説明

膜厚測定装置及び該膜厚測定装置を用いた薄膜形成装置

【課題】 本発明の目的は、膜厚測定装置の光照射光学系や受光光学系を構成する各光ファイバ装置において、サイズの大きな反射ミラー式照射、受光光学系も必要とせず、従来よりも広い波長帯域で高精度で膜厚の測定が可能な膜厚測定装置及び薄膜形成装置を提供することにある。
【解決手段】 本発明の膜厚測定装置は、薄膜に光を照射する光照射光学系6と、光照射光学系6を介して照射された光が薄膜を透過して生じた信号光を受光する受光光学系4と、受光光学系4を介して導かれた信号光を処理して薄膜の膜厚を算出する信号処理装置3とを有する膜厚測定装置において、光照射光学系6及び受光光学系4は各々中空光ファイバ41bを有し、光照射光学系6の中空光ファイバ41bを介して薄膜に光を照射し、かつこの光が薄膜を透過して生じた信号光を受光光学系4の中空光ファイバ41bを介して信号処理装置3に導くことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光学薄膜等を成膜する際に使用される膜厚測定装置及びこの膜厚測定装置を用いた薄膜形成装置の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、SiO/Ta、SiO/TiO等を積層して形成した光学多層膜(以下単に多層膜という)は、例えばプロジェクタの色合成プリズム、色分解フィルタ等に用いられ、被写体からの光を赤、青、緑のような特定波長の光に色分解する機能を有している。
ところで、昨今のデジタルカメラやビデオカメラ等の高性能化に伴って、これらに使用される光学デバイスにも高性能化の要望が高まってきており、とりわけ色分解フィルタ等に用いられる多層膜には、高精度の膜厚で品質の揃ったものが要求されている。そのため、多層膜を構成している各層の薄膜の屈折率と膜の厚さ(以下単に膜厚という)とを予め設計した値に正確に一致させることが極めて重要になってきている。
【0003】
ところで前述した多層膜を構成している各々の薄膜の膜厚は、実際に成膜された膜の組成(屈折率に影響を与える)と物理的な膜厚の双方によって決る実効的な膜厚、すなわち光学的な膜厚であるため、薄膜形成装置を用いて、例えば前記色分解フィルタを製造する際には、膜厚制御のための膜構成材料の組成制御と光学的な膜厚制御の両制御が極めて重要になる。ここで光学的な膜厚とは、薄膜の屈折率をn、物理的な膜厚をdとすると、光学的な膜厚=ndで表される。
ところで前者の薄膜の組成制御は、蒸着物質を得る蒸着源物質の選定等によって行い、後者の膜厚制御は、成膜される薄膜の光学的な膜厚を適切な膜厚測定装置で時々刻々監視し、測定しながら行う必要がある。
【0004】
従来、この種の多層膜を形成する場合には、単色測光法等の光学的膜厚測定法により膜厚を測定し、膜厚を制御する方法が用いられてきた。
具体的に薄膜の膜厚を監視し、測定する膜厚測定装置としては、例えば特許文献1にも記載されているように、薄膜、例えば被成膜体表面の薄膜にレーザー光等を照射し、その透過光又は反射光が膜厚に依存して強度変化する現象を利用したものがある。
具体的には、例えば薄膜に光を照射すると薄膜の膜厚に応じて薄膜を透過する光の透過率が変化し、透過光の強度に変化をもたらすことを利用したものである。
【0005】
この膜厚測定装置は、薄膜に光を照射する光照射光学系と、この光照射光学系により照射された照射光が被成膜体表面の薄膜を透過又は反射して生じた信号光を受光して、この信号光を薄膜形成装置外部に導く受光光学系と、該受光光学系により外部に導かれた信号光を処理して薄膜の光学的な薄膜を算出する信号処理装置とを有している。
【0006】
そして前記膜厚測定装置の光照射光学系としては、真空成膜室の外部に設けられた光源からの光を、通常の光ファイバ、すなわちコア及び該コアを覆うクラッドが共にガラスからなるガラス製光ファイバの如き導光部材を介して真空成膜室の真空隔壁に設けられた透明窓を通じて真空成膜室内に導き、その光を所定のレンズ系を介してガラス製の被成膜体表面に形成されつつある薄膜の測定点に集光するように照射する。
一方、受光光学系は、前記照射光の集光点である測定点にその焦点が位置決めされたレンズ系を介して、薄膜を透過した信号光を、例えば前述した光照射光学系と同様に、通常のガラス製光ファイバの如き導光部材により信号処理装置に導いている。
このようにしてなる光ファイバ式の光学系は、一般的なレンズ式あるいはミラー式の光学系より、光路長の長さを短くできる分、より安定した光学強度信号を取ることが可能となり、膜厚の測定をより高い精度で行うことができるため、近年では広く採用されるようになってきている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−303510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら前記特許文献1に開示されているような導光部材、すなわち通常のガラス製光ファイバの場合、以下のような問題がある。
前述したように多層膜を形成する各薄膜の膜厚は、物理量としての膜厚dが重要なのではなく、光学的な膜厚であるndが重要なのである。然るにこの屈折率nは定数ではなく、厳密には薄膜を透過する波長λの関数である。それ故、実際の測定にあってはその精度を高めるために、任意の波長ではなく、その薄膜が実際に使用される際適用される、すなわちこの薄膜を使用環境下で透過することになる波長λが用いられる。
【0009】
光学フィルタが多種多様な目的に使用される昨今にあっては、目的に応じて異なる波長λがこの光学フィルタに適用される。それ故、膜厚の測定に際しては、形成中の薄膜の使用状況に応じた所定の波長λを有する光を選択して、薄膜に照射してやる必要がある。
そのため通常は、その都度所定の波長の光を発光する光源に切り替えているが、この照射光を導く光照射光学系の光ファイバや、薄膜を透過した信号光を信号処理装置に導く受光光学系側の光ファイバにあっては、その度に前記波長に適した光ファイバに交換することは現実的ではない。そこで、予め種々異なる帯域を有する多種類の光ファイバを用意しておき、さらに信号処理装置に導く光信号の光量も考慮して各種類の光ファイバを複数本ずつ用意し、これら全体をバンドル化して導光部材を形成している。
【0010】
ところが、一部の赤外線波長及び真空紫外線波長に対しては適切な導光部材がほとんどない、という問題がある。具体的にはガラス製光ファイバではこの種の波長を伝送することができないため、光ファイバ式光学系では対応できない。そこで止む無くミラー式光学系を使用しようとすると、サイズの大きな反射ミラー式照射光学系及び受光光学系を使用しなければならなくなる。その結果、装置全体が大きくなり、かつ光路長が長くなってしまって、光学強度信号は著しく不安定になり、膜厚の測定精度が落ち、膜厚制御の精度も著しく低下してしまう。
ここで真空紫外線波長とは、例えば100nmと200nmとの間の波長は、空気中を通らないので、装置内を真空にする必要があるため、このような波長を真空紫外線波長という。
【0011】
上記問題に鑑み本発明の目的は、膜厚測定装置の光照射光学系や受光光学系を構成する各導光部材において、通常のガラス製光ファイバでは実現できない赤外線波長及び真空紫外線波長等を含む広い帯域で高精度で膜厚の測定が可能な、すなわち、種々の目的に使用される薄膜の測定に対応可能な膜厚測定装置及びこの膜厚測定装置を用いた薄膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく本発明の請求項1記載の膜厚測定装置は、薄膜に光を照射する光照射光学系と、該光照射光学系を介して照射された光が前記薄膜を透過または反射して生じた信号光を受光する受光光学系と、該受光光学系を介して導かれた前記信号光を処理して前記薄膜の膜厚を算出する信号処理装置とを有する膜厚測定装置において、前記光照射光学系及び前記受光光学系は各々中空光ファイバを有し、前記光照射光学系の中空光ファイバを介して前記薄膜に光を照射し、かつ照射された光が前記薄膜を透過または反射して生じた信号光を前記受光光学系の中空光ファイバを介して前記信号処理装置に導くことを特徴とするものである。
【0013】
このようにしてなる請求項1記載の膜厚測定装置によれば、膜厚測定装置の光照射光学系及び受光光学系は各々その帯域が広い中空光ファイバを有していて、これら各中空光ファイバで光を導光しているため、通常のガラス製光ファイバでは伝送できない赤外線波長や真空紫外線波長を含む広い帯域の波長を効率よく伝送することができる。
より具体的には、赤外線から真空中しか伝わることのできない真空紫外線波長までの広い波長帯域で、光の照射や受光が可能であるため、広い波長帯域での膜厚の測定が可能となり、その結果、多種多様の用途に用いられる光学フィルム等光学デバイスの膜厚を測定する膜厚測定装置において、例えば大型化が避けられない反射ミラー式光学系等を採用することなく、単に中空光ファイバを用いた光学系を採用するだけで対応することができ、高精度の膜厚測定が可能となる。
加えて、従来のように各々が狭い帯域しか持たない、例えばガラス製光ファイバを、より多くの種類用意する必要もなくなるため光照射光学系や受光光学系を構成する導光部材の製造が容易にもなる。
因みに、前記中空光ファイバは、例えば外径1mm以下のガラスチューブの内側に金属や樹脂の薄膜を形成したものである。
【0014】
また本発明の請求項2記載の薄膜形成装置は、真空成膜室内において被成膜体を回転させながらその表面に薄膜を形成する成膜装置と、前記被成膜体上に形成される薄膜の膜厚を光学的方法によって測定するための膜厚測定装置とを有する薄膜形成装置において、前記膜厚測定装置は、前記薄膜に光を照射する光照射光学系と、該光照射光学系を介して照射された光が前記薄膜を透過または反射して生じた信号光を受光して前記成膜装置の外部に導く受光光学系と、前記外部に導かれた信号光を処理して前記薄膜の膜厚を算出する信号処理装置とを有するものであって、前記光照射光学系及び前記受光光学系は各々中空光ファイバを有し、前記光照射光学系の中空光ファイバを介して前記薄膜に光を照射し、かつ照射された光が前記薄膜を透過または反射して生じた信号光を前記受光光学系の中空光ファイバを介して前記信号処理装置に導くことを特徴とするものである。
【0015】
このようにしてなる請求項2記載の薄膜形成装置によれば、この薄膜形成装置の一構成部分である膜厚測定装置を、高性能で形成でき、しかも赤外線から真空中しか伝わることのできない真空紫外線波長までの広い波長帯域で、光の照射や受光が可能であるため、広い波長帯域での膜厚の測定が可能となる。その結果、多種多様の目的に供せられる光学フィルム等光学デバイスの膜厚の測定に対応できるため、薄膜形成装置においても高性能で、かつ多目的に対応できる薄膜形成装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本発明によれば、膜厚測定装置の光照射光学系や受光光学系を構成する各導光部材において、通常のガラス製光ファイバでは実現できない赤外線波長及び真空紫外線波長等を含む広い波長帯域で高精度で膜厚の測定が可能な、すなわち、多種多様な目的に使用される薄膜の測定に対応可能な膜厚測定装置及びこの膜厚測定装置を用いた薄膜形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の膜厚測定装置を、例えば薄膜形成装置に適用した一実施例で詳細に説明する。
図1は本発明の膜厚測定装置を用いた薄膜形成装置の一実施例であって、この薄膜形成装置がイオンアシスト蒸着法を採用した装置の場合の全体構成図である。また図2は、図1における受光光学系の導光部材(以下光ファイバ装置という)が、薄膜形成装置の真空隔壁を貫通する部分の一部破断断面図を示している。そして図3は、前記図2に示す受光光学系、あるいは図1に示す光照射光学系の光ファイバ装置に用いられている中空光ファイバの一例を示す横断面図である。
【0018】
図1が示すように本発明の薄膜形成装置は主として、基台1上に立設された支柱1a、1bによって支持された真空成膜室2と、適宜の場所、例えば真空成膜室2の外部の適当な場所に設置された信号処理装置3と、受光光学系4及び光照射光学系6とを有している。
真空成膜室2は、真空隔壁2aによって内外が仕切られている。そして真空成膜室2の内部は真空ポンプ2bによって高い真空度が維持できるようになっている。
【0019】
真空成膜室2内の底面の一部には、蒸着装置21、イオン銃22等が設けられ、この底面の他の一部には透明窓部24が設けられている。ここで符号210は蒸着装置21の電源を、そして符号220はイオン銃22の電源をそれぞれ示している。
さらに真空成膜室2の上部中央の外部、すなわち上部中央の真空隔壁2aの外側にモータ25が設置されている。このモータ25の回転軸25aは真空隔壁2aを真空シールされた状態で貫通していて、その先端には被成膜体であるガラス基板100の中心部を保持する基板保持装置25bが取り付けられている。すなわちガラス基板100は基板保持装置25b、回転軸25aを介してモータ25により回転軸25aの中心軸の周りに回転するようになっている。
【0020】
さらに前記ガラス基板100の上方には、その一端が信号処理装置3に連結されている受光光学系4が設けられている。この受光光学系4は、後述する図3に示す中空光ファイバ41bを用いた光ファイバ装置41と受光レンズ42とを有している。この受光レンズ42は光ファイバ装置41の先端受光部と所定の位置関係を保持し、かつ受光ブロック43と一緒に中空光ファイバ41b端面の真空気密化を担っている。
【0021】
ところで真空隔壁2aに受光光学系4の光ファイバ装置41を貫通させる場合には、例えば図2に示すような真空シール部5を施す。
そして、例えば1本あるいは複数本の中空光ファイバ41bを束ねたものをフレキシブルチューブ41a内に収納して光ファイバ装置41とする。
このフレキシブルチューブ41aとしては、例えば両端を折り曲げた2本のステンレス条で形成した、いわゆるインターロック型のフレキシブルチューブを用いる。
【0022】
図2が示す受光光学系4の光ファイバ装置41と真空隔壁2aとの間の真空シール部5は、真空隔壁2aの貫通孔に嵌め込まれたフランジ部51のフランジ孔51aに、前述したフレキシブルチューブ41aを用いた光ファイバ装置41を貫通させた後、フランジ孔51aと光ファイバ装置41との間隙に接着性シール剤52を充填したものである。
ここで接着性シール剤52はフレキシブルチューブ41aの内部にも浸透して貫通部内部をも完全に満たし、光ファイバ装置41をフランジ部51内に固定すると共に、フレキシブルチューブ41a内部の、例えば中空光ファイバ41bが複数本存在する場合には、各中空光ファイバ41b間及び各中空光ファイバ41bとフレキシブルチューブ41aの内壁との間も含め、光ファイバ装置41が真空隔壁2aを貫通する部分を内外とも完全に真空シールする。尚、図2で符号53は真空隔壁2aとフランジ部51との間を真空シールする、例えばOリング等のシール部材を示している。
このようにしてなる真空シールにより真空成膜室2内のリークレベルが1×10−6Pa・m/秒程度に保持できるようにする。
ところで接着性シール剤52としては、真空専用のものを用い、かつ使用の際には充分に脱泡した上で加圧充填する。
【0023】
真空シール部5を通して真空隔壁2aの外部に導かれた光ファイバ装置41は、図1が示すように信号処理装置3に連結され、後述する光源からの照射光Loの照射によって発生する信号光Lを、受光レンズ42を介して光ファイバ装置41に導き、さらにこの光ファイバ装置41を介して信号処理装置3へと導く。
【0024】
信号処理装置3は、照射光が薄膜を通過する際、例えば、薄膜を透過する光の透過率が膜厚に応じて変化することにより、結果的に信号光の強度が膜厚に依存して変化することを利用して薄膜の膜厚を算出するものである。
尚、ここで測定するのは薄膜の物理的な意味での厚さdではなく、光学的な厚さ、すなわちndを測定する。ここでnは薄膜の屈折率である。前述したようにこの測定に用いる測定波長λには、nが波長λの関数であることから、実際に即すように、最終的に製造された光学フィルタに適用される波長λか、あるいはそれに近い波長が採用される。そのため後述する光源側は、必要に応じて種々の波長の光を出射できるように、予め複数種類の光源が用意され、容易に切り替えができるように工夫されている。
【0025】
照射光Loは、真空成膜室2内の底面の一部に設けられた透明窓部24の外部、図1では透明窓部24の下方に設けられた光照射光学系6からの光が使用される。
光照射光学系6は、光源60からの光を、中空光ファイバ41bからなる光ファイバ装置61で導光して出射レンズ62を介し、さらに透明窓部24を透過してガラス基板100上の測定点に照射できるようになっている。
尚、この光ファイバ装置61は、1本あるいは複数本の同種の中空光ファイバ41bを束ね、これを例えばプラスチック製の保護チューブ、より好ましくは金属製あるいはプラスチック製の波付きチューブ、または前記光ファイバ装置41と同様にインターロックチューブの如きフレキシブルチューブに収納したものである。
ところで、光ファイバ装置61の光出射端においても、光出射端と出射レンズ62とは出射ブロック63によって所定間隔に位置決めされている。
【0026】
以上のようにして、光照射部から照射されガラス基板100上で薄膜を透過した信号光Lは、常時受光レンズ42を介して光ファイバ装置41へと導かれ、そして信号処理装置3によりその光学的な膜厚ndを測定できるようになっている。
【0027】
また光ファイバ装置41及び光ファイバ装置61に使用されている中空光ファイバ41bは、図3にその一例の横断面図を示すように、通常のガラス製光ファイバと異なり、その中心部分が空洞になっている。例えばガラスチュ−ブ410の内面に、例えばフッ化カルシウムやアルミニウム化合物等からなる反射膜411をコーテイングしたものである。因みに、符号412は空洞部を、符号413はガラスチュ−ブ410の外表面に被覆した樹脂製の保護被覆層を示している。
【0028】
この種の中空光ファイバ41bの特徴は、その帯域が広いことが特徴で、例えば前述したフッ化カルシウムを反射膜411として有するものでは、0.15μm〜8μm程度の広い範囲の波長を1本の中空光ファイバ41bで導くことが可能である。この他にも、例えば臭素―ヨウ化タリウム(Thallium Bromoiodide)を反射膜411として有する中空光ファイバ41bでは、その帯域は0.6〜45μmと極めて広く、従来のコア、クラッドが共に石英ガラスからなるガラス製光ファイバの通常の帯域が約0.25μm〜1.2μm及び約0.35μm〜2.8μmであることからみても、格段に広帯域になっていることが判る。
【0029】
その結果、従来の石英ガラス製の光ファイバを用いた場合には、通常約2〜3種類の帯域の異なる光ファイバを用意しなければならないが、中空光ファイバ41bを用いた本発明のものでは、例えば1種類の中空光ファイバ41bだけで済む場合もある。
また、例えば、従来の石英ガラス製の光ファイバでは測定できない波長、具体的にはFレーザーの波長である157nmの真空紫外線波長、さらには5〜8μmの赤外線波長でも高精度で膜厚の測定が可能になるため、種々の目的、用途に使用される光学フィルタ等光学デバイスの膜厚の測定に対応できる。
【0030】
以下に具体的に、図1〜図3に示す本発明の膜厚測定装置及びこの膜厚測定装置を搭載した薄膜形成装置を用いて、前述した多層膜からなる光学フィルタを製造する手順を説明する。
まず真空成膜室2内の蒸着装置21として、Ta薄膜蒸着用の蒸着源たるターゲット211及びSiO薄膜蒸着用の蒸着源たるターゲット212を用意する。続いて、基板保持装置25bにガラス基板100を装着する。その後、真空成膜室2内を真空ポンプ2bで真空引きして、1×10−4Pa以下の真空にする。真空度が1×10−4Pa以下になったら、モータ25によりガラス基板100を10〜100rpmの回転速度で回転させながら、蒸着装置21及びイオン銃22を作動させて、ガラス基板100の表面上に薄膜を形成する。
【0031】
蒸着装置21は、ターゲット211または212のいずれかに電子線発生装置211a、または212aから発生させた電子線を照射して加熱し、蒸着物質を発生させ、これをガラス基板100の表面に向けて飛翔させ、ガラス基板100の表面上に蒸着せしめる。
一方、イオン銃22により、Oイオンをガラス基板100表面上の蒸着物質あるいはガラス基板100の表面に向かう蒸着物質の粒子に衝突させることにより、ガラス基板100の表面上に形成される薄膜を堅固な薄膜にせしめる。
このようにしてガラス基板100の表面上に所望の厚さの薄膜を形成したら、蒸着装置21に所定の操作を加えて、ガラス基板100の表面上に蒸着させるターゲットをもう一方のターゲットに切り替え、同様にして異なる蒸着物質からなる薄膜を形成する。以下順次各薄膜の厚さが所望の厚さに達したら、別のターゲットに切り替えながら薄膜を所定層積層せしめる。
【0032】
前述した薄膜の形成と併せて、例えば、波長6000nm(6μm)近傍の照射光Loを、薄膜が形成されつつあるガラス基板100に向けて、光照射光学系6の光ファイバ装置61の先端部から出射レンズ62を介して照射し、薄膜を透過した光を受光光学系4の光ファイバ装置41に受光レンズ42を介して取り込み、取り込んだ信号光を信号処理装置3に導光して、この信号処理装置3により随時薄膜の光学的な膜厚を算出し、薄膜の膜厚が設計値に対して0.1%以下の誤差範囲に入るように監視し、かつ制御しながら膜厚形成を行う。
【0033】
このように本発明では光ファイバ装置41及び光ファイバ装置61において、使用する導光部材として帯域の広い中空光ファイバ41bを用いているため、ガラス基板100上に形成する薄膜の膜厚測定に種々の異なる波長λを使用するとしても、1種類あるいは最悪でも2、3種類程度の中空光ファイバ41bで、しかも通常の石英ガラス製光ファイバでは対応できない、例えば一部の赤外線波長、さらには真空紫外線波長に対しても十分に対応できる。
それ故、従来のようにより多種類の石英ガラス製光ファイバを用意したり、あるいは赤外線波長や真空紫外線波長に対して対応すべく、大きなサイズの反射ミラー式照射、受光光学系を採用せざるを得ず、装置全体が大きくなってしまうとか、またその結果光路長が長くなってしまって、光学強度信号は著しく不安定になり、膜厚の測定精度が落ち、膜厚制御の精度も著しく低下してしまう、という問題も回避できる。
より具体的には、例えば、F2レーザー波長157nmの真空紫外線波長から波長5〜8μmの赤外線波長までも高精度で膜厚測定が可能となる。換言すると、多種多様の光学フィルム等光学デバイスの膜厚の測定に対応することができるようになる。
【0034】
ところで上述した実施例における薄膜形成装置は、被成膜体表面に薄膜を形成する物質を蒸着させる際に、前記物質にイオン照射しながら行うイオンアシスト蒸着法(Ion Assisted Deposition)を用いているが、薄膜形成装置としてはこの他の方法を採用した装置であっても本発明の膜厚測定装置を適用できる。具体的には、例えば、真空成膜室内に対向ターゲット式スパッタ手段と反応性ガス導入手段とを備え、ガラス基板の如き被成膜体表面に成膜を行うものであってもよい。
もちろん、本発明の膜厚測定装置は、これら薄膜形成装置に限らず、他の薄膜の膜厚測定にも適用でき、例えば単に製造された薄膜の光学的膜厚の測定にも適用できることはいうまでもない。
【0035】
また前記実施例では照射光が薄膜を透過したものを信号光として受光する例であるが、本発明の膜厚測定装置にあっては、照射光が薄膜表面で反射した光を信号光として受けるものであってもよい。この場合には、言うまでもなく受光光学系は反射光を受光する位置に設けることになる。
尚、前述した実施例では被成膜体としてガラス基板を用いているが、被成膜体はガラス基板に限らず他の材質の基板を採用することも可能である。具体的には、石英ガラス、シリコン、セレン化亜鉛等の基板を使用することができる。
【0036】
またこの薄膜形成装置を使用して製造する製品も、前述した実施例の光学フィルタに限らず、薄膜を有する種々の光学デバイスを形成する場合にも本発明の膜厚測定装置及び薄膜形成装置が適用できることはいうまでもない。
【0037】
以上のようにしてなる本発明によれば、膜厚測定装置の光照射光学系や受光光学系を構成する各導光部材において、異なる帯域を有するより多種類のガラス製光ファイバを用意する必要がなく、加えて、通常のガラス製光ファイバでは実現できない赤外線波長及び真空紫外線波長等を含む広い波長帯域で、例えば大型化が避けられない反射ミラー式照射光学系や受光光学系を無理して採用する必要もなく、かつ高精度の膜厚測定が可能で、その結果、種々の目的に使用される薄膜の測定に対応可能な膜厚測定装置及び薄膜形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の膜厚測定装置及びこの膜厚測定装置を用いた薄膜形成装置の一実施例を示す全体構成図である。
【図2】図1における受光光学系の光ファイバ装置が薄膜形成装置の真空隔壁を貫通する部分を示す一部破断断面図である。
【図3】本発明の膜厚測定装置の光照射光学系及び受光光学系に用いられる光ファイバ装置に適用される中空光ファイバの一実施例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 基台
2 真空成膜室
2a 真空隔壁
3 信号処理装置
4 受光光学系
5 真空シール部
6 光照射光学系
21 蒸着装置
22 イオン銃
41 光ファイバ装置
41b 中空光ファイバ
42 受光レンズ
61 光ファイバ装置
62 出射レンズ
100 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜に光を照射する光照射光学系と、該光照射光学系を介して照射された光が前記薄膜を透過または反射して生じた信号光を受光する受光光学系と、該受光光学系を介して導かれた前記信号光を処理して前記薄膜の膜厚を算出する信号処理装置とを有する膜厚測定装置において、前記光照射光学系及び前記受光光学系は各々中空光ファイバを有し、前記光照射光学系の中空光ファイバを介して前記薄膜に光を照射し、かつ照射された光が前記薄膜を透過または反射して生じた信号光を前記受光光学系の中空光ファイバを介して前記信号処理装置に導くことを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項2】
真空成膜室内において被成膜体を回転させながらその表面に薄膜を形成する成膜装置と、前記被成膜体上に形成される薄膜の膜厚を光学的方法によって測定するための膜厚測定装置とを有する薄膜形成装置において、前記膜厚測定装置は、前記薄膜に光を照射する光照射光学系と、該光照射光学系を介して照射された光が前記薄膜を透過または反射して生じた信号光を受光して前記成膜装置の外部に導く受光光学系と、前記外部に導かれた信号光を処理して前記薄膜の膜厚を算出する信号処理装置とを有するものであって、前記光照射光学系及び前記受光光学系は各々中空光ファイバを有し、前記光照射光学系の中空光ファイバを介して前記薄膜に光を照射し、かつ照射された光が前記薄膜を透過または反射して生じた信号光を前記受光光学系の中空光ファイバを介して前記信号処理装置に導くことを特徴とする薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−292444(P2006−292444A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110435(P2005−110435)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(300075751)株式会社オプトラン (15)
【Fターム(参考)】