自動製パン機
【課題】ブレード回転軸と軸受けが固着し、ブレード回転軸が回転しなくなることで、製パンができなくなる不具合を解決する。
【解決手段】内部に焼成室が設けられた有底筒状の機器本体と、焼成室内に着脱自在に収納され、調理材料を収容するパン容器と、パン容器内に収容された調理材料を混錬するための練り羽根と、練り羽根を回動しパン容器底面へ貫通突出するブレード回転軸と、を有し、パン容器は台座を有し、ブレード回転軸は台座に取り付けた軸受けによって軸支されるとともに、軸受け上部に軸と同期して回転しないよう構成した軸受けカバーを設け、ブレード回転軸と軸受けカバー間を弾性部材で水密とした。
【解決手段】内部に焼成室が設けられた有底筒状の機器本体と、焼成室内に着脱自在に収納され、調理材料を収容するパン容器と、パン容器内に収容された調理材料を混錬するための練り羽根と、練り羽根を回動しパン容器底面へ貫通突出するブレード回転軸と、を有し、パン容器は台座を有し、ブレード回転軸は台座に取り付けた軸受けによって軸支されるとともに、軸受け上部に軸と同期して回転しないよう構成した軸受けカバーを設け、ブレード回転軸と軸受けカバー間を弾性部材で水密とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用で使用する自動製パン機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動製パン機として種々の構造のものが知られている。図17は、例えば特許文献1の自動製パン機の断面図である。
【0003】
図17において、従来の自動製パン機は、本体100内に設けられた焼成室101には、底部にブレード回転軸102を設けたパン容器103が挿入される。本体100の内部には板金製の基台116が設置されている。基台116には、焼成室101の中心にあたる箇所に、アルミニウム合金のダイキャスト成型品からなるパン容器支持部115が固定されている。パン容器支持部115の内部は焼成室111の内部に露出している。パン容器支持部115は、パン容器103の底面に固定された筒状の台座114を受け入れてパン容器50を支える。台座114もアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。そしてブレード回転軸102を軸受け(図示せず)を介して軸支する。
【0004】
パン容器103の底部には、カバー106を収容する凹部108が形成されている。カバー106の外周部と凹部108の内面の間には製パン原料の流動を可能とする間隙109が形成され、カバー106にはカバー内空間とカバー外空間を連通させる窓110が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2009−194125号公報参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来の自動製パン機においては、粉砕工程ではブレード回転軸は約3000〜7000rpmで高速回転する。また、混練工程では回転数は300〜600rpmと低いものの、粉砕工程とは逆周りに原動軸が回転する。パン容器底面から生地が漏れ出さないようパン容器底面とブレード回転軸の間はシリコンあるいはフッ素製のオイルシールパッキンにて水密にシールしてあるので、台座および軸受け側に生地が漏れ出すことはない。しかしながら、パンを焼成するとオイルシール部に付着した生地が焼成されてオイルシールパッキンのシール部に焼きついて付着する。この状態で再び製パン動作を実施し、ブレード回転軸が回転すると、焼きついた生地はシール部の軸の回転力により剥がれ取れるが、同時にシール部にわずかなクラックを発生させる場合がある。長期間の製品の使用により、このわずかなクラックが次第に拡大し、オイルシール部からわずかながら生地が漏れ出し、漏れ出した生地がブレード回転軸と軸受けの間に入り込み、同様に焼成工程にて生地が焼きつくことで、生地が固着してしまうことにより、軸および軸受けが傷つくことがある。そして最終的にはブレード回転軸と軸受けが固着し、ブレード回転軸が回転しなくなる。ゆえに製パンができなくなる不具合が発生する。また、約3000〜7000rpmで高速回転と回転数は300〜600rpmの正逆回転があわせてオイルシールパッキンのシール部に負担をかけるので、さらにシール部から生地を漏れ出しやすくしている。
【0007】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、オイルシール部から生地が漏れ出し、漏れ出した生地がブレード回転軸と軸受けの間に入りこむことを防止し、長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、内部に焼成室が設けられた有底筒状の機器本体と、前記焼成室内に着脱自在に収納され、調理材料を収容するパン容器と、前記パン容器内に収容された調理材料を混錬するための練り羽根と、前記練り羽根を回動し前記パン容器底面へ貫通突出するブレード回転軸と、を有し、前記パン容器は台座を有し、前記ブレード回転軸は前記台座に取り付けた軸受けによって軸支されるとともに、軸受け上部に軸と同期して回転しないよう構成した軸受けカバーを設け、ブレード回転軸と軸受けカバー間を弾性部材で水密としたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自動製パン機であり、前記弾性部材は前記ブレード回転軸に弾性材料の緊縛力にて固定されることで前記ブレード回転軸と同期して回転し、かつ傘状のリップ形状で前記軸受けカバーと摺動かつ当接することで、前記ブレード回転軸と前記軸受けカバーの間を水密にシールし、加えて弾性部材と摺動する軸受けカバーの表面はフッ素処理等の低摩擦処理をほどこしたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の自動製パン機であり、前記台座の前記軸受けカバー周囲に生地排出路を構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項第1項の自動製パン機によれば、シール部にわずかなクラックが発生し、長期間の製品の使用により、このわずかなクラックが次第に拡大し、オイルシール部からわずかながら生地が漏れ出したとしても、漏れ出した生地はブレード回転軸と軸受けカバー間の弾性部材でシールされ、ブレード回転軸と軸受けの間に入り込むことはない。これにより長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することができる。
【0012】
本発明の請求項第2項の自動製パン機によれば、傘状のリップ形状で前記軸受けカバーと摺動かつ当接することによりブレード回転軸との当接部で摺動させないことで、焼成による生地の焼きつきで弾性部材が破れることを防止する。また、傘状のリップ形状部分に焼きついた生地は、遠心力で外方へ排出されると共に、軸受けカバー側にフッ素処理等の低摩擦処理を施しているので、弾性部材の傘状のリップ形状部分と軸受けカバーの間に生地が焼きついて剥がれなくなるのを防止する。これらの作用により、より確実にブレード回転軸と軸受けの間に生地が入るのを防止し、長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することができる。
【0013】
本発明の請求項第3項の自動製パン機によれば、パン容器底部から漏れ出した生地は台座の軸受けカバー周囲に設けた生地排出路にて台座外部に排出されるので、漏れ出した生地が台座内へたまったりすることで弾性部材と軸受けカバーの間のシール性を向上させる。このことは長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の縦断面図。
【図2】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の台座部拡大図。
【図3】本発明の実施形態にかかる自動製パン機のパン容器底部拡大図。
【図4】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の軸受け部拡大図。
【図5】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の練り羽根を折りたたんだ状態の粉砕ブレードの下面図。
【図6】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の粉砕ブレードの下面斜視図。
【図7】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の練り羽根を折りたたんだ状態のパン容器上面図。
【図8】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の練り羽根を伸ばした状態のパン容器上面図。
【図9】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の練り羽根を伸ばした状態の粉砕ブレードの下面図。
【図10】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の制御ブロック図。
【図11】本発明の実施形態にかかる自動製パン機のパン製造工程全体のフローチャート。
【図12】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の粉砕工程前含浸工程のフローチャート。
【図13】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の粉砕工程のフローチャート。
【図14】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の混練工程のフローチャート。
【図15】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の発酵工程のフローチャート。
【図16】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の焼成工程のフローチャート。
【図17】従来の自動製パン機の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
《実施形態》
以下に本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1によれば、自動製パン機1は合成樹脂製の外殻により構成される箱形の本体10を有する。本体10の上面前部には操作部20が設けられる。操作部20には、図示は省略するが、パンの種類(小麦粉パン、米粉パン、具材入りパンなど)の選択キー、調理内容の選択キー、タイマーキー、スタートキー、取り消しキーなどといった操作キー群と、設定された調理内容やタイマー予約時刻などを表示する表示部が設けられている。表示部は液晶表示パネルと発光ダイオードを光源とする表示ランプにより構成される。
【0018】
操作部20から後ろの本体上面は合成樹脂製の蓋30で覆われる。蓋30は図示しない蝶番軸で本体10の背面側の縁に取り付けられており、その蝶番軸を支点として垂直面内で回動する。
【0019】
本体10の内部には焼成室40が設けられる。焼成室40は板金製で、上面が開口しており、ここからパン容器50が入れられる。焼成室40は水平断面矩形の周側壁40aと底壁40bを備える。
【0020】
本体10の内部には板金製の基台12が設置されている。基台12には、焼成室40の中心にあたる箇所に、アルミニウム合金のダイキャスト成型品からなるパン容器支持部13が固定されている。パン容器支持部13の内部は焼成室40の内部に露出している。
【0021】
パン容器支持部13の中心には原動軸14が垂直に支持されている。原動軸14に回転を与えるのはプーリA15、プーリB16である。プーリA15と原動軸14の間、及びプーリB16と原動軸14の間にはそれぞれクラッチが配置されていて、プーリA15を一方向に回転させて原動軸14に回転を伝えるとき、原動軸14の回転はプーリ16には伝わらず、プーリB16をプーリA15とは逆方向に回転させて原動軸14に回転を伝えるとき、原動軸14の回転はプーリA15には伝わらない仕組みになっている。
【0022】
プーリA15を回転させるのは基台12に支持された混練モータ60である。混練モータ60は竪軸であって、下面から出力軸A61が突出する。出力軸A61には、プーリA15にベルトA63で連結するプーリC62が固定されている。混練モータ60自身が低速・高トルクタイプであり、その上プーリC62がプーリA15を減速回転させるので、原動軸14は低速・高トルクで回転する。
【0023】
プーリ16を回転させるのは同じく基台12に支持された粉砕モータ64である。粉砕モータ64も竪軸であって、上面から出力軸B65が突出する。出力軸B65には、プーリB16にベルトB67で連結するプーリD66が固定されている。
【0024】
粉砕モータ64は後述する粉砕ブレードに高速回転を与える役割を担う。粉砕工程ではブレード回転軸は約3000〜7000rpmで高速回転する。そのため、粉砕モータ64には高速回転タイプのものが選定され、プーリD66とプーリB16の減速比もほぼ1:1になるように設定されている。
【0025】
図2に示すように、パン容器支持部13は、パン容器50の底面に固定された筒状の台座51を受け入れてパン容器50を支える。台座51もアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。
【0026】
パン容器50は板金製で、バケツのような形状をしており、口縁部には手提げ用のハンドル(図示せず)が取り付けられている。パン容器50の水平断面は四隅を丸めた矩形である。
【0027】
パン容器50の底部中心には垂直なブレード回転軸52が台座51に圧入された軸受け32に垂直に支持された状態で配置されている。軸受け32は摺動オイルを含浸した焼結メタル性でブレード回転軸52の高速回転摺動に対して超低摩擦状態にて支持し、ブレード回転軸を高速回転可能にしている。
【0028】
図3に示すように、ブレード回転軸52は軸受け32にて軸支され、ブレード回転軸52が下方へ抜けないようE型止め輪24が設けてある。そしてパン容器底部50aのおよそ中心に、パン容器50内に入れた材料や水がパン容器から漏れ出さないようにシール部33が構成してある。シール部33は、円筒状で天面にブレード回転軸52を貫通するシールケース34とシールケース34内部でブレード回転軸52とシールケース34の間を水密にシールし、かつブレード回転軸52の回転摺動に対してシール性を有するオイルシール35とオイルシール35へ固形物が入り込まないように防塵する円盤状のリンフ36とシールケース34とパン容器50の間を水密にシールする防水パッキン37から構成される。
【0029】
一方、図4に示すように、軸受け32周辺はオイルシール35から生地漏れがあった場合にブレード回転軸と軸受け32の摺動部分に生地が入り込まないよう軸受けシール部38が構成されている。軸受けシール部38は円形状であって弾性材料からなり、ブレード回転軸52と緊縛力で一体に共回りするV型オイルシール39と軸受け32の表面を覆う軸受けカバー22とV型オイルシール39に設けた傘型のリップ部39aが軸受けカバー22に圧接することによる反力でV型オイルシールが上方へずれるのを防止するEリング23で構成されている。そして軸受けカバー22のV型オイルシール39との摺動面にはフッ素塗装などの低摩擦摺動処理がなされている。また、軸受けカバー22の側方には、台座51にてシール部33と台座下方を連通にする切り欠き穴51bが設けてある。切り欠き穴51bは円周方向に複数個所等配に設けられている。ここで、軸受けカバー22は回転しないよう台座51に構造的に固定されている(図示せず)。
【0030】
図2に示すように、ブレード回転軸52には、ブレード回転軸52の下端に固定されたコネクタ上53がある。他方、原動軸14の上端にはコネクタ下54が固定されている。パン容器50を本体へセットすると、コネクタ上53とコネクタ下54が原動軸14が回動したときに嵌合し、ブレード回転軸52へ回転力が伝えられる。
【0031】
改めて、図1にて示すとおり、焼成室40の内部に配置された加熱装置41がパン容器50を包囲し、製パン原料を加熱する。加熱装置41はシーズヒータにより構成される。
【0032】
ブレード回転軸52には、パン容器50の底部より少し上の箇所に、粉砕ブレード44が取り付けられる。粉砕ブレード44はブレード回転軸52に対し回転不能とされる。粉砕ブレード44はステンレス鋼板製であり、図5に示すように、飛行機のプロペラのような形状を有している。
【0033】
粉砕ブレード44の中心部はブレード回転軸52に嵌合するハブ44aとなっている。ハブ44aの下面にはハブ44aを直径方向に横断する溝44bが形成されている。ブレード回転軸52を水平に貫く図示しないピンがハブ44aを受け止め、また溝44bに係合して粉砕ブレード44をブレード回転軸52に対し回転不能に連結する。粉砕ブレード44はブレード回転軸52から簡単に引き抜くことができるので、製パン作業終了後の洗浄や、切れ味が悪くなったときの交換を手軽に行うことができる。
【0034】
図6に示すようにブレード回転軸52の上端には平面形状円形のドーム状カバー70が取り付けられる。カバー70はアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなり、粉砕ブレード44を覆い隠す。カバー70はブレード回転軸52に回転自在に嵌合し、粉砕ブレード44のハブ44aで受け止められる。カバー70もブレード回転軸52から簡単に引き抜くことができるので、製パン作業終了後の洗浄を手軽に行うことができる。
【0035】
カバー70の外面には、ブレード回転軸52から離れた箇所に配置された垂直な支軸71により、平面形状くの字形の練り羽根72が取り付けられている。練り羽根72もアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。支軸71は練り羽根72に固定ないし一体化されており、練り羽根72と動きを共にする。
【0036】
練り羽根72は支軸71を中心として水平面内で回動し、図7に示す折り畳み姿勢と、図8に示す開き姿勢の2姿勢をとる。折り畳み姿勢では、練り羽根72はカバー70に形成したストッパ部73に当たっており、それ以上カバー70に対し時計方向回動を行うことができない。練り羽根72の先端は、この時、カバー70から少し突き出している。開き姿勢では、練り羽根72はストッパ部73から離れ、練り羽根72の先端はカバー70から大きく突き出す。
【0037】
カバー70には、カバー内空間とカバー外空間を連通する窓74が形成される。窓74は粉砕ブレード44に並ぶ高さかそれよりも上の位置に配置される。実施形態では計4個の窓74が90°間隔で配置されているが、それ以外の数と配置間隔を選択することもできる。
【0038】
図5および図6に示すように、カバー70の内面には、各窓74に対応して計4個のリブ75が形成されている。各リブ75はカバー70の中心近傍から外周の環状壁まで半径方向に対し斜めに延び、4個合わさって一種の巴形状を構成する。また各リブ75は、それに向かって押し寄せる製パン原料に対面する側が凸となるように湾曲している。粉砕ブレード44はリブ75の下縁をかすめるようにして回転する。
【0039】
カバー70とブレード回転軸52の間にはクラッチ76(図5参照)が介在する。クラッチ76は、混練モータ60が原動軸14を回転させるときのブレード回転軸52の回転方向(この方向の回転を「正方向回転」とする)において、ブレード回転軸52とカバー70を連結する。逆に、粉砕モータ64が原動軸14を回転させるときのブレード回転軸52の回転方向(この方向の回転を「逆方向回転」とする)では、クラッチ76はブレード回転軸52とカバー70の連結を切り離すものである。
【0040】
クラッチ76を構成するのは第1係合体76aと第2係合体76bである。第1係合体76は粉砕ブレード44のハブ44aに固定または一体成形され、従ってブレード回転軸52に回転不能に取り付けられているものである。第2係合体76bは練り羽根72の支軸71に固定または一体成形されており、練り羽根72の姿勢変更に伴って角度を変える。
【0041】
クラッチ76は、練り羽根72の姿勢に応じて連結状態を切り換える。すなわち練り羽根72が図7に示す折り畳み姿勢にあるときは、第2係合体76bは図5の角度にある。この時第2係合体76bは第1係合体76aの回転軌道に干渉しており、ブレード回転軸52が図5において時計方向に、言い換えれば正方向に回転すると、第1係合体76aが第2係合体76bに係合し、ブレード回転軸52の回転力がカバー70及び練り羽根72に伝達される。練り羽根72が図8に示す開き姿勢にあるときは、第2係合体76bは図9の角度となる。この時第2係合体76bは第1係合体76aの回転軌道から退避しており、ブレード回転軸52が図9において反時計方向に、言い換えれば逆方向に回転しても、第1係合体76aと第2係合体76bの間に係合が生じない。従ってブレード回転軸52の回転力はカバー70及び練り羽根72には伝わらない。
【0042】
図1の通り、パン容器50の底部には、粉砕ブレード44とカバー70を収容する凹部55が形成されている。凹部55は平面形状円形で、カバー70の外周部と凹部55の内面の間には、製パン原料の流動を可能とする間隙56が形成されている。
【0043】
自動製パン機1の動作制御は、図10に示す制御装置80によって行われる。制御装置80は本体10内の適所(焼成室40の熱の影響を受けにくい箇所が望ましい)に配置された回路基板により構成され、操作部20及び加熱装置41の他、混練モータ60のモータドライバ81、粉砕モータ64のモータドライバ82、及び温度センサ83が接続される。温度センサ83は焼成室40内に配置され、焼成室40の温度を検知する。84は各構成要素に電力を供給する商用電源である。
【0044】
続いて、自動製パン機1を用いて穀物粒からパンを製造する工程を、図11から図19までの図を参照しつつ説明する。
【0045】
図11は第1態様パン製造工程の全体フローチャートである。図11では、粉砕前含浸工程#10、粉砕工程#20、混練工程#30、発酵工程#40、焼成工程#50の順で工程が進行する。続いて、各工程の内容を説明する。
【0046】
図12に示す粉砕前含浸工程#10では、まずステップ#11において、使用者が穀物粒を計量し、所定量をパン容器50に入れる。穀物粒としては米粒が最も入手しやすいが、それ以外の穀物、例えば小麦、大麦、粟、稗、蕎麦、とうもろこしなどの粒も利用可能である。
【0047】
ステップ#12では使用者が液体を計量し、所定量をパン容器50に入れる。液体として一般的なのは水であるが、だし汁のような味成分を有する液体でもよく、果汁でもよい。アルコールを含有していてもよい。なおステップ#11とステップ#12は順序が入れ替わっても構わない。
【0048】
パン容器50に穀物粒と液体を入れる作業は、パン容器50を焼成室40から出して行ってもよく、パン容器50を焼成室40に入れたまま行ってもよい。
【0049】
焼成室40内のパン容器50に穀物粒と液体を入れたら、あるいは外部で穀物粒と液体を入れたパン容器50をパン容器支持部13に取り付けたら、蓋30を閉じる。
【0050】
引き続き使用者は操作部20の中の所定の操作キーを押し、液体含浸のタイムカウントをスタートさせる。この時点からステップ#13が始まる。
【0051】
ステップ#13では穀物粒と液体の混合物をパン容器50内で静置し、穀物粒に液体を含浸させる。一般的に、液体温度が高くなるほど含浸が促進されるので、加熱手段41に通電して焼成室40の温度を高めるようにしてもよい。
【0052】
ステップ#14では穀物粒と液体の静置を開始してからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら粉砕前含浸工程#10は終了する。このことは、操作部20における表示や、音声などで使用者に報知される。
【0053】
粉砕前含浸工程#10に続き、図13に示す粉砕工程#20が遂行される。使用者が操作部20を通じ粉砕作業データ(穀物粒の種類や量、これから焼くパンの種類など)を入力し、スタートキーを押すと、ステップ#21が開始される。
【0054】
ステップ#21では制御装置80が粉砕モータ64を駆動し、ブレード回転軸52を逆方向回転させる。すると、穀物粒と液体の混合物の中で粉砕ブレード44が回転を開始する。カバー70もブレード回転軸52に追随して回転を開始する。この時のカバー70の回転方向は図8において時計方向であり、練り羽根72は、それまで折り畳み姿勢であった場合には、穀物粒と液体の混合物から受ける抵抗で開き姿勢に転じる。練り羽根72が開き姿勢になると、クラッチ76は、第2係合体76bが第1係合体76aの回転軌跡から退避することにより、ブレード回転軸52とカバー70の連結を切り離す。同時に、開き姿勢になった練り羽根72は図8に示すようにパン容器50の内側壁に当たり、カバー70の回転を阻止する。以後、ブレード回転軸52と粉砕ブレード44が逆方向に高速回転する。カバー70と練り羽根72が停止しているため、粉砕ブレード44が高速回転しても、穀物粒と液体の混合物がパン容器50の中で渦を巻かない。そのため、渦が周縁で盛り上がり、パン容器50の外にこぼれるようなこともない。
【0055】
カバー70が回転を止めている間、粉砕ブレード44は高速回転して穀物粒を粉砕する。ブレード回転軸52は約3000〜7000rpmで高速回転する。粉砕ブレード44による粉砕は、穀物粒に液体が浸み込んだ状態で行われるから、穀物粒を芯まで容易に粉砕することができる。カバー70の中心近傍から外周の環状壁まで延びるリブ75が、穀物粒と液体の混合物の、粉砕ブレード44の回転方向と同方向の流動を抑制し、粉砕を助ける。すなわち、リブ75が混合物の流れを変更し、粉砕ブレード44との衝突機会を増やすように作用する。粉砕はカバー70の中で行われるから、穀物粒がパン容器50の外に飛び散ることもない。
【0056】
粉砕された穀物粒と液体の混合物はリブ75により窓74の方向に誘導され、窓74を通じてカバー70の外に排出される。リブ75は、それに向かって押し寄せる穀物粒と液体の混合物に対面する側が凸となるように湾曲しているので、穀物粒と液体の混合物はリブ75の表面に滞留しにくく、スムーズに窓74の方へ流れて行く。
【0057】
カバー70の内部から穀物粒と液体の混合物が排出されるのと入れ替わりに、凹部55の上に存在した穀物粒と液体の混合物が、間隙56を通じて凹部55に入り、凹部55からカバー70の中に入る。カバー70の中で穀物粒は粉砕ブレード44により粉砕され、カバー70の窓74から凹部55の上に戻る。このように穀物粒を循環させつつ粉砕を行うことにより、穀物粒を効率良く粉砕することができる。リブ75の存在により、粉砕ブレード44が生成した粉砕物は速やかに窓74へ誘導され、カバー70の中に滞留しないから、粉砕能率はさらに向上する。
【0058】
窓74が配置されているのは粉砕ブレード44に並ぶ高さかそれよりも上の位置なので、粉砕された穀物粒と液体の混合物がカバー70から排出される方向は水平か斜め上向きとなり、穀物粒の循環が促進される。
【0059】
ステップ#22では、所望の粉砕穀物粒を得るために設定通りの粉砕パターン(粉砕ブレードを連続回転させるか、停止期間を織り交ぜて断続回転させるか、断続回転させる場合、どのようにインターバルをとるか、回転時間の長さをどのようにするか等)が完遂されたかどうかを制御装置80がチェックする。
【0060】
設定通りの粉砕パターンが完遂されたらステップ#23に進んで粉砕ブレード44の回転を終了し、粉砕工程#20は終了する。このことは、表示部22における表示や、音声などで使用者に報知される。
【0061】
以上の説明では、粉砕前含浸工程#10の後、使用者の操作で粉砕工程#20が開始されるものとしたが、使用者が粉砕前含浸工程#10の前か、粉砕前含浸工程#10の途中で粉砕作業データを入力すれば、粉砕前含浸工程#10の終了後、自動的に粉砕工程#20が開始されるように構成してもよい。
【0062】
粉砕工程#20に続き、図14に示す混練工程#30が遂行される。混練工程#30に入る時点では、パン容器50の中の穀物粒と液体は、ペースト状またはスラリー状の生地原料となっている。なお本明細書では、混練工程#30の開始時点のものを「生地原料」と呼称し、混練が進行して目的とする生地の状態に近づいたものは、半完成状態であっても「生地」と呼称することとする。
【0063】
ステップ#31では使用者が蓋30を開け、生地原料に所定量のグルテンを投入する。必要に応じ、食塩、砂糖、ショートニングといった調味材料も投入する。自動製パン機1にグルテンや調味材料の自動投入装置を設けておき、使用者の手を煩わすことなくそれらを投入する構成にすることもできる。
【0064】
使用者は、ステップ#31に前後して、操作部20よりパンの種類や調理内容の入力を行う。準備が整ったところで使用者がスタートキーを押すと、混練工程#30から発酵工程#40、さらに焼成工程#50へと自動的に連続する製パン作業が開始される。
【0065】
ステップ#32では、制御装置80は混練モータ60を駆動する。ブレード回転軸52が正方向に回転し、それに追随してカバー70が正方向に回転すると、生地原料からの抵抗を受けて練り羽根72が開き姿勢から折り畳み姿勢に転じる。これを受けてクラッチ76は、第2係合体76bが第1係合体76aの回転軌跡に干渉する角度となることにより、ブレード回転軸52とカバー70を連結し、カバー70と練り羽根72はブレード回転軸52と一体になって正方向に回転する。
【0066】
制御装置80は、加熱装置41に通電し、焼成室40の温度を上げる。練り羽根72が回転するに従い生地原料は混練され、所定の弾力を備える、一つにつながった生地(dough)に練り上げられて行く。練り羽根72が生地を振り回してパン容器50の内壁にたたきつけることにより、混練に「捏ね」の要素が加わることになる。
【0067】
カバー70が回転すればリブ75も回転する。リブ75が回転することにより、カバー70内の生地原料は速やかに窓74から排出され、練り羽根72が混練している生地原料の塊に同化する。
【0068】
ステップ#33では練り羽根72の回転開始以来どれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したらステップ#34に進む。
【0069】
ステップ#34では使用者が蓋30を開け、生地にイースト菌を投入する。この時生地に投入するイースト菌はドライイーストでよい。イースト菌の代わりにベーキングパウダーを用いてもよい。イースト菌やベーキングパウダーについても自動投入装置を採用し、使用者の手間を省くことができる。
【0070】
ステップ#35では生地にイースト菌を投入してからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所望の生地を得るのに必要な時間が経過したらステップ#36へ進んで練り羽根72の回転が終了する。この時点で、一つにつながり、所要の弾力を備えた生地が完成している。生地の大部分は凹部55より上に留まり、凹部55の中に入り込む量は僅かである。
【0071】
具材入りパンを焼く場合は、混練工程#30のいずれかのステップで具材を投入する。具材投入についても自動投入装置の採用が可能である。
【0072】
混練工程#30に続き、図15に示す発酵工程#40が遂行される。ステップ#41では混練工程#30を経た生地が発酵環境に置かれる。すなわち制御装置80は焼成室40を、必要があれば加熱装置41に通電して、発酵が進む温度帯とする。使用者は生地を、必要に応じ形を整えて静置する。
【0073】
ステップ#42では生地を発酵環境に置いてからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら発酵工程#40は終了する。
【0074】
発酵工程#40に続き、図16に示す焼成工程#50が遂行される。ステップ#51では発酵した生地が焼成環境に置かれる。すなわち制御装置80はパン焼きに必要な電力を加熱装置41に送り、焼成室40の温度をパン焼き温度帯まで上昇させる。
【0075】
ステップ#52では生地を焼成環境に置いてからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら焼成工程#50は終了する。ここで表示部22における表示または音声により製パン完了の報知がなされるので、使用者は蓋30を開けてパン容器50を取り出す。そしてパン容器50からパンを取り出す。パンの底には練り羽根72の抜き跡が残るが、カバー70は凹部55の中に収容された状態であり、パン容器50の底部から突き出していないため、パンの底に大きな抜き跡を残すようなことはない。
【0076】
以上に述べたように、ブレード回転軸は粉砕工程では高速回転をし、それに続く混練工程では逆向きに高負荷の状態で回転する。また、最後に焼成工程でパンを焼き上げる。このことは、オイルシール35に対し、長期間使用による経年劣化を発生させ、オイルシール部のシール性能劣化により生地漏れを発生させる。
【0077】
調理スタート時に穀物部分はリンフ36によりオイルシール35へ入り込むことはない。しかし粉砕工程により穀物部分は粉状となり、リンフ36とブレード回転軸52の隙間へ入り込む。ここで、防水パッキン37により、シールケース34とパン容器50の間から生地が漏れたり、粉状になった穀物部分が漏れることはない。一方、リンフ36はパン焼成の温度に耐えるようフッ素樹脂などの耐熱の高い材料で構成されるが、弾性や柔軟性が少ないため、粉状となった穀物部分を完全にシールすることはできない。ここで、わずかにリンフ36内部に入り込んだ粉状の穀物分と水分がブレード回転軸52の回転により練り込まれて粘性を持った生地状態になる。この生地状態となってオイルシール35部分に入り込んだ穀物分がパンの焼成工程で乾燥し、ブレード回転軸52やオイルシール35のリップ部に焼きつく。
【0078】
ブレード回転軸52やオイルシール35のリップ部に焼きついた生地は、お手入れ時に洗い取ることのできない部分なので、そのまま次回製パン動作時まで残り続ける。そして次回製パン動作時にブレード回転軸52が回転動作をすると焼きついた生地がオイルシール35のリップ部分からジャリジャリの砂状に似た穀物カスとなって剥がれ落ちる。
【0079】
1回の焼成でオイルシール35のリップ部分に入り込む粉状の穀物分はごくわずかである。しかしながら、長期間の繰り返し使用により、オイルシール35のリップ部分にたまるジャリジャリの砂状に似た穀物カスはたまり続けるとともに、オイルシール35のリップ部分を傷つける。そしてオイルシール35のリップ部分を通過して、オイルシール35の下部へ漏れ出す。すなわち、回転摺動部にて生地漏れが発生する。
【0080】
従来の構成によれば、漏れ出したにたまるジャリジャリの砂状に似た穀物カスは、あわせて漏れ出す水分とともに粘性を持ったゲル状となり、ブレード回転軸52を伝わって軸受け32とブレード回転軸52との摺動部に入り込み、軸受け32やブレード回転軸52の摺動面を傷つけ、最後はブレード回転軸52と軸受け32が固着してしまい製パン動作ができなくなってしまった。
【0081】
しかしながら本例によれば、V型オイルシール39がブレード回転軸52とは共周りするよう構成されている。粘性を持ったゲル状となった穀物カスは回転軸に付着すると、回転軸の長手方向に摺動シールした場合、回転中心に向かって凝縮する特性があるが、この共回り構造により、V型オイルシール39とブレード回転軸52は摺動構造とはならないので、ブレード回転軸52を伝ってさらに下方に生地が入り込むことはない。そして、軸受けカバー22とV型オイルシール39はV型オイルシール39のリップ部39aにて水密にシールされている。軸受けカバーは台座51に構造的に固定されており回転しない。すなわちリップ部39aが摺動部となる。リップ部39aは軸受けカバー22に圧接され、水密のシールを保っている。リップ部39aに到達したゲル状の穀物カス(生地)は軸受けカバー22との摺動面でシールされるとともに、軸受けカバー22の外周方向へ押し出されていく。これにより軸受けへのゲル状となった生地侵入は起きない。また、軸受けカバー22のリップ部39aとの摺動面はフッ素塗装処理などの低摩擦摺動処理がなされているので、リップ部39aの摺動負荷を低減するとともに、リップ部39aに付着して軸受けカバー22との間で焼きついた生地がリップ部39aへ固着しにくくなる。これにより長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することができる。
【0082】
さらには、軸受けカバー22の外方に蓄積した生地成分は台座51に設けた切り欠き穴51bが生地排出路となって外部へ放出される。もしこの切り欠き穴51bがなければ、生地がある一定量たまった時点で生地は行き先を失い、結果として台座51内部で詰まりブレード回転軸52を固着させる要因となるが、本例の構成であれば、どれだけ生地が漏れ出しても外部へ放出されるために、半永久的に固着現状は発生しない。
【0083】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明にかかる自動製パン機は、一般に家庭用に使用される製パン機を長期間使用する手段として有用である。
【符号の説明】
【0085】
10 本体
22 軸受けカバー
32 軸受け
39 V型オイルシール(弾性部材)
39a リップ部
40 焼成室
50 パン容器
51 台座
51b 切り欠き穴(生地排出路)
52 ブレード回転軸
72 練り羽根
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用で使用する自動製パン機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動製パン機として種々の構造のものが知られている。図17は、例えば特許文献1の自動製パン機の断面図である。
【0003】
図17において、従来の自動製パン機は、本体100内に設けられた焼成室101には、底部にブレード回転軸102を設けたパン容器103が挿入される。本体100の内部には板金製の基台116が設置されている。基台116には、焼成室101の中心にあたる箇所に、アルミニウム合金のダイキャスト成型品からなるパン容器支持部115が固定されている。パン容器支持部115の内部は焼成室111の内部に露出している。パン容器支持部115は、パン容器103の底面に固定された筒状の台座114を受け入れてパン容器50を支える。台座114もアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。そしてブレード回転軸102を軸受け(図示せず)を介して軸支する。
【0004】
パン容器103の底部には、カバー106を収容する凹部108が形成されている。カバー106の外周部と凹部108の内面の間には製パン原料の流動を可能とする間隙109が形成され、カバー106にはカバー内空間とカバー外空間を連通させる窓110が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2009−194125号公報参照
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来の自動製パン機においては、粉砕工程ではブレード回転軸は約3000〜7000rpmで高速回転する。また、混練工程では回転数は300〜600rpmと低いものの、粉砕工程とは逆周りに原動軸が回転する。パン容器底面から生地が漏れ出さないようパン容器底面とブレード回転軸の間はシリコンあるいはフッ素製のオイルシールパッキンにて水密にシールしてあるので、台座および軸受け側に生地が漏れ出すことはない。しかしながら、パンを焼成するとオイルシール部に付着した生地が焼成されてオイルシールパッキンのシール部に焼きついて付着する。この状態で再び製パン動作を実施し、ブレード回転軸が回転すると、焼きついた生地はシール部の軸の回転力により剥がれ取れるが、同時にシール部にわずかなクラックを発生させる場合がある。長期間の製品の使用により、このわずかなクラックが次第に拡大し、オイルシール部からわずかながら生地が漏れ出し、漏れ出した生地がブレード回転軸と軸受けの間に入り込み、同様に焼成工程にて生地が焼きつくことで、生地が固着してしまうことにより、軸および軸受けが傷つくことがある。そして最終的にはブレード回転軸と軸受けが固着し、ブレード回転軸が回転しなくなる。ゆえに製パンができなくなる不具合が発生する。また、約3000〜7000rpmで高速回転と回転数は300〜600rpmの正逆回転があわせてオイルシールパッキンのシール部に負担をかけるので、さらにシール部から生地を漏れ出しやすくしている。
【0007】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、オイルシール部から生地が漏れ出し、漏れ出した生地がブレード回転軸と軸受けの間に入りこむことを防止し、長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、内部に焼成室が設けられた有底筒状の機器本体と、前記焼成室内に着脱自在に収納され、調理材料を収容するパン容器と、前記パン容器内に収容された調理材料を混錬するための練り羽根と、前記練り羽根を回動し前記パン容器底面へ貫通突出するブレード回転軸と、を有し、前記パン容器は台座を有し、前記ブレード回転軸は前記台座に取り付けた軸受けによって軸支されるとともに、軸受け上部に軸と同期して回転しないよう構成した軸受けカバーを設け、ブレード回転軸と軸受けカバー間を弾性部材で水密としたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自動製パン機であり、前記弾性部材は前記ブレード回転軸に弾性材料の緊縛力にて固定されることで前記ブレード回転軸と同期して回転し、かつ傘状のリップ形状で前記軸受けカバーと摺動かつ当接することで、前記ブレード回転軸と前記軸受けカバーの間を水密にシールし、加えて弾性部材と摺動する軸受けカバーの表面はフッ素処理等の低摩擦処理をほどこしたことを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の自動製パン機であり、前記台座の前記軸受けカバー周囲に生地排出路を構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項第1項の自動製パン機によれば、シール部にわずかなクラックが発生し、長期間の製品の使用により、このわずかなクラックが次第に拡大し、オイルシール部からわずかながら生地が漏れ出したとしても、漏れ出した生地はブレード回転軸と軸受けカバー間の弾性部材でシールされ、ブレード回転軸と軸受けの間に入り込むことはない。これにより長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することができる。
【0012】
本発明の請求項第2項の自動製パン機によれば、傘状のリップ形状で前記軸受けカバーと摺動かつ当接することによりブレード回転軸との当接部で摺動させないことで、焼成による生地の焼きつきで弾性部材が破れることを防止する。また、傘状のリップ形状部分に焼きついた生地は、遠心力で外方へ排出されると共に、軸受けカバー側にフッ素処理等の低摩擦処理を施しているので、弾性部材の傘状のリップ形状部分と軸受けカバーの間に生地が焼きついて剥がれなくなるのを防止する。これらの作用により、より確実にブレード回転軸と軸受けの間に生地が入るのを防止し、長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することができる。
【0013】
本発明の請求項第3項の自動製パン機によれば、パン容器底部から漏れ出した生地は台座の軸受けカバー周囲に設けた生地排出路にて台座外部に排出されるので、漏れ出した生地が台座内へたまったりすることで弾性部材と軸受けカバーの間のシール性を向上させる。このことは長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の縦断面図。
【図2】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の台座部拡大図。
【図3】本発明の実施形態にかかる自動製パン機のパン容器底部拡大図。
【図4】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の軸受け部拡大図。
【図5】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の練り羽根を折りたたんだ状態の粉砕ブレードの下面図。
【図6】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の粉砕ブレードの下面斜視図。
【図7】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の練り羽根を折りたたんだ状態のパン容器上面図。
【図8】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の練り羽根を伸ばした状態のパン容器上面図。
【図9】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の練り羽根を伸ばした状態の粉砕ブレードの下面図。
【図10】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の制御ブロック図。
【図11】本発明の実施形態にかかる自動製パン機のパン製造工程全体のフローチャート。
【図12】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の粉砕工程前含浸工程のフローチャート。
【図13】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の粉砕工程のフローチャート。
【図14】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の混練工程のフローチャート。
【図15】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の発酵工程のフローチャート。
【図16】本発明の実施形態にかかる自動製パン機の焼成工程のフローチャート。
【図17】従来の自動製パン機の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
《実施形態》
以下に本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1によれば、自動製パン機1は合成樹脂製の外殻により構成される箱形の本体10を有する。本体10の上面前部には操作部20が設けられる。操作部20には、図示は省略するが、パンの種類(小麦粉パン、米粉パン、具材入りパンなど)の選択キー、調理内容の選択キー、タイマーキー、スタートキー、取り消しキーなどといった操作キー群と、設定された調理内容やタイマー予約時刻などを表示する表示部が設けられている。表示部は液晶表示パネルと発光ダイオードを光源とする表示ランプにより構成される。
【0018】
操作部20から後ろの本体上面は合成樹脂製の蓋30で覆われる。蓋30は図示しない蝶番軸で本体10の背面側の縁に取り付けられており、その蝶番軸を支点として垂直面内で回動する。
【0019】
本体10の内部には焼成室40が設けられる。焼成室40は板金製で、上面が開口しており、ここからパン容器50が入れられる。焼成室40は水平断面矩形の周側壁40aと底壁40bを備える。
【0020】
本体10の内部には板金製の基台12が設置されている。基台12には、焼成室40の中心にあたる箇所に、アルミニウム合金のダイキャスト成型品からなるパン容器支持部13が固定されている。パン容器支持部13の内部は焼成室40の内部に露出している。
【0021】
パン容器支持部13の中心には原動軸14が垂直に支持されている。原動軸14に回転を与えるのはプーリA15、プーリB16である。プーリA15と原動軸14の間、及びプーリB16と原動軸14の間にはそれぞれクラッチが配置されていて、プーリA15を一方向に回転させて原動軸14に回転を伝えるとき、原動軸14の回転はプーリ16には伝わらず、プーリB16をプーリA15とは逆方向に回転させて原動軸14に回転を伝えるとき、原動軸14の回転はプーリA15には伝わらない仕組みになっている。
【0022】
プーリA15を回転させるのは基台12に支持された混練モータ60である。混練モータ60は竪軸であって、下面から出力軸A61が突出する。出力軸A61には、プーリA15にベルトA63で連結するプーリC62が固定されている。混練モータ60自身が低速・高トルクタイプであり、その上プーリC62がプーリA15を減速回転させるので、原動軸14は低速・高トルクで回転する。
【0023】
プーリ16を回転させるのは同じく基台12に支持された粉砕モータ64である。粉砕モータ64も竪軸であって、上面から出力軸B65が突出する。出力軸B65には、プーリB16にベルトB67で連結するプーリD66が固定されている。
【0024】
粉砕モータ64は後述する粉砕ブレードに高速回転を与える役割を担う。粉砕工程ではブレード回転軸は約3000〜7000rpmで高速回転する。そのため、粉砕モータ64には高速回転タイプのものが選定され、プーリD66とプーリB16の減速比もほぼ1:1になるように設定されている。
【0025】
図2に示すように、パン容器支持部13は、パン容器50の底面に固定された筒状の台座51を受け入れてパン容器50を支える。台座51もアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。
【0026】
パン容器50は板金製で、バケツのような形状をしており、口縁部には手提げ用のハンドル(図示せず)が取り付けられている。パン容器50の水平断面は四隅を丸めた矩形である。
【0027】
パン容器50の底部中心には垂直なブレード回転軸52が台座51に圧入された軸受け32に垂直に支持された状態で配置されている。軸受け32は摺動オイルを含浸した焼結メタル性でブレード回転軸52の高速回転摺動に対して超低摩擦状態にて支持し、ブレード回転軸を高速回転可能にしている。
【0028】
図3に示すように、ブレード回転軸52は軸受け32にて軸支され、ブレード回転軸52が下方へ抜けないようE型止め輪24が設けてある。そしてパン容器底部50aのおよそ中心に、パン容器50内に入れた材料や水がパン容器から漏れ出さないようにシール部33が構成してある。シール部33は、円筒状で天面にブレード回転軸52を貫通するシールケース34とシールケース34内部でブレード回転軸52とシールケース34の間を水密にシールし、かつブレード回転軸52の回転摺動に対してシール性を有するオイルシール35とオイルシール35へ固形物が入り込まないように防塵する円盤状のリンフ36とシールケース34とパン容器50の間を水密にシールする防水パッキン37から構成される。
【0029】
一方、図4に示すように、軸受け32周辺はオイルシール35から生地漏れがあった場合にブレード回転軸と軸受け32の摺動部分に生地が入り込まないよう軸受けシール部38が構成されている。軸受けシール部38は円形状であって弾性材料からなり、ブレード回転軸52と緊縛力で一体に共回りするV型オイルシール39と軸受け32の表面を覆う軸受けカバー22とV型オイルシール39に設けた傘型のリップ部39aが軸受けカバー22に圧接することによる反力でV型オイルシールが上方へずれるのを防止するEリング23で構成されている。そして軸受けカバー22のV型オイルシール39との摺動面にはフッ素塗装などの低摩擦摺動処理がなされている。また、軸受けカバー22の側方には、台座51にてシール部33と台座下方を連通にする切り欠き穴51bが設けてある。切り欠き穴51bは円周方向に複数個所等配に設けられている。ここで、軸受けカバー22は回転しないよう台座51に構造的に固定されている(図示せず)。
【0030】
図2に示すように、ブレード回転軸52には、ブレード回転軸52の下端に固定されたコネクタ上53がある。他方、原動軸14の上端にはコネクタ下54が固定されている。パン容器50を本体へセットすると、コネクタ上53とコネクタ下54が原動軸14が回動したときに嵌合し、ブレード回転軸52へ回転力が伝えられる。
【0031】
改めて、図1にて示すとおり、焼成室40の内部に配置された加熱装置41がパン容器50を包囲し、製パン原料を加熱する。加熱装置41はシーズヒータにより構成される。
【0032】
ブレード回転軸52には、パン容器50の底部より少し上の箇所に、粉砕ブレード44が取り付けられる。粉砕ブレード44はブレード回転軸52に対し回転不能とされる。粉砕ブレード44はステンレス鋼板製であり、図5に示すように、飛行機のプロペラのような形状を有している。
【0033】
粉砕ブレード44の中心部はブレード回転軸52に嵌合するハブ44aとなっている。ハブ44aの下面にはハブ44aを直径方向に横断する溝44bが形成されている。ブレード回転軸52を水平に貫く図示しないピンがハブ44aを受け止め、また溝44bに係合して粉砕ブレード44をブレード回転軸52に対し回転不能に連結する。粉砕ブレード44はブレード回転軸52から簡単に引き抜くことができるので、製パン作業終了後の洗浄や、切れ味が悪くなったときの交換を手軽に行うことができる。
【0034】
図6に示すようにブレード回転軸52の上端には平面形状円形のドーム状カバー70が取り付けられる。カバー70はアルミニウム合金のダイキャスト成型品からなり、粉砕ブレード44を覆い隠す。カバー70はブレード回転軸52に回転自在に嵌合し、粉砕ブレード44のハブ44aで受け止められる。カバー70もブレード回転軸52から簡単に引き抜くことができるので、製パン作業終了後の洗浄を手軽に行うことができる。
【0035】
カバー70の外面には、ブレード回転軸52から離れた箇所に配置された垂直な支軸71により、平面形状くの字形の練り羽根72が取り付けられている。練り羽根72もアルミニウム合金のダイキャスト成型品である。支軸71は練り羽根72に固定ないし一体化されており、練り羽根72と動きを共にする。
【0036】
練り羽根72は支軸71を中心として水平面内で回動し、図7に示す折り畳み姿勢と、図8に示す開き姿勢の2姿勢をとる。折り畳み姿勢では、練り羽根72はカバー70に形成したストッパ部73に当たっており、それ以上カバー70に対し時計方向回動を行うことができない。練り羽根72の先端は、この時、カバー70から少し突き出している。開き姿勢では、練り羽根72はストッパ部73から離れ、練り羽根72の先端はカバー70から大きく突き出す。
【0037】
カバー70には、カバー内空間とカバー外空間を連通する窓74が形成される。窓74は粉砕ブレード44に並ぶ高さかそれよりも上の位置に配置される。実施形態では計4個の窓74が90°間隔で配置されているが、それ以外の数と配置間隔を選択することもできる。
【0038】
図5および図6に示すように、カバー70の内面には、各窓74に対応して計4個のリブ75が形成されている。各リブ75はカバー70の中心近傍から外周の環状壁まで半径方向に対し斜めに延び、4個合わさって一種の巴形状を構成する。また各リブ75は、それに向かって押し寄せる製パン原料に対面する側が凸となるように湾曲している。粉砕ブレード44はリブ75の下縁をかすめるようにして回転する。
【0039】
カバー70とブレード回転軸52の間にはクラッチ76(図5参照)が介在する。クラッチ76は、混練モータ60が原動軸14を回転させるときのブレード回転軸52の回転方向(この方向の回転を「正方向回転」とする)において、ブレード回転軸52とカバー70を連結する。逆に、粉砕モータ64が原動軸14を回転させるときのブレード回転軸52の回転方向(この方向の回転を「逆方向回転」とする)では、クラッチ76はブレード回転軸52とカバー70の連結を切り離すものである。
【0040】
クラッチ76を構成するのは第1係合体76aと第2係合体76bである。第1係合体76は粉砕ブレード44のハブ44aに固定または一体成形され、従ってブレード回転軸52に回転不能に取り付けられているものである。第2係合体76bは練り羽根72の支軸71に固定または一体成形されており、練り羽根72の姿勢変更に伴って角度を変える。
【0041】
クラッチ76は、練り羽根72の姿勢に応じて連結状態を切り換える。すなわち練り羽根72が図7に示す折り畳み姿勢にあるときは、第2係合体76bは図5の角度にある。この時第2係合体76bは第1係合体76aの回転軌道に干渉しており、ブレード回転軸52が図5において時計方向に、言い換えれば正方向に回転すると、第1係合体76aが第2係合体76bに係合し、ブレード回転軸52の回転力がカバー70及び練り羽根72に伝達される。練り羽根72が図8に示す開き姿勢にあるときは、第2係合体76bは図9の角度となる。この時第2係合体76bは第1係合体76aの回転軌道から退避しており、ブレード回転軸52が図9において反時計方向に、言い換えれば逆方向に回転しても、第1係合体76aと第2係合体76bの間に係合が生じない。従ってブレード回転軸52の回転力はカバー70及び練り羽根72には伝わらない。
【0042】
図1の通り、パン容器50の底部には、粉砕ブレード44とカバー70を収容する凹部55が形成されている。凹部55は平面形状円形で、カバー70の外周部と凹部55の内面の間には、製パン原料の流動を可能とする間隙56が形成されている。
【0043】
自動製パン機1の動作制御は、図10に示す制御装置80によって行われる。制御装置80は本体10内の適所(焼成室40の熱の影響を受けにくい箇所が望ましい)に配置された回路基板により構成され、操作部20及び加熱装置41の他、混練モータ60のモータドライバ81、粉砕モータ64のモータドライバ82、及び温度センサ83が接続される。温度センサ83は焼成室40内に配置され、焼成室40の温度を検知する。84は各構成要素に電力を供給する商用電源である。
【0044】
続いて、自動製パン機1を用いて穀物粒からパンを製造する工程を、図11から図19までの図を参照しつつ説明する。
【0045】
図11は第1態様パン製造工程の全体フローチャートである。図11では、粉砕前含浸工程#10、粉砕工程#20、混練工程#30、発酵工程#40、焼成工程#50の順で工程が進行する。続いて、各工程の内容を説明する。
【0046】
図12に示す粉砕前含浸工程#10では、まずステップ#11において、使用者が穀物粒を計量し、所定量をパン容器50に入れる。穀物粒としては米粒が最も入手しやすいが、それ以外の穀物、例えば小麦、大麦、粟、稗、蕎麦、とうもろこしなどの粒も利用可能である。
【0047】
ステップ#12では使用者が液体を計量し、所定量をパン容器50に入れる。液体として一般的なのは水であるが、だし汁のような味成分を有する液体でもよく、果汁でもよい。アルコールを含有していてもよい。なおステップ#11とステップ#12は順序が入れ替わっても構わない。
【0048】
パン容器50に穀物粒と液体を入れる作業は、パン容器50を焼成室40から出して行ってもよく、パン容器50を焼成室40に入れたまま行ってもよい。
【0049】
焼成室40内のパン容器50に穀物粒と液体を入れたら、あるいは外部で穀物粒と液体を入れたパン容器50をパン容器支持部13に取り付けたら、蓋30を閉じる。
【0050】
引き続き使用者は操作部20の中の所定の操作キーを押し、液体含浸のタイムカウントをスタートさせる。この時点からステップ#13が始まる。
【0051】
ステップ#13では穀物粒と液体の混合物をパン容器50内で静置し、穀物粒に液体を含浸させる。一般的に、液体温度が高くなるほど含浸が促進されるので、加熱手段41に通電して焼成室40の温度を高めるようにしてもよい。
【0052】
ステップ#14では穀物粒と液体の静置を開始してからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら粉砕前含浸工程#10は終了する。このことは、操作部20における表示や、音声などで使用者に報知される。
【0053】
粉砕前含浸工程#10に続き、図13に示す粉砕工程#20が遂行される。使用者が操作部20を通じ粉砕作業データ(穀物粒の種類や量、これから焼くパンの種類など)を入力し、スタートキーを押すと、ステップ#21が開始される。
【0054】
ステップ#21では制御装置80が粉砕モータ64を駆動し、ブレード回転軸52を逆方向回転させる。すると、穀物粒と液体の混合物の中で粉砕ブレード44が回転を開始する。カバー70もブレード回転軸52に追随して回転を開始する。この時のカバー70の回転方向は図8において時計方向であり、練り羽根72は、それまで折り畳み姿勢であった場合には、穀物粒と液体の混合物から受ける抵抗で開き姿勢に転じる。練り羽根72が開き姿勢になると、クラッチ76は、第2係合体76bが第1係合体76aの回転軌跡から退避することにより、ブレード回転軸52とカバー70の連結を切り離す。同時に、開き姿勢になった練り羽根72は図8に示すようにパン容器50の内側壁に当たり、カバー70の回転を阻止する。以後、ブレード回転軸52と粉砕ブレード44が逆方向に高速回転する。カバー70と練り羽根72が停止しているため、粉砕ブレード44が高速回転しても、穀物粒と液体の混合物がパン容器50の中で渦を巻かない。そのため、渦が周縁で盛り上がり、パン容器50の外にこぼれるようなこともない。
【0055】
カバー70が回転を止めている間、粉砕ブレード44は高速回転して穀物粒を粉砕する。ブレード回転軸52は約3000〜7000rpmで高速回転する。粉砕ブレード44による粉砕は、穀物粒に液体が浸み込んだ状態で行われるから、穀物粒を芯まで容易に粉砕することができる。カバー70の中心近傍から外周の環状壁まで延びるリブ75が、穀物粒と液体の混合物の、粉砕ブレード44の回転方向と同方向の流動を抑制し、粉砕を助ける。すなわち、リブ75が混合物の流れを変更し、粉砕ブレード44との衝突機会を増やすように作用する。粉砕はカバー70の中で行われるから、穀物粒がパン容器50の外に飛び散ることもない。
【0056】
粉砕された穀物粒と液体の混合物はリブ75により窓74の方向に誘導され、窓74を通じてカバー70の外に排出される。リブ75は、それに向かって押し寄せる穀物粒と液体の混合物に対面する側が凸となるように湾曲しているので、穀物粒と液体の混合物はリブ75の表面に滞留しにくく、スムーズに窓74の方へ流れて行く。
【0057】
カバー70の内部から穀物粒と液体の混合物が排出されるのと入れ替わりに、凹部55の上に存在した穀物粒と液体の混合物が、間隙56を通じて凹部55に入り、凹部55からカバー70の中に入る。カバー70の中で穀物粒は粉砕ブレード44により粉砕され、カバー70の窓74から凹部55の上に戻る。このように穀物粒を循環させつつ粉砕を行うことにより、穀物粒を効率良く粉砕することができる。リブ75の存在により、粉砕ブレード44が生成した粉砕物は速やかに窓74へ誘導され、カバー70の中に滞留しないから、粉砕能率はさらに向上する。
【0058】
窓74が配置されているのは粉砕ブレード44に並ぶ高さかそれよりも上の位置なので、粉砕された穀物粒と液体の混合物がカバー70から排出される方向は水平か斜め上向きとなり、穀物粒の循環が促進される。
【0059】
ステップ#22では、所望の粉砕穀物粒を得るために設定通りの粉砕パターン(粉砕ブレードを連続回転させるか、停止期間を織り交ぜて断続回転させるか、断続回転させる場合、どのようにインターバルをとるか、回転時間の長さをどのようにするか等)が完遂されたかどうかを制御装置80がチェックする。
【0060】
設定通りの粉砕パターンが完遂されたらステップ#23に進んで粉砕ブレード44の回転を終了し、粉砕工程#20は終了する。このことは、表示部22における表示や、音声などで使用者に報知される。
【0061】
以上の説明では、粉砕前含浸工程#10の後、使用者の操作で粉砕工程#20が開始されるものとしたが、使用者が粉砕前含浸工程#10の前か、粉砕前含浸工程#10の途中で粉砕作業データを入力すれば、粉砕前含浸工程#10の終了後、自動的に粉砕工程#20が開始されるように構成してもよい。
【0062】
粉砕工程#20に続き、図14に示す混練工程#30が遂行される。混練工程#30に入る時点では、パン容器50の中の穀物粒と液体は、ペースト状またはスラリー状の生地原料となっている。なお本明細書では、混練工程#30の開始時点のものを「生地原料」と呼称し、混練が進行して目的とする生地の状態に近づいたものは、半完成状態であっても「生地」と呼称することとする。
【0063】
ステップ#31では使用者が蓋30を開け、生地原料に所定量のグルテンを投入する。必要に応じ、食塩、砂糖、ショートニングといった調味材料も投入する。自動製パン機1にグルテンや調味材料の自動投入装置を設けておき、使用者の手を煩わすことなくそれらを投入する構成にすることもできる。
【0064】
使用者は、ステップ#31に前後して、操作部20よりパンの種類や調理内容の入力を行う。準備が整ったところで使用者がスタートキーを押すと、混練工程#30から発酵工程#40、さらに焼成工程#50へと自動的に連続する製パン作業が開始される。
【0065】
ステップ#32では、制御装置80は混練モータ60を駆動する。ブレード回転軸52が正方向に回転し、それに追随してカバー70が正方向に回転すると、生地原料からの抵抗を受けて練り羽根72が開き姿勢から折り畳み姿勢に転じる。これを受けてクラッチ76は、第2係合体76bが第1係合体76aの回転軌跡に干渉する角度となることにより、ブレード回転軸52とカバー70を連結し、カバー70と練り羽根72はブレード回転軸52と一体になって正方向に回転する。
【0066】
制御装置80は、加熱装置41に通電し、焼成室40の温度を上げる。練り羽根72が回転するに従い生地原料は混練され、所定の弾力を備える、一つにつながった生地(dough)に練り上げられて行く。練り羽根72が生地を振り回してパン容器50の内壁にたたきつけることにより、混練に「捏ね」の要素が加わることになる。
【0067】
カバー70が回転すればリブ75も回転する。リブ75が回転することにより、カバー70内の生地原料は速やかに窓74から排出され、練り羽根72が混練している生地原料の塊に同化する。
【0068】
ステップ#33では練り羽根72の回転開始以来どれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したらステップ#34に進む。
【0069】
ステップ#34では使用者が蓋30を開け、生地にイースト菌を投入する。この時生地に投入するイースト菌はドライイーストでよい。イースト菌の代わりにベーキングパウダーを用いてもよい。イースト菌やベーキングパウダーについても自動投入装置を採用し、使用者の手間を省くことができる。
【0070】
ステップ#35では生地にイースト菌を投入してからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所望の生地を得るのに必要な時間が経過したらステップ#36へ進んで練り羽根72の回転が終了する。この時点で、一つにつながり、所要の弾力を備えた生地が完成している。生地の大部分は凹部55より上に留まり、凹部55の中に入り込む量は僅かである。
【0071】
具材入りパンを焼く場合は、混練工程#30のいずれかのステップで具材を投入する。具材投入についても自動投入装置の採用が可能である。
【0072】
混練工程#30に続き、図15に示す発酵工程#40が遂行される。ステップ#41では混練工程#30を経た生地が発酵環境に置かれる。すなわち制御装置80は焼成室40を、必要があれば加熱装置41に通電して、発酵が進む温度帯とする。使用者は生地を、必要に応じ形を整えて静置する。
【0073】
ステップ#42では生地を発酵環境に置いてからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら発酵工程#40は終了する。
【0074】
発酵工程#40に続き、図16に示す焼成工程#50が遂行される。ステップ#51では発酵した生地が焼成環境に置かれる。すなわち制御装置80はパン焼きに必要な電力を加熱装置41に送り、焼成室40の温度をパン焼き温度帯まで上昇させる。
【0075】
ステップ#52では生地を焼成環境に置いてからどれだけ時間が経過したかを制御装置80がチェックする。所定時間が経過したら焼成工程#50は終了する。ここで表示部22における表示または音声により製パン完了の報知がなされるので、使用者は蓋30を開けてパン容器50を取り出す。そしてパン容器50からパンを取り出す。パンの底には練り羽根72の抜き跡が残るが、カバー70は凹部55の中に収容された状態であり、パン容器50の底部から突き出していないため、パンの底に大きな抜き跡を残すようなことはない。
【0076】
以上に述べたように、ブレード回転軸は粉砕工程では高速回転をし、それに続く混練工程では逆向きに高負荷の状態で回転する。また、最後に焼成工程でパンを焼き上げる。このことは、オイルシール35に対し、長期間使用による経年劣化を発生させ、オイルシール部のシール性能劣化により生地漏れを発生させる。
【0077】
調理スタート時に穀物部分はリンフ36によりオイルシール35へ入り込むことはない。しかし粉砕工程により穀物部分は粉状となり、リンフ36とブレード回転軸52の隙間へ入り込む。ここで、防水パッキン37により、シールケース34とパン容器50の間から生地が漏れたり、粉状になった穀物部分が漏れることはない。一方、リンフ36はパン焼成の温度に耐えるようフッ素樹脂などの耐熱の高い材料で構成されるが、弾性や柔軟性が少ないため、粉状となった穀物部分を完全にシールすることはできない。ここで、わずかにリンフ36内部に入り込んだ粉状の穀物分と水分がブレード回転軸52の回転により練り込まれて粘性を持った生地状態になる。この生地状態となってオイルシール35部分に入り込んだ穀物分がパンの焼成工程で乾燥し、ブレード回転軸52やオイルシール35のリップ部に焼きつく。
【0078】
ブレード回転軸52やオイルシール35のリップ部に焼きついた生地は、お手入れ時に洗い取ることのできない部分なので、そのまま次回製パン動作時まで残り続ける。そして次回製パン動作時にブレード回転軸52が回転動作をすると焼きついた生地がオイルシール35のリップ部分からジャリジャリの砂状に似た穀物カスとなって剥がれ落ちる。
【0079】
1回の焼成でオイルシール35のリップ部分に入り込む粉状の穀物分はごくわずかである。しかしながら、長期間の繰り返し使用により、オイルシール35のリップ部分にたまるジャリジャリの砂状に似た穀物カスはたまり続けるとともに、オイルシール35のリップ部分を傷つける。そしてオイルシール35のリップ部分を通過して、オイルシール35の下部へ漏れ出す。すなわち、回転摺動部にて生地漏れが発生する。
【0080】
従来の構成によれば、漏れ出したにたまるジャリジャリの砂状に似た穀物カスは、あわせて漏れ出す水分とともに粘性を持ったゲル状となり、ブレード回転軸52を伝わって軸受け32とブレード回転軸52との摺動部に入り込み、軸受け32やブレード回転軸52の摺動面を傷つけ、最後はブレード回転軸52と軸受け32が固着してしまい製パン動作ができなくなってしまった。
【0081】
しかしながら本例によれば、V型オイルシール39がブレード回転軸52とは共周りするよう構成されている。粘性を持ったゲル状となった穀物カスは回転軸に付着すると、回転軸の長手方向に摺動シールした場合、回転中心に向かって凝縮する特性があるが、この共回り構造により、V型オイルシール39とブレード回転軸52は摺動構造とはならないので、ブレード回転軸52を伝ってさらに下方に生地が入り込むことはない。そして、軸受けカバー22とV型オイルシール39はV型オイルシール39のリップ部39aにて水密にシールされている。軸受けカバーは台座51に構造的に固定されており回転しない。すなわちリップ部39aが摺動部となる。リップ部39aは軸受けカバー22に圧接され、水密のシールを保っている。リップ部39aに到達したゲル状の穀物カス(生地)は軸受けカバー22との摺動面でシールされるとともに、軸受けカバー22の外周方向へ押し出されていく。これにより軸受けへのゲル状となった生地侵入は起きない。また、軸受けカバー22のリップ部39aとの摺動面はフッ素塗装処理などの低摩擦摺動処理がなされているので、リップ部39aの摺動負荷を低減するとともに、リップ部39aに付着して軸受けカバー22との間で焼きついた生地がリップ部39aへ固着しにくくなる。これにより長期間にわたり製品を使用してもブレード回転軸と軸受けが固着しない自動製パン機を提供することができる。
【0082】
さらには、軸受けカバー22の外方に蓄積した生地成分は台座51に設けた切り欠き穴51bが生地排出路となって外部へ放出される。もしこの切り欠き穴51bがなければ、生地がある一定量たまった時点で生地は行き先を失い、結果として台座51内部で詰まりブレード回転軸52を固着させる要因となるが、本例の構成であれば、どれだけ生地が漏れ出しても外部へ放出されるために、半永久的に固着現状は発生しない。
【0083】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明にかかる自動製パン機は、一般に家庭用に使用される製パン機を長期間使用する手段として有用である。
【符号の説明】
【0085】
10 本体
22 軸受けカバー
32 軸受け
39 V型オイルシール(弾性部材)
39a リップ部
40 焼成室
50 パン容器
51 台座
51b 切り欠き穴(生地排出路)
52 ブレード回転軸
72 練り羽根
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に焼成室が設けられた有底筒状の機器本体と、前記焼成室内に着脱自在に収納され、調理材料を収容するパン容器と、前記パン容器内に収容された調理材料を混錬するための練り羽根と、前記練り羽根を回動し前記パン容器底面へ貫通突出するブレード回転軸と、を有し、
前記パン容器は台座を有し、前記ブレード回転軸は前記台座に取り付けた軸受けによって軸支されるとともに、軸受け上部に軸と同期して回転しないよう構成した軸受けカバーを設け、ブレード回転軸と軸受けカバー間を弾性部材で水密としたことを特徴とする自動製パン機。
【請求項2】
前記弾性部材は前記ブレード回転軸に弾性材料の緊縛力にて固定されることで前記ブレード回転軸と同期して回転し、かつ傘状のリップ形状で前記軸受けカバーと摺動かつ当接することで、前記ブレード回転軸と前記軸受けカバーの間を水密にシールし、加えて弾性部材と摺動する軸受けカバーの表面はフッ素処理等の低摩擦処理をほどこしたことを特徴とする請求項第1項に記載の自動製パン機。
【請求項3】
前記台座の前記軸受けカバー周囲に生地排出路を構成したことを特徴とする請求項1記載の自動製パン機。
【請求項1】
内部に焼成室が設けられた有底筒状の機器本体と、前記焼成室内に着脱自在に収納され、調理材料を収容するパン容器と、前記パン容器内に収容された調理材料を混錬するための練り羽根と、前記練り羽根を回動し前記パン容器底面へ貫通突出するブレード回転軸と、を有し、
前記パン容器は台座を有し、前記ブレード回転軸は前記台座に取り付けた軸受けによって軸支されるとともに、軸受け上部に軸と同期して回転しないよう構成した軸受けカバーを設け、ブレード回転軸と軸受けカバー間を弾性部材で水密としたことを特徴とする自動製パン機。
【請求項2】
前記弾性部材は前記ブレード回転軸に弾性材料の緊縛力にて固定されることで前記ブレード回転軸と同期して回転し、かつ傘状のリップ形状で前記軸受けカバーと摺動かつ当接することで、前記ブレード回転軸と前記軸受けカバーの間を水密にシールし、加えて弾性部材と摺動する軸受けカバーの表面はフッ素処理等の低摩擦処理をほどこしたことを特徴とする請求項第1項に記載の自動製パン機。
【請求項3】
前記台座の前記軸受けカバー周囲に生地排出路を構成したことを特徴とする請求項1記載の自動製パン機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−102984(P2013−102984A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249265(P2011−249265)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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