説明

膜厚測定装置

【課題】最小限の塗布膜の破壊によって塗布膜の厚さを測定できる膜厚測定装置を提供する。
【解決手段】先端が針形状である少なくとも2つ測定刃31・31と、測定対象にレーザ光を照射し、該測定対象からの反射光を検出するレーザ変位計40と、レーザ変位計40によって塗布膜の厚さを測定するコントローラ50と、を具備し、コントローラ50は、測定刃31を塗布膜内に侵入させた状態で、レーザ変位計40によって、塗布膜の表面にレーザ光を照射し、塗布膜の表面からの反射光を検出することにより得た値を用いて、塗布膜の厚さを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚測定装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
膜厚測定とは、塗布膜の厚さを測ることをいう。例えば、鍛造金型に塗布される潤滑剤の塗布膜の厚さを把握するために膜厚測定が行われる。鍛造金型に塗布される潤滑剤は、粗材成形性の向上、金型の摩耗低減および離型性向上を目的としている。そのため、潤滑剤の塗布膜の厚さを把握することは、良品の成形品を生産する条件として重要な要素となる。
【0003】
例えば、特許文献1は、電磁誘導プローブを塗布膜に圧接させ、母材とのギャップにより塗布膜の厚さを測定する膜厚計を開示している。しかし、鍛造金型に塗布される潤滑剤の塗布膜、あるいは、離型剤の塗布膜は、非常に脆く崩れやすいため、特許文献1に開示される膜厚計を使用すると、塗布膜が破壊されてしまう。
【0004】
また、鍛造金型に塗布される潤滑剤は、凹凸の表面をしており、特許文献1に開示される膜厚計のように1点測定による測定手法では、塗布膜の表面上の山や谷を測ることになり、測定ばらつきが生じる。そして、この測定ばらつきを低減するには、繰り返し測定を行う必要が生じる。しかし、鍛造金型に塗布される潤滑剤の塗布膜または離型剤の塗布膜は、非常に脆く崩れやすいため、繰り返し測定を行うと、塗布膜が破壊されてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−038503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする課題は、塗布膜の破壊を最小限に抑えつつ、塗布膜の厚さを測定できる膜厚測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、先端が針形状である少なくとも2つ測定刃と、測定対象に拡散するレーザ光を照射し、該測定対象からの反射光を検出するレーザ変位計と、前記レーザ変位計によって塗布膜の厚さを測定する制御手段と、を具備し、前記制御手段は、前記測定刃を塗布膜内に侵入させた状態で、レーザ変位計によって、該塗布膜の表面に拡散するレーザ光を照射し、該塗布膜の表面からの反射光を検出することにより得た値を用いて、前記塗布膜の厚さを測定するものである。
【0009】
請求項2においては、請求項1記載の膜厚測定装置であって、前記制御手段は、前記レーザ変位計によって、拡散するレーザ光を前記塗布膜の表面に照射し、該塗布膜の表面からの反射光を検出して得た複数の値を、差分平均することで、該塗布膜の厚さを測定するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の膜厚測定装置によれば、最小限の塗布膜の破壊によって塗布膜の厚さを測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A)本実施形態に係る膜厚測定装置の全体的な構成を示した構成図、(B)(A)におけるAA断面図を示す構成図。
【図2】同じく膜厚測定装置による膜厚測定方法を示す模式図。
【図3】校正板と金型とを示す模式図。
【図4】同じく膜厚測定装置による膜厚測定制御の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を用いて、本実施形態に係る膜厚測定装置10について説明する。
なお、図1の本体20は、側面構成図を示している。また、図1および図2では、電気信号線を2点鎖線で、レーザ光を破線で、示している。さらに、図1(B)は、図1(A)におけるAA断面を示している。
【0013】
本実施形態の膜厚測定装置10は、金型100に塗布される潤滑剤105(図2を参照)の塗布膜の厚さTを測定するものである。なお、膜厚測定装置10の測定対象としては、本実施形態の潤滑剤105の塗布膜に限定されることはない。例えば、金型100に塗布される離型剤の厚さ、あるいは、塗装された金属表面の塗装膜の厚さを測定対象としても良い。
【0014】
膜厚測定装置10は、本体20と、アンプ60と、制御手段としてのコントローラ50と、具備している。本体20について、詳細な説明は後述する。コントローラ50は、後述するレーザ変位計40によって測定対象としての潤滑剤105の塗布膜の厚さTを測定する機能を有している。アンプ60は、後述するレーザ変位計40によって取得した線形をコントローラ50によって解析できるように変換する機能を有している。また、アンプ60は、本体20に後述するケーブル21を介して電源を供給する機能を有している。
【0015】
本体20は、ケーブル21と、測定ツール30と、レーザ変位計40と、を具備している。ケーブル21は、本体20のレーザ変位計40と、アンプ60と、を接続している。なお、以下で、本体20が直立するとは、拡散するレーザを側面から見たときに、レーザが鉛直方向と平行になるように本体20が保持される状態をいう。
【0016】
測定ツール30は、測定対象の金型100と同素材の鋼鉄ないし、同水準の硬さを持つ材料で形成されている。測定ツール30は、下方に突起が向く略凸形状に形成されている。測定ツール30は、一対の測定刃31・31と、基準面32と、を具備している。
【0017】
一対の測定刃31・31は、測定ツール30の下方に向いた突起部に形成されている。それぞれの測定刃31は、所定の間隔を設けて配置されている。測定刃31は、下方先端が鋭利な針形状に形成されている。また、それぞれの測定刃31は、本体20を直立させた状態で、下端が同一の位置(後述するレーザ投光部42から同一の高さ)になるように配置されている。基準面32は、本体20を直立させた状態で水平方向に平行な平面として形成され、それぞれの測定刃31・31の上面に形成されている。
【0018】
レーザ変位計40は、拡散するレーザによって測定対象の幾何学変化を測定する装置である。レーザ変位計40は、接続部41と、レーザ投光部42と、レーザ検出部(図示略)と、を具備している。レーザ変位計40は、レーザ投光部42から拡散するレーザ光を測定対象に照射し、レーザ検出部によってこれらの反射光を検出することで、レーザ投光部42から測定対象までの距離を検出する装置である。より詳しくは、レーザ変位計40は、レーザ投光部42から拡散するレーザ光を測定対象に照射し、レーザ検出部によってこれらの反射光を検出することにより得た値を用いて、レーザ投光部42から測定対象までの距離を検出し、測定対象の2次元的な形状を把握できる装置である。
【0019】
図2を用いて、膜厚測定装置10による膜厚測定方法について説明する。
本実施形態の膜厚測定装置10による膜厚測定方法では、潤滑剤105が塗布された金型100の5箇所の測定ポイント(図2におけるポイントP1、P2、・・、P5)における潤滑剤105の厚さT1、T2、・・、T5を測定し、5箇所の測定ポイントが基準厚さTd以上であるかについて確認するものとする。なお、本実施形態では測定ポイントを5箇所としているが、これに限定されない。
【0020】
膜厚測定方法では、本体20を測定ポイントに近接させ、測定ツール30の測定刃31・31を測定ポイントの金型100に塗布された潤滑剤105の塗布膜内に侵入させ、潤滑剤105の塗布膜の下に位置する金型100に当接させる(図3(B)参照)。このとき、金型100に対して測定ツール30が直立していることが望ましい。ただし、それぞれの測定刃31・31が潤滑剤105の塗布膜の下に位置する金型100まで当接している必要がある。以下では、測定刃31・31を潤滑剤105の塗布膜に侵入させる膜厚測定方法を含めた膜厚測定装置10による膜厚測定制御について説明する。
【0021】
図3および図4を用いて、膜厚測定装置10による膜厚測定制御について説明する。
図3(A)は、校正板110を測定している状態の模式図を示している。図3(B)は、金型100に塗布された潤滑剤105の厚さTを測定している状態の模式図を示している。
図4では、膜厚測定制御における作業者の作業ステップSについては括弧書きで示し、膜厚測定装置10(コントローラ50)の作業ステップについてはステップS10〜ステップS40、ステップS110〜ステップS150、・・で示している。
【0022】
膜厚測定制御では、校正板110を用いることによって、測定ツール30(図1を参照)の基準面32の高さである基準高さD0を最初に測定し、上述した測定ポイント(図2におけるポイントP1、P2、・・、P5)の同じく測定ツール30の基準面32の高さである基準高さD1、D2、・・・を測定し、基準高さD1、D2、・・・と基準高さD0とを比較して、各測定ポイントに塗布された潤滑剤105の厚さT1、T2、・・・・を測定する制御である。なお、校正板110は、測定対象の金型と同素材の鋼鉄ないし、同水準の硬さを持つ材料で形成されている。
【0023】
膜厚測定制御では、まず、作業者が校正板110に測定ツール30の測定刃31を当接させる。コントローラ50は、ステップS10において、レーザ変位計40によって、レーザ投光部42から拡散するレーザ光を測定刃31・31の間にある校正板110の表面、ならびに、それぞれの基準面32・32に照射し、レーザ検出部によってこれらの反射光を検出し、レーザ投光部42から基準面32までの距離X0、ならびに、レーザ投光部42から校正板110表面までの距離Y0を検出する。
【0024】
なお、それぞれの基準面32・32よりも外側に照射し、測定刃31・31の外側にある校正板110の表面に照射されたレーザの反射光については、検出データとしては採用しないものとする。
【0025】
コントローラ50は、ステップS20において、検出された多数の距離X0について差分平均を用いて平均値を算出し、距離X0として算出する。同様に、コントローラ50は、ステップS30において、検出された多数の距離Y0について差分平均を用いて平均値を算出し、距離Y0として算出する。そして、コントローラ50は、ステップS40において、ステップS30で算出した距離Y0からステップS20で算出した距離X0を差し引いたものを基準高さD0として算出する。
【0026】
次に、作業者は、本体20を測定ポイントP1に近接させ、測定ツール30の測定刃31・31を測定ポイントP1の金型100に塗布された潤滑剤105の塗布膜内に侵入させ、潤滑剤105の塗布膜の下に位置する金型100に当接させる。
【0027】
コントローラ50は、ステップS110において、レーザ変位計40によって、レーザ投光部42から拡散するレーザ光を測定刃31・31の間にある潤滑剤105の表面、ならびに、基準面32・32に照射し、レーザ検出部によってこれらの反射光を検出し、レーザ投光部42から基準面32までの距離X1、ならびに、レーザ投光部42からポイントP1における潤滑剤105の塗布膜の表面までの距離Y1を検出する。なお、潤滑剤105の塗布膜にはレーザは侵入しない。
【0028】
なお、それぞれの基準面32・32よりも外側に照射し、測定刃31・31の外側にある潤滑剤105の表面に照射されたレーザの反射光については、検出データとしては採用しないものとする。
【0029】
コントローラ50は、ステップS120において、検出された多数の距離X1について差分平均を用いて平均値を算出し、距離X1として算出する。同様に、コントローラ50は、ステップS130において、検出された多数の距離Y1について差分平均を用いて平均値を算出し、距離Y1として算出する。そして、コントローラ50は、ステップS140において、ステップS130で算出した距離Y1から、ステップS120で算出した距離X1を差し引いたものを基準高さD1として算出する。
【0030】
コントローラ50は、ステップS150において、ステップS140で算出した基準高さD1から、ステップS40で算出した基準高さD0を差し引いたものをポイントP1における潤滑剤105の塗布膜の厚さT1として算出する。
【0031】
そして、作業者は、本体20を測定ポイントP2に近接させ、測定ツール30の測定刃31・31を測定ポイントP2の金型100に塗布された潤滑剤105の塗布膜内に侵入させ、潤滑剤105の塗布膜の下に位置する金型100に当接させる。コントローラ50は、ステップS110〜ステップS150を繰り返し、ポイントP2における潤滑剤105の塗布膜の厚さT2を算出する。以下、同様のステップSを測定ポイントP3、P4、P5に対して繰り返す。
【0032】
本実施形態の膜厚測定装置10による膜厚測定制御の効果について説明する。
すなわち、本実施形態の膜厚測定装置10による膜厚測定制御では、実際に潤滑剤105の塗布膜に接触するのは、一対の測定刃31・31のみであって、それぞれの測定刃31・31は鋭利な針形状に形成されているため、各測定刃31・31は塗布膜に点接触する。そのため、最小限の面積で、かつ、2点接触で塗布膜に接触するため、塗布膜の破壊を最小限に抑えることができる。このようにして、最小限の塗布膜の破壊によって塗布膜の厚さTを測定できる
【0033】
また、本実施形態の膜厚測定装置10による膜厚測定制御では、2点接触で塗布膜に接触する構成である。そのため、少ない測定面積によって塗布膜を測定でき、複雑な形状である金型100の微小範囲における潤滑剤105の塗布膜を測定できる。
【0034】
さらに、通常、膜厚測定時における金型100は高温である場合が多い。しかし、本実施形態の膜厚測定装置10では、熱の影響に弱いレーザ変位計40が直接金型100に当接することがなく、測定ツール30を介して金型100に設置する(近付ける)構成である。そのため、金型100の熱影響を直接受けることなく、膜厚測定装置10の耐久性を向上できる。
【0035】
また、本実施形態の膜厚測定装置10による膜厚測定制御では、基準面32を用いて、基準高さD1、D2、・・・と校正板110の基準高さD0とを比較して、潤滑剤105の厚さT1、T2、・・・を測定する構成である。そのため、膜厚測定において、測定時の周囲温度、潤滑剤105の厚さ、測定箇所の金型100の形状の影響を低減できる。
【0036】
さらに、本実施形態の膜厚測定装置10による膜厚測定制御では、レーザ変位計40のレーザ投光部42から拡散するレーザ光を測定対象に照射し、レーザ検出部によってこれらの反射光を検出し、レーザ投光部42からの距離X1を測定するものの、差分平均によって平均化した値を算出している。そのため、気泡等も存在し凹凸の表面を有する潤滑剤105に対して、一対の測定刃31・31の間における塗布膜の厚さの平均を測定することができる。つまり、塗布膜の表面上の山や谷の部分の測定値がそのまま塗布膜の厚さの測定値となることがなく、測定ばらつきが生じることもない。
【0037】
なお、本実施形態の膜厚測定装置10では、膜厚測定時に金型100に対して測定ツール30が直立していることが望ましいため、金型100に対して測定ツール30は2点支持(一対の測定刃31・31)によるものとしている。しかし、例えば、測定ツール30において、接続部41が配置される反対側に別途支持部を設けて3点支持とする構成としても良い。
【0038】
このような構成とすることで、作業者は、測定ツール30を金型100に設置して膜厚測定を行う間、容易に測定ツール30を保持できる。そのため、膜厚測定装置10による膜厚測定制御における作業性が向上できる。
【符号の説明】
【0039】
10 膜厚測定装置
20 本体
30 測定ツール
31 測定刃
32 基準面
40 レーザ変位計
42 レーザ投光部
100 金型
105 潤滑剤
110 校正板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が針形状である少なくとも2つ測定刃と、
測定対象に拡散するレーザ光を照射し、該測定対象からの反射光を検出するレーザ変位計と、
前記レーザ変位計によって塗布膜の厚さを測定する制御手段と、
を具備し、
前記制御手段は、
前記測定刃を塗布膜内に侵入させた状態で、レーザ変位計によって、該塗布膜の表面に拡散するレーザ光を照射し、該塗布膜の表面からの反射光を検出することにより得た値を用いて、前記塗布膜の厚さを測定する、
膜厚測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の膜厚測定装置であって、
前記制御手段は、
前記レーザ変位計によって、拡散するレーザ光を前記塗布膜の表面に照射し、該塗布膜の表面からの反射光を検出して得た複数の値を、差分平均することで、該塗布膜の厚さを測定する、
膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−73094(P2012−73094A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217716(P2010−217716)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】