説明

膜分離型水素製造装置

【課題】水蒸気改質触媒層での改質反応を高めつつ、水素分離膜での水素透過量の低下を抑えて、効率良く水素を分離精製することが可能な膜分離型水素製造装置を提供する。
【解決手段】炭化水素と水蒸気の入口部1を上流として、上流側に配置された前段触媒層2と、該前段触媒層2の下流側に配置された後段触媒層3と、水素透過能を有する水素分離膜4とを備える膜分離型水素製造装置であって、前段触媒層2は炭化水素を水蒸気改質する水蒸気改質触媒からなり、水素分離膜4は前段触媒層2に配置又は接することなく後段触媒層3の内部又は外部に配置され、前段触媒層2の流路方向に垂直な面による断面の面積S1と、該断面と平行な面による後段触媒層3の断面の面積S2とが、式:S1≧100/65×S2の関係を満たすことを特徴とする膜分離型水素製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離型水素製造装置、特には、メタン、LPG、灯油、ナフサ、ガソリン等の炭化水素を原料とし、水蒸気改質反応により水素を製造し、かつ水素分離膜により水素を分離・精製して水素を取り出すために使用される膜分離型水素製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化水素の改質反応により水素を含有する改質ガスを生成させ、該改質ガスからPd系水素分離膜を利用して水素を分離する水素分離膜型水蒸気改質器は、例えば、特許文献1(特開平6−48701号公報)に記載されているように、水素分離膜の周りに改質触媒を配して構成されていた。
【0003】
しかしながら、このような構成においては、水素分離膜で分離回収した水素の分だけ、分離膜周囲の水素濃度が低下して、改質触媒層の半径方向に水素濃度の分布ができてしまうため、水素分離を行うための水素分圧差が十分得られず、水素分離効率が低下することがあった。
【0004】
【特許文献1】特開平6−48701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、水素分離膜を用いて水素を分離精製するためには、水素分離膜の入口側(改質ガス接触側)と出口側(製品水素回収側)とで、圧力差(水素の分圧差)を大きくすることが有利とされている。これに対し、水蒸気改質触媒層と水素分離膜とを一体化し、水蒸気改質触媒層の下流側に後段反応用の触媒層を設け、該後段反応用の触媒層中に水素分離膜を内蔵させた膜分離型水素製造装置では、水素分離膜の入口側には後段反応用の触媒層が接しており、さらに該後段反応用の触媒層には前段の水蒸気改質触媒層が接しているので、水素分離膜の入口側と出口側との圧力差を大きくするために、水素分離膜の入口側の圧力を高めようとすると、水蒸気改質触媒層並びに後段反応用の触媒層の圧力が高くなる。
【0006】
一般に、水蒸気改質反応では、反応圧力が高いほど平衡組成が水素分圧の低い組成となる。また、圧力が高いため水蒸気改質触媒層では水素を含んだ改質ガスの流速(線速)が低下してしまう。ここで、前記改質ガスの流速が十分に高くないと、後段反応用の触媒層のうち水素分離膜近傍の領域では、該領域から水素分離膜で水素が除去される速度に、該領域に水素が供給される速度が追いつかず、該領域の水素濃度が低下して、後段反応用の触媒層の半径方向に水素の濃度分布が発生してしまう。そして、前記水素分離膜近傍の水素濃度が低下することで、水素分離膜の入口側と出口側との水素分圧の差が十分に得られず、水素分離効率を低下させる問題があった。また、改質ガスの流速が高すぎると後段反応用の触媒層の外周部を通過する改質ガスが水素分離膜に接することなく反応器出口へと達してしまうため、水素分離効率を低下させる問題があった。
【0007】
一方で、前段の水蒸気改質触媒層における改質反応の反応効率を高めるためには、液空間速度が低く、該改質触媒層において水素を含んだ改質ガスの流速が低い方が有利である。また、吸熱反応による該改質触媒層の温度低下の影響を緩和するためにも、前記改質ガスの流速は低い方が有利である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、水蒸気改質触媒層での改質反応を高めつつ、水素分離膜での水素透過量の低下を抑えて、効率良く水素を分離精製することが可能な膜分離型水素製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、水蒸気改質触媒からなる前段触媒層の下流に後段触媒層を配置し、更に該後段触媒層の内部又は外部に水素分離膜を配置した上で、水素分離膜が配置された後段触媒層の断面積を水蒸気改質触媒からなる前段触媒層の断面積の65%以下にすることで、前段の水蒸気改質触媒層での改質ガスの流速を低くして改質反応の効率を高めつつ、水素分離膜での水素透過量の低下を抑えて効率良く水素を分離精製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含するものである。
【0010】
(1)炭化水素と水蒸気の入口部を上流として、上流側に配置された前段触媒層と、該前段触媒層の下流側に配置された後段触媒層と、水素透過能を有する水素分離膜とを備える膜分離型水素製造装置であって、
上記前段触媒層は、炭化水素を水蒸気改質する水蒸気改質触媒からなり、
上記水素分離膜は、上記前段触媒層に配置又は接することなく、上記後段触媒層の内部又は外部に該触媒層と接するように配置され、
上記前段触媒層の流路方向に垂直な面による断面の面積S1と、該断面と平行な面による上記後段触媒層の断面の面積S2とが、下記式(I):
S1≧100/65×S2 ・・・ (I)
の関係を満たす
ことを特徴とする膜分離型水素製造装置。
【0011】
(2)上記前段触媒層に外接する円筒体の直径D1と、上記後段触媒層に外接する円筒体の直径D2とが、下記式(II):
D1>D2 ・・・ (II)
の関係を満たすことを特徴とする上記(1)に記載の膜分離型水素製造装置。ここで、前段触媒層に外接する円筒体及び後段触媒層に外接する円筒体は、中心軸が前段触媒層の流路方向に平行であるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水蒸気改質触媒からなる前段触媒層での改質ガスの流速を低くすることで改質反応の効率を高めつつ、水素分離膜に接する後段触媒層での改質ガスの流速を上げ、水素分離膜近傍での水素濃度の低下を防ぎ、かつ後段触媒層の断面積を前段触媒層の断面積の65%以下とすることで水素分離膜での水素透過効率の低下を抑えて、効率良く水素を分離精製することができる。これにより、水素製造効率を大幅に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の膜分離型水素製造装置及び水素製造方法を、図1及び2を用いて詳細に説明する。図1は本発明の膜分離型水素製造装置の一例を示す模式図であり、図2中の(A)は図1のIIA−IIA線に沿う断面図であり、図2中の(B)は図1のIIB−IIB線に沿う断面図である。図1に示す膜分離型水素製造装置においては、炭化水素と水蒸気の入口部1を上流として、上流側に水蒸気改質触媒からなる前段触媒層2が配置され、該前段触媒層2の下流側には改質ガスの後段反応用の触媒からなる後段触媒層3が配置されており、更に、水素分離膜4が、前段触媒層2に配置又は接することなく、下流側の後段触媒層3内に配置されている。また、図1に示す膜分離型水素製造装置は、後段触媒層3の下流側に非透過ガスの出口部5が設けられており、更に水素分離膜4に連通する製品水素の出口部6を備える。
【0014】
図1に示す膜分離型水素製造装置においては、炭化水素と水蒸気とを入口部1を通して水蒸気改質触媒からなる前段触媒層2に供給して、水蒸気改質反応により改質ガスを生成させる。生成した改質ガスは、後段触媒層3に供給され、後段触媒層3に内蔵される水素分離膜4を透過して製品水素として、出口部6を通して装置外に取り出される。また、水素分離膜4を透過しなかった改質ガスは、後段触媒層3において後段反応を受け、該後段反応で発生した水素は、後段触媒層3内に配置された水素分離膜4を透過して製品水素として、出口部6を通して装置外に取り出される。一方、水素分離膜4を透過することなく、後段触媒層3を通過したガスは、非透過ガスとして出口部5から装置外に排出される。
【0015】
[原料炭化水素]
改質反応により水素を製造するための原料となる炭化水素としては、沸点が300℃以下の炭化水素及びそれらの混合物を用いることができる。例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、天然ガス、LPガスなどの常温で気体状態の炭化水素の他、ナフサ留分、ガソリン留分、灯油留分、軽油留分並びにこれらに相当する石油留分などの常温で液体状態の石油系炭化水素を用いることができる。
【0016】
ナフサ留分は、原油や天然ガスコンデンセートなどを蒸留分離して得られる留分のうち、沸点範囲として30℃〜180℃の範囲内の沸点を有する留分である。ナフサ留分としては、例えば、沸点範囲が30〜80℃程度の軽質ナフサ留分、沸点範囲が80〜180℃程度の重質ナフサ留分、沸点範囲が30〜180℃程度のホールナフサ留分などが含まれる。
【0017】
ガソリン留分は、沸点範囲として30℃〜200℃の範囲内の沸点を有する留分であり、市販の自動車ガソリン、工業ガソリンの他、自動車ガソリンの調合に用いられる沸点が上記の範囲内である中間製品(基材とも呼ばれる)、沸点が上記の範囲にある中間製品や自動車ガソリンに相当する留分も含まれる。
【0018】
灯油留分は、原油や天然ガスコンデンセートなどを蒸留分離して得られる留分のうち、沸点範囲として140℃〜270℃の範囲内の沸点を有する留分であり、灯火用、暖房用、ちゅう房用などの市販灯油の他に、上記の範囲内の沸点を有する灯油相当の留分が含まれる。
【0019】
軽油留分は、沸点範囲160℃〜370℃の範囲内の沸点を有する留分であり、ディーゼルエンジン用などに使用する市販軽油の他、上記の範囲内の沸点を有する軽油相当の留分が含まれる。
【0020】
製品の流通面、コスト、入手の容易性から、メタン、LPGなどのガス状炭化水素、ナフサ、ガソリン、灯油、軽油並びにそれらに相当する留分などの液状炭化水素が好ましく、特には灯油及びそれに相当する留分が好ましい。また、これら炭化水素は、水蒸気改質触媒に対する被毒の観点から、含有する硫黄分が低いものが好ましく、特には硫黄分が50質量ppb以下のものが好ましい。
【0021】
[水蒸気改質触媒、前段触媒層]
本発明で用いる水蒸気改質触媒としては、通常の水蒸気改質触媒を用いることができる。例えば、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptのうちから選ばれる少なくとも1種の触媒活性成分を、Mg、Al、Si、Ti、Zr、Ba、Laの酸化物および/または水和酸化物から選ばれた少なくとも1種の担体成分を含む担体に担持したものを使用することができる。コーキングの発生を抑制する点から、触媒活性成分としてRuやRhの使用が好ましい。
【0022】
これらの水蒸気改質触媒を、炭化水素と水蒸気の混合ガスの供給方向を基準として、最も上流側に配置して前段触媒層2とする。前段触媒層2に含ませる水蒸気改質触媒の量は、原料である炭化水素の種類、改質反応温度、スチーム/カーボン比などにより適宜決定することができる。
【0023】
[後段反応用の触媒、後段触媒層]
さらに、上記水蒸気改質触媒からなる前段触媒層2の下流側には、後段反応用の触媒(水蒸気改質触媒と同一でもよい)からなる後段触媒層3を配置する。後述する水素分離膜4により水素が分離され水素分圧が低下した改質ガスは、当該触媒による後段反応(さらなる水蒸気改質反応および平衡状態を水素生成側にシフトさせる反応)によってさらに水素を生成させることにより、水素濃度を低下させることなく、さらに水素分離膜4により水素を分離することで、より高効率で水素を製造することができる。なお、後段触媒層3の温度は、350℃以上650℃未満とすることが好ましく、450〜600℃とすることが更に好ましい。
【0024】
さらには、水素分離膜4に接した後段触媒層3において、水素の拡散が十分でないと、やはり後段触媒層3のうち水素分離膜4近傍の領域で水素濃度が低下し、水素分離効率を低下させるので、後段触媒層3の触媒充填部分の厚みは薄い方が好ましい。ここで、前段触媒層2の流路方向に垂直な面による断面の面積S1と、該断面と平行な面による後段触媒層3の断面の面積S2とは、上記式(I)の関係を満たすことを要し、即ち、後段触媒層3の断面積S2は、図2に示すように、前段触媒層2の断面積S1の65%以下であることを要し、好ましくは前段触媒層2の断面積S1の65〜1%の範囲であり、更に好ましくは50〜1%の範囲であり、特に好ましくは50〜5%の範囲である。後段触媒層3の断面積S2を前段触媒層2の断面積S1の65%以下にすることで、後段触媒層3における水素の濃度差を低減でき、かつ、水素分離膜4に接触することなく反応器内を通過する改質ガスを低減できる。また、後段触媒層3の断面積S2が前段触媒層2の断面積S1の1%以上であれば、透過した水素量分後段反応により更に水素を生成するための後段触媒層3を確保できる。
【0025】
また、前段触媒層2と後段触媒層3とは、上記式(II)の関係を満たすことが好ましく、即ち、前段触媒層2に外接する円筒体と後段触媒層3に外接する円筒体を考えた場合、後段触媒層3に外接する円筒体の直径D2は、図2に示すように、前段触媒層2に外接する円筒体の直径D1よりも小さいことが好ましく、更に好ましくは前段触媒層2に外接する円筒体の直径D1の80〜10%の範囲であり、より一層好ましくは70〜10%の範囲であり、特に好ましくは70〜20%の範囲である(なお、図1及び図2に示す膜分離型水素製造装置は、前段触媒層2及び後段触媒層3が円柱状であるため、前段触媒層2に外接する円筒体の直径は前段触媒層2の直径に等しく、後段触媒層3に外接する円筒体の直径は後段触媒層3の直径に等しい)。後段触媒層3に外接する円筒体の直径D2を前段触媒層2に外接する円筒体の直径D1よりも小さくすることで、後段触媒層3における水素の濃度差を低減でき、更に、後段触媒層3に外接する円筒体の直径D2を前段触媒層2に外接する円筒体の直径D1の80%以下にすることで、後段触媒層3における水素の濃度差を十分に低減でき、かつ、水素分離膜4に接触することなく反応器内を通過する改質ガスを大幅に低減できる。また、後段触媒層3に外接する円筒体の直径D2が前段触媒層2に外接する円筒体の直径D1の10%以上であれば、透過した水素量分後段反応により更に水素を生成するための後段触媒層3を確保できる。
【0026】
上述した図1及び図2に示す膜分離型水素製造装置は、前段触媒層2及び後段触媒層3が円柱状で、後段触媒層3中に水素分離膜4が1つ内蔵されているが、本発明の膜分離型水素製造装置の形状は、これに限られず、水素分離膜4が前段触媒層2に接することなく後段触媒層3に接するように配置されていればよく、例えば、図3及び図4に示すように、前段触媒層2及び後段触媒層3が円柱状で、後段触媒層3中に水素分離膜4が複数内蔵されていてもよいし、図5及び図6に示すように、前段触媒層2及び後段触媒層3が直方体状で、後段触媒層3中に水素分離膜4が内蔵されていてもよいし、図7及び図8に示すように、前段触媒層2及び後段触媒層3が円柱状で、後段触媒層3の外周に水素分離膜4が配設されていてもよい。なお、図4中の(A)は図3のIVA−IVA線に沿う断面図であり、図4中の(B)は図3のIVB−IVB線に沿う断面図であり、また、図6中の(A)は図5のVIA−VIA線に沿う断面図であり、図6中の(B)は図5のVIB−VIB線に沿う断面図であり、更に、図8中の(A)は図7のVIIIA−VIIIA線に沿う断面図であり、図8中の(B)は図7のVIIIB−VIIIB線に沿う断面図である。
【0027】
本発明において下流側の後段触媒層3に用いる後段反応用触媒としては、従来公知のものが使用でき、水蒸気改質触媒と同じでもよい。例えば、触媒活性成分としては、Fe23系、Cu−ZnO系、Ru、Pt、Auなど貴金属系のもの等が挙げられる。これらの触媒活性成分をマグネシア、マグネシア−酸化カルシウム−シリカ、マグネシア−シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ等に担持したものを触媒として使用することができる。下流側の後段触媒層3に含ませる触媒の量は、使用する原料炭化水素の種類、後段の反応温度などにより適宜決定することができる。
【0028】
[水素分離膜]
さらに、上記下流側の後段触媒層3の内部又は外部には、前段触媒層2に配置または接することなく後段触媒層3に接するように、水素分離膜4が配置されている。本発明で用いる水素分離膜としては、水素の選択的透過性を有する材料であれば特に限定されないが、高い水素透過選択性を有するパラジウム膜、パラジウム合金膜が好ましく、パラジウム/銅、パラジウム/銀などのパラジウム合金膜がより好ましい。
【0029】
上記水素分離膜としては、図9に示すような、焼結フィルター部7を有する金属管8の焼結フィルター部7上にバリア層9を設け、該バリア層9の上にパラジウム合金のメッキ膜10を配した水素分離膜を用いることが好ましい。ここで、焼結フィルター部7及び金属管8は、ステンレス製であることが好ましく、バリア層9は、ジルコニア、アルミナなどからなることが好ましく、パラジウム合金のメッキ膜10としては、パラジウム−銅合金のメッキ膜、パラジウム−銀合金のメッキ膜などが好ましく、パラジウム−銅合金のメッキ膜が特に好ましい。前記のバリア層9は、焼結フィルター部7の金属成分がパラジウム合金のメッキ膜10へ拡散してメッキ膜10の水素透過性が劣化することを防止するとともに、表面の平滑度を上げて前記パラジウム合金のメッキ膜10に欠陥が生じることを防止する作用を有する。
【0030】
[水素製造方法]
本発明の膜分離型水素製造装置を用いた水素製造方法は、次のように行う。上記の炭化水素と水蒸気の混合ガスを、まず上記の水蒸気改質触媒からなる前段触媒層2に供給し、水蒸気改質反応を行い、水素を主成分とする改質ガスを生成させる。ここで、炭化水素と水蒸気の比率は、スチーム/カーボン比(S/C比)として2.5〜4.0の範囲が好ましく、2.8〜3.5の範囲がより好ましい。S/C比が低い状態ではコーキングが発生し、水蒸気改質触媒の活性を低下させてしまう。また、S/C比が必要以上に高い場合は、効率を低下させてしまう。
【0031】
前段触媒層2の温度、すなわち改質反応の温度としては、400〜800℃が好ましく、450〜750℃がより好ましい。改質反応の温度が400℃未満の場合は、水素分率が10vol%以下(メタン原料で反応圧0.9MPaGの条件下で)となり十分な水素透過量が得られず、一方、800℃を超える場合は、反応管の材質などとして耐熱材料(カンタル、インコネル、ハステロイなど)が必要となりコストが高くなる。
【0032】
改質反応の圧力としては、0.5〜1.5MPaGが好ましく、0.7〜1.2MPaGがより好ましい。反応圧力が低過ぎると水素透過量が十分得られず、また反応圧力が高過ぎると炭化水素の反応(水素発生側への反応)が進みにくくなる。
【0033】
原料炭化水素として灯油を用いた場合、SV(灯油ベースのLHSV)としては、現状の触媒において0.3〜3.0h-1の範囲が好ましく、0.3〜1.7h-1の範囲がより好ましい。
【0034】
ついで、改質ガスを、前段触媒層2の下流側に配置した後段触媒層3に供給した後、水素分離膜4により水素を透過分離する。
【0035】
さらに、水素分離膜4により水素が分離された改質ガスを、後段触媒層3において、後段反応によりさらに水素を生成させるとともに、後段触媒層3に接して配置されている水素分離膜4により、生成した水素の分離を行う。水素分離膜4で水素が分離され水素分圧が低下した分、後段反応により水素が生成するので、水素の生成量をより高め、高効率で水素を製造することができる。
【0036】
上述のように、本発明によれば、高効率で水素を回収できる膜分離型水素製造装置を提供することができる。なお、本発明の膜分離型水素製造装置は、コンパクトな構成で高純度の水素ガスを高効率かつ高回収量で製造できるので、高分子電解質形燃料電池(PEFC)用の水素製造装置、或いは水素ステーションで用いるオンサイト型の水素製造装置として好適に使用できる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
図1に示す構造の膜分離型水素製造装置を準備した。該装置の前段の水蒸気改質部は、反応管径(即ち、前段触媒層の直径(=前段触媒層に外接する円筒体の直径)D1)が43mmφで、水蒸気改質触媒からなる前段触媒層の断面積S1が1452mm2で、長さが30mmであり、また、水素分離及び後段反応部は、管径(即ち、下流側の後段触媒層の直径(=後段触媒層に外接する円筒体の直径)D2)が22mmφで、後段触媒層の断面積S2が300mm2で、長さが45mmであり、また、水素分離膜の面積は約15cm2ある。
【0039】
なお、水素分離膜モジュールとしては、SUS製の焼結フィルター部を有する管径が10.1mmφのSUS管の焼結フィルター部上にバリア層として安定化ジルコニア層(30μm)を配した支持体にPd及びCu[Pd:Cu=60:40(wt%)]を順にメッキして膜厚を3μmとし、更に、窒素雰囲気下、400℃で60hr合金化したモジュールを使用した。
【0040】
また、前段触媒層及び後段触媒層には、一般的な水蒸気改質触媒(Ru系、サイズ2mmφ)を使用した。
【0041】
原料炭化水素としてメタン(0.811mol/hr)を用いて、反応温度500℃、反応圧力0.9MPaG、スチーム/カーボン比(S/C)=3.0、GHSV(メタン+スチーム)=3000h-1の条件で改質反応を行った。水素回収率及びメタン転化率を表1に示す。
【0042】
(比較例1)
図10に示す構造の膜分離型水素製造装置を準備した。該装置の前段の水蒸気改質部は、反応管径(即ち、前段触媒層の直径(=前段触媒層に外接する円筒体の直径)D1)が43mmφで、水蒸気改質触媒からなる前段触媒層の断面積S1が1452mm2で、長さが30mmであり、また、水素分離及び後段反応部は、管径(即ち、後段触媒層の直径(=後段触媒層に外接する円筒体の直径)D2)が43mmφで、後段触媒層の断面積S2が1373mm2で、長さが45mmであり、また、水素分離膜の面積は約15cm2ある。
【0043】
なお、水素分離膜モジュールとしては、SUS製の焼結フィルター部を有する管径が10.1mmφのSUS管の焼結フィルター部上にバリア層として安定化ジルコニア層(30μm)を配した支持体にPd及びCu[Pd:Cu=60:40(wt%)]を順にメッキして膜厚を3μmとし、更に、窒素雰囲気下、400℃で60hr合金化したモジュールを使用した。
【0044】
また、前段触媒層及び後段触媒層には、一般的な水蒸気改質触媒(Ru系、サイズ2mmφ)を使用した。
【0045】
原料炭化水素としてメタン(1.352mol/hr)を用いて、反応温度500℃、反応圧力0.9MPaG、スチーム/カーボン比(S/C)=3.0、GHSV(メタン+スチーム)=3000h-1の条件で改質反応を行った。水素回収率及びメタン転化率を表1に示す。
【0046】
(比較例2)
図10に示す構造の膜分離型水素製造装置を準備した。該装置の前段の水蒸気改質部は、反応管径(即ち、前段触媒層の直径(=前段触媒層に外接する円筒体の直径)D1)が43mmφで、水蒸気改質触媒からなる前段触媒層の断面積S1が1452mm2で、長さが30mmであり、また、水素分離及び後段反応部は、管径(即ち、後段触媒層の直径(=後段触媒層に外接する円筒体の直径)D2)が43mmφで、後段触媒層の断面積S2が1373mm2で、長さが45mmであり、また、水素分離膜の面積は約15cm2ある。
【0047】
なお、水素分離膜モジュールとしては、SUS製の焼結フィルター部を有する管径が10.1mmφのSUS管の焼結フィルター部上にバリア層として安定化ジルコニア層(30μm)を配した支持体にPd及びCu[Pd:Cu=60:40(wt%)]を順にメッキして膜厚を3μmとし、更に、窒素雰囲気下、400℃で60hr合金化したモジュールを使用した。
【0048】
また、前段触媒層及び後段触媒層には、一般的な水蒸気改質触媒(Ru系、サイズ2mmφ)を使用した。
【0049】
原料炭化水素としてメタン(0.811mol/hr)を用いて、反応温度500℃、反応圧力0.9MPaG、スチーム/カーボン比(S/C)=3.0、GHSV(メタン+スチーム)=1800h-1の条件で改質反応を行った。水素回収率及びメタン転化率を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から、実施例の膜分離型水素製造装置を使用することで、水素回収率及びメタン転化率を向上させられることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の膜分離型水素製造装置の一例を示す模式図である。
【図2】図1に示す膜分離型水素製造装置の断面図である。
【図3】本発明の膜分離型水素製造装置の他の一例を示す模式図である。
【図4】図3に示す膜分離型水素製造装置の断面図である。
【図5】本発明の膜分離型水素製造装置の他の一例を示す模式図である。
【図6】図5に示す膜分離型水素製造装置の断面図である。
【図7】本発明の膜分離型水素製造装置の他の一例を示す模式図である。
【図8】図7に示す膜分離型水素製造装置の断面図である。
【図9】本発明の膜分離型水素製造装置に用いる水素分離膜の好適例の部分断面図である。
【図10】比較例で用いた膜分離型水素製造装置の模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 炭化水素と水蒸気の入口部
2 前段触媒層
3 後段触媒層
4 水素分離膜
5 非透過ガスの出口部
6 製品水素の出口部
7 焼結フィルター部
8 金属管
9 バリア層
10 パラジウム合金のメッキ膜
S1 前段触媒層の流路方向に垂直な面による断面の面積
S2 前段触媒層の流路方向に垂直な面と平行な面による後段触媒層の断面の面積
D1 前段触媒層に外接する円筒体の直径
D2 後段触媒層に外接する円筒体の直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素と水蒸気の入口部を上流として、上流側に配置された前段触媒層と、該前段触媒層の下流側に配置された後段触媒層と、水素透過能を有する水素分離膜とを備える膜分離型水素製造装置であって、
上記前段触媒層は、炭化水素を水蒸気改質する水蒸気改質触媒からなり、
上記水素分離膜は、上記前段触媒層に配置又は接することなく、上記後段触媒層の内部又は外部に該触媒層と接するように配置され、
上記前段触媒層の流路方向に垂直な面による断面の面積S1と、該断面と平行な面による上記後段触媒層の断面の面積S2とが、下記式(I):
S1≧100/65×S2 ・・・ (I)
の関係を満たす
ことを特徴とする膜分離型水素製造装置。
【請求項2】
上記前段触媒層に外接する円筒体の直径D1と、上記後段触媒層に外接する円筒体の直径D2とが、下記式(II):
D1>D2 ・・・ (II)
の関係を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の膜分離型水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−100481(P2010−100481A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273408(P2008−273408)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年4月2日付け平成19・04・02財資第9号平成19年度新燃料油研究開発調査(将来型燃料高度利用研究開発)委託契約に基づき財団法人石油産業活性化センターが国から委託を受けて実施した「将来型燃料高度利用研究開発事業」における「石油液体燃料用膜型反応分離プロセスの開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】