説明

自動車のサスペンションメンバ

【課題】必要な剛性を確保しつつ、製造コスト及び部品コストを低減できる自動車のサスペンションメンバを提供する。
【解決手段】サスペンションメンバ1を、対称をなすよう形成された断面大略コ字形状の第1,第2サスペンションメンバ半体20,21により構成し、該第1,第2サスペンションメンバ半体20,21は、車幅方向に延びるメンバ本体部20d,21dと、該メンバ本体部20d,21dの両端部からそれぞれ車両前側,後側に屈曲して延びる前,後屈曲部20e,21eとを有し、上記第1,第2サスペンションメンバ半体20,21は、上記メンバ本体部20d,21d同士を筒状の閉断面をなすよう重ね合わせることにより結合されており、上記第1,第2サスペンションメンバ半体20,21の左,右の前,後屈曲部20e,21eにより車輪10が支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の左,右側部に配設された車輪を上下揺動可能に支持する自動車のサスペンションメンバに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のサスペンションメンバでは、左,右の車輪からの荷重に対する強度,剛性を高める観点から、プレス成形により形成されたアッパパネルとロアパネルとを、両者の間に補強パネルを介在させて溶接により一体に接合するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−118435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来のサスペンションメンバでは、その構造上アッパパネル,ロアパネル及び補強パネルをそれぞれ異なる金型でプレス成形する必要があり、製造コストが上昇するとともに、上記補強パネルを別途追加する分だけ部品コストが上昇するという問題がある。
【0004】
本発明は、上記従来の状況に鑑みてなされたもので、必要な強度,剛性を確保しつつ、製造コスト及び部品コストを低減できる自動車のサスペンションメンバを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、車幅方向両側に配設された車輪を上下揺動可能に支持する自動車のサスペンションメンバにおいて、該サスペンションメンバを、対称をなすよう形成された断面大略コ字形状の第1,第2サスペンションメンバ半体により構成し、該第1,第2サスペンションメンバ半体は、車幅方向に延びるメンバ本体部と、該メンバ本体部の両端部からそれぞれ車両前側,後側に屈曲して延びる前,後屈曲部とを有し、上記第1,第2サスペンションメンバ半体は、上記メンバ本体部同士を筒状の閉断面をなすよう重ね合わせることにより結合されており、上記第1,第2サスペンションメンバ半体の前,後屈曲部により上記車輪が支持されていることを特徴としている。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1において、上記第1,第2サスペンションメンバ半体のメンバ本体部には、ボルトによりステアリングギヤボックスが取り付けられており、該ボルトは上記ステアリングギヤボックスとともに、上記メンバ本体部同士を共締め固定していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るサスペンションメンバによれば、対称なすよう形成された断面大略コ字形状の第1,第2サスペンションメンバ半体のメンバ本体部同士を筒状の閉断面をなすよう重ね合わせて結合したので、補強部材を追加することなく必要な強度,剛性を確保することができ、部品コストを低減できる。
【0008】
上記第1,第2サスペンションメンバ半体は同一形状であるので、1つの型で製造でき、従来の複数の金型を用いて製造する場合に比べて製造コストを低減できる。
【0009】
請求項2の発明では、ボルトにより、ステアリングギヤボックスをメンバ本体部に固定するとともに、メンバ本体部同士を共締め固定したので、ステアリングギヤボックス,メンバ本体部同士を別々に固定する場合に比べて部品点数及び組み付け工数を低減でき、この点からもコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1ないし図5は、本発明の第1実施形態による自動車のサスペンションメンバを説明するための図であり、図1は自動車のサスペンションメンバの分解斜視図、図2,図3,図4はそれぞれサスペンションメンバの側面図,平面図,断面図(図1のIV-IV 線断面図) 、図5は第1,第2サスペンションメンバ半体の分解斜視図である。
【0012】
図において、1は車体の車幅方向左,右側部に配設された前輪10,10を上下揺動可能に支持するサスペンションメンバであり、該サスペンションメンバ1は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ2,2に支持されている。
【0013】
上記左,右のサイドメンバ2は、エンジン(不図示)が搭載されるフロント部2aと、該フロント部2aの後端から後斜め下方に延びる傾斜部2bと、該傾斜部2bの下端から後方に延びるフロア支持部2cとを有している。
【0014】
上記サスペンションメンバ1の左,右側端部には、上記前輪10を支持する前輪懸架装置3,3が配設されている。左,右の前輪懸架装置3は、上記サスペンションメンバ1の左,右前端部に上下揺動可能に支持されたロアアーム6,6と、該左,右のロアアーム6の外端部6aに左右に操向可能に支持されたナックル8,8と、該左,右のナックル8と上記左,右のサイドメンバ2との間に介設されたクッション9,9とを有している。
【0015】
上記左,右のロアアーム6の前端部は、軸線を前後方向に向けて配置された前側弾性ブッシュ4,4を介してサスペンションメンバ1に支持されており、後端部は、軸線を上下方向に向けて配置された後側弾性ブッシュ5,5を介してサスペンションメンバ1に支持されている。
【0016】
また上記左,右のロアアーム6の外端部6aは、ボールジョイント7,7を介してナックル8を左右揺動可能に支持しており、該左,右のナックル8に上記前輪10,10が装着されている。
【0017】
上記サスペンションメンバ1の前側には、その両端部が左,右のクッション9に連結されたスタビライザ11が配置され、該スタビライザ11は左,右のフロント部2aの下面にブラケット11aを介して支持されている。
【0018】
上記サスペンションメンバ1の上面には、車幅方向に延びるステアリングギヤボックス12が取り付けられている。このステアリングギヤボックス12内にはラック12aが左右に移動可能に収容され、該ラック12aにはステアリングシャフト13の下端部に固定されたピニオンギヤ(不図示)が噛合している。該ステアリングシャフト13の上端部にはステアリングホイール15が装着され、中途部にはユニバーサルジョイント14が介設されている。
【0019】
上記ラック12aの両端部にはタイロッド16,16が連結され、該左,右のタイロッド16の外端部は上記ナックル8のナックルアーム8aに連結されている。なお、17,17はステアリングギヤボックス12とタイロッド16との間を覆うダストカバーである。
【0020】
上記サスペンションメンバ1は、主として図1,図5に示すように、対称をなすよう形成された断面略コ字形状の第1,第2サスペンションメンバ半体20,21により構成されており、詳細には、以下の構造を有している。
【0021】
第1,第2サスペンションメンバ半体20,21は、鍛造又はプレス成形により同一形状に形成されており、それぞれ車幅方向に平行に延びる上壁20a,21aと下壁20b,21bとを側壁20c,21cにより一体に接続した構造を有している。
【0022】
上記第1サスペンションメンバ半体20は、開口を車両後方に向けて配置され、車幅方向に直線状に延びるメンバ本体部20dと、該メンバ本体部20dの左,右端部から車両前側に屈曲して延びる左,右の前屈曲部20e,20eとを有している。
【0023】
上記第2サスペンションメンバ半体21は、開口を車両前方に向けて配置され、車幅方向に直線状に延びるメンバ本体部21dと、該メンバ本体部21dの左,右端部から車両後側に屈曲して延びる左,右の後屈曲部21e,21eとを有している。
【0024】
上記第1,第2サスペンションメンバ半体20,21は、これのメンバ本体部20d,21d同士を角筒状の閉断面をなすよう前後方向に重ね合わせることにより一体的に結合されている。
【0025】
詳細には、第1サスペンションメンバ半体20の上壁20aの内面に、第2サスペンションメンバ半体21の上壁21aが当接し、下壁20bの外面に下壁21bが当接するよう重ね合わせた構造となっている。
【0026】
上記第1サスペンションメンバ半体20の左,右の前屈曲部20eの上壁20aには、上下方向に延びる連結パイプ22,22の下端面が溶接により結合されている。該左,右の連結パイプ22は、上側にいくほど車幅方向外側で、かつ前側に位置するよう湾曲形成されている。左,右の結合パイプ22の上端部は上記左,右のサイドメンバ2のフロント部2aの下面にボルト23により固定されている。
【0027】
上記第1サスペンションメンバ半体20の左,右の前屈曲部20e内には、コ字状のブラケット27を介在させて上記左,右の前側弾性ブッシュ4がボルト28により固定されている。
【0028】
上記第2サスペンションメンバ半体21の左,右の後屈曲部21eは、上記左,右のサイドメンバ2のフロア支持部2cの下面に固定されたブラケット24に上記後側弾性ブッシュ5とともにボルト25により固定されている。
【0029】
これによりサスペンションメンバ1は、左,右のサイドメンバ2の傾斜部2bの下方にて略水平をなすよう懸架支持されている。また、上記第1,第2サスペンションメンバ半体20,21の左,右の前,後屈曲部20e,21eにより上記前輪10のロアアーム6が支持されている。
【0030】
上記第1,第2サスペンションメンバ半体20,21のメンバ本体部20d,21dには、4本のボルト29により上記ステアリングギヤボックス12が固定され、該各ボルト29は上記ステアリングギヤボックス12とともに、上記メンバ本体部20d,21d同士を共締め固定している。
【0031】
詳細には、上記ステアリングギヤボックス12の左,右両端部には、前後一対の前,後フランジ部12b,12bが突出形成され、該左,右の前,後フランジ部12bが上記ボルト29によりメンバ本体部20d,21dに固定されている。
【0032】
また上記各ボルト29は、上記メンバ本体部20d,21dの上壁21aと下壁20bとの間に介設された円筒状のカラー部材30内を通って、各上壁20a,21a及び下壁20b,21baを貫通しており、該ボルト29を締め付けることによりカラー部材30を介在させてメンバ本体部20d,21d同士は挟持固定されている。
【0033】
本実施形態によれば、サスペンションメンバ1を、対称なすよう形成された断面略コ字形状の第1,第2サスペンションメンバ半体20,21により構成し、該第1,第2サスペンションメンバ半体20,21のメンバ本体部20d,21d同士を角筒状の閉断面をなすよう重ね合わせて結合したので、補強部材を追加することなく、前輪10からの荷重に対する必要な強度,剛性を確保することができ、部品コストを低減できる。
【0034】
また上記第1,第2サスペンションメンバ半体20,21は同一形状であるので、鍛造あるいはプレス成形する際に1つの型で製造することができ、複数の型を用いて製造する場合に比べて製造コストを低減できる。
【0035】
本実施形態では、各ボルト29により、ステアリングギヤボックス12を第1,第2サスペンションメンバ半体20,21のメンバ本体部20d,21dに固定するとともに、該メンバ本体部20d,21d同士を共締め固定したので、メンバ本体部20d,21d同士及びステアリングギヤボックス12を別々に固定する場合に比べて部品点数及び組み付け工数を低減できる。
【0036】
上記第1,第2サスペンションメンバ半体20,21をボルト29により結合したので、溶接により接合する場合に比べてコストを大幅に削減できるとともに、軽量化を可能にでき、より一層コストの低減が可能となる。
【0037】
なお、上記実施形態では、第1,第2サスペンションメンバ半体20,21のメンバ本体部20d,21d同士をボルト29により結合したが、本発明は、メンバ本体部20d,21d同士を溶接により結合してもよく、あるいはボルトによる結合と部分的な溶接による結合との両方であってもよい。
【0038】
また上記実施形態では、左,右の前輪10を支持するフロントサスペンションメンバ1を例に説明したが、本発明は、後輪を支持するリヤサスペンションメンバにも適用可能である。
【0039】
図6ないし図8は、本発明の第2実施形態による自動車のサスペンションメンバを説明するための図であり、図6はサスペンションメンバの分解斜視図、図7はサスペンションメンバの断面図(図6のVII-VII 線断面図) 、図8はサスペンションメンバ半体の分解斜視図である。図中、図1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0040】
本実施形態のサスペンションメンバ1は、対称をなすよう形成された断面略コ字形状の第1,第2サスペンションメンバ半体40,41により構成されている。上記第1,第2サスペンションメンバ半体40,41は、車幅方向に直線状に延びるメンバ本体部40d,41dと、該メンバ本体部40d,41dの左,右端部からそれぞれ車両前側,後側に屈曲して延びる前,後屈曲部40e,41eとを有しており、基本的な構造は第1実施形態と略同様である。
【0041】
そして上記第1,第2サスペンションメンバ半体40,41は、それぞれ開口を下方,上方に向けて配置され、メンバ本体部40d,41d同士を角筒状の閉断面をなすよう上下方向に重ね合わせて結合されている。詳細には、第1,第2サスペンションメンバ半体40,41には、それぞれ複数のスリット部40f,41fが切り欠き形成され、該スリット部40f,41f同士を係合させることによりメンバ本体部40d,41d同士が重ね合わされている。
【0042】
第2実施形態によれば、対称なすよう形成された断面略コ字形状の第1,第2サスペンションメンバ半体40,41のメンバ本体部40d,41d同士を角筒状の閉断面をなすよう上下方向に重ね合わせて結合したので、必要な強度,剛性を確保しつつ、部品コストを低減できるという、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態による自動車のサスペンションメンバの分解斜視図である。
【図2】上記サスペンションメンバの側面図である。
【図3】上記サスペンションメンバの平面図である。
【図4】上記サスペンションメンバの断面図(図1のIV-IV 線断面図) である。
【図5】上記サスペンションメンバの第1,第2サスペンションメンバ半体の分解斜視図である。
【図6】本発明の第2実施形態による自動車のサスペンションメンバの分解斜視である。
【図7】上記サスペンションメンバの断面図(図6のVII-VII 線断面図) である。
【図8】上記サスペンションメンバの第1,第2サスペンションメンバ半体の分解斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 サスペンションメンバ
10 前輪
12 ステアリングギヤボックス
20,40 第1サスペンションメンバ半体
20d,40d メンバ本体部
20e,40e 前屈曲部
21,41 第2サスペンションメンバ半体
21d,41d メンバ本体部
21e,41e 後屈曲部
29 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向両側に配設された車輪を上下揺動可能に支持する自動車のサスペンションメンバにおいて、
該サスペンションメンバを、対称をなすよう形成された断面大略コ字形状の第1,第2サスペンションメンバ半体により構成し、
該第1,第2サスペンションメンバ半体は、車幅方向に延びるメンバ本体部と、該メンバ本体部の両端部からそれぞれ車両前側,後側に屈曲して延びる前,後屈曲部とを有し、
上記第1,第2サスペンションメンバ半体は、上記メンバ本体部同士を筒状の閉断面をなすよう重ね合わせることにより結合されており、
上記第1,第2サスペンションメンバ半体の前,後屈曲部により上記車輪が支持されていることを特徴とする自動車のサスペンションメンバ。
【請求項2】
請求項1において、上記第1,第2サスペンションメンバ半体のメンバ本体部には、ボルトによりステアリングギヤボックスが取り付けられており、該ボルトは上記ステアリングギヤボックスとともに、上記メンバ本体部同士を共締め固定していることを特徴とする自動車のサスペンションメンバ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−238850(P2008−238850A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78542(P2007−78542)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】