説明

自動販売機用コーヒー濾紙

【課題】コーヒー液の抽出性、粉落ち、破れ及び紙切れのない湿潤強度、パルプ臭の抑制等において満足することのできるコーヒー自動販売機用コーヒー濾紙を提供する。
【解決手段】本願発明のコーヒー自動販売機用コーヒー濾紙は、クラフトパルプおよびポリエチレンテレフタレート繊維をもってその主原料とする。ポリエチレンテレフタレート繊維の配合率は全原料中25〜75重量%が好ましく、30〜70重量%がさらに好ましい。本願発明のコーヒー濾紙には、コーヒー濾過時にパルプ・繊維等が抽出されるのを防止するため、湿潤紙力剤を内添することが好ましい。サイズ剤はコーヒー液が濾紙の紙層全体に滲むことを防止する効果があるため、コーヒー濾紙の原紙に外添することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コーヒー豆から抽出したコーヒーを販売するための自動販売機(以下、必要に応じて「自動販売機」という。)で使用されるコーヒー濾紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、コーヒーの自動販売機が広く普及し、到るところに設置されている。自動販売機はコインが投入されるとコーヒーの抽出筒に一定量のコーヒー粉末と熱湯が注入され、筒内で抽出されたコーヒー液がその底部のフィルターでろ過されて紙あるいはプラスチックのカップに入る構造になっている。しかも抽出液のろ過は抽出筒に圧力をかける等の方法で、コーヒー液が極めて短時間に調製される点に特徴がある。
【0003】
自動販売機用コーヒー濾紙は、巻取り形態で広く用いられており、その使用法は、巻取り濾紙ロールより濾紙を駆動ロールにて引き出し、位置を固定した後、ブリューワがセットされ、次いでブリューワ内の紙の上にコーヒーの粉体を乗せ、この上から熱湯を注いで、吸引若しくは加圧方法により圧力を掛け、コーヒー成分を抽出するということから成り立っている。コーヒーの抽出が終了した後の使用済み濾紙は、再度駆動ロールに引張られて廃棄され、同時にブリューワの位置には新しい未使用の濾紙が供給され次の抽出のための準備が整う。
【0004】
この時、濾紙を構成する紙層の孔径が大き過ぎるとコーヒーを抽出している間に微細なコーヒー粉末の一部が抽出液側に混入するという粉落ち現象が発生する。又、逆に紙の孔径が小さ過ぎると抽出液体の濾過速度が遅くなるため、一定の時間でコーヒーの抽出を止めるとブリューワ内に液残りの状態が発生する。
【0005】
一方、濾紙の湿潤強度が不足すると使用済みの濾紙を引き出し走行させる際に紙切れを発生する。更に、紙のサイズ性が不足するとコーヒー液が濾紙の紙層全体に滲むため、ブリューワにおける紙押え部に濾紙が張り付き剥がれなくなるので濾紙の走行が不良となる。特にコーヒー液はコーヒー豆から抽出された油性成分を含有しているので、通常の水より表面張力が低く、濾紙層への滲み現象を起こし易い。
【0006】
従って、自動販売機用のコーヒー濾紙の物性としてコーヒーの微細な粉末の捕集性(粉落ち防止性)とコーヒーを抽出する際の濾過速度とのバランスをとること、及び湿潤強度に優れ、サイズ性が高いことが要求される。
【0007】
近年はコーヒー抽出時間もさらにスピードアップされる傾向があり、より抽出性が高く、高圧時でも破れないようなものが望まれている。
【0008】
なお、自動販売機用コーヒー濾紙として、クラフトパルプのみでは密度が高くなり、濾過速度が遅くなる傾向にあるため、麻パルプを配合する方法(特許第3063377号)やマーセル化パルプを配合する方法(特開平6−277148)等が提案されている。また、各種紙力剤等を添加することで湿潤強度を向上させる提案がされているが、自動販売機での紙切れ対策としては充分とはいえない。また、いずれもパルプ100%であるため、濾過時にパルプ臭によってコーヒーの風味が害される問題がある。
【0009】
【特許文献1】特許第3063377号公報
【特許文献2】特開平6−277148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明者は、コーヒー濾紙の原料として湿潤時にも強度の低下しないポリエチレンテレフタレート繊維を使用すること試みたが、孔径が大きく、粉落ちが発生した。そこでさらに研究し、コーヒー液の抽出性、粉落ち、破れ及び紙切れのない湿潤強度、パルプ臭の抑制等において満足することのできる自動販売機用コーヒー濾紙を提供することを本願発明の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、上記課題を達成しようとしてなされたもので、本願発明の自動販売機用コーヒー濾紙は、クラフトパルプおよびポリエチレンテレフタレート繊維をもってその主原料とすることを基本的特徴とするものである。
【0012】
前記主原料のうち、パルプとしては、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)等の化学パルプがあり、さらに他のパルプとしては、サーモメカニカルパルプ(TMP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)等の機械パルプ等があり、また、クラフトパルプの中では、特に限定するものではないが、強度のある針葉樹、特に漂白によりパルプ臭を除去できるため、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)が好ましい。カナディアンフリーネスは400〜700cc、平均繊維長は1.7〜2.7mmの長繊維が好ましく、クラフトパルプの配合率は全原料中25〜75重量%が好ましく、30〜70重量%がさらに好ましい。25重量%未満では濾紙に存在する孔径が大きくなってコーヒー抽出時に粉落ちが発生し、75重量%を超えると孔径が小さくなってコーヒーの抽出性が悪くなる。
【0013】
また、前記主原料のうち、ポリエチレンテレフタレート繊維としては、芯鞘構造であることが好ましく、融点は105〜130℃が好ましい。105℃未満ではフィルターとして使用時に熱湯により軟化することがある。130℃を超えるとパルプとの絡みが悪く、紙力強度が低下する。以上の条件から例えば、芯鞘構造である低融点ポリエチレンテレフタレート繊維(融点110℃、商品名4080:ユニチカ社製)が好適に使用可能である。配合率は全原料中、25〜75重量%が好ましく、30〜70重量%がさらに好ましい。25重量%未満では濾紙に存在する孔径が小さくなってコーヒーの抽出性が悪く、75重量%を超えると孔径が大きくなってコーヒーの抽出時に粉落ちが発生する。
【0014】
本願発明の自動販売機用コーヒー濾紙の米坪は特に限定しないが、15〜30g/m2が好ましい。15g/m2未満では紙厚が薄いために走行性が悪く粉落ちしやすく、30g/m2を超えると紙厚が厚いためにコーヒーの抽出性が悪くなる。
【0015】
本願発明のコーヒー濾紙には、コーヒー濾過時にパルプ・繊維等が抽出されるのを防止するため、湿潤紙力剤を内添することが好ましい。湿潤紙力剤としては両性ポリアクリルアミド、ポリアミドエピクロロヒドリン等がある。添加量は原料中の絶乾パルプ1tに対して、有効成分2〜10kgが好ましく、特に4〜8kgが好ましい。2kg未満では効果がなく、10kgを超えると過剰添加となり、抽出性が悪化する。
【0016】
また、湿潤紙力剤はポリエチレンテレフタレート繊維に対して定着が悪いため、硫酸バンド、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、カチオン化澱粉等の定着剤を併用することが好ましく、特にCMCがポリエチレンテレフタレート繊維の定着性の効果が高く、より好ましい。添加量は絶乾原料1tに対して、有効成分1〜5kgが好ましい。
【0017】
サイズ剤はコーヒー液が濾紙の紙層全体に滲むことを防止する効果があり、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)等があるが、ポリエチレンテレフタレート繊維への定着性良好な、AKDを外添することが好ましい。なお、内添では原料に薬品が歩留らず、効果が低い。塗布量は、有効成分0.1〜1.6g/m2、特に0.2〜1.5g/m2が好ましい。0.1未満では薬品効果がなく滲みが発生し、1.6g/m2を超えると過剰添加により、抽出性が低下する。
【0018】
本願発明のコーヒー濾紙は、通常の湿式抄紙機で容易に製造できる。用いられる抄紙機は、円網,短網,長網,パーチフォーマー,ロトフォーマー,ハイドロフォーマーなどのいずれでもよく、乾燥機はヤンキー型,多筒型,スルー型のいずれでも良い。
【0019】
上記によって製造された自動販売機用コーヒー濾紙は、下記定義により規定される湿潤引張強度が12N/15mm以上、好ましくは15N/15mm以上とすることで、使用済みの濾紙を引き出し走行させる際の紙切れが発生することなく、また、パルプ臭が抑制されることで、コーヒーの風味を損なうことのない、自動販売機用コーヒー濾紙とすることができる。
【0020】
湿潤引張強度
蒸留水中に10分間浸漬し、余分な水分を拭き、JIS P 8135:1976に準じた引張強度を測定したもの。
【発明の効果】
【0021】
本願発明の自動販売機用コーヒー濾紙は、原料として、パルプ(特に、主原料としてはクラフトパルプ)とポリエチレンテレフタレート繊維とを適切な比率で配合することにより、コーヒー液の抽出性、粉落ち抑制、臭気防止、滲み防止等の諸物性をバランスよく達成することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
続いて本願発明の好適な実施例を説明する。なお、各実施例および比較例のコーヒー濾紙とも原紙の米坪は20g/m2とした。
【0023】
原料構成
パルプ
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP):カナディアンフリーネス500cc
ポリエチレンテレフタレート繊維
低融点ポリエチレンテレフタレート繊維:融点は表1記載
※従来品は、現在使用されているコーヒー濾紙(クラフトパルプ+麻パルプ)
内添薬品
湿潤紙力剤・・・ポリアミドエピクロロヒドリン系:星光PMC社製、WS4024
(原料中の絶乾パルプ1tに対する有効成分添加量を表1に記載)
定着剤・・・カルボキシルメチルセルロース:第一工業製薬社製、セロゲンFSA
(絶乾原料1tに対する有効成分添加量は2kg)
外添薬品
外添サイズ剤・・・アルキルケテンダイマー(AKD):星光PMC社製、AD1606(塗布量は表1に記載)
評価方法
湿潤引張強度:蒸留水中に10分間浸漬し、余分な水分を拭き、JIS P 8135:1976に準じた引張強度を測定した。
【0024】
抽出性:自動販売機での実機試験を行い、コーヒー豆の抽出性(濃度、時間)を確認した。
◎:抽出濃度、時間ともに最適である。
○a:やや早く抽出完了するが、抽出濃度に問題はない。
○b:やや遅く抽出完了するが、自動販売機の運用上の問題はない。
×a:早く抽出完了し、コーヒーも薄い。
×b:抽出速度が遅く、時間内に抽出が完了しない。
【0025】
粉落ち:自動販売機での実機試験を行い、30分静置後、カップ底を確認した。
◎:粉末は見当たらず。
○:わずかに粉末が確認された。
×:底面全体的に粉末が見られた。
【0026】
臭気:巻取状のコーヒー濾紙の臭気について20人で調査した総合評価による。
◎:無臭
○:何か臭いがあると感じる程度。
×:パルプ臭があるとはっきりわかる。
【0027】
滲み:自動販売機での実機試験を行い、周囲への滲みを確認した。
◎:抽出範囲以外への滲みはない。
○:抽出範囲外への滲みはあったが、前後の抽出部分までの滲みはない。
×:前後の抽出範囲にも滲み出した。
【0028】
【表1】

【0029】
総合評価
(1) 表1に示されている実施例1〜17の自動販売機用コーヒー濾紙は、その原料中のパルプとポリエチレンテレフタレート繊維の比率がいずれも25〜75重量%の範囲にあり、抽出性、粉落ち、臭気及び滲みのすべての評価項目において、いずれも良好な結果(最適評価である◎または実用上問題のない〇評価)を得た。さらに、湿潤引張強度についても、いずれも12.0〜21.0N/15mmで、従来品(10.4N/15mm)の場合よりも良好な結果が得られた。なお、実施例10において「粉落ち」評価が◎ではなくて〇であるのは、実施例1と比較して湿潤紙力剤が少ないため、強度不足によって粉落ち適性が僅かに劣るためであり、実施例13において「抽出性」評価が〇aであるのは、実施例1と比較して湿潤紙力剤が多いため、基材を被覆することで抽出性が若干劣るためであり、実施例14において「滲み」評価が〇であるのは、実施例1と比較してサイズ剤が少ないためであり、実施例17において「抽出性」評価が〇aであるのは、実施例1と比較してサイズ剤が多いため、基材を被覆することで抽出性が若干劣るためである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆からコーヒー液を抽出するようにした自動販売機で使用されるコーヒー濾紙であって、その主原料がクラフトパルプおよびポリエチレンテレフタレート繊維であり、かつ前記ポリエチレンテレフタレート繊維の割合が全原料中25〜75重量%である自動販売機用コーヒー濾紙。

【公開番号】特開2007−231458(P2007−231458A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55219(P2006−55219)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】