説明

膵臓疾患で差次的に発現されるマイクロRNAおよびその使用

本発明は、膵臓疾患などの特定の状態のmiRNAプロファイルを同定するため、および患者の状態の評価において該プロファイルを使用するための方法および組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により全体が本明細書に組み入れられる、2006年9月19日に出願された「MicroRNAs differentially expressed in pancreatic diseases and uses thereof」と題する米国仮特許出願第60/826,173号の優先権を主張する。
【0002】
I. 発明の分野
本発明は一般に分子生物学の分野に関する。より具体的には本発明は、マイクロRNA(miRNA)分子を含む方法および組成物に関する。本発明のある局面は、膵臓癌の診断、処置、および予後予測におけるmiRNAの応用を含む。
【背景技術】
【0003】
II.背景
2001年に複数のグループがクローニング法を使用して、線虫(C. elegans)、ショウジョウバエ(Drosophila)、ならびにヒトから多数の「マイクロRNA」(miRNA)を単離および同定した(Lagos-Quintana et al., 2001;Lau et al., 2001;Lee and Ambros, 2001)。内因性のsiRNAを有しないようである数百種類のmiRNAが、植物および動物(ヒトを含む)で同定されている。したがって、siRNAに似ているものの、miRNAは異なる。
【0004】
これまで同定されたmiRNAは、長さが約21〜22ヌクレオチドであり、非タンパク質コード遺伝子から転写される、より長い前駆体から生じる。これについては、Carrington et al.(2003)の総説を参照されたい。前駆体は、自己相補的な領域内で自然に折りたたまれる構造を形成し;次に、動物ではヌクレアーゼであるダイサーまたは植物ではDCL1によるプロセシングを受ける。miRNA分子は、標的との正確または不正確な塩基対合によって翻訳を妨げる。
【0005】
多くのmiRNAが多様な生物体で保存されており、miRNAが生物体の寿命を通じて不可欠な生物学的過程に関与することが示唆されている(Esquela-Kerscher and Slack, 2006)。特にmiRNAは、細胞の成長ならびに細胞および組織の分化;癌の発生に関連する細胞過程の調節に関連づけられている。例えば、lin-4およびlet-7はいずれも、線虫の発生中の1つの幼虫段階から別の段階への移行を調節している(Ambros, 2001)。miR-14およびbantamは、おそらくアポトーシスに関与する遺伝子の発現を調節することで細胞死を調節するショウジョウバエのmiRNAである(Brennecke et al., 2003, Xu et al., 2003)。
【0006】
miRNAに関する研究は、このような分子が真核生物の遺伝子発現の調節に果たす広い役割を研究者が理解し始めるのに伴って増えている。特に、最近の複数の研究では、数多くのmiRNAの発現レベルがさまざまな癌と関連することが報告されている(Esquela-Kerscher and Slack, 2006の総説)。2種類のmiRNAの発現の低下はヒトの慢性リンパ性白血病と強く相関し、miRNAと癌が関連する可能性を示唆している(Calin et al., 2002)。多数のヒト癌における多数のmiRNAの発現パターンを評価して、数多くの癌のタイプのほぼ全てのmiRNAが差次的に発現されることを観察した研究者もいる(Lu et al., 2005)。このような研究の大半では、miRNAと癌は間接的な証拠によってのみ関連づけられている。対照的に、miRNAが癌の発生に直接的に寄与する可能性があるという、より直接的な証拠を示しているのは1つの研究だけである。He et al. (2005)は、マウスで6種類のmiRNAを強制的に過剰発現させることによって、B細胞リンパ腫が有意に増えることを明らかにしている。
【0007】
膵臓癌は、特に診断および処置の困難な疾患である。米国では年に約33,000人が膵臓の腺癌であると診断されており、年に約32,000人が膵臓癌によって死亡している(Jemal et al., 2006)。膵臓癌は、米国における癌による死因の第4位であり、5年生存率(約4%)は全ての癌のなかで最低である(Jemal et al., 2006)。
【0008】
現在、膵臓癌の有効な診断法および/または治療法は存在しない(Monti et al., 2004)。化学療法と放射線療法の併用は患者を延命可能であるが;手術による膵臓の一部または全体の除去のみが、膵臓癌の可能性のある治癒につながっている。この通常は難治性の疾患に対処するためには、他の診断法および治療的介入が求められている。
【0009】
慢性膵炎と膵臓癌を区別することは極めて困難な場合がある。症状は非特異的な場合が多く、黄疸、体重減少、および痛み(bruising)に限られる。慢性膵炎(非癌性状態)の多くの患者が、大半が導管上皮(ductal epithelium)の腺癌(Freelove and Walling, 2006)、すなわち膵管腺癌(PDAC)である膵臓癌の患者と同じ症状を示す。特定のタンパク質の血清レベルは、膵臓の腺癌を示唆する場合があるが診断には至らず;また血清腫瘍マーカーCA 19-9は、膵臓癌の診断の確定に役立つ場合はあるものの、患者のスクリーニングツールとしては無効である(Freelove and Walling, 2006)。膵臓全般の状態を評価可能で、かつ特に慢性膵炎と膵臓腺癌を識別可能な他の診断アッセイ法が求められている。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、正常な膵臓、非癌性の疾患膵臓、および膵臓癌(例えば膵管腺癌(PDAC))を含むがこれらに限定されないさまざまな状態の疾患組織、正常組織、癌性組織、および/または異常な組織で差次的に発現されるかまたは誤調節されるmiRNAを同定することで、当技術分野におけるこれらの問題を克服する。さらに本発明は、患者由来の試料中の特定のmiRNAのレベル(上昇または低下)の決定に基づく、膵臓癌および慢性膵炎を含むがこれらに限定されない疾患組織、正常組織、癌性組織、および/または異常な組織を診断する方法について記載する。本発明は、生物学的試料中のmiRNAの発現または発現の欠損(誤調節)による影響を受けると発明者らが想定する遺伝子についても記載する。試料は、PDACまたは慢性膵炎を有するか、またはこれらを有することが疑われる患者、または一方もしくは他方の状態を有することが疑われる患者を含むがこれらに限定されない患者から得られ、および/または解析される。これらの遺伝子およびその調節経路は、miRNAによるその発現の調節による治療的介入の標的となる。
【0011】
「miRNA」という語句は、その一般的な意味および単純な意味で使用され、真核生物に見られるRNAによる遺伝子調節に関与するマイクロRNA分子を意味する。これについては例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Carrington et al., 2003を参照されたい。この語句を用いて、前駆体からプロセシングを受けた1本鎖RNA分子を意味する。個々のmiRNAは、さまざまな生物体で同定されて配列が決定されており、かつ命名されている。本発明に関連するmiRNAおよびその配列の名称を本明細書に記載する。方法および組成物は、本出願に記載するmiRNAに制限されるべきではなく、本発明を必ずしも制限しない例として提供される。
【0012】
本発明の「合成核酸」は、核酸が天然の核酸の化学的構造または配列を有さないことを意味すると理解されたい。したがって、「合成miRNA」という語句は、細胞中で、または生理学的な条件で、天然のmiRNAと同様に機能する「合成核酸」を意味すると理解される。
【0013】
本発明の多くの態様は、合成miRNAまたは合成核酸に関与するが、本発明のいくつかの態様では、核酸分子は「合成」である必要はない。ある態様では、本発明の方法および組成物で使用される非合成のmiRNAは、天然のmiRNA前駆体または成熟miRNAの全体の配列および構造を有する場合がある。例えば、本発明の方法および組成物に使用される非合成miRNAは、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体を有さない場合がある。これらの態様では非合成miRNAは、組換え的に作製される場合もあれば組換え的に作製されない場合もある。特定の態様では、本発明の方法および/または組成物における核酸は、特に合成miRNAであり、非合成miRNA(すなわち「合成」であると認定されるmiRNAではない)ではないが;他の態様では本発明は特に非合成miRNAを含み、合成miRNAを含まない。合成miRNAの使用に関して説明された任意の態様は、非合成miRNAにあてはまり、逆もまた可能である。
【0014】
「天然の」という語句は、ヒトによる任意の介入なく生物体に見出されるものを意味し;天然の野生型または変異型の分子を意味する場合があると理解される。いくつかの態様では、合成miRNA分子は、天然のmiRNA分子の配列を有さない。他の態様では、合成miRNA分子は、天然のmiRNA分子の配列を有する場合があるが、特に部分的には正確な配列とは関連性のない分子の化学的構造(非配列化学的構造)は、そのような配列を有する天然のmiRNA分子の化学的構造とは異なる。場合によっては、合成miRNAは、天然のmiRNA中には見出されない配列と非配列の化学的構造の両方を有する。さらに合成分子の配列は、どのmiRNAが有効に提供されるかまたは阻害されるかを明らかにし;内因性のmiRNAは、「対応するmiRNA」と呼ばれる。本発明で使用可能な対応するmiRNA配列は、SEQ ID NO:1〜350のこのような配列、および他の任意のmiRNA配列、miRNA前駆体配列、またはこれらに相補的な任意の配列の、全体または一部を含むがこれらに限定されない。いくつかの態様では、配列は、ともに使用可能な特定のmiRNA(もしくは一群のmiRNA)を標的とする、以下の表1に記載した配列の全体もしくは一部であるか、または同配列に由来するか、または同配列を含む。
【0015】
いくつかの態様では、細胞が特定のmiRNAを内因的に発現するか否か、または特定の条件下または特定の疾患状態にある場合にこのような発現が影響を受けるか否かを知ることが、有用な場合がある。したがって、本発明のいくつかの態様では、本方法は、細胞または細胞を含む試料を、1種または複数種のmiRNAの存在に関して検討する段階を含む。したがって、いくつかの態様では、本方法は、試料のmiRNAプロファイルを作成する段階を含む。「miRNAプロファイル」という語句は、試料中の複数のmiRNA(例えば表1の1種または複数種のmiRNA)の発現パターンに関する一連のデータを意味し;miRNAプロファイルは、一連のmiRNAを使用して、例えば当業者に周知の核酸の増幅法またはハイブリダイゼーション法で得られる場合があることが想定される。
【0016】
本発明のいくつかの態様では、miRNAプロファイルは、以下を含む段階によって作成される:(a)試料中のmiRNAを標識すること;(b)miRNAをいくつかのプローブにハイブリダイズさせる、またはいくつかのmiRNAを増幅すること、および(c)プローブに対するmiRNAのハイブリダイゼーションを判定する、またはmiRNAの増幅産物を検出すること;ここでmiRNAプロファイルが作成される。これについては、いずれも参照により本明細書に組み入れられる、米国仮特許出願第60/575,743号および米国仮特許出願第60/649,584号、ならびに米国特許出願第11/141,707号を参照されたい。
【0017】
本発明の方法は、miRNAの発現プロファイルを元に患者を診断する段階を含む。ある態様では、細胞中の特定のmiRNAまたは一群のmiRNAの発現レベルの上昇または低下は、正常細胞中のmiRNAまたは一群のmiRNAの発現レベルと比較して疾患状態と相関する。この相関によって、評価されかつ正常細胞の発現レベルに対して比較される生物学的試料中のmiRNAの発現レベルが測定される場合、診断法の実施が可能となる。本出願で論じられる任意のまたは一群のmiRNAを評価することにより、患者、特に膵炎または膵臓癌などの特定の疾患または状態を有することが疑われる患者の、miRNAプロファイルが作成可能なことが特に想定される。患者から作成されるmiRNAプロファイルは、特定の疾患または状態に関する情報を提供するmiRNAプロファイルの1つとなる。多くの任意の態様では、miRNAプロファイルは、miRNAのハイブリダイゼーションまたは増幅(例えばアレイハイブリダイゼーションまたはRT-PCR)によって作成される。ある局面では、miRNAのプロファイルは、血清のタンパク質プロファイル、例えばCA19-9の検出などの他の診断検査とともに使用可能である。
【0018】
本発明の態様には、患者に由来する試料中の1種または複数種のmiRNAの発現プロファイルを測定する段階を含む、患者の状態の診断法および/または評価法が含まれる。患者に由来する試料の発現プロファイルと、正常試料すなわち非病原性試料に由来する発現プロファイルなどの標準的な発現プロファイルとの差は、病的な疾患または癌性状態を意味する。対応するmiRNAのセグメントを含むか、または同定するmiRNAまたはプローブセットは、以下の表1に列挙するmiRNAまたはプローブの

または任意の整数もしくはこれらの間から導かれる範囲の全てまたは一部を含むことができる。
【0019】
ある局面では、患者の状態を診断する方法は、患者に由来する試料中の1種または複数種のmiRNAの発現プロファイルを測定する段階を含み、患者に由来する試料の発現プロファイルと正常試料の発現プロファイルの差は病理学的状態を意味し;miRNAは、

の1つまたは複数である。
【0020】
さらなる局面では、miRNAは、

の1つまたは複数である。
【0021】
本発明のなおさらなる局面では、miRNAは、miR-196a、miR-217、またはmiR-196aとmiR-217の両方である。
【0022】
本発明の態様は、1種または複数種のmiRNAの発現の差が膵炎を意味する方法を含み、miRNAは、

の1つまたは複数である。
【0023】
ある局面では、患者試料中の1種または複数種のmiRNAの発現の上昇は膵炎を意味し、miRNAは、

の1つまたは複数である。
【0024】
さらなる局面では、患者試料中の1種または複数種のmiRNAの発現の低下は膵炎を意味し、miRNAは、

の1つまたは複数である。
【0025】
なおさらなる局面では、1種または複数種のmiRNAの発現の差は膵臓癌を意味し、miRNAは、

の1つまたは複数である。
【0026】
ある局面では、1種または複数種のmiRNAの発現の上昇は膵臓癌を意味し、miRNAは、

の1つまたは複数である。
【0027】
さらなる局面では、1種または複数種のmiRNAの発現の低下は膵臓癌を意味し、miRNAは、

の1つまたは複数である。
【0028】
なお別の局面では、膵炎は、

の1つまたは複数の発現の差によって膵臓癌と区別される。
【0029】
試料は、疾患もしくは病理学的状態を有するか、または有することが疑われる患者から採取することができる。ある局面では試料は、組織(例えば生検、特に穿刺生検)試料、血液試料、血清試料、血漿試料、または膵液試料の場合があるが、これらに限定されない。試料は、新鮮な試料、凍結した試料、固定した試料(例えばホルマリン固定した試料)、または包埋した試料(例えばパラフィン包埋した試料)であり得る。特定の局面では、試料は膵臓試料であってよい。
【0030】
本発明の方法で、病理学的状態を診断または評価することができる。ある局面において状態は、膵炎または慢性膵炎などの非癌性状態である。他の局面において状態は、膵臓癌および特に膵管腺癌(PDAC)などの癌性状態である。
【0031】
本方法は、以下を含む1つもしくは複数の段階をさらに含むことができる:(a)患者から試料を得る段階、(b)試料から核酸を単離する段階、(c)試料から単離された核酸を標識する段階、および(d)標識された核酸を1種または複数種のプローブとハイブリダイズさせる段階。本発明の核酸は、表1の1種または複数種のmiRNA配列の配列または相補的配列を有する少なくとも1つのセグメントを含む1種または複数種の核酸を含む。ある局面では、核酸は、表1に列挙した1種または複数種のmiRNAを同定する。本発明の核酸は典型的に、支持体に結合される。このような支持体は当業者に周知であり、ガラス、プラスチック、金属、またはラテックスを含むがこれらに限定されない。本発明の特定の局面では、支持体は平面状か、またはビーズの形状、または他の幾何学的形状もしくは配置を取ることができる。
【0032】
本発明のある態様は、変形形態が当業者に周知の増幅アッセイ法またはハイブリダイゼーションアッセイ法で、1種または複数種のmiRNAの発現を判定する段階を含む。ある局面では、増幅アッセイ法は、定量的RT-PCRまたは他の手法などの定量的増幅アッセイ法の場合がある。さらに別の局面では、ハイブリダイゼーションアッセイ法は、アレイハイブリダイゼーションアッセイ法または溶液ハイブリダイゼーションアッセイ法を含むことができる。
【0033】
本発明の局面で、患者の状態を診断または評価することができる。例えば、本方法を用いて、病理学的状態のスクリーニング、病理学的状態の予後の評価、病理学的状態の病期の決定、または処置に対する病理学的状態の反応の評価を実施することができる。
【0034】
本発明の態様は、細胞に導入した場合、内因性のmiRNAの活性を示すかまたは内因性のmiRNAを阻害する核酸に関する。ある局面では、核酸は合成miRNAまたは非合成miRNAである。配列特異的なmiRNA阻害因子を使用して、細胞内の1種または複数種の内因性のmiRNAの活性を、内因性のmiRNAによる調節を受ける遺伝子および関連経路と同様に、連続的にまたは組み合わせて阻害することができる。
【0035】
本発明は、いくつかの態様において、細胞内でmiRNAとしてまたはmiRNA阻害因子として機能する短い核酸分子に関する。「短い」という語句は、1本のポリヌクレオチドの長さが、全ての整数または間にある範囲を含む25、50、100、もしくは150ヌクレオチド、またはこれ未満であることを意味する。
【0036】
核酸分子は典型的に合成的である。「合成」という語句は、核酸分子が単離されており、かつ配列(配列全体)および/または化学的構造が、内因性の前駆体miRNA分子もしくはmiRNA分子などの天然の核酸分子と同一ではないことを意味する。いくつかの態様では、本発明の核酸は、天然の核酸の配列と同一な配列の全体を有さないが、このような分子は、天然の配列の全体または一部を含むことができる。しかしながら、細胞に投与された合成核酸は後に、その構造または配列が、成熟miRNAの配列などの非合成または天然の核酸と同じとなるように、細胞内で修飾または改変され得ることが想定される。例えば合成核酸は、前駆体miRNAの配列とは異なる配列を有する場合があるが、そのような配列は細胞内に入ると、内因性のプロセシングを受けるmiRNAと同じように変化する場合がある。「単離された」という語句は、単離される核酸の集団が、少なくとも約90%相同であり、かつ他のポリヌクレオチド分子に対して少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または100%相同となり得るように、本発明の核酸分子が、(配列もしくは構造に関して)異なりかつ望ましくない核酸分子から、最初に分離されることを意味する。本発明の多くの態様では、核酸は、インビトロで合成して細胞内の内因性の核酸から分離することによって、単離される。しかしながら、単離された核酸は後に、あわせて混合またはプールしてもよいことが理解されよう。
【0037】
ある局面では、本発明の合成miRNAは、RNAまたはRNA類似体である。miRNA阻害因子は、DNAもしくはRNA、またはこれらの類似体であってよい。本発明のmiRNAおよびmiRNA阻害因子は、集合的に「合成核酸」と呼ばれる。
【0038】
いくつかの態様では、合成miRNAは17〜130残基の長さを有する。本発明は、任意の整数もしくはこれらの間の任意の範囲を含む、以下の長さもしくはそれ以上の、少なくとも以下の長さもしくはそれ以上の、または最長で以下の長さもしくはそれ以上の、合成miRNA分子に関する。

【0039】
ある態様では、合成miRNAは、(a)配列が5'→3'の方向で成熟miRNA配列の全体または一部と同一な「miRNA領域」と、(b)配列が5'→3'の方向でmiRNA配列と60%〜100%相補的な「相補領域」とを有する。ある態様では、これらの合成miRNAも上記の手順で単離される。「miRNA領域」という語句は、成熟した天然のmiRNA配列の配列全体と、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、または100%(間に含まれる全ての整数を含む)が同一な合成miRNA上の領域を意味する。ある態様では、miRNA領域は天然のmiRNAの配列と、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、もしくは100%が同一であるか、または少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、もしくは100%が同一である。
【0040】
「相補領域」という語句は、miRNA領域が同一である成熟した天然のmiRNA配列と60%相補的であるか、または少なくとも60%相補的である合成miRNAの領域を意味する。相補領域は、

、またはこれらから導かれる任意の範囲と相補的であるか、または少なくとも相補的である。1本のポリヌクレオチド配列には、miRNA領域と相補領域との化学的な結合の結果としてヘアピンループ構造が存在する。他の態様では、相補領域はmiRNA領域とは異なる核酸分子上に存在し、この場合、相補領域は相補鎖上に存在し、miRNA領域は活性鎖上に存在する。
【0041】
本発明の他の態様では、合成核酸はmiRNA阻害因子である。miRNA阻害因子は約17〜25ヌクレオチドの長さであり、かつ成熟miRNAの5'→3'配列に対して少なくとも90%が相補的な5'→3'配列を含む。ある態様では、miRNA阻害因子分子は、17、18、19、20、21、22、23、24、もしくは25ヌクレオチドか、またはこれらの間の任意の範囲の長さである。さらにmiRNA阻害因子は、成熟miRNA、特に成熟した天然のmiRNAの5'→3'配列に対して、以下またはこれらの間の任意の範囲の割合が相補的かまたは少なくとも相補的な配列(5'→3')を有する:90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%、または100%。miRNAに対するプローブ配列を表1に示す。当業者であれば、miRNA阻害因子に対する配列として、成熟miRNAの配列に相補的なプローブ配列の一部を使用することができるであろう。表1は、miRNAの成熟配列を示す。さらに、核酸配列の一部を、成熟miRNAの配列に対して90%の相補性を保持するように改変することができる。
【0042】
本発明のいくつかの態様では、合成miRNAは、1種または複数種の設計エレメントを含む。このような設計エレメントは、以下を含むがこれらに限定されない:(i)相補領域の5'端におけるヌクレオチドのリン酸またはヒドロキシルの置換基;(ii)相補領域の先頭または末端の1〜6残基中の1か所もしくは複数の糖修飾;または(iii)相補領域の3'端の末端の1〜5残基中の1つもしくは複数のヌクレオチドと、miRNA領域の対応するヌクレオチド間の非相補性。
【0043】
ある態様では、合成miRNAは、その相補領域の5'端に、リン酸基および/またはヒドロキシル基が別の化学基と置換されたヌクレオチドを有する(「置換設計」と呼ばれる)。場合によっては、リン酸基が置換される一方で、他方ではヒドロキシル基が置換される。特定の態様では、置換基は、ビオチン、アミン基、低級アルキルアミン基、アセチル基、2'O-Me(2'酸素-メチル)、DMTO(酸素が付加した4,4'-ジメトキシトリチル)、フルオレセイン、チオール、またはアクリジンであるが、他の置換基が当業者に周知であり、同様に使用することができる。この設計エレメントは、miRNA阻害因子についても使用することができる。
【0044】
他の態様は、相補領域の先頭または末端の1〜6残基中に1か所もしくは複数の糖修飾を有する合成miRNAに関する(「糖置換設計」と呼ばれる)。場合によっては、1か所もしくは複数の糖修飾が、相補領域の先頭の1残基、2残基、3残基、4残基、5残基、6残基、もしくはこれ以上の残基、またはこれらの間の任意の範囲中に存在する。場合によっては、1か所もしくは複数か所の糖修飾は、相補領域の末端の1残基、2残基、3残基、4残基、5残基、6残基、もしくはこれ以上の残基、またはこれらの間の任意の範囲が糖修飾を有する。「先頭」および「末端」という語句は、領域の5'端から3'端への残基の順序に関すると理解されたい。特定の態様では、糖修飾は2'O-Me修飾である。さらなる態様では、1か所もしくは複数か所の糖修飾が、相補領域の先頭もしくは末端の2〜4残基中、または相補領域の先頭または末端の4〜6残基中に存在する。この設計エレメントは、miRNA阻害因子についても使用することができる。したがって、miRNA阻害因子は、上記のように、この設計エレメントおよび/または置換基を5'端のヌクレオチド上に有することができる。
【0045】
本発明の他の態様では、相補領域の3'端の末端の1〜5残基中の1つもしくは複数のヌクレオチドが、miRNA領域の対応するヌクレオチドに対して相補的ではない(「非相補的」)合成miRNAが存在する(「非相補的設計」と呼ばれる)。非相補性は、相補的なmiRNAの末端の1残基、2残基、3残基、4残基、および/または5残基中に存在する場合がある。ある態様では、相補領域中の少なくとも2ヌクレオチドとの間に非相補性が存在する。
【0046】
本発明の合成miRNAは、置換設計、糖修飾設計、または非相補的設計の1つもしくは複数を有することが想定される。場合によっては、合成RNA分子はこれらの2つを適所に有し、別の場合は、これらの分子は3つ全ての設計を適所に有する。
【0047】
miRNA領域および相補領域は、同じポリヌクレオチド上または別のポリヌクレオチド上に存在してもよい。これらが同じポリヌクレオチド上または同じポリヌクレオチド中に含まれる場合は、miRNA分子は1本のポリヌクレオチドであると見なされることになる。異なる領域が別のポリヌクレオチド上に存在する態様では、合成miRNAは2本のポリヌクレオチドを含むと見なされることになる。
【0048】
RNA分子が1本のポリヌクレオチドの場合は、miRNA領域と相補領域の間にリンカー領域が存在する。いくつかの態様では、1本のポリヌクレオチドは、miRNA領域と相補領域の結合の結果としてヘアピンループ構造を形成可能である。リンカーはヘアピンループを含む。いくつかの態様では、リンカー領域は、以下の長さ、少なくとも以下の長さ、もしくは最長で以下の長さ、またはこれらの間の任意の範囲の長さであることが想定される:2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40残基。ある態様では、リンカーは3〜30残基(3および30を含む)の長さである。
【0049】
miRNAおよび相補領域を有することに加えて、領域の5'端または3'端のいずれかに隣接する配列が存在する場合もある。いくつかの態様では、以下の長さもしくは少なくとも以下の長さ、またはこれらの間の任意の範囲のヌクレオチドが、これらの領域の片側または両側に隣接する:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10ヌクレオチド、もしくはこれ以上。
【0050】
本発明の方法は、miRNA阻害因子を細胞に導入することを含む細胞内の1種または複数種のmiRNAの活性を低下させるかまたは除去する段階、または細胞内の1種もしくは複数種のmiRNAの活性を提供もしくは促進する段階を含む。本発明は、特異的な合成miRNA分子または合成miRNA阻害因子分子などの特定の核酸を細胞に提供することによって、特定の細胞の特徴を誘導することにも関する。しかしながら、本発明の方法では、miRNA分子またはmiRNA阻害因子は合成的である必要はない。これらは、天然のmiRNAと同一の配列を有してもよく、または任意の設計修飾を有さなくてもよい。ある態様では、miRNA分子および/またはmiRNA阻害因子は、上述したように合成的である。
【0051】
細胞に提供される特定の核酸分子は、細胞内の特定のmiRNAに対応すると理解され、したがって細胞内のmiRNAは、「対応するmiRNA」と呼ばれる。指定のmiRNA分子が細胞中に導入される状況では、対応するmiRNAは、誘導されるmiRNAであると理解されることになる。しかしながら、細胞中に導入されたmiRNA分子は、成熟miRNAではなく、適切な生理学的な状態で成熟miRNAとなることが可能なことが想定される。特定の対応するmiRNAがmiRNA阻害因子によって阻害される場合は、特定のmiRNAは、標的化miRNAと呼ばれることになる。多数の対応するmiRNAが関与してもよいことが想定される。特定の態様では、複数のmiRNA分子が細胞中に導入される。さらに他の態様では、複数のmiRNA阻害因子が細胞中に導入される。さらに、miRNA分子とmiRNA阻害因子の組み合わせを細胞中に導入してもよい。
【0052】
本方法は、そのような細胞の特徴の誘導を必要とする細胞または患者を同定する段階を含む。また、細胞または生物体に提供される合成核酸の量が、特定の細胞の特徴の誘導など、望ましい目的を達成するのに必要な量を意味する「有効量」であることが理解されるであろう。
【0053】
本発明のある態様は、細胞内の成熟miRNAに対応する核酸分子を、所望の生理学的な結果を達成するのに有効な量で細胞に提供または導入する段階を含む。
【0054】
さらに本方法は、合成miRNA分子または非合成miRNA分子を提供する段階を含むことができる。これらの態様では、本方法は、1種のみもしくは複数種の合成miRNA分子、または1種のみもしくは複数種の非合成miRNA分子の提供に制限されてもよくまたはされなくてもよいことが想定される。したがって、ある態様では、本方法は、合成miRNA分子と非合成miRNA分子の両方を提供する段階を含むことができる。この状況では、細胞または細胞群は、特定のmiRNA分子に対応する合成miRNA分子、および異なるmiRNA分子に対応する非合成miRNA分子が提供される可能性が極めて高い。さらに、マーカッシュ群の表現を使用するmiRNAのリストで表現される任意の方法は、マーカッシュ群の表現およびその代わりに離接的な項目(disjunctive article)(すなわち、または)なしに表現されてもよく、その逆もあり得る。
【0055】
いくつかの態様では、有効量の(i)miRNA阻害因子分子、または(ii)miRNA配列に対応する合成miRNA分子もしくは非合成miRNA分子を細胞中に導入するか、または細胞に提供する段階を含む、細胞の細胞増殖を低下させるまたは阻害する方法が存在する。ある態様では、本方法は、表1の1種または複数種の成熟miRNAの5'→3'配列に少なくとも90%相補的な5'→3'配列を有するmiRNA阻害因子分子(i)の有効量を細胞に導入する段階を含む。
【0056】
本発明のある態様は、膵臓状態を処置する方法を含む。1つの局面では、本方法は、1種または複数種の核酸、合成miRNA、またはmiRNA配列の全体または一部を有する少なくとも1種類の核酸セグメントを含むmiRNAを、膵臓細胞に接触させる段階を含む。セグメントは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30ヌクレオチド、もしくはこれ以上、またはこれらの間の全ての整数を含むヌクレオチドまたはヌクレオチド類似体であってよい。本発明の局面は、膵臓細胞などの標的細胞内のmiRNAまたはmRNAの調節を含む。
【0057】
典型的には、内因性の遺伝子、miRNA、またはmRNAは細胞内で調節される。特定の態様では、核酸配列は、核酸配列中の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%が、表1に列挙した1種または複数種のmiRNAの配列と同一な、少なくとも1つのセグメントを含む。内因性の遺伝子、miRNA、またはmRNAの発現またはプロセシングの調節は、細胞内の転写、輸送、および/または翻訳を含むプロセシングなど、mRNAのプロセシングの調節を介する場合がある。調節は、細胞、組織、または器官内のmiRNA活性の阻害または増強によって実行されてもよい。このようなプロセシングは、コードされた産物の発現またはmRNAの安定性に影響を及ぼす可能性がある。さらに他の態様では、核酸配列は、修飾された核酸配列を含むことができる。
【0058】
特定の態様では、膵臓細胞は、膵管腺癌細胞などの膵臓癌細胞である。本発明の本方法は、化学療法、放射線療法、手術、または免疫療法などの第2の処置を実施する段階をさらに含むことができる。核酸は、プラスミドベクターまたはウイルスベクターなどの核酸ベクターから転写され得る。
【0059】
膵臓状態を処置する方法は、miRNA配列を含む1種または複数種の核酸を膵臓細胞に接触させる段階、または投与する段階を含み、内因性のmiRNAの発現は膵臓細胞内で調節され、miRNA配列は少なくとも、

の1つまたは複数と70%、75%、80%、85%、またはそれ以上が同一である。
【0060】
ある局面では、1種または複数種のmiRNA配列は、修飾された核酸塩基または核酸配列を含むかまたは包含してもよい。
【0061】
他の局面では、膵臓細胞は膵臓癌細胞である。
【0062】
本方法は、第2の処置を実施する段階をさらに含むことができる。第2の処置は、化学療法、放射線療法、手術、または免疫療法の場合があるが、これらに限定されない。
【0063】
なおさらなる局面では、1種または複数種のmiRNAは、プラスミドまたはウイルスベクターなどの核酸ベクターから転写される。
【0064】
本発明の態様は、

に対して少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを有する、有効量の1種または複数種の合成miRNA分子または阻害因子を、対象に投与する段階を含む、対象の膵管腺癌を処置する方法を含む。
【0065】
ある局面では、対象には以下が投与される:

に対して少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを有する1種または複数種のmiRNA阻害因子;および/または

と少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを有する1種または複数種のmiRNA。
【0066】
他の局面では、対象の慢性膵炎を処置する方法は、

と少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを含む、有効量の1種または複数種の合成miRNA分子またはmiRNA阻害因子を、対象に投与する段階を含む。
【0067】
なおさらなる局面では、対象には、

に対して少なくとも80%の核酸配列の同一性を有する核酸セグメントを有する1種または複数種のmiRNA阻害因子;および/または

に対して少なくとも80%の核酸配列の同一性を有する核酸セグメントを有する1種または複数種のmiRNAが、投与される。
【0068】
合成核酸を対象または患者に、特に治療的応用のために、当業者に周知の投与様式を用いて投与することができる。患者はヒトか、またはmiRNAを有する他の任意の哺乳動物もしくは動物であることが特に想定される。
【0069】
本発明の方法では、一旦細胞内に入ると対応するmiRNAとして機能する核酸分子を、細胞もしくは生物体に投与することによって、細胞または生物体(患者を含む)など他の生物学的物質が、miRNA分子、または特定のmiRNAに対応するmiRNA分子を提供できることが理解されよう。細胞に提供される分子の形状は、細胞内ではmiRNAとして作用する形状ではなくてもよい。したがって、いくつかの態様では、生物学的物質は、細胞のmiRNAプロセシング装置に接近するとプロセシングを受けて成熟および活性miRNAとなるように、合成miRNAまたは非合成miRNAを提供できることが想定される。ある態様では、生物学的物質に提供されるmiRNA分子は成熟miRNA分子ではなく、miRNAプロセシング装置に接近するとプロセシングを受けて成熟miRNAとなり得る核酸分子であることが特に想定される。miRNAに関して「非合成」という語句は、miRNAが本明細書で定義されるような「合成」ではないことを意味する。さらに、合成miRNAの使用に関する本発明の態様では、対応する非合成miRNAの使用も本発明の局面であると見なされることが想定され、逆もまた可能である。
【0070】
他の態様では、本方法は、有効量の(i)miRNA阻害因子分子、または(ii)miRNA配列に対応する合成もしくは非合成のmiRNA分子を、細胞内に導入するまたは細胞に提供することを含む、細胞の生存能を低下させる段階を含む。アポトーシスを誘導する方法は、癌の処置を含むがこれに限定されないいくつかの治療的応用を有する。
【0071】
本発明は、疾患もしくは状態を処置するための、または疾患の処置もしくは状態の治療薬を調製するための、miRNA組成物の使用にも関する。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、もしくは40種、またはそれ以上(またはこれらの間の任意の範囲)のmiRNAを、これらの態様に使用可能なことが想定される。ある態様では、本方法は、特に癌の処置もしくは予防用の1種もしくは複数種のmiRNA阻害因子、および/またはこれらの任意のmiRNAに対応するmiRNA分子を含む。癌は、悪性の癌、腫瘍、転移性の癌、切除不能な癌、化学療法および/または放射線療法に耐性を示す癌、ならびに末期癌を含むが、これらに限定されない。
【0072】
miRNAの一般的な記載が、特に明記した部分を除いて、その遺伝子ファミリーの任意の成員(数字によって区別される)を意味するように、簡単な表記法が使用されることが理解されるであろう。当業者であれば、「遺伝子ファミリー」が、同じmiRNAのコード配列を有する一群の遺伝子を意味することを理解する。典型的には、遺伝子ファミリーの成員は、イニシャル表示に続く数字によって同定される。例えば、miR-16-1およびmiR-16-2は、miR-16遺伝子ファミリーの成員であり、ならびに「miR-7」は、miR-7-1、miR-7-2、およびmiR-7-3を意味する。さらに、特に明記した部分を除いて、簡便な表記法は関連するmiRNA(文字で区別される)を意味する。したがって、「let-7」は例えば、let-7a-1、let7-a-2、let-7b、let-7c、let-7d、let-7e、let-7f-1、およびlet-7f-2を意味する。このような簡便な表記法以外の表記法が使用される場合もある。
【0073】
薬剤を「提供する」という語句は、患者に薬剤を「投与する」ことを含むように使用されることが理解されるであろう。
【0074】
ある態様では、本方法は、miRNAを標的化して細胞内または生物体内で調節する段階も含む。「miRNAを標的化して調節する」という語句は、選択したmiRNAを調節するように、本発明の核酸を使用することを意味する。いくつかの態様では、標的化されたmiRNAを細胞または生物体に効率的に提供する、標的化されたmiRNAに対応する合成または非合成のmiRNAによって、調節が達成される(正の調節)。他の態様では、細胞または生物体において標的化されるmiRNAを有効に阻害するmiRNA阻害因子によって、調節が達成される(負の調節)。
【0075】
いくつかの態様では、標的化されて調節されるmiRNAは、疾患、状態、または経路に影響を及ぼすmiRNAである。ある態様では、標的化したmiRNAの負の調節によって処置を提供できることから、miRNAは標的化される。他の態様では、標的化したmiRNAの正の調節によって処置を提供できることから、miRNAは標的化される。
【0076】
本発明のある方法では、標的化されるmiRNAの調節に関連する処理を必要とするか、または本明細書で説明された生理学的もしくは生物学的な結果(特定の細胞経路に関する結果、または細胞の生存能の低下のような結果など)を必要とする細胞、組織、器官、または生物体(集合的に「生物学的物質」)に、選択されたmiRNA調節因子を投与する他の段階が存在する。したがって、本発明のいくつかの方法では、miRNA調節因子によって提供され得る処置を必要とする患者を同定する段階が存在する。有効量のmiRNA調節因子がいくつかの態様で投与可能ことが想定される。特定の態様では、生物学的物質に与えられる治療的有効性がある。ここで「治療的有効性」とは、疾患もしくは状態と関連する1つもしくは複数の状態もしくは症状の改善、または疾患に関する予後、期間、もしくは状態の改善を意味する。治療的有効性は、痛みの緩和、罹患率の低下、症状の緩和を含むが、これらに限定されないことが想定される。例えば癌に関しては、治療的有効性は、腫瘍の成長の阻害、転移の予防、転移数の減少、癌細胞の増殖の阻害、癌細胞の細胞死の誘導、癌細胞近傍の血管形成の阻害、癌細胞のアポトーシスの誘導、痛みの軽減、再発リスクの低下、癌細胞の化学療法もしくは放射線療法に対する感受性の誘導、寿命の延長、および/または癌に直接的もしくは間接的に関連する死の遅延であり得ることが想定される。
【0077】
さらにmiRNA組成物は、処置の一環として、従来の処置または予防用薬剤とともに患者に提供してもよいことが想定される。さらに、処置に関して説明された任意の方法は、予防的に、特に潜在的に処置の必要があるか、または処置が必要な状態もしくは疾患のリスクがあると同定された患者に対して実施され得ることが想定される。
【0078】
加えて本発明の方法は、miRNAに対応する1種または複数種の核酸および治療薬の使用に関する。核酸は、薬剤の作用もしくは有効性を高めること、任意の副作用もしくは毒性を軽減すること、その生物学的利用能を変更すること、および/または必要な投与量もしくは頻度を低減することが可能である。ある態様では、治療薬は癌の治療薬である。したがって、いくつかの態様では、癌の治療薬と、癌の治療薬の有効性を改善するか、または非癌細胞を保護する少なくとも1種類の有効量のmiRNA分子とを患者に投与する段階を含む、患者の癌を処置する方法が存在する。癌の処置は、化学療法と放射線による処置の両方を使用する、さまざまな併用療法も含む。併用化学療法は例えば、ベバシズマブ、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン、EGFR阻害剤(ゲフィチニブおよびセツキシマブ)、プロカルバジン、メクロレタミン、シクロホスファミド、カンプトセシン、COX-2阻害剤(例えばセレコクシブ)、イホスファミド、メルファラン、クロランブシル、ブスルファン、ニトロソ尿素、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ブレオマイシン、プリカマイシン、マイトマイシン、エトポシド(VP16)、タモキシフェン、ラロキシフェン、エストロゲン受容体結合剤、タキソール、タキソテール、ゲムシタビン、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ(transplatinum)、5-フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、およびメトトレキセート、または上記の任意の類似体もしくは誘導体の変種を含むが、これらに限定されない。
【0079】
代替的あるいは追加的に、本発明の方法におけるmiRNA分子は、非癌細胞を癌治療薬から保護し、かつmiR-16、miR-24、miR-30a-3p、miR-125b、miR-152、miR-194、miR-197、miR-214、およびmiR-331からなる群より選択される。
【0080】
一般にmiRNAの阻害因子は、成熟miRNAに対応する核酸分子を与える場合と比較して逆の作用が達成されるように与えることができる。同様に、miRNAの阻害因子を与える場合と比較して逆の作用を達成するために、成熟miRNAに対応する核酸分子を与えることができる。例えば、増殖を亢進するために、細胞増殖を亢進するmiRNA分子を細胞に提供することができる、または細胞増殖を低下させるために、このような分子の阻害因子を細胞に提供することができる。本発明は、本明細書に開示するさまざまなmiRNA分子およびmiRNA阻害因子によって観察されるさまざまな生理学的な作用の文脈においてこれらの態様を想定している。これらは、以下の生理学的作用を含むが、これらに限定されない:細胞増殖の増大および低下、アポトーシスの増加または減少、形質転換率の上昇、細胞生存能の上昇または低下、ERKの活性化、hTertの活性化/誘導または阻害、例えばStat3の刺激の阻害、生細胞数の減少または増加、ならびに細胞周期の特定の相における細胞数の減少または増加。本発明の方法は一般に、1種または複数種の異なるmiRNA分子に対応する1種または複数種の異なる核酸分子を提供する段階または導入する段階を含むことが想定されている。以下の数の、少なくとも以下の数の、もしくは最大で以下の数、またはこれらの間の任意の範囲の数の異なる核酸分子を、提供または導入してもよいことが想定される:

これは、細胞中に提供または導入できる異なるmiRNA分子の数にも当てはまる。
【0081】
本発明は、本発明の組成物または本発明の方法を実施するための組成物を含むキットにも関する。いくつかの態様では、キットを使用して、1種または複数種のmiRNA分子を評価することができる。ある態様では、キットは、

もしくはこれ以上、またはこれらから導かれる任意の範囲および組み合わせのmiRNAプローブ、合成miRNA分子、もしくはmiRNA阻害因子を含むか、少なくとも含むか、または最大で含む。いくつかの態様では、細胞内のmiRNAの活性を評価するためのキットが存在する。
【0082】
キットは、チューブ、ボトル、バイアル、シリンジ、または他の適切な容器手段など、個別に包装可能かまたは容器内に配置可能な成分を含むことができる。
【0083】
個々の成分は、濃縮された量でキット内に提供してもよく;いくつかの態様で、成分は、他の成分とともに溶液中に存在する場合と同じ濃度で個別に提供される。成分の濃度は、1×、2×、5×、10×、もしくは20×、またはこれ以上として提供してもよい。
【0084】
処置、予後予測、または診断的応用のためのmiRNAプローブ、合成miRNA、非合成、および/またはmiRNA阻害因子を使用するキットは、本発明の一部として含まれる。本明細書に記載する分子など、生物学的活性に影響することが報告されている任意のmiRNAに対応する任意のこのような分子が、特に想定される。
【0085】
ある局面では、陰性および/または陽性の対照の合成miRNAおよび/またはmiRNA阻害因子が、いくつかのキット態様に含まれる。対照分子を用いて、トランスフェクション効率および/またはトランスフェクションによって誘導される細胞の変化に対する対照を検証することができる。
【0086】
本明細書に記載する任意の方法または組成物は、本明細書に記載する他の任意の方法または組成物に関して実行でき、かつ異なる態様を組み合わせてもよいことが想定される。合成miRNAが、生理学的な環境で成熟miRNAになることを可能とする適切な条件に曝露される範囲で、miRNA分子またはmiRNAに関して本明細書で説明する任意の方法および組成物が、合成miRNAに関しても実施してもよいことが特に想定される。当初出願した請求項は、出願した任意の請求項または出願した請求項の組み合わせに複数従属する請求項をカバーすることが想定されている。
【0087】
指定の特定のmiRNAを含む本発明の任意の態様は、配列が指定のmiRNAの成熟配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%同一なmiRNAを含む態様をカバーすることも想定される。
【0088】
本発明の態様は、適切な容器手段中に、2種類もしくは2種類以上のmiRNAプローブを含む、試料のmiRNAプロファイルの評価による病理学的試料の解析用のキットを含み、miRNAプローブは、

の1つまたは複数を検出する。キットは、試料中のmiRNAを標識するための試薬をさらに含むことができる。キットは、少なくとも1種類のアミン修飾ヌクレオチド、ポリ(A)ポリメラーゼ、およびポリ(A)ポリメラーゼ緩衝液を含む標識用試薬を含んでもよい。標識用試薬は、アミン反応性色素を含むことができる。
【0089】
(表1)膵臓試料の評価用のmiRNAプローブのリスト












【0090】
本発明の他の態様について本出願で説明する。本発明の1つの局面に関して説明する任意の態様は、本発明の他の局面についても当てはまり、逆もまた可能である。実施例セクションにおける態様は、本発明の全ての局面に適用可能な本発明の態様であると理解されたい。
【0091】
「阻害する」、「低下させる」、もしくは「予防」、またはこれらの語句に類する任意の語句は、特許請求の範囲および/または本明細書において使用される場合、所望の結果を達成するための任意の測定可能な低下もしくは完全な阻害を含む。
【0092】
特許請求の範囲および/または本明細書において、「〜を含む」という語句とともに使用される「1つの(a)」または「1つの(an)」という語句の使用は、「1つ(one)」を意味してもよいが、「1つまたは複数の(one or more)」、「少なくとも1つの(at least one)」、および「1つまたは1つ以上の(one or more than one)」という意味でも通じる。
【0093】
本明細書で説明される任意の態様は、本発明の任意の方法または組成物に関して実行可能なことが想定され、逆もまた可能である。特定の膵臓障害に関して説明される任意の態様は、異なる膵臓障害に関して適用または実行できる。また本発明の組成物およびキットを、本発明の方法を達成するために使用することができる。
【0094】
本出願を通じて、「約」という語句は、値が、値の決定に使用される装置または方法に関する標準誤差を含むことを意味するように使用される。
【0095】
特許請求の範囲における「または」という語句の使用は、代替対象のみを意味するか、または代替対象が相互排他的であると明示的に記載する場合を除いて、「および/または」を意味するように使用されるが、本開示は、代替対象のみ、および「および/または」を意味する定義を支持する。
【0096】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、「含む(comprising)」(および「含む(comprise)」または「含む(comprises)」などの「含む」の任意の語形)、「有する(having)」(および「有する(have)」または「有する(has)」などの「有する」の任意の語形)、「包含する(including)」(および「包含する(includes)」または「包含する(include)」などの「包含する」の任意の語形)、または「含有する(containing)」(および「含有する(contains)」または「含有する(contain)」などの「含有する」の任意の語形)などの語句は、包含的であるかまたは制限がなく、かつ他の記載されていない要素または方法の段階を除外しない。
【0097】
本発明の他の目的、特性、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、本発明の趣旨および範囲内のさまざまな変更および修飾が、この詳細な説明から当業者に明らかになることから、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の特定の態様を意味する一方で、説明目的のみで与えられると理解されるべきである。
[図面の説明]
以下の図面は、本明細書の一部を構成し、かつ本発明のある局面をさらに示すために含まれる。これらの1つもしくは複数の図面を、本明細書に記載する特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することで、本発明はよりよく理解されるであろう。
図1:膵臓組織に由来する全RNAの全体像。24の個別の膵臓組織試料のそれぞれから単離された約1 μgの全RNAを、臭化エチジウムで染色した1%変性ホルムアルデヒドアガロースゲルで解析した。
図2:正常膵臓組織で発現されたmiRNomeの解析。38の試料に由来する生のアレイデータの大規模な標準化の後に、5つの正常膵臓組織(N)におけるmiRNAの平均的な発現を、33の組織標準セット(Ref)におけるmiRNAの平均的な発現と比較した。
図3:正常組織とPDAC組織間の発現されたmiRNomeの比較。生のアレイデータを標準化した後に、5つの正常膵臓組織(N)におけるmiRNAの平均的な発現を、8つのPDAC試料(Ca)におけるmiRNAの平均的な発現と比較した。
図4:4Aおよび4Bは、正常試料(N)、慢性膵炎試料(Ch)、およびPDAC試料(Ca)において差次的に発現されるmiRNAを示す。(図4A)一群の差次的に発現されるmiRNA間の関係を示すベン図。円は、図に示す直接的なペアワイズ比較において差次的に発現されるmiRNAの総数を含む。交差領域は、各比較で共通する差次的に発現されるmiRNAの数に対応する。(図4B)表6に記載の94種類の差次的に発現されるmiRNAを対象とした主成分解析。
図5:正常組織と疾患膵臓組織で差次的に発現される上位20種類のmiRNA。miRNA候補は、3つの主要組織タイプのうち少なくとも2つの間の、|Δh|>1.6、およびp値<0.0001のものが選択された。このグラフは、正常(N)、慢性膵炎(Ch)、PDAC(Ca)の3つの試料タイプにおける示された20種類のmiRNAに対する標準化発現値の平均および標準偏差を示す。
図6:正常(N)試料、慢性膵炎(Ch)試料、PDAC(Ca)試料、および細胞株(CL)試料で差次的に発現されるmiRNAの主成分解析。
図7:PDAC試料および細胞株試料で過剰発現されたmiRNA。5つの正常(N)試料、6つの慢性膵炎(Ch)試料、8つのPDAC(Ca)試料、および6つの細胞株(CL)試料における、個々の標準化されたmiRNAの発現レベルと、および関連するp値。
図8:アレイデータとqRT-PCRデータの比較。プロファイルが既に得られている19の組織試料に加えて、2つの正常(N)試料、2つのPDAC(Ca)試料、および1つの慢性膵炎(Ch)試料に由来する25 ngの全RNAインプットを使用して、リアルタイムRT-PCRを実施した。記載のmiRNAに特異的なプライマーセットによって得られたmiRNAの発現データを、各試料の5S rRNAの発現レベルに対して標準化した(miRNAのCt−5SのCt)。グラフは、アレイによって決定した(19試料)、またはqRT-PCR法で決定した(24試料)、個々の標準化されたmiRNAの発現レベルをp値とともに示す。
図9:miR-196aおよびmiR-217の発現は、正常組織と疾患膵臓組織に分類される。(図9A)1つの正常試料(N5)、1つのPDAC試料(Ca3)、または1つの慢性膵炎試料(Ch1)に由来する、記載の全RNAインプット量を使用して、miR-196aおよびmiR-217に特異的なプライマーセットによってリアルタイムRT-PCRを実施した。miR-217の発現に対するmiR-196aの発現の比の計算には、生Ct値を直接使用した(すなわち、対数空間におけるmiR-196aのCt−miR-217のCt)。(図9B)記載の24の個々の組織試料を対象に、および25 ngの全RNAインプットを使用した、図9Aと同様の試験。
図10:miR-196aおよびmiR-217の発現を、正常組織と疾患膵臓組織に分類する。20のサブセットの凍結膵臓組織試料(6つのN、6つのCh、および8つのCa、実施例1)を対象に、TaqMan(登録商標) MicroRNA Assays(Applied Biosystems;Foster City, CA, USA)を実施した。qRT-PCR反応には、10 ngのRNAインプットを使用した。RT反応はランダムプライマーを使用して実施し、PCR反応では遺伝子特異的なプライミングを使用した。グラフは、個々の試料中のmiR-196aとmiR-217の間の生Ctの差をp値(ANOVA)とともに示す。
図11:(図11A)正常膵臓、慢性膵炎、および膵臓腺癌の間で差次的に発現されると文献に報告された4つの遺伝子のqRT-PCRの発現データ。図10と同じ試料セット(20の凍結膵臓組織試料;6つのN、6つのCh、および8つのCa)を、TaqMan(登録商標) Gene Expression Assays(Applied Biosystems)を使用して調べた。qRT-PCR反応を、RT反応についてはランダムプライミングを使用して、およびPCR反応については遺伝子特異的なプライミングを使用して、5 ngの全RNAインプットを用いて実施した。各試料に関して、mRNAの発現データを、GAPDHの発現に対して標準化した(mRNA-XのCt−GAPDHのCt)。グラフは、qRT-PCRによって決定した、個々の標準化されたmRNA発現レベルをp値(ANOVA)とともに示す。(図11B)miR-196a、miR-217、およびmRNA遺伝子の発現指標(expression signature)の組み合わせは、正常膵臓、慢性膵炎、および膵臓癌の分離を改善する。これらのグラフは、miR-24(miRNA)またはGAPDH(mRNA)に対して標準化したマーカーに関する個々のCt値の組み合わせによって達成された実験群間の分離をp値(ANOVA)とともに示す。
図12:凍結膵臓組織試料(6つのN、6つのCh、および8つのCa)、ならびに膵臓穿刺吸引物(FNA, n=13)の間の6種類のmiRNAおよび2種類のmRNA遺伝子の発現データの差の比較。10のFNA試料は、病理学的にPDACと報告された(Ca FNA、◆)。残る3つの試料(FNA)のうち、2つには非確定的な病理学的な報告(FNA-8-●およびFNA-13-★)がなされ、1つについては内分泌膵臓と一致した(FNA-12、▲)。リアルタイムRT-PCR反応を実施し、図10および図11と同様に標準化した。
図13:凍結した正常膵臓、慢性膵炎、膵臓癌、膵臓癌のFNA(Ca FNA、◆)、および他のFNA(FNA、FNA-8-●、FNA-12-▲およびFNA-13-★)の間の、miR-196a、miR-217、およびmRNAの遺伝子発現指標の組み合わせの性能比較。グラフは、miR-24(miRNA)またはGAPDH(mRNA)に対して標準化された個々のmiRNA/mRNA発現指標の組み合わせを使用して達成された実験群間の分離を示す。
【発明を実施するための形態】
【0098】
発明の詳細な説明
本発明は、miRNAの調製および解析、ならびに処置、予後予測、および診断への応用のためのmiRNAの使用に関する組成物ならびに方法、特に膵臓疾患の評価ならびに/または同定に関する方法および組成物に関する。
【0099】
I.miRNA分子
マイクロRNA分子(「miRNA」)は一般に、21〜22ヌクレオチドの長さであるが、19ヌクレオチド、および最長23ヌクレオチドの長さのものが報告されている。miRNAはそれぞれ、より長い前駆体RNA分子(「前駆体miRNA」)からプロセシングされる。前駆体miRNAは、非タンパク質コード遺伝子から転写される。前駆体miRNAは、動物ではダイサーと呼ばれるリボヌクレアーゼIII様ヌクレアーゼ酵素によって切断されるステム-ループ様または折りたたみ様の構造の形成を可能とする2つの相補領域を有する。プロセシングを受けたmiRNAは、典型的にステムの一部である。
【0100】
プロセシングを受けたmiRNA(「成熟miRNA」とも呼ばれる)は、特定の標的遺伝子をダウンレギュレートする大きな複合体の一部となる。動物のmiRNAの例は、標的と不完全に塩基対合して翻訳を停止させるmiRNAを含む(Olsen et al., 1999;Seggerson et al., 2002)。siRNA分子もダイサーによってプロセシングを受けるが、長い2本鎖のRNA分子に由来する。siRNAは天然では動物細胞中に認められないが、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を介して、mRNA標的の配列特異的な切断を誘導可能である(Denli et al., 2003)。
【0101】
A.核酸
本発明は、標識可能な、アレイ解析に使用可能な、または特に膵臓の病理学的状態に関連する診断、処置、もしくは予後予測の応用に使用可能なmiRNAに関する。このようなRNAは、細胞によって内因的に産生されていてもよく、または化学的もしくは組換え的に合成もしくは作製されていてもよい。このようなRNAは、単離および/または精製することができる。「miRNA」という語句は、特に明記した部分を除いて、その前駆体から切断された後の、プロセシングを受けたRNAを意味する。表1は、どのSEQ ID NOが成熟配列に対応するかを示す。miRNAの名称はしばしば省略され、hsa-、mmu-、またはrnoという接頭辞をつけずに表記され、文脈に応じて個々の分子であると理解される。特に明記した部分を除いて、本出願で言及されるmiRNAは、miR-Xまたはlet-Xと記載されるヒト配列である(Xは数字および/または文字)。
【0102】
ある実験では、「5P」または「3P」の接尾辞によって指定されるmiRNAプローブを使用することができる。「5P」は、成熟miRNAが前駆体の5'端に由来することを意味し、および対応する「3P」は、前駆体の3'端に由来することを意味する(ワールドワイドウェブsanger.ac.ukに記載)。さらに、いくつかの態様では、既知のヒトmiRNAに対応しないmiRNAプローブが使用される。これらの非ヒトmiRNAプローブは本発明の態様で使用可能なこと、または非ヒトmiRNAに相同なヒトmiRNAが存在する可能性があることが想定される。本発明はヒトmiRNAに制限されないものの、ある態様では、ヒト細胞またはヒトの生物学的試料に由来するmiRNAが評価される。他の態様では、任意の哺乳動物細胞、生物学的試料、またはこれらの調製物を使用することができる。
【0103】
本発明のいくつかの態様では、miRNAを含む方法および組成物は、miRNAおよび/または他の核酸に関する場合がある。核酸は、以下の長さ、少なくとも以下の長さ、もしくは最長で以下の長さ、またはこれらの間の任意の範囲の長さのヌクレオチドであってよい:

このような長さは、プロセシングを受けたmiRNA、miRNAプローブ、前駆体miRNA、miRNAを含むベクター、対照核酸、ならびに他のプローブおよびプライマーの長さをカバーする。多くの態様では、プロセシングを受けたmiRNA、および追加された任意の隣接領域の長さに依存して、miRNAの長さは19〜24ヌクレオチドであり、miRNAプローブの長さは19〜35ヌクレオチドである。miRNA前駆体は一般に、ヒトでは62〜110ヌクレオチドである。
【0104】
本発明の核酸は、別の核酸と同一または相補的な領域を有する場合がある。相補性または同一性を有する領域は、少なくとも5個の連続した残基の場合があることが想定されるが、領域は、以下の、少なくとも以下の、または最大で以下の個数の連続ヌクレオチドであることが特に想定される:

さらに、前駆体miRNA内の相補性、またはmiRNAプローブとmiRNAもしくはmiRNA遺伝子との間の相補性の長さが、このような長さであることも理解されたい。さらに相補性は、パーセンテージで表現される場合がある。つまり、プローブとその標的間の相補性は、プローブの全長に対して90%またはそれ以上である。いくつかの態様では、相補性は90%、95%、もしくは100%であるか、または少なくとも90%、95%、もしくは100%である。特に、このような長さは、SEQ ID NO:1〜SEQ ID NO:350の任意の配列、または本明細書に開示した他の任意の配列中に同定される核酸配列を含む任意の核酸に適用することができる。これらのSEQ ID NOのそれぞれは本明細書で開示されている。miRNAの一般名は、接頭辞にその同定されている供給源を伴って与えられ、例えばヒト配列およびプロセシングされたmiRNA配列に対して「hsa」である。特に明記した部分を除いて、接頭辞のないmiRNAは、ヒトmiRNAを意味すると理解される。本出願で例えばmiR-1-2と表記されるmiRNAは、hsa-miR-1-2を意味すると理解される。さらに、表中の小文字は、小文字でも小文字でなくてもよく;例えばhsa-mir-130bはmiR-130Bとも表記可能である。加えて、「mu」または「mmu」配列を伴うmiRNA配列は、マウスのmiRNAを意味すると理解され、および「rno」配列を伴うmiRNA配列は、ラットのmiRNAを意味する理解される。「miRNAプローブ」という語句は、特定のmiRNA、または構造的に関連するmiRNAを同定可能な核酸プローブを意味する。
【0105】
miRNAはゲノム配列または遺伝子に由来すると理解されたい。この点に関して、「遺伝子」という語句は、任意のmiRNAに対する前駆体miRNAをコードするゲノム配列を意味するために簡潔さを考慮して用いられる。しかしながら、本発明の態様は、プロモーターまたは他の調節配列などの、発現に関与するmiRNAのゲノム配列を含むことができる。
【0106】
「組換え体」という語句が使用される場合があり、これは一般に、インビトロで操作された分子か、またはこのような分子の複製産物もしくは発現産物の分子を意味する。
【0107】
「核酸」という語句は当技術分野で周知である。本明細書で用いる「核酸」は一般に、DNA、RNA、または核酸塩基を含むこれらの誘導体もしくは類似体の(1本もしくは複数の鎖の)分子を意味する。核酸塩基は例えば、DNA中に存在する天然のプリン塩基もしくはピリミジン塩基(例えばアデニン「A」、グアニン「G」、チミン「T」、もしくはシトシン「C」)か、またはRNA中に存在する天然のプリン塩基もしくはピリミジン塩基(例えばA、G、ウラシル「U」、もしくはC)を含む。「核酸」という語句は、いずれも「核酸」という表記の亜属である「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」という語句を含む。
【0108】
「miRNA」という語句は一般に1本鎖分子を意味するが、特定の態様では、本発明で実施される分子は、同じ1本鎖分子の別の領域に対して、または他の核酸に対して、部分的に(鎖の全長に対して10〜50%の相補性)、実質的に(鎖の全長に対して50%以上100%未満の相補性)、または完全に相補的な領域または追加的な鎖も含む。したがって核酸は、1本または複数の相補的な鎖または自己相補的な鎖、すなわち特定の配列の「相補物」を含む分子を含むことができる。例えば前駆体miRNAは、最大100%の相補性を有する自己相補的な領域を有する場合がある。本発明のmiRNAプローブまたは核酸は、標的に対して少なくとも以下の割合の相補性を含むことができる、以下の割合で相補的であり得る、または少なくとも以下の割合で相補的であり得る:60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは100%。
【0109】
本明細書で用いる「ハイブリダイゼーション」、「ハイブリダイズする」、または「ハイブリダイズ可能な」という語句は、2本鎖もしくは3本鎖の分子、または部分的に2本鎖もしくは3本鎖の性質を有する分子の形成を意味すると理解される。本明細書で用いる「アニールする」という語句は、「ハイブリダイズする」と同義である。「ハイブリダイゼーション」、「ハイブリダイズする」、または「ハイブリダイズ可能な」という語句は、「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」という語句、および「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」という語句を包含する。
【0110】
本明細書で用いる「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」は、相補的配列を含む1つもしくは複数の核酸鎖間のハイブリダイゼーション、または同核酸鎖内のハイブリダイゼーションは可能とするが、ランダムな配列ハイブリダイゼーションは除く条件である。ストリンジェントな条件は、核酸鎖と標的鎖の間のわずかなミスマッチ(もしあれば)を許容する。このような条件は当業者で周知であり、高い選択性を必要とする応用に好ましい。非制限的な応用は、遺伝子またはこの核酸セグメントなどの核酸の単離、または少なくとも1つの特異的なmRNA転写物もしくはこの核酸セグメントなどの検出を含む。
【0111】
ストリンジェントな条件は、約42℃〜約70℃の温度における約0.02 M〜約0.5 MのNaClによって提供されるような、低塩および/または高温の条件を含むことができる。望ましいストリンジェンシーの温度およびイオン強度は、部分的には、特定の核酸の長さ、標的配列の長さおよび核酸塩基の含量、核酸の電荷組成、ならびにハイブリダイゼーション混合物中のホルムアミド、テトラメチルアンモニウムクロライド、または他の溶媒の存在もしくは濃度によって決定されると理解されたい。
【0112】
ハイブリダイゼーションに関する、これらの範囲、組成、および条件が非制限的な例のみによって言及されること、および特定のハイブリダイゼーション反応の所望のストリンジェンシーがしばしば、1つまたは複数の陽性または陰性の対照との比較によって実験的に決定されることも理解されたい。想定される応用に依存して、標的配列に対する核酸のさまざまな程度の選択性を達成するためには、ハイブリダイゼーションのさまざまな条件を使用することが好ましい。非制限的な例では、ストリンジェントな条件で核酸にハイブリダイズしない関連標的核酸の同定または単離は、低温および/または高イオン強度におけるハイブリダイゼーションによって達成される場合がある。このような条件は、「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」と呼ばれ、低ストリンジェンシーの非制限的な例は、約20℃〜約50℃の温度範囲で約0.15 M〜約0.9 MのNaClで実施されるハイブリダイゼーションを含む。言うまでもなく、特定の応用に適したものとするために、低ストリンジェンシー条件または高ストリンジェンシー条件をさらに修飾することは、当業者の能力の範囲内にある。
【0113】
1. 核酸塩基
本明細書で用いる「核酸塩基」は、例えば少なくとも1つの天然の核酸(すなわちDNAおよびRNA)中に見出される天然の核酸塩基(すなわちA、T、G、C、もしくはU)、ならびにこのような核酸塩基の天然または非天然の誘導体および類似体などの複素環塩基を意味する。核酸塩基は一般に、天然の核酸塩基対合と置換し得る様式で、少なくとも1種類の天然の核酸塩基と1つまたは複数の水素結合(例えばAとT間、GとC間、およびAとU間の水素結合)を形成する(「アニールする」または「ハイブリダイズする」)ことが可能である。
【0114】
「プリン」核酸塩基および/または「ピリミジン」核酸塩基は、天然のプリン核酸塩基および/またはピリミジン核酸塩基を含み、かつ1つまたは複数のアルキル部分、カルボキシアルキル部分、アミノ部分、ヒドロキシル部分、ハロゲン部分(すなわちフルオロ、クロロ、ブロモ、もしくはヨード)、チオール部分、またはアルキルチオール部分と置換されたプリンもしくはピリミジンを含むがこれらに限定されないこれらの誘導体および類似体も含む。好ましいアルキル(例えばアルキル、カルボキシアルキルなどの)部分は、約1個、約2個、約3個、約4個、約5個〜約6個の炭素原子を含む。プリンもしくはピリミジンの他の非制限的な例は、デアザプリン、2,6-ジアミノプリン、5-フルオロウラシル、キサンチン、ヒポキサンチン、8-ブロモグアニン、8-クロログアニン、ブロモチミン、8-アミノグアニン、8-ヒドロキシグアニン、8-メチルグアニン、8-チオグアニン、アザグアニン、2-アミノプリン、5-エチルシトシン、5-メチルシトシン、5-ブロモウラシル、5-エチルウラシル、5-ヨードウラシル、5-クロロウラシル、5-プロピルウラシル、チオウラシル、2-メチルアデニン、メチルチオアデニン、N,N-ジメチルアデニン、アザアデニン、8-ブロモアデニン、8-ヒドロキシアデニン、6-ヒドロキシアミノプリン、6-チオプリン、4-(6-アミノヘキシル/シトシン)などを含む。他の例は当業者に周知である。
【0115】
核酸塩基は、本明細書に記載されているか、または当業者に既知の任意の化学的または天然合成法で、ヌクレオシドまたはヌクレオチド中に含めることができる。このような核酸塩基は標識されてもよく、または標識されて核酸塩基を含む分子の一部分であってよい。
【0116】
2.ヌクレオシド
本明細書で用いる「ヌクレオシド」は、核酸塩基のリンカー部分に共有結合によって結合された核酸塩基を含む個々の化学的単位を意味する。「核酸塩基のリンカー部分」の非制限的な例は、デオキシリボース、リボース、アラビノース、または5-炭素糖の誘導体もしくは類似体を含むが、これらに限定されない5-炭素原子を含む糖(すなわち「5-炭素糖」)である。5-炭素糖の誘導体もしくは類似体の非制限的な例は、2'-フルオロ-2'-デオキシリボース、または炭素が糖環中の酸素原子と置換された炭素環糖を含む。
【0117】
核酸塩基のリンカー部分に対する核酸塩基のさまざまなタイプの共有結合による結合は、当技術分野で既知である。非制限的な例として、プリン(すなわちAもしくはG)または7-デアザプリン核酸塩基を含むヌクレオシドは典型的に、プリンもしくは7-デアザプリンの9位を5-炭素糖の1'位に共有結合的に結合している。別の非制限的な例では、ピリミジン核酸塩基(すなわちC、T、もしくはU)を含むヌクレオシドは典型的に、ピリミジンの1位を5-炭素糖の1'位に共有結合的に結合している(Kornberg and Baker, 1992)。
【0118】
3.ヌクレオチド
本明細書で用いる「ヌクレオチド」は、「バックボーン部分」をさらに含むヌクレオシドを意味する。バックボーン部分は一般に、ヌクレオチドを、ヌクレオチドを含む別の分子に、または別のヌクレオチドに、共有結合によって結合させて核酸を形成する。天然のヌクレオチド中の「バックボーン部分」は典型的に、5-炭素糖に共有結合によって結合されるリン部分を含む。バックボーン部分の結合は典型的に、5-炭素糖の3'-位または5'-位のいずれかにおいて生じる。しかしながら、他のタイプの結合は、特にヌクレオチドが天然の5-炭素糖またはリン部分の誘導体もしくは類似体を含む場合には、当技術分野で既知である。
【0119】
4.核酸類似体
核酸は、核酸塩基の誘導体もしくは類似体の全体、天然の核酸中に存在し得る核酸塩基のリンカー部分および/またはバックボーン部分を含むか、またはこれらから構成される。核酸類似体を有するRNAも本発明の方法で標識され得る。本明細書で用いる「誘導体」は、化学的に修飾されたかまたは改変された、天然の分子を意味し、一方で「模倣体」または「類似体」は、天然の分子もしくは部分に構造的に似ている場合もあれば似ていない場合もあるが類似の機能を有する分子を意味する。本明細書で用いる「部分(moiety)」は一般に、より大きな化学的構造または分子構造の、より小さな化学的成分または分子的成分を意味する。核酸塩基、ヌクレオシド、およびヌクレオチドの類似体または誘導体は当技術分野で周知であり、ならびに文献に記載されている(例えば参照により本明細書に組み入れられるScheit, 1980を参照)。
【0120】
ヌクレオシド、ヌクレオチド、または5-炭素糖および/またはバックボーン部分の誘導体もしくは類似体を含む核酸の他の非制限的な例は、以下に記載する例を含む:dsDNAとの3重らせんを形成するおよび/またはdsDNAの発現を妨げるプリン誘導体を含むオリゴヌクレオチドについて記載している米国特許第5,681,947号;特に蛍光核酸プローブとして使用される、DNAまたはRNA中に存在するヌクレオシドの蛍光類似体を組み入れた核酸について記載している米国特許第5,652,099号および第5,763,167号;高いヌクレアーゼ安定性を保持するピリミジン環上の置換を有するオリゴヌクレオチド類似体について記載している米国特許第5,614,617号;核酸の検出に使用される修飾された5-炭素糖(すなわち修飾型2'-デオキシフラノシル部分)を有するオリゴヌクレオチド類似体について記載された米国特許第5,670,663号、第5,872,232号、および第5,859,221号;ハイブリダイゼーションアッセイ法に使用可能な、4'位で水素以外の置換基と置換された少なくとも1つの5-炭素糖部分を含むオリゴヌクレオチドについて記載している米国特許第5,446,137号;3'-5'のヌクレオチド間結合を有するデオキシリボヌクレオチドと、2'-5'のヌクレオチド間結合を有するリボヌクレオチドの両方を有するオリゴヌクレオチドについて記載している米国特許第5,886,165号;核酸のヌクレアーゼ耐性を高めるために、ヌクレオチド間結合の3'-位の酸素が炭素と置換されている、修飾されたヌクレオチド間結合について記載している米国特許第5,714,606号;ヌクレオチド耐性を高める1つもしくは複数の5'メチレンホスホネートヌクレオチド間結合を含むオリゴヌクレオチドについて記載している米国特許第5,672,697号;高いヌクレアーゼ安定性と、薬剤または検出部分を輸送する能力とを提供するための、薬剤または標識を含むことができる置換基部分の、オリゴヌクレオチドの2'炭素への連結について記載している米国特許第5,466,786号および第5,792,847号;細胞による取り込み、ヌクレアーゼに対する耐性、および標的RNAに対するハイブリダイゼーションを高めるために、隣接する5-炭素糖部分の4'位および3'位を結合させる、2つもしくは3つの炭素バックボーン連結を有するオリゴヌクレオチド類似体について記載している米国特許第5,223,618号;核酸ハイブリダイゼーション用プローブとして有用な少なくとも1つのスルファメートまたはスルファミドのヌクレオチド間結合を含むオリゴヌクレオチドについて記載している米国特許第5,470,967号;ヌクレアーゼ耐性、細胞内への取り込み、およびRNA発現の調節の改善のために使用されるホスホジエステルバックボーン部分を置換する、3個または4個の原子リンカー部分を有するオリゴヌクレオチドについて記載している米国特許第5,378,825号、第5,777,092号、第5,623,070号、第5,610,289号、および第5,602,240号;膜透過性および安定性を高めるためにオリゴヌクレオチドの2'-O位に結合された疎水性担体剤について記載している米国特許第5,858,988号;DNAまたはRNAに対する高いハイブリダイゼーション;ヌクレアーゼに対する高い安定性を有する、5'端においてアントラキノンに結合されたオリゴヌクレオチドについて記載している米国特許第5,214,136号;DNAが、ヌクレアーゼ耐性、結合親和性、およびRNase Hを活性化する能力を高めるための2'-デオキシ-エリスロ-ペントフラノシルヌクレオチドを含む、PNA-DNA-PNAのキメラについて記載している米国特許第5,700,922号;ならびにDNA-RNAハイブリッドを形成するためにDNAに連結されたRNAについて記載している米国特許第5,708,154号;ユニバーサル蛍光標識によるヌクレオシド類似体の標識について記載している米国特許第5,728,525号。
【0121】
ヌクレオシド類似体および核酸類似体に関する他の記載は、末端標識されるヌクレオシド類似体について記載している米国特許第5,728,525号;米国特許第5,637,683号、第6,251,666号(L-ヌクレオチド置換)、ならびに第5,480,980号(7-デアザ-2'デオキシグアノシンヌクレオチドおよびこの核酸類似体)である。
【0122】
5.修飾ヌクレオチド
本発明の標識法およびキットは特に、標識の結合用に修飾されかつmiRNA分子中に組み入れることができるヌクレオチドの使用を想定している。このようなヌクレオチドは、蛍光色素を含む色素によって、またはビオチンなどの分子によって標識され得るヌクレオチドを含む。標識されたヌクレオチドは容易に入手可能であり;市販品を入手できるか、または当業者に既知の反応によって合成可能である。
【0123】
本発明で使用される修飾ヌクレオチドは天然のヌクレオチドではなく、分子上に官能基を有する作製済みのヌクレオチドを意味する。対象となる特定の官能基は以下を含む:アミノ基、スルフヒドリル基、スルホキシル基、アミノスルフヒドリル基、アジド基、エポキシド基、イソチオシアネート基、イソシアネート基、無水物基、モノクロロトリアジン基、ジクロロトリアジン基、モノハロゲン置換ピリジン基もしくはジハロゲン置換ピリジン基、モノ置換ジアジン基もしくはジ置換ジアジン基、マレイミド基、エポキシド基、アジリジン基、ハロゲン化スルホニル基、酸ハロゲン基、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化アリール基、アルキルスルホニル基、N-ヒドロキシスクシニミドエステル基、イミドエステル基、ヒドラジン基、アジドニトロフェニル基、アジド基、3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド基、グリオキサール基、アルデヒド基、ヨードアセチル基、シアノメチルエステル基、p-ニトロフェニルエステル基、o-ニトロフェニルエステル基、ヒドロキシピリジンエステル基、カルボニルイミダゾール基、および他の類似の官能基。いくつかの態様では、官能基はヌクレオチドに直接結合してもよく、または結合基を介してヌクレオチドに結合してもよい。官能基部分および任意のリンカーは、ヌクレオチドがmiRNAに付加されるか、または標識される能力を実質的に損なわない。代表的な結合基は、典型的に炭素原子が約2〜18個、通常は約2〜8個の炭素含有結合基を含む。この場合、炭素含有結合基は、1つまたは複数のヘテロ原子、例えばS、O、Nなどを含んでも含まなくてもよく、1つまたは複数の不飽和部位を含んでも含まなくてもよい。多くの態様で特に関心が寄せられるのは、アルキル結合基、典型的には炭素原子が1〜16個、通常は炭素原子が1〜4個の低級アルキル結合基である(結合基は1つまたは複数の不飽和部位を含むことができる)。官能基が付与された標的の作製に関する上記の方法に使用される官能基が付与されたヌクレオチド(またはプライマー)は、既知のプロトコルで作製しもよく、または業者、例えばSigma、Roche、Ambion、Biosearch TechnologiesおよびNENから購入することもできる。官能基は、いずれも参照により組み入れられる米国特許第4,404,289号;第4,405,711号;第4,337,063号、および第5,268,486号、ならびに英国特許第1,529,202号に記載された代表的な情報を含む当業者に既知の方法で、作製することができる。
【0124】
アミン修飾ヌクレオチドが本発明の複数の態様に使用される。アミン修飾ヌクレオチドは、標識の結合用の反応性アミン基を有するヌクレオチドである。任意のリボヌクレオチド(G、A、U、もしくはC)またはデオキシリボヌクレオチド(G、A、T、もしくはC)が、標識もために修飾できることが想定される。例は、以下の修飾型のリボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチドを含むが、これらに限定されない:5-(3-アミノアリル)-UTP;8-[(4-アミノ)ブチル]-アミノ-ATPおよび8-[(6-アミノ)ブチル]-アミノ-ATP;N6-(4-アミノ)ブチル-ATP、N6-(6-アミノ)ブチル-ATP、N4-[2,2-オキシ-ビス-(エチルアミン)]-CTP;N6-(6-アミノ)ヘキシル-ATP;8-[(6-アミノ)ヘキシル]-アミノ-ATP;5-プロパルギルアミノ-CTP、5-プロパルギルアミノ-UTP;5-(3-アミノアリル)-dUTP;8-[(4-アミノ)ブチル]-アミノ-dATPおよび8-[(6-アミノ)ブチル]-アミノ-dATP;N6-(4-アミノ)ブチル-dATP、N6-(6-アミノ)ブチル-dATP、N4-[2,2-オキシ-ビス-(エチルアミン)]-dCTP;N6-(6-アミノ)ヘキシル-dATP;8-[(6-アミノ)ヘキシル]-アミノ-dATP;5-プロパルギルアミノ-dCTP、および5-プロパルギルアミノ-dUTP。このようなヌクレオチドは、当業者に既知の方法で作製することができる。さらに、当業者であれば、5-(3-アミノアリル)-UTPに代えて、5-(3-アミノアリル)-CTP、GTP、ATP、dCTP、dGTP、dTTP、またはdUTPなどの同じアミン修飾を有する他のヌクレオチド体を作製することができる。
【0125】
B.核酸の作製
核酸は、例えば化学合成、酵素的産生、または生物学的産生など、当業者に既知の任意の手法で作製することができる。本発明のmiRNAプローブは化学的に合成されることが特に想定される。
【0126】
本発明のいくつかの態様では、miRNAは生物学的試料から回収または単離される。miRNAは組換え型であってよく、または細胞に対して天然もしくは内因性(細胞のゲノムから作られる)であってもよい。生物学的試料は、miRNAなどの小型RNA分子の回収率を高めるような方法で処理可能なことが想定される。米国特許出願第10/667,126号は、このような方法について記載しており、同出願は参照により詳細に本明細書に組み入れられる。一般に本方法は、細胞をグアニジニウムまたは界面活性剤を含む溶液で溶解する段階を含む。
【0127】
あるいは核酸合成は、標準的な方法で実施される。これについては例えば、Itakura and Riggs(1980)を参照されたい。加えて、米国特許第4,704,362号、第5,221,619号、および第5,583,013号はそれぞれ、合成核酸を作製するさまざまな方法について記載している。合成核酸(例えば合成オリゴヌクレオチド)の非制限的な例には、参照により本明細書に組み入れられるEP 266,032に記載されているような、ホスホトリエステル、亜リン酸エステル、もしくはホスホラミダイト化学および固相法を使用するインビトロ化学合成により、または、それぞれが参照により本明細書に組み入れられるFroehler et al., 1986および米国特許第5,705,629号に記載されたデオキシヌクレオシドH-ホスホネート中間体によって作製される核酸が含まれる。本発明の方法では、1種または複数種のオリゴヌクレオチドを使用することができる。オリゴヌクレオチド合成の多種多様な機序は例えば、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,659,774号、第4,816,571号、第5,141,813号、第5,264,566号、第4,959,463号、第5,428,148号、第5,554,744号、第5,574,146号、第5,602,244号に開示されている。
【0128】
酵素的に産生される核酸の非制限的な例には、PCR(商標)(例えばそれぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,202号および第4,682,195号を参照)などの増幅反応で酵素的に産生されたか、または参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,645,897号に記載されたオリゴヌクレオチドの合成によって作製された核酸が含まれる。生物学的に作製される核酸の非制限的な例は、細胞内で複製される組換えDNAベクターなど、生細胞内で産生される(すなわち複製される)組換え核酸を含む(例えば、参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001を参照)。
【0129】
オリゴヌクレオチドの合成は当業者に周知である。オリゴヌクレオチド合成の多種多様な機序は例えば、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,659,774号、第4,816,571号、第5,141,813号、第5,264,566号、第4,959,463号、第5,428,148号、第5,554,744号、第5,574,146号、第5,602,244号に開示されている。
【0130】
基本的に化学合成は、ジエステル法、トリエステル法、ポリヌクレオチドホスホリラーゼ法によって、および固相化学法によって、達成可能である。ジエステル法は当初、主にKhoranaらによって、使用可能な状態に開発された(Khorana, 1979)。その基礎過程は、2つの適切に保護されたデオキシヌクレオチドの連結によるホスホジエステル結合を含むジデオキシヌクレオチドの形成である。
【0131】
ジエステル法とトリエステル法の主な差は、後者には、追加的な保護基が反応物および産物のリン酸原子上に存在する点である(Itakura et al., 1975)。精製は典型的に、クロロホルム溶液によって行われる。この方法の他の改善点は、(i)3量体とより長いオリゴマーの結合をブロックすること、(ii)中間体および最終産物の両方の精製に多数回の高速液体クロマトグラフィーが実施されること、ならびに(iii)固相合成を含む。
【0132】
ポリヌクレオチドホスホリラーゼ法は、多くの有用なオリゴヌクレオチドの合成に使用可能なDNAを酵素によって合成する方法である(Gillam et al., 1978;Gillam et al., 1979)。制御された条件下で、ポリヌクレオチドホスホリラーゼは多くの場合、1個のヌクレオチドを短いオリゴヌクレオチドに付加していく。クロマトグラフィーによる精製によって、所望の1つの付加物が得られる。この手順を開始するには、少なくとも3量体が必要であり、かつこのプライマーを、いくつかの他の方法で得る必要がある。ポリヌクレオチドホスホリラーゼ法は有効であり、関与する手順に大半の生化学者が慣れているという利点を有する。
【0133】
固相法は、ポリペプチドの固相合成のために開発された手法に基づき、当初のヌクレオチドを固体支持体材料に結合させて、ヌクレオチドの段階的な付加によって進行させることができる。全ての混合段階および洗浄段階は単純化されており、手順は自動化に適している。これらの合成は今日、自動核酸合成装置を使用して常用されている。
【0134】
ホスホラミダイト化学(Beaucage and Lyer, 1992)は、オリゴヌクレオチドの合成の最も広く使用されているカップリング化学である。オリゴヌクレオチドのホスホラミダイト合成は、ヌクレオシドホスホラミダイト単量体前駆体の活性化中間体を形成する活性化薬剤との反応と、これに続く、オリゴヌクレオチド産物を形成する伸長途上のオリゴヌクレオチド鎖(一般に一方の末端で適切な固体支持体に係留されている)への活性化中間体の連続的な付加による活性化を含む。
【0135】
細胞内で核酸を産生させる組換え法は当業者に周知である。このような方法は、核酸を標的細胞(例えば癌細胞)または単に宿主細胞(所望のRNA分子を大量に作製するため)などの細胞に輸送するベクター(ウイルスベクターまたは非ウイルスベクター)、プラスミド、コスミド、および他の媒介物の使用を含む。あるいは、このような媒介物は、RNA分子の作製用の試薬が存在する限り、無細胞系で使用することができる。このような方法は、参照により組み入れられるSambrook, 2003、Sambrook, 2001、およびSambrook, 1989に記載されている方法を含む。
【0136】
ある態様で本発明は、合成されていない核酸分子に関する。いくつかの態様では、核酸分子は、1本鎖の一次miRNA(Lee 2002を参照)、1本鎖前駆体miRNA、または1本鎖成熟miRNAの正確かつ全体の配列など、天然の核酸の化学的構造および天然の核酸の配列を有する。組換え法の使用に加えて、このような非合成核酸は、オリゴヌクレオチドの作製に使用される手法の使用などによって、化学的に作製することができる。
【0137】
C.核酸の単離
核酸は、当業者に周知の手法で単離することができるが、特定の態様では、小型の核酸分子を単離する方法、および/またはRNA分子を単離する方法を使用してもよい。クロマトグラフィーは、タンパク質または他の核酸からの核酸の分離または単離にしばしば使用される過程である。このような方法は、ゲルマトリックスを使用する電気泳動、フィルターカラム、アルコール沈殿法、および/または他のクロマトグラフィーを含むことができる。細胞に由来するmiRNAが使用または評価される場合、方法は一般に、細胞をカオトロピック試薬(例えばグアニジニウムイソチオシアネート)、および/または界面活性剤(例えばN-ラウロイルサルコシン)で溶解した後に、特定のRNA集団を単離する過程を実施する段階を含む。
【0138】
他の核酸からmiRNAを分離する特定の方法では、ポリアクリルアミドを使用してゲルマトリックスを調製するが、アガロースを使用することもできる。ゲルは濃度に勾配を設けてもよく、または均一にしてもよい。電気泳動用にゲルマトリックスを固定するため、プレートまたはチューブ類を使用することができる。核酸の分離には通常、1次元の電気泳動を使用する。プレートはスラブゲルの調製に使用され、チューブ類(典型的にはガラスまたはゴム)をチューブゲルの調製に使用することができる。「チューブ電気泳動」という語句は、ゲルの形成時にプレートの代わりにチューブまたはチューブ類を使用することを意味する。当業者は、チューブ電気泳動を実施するための材料を容易に調製するか、またはC.B.S. Scientific Co., IncまたはScie-Plasなどから購入することができる。
【0139】
方法には、核酸、特に本発明の方法および組成物で使用されるmiRNAを単離するために、有機溶媒および/またはアルコールの使用を含めてもよい。いくつかの態様は、参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第10/667,126号に記載されている。一般に本開示は、以下の段階を含む、細胞から小型RNA分子を効率的に単離する方法を提供する:細胞溶解物にアルコール溶液を添加する段階、およびアルコール/溶解物混合物を固体支持体に添加した後に固体支持体からRNA分子を溶出する段階。いくつかの態様では、細胞溶解物に添加するアルコールの量は、約55%〜60%のアルコール濃度を達成する。異なるアルコールを使用することもできるが、エタノールが良好に機能する。固体支持体は任意の構造をとることができ、かつ負に帯電した官能基を有する金属支持体または高分子支持体を含めることが可能なビーズ、フィルター、およびカラムを含む。このような単離手順では、ガラス繊維のフィルターまたはカラムが特に良好に機能する。
【0140】
特定の態様では、miRNAの単離過程は以下の段階を含む:(a)試料中の細胞を、グアニジニウムを含む溶解液で溶解する段階であって、少なくとも約1 Mの濃度のグアニジニウム溶解物が得られる、段階;(b)溶解物からmiRNA分子をフェノールを含む抽出用溶液によって抽出する段階;(c)溶解物にアルコール溶液を添加して、溶解物/アルコール混合物を生成させる段階であって、混合物中のアルコールの濃度が約35%〜約70%である、段階;(d)溶解物/アルコール混合物を固体支持体に添加する段階;(e)固体支持体からmiRNA分子をイオン性溶液によって溶出する段階;および(f)miRNA分子を捕捉する段階。典型的に試料は、乾燥させて液体中に再懸濁することで、容積が後の操作に適したものとなる。
【0141】
II.標識および標識法
いくつかの態様において本発明は、標識されるmiRNAに関する。miRNAが最初に単離される、および/または精製後に標識されることが想定される。これによって、miRNAが標識前に単離されていないかまたは精製されていない試料中の他のRNAに対して、miRNAをより効率的に標識する反応を達成してもよい。本発明の多くの態様では、標識は非放射性である。一般に核酸は、標識済みのヌクレオチドを添加することで(1段階工程)、または添加済みのヌクレオチドを標識することで(2段階工程)標識され得る。
【0142】
A.標識法
いくつかの態様において、標識済みのヌクレオチドまたはヌクレオチド群を核酸に触媒的に添加することで、核酸は標識される。1種または複数種の標識済みヌクレオチドをmiRNA分子に添加することができる。これについては、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,723,509号を参照されたい。
【0143】
他の態様では、標識されていないヌクレオチドまたはヌクレオチド群がmiRNAに触媒的に添加され、標識されていないヌクレオチドは、後にそれを標識可能にする官能基部分によって修飾される。本発明の態様では、官能基部分は、ヌクレオチドがアミン修飾ヌクレオチドとなるような反応性アミンである。アミン修飾ヌクレオチドの例は当業者に周知であり、その多くが、Ambion、Sigma、Jena Bioscience、およびTriLinkなどから販売されている。
【0144】
合成中のcDNAの標識とは対照的に、miRNAの標識に関する問題は、既存の分子をいかに標識するかという点にある。本発明は、二リン酸または三リン酸のリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドを、miRNAへの添加用の基質として使用可能な酵素の使用に関する。さらに特定の態様において本発明は、miRNAの3'端に付加される、修飾された二リン酸または三リン酸のリボヌクレオチドの使用を含む。このような酵素の起源は限定されない。酵素の供給源の例は、酵母、大腸菌(E. coli)、乳酸連鎖球菌(lactococcus lactis)などのグラム陰性細菌、およびヒツジポックスウイルスを含む。
【0145】
このようなヌクレオチドの付加が可能な酵素は、ポリ(A)ポリメラーゼ、末端トランスフェラーゼ、およびポリヌクレオチドホスホリラーゼを含むが、これらに限定されない。本発明の特定の態様では、リガーゼは、標識の付加に使用される酵素ではなく、非リガーゼ酵素が使用されることが想定される。
【0146】
末端トランスフェラーゼは、核酸の3'末端へのヌクレオチドの付加を触媒する。
【0147】
ポリヌクレオチドホスホリラーゼは、プライマーを必要とすることなくヌクレオチド二リン酸を重合可能である。
【0148】
B.標識
miRNAまたはmiRNAプローブ上の標識は、比色標識(蛍光を含む可視スペクトルおよびUVスペクトルを含む)、発光標識、酵素標識、または陽電子放出標識(放射性物質を含む)であってよい。標識は、直接的または間接的に検出することができる。放射性標識は、125I、32P、33P、および35Sを含む。酵素標識の例は、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、およびs-ガラクトシダーゼを含む。標識は、発光特性を有するタンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質またはフィコエリトリンも可能である。
【0149】
コンジュゲートとしての使用に想定される比色標識および蛍光標識は、Alexa Fluor色素、BODIPY FLなどのBODIPY色素;Cascade Blue;Cascade Yellow;クマリン、ならびに7-アミノ-4-メチルクマリン、アミノクマリン、およびヒドロキシクマリンなどのクマリン誘導体;Cy3またはCy5などのシアニン色素;エオシンおよびエリトロシン;フルオレセインおよびフルオレセインイソチオシアナートなどのフルオレセイン誘導体;Quantum Dye(商標)などのランタニドイオンの大環状キレート;Marina Blue;Oregon Green;ローダミンレッド、テトラメチルローダミン、およびローダミン6Gなどのローダミン色素;テキサスレッド;チアゾールオレンジ-エチジウムヘテロダイマーなどの蛍光エネルギー転移色素;およびTOTABを含むが、これらに限定されない。
【0150】
色素の特定の例は上記および下記の色素を含むが、これらに限定されない:Alexa Fluor 350、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 500、Alexa Fluor 514、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 610、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、およびAlexa Fluor 750;BODIPY 493/503、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/655、BODIPY FL、BODIPY R6G、BODIPY TMR、およびBODIPY-TRなどのアミン反応性のBODIPY色素;Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、Oregon Green 488、Oregon Green 500、Oregon Green 514、Pacific Blue、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、Renographin、ROX、SYPRO、TAMRA、2',4',5',7'-テトラブロモスルホンフルオレセイン、ならびにTET。
【0151】
蛍光標識されたリボヌクレオチドの特定の例は、Molecular Probesから入手可能であり、Alexa Fluor 488-5-UTP、フルオレセイン-12-UTP、BODIPY FL-14-UTP、BODIPY TMR-14-UTP、テトラメチルローダミン-6-UTP、Alexa Fluor 546-14-UTP、Texas Red-5-UTP、およびBODIPY TR-14-UTPを含む。Cy3-UTPまたはCy5-UTPなどの他の蛍光リボヌクレオチドは、Amersham Biosciencesから入手できる。
【0152】
蛍光標識されたデオキシリボヌクレオチドの例は、ジニトロフェニル(DNP)-11-dUTP、Cascade Blue-7-dUTP、Alexa Fluor 488-5-dUTP、フルオレセイン-12-dUTP、Oregon Green 488-5-dUTP、BODIPY FL-14-dUTP、ローダミングリーン-5-dUTP、Alexa Fluor 532-5-dUTP、BODIPY TMR-14-dUTP、テトラメチルローダミン-6-dUTP、Alexa Fluor 546-14-dUTP、Alexa Fluor 568-5-dUTP、Texas Red-12-dUTP、Texas Red-5-dUTP、BODIPY TR-14-dUTP、Alexa Fluor 594-5-dUTP、BODIPY 630/650-14-dUTP、BODIPY 650/665-14-dUTP、Alexa Fluor 488-7-OBEA-dCTP、Alexa Fluor 546-16-OBEA-dCTP、Alexa Fluor 594-7-OBEA-dCTP、Alexa Fluor 647-12-OBEA-dCTPを含む。
【0153】
核酸は、2種類の異なる標識によって標識してもよいことが想定される。さらに本発明の方法には、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)を利用することができる(例えばそれぞれ参照により組み入れられるKlostermeier et al., 2002;Emptage, 2001;Didenko, 2001)。
【0154】
あるいは標識は、それだけでは検出されないが、間接的に検出可能であってもよく、または標的核酸の単離もしくは分離が可能であってもよい。例えば標識は、ビオチン、ジゴキシゲニン、多価陽イオン、キレート基、および対抗体リガンドを含む他のリガンドの場合がある。
【0155】
C.可視化法
標識核酸を可視化または検出するいくつかの手法が、容易に利用できる。このような手法は、顕微鏡、アレイ、蛍光定量法、Light cyclerもしくは他のリアルタイムPCR装置、FACS解析、シンチレーションカウンター、ホスホイメージャー、ガイガーカウンター、MRI、CAT、抗体ベースの検出法(ウェスタン、免疫蛍光、免疫組織化学)、組織化学的手法、HPLC(Griffey et al., 1997)、分光法、キャピラリゲル電気泳動(Cummins et al., 1996)、分光法;質量分光法;放射線法;および物質収支法を含む。
【0156】
2種類以上の差次的に着色される標識が使用される場合は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)法で、1種または複数種の核酸の結合を解析することができる。また当業者であれば、標識核酸の可視化法、同定法、および解析法を十分に承知しているので、このようなプロトコルを本発明の一部として使用することができる。使用可能なツールの例は、蛍光顕微鏡、BioAnalyzer、プレートリーダー、Storm(Molecular Dynamics)、Array Scanner、FACS(蛍光活性化セルソーター)、または蛍光分子を励起および検出する能力を有する任意の装置も含む。
【0157】
III.アレイの作製およびスクリーニング
A.アレイの作製
本発明は、複数のmiRNA分子または前駆体miRNA分子に対して完全にまたはほぼ相補的または同一であり、かつ支持体または支持体材料上に空間的に分離した構造で位置する核酸分子(プローブ)が規則的に並んだマクロアレイまたはマイクロアレイである、miRNAまたはmiRNAプローブアレイの作製および使用に関する。マクロアレイは典型的に、表面にプローブがスポッティングされたニトロセルロースまたはナイロンのシートである。マイクロアレイは、核酸プローブを、最大10,000個の核酸分子が、典型的には1〜4 cm2の領域中に収まるように、より密に配置させる。マイクロアレイは、核酸分子、例えば遺伝子、オリゴヌクレオチドなどを基質上にスポッティングするか、または基質上にオリゴヌクレオチド配列をインサイチューで作製することにより、作製することができる。スポッティングされたかまたは作製された核酸分子は、1 cm2あたり最大約30個もしくはこれ以上の非同一な核酸分子、例えば1 cm2あたり最大約100個もしくはさらには1000個の高密度マトリックスパターンで添加することができる。マイクロアレイは典型的に、フィルターアレイの場合のニトロセルロースベースの材料とは対照的に、固体支持体としてコーティングされたガラスを使用する。miRNAに相補的な核酸試料を秩序だったアレイとすることで、各試料の位置を追跡し、かつ当初の試料に関連づけることができる。複数の異なる核酸プローブが固体支持体の表面に安定に結合される多種多様なアレイ装置が、当業者に既知である。アレイに有用な基質は、ナイロン、ガラス、金属、プラスチック、ラテックス、およびシリコンを含む。このようなアレイは、平均プローブ長、プローブの配列またはタイプ、プローブとアレイ表面間の結合の性質(例えば共有結合か非共有結合か)などのいくつかの点が異なる。本発明の標識法およびスクリーニング法、ならびにアレイは、プローブがmiRNAを検出することを除いて、任意のパラメーターに関して、その有用性は限定されないので、方法および組成物は、多種多様なタイプのmiRNAアレイとともに使用することができる。
【0158】
マイクロアレイを作製する代表的な方法および装置は例えば、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,143,854号;第5,202,231号;第5,242,974号;第5,288,644号;第5,324,633号;第5,384,261号;第5,405,783号;第5,412,087号;第5,424,186号;第5,429,807号;第5,432,049号;第5,436,327号;第5,445,934号;第5,468,613号;第5,470,710号;第5,472,672号;第5,492,806号;第5,525,464号;第5,503,980号;第5,510,270号;第5,525,464号;第5,527,681号;第5,529,756号;第5,532,128号;第5,545,531号;第5,547,839号;第5,554,501号;第5,556,752号;第5,561,071号;第5,571,639号;第5,580,726号;第5,580,732号;第5,593,839号;第5,599,695号;第5,599,672号;第5,610,287号;第5,624,711号;第5,631,134号;第5,639,603号;第5,654,413号;第5,658,734号;第5,661,028号;第5,665,547号;第5,667,972号;第5,695,940号;第5,700,637号;第5,744,305号;第5,800,992号;第5,807,522号;第5,830,645号;第5,837,196号;第5,871,928号;第5,847,219号;第5,876,932号;第5,919,626号;第6,004,755号;第6,087,102号;第6,368,799号;第6,383,749号;第6,617,112号;第6,638,717号;第6,720,138号、ならびに

に記載されている。
【0159】
アレイは、2、20、25、50、80、100種類、またはこれ以上の異なるプローブを含むような高密度のアレイとすることが想定される。アレイは、1000、16,000、65,000、250,000、または1,000,000種類、もしくはこれ以上の異なるプローブを含むことができると想定される。プローブは、1種または複数種の異なる生物体または細胞タイプの標的に対する場合がある。オリゴヌクレオチドプローブの長さは、いくつかの態様では5〜50、5〜45、10〜40、9〜34、または15〜40ヌクレオチドである。ある態様では、オリゴヌクレオチドプローブの長さは、間にある全ての整数および範囲を含む、5、10、15、20〜20、25、30、35、40ヌクレオチドである。
【0160】
アレイ中の個々の異なるプローブ配列の位置および配列は、一般に既知である。さらに、多数の異なるプローブが比較的小さな面積を占め、一般に1 cm2あたり約60、100、600、1000、5,000、10,000、40,000、100,000、または400,000個の異なるオリゴヌクレオチドプローブより大きいプローブ密度を有する高密度アレイを提供することができる。アレイの表面積は、約1、1.6、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10 cm2、またはそれ未満の場合がある。
【0161】
さらに当業者であれば、アレイを使用して得られたデータを容易に解析できるであろう。このようなプロトコルは前述しており、いずれも特異的に参照により組み入れられるWO 9743450;WO 03023058;WO 03022421;WO 03029485;WO 03067217;WO 03066906;WO 03076928;WO 03093810;WO 03100448A1に記載されている情報を含む。
【0162】
B.試料の調製
さまざまな試料のmiRNAは、本発明のアレイ、プローブのインデックス、またはアレイ技術を使用して解析可能なことが想定される。内因性のmiRNAは、本発明の組成物および方法による使用を想定しているが、組換えmiRNA(内因性のmiRNAまたは前駆体miRNAに相補的または同一な核酸を含む)も、本明細書に記載する手順で扱うことが可能であり、解析することができる。試料は生物学的試料のであってよく、この場合、生検、穿刺吸引物、剥離物、血液、組織、器官、精液、唾液、涙液、他の体液、毛包、皮膚、または生物学的細胞を含むか、またはこれらからなる任意の試料に由来する場合がある。ある態様で、試料は、新鮮な試料、凍結した試料、固定した試料、ホルマリンで固定した試料、パラフィンで包埋した試料、またはホルマリンで固定してパラフィンで包埋した試料であるが、これらに限定されない。あるいは、試料は生物学的試料ではなく、無細胞反応混合物(1種または複数種の生物学的酵素を含むことができる)などの化学的混合物であってよい。
【0163】
C.ハイブリダイゼーション
アレイまたは一連のmiRNAプローブを作製し、試料中のmiRNAを標識した後、標的核酸の集団をアレイまたはプローブに、ハイブリダイゼーション条件で接触させる。このような条件は、望ましければ、実施される特定のアッセイ法を考慮して、最適なレベルの特異性を提供するように調節可能である。適切なハイブリダイゼーション条件は当業者に周知であり、Sambrook et al.(2001)およびWO 95/21944にまとめられている。多くの態様では、ハイブリダイゼーション中のストリンジェントな条件の使用に特に関心がもたれる。ストリンジェントな条件は、当業者に既知である。
【0164】
1つのアレイまたは一群のプローブが複数の試料に接触する可能性があることが特に想定される。試料は、試料を区別するために、さまざまな標識によって標識してもよい。例えば、1つのアレイに、Cy3で標識された腫瘍組織試料と、Cy5で標識された正常組織試料とを接触させることができる。アレイ上のプローブに対応する特定のmiRNAの試料間の差は、容易に確認および定量することができる。
【0165】
アレイは表面積が小さいので、温度調節および塩含量などの均一なハイブリダイゼーション条件が可能となる。さらに、小さな面積が高密度のアレイで占められるので、ハイブリダイゼーションは、極めて少量の液量(例えば約5、10、25、50、60、70、80、90、100μl、もしくはそれ未満、またはこれらの間の任意の範囲の容量を含む、約250μlまたはこれ未満)で実施することができる。少容量では、ハイブリダイゼーションは極めて速やかに進行する可能性がある。
【0166】
D.差次的発現解析
本発明のアレイを使用して、2つの試料間の差を検出することができる。特に想定される応用は、正常な試料に由来するmiRNAと、正常ではない試料に由来するmiRNAの差、癌性状態と非癌性状態の差、または2つの異なる処理を行った試料間の差を同定および/または定量することを含む。またmiRNAを、特定の疾患もしくは状態に対して感受性があると考えられる試料と、疾患もしくは状態に対して感受性がないかまたは耐性を有すると考えられる試料との間で比較することができる。正常ではない試料とは、疾患もしくは状態の表現型形質を示す試料か、またはそのような疾患もしくは状態に関して正常ではないと考えられる試料である。これは、疾患または状態に関して正常な細胞と比較することができる。表現型形質は、成分が遺伝的であるか、遺伝的である可能性があるか、遺伝的でない可能性があるか、または過剰増殖性細胞もしくは新生細胞もしくは細胞群に起因する疾患もしくは状態の症状、または疾患もしくは状態に対する感受性を含む。
【0167】
アレイは、核酸プローブが結合した固体支持体を含む。アレイは典型的に、基質の表面の異なる既知の位置に結合した複数の異なる核酸プローブを含む。「マイクロアレイ」または集合的に「チップ」とも表現される、このようなアレイは一般に当技術分野で、例えば、それぞれがあらゆる目的で全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,143,854号、第5,445,934号、第5,744,305号、第5,677,195号、第6,040,193号、第5,424,186号、およびFodor et al., (1991)に記載されている。このようなアレイは一般に、機械的な合成法、またはフォトリソグラフィー法と固相合成法の組み合わせを組み入れた光による合成法で作製することができる。機械的な合成法を使用するこのようなアレイの合成法は例えば、あらゆる目的で参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,261号に記載されている。ある局面では平面的なアレイ表面が使用されるが、アレイは表面上に、実質的に任意の形状に、またはさらには複数の層の表面を作製してもよい。アレイは、ビーズ、ゲル、高分子の表面、光ファイバーなどのファイバー、ガラスまたは他の任意の適切な基質上の核酸であってよい。これについては、あらゆる目的で参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,770,358号、第5,789,162号、第5,708,153号、第6,040,193号、および第5,800,992号を参照されたい。アレイは、全ての包括的な装置の診断または他の操作を可能とするように組み立ててもよい。これについては例えば、あらゆる目的で参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許第5,856,174号および第5,922,591号を参照されたい。また、アレイ、その製造、およびその特徴に関する追加情報に関しては、あらゆる目的で参照により全体が本明細書に組み入れられる、2000年4月7日に出願された米国特許出願第09/545,207号も参照されたい。
【0168】
特に、アレイを使用して、以下を含むがこれらに限定されない疾患または状態に関して試料を評価することができる:慢性膵炎;膵臓癌;AIDS、自己免疫疾患(関節リウマチ、多発性硬化症、糖尿病(インスリン依存性およびインスリン非依存生)、全身性エリテマトーデス、およびグレーブス病);癌(例えば悪性、良性、転移性、前癌性);心血管疾患(心疾患、または冠動脈疾患、卒中(虚血性および出血性)、ならびにリウマチ性心疾患);神経系の疾患;ならびに病原性微生物による感染(水虫、水痘、感冒、下痢性疾患、インフルエンザ、性器ヘルペス、マラリア、髄膜炎、肺炎、副鼻腔炎、皮膚疾患、連鎖球菌性咽頭炎、結核、尿路感染症、膣感染症、ウイルス性肝炎);炎症(アレルギー、喘息);プリオン病(例えばCJD、クールー、GSS、FFI)。
【0169】
さらに、miRNAを以下の疾患、状態、および障害に関して評価することができる:膵炎、慢性膵炎、および/または膵臓癌。
【0170】
本発明の方法および組成物によって評価可能な癌は、膵管腺癌(PDAC)を含む、特に膵臓に由来する癌細胞を含むが、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、乳房、結腸、食道、胃腸、歯肉、頭部、腎臓、肝臓、肺、上咽頭、頚部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、精巣、舌、または子宮に由来する細胞および癌細胞を含んでもよい。加えて癌は、特に以下の組織型であってもよいが、これらに限定されない:新生物、悪性;癌;癌、未分化型;巨大細胞および紡錘細胞の癌;小細胞癌;乳頭癌;扁平細胞癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛質性(pilomatrix)癌;移行上皮細胞癌;乳頭状移行上皮癌;腺癌;ガストリン産生腫瘍、悪性;胆管癌;肝細胞癌;肝細胞癌と胆管癌の併発;索状腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫性ポリープの腺癌;腺癌、家族性大腸ポリポージス;固形癌;カルチノイド腫瘍、悪性;細気管支肺胞腺癌;乳頭腺癌;嫌色素性癌;抗酸球癌;好酸性腺癌;好塩基球癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞状腺癌;乳頭状および濾胞状の腺癌;非被嚢性硬化性(nonencapsulating sclerosing)癌;副腎皮質癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳垢腺癌;粘膜表皮性癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢胞腺癌;乳頭状漿液性嚢胞腺癌;ムチン性嚢胞腺癌;粘液腺癌;印環細胞癌;浸潤性導管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;パジェット病、乳腺;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平上皮化生を伴う腺癌;胸腺腫、悪性;卵巣間質性腫瘍、悪性;莢膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫瘍、悪性;セルトリ間質細胞腫瘍、悪性;セルトリ細胞癌;ライディッヒ細胞腫瘍、悪性;脂質細胞腫瘍、悪性;傍神経節腫、悪性;乳房外傍神経節腫、悪性;褐色細胞腫;血管球血管肉腫;悪性黒色腫;メラニン欠乏性黒色腫;表在拡大型黒色腫;巨大色素性母斑の悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児横紋筋肉腫;肺胞横紋筋肉腫;間質性肉腫;混合腫瘍、悪性;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;間葉細胞腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚細胞腫;胚性癌腫;奇形腫、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管外皮細胞腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨の巨細胞腫瘍;ユーイング肉腫;歯性腫瘍、悪性;エナメル上皮肉腫;エナメル上皮腫、悪性;エナメル上皮線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;神経膠腫、悪性;上衣細胞腫;星細胞腫;原形質性星状細胞腫;線維性星細胞腫;星状芽細胞腫;膠芽腫;乏突起細胞腫;乏突起膠芽腫;未分化神経外胚葉性腫瘍;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽腫;網膜芽腫;嗅覚神経因性腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキンリンパ腫;傍肉芽腫;悪性リンパ腫、小リンパ球性;悪性リンパ腫、大型細胞、びまん性;悪性リンパ腫、濾胞性;菌状息肉症;他の特定の非ホジキンリンパ腫;悪性組織球増殖症;多発性骨髄腫;マスト細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;形質細胞白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;マスト細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄性肉腫;および有毛細胞白血病。さらにmiRNAを、化生、異形成、および過形成などの前癌を対象に評価することができる。
【0171】
本発明を使用して、過形成、新形成、前癌状態と癌の間、または原発性腫瘍と転移性腫瘍の間など、疾患の病期間の差を評価可能なことが特に想定される。
【0172】
さらに、特定の経路の活性に差を有する試料についても比較可能なことが想定される。これらの経路は、以下の経路および以下の因子が関与する経路を含む:抗体反応、アポトーシス、カルシウム/NFATシグナル伝達、細胞周期、細胞遊走、細胞接着、細胞分裂、サイトカインおよびサイトカイン受容体、薬剤代謝、成長因子および成長因子受容体、炎症性反応、インスリンシグナル伝達、NFκBシグナル伝達、血管形成、脂肪生成、細胞接着、ウイルス感染、細菌感染、老化、運動性、グルコース輸送、ストレス反応、酸化、加齢、テロメア伸長、テロメア短縮、神経伝達、血液凝固、幹細胞分化、G-タンパク質共役型受容体(GPCR)シグナル伝達、ならびにp53の活性化。
【0173】
プロファイルの作成が可能な細胞経路は、以下も含むがこれらに限定されない:環状AMP、タンパク質キナーゼA、G-タンパク質共役型受容体、アデニリルシクラーゼ、L-セレクチン、E-セレクチン、PECAM、VCAM-1、α-アクチニン、パキシリン、カドヘリン、AKT、インテグリン-α、インテグリン-β、RAF-1、ERK、PI-3キナーゼ、ビンキュリン、マトリックスメタロプロテイナーゼ、Rho GTPアーゼ、p85、トレフォイル因子、プロフィリン、FAK、MAPキナーゼ、Ras、カベオリン、カルパイン-1、カルパイン-2、表皮成長因子受容体、ICAM-1、ICAM-2、コフィリン、アクチン、ゲルソリン、RhoA、RAC1、ミオシン軽鎖キナーゼ、血小板由来成長因子受容体、またはエズリンを含むが、これらに限定されない任意の接着もしくは運動の経路が関与する経路;AKT、Fasリガンド、NFκB、カスパーゼ-9、PI3キナーゼ、カスパーゼ-3、カスパーゼ-7、ICAD、CAD、EndoG、Granzyme B、Bad、Bax、Bid、Bak、APAF-1、シトクロムC、p53、ATM、Bcl-2、PARP、Chk1、Chk2、p21、c-Jun、p73、Rad51、Mdm2、Rad50、c-Abl、BRCA-1、パーフォリン、カスパーゼ-4、カスパーゼ-8、カスパーゼ-6、カスパーゼ-1、カスパーゼ-2、カスパーゼ-10、Rho、Junキナーゼ、Junキナーゼキナーゼ、Rip2、ラミン-A、ラミン-B1、ラミン-B2、Fas受容体、H2O2、Granzyme A、NADPHオキシダーゼ、HMG2、CD4、CD28、CD3、TRADD、IKK、FADD、GADD45、DR3デス受容体、DR4/5デス受容体、FLIP、APO-3、GRB2、SHC、ERK、MEK、RAF-1、環状AMP、タンパク質キナーゼA、E2F、網膜芽腫タンパク質、Smac/Diablo、ACH受容体、14-3-3、FAK、SODD、TNF受容体、RIP、サイクリン-D1、PCNA、Bcl-XL、PIP2、PIP3、PTEN、ATM、Cdc2、タンパク質キナーゼC、カルシニューリン、IKKα、IKKβ、IKKγ、SOS-1、c-FOS、Traf-1、Traf-2、IκBβ、またはプロテアソームが関与する経路を含むがこれらに限定されない、任意のアポトーシス経路;タンパク質キナーゼA、酸化窒素、カベオリン-1、アクチン、カルシウム、タンパク質キナーゼC、Cdc2、サイクリンB、Cdc25、GRB2、SRCタンパク質キナーゼ、ADP-リボシル化因子(ARF)、ホスホリパーゼD、AKAP95、p68、Aurora B、CDK1、Eg7、ヒストンH3、PKAc、CD80、PI3キナーゼ、WASP、Arp2、Arp3、p16、p34、p20、PP2A、アンジオテンシン、アンジオテンシン変換酵素、プロテアーゼ活性化受容体-1、プロテアーゼ活性化受容体-4、Ras、RAF-1、PLCβ、PLCγ、COX-1、Gタンパク質共役型受容体、ホスホリパーゼA2、IP3、SUMO1、SUMO2/3、ユビキチン、Ran、Ran-GAP、Ran-GEF、p53、グルココルチコイド、グルココルチコイド受容体、SWI/SNF複合体の成分、RanBP1、RanBP2、インポーチン、エクスポーチン、RCC1、CD40、CD40リガンド、p38、IKKα、IKKβ、NFκB、TRAF2、TRAF3、TRAF5、TRAF6、IL-4、IL-4受容体、CDK5、AP-1転写因子、CD45、CD4、T細胞受容体、MAPキナーゼ、神経成長因子、神経成長因子受容体、c-Jun、c-Fos、Junキナーゼ、GRB2、SOS-1、ERK-1、ERK、JAK2、STAT4、IL-12、IL-12受容体、酸化窒素合成酵素、TYK2、IFNγ、エラスターゼ、IL-8、エピセリン、IL-2、IL-2受容体、CD28、SMAD3、SMAD4、TGFβ、またはTGFβ受容体が関与する経路を含むが、これらに限定されない任意の細胞活性化経路;TNF、SRCタンパク質キナーゼ、Cdc2、サイクリンB、Grb2、Sos-1、SHC、p68、Auroraキナーゼ、タンパク質キナーゼA、タンパク質キナーゼC、Eg7、p53、サイクリン、サイクリン依存性キナーゼ、神経成長因子、表皮成長因子、網膜芽腫タンパク質、ATF-2、ATM、ATR、AKT、CHK1、CHK2、14-3-3、WEE1、CDC25、CDC6、複製起点認識複合体タンパク質、p15、p16、p27、p21、ABL、c-ABL、SMAD、ユビキチン、SUMO、熱ショックタンパク質、Wnt、GSK-3、アンジオテンシン、p73 any PPAR、TGFα、TGFβ、p300、MDM2、GADD45、Notch、cdc34、BRCA-1、BRCA-2、SKP1、the プロテアソーム、CUL1、E2F、p107、ステロイドホルモン、ステロイドホルモン受容体、IκBα、IκBβ、Sin3A、熱ショックタンパク質、Ras、Rho、ERK、IKK、PI3キナーゼ、Bcl-2、Bax、PCNA、MAPキナーゼ、ダイニン、RhoA、PKAc、環状AMP、FAK、PIP2、PIP3、インテグリン、トロンボポエチン、Fas、Fasリガンド、PLK3、MEK、JAK、STAT、アセチルコリン、パキシリン、カルシニューリン、p38、インポーチン、エクスポーチン、Ran、Rad50、Rad51、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、Ran-GAP、Ran-GEF、NuMA、Tpx2、RCC1、Sonic Hedgehog、Crm1、Patched(Ptc-1)、MPF、CaMキナーゼ、チューブリン、アクチン、動原体結合タンパク質、セントロメア結合タンパク質、テロメラーゼ、TERT、PP2A、c-MYC、インスリン、T細胞受容体、B細胞受容体、CBP、IKβ、NFκB、RAC1、RAF1、EPO、ジアシルグリセロール、c-Jun、c-Fos、Junキナーゼ、低酸素誘導因子、GATA4、β-カテニン、α-カテニン、カルシウム、アレスチン、サバイビン、カスパーゼ、プロカスパーゼ、CREB、CREM、カドヘリン、PECAM、コルチコステロイド、コロニー刺激因子、カルパイン、アデニリルシクラーゼ、成長因子、酸化窒素、膜貫通受容体、レチノイド、G-タンパク質、イオンチャネル、転写活性化因子、転写補助活性化因子、転写抑制因子、インターロイキン、ビタミン、インターフェロン、転写補助抑制因子、核膜孔、窒素、トキシン、タンパク質分解、もしくはリン酸化が関与する経路を含むがこれらに限定されない、任意の細胞周期調節経路、シグナル伝達経路、もしくは分化経路;またはアミノ酸の生合成、脂肪酸の酸化、神経伝達物質および他の細胞シグナル伝達分子の生合成、ポリアミンの生合成、脂質およびスフィンゴ脂質の生合成、アミノ酸および栄養素の異化、ヌクレオチド合成、エイコサノイド、電子伝達反応、小胞体関連分解、解糖、線維素溶解、ケトン体の形成、ファゴソームの形成、コレステロール代謝、食物摂取の調節、エネルギー恒常性の維持、プロトロンビン活性化、乳糖および他の糖の合成、多剤耐性、ホスファチジルコリンの生合成、プロテアソーム、アミロイド前駆体タンパク質、Rab GTPアーゼ、デンプン合成、グリコシル化、ホスホグリセリドの合成、ビタミン、クエン酸サイクル、IGF-1受容体、尿素サイクル、小胞輸送、またはサルベージ経路が関与する経路を含むがこれらに限定されない、任意の代謝経路。他の細胞経路は、表10に記載する遺伝子および関連するmRNAを含む経路を含む。本発明の核酸分子は、上記の任意の経路または因子に関する診断法および処置法に使用可能なことが、さらに想定される。したがって、本発明のいくつかの態様では、miRNAは、1つまたは複数の上記の経路または因子に関して差次的に発現される場合がある。
【0174】
表現型形質は、寿命、罹患率、外見(例えば、禿頭、肥満)、体力、速さ、耐久力、生殖能力、特定の薬剤に対する感受性もしくは受容性、または処置(薬剤の有効性)、および薬剤の毒性のリスクなどの特徴も含む。これらの表現型形質が異なる試料も、記載するアレイおよび方法を使用して評価される場合がある。
【0175】
ある態様では、miRNAプロファイルを作成して、プロファイルを評価し、薬物動態と相関させることができる。例えば、miRNAプロファイルを作成して、患者の腫瘍試料および血液試料を、患者の処置前または処置中に評価して、発現が患者の臨床転帰と相関するmiRNAが存在するか否かを判定することができる。miRNAの差の同定は、どの薬剤レジメンを患者に提供すべきかを決定するために、腫瘍試料および/または血液試料を評価するのに使用できるmiRNAを含む診断アッセイ法につながる可能性がある。加えて、これを使用して、特定の臨床試験に適した患者を同定または選択することができる。miRNAプロファイルが、薬剤の有効性または薬剤の毒性と相関すると判定された場合、それは、その患者が薬剤の投与を受けるのにまたは特定の薬剤の投与量の投与に適切な患者であるか否かに関連する可能性がある。
【0176】
上記の予後予測アッセイ法に加えて、さまざまな疾患を有する患者に由来する血液試料を評価して、異なる疾患が、血液中のmiRNAレベルを元に同定可能か否かを判定することができる。診断アッセイ法は、医師が、疾患を有する個人、または疾患を発症するリスクのある個人の同定に使用可能なプロファイルを元に、設計することができる。あるいは処置を、miRNAのプロファイリングを元に設計することができる。このような方法および組成物の例は、参照により全体が本明細書に組み入れられる、2005年5月23日にDavid Brown、Lance Ford、Angie Cheng、およびRich Jarvisの名前によって出願された「Methods and Compositions Involving miRNA and miRNA Inhibitor Molecules」と題する米国仮特許出願に記載されている。
【0177】
E.他のアッセイ法
アレイおよびマイクロアレイの使用に加えて、いくつかの異なるアッセイ法で、miRNA、その活性、およびその作用を解析可能なことが想定される。このようなアッセイ法は、核酸増幅、ポリメラーゼ連鎖反応、定量的PCR、RT-PCR、インサイチューハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション保護アッセイ法(HPA)(GenProbe)、分岐DNA(bDNA)アッセイ法(Chiron)、ローリングサークル増幅(RCA)、単分子ハイブリダイゼーション検出(US Genomics)、インベーダー(Invader)アッセイ法(ThirdWave Technologies)、および/またはBridge Litigationアッセイ法(Genaco)を含むが、これらに限定されない。
【0178】
IV.キット
本明細書に記載する任意の組成物を、キット中に含めることができる。非制限的な例では、アレイ、核酸増幅、および/またはハイブリダイゼーションを使用する、miRNAの単離用、miRNAの標識用、および/またはmiRNA集団の評価用の試薬を、膵臓試料由来の試料の調製用の試薬とともにキットに含めることができる。キットにはさらに、miRNAプローブの作製用または合成用の試薬を含めることができる。したがってキットは、適切な容器手段中に、標識されたヌクレオチドまたは後に標識される非標識ヌクレオチドを組み入れることでmiRNAを標識するための酵素を含む。ある局面では、キットは増幅用試薬を含むことができる。他の局面では、キットは、ガラス、ナイロン、ポリマービーズなど、さまざまな支持体、および/または任意のプローブおよび/または標的核酸のカップリング用の試薬を含むことができる。キットは、反応用緩衝液、標識用緩衝液、洗浄用緩衝液、またはハイブリダイゼーション用緩衝液など、1種または複数種の緩衝液、miRNAプローブ作製用の化合物、およびmiRNA単離用の成分を含んでもよい。本発明の他のキットは、miRNAを含む核酸アレイの作製用の成分を含むことができるので、例えば固体支持体を含むことができる。
【0179】
本明細書に記載する本発明の方法を実施するためのキットが特に想定される。いくつかの態様では、多重標識用のmiRNAを調製するためのキット、ならびにmiRNAプローブおよび/またはmiRNAアレイを作製するためのキットが存在する。これらの態様では、キットは、適切な容器手段中に、以下の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、もしくはこれ以上を含む:(1)ポリ(A)ポリメラーゼ;(2)非修飾ヌクレオチド(G、A、T、C、および/またはU);(3)修飾ヌクレオチド(標識済みもしくは非標識);(4)ポリ(A)ポリメラーゼ緩衝液;ならびに(5)少なくとも1種類のマイクロフィルター;(6)ヌクレオチドに結合可能な標識;(7)少なくとも1種類のmiRNAプローブ;(8)反応緩衝液;(9)miRNAアレイ、またはこのようなアレイの作製用の成分;(10)酢酸;(11)アルコール;(12)miRNAまたはmiRNAのプローブもしくはアレイの作製、単離、濃縮、および精製用の溶液。他の試薬は、ホルムアミド、ローディング用色素、リボヌクレアーゼ阻害剤、およびDNaseなどの、RNAの操作に一般に使用される試薬を含む。
【0180】
特定の態様では、本発明のキットは、本出願に記載するように、miRNAプローブを含むアレイを含む。アレイは、生物体もしくは特定の条件における特定の組織もしくは器官の全て既知のmiRNAに対応する、またはこのようなプローブのサブセットに対応するプローブを有してもよい。本発明のアレイ上のプローブのサブセットは、特定の診断、処置、もしくは予後予測の応用に重要なことがわかっているサブセットであるか、またはこのようなサブセットを含むことができる。例えばアレイは、(1)疾患もしくは状態(慢性膵炎および/または膵臓癌)、(2)特定の薬剤もしくは処置に対する感受性もしくは耐性;(3)薬剤もしくは物質に由来する毒性に対する感受性;(4)疾患もしくは状態の発症段階もしくは重症度(予後);ならびに(5)疾患もしくは状態に対する遺伝的素因を意味するかまたは示唆する、1種または複数種のプローブを含むことができる。
【0181】
アレイを含む任意のキット態様に関しては、SEQ ID NO:1〜350の任意の全体もしくは一部に同一もしくは相補的である配列を含むか、または変種である配列の増幅に使用可能な核酸分子が存在し得る。ある態様では、本発明のキットまたはアレイは、SEQ ID NO:1〜350によって同定されるmiRNAに対する1種または複数種のプローブを含むことができる。上記の任意の核酸をキットの一部として実施することができる。
【0182】
キットの成分は、水性溶媒中または凍結乾燥状態のいずれかの状態で収容することができる。キットの容器手段は一般に、内部に成分を入れて、好ましくは適切にアリコートしてもよい、少なくとも1本のバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、または他の容器手段を含む。キット中に複数の成分が存在する場合(標識用試薬および標識は、まとめてパッケージングされる場合がある)は、キットは一般に、内部に追加成分を個別に配することが可能な、第2の、第3の、または他の追加の容器も含む。しかしながら、成分のさまざまな組み合わせを1本のバイアル中に含めることが可能である。本発明のキットは典型的に、核酸を含む手段、および販売目的で厳密に密封された他の任意の試薬容器も含む。このような容器は、内部に所望のバイアルが収められる、射出成形または吹き込み成形されたプラスチック製容器を含むことができる。
【0183】
キットの成分が1つおよび/または複数の液体溶液の状態で提供される場合は、液体溶液は水溶液であり、特に無菌性の水溶液が好ましい。
【0184】
しかしながら、キットの成分を、乾燥粉末として提供してもよい。試薬および/または成分が乾燥粉末として提供される場合、粉末は、適切な溶媒の添加によって再構成可能である。溶媒は、別の容器手段中に提供される場合もあることが想定される。いくつかの態様では、標識用色素は乾燥粉末として提供される。10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、120、130、140、150、160、170、180、190、200、300、400、500、600、700、800、900、1000μgの乾燥色素、または少なくともこれらの重量の乾燥色素、または最大でこれらの重量の乾燥色素が、本発明のキット中に提供されることが想定される。色素は後に、DMSOなどの任意の適切な溶媒で再懸濁され得る。
【0185】
容器手段は一般に、内部に核酸製剤が、好ましくは適切に分割された状態で配される、少なくとも1本のバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジおよび/または他の容器手段を含む。キットは、無菌性の薬学的に許容可能な緩衝液および/または他の希釈物を収容するための第2の容器手段を含む場合もある。
【0186】
本発明のキットは典型的に、例えば内部に所望のバイアルが収められる射出成形および/または吹き込み成形されたプラスチック容器など、販売目的で厳密に密封されたバイアルを収容するための手段も含む。
【0187】
このようなキットは、標識されたmiRNAの単離を容易にする成分を含んでもよい。キットは、miRNAを保存もしくは維持する成分、またはその分解を防ぐ成分を含んでもよい。このような成分はRNAseを含まないか、またはRNAseの作用を防ぐ場合がある。このようなキットは一般に、適切な手段中に個々の試薬または溶液用の個別の容器を含む。
【0188】
キットは、キットの成分の使用、および同キットに含まれない他の任意の試薬の使用に関する指示書も含む。指示書は、実行可能な変形形態を含むことができる。
【0189】
本発明のキットは、以下の1つまたは複数を含んでもよい:対照RNA;ヌクレアーゼを含まない水;1.5 mlチューブなどのRNaseを含まない容器;RNaseを含まない溶出用チューブ;PEGまたはデキストラン;エタノール;酢酸;酢酸ナトリウム;酢酸アンモニウム;グアニジニウム;界面活性剤;核酸サイズマーカー;RNaseを含まないチューブチップ;およびRNaseまたはDNaseの阻害剤。
【0190】
このような試薬は本発明のキットの態様であることが想定される。しかしながら、このようなキットは上記の特定の項目に制限されず、miRNAの操作または解析に使用される任意の試薬を含むことができる。
【0191】
V.実施例
以下の実施例は、本発明のさまざまな態様を説明する目的で供され、本発明をいかなる様式でも制限することを意味しない。当業者であれば、本発明が、目的の実施に、ならびに言及された目的および利点、ならびに本発明に固有の目的(object)、目的(ends)、および利点を得るのに良好に適していることを容易に理解するであろう。本発明の実施例は、本明細書に記載する方法とともに、好ましい態様の現時点における代表的なものであり、例示的なものであり、および本発明の範囲を制限することは意図されない。特許請求の範囲によって定義される、本発明の趣旨に含まれる、実施例の変更および他の使用は当業者に明らかであろう。特に指定がなければ、カタログ番号は、その番号によって、Ambion, Inc.(登録商標)、The RNA Companyから入手可能な製品を意味する。
【0192】
実施例1
試料の回収およびRNAの単離
6つの原発性の膵管腺癌細胞株(IMIMPC2、PT45、PL45、SKPC1、PancTuI、PaCa44)、ならびに正常膵臓(N、n=7)、慢性膵炎(Ch、n=7)、および膵管腺癌(PDAC)(Ca、n=10)に由来する組織試料を採取し、新鮮な状態で凍結して-80℃で保存した。最後の2種類の疾患組織を大きく切除(macro-dissect)して、正常膵臓組織を可能な限り除去した。全24種類の組織試料を対象に、詳細な病理解析を実施した(表2)。疾患膵臓組織の13の穿刺吸引(FNA)試料を手術中に採取し、および採取開始から30分以内にRNARetain(商標)(Asuragen, Inc.;Austin, TX)中に配置して4℃で保存した。
【0193】
RNAの単離を、mirVana(商標) miRNA単離キット(Ambion)を製造業者のプロトコルに従って使用して行った。膵臓などの高レベルのヌクレアーゼを含む器官からの高品質のRNAの単離は困難なため、単離されたRNAの完全性を、標準的な1%ホルムアルデヒドアガロースゲル上で検証した(図1)。RNARetain(商標)溶液から疾患膵臓組織を回収するために、FNA試料を4℃で3,000 rpmで5分間、遠心分離した後にRNAを単離した。精製された全RNAを、Nanodrop(登録商標) ND-1000(Nanodrop Technologies)を使用して定量した。
【0194】
(表2)組織試料の病理報告



Ca=PDAC;Ch=慢性膵炎;N=正常;FNA=穿刺吸引物;MX=未評価の遠隔転移の存在。
【0195】
実施例2:
正常試料および疾患膵臓試料を対象としたmiRNA発現プロファイリング
miRNAの発現プロファイリングを、文献(Shingara et al., 2005)に記載された手順で実施した。ただし、10〜15 μgの全RNAから回収したmiRNAフラクションをCy5蛍光色素(GE Healthcare Life Sciences)で標識し、ならびにmirBase配列データベース(ワールドワイドウェブ上のmicrorna.sanger.ac.uk/)に由来する281種類のヒトmiRNA(Griffiths-Jones et al., 2006)、33種類の新しいヒトmiRNA(Ambi-miR)、およびmirBase配列 データベースに由来する63種類のマウスまたはラットのmiRNAを含む377種類の個々のmiRNAプローブを含むmirVana miRNA Bioarrays(Ambion)にハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーション後に、Axon(登録商標) GenePix 4000Bスキャナー、および付属のGenePixソフトウェアを使用してアレイをスキャンした。生アレイデータを分散安定化法(Huber et al., 2002)で標準化した。
【0196】
6つの原発性の膵管腺癌細胞株、5つの正常膵臓組織試料、6つの慢性膵炎組織試料、および8つのPDAC組織試料のプロファイルを得た。アレイの処理および標準化後に、25の異なる試料の発現されたmiRNomeを確立した(表3および表4)。平均すると、組織試料については200種類のmiRNA、および細胞株については140種類のmiRNAが、バックグラウンドシグナルを越えて検出され、これらはマイクロアレイ上に存在するmiRNAプローブのそれぞれ54%および38%に対応する。試料およびmiRNAの発現レベルの非管理型(unsupervised)クラスタリングの結果、4つの試料タイプ(正常、慢性、癌、および細胞株)に明瞭な分離が存在することが判明し、個々の試料のタイプ内のmiRNAの発現プロファイルの再現性が高いことがわかった。
【0197】
(表3)19種類の個別の組織試料の標準化アレイデータ:8種類のPDAC(Ca)、6種類の慢性膵炎(Ch)、および5種類の正常膵臓










*、閾値
**、閾値を上回るmiRNAの数
***、閾値を上回るmiRNAの占めるパーセンテージ。
【0198】
(表4)6種類の個別の膵臓癌細胞株、および3種類の組織タイプの標準化アレイデータ












*、閾値を上回るmiRNAのパーセンテージ;**、閾値;***、閾値を上回るmiRNAの数;CL=細胞株;Ca=PDAC;Ch=慢性膵炎;N=正常。
【0199】
実施例3:
膵臓のmiRNome
正常膵臓におけるmiRNAの発現に関する包括的データセットは現在入手できないので、発明者らは最初に正常膵臓のmiRNomeを解析した。全5種類の正常膵臓試料について約190種類のmiRNAがバックグラウンドシグナル以上に再現性よく検出された(表3、平均(N)>2)。これらには、158種類の詳細に解析されたヒトmiRNA、およびマウスまたはラットで同定済みの21種類のmiRNAが含まれる。加えて、6種類の新規ヒトmiRNA(Ambi-miR-7029、-7039、-7058、-7076、-7083、および-7105)が検出された。Ambi-miR-7029および-7058は、極めて有意な発現レベルを示した(平均(N)>4)。発明者らは次に、5つの正常膵臓組織試料と、同じアレイプラットフォームで解析された33の異なるヒト組織からなる標準セット間における発現データの大規模な比較を実施した。データは、各試料における平均発現レベルのグローバルグラフ提示に要約されている(図2)。ヒトの標準セットは、以下の33の異なる組織から単離されたFirstChoice(登録商標) Total RNA試料(Ambion)からなる:脂肪、副腎、大動脈、膀胱、骨髄、脳、乳房、頚部、結腸、十二指腸、食道、卵管、心臓、回腸、空腸、腎臓、肝臓、肺、リンパ節、筋肉、卵巣、下垂体、胎盤、前立腺、小腸、脾臓、胃、睾丸、胸腺、甲状腺、気管、子宮、および大静脈。
【0200】
統計解析から、大半のmiRNAが両方の試料セットにおいて類似の平均発現レベルを有すること、ならびに全ての組織タイプで強く発現されていることが既知の多くのmiRNA(例えば、hsa-miR-16、-21、-24、-26、およびlet-7のファミリーの成員)も膵臓に極めて豊富に存在することがわかった(表5)。しかしながら、複数のmiRNA(hsa-miR-141、-148a、-200a、-200b、-200c、-216、-217、および-375)は、膵臓に高濃度で存在するのに対し、(hsa-miR-133a、-143、-145、および-150)他のmiRNAは、発明者らの正常膵臓組織セットに、より低いレベルで存在することがわかった(表5)。特にmiR-133aは、発明者らの標準セットの全ての組織に有意な発現レベルで検出されたが、5つの正常膵臓組織には検出されなかった。さらに、miR-216および217は、膵臓に本質的に特異的であり、標準セットにおける平均発現レベルおよび標準偏差が低いことがわかった(表5)。両方のmiRNAが有意なレベルで検出された他の唯一の組織は十二指腸であったが、発現レベルは膵臓より15〜25倍低かった。
【0201】
(表5)5つの正常膵臓試料(N)および33の標準組織試料(標準)の標準化されたアレイデータ








標準に対する閾値=3.47;正常に対する閾値=3.70;%*、閾値を上回るmiRNAのパーセンテージ。
【0202】
実施例4:
PDACで差次的に発現されるmiRNAの同定
膵臓における癌の形成と潜在的に関連するmiRNAを明らかにするために、発明者らは、8つのPDAC試料に由来するmiRNAアレイデータを一括して正常膵臓セットに対して標準化した(表3)。miRNAの平均発現レベルの直接的な比較の結果、miRNAの発現がPDACでは大きく影響を受けることが判明した(表3、図3)。興味深いことに、PDACでダウンレギュレートされるmiRNAの大半は、33種類のヒト組織の標準セットに対して膵臓に高濃度で存在するmiRNAである(表3および表5)。これらのmiRNAのうち、強く発現される膵臓に高濃度で存在するmiR-216および-217は、PDAC試料では200倍以上もダウンレギュレートされており、アレイ上でかろうじて検出可能なレベルあった。
【0203】
さらなるデータ解析の結果、正常膵臓とPDACの間において、84種類のmiRNAの発現に有意差が認められた(表6、Flag(N 対 Ca)=1)。これらのmiRNAのうち、PDACにおいて41種類はダウンレギュレートされており、および32種類は少なくとも2倍アップレギュレートされていた(|Δh|(N-Ca)>0.6)。miR-216および-217とともに、全11種類のmiRNAがPDACでは5倍以上も強くダウンレギュレートされており(Δh(N-Ca)>1.6;hsa-miR-29c、-30a-3p、-96、-130b、-141、-148a、-148b、-216、-217、-375、および-494)、ならびに他の11種類はPDAC試料中に高濃度で存在していた(Δh(N-Ca)<-1.6;hsa-miR-31、-143、-145、-146a、-150、-155、-196a、-196b、-210、-222、および-223)。
【0204】
(表6)正常膵臓(N)、慢性膵炎(Ch)、およびPDAC(Ca)の組織試料間で差次的に発現されるmiRNA



*有意に異なる発現を、Flag=1で示す。
【0205】
実施例5:
正常とPDACと慢性膵炎の組織試料の比較
上記のmiRNAの発現の変化の一部は実際には、非腫瘍性過程と関連する可能性があるので、発明者らは、発明者らの解析に、6つの慢性膵炎組織試料からなる対照セットに由来するmiRNAの発現データを加えた。階層的クラスター分析の結果、慢性膵炎試料に由来するmiRNAの発現プロファイルが、正常プロファイルとPDACプロファイルの間に存在し、ならびにPDACに由来する発現プロファイルに対するより、正常膵臓に由来する発現プロファイルと全体的に類似していることがわかった。全miRNAの平均標準データを使用して計算されたピアソン相関値の対比較の結果、慢性膵炎組織における大規模なmiRNAの発現レベルは、正常組織とPDAC組織の中間であることが確認された(表7)。この観察と矛盾することなく、PDACと慢性組織試料の間で差次的に発現されていた52種類のmiRNAのうち45種類(表6、Flag(Ch 対 Ca)=1)も、正常な組織に対してPDACでは制御を受けなくなっていた(図4A、上)。慢性試料ではこれらのmiRNAの発現レベルは全て、正常発現レベルとPDAC発現レベルの間にあった。
【0206】
(表7)対応のあるピアソン相関値

【0207】
94種類のmiRNAが、3種類の組織タイプの任意の2種類の間において有意なレベルで差次的に発現されることが判明した(表6)。正常な試料に対して慢性試料において差次的に発現される68種類のmiRNAのうち(表6、Flag(Ch 対 N)=1)、61種類は、正常膵臓に対してPDACでは制御されなくなってもいた(図4A、下)。PDACと慢性の疾患組織の両方において発現が影響を受けるこれらのmiRNAは、PDACに特異的な変化より腫瘍の線維形成性の反応を反映する可能性が高い。それにもかかわらず、上記の94種類のmiRNAを使用した主成分解析(PCA)では、PDAC試料が正常膵臓および慢性疾患群から完全に分離することが判明し(図4B)、miRNAの発現によって膵臓組織が分類されることがわかる。
【0208】
実施例6:
膵臓疾患用のmiRNAバイオマーカー
PDACに最高のmiRNAマーカーを同定するために、発明者らは、3種類の組織タイプ間で最も大きく異なって発現されるmiRNAを、ストリンジェントなパラメーターを使用して選択した:|Δh|>1.6(5倍)、および少なくとも2つの試料タイプ間のp値<0.0001(図5)。20種類のmiRNAのこのサブセットを使用することで、組織タイプ間の明瞭な区別を達成することができる。例えば、miR-29c、-96、-143、-145、-148b、および-150の発現は慢性試料と癌試料の両方において誤調節されていたが、miR-196a、-196b、-203、-210、-222、-216、-217、および-375はPDAC試料でのみ誤調節されていた。これらのデータから、少数のmiRNAの発現レベルが、正常組織、慢性膵炎組織、およびPDAC組織を明瞭にし、ならびにPDACにおける腫瘍過程と非腫瘍性過程を区別するために使用可能なことがわかる。
【0209】
実施例7:
膵臓癌細胞株におけるmiRNAの発現
現在、膵臓癌細胞株は、miRNAの機能のインビトロ解析で最も利用されている細胞モデル系である。したがって、IMIMPC2、PT45、PL45、SKPC1、PancTuI、およびPaCa44の6種類の原発性の膵管腺癌細胞株におけるmiRNAの発現を解析するために、同じアレイプロファイリング戦略を開発した。細胞株と原発性組織におけるmiRNAの発現プロファイルを比較するために、発明者らは、細胞株に由来するmiRNAアレイデータを一括して、19の組織セットによって標準化した(表4)。
【0210】
大規模なmiRNA集団を対象とした階層的クラスター分析、ならびに差次的に発現されるmiRNAに関するクラスター分析および主成分解析(図6)の結果、細胞株試料が原発性組織と明瞭に分けられることが判明した。この相違は主に、PDACで上位20種類の差次的に発現されるmiRNAの発明者らのリストに由来する7種類のmiRNA(miR-143、-145、-150、-216、-217、-223、および-375;図5)を含む組織試料に対する癌細胞株試料における約60種類のmiRNAの検出可能な発現の欠損の結果である。アレイデータから、140種類のmiRNAのみが癌細胞株で検出され、個々の系列は膵臓組織でも発現されていたことがわかる(miRNAが表4の閾値を超えて検出された試料の%を参照)。
【0211】
全体的には、癌細胞株におけるmiRNAの平均発現レベルは、正常組織すなわち慢性組織よりPDACと良好に相関していた(ピアソン相関値はそれぞれ0.84、0.78、および0.79;表7)。さらに、PDACで差次的に発現される上位20種類のmiRNAのうちの12種類は、細胞株における発現レベルがPDACにおける発現レベルと極めて近かった。したがって、これらの癌細胞株におけるmiRNAの発現プロファイルは、正常膵臓組織に由来する発現プロファイルより、PDACの原発性腫瘍の発現プロファイルと類似性が高い。
【0212】
実施例8:
PDACおよび癌細胞株で過剰発現されるmiRNAバイオマーカーの同定
実施例7に記載した差と一致して、87種類のmiRNAは、PDACと癌細胞株間で差次的に発現され、および108種類は、正常膵臓と癌細胞株の間で差次的に発現されることがわかった(表8A、表8B、および表8C、Flag(Ca 対 CL)=1またはFlag(N 対 CL)=1)。特に1種類のmiRNAのmiR-205は、正常組織に対して細胞株において600倍以上に高度に過剰に発現されており、慢性組織または正常な組織に対して、8つのPDAC組織のうち5つにおいてアップレギュレートされてもいた(表3)。この観察から発明者らは、発明者らの当初のストリンジェントなスクリーニングでは、高いp値または低いΔhのために見逃されていた可能性のある、細胞株で強く発現されていたmiRNA、およびPDACでアップレギュレートされていた他のmiRNAについて検討することにした(実施例6)。この方法で発明者らは、miR-18a、-31、-93、-221、および-224の5つの追加のmiRNAを同定した(図7)。これら6種類の腫瘍性の導管細胞のmiRNA(図7)はインビボとエクスビボの両方で過剰に発現されていたことから、PDACの追加的な潜在的なバイオマーカーとなる。
【0213】
(表8A)正常膵臓(N)、慢性膵炎(Ch)、PDAC(Ca)、および膵臓癌細胞株(CL)の間で差次的に発現されるmiRNA



【0214】
(表8B)正常膵臓(N)、慢性膵炎(Ch)、PDAC(Ca)、および膵臓癌細胞株(CL)の間で差次的に発現されるmiRNA



有意に異なる発現をFlag=1で示す。
【0215】
(表8C)正常膵臓(N)、慢性膵炎(Ch)、PDAC(Ca)、および膵臓癌細胞株(CL)の間で差次的に発現されるmiRNA




有意に異なる発現をFlag=1で示す。
【0216】
実施例9:
PDACおよび他の膵臓疾患に対する26種類のmiRNAバイオマーカー
膵臓細胞株および正常組織および疾患原発性組織のマイクロアレイによるプロファイリングから、発明者らは、試料間で131種類の誤調節される(差次的に発現される)miRNAを同定することができた(表8)。発明者らはさらに、正常試料、慢性試料、およびPDAC試料間で差次的に発現される94種類の一群のmiRNA(表6)、ならびに正常試料とPDAC試料間で差次的に発現される84種類のmiRNAを同定した(表6、Flag(N 対 Ca)=1)。発明者らは、3つの原発性組織タイプのうちの少なくとも2つの間で、|Δh|>1.6(5倍)、およびp値<0.0001の20種類のmiRNA(図5)、ならびに腫瘍性の導管細胞においてインビボとエクスビボの両方で過剰発現された6種類のmiRNA(図7)を同定した。PDACにおいて発現が有意に影響を受ける、これら26種類のmiRNAは、PDACおよび他の膵臓疾患の新規バイオマーカーおよび治療標的となる。これらの内容を、アレイデータおよび染色体上の位置とともに表9に要約する。
【0217】
(表9)PDACにおいて差次的に発現される上位26種類のmiRNA

【0218】
実施例10:
qRT-PCRによるマイクロアレイデータの検証
発明者らのアレイデータを検証するために、発明者らは、3つの組織タイプで極めて異なる発現パターンを示す5種類のmiRNA(miR-143、-155、-196a、-217、および-223)、ならびに有意な変化の認められない1種類のmiRNA(miR-16)を対象にリアルタイムPCRを実施した。qRT-PCR反応を、SuperTaq(商標)ポリメラーゼ(Ambion)、ならびにmirVana(商標) qRT-PCR miRNA検出キット、およびプライマーセット(Ambion)を製造業者の指示書に従って使用して実施した。qRT-PCRは、5〜50 ngの全RNAインプットを対象にABI7500サーモサイクラー(Applied Biosystems;Foster City, CA, USA)で実施した。データ解析を、7500 Fast System SDS Softwareを使用して実施した。
【0219】
発明者らは、過去にプロファイルが得られた19種類の全RNA試料、ならびにRNA分解の規模の異なる2つの正常膵臓試料、2つのPDAC試料、および1つの慢性膵炎試料からなる独立した一群の組織を解析した(N6、N7、Ca9、Ca10、およびCh7;図1;病理報告については表2を参照)。miRNAの発現レベルの相対的な変動は、標準化されたアレイおよびqRT-PCRのデータと似ていた(図8)。さらに、24の全ての試料について、正常組織、癌組織、および慢性組織に特徴的な推定miRNA発現パターンが見られたことから、発明者らのアレイデータが検証されたことになり、成熟miRNA分子が安定なこともわかる。
【0220】
実施例11:
qRT-PCRによる組織の分類
大規模なmiRNAの発現プロファイルの解析、差次的に発現されるmiRNA(図4Bおよび図6)、ならびに26種類のmiRNAマーカー(図5、図7、および図8)から、miRNAの発現が、正常膵臓組織と疾患膵臓組織で区別されて分類可能なことがわかった。この分類をさらに一段階進めるために、腫瘍性組織と非腫瘍性組織を区別可能な最小セットのmiRNAを、成熟miRNAを対象に定量的RT-PCR解析を行うことで同定した。発明者らは、2種類のmiRNA(miR-196および-217)の生Ct値間の差が、全RNA試料インプットと無関係に疾患組織を同定するための単純な指標を提供することを明らかにした(図9A)。24種類の独立した組織試料を対象に実施した同じ解析では、正常試料、PDAC試料、および慢性膵炎試料が、1.77E-13のp値で完全に分離することが判明した(図9B)。この分離は、異なるリアルタイムPCRアッセイ法であるTaqMan(登録商標) MicroRNA Assay (Applied Biosystems;Foster City, CA, USA)で確認された。qRT-PCR反応を、10 ngのRNAインプットを用いて、一群の20の凍結膵臓組織試料(6つのN、6つのCh、および8つのCa、実施例1)を対象とした7900HT Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を使用して実施した。RT反応はランダムプライマーを使用して実施し、PCR反応には遺伝子特異的なプライミングを使用した。初期データ解析は、7900HT配列検出系ソフトウェアv2.3を使用して実施した。発明者らは、過去に実施されたアッセイ法では8.18E-10のp値でほぼ同一であった正常組織、癌組織、および慢性組織が分離できることを観察した(図10)。
【0221】
実施例12:
疾患膵臓組織の分類におけるmRNAの発現指標
膵臓疾患の患者から得られた臨床試料中の癌胎児性抗原関連細胞接着分子6(CEACAM6)、サバイビン(BIRC5)、ムチン4(MUC4)、およびウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター受容体(UPAR)の潜在的な診断上の重要性が複数の報告で述べられている(Balague et al., 1995;Bhanot et al., 2006;Chen et al., 2007;Duxbury et al., 2004;Hollingsworth et al., 1994;Lopes et al., 2007)。全4種類の遺伝子は膵臓癌で、および大半の膵臓癌細胞株ではアップレギュレートされており、および慢性膵炎では発現されていないか(MUC4)、または発現が上昇しており(サバイビン、UPAR、CEACAM)、ならびに正常膵臓組織では発現されていないか、わずかに発現している(Jhala et al., 2006;Andrianifahanana et al., 2001;Friess et al., 1997;Shimzu et al., 1990)。
【0222】
発明者らは、実施例1に記載した一群の凍結組織試料(6つのN、6つのCh、および8つのCa)における、CEACAM6、BIRC5、MUC4、およびUPARの発現レベルをリアルタイムRT-PCRで調べた。qRT-PCR反応を、5 ngの全RNAインプットおよびABI TaqMan(登録商標) 遺伝子発現アッセイ法システム(Applied Biosystems)を使用して実施した。RT反応ではランダムプライマーを使用し、およびPCR反応では遺伝子特異的なプライミングを使用した。初期のデータ解析は、7900HT Sequence Detection System Software v2.3を使用して行った。実験群間におけるCEACAM6、BIRC5、MUC4、またはUPARのmRNAの平均発現レベルの比較から、これらの遺伝子がPDACで全般的にアップレギュレートされることが明らかとなった(データは提示していない)。しかしながら、個々の試料における発現レベルの解析から、正常膵臓、慢性膵炎、およびPDACの試料セットは明瞭に分離しないことが、それぞれ、7.64E-03、1.11E-02、および2.11E-03という高いp値から判明した。慢性膵炎試料の発現プロファイルは、正常プロファイルとPDACプロファイルの中間か、または正常なプロファイルに近いかのいずれかであった(図11A)。
【0223】
実施例13:
miRNAとmRNAの発現指標を組み合わせることで疾患膵臓組織の分類が改善する
発明者らは、CEACAM6、BIRC5、MUC4、およびUPARを対象とした個々の診断の実施が、これらをmiRNAと組み合わせることで改善されるか否かの判定を試みた。発明者らは、2種類もしくは2種類以上のmRNA遺伝子の発現指標(expression signature)を組み合わせても、miR-196aおよびmiR-217のmiRNAインデックス(p=8.18×10-10、図10)との比較時に、正常膵臓試料、慢性膵炎試料、および膵臓癌試料の分離に関して何ら利点は得られないことを明らかにした(p>4.35×10-07、図11B)。しかしながら、miRNAとmRNAの発現指標の組み合わせは、正常組織試料と慢性膵炎試料の間の分離を高め、および膵臓癌試料と正常な非悪性組織試料の区別を可能とした。最も明らかであった組み合わせである196a-217+CEACAMでは、p値は5.24×10-10であった。
【0224】
実施例14:
膵臓の穿刺吸引物(FNA)中の膵臓腺癌の診断を目的としたmiRNAおよびmRNAバイオマーカーの検出
発明者らは、上位20種類の一群の差次的に発現されるmiRNAの発現指標を調べた(実施例6)。膵臓組織は高レベルのリボヌクレアーゼを含むので、FNAを手術から30分以内に、RNARetain(商標)(組織の回収および保存用の溶液)中に採取し、最長2日間にわたって4℃で保存し、ドライアイス上に保存した。qRT-PCRによって調べた標的は以下を含む:miR-130b、-148a、-155、-196a、-217、および-375、ならびに文献に報告済みの2種類のmRNAであるCEACAM6およびBIRC5。qRT-PCR反応は、10 ng(miRNAの定量用)および5 ng(mRNAの定量用)の全RNAインプットを使用して実施例12に記載した手順で実施した。10のPDAC FNA(Ca FNA)におけるmiRNA発現パターンは、標準となる凍結した膵管腺癌試料と一致していた(図12)。CEACAM6およびBIRC5のmRNAの発現レベルもPDACと一致していたが、BIRC5の場合のように、慢性膵炎および正常膵臓標本の発現レベルと重複していた。3つの非PDAC FNA試料(FNA;FNA-8-●、FNA-12-▲、およびFNA-13-★)では、発現パターンは、検討したマーカーによってさまざまであった。2種類または2種類以上のmiRNAおよび/またはmRNAのマーカーを組み合わせた、さらなる解析によって、miR-196とmiR-217の生Ct値間の差が、膵臓癌のFNA試料と正常標本または慢性膵炎標本間の分離を改善することが確認された(図13)。加えて、これらのmiRNAのみ、またはmRNAマーカーとの組み合わせによって、FNA-8(PDACであることが疑われる、●)がPDAC標本であるという分類が可能となった。この結果から、miRNAが、疑わしい症例の病理学的評価を容易にし、膵臓腺癌の確定診断における有用な利点となることがわかる。さらに、miRNAとmRNAの発現レベルを組み合わせることで、膵臓癌のFNAと、凍結した正常膵臓標本ならびに慢性膵炎標本との間の分離を際だたせることができた。
【0225】
実施例15:
膵臓癌形成に潜在的に関与するmiRNAの標的の推定
膵臓癌形成中のmiRNAによる調節を潜在的に受ける生物学的経路に関するさらなる知見を得るために、発明者らは、上記の26種類のmiRNAバイオマーカーを対象に、膵臓癌で調節が解除されることが既知である公開された遺伝子と、推定標的遺伝子間の包括的な比較を行った。PDACにおいて差次的に発現される遺伝子について報告した代表的ないくつかの公開データセットを使用して、PDAC候補の遺伝子発現データベースを構築した。これと並行して、発明者らの研究によって、公開されているPicTarウェブインターフェイス(http://pictar.bio.nyu.edu)を使用して同定された26種類のmiRNAバイオマーカーの推定標的に関する探索を実施した。両データセットの比較後に、両方のデータセットに存在する一群の遺伝子を作製した。最後に、PDACでアップレギュレートされるmiRNAを、PDACでダウンレギュレートされることが既知である共通の一群の推定標的遺伝子に関連づけた。PDACでダウンレギュレートされるmiRNAには、反対の選択基準を適用した。
【0226】
miRNAが遺伝子発現の負の調節因子であり、このためmiRNAと推定標的の遺伝子発現間の逆相関を予測するという現在の見解を踏まえて、発明者らは、PDACで調節が解除される246種類の固有の遺伝子を同定した(表10)。これらの遺伝子の約37%が、複数のmiRNAの標的であると推定されたことは重要である。47種類の遺伝子が2種類のmiRNAによる標的となり、21種類の遺伝子が3種類のmiRNAによる標的となり、13種類の遺伝子が4種類のmiRNAによる標的となり、および7種類の遺伝子が5種類の異なるmiRNAによる標的となると推定される。これらのデータから、miRNAによって駆動される病態生理学的機序が膵臓疾患の発生と直接関与し、また重要な点として、診断における使用および治療的介入の新たな標的を提供する可能性があることがわかる。
【0227】
(表10)26種類のmiRNAバイオマーカー、およびそれらの推定標的遺伝子はPDACで差次的に発現される















【0228】
実施例16:
診断法
患者は、黄疸、体重減少、痛み(bruising)、腹痛、嘔吐、下痢、および/または悪心の1つもしくは複数を含む症状の評価を求める場合がある。患者の血漿を対象に、膵臓癌に関して50〜75%の感度および83%の特異性を示す癌腫瘍マーカーCA 19-9の存在を評価するために、末梢血が採取される(Freelove and Walling, 2006)。同時に、miRNAフラクションを含む全RNAが、患者の血漿の試料から精製される。本発明の方法で、表6、表9、ならびに図9Aおよび図9Bに列挙したmiRNAのレベルが、膵管腺癌または慢性膵炎を示唆する様式で変化するか否かが判定される。典型的に、これらの環境では本発明は、慢性膵炎の症例の診断に使用される。
【0229】
実施例17:
診断法
患者は、膵臓癌または慢性膵炎(実施例13を参照)を示唆する症状を有する場合があり、および血清腫瘍マーカーCA 19-9のレベルの上昇を示すことが明らかとなる場合があり、ならびに超音波内視鏡検査による穿刺吸引が計画される(Freelove and Walling, 2006)。この手順では、膵臓細胞を含む穿刺吸引物が採取される。あるいは、手順中に膵液が吸引される場合がある。膵液は、剥落した膵臓細胞および溶解した膵臓細胞の内容物を含む場合がある。穿刺吸引物、新鮮な試料、凍結もしくは固定した試料の内容物から、または膵液試料からmiRNAフラクションを含む全RNAが精製される。本発明の方法で、表6、表9、ならびに図9Aおよび図9Bに列挙したmiRNAのレベルが、膵管腺癌または慢性膵炎を示唆するように変化するか否かが見極められる。典型的に、このような環境で本発明は、膵臓癌の疑わしい診断の確認に使用されることになる。
【0230】
実施例18:
診断法
無症候性の患者は、CTスキャンイメージングで膵臓に瘤を有することが明らかになる場合がある。胸部X線検査および結腸鏡検査は正常である。患者は膵臓癌の家族歴を有し、およびある程度の体重減少を最近になって経験した場合がある。患者の血漿を、腫瘍マーカー抗原の存在に関して評価するために、末梢血が採取される。血漿の試料も、miRNAを精製するために処理される場合がある。次に本発明の方法によって、血漿から単離されたmiRNAのレベルが、膵管腺癌または慢性膵炎を示唆するように変化するか否かを判定することができる(表6、表9、図9Aおよび図9B)。このような環境下では、本発明を使用して、膵臓癌の診断を提供することができる。
【0231】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載した例示的な手順、またはこれに付随する他の詳細を提供する範囲で、特異的に参照により本明細書に組み入れられる。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に由来する試料における1種または複数種のmiRNAの発現プロファイルを測定する段階を含む、患者の状態を診断する方法であって、患者に由来する試料における発現プロファイルと正常試料の発現プロファイルの差が病理学的状態の指標であり、miRNAが

である、方法。
【請求項2】
miRNAが

の1つまたは複数である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
miRNAが、miR-196a、miR-217、またはmiR-196aとmiR-217の両方である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
miRNAが

であり、1種または複数種のmiRNAの発現の差が膵炎の指標である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
患者試料中の1種または複数種のmiRNAの発現の上昇が膵炎の指標であり、miRNAが

である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
患者試料中の1種または複数種のmiRNAの発現の低下が膵炎の指標であり、miRNAが

である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
1種または複数種のmiRNAの発現の差が膵臓癌の指標であり、miRNAが

である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
1種または複数種のmiRNAの発現の上昇が膵臓癌の指標であり、miRNAが

である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
1種または複数種のmiRNAの発現の低下が膵臓癌の指標であり、miRNAが

である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
膵炎が、

の1つまたは複数の発現の差によって、膵臓癌と区別される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
発現レベルが膵臓の疾患状態と相関する、1種または複数種のmRNAの発現プロファイルを測定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
測定されるmRNAが、癌胎児性抗原関連細胞接着分子6のmRNA、サバイビンのmRNA、ムチン4のmRNA、およびウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター受容体のmRNAからなる群より選択される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
1種または複数種のmRNAの発現プロファイルを測定する段階が、定量的逆転写PCR(qRT-PCR)による、請求項11記載の方法。
【請求項14】
試料が、組織、血液、血清、血漿、または膵液の試料である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
試料が、新鮮であるか、凍結されているか、固定されているか、または包埋されている、請求項14記載の方法。
【請求項16】
患者に由来する試料および正常試料が膵臓試料である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
病理学的状態が非癌性状態である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
非癌性状態が慢性膵炎である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
病理学的状態が癌性状態である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
病理学的状態が膵臓癌である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
膵臓癌が膵管腺癌(PDAC)である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
患者から試料を得る段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
試料由来のmiRNAを標識する段階をさらに含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
標識したmiRNAを1種または複数種のmiRNAプローブにハイブリダイズさせる段階をさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
miRNAプローブが支持体に結合されている、請求項24記載の方法。
【請求項26】
支持体が、ガラス、プラスチック、金属、またはラテックスである、請求項25記載の方法。
【請求項27】
支持体が平面状である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
支持体がビーズである、請求項26記載の方法。
【請求項29】
miRNAの発現が、増幅アッセイ法またはハイブリダイゼーションアッセイ法によって判定される、請求項1記載の方法。
【請求項30】
増幅アッセイ法が定量的増幅アッセイ法である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
定量的増幅アッセイ法が定量的RT-PCRである、請求項30記載の方法。
【請求項32】
ハイブリダイゼーションアッセイ法が、アレイハイブリダイゼーションアッセイ法または溶液ハイブリダイゼーションアッセイ法である、請求項29記載の方法。
【請求項33】
診断する段階が、病理学的状態についてスクリーニングする段階、病理学的状態の予後を評価する段階、病理学的状態の病期を決定する段階、または処置に対する病理学的状態の反応を評価する段階である、請求項1記載の方法。
【請求項34】
miRNAの配列を含む1種または複数種の核酸を膵臓細胞に接触させることによって、膵臓状態を処置する方法であって、内因性のmiRNAの発現が膵臓細胞で調節され、miRNAの配列が、

の1つまたは複数と少なくとも85%同一である、方法。
【請求項35】
miRNA配列が、修飾された核酸配列を含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
膵臓細胞が膵臓癌細胞である、請求項34記載の方法。
【請求項37】
第2の処置を実施する段階をさらに含む、請求項34記載の方法。
【請求項38】
第2の処置が、化学療法、放射線療法、手術、または免疫療法である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
miRNAが核酸ベクターから転写される、請求項34記載の方法。
【請求項40】
ベクターがプラスミドベクターである、請求項39記載の方法。
【請求項41】
ベクターがウイルスベクターである、請求項39記載の方法。
【請求項42】

に対して少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを有する、有効量の1種または複数種の合成miRNA分子またはmiRNA阻害因子を対象に投与する段階を含む、対象の膵管腺癌を処置する方法。
【請求項43】
対象に、
(a)

に対して少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを有する1種もしくは複数種のmiRNA阻害因子;および/または
(b)

に対して少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを有する1種もしくは複数種のmiRNA
が投与される、請求項42記載の方法。
【請求項44】

に対して少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを含む、有効量の1種または複数種の合成miRNA分子またはmiRNA阻害因子を対象に投与する段階を含む、対象の慢性膵炎を処置する方法。
【請求項45】
対象に、
(a)

に対して少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを有する1種もしくは複数種のmiRNA阻害因子;および/または
(b)

に対して少なくとも80%の核酸配列同一性を有する核酸セグメントを有する1種もしくは複数種のmiRNA
が投与される、請求項44記載の方法。
【請求項46】
適切な容器手段中に、

の1つまたは複数を含む、2種類または2種類以上のmiRNAハイブリダイゼーション用試薬または増幅用試薬を含む、試料についてmiRNAプロファイルを評価することによる病理学的試料の解析用のキット。
【請求項47】
試料中のmiRNAを標識するための試薬をさらに含む、請求項46記載のキット。
【請求項48】
標識用試薬が、少なくとも1種類のアミン修飾されたヌクレオチド、ポリ(A)ポリメラーゼ、およびポリ(A)ポリメラーゼ緩衝液を含む、請求項47記載のキット。
【請求項49】
標識用試薬がアミン反応性色素を含む、請求項48記載のキット。
【請求項50】
miRNAハイブリダイゼーション用試薬がハイブリダイゼーション用プローブを含む、請求項46記載のキット。
【請求項51】
miRNA増幅用試薬が増幅用プライマーを含む、請求項46記載のキット。

【公表番号】特表2010−504102(P2010−504102A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529373(P2009−529373)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/078936
【国際公開番号】WO2008/036765
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(509078609)アシュラジェン インコーポレイテッド (6)
【Fターム(参考)】