説明

自動製パン機

【課題】製粉工程を経ることなく穀物粒からパンを製造するのに便利な自動製パン機を提供する。
【解決手段】自動製パン機1Aの本体10内に設けられた焼成室40には、内部に混練ブレード52を配置したパン容器50が挿入される。本体10の蓋30は垂直貫通部31を備え、その中に粉砕ユニット70Aが差し込まれる。粉砕ユニット70Aは、モータケース71に内蔵された竪軸のモータ73と、モータ73の出力軸74に連結された回転軸75と、回転軸75の下端に固定された粉砕ブレード76と、回転軸75及び粉砕ブレード76を囲む鞘体77を備える。回転軸75、粉砕ブレード76、及びそれらを囲む鞘体77は、蓋30からパン容器50の中に垂下する形になる。回転軸75が回転すると、粉砕ブレード76はパン容器50の中の食品を粉砕する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として一般家庭で使用される自動製パン機に関する。
【背景技術】
【0002】
市販の家庭用自動製パン機は、製パン原料を入れたパン容器を本体内の焼成室に入れ、パン容器内の製パン原料を混練ブレードで混練して捏ね上げ、発酵工程を経た後、パン容器をそのままパン焼き型としてパンを焼き上げる仕組みのものが一般的である。特許文献1に自動製パン機の一例を見ることができる。
【0003】
製パン原料にレーズンやナッツ等の具材を混ぜ、具材入りパンを焼くこともある。特許文献2には、レーズン、ナッツ類、チーズ等の製パン副材料を自動的に投入する手段を備えた自動製パン機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−116526号公報
【特許文献2】特許第3191645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パンを製造する場合、これまでは、小麦や米などの穀物を製粉した粉や、それに各種補助原料を混ぜたミックス粉を入手するところから始めなければならなかった。手元に穀物粒(典型的なものは米)があっても、それから直接パンを製造することは困難であった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、製粉工程を経ることなく穀物粒からパンを製造するのに便利な自動製パン機を提供し、パン製造をより身近なものにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、製パン原料を入れたパン容器を本体内の焼成室に受け入れ、前記製パン原料の混練工程、発酵工程、及び焼成工程を順次遂行する自動製パン機において、前記焼成室を覆う蓋より前記パン容器内に、下端に粉砕ブレードを備えた回転軸を垂下させたことを特徴としている。
【0008】
この構成によると、パン容器内に穀物粒を入れてそれを粉砕ブレードで粉砕することにより、パン容器内で製パン原料を製造することができる。そして粉砕穀物粒はそのままパン容器内でパンに焼き上げることができるから、他の容器内で穀物粒を粉砕してからパン容器に移すのと異なり、他の容器に残留してパン容器に入らないという、移し替えに伴うロスが発生しない。
【0009】
また本発明は、上記構成の自動製パン機において、前記回転軸と粉砕ブレードを囲む鞘体が設けられていることを特徴としている。
【0010】
この構成によると、回転軸や粉砕ブレードに手指などが接触して怪我をするといった危険を低減できる。
【0011】
また本発明は、上記構成の自動製パン機において、前記鞘体は、前記粉砕ブレードを囲む部分が膨らみ部となっており、この膨らみ部の内面には食品の流動を阻害する凹凸が形成されていることを特徴としている。
【0012】
この構成によると、回転軸と粉砕ブレードの占有面積に応じた保護空間を鞘体で形成することができる。また凹凸で食品の流動を抑制することにより、粉砕を促進することができる。
【0013】
また本発明は、上記構成の自動製パン機において、前記鞘体には、前記膨らみ部に空気抜き穴が形成されていることを特徴としている。
【0014】
この構成によると、膨らみ部の内部に空気溜まりが生じないので、膨らみ部への食品の進入が空気溜まりによって阻害されず、粉砕を着実に実行することができる。
【0015】
また本発明は、上記構成の自動製パン機において、前記回転軸を回転させるモータは、前記蓋に上方より差し込み可能なモータケースに内蔵されており、前記回転軸と粉砕ブレードは前記モータケースの下面から垂下し、モータケースと共に前記蓋より引き抜き可能であることを特徴としている。
【0016】
この構成によると、パン容器内で穀物粒を粉砕した後、回転軸と粉砕ブレードをモータケース共々蓋から引き抜くことにより、回転軸と粉砕ブレードに邪魔されることなく混練工程を進めることができる。
【0017】
また本発明は、上記構成の自動製パン機において、前記回転軸を回転させるモータは、前記蓋に内蔵されており、前記回転軸と粉砕ブレードを含む粉砕ブレードアセンブリは、前記モータに着脱可能に連結されていることを特徴としている。
【0018】
この構成によると、パン容器内で穀物粒を粉砕した後、粉砕ブレードアセンブリをモータから取り外すことにより、粉砕ブレードアセンブリに邪魔されることなく混練工程を進めることができる。
【0019】
また本発明は、上記構成の自動製パン機において、前記蓋は前記本体よりリフトアップ可能であり、リフトアップ状態で開き姿勢にすることにより、前記粉砕ブレードアセンブリを横向き状態でモータに着脱できることを特徴としている。
【0020】
この構成によると、粉砕ブレードアセンブリの着脱が楽になる。
【0021】
また本発明は、上記構成の自動製パン機において、前記回転軸を回転させるモータと、前記パン容器内の混練ブレードを回転させるモータは、共通の制御装置で制御されることを特徴としている。
【0022】
この構成によると、粉砕ブレードの回転と混練ブレードの回転を互いに関連づけて制御することが可能であるから、穀物粒を粉砕する段階と、粉砕後の穀物粉を混練する段階において、穀物粒の種類や量に適した回転を粉砕ブレードと混練ブレードに与え、パンの品質を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、穀物粒からのパン製造を容易に実施することができる。また、パン容器内に穀物粒を入れてそれを粉砕した粉砕穀物粒を、そのままパン容器内でパンに焼き上げることができるから、他の容器内で穀物粒を粉砕してからパン容器に移すのと異なり、他の容器に残留してパン容器に入らないという、移し替えに伴うロスが発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る自動製パン機の垂直断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る自動製パン機の垂直断面図で、図1と直角の方向に断面したものである。
【図3】本発明の第1実施形態に係る自動製パン機の上面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る自動製パン機の粉砕ユニットの正面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る自動製パン機の粉砕ユニットの垂直断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る自動製パン機の粉砕ユニットの構成要素である粉砕ブレードと鞘体の下面図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る自動製パン機の垂直断面図で、蓋から粉砕ユニットを引き抜いた状態を示すものである。
【図8】本発明の第1実施形態に係る自動製パン機の垂直断面図で、蓋から粉砕ユニットを引き抜いた状態を、図7と直角の方向に断面して示すものである。
【図9】本発明の第1実施形態に係る自動製パン機の制御ブロック図である。
【図10】第1態様パン製造工程の全体フローチャートである。
【図11】第1態様パン製造工程の粉砕前含浸工程のフローチャートである。
【図12】第1態様パン製造工程の粉砕工程のフローチャートである。
【図13】第1態様パン製造工程の練り工程のフローチャートである。
【図14】第1態様パン製造工程の発酵工程のフローチャートである。
【図15】第1態様パン製造工程の焼成工程のフローチャートである。
【図16】第2態様パン製造工程の全体フローチャートである。
【図17】第2態様パン製造工程の粉砕後含浸工程のフローチャートである。
【図18】第3態様パン製造工程の全体フローチャートである。
【図19】本発明の第2実施形態に係る自動製パン機の垂直断面図である。
【図20】本発明の第2実施形態に係る自動製パン機の垂直断面図で、図1と直角の方向に断面したものである。
【図21】本発明の第2実施形態に係る自動製パン機の粉砕ユニットの正面図である。
【図22】本発明の第2実施形態に係る自動製パン機の粉砕ユニットの垂直断面図である。
【図23】本発明の第2実施形態に係る自動製パン機の垂直断面図で、蓋をリフトアップした状態を示すものである。
【図24】本発明の第2実施形態に係る自動製パン機の垂直断面図で、蓋をリフトアップし、さらに開き姿勢にした状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の第1実施形態を、図1から図18までの図面を参照しつつ説明する。図1と図3において、図の左側が自動製パン機1Aの正面(前面)側、図の右側が自動製パン機1Aの背面(後面)側である。また、自動製パン機1Aに正面から向き合った観察者の左手側が自動製パン機1Aの左側、右手側が自動製パン機1Aの右側であるものとする。
【0026】
自動製パン機1Aは箱形の本体10を有する。本体10は合成樹脂製の外殻を備え、その左側面と右側面に両端を連結したコ字形の合成樹脂製ハンドル11を持って運搬することができる。
【0027】
本体10の上面前部には操作部20が形成される。操作部20には、パンの種類(小麦粉パン、米粉パン、具材入りパンなど)の選択キー、調理内容の選択キー、タイマーキー、スタートキー、取り消しキーなどといった操作キー群21と、設定された調理内容やタイマー予約時刻などを表示する表示部22が設けられている。表示部22は液晶表示パネルからなる。
【0028】
操作部20から後ろの本体上面は合成樹脂製の蓋30で覆われる。蓋30は図示しない蝶番軸で本体10の背面側の縁に取り付けられており、その蝶番軸を支点として垂直面内で回動する。
【0029】
本体10の内部には焼成室40が設けられる。焼成室40は板金製で、上面が開口しており、ここからパン容器50が入れられる。焼成室40は水平断面矩形の周側壁40aと底壁40bを備える。
【0030】
焼成室40の底壁40bには、焼成室40の中心にあたる箇所にアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなるパン容器支持部13が固定されている。パン容器支持部13の内部は、焼成室40の底壁40bに形成された開口部を通じて焼成室40の内部に露出している。
【0031】
パン容器支持部13の中心には、垂直な回転軸14が支持されている。回転軸14の下端はパン容器支持部13の下面から突き出しており、ここにはプーリ15が固定されている。
【0032】
パン容器支持部13は、パン容器50の底面に固定された筒状の台座51を受け入れてパン容器50を支える。台座51もアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。
【0033】
パン容器50は板金製で、バケツのような形状をしており、口縁部には手提げ用のハンドル(図示せず)が取り付けられている。パン容器50の水平断面は四隅を丸めた矩形であり、四辺のうち対向する二辺の内面には、垂直方向に延びるうね状の突部50aが形成されている。
【0034】
パン容器50の底部中心には混練ブレード52が配置されている。混練ブレード52は、パン容器50の底部中心にシール対策を施して支持された垂直な回転軸53の上端の非円形断面部に、単なるはめ込みで取り付けられており、工具を用いることなく着脱することができる。このため、異なる種類の混練ブレード52に容易に交換可能である。
【0035】
回転軸53は回転軸14に連結され、回転軸14より動力を伝達されるものであるが、その動力伝達手段としては台座51に囲い込まれるカップリング54が用いられる。すなわち、カップリング54を構成する2部材のうち、一方は回転軸53の下端に固定され、他方は回転軸14の上端に固定される。
【0036】
パン容器支持部13の内周面と台座51の外周面には、それぞれ図示しない突起が形成される。これらの突起は周知のバヨネット結合を構成する。すなわちパン容器50をパン容器支持部13に取り付ける際、台座51の突起がパン容器支持部13の突起に干渉しないようにしてパン容器50を下ろし、台座51がパン容器支持部13にはまり込んだ後、パン容器50を水平にひねると、パン容器支持部13の突起の下面に台座51の突起が係合して、パン容器50が上方に抜けなくなるようにする。この操作で、カップリング54の連結も同時に達成されるようにする。パン容器50の取り付け時ひねり方向は混練ブレード52の回転方向に一致させ、混練ブレード52が回転してもパン容器50が外れないようにしておく。
【0037】
焼成室40の内部に配置された加熱装置41がパン容器50を包囲し、製パン原料を加熱する。加熱装置41はシーズヒータにより構成される。
【0038】
本体10の内部には板金製の基台12が設置される。基台12にはモータ60が取り付けられる。モータ60は竪軸であって、下面から出力軸61が突出する。出力軸61には回転軸14のプーリ15にベルト62で連結するプーリ63が固定されている。
【0039】
蓋30には、パン容器50の中心から少し右にずれた箇所に、筒形の垂直貫通部31が形成されている。そしてこの垂直貫通部31に、上方から粉砕ユニット70Aが差し込まれる。
【0040】
粉砕ユニット70Aは合成樹脂製のモータケース71を備える。モータケース71は上面にハンドル72を有し、竪軸のモータ73を内蔵している。モータケース71の上部外周には環状の突起71aが形成されている。突起71aは垂直貫通部31の上縁に係合してモータケース71のそれ以上の下降を止めるものであり、突起71aがモータケース71の下降を止めた時点で、モータケース71の上面は蓋30の上面とほぼ面一になる。垂直貫通部31の水平断面形状とモータケース71の水平断面形状はいずれも四辺形であり、蓋30に差し込まれた粉砕ユニット70Aは蓋30に対し回転しない。
【0041】
モータ73から下向きに突き出す出力軸74に回転軸75が連結される。回転軸75の下端には粉砕ブレード76が固定されている。上端をモータケース71に固定された鞘体77が回転軸75と粉砕ブレード76を囲む。鞘体77はステンレス鋼板などの板金から形成される円筒形部材である。鞘体77の下端、すなわち粉砕ブレード76を囲む部分は、他の部分よりも直径が大きい、チューリップの花を倒立させたような形の膨らみ部77aとなっている。
【0042】
膨らみ部77aの内面には粉砕ブレード76に対向する凹凸77bが形成される。第1実施形態では、膨らみ部77aを所定角度間隔で内側に押し込み、これにより凹凸77bを形成している。膨らみ部77aの内部には水平なビーム78が固定され、このビーム78に、回転軸75を支える軸受79が取り付けられている。また膨らみ部77aには、粉砕ブレード76より上のレベルに空気抜き穴77cが形成されている(図4、5参照)。
【0043】
自動製パン機1Aの動作制御は、図9に示す制御装置80によって行われる。制御装置80は本体10内の適所(焼成室40の熱の影響を受けにくい箇所が望ましい)に配置された回路基板により構成され、これまで述べてきた操作部20及び加熱装置41の他、モータ60のモータドライバ81、モータ73のモータドライバ82、及び温度センサ83が接続される。温度センサ83は焼成室40内に配置され、焼成室40の温度を検知する。84は各構成要素に電力を供給する商用電源である。
【0044】
モータ73とモータドライバ82の接続は、垂直貫通部31の内部で接続するコネクタ85により行う。コネクタ85の一方は垂直貫通部31の内面に固定され、他方はモータケース71に固定されている。モータケース71を垂直貫通部31に挿入すると、コネクタ85は接続状態になる。
【0045】
続いて、自動製パン機1Aを用いて穀物粒からパンを製造する工程を、図10から図18までの図を参照しつつ説明する。その中で、図10から図15までの図に示すのが第1態様パン製造工程である。
【0046】
図10は第1態様パン製造工程の全体フローチャートである。図10では、粉砕前含浸工程#10、粉砕工程#20、混練工程#30、発酵工程#40、焼成工程#50の順で工程が進行する。続いて、各工程の内容を説明する。
【0047】
図11に示す粉砕前含浸工程#10では、まずステップ#11において、使用者が穀物粒を計量し、所定量をパン容器50に入れる。穀物粒としては米粒が最も入手しやすいが、それ以外の穀物、例えば小麦、大麦、粟、稗、蕎麦、とうもろこしなどの粒も利用可能である。
【0048】
ステップ#12では使用者が液体を計量し、所定量をパン容器50に入れる。液体として一般的なのは水であるが、だし汁のような味成分を有する液体でもよく、果汁でもよい。アルコールを含有していてもよい。なおステップ#11とステップ#12は順序が入れ替わっても構わない。
【0049】
パン容器50に穀物粒と液体を入れる作業は、パン容器50を焼成室40から出して行ってもよく、パン容器50を焼成室40に入れたまま行ってもよい。パン容器50を出し入れするため、あるいは焼成室40内のパン容器50に穀物粒と液体を入れるために蓋30を開けるときは、粉砕ユニット70Aを蓋30から引き抜いておく。
【0050】
焼成室40内のパン容器50に穀物粒と液体を入れたら、あるいは外部で穀物粒と液体を入れたパン容器50を焼成室40に取り付けたら、蓋30を閉じ、垂直貫通部31に粉砕ユニット70Aを差し込む。突起71aにより下降を止められるところまで粉砕ユニット70Aを差し込むと、コネクタ85が接続されると共に、下端に粉砕ブレード76を備えた回転軸75、及びそれらを囲む鞘体77が、蓋30の下面からパン容器50の内部に垂下する形になる。
【0051】
混練ブレード52は、降下してくる鞘体77が当たらない方向に向けておく。あるいは、鞘体77に当たらない位置を混練ブレード52の原点位置とし、回転を終えた混練ブレード52は必ず原点位置で停止するように構成しておいてもよい。
【0052】
粉砕ユニット70Aを垂直貫通部31に完全に差し込んだ状態では、粉砕ブレード76及び鞘体77の膨らみ部77aの下端はパン容器50の内底面に所定距離まで接近している。ここで使用者は操作部20の中の所定の操作キーを押し、液体含浸のタイムカウントをスタートさせる。この時点からステップ#13が始まる。
【0053】
ステップ#13では穀物粒と液体の混合物をパン容器50内で静置し、穀物粒に液体を含浸させる。一般に、液体温度が高くなるほど含浸が促進されるので、加熱手段41に通電して焼成室40の温度を高めるようにしてもよい。
【0054】
ステップ#14では穀物粒と液体の静置を開始してからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら粉砕前含浸工程#10は終了する。このことは、表示部22における表示や、音声などで使用者に報知される。
【0055】
粉砕前含浸工程#10に続き、図12に示す粉砕工程#20が遂行される。使用者が操作部20を通じ粉砕作業データ(穀物粒の種類や量、これから焼くパンの種類など)を入力し、スタートキーを押すと、粉砕が開始される。
【0056】
ステップ#21では、制御装置80が粉砕ユニット70Aのモータ73を駆動し、回転軸75を回転させる。すると、穀物粒と液体の混合物の中で粉砕ブレード76が回転を開始する。粉砕ブレード76による粉砕は、穀物粒に液体が浸み込んだ状態で行われるから、穀物粒を芯まで容易に粉砕することができる。鞘体77の膨らみ部77aの内面に形成された凹凸77bが穀物粒と液体の混合物の流動を抑制し、粉砕を促進する。膨らみ部77aには空気抜き穴77cが形成されているから、膨らみ部77aの内部に空気溜まりが生じない。このため、膨らみ部77aへの穀物粒と液体の混合物の進入が空気溜まりによって阻害されず、粉砕を着実に実行することができる。
【0057】
このようにして、粉砕ブレード76が回転している間、パン容器50内の穀物粒は、液体と共に、膨らみ部77aとパン容器50の内底面の間の隙間から膨らみ部77aの中に入り、粉砕ブレード76で粉砕されて膨らみ部77aの外に出ることを繰り返し、細片化されて行く。
【0058】
ステップ#22では、所望の粉砕穀物粒を得るために設定通りの粉砕パターン(粉砕ブレードを連続回転させるか、停止期間を織り交ぜて断続回転させるか、断続回転させる場合、どのようにインターバルをとるか、回転時間の長さをどのようにするか等)が完遂されたかどうかを制御装置80がチェックする。設定通りの粉砕パターンが完遂されたらステップ#23に進んで粉砕ブレード63の回転を終了し、粉砕工程#20は終了する。このことは、表示部22における表示や、音声などで使用者に報知される。
【0059】
以上の説明では、粉砕前含浸工程#10の後、使用者の操作で粉砕工程#20が開始されるものとしたが、使用者が粉砕前含浸工程#10の前か、粉砕前含浸工程#10の途中で粉砕作業データを入力すれば、粉砕前含浸工程#10の終了後、自動的に粉砕工程#20が開始されるように構成してもよい。
【0060】
粉砕工程#20に続き、図13に示す混練工程#30が遂行される。それに先立ち使用者は蓋30から粉砕ユニット70Aを引き抜き、図7と図8に示すように、垂直貫通部31に粉砕ユニット70Aの代わりとなるダミー栓90を差し込んでおく。ダミー栓90はモータケース71と同一寸法で、上面にはハンドル91が設けられている。
【0061】
なお、鞘体77がパン容器50内に垂下した状態で混練ブレード52が回転すると、混練ブレード52が鞘体77に衝突してしまう。そこで、パン容器50の内部に鞘体77が存在することを検知する検知手段を設け、この検知手段が鞘体77の存在を検知している間はモータ60を駆動できないようにしておくのがよい。
【0062】
混練工程#30に入る時点では、パン容器50の中の穀物粒と液体は、ペースト状またはスラリー状の生地原料となっている。なお本明細書では、混練工程#30の開始時点のものを「生地原料」と呼称し、混練が進行して目的とする生地の状態に近づいたものは、半完成状態であっても「生地」と呼称することとする。
【0063】
ステップ#31では使用者が生地原料に所定量のグルテンを投入する。必要に応じ、食塩、砂糖、ショートニングといった調味材料も投入する。
【0064】
使用者は、ステップ#31に前後して、操作部20よりパンの種類や調理内容の入力を行う。準備が整ったところで使用者がスタートキーを押すと、混練工程#30から発酵工程#40、さらに焼成工程#50へと自動的に連続する製パン作業が開始される。
【0065】
ステップ#32では、制御装置80はモータ60を駆動する。すると、生地原料の中で混練ブレード52が回転を開始する。また制御部80は、加熱装置41に通電し、焼成室40の温度を上げる。混練ブレード52が回転するに従い生地原料は混練され、所定の弾力を備える、一つにつながった生地(dough)に練り上げられて行く。混練ブレード52が生地を振り回してパン容器50の内壁にたたきつけることにより、混練に「捏ね」の要素が加わることになる。パン容器50の内壁に形成された突部50aが「捏ね」を助ける。
【0066】
ステップ#33では混練ブレード52の回転開始以来どれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したらステップ#34に進む。
【0067】
ステップ#34では使用者が蓋30を開け、生地にイースト菌を投入する。
【0068】
ステップ#35では生地にイースト菌を投入してからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所望の生地を得るのに必要な時間が経過したらステップ#36へ進んで混練ブレード52の回転が終了する。この時点で、一つにつながり、所要の弾力を備えた生地が完成している。
【0069】
なおステップ#34で生地に投入するイースト菌はドライイーストでよい。イースト菌の代わりにベーキングパウダーを用いてもよい。
【0070】
混練工程#30に続き、図14に示す発酵工程#40が遂行される。ステップ#41では混練工程30を経た生地が発酵環境に置かれる。すなわち制御装置80は焼成室40を、必要があれば加熱装置41に通電して、発酵が進む温度帯とする。使用者は生地を、必要に応じ形を整えて静置する。
【0071】
ステップ#42では生地を発酵環境に置いてからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら発酵工程#40は終了する。
【0072】
発酵工程#40に続き、図15に示す焼成工程#50が遂行される。ステップ#51では発酵した生地が焼成環境に置かれる。すなわち制御装置80はパン焼きに必要な電力を加熱装置41に送り、焼成室40の温度をパン焼き温度帯まで上昇させる。
【0073】
ステップ#52では生地を焼成環境に置いてからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら焼成工程#50は終了する。ここで表示部22における表示または音声により製パン完了の報知がなされるので、使用者は蓋30を開けてパン容器50を取り出す。
【0074】
続いて第2態様製パン工程を図16と図17に基づき説明する。図16は第2態様パン製造工程の全体フローチャートである。図16では、粉砕工程#20、粉砕後含浸工程#60、練り工程#30、発酵工程#40、焼成工程#50の順で工程が進行する。続いて、図17に基づき粉砕後含浸工程#60の内容を説明する。
【0075】
ステップ#61では、粉砕工程#20で形成された生地原料がパン容器50の内部で静置される。この生地原料は、粉砕前含浸工程を経ていなかったものである。静置されている間に、粉砕穀物粒に液体が浸み込んで行く。制御装置80は必要に応じ加熱装置41に通電して生地原料を加熱し、含浸を促進する。
【0076】
ステップ#62では静置開始以来どれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら粉砕後含浸工程#60は終了する。粉砕後含浸工程#60が終了すれば自動的に混練工程#30に移行する。混練工程#30以降の工程は第1態様製パン工程と同じである。
【0077】
続いて第3態様製パン工程を図18に基づき説明する。図18は第3態様パン製造工程の全体フローチャートである。ここでは、粉砕工程#20の前に第1態様の粉砕前含浸工程#10を置き、粉砕工程#20の後に第2態様の粉砕後含浸工程60を置いている。混練工程30以降の工程は第1態様製パン工程と同じである。
【0078】
粉砕ユニット70Aは、穀物粒を粉砕するだけでなく、ナッツ類や葉物野菜などの具材の細片化にも用いることができる。このため、粒の細かい具材を入れたパンを焼くことができる。粉砕ユニット70Aは、パンに混ぜる具材以外の食材や、生薬原料の粉砕にも利用できる。
【0079】
次に、図19から図24に基づき本発明の第2実施形態を説明する。なお第2実施形態の中で第1実施形態と同一または機能が共通する構成要素には第1実施形態で用いたのと同じ符号を付し、説明は省略する。
【0080】
第2実施形態の自動製パン機1Bが第1実施形態の自動製パン機1Aと異なるのは、粉砕ユニットの構成である。すなわち自動製パン機1Bは、蓋30から引き抜き可能な粉砕ユニット70Aではなく、モータ73が蓋30に内蔵された形の粉砕ユニット70Bを用いている。
【0081】
粉砕ユニット70Bでは、回転軸75、粉砕ブレード76、及び鞘体77は、モータ73に着脱可能に連結する粉砕ブレードアセンブリ90を構成している。さらに蓋30は、蝶番軸を支点として垂直面内で回動するだけでなく、支点位置そのものの上昇、すなわちリフトアップが可能な構成となっている。
【0082】
蓋30のリフトアップのため、本体10の背面には図24に示すリフトアップコラム91が設けられる。リフトアップコラム91は本体10の背面に取り付けられた鞘状のガイド92に納められ、垂直方向に動く。リフトアップコラム91の上下動の動力源としては、人力を利用してもよく、モータやエアシリンダを利用してもよい。あるいはリフトアップコラム91をばねで上方に付勢し、リフトアップコラム91を押し下げてロックをかければリフトアップコラム91は下方に留まり、ロックを外せばばねの力でリフトアップコラム91が上昇して蓋30がリフトアップ状態になるという構成を採用してもよい。このリフトアップコラム91の上端に、蝶番軸93で蓋30を取り付ける。
【0083】
自動製パン機1Bにおいて、焼成室40からパン容器50を取り出したり、焼成室40にパン容器50を入れたりするときは、図23に示すように蓋30をリフトアップする。
その上で、図24に示すように蓋30を開き姿勢にする。こうすると粉砕ブレードアセンブリ90が横向きになるので、粉砕ブレードアセンブリ90をモータ73に連結したり、連結を外したりする作業を楽に行える。粉砕工程#20を終了し、混練工程#30に移るときにも蓋30をリフトアップして粉砕ブレードアセンブリ90を取り外しておく。
【0084】
第1実施形態においても第2実施形態においても、単一の制御装置80により、粉砕ブレード76の回転と混練ブレード52の回転を互いに関連づけて制御することが可能であるから、穀物粒を粉砕する段階と、粉砕後の穀物粉を混練する段階において、穀物粒の種類や量に適した回転を粉砕ブレード63と混練ブレード52に与え、パンの品質を向上させることができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、主として一般家庭で使用される自動製パン機に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
1A、1B 自動製パン機
10 本体
20 操作部
30 蓋
40 焼成室
50 パン容器
52 混練ブレード
60 モータ
70A、70B 粉砕ユニット
71 モータケース
73 モータ
75 回転軸
76 粉砕ブレード
77 鞘体
77a 膨らみ部
77b 凹凸
77c 空気抜き穴
80 制御装置
90 粉砕ブレードアセンブリ
92 リフトアップコラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製パン原料を入れたパン容器を本体内の焼成室に受け入れ、前記製パン原料の混練工程、発酵工程、及び焼成工程を順次遂行する自動製パン機において、
前記焼成室を覆う蓋より前記パン容器内に、下端に粉砕ブレードを備えた回転軸を垂下させたことを特徴とする自動製パン機。
【請求項2】
前記回転軸と粉砕ブレードを囲む鞘体が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の自動製パン機。
【請求項3】
前記鞘体は、前記粉砕ブレードを囲む部分が膨らみ部となっており、この膨らみ部の内面には食品の流動を阻害する凹凸が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の自動製パン機。
【請求項4】
前記鞘体には、前記膨らみ部に空気抜き穴が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の自動製パン機。
【請求項5】
前記回転軸を回転させるモータは、前記蓋に上方より差し込み可能なモータケースに内蔵されており、前記回転軸と粉砕ブレードは前記モータケースの下面から垂下し、モータケースと共に前記蓋より引き抜き可能であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の自動製パン機。
【請求項6】
前記回転軸を回転させるモータは、前記蓋に内蔵されており、前記回転軸と粉砕ブレードを含む粉砕ブレードアセンブリは、前記モータに着脱可能に連結されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の自動製パン機。
【請求項7】
前記蓋は前記本体よりリフトアップ可能であり、リフトアップ状態で開き姿勢にすることにより、前記粉砕ブレードアセンブリを横向き状態で前記モータに着脱できることを特徴とする請求項6に記載の自動製パン機。
【請求項8】
前記回転軸を回転させるモータと、前記パン容器内の混練ブレードを回転させるモータは、共通の制御装置で制御されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の自動製パン機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−184080(P2010−184080A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31559(P2009−31559)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】