説明

膜厚測定装置

【課題】 膜厚を測定するフィルムに光を照射し、その反射光または透過光のスペクトルからパワースペクトルを求めて膜厚を算出する膜厚測定装置では、ポリプロピレンやポリエチレン等ヘイズが大きい材質ではかけ離れた測定値が頻繁に得られるので測定が困難であり、またフィルムの傾きやしわによって測定値のばらつきが大きくなるので、オンライン膜厚計として用いることが困難であったという課題を解決する。
【解決手段】 パワースペクトルのピーク高さ、ピーク面積、反射率などの測定品質を算出し、この測定品質と閾値を比較して測定の有効、無効を判断して、有効なときのみ膜厚測定値を外部に出力するようにした。かけ離れた測定値を除去することができるので、測定の信頼性が高まり、また従来測定が困難であったポリエチレン等の膜厚が測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の干渉を利用して薄膜の膜厚を測定する装置に関し、表面が平滑でなく、また散乱が大きい薄膜の膜厚を正確に測定することができる膜厚測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6に、光の干渉を利用して薄膜の膜厚を測定する膜厚測定装置の構成を示す。図6において、膜厚測定装置は反射スペクトル取得部10と演算部20で構成される。この膜厚測定装置は、包装や光学材に用いるフィルムやシートの製造工程におけるオンライン膜厚計として使用し、またフィルムシートの加工工程で検査装置として用いられ、膜厚分布や膜厚誤差を測定する。さらに、ガラス基板を扱うXYステージにも用いられる。
【0003】
反射スペクトル取得部10は、膜厚を測定するフィルムに白色光を照射し、その反射光のスペクトルを取得する。波長帯域の広い白色光を出力する光源11の出力光は、光ファイバ12を伝搬して、膜厚を測定するフィルム15に照射される。フィルム15の反射光は、光ファイバ12を伝搬して分光部13に導入される。分光部13は入力された光を分光して反射分光スペクトルを得、これを電気信号に変換して出力する。
【0004】
演算部20はこの反射分光スペクトルから膜厚を演算して出力する。分光データ取得部21は分光部13が出力した反射分光スペクトルを取得し、波長変換部22に出力する。波長変換部22は、反射分光スペクトルのうち所定の波長範囲を1つ選択し、この選択した波長範囲の反射分光スペクトルを等波数間隔に並べ直し、波数域反射分光スペクトルを演算して、周波数解析部23に出力する。
【0005】
周波数解析部23は、波長変換部22が演算した波数域反射分光スペクトルにフーリエ変換を施してパワースペクトルを求め、膜厚算出部24に出力する。膜厚算出部24は入力されたパワースペクトルの中でピークが得られる周波数に対応する光学膜厚を演算し、フィルム15の屈折率を考慮してその物理膜厚を求める。膜厚出力部25はこの物理膜厚を外部に出力する。設定部26は、波長変換部22、膜厚算出部24、膜厚出力部25にパラメータ等演算に必要なデータを設定する。
【0006】
フィルム15の表面と裏面で反射した光はフィルム15の膜厚と屈折率の積に応じた光路差を有するので、これらの反射光が干渉して周期的な干渉縞を生じる。この干渉縞にフーリエ変換を施して得られたパワースペクトルは、光路差に対応した周波数でピークを有する。このピーク点の周波数を検出することにより光学膜厚が得られ、この光学膜厚を屈折率で除算することにより、物理膜厚を求めることができる。
【0007】
なお、図6ではフィルム15からの反射光を分光して得た反射分光スペクトルから膜厚を測定するようにしたが、フィルム15の透過光を分光して透過分光スペクトルを得、この透過分光スペクトルから膜厚を測定することもできる。
【0008】
特許文献1には、移動する多層フィルムに近赤外領域のストロボ光を照射し、各層の界面から反射する光を受光して、反射光のパワースペクトルから各層の膜厚を精度よく測定する膜厚測定装置の発明が記載されている。
【0009】
特許文献2には、被測定多層膜に白色光を照射し、被測定多層膜からの透過光または反射光を分光し、得られたスペクトルを周波数信号に変換した後、ウエーブレット処理を行って干渉信号以外の成分を除去し、次いで周波数解析処理を行うことにより、膜厚を測定する膜厚測定装置の発明が記載されている。
【0010】
また、特許文献3には、ハロゲンランプの光をフィルムに照射し、そのとき得られる光干渉波形をフーリエ変換して得られたスペクトル中の最大ピーク値に相当する膜厚をフィルムの膜厚とする多層フィルムの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2003−161605号公報
【特許文献2】特開2005−308394号公報
【特許文献3】特開平11−314298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、このような膜厚測定装置は、測定するフィルムにヘイズ(表面や内部で発生する散乱)があると測定誤差が大きくなり、また測定が不可能になってしまうという課題があった。
【0013】
ヘイズがあると、フィルム境界面以外の散乱光のために干渉性が低下するので、干渉縞の振幅が小さくなり、パワースペクトルのピークの高さが低くなる。このピークの高さがノイズ成分より低くなると、測定が不可能になる。特に、ポリプロピレンやポリエチレンフィルムはヘイズが大きいので、安定した測定値を得ることが困難であった。
【0014】
図7にこのような測定例を示す。図7において、横軸は測定回数、縦軸は膜厚、黒点は測定値である。全体的に測定値がばらついているおり、かつ30に示すようにかけ離れた測定値が頻繁に現れることがわかる。
【0015】
干渉性の低いフィルムの膜厚をオンラインで連続測定すると、フィルムの振動によって膜厚を測定するプローブとフィルム間の距離が変化する。そのため、プローブがフィルムに近づいたときのみ正しい測定値が得られ、離れるとピークがノイズに埋もれて測定できなくなる。このため、30に示すように、誤差が大きい測定値が得られる。
【0016】
また、フィルムにしわがあり、また振動で傾いている場合、あるいはフィルムが光を吸収してしまう場合は、測定装置が反射光をとらえることができない。このような場合はパワースペクトル中に膜厚に起因するピークが現れないので、30に示すように、膜厚とは関係のないランダムな測定値が得られる。
【0017】
そのため、ユーザが測定波形を観測しながら正しい測定値であるかどうかを判断するか、測定値がランダムに変化するときは正しい測定値でないと判断するしかなかった。その結果、自動測定、自動制御に使用するには信頼性が低く、使い難いという課題もあった。
【0018】
従って本発明の目的は、フィルムの干渉性の低下などによって測定値が正確でないこと検知することによって、ヘイズが大きく干渉縞が現れにくいフィルムであっても安定した測定値が得られる膜厚測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
このような課題を解決するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
被測定フィルムに光を照射し、このフィルムの反射光または透過光の分光スペクトルを取得するスペクトル取得部と、
前記分光スペクトルが入力され、この分光スペクトルからパワースペクトルを演算するパワースペクトル演算部と、
前記パワースペクトルが入力され、このパワースペクトルのピークを検出して、この検出したピークから前記フィルムの膜厚を算出する膜厚算出部と、
前記膜厚算出部が算出した膜厚の測定品質を算出する測定品質算出部と、
前記測定品質算出部が算出した測定品質が入力され、この測定品質と閾値から、前記膜厚算出部が測定した膜厚の有効/無効を判定する測定品質判定部と、
前記膜厚算出部が算出した膜厚が入力され、前記測定品質判定部が有効と判定したときに、前記膜厚算出部が算出した膜厚を出力する膜厚出力部と、
を具備したものである。ヘイズが大きく、干渉縞が現れ難い材質のフィルムでも確度の高い測定が可能になる。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、
前記測定品質算出部が算出する測定品質として、膜厚算出に使用したピークのピーク高さあるいはピーク面積を用いたものである。簡単に測定品質を算出できる。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1若しくは請求項2記載の発明において、
前記パワースペクトルが入力される閾値算出部を具備し、この閾値算出部は入力されたパワースペクトルから閾値を算出し、前記測定品質判定部に出力するようにしたものである。閾値を動的に変更できるので、オンライン測定用膜厚測定装置に用いて特に効果が大きい。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、
前記閾値算出部は、入力されたパワースペクトルのうち、ピークが現れない範囲の最大値あるいは標準偏差を算出して、この最大値あるいは標準偏差を定数倍した値を閾値として出力するようにしたものである。簡単に閾値を算出できる。
【0023】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明において、
前記閾値算出部は、
前記パワースペクトルの全体あるいは指定された範囲の標準偏差を演算し、
この標準偏差の定数倍を暫定閾値として、前記パワースペクトルの全体あるいは指定された範囲のうちこの暫定閾値より小さい部分の標準偏差を演算して、この標準偏差の定数倍を暫定閾値とする工程を少なくとも2回繰り返した後の暫定閾値を前記閾値として出力するようにしたものである。範囲中にピークがあっても正確な閾値を算出できる。
【0024】
請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明において、
前記測定品質算出部は、前記フィルムの平均反射率あるいは反射率の最大値と最小値の差を算出するようにしたものである。より直接的に測定品質を算出できる。
【0025】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至請求項6いずれかに記載の発明において、
前記膜厚出力部は、膜厚測定値が無効であると判定されたときに、測定不可を表すデータを出力するようにしたものである。測定無効であることがわかる。
【0026】
請求項8記載の発明は、請求項1乃至請求項7いずれかに記載の発明において、
前記膜厚出力部は、膜厚測定値が有効であると判定されたときに、膜厚測定値と測定品質の両方を出力するようにしたものである。後で測定値を評価できる。
【0027】
請求項9記載の発明は、請求項1乃至請求項8いずれかに記載の発明において、
前記被測定フィルムは多層膜であり、前記膜厚算出部は前記多層膜の個々の膜の膜厚を測定し、前記測定品質算出部は個々の膜の測定品質を算出するようにしたものである。多層膜の個々の膜の測定を評価できる。
【0028】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明において、
前記膜厚出力部は、全ての膜の測定品質が有効であるときのみ、膜厚算出部が算出した膜厚を出力するようにしたものである。より確かな測定値が得られる。
【0029】
請求項11記載の発明は、
長さ方向に移動するフィルムの膜厚を測定する装置であって、
請求項1乃至請求項10いずれかに記載の膜厚測定装置と、
前記膜厚測定装置を、膜厚を測定すべきフィルムの幅方向に走査する走査部と、
を具備したものである。長尺のフィルムの長さ方向と幅方向の両方の膜厚を測定できる。
【0030】
請求項12記載の発明は、請求項11記載の発明において、
前記膜厚出力部は、前記膜厚算出部が算出した膜厚を前記測定品質判定部が有効でないと判定したときに、前回測定値を出力するようにしたものである。測定値に抜けが生じることがない。
【0031】
請求項13記載の発明は、請求項11記載の発明において、
前記膜厚出力部は、前記膜厚算出部が算出した膜厚を前記測定品質判定部が有効でないと判定したときに、前記フィルムの長さ方向に隣接する部分の膜厚を出力するようにしたものである。測定値に抜けが生じることがない。
【0032】
請求項14記載の発明は、
前記膜厚出力部は、前記膜厚算出部が算出した膜厚を前記測定品質判定部が有効でないと判定したときに、前記フィルムの幅方向に隣接する部分の膜厚を出力するようにしたものである。測定値に抜けが生じることがない。
【0033】
請求項15記載の発明は、
前記膜厚出力部は、前記膜厚算出部が算出した膜厚を前記測定品質判定部が有効でないと判定したときに、前記フィルムの幅方向に隣接する部分の膜厚と前記フィルムの長さ方向に隣接する膜厚の平均値を出力するようにしたものである。測定値に抜けが生じることがない。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のような効果がある。
請求項1,2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、および15の発明によれば、膜厚を測定するフィルムに光を照射し、その反射光または透過光の分光スペクトルからパワースペクトルを演算して、このパワースペクトルのピークから前記フィルムの膜厚を算出する膜厚測定装置であって、膜厚を算出する毎にピーク高さ、ピーク面積、反射率等の測定品質を算出し、この測定品質と閾値から測定が有効であるかどうかを判定して、有効であるときに膜厚測定値を出力するようにした。
【0035】
不確実な測定に起因する、かけ離れた測定値が出力されることがないので、測定対象であるフィルム本来の膜厚分布を測定することができ、測定の信頼性が高まるという効果がある。また、従来測定が困難であったポリプロピレンやポリエチレン等のヘイズが大きいフィルムも測定が可能になるという効果もある。
【0036】
また、フィルムの傾きやしわに起因する不確実な測定値は出力されないので、オンライン膜厚計に用いることができるという効果もある。さらに、従来人がパワースペクトル等を監視して不確実な測定値を除去していたので自動化が困難であったが、本発明の膜厚測定装置では自動的に不確実な測定値を除去することができるので、自動制御装置の膜厚計として用いることができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】本発明の効果を示す特性図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す構成図である。
【図5】オンラインで用いる膜厚測定装置の構成図である。
【図6】従来の膜厚測定装置の構成図である。
【図7】従来の膜厚測定装置の効果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る膜厚測定装置の一実施例を示す構成図である。なお、図6と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0039】
図1において、反射スペクトル取得部10は光ファイバ12によって光源11の白色光をフィルム15に導き、このフィルム15の反射光を分光部13に入射する。分光部13は入射した光を分光して反射分光スペクトルを得、電気信号に変換して出力する。
【0040】
演算部40は、分光データ取得部21、波長変換部22、周波数解析部23、膜厚算出部24、測定品質算出部41、測定品質判定部42、膜厚出力部43、および設定部44で構成される。なお、波長変換部22と周波数解析部23でパワースペクトル演算部を構成している。
【0041】
分光データ取得部21は分光部13が出力する反射光分光スペクトルを取得し、波長変換部22に出力する。波長変換部22は、反射分光スペクトルのうち所定の波長範囲を1つ選択し、この選択した波長範囲の反射分光スペクトルを等波数間隔に並べ直し、波数域反射分光スペクトルを演算して、周波数解析部23に出力する。
【0042】
周波数解析部23は、波長変換部22が演算した波数域反射分光スペクトルにフーリエ変換を施してパワースペクトルを演算し、膜厚算出部24に出力する。膜厚算出部24は入力されたパワースペクトルの中でピークが得られる周波数に対応する光学膜厚を演算し、フィルム15の屈折率を考慮してその物理膜厚を求める。これらの動作は図6従来例と同じである。
【0043】
周波数解析部23が演算したパワースペクトルは測定品質算出部41に入力される。また、膜厚算出部24は、どのピークを用いて物理膜厚を演算したかを測定品質算出部41に通知する。測定品質算出部41は、膜厚測定に用いたピークの高さあるいは面積を算出して、この算出した高さあるいは面積を測定品質判定部42に出力する。測定品質判定部42は、測定品質算出部41が算出した値と閾値を比較し、この測定の有効/無効を判定して、この有効/無効を表すデータ、および入力された測定品質を出力する。
【0044】
膜厚出力部43には膜厚算出部24が測定した物理膜厚、および測定品質判定部42が判定した有効/無効のデータおよび測定品質が入力される。膜厚出力部43は、入力された測定品質が有効のときは膜厚算出部24から入力した物理膜厚と測定品質を外部に出力し、無効のときは出力しない。設定部44は波長変換部22、膜厚算出部24、膜厚出力部43にパラメータ等演算に必要なデータを設定し、測定品質判定部42に閾値を設定する。
【0045】
次に、測定品質判定部42が用いる閾値、および測定品質について説明する。閾値は、膜厚測定に用いるピークがノイズに起因するものでないことが判定できる値に設定する。例えば、反射スペクトル取得部10の光学系のノイズと分光部13が用いるCCD(Charge Coupled Device)に起因するノイズを合わせたノイズ成分が0.03であるときは、ピーク高さの閾値として0.05を、ピーク面積の閾値として1.0を用いる。
【0046】
ノイズ成分より大きい値をピーク高さの閾値にすることにより、ノイズと干渉縞に起因するピークを確実に識別することができる。また、ピーク面積の閾値を比較的大きな値にすることより、ピーク高さが高く、かつ幅が広いピークのみを選別できるので、より確実にノイズを選別することができる。また、ピーク高さやピーク面積は簡単に算出することができるという利点がある。
【0047】
測定品質はピーク高さ、ピーク面積そのものでもよいが、閾値で除算して規格化すると、後に評価するときに便利である。測定品質判定部42は、ピーク高さあるいはピーク面積が閾値以上であると膜厚測定値は有効であると判定し、閾値未満であると無効と判定する。膜厚出力部43は、測定品質判定部42の出力が有効のときのみ、膜厚算出部24が算出した膜厚を出力する。膜厚出力部43が出力するデータは膜厚のみでもよいが、測定品質を同時に出力すると、後に測定値を評価することができる。
【0048】
なお、閾値および測定品質の演算式は、前記の値に限られることはない。要は、閾値はノイズと識別できる値であればよく、測定品質は測定値の確度を表す指標であればよい。閾値を大きくすると測定値の確実性を高めることができるが、測定頻度が低下する等の欠点がある。
【0049】
図2に図1実施例で得られた測定例を示す。横軸は測定回数、縦軸は測定した膜厚である。図7の測定例では30のように平均値からかけ離れた測定値が頻繁に出現したが、測定品質が閾値未満のときは膜厚測定値を出力しないようにしたので、図2ではかけ離れた測定値は現れない。また、測定値のばらつきも小さくなっている。
【0050】
図3に、本発明の他の実施例を示す。なお、図1と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。この実施例は、測定品質としてフィルム15の反射率を用いたものである。
【0051】
図3において、50は演算部であり、分光データ取得部21、波長変換部22、周波数解析部23、膜厚算出部24、反射率測定部51、測定品質判定部52、膜厚出力部43、および設定部53で構成される。反射率測定部51は、測定品質算出部として動作する。なお、膜厚を測定する構成は図1と同じなので、記載を省略する。
【0052】
分光データ取得部21が取得した反射光分光スペクトルは反射率測定部51に入力される。反射率測定部51は入力された反射光分光スペクトルからフィルム15の平均反射率、あるいは反射率の最大値と最小値の差を求め、測定品質判定部52に出力する。
【0053】
測定品質判定部52には設定部53から閾値が入力される。測定品質判定部52は、この閾値と反射率測定部が測定した反射率から、膜厚測定値が有効かどうかを判定し、膜厚出力部43に出力する。膜厚出力部43は、膜厚測定値が有効のときは膜厚と測定品質を外部に出力し、無効のときは出力しない。
【0054】
次に、反射率測定部51の動作を説明する。反射率測定部51には反射率の基準となる基準分光スペクトルが格納されており、分光データ取得部21が取得した反射分光スペクトルをこの基準分光スペクトルで除算することにより、反射率を演算する。反射率は波数毎に演算し、平均反射率あるいは反射率の最大値と最小値の差を演算して出力する。
【0055】
平均反射率は、分光部13に反射光がどの程度入力されたかの指標である。例えば、フィルム15が傾くと反射光が分光部13に入力されず、平均反射率は0%近くなる。このような場合は、正確な測定ができない。また、反射率の最大値と最小値との差は干渉振幅を表している。この値が一定値以上のときは干渉縞が現れており、正確な膜厚測定が可能になる。
【0056】
基準分光スペクトルを求めるために、PET(Polyethylene Terephthalate)、ガラス、シリコンウエハなどの中から、フィルム15と近い反射率を有する材質の板を選択し、分光部13に入射される反射光が最大になるようにこの板をセットする。反射率測定部51は、このときの分光データ取得部21の出力スペクトルを基準分光スペクトルとして取り込む。PETやガラスなど透明な材料を用いるときは、それ自身の干渉縞が出ないように、500μ以上のある程度厚いものを選択する。
【0057】
測定品質判定部52は入力された平均反射率、あるいは反射率の最大値と最小値との差と閾値を比較し、膜厚測定値の有効、無効を判定して膜厚出力部43に出力する。測定品質はこれらの反射率そのものでもよいが、閾値で除算して規格化すると、後の評価に便利である。膜厚出力部43は、膜厚測定値が有効のときは膜厚測定値と測定品質を外部に出力し、無効のときは出力しない。
【0058】
反射率が閾値(例えば平均反射率では10%、最大値と最小値の差では5%)以上であると、干渉によるピークが形成され、正確な膜厚を測定できる。フィルムが傾くなどして反射率が閾値以下になると正確な測定ができないので、このときは膜厚測定値を出力しないようにする。
【0059】
なお、本実施例に関わらず、状況に応じて閾値の値は任意に設定することができる。また、測定中に膜厚測定値をチェックし、異常な測定値が多くなると閾値を上げ、測定出力数が少ないと閾値を下げるなど変化させてもよい。さらに、反射率の測定手法も本実施例に限られることはなく、他の手法を用いることもできる。
【0060】
図1実施例では閾値を一定としたが、測定中に動的に決定するようにすることもできる。このような実施例を図4に示す。なお、図1実施例と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0061】
図4において、60は演算部であり、分光データ取得部21、波長変換部22、周波数解析部23、膜厚算出部24、測定品質算出部41、測定品質判定部42、膜厚出力部43、設定部44、閾値算出部61で構成される。閾値算出部61以外の動作は図1と同じなので、説明を省略する。
【0062】
閾値算出部61には周波数解析部23の出力であるパワースペクトルが入力される。閾値算出部61は入力されたパワースペクトルから閾値を演算し、この閾値を測定品質判定部42に出力する。
【0063】
次に、閾値算出部61の動作を説明する。なお、測定品質算出部41は、膜厚を測定するピークのピーク高さあるいはピーク面積を算出して、測定品質判定部42に出力するものとする。閾値算出部61の動作には、次の2つのいずれかを用いる。
【0064】
1つめは、パワースペクトルのうちフィルム15による干渉ピークが現れない周波数範囲の最大値あるいは標準偏差を演算し、この最大値あるいは標準偏差の定数倍を閾値として出力する。定数の値は、例えば最大値を用いる場合は1.2〜2.0とし、標準偏差を用いる場合は6.0とする。
【0065】
2つめは、パワースペクトルの全体あるいは指定された一部の範囲の標準偏差を求め、この標準偏差を定数倍した暫定閾値演算して、パワースペクトル信号のうちこの暫定閾値より小さい値について標準偏差を求めてこの定数倍を暫定閾値とする方法を再帰的に繰り返して得られる暫定閾値を閾値とするようにしてもよい。標準偏差に乗じる定数は例えば6.0とし、繰り返し回数は10回程度とする。
【0066】
1つめの手法は簡単であるが、干渉ピークが現れない領域を選択しなければならないという煩わしさがある。2つめの手法は計算が複雑であるという短所があるが、ピークがどこに現れるかを気にしなくてもよいので、設定がより容易になる。
【0067】
このようにすることにより、測定中にノイズレベルが変化しても、常に最適な閾値を自動的に決定することができる。図1実施例ではノイズレベルの変動を考慮して、閾値に余裕を持たせなければならないので、無効になる測定値の割合が増加して、測定に時間がかかるという欠点がある。
【0068】
図4実施例ではノイズレベルによって閾値も変化するので、閾値に余裕を持たせる必要がなくなる。そのため、無効になる測定値の割合が減少し、短時間で測定を行うことができる。
【0069】
特に、オンラインで連続的に測定する場合は、光源の出力光量が変化し、またフィルムの振動などによって反射光量が変化してノイズレベルが変動することが頻繁に発生する。図4実施例ではノイズレベルの変動に応じて閾値が自動的に変化するので、オンライン測定に用いて特に好適である。
【0070】
また、測定品質の判定が無効のときは、測定不可のデータを出力するようにしてもよく、また前回測定値と測定不可のデータを出力するようにしてもよい。
【0071】
また、これらの実施例はフィルム15の反射光を分光し、そのパワースペクトルから膜厚を算出するようにしたが、フィルム15の透過光を分光して、そのパワースペクトルから膜厚を算出するようにすることもできる。透過光を使う以外は図1、図3、図4実施例と同じなので、説明を省略する。
【0072】
さらに、単一層のフィルムだけでなく、多層膜フィルムの個々の膜厚を測定することもできる。多層膜の各層からの干渉縞は、通常パワースペクトルの異なる位置にピークを作る。従って、これらのピークから前述した手法で膜厚を算出することにより、多層膜の各層の膜厚を別々に測定することができる。
【0073】
なお、図1、図3、図4実施例共に、多層膜の各層の膜厚を測定する場合は、全ての層の測定品質の判定値が有効のときのみ外部にデータを出力するようにしてもよく、ピーク高さあるいはピーク面積が閾値以上の層のみデータを外部に出力するようにしてもよい。
【0074】
図5にフィルム製造工場で用いるオンライン膜厚計の構成を示す。図5において、70は製造されたフィルムであり、右方向に流れている。71は走査部であり、膜厚計72が設置されている。膜厚計72は、図1、図2、図4の構成を具備している膜厚測定装置である。
【0075】
走査部71は膜厚計72を矢印73の方向に走査する。フィルム70は右方向に流れているので、膜厚計72の測定軌跡は鋸歯状線73になる。このため、フィルム70の幅方向と長さ方向の膜厚を同時に測定することができる。
【0076】
図1、図2、図4の構成の膜厚計では、ピーク高さあるいはピーク面積あるいは反射率が閾値未満であると膜厚測定値を出力しないので、膜厚測定値がない点が出てくる。この点の膜厚値は隣接する幅方向、あるいは長さ方向の膜厚測定値を用いるか、隣接する幅方向と長さ方向の膜厚測定値の平均値を用いて補間するか、あるいは前回の膜厚測定値を用いる。このようにすることにより、図1、図2、図4構成の膜厚測定装置をオンライン膜厚計として用いた場合に、測定値の抜けを防止することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 反射スペクトル取得部
11 光源
12 光ファイバ
13 分光部
15、70 フィルム
21 分光データ取得部
22 波長変換部
23 周波数解析部
24 膜厚算出部
40、50、60 演算部
41 測定品質算出部
42、52 測定品質判定部
43 膜厚出力部
44、53 設定部
51 反射率測定部
61 閾値算出部
71 走査部
72 膜厚計
73 膜厚計72の走査方向を表す矢印
74 測定軌跡を表す鋸歯状線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定フィルムに光を照射し、このフィルムの反射光または透過光の分光スペクトルを取得するスペクトル取得部と、
前記分光スペクトルが入力され、この分光スペクトルからパワースペクトルを演算するパワースペクトル演算部と、
前記パワースペクトルが入力され、このパワースペクトルのピークを検出して、この検出したピークから前記フィルムの膜厚を算出する膜厚算出部と、
前記膜厚算出部が算出した膜厚の測定品質を算出する測定品質算出部と、
前記測定品質算出部が算出した測定品質が入力され、この測定品質と閾値から、前記膜厚算出部が測定した膜厚の有効/無効を判定する測定品質判定部と、
前記膜厚算出部が算出した膜厚が入力され、前記測定品質判定部が有効と判定したときに、前記膜厚算出部が算出した膜厚を出力する膜厚出力部と、
を具備したことを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項2】
前記測定品質算出部が算出する測定品質は、膜厚算出に使用したピークのピーク高さあるいはピーク面積であることを特徴とする請求項1記載の膜厚測定装置。
【請求項3】
前記パワースペクトルが入力される閾値算出部を具備し、この閾値算出部は入力されたパワースペクトルから閾値を算出し、前記測定品質判定部に出力するようにしたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2記載の膜厚測定装置。
【請求項4】
前記閾値算出部は、入力されたパワースペクトルのうち、ピークが現れない範囲の最大値あるいは標準偏差を算出して、この最大値あるいは標準偏差を定数倍した値を閾値として出力するようにしたことを特徴とする請求項3記載の膜厚測定装置。
【請求項5】
前記閾値算出部は、
前記パワースペクトルの全体あるいは指定された範囲の標準偏差を演算し、
この標準偏差の定数倍を暫定閾値として、前記パワースペクトルの全体あるいは指定された範囲のうちこの暫定閾値より小さい部分の標準偏差を演算して、この標準偏差の定数倍を暫定閾値とする工程を少なくとも2回繰り返した後の暫定閾値を前記閾値として出力するようにしたことを特徴とする請求項3記載の膜厚測定装置。
【請求項6】
前記測定品質算出部は、前記フィルムの平均反射率あるいは反射率の最大値と最小値の差を算出するようにしたことを特徴とする請求項1記載の膜厚測定装置。
【請求項7】
前記膜厚出力部は、膜厚測定値が無効であると判定されたときに、測定不可を表すデータを出力するようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項6いずれかに記載の膜厚測定装置。
【請求項8】
前記膜厚出力部は、膜厚測定値が有効であると判定されたときに、膜厚測定値と測定品質の両方を出力するようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項7いずれかに記載の膜厚測定装置。
【請求項9】
前記被測定フィルムは多層膜であり、前記膜厚算出部は前記多層膜の個々の膜の膜厚を測定し、前記測定品質算出部は個々の膜の測定品質を算出するようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項8いずれかに記載の膜厚測定装置。
【請求項10】
前記膜厚出力部は、全ての膜の測定品質が有効であるときのみ、膜厚算出部が算出した膜厚を出力するようにしたことを特徴とする請求項9記載の膜厚測定装置。
【請求項11】
長さ方向に移動するフィルムの膜厚を測定する装置であって、
請求項1乃至請求項10いずれかに記載の膜厚測定装置と、
前記膜厚測定装置を、膜厚を測定すべきフィルムの幅方向に走査する走査部と、
を具備したことを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項12】
前記膜厚出力部は、前記膜厚算出部が算出した膜厚を前記測定品質判定部が有効でないと判定したときに、前回測定値を出力するようにしたことを特徴とする請求項11記載の膜厚測定装置。
【請求項13】
前記膜厚出力部は、前記膜厚算出部が算出した膜厚を前記測定品質判定部が有効でないと判定したときに、前記フィルムの流れ方向に隣接する部分の膜厚を出力するようにしたことを特徴とする請求項11記載の膜厚測定装置。
【請求項14】
前記膜厚出力部は、前記膜厚算出部が算出した膜厚を前記測定品質判定部が有効でないと判定したときに、前記フィルムの幅方向に隣接する部分の膜厚を出力するようにしたことを特徴とする請求項11記載の膜厚測定装置。
【請求項15】
前記膜厚出力部は、前記膜厚算出部が算出した膜厚を前記測定品質判定部が有効でないと判定したときに、前記フィルムの幅方向に隣接する部分の膜厚と前記フィルムの長さ方向に隣接する膜厚の平均値を出力するようにしたことを特徴とする請求項11記載の膜厚測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−38968(P2011−38968A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188381(P2009−188381)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】