する、請求項1〜4のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項6】
正常膀胱組織に結合しない、請求項1〜5のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項7】
アミノ末端および/またはカルボキシル末端に1〜5個の隣接アミノ酸残基をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項8】
アミノ末端にシステイン残基をさらに含み、かつカルボキシル末端にシステイン残基をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項9】
治療部分または検出可能な標識に連結されている、請求項1〜8のいずれか一項記載のペプチド。
【請求項10】
検出可能な標識が、ビーズ、フルオロフォア、化学発光部分、磁性粒子、金属粒子、または放射性同位体である、請求項9記載のペプチド。
【請求項11】
治療部分が、免疫グロブリンのFc部分、細胞毒素、または抗がん剤である、請求項9記載のペプチド。
【請求項12】
検出可能な標識に連結された請求項1〜8のいずれか一項記載のペプチドに膀胱細胞または膀胱組織を接触させる段階、および膀胱細胞または膀胱組織とのペプチドの結合を検出する段階を含み、膀胱細胞または膀胱組織とのペプチドの結合を検出することで膀胱がんが示される、膀胱がんの存在を検出する方法。
【請求項13】
ペプチドが、検出可能な標識に連結されている、請求項12記載の方法。
【請求項14】
検出可能な標識が、ビーズ、フルオロフォア、化学発光部分、磁性粒子、金属粒子、または放射性同位体からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項15】
膀胱細胞または膀胱組織がインビトロにある、請求項12記載の方法。
【請求項16】
膀胱細胞または膀胱組織が尿サンプル中にある、請求項12記載の方法。
【請求項17】
膀胱細胞または膀胱組織がインビボにある、請求項12記載の方法。
【請求項18】
膀胱細胞または膀胱組織が対象内のインサイチューで検出される、請求項12記載の方法。
【請求項19】
必要のある対象において膀胱がん細胞の増殖を阻害するまたは抑止する方法であって、治療部分に連結された請求項1〜8のいずれか一項記載のペプチドに膀胱組織を接触させる段階を含み、ペプチドが膀胱がん細胞に結合し、かつ治療部分が膀胱がん細胞の増殖を阻害するまたは抑止する、該方法。
【請求項20】
対象が哺乳類である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
治療部分が、免疫グロブリンのFc部分、細胞毒素、抗がん剤、または放射性同位体である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
治療部分に連結されたペプチドが、対象の静脈内に、腫瘍内に、または尿道内に投与される、請求項19記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate


【公表番号】特表2013−505941(P2013−505941A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531034(P2012−531034)
【出願日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/050037
【国際公開番号】WO2011/038142
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(506115514)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (87)
【Fターム(参考)】