説明

自動車のペダル支持構造

【課題】操作ペダルを確実に回動させて操作ペダルの後退を防止できる自動車のペダル支持構造であって、組み付け作業性及び生産性の高い構造を提供する。
【解決手段】第2ブラケット6を第1ブラケット5に回転可能に軸支すると共に、レバー部材9を第1ブラケット5に枢支する。自動車の前突時に第1及び第2ブラケット5,6が後退するに伴い、レバー部材9の係合部92が取付ブラケット7に対し係合してレバー部材9が回転し、その押圧部91が第2ブラケット6を後方に押圧する。それにより第2ブラケット6を後方に回動させて、操作ペダル4の踏み面41を前方に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のペダル支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の衝突時には、その衝突を回避するためにドライバーがブレーキペダルを踏んで自動車を制動しようとしているにも拘わらず、自動車が停止せずに衝突してしまうという、ブレーキペダルの踏込み状態での衝突が多いのが実状である。
【0003】
その場合、衝突に伴って車体前部が衝突エネルギーを吸収しながら潰れ、エンジンルーム内に配置されているエンジンがその後方に位置するブレーキ装置のマスタシリンダを押しながら後退するが、このマスタシリンダにはダッシュパネル後方側に位置するブレーキペダルがオペレーティングロッドを介して連結されているため、マスタシリンダの後退移動に伴いオペレーティングロッドを介してブレーキペダルも押されて後退することになる。
【0004】
その結果、衝突直前までブレーキペダルを踏込んでいるドライバーの足に衝突荷重が作用して大きなキックバックが生じ、そのドライバーの足に衝撃がかかるという問題がある。
【0005】
そこで、従来、このような問題に対処するため、種々の対策が提案されている。例えば、特許文献1には、前端部がダッシュパネルに固定される一方で、後端側の部分がカウルパネルに対して衝突時に離脱可能に固定される第1ブラケットと、前端下部が上記第1ブラケットに対して車幅方向に延びる回動軸周りに回動可能に軸支されかつ、後端部がカウルパネルに対して自動車の前突時に離脱可能に固定される第2ブラケットと、カウルパネルから第1ブラケットの後端外側を介して第2ブラケットの前端上部に亘って連結されるワイヤーと、を備えた構造が開示されている。
【0006】
このペダル支持構造では、操作ペダルの支軸が上記第2ブラケットに揺動可能に支持されており、自動車の前突時に上記第1ブラケットが後退するに伴い、上記カウルパネルから脱落した第2ブラケットが上記ワイヤーによって引っ張られて上記回動軸周りに車両下方側へ回動するようになり、それによって、上記操作ペダルの下端を前方に移動させるようにしている。
【特許文献1】特開2004−114793号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1に開示されたペダル支持構造は、車体側部材と上記第2ブラケットの前端上部とに亘ってワイヤーが配設される構造であり、そのワイヤーの配設のためにペダル支持構造の組み付け作業性が低下するという不都合がある。
【0008】
また、ワイヤーの長さによって第2ブラケットの回動挙動が変化するため、ワイヤーの長さを高精度に管理する必要があり、生産性が低下するという不都合もある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、操作ペダルを確実に回動させて操作ペダルの後退を防止できる自動車のペダル支持構造であって、組み付け作業性及び生産性の高い構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のペダル支持構造は、ダッシュパネルの後方に配設される操作ペダルを、車幅方向に延びる支軸周りに揺動可能に支持する自動車のペダル支持構造である。
【0011】
上記ペダル支持構造は、前端部が上記ダッシュパネルに締結固定されかつ、後端側の部分が該ダッシュパネルとは別の車体側部材に、自動車の前突時に後方に移動可能に固定される第1ブラケットと、上記操作ペダルの支軸を支持するブラケットでありかつ、その前端下部が上記第1ブラケットに対して車幅方向に延びる回動軸周りに回動可能に軸支されかつ、その後端部が上記車体側部材に対して自動車の前突時に離脱可能に固定される第2ブラケットと、中間部が上記第1ブラケットに対して車幅方向に延びる枢軸周りに回転可能に枢支されるレバー部材と、を備える。
【0012】
そして、上記レバー部材は、自動車の前突時に上記第1ブラケットが後方へ移動するに伴い上記中間部を挟んだ一方の端部が上記車体側部材に係合することによって、当該一方の端部が前方に移動するよう上記中間部を中心として回転すると共に、当該回転によって上記中間部を挟んだ他方の端部が上記第2ブラケットにおける上記回動軸よりも上側位置を後方に押圧し、上記第2ブラケットは、上記車体側部材から脱落した後に、上記レバー部材の押圧によって、上記回動軸周りに後方に回動する。
【0013】
この構成によると、自動車の衝突時、エンジンに押されてダッシュパネルが車両後方側へ後退すると、そのダッシュパネルに固定されている第1ブラケットが車両後方側へ後退する。この第1ブラケットの後退に伴いこの第1ブラケットの枢支されたレバー部材の一端部が、上記車体側部材に係合する。この係合によって、上記レバー部材は、上記一端部が前方に移動するように、その中間部を中心として回転し、その回転によって上記レバー部材の他端部が上記第2ブラケットにおける上記回動軸よりも上側位置を後方に押圧する。
【0014】
上記第2ブラケットは、自動車の衝突時に上記車体側部材が脱落するが、その脱落後に、上記レバー部材の他端部によって後方に押圧されることで、上記回動軸周りに後方に回動する。
【0015】
この第2ブラケットが後方に回動することによって、第2ブラケットに支軸が支持された操作ペダルも回動し、その結果、操作ペダルの踏み面が前方に移動する。
【0016】
このように、本発明のペダル支持構造は、第1ブラケットに枢支したレバー部材によって第2ブラケットを回動させる構造であるため、ペダル支持構造の組み付けの際に、ワイヤーを配設する必要はない。そのため、組み付け作業性が向上する。また、ワイヤーの長さを管理する必要もないため、生産性の低下も招くことはない。
【0017】
従って、操作ペダルを確実に回動させて操作ペダルの後退を防止できる自動車のペダル支持構造であって、組み付け作業性及び生産性の高い構造が実現する。
【0018】
上記第1ブラケットの後端側の部分は、自動車の前突時に後方に移動した後に上記車体側部材から離脱するように、該車体側部材に固定される、としてもよい。
【0019】
第1ブラケットが車体側部材から離脱することにより、第2ブラケット、ひいては操作ペダルの回動量がさらに増大する。
【0020】
上記第1ブラケットは、上記操作ペダルを車幅方向に挟むように配設される2つの側壁部を有し、上記レバー部材は、上記2つの側壁部の内の一方の側壁部に枢支される、としてもよい。
【0021】
つまり、レバー部材を操作ペダルに対して車幅方向の一側にのみ配設したとしても、第2ブラケットを確実に回動させることが可能であり、レバー部材を操作ペダルを挟んだ両側に配設しないことによって、生産性の向上が図られる。
【0022】
上記レバー部材は、上記第1ブラケットが後退するに従って上記第2ブラケットの回動量が大きくなるように設けることが好ましい。
【0023】
これにより、第1ブラケットの後退量が大きい程、上記第2ブラケットの回動量が大きくなって操作ペダルの回動量も大きくなるため、自動車の衝突時にドライバーの足に衝突荷重が作用することを効果的に回避可能になる。
【0024】
上記レバー部材は、そのレバー比が変更可能に設けられ、上記第2ブラケットを回動させるための回動力は、上記レバー比に応じて変更される、としてもよい。
【0025】
こうすることで、レバー比を変更することによって第2ブラケットの回動特性が変更可能になる。また、例えば車種毎に第2ブラケット(操作ペダル)の回動特性を最適化させることが可能になる。これは、レバー部材を互いに異なる車種間で共用化する上で有利である。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明の自動車のペダル支持構造によると、第1ブラケットに枢支されるレバー部材によって、操作ペダルの支軸を支持する第2ブラケットを後方に回動させるようにしたから、ペダル支持構造の組み付け作業性を向上させることができると共に、その生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
図1は本発明の実施形態に係る自動車のペダル支持構造の全体構成図を示している。同図において1は自動車の一部を構成するダッシュパネルであり、このダッシュパネル1の車両前後方向の前方側(図中左側)にはエンジン(不図示)が収容されるエンジンルーム2が、また車両前後方向の後方側(図中右側)には車室3がそれぞれ形成されている。尚、以下において車両前後方向の前方(前側)を単に前方(前側)とも呼び、車両前後方向の後方(後側)を単に後方(後側)とも呼ぶ。
【0029】
上記ダッシュパネル1後方の上方位置には、カウルパネル8が車幅方向に延びて配設されている。このカウルパネル8は、自動車の衝突時に、車室3内における乗員のスペースを確保するために、その剛性がダッシュパネル1に対して高くされ、それによって後退移動しない構造とされている。
【0030】
そして、上記ダッシュパネル1の後方位置、換言すれば車室3内における前方の下部位置には、ドライバーによって踏込み操作されるブレーキペダル4が配設されいる。このブレーキペダル4は、後述する第1ブラケット5及び第2ブラケット6によって、車幅方向に延びる支軸42周りに揺動可能に支持されている。
【0031】
上記ブレーキペダル4は、図1に示すように、上記ダッシュパネル1の後方位置で、上下方向に延びて配設されている。上記ブレーキペダル4の下端にはドライバーが足で踏み操作する踏み面41が設けられ、その上端には上記ブレーキペダル4を前後方向に揺動可能となるように支持するための支軸42が車幅方向に延びて設けられている。
【0032】
上記第1ブラケット5は、図1〜3に示すように、前方側に位置する略板状のダッシュパネル固定部51と、このダッシュパネル固定部51から後方かつ上方に向かって延びる本体部52と、からなる。本体部52は、上記ブレーキペダル4を車幅方向に挟むように配設される2つの側壁部53,53と、この2つの側壁部53,53の上端同士を連結するフレーム54とを含み、下側が開放された断面略コ字形状を有する。尚、図2においては2つの側壁部53の図示を省略して、フレーム54のみを図示している。
【0033】
この第1ブラケット5は、上記ダッシュパネル固定部51が上記ダッシュパネル1の後面にボルト部材51a,51aにより固定されることによって、上記ダッシュパネル1に締結固定され、さらに、上記フレーム54が上記カウルパネル8の下面に取り付けられている取付ブラケット7に対して、第1及び第2の2つの共締ボルト10,11によって固定されている。
【0034】
上記フレーム54は、その前側に設けられた取付孔55と、後端に設けられた凹部56(図5,8参照)と、を有している。
【0035】
上記取付孔55は、上記第1共締ボルト10が挿通される孔であって、図3に示すように、その前側が上記第1共締ボルト10の頭部よりも大きい幅の拡大部55aとされ、その後側が上記第1共締ボルト10の頭部よりも小さくかつ軸部よりも大きい幅の縮小部55bとされている。
【0036】
また、上記凹部56は、第2共締ボルト11が係合する部分であって、上記フレーム54の後端縁において半円形状に切り欠かれて設けられる。
【0037】
上記第1ブラケット5の本体部52は、詳しくは後述するが、上記取付孔55の縮小部55b内に上記第1共締ボルト10が挿通されかつ、上記凹部56に第2共締ボルト11が係合することによって、上記取付ブラケット7に固定される。そして、衝突時の所定値以上の荷重によって上記第1ブラケット5が車両後方側に後退したときには、上記第1共締ボルト10が上記取付孔55内を相対的に前方に移動して拡大部55a内に位置しかつ(図6参照)、第2共締ボルト11が凹部56から外れることによって(図5,8参照)、上記第1ブラケット5は、上記取付ブラケット7、ひいてはカウルパネル8から離脱するようになっている。
【0038】
また、上記2つの側壁部53における中央下部位置には、後述する第2ブラケット6の前端下部を車幅方向に延びる回転軸周りに回転可能に支持するための挿入孔(図示省略。尚、この挿入孔には後述するかしめピン67が挿入される)が設けられると共に、上記2つの側壁部53,53の内の一方の側壁部における後方上部位置には、後述するレバー部材9の中間部を車幅方向に延びる枢軸周りに回転可能に枢支するための挿入孔(図示省略。尚、この挿入孔には後述する枢軸ピン94が挿入される)が設けられる。
【0039】
上記第2ブラケット6は、図1〜3に示すように、上記第1ブラケット5の2つの側壁部53,53それぞれに対して車幅方向の内側に位置して、車幅方向から見て側壁部53,53と略重なるように配置される2つの重合部61,61と、2つの重合部61,61の上端縁部を車幅方向に互い連結して、上記第1ブラケット5のフレーム54の下側でこのフレーム54に対して上下方向に重なって配置される連結部62と、を有し、上記第1ブラケット5の本体部52と同様に、下側が開放された断面コ字形状に構成されている。この第2ブラケット6は、上記第1ブラケット5における後端上方の部分に覆われるように配設される。
【0040】
上記重合部61における上部位置には、車幅方向に延びるブレーキペダル4の支軸42が2つの重合部61,61間を掛け渡すように配設されている。これにより、上記ブレーキペダル4は、車幅方向に延びる支軸42周りに回動可能に支持される。
【0041】
また、上記各重合部61における前端下部位置には、図2に示すように、かしめピン67が挿入される貫通孔63が形成されており、上記かしめピン67が第2ブラケット6の貫通孔63と第1ブラケット5の挿入孔とに貫通して取り付けられることにより、上記第2ブラケット6の前端下部が上記第1ブラケット5に対して車幅方向に延びる回動軸周りに回動可能に軸支されることになる。
【0042】
上記連結部62には、前側が上記第1共締ボルト10の頭部よりも大きい幅の拡大部64aとされ、その後側が上記第1共締ボルト10の頭部よりも小さくかつ軸部よりも大きい幅の縮小部64bとされた取付孔64が、前後方向に延びて形成されている。つまり、この取付孔64は上記第1ブラケット5の取付孔55と略同じ形状を有している。
【0043】
また、上記各重合部61の後端縁には、図示省略のブレーキスイッチを取り付けるためのブレーキスイッチ取付用ブラケット65が、2つの重合部61,61間を繋ぐように取り付けられている。このブレーキスイッチ取付用ブラケット65は、上下方向に延びて配設されており、その下端部にブレーキスイッチが取り付けられる一方、その上端部は略水平に後方に延びていて、取付ブラケット7に固定される固定部66とされている。この固定部66には上記第2共締ボルト11が螺合により固定される。
【0044】
この第2ブラケット6は、詳しくは後述するが、上記取付孔64の縮小部64b内に上記第1共締ボルト10が挿通されかつ、上記固定部66に螺合した第2共締ボルト11が取付ブラケット7に係止されることによって、上記取付ブラケット7に固定される。そして、衝突時の所定値以上の荷重によって上記第1ブラケット5の後退に伴い第2ブラケット6も後退したときには、上記第1共締ボルト10が上記取付孔64内を相対的に前方に移動して拡大部64a内に位置しかつ(図6参照)、第2共締ボルト11が取付ブラケット7の係止から外れることによって(図5,8参照)、上記第2ブラケット6は、上記取付ブラケット7、ひいてはカウルパネル8から離脱するようになっている。
【0045】
上記取付ブラケット7は、図1〜3に示すように、本体部71と、この本体部71の車幅方向両側縁部に一体的に設けられた2つの取付片72,72と、を有している。
【0046】
上記本体部71には、2つの取付片72,72の間の位置に、上記第1共締ボルト10が挿入されるボルト孔(図示省略)が、その後端に上記第2共締ボルト11の頭部が係合する凹溝73(図5,8参照)がそれぞれ形成される。また、上記本体部71の車幅方向一側縁部において、上記ボルト孔と凹溝73との中間位置には、後述するように、自動車の衝突時に上記レバー部材9の係合部92が係合する係合溝74が設けられている。
【0047】
また、上記各取付片72には、この取付ブラケット7を上記カウルパネル8の下面に固定するための取付ボルト(図示省略)が挿入される取付ボルト孔72aが設けられている。
【0048】
上記レバー部材9は、上述したように、上記第1ブラケット5の2つの側壁部53,53の内、図1において手前側に位置する側壁部53の内側面に対して回転可能に枢支される部材であり、前端部が下方に位置し、後端部が上方に位置するように、前後方向に対して傾いて配設される。
【0049】
このレバー部材9は、その前端部が自動車の衝突時に上記第2ブラケット6を後方に押圧する押圧部91とされ、その後端部が衝突時に上記取付ブラケット7の係合溝74に係合する係合部92とされている。
【0050】
上記押圧部91は、図1,2に示すように、車幅方向に延びる押圧ピン93を備えており、この押圧ピン93は上記第2ブラケット6の一方の重合部61の前端縁に当接する。上記係合部92は、上記レバー部材9の後端から上方に延びて設けられており、その上端部分は上記第1ブラケット5のフレーム54から上方に突出して、上記取付ブラケット7の係合溝74の近傍に位置する。
【0051】
上記レバー部材9の中間部には、枢軸ピン94が挿入される挿入孔(図示省略)が形成されており、枢軸ピン94が上記第1ブラケット5の側壁部53の後方上部位置に設けられた挿入孔と、上記レバー部材9の挿入孔とに貫通して取り付けられることにより、上記レバー部材9が、上記第1ブラケット5に対して車幅方向に延びる枢軸周りに回動可能に枢支されることになる。
【0052】
そして、上記第2ブラケット6の前端下部が、かしめピン67によって第1ブラケット5に対して回転軸周りに回転可能に取り付けられて、取付ブラケット7の本体部71と、上記第1ブラケット5のフレーム54と、第2ブラケット6の連結部62及びブレーキスイッチ取付用ブラケット65の固定部66とが、上側から下側に順に上下方向に重ね合わされた状態において、上記第1共締ボルト10が、取付ブラケット7のボルト孔、第1ブラケット5の取付孔55の縮小部55b、及び第2ブラケット6の取付孔64の縮小部64bにそれぞれ挿入されて共締めされかつ、上記第2共締ボルト11が、取付ブラケット7の凹溝73、及び第1ブラケット5の凹部56に内にそれぞれ係合した状態で、上記ブレーキスイッチ取付用ブラケット65の固定部66に螺合することによって、上記第1及び第2ブラケット5,6が上記カウルパネル8(取付ブラケット7)に固定される。これにより、上記ブレーキペダル4は、第1及び第2ブラケット5,6によって、支軸42周りに揺動可能に支持されることになる(図1〜3参照)。
【0053】
このとき、つまり通常時においては、上記第1ブラケット5に枢支されたレバー部材9の係合部92は、上記第1ブラケット5のフレーム54よりも上方に突出して上記取付ブラケット7の係合溝74近傍に位置する一方、その押圧部91の押圧ピン93は、上記かしめピン67よりも上方位置において、上記第2ブラケット6の重合部61の前端縁に当接する。
【0054】
次に、上記のペダル支持構造において、自動車の前突時における動作について、図4〜8を参照しながら説明する。
【0055】
つまり、自動車衝突時に、所定値以上の荷重がダッシュパネル1に作用すると、ダッシュパネル1が大きく後退する。
【0056】
ここで、カウルパネル8はダッシュパネル1に対してその剛性が高くほとんど後退しないため、カウルパネル8に対して締結固定された取付ブラケット7はほとんど後退しない。一方、第1ブラケット5及び第2ブラケット6はそれぞれ、長穴形状の取付孔55,64に挿入された第1共締ボルト10並びに、後方に開口する凹溝73及び凹部56に係合する第2共締ボルト11によって、取付ブラケット7に対して固定されているため、上記ダッシュパネル1の後退に伴い大きく後退する。
【0057】
上記第1及び第2ブラケット5,6の後退に伴い、上記第1共締ボルト10が、取付孔55,64の拡大部55a,64aに位置すると共に(図6参照)、第2共締ボルト11が、取付ブラケット7の凹溝73及び第1ブラケット5の凹部56から外れ、それによって、上記第1及び第2ブラケット5,6は、取付ブラケット7から脱落可能な状態になる。
【0058】
また、上記第1ブラケット5に枢支されたレバー部材9も後退し、その係合部92が取付ブラケット7の係合溝74の後端縁部に当接する(図4,5参照)。これにより、上記レバー部材9は、枢軸ピン94を中心として図4において反時計周りに回転し、押圧部91の押圧ピン93が、上記かしめピン67よりも上方位置において、第2ブラケット6を後方に押すようになる。その結果、図7,8に示すように、上記カウルパネル8から脱落した第2ブラケット6は、かしめピン67を中心として後方へ回動するようになり、この第2ブラケット6に支軸42が支持されたブレーキペダル4も、図7において時計回りに回動する。そうして、その踏み面41が前方に移動する。
【0059】
尚、図7,8において第1ブラケット5は、カウルパネル8から脱落していない状態を例示しているが、第1ブラケット5は、上述したように、第1及び第2共締ボルト10,11による固定が解除されているため、前突時に入力される荷重に応じて上記カウルパネル8から脱落することもある。
【0060】
このように、上記のペダル支持構造は、第1ブラケット5に枢支したレバー部材9によって第2ブラケット6を回動させる構造であるため、ペダル支持構造の組み付けの際に、ワイヤー等を配設する必要はなく、ワイヤーの長さを管理する必要もない。そのため、組み付け作業性が向上すると共に、生産性の向上が図られる。つまり、ブレーキペダル4を確実に回動させてブレーキペダル4の後退を防止できる自動車のペダル支持構造であって、組み付け作業性及び生産性の高い構造が実現する。
【0061】
また、上記のペダル支持構造は、第1ブラケット5の後退量が大きい程、レバー部材9の回転量が大きくなるため、上記第2ブラケット6の回動量が大きくなってブレーキペダルの回動量も大きくなる構造である。これにより、自動車の衝突時にドライバーの足に衝突荷重が作用することを効果的に回避可能になる。
【0062】
尚、本実施形態では、本発明のペダル支持構造をブレーキペダル4に適用する例を示したが、クラッチペダルに適用することも可能である。
【0063】
また、本実施形態では、第1及び第2ブラケット5,6が固定される車両側部材としてカウルパネル8を示したが、操作ペダルに近接して配置される車両側部材であれば、カウルパネル8に限らない。
【0064】
さらに、本実施形態では第1ブラケット5をカウルパネル8から脱落させるように構成したが、第1ブラケット5は自動車の前突時に少なくとも後退するように構成すればよい。その場合でも、レバー部材9によってカウルパネル8から脱落した第2ブラケットを回動させることができる。但し、第1ブラケット5がカウルパネル8から離脱可能にすることによって、第2ブラケット6、ひいてはブレーキペダル4の回動量をさらに増大させることができるという利点がある。
【0065】
加えて、本実施形態ではレバー部材9を、第1ブラケット5の一方の側壁部53にのみ設けたが、双方の側壁部53,53それぞれに設けてもよい。但し、レバー部材9は、一方の側壁部53にのみ設けても、第2ブラケット6を確実に回動させることが可能であり、レバー部材9を1つとした方が生産性は向上する。
【0066】
さらに、本実施形態では、レバー部材9のレバー比(枢軸ピン94と係合部92までの長さと、枢軸ピン94と押圧部91間での長さの比)が一定であるが、このレバー比を変更可能に設けてもよい。例えば上記レバー部材9の中間部に、図1に一点鎖線で示すように、長手方向に延びる長穴を設ければよい。こうすることで、長穴内における枢軸ピン94の位置が変更されるように、上記レバー部材9を取り付けることによって、レバー比を変えることができる。このレバー比を変更することによって、第2ブラケット6の回動特性を変更することが可能になる。また、例えば車種毎に第2ブラケット6(操作ペダル)の回動特性を最適化させることが可能になるため、レバー部材9を互いに異なる車種間で共用化する上で有利になる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明は、第1ブラケットに枢支したレバー部材によって第2ブラケットを回動させて操作ペダルの後退を防止するようにして、組み付け作業性及び生産性の高めたから、ブレーキペダル又はクラッチペダル等の自動車における操作ペダルを支持する構造として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ペダル支持構造の全体構成図である。
【図2】図1に示す状態において第1ブラケットの部材の一部を省略してブラケット近傍を斜め上方から見た斜視図である。
【図3】図1に示す状態においてブラケット近傍を上方から見た平面図である。
【図4】衝突初期時におけるブレーキペダルの変位を示す図1対応図である。
【図5】図4に示す状態においてブラケット近傍を斜め上方から見た図2対応図である。
【図6】図4に示す状態においてブラケット近傍を上方から見た平面図である。
【図7】衝突後期時におけるブレーキペダルの変位を示す図1対応図である。
【図8】図7に示す状態においてブラケット近傍を斜め上方から見た図2対応図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ダッシュパネル
4 ブレーキペダル(操作ペダル)
42 支軸
5 第1ブラケット
51 ダッシュパネル固定部
53 側壁部
54 フレーム
6 第2ブラケット
67 かしめピン(回動軸)
7 取付ブラケット
8 カウルパネル(車両側部材)
9 レバー部材
91 押圧部
92 係合部
94 枢軸ピン(枢軸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダッシュパネルの後方に配設される操作ペダルを、車幅方向に延びる支軸周りに揺動可能に支持する自動車のペダル支持構造であって、
前端部が上記ダッシュパネルに締結固定されかつ、後端側の部分が該ダッシュパネルとは別の車体側部材に、自動車の前突時に後方に移動可能に固定される第1ブラケットと、
上記操作ペダルの支軸を支持するブラケットでありかつ、その前端下部が上記第1ブラケットに対して車幅方向に延びる回動軸周りに回動可能に軸支されかつ、その後端部が上記車体側部材に対して自動車の前突時に離脱可能に固定される第2ブラケットと、
中間部が上記第1ブラケットに対して車幅方向に延びる枢軸周りに回転可能に枢支されるレバー部材と、を備え、
上記レバー部材は、自動車の前突時に上記第1ブラケットが後方へ移動するに伴い上記中間部を挟んだ一方の端部が上記車体側部材に係合することによって、当該一方の端部が前方に移動するよう上記中間部を中心として回転すると共に、当該回転によって上記中間部を挟んだ他方の端部が上記第2ブラケットにおける上記回動軸よりも上側位置を後方に押圧し、
上記第2ブラケットは、上記車体側部材から脱落した後に、上記レバー部材の押圧によって、上記回動軸周りに後方に回動するペダル支持構造。
【請求項2】
請求項1に記載のペダル支持構造において、
上記第1ブラケットの後端側の部分は、自動車の前突時に後方に移動した後に上記車体側部材から離脱するように、該車体側部材に固定されるペダル支持構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペダル支持構造において、
上記第1ブラケットは、上記操作ペダルを車幅方向に挟むように配設される2つの側壁部を有し、
上記レバー部材は、上記2つの側壁部の内の一方の側壁部に枢支されるペダル支持構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のペダル支持構造において、
上記レバー部材は、上記第1ブラケットが後退するに従って上記第2ブラケットの回動量が大きくなるように設けられるペダル支持構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のペダル支持構造において、
上記レバー部材は、そのレバー比が変更可能に設けられ、
上記第2ブラケットを回動させるための回動力は、上記レバー比に応じて変更されるペダル支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−91959(P2006−91959A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272898(P2004−272898)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】