説明

自動操舵機能を備えた電動パワーステアリング装置

【課題】自動操舵されるステアリングホイール位置を運転者の意図と合わせ、車両を始動時の安全性を確保し、車両を安全に駐車させることができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】運転席に設置された据え切り切替スイッチによるステアリングホイール位置情報を、電動パワーステアリング装置のコントローラに取り込み、車両停止状態、非操舵状態を判定し、据え切り切替スイッチで設定されたステアリングホイール位置に自動的に作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関し、特に車両停止状態において、自動操舵可能な電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動パワーステアリング装置において、車両始動時に運転者が車輪の切れ角を確認する必要をなくすという課題があった。
【0003】
この部分の改善の先行技術としては、特開2007−145248号公報に示されるものがあり、これは車速信号による車両の停車状態、トルク信号が規定値よりも小さい事による非操舵状態を判定し、両者が判定された場合に、舵角信号及び、舵角速度信号を読み込み、ステアリングホイールを規定の速度で中立位置へ戻すというものである。
【0004】
しかしながら、この先行技術には、電動パワーステアリングのコントローラ内にあるマイコンが自動的に車両状態を判定し、自動操舵開始を開始するので、例えば運転者が意識的にステアリングホイールを切った状態で車両を停車させた場合でも、ステアリングホイールが自動的に中立位置へ戻されてしまうという問題が有った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−145248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、運転者の指示に対して適正な動作をする電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、運転席に設置された切替スイッチによるステアリングホイール位置指令情報を、電動パワーステアリング装置のコントローラに取り込み、車両停止状態、非操舵状態を判定し、切替スイッチで設定されたステアリングホイール位置に自動的に動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自動操舵されるステアリングホイール位置を運転者の意図と合わせることができるので、煩わしい据切り操舵を行わなくてもすむようになり、車両を始動する際の安全性を確保し、車両を安全に駐車させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る電動パワーステアリング装置の概要図を示す。
【図2】本発明に係る電動パワーステアリング装置の操作系統の一例を示す図を示す。
【図3】本発明に係る電動パワーステアリング装置の制御装置の機能構成例を示すブロック図を示す。
【図4】本願発明の一例を示すフローチャート図を示す。
【図5】基準中立指令値の一例を示す。
【図6】基準左エンド指令値の一例を示す。
【図7】基準右エンド指令値の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に一実施形態を示す概略構成図であって、図中、SMはステアリング機構である。このステアリング機構SMは、ステアリングホイール1に運転者から作用される操舵力が伝達される入力軸2aとこの入力軸2aに図示しないトーションバーを介して連結された出力軸2bとを有するステアリングシャフト2を備えている。このステアリングシャフト2は、ステアリングコラム3に回転自在に内装され、入力軸2aの一端がステアリングホイール1に連結され、他端は図示しないトーションバーに連結されている。
【0011】
そして、出力軸2bに伝達された操舵力は、2つのヨーク4a,4bとこれらを連結する十字連結部4cとで構成されるユニバーサルジョイント4を介して中間シャフト5に伝達され、さらに、2つのヨーク6a,6bとこれらを連結する十字連結部6cとで構成されるユニバーサルジョイント6を介してピニオンシャフト7に伝達される。このピニオンシャフト7に伝達された操舵力はステアリングギヤ機構8で車両幅方向の直進運動に変換されて左右のタイロッド9に伝達され、これらタイロッド9によって転舵輪WL,WRを転舵させる。
【0012】
ステアリングシャフト2の出力軸2bには、操舵補助力を出力軸2bに伝達する操舵補助機構10が連結されている。この操舵補助機構10は、出力軸2bに連結した減速機構11と、この減速機構11に連結された操舵補助力を発生する電動機としての例えばブラシレスモータで構成される電動モータ12とを備えている。
【0013】
また、減速機構11のステアリングホイール1側に連接されたハウジング13内に操舵トルク検出手段としての操舵トルクセンサ14が配設されている。この操舵トルクセンサ14は、ステアリングホイール1に付与されて入力軸2aに伝達された操舵トルクを検出するもので、例えば、操舵トルクを入力軸2a及び出力軸2b間に介挿した図示しないトーションバーの捩れ角変位に変換し、この捩れ角変位を非接触の磁気センサで検出するように構成されている。
【0014】
そして、操舵トルクセンサ14から出力される操舵トルク検出値Tは、図2に示すように、コントローラ15に入力される。このコントローラ15には、操舵トルクセンサ14からのトルク検出値Tの他に図示しない車速センサで検出した車速Vs、電動モータ12に流れるモータ電流Iu〜Iw及びエンコーダ等で構成される回転角センサ18で検出したステアリングシャフト2の回転角θも入力される。回転角センサは電動モータ12に内蔵されるレゾルバ式センサであっても良い。
【0015】
コントローラ15は、バッテリー16を電源としIGNスイッチ17を介して電源を入力するので、IGNスイッチ17のON/OFFで電動パワーステアリングシステム全体は起動/停止している。バッテリー16の電源をコントローラ15に直接入力し、図示しないリレーをIGNスイッチ17で駆動し電源を入力しても良い。
【0016】
さらに、コントローラ15には、運転動作中に手の届く範囲に設けられた切替スイッチ19でステアリングホイール1を中立、右エンド、左エンドの3段階に切替を行い、転舵輪WL,WRの位置を直進状態、右切り込み状態、左切り込み状態に選択することが可能となる。切替スイッチはトグルスイッチ、ボタンスイッチ、タッチセンサー等が用いられる。
【0017】
図3では、本願発明のコントローラ15の制御ブロック図で、コントローラ15では操舵トルクセンサ14から入力されるトルク検出値T及び車速検出値Vsに応じた操舵補助力を電動モータ12で発生させる電流指令値を操舵補助指令値演算部31で演算し、位相補償部32、微分補償部33、収斂性制御部34、慣性補償部35の補償値を演算し、操舵補助トルク指令値Irefを算出する。更に操舵補助トルク指令値Irefは、PI制御36、PWM制御37がなされ、電流制御値Eが演算される。電流制御値Eはインバータ38に入力され、インバータ38は電流制御値Eに基づいて電動モータ12を駆動制御する。
【0018】
回転角検出部39で検出したモータ回転角θは角速度演算部40でモータ角速度ωを演算し、更に角加速度演算部41でモータ角加速度αを演算し、車速Vsと共に収斂性制御部34、慣性補償部35により操舵補助トルク指令値Irefを補償し電動パワーステアリングの操舵性を向上させている。
据え切り操舵切替演算部50はモータ回転角θ、切替スイッチ情報SWを入力して後述する制御フローチャートを実行して出力値Kを出力する。
【0019】
トルク検出値Tは操舵判定部44に入力され、トルク検出値Tが任意トルクT1より小さい場合は制御値1を出力し任意トルクT1より大きい場合は制御値0を出力する。前記出力値は乗算器51で据え切り操舵切替演算部50の出力値Kに乗算し、操舵されないときのみに作動させることが可能となる。また、作動中に任意トルクT1を超えた場合はそうだを停止することが可能となる。
【0020】
車速Vsは車速判定部43に入力され、車速Vsが0の場合は制御値1を出力し0以外の場合は制御値0を出力する。前記出力値は乗算器52で据え切り操舵切替演算部50の出力値Kに乗算し、車両が停止状態のときのみに作動させることができる。
【0021】
モータ角速度ωは据え切り操舵ゲイン演算部49に入力し、任意に設定した操舵速度ω1となるようにゲインGを出力する。ゲインGは数式:G=−(|ω|/ω1)+1で表され、乗算器53で据え切り操舵切替演算部50の出力値Kに乗算する。これにより車両停止時の溝、轍等の路面状況やタイヤへの衝撃等の外乱から生じるタイヤの反力によってステアリングホイールが急激に回転されることを防止しながら安全に一定速度で作動させることができる。
【0022】
据え切り操舵切替演算部50から出力される出力値Kは、乗算器51、乗算器52および乗算器53を介して据え切り指令値Sが求められ、操舵補助トルク指令値Irefにフィードバックしてモータ12を制御する。
【0023】
ここで、据え切り操舵切替演算部50に関するフローチャートの一例を図4に示す。
先ずステップS1でモータ回転角θを読み込み、ステップS2で切替スイッチ19のスイッチ情報SWを読み込む。次にステップS3では切替スイッチ19が中立に選択されたか否かを判定し、選択されていればステップS4に移行する。
【0024】
ステップS4はモータ回転角θを基に舵角が中立位置であるか否かを判定する。舵角が中立付近以外にあると判定されるとステップS5に移行する。
ステップS4で中立位置と判定された場合には制御の実行を終了する。
【0025】
ステップ5では、モータ回転角θを基に右舵角であるか否かを判定し右舵角と判定された場合はステップS6に移行し左切り指令値を出力し、右舵角と判定されない場合はステップS7に移行し右切り指令値を出力する。ステップS6、ステップS7後はステップS1に戻りモータ回転角θとスイッチ情報SWの判定を繰り返し、ステップS4の中立位置判定により制御の実行を終了する。
【0026】
ステップS3で切替スイッチ19が中立に選択されていない場合は、ステップS8に移行する。ステップS8は切替スイッチ19が左エンドに選択されたか否かを判定し、選択された場合にはステップS9に移行し選択されない場合はステップS11に移行する。
【0027】
ステップS9ではモータ回転角θを基に舵角が左エンドにあるか否かを判定し、左エンド以外にあると判定された場合はステップS10に移行し左切り指令値を出力する。ステップS9で左エンド位置と判定された場合には制御の実行を終了する。ステップS10後はステップS1に戻りモータ回転角θとスイッチ情報SWの判定を繰り返し、ステップS9の左エンド位置判定により制御の実行を終了する。
【0028】
ステップS8で切替スイッチ19が左エンドに選択されていない場合は、ステップS11に移行する。ステップS11は切替スイッチ19が右エンドに選択されたか否かを判定し、選択された場合にはステップS12に移行し選択されない場合は制御の実行を終了する。
【0029】
ステップS12ではモータ回転角θを基に舵角が右エンドにあるか否かを判定し、右エンド以外にあると判定された場合はステップS13に移行し右切り指令値を出力する。ステップS12で右エンド位置と判定された場合には制御の実行を終了する。ステップS13後はステップS1に戻りモータ回転角θとスイッチ情報SWの判定を繰り返し、ステップS12の右エンド位置判定により制御の実行を終了する。
【0030】
図5は切替スイッチ19が中立を選択した場合の基準中立指令値45の例であり、モータ回転角θを基にした操舵位置が右舵角と判定した場合は、左切り指令値を出力し中立付近に近づくと徐々に指令値を減少させて停止する。操舵位置が左舵角と判定した場合は、右切り指令値を出力し中立付近に近づくと徐々に指令値を減少させて停止する。操舵位置が中立付近である場合には操舵指令値は出力しない。
【0031】
図6は切替スイッチ19が左エンドを選択した場合の基準左エンド指令値46の例であり、モータ回転角θを基にした操舵位置が右舵角と判定した場合は、左切り指令値を出力し左エンド位置で停止する。操舵位置が左舵角と判定した場合で左エンド位置にない場合も同様に左切り指令値を出力し左エンド位置で停止する。操舵位置が左エンド位置である場合には操舵指令値は出力しない。
【0032】
図7は切替スイッチ19が右エンドを選択した場合の基準右エンド指令値47の例であり、モータ回転角θを基にした操舵位置が左舵角と判定した場合は、右切り指令値を出力し右エンド位置で停止する。操舵位置が右舵角と判定した場合で右エンド位置にない場合も同様に右切り指令値を出力し右エンド位置で停止する。操舵位置が右エンド位置である場合には操舵指令値は出力しない。
【0033】
以上説明したように、本発明を用いれば、自動操舵されるステアリングホイール位置を運転者の意図と合わせ、車両を始動時の安全性を確保し、車両を安全に駐車させることができる電動パワーステアリング装置を提供する。
【0034】
本発明は電動パワーステアリング装置のみならず、ステアリングホイールを含む操舵部とステアリングギヤ機構が機械的に分断しているステアバイワイヤに適応することで、例えば電源系統の異常で停止した後に異常復帰した場合の操舵部とステアリングギヤ機構の相互の舵角位置認識させる復帰動作にも適応させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、電動パワーステアリング装置等に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 ステアリングコラム
4 ユニバーサルジョイント
5 中間シャフト
6 ユニバーサルジョイント
7 ピニオンシャフト
8 ステアリングギヤ機構
9 タイロッド
10 操舵補助機構
11 減速機構
12 電動モータ
13 ハウジング
14 トルクセンサ
15 コントローラ
16 バッテリー
17 IGNスイッチ
18 回転角センサ
19 切替スイッチ
31 操舵補助指令値演算部
32 位相補償部
33 微分補償部
34 収斂性制御部
35 慣性補償部
36 PI制御部
37 PWM制御部
38 インバータ
39 回転角検出部
40 角速度演算部
41 角加速度演算部
42 モータ電流検出部
43 車速判定部
44 操舵判定部
45 基準中立操舵指令値
46 基準左エンド操舵指令値
47 基準右エンド操舵指令値
49 据え切り操舵ゲイン演算部
50 据え切り操舵切替演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵系に操舵補助力を付与するようにしたモータと、ハンドルに作用する操舵力を検出するトルクセンサと、前期ハンドルの操舵角を検出する舵角検出手段とを備え、車両が停止していて前記操舵補助力を付与しない状態を認識し、前記ハンドルの中立、左エンド、右エンドを運転者が選択し、自動的にハンドルを操作することができる据え切り操舵スイッチを備えた電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記モータの角速度を基にゲインを設定し操舵速度が一定に制御される請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
自動的に操舵されている操舵力が設定値を超えたときに、操舵を停止することを特徴とする請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−51378(P2011−51378A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199618(P2009−199618)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】