説明

自動二輪車

【課題】リヤサスペンション及びリンク機構の構成を工夫し、スイングアーム及びスイングブラケット部の下方空間を、車両用装置などの配置に有効に利用可能とし、車両寸法がコンパクトな自動二輪車を提供する。
【解決手段】自動二輪車において、メインフレーム1の後部にスイングアーム7を上下方向揺動可能に支持し、該スイングアーム7とメインフレーム1との間にリンク機構11を介してリヤサスペンション12を伸縮可能に介装してある。リンク機構11は、スイングアーム7の上部に回動自在に支持されたサスペンションアーム51と、メインフレーム1に一端部が回動自在に支持されたタイロッド52とを有し、サスペンションアーム51の第1軸支部61にリヤサスペンション12の他端部が、第2軸支部62に、タイロッド52の他端部が回動自在に連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車に関し、特に、リヤサスペンションが、リンク機構を介してスイングアームを弾性支持する自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
図23は、従来の自動二輪車の車体フレーム300、後輪支持用のスイングアーム301及びリヤサスペンション302を示しており、スイングアーム301は、車体フレーム300の下部に形成されたスイングアームブラケット部300aに上下方向揺動自在に支持されると共に、後方に延びている。また、リヤサスペンション302は略上下方向に沿うよう縦向きに配置されると共に、スイングアーム301よりも上方と下方にそれぞれ突出している。リヤサスペンション302の上端部302aは、スイングアーム301より上方位置で車体フレーム300に回動可能に支持され、リヤサスペンション302の下端部302bは、スイングアームブラケット部300aの下端よりも下方に位置し、リンク機構304を介してスイングアームブラケット部300aの下端部に連結されている。
【0003】
リンク機構304は、概ね三角形状のサスペンションアーム310と、タイロッド311とから構成されており、サスペンションアーム310は、前端がスイングアームブラケット部300aの下端に回動自在に連結され、後端がリヤサスペンション302の下端部302bに回動可能に連結され、中央部がタイロッド311の下端部に回動可能に連結されている。タイロッド311はサスペンションアーム304から後上方に延び、スイングアーム301の下面に形成された取付部301aに回動可能に連結されている。なお、図23の従来例と同様な構造を有する自動二輪車は、特許文献1にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−347472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図23の従来例のように、縦向きに配置されたリヤサスペンション302の下半部をスイングアーム301よりも下方に突出させ、スイングアームブラケット部302aの下端部にリンク機構304のサスペンションアーム310を連結すると共に、タイロッド311全体をスイングアーム301の下側に配置している構造では、スイングアーム301及びスイングアームブラケット部300aの下方空間を、各種車輌用装置の部材を配置するために有効に利用することができなかった。
【0006】
車輌用装置の一例として、たとえば排気装置があり、この排気装置は、排気管、触媒管、集合管、排気チャンバー306及び排気マフラー等から構成され、エンジン前部の排気口から車輌後部の排気マフラーに至るように配置されるが、スイングアーム301及びスイングアームブラケット部300aの下方空間を、排気装置用に有効に利用することができなかった。したがって、該従来例では、容積の大きな排気チャンバー306は、スイングアームブラケット部300aの前側に配置されており、そのため、車輌の前後方向の長さが長くなり、しかも、スイングアームブラケット部300aの前側にはエンジンが配置されているため、排気チャンバー306の容積も制限されていた。
【0007】
特に、スポーツ用及びレース用の自動二輪車では、近年の排気ガス・騒音規制に対応するために、排気チャンバー306等の容積の増大化が要望されるが、それに対応することが困難であった。
【0008】
また、仮に図23のスイングアームブラケット部300aの下方に排気チャンバー306等を配置するとすれば、車輌の最低地上高を確保するためには、車輌の上下方向の寸法が大きくなるという課題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、リヤサスペンション及びリンク機構の構成を工夫し、スイングアーム及びスイングアームブラケット部の下方空間を、車輌用装置等の配置に有効に利用できるようにすることにより、車輌の前後方向及び上下方向の寸法をコンパクトに保つことができる自動二輪車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、メインフレームの後部に、後方に延びる後輪支持用のスイングアームを上下方向揺動可能に支持し、該スイングアームと前記メインフレームとの間にリンク機構を介してリヤサスペンションを伸縮可能に介装してある自動二輪車において、前記リヤサスペンションは、その一端部が前記スイングアームの揺動軸支部より上方位置で前記メインフレームの上端よりも下方に位置する部分に回動自在に支持されると共に、前記スイングアームより上方位置を後方に延びており、前記リンク機構は、前記スイングアームの上部に回動自在に支持されたサスペンションアームと、前記メインフレームに一端部が回動自在に支持されたリンク部材と、を有し、前記サスペンションアームの第1軸支部に前記リヤサスペンションの他端部が回動自在に支持され、前記サスペンションアームの第2軸支部に、前記リンク部材の他端部が回動自在に連結されている。
【0011】
上記発明に掛かる自動二輪車において、好ましくは次の構成を適用することができる。
【0012】
(a)前記リヤサスペンションの下方空間に排気装置、たとえば排気チャンバーを配置する。
【0013】
(b)前記メインフレームに、車幅方向に見て、前記リヤサスペンションの前記一端部及びその近傍に対応する位置に、工具挿通用の開口を形成する。
【0014】
(c)前記リヤサスペンションを、車幅中心線に対して、車幅方向の一方側に配置する。
【0015】
(d)前記リヤサスペンションの上側を覆う車輌構成部材が、前記リヤサスペンションの後端側部分の少なくとも上部を収納できる凹部を有している。
【0016】
(e)リヤサスペンションを車幅方向の一方に配置した構成において、車幅方向の他方側であって、燃料タンクの下端高さ又はそれ以下の高さに、燃料ポンプを配置する。
【0017】
(f)前記メインフレームの後部のクロス部材に、前記リヤサスペンションの一端部を取り付けるための取付部を形成し、前記取付部には、リヤサスペンション固定用のナットが回動不能に係止保持されるナット係止保持部を一体に形成する。
【発明の効果】
【0018】
(1)本発明によると、車輌の上下方向の寸法及び前後方向の寸法をコンパクトに保ちつつ、スイングアーム等の下方空間を、各種装置配置用に有効に利用することができる。
【0019】
(2)リヤサスペンションを、スイングアームの上方位置で、概ね前後方向に延びるように配置しているので、後輪からスイングアームを介してリヤサスペンションに掛かる荷重は、メインフレームを介して前輪用のフロントフォークに掛かり、これにより地面に対する前輪のグリップ力が増大する。すなわち、コーナー等の走行において、安定したグリップ力を発揮することでき、コーナリングの性能が向上する。
【0020】
(3)上記構成要件(a)によると、スイングアームの下方空間を排気チャンバー配置用に有効に利用できると共に、排気チャンバーの容積を増大させることができ、しかも、排気装置全体をコンパクトに配置することもできる。
【0021】
(4)上記構成要件(b)によると、シート等の車輌用部材を取り外さなくとも、車輌側方から工具を挿入することにより、リヤサスペンションの着脱作業を容易に行うことができる。
【0022】
(5)上記構成要件(c)によると、リヤサスペンションの側方空間を、比較的体積の大きな部品、たとえばバッテリあるいはABS機器等の配置用に利用することができる。
【0023】
(6)上記構成要件(d)によると、リヤサスペンションの上方を覆う部材、たとえばバッテリケースあるいはリヤフェンダー等を、リヤサスペンションに接近させて配置することができ、リヤサスペンション周りをコンパクトにすることができる。特に、上下方向の寸法をコンパクトにできる。
【0024】
(7)上記構成要件(e)によると、リヤサスペンションの側方を燃料ポンプ配置用に有効に利用でき、また、加減速時において燃料タンク内における燃料の移動があっても、燃料ポンプへの燃料供給が途切れることがなく、燃料ポンプのエアかみを防止できる。
【0025】
(8)上記構成要件(f)によると、リヤサスペンションの取付及び分解作業時、作業者が工具によってナットを保持しておかなくとも、ボルトの回動だけで、簡単にリヤサスペンションを取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る自動二輪車の左側面図である。
【図2】図1の自動二輪車のメインフレーム、スイングアーム、リヤサスペンション及び排気チェンバーの平面図である。
【図3】図2のIII-III断面図である。
【図4】図3のIV-IV断面拡大図である。
【図5】図3のV-V断面拡大図である。
【図6】図5のVI-VI断面図である。
【図7】図2の矢印VII部分の拡大右側面図である。
【図8】シート及び燃料タンクを外して示す図1の矢印VIII部分の拡大平面図である。
【図9】リヤサスペンションとバッテリケースとの関係を示す図8のIX-IX断面図である。
【図10】排気チャンバー及びその近傍の拡大左側面図である。
【図11】図10の底面図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る自動二輪車のメインフレーム、スイングアーム、リヤサスペンション及び排気チェンバーの平面図である。左側面図である。
【図13】図12のXIII-XIII面図である。
【図14】図12の矢印XIV部分の拡大右側面図である。
【図15】図12の排気チャンバーの拡大左側面図である。
【図16】図15の正面図(前面図)である。
【図17】リヤサスペンションとリヤフェンダーの関係を示す右側面図である。
【図18】図17のXVIII矢視図(略遠方から見た図)である。
【図19】リヤサスペンション及び燃料タンクの拡大右側面図である。
【図20】図19の正面図(前面図)である。
【図21】図20のXXI-XXI断面図である。
【図22】図19のXXII-XXII断面図である。
【図23】従来例のメインフレーム、スイングアーム及びリヤサスペンション等の左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1の実施の形態]
図1乃至図11に基づいて、本発明の第1の実施の形態を説明する。なお、説明の都合上、車輌の進行方向を車輌の「前方」とし、乗車したライダーから見た左右方向を、車輌の「左右方向」として、説明する。
【0028】
(車輌の全体構成)
図1は自動二輪車全体の左側面図であり、メインフレーム1の下側にエンジン2を配置し、メインフレーム1の上側に、前側から順に、吸気ボックス3、燃料タンク4及びシート5を配置し、メインフレーム1の後下端部に設けられたスイングアームブラケット部1aに、ピボット部(揺動軸支部)9を介してスイングアーム7を回動可能に支持していている。メインフレーム1の後端部の上端部には、図示しないが後方に延びるシートレール(後部フレーム)及びリヤフェンダー6が固定され、該リヤフェンダー6の後端部にはフラップ8が設けられている。
【0029】
スイングアーム7は、前記ピボット部9から後方に延びると共に前記ピボット部9回りに上下方向揺動自在となっており、スイングアーム7の後端部に設けられた後車軸に、後輪10が回転可能に支持されている。スイングアーム7の前部の上面は、リンク機構11及びリヤサスペンション12を介してメインフレーム1に弾性支持されている。
【0030】
メインフレーム1の前端部には、ダンパー機能を有するフロントフォーク(下端部のみ表示)14が操舵可能に支持され、フロントフォーク14の上端部に結合された操舵軸(図示せず)にはハンドル装置15が設けられ、フロントフォーク14の下端部に、前車軸を介して前輪16が回転自在に支持されている。
【0031】
エンジン2は直列型4気筒エンジンであり、エンジン2のクランクケース(トランスミッションケースを含む)2aの左側には出力スプロケット17が設けられ、この出力スプロケット17と、後輪10の左側に設けられた後輪駆動用のスプロケット18との間に、駆動チェーン19が巻き掛けられている。
【0032】
(排気装置の構成)
エンジン2の排気装置は、シリンダヘッド2bの前面に開口する各気筒用排気口に接続された4本の排気管20と、クランクケース2aの下側に配置された排気集合管21と、スイングアームブラケット部1aの下方空間からスイングアーム7の前部の下方空間に亘って配置された排気チャンバー22と、後輪10の左右両側に配置された左右一対の排気マフラー23と、を備えている。
【0033】
前記排気管20は、シリンダヘッド2bの前面排気口からエンジン2の前側を下方に延び、クランクケース2aの前下端近傍位置で後方に湾曲し、クランクケース2aの下側で排気集合管21に集合している。集合管21の後端出口は排気接続管21aを介して排気チャンバー22に接続している。排気チャンバー22は左右側面に排気出口を有しており、各排気出口はそれぞれ排気接続管22aを介して左右の排気マフラー23に接続している。
【0034】
(メインフレーム1、スイングアーム7、リヤサスペンション12及びリンク機構11の構成)
図2は、メインフレーム1、スイングアーム7及びリヤサスペンション12の平面図、図3は図2のIII-III断面図、図4は図3のIV-IV断面図である。図2において、メインフレーム1は、ヘッドパイプ部31から後方に延びる左右一対のフレーム部材32と、左右のフレーム部材32を結合する上側クロス部材34及び下側クロス部材35とを一体的に有している。図3に示すように、上側クロス部材34は、メインフレーム1の前後方向の中央よりも少し後方位置に配置されており、該上側クロス部材34には、リヤサスペンション12の前端部(ボス部)12aを回動自在に取り付けるためのサスペンション取付部41が一体に形成されている。下側クロス部材35は、スイングアームブラケット部1aの下端部に設けられ、該下側クロス部材35には、排気チャンバー22を取り付けるための排気チャンバー取付部42と、リンク機構11のタイロッド52を支持するためのタイロッド取付部43とが、一体に形成されている。
【0035】
スイングアーム7は、図2に示すように、左右一対のアーム部材36と、両アーム部材36の前端部を結合する回動ボス部37と、両アーム部材36の前後方向の中央位置よりも前方寄りの位置で両アーム部材36を連結する連結部材38とを有している。図3において、スイングアーム7は、非乗車状態で、後方に向いて若干下方に傾斜する状態となっており、水平に対する傾斜角度θは、たとえば5°乃至10°程度に設定されているが、勿論、機能によっては10°を越える場合もある。
【0036】
図2において、リヤサスペンション12は、車幅中心線C1よりも右方に偏った位置、すなわち駆動チェーン配置側とは反対側に偏倚した位置に配置されている。このリヤサスペンション12は、周知の構造であり、作動液を内蔵するシリンダ53と、該シリンダ53にシリンダ長さ方向移動自在に嵌合するロッド54と、シリンダ53及びロッド54の外周側に配置されたコイルスプリング55とから構成されており、上記コイルスプリング55の弾性力及び作動液圧に抗して長さ方向に伸縮可能し、後輪10に掛かる衝撃を吸収するようになっている。
【0037】
リヤサスペンション12の前端部12aは、後で詳しく説明するが、前記上側クロス部材34のサスペンション取付部41に、ボルト70及びナット71により回動可能に連結されており、図3に示すように、スイングアーム7よりも上方で、略水平に前後方向に延びて配置される。該実施の形態では、スイングアーム7と略平行にやや後下がり傾斜状に後方に延び、後端部12bがリンク機構11のサスペンションアーム51の後端軸支部(第1軸支部)61に回動可能に連結されている。
【0038】
図3において、リンク機構11は、三角形状の前記サスペンションアーム51と前記タイロッド52とから構成されており、サスペンションアーム51は、前後方向の中間軸支部63が、スイングアーム7の連結部材38の上面に設けられたアーム取付部65にベアリング等を介して回動可能に支持され、前端軸支部(第2軸支部)62には、タイロッド52の上端部がピン等を介して回動可能に連結されている。タイロッド52は、サスペンションアーム51の前端軸支部62から下方に延び、スイングアームブラケット部1aの下端部に設けられた前記タイロッド取付部43に、ピン等を介して回動可能に支持されている。
【0039】
図4は図3のIV-IV断面拡大図、図5は図3のV-V断面拡大図、図6は図5のVI-VI断面図であり、リヤサスペンション12の前端部12aの取付構造の詳細を示している。
【0040】
図4において、リンク機構11のタイロッド52は、左右方向に幅広く形成された一枚の肉厚の板部材で構成されており、サスペンションアーム51は左右一対の板状部材から構成され、タイロッド52の左右両側に連結されている。
【0041】
上側クロス部材34に形成されたリヤサスペンション取付部41は、左右一対の板状部分から構成されており、これら板状部分間にリヤサスペンション12の前端部12aを嵌め込んで、前記ボルト70及びナット71により回動可能に連結する構造であるが、サスペンション取付部41の左側板状部分、すなわちリヤサスペンション偏心側と反対側の板状部分に、ナット71を回り止め状態で係止するナット係止保持部72が一体に形成されている。
【0042】
図5において、前記リヤサスペンション取付用のボルト70は、リヤサスペンション取付部41の右側から、右側板状部分のボルト挿通孔75、リヤサスペンション12の前端部12aのボルト挿通孔76及び左側の板状部分のボルト挿通孔75に挿通されており、一方、ナット71は、ナット係止保持部72のポケット73内に挿入されている。ボルト70の左端部をナット71に螺挿するのであるが、前記ナット係止保持部72により、ナット71が、ボルト挿通孔75と同心に位置決めされると共に、回り止めされているのである。
【0043】
すなわち、図6において、ナット係止保持部72のポケット73の内周面には、互いに平行な前後一対の係止用平面73aが形成されており、ポケット73内のナット71は、前記一対の係止用平面73aにより回り止めされると共に前後方向に位置決めされ、かつ、ポケット73の底面にナット71の下端が当接することにより、上下方向にも位置決めされる。これにより、ナット71はリヤサスペンション取付部41のボルト挿通孔75、77と同心に位置決めされ、かつ、回り止めされた状態で、ポケット73内に保持されることになる。
【0044】
図7は、図2の矢印VII部分の拡大右側面図であり、メインフレーム1の右側フレーム部材32には、側方から見て、前記リヤサスペンション取付部41のボルト挿通孔75に対応する位置に、前記ボルト70及びボルト回動用の工具が挿通可能の工具挿通用開口79が形成されている。この工具挿通用開口79に車輌外方(右方)からボックスレンチ等の工具を挿通して、前記ボルト70を回動できるようになっている。これによって、リヤサスペンション取付部41がメインフレーム1の内側で上下方向の中間に配置されていても、リヤサスペンション12の着脱が容易にできる。また、リヤサスペンション取付部41がメインフレーム1の下縁近傍に配置されることで、リヤサスペンション12をできるだけ下方に配置できる。なお、この工具挿通用開口79には、図示しないが樹脂製のキャップ等で蓋がされる。
【0045】
(バッテリ80等の配置)
図8は、シート4及び燃料タンク4を外して示す図1の矢印VIII部分の拡大平面図、図9は、リヤサスペンション12とバッテリケース81との位置関係を示す図8のIX-IX断面図である。図8において、前記リヤサスペンション12は、前述のように、車幅中心線C1に対して右側に配置されているので、車幅中心線C1より左側の空間は大きく確保されている。この左側の空間に、バッテリ80及びブレーキ作動液制御用のABSユニット82等の内蔵物が配置されている。ABSユニット82は、リヤサスペンション12の前半部の左方に配置され、バッテリ80は、ABSユニット82の後側であって、リヤサスペンション12の後半部の左方に配置されている。
【0046】
リヤサスペンション12の上方には、左右のフレーム部材32に亘るようにバッテリケース81が架設されており、このバッテリケース81の左側部分に前記バッテリ80が搭載され、バッテリケース81の右側には、ヒューズボックス83等が搭載されている。
【0047】
図9において、バッテリケース81の左側半分の下面は、リヤサスペンション12の最上端位置よりも少し下方に位置しているが、バッテリケース81の右側半分の下面には、リヤサスペンション12の上半部の上方及び左方を収納可能な凹部81aが形成されている。すなわち、リヤサスペンション12の直上に位置する右側半分の下面は、スイングアーム7と共に上下に揺動するリヤサスペンション12が干渉しないように、左側半分の下面よりも高くなるように形成されている。
【0048】
(排気チャンバー22の取付構造)
図10は、排気チャンバー22の拡大左側面図、図11は排気チャンバー22の拡大底面図であり、図10において、排気チャンバー22の上面には、左右一対の取付片85が形成されており、この取付片85が前記下側クロス部材35のチャンバー取付部42に、ピン等により取り付けられている。図11において、排気チャンバー22は、平面視で前後方向に長い略長方形状であって、図10のように、側方から見て上下方向に短い扁平状に形成されている。また、排気チャンバー22は、ピボット部9及びスイングアーム7の下方に配置される。
【0049】
また、下側クロス部材35のチャンバー取付部42は、図2に示すように、車幅中心線C1上に位置している。
【0050】
(第1の実施の形態の作用効果)
(1)コーナリング時(あるいは加減速時)に後輪に大きな荷重が掛かった場合、図1において、スイングアーム7は後輪10と共に車体に対して相対的に上方に揺動し、図3のリンク機構11を介してリヤサスペンション12を前方に圧縮し、衝撃を吸収する。この時、リヤサスペンション12は略前後方向に延びるように配置されているので、リヤサスペンション12に掛かる前方への荷重は、メインフレーム1を介して図1のフロントフォーク14に伝達され、前輪16を地面に押し付ける荷重を増大させる。これにより、地面に対する前輪16のグリップ力が増大し、安定したコーナリングを行うことができる。
【0051】
(2)また、リヤサスペンション12もスイングアーム7と共に車体に対して相対的に上方に移動するが、図9に示すように、リヤサスペンション12の上方に位置するバッテリケース81の右側部分には、凹部81aを形成してあるので、リヤサスペンション12がバッテリケース81に干渉することもない。
【0052】
(3)リヤサスペンション12を組付及び分解する場合、図5及び図6に示すように、ナット71は、ナット係止保持部72により、回転しないように、かつ、サスペンション取付部41のボルト挿通孔75に合致するように係止保持されており、作業者は、ナット71を特に工具で係止していなくとも、図7に示す右側フレーム部材32の工具挿通用開口79からボルト回動用のレンチ等を挿入し、ボルト70を回転することができる。したがって、作業者は、図1のシート5や燃料タンク4を取り外さなくとも、容易にリヤサスペンション12の組付及び分解ができる。さらに、リヤサスペンション12が偏心している側(右側)のフレーム部材32に、工具挿通用開口79が形成されることで、短い工具でもボルト70にアクセスすることができ、組立及び分解作業時の利便性を向上できる。
【0053】
(4)図3に示すように、リヤサスペンション12の全体をスイングアーム7よりも上方位置で、概ね前後方向に延びるように配置し、かつ、リンク機構11のサスペンションアーム51を、スイングアーム7の上側に配置しているので、最低地上高を短くすることなく、スイングアーム7の下方空間及びスイングアームブラケット部1aの下方空間を、排気チャンバー22配置用に有効に利用できる。これにより、排気チャンバー22の容積拡大及び車輌の前後方向の寸法のコンパクト化を図れると共に、車輌の上下方向の寸法の増大も防止できる。
また、リヤサスペンション取付部41が、メインフレーム1の上縁部よりも下方に位置しており、これにより、リヤサスペンション取付部41がメインフレーム上部に形成される場合に比べて、リヤサスペンション12を下方に配置でき、リヤサスペンション12の上方空間に、他の車載機器を搭載し易くなっている。さらに、リヤサスペンション取付部41が上側クロス部材34の下方に形成されることで、リヤサスペンション12をさらに下方に配置することが可能となっている。
【0054】
(5)図8に示すように、リヤサスペンション12を車幅中心線C1より右方に配置し、その左方に確保された空間に重量のあるバッテリ80及びABSユニット82を配置しているので、車輌の左右幅を大きくすることなく、有効に利用でき、しかも、左右の重量バランスも保つことができる。また、排気チャンバー22とタイロッド52とを、同じ下側クロス部材35に形成した取付部42,43に取り付けているので、各取付部42,43をそれぞれ個別に形成する場合に比べ、部品点数を低減できる。
【0055】
[第2の実施の形態]
図12乃至図22は、本発明の第2の実施の形態であり、車輌全体の基本的な構造及び各所の基本的な構造及び特徴は、第1の実施の形態と同様であり、第1の実施の形態と異なる主な点は、燃料タンク4、スイングアーム7、リヤサスペンション12、リヤフェンダー6及び工具挿通用開口の数又は形状等である。なお、第1の実施の形態と同じ名称の部品には同じ符号を附し、重複説明となる内容は、省略するか、あるいは簡単に記載する。
【0056】
図12は、メインフレーム1、スイングアーム7及びリヤサスペンション12の平面図、図13は図12のXIII-XIII断面図、図14は図12の矢印XIV部分の拡大右側面図である。
【0057】
図13において、スイングアーム7の上面には、剛性を向上させるために、上方に突出する三角形状のスタビライザー部7aがスイングアーム7と一体に形成されている。
【0058】
リヤサスペンション12は、前記第1の実施の形態と同様、その前端部12aがメインフレーム1の上側クロス部材34ニ設けられたサスペンション取付部41に回動自在に連結されており、前記サスペンション取付部41から、スイングアーム7の上方位置をスイングアーム7と概ね平行に後方に延び、後端部12bが、サスペンションアーム51の後端軸支部(第1軸支部)61に回動自在に連結されている。
【0059】
図12において、リヤサスペンション12の前端部12aを支持するためのボルト70は、リヤサスペンション取付部41の左側から挿通されており、したがって、本実施の形態では、左側フレーム部材32に、ボルト70を回動するための工具挿通用開口79が形成されている。
【0060】
また、本実施の形態のリヤサスペンション12は、作動液補充用のリザーブタンク101を備えると共に、前後端部の右側面に、伸張側及び圧縮側の減衰圧を調節するための調節ねじ(前端部側のみ表示)103が設けられており、この前端部の調節ねじ103を車体右側方から操作できるように、右側フレーム部材32には、調節ねじ用の工具挿通用開口79aが形成されている。該工具挿通用開口79aは、図14に示すように、側方から見て、リヤサスペンション12の前端部12aの調節ねじ103に対応する位置に形成されている。
【0061】
また、本実施の形態では、図12に示すように、リヤサスペンション12自体は車幅中心線C1よりも右方に偏った位置に配置されているが、前記リザーブタンク101は、車幅中心線C1よりも左側に位置し、リヤサスペンション12とほぼ平行に配置されている。
【0062】
図15は排気チャンバー22の左側面図、図16は図15の正面図であり、図15において、側方から見た排気チャンバー22は、前端部がメインフレーム1のスイングアームブラケット部1aの下方空間に配置されており、スイングアーム7の下方空間に移るに従い上方に急激に突出し、図13に示すように、スイングアーム7の下方空間に位置する後半部は、大きな容積が確保されている。また、排気チャンバー22の取付片85は、排気チャンバー22の前面に形成されており、前上方へと延びてスイングアームブラケット部1aの下端の排気チャンバーバー取付部42に支持されている。
【0063】
図16において、本実施の形態の自動二輪車は、車体の右側にのみ排気マフラー23が配置されており、したがって、排気チャンバー2の右側面にのみ排気接続管22aが設けられている。
【0064】
図17はリヤサスペンション12及びリヤファンダー6の位置関係を示す右側面図、図18は図17のXVIII矢視図(前上方から見た図)である。図17において、リヤファンダー6は、リヤサスペンション12の前端部12aの前方位置から後方に延び、リヤサスペンション12の前部の上側を覆うと共に、リヤサスペンション12の前後方向の途中位置から、後上方へ傾斜状に延び、図1のように後輪10を覆っている。
【0065】
図18において、リヤファンダー6の前部の下面には、リヤサスペンション12自体の上半部の形状及びリザーブタンク101の上半部の形状に対応した形状の凹部6aが形成されている。これにより、リヤフェンダー6に干渉しない範囲で、リヤサスペンション12の位置を可能な限り上方に配置している。
【0066】
図19は燃料タンク4とリヤサスペンション12との位置関係を示す右側面図、図20は図19の正面図、図21は図20のXXI−XXI断面、図22は図19のXXII−XXII断面図である。
【0067】
図19において、側方から見た燃料タンク4の形状は、メインフレーム1(図13参照)の上部から左右のフレーム部材32間を下方に張り出し、かつ、下端部においてリヤサスペンション12の上方を後方に延びている。また、図20に示すように、燃料タンク4の底面の右側部分は、上方へ凹んでリヤサスペンション12の前部の上部を収納可能な凹部4aが形成されている。
【0068】
さらに、図21及び図22に示すように、燃料タンク4の左半部の底面に燃料ポンプ90が設けられており、この燃料ポンプ90の下端に設けられた燃料吸込口は、リヤサスペンション12の左方の空き空間を利用して形成された燃料タンク最下端部で開口している。
【0069】
(第2の実施の形態の作用効果)
第2の実施の形態によると、前記第1の実施の形態の作用効果と同様な作用効果を有することに加え、次のような効果も奏する。
【0070】
(1)図12及び図14に示すように、メインフレーム1のフレーム部材32には、ボルト70の締結用の工具挿通用開口79に加え、リヤサスペンション12の減衰圧調節用の調節ねじ103を操作するための工具挿通用開口79aも形成しているので、シート5や燃料タンク4を取り外さなくとも、リヤサスペンション12の減衰圧を、車体側方から調節することができる。また、リヤサスペンション12の偏心側のフレーム部材32に工具挿通用開口79aが形成されているので、短い工具でも調節ねじ103にアクセスすることができ、組立及び分解作業時の利便性が向上できる。
【0071】
(2)図20乃至図22のように、燃料タンク4は、メインフレーム1の左右のフレーム部材32間から、リヤサスペンション12の左方の空間に至るまで下方に張り出しており、そして、燃料ポンプ90を、少なくともその下端吸込口がリヤサスペンション12の左方のタンク最下端位置又はその近傍で開口するように燃料タンク4内に配置している。すなわち、車幅中心線C1から右方に偏倚するように配置されたリヤサスペンション12の左方空間を、燃料タンク4の下方延長容積として利用すると共に、燃料ポンプ90を配置しているので、車輌のコンパクト性を保ちつつ、燃料タンク4の容量を確保でき、また、加減速時、燃料タンク4内で燃料が移動する状態でも、燃料ポンプ90のエアかみを防ぐことができる。
【0072】
(3)図17及び図18に示すように、リヤフェンダー6の底面に、リヤサスペンション12の上半部の上方及び側方を覆うことができる凹部6aを形成しているので、リヤサスペンション12をスイングアーム7の上方に、略前後方向に延びるように配置した場合でも、車輌の上下方向の寸法をコンパクトに保つことができる。
【0073】
〔その他の実施の形態〕
(1)リヤサスペンション12を、車幅中心線C1の左方に偏倚させることも可能であるが、自動二輪車では、通常、スイングアーム7の左方に駆動チェーン19を配置しているので、駆動チェーン19との干渉を避けるため、リヤサスペンション12は車幅中心線C1の右方の配置することが好ましい。
【0074】
(2)前記各実施の形態では、メインフレーム1のスイングアームブラケット部1aの下方空間及びスイングアーム7の前部の下方空間に、排気装置の排気チャンバー22を配置しているが、太径の触媒管あるいは排気集合管等を配置することも可能である。また、排気装置の構成部材以外の部材を配置することも可能である。
【0075】
(3)スイングアーム7は、前述した実施の形態で示したような、左右一対のアーム部材36からなる両持ちタイプに限らず、片持ちタイプでもよい。
【0076】
(4)特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、各種変形及び変更を行うことも可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 メインフレーム
1a スイングアームブラケット部
4 燃料タンク
4a 凹部
6 リヤフェンダー
6a 凹部
7 スイングアーム
11 リンク機構
12 リヤサスペンション
12a リヤサスペンションの前端部
12b リヤサスペンションの後端部
14 フロントフォーク
19 駆動チェーン
41 リヤサスペンション取付部
42 排気チャンバー取付部
43 タイロッド取付部
51 サスペンションアーム
52 タイロッド(リンク部材)
61 後端軸支部(第1軸支部)
62 前端軸支部(第2軸支部)
34 上側クロス部材
35 下側クロス部材
70 リヤサスペンション取付用のボルト
71 リヤサスペンション取付用のナット
72 ナット係止保持部
79 工具挿通用開口
79a 工具挿通用開口
80 バッテリ
81 バッテリケース
81a 凹部
82 ブレーキ作動液制御用ABSユニット
103 減衰圧調節用の調節ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインフレームの後部に、後方に延びる後輪支持用のスイングアームを上下方向揺動可能に支持し、該スイングアームと前記メインフレームとの間にリンク機構を介してリヤサスペンションを伸縮可能に介装してある自動二輪車において、
前記リヤサスペンションは、その一端部が前記スイングアームの揺動軸支部より上方位置で前記メインフレームの上端よりも下方に位置する部分に回動自在に支持されると共に、前記スイングアームより上方位置を後方に延びており、
前記リンク機構は、前記スイングアームの上部に回動自在に支持されたサスペンションアームと、前記メインフレームに一端部が回動自在に支持されたリンク部材と、を有し、前記サスペンションアームの第1軸支部に前記リヤサスペンションの他端部が回動自在に支持され、前記サスペンションアームの第2軸支部に、前記リンク部材の他端部が回動自在に連結されている、ことを特徴とする自動二輪車。
【請求項2】
請求項1記載の自動二輪車において、
前記リヤサスペンションの下方空間に排気装置を配置している、自動二輪車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動二輪車において、
前記メインフレームには、車幅方向に見て、前記リヤサスペンションの前記一端部及びその近傍に対応する位置に、工具挿通用の開口が形成されている、自動二輪車。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一つに記載の自動二輪車において、
前記リヤサスペンションは、車幅中心線に対して、車幅方向の一方側に配置されている、自動二輪車。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一つに記載の自動二輪車において、
前記リヤサスペンションの上側を覆う車輌構成部材が、前記リヤサスペンションの後端側部分の少なくとも上部を収納できる凹部を有している、自動二輪車。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の自動二輪車において、
前記リヤサスペンションの車幅方向の他方側であって、燃料タンクの下端高さ又はそれ以下の高さに、燃料ポンプを配置してある、自動二輪車。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一つに記載の自動二輪車において、
前記メインフレームの後部のクロス部材に、前記リヤサスペンションの一端部を取り付けるための取付部を形成し、
前記取付部には、リヤサスペンション固定用のナットが回動不能に係止保持されるナット係止保持部を一体に形成してある、自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−79343(P2011−79343A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230636(P2009−230636)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】