説明

自動分析装置、キャリーオーバーチェック方法、キャリーオーバーチェックプログラム及びキャリーオーバーチェックキット

【課題】実測定動作に近い状態での検体間キャリーオーバを簡易に実施すること。
【解決手段】反応機構1と、試薬ラック10と、サンプルラック8と、試薬分注機構12と、サンプル分注機構6と、洗浄機構9と、光度計4と、制御部18とを具備し、制御部は、検査モードと選択的に機能するキャリーオーバーチェックモードを有し、サンプル分注機構を介してサンプル容器から吸引したサンプルとしてのオレンジG溶液を反応容器に分注しその吸引分注を所定回数繰り返してサンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、そしてサンプル分注機構を介して他のサンプル容器から吸引したサンプルとしての生理食塩水を反応容器に分注しその吸引分注を所定回数繰り返しててサンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、このサイクルを所定回数繰り返し、サンプル分注機構を複数回洗浄し、オレンジG溶液の後に吸引及び分注した生理食塩水をサンプル分注機構を介してサンプル容器から反応容器に分注して光度計で測光しキャリーオーバを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清や尿等を分析する自動分析装置、キャリーオーバーチェック方法、キャリーオーバーチェックプログラム及びキャリーオーバーチェックキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療側の要求と自動分析装置の性能の進歩に伴い、当該装置で測定される項目数は飛躍的に増大してきている。
【0003】
検査業務の効率化のため、生化学装置及び免疫装置を連結又は一体化した分析装置が開発されている。こういったタイプの分析装置では、結果報告時間の都合により、まず生化学自動分析装置で測定した後、免疫装置で測定を実施するのが一般的である。
【0004】
生化学、免疫の順番でサンプリングする場合、サンプルを装置ごとに小分けしないで採血管のままサンプリングすると、免疫項目、特に感染症のHBs抗原などでは、測定レンジが広いことから、前検体から次検体へのサンプル間キャリーオーバーが問題になる。陰性検体が、前の陽性検体のサンプルプローブからのキャリーオーバーによって陽性化する可能性がある。
【0005】
従来、検体間キャリーオーバーチェックは、高濃度検体と陰性検体を連続測定して、免疫装置で陰性検体の抗原量を測定して、汚染率を計算している。
【0006】
しかし、従来の方法は
免疫装置で測定しなければならない、
免疫項目の試薬は高価である、
高濃度検体の安定的な入手が困難である、
高濃度検体は非常に高価である、
感染性のサンプルを扱わなくてはならない、
という理由でキャリーオーバーチェックを簡易に実施することが出来ないのが現状である。
【0007】
なお、非特許文献1には、サンプルプローブ外側のキャリーオーバを測定する方法が示されている。吸光度約3000のオレンジGをプール血清に溶解し、サンプルとして、キャリーオーバの測定時には、サンプルを吸引しないようにサンプルシリンジのプランジャーを外し、1回の吸引動作でサンプルを吸引し、汚染動作終了後、試料を手分注することが記載されている。
【0008】
この方法では、プール血清をベースにしており、サンプルの取り扱いが煩雑である。またこの方法では、サンプリング動作をしていないが、実際の測定では、1検体あたり平均20項目程度をサンプリングしている。発明者らの実験によると、1回サンプリングする場合と、20回サンプリングする場合とでは、キャリーオーバは10倍程度違っていることがわかった。汚染動作後の手分注動作は、装置のサイクルタイムや、プローブ位置を変更するなどの特別な操作が必要であり、熟練を要する作業で誰でも簡単にできる方法ではない。
【非特許文献1】「汎用自動分析装置の性能確認試験法のマニュアル」 日本臨床検査自動化学会会誌 日本臨床検査自動化学会 平成13年8月1日発行 第26巻(通巻第134号) p.12−p.14
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、実測定動作に近い状態での検体間キャリーオーバを簡易に実施できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1局面において、自動分析装置は、
複数の反応容器を列状に配置する反応機構と、
試薬を収容する複数の試薬容器を保持する試薬ラックと、
サンプルを収容する複数のサンプル容器を保持するサンプルラックと、
前記試薬を前記試薬容器から前記反応容器に分注する試薬分注機構と、
前記サンプルを前記サンプル容器から前記反応容器に分注するサンプル分注機構と、
前記サンプル分注機構を洗浄する洗浄機構と、
前記反応容器の列に沿って配置される光度計と、
前記反応機構と前記試薬保持機構と前記サンプル保持機構と前記試薬分注機構と前記サンプル分注機構と前記洗浄機構と前記光度計とを制御する制御部とを具備し、
前記制御部は、検査モードと選択的に機能するキャリーオーバーチェックモードを有し、前記キャリーオーバーチェックモードのもとでは、前記サンプル分注機構を介して前記サンプル容器から吸引した前記サンプルとしての汚染を与える側の第1の試験液を前記反応容器に所定回数分注して前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、そして前記サンプル分注機構を介して他のサンプル容器から吸引した前記サンプルとしての汚染を受ける側の第2の試験液を前記反応容器に所定回数分注して前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、このサイクルを所定回数繰り返し、前記サンプル分注機構を複数回洗浄し、前記第1の試験液の後に吸引及び分注した前記第2の試験液を前記サンプル分注機構を介して前記サンプル容器から前記反応容器に分注して前記光度計で測光することを特徴とする。
本発明の第2局面において、キャリーオーバーチェック方法は、
a)サンプル分注機構を介してサンプル容器から吸引した汚染を与える側の第1の試験液を反応容器に所定回数分注し、
b)前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、
c)前記サンプル分注機構を介して他のサンプル容器から吸引した汚染を受ける側の第2の試験液を他の反応容器に所定回数分注し、
d)前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、
e)前記a)からd)工程を所定回数繰り返し、
f)前記サンプル分注機構を複数回洗浄し、
g)前記他のサンプル容器から前記第2の試験液を前記サンプル分注機構を介して前記サンプル容器から前記反応容器に分注し、
h)前記g)工程で前記反応容器に分注した前記第2の試験液を光度計で側光することを特徴とする。
本発明の第3局面において、キャリーオーバーチェックプログラムは、
コンピュータに、
a)サンプル分注機構を介してサンプル容器から吸引した汚染を与える側の第1の試験液を反応容器に所定回数分注する手順と、
b)前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄する手順と、
c)前記サンプル分注機構を介して他のサンプル容器から吸引した汚染を受ける側の第2の試験液を他の反応容器に所定回数分注する手順と、
d)前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄する手順と、
e)前記a)からd)工程を所定回数繰り返す手順と、
f)前記サンプル分注機構を複数回洗浄する手順と、
g)前記他のサンプル容器から前記第2の試験液を前記サンプル分注機構を介して前記サンプル容器から前記反応容器に分注する手順と、
h)前記g)工程で前記反応容器に分注した前記第2の試験液を光度計で側光する手順とを実行させる。
本発明の第4局面において、キャリーオーバーチェックキットは、汚染を与える側の第1の試験液が密閉容器に密封されたものと、汚染を受ける側の第2の試験液が密閉容器に密封されたものとが、1ケースに詰め合わされてなる。
本発明の第5局面において、キャリーオーバーチェックキットは、汚染を与える側の第1の試験液を収容して密封されたn本の第1の試験液容器と、前記第1の試験液容器と同じ外形形状かつ外形寸法を有し、汚染を受ける側の第2の試験液を収容して密封された(n+1)本の第2の試験液容器と、前記第1の試験液容器と同じ外形形状かつ外形寸法を有する1本の空容器とからなる1回分の複数のセットが、前記第1の試験液容器と前記第2の試験液容器と前記空容器とで共通してはめ込み可能な(2・n+2)本の採血管とともに1ケースに詰め合わされてなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、実測定動作に近い状態での検体間キャリーオーバを簡易に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本実施形態による自動分析装置の構成を示している。
なお、汚染を与える側の試験液を第1の試験液と称し、汚染を受ける側の試験液を第2の試験液と称して適宜使用する。第1の試験液として色素液を採用し、第2の試験液には色素の溶媒を用いる。第1の試験液の色素として典型的には、オレンジGであり、ベースは1.5%ポリビニールアルコールである。オレンジGの濃度は、30000ppm以上であり、好ましくは60000ppm以上であり、好適には、100000ppmである。第2の試験液としては、典型的には、生理食塩水である。第1の試験液は、疑似血清溶液であってもよい。以下では説明の便宜上、第1の試験液としてオレンジG溶液、第2の試験液として生理食塩水を例に説明する。
【0013】
反応機構1は、複数の反応容器を保持可能な複数のホルダ3が円環状に設けられた反応ディスク2と、反応ディスク2を回転駆動する回転機構とを有する。反応ディスク2に沿って光度計4、反応容器洗浄機構13、撹拌機構14が配置される。洗浄ポンプ16は反応容器に反応液や洗浄液の吸引し、吐出する。
【0014】
反応ディスク2に隣接してサンプル保持機構(サンプルラック)8が設置される。サンプル保持機構8は、複数のサンプル容器を保持可能な複数のホルダ5が設けられたサンプルディスク8と、サンプルディスク8を回転駆動する回転機構とを有する。反応ディスク2とサンプルディスク8とからほぼ等距離の位置に、旋回可能なサンプルプローブ7を有するサンプル分注機構6が配置される。サンプル分注ポンプ15はサンプル容器からサンプルを吸引し、反応容器に分注する。サンプルプローブ7の旋回範囲には、サンプルプローブ7を洗浄するためのサンプルプローブ洗浄機構9が設置される。
【0015】
反応ディスク2に隣接して試薬保持機構(試薬ラック)10が設置される。試薬保持機構10は、複数の試薬容器(試薬ボトル)を保持可能な複数のボトルホルダ11が設けられた試薬ディスク22と、ディスク22を回転駆動する回転機構とを有する。反応ディスク2と試薬ディスク22とからほぼ等距離の位置に、旋回可能な試薬プローブ23を有する試薬分注機構12が配置される。試薬分注ポンプ17は試薬ボトルから試薬を吸引し、反応容器に分注する。
【0016】
コントローラ18は、検査モードとキャリーオーバーチェックモードとで選択的に機能し、検査や後述のキャリーオーバーチェックのために予め決められた一連の手順を実行するために、反応機構1の回転機構、光度計4、反応容器洗浄機構13、撹拌機構14、サンプル保持機構8の回転機構、サンプル分注機構6の旋回機構、サンプル分注ポンプ15、サンプルプローブ洗浄機構9、試薬保持機構10の回転機構、試薬分注機構12の旋回機構、試薬分注ポンプ17を制御する。なお、検査プログラム又はキャリーオーバーチェックプログラムが、コンピュータとしてのコントローラ18に、検査や後述のキャリーオーバーチェック手順を実行させるものであってもよい。キャリーオーバー処理部19は、キャリーオーバーチェックモード時において、光度計13の測定結果に基づいてキャリーオーバーの程度を計算するとともに、キャリーオーバーの程度に従ってサンプル分注機構6の特にプローブ7のメンテナンス又は交換を促すためのメッセージデータを出力する。表示部20は、計算されたキャリーオーバーの程度、メッセージデータを表示するために設けられる。操作部21は、検査モードとキャリーオーバーチェックモードとの選択をはじめ、検査やキャリーオーバーチェックで必要とされる様々な指令等を入力するために設けられる。
【0017】
図2には、キャリーオーバーチェックのために用意されているキャリーオーバーチェックキット30を示している。キャリーオーバーチェックキット30は、オレンジG溶液を収容して蓋で密封されたn本、ここでは3本のオレンジG溶液容器35と、オレンジG溶液容器35と同じ外形形状かつ外形寸法を有し、生理食塩水を収容して蓋で密封された(n+1)本、ここでは4本の生理食塩水容器36と、オレンジG溶液容器35と同じ外形形状かつ外形寸法を有する1本の空容器37とからなる1回分のセットが4つ(4回分)、予備用1本を含む(2・n+2)本、ここでは8本の採血管32とともに1ケース33に詰め合わされてなる。なお、生理食塩水容器36がオレンジG溶液容器35よりも1本多いのは、その1本がブランク測定用、つまりキャリオーバーゼロの基準値測定用として用いられることによる。また、1本の空容器37がセットされているのは、再測定のための予備容器としてである。
【0018】
採血管32は、反応ディスク2のホルダ3に装着可能な外形形状及び外形寸法を有する。また、この採血管32にはめ込み可能な外形形状及び外形寸法を、オレンジG溶液容器35と生理食塩水容器36と空容器37とが有する。キャリーオーバーチェックオペレーションに際しては、オレンジG溶液容器35と生理食塩水容器36それぞれの蓋を取って、採血管32にはめ込み、そのままサンプルディスク8のホルダ5に装着することができる。採血管32をアダプタとして用いることで、オレンジG溶液容器35と生理食塩水容器36それぞれには必要最小限又はそれに近い容量を収容させることで充足できる。
【0019】
キャリーオーバーチェックオペレーションに際しては、その準備作業として、キット30の1回分のセットが開封され、その中の3本のオレンジG溶液容器35と4本の生理食塩水容器36それぞれの蓋を取って、採血管32にはめ込み、そのままサンプルディスク8のホルダ5に装着する。ここでは説明の便宜上、3箇所の第1、3、5の各サンプルホルダ5に3本のオレンジG溶液容器35がそれぞれ装着され、3箇所の第2、4、6の各サンプルホルダ5に3本の生理食塩水容器36がそれぞれ装着され、第7の各サンプルホルダ5にブランク用の生理食塩水容器36が装着される。
【0020】
図3に示すように、検査モード時のそれと類似するオペレーションで人為的にキャリーオーバーを生起させるために、まず、第1のサンプルホルダ5のオレンジG溶液容器35からオレンジG溶液(OG)がサンプル分注機構6により吸引され、反応容器に分注され、この吸引分注動作が20回繰り返され、そしてサンプルプローブ7が1回洗浄される。引き続き、第2のサンプルホルダ5の生理食塩水容器36から生理食塩水(生食)がサンプル分注機構6により吸引され、、反応容器に分注され、この吸引分注動作が20回繰り返され、そしてサンプルプローブ7が1回洗浄される。
【0021】
これにより主にサンプルプローブ7の外側を経由した第1のサンプルホルダ5のオレンジG溶液から第2のサンプルホルダ5の生理食塩水へのキャリーオーバーが生起される。
【0022】
同様に、第3のサンプルホルダ5のオレンジG溶液容器35からオレンジG溶液(OG)がサンプル分注機構6により吸引され、反応容器に分注され、この吸引分注動作が20回繰り返され、そしてサンプルプローブ7が1回洗浄される。引き続き、第4のサンプルホルダ5の生理食塩水容器36から生理食塩水(生食)がサンプル分注機構6により吸引され、反応容器に分注され、この吸引分注動作が20回繰り返され、そしてサンプルプローブ7が1回洗浄される。
【0023】
これにより主にサンプルプローブ7の外側を経由した第3のサンプルホルダ5のオレンジG溶液から第4のサンプルホルダ5の生理食塩水へのキャリーオーバーが生起される。
【0024】
さらに、第5のサンプルホルダ5のオレンジG溶液容器35からオレンジG溶液(OG)がサンプル分注機構6により吸引され、反応容器に分注され、この吸引分注動作が20回繰り返され、そしてサンプルプローブ7が1回洗浄される。引き続き、第6のサンプルホルダ5の生理食塩水容器36から生理食塩水(生食)がサンプル分注機構6により吸引され、、反応容器に分注され、この吸引分注動作が20回繰り返され、そしてサンプルプローブ7が1回洗浄される。
【0025】
これにより主にサンプルプローブ7の外側を経由した第3のサンプルホルダ5のオレンジG溶液から第6のサンプルホルダ5の生理食塩水へのキャリーオーバーが生起される。
【0026】
以上でキャリーオーバーを生起させるための擬似的な検査オペレーションが終了する。続いて、サンプルプローブ7が十分、例えば20回洗浄が繰り返される。そしてキャリーオーバーの程度の測定オペレーションが開始される。
【0027】
まず、第1のサンプルホルダ5のオレンジG溶液からキャリーオーバーにより汚染を受けた第2のサンプルホルダ5の生理食塩水がサンプル分注機構6により吸引され、反応容器に少なくとも1回分注され、試薬分注機構により、試薬として例えばイオン交換水が分注され、光度計4で測光される。サンプルプローブ7が例えば1回洗浄される。
【0028】
同様に、第3のサンプルホルダ5のオレンジG溶液からキャリーオーバーにより汚染を受けた第4のサンプルホルダ5の生理食塩水がサンプル分注機構6により吸引され、反応容器に少なくとも1回分注され、試薬分注機構により、試薬として例えばイオン交換水が分注され、光度計4で測光される。サンプルプローブ7が例えば1回洗浄される。
【0029】
さらに、第5のサンプルホルダ5のオレンジG溶液からキャリーオーバーにより汚染を受けた第6のサンプルホルダ5の生理食塩水がサンプル分注機構6により吸引され、反応容器に少なくとも1回分注され、試薬分注機構により、試薬として例えばイオン交換水が分注され、光度計4で測光される。サンプルプローブ7が例えば1回洗浄される
そして、最後に、汚染を全く受けていない第7のサンプルホルダ5のブランク用生理食塩水がサンプル分注機構6により吸引され、反応容器に少なくとも1回分注され、試薬分注機構により、試薬として例えばイオン交換水が分注され、光度計4で測光され、サンプルプローブ7が例えば1回洗浄される。このブランク測定動作が例えば3回繰り返される。
【0030】
以上で、測定オペレーションは終了し、キャリーオーバー処理部19によりキャリーオーバーの程度が次の式にしたがって計算される。
CarryOver(ppm)=((測定値−ブランク測定値)/(オレンジG溶液の吸光度)*(総反応液量/サンプル量)/補正係数
ここでは、ブランク測定度としては、3回のブランク測定値の平均値が用いられる。また、第2,4,6の各サンプルホルダ5の生理食塩水の測定値でCarryOver(ppm)が個々に計算される。これら計算された3つのCarryOver(ppm)は、個々に又はそれらの平均値が、2種類の一次閾値と、それより高い二次閾値とに対して比較される。一次閾値は、正常範囲の上限を示していて、例えば0.08ppmに設定される。一次閾値を超過したときは、サンプルプローブ7のメンテナンス又は交換が必要とされる。二次閾値は、使用範囲の限界を示していて、例えば0.1ppmに設定される。二次閾値を超過したときは、サンプルプローブ7の交換が必須とされる。これらに応じて、キャリーオーバー処理部19は、次のように動作する。
【0031】
CarryOver<0.08ppmのときは、例えば「検体間キャリオーバーは仕様内です。」というメッセージを表示部30に表示するためのデータを出力する。
【0032】
0.08≦CarryOver<0.1ppmのときは、例えば「検体間キャリオーバーは仕様上限近くになっています。サンプルプローブのメンテナンス又は交換を実施して下さい。」というメッセージを表示部30に表示するためのデータを出力する。
【0033】
CarryOver≧0.1ppmのときは、例えば「検体間キャリオーバーが仕様を超えています。必ずサンプルプローブの交換をしてから次の検査を行って下さい。」というメッセージを表示部30に表示するためのデータを出力する。
【0034】
このように本実施形態によれば、次のような効果を奏することができる。
キャリーオーバーチェックキットを使用することで、従来免疫装置を使用しなければ分からなかったキャリーオーバーを自動分析装置で測定することができる。チェックキットは、免疫試薬に比べ、非常に安価であり、しかもキャリーオーバーをチェックする操作が簡便である。チェックキットの溶液は、色素液であり、感染性サンプルを取り扱う時のような注意を払わなくてよい。キャリーオーバーチェックキットを使用することで、プローブの交換時期やメンテナンス時期が明確になり、キャリーオーバーへの不安が払拭できる。キット溶液のうち汚染を受ける側の溶液は予め必要な溶液が小分けされており、キャリーオーバー算出に間違いがない。汚染を与える側の第1試験液(ここではオレンジG溶液)も予め小分けされており、溶液小分け作業中に手指に溶液が付着し着色する等の問題がない。
なお、第1試験液の色素液としてオレンジGを使い、第2試験液の色素溶媒として生理食塩水を用いた検体間キャリーオーバーチェックの結果が有効であることを、HBs抗原を使用した従来の方法と比較した試験結果を次の通り示す。
【0035】
HBs抗原を使用した従来の方法と、オレンジG溶液を使用した時の検体間キャリーオーバーの相関を求めた。測定方法は、以下の通りである。
【0036】
<HBs抗原を用いた方法>
(1)HBsAg高値検体をサンプル容器に必要量を入れたものを3個用意する。
(2) 検体希釈液を入れたサンプル容器を12個用意する。
(3) サンプル容器を下記の順に並べる。
(1)高値検体 (2)希釈液 (3)希釈液 (4)希釈液 (5)希釈液
(6)高値検体 (7)希釈液 (8)希釈液 (9)希釈液 (10)希釈液
(11)高値検体 (12)希釈液 (13)希釈液 (14)希釈液 (15)希釈液
(1)〜(15)は、20項目オーダーする。15検体分測定を開始し、サンプリングが終了したら装置を停止する。
(4)キャリーオーバー後の希釈液HBsAgを測定する。
(2)〜(4)、(7)〜(9)、(12)〜(14)をサンプルとし免疫装置にてHBsAgを測定する。ただし、(2),(7),(12)は2重測定とし、平均をもとめる。
【0037】
キャリーオーバー(ppm)=(測定値−希釈液測定値)*0.1/(0.1ppm時測定値-希釈液測定値)
<オレンジGを用いた方法>
(1) 100000ppmオレンジG/1.5%PVAをサンプル容器に必要量を入れたものを3個用意する。
【0038】
(2) 生理食塩水を入れたサンプル容器を12個用意する。
【0039】
(3) サンプル容器を下記の順に並べる。
(1)100000ppmOG (2)生理食塩水 (3)生理食塩水 (4)生理食塩水 (5)生理食塩水
(6)100000ppmOG (7)生理食塩水 (8)生理食塩水 (9)生理食塩水 (10)生理食塩水
(11)100000ppmOG (12)生理食塩水 (13)生理食塩水 (14)生理食塩水 (15)生理食塩水
(1)(2),(6)(7),(11)(12)は、20項目オーダーする。15検体分測定を開始し、サンプリングが終了したら装置を停止する。
【0040】
(4) キャリーオーバー後の生食吸光度を測定する。
(2)(7)(12)の生理食塩水を転倒混和した後、エッペンドルフ分注器で200μLをはかりとり、分注し吸光度測定用パラメータで吸光度を求める。
【0041】
(5) ブランク吸光度を測定する。
吸光度測定用パラメータで生理食塩水を200μLとり、吸光度を求める。
【0042】
(6) 標準液吸光度を測定する。
200μLの標準液をとり吸光度を求める。
【0043】
(7)キャリーオーバー程度の計算
キャリーオーバー(ppm)=((4)吸光度−(5)ブランク吸光度)×1000000/((6)標準液吸光度×希釈倍率)
図4に示すように、HBs抗原を使用した従来の方法と、オレンジG溶液を使用した時の検体間キャリーオーバーは、相関係数97.7%で良好な相関を示した。HBs抗原を用いた方法の0.1ppmが、オレンジG溶液を使用した時の約0.3ppmに相当することが分かった。
【0044】
次に、オレンジG濃度と吸光度の関係を示す。オレンジG濃度と吸光度は図5に示すように正比例の関係にあった。オレンジGが、30000ppmで吸光度は1000Abs.で、100000ppmでは吸光度は3800Abs.であった。
【0045】
自動分析装置では、0Abs付近において、0.1mAbsまで測定可能である。オレンジG溶液30000ppmを用いると、キャリーオーバー0.1ppm(10-7)を安定して測定できる。オレンジG100000ppmの濃度は、溶解可能な上限で、これ以上の濃度にすることは困難である。以上のことからオレンジGの濃度は、30000ppm以上が必要で、好ましくは100000ppm以上である。
【0046】
第1の試験液に含まれる疑似血清溶液として、1.5%ポリビニルアルコール(PVA)を想定した。血清と1.5%PVA溶液の液性を比較した結果を示した。表1に示すとおり、1.5%PVAは、液性が血清に非常に近い。
【表1】

【0047】
次に、キャリーオーバーチェックキットに採用されている密閉容器であるスクリューキャップ付マイクロチューブに第2試験液として生理食塩水を425μLを分注し、キャップを閉めて室温に保管し、蒸発量を調べた。図6に示すように、1年半(72W)保存後の蒸発想定量は、せいぜい2%程度であった。このことは、1年半後もキャリーオーバーの結果が高々2%の誤差しか有さないことをしており、予め必要なサンプルをキット化して小分けしておけることが示された。この結果からキットは約1年の4回分を収納した。
【0048】
また、キャリーオーバーキットを40℃で1ヶ月加速保存(室温20℃と仮定した場合の1年相当)し、保存前後で、吸光度・目視観察および、キャリーオーバー測定値に変化がないか試験をした。キャリーオーバーの測定には、故意に汚したプローブを用いた。表2に、吸光度・目視観察の結果を示した。
【表2】

【0049】
1年相当保管後も、吸光度に変化はなかった。また、目視的にも変化(不純物の析出、濁り)はなかった。図7に示す通り、キャリーオーバーの測定結果に変化はなかった。
【0050】
このようにオレンジGを使ったキャリーオーバーチェックは有効であり、また約1年分の溶液をキット化することも可能であることが十分に確認された。
【0051】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態による自動分析装置の構成を示す図。
【図2】本実施形態において、キャリーオーバーチェックキットを示す図。
【図3】本実施形態において、キャリーオーバーチェック手順を示す図。
【図4】本実施形態によるオレンジG法に対する従来法(HBs抗原法)の相関試験結果を示す図。
【図5】本実施形態において、オレンジG濃度と吸光度の関係試験結果を示す図。
【図6】本実施形態において、溶液蒸発試験結果を示す図。
【図7】本実施形態において、加速保存試験前後のキャリーオーバー測定結果を示す図。
【符号の説明】
【0053】
1…反応容器、2…反応機構、3…ホルダ、4…光度計、5…サンプル容器ホルダ、6…サンプル分注機構、7…サンプルプローブ、8…サンプルラック、9…サンプルプローブ洗浄機構、10…試薬ラック、11…試薬容器、12…試薬分注機構、13…反応容器洗浄機構、14…撹拌機構、15…サンプル分注ポンプ、16…洗浄水ポンプ、17…試薬分注ポンプ、18…コントローラ、19…キャリオーバー処理部、20…表示部、21…操作部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応容器を列状に配置する反応機構と、
試薬を収容する複数の試薬容器を保持する試薬ラックと、
サンプルを収容する複数のサンプル容器を保持するサンプルラックと、
前記試薬を前記試薬容器から前記反応容器に分注する試薬分注機構と、
前記サンプルを前記サンプル容器から前記反応容器に分注するサンプル分注機構と、
前記サンプル分注機構を洗浄する洗浄機構と、
前記反応容器の列に沿って配置される光度計と、
前記反応機構と前記試薬保持機構と前記サンプル保持機構と前記試薬分注機構と前記サンプル分注機構と前記洗浄機構と前記光度計とを制御する制御部とを具備し、
前記制御部は、検査モードと選択的に機能するキャリーオーバーチェックモードを有し、前記キャリーオーバーチェックモードのもとでは、前記サンプル分注機構を介して前記サンプル容器から吸引した前記サンプルとしての汚染を与える側の第1の試験液を前記反応容器に所定回数分注して前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、そして前記サンプル分注機構を介して他のサンプル容器から吸引した前記サンプルとしての汚染を受ける側の第2の試験液を前記反応容器に所定回数分注して前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、このサイクルを所定回数繰り返し、前記サンプル分注機構を複数回洗浄し、前記第1の試験液の後に吸引及び分注した前記第2の試験液を前記サンプル分注機構を介して前記サンプル容器から前記反応容器に分注して前記光度計で測光することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
前記第1の試験液の後に吸引及び分注した前記第2の試験液に関する前記光度計の計測値に基づいてキャリーオーバーの程度を計算する計算部をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記計算部により計算されたキャリーオーバーの程度に応じて前記サンプル分注機構のメンテナンス又は部品交換を促すためのメッセージデータを出力するメッセージデータ出力部をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記第1の試験液は、オレンジGを含むことを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項5】
前記第2の試験液は、生理食塩水であることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項6】
前記第2の試験液は、色素の溶媒であることを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項7】
前記第1の試験液は、疑似血清溶液を含むことを特徴とする請求項1記載の自動分析装置。
【請求項8】
a)サンプル分注機構を介してサンプル容器から吸引した汚染を与える側の第1の試験液を反応容器に所定回数分注し、
b)前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、
c)前記サンプル分注機構を介して他のサンプル容器から吸引した汚染を受ける側の第2の試験液を他の反応容器に所定回数分注し、
d)前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄し、
e)前記a)からd)工程を所定回数繰り返し、
f)前記サンプル分注機構を複数回洗浄し、
g)前記他のサンプル容器から前記第2の試験液を前記サンプル分注機構を介して前記サンプル容器から前記反応容器に分注し、
h)前記g)工程で前記反応容器に分注した前記第2の試験液を光度計で側光することを特徴とするキャリーオーバーチェック方法。
【請求項9】
前記第1の試験液は色素液であり、前記第2の試験液は色素の溶媒であることを特徴とする請求項8記載のキャリーオーバーチェック方法。
【請求項10】
前記第1の試験液の色素は、オレンジGであることを特徴とする請求項9記載のキャリーオーバーチェック方法。
【請求項11】
前記第1の試験液は、疑似血清溶液を含むことを特徴とする請求項8記載のキャリーオーバーチェック方法。
【請求項12】
前記第2の試験液は、生理食塩水であることを特徴とする請求項11記載のキャリーオーバーチェック方法。
【請求項13】
前記第1の試験液は、1.5%ポリビニールアルコールを含むことを特徴とする請求項8記載のキャリーオーバーチェック方法。
【請求項14】
前記オレンジG溶液の色素濃度は、100000ppmであることを特徴とする請求項8記載のキャリーオーバーチェック方法。
【請求項15】
コンピュータに、
a)サンプル分注機構を介してサンプル容器から吸引した汚染を与える側の第1の試験液を反応容器に所定回数分注する手順と、
b)前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄する手順と、
c)前記サンプル分注機構を介して他のサンプル容器から吸引した汚染を受ける側の第2の試験液を他の反応容器に所定回数分注する手順と、
d)前記サンプル分注機構を少なくとも1回洗浄する手順と、
e)前記a)からd)工程を所定回数繰り返す手順と、
f)前記サンプル分注機構を複数回洗浄する手順と、
g)前記他のサンプル容器から前記第2の試験液を前記サンプル分注機構を介して前記サンプル容器から前記反応容器に分注する手順と、
h)前記g)工程で前記反応容器に分注した前記第2の試験液を光度計で側光する手順とを実行させるためのキャリーオーバーチェックプログラム。
【請求項16】
汚染を与える側の第1の試験液が密閉容器に密封されたものと、汚染を受ける側の第2の試験液が密閉容器に密封されたものとが、1ケースに詰め合わされてなるキャリーオーバーチェックキット。
【請求項17】
汚染を与える側の第1の試験液を収容して密封されたn本の第1の試験液容器と、前記第1の試験液容器と同じ外形形状かつ外形寸法を有し、汚染を受ける側の第2の試験液を収容して密封された(n+1)本の第2の試験液容器と、前記第1の試験液容器と同じ外形形状かつ外形寸法を有する1本の空容器とからなる1回分の複数のセットが、前記第1の試験液容器と前記第2の試験液容器と前記空容器とで共通してはめ込み可能な(2・n+2)本の採血管とともに1ケースに詰め合わされてなるキャリーオーバーチェックキット。
【請求項18】
前記第1の試験液は、色素液であり、前記第2の試験液は、色素の溶媒であることを特徴とする請求項17記載のキャリーオーバーチェックキット。
【請求項19】
前記第1の試験液の色素は、オレンジGであることを特徴とする請求項18記載のキャリーオーバーチェックキット。
【請求項20】
前記オレンジGの濃度は、30000ppmであることを特徴とする請求項19記載のキャリーオーバーチェックキット。
【請求項21】
前記オレンジGの濃度は、60000ppmであることを特徴とする請求項19記載のキャリーオーバーチェックキット。
【請求項22】
前記オレンジGの濃度は、100000ppmであることを特徴とする請求項19記載のキャリーオーバーチェックキット。
【請求項23】
前記第1の試験液は、疑似血清溶液を含むことを特徴とする請求項17記載のキャリーオーバーチェックキット。
【請求項24】
前記第2の試験液は、生理食塩水であることを特徴とする請求項17記載のキャリーオーバーチェックキット。
【請求項25】
前記第1の試験液は、1.5%ポリビニールアルコールを含むことを特徴とする請求項17記載のキャリーオーバーチェックキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−205763(P2007−205763A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22574(P2006−22574)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月1日 日本臨床検査自動学会発行の「日本臨床検査自動学会学会誌 日本臨床検査自動学会第37回大会抄録集2005Vol.30 通巻第161号」に発表
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】