説明

自動車のフロア構造

【課題】スペアタイヤ収納スペース及び車体剛性を確保しつつ、フロアパネルの生産性の低下及びコストの上昇を回避できる自動車のフロア構造を提供する。
【解決手段】スペアタイヤ収納部1dの前縦壁部1gには、前側フロア部1eから段落ち状をなす段差部1jが形成され、該段差部1jの下面には、略L字形状のクロスメンバ15が後方側に開くよう結合され、上記段差部1jの上面には、略逆L字形状の補強部材16が前方側に開くよう結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室を形成するフロアパネルの後端部にスペアタイヤ収納部を凹設してなる自動車のフロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体後部構造として、リヤフロアパネルの下方に燃料タンクを配置し、該燃料タンクの後方にリヤサスペンションを支持するセンタクロスメンバを配置し、該センタクロスメンバの後方にスペアタイヤ収納部を配置し、センタクロスメンバ上にシートレールやシートベルトアンカ等を配置する場合がある。
【0003】
一方、車体の全長枠に制限がある小型車において、ホイールベースやリヤシートの前後スライド量を拡大するには、上記センタクロスメンバを後方に移動させることとなる。しかしながら、センタクロスメンバを単に後方に移動させると、スペアタイヤ収納部に干渉することから、該クロスメンバを小型化する必要がある。この場合、曲げ,捩じりに対する車体剛性が低下したり、シートベルトアンカへの入力に対する強度低下が生じたり、スペアタイヤ収納スペースが縮小されたりするという問題が生じる。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1では、フロアパネルを、前側フロア部と絞り加工により形成されたスペアタイヤ収納部とに分割し、該スペアタイヤ収納部の前縁部と、上記前側フロア部に形成された斜め下方に傾斜する立下げ壁とをスポット溶接により接合するとともに、該立下げ壁の下面に車幅方向に延びるクロスメンバを接合した構造を採用している。これによれば、スペアタイヤ収納スペースを縮小することなく、スペアタイヤ収納部の剛性を確保することが可能である。
【特許文献1】特開2000−280941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来のフロア構造では、フロアパネルを前側フロア部とスペアタイヤ収納部とに分割しており、部品点数が増えるという問題があり、また両者をスポット溶接により接合するとともに、接合部をシールする必要があり、生産性が低下するとともに、コストが上昇するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の状況に鑑みてなされたもので、スペアタイヤ収納スペース及び車体剛性を確保しつつ、フロアパネルの生産性の低下及びコストの上昇を回避できる自動車のフロア構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車室を形成するフロアパネルの後端部にスペアタイヤ収納部を、少なくとも上記フロアパネルの前側フロア部に連続するよう一体に凹設してなる自動車のフロア構造であって、上記スペアタイヤ収納部の前縦壁部には、上記前側フロア部から段落ち状をなす段差部が形成され、該段差部の下面には、略L字形状のクロスメンバが後方側に開くよう結合され、上記段差部の上面には、略逆L字形状の補強部材が前方側に開くよう結合されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、上記補強部材の上面には、シートベルト部材又はシートを支持するシート支持部材が取り付けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る自動車のフロア構造によれば、フロアパネルにスペアタイヤ収納部を前側フロア部に連続するよう一体形成し、スペアタイヤ収納部の前縦壁部に前側フロア部から段落ち状をなす段差部を形成したので、フロアパネルを分割することなくスペアタイヤ収納部の深絞り加工が可能となる。これにより、従来のフロアパネルを分割する場合に比べて部品点数を低減できるとともに、スポット溶接及びシールを不要にでき、生産性を向上できるとともに、コストを低減できる。
【0010】
本発明では、上記段差部の下面にクロスメンバを後方側に開くよう結合し、上面に補強部材を前方側に開くよう結合したので、段差部にはクロスメンバと補強部材とで上,下2つの閉断面が形成されることとなり、これによりスペアタイヤ収納部を深絞り加工により形成する場合の強度,剛性を高めることができる。これにより、ホイールベースやシートスライド量の拡大が可能となる。
【0011】
請求項2の発明では、上記補強部材の上面にシートベルト部材又はシート支持部材を取り付けたので、強度,剛性の高い補強部材によりシートベルト又はシートを支持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1ないし図3は、本発明の一実施形態による自動車のフロア構造を説明するための図であり、図1はスペアタイヤ収納部が形成されたフロアパネルの断面図、図2はフロアパネルの分解斜視図、図3はフロアパネルの平面図である。
【0014】
図において、1は後部車室を形成するリヤフロアパネルを示しており、該フロアパネル1の前側にはリヤフロアクロスメンバ21が配設されている。該リヤフロアクロスメンバ21は、後部乗員用足載せ部21aと、該足載せ部21aに続いて斜め上向きに起立形成されたキックアップ部21bとを有しており、該キックアップ部21bの後縁部に上記リヤフロアパネル1の前縁部が結合されている。
【0015】
上記リヤフロアパネル1の下面の左,右側端部には、前後方向に延びる上方に開口する断面ハット状の左,右リヤサイドメンバ2,2が結合されている。該左,右リヤサイドメンバ2の外側にはリヤホイールハウス3,3が接続されている。
【0016】
また上記リヤフロアパネル1の後端には、ロアインナパネル4aとロアアウタパネル4bとからなるロアバック4が接続されている。このロアバック4はバックドア開口の下縁部を形成している。
【0017】
上記リヤフロアクロスメンバ21の足載せ部21aとキックアップ部21bとの間には、車幅方向に延びるフロアクロスメンバ5が接続され、該キックアップ部21bとリヤフロアパネル1との間には、車幅方向に延びるフロアクロスアッパメンバ6が接続されている。
【0018】
上記リヤフロアパネル1は、前半部の前側フロア部1eと、後半部のスペアタイヤ収納部1dとを有しており、スペアタイヤ収納部1dは前側フロア部1eに連続するよう一体に形成されている。
【0019】
上記前側フロア部1eの上方には、リヤシート8が搭載されている。このリヤシート8は、該前側フロア部1eの略全域に拡がる大きさのシートクッション8aとシートバック8bとを有しており、該リヤシート8は、上記前側フロア部1eに車幅方向に所定間隔をあけて配置された3本のシートレール(シート支持部材)9により前後方向に移動可能に支持されている。また上記前側フロア部1eの下方には、燃料タンク10が搭載されている。
【0020】
上記スペアタイヤ収納部1dは、深絞り加工により形成されたものであり、スペアタイヤ11を収納した状態で見て、該スペアタイヤ11の上縁が前側フロア部1eの一般面より低所となるように形成されている。
【0021】
上記スペアタイヤ収納部1dの底壁1fにはクランプブラケット12が接続されており、該クランプブラケット12にクランプ部材13を介して上記スペアタイヤ11が着脱可能に固定されている。また上記スペアタイヤ収納部1dの下面には牽引フック14が接続されている。
【0022】
上記スペアタイヤ収納部1dは、前側フロア部1eに続いて下方に延びる前側縦壁1gと、該前側縦壁部1gから車幅方向外側に拡がるように後方に延びる左,右側縦壁1h,1hと、該左,右側縦壁1hの後端部同士を車幅方向に連結する後側縦壁1iとを有している。
【0023】
上記後縦壁部1iは、前側縦壁部1gより深さの小さいフランジ状に形成されており、該後縦壁部1iには、上記ロアバック4のロアインナ4aの下方延長部4a′が接続されている。この下方延長部4a′によりスペアタイヤ収納部1dの後壁が形成されている。
【0024】
上記スペアタイヤ収納部1dの前側縦壁部1gには、上記前側フロア部1eの後端部に続いて段落ち状をなす段差部1jが形成されている。
【0025】
上記段差部1jの下面には、略L字形状のクロスメンバ15が後方側に開くよう結合されており、上面には、略逆L字形状の補強部材16が前方側に開くよう結合されている。
【0026】
上記クロスメンバ15は、リヤフロアパネル1の車幅方向略全長に渡る長さを有しており、該クロスメンバ15の両端部は上記左,右のサイドメンバ2,2の側壁部に閉断面をなすよう結合されている。この左,右のサイドメンバ2のクロスメンバ15との結合部2a,2aには、不図示のリヤサスペンションが接続されている。
【0027】
上記クロスメンバ15の車幅方向左,右側部15a,15aは、上方に開口する断面ハット状をなしており、該左,右側部15aの各前,後フランジ部15b,15bはリヤフロアパネル1の下面に閉断面をなすようスポット溶接により接合されている。
【0028】
上記クロスメンバ15の車幅方向中央部15cは、上記段差部1jの下面を囲むよう形成されており、該中央部15cの前フランジ部15dは、段差部1jの上縁部に当接し、下フランジ部15eは段差部1jの下縁部に当接している。
【0029】
上記中央部15cの下面にはタンクブラケット18が接続されており、該タンクブラケット18に上記燃料タンク10の後端部が取り付けられている。
【0030】
上記クロスメンバ15内の左,右のシートレール9,9の取付け部には、概ねハット形状をなすシートリインホース20,20が配置され、該左,右のシートリインホース20はクロスメンバ15に結合されている。
【0031】
上記補強部材16は、スペアタイヤ収納部1dの段差部1jの車幅方向略全長に渡る長さを有しており、上記前側フロア部1eと略面一となる上壁部16aと、該上壁部16aから下方に屈曲して延びる縦壁部16bとを有している。
【0032】
上記補強部材16の上壁部16aの前フランジ部16cは、段差部1jの上縁部とともに上記前フランジ部15dに重ね合わせてスポット溶接により接合されている。上記縦壁部16bの後フランジ部16dは、段差部1jの下縁部とともに上記下フランジ部15eに重ね合わせてスポット溶接により接合されている。これにより上記段差部1jには、補強部材16とクロスメンバ15とで上,下2つの閉断面a,bが形成されている。
【0033】
車幅方向中央に位置するシートレール9′の前端部9aは、上記フロアクロスアッパメンバ6にシート補強部材22を介して固定され、後端部9bは、補強部材16の上壁部16aにシート補強部材23を介して固定されている(図3参照)。
【0034】
上記中央のシートレール9′の後端部9bには、該後端部9bに連続して後方に延びる延長部9cが一体形成されている。該延長部9cは、スペアタイヤ収納部1dの上方にてスペアタイヤ11の前端部11aにラップする位置まで延びている。これによりリヤシート8の後方移動位置は、上記延長部9cの分だけ後方に設定されている。ここで、スペアタイヤ11を取り出すには、スペアタイヤ11をこれの後端部を持ち上げて引き起し、ロアバック4のバックドア開口から後方に引き出すこととなる。
【0035】
本実施形態によれば、リヤフロアパネル1にスペアタイヤ収納部1dを前側フロア部1eに連続するよう一体に形成し、スペアタイヤ収納部1dの前縦壁部1gに前側フロア部1eに続いて段落ち状をなす段差部1jを形成したので、フロアパネルを分割することなくスペアタイヤ収納部1dの深絞り加工が可能となる。これにより、従来のフロアパネルを分割する場合に比べて部品点数を低減できるとともに、スポット溶接及びシールを不要にでき、生産性を向上できるとともに、コストを低減できる。
【0036】
本実施形態では、上記段差部1jの下面に、リヤフロアパネル1の車幅方向略全長に渡って延びるクロスメンバ15の中央部15cを結合し、上面に、前縦壁部1gの車幅方向全長に渡って延びる補強部材16を結合したので、上記段差部1jにはクロスメンバ15と補強部材16とで上,下2つの閉断面a,bが形成されることとなり、該段差部1jの断面係数を高めることができ、曲げ変形,捩じり変形に対する車体剛性を向上できる。
【0037】
これにより、薄板のリヤフロアパネル1であっても必要な断面係数を確保しつつ深絞り加工が可能となり、スペアタイヤ収納部1dの深さを、スペアタイヤ11がフロアパネル1の一般面より低所となる深さにすることができる。
【0038】
本実施形態では、上記補強部材16の上壁部16aにシートレール9′を固定したので、強度,剛性の高い補強部材16によりリヤシート8を前後方向に移動可能に支持することができる。
【0039】
本実施形態では、上記シートレール9′の延長部9cを、スペアタイヤ収納部1dの上方にラップする位置まで延長したので、スペアタイヤ11の出し入れを可能にしつつ、リヤシート8の後方への移動量を増やすことができ、リヤシート8のロングスライド化が可能となる。
【0040】
本実施形態では、上記スペアタイヤ収納部1dの段差部1jに、左,右のサイドメンバ2,2に接続されたクロスメンバ15を結合したので、スペアタイヤ収納部1dの強度,剛性を確保しつつ、フロアパネル1下方の部品配置スペースを拡大することができる。強度、剛性の高いクロスメンバ15に、リヤサスペンションを支持させることにより、後輪の配置位置を後方に移動させることが可能となり、ひいてはホイールベースを拡大できる。
【0041】
また上記クロスメンバ15に燃料タンク10を支持させることにより、燃料タンク10の燃料容量を増やすことが可能となり、さらには上記クロスメンバ15にシートベルトアンカ(不図示)を取り付けることにより、該シートベルトアンカに作用する大きな荷重にも十分対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態によるスペアタイヤ収納部が形成されたフロアパネルの断面図である。
【図2】上記フロアパネルの分解斜視図である。
【図3】上記フロアパネルの平面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 リヤフロアパネル
1d スペアタイヤ収納部
1e 前側フロア部
1g 前縦壁部
1j 段差部
8 リヤシート
9 シートレール(シート支持部材)
15 クロスメンバ
16 補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室を形成するフロアパネルの後端部にスペアタイヤ収納部を、少なくとも上記フロアパネルの前側フロア部に連続するよう一体に凹設してなる自動車のフロア構造であって、
上記スペアタイヤ収納部の前縦壁部には、上記前側フロア部から段落ち状をなす段差部が形成され、該段差部の下面には、略L字形状のクロスメンバが後方側に開くよう結合され、上記段差部の上面には、略逆L字形状の補強部材が前方側に開くよう結合されていることを特徴とする自動車のフロア構造。
【請求項2】
請求項1において、上記補強部材の上面には、シートベルト部材又はシートを支持するシート支持部材が取り付けられていることを特徴とする自動車のフロア構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−87650(P2008−87650A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−271389(P2006−271389)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】