説明

【課題】 電子デバイスなどに用いられる誘電率、機械強度等の膜特性が良好な膜、その製法、およびそれを有する電子デバイスを提供する。
【解決手段】 脂環式炭化水素構造を有する化合物を含む膜形成用組成物を塗布し、乾燥して形成される膜であって、形成過程においてマイクロウエーブを照射して形成されることを特徴とする膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膜に関し、さらに詳しくは電子デバイスなどに用いられる誘電率、機械強度等の膜特性が良好な絶縁膜、およびそれを有する電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子材料分野においては、高集積化、多機能化、高性能化の進行に伴い、回路抵抗や配線間のコンデンサー容量が増大し、消費電力や遅延時間の増大を招いている。中でも、遅延時間の増大は、デバイスの信号スピードの低下やクロストークの発生の大きな要因となるため、この遅延時間を減少させてデバイスの高速化を図るべく、寄生抵抗や寄生容量の低減が求められている。この寄生容量を低減するための具体策の一つとして、配線の周辺を低誘電性の層間絶縁膜で被覆することが試みられている。また、層間絶縁膜には、実装基板製造時の薄膜形成工程やチップ接続、ピン付け等の後工程に耐え得る優れた耐熱性やウェットプロセスに耐え得る耐薬品性が求められている。さらに、近年は、Al配線から低抵抗のCu配線が導入されつつあり、これに伴い、CMP(ケミカルメカニカルポリッシング)による平坦化が一般的となっており、このプロセスに耐え得る高い機械的強度が求められている。
【0003】
高耐熱性の絶縁膜として、ポリベンゾオキサゾール、ポリイミドが広く知られているが、極性の高いN原子を含むため、低誘電性、低吸水性、耐久性および耐加水分解性の面では、満足なものは得られていない。
また、有機ポリマーは概して有機溶剤への溶解性の不十分なものが多く、塗布液中での析出、絶縁膜中でのブツ発生の抑制が重要な課題となっているが、溶解性を向上させるためにポリマー主鎖を折れ曲がり構造にするとガラス転移点の低下、耐熱性の低下が弊害となりこれらを両立することは容易ではない。
また、ポリアリーレンエーテルを基本主鎖とする高耐熱性樹脂が知られており(特許文献1)、誘電率は2.6〜2.7の範囲である。しかし、高速デバイスを実現するためには更なる低誘電率化が望まれて、誘電率を好ましくは2.6以下、より好ましくは2.5以下にすることが望まれている。
【0004】
ところが、有機含有シリコン酸化膜では、比誘電率を2.5よりも低くすることは非常に困難であるため、膜の内部に空孔が導入された絶縁膜、いわゆるポーラス膜が必要となってくる。
【0005】
特許文献2には、2つのポーラス膜について紹介されている。
第1の例は、シリコンレジン及び有機溶媒を含む溶液により形成された薄膜を焼成することによってポーラス膜を形成するものである。これによると、薄膜の焼成時に有機溶媒が気化して消滅した跡に連続孔がランダムに形成される。この場合、有機溶媒は溶剤としての働きと空孔を形成するための働きとの両方を担っている。尚、一般に、溶液を基板上に塗布して薄膜を形成するためにはスピン塗布法が用いられ、また薄膜の焼成にはホットプレート及びファーネス(電気炉)が用いられる。
【0006】
また、第2の例は、シリコンレジン及び有機溶媒のほかに、有機物からなるポロジェン(Porogen)を加えた溶液により形成された薄膜を焼成することによってポーラス膜を形成するものである。これによると、ポロジェンの選択により連続孔のみならず独立孔も形成することが可能である。この場合、当然ながら、ポロジェンは膜中から気化して消滅する。
【0007】
第1及び第2の従来例においては、連続孔がランダムに形成されるため、比誘電率k=2.2〜2.3の低誘電率膜を実現するためには、30%以上の空孔率(単位体積当たりに空孔が占める割合)を必要とする。このため,絶縁膜の配線加工におけるウェットプロセスによるダメージ、あるいは、配線金属原子のマイグレーションなどの問題が生じている。第1又は第2の従来例において、比誘電率をより低くしようとすると、空孔率が増大するので、問題はさらに深刻となる。
また、引用文献3に、微粒子を用いた多孔性絶縁膜が紹介されているが、比誘電率や機械強度の更なる改善が望まれていた。
【特許文献1】米国特許6509415号明細書
【特許文献2】特開2001−294815公報
【特許文献3】特開2004−253626公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点を解決するための膜に関し、さらに詳しくは電子デバイスなどに用いられる誘電率、機械強度等の膜特性が良好な絶縁膜およびそれを有する電子デバイスに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題が下記の構成により解決されることを見出した。
(1)
脂環式炭化水素構造を有する化合物を含む膜形成用組成物を塗布しマイクロウエーブを照射して形成されることを特徴とする膜。
(2)
脂環式炭化水素構造がカゴ型構造であることを特徴する(1)に記載の膜。
(3)
カゴ型構造が飽和炭化水素構造であることを特徴とする(2)に記載の膜。
(4)
膜形成用組成物に含まれる全固形分中の総炭素数に占めるカゴ型構造の総炭素数の比率が30%以上であることを特徴とする(2)または(3)のいずれかに記載の膜。
(5)
カゴ型構造がアダマンタン構造であることを特徴とする(2)〜(4)のいずれかに記載の膜。
(6)
カゴ型構造がジアマンタン構造であることを特徴とする(2)〜(4)のいずれかに記載の膜。
(7)
カゴ型構造を有する化合物が下記式(I)で表される少なくとも一種の化合物の重合体であることを特徴とする(5)に記載の膜。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、
Rは複数ある場合は各々独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、またはシリル基を表す。
mは1〜14の整数を表す。
Xは複数ある場合は各々独立にハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはシリル基を表す。
nは0〜13の整数を表す。
(8)
脂環式炭化水素構造を有する化合物が窒素原子を含まないことを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の膜。
(9)
脂環式炭化水素構造を有する化合物を含む膜形成用組成物を塗布する工程、塗布した膜形成用組成物を乾燥する工程、マイクロウエーブを照射する工程により形成されることを特徴とする膜。
(10)
さらに有機溶剤を含む組成物より形成されることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の膜。
(11)
脂環式炭化水素構造を有する化合物を含む膜形成用組成物を塗布し塗膜を形成する工程、塗膜にマイクロウエーブを照射する工程を含むことを特徴とする膜形成方法。
(12)
(10)に記載の膜を有する電子デバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明の膜は誘電率、機械強度等の膜特性が良好なため、電子デバイスなどにおける層間絶縁膜として利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
<脂環式炭化水素構造を有する化合物>
本発明の膜形成用組成物は、脂環式炭化水素構造を有する化合物を含有する。脂環式炭化水素構造を有する化合物は、吸湿性が低く、耐熱性も比較的良好である。
脂環式炭化水素構造としては、単環式でも、多環式でもよく、脂環中にヘテロ原子を有していてもよい。具体的には、炭素数5以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ構造等を有する基を挙げることができる。その炭素数は6〜30個が好ましく、特に炭素数7〜25個が好ましい。これらの脂環式炭化水素基は置換基を有していてもよい。
以下に、脂環式炭化水素基のうち、脂環式部分の構造例を示す。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
脂環式炭化水素基が有していてもよい置換基としては、例えば、オキシ基、アルキル基、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基が挙げられる。
アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等の低級アルキル基が好ましく、更に好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基よりなる群から選択された置換基を表す。上記アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜4個のものを挙げることができる。
また、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基は、更に置換基を有していてもよく、このような置換基としては、例えば、炭素数1〜4のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等)、ヒドロキシ基、オキソ基、アルキルカルボニル基(好ましくは炭素数2〜5)、アルキルカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数2〜5)、アルキルオキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜5)、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、フッ素原子等)等を挙げることができる。
脂環式炭化水素構造としては、カゴ型構造が好ましい。
【0019】
本発明で述べる「カゴ型構造」とは、共有結合した原子で形成された複数の環によって容積が定まり、容積内に位置する点は環を通過せずには容積から離れることができないような分子を指す。例えば、アダマンタン構造はカゴ型構造と考えられる。対照的にノルボルナン(ビシクロ[2,2,1]ヘプタン)などの単一架橋を有する環状構造は、単一架橋した環状化合物の環が容積を定めないことから、カゴ型構造とは考えない。
【0020】
カゴ型構造の総炭素数は、好ましくは10〜30個、より好ましくは11〜18個、特に好ましくは14個の炭素原子で構成される。
ここでいう炭素原子にはカゴ型構造に置換した連結基や置換基の炭素原子を含めない。例えば、1−メチルアダマンタンは10個の炭素原子で構成され、1−エチルジアマンタンは14個の炭素原子で構成されるものとする。
【0021】
カゴ型構造は飽和炭化水素構造であることが好ましく、好ましい例としては高い耐熱性を有している点でダイヤモンド類似構造のアダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタン、テトラマンタン、ドデカヘドラン等が挙げられ、より好ましい例としてはアダマンタン、ジアマンタン、トリアマンタンが挙げられ、特に好ましい例としてはより低い誘電率が得られ、合成が容易である点でジアマンタンが挙げられる。
【0022】
本発明におけるカゴ型構造は1つ以上の置換基を有していても良く、置換基の例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、クロル原子、臭素原子、または沃素原子)、炭素数1〜10の直鎖、分岐、環状のアルキル基(メチル、t−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等)、炭素数2〜10のアルケニル基(ビニル、プロペニル等)、炭素数2〜10のアルキニル基(エチニル、フェニルエチニル等)、炭素数6〜20のアリール基(フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等)、炭素数2〜10のアシル基(ベンゾイル等)、炭素数6〜20のアリールオキシ基(フェノキシ等)、炭素数6〜20のアリールスルホニル基(フェニルスルホニル等)、ニトロ基、シアノ基、シリル基(トリエトキシシリル、メチルジエトキシシリル、トリビニルシリル等)等が挙げられる。この中で好ましい置換基はフッ素原子、臭素原子、炭素数1〜5の直鎖、分岐、環状のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、炭素数2〜5のアルキニル基、シリル基である。これらの置換基はさらに別の置換基で置換されていてもよい。
【0023】
本発明におけるカゴ型構造は1〜4価であることが好ましく、より好ましくは2〜3価であり、特に好ましくは2価である。このとき、カゴ型構造に結合する基は1価以上の置換基でも2価以上の連結基でも良い。
【0024】
本発明に使用する「カゴ型構造を有する化合物」とは、低分子化合物であっても高分子化合物(たとえばポリマー)であっても良く、好ましいものはポリマーである。カゴ型構造を有する化合物がポリマーである場合、その重量平均分子量は好ましくは1000〜500000、より好ましくは5000〜300000、特に好ましくは10000〜200000である。カゴ型構造を有するポリマーは分子量分布を有する樹脂組成物として膜形成用組成物に含まれていても良い。カゴ型構造を有する化合物が低分子化合物である場合、その分子量は好ましくは3000以下、より好ましくは2000以下、特に好ましくは1000以下である。
【0025】
本発明においてカゴ型構造はポリマー主鎖に1価以上のペンダント基として組み込まれても良い。カゴ型構造が結合する好ましいポリマー主鎖としては、例えばポリ(アリーレン)、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリ(エーテル)、ポリアセチレン等の共役不飽和結合鎖、ポリエチレン等が挙げられ、この中でも耐熱性が良好な点から、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリアセチレンがより好ましい。
【0026】
本発明においてカゴ型構造がポリマー主鎖の一部となっていることも好ましい。すなわちポリマー主鎖の一部になっている場合には、本ポリマーからカゴ型構造を除去するとポリマー鎖が切断されることを意味する。この形態においては、カゴ型構造はカゴ構造間で直接単結合するかまたは適当な2価以上の連結基によって連結される。連結基の例としては例えば、−C(R11)(R12)−、−C(R13)=C(R14)−、−C≡C−、アリーレン基、−CO−、−O−、−SO2−、−N(R15)−、−Si(R16)(R17)−またはこれらを組み合わせた基が挙げられる。ここで、R11〜R17はそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルコキシ基を表す。これらの連結基は置換基で置換されていてもよく、例えば前述の置換基が好ましい例として挙げられる。
この中でより好ましい連結基は、−C(R11)(R12)−、−CH=CH−、−C≡C−、アリーレン基、−O−、−Si(R16)(R17)−またはこれらを組み合わせた基であり、特に好ましいものは、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−Si(R16)(R17)−またはこれらの組み合わせである。
【0027】
本発明の脂環式炭化水素構造を有する化合物は、その分子内にカゴ型構造を1種でも2種以上含んでいても良い。
【0028】
以下に本発明の脂環式炭化水素構造を有する化合物の具体例を示すが、もちろん本発明はこれらに限定されない。
【0029】
【化5】

【0030】
【化6】

【0031】
本発明の脂環式炭化水素構造を有する化合物は下記式(1)で表される化合物の重合体であることが特に好ましい。
【0032】
【化7】

【0033】
式(1)中、
Rは複数ある場合は各々独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、またはシリル基を表す。
mは1〜14の整数を表す。
Xは複数ある場合は各々独立にハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはシリル基を表す。
nは0〜13の整数を表す。
【0034】
式(1)において、
Rは好ましくは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基、または炭素数0〜20のシリル基を表し、Rはさらに別の置換基で置換されていてもよい。置換基としては例えばハロゲン原子(フッ素原子、クロル原子、臭素原子、または沃素原子)、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アシル基、アリールオキシ基、アリールスルホニル基、ニトロ基、シアノ基、シリル基等が挙げられる。Rはさらに好ましくは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数0〜20のシリル基を表し、より好ましくは水素原子または炭素数0〜10のシリル基を表す。
mは好ましくは1〜4の整数であり、より好ましくは1〜3の整数であり、特に好ましくは2または3である。
Xは好ましくはハロゲン原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜10)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜10)、アリール基(好ましくは炭素数6〜20)、シリル基(好ましくは炭素数0〜20)を表し、Xはさらに別の置換基で置換されていても良く、置換基の例として前述のものが挙げられる。Xはさらに好ましくは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数0〜20のシリル基を表し、より好ましくは臭素原子、炭素数2〜4のアルケニル基、炭素数0〜10シリル基を表す。
nは0〜13の整数を表し、好ましくは0〜3の整数であり、より好ましくは0〜2の整数であり、特に好ましくは0または1である。
【0035】
式(1)で表される化合物の具体例を下記に示す。
【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
式(1)の化合物の最適な重合反応条件は有機溶剤中で、好ましくは内温0℃〜220℃、より好ましくは50℃〜210℃、特に好ましくは100℃〜200℃で、好ましくは1〜50時間、より好ましくは2〜20時間、3〜10時間で行うことが好ましい。所望により、パラジウム、ニッケル、タングステン、モリブデン等の金属触媒を用いてもよい。
重合したポリマーの重量平均分子量の好ましい範囲は1000〜500000、より好ましくは5000〜300000、特に好ましくは10000〜200000である。
【0039】
本発明の化合物は熱により他の分子と共有結合を形成する反応性基を有していることが好ましい。このような反応性基としては、特に限定されないが例えば環化付加反応、ラジカル重合反応を起こす置換基が好ましく利用できる。例えば、2重結合を有する基(ビニル基、アリル基等)、3重結合を有する基(エチニル基、フェニルエチニル基等)、ディールスアルダー反応を起こすためのジエン基、ジエノフィル基の組み合わせ等が有効であり、特にエチニル基とフェニルエチニル基が有効である。
【0040】
また、本発明の化合物には、モル分極率を高めたり絶縁膜の吸湿性の原因となる窒素原子は誘電率を高くする働きがあるため含まないことが好ましい。特に、ポリイミド化合物では充分に低い誘電率が得られないため、本発明のカゴ型構造を有する化合物は、ポリイミド以外の化合物、即ちポリイミド結合、アミド結合を有しない化合物であることが好ましい。
【0041】
本発明の膜に良好な特性(誘電率、機械強度)を付与する観点から、膜形成用組成物に含まれる全固形分中の総炭素数に占めるカゴ型構造の総炭素数の比率は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50〜95%、さらに好ましくは60%〜90%である。ここで、膜形成用組成物に含まれる全固形分とは、この塗布液により得られる膜を構成する全固形分に相当するものである。尚、発泡剤のように膜形成後に膜中に残らないものは固形分に含めない。
【0042】
更に、本発明に用いられる膜形成用組成物には膜の諸特性(耐熱性、誘電率、機械強度、塗布性、密着性等)を損なわない範囲で、ラジカル発生剤、非イオン界面活性剤、フッ素系非イオン界面活性剤、シランカップリング剤などの添加剤を添加してもよい。
フッ素系及び/又はシリコン系界面活性剤(フッ素系界面活性剤及びシリコン系界面活性剤、フッ素原子と珪素原子の両方を含有する界面活性剤)として、例えば特開昭62−36663号公報、特開昭61−226746号公報、特開昭61−226745号公報、特開昭62−170950号公報、特開昭63−34540号公報、特開平7−230165号公報、特開平8−62834号公報、特開平9−54432号公報、特開平9−5988号公報、特開2002−277862号公報、米国特許第5405720号明細書、同5360692号明細書、同5529881号明細書、同5296330号明細書、同5436098号明細書、同5576143号明細書、同5294511号明細書、同5824451号明細書記載の界面活性剤を挙げることができ、下記市販の界面活性剤をそのまま用いることもできる。
【0043】
使用できる市販の界面活性剤として、例えばエフトップEF301、EF303、(新秋田化成(株)製)、フロラードFC430、431(住友スリーエム(株)製)、メガファックF171、F173、F176、F189、R08(大日本インキ化学工業(株)製)、サーフロンS−382、SC101、102、103、104、105、106(旭硝子(株)製)、トロイゾルS−366(トロイケミカル(株)製)等のフッ素系界面活性剤又はシリコン系界面活性剤を挙げることができる。またポリシロキサンポリマーKP−341(信越化学工業(株)製)もシリコン系界面活性剤として用いることができる。
【0044】
また、界面活性剤としては、上記に示すような公知のものの他に、テロメリゼーション法(テロマー法ともいわれる)もしくはオリゴメリゼーション法(オリゴマー法ともいわれる)により製造されたフルオロ脂肪族化合物から導かれたフルオロ脂肪族基を有する重合体を用いた界面活性剤を用いることが出来る。フルオロ脂肪族化合物は、特開2002−90991号公報に記載された方法によって合成することが出来る。
【0045】
フルオロ脂肪族基を有する重合体としては、フルオロ脂肪族基を有するモノマーと(ポリ(オキシアルキレン))アクリレート及び/又は(ポリ(オキシアルキレン))メタクリレートとの共重合体が好ましく、不規則に分布しているものでも、ブロック共重合していてもよい。また、ポリ(オキシアルキレン)基としては、ポリ(オキシエチレン)基、ポリ(オキシプロピレン)基、ポリ(オキシブチレン)基などが挙げられ、また、ポリ(オキシエチレンとオキシプロピレンとオキシエチレンとのブロック連結体)やポリ(オキシエチレンとオキシプロピレンとのブロック連結体)など同じ鎖長内に異なる鎖長のアルキレンを有するようなユニットでもよい。さらに、フルオロ脂肪族基を有するモノマーと(ポリ(オキシアルキレン))アクリレート(又はメタクリレート)との共重合体は2元共重合体ばかりでなく、異なる2種以上のフルオロ脂肪族基を有するモノマーや、異なる2種以上の(ポリ(オキシアルキレン))アクリレート(又はメタクリレート)などを同時に共重合した3元系以上の共重合体でもよい。
【0046】
例えば、市販の界面活性剤として、メガファックF178、F−470、F−473、F−475、F−476、F−472(大日本インキ化学工業(株)製)を挙げることができる。さらに、C613基を有するアクリレート(又はメタクリレート)と(ポリ(オキシアルキレン))アクリレート(又はメタクリレート)との共重合体、C613基を有するアクリレート(又はメタクリレート)と(ポリ(オキシエチレン))アクリレート(又はメタクリレート)と(ポリ(オキシプロピレン))アクリレート(又はメタクリレート)との共重合体、C817基を有するアクリレート(又はメタクリレート)と(ポリ(オキシアルキレン))アクリレート(又はメタクリレート)との共重合体、C817基を有するアクリレート(又はメタクリレート)と(ポリ(オキシエチレン))アクリレート(又はメタクリレート)と(ポリ(オキシプロピレン))アクリレート(又はメタクリレート)との共重合体、などを挙げることができる。
【0047】
ラジカル発生剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシド、ペンチルパーオキシド、ヘキシルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては、例えば、オクチルポリエチレンオキシド、デシルポリエチレンオキシド、ドデシルポリエチレンオキシド、オクチルポリプロピレンオキシド、デシルポリプロピレンオキシド、ドデシルポリプロピレンオキシド等が挙げられる。
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、トリビニルエトキシシラン、これらの加水分解物あるいはこのものの脱水縮合物等が挙げられる。
これらの添加剤の添加量は、添加剤の用途または塗布液の固形分濃度によって適当な範囲が存在するが、一般的に、塗布液中の質量%で好ましくは0.001%〜10%、より好ましくは0.01%〜5%、特に好ましくは0.05%〜2%である。
【0048】
本発明の膜は、膜形成用組成物をスピンコーティング法、ローラーコーティング法、ディップコーティング法、スキャン法等の任意の方法により、基板に塗布した後、マイクロウェーブを照射することにより形成することができる。
マイクロウエーブは1GHz程度の周波数帯の電磁波である。特に好ましい周波数は限定しないが、電波法に基づき、ISMバンドを用いることが好ましい。電波法において、通信、放送、レーダ、電波天文などへ影響を与えず、工業用、科学用、医事用、家庭用など限られた場所での優先的な利用のために、「ISMバンド」と呼ばれる下記に示す周波数帯が割当てられている。ここで、ISMとはIndustrial、Scientific、Medicalの略である。周波数としては、日本においては、433.920 ±0.87MHz、2,450±50MHz、5,800±75MHz、24.125GHz±125MHz帯が指定されている。さらに、米国では915±25MHz帯が、英国では896±10MHzが、また東欧やロシアでは2,450MHz帯において2,375±50MHzが指定されている。また、装置のコストの観点では、動作電圧が低い、発振効率が高いなどの点からマグネトロン発振による、2.45GHz程度の周波数が望ましい。
【0049】
照射エネルギーとしては,10kWで10秒から60分に相当するエネルギーが好ましい。同じく1分から30分がより好ましく,さらに2分から15分がさらに好ましい。
【0050】
また、本発明の膜を形成する方法は、マイクロウェーブを照射される工程とともに、膜形成組成物に含まれる溶剤を除去する工程(乾燥工程)を含むことが好ましい。また、膜を熟成させる工程(焼成工程)を含んでいてもよい。乾燥および焼成工程は膜形成用組成物および膜を加熱することにより行われる。加熱の方法は、特に限定されないが、一般的に使用されているホットプレート加熱、ファーネス炉を使用した方法、RTP(Rapid Thermal Processor)等によるキセノンランプを使用した光照射加熱等を適用することができる。焼成工程は、加熱温度が好ましくは300〜450℃、より好ましくは300〜420℃、特に好ましくは350℃〜400℃で、加熱時間は好ましくは1分〜2時間が好ましく、より好ましくは10分〜1.5時間であり、特に好ましくは30分〜1時間である。焼成工程は数段階で行っても良い。なお、300℃以上の加熱を含む工程を焼成工程とするが、乾燥工程と焼成工程を一貫して行うこともでる。
【0051】
本発明の膜は、半導体装置、マルチチップモジュール多層配線板等の電子部品における絶縁皮膜として好適であり、半導体用層間絶縁膜、表面保護膜、バッファーコート膜の他、LSIにおけるパッシベーション膜、α線遮断膜、フレキソ印刷版のカバーレイフィルム、オーバーコート膜、フレキシブル銅張板のカバーコート、ソルダーレジスト膜、液晶配向膜等として使用することが出来る。その他、水処理用ろ過膜,土壌改質剤担体,環境浄化用光触媒担体,建築材料など様々な用途に使用することもできる。
【0052】
この塗膜の膜厚には特に制限は無いが、0.001〜100μmであることが好ましく、0.01〜10μmであることがより好ましく、0.1〜1μmであることが特に好ましい。
【0053】
また、本発明に使用する絶縁膜形成用塗布液に予め発泡剤を添加して多孔質膜を形成することもできる。多孔質膜を形成するために添加する発泡剤としては、特に限定されないが、例えば、該塗布液の溶媒よりも高沸点の有機化合物や、熱分解性低分子化合物、熱分解性ポリマー等が挙げられる。
発泡剤の添加量は、塗布液の固形分濃度によって適当な範囲が存在するが、一般的に、塗布液中の質量%で好ましくは0.01%〜20%、より好ましくは0.1%〜10%、特に好ましくは0.5%〜5%である。
【実施例】
【0054】
以下の実施例は本発明を説明するものであり、その範囲を限定するものではない。
【0055】
<合成例1>
Macromolecules 1991,24,5266に記載の方法により4,9−ジブロモジアマンタンを合成した。500mlフラスコに市販のp−ジビニルベンゼン1.30g、4,9−ジブロモジアマンタン3.46g、ジクロロエタン200ml、および塩化アルミニウム2.66gを仕込み、内温70℃で24時間攪拌した。その後、200mlの水を加え、有機層を分液した。無水硫酸ナトリウムを加えた後、固形分を濾過で除去し、ジクロロエタンを半分量になるまで減圧下で濃縮し、この溶液にメタノールを300ml加え、析出した沈殿を濾過した。重量平均分子量が約10000のポリマー(A−4)を2.8g得た。
同様にフリーデルクラフツ反応によって、質量平均分子量が約10000のポリマー(A−12)を合成した。
【0056】
<実施例1>
上記のポリマー(A−4)1.0gをシクロヘキサノン5.0mlおよびアニソール5.0mlの混合溶剤に加熱溶解し、塗布液を調製した。この溶液を0.1ミクロンのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、この塗膜を窒素気流下ホットプレート上で150℃で60秒間加熱乾燥した。次に、市販の電子レンジ(東芝製:1.8kW)で15分間マイクロウエーブを照射した。マイクロウェーブを用いることで、従来の加熱方法による場合よりも加熱時間を短縮することができた。このときの得られた膜厚0.5ミクロンの絶縁膜の比誘電率をフォーディメンジョンズ製水銀プローバおよび横川ヒューレットパッカード製のHP4285ALCRメーターを用いて1MHzにおける容量値から算出したところ、2.55であった。また、MTS社ナノインデンターSA2を使用してヤング率を測定したところ、7.0GPaであった。
このウエーハーを23℃、40%RHの雰囲気に放置し,1週間後に比誘電率を上記の方法で測定したところ,2.56であった。
【0057】
<実施例2>
上記のポリマー(A−12)1.0gをガンマブチロラクトン5.0mlおよびアニソール5.0mlの混合溶剤に加熱溶解し、塗布液を調製した。この溶液を0.1ミクロンのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、この塗膜を窒素気流下ホットプレート上で180℃で60秒間加熱乾燥した。次に,市販の電子レンジ(東芝製:1.8kW)で15分間マイクロウエーブを照射した。得られた膜厚0.5ミクロンの絶縁膜の比誘電率は2.55であった。また、ヤング率は6.0GPaであった。
このウエーハーを23℃、40%RHの雰囲気に放置し,1週間後に比誘電率を上記の方法で測定したところ,2.57であった。
【0058】
<合成例2>
ジアマンタンを原料に用いて、Macromolecules.,5262,5266(1991)に記載の合成法に従って、4,9−ジエチニルジアマンタンを合成した。次に、4,9−ジエチニルジアマンタン10gと1,3,5−トリイソプロピルベンゼン50mlとPd(PPh3)4 120mgを窒素気流下で内温190℃で12時間攪拌した。反応液を室温にした後、イソプロピルアルコール300mlを添加した。析出した固体を濾過して、メタノールで洗浄した。重量平均分子量20000のポリマー(A)を3.0g得た。
【0059】
【化10】

【0060】
<実施例3>
合成例2で合成したポリマー(A)1.0gをシクロヘキサノン10.0mlに溶解し、塗布液を調製した。この溶液を0.2ミクロンのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、この塗膜を次に,市販の電子レンジ(東芝製:1.8kW)で15分間マイクロウエーブを照射した後,300℃のオーブン中で15分加熱熟成した。得られた膜厚0.50ミクロンの絶縁膜の比誘電率は2.40であった。また、ヤング率は7.0GPaであった。
このウエーハーを23℃、40%RHの雰囲気に放置し,1週間後に比誘電率を上記の方法で測定したところ,2.40であった。
【0061】
<比較例1>
実施例3と同様に溶液を調製した。この溶液を0.2ミクロンのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、この塗膜を窒素気流下ホットプレート上で110℃で90秒間加熱乾燥した後、250℃で60秒間加熱乾燥した。更に窒素置換した400℃のオーブン中で60分加熱熟成した。得られた膜厚0.50ミクロンの絶縁膜の比誘電率は2.49であった。また、ヤング率は7.0GPaであった。
このウエーハーを23℃、40%RHの雰囲気に放置し,1週間後に比誘電率を上記の方法で測定したところ,2.65であった。
【0062】
<実施例4>
実施例3と同様に溶液を調製した。この溶液を0.2ミクロンのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、この塗膜を室温で乾燥した後,次に,市販の電子レンジ(東芝製:1.8kW)で15分間マイクロウエーブを照射した。得られた膜厚0.50ミクロンの絶縁膜の比誘電率は2.49であった。また、ヤング率は6.9GPaであった。
このウエーハーを23℃、40%RHの雰囲気に放置し,1週間後に比誘電率を上記の方法で測定したところ,2.52であった。
【0063】
<比較例2>
(B)のポリマー(シグマ−アルドリッチより入手)1.0gをシクロヘキサノン10.0mlに溶解し、塗布液を調製した。この溶液を0.2ミクロンのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過した後、シリコンウェハー上にスピンコートし、この塗膜を室温で乾燥し,次に,市販の電子レンジ(東芝製:1.8kW)で15分間マイクロウエーブを照射した。得られた膜厚0.50ミクロンの絶縁膜の比誘電率は2.70であった。また、ヤング率は3.5GPaであった。
このウエーハーを23℃、40%RHの雰囲気に放置し,1週間後に比誘電率を上記の方法で測定したところ,2.90であった。
【0064】
【化11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式炭化水素構造を有する化合物を含む膜形成用組成物を塗布しマイクロウエーブを照射して形成されることを特徴とする膜。
【請求項2】
脂環式炭化水素構造がカゴ型構造であることを特徴する請求項1に記載の膜。
【請求項3】
カゴ型構造が飽和炭化水素構造であることを特徴とする請求項2に記載の膜。
【請求項4】
膜形成用組成物に含まれる全固形分中の総炭素数に占めるカゴ型構造の総炭素数の比率が30%以上であることを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の膜。
【請求項5】
カゴ型構造がアダマンタン構造であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の膜。
【請求項6】
カゴ型構造がジアマンタン構造であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の膜。
【請求項7】
カゴ型構造を有する化合物が下記式(1)で表される少なくとも一種の化合物の重合体であることを特徴とする請求項5に記載の膜。
【化1】

式(1)中、
Rは複数ある場合は各々独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、またはシリル基を表す。
mは1〜14の整数を表す。
Xは複数ある場合は各々独立にハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、またはシリル基を表す。
nは0〜13の整数を表す。
【請求項8】
脂環式炭化水素構造を有する化合物が窒素原子を含まないことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の膜。
【請求項9】
さらに有機溶剤を含む組成物より形成されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の膜。
【請求項10】
脂環式炭化水素構造を有する化合物を含む膜形成用組成物を塗布し塗膜を形成する工程、塗膜にマイクロウエーブを照射する工程を含むことを特徴とする膜形成方法。
【請求項11】
請求項9に記載の膜を有する電子デバイス。

【公開番号】特開2007−81156(P2007−81156A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−267405(P2005−267405)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】