説明

膨張弁及びこれを用いたヒートポンプ式空気調和機

【課題】絞り弁として冷媒を可逆に流通させて使用する場合に、キャビテーションによる騒音の発生を防止するようにした膨張弁及びこの膨張弁を用いたヒートポンプ式空気調和機を提供すること。
【解決手段】本発明に係る膨張弁は、弁箱2と、一組の冷媒配管接続口5,6と、これら冷媒配管接続口5,6を連絡する弁箱内冷媒経路を前後に二分する仕切壁7とを有し、この仕切壁7に弁孔13及び弁座14,15が形成されている。また、仕切壁7を挟んで両側に弁室9,11が形成されるとともに、各弁室9,11にニードル弁8,10が配置されている。このニードル弁8,10は、一対を成し弁孔13と同軸に配置されている。そして、一方のニードル弁8,10が絞り作用を行うときには、他方のニードル弁10,8が全開状態に保持されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可逆に冷媒を流通させる膨張弁及びこれを用いたヒートポンプ式空気調和機に関し、より詳細には、冷媒の双方向流れにおける流量特性を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のニードル弁を使用した膨張弁は、図7(a)及び(b)に一般的な要部断面図を示すように、略円筒状の弁箱101における側壁102には冷媒の出入り口を成す、一方の冷媒配管接続口103が設けられ、底壁104には他方の冷媒配管接続口105が設けられている。そして、冷媒配管接続口103,105にはそれぞれ出入り口配管103a,105aが接続されている。また、これら冷媒配管接続口103,105を連絡する弁箱101内の空間部は、弁室106として形成されている。この弁室106には、先端部が先細のテーパ状に形成されたニードル弁107が収納されている。また、底壁104の中心部には弁孔108が形成されるとともに、弁孔108の弁室106側の端部が弁座109として形成されている。なお、このような膨張弁の例としては特許文献1に記載の膨張弁を掲げることができる。
【0003】
そして、このように構成された膨張弁は、ニードル弁107がパルスモータ(不図示)により軸方向に弁座109に対し進退することにより弁座109との間に開度可変の絞り部110が形成されている。
【0004】
したがって、この膨張弁においては、図7(a)に実線矢印で示すように冷媒配管接続口103から液冷媒が導入される場合は、冷媒配管接続口103から導入された液冷媒は絞り部110にて絞られた後、弁室106を経由して冷媒配管接続口105から流出する。一方、この膨張弁において、図7(b)に破線矢印で示すように冷媒配管接続口105から液冷媒が導入される場合は、冷媒配管接続口105から導入された液冷媒は、絞り部110にて絞られた後、ニードル弁107の先端部と弁孔108との間に形成される狭い通路111及び弁孔108を経て冷媒配管接続口103から流出する。
【0005】
なお、膨張弁は、冷媒の流通方向が可逆に切り換えられて使用される態様としては、何れの流通方向においても高圧液冷媒を低圧に減圧する減圧弁として使用される場合と、一方の流通方向においてはこのような減圧弁として使用され、他方の流通方向においては単に冷媒流量を調整する冷媒流量制御弁として使用される場合とがある。前者の使用態様は、例えば一体型ヒートポンプ式空気調和機における液管に使用される場合であって、このような従来例として特許文献2を掲げることができる。また、後者の使用態様は、例えば、1台の室外ユニットに対し複数台の室内ユニットを接続する所謂マルチ形ヒートポンプ式空気調和機における室内ユニットの液管に使用される場合であって、このような従来例として特許文献3を掲げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−155691号公報
【特許文献2】特開2007−32980号公報、図1
【特許文献3】特開2008−275195号公報、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような膨張弁において、液冷媒が冷媒配管接続口103から導入される場合、冷媒配管接続口103から導入された液冷媒は、上述のように絞り部110を通過した後、ニードル弁107の先端部と弁孔108との間に形成される狭い通路111を通過する。このため、この狭い通路111において局所的な圧力降下が発生し、これによりキャビテーションが発生して騒音を発生しやすいという問題があった。
【0008】
なお、この膨張弁において、液冷媒が冷媒配管接続口105から導入される場合は、冷媒配管接続口103から導入された液冷媒は、絞り部110を通過した後に広い空間部を成す弁室106へ流れるため、絞り部110を通過した後に前述のような局所的な圧力降下を発生することがなく、キャビテーションの発生による騒音発生のおそれがない。
【0009】
このように、従来のニードル弁使用の膨張弁は、冷媒を可逆に流通させて使用される場合において、一方の方向に冷媒を流通させる場合にキャビテーションが発生し、これにより騒音が発生していた。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みなされたものであって、絞り弁として冷媒を可逆に流通させて使用する場合に、キャビテーションによる騒音の発生を防止するようにした膨張弁及びこれを用いたヒートポンプ式空気調和機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、膨張弁に関するものであって、出入り口を成す一組の冷媒配管接続口と、これら冷媒配管接続口間を連絡する弁箱内の空間部を前後に二分するように仕切られた仕切壁と、仕切壁に形成された弁孔と、仕切壁における弁孔の両側に形成された弁座と、仕切壁を挟んで両側に形成された弁室と、各弁室に配置された一対の、弁座に対向する部分が先細に形成されたニードル弁とを有し、この一対のニードル弁は、同軸に配置されるともに前記弁孔を挟んで対称的に一体的に動作するように形成され、さらに、一方のニードル弁が絞り作用を行うときには、他方のニードル弁が全開状態に保持されるように構成されていることを要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、冷媒の流通方向に応じて一方のニードル弁が絞り作用を行うときには、他方のニードル弁が全開状態に保持されるように構成されている。したがって、冷媒を可逆に流通させて使用する場合において、全開のニードル弁側から絞り部を構成するニードル弁側へ冷媒を流通させるようにすると、絞り部を通過した冷媒は広い空間をなす弁室へ流れることになるので、絞り作用後の冷媒が狭い通路を通過することがない。これにより、従来のように狭い通路における局所的な圧力降下が抑制され、キャビテーションによる騒音の発生が抑制される。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の膨張弁において、前記一対のニードル弁は、一方のニードル弁がパルスモータにより前記弁座に対し進退するように構成されるとともに、他方のニードル弁は、その先端部が前記一方のニードル弁の先端部に対し弾性的に常時押し付けられるように取り付けられていることを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、弾性体により、一方のニードル弁の先端部に対し他方のニードル弁の先端部が常時弾性的に押し付けられている。このため、単一のパルスモータによって前記一方のニードル弁を弁座に対し進退させることにより、前記他方のニードル弁をも一体的に動作させることができる。また、この一対のニードル弁は、一方のニードル弁の先端部に対し他方のニードル弁の先端部が常時弾性的に押し付けられる構造であるため、弁孔を挟んで2個の閉鎖弁を容易に組み合わせることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1記載の膨張弁において、前記一対のニードル弁が、一体的に動作可能となるように、両者の先端部で互いに結合されていることを要旨とする。
【0016】
上記構成によれば、前記一対のニードル弁が一体的に動作可能となるように、両者の先端部で互いに結合されているため、単一のモータで両ニードル弁を直接的に動作させることができる。また、両者の先端部で互いに結合されているため、弁孔を挟んだ状態に一対のニードル弁を容易に組み合わせることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項3記載の膨張弁において、前記一対のニードル弁は、一方のニードル弁の先端部が他方のニードル弁に形成された穴部に圧入嵌合されて結合されていることを要旨とする。
【0018】
上記構成によれば、一対のニードル弁がこれらの先端部において圧入という方法で相互に結合されているので、簡易な構成で一対のニードル弁を一体的に動作させることが可能になる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、冷房運転時と暖房運転時とで冷媒を可逆に流通させることにより、膨張弁が冷暖房兼用の絞り弁として使用されてなるヒートポンプ式空気調和機であって、前記膨張弁として請求項1〜4のいずれか1項に記載の膨張弁が使用されていることを要旨とする。
【0020】
上記構成によれば、請求項1〜4のいずれか1項に記載の膨張弁が冷暖房兼用の絞り弁として用いられているため、冷房運転時と暖房運転時とにおいて冷媒を可逆に流通させても、キャビテーションによる騒音の発生が抑制される。
【0021】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のヒートポンプ式空気調和機において、このヒートポンプ式空気調和機は、1台の室外ユニットに対し複数台の室内ユニットが並列に接続されたものであって、前記膨張弁は、各室内ユニットにおける室内側熱交換器の液管側に接続されるとともに、冷房運転時は減圧弁として機能し、暖房時は各室内ユニットに流通する冷媒循環量を制御する流量制御弁として機能するように構成されていることを要旨とする。
【0022】
上記構成によれば、請求項5に記載のヒートポンプ式空気調和機が、1台の室外ユニットに対し複数台の室内ユニットが並列に接続された所謂マルチ形のヒートポンプ式空気調和機である。そして、室内ユニットに用いられる膨張弁として上述の、キャビテーションによる騒音の発生が抑制された膨張弁が用いられているので、冷暖房いずれの運転においても静粛な運転を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る膨張弁によれば、冷媒を可逆に流通させて使用する場合において、全開のニードル弁側から絞り部を構成するニードル弁側へ流すようにすると、絞り部を通過した冷媒は広い空間をなす弁室へ流れることになるので、絞り作用後の冷媒が狭い通路を通過することがない。これにより、従来のように狭い通路における局所的な圧力降下が抑制され、キャビテーションによる騒音の発生が抑制される。また、本発明に係るヒートポンプ式空気調和機によれば、このような膨張弁が冷暖房兼用の絞り弁として用いられているため、冷房運転時と暖房運転時とにおいて冷媒を可逆に流通させても、キャビテーションによる騒音の発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1に係る膨張弁の要部断面図であって、冷媒が下方の冷媒配管接続口から上方の冷媒配管接続口へ流通するときの状態を示す。
【図2】同膨張弁の要部断面図であって、冷媒が図1とは逆の方向に流通するときの状態を示す。
【図3】同実施の形態にかかるヒートポンプ式空気調和機の冷媒回路図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係るヒートポンプ式空気調和機の冷媒回路図である。
【図5】本発明の実施形態3に係る膨張弁の要部断面図であって、冷媒が下方の冷媒配管接続口から上方の冷媒配管接続口へ流通するときの状態を示す。
【図6】同膨張弁における第1ニードル弁及び第2ニードル弁の結合部の拡大分解図である。
【図7】従来例に係る膨張弁の要部断面図であって、(a)は冷媒が一方の冷媒配管接続口から他方の冷媒配管接続口へ流通するときの状態を示し、(b)は冷媒が(a)とは逆の方向に流通するときの状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施の形態1)
以下、図1及び図2を参照しながら、本発明の実施の形態1に係る膨張弁について説明する。
【0026】
なお、以下の説明において上下方向又は水平方向というときは、図1及び図2に示した方向をいうものとする。
本実施形態に係る膨張弁1は、略円筒状の弁箱2における側壁3の上下に冷媒配管接続口5,6が設けられている。そして、冷媒配管接続口5,6にはそれぞれで冷媒配管5a,6aが接続されている。また、弁箱2内には、冷媒配管接続口5と冷媒配管接続口6を連絡する空間部が形成され、この空間部を前後方向(この場合は上下方向)に二分するように、つまり、冷媒配管接続口5に連通する上方の空間部と、冷媒配管接続口6に連通する下方の空間部とに二分するように水平方向に延びる仕切壁7が設けられている。これら上下の空間部は、それぞれニードル弁8,10が配置されて弁室9,11として形成されている。なお、以下の明細書において、第1ニードル弁8というときは上方の空間部に配置されたニードル弁をいい、第2ニードル弁10というときは下方の空間部に配置されたニードル弁をいうものとする。また、第1弁室9というときは上方の空間部のことをいい、第2弁室11というときは下方の空間部のことをいうものとする。
【0027】
仕切壁7は、第1ニードル弁8及び第2ニードル弁10の動作により絞り部16,17が形成されるようにするために、弁孔13が形成されている。また、弁孔13の上下端部が、弁座14及び弁座15として形成されている。
【0028】
そして、第1ニードル弁8及び第2ニードル弁10は、弁座14及び弁座15との間にそれぞれ絞り部16(図1参照)、17(図2参照)が形成されるように、それぞれの先端部に先細のテーパ部8a,10aが形成されるとともに、また、第1ニードル弁8及び第2ニードル弁10は、弁孔13と同軸に形成されている。
【0029】
第1ニードル弁8は、テーパ部8aの上方部に円柱状部8bに形成され、この円柱状部8bが軸受部(不図示)を介してパルスモータ(不図示)に直結されている。また、膨張弁1は、このパルスモータの駆動により、第1ニードル弁8が弁座14に対し軸方向に進退し、開度可変の絞り部16が形成されるように構成されている。なお、膨張弁1における絞り部16の開度は、この膨張弁1が使用されている空気調和機等の運転態様及び負荷状態に対応するように制御される。
【0030】
第2ニードル弁10は、第1ニードル弁8と対称的にテーパ部10a及びその下方に連続する円柱状部10bが形成されている。また、テーパ部10aの上部には、小径の円柱体部10cが突出するように形成されており、この円柱体部10cの上面が、第1ニードル弁8のテーパ8a部の下面に常時押し付けられるように例えばスプリングばねのような弾性体18により弾性的に押し付けられている。このように弾性的に押し付けられた構成とするのは、第2ニードル弁10を第1ニードル弁8に追随して第1ニードル弁8と一体的に上下動させるためであるとともに、弁箱2内への組み込みを容易にするためである。また、第2ニードル弁10は、第1ニードル弁8とともに上下動し、弁座15に対し進退することにより、弁座15との間に可変の絞り部17が形成されるように構成されている。
【0031】
そして、第2ニードル弁10を円滑に上下動させるために、すなわち、第2ニードル弁10の円柱状部10bの上下動及びコイルスプリングから成る弾性体18の伸縮動作を円滑に進めるために、底壁19の上方に円筒状のガイド壁20が形成されている。ガイド壁20の内径は、第2ニードル弁10が円柱状部10bの内表面に案内されて円滑に上下動可能となるように、円柱状部10bの外径より若干大きく形成されている。また、弾性体18を成すコイルスプリングの外径は、ガイド壁20内において安定した姿勢で伸縮自在となるように、ガイド壁20の内径より若干小さくなるように形成されている。
【0032】
また、第1ニードル弁8と第2ニードル弁10とは、このような構成により、一方のニードル弁が絞り作用を行うときには、他方のニードル弁が全開状態に保持されるように構成されている。これを、より具体的に説明する。図1は、実線矢印のように下方の冷媒配管接続口6から冷媒が流入し、絞り部16で絞られた冷媒が上方の冷媒配管接続口5から流出する流通方向の場合の状態図である。この場合には、第1ニードル弁8が絞り作用を行い、第2ニードル弁10が全開となっている。また、図2は、図1の場合とは反対に破線矢印のように上方の冷媒配管接続口5から冷媒が流入し、絞り部17で絞られた冷媒が下方の冷媒配管接続口6から流出する流通方向の場合の状態図である。この場合には、第2ニードル弁10が絞り作用を行い、第1ニードル弁8が全開の状態となっている。また、これら図に示されるように、この膨張弁1においては、全開状態の絞り部側から絞り状態の絞り部側へ冷媒を流すように構成されている。
【0033】
上記構成の膨張弁1は、例えば、冷媒を可逆に流通させる双方向において、高圧液冷媒を低圧に減圧する所謂膨張行程を行うように使用される。
このような使用例は、例えば、一体型ヒートポンプ式空気調和機に使用される場合であって、図3にその冷媒回路を示す。
【0034】
この冷媒回路は、圧縮機31の吐出口と吸入口との間に四路切換弁32が接続され、この四路切換弁32の切換ポート間に室外熱交換器33、膨張弁1、室内熱交換器34が順次接続されたものである。この場合において、膨張弁1における側壁下方の冷媒配管接続口6に接続されている冷媒配管6aは室外熱交換器33に接続され、同側壁上方の冷媒配管接続口5に接続されている冷媒配管5aが室内熱交換器34に接続されるものとする。なお、膨張弁1の接続方向は逆としても機能的には同一であるが、後の説明を容易にするために、ここではこのように接続するものとする。
【0035】
そして、冷房運転時は、四路切換弁32が実線の位置に切り換えられて運転されることにより、冷媒が実線矢印のように、圧縮機31、四路切換弁32、室外熱交換器33、膨張弁1、室内熱交換器34、四路切換弁32、圧縮機31と循環される。そして、膨張弁1を、減圧作用する絞り弁として機能させることにより、室外熱交換器33が凝縮器として作用するとともに室内熱交換器34が蒸発器として作用し、これにより室内空気が室内熱交換器34で冷却される。この場合、膨張弁1においては、図1に図示された実線矢印のように冷媒が流れる。
【0036】
また、暖房運転時は、四路切換弁32が破線の位置に切り換えられて運転されることにより、冷媒が破線矢印のように、圧縮機31、四路切換弁32、室内熱交換器34、膨張弁1、室外熱交換器33、四路切換弁32、圧縮機31と循環される。そして、膨張弁1を減圧作用する絞り弁として機能させることにより、室内熱交換器34が凝縮器として作用するとともに室外熱交換器33が蒸発器として作用し、これにより室内空気が室内熱交換器34で加熱される。この場合、膨張弁1においては、図2に図示された破線矢印のように冷媒が流れる。
【0037】
次に、本実施の形態に係る膨張弁1の動作を説明する。なお、以下の動作の説明は、図3に図示されたヒートポンプ式空気調和機に使用された場合を例として説明する。
冷房運転時には、図1における実線矢印のように冷媒が流通する。室外熱交換器33で凝縮液化した冷媒は冷媒配管6aから第2弁室11に流入し、弁孔13を経由して絞り部16で減圧されて第1弁室9を経由して、冷媒配管5aから室内熱交換器34の方に流出する。この場合、絞り部16経由後に従来のように狭い通路を経ることなく広い空間部である第1弁室9に流出する。このため、絞り部16通過後に従来のように局所的な圧力降下を受けることがなく、キャビテーションの発生が抑制される。したがって、静粛な運転を行うことができる。
【0038】
また、暖房運転時は、図2における破線矢印のように冷媒が流通する。室内熱交換器34で凝縮液化した冷媒は冷媒配管5aから第1弁室9に流入し、弁孔13を経由して絞り部17で減圧されて第2弁室11を経由して、冷媒配管6aから室外熱交換器33の方に流出する。この場合、絞り部17経由後に従来のように狭い通路を経ることなく広い空間部である第2弁室11に流出する。このため、絞り部17の通過後に従来のように局所的な圧力降下を受けることがなく、キャビテーションの発生が抑制される。したがって、静粛な運転を行うことができる。
【0039】
本実施の形態に係る膨張弁は、以上のように構成されているので、次のような効果を奏することができる。
(1)冷媒の流通方向に応じて一方のニードル弁8,10が絞り作用を行うときには、他方のニードル弁10,8が全開状態に保持されるように構成されている。したがって、冷媒を可逆に流通させて使用する場合において、全開のニードル弁10,8側から絞り部を構成するニードル弁8,10側へ流すようにすると、絞り部16,17を通過した冷媒は広い空間を成す弁室9,11へ流れることになるので、絞り作用後の冷媒が狭い通路を通過することがない。これにより、従来のように狭い通路における局所的な圧力降下を受けることがなく、キャビテーションによる騒音の発生が抑制される。
【0040】
(2)一対のニードル弁8,10は、一方のニードル弁8がパルスモータ(不図示)に連結されて、パルスモータにより弁座14に対し進退するように構成されるとともに、このニードル弁8の先端部に対し他方のニードル弁10の先端部が弾性的に常時押し付けられるように取り付けられている。したがって、単一のパルスモータによって一方のニードル弁8を弁座14に対し進退させることにより、他方のニードル弁10をニードル弁8と一体的に動作させることができる。
【0041】
(3)また、一対のニードル弁8,10は、弾性体18により一方のニードル弁8の先端部に対し他方のニードル弁10の先端部が常時押し付けられている構造であるため、弁孔13を挟んで2個のニードル弁8,10を容易に組み合わせることができる。
【0042】
また、実施の形態1に係るヒートポンプ式空気調和機は、前記のように構成されているので、次のような効果を奏することができる。
(4)前述のように構成された膨張弁1が冷暖房兼用の絞り弁として用いられているため、冷房運転時と暖房運転時とにおいて冷媒を可逆に流通させても、キャビテーションによる騒音の発生が抑制される。
【0043】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について、図4に基づき説明する。
実施の形態2は、実施の形態1に係る膨張弁の応用例としての空気調和機を変更したものである。すなわち、膨張弁1を、冷房運転時は減圧弁として機能させ、暖房時は各室内ユニットに流通する冷媒循環量を制御する流量制御弁として機能させるようにしたものである。なお、実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を用い、その構成要素の説明を省略又は簡略化するものとする。
【0044】
実施の形態2に係る空気調和機は、1台の室外ユニット40に対し、液側連絡配管51とガス側連絡配管52を用いて、複数台(この場合は3台)の室内ユニット60を並列に接続したいわゆるマルチ形のヒートポンプ式空気調和機である。なお、この図においては、液側連絡配管51とガス側連絡配管52を各室内ユニット60に対し共通の配管として図示しているが、この配管を各室内ユニット60に対し独立並列的に接続される配管として、各室内ユニット60を1台の室外ユニット40に対し並列に接続するようにしてもよい。また、以下の説明において、単に液側連絡配管51或いはガス側連絡配管52と表現しているが、この表現には、このように独立並列的に接続される場合を含むものとする。
【0045】
室外ユニット40は、圧縮機41の吐出口と吸入口に対し四路切換弁42を接続するととともに、四路切換弁42の一方の切換ポートを室外熱交換器43及び室外膨張弁44を介し液側連絡配管51に接続するようにしている。この室外膨張弁44としては、従来一般の膨張弁が使用されている。また、四路切換弁42の他方の切換ポートは、ガス側連絡配管52に接続されている。
【0046】
室内ユニット60は、室内熱交換器61と、室内熱交換器61の液側連絡配管51側に接続された室内側膨張弁とを備えたものであって、室内側膨張弁として実施の形態1に係る膨張弁1がそのまま使用されている。因みに,この場合の膨張弁1の接続方法は、実施の形態1の場合と同様に、以降の説明を簡略化するために、下方の冷媒配管接続口6に接続されている冷媒配管6aが液側連絡配管51に接続され、上方の冷媒配管接続口5に接続されている冷媒配管5aが室内熱交換器61に接続されているものとする。また、室内熱交換器61のもう一方は、ガス側連絡配管52に接続されているものとする。
【0047】
このマルチ形ヒートポンプ式空気調和機は、冷房運転時には、四路切換弁42が実線の位置に切り換えられて運転される。また、この冷房運転時には、室外膨張弁44は全開とされるとともに、室内膨張弁、すなわち膨張弁1を減圧作用する絞り弁として機能させるようにしている。
【0048】
冷房運転時は、圧縮機41から吐出された冷媒は、四路切換弁42を経て室外熱交換器43、室外膨張弁44、液側連絡配管51、並列に接続される各室内ユニット60の膨張弁1及び室内熱交換器61、ガス側連絡配管52と順次流通して、四路切換弁42を介して圧縮機41に戻るように構成されている。各膨張弁1は、各室内ユニット60における冷房負荷に対応するように絞り部16の開度が制御される。この結果、室外熱交換器43が凝縮器として作用し、室内熱交換器61が蒸発器として作用するので、各室内ユニット60により各室内空気が冷却される。
【0049】
次に、暖房運転時は、四路切換弁42が破線の位置に切り換えられて運転される。また、この暖房運転時には、室外膨張弁44を高圧液冷媒を減圧する絞り弁として機能させるように作動させるとともに、室内膨張弁、すなわち膨張弁1を、各室内ユニット60における暖房負荷に対応して各室内ユニット60に流れる冷媒循環量を制御する絞り弁として機能させるようにしている。
【0050】
暖房運転時は、圧縮機41から吐出された冷媒は、四路切換弁42を経てガス側連絡配管52、並列に接続される各室内ユニット60の室内熱交換器61及び膨張弁1、液側連絡配管51、室外ユニット40の室外膨張弁44及び室外熱交換器43と順次流通して、四路切換弁42を介して圧縮機41に戻るように構成されている。各膨張弁1は、各室内ユニット60における暖房負荷に対応して冷媒流量を制御するように絞り部17の開度が制御される。この結果、室内熱交換器61が凝縮器として作用し、室外熱交換器43が蒸発器として作用するので、各室内ユニット60により各室内空気が加熱される。
【0051】
本実施の形態に係る膨張弁1は、このように、図4に図示されたマルチ形ヒートポンプ式空気調和機に使用されるような場合には、次のように動作する。
膨張弁1は、冷房運転時には高圧液冷媒を減圧する膨張弁として機能するので、実施の形態1における場合と同様の作用を行い、図1における実線矢印のように冷媒が流通する。すなわち、室外熱交換器43で凝縮液化した冷媒は、液側連絡配管51を経て冷媒配管6aから第2弁室11に流入し、弁孔13を経由して絞り部16で減圧され、第1弁室9を経由して冷媒配管5aから室内熱交換器61の方に流出する。この場合に、絞り部16経由後に従来のように狭い通路を経ることなく広い空間部である第1弁室9に流出するので、絞り部16通過後に従来のように局所的な圧力降下を受けることがなく、キャビテーションの発生が抑制される。したがって、静粛な運転を行うことができる。
【0052】
次に、暖房運転時には、室外膨張弁44が高圧液冷媒を減圧する膨張弁として機能する。したがって、膨張弁1は、3台の室内熱交換器61が並列に接続されている液冷媒回路中に接続された状態にあり、各室内熱交換器61を流通する冷媒循環量を制御する絞り弁として作用する。この場合は、室内熱交換器61を通過した後の液冷媒は、図2に破線矢印で示すように、冷媒配管5aから第1弁室9に流入し、弁孔13を経由して絞り部17で流量制御され、第2弁室11を経由して冷媒配管6aから液側連絡配管51の方に流出する。この場合に、絞り部17経由後に従来のように狭い通路を経ることなく広い空間部である第2弁室11に流出するので、絞り部17の通過後に従来のように局所的な圧力降下を受けることがなく、キャビテーションの発生が抑制される。したがって、静粛な運転を行うことができる。
【0053】
本実施の形態に係る膨張弁は、以上のように構成されているので、実施の形態1における(1)〜(3)の効果を奏することができる。
また、この実施の形態に係るマルチ形ヒートポンプ式空気調和機においては、次の効果を奏することができる。
【0054】
(5)この実施の形態2に係るマルチ形ヒートポンプ式空気調和機は、実施の形態1の膨張弁1が用いられているので、冷暖房いずれの運転においても膨張弁1においてキャビテーションによる騒音が抑制されている。したがって、各室の室内ユニット60を静粛に運転することができる。
【0055】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3に係る膨張弁について、図5及び図6に基づき説明する。
この実施の形態は、実施の形態1において一対のニードル弁を一体的に動作させるための構造を変更したものである。なお、実施の形態1と同一の構成要素には同一の符号を用い、その構成要素の説明を省略又は簡略化するものとする。
【0056】
この実施の形態に係る膨張弁においては、図5及び図6に示すように、第2ニードル弁10の先端の円柱体部10cに対しさらに小径の円柱突起部10dが形成されている。一方第1ニードル弁8のテーパ部8aの先端面には、上記円柱突起部10dを圧入嵌合させるための穴部8cが設けられている。
【0057】
そしてこの実施の形態においては、ニードル弁8,10を弁箱2内に組み込む際に、第1ニードル弁8の穴部8cに対し、第2ニードル弁10の円柱突起部10dを圧入することにより、第1ニードル弁8と第2ニードル弁10とを結合させて、単一のパルスモータにより絞り部16,17の開度を調整できるようにしている。図5は、実施の形態1に係る図1に対応する図面であるので、実線矢印のように下方の冷媒配管接続口6から上方の冷媒配管接続口5へ冷媒が流れるときの図面である。したがって、この図においては、絞り部17は、全開状態にある。なお、この実施の形態に係る発明は、一対のニードル弁8,10の結合構造が要部であるので、前記図2に対応する状態図は省略する。
【0058】
また、この実施の形態においては、図5に示すように、第1ニードル弁8に対し第2ニードル弁10が先端部において結合されているので、実施の形態1におけるようなスプリングばねのような弾性体を第2ニードル弁10の下方に設ける必要がなく、その設置が省略されている。したがって、弾性体の設置を省略できる分、円筒状のガイド壁20の長さを短くすることができる。
【0059】
この実施の形態3に係る膨張弁においては、一対のニードル弁8,10は次のように動作する。
すなわち、膨張弁1においては、円柱状部8bが直結されている図示しないパルスモータを動作させることにより、第1ニードル弁8及び第2ニードル弁10を直接的に動作させることができる。したがって、絞り部16,17の開度は、単一のパルスモータを調整することにより直接的に制御される。
【0060】
実施の形態3に係る膨張弁は、以上のように構成されているので、実施の形態1における(1)の効果に加え、次の効果を奏することができる。
(6)一対のニードル弁8,10は、これらの先端部において圧入により相互に結合される構造であるので、このニードル弁8,10を弁箱2内に組み込む際に上記圧入嵌合を行わせることにより、弁孔13を挟んで2個のニードル弁8,10を結合させることができる。
【0061】
(7)また、一対のニードル弁8,10は、これらの先端部において圧入嵌合により相互に結合されるという簡易な結合構成により、一対のニードル弁8,10を一体的に動作させることができる。
【0062】
また、この実施の形態3に係る膨張弁1を、実施の形態1に係る一体型ヒートポンプ式空気調和機に用いた場合は、実施の形態1における(4)の効果を奏することができる。
(変形例)
本発明は、上記実施の形態において以下のように変形することができる。
【0063】
・実施の形態2に係るマルチ形ヒートポンプ式空気調和機において、実施の形態3に係る膨張弁1を用いるようにしてもよい。
・各実施の形態において、膨張弁1の接続方向を特定しているが、この接続については先にも触れたように逆方向に接続してもよい。なお、この実施の形態において前述のように特定したのは、各図面に付した実線矢印及び破線矢印の意味を整合させるためである。
【0064】
・実施の形態2において、室外膨張弁44としては従来の膨張弁が用いられているが、この膨張弁に対し本実施の形態1又は3に係る膨張弁1を用いるようにしてもよい。但し、この場合室外ユニット40の騒音に関しては、もともと圧縮機などの騒音が大きいことと、屋外における騒音問題に関係することであるので、本発明の膨張弁1を使用することの意味は薄れる。
【0065】
・実施の形態3においては、第1ニードル弁8と第2ニードル弁10とをそれぞれの先端部において圧入嵌合により結合していたが、この圧入嵌合に代えて第2ニードル弁10先端部の円柱突起部10dを第1ニードル弁8に対し螺合させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…膨張弁、2…弁箱、5,6…冷媒配管接続口、7…仕切壁、8…(第1)ニードル弁、8c…穴部、9…(第1)弁室、10…(第2)ニードル弁、11…(第2)弁室、13…弁孔、14,15…弁座、40…室外ユニット、60…室内ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出入り口を成す一組の冷媒配管接続口(5,6)と、これら冷媒配管接続口(5,6)間を連絡する弁箱(2)内の空間部を前後に二分するように仕切る仕切壁(7)と、仕切壁(7)に形成された弁孔(13)と、仕切壁(7)における弁孔(13)の両側に形成された弁座(14,15)と、仕切壁(7)を挟んで両側に形成された弁室(9,11)と、各弁室(9,11)に配置された一対の、弁座(14,15)に対向する部分が先細に形成されたニードル弁(8,10)とを有し、
前記一対のニードル弁(8,10)は、同軸に配置されるともに前記弁孔(13)を挟んで対称的に一体的に動作するように形成され、さらに、一方のニードル弁(8又は10)が絞り作用を行うときには、他方のニードル弁(10又は8)が全開状態に保持されるように構成されている
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
請求項1に記載の膨張弁において、
前記一対のニードル弁(8,10)は、一方のニードル弁(8)がパルスモータにより前記弁座(14,15)に対し進退するように構成されるとともに、
他方のニードル弁(10)は、その先端部が前記一方のニードル弁(8)の先端部に対し弾性的に常時押し付けられるように取り付けられている
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項3】
請求項1に記載の膨張弁において、
前記一対のニードル弁(8,10)は、一体的に動作可能となるように、両者の先端部で互いに結合されている
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項4】
請求項3に記載の膨張弁において、
前記一対のニードル弁(8,10)は、一方のニードル弁(10)の先端部が他方のニードル弁(8)に形成された穴部(8c)に圧入嵌合されて結合されている
ことを特徴とする膨張弁。
【請求項5】
冷房運転時と暖房運転時とで冷媒を可逆に流通させることにより、膨張弁が冷暖房兼用の絞り弁として使用されてなるヒートポンプ式空気調和機であって、
前記膨張弁として請求項1〜4のいずれか1項に記載の膨張弁が使用されている
ことを特徴とするヒートポンプ式空気調和機。
【請求項6】
請求項5に記載のヒートポンプ式空気調和機において、
このヒートポンプ式空気調和機は、1台の室外ユニット(40)に対し複数台の室内ユニット(60)が並列に接続されたものであって、
前記膨張弁は、各室内ユニット(60)における室内熱交換器の液管側に接続されるとともに、冷房運転時は減圧弁として機能し、暖房時は各室内ユニット(60)に流通する冷媒循環量を制御する流量制御弁として機能するように構成されている
ことを特徴とするヒートポンプ式空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−159180(P2012−159180A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20941(P2011−20941)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】