説明

自動車のフード衝撃吸収構造

【課題】簡単な構造でかつ少ない部品点数で車両衝突時のフードの前方移動を規制できる自動車のフード衝撃吸収構造を提供する。
【解決手段】車両衝突時に、フード10をストライカ30のロッド部30aとロック部材31との係合部を中心に該フード10の後端部10bを上方に回動させることにより被衝突物への衝撃力を吸収する場合に、フード10が上方に回動したときに、該フード10の前方への移動を規制するストッパ部材33をロッド部30aに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時にフードの前端部を中心に後端部を上方に回動させることにより、被衝突物への衝撃力を吸収するようにした自動車のフード衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突時の被衝突物への衝撃力を吸収するようにした自動車のフード衝撃吸収構造として、例えば図9に示す構造のものがある。これは、車両衝突時に、フード30の前端部30aに固定された車両前後方向に延びるロッド部31aを有する上向きコ字形状のストライカ31と、車体32に固定されたロック部材33との係合部を中心に上記フード30の後端部30bをホップアップさせることにより、被衝突物への衝撃力を吸収するようにしている。ここで、上記ロッド部31aには、フード30の組み付け誤差を吸収するために前後方向に遊びが設けられている。
【0003】
ところで、フード30の後端部30bをホップアップさせたとき、上記ロッド部31aの前後方向の遊びの分だけフード30が前方にtだけ移動する場合がある。その結果、フード30の後縁とカウルルーバ34及びウインドシールド35との間の隙間が大きくなり、被衝突物への衝撃力の吸収範囲が減少するという懸念がある。またフード30に被衝突物が衝突した際に、フード30がさらに前方に移動した場合には、フード30による被衝突物への保持力が弱まるおそれがある。
【0004】
そこで、車両衝突時にフードが前方に移動するのを防止するために、例えば、特許文献1では、車体に固定された下ヒンジと、フードに固定された上ヒンジとをヒンジアーム及び支持アームで連結し、該支持アームによりフードの前方への移動を規制するようにした多関節リンク機構を用いた構造が提案されている。
【特許文献1】特表2006−518305
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の多関節リンク機構によりフードの前方移動を防止する場合には、その構造からして複雑となり易く、また部品点数が増えるといった問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来の状況に鑑みてなされたもので、簡単な構造でかつ少ない部品点数で車両衝突時のフードの前方移動を規制できる自動車のフード衝撃吸収構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、車体に形成されたエンジンルーム又はトランクルームを開閉するフードと、該フードの前端部と上記車体との間に配設され、車両前後方向に延びるロッド部を有するストライカと該ロッド部に係脱可能なロック部材とで上記フードの前端部を車体にロックするフードロック装置とを備え、車両衝突時に、上記フードを上記ロッド部とロック部材との係合部を中心に該フードの後端部を上方に回動させることにより被衝突物への衝撃力を吸収するようにした自動車のフード衝撃吸収構造であって、車両衝突時に、上記フードが上方に回動したときに、該フードの前方への移動を規制するストッパ部材を上記ロッド部に設けたことを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、上記ストッパ部材は、車両衝突時に上記フードに作用する荷重により前後方向に圧縮変形可能に構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るフード衝撃吸収構造によれば、ストライカのロッド部にフードの前方への移動を規制するストッパ部材に設けたので、車両衝突時にフードが前方に移動するのを防止できる。これにより、フードの衝撃力吸収範囲を確保でき、被衝突物がフードに落下した場合の衝撃力を確実に吸収することができる。
【0010】
またロッド部にストッパ部材を設けるだけの構造であるので、従来の多関節リンク機構を採用する場合に比べて簡単な構造で、かつ少ない部品点数でフードの前方移動を防止できる。
【0011】
請求項2の発明では、ストッパ部材を前後方向に圧縮変形可能に構成したので、フードに被衝突物が衝突したときの衝撃力をストッパ部材が圧縮変形することにより吸収することができ、フードの衝撃力吸収性能を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
図1ないし図8は、本発明の一実施形態による自動車のフード衝撃吸収構造を説明するための図であり、図1はフードの断面側面図(図8のI-I線断面図)、図2は上記フードのストライカに設けられたストッパ部材の側面図、図3はストッパ部材の断面図(図2のIIIa-IIIa線断面図,IIIb-IIIb線断面図)、図4,図5は上記フードのヒンジ機構,跳ね上げ機構の構成図、図6,図7は上記跳ね上げ機構の構成図、図8は上記フードが配設された自動車の斜視図である。なお、本実施形態の説明のなかで前後,左右という場合は、シートに着座した状態で見た場合の前後,左右を意味している。
【0014】
図において、1は自動車の車体を示しており、該車体1はダッシュパネル2により車体前部1aのエンジンルームAと車体後部1bの車室Bとに画成されている。
【0015】
上記エンジンルームAは、上記ダッシュパネル2と、該ダッシュパネル2の上縁部に配置された車幅方向に延びるカウルパネル3と、該カウルパネル3の前方に配置された車幅方向に延びるラジエータサポート4と、左,右側方に配置されたフロントフェンダ5,5とで囲まれた空間により形成されている。上記カウルパネル3は、車室Bの前方を覆うウインドシールド6の下縁部6aを支持している。
【0016】
上記カウルパネル3の上面には、該カウルパネル3を覆うように車幅方向に延びる樹脂製のカウルルーバ7が配置されている。該カウルルーバ7の前縁部7aはカウルパネル3の前縁部3aに固定され、後縁部7bはウインドシールド6の下縁部6aに固定されている。該カウルルーバ7の前縁部7aには、下記のフード10との間をシールするシール部材8が装着されている。
【0017】
上記車体前部1aには、エンジンルームAの上方を開閉する上記フード10が配設されている。該フード10は、アウタパネル11とインナパネル12との外縁部同士を結合した構造を有している。
【0018】
上記フード10の前端部10aの車幅方向中央部には、該フード10を車体前部1aを構成するラジエータサポート4にロックするフードロック装置14が配置され、後端部10bの左,右側部には、上記フード10を全開位置Cと全閉位置Dとの間で回動可能に支持するヒンジ機構15,15が配置されている(図4,図5参照)。
【0019】
上記左,右のヒンジ機構15は、フード10の後左,右側部に後方に延びるよう固定されたヒンジ部10cと、車体前部1aに前方に延びるよう支持されたヒンジアーム16とをヒンジピン17により連結することにより、該ヒンジピン17を中心に上記フード10を上記全開位置Cと全閉位置Dとの間で回動可能に支持している。
【0020】
上記フード10は、車両前面衝突時に被衝突物が倒れ込んで該フード10に落下したときの衝撃力を吸収する衝撃力吸収装置を備えている。
【0021】
この衝撃力吸収装置は、上記フード10の後述するフードロック装置14の係合部を中心に該フード10の後端部10bを上方に回動するよう跳ね上げるさせる跳ね上げ機構21と、フロントバンパ19に配置された衝撃力検出センサ20と(図8参照)、該センサ20からの衝撃力が所定値を越えると上記跳ね上げ機構21を作動させるコントローラ(不図示)とを備えている。
【0022】
上記跳ね上げ機構21は、左,右のヒンジ機構15に一体に組付けられており、上記ヒンジアーム16の後端部を係脱可能に支持する係脱部材22と、その一端部が該ヒンジアーム16の長手方向中途部に連結され、他端部が車体前部1aに固定されたブラケット23に連結されたリンク24と、該リンク24と車体前部1aとの間に介設され、上記フード10を跳ね上げ方向に付勢するコイルばね25とを有している。
【0023】
上記係脱部材22は、図6,図7に示すように、上記ヒンジアーム16の後端部に固定された球体状の係止部26と、該係止部26が係脱可能に係合する曲面形状の溝27aが形成された係合部27と、該係合部27を係合位置と係合解除位置との間で90度回転駆動する駆動モータ28とを備えており、該駆動モータ28は車体前部1aに固定されている。
【0024】
通常の使用時には、ヒンジアーム16の係止部26は係合部27の溝27aにに係合しており、これによりフード10はヒンジピン17を中心に開閉可能となっている(図4参照)。
【0025】
車体前部1aが被衝突物に衝突すると、該衝撃力によって駆動モータ28が係合部27を90度時計周りに回転させる(図7(b)参照)。するとヒンジアーム16の係止部26が係合部27から外れ、これに伴ってコイルばね25によりリンク24を介してヒンジアーム16が上向きに起立し、フード10の後端部10bが跳ね上がる(図5参照)。
【0026】
上記フードロック装置14は、上記フード10のインナパネル12に取り付けられたストライカ30と、上記ラジエータサポート4に取り付けられ、上記ストライカ30に係脱可能なロック部材31とを有している。該ロック部材31は、運転席に配設されたロック解除部材(不図示)を操作することによりストライカ30とのロックを解除する。
【0027】
上記ストライカ30は、車両前後方向に延びるロッド部30aと、該ロッド部30aの前,後縁から上方に屈曲して延びる前,後起立部30b,30cとを有する上向きコ字形状のパイプ製のものからなり、該前,後起立部30b,30cが上記インナパネル12に固定されている。
【0028】
そして上記ストライカ30のロッド部30aには、車両衝突時に、上記フード10の後端部10bが跳ね上がったときに、該フード10の前方への移動を規制するストッパ部材33が配置されている。
【0029】
このストッパ部材33は、図2,図3に示すように、上記ロッド部30aのロック部材31の後側に配置されており、該ロッド部30aの外周部を囲むように前後方向に延びる円筒部33aと、該円筒部33aの後端部から上方及び下方に突出する上,下取付け部33b,33cとを有している。該上,下取付け部33b,33cに挿入された固定ねじ34,34を締め付けることにより、上記ストッパ部材33はロッド部30aに固定されている。
【0030】
上記円筒部33aは、これの前端面が上記ロック部材31に若干の隙間をあけて対向している。
【0031】
また上記円筒部33aの後端部33dは、ロッド部30aと後起立部30cとの境界屈曲部まで延びており、これによりストッパ部材33の後方への移動が阻止されている。
【0032】
上記円筒部33aには、蛇腹状の凹凸部33eが前後方向に間隔をあけて形成されている。これにより上記ストッパ部材33は、車両衝突時に上記フード10に作用する被衝突物からの荷重により、ロック部材31と後起立部30cとの間で圧縮変形するようになっている。
【0033】
上記ストッパ部材33は、左,右対称をなす左,右のストッパ半体35,36に分割されている。この左のストッパ半体35の上,下縁部には段落ち部35a,35aが形成され、該上,下の段落ち部35aに右のストッパ半体36の上,下縁部36a,36aが隙間なく重ね合わされている(図3(b)参照)。
【0034】
車両前面衝突時に、フード10がロッド部30aとロック部材31との係合部を中心に跳ね上がると、ストッパ部材33がロック部材31に当接してフード10の前方移動を規制する。これにより被衝突物がフード10に落下する衝突範囲が保持される。この場合、被衝突物がフード10に落下し、該落下によりフード10に荷重が作用すると、ストッパ部材33がロック部材31とストライカ30の後起立部30cとの間で軸方向に圧縮変形する。これにより、被衝突物の衝撃エネルギーが収吸収される。
【0035】
このように本実施形態によれば、フード10の前端部10aに固定されたストライカ30のロッド部30aに、該フード10の前方への移動を規制するストッパ部材33に設けたので、車両衝突時に、フード10の後端部10bが跳ね上がっても該フード10は前方に移動することはない。これにより、フード10の衝撃力吸収範囲を確保することができ、フード10に被衝突物が落下した場合の衝撃力を吸収することができる。
【0036】
上記ロッド部30aのロック部材31の後側に板金製のストッパ部材33を設けるだけの構造で済むので、従来の多関節リンク機構を採用する場合に比べて簡単な構造で、かつ少ない部品点数でフード10の前方移動を防止できる。
【0037】
また上記スッパ部材33の板厚,大きさ等を適宜設定することにより、衝撃荷重に対する設定値を調整することが可能であり、車種に応じたストッパ部材を容易に形成できる。
【0038】
本実施形態では、上記ストッパ部材33に蛇腹状の凹凸部33eを形成し、該ストッパ部材33を前後方向に圧縮変形可能としたので、フード10に被衝突物が衝突したときの衝撃力をストッパ部材33が圧縮変形することにより吸収することができ、フード10の衝撃力吸収性能を高めることができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、ストライカ30をフード10に配置し、ロック部材31を車体1に配置したが、本発明は、逆に、ストライカを車体に配置し、ロック部材をフードに配置した場合にも適用できる。この場合には、ロッド部のロック部材の前側にストッパ部材を配置することとなる。
【0040】
また、上記実施形態では、ストッパ部材を板金製のものとしたが、本発明のストッパ部材は、樹脂製のものでもよく、さらに衝撃吸収体として硬質ウレタンや樹脂のビーズ発泡品を組み合わせてもよい。さらにまた、ストッパ部材をストライカに溶接により接合してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態による自動車のフード衝撃吸収構造を説明するためのフードの断面側面図(図8のI-I線断面図)である。
【図2】上記フードのストライカに設けられたストッパ部材の側面図である。
【図3】上記ストッパ部材の断面図である。
【図4】上記フードのヒンジ機構の構成図である。
【図5】上記フードの跳ね上げ機構の構成図である。
【図6】上記跳ね上げ機構の構成図である。
【図7】上記跳ね上げ機構の構成図である。
【図8】上記フードが配設された自動車の斜視図である。
【図9】本発明の成立過程を説明するためのフードの断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 車体
10 フード
10a 前端部
10b 後端部
14 フードロック装置
30 ストライカ
30a ロッド部
31 ロック部材
33 ストッパ部材
A エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に形成されたエンジンルーム又はトランクルームを開閉するフードと、該フードの前端部と上記車体との間に配設され、車両前後方向に延びるロッド部を有するストライカと該ロッド部に係脱可能なロック部材とで上記フードの前端部を車体にロックするフードロック装置とを備え、車両衝突時に、上記フードを上記ロッド部とロック部材との係合部を中心に該フードの後端部を上方に回動させることにより被衝突物への衝撃力を吸収するようにした自動車のフード衝撃吸収構造であって、
車両衝突時に、上記フードが上方に回動したときに、該フードの前方への移動を規制するストッパ部材を上記ロッド部に設けたことを特徴とする自動車のフード衝撃吸収構造。
【請求項2】
請求項1において、上記ストッパ部材は、車両衝突時に上記フードに作用する荷重により前後方向に圧縮変形可能に構成されていることを特徴とする自動車のフード衝撃吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−238886(P2008−238886A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79987(P2007−79987)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】