自動車のルーフ構造
【課題】鋼製ボデーのルーフサイドレール4にアルミニウム合金製のルーフリインフォース11を接合したルーフ構造において、焼き付け塗装時にルーフサイドレール4に熱変形(塑性歪み)が発生するのを防止し、ルーフパネル5に歪みが発生しないようにする。
【解決手段】ルーフリインフォース11がブラケット12を介してルーフサイドレール4に接合される。ブラケット12に車体幅方向に沿って波状の伸縮部12aが形成されている。伸縮部12aは車体幅方向の剛性が小さく、ルーフリインフォース11に対し車体幅方向の荷重が掛かったとき、他の部分に優先して伸縮変形する。伸縮部12aが焼き付け塗装時に伸縮することにより、ルーフフレームとルーフリインフォース11の車体幅方向の熱膨張の差(ΔE1−ΔE2)を吸収し、ルーフサイドレール4に熱変形が生じるのを防止する。
【解決手段】ルーフリインフォース11がブラケット12を介してルーフサイドレール4に接合される。ブラケット12に車体幅方向に沿って波状の伸縮部12aが形成されている。伸縮部12aは車体幅方向の剛性が小さく、ルーフリインフォース11に対し車体幅方向の荷重が掛かったとき、他の部分に優先して伸縮変形する。伸縮部12aが焼き付け塗装時に伸縮することにより、ルーフフレームとルーフリインフォース11の車体幅方向の熱膨張の差(ΔE1−ΔE2)を吸収し、ルーフサイドレール4に熱変形が生じるのを防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内を囲む鋼製ボデーの一部である左右のルーフサイドレールに、車体幅方向に延在するルーフリインフォースを接合した自動車のルーフ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ルーフリインフォースは、ルーフ構造において車体幅方向への剛性及び強度を確保し、かつルーフパネル材の張り剛性を確保するため、ルーフパネル材に近接して車体幅方向に延在し、両端に固定又は一体成形されたブラケットを介して、車体前後方向に延在する左右のルーフサイドレールと接合される。
ルーフリインフォースは、従来、鋼板のプレス成形品が用いられていたが、車両を軽量化する目的で、ルーフリインフォースに関して、アルミニウム合金板のプレス成形品や種々の断面形状を有するアルミニウム合金押出材の使用が提案されている(特許文献1〜3参照)
【0003】
図6,7はこのようなルーフリインフォースの例(片側半部のみ示す)である。図6,7において、ルーフリインフォース1は、いずれもアルミニウム合金板を断面ハット状にプレス成形したもので、その両端に平板状のブラケット2が一体成形されている。そのほか、アルミニウム合金板をプレス成形したルーフリインフォースや、特許文献2に記載されているように押出形材からなるルーフリインフォースに、別途成形した(別体の)ブラケットを固定したもの提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−219599号公報
【特許文献2】特開2006−240420号公報
【特許文献3】特開2006−240543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼製ボデーのルーフサイドレールに、アルミニウム合金製のルーフリインフォースを接合する場合、焼き付け塗装工程時にアルミニウム合金材と鋼材の熱膨張差に起因して、両者の接合箇所及びその近傍に熱変形(塑性歪み)が生じ、この熱変形が焼き付け塗装後も残留し、ルーフパネル(鋼板製とアルミニウム合金板製の両方がある)の形状精度に悪影響を与えることがある。以下、この熱変形について説明する。
【0006】
まず、図8(b)に従来のルーフ構造の一部(ルーフサイドレールとルーフリインフォースの片側半部)を示す。図8(a)はその平面図である。このルーフ構造において、ルーフサイドレール4が車体前後方向に延在し、ルーフリインフォース1が車体幅方向に延在し、ルーフリインフォース1の端部に一体成形されたブラケット2がルーフサイドレール4のフランジ4aに接合されている。また、ルーフリインフォース1の上をルーフパネル5(一点鎖線で示す)が覆い、端部のフランジがルーフサイドレール4のフランジ4aに接合されている。
【0007】
図9は、図8に示すルーフ構造を有する鋼製ボデーを焼付塗装炉に装入して170〜200℃に加熱し、続いて室温まで冷却させたときの、ルーフ構造の形状変化を示す。図9(a)は焼き付け塗装前の形状であり、図9(a)→(b)→(c)はルーフリインフォース1が鋼材からなる場合、図9(a)→(d)→(e)はルーフリインフォース1がアルミニウム合金材からなる場合の形状変化(いずれも平面視)を示す。
【0008】
ルーフリインフォース1が鋼材からなる場合、鋼製ボデーを加熱すると、図9(a)に示すルーフ構造は、図9(b)の実線に示すように(破線は加熱前の形状)、ルーフ構造全体が車体幅方向に均一に熱膨張し、熱変形(塑性歪み)が生じず、加熱後冷却すると、図9(c)に示すように、均一に収縮して当初の形状に戻る。
一方、ルーフリインフォース1がアルミニウム合金材からなる場合、鋼製ボデーを加熱すると、アルミニウム合金材の熱膨張率が鋼材より大きいため、ルーフリインフォース1の車体幅方向の伸びがルーフサイドレール4の車体幅方向の伸びより大きく、図9(d)の実線に示すように(破線は加熱前の形状)、ルーフサイドレール4のルーフリインフォース1との接合箇所及びその近傍(フランジ4a)に、ルーフリインフォース1に押されて熱変形(塑性歪み)が生じ、加熱後冷却しても、図9(e)に示すように当初の形状に戻らず、熱変形(塑性歪み)が残留する。
【0009】
このように、焼き付け塗装時及び焼き付け塗装後にルーフサイドレール4に熱変形(塑性歪み)が生じることにより、ルーフパネル5(図8参照)の形状にも歪みの発生などの悪影響が及ぶ。この点は、ルーフパネル5が鋼板製でもアルミニウム合金板製でも同じである。
本発明は、鋼製ボデーのルーフサイドレールにアルミニウム合金製のルーフリインフォースを接合したルーフ構造における、従来技術の上記問題点に鑑みてなされたもので、焼き付け塗装によってルーフサイドレールに熱変形(塑性歪み)が発生するのを防止し、ルーフパネルに歪みの発生などの悪影響が及ばないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車室内を囲む鋼製ボデーの左右のルーフサイドレールに車体幅方向に延在するアルミニウム合金製ルーフリインフォースが接合された自動車のルーフ構造において、前記ルーフリインフォースが両端にブラケットを有し、前記ブラケットを介して前記ルーフサイドレールに接合され、前記ブラケットに前記ルーフサイドレールとルーフリインフォースの車体幅方向の熱膨張の差を吸収する伸縮部が形成されていることを特徴とする。
前記ブラケットの伸縮部は、例えば車体幅方向に沿って波状又は溝状に成形され、車体幅方向の剛性がルーフリインフォース及びブラケットの中で最も小さく、ルーフリインフォースとルーフサイドレールの間に車体幅方向の圧縮又は引張荷重が掛かったとき、他の部分に優先して伸縮変形する。
前記ブラケットとして、ルーフリインフォースの本体部の両端に一体成形されたブラケットと、ルーフリインフォースの両端に固定された別体のブラケットの両方が含まれる。
【0011】
なお、本発明において車室内を囲むボデーとは、ルーフサイドレール、ピラー、サイドシル、フロアパネル及びヘッダーパネルからなる枠体であり、鋼製ボデーとはこれらの構成要素の全部又は大部分が鋼材からなることを意味する。なお、ヘッダーパネルは、車両のフロント、リアのウインドウ開口上縁に沿って車幅方向に延設される部材である。左右のルーフサイドレールの車体幅方向の熱膨張は、これらの構成要素のうち車幅方向に延在するフロアパネル及びヘッダーパネルの車体幅方向の熱膨張に支配されるから、少なくともフロアパネル及びヘッダーパネルは鋼材からなるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼製ボデーの左右のルーフサイドレールに車体幅方向に延在するアルミニウム合金製のルーフリインフォースが接合された自動車ルーフ構造において、焼き付け塗装時に生じる熱変形(塑性歪み)をルーフリインフォースのブラケット内に留め、ルーフサイドレールに熱変形(塑性歪み)が生じるのを防止して、ルーフパネルに歪みの発生などの悪影響が及ばないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[ルーフ構造]
以下、図1〜図5を参照して、本発明に係るルーフ構造について具体的に説明する。
図1(a)に本発明に係るルーフ構造の一部(ルーフサイドレールとルーフリインフォースの片側半部)を示す。このルーフ構造において、鋼製ボデーの一部であるルーフサイドレール4が車体前後方向に延在し、アルミニウム合金製のルーフリインフォース11が車体幅方向に延在し、ルーフリインフォース11がブラケット12を介してルーフサイドレール4のフランジ4aに接合されている。ルーフリインフォース1の上をルーフパネル5(仮想線で示す)が覆い、端部のフランジがルーフサイドレール4のフランジ4aに接合されている。
【0014】
ルーフリインフォース11の両端に溶接、ボルト締結等によりブラケット12が固定されている。ブラケット12は車体幅方向に沿って三角形の波状に成形された伸縮部12aを有する。伸縮部12aの車体幅方向の断面は車体前後方向のどの位置でも同一である。この伸縮部12aの車体幅方向の剛性はルーフリインフォース11及びブラケット12の中で最も小さく、ルーフリインフォース11とフールサイドレール4の間に車体幅方向の圧縮又は引張荷重が掛かったとき、他の部分に優先して伸縮変形する。
【0015】
図1(a)に示すルーフ構造を有する鋼製ボデーを、焼付塗装炉に装入して170〜200℃に加熱したときの状態を図1(b)に示す。図1(b)に示すように(破線は加熱前の形状)、鋼製ボデーは熱膨張し、このときアルミニウム合金製のルーフリインフォース11の車体幅方向の伸びΔE1がルーフサイドレール4の車体幅方向の伸びΔE2より大きく、ルーフリインフォース11とルーフサイドレール4の間に車体幅方向の圧縮荷重が掛かり、ブラケット12の伸縮部12aがΔE1−ΔE2相当分だけ縮んで、ルーフリインフォース11とルーフサイドレール4との車体幅方向の熱膨張の差(ΔE1−ΔE2)を吸収する。従って、ルーフサイドレール4に熱変形(塑性歪み)が生じるのが防止される。
続いてこの鋼製ボデーを室温まで冷却させると、ルーフリインフォース11とルーフサイドレール4が熱収縮し、これに伴いルーフリインフォース11とルーフサイドレール4の間に車体幅方向の引張荷重が掛かり、ブラケット12の伸縮部12aが熱収縮の差(ΔE1−ΔE2)相当分だけ伸びて、図1(c)に示すように、当初の形状に戻り、ルーフサイドレール4に熱変形(塑性歪み)が残留することも防止される。
【0016】
図2〜図4に、本発明に係るルーフリインフォースをより具体的に例示する(片側半部のみ示す)。
図2に示すルーフリインフォース21は、アルミニウム合金板を断面ハット状にプレス成形したもので、その端部近傍ではハット状断面が浅くなり、一体成形されたブラケット22に続いている。ブラケット22は車体幅方向に沿って三角形の波状に成形された伸縮部22aを有する。
【0017】
図3に示すルーフリインフォース31は、アルミニウム合金板を断面ハット状にプレス成形したもので、その端部近傍ではハット状断面が浅くなり、端部にアルミニウム合金板をプレス成形した別体のブラケット32が固定されている。ブラケット32は車体幅方向に沿って三角形の波状に成形された伸縮部32aを有する。
図4に示すルーフリインフォース41は、略水平な上下フランジと、それらを接続する上下方向に向く一対のリブからなる中空断面を有するアルミニウム合金押出材からなり、その端部に、アルミニウム合金をプレス成形した別体のブラケット42が固定されている。ブラケット42は車体幅方向に沿って三角形の波状に成形された伸縮部42aを有する。
【0018】
図5は、種々の伸縮部形状を有するブラケットの斜視図である。図5(a)のブラケットの伸縮部形状は、図1(a)に示すものと同じ三角形の波状、図5(b)はその上下対称形状、図5(c)は三角形の溝状、図5(d)はその上下対称形状、図5(e)は湾曲した波状、図5(f)はその上下対称形状、図5(g)は台形の溝状、図5(h)はその上下対称形状、図5(i)は湾曲した溝状、図5(j)はその上下対称形状の伸縮部である。これらの伸縮部は、いずれも車体幅方向に沿って波状又は溝状に成形され、伸縮部の車体幅方向の断面は車体前後方向のどの位置でも同一である。
【0019】
なお、本体部とブラケットが一体成形されたルーフリインフォースについては、アルミニウム合金板をプレス成形したものを具体的に示したが、アルミニウム合金押出材の端部を潰し加工したり、一部を切除することでブラケットを一体成形することも可能である。
また、別体のブラケットを固定したルーフリインフォースの場合、ブラケットをアルミニウム合金製だけでなく、鋼製とすることもできる。
【0020】
[アルミニウム合金押出材の断面形状]
ところで、ルーフリインフォースは、一般に自動車のルーフパネルの下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在し、車両側面からの車幅方向(ルーフリインフォースの軸方向)への圧縮荷重に対する高い変形強度が求められている。軸方向圧縮に対する変形強度を向上させる対策として閉断面化することが一般的であり、アルミニウム合金押出材は閉断面化に適するため、ルーフリインフォース用として閉断面を含む種々の断面形状が提案されている。
【0021】
一方、特開2006−240543号公報の段落0008に記載されているように、ルーフリインフォースにおいて軸方向圧縮に対する変形強度は、車体上下方向への曲げ変形が発生する強度により規定される。つまり、ルーフリインフォースの軸方向圧縮に対する変形強度を高めるためには、車体上下方向への曲げ強度を高くすることが有効である。前記特開2006−240543号公報の段落0025には、上下一対のフランジとこれを垂直に接続する一対のウエブからなるアルミニウム合金押出材において、各フランジが閉断面部から左右(車体前後方向)に突き出した断面(同公報の図1)は、閉断面部のみからなる断面(同公報の図3)に比べると、同一断面積であれば車体上下方向への曲げ強度が高く、軸方向圧縮に対する変形強度が高いことが記載されている。
【0022】
さらに、図10に示すように、上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在するルーフリインフォース51に対し軸方向に圧縮荷重が掛かり、ルーフリインフォース51が軸方向に押し込まれて(押込量δ)、曲げ変形が生じる際(破線→実線)、ルーフリインフォース51の横断面には軸力Pと曲げ力Fの合力が作用し、これによりルーフリインフォース51の車体幅方向中央部において上下高さ方向の下縁側に最大圧縮荷重が発生する。従って、ルーフリインフォース51の断面形状として、その上下高さ方向の下縁側に発生する応力を低くできる形状が有効である。この知見に基づけば、アルミニウム合金押出材の断面形状として、上下方向の曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置することが望ましい。
【0023】
以上をまとめると、ルーフリインフォース用として望ましいアルミニウム合金押出材の断面形状(押出方向に垂直な断面)は、互いに略平行な上下一対のフランジとこれを略垂直に接続する一対のウエブからなり、各フランジが略矩形の閉断面部から左右(車体前後方向)に突き出し、上下方向の曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置する、と表現することができる。一対のフランジは車体上側及び下側に配置され、一対のウエブは車体上下方向を向いて配置される。前記断面において、閉断面部に両端が両フランジに連結し、かつ両フランジに対し略垂直な1以上の中ウエブが形成されていてもよい。
【0024】
図11,12に上記の望ましい断面形状を、図13に従来の断面形状(前記特開2006−240543号公報の図1参照)を例示する。
まず、図11(a),(b)に示す断面は、いずれも、互いに平行で車体上側及び下側に配置される一対のフランジ61,62と、両フランジ61,62に対し垂直で車体上下方向を向く一対のウエブ63,64からなる。フランジ61,62及びウエブ63,64はそれぞれ均一な板厚を有する板である。フランジ61,62及びウエブ63,64により略矩形の閉断面部65が構成され、かつ各フランジ61,62は閉断面部65から車体前後方向に突き出し、突出フランジ部61a,61b,62a,62bが形成されている。
【0025】
さらに、図11(a)の断面は、両フランジ61,62の板幅(車体前後方向幅)L1,L2が同一で、下側フランジ62の板厚T2が上側フランジ61の板厚T1より大きく(T2>T1)、図11(b)の断面は、両フランジ61,62の板厚T1,T2が同一で、下側フランジ62の板幅L2が上側フランジ61の板幅L1より大きく(L2>L1)、そのため、それぞれの断面において、上下方向の曲げの中立軸Xcが断面の高さ中央のラインHよりも下方に位置している。
一方、図13に示す従来断面は、両フランジ61,62の板幅(車体前後方向幅)、及び両フランジ61,62の板厚が同一で、曲げの中立軸Xcと断面の高さ中央のラインHが一致している。
【0026】
図12(a)〜(c)に示す断面は、それぞれ図11(a),(b)に示す断面の変形例であり、いずれも上下方向の曲げの中立軸Xcが断面の高さ中央のラインHよりも下方に位置している。
図12(a),(b)の断面は、いずれも、閉断面部65の内部にウエブ63,64に平行な中ウエブ66が形成されている点で図11(a),(b)の断面と異なる。この中ウエブ66も均一な肉厚を有する板である。中ウエブ66は、閉断面部65の車体前後方向幅が比較的広い場合に、フランジ61,62の座屈を防止するため必要に応じて形成される。
【0027】
また、図12(c)の断面は、下側フランジ62の突出フランジ部62a,62bのみ、その板厚t2を小さくし(T2>t2)、その分、下側フランジ62の板幅L2を上側フランジの板幅L1より大きくした(L2>L1)点で、図11(a)の断面と異なる。前記特開2006−240543号公報の段落0010の記載からみると、突出フランジ部62a,62bの板厚を小さくし、板幅を大きくする方が、高い曲げ強度及び軽量化のために効率的である。
【0028】
[解析1]
アルミニウム合金押出材の断面形状が、互いに平行な一対のフランジと、前記フランジに対し垂直な一対のウエブからなり、両フランジが矩形の閉断面部から左右に突出する突出フランジ部を有する場合に、上下方向の曲げの中立軸Xcが断面の高さ中央のラインHよりも下方に位置していることの効果を検討するために、FEM解析を用いて軸方向圧壊時の軸圧縮荷重−変位曲線の解析を行った。
解析条件は、図14に示すように、上方に凸に湾曲させた(曲率半径12000mm)長さ1000mmの供試材(ルーフリインフォース71)の両端部に、側突荷重を模擬した軸圧縮荷重Pを与えて曲げ変形させるものとし、軸圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係を求めた。供試材として耐力310MPa、強度365MPa、延び14%を有する7000系アルミニウム合金押出形材を想定し、供試材の断面形状を図15のように仮定し、フランジ及びウエブの板厚(tf1,tf2,tw)をパラメータとした。FEM解析には汎用の有限要素解析コードABAQUSを用いた。
【0029】
各供試材CASE1〜3について、板厚tf1,tf2,twの値及び重量を表1に示す。CASE1は上側フランジと下側フランジの板厚が同一で、曲げの中立軸が断面の高さ中央に位置し、CASE2,3は下側フランジの板厚が上側フランジに比べて厚く形成され、曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置する。
【0030】
【表1】
【0031】
表1のCASE1〜3の各供試材について、解析で得られた圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係を図16に示す。図16に示す軸圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係から求めた変形強度(最大圧縮荷重)を表1に合わせて示す。
表1に示すように、曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置するCASE2,3は、曲げの中立軸が断面の高さ中央に位置するCASE1に比べて軽量であるにも関わらず、同等以上の変形強度を有する。
【0032】
[解析2]
次に供試材の断面形状を図17のように仮定し、下側フランジの前後突出フランジ部の板幅(Lu)と板厚(t)をパラメータとし、他は解析1と同じ条件で軸方向圧壊時の軸圧縮荷重−変位曲線の解析を行った。
各供試材CASE4〜7について、板幅Luと板厚tの値及び重量を表2に示す。CASE4は上側フランジと下側フランジの板幅が同一で、曲げの中立軸が断面の高さ中央に位置し、CASE5〜7は下側フランジの板幅が上側フランジに比べて大きく形成され、曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置する。なお、供試材の上下フランジ及び前後ウエブの板厚は同一とした。
【0033】
【表2】
【0034】
表2のCASE4〜7の各供試材について、解析で得られた圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係を図18に示す。図18に示す軸圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係から求めた変形強度(最大圧縮荷重)を表2に合わせて示す。
表2に示すように、曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置するCASE5〜7は、曲げの中立軸が断面の高さ中央に位置するCASE4に比べて軽量であるにも関わらず、同等以上の変形強度を有する。
【0035】
このように、互いに平行な一対のフランジと、前記フランジに対し垂直な一対のウエブからなり、両フランジが矩形の閉断面部から左右に突出する突出フランジ部を有するアルミニウム合金押出材において、上下方向の曲げの中立軸Xcが断面の高さ中央のラインHよりも下方に位置している場合に、高い曲げ強度が得られ、又は軽量化が可能である。従って、このアルミニウム合金押出材をルーフリインフォースとして用い、ルーフパネルの下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在させたとき、圧縮荷重に対する高い強度が得られ、又は軽量化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るルーフ構造の断面図(a)、及び焼き付け塗装前後の形状変化を示す断面図(b),(c)である。
【図2】本発明に係るルーフ構造におけるルーフリインフォース及びブラケットの斜視図(a)、及び側面図(b)である。
【図3】本発明に係るルーフ構造におけるルーフリインフォースとブラケットの斜視図(固定前)である。
【図4】本発明に係るルーフ構造におけるルーフリインフォースとブラケットの斜視図(固定前)である。
【図5】本発明に係るルーフ構造におけるルーフリインフォースのブラケットの斜視図である。
【図6】従来のルーフ構造におけるルーフリインフォース及びブラケットの斜視図(a)、及び側面図(b)である。
【図7】従来のルーフ構造におけるルーフリインフォース及びブラケットの斜視図(a)、及び側面図(b)である。
【図8】従来のルーフ構造の平面図(a)、及び断面図(b)である。
【図9】従来のルーフ構造の平面図(a)、及び焼き付け塗装前後の形状変化を示す平面図(b)〜(e)である。
【図10】ルーフリインフォースの曲げ変形時に上下断面に掛かる荷重を説明する図である。
【図11】本発明に係るルーフリインフォースに用いられるアルミニウム合金押出材の望ましい断面形状を示す図である。
【図12】本発明に係るルーフリインフォースに用いられるアルミニウム合金押出材の望ましい他の断面を示す図である。
【図13】本発明に係るルーフリインフォースに用いられるアルミニウム合金押出材の従来断面を示す図である。
【図14】FEM解析条件を説明するための模式図(左半部のみ図示)である。
【図15】FEM解析に用いた断面形状を示す図である。
【図16】FEM解析の結果得られた荷重P−変形量δのグラフである。
【図17】FEM解析に用いた他の断面形状を示す図である。
【図18】FEM解析の結果得られた荷重P−変形量δのグラフである。
【符号の説明】
【0037】
11 ルーフリインフォース
12 ブラケット
12a 伸縮部
4 ルーフサイドレール
5 ルーフパネル
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内を囲む鋼製ボデーの一部である左右のルーフサイドレールに、車体幅方向に延在するルーフリインフォースを接合した自動車のルーフ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ルーフリインフォースは、ルーフ構造において車体幅方向への剛性及び強度を確保し、かつルーフパネル材の張り剛性を確保するため、ルーフパネル材に近接して車体幅方向に延在し、両端に固定又は一体成形されたブラケットを介して、車体前後方向に延在する左右のルーフサイドレールと接合される。
ルーフリインフォースは、従来、鋼板のプレス成形品が用いられていたが、車両を軽量化する目的で、ルーフリインフォースに関して、アルミニウム合金板のプレス成形品や種々の断面形状を有するアルミニウム合金押出材の使用が提案されている(特許文献1〜3参照)
【0003】
図6,7はこのようなルーフリインフォースの例(片側半部のみ示す)である。図6,7において、ルーフリインフォース1は、いずれもアルミニウム合金板を断面ハット状にプレス成形したもので、その両端に平板状のブラケット2が一体成形されている。そのほか、アルミニウム合金板をプレス成形したルーフリインフォースや、特許文献2に記載されているように押出形材からなるルーフリインフォースに、別途成形した(別体の)ブラケットを固定したもの提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−219599号公報
【特許文献2】特開2006−240420号公報
【特許文献3】特開2006−240543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼製ボデーのルーフサイドレールに、アルミニウム合金製のルーフリインフォースを接合する場合、焼き付け塗装工程時にアルミニウム合金材と鋼材の熱膨張差に起因して、両者の接合箇所及びその近傍に熱変形(塑性歪み)が生じ、この熱変形が焼き付け塗装後も残留し、ルーフパネル(鋼板製とアルミニウム合金板製の両方がある)の形状精度に悪影響を与えることがある。以下、この熱変形について説明する。
【0006】
まず、図8(b)に従来のルーフ構造の一部(ルーフサイドレールとルーフリインフォースの片側半部)を示す。図8(a)はその平面図である。このルーフ構造において、ルーフサイドレール4が車体前後方向に延在し、ルーフリインフォース1が車体幅方向に延在し、ルーフリインフォース1の端部に一体成形されたブラケット2がルーフサイドレール4のフランジ4aに接合されている。また、ルーフリインフォース1の上をルーフパネル5(一点鎖線で示す)が覆い、端部のフランジがルーフサイドレール4のフランジ4aに接合されている。
【0007】
図9は、図8に示すルーフ構造を有する鋼製ボデーを焼付塗装炉に装入して170〜200℃に加熱し、続いて室温まで冷却させたときの、ルーフ構造の形状変化を示す。図9(a)は焼き付け塗装前の形状であり、図9(a)→(b)→(c)はルーフリインフォース1が鋼材からなる場合、図9(a)→(d)→(e)はルーフリインフォース1がアルミニウム合金材からなる場合の形状変化(いずれも平面視)を示す。
【0008】
ルーフリインフォース1が鋼材からなる場合、鋼製ボデーを加熱すると、図9(a)に示すルーフ構造は、図9(b)の実線に示すように(破線は加熱前の形状)、ルーフ構造全体が車体幅方向に均一に熱膨張し、熱変形(塑性歪み)が生じず、加熱後冷却すると、図9(c)に示すように、均一に収縮して当初の形状に戻る。
一方、ルーフリインフォース1がアルミニウム合金材からなる場合、鋼製ボデーを加熱すると、アルミニウム合金材の熱膨張率が鋼材より大きいため、ルーフリインフォース1の車体幅方向の伸びがルーフサイドレール4の車体幅方向の伸びより大きく、図9(d)の実線に示すように(破線は加熱前の形状)、ルーフサイドレール4のルーフリインフォース1との接合箇所及びその近傍(フランジ4a)に、ルーフリインフォース1に押されて熱変形(塑性歪み)が生じ、加熱後冷却しても、図9(e)に示すように当初の形状に戻らず、熱変形(塑性歪み)が残留する。
【0009】
このように、焼き付け塗装時及び焼き付け塗装後にルーフサイドレール4に熱変形(塑性歪み)が生じることにより、ルーフパネル5(図8参照)の形状にも歪みの発生などの悪影響が及ぶ。この点は、ルーフパネル5が鋼板製でもアルミニウム合金板製でも同じである。
本発明は、鋼製ボデーのルーフサイドレールにアルミニウム合金製のルーフリインフォースを接合したルーフ構造における、従来技術の上記問題点に鑑みてなされたもので、焼き付け塗装によってルーフサイドレールに熱変形(塑性歪み)が発生するのを防止し、ルーフパネルに歪みの発生などの悪影響が及ばないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車室内を囲む鋼製ボデーの左右のルーフサイドレールに車体幅方向に延在するアルミニウム合金製ルーフリインフォースが接合された自動車のルーフ構造において、前記ルーフリインフォースが両端にブラケットを有し、前記ブラケットを介して前記ルーフサイドレールに接合され、前記ブラケットに前記ルーフサイドレールとルーフリインフォースの車体幅方向の熱膨張の差を吸収する伸縮部が形成されていることを特徴とする。
前記ブラケットの伸縮部は、例えば車体幅方向に沿って波状又は溝状に成形され、車体幅方向の剛性がルーフリインフォース及びブラケットの中で最も小さく、ルーフリインフォースとルーフサイドレールの間に車体幅方向の圧縮又は引張荷重が掛かったとき、他の部分に優先して伸縮変形する。
前記ブラケットとして、ルーフリインフォースの本体部の両端に一体成形されたブラケットと、ルーフリインフォースの両端に固定された別体のブラケットの両方が含まれる。
【0011】
なお、本発明において車室内を囲むボデーとは、ルーフサイドレール、ピラー、サイドシル、フロアパネル及びヘッダーパネルからなる枠体であり、鋼製ボデーとはこれらの構成要素の全部又は大部分が鋼材からなることを意味する。なお、ヘッダーパネルは、車両のフロント、リアのウインドウ開口上縁に沿って車幅方向に延設される部材である。左右のルーフサイドレールの車体幅方向の熱膨張は、これらの構成要素のうち車幅方向に延在するフロアパネル及びヘッダーパネルの車体幅方向の熱膨張に支配されるから、少なくともフロアパネル及びヘッダーパネルは鋼材からなるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼製ボデーの左右のルーフサイドレールに車体幅方向に延在するアルミニウム合金製のルーフリインフォースが接合された自動車ルーフ構造において、焼き付け塗装時に生じる熱変形(塑性歪み)をルーフリインフォースのブラケット内に留め、ルーフサイドレールに熱変形(塑性歪み)が生じるのを防止して、ルーフパネルに歪みの発生などの悪影響が及ばないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[ルーフ構造]
以下、図1〜図5を参照して、本発明に係るルーフ構造について具体的に説明する。
図1(a)に本発明に係るルーフ構造の一部(ルーフサイドレールとルーフリインフォースの片側半部)を示す。このルーフ構造において、鋼製ボデーの一部であるルーフサイドレール4が車体前後方向に延在し、アルミニウム合金製のルーフリインフォース11が車体幅方向に延在し、ルーフリインフォース11がブラケット12を介してルーフサイドレール4のフランジ4aに接合されている。ルーフリインフォース1の上をルーフパネル5(仮想線で示す)が覆い、端部のフランジがルーフサイドレール4のフランジ4aに接合されている。
【0014】
ルーフリインフォース11の両端に溶接、ボルト締結等によりブラケット12が固定されている。ブラケット12は車体幅方向に沿って三角形の波状に成形された伸縮部12aを有する。伸縮部12aの車体幅方向の断面は車体前後方向のどの位置でも同一である。この伸縮部12aの車体幅方向の剛性はルーフリインフォース11及びブラケット12の中で最も小さく、ルーフリインフォース11とフールサイドレール4の間に車体幅方向の圧縮又は引張荷重が掛かったとき、他の部分に優先して伸縮変形する。
【0015】
図1(a)に示すルーフ構造を有する鋼製ボデーを、焼付塗装炉に装入して170〜200℃に加熱したときの状態を図1(b)に示す。図1(b)に示すように(破線は加熱前の形状)、鋼製ボデーは熱膨張し、このときアルミニウム合金製のルーフリインフォース11の車体幅方向の伸びΔE1がルーフサイドレール4の車体幅方向の伸びΔE2より大きく、ルーフリインフォース11とルーフサイドレール4の間に車体幅方向の圧縮荷重が掛かり、ブラケット12の伸縮部12aがΔE1−ΔE2相当分だけ縮んで、ルーフリインフォース11とルーフサイドレール4との車体幅方向の熱膨張の差(ΔE1−ΔE2)を吸収する。従って、ルーフサイドレール4に熱変形(塑性歪み)が生じるのが防止される。
続いてこの鋼製ボデーを室温まで冷却させると、ルーフリインフォース11とルーフサイドレール4が熱収縮し、これに伴いルーフリインフォース11とルーフサイドレール4の間に車体幅方向の引張荷重が掛かり、ブラケット12の伸縮部12aが熱収縮の差(ΔE1−ΔE2)相当分だけ伸びて、図1(c)に示すように、当初の形状に戻り、ルーフサイドレール4に熱変形(塑性歪み)が残留することも防止される。
【0016】
図2〜図4に、本発明に係るルーフリインフォースをより具体的に例示する(片側半部のみ示す)。
図2に示すルーフリインフォース21は、アルミニウム合金板を断面ハット状にプレス成形したもので、その端部近傍ではハット状断面が浅くなり、一体成形されたブラケット22に続いている。ブラケット22は車体幅方向に沿って三角形の波状に成形された伸縮部22aを有する。
【0017】
図3に示すルーフリインフォース31は、アルミニウム合金板を断面ハット状にプレス成形したもので、その端部近傍ではハット状断面が浅くなり、端部にアルミニウム合金板をプレス成形した別体のブラケット32が固定されている。ブラケット32は車体幅方向に沿って三角形の波状に成形された伸縮部32aを有する。
図4に示すルーフリインフォース41は、略水平な上下フランジと、それらを接続する上下方向に向く一対のリブからなる中空断面を有するアルミニウム合金押出材からなり、その端部に、アルミニウム合金をプレス成形した別体のブラケット42が固定されている。ブラケット42は車体幅方向に沿って三角形の波状に成形された伸縮部42aを有する。
【0018】
図5は、種々の伸縮部形状を有するブラケットの斜視図である。図5(a)のブラケットの伸縮部形状は、図1(a)に示すものと同じ三角形の波状、図5(b)はその上下対称形状、図5(c)は三角形の溝状、図5(d)はその上下対称形状、図5(e)は湾曲した波状、図5(f)はその上下対称形状、図5(g)は台形の溝状、図5(h)はその上下対称形状、図5(i)は湾曲した溝状、図5(j)はその上下対称形状の伸縮部である。これらの伸縮部は、いずれも車体幅方向に沿って波状又は溝状に成形され、伸縮部の車体幅方向の断面は車体前後方向のどの位置でも同一である。
【0019】
なお、本体部とブラケットが一体成形されたルーフリインフォースについては、アルミニウム合金板をプレス成形したものを具体的に示したが、アルミニウム合金押出材の端部を潰し加工したり、一部を切除することでブラケットを一体成形することも可能である。
また、別体のブラケットを固定したルーフリインフォースの場合、ブラケットをアルミニウム合金製だけでなく、鋼製とすることもできる。
【0020】
[アルミニウム合金押出材の断面形状]
ところで、ルーフリインフォースは、一般に自動車のルーフパネルの下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在し、車両側面からの車幅方向(ルーフリインフォースの軸方向)への圧縮荷重に対する高い変形強度が求められている。軸方向圧縮に対する変形強度を向上させる対策として閉断面化することが一般的であり、アルミニウム合金押出材は閉断面化に適するため、ルーフリインフォース用として閉断面を含む種々の断面形状が提案されている。
【0021】
一方、特開2006−240543号公報の段落0008に記載されているように、ルーフリインフォースにおいて軸方向圧縮に対する変形強度は、車体上下方向への曲げ変形が発生する強度により規定される。つまり、ルーフリインフォースの軸方向圧縮に対する変形強度を高めるためには、車体上下方向への曲げ強度を高くすることが有効である。前記特開2006−240543号公報の段落0025には、上下一対のフランジとこれを垂直に接続する一対のウエブからなるアルミニウム合金押出材において、各フランジが閉断面部から左右(車体前後方向)に突き出した断面(同公報の図1)は、閉断面部のみからなる断面(同公報の図3)に比べると、同一断面積であれば車体上下方向への曲げ強度が高く、軸方向圧縮に対する変形強度が高いことが記載されている。
【0022】
さらに、図10に示すように、上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在するルーフリインフォース51に対し軸方向に圧縮荷重が掛かり、ルーフリインフォース51が軸方向に押し込まれて(押込量δ)、曲げ変形が生じる際(破線→実線)、ルーフリインフォース51の横断面には軸力Pと曲げ力Fの合力が作用し、これによりルーフリインフォース51の車体幅方向中央部において上下高さ方向の下縁側に最大圧縮荷重が発生する。従って、ルーフリインフォース51の断面形状として、その上下高さ方向の下縁側に発生する応力を低くできる形状が有効である。この知見に基づけば、アルミニウム合金押出材の断面形状として、上下方向の曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置することが望ましい。
【0023】
以上をまとめると、ルーフリインフォース用として望ましいアルミニウム合金押出材の断面形状(押出方向に垂直な断面)は、互いに略平行な上下一対のフランジとこれを略垂直に接続する一対のウエブからなり、各フランジが略矩形の閉断面部から左右(車体前後方向)に突き出し、上下方向の曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置する、と表現することができる。一対のフランジは車体上側及び下側に配置され、一対のウエブは車体上下方向を向いて配置される。前記断面において、閉断面部に両端が両フランジに連結し、かつ両フランジに対し略垂直な1以上の中ウエブが形成されていてもよい。
【0024】
図11,12に上記の望ましい断面形状を、図13に従来の断面形状(前記特開2006−240543号公報の図1参照)を例示する。
まず、図11(a),(b)に示す断面は、いずれも、互いに平行で車体上側及び下側に配置される一対のフランジ61,62と、両フランジ61,62に対し垂直で車体上下方向を向く一対のウエブ63,64からなる。フランジ61,62及びウエブ63,64はそれぞれ均一な板厚を有する板である。フランジ61,62及びウエブ63,64により略矩形の閉断面部65が構成され、かつ各フランジ61,62は閉断面部65から車体前後方向に突き出し、突出フランジ部61a,61b,62a,62bが形成されている。
【0025】
さらに、図11(a)の断面は、両フランジ61,62の板幅(車体前後方向幅)L1,L2が同一で、下側フランジ62の板厚T2が上側フランジ61の板厚T1より大きく(T2>T1)、図11(b)の断面は、両フランジ61,62の板厚T1,T2が同一で、下側フランジ62の板幅L2が上側フランジ61の板幅L1より大きく(L2>L1)、そのため、それぞれの断面において、上下方向の曲げの中立軸Xcが断面の高さ中央のラインHよりも下方に位置している。
一方、図13に示す従来断面は、両フランジ61,62の板幅(車体前後方向幅)、及び両フランジ61,62の板厚が同一で、曲げの中立軸Xcと断面の高さ中央のラインHが一致している。
【0026】
図12(a)〜(c)に示す断面は、それぞれ図11(a),(b)に示す断面の変形例であり、いずれも上下方向の曲げの中立軸Xcが断面の高さ中央のラインHよりも下方に位置している。
図12(a),(b)の断面は、いずれも、閉断面部65の内部にウエブ63,64に平行な中ウエブ66が形成されている点で図11(a),(b)の断面と異なる。この中ウエブ66も均一な肉厚を有する板である。中ウエブ66は、閉断面部65の車体前後方向幅が比較的広い場合に、フランジ61,62の座屈を防止するため必要に応じて形成される。
【0027】
また、図12(c)の断面は、下側フランジ62の突出フランジ部62a,62bのみ、その板厚t2を小さくし(T2>t2)、その分、下側フランジ62の板幅L2を上側フランジの板幅L1より大きくした(L2>L1)点で、図11(a)の断面と異なる。前記特開2006−240543号公報の段落0010の記載からみると、突出フランジ部62a,62bの板厚を小さくし、板幅を大きくする方が、高い曲げ強度及び軽量化のために効率的である。
【0028】
[解析1]
アルミニウム合金押出材の断面形状が、互いに平行な一対のフランジと、前記フランジに対し垂直な一対のウエブからなり、両フランジが矩形の閉断面部から左右に突出する突出フランジ部を有する場合に、上下方向の曲げの中立軸Xcが断面の高さ中央のラインHよりも下方に位置していることの効果を検討するために、FEM解析を用いて軸方向圧壊時の軸圧縮荷重−変位曲線の解析を行った。
解析条件は、図14に示すように、上方に凸に湾曲させた(曲率半径12000mm)長さ1000mmの供試材(ルーフリインフォース71)の両端部に、側突荷重を模擬した軸圧縮荷重Pを与えて曲げ変形させるものとし、軸圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係を求めた。供試材として耐力310MPa、強度365MPa、延び14%を有する7000系アルミニウム合金押出形材を想定し、供試材の断面形状を図15のように仮定し、フランジ及びウエブの板厚(tf1,tf2,tw)をパラメータとした。FEM解析には汎用の有限要素解析コードABAQUSを用いた。
【0029】
各供試材CASE1〜3について、板厚tf1,tf2,twの値及び重量を表1に示す。CASE1は上側フランジと下側フランジの板厚が同一で、曲げの中立軸が断面の高さ中央に位置し、CASE2,3は下側フランジの板厚が上側フランジに比べて厚く形成され、曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置する。
【0030】
【表1】
【0031】
表1のCASE1〜3の各供試材について、解析で得られた圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係を図16に示す。図16に示す軸圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係から求めた変形強度(最大圧縮荷重)を表1に合わせて示す。
表1に示すように、曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置するCASE2,3は、曲げの中立軸が断面の高さ中央に位置するCASE1に比べて軽量であるにも関わらず、同等以上の変形強度を有する。
【0032】
[解析2]
次に供試材の断面形状を図17のように仮定し、下側フランジの前後突出フランジ部の板幅(Lu)と板厚(t)をパラメータとし、他は解析1と同じ条件で軸方向圧壊時の軸圧縮荷重−変位曲線の解析を行った。
各供試材CASE4〜7について、板幅Luと板厚tの値及び重量を表2に示す。CASE4は上側フランジと下側フランジの板幅が同一で、曲げの中立軸が断面の高さ中央に位置し、CASE5〜7は下側フランジの板幅が上側フランジに比べて大きく形成され、曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置する。なお、供試材の上下フランジ及び前後ウエブの板厚は同一とした。
【0033】
【表2】
【0034】
表2のCASE4〜7の各供試材について、解析で得られた圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係を図18に示す。図18に示す軸圧縮荷重P−圧縮変形量δの関係から求めた変形強度(最大圧縮荷重)を表2に合わせて示す。
表2に示すように、曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置するCASE5〜7は、曲げの中立軸が断面の高さ中央に位置するCASE4に比べて軽量であるにも関わらず、同等以上の変形強度を有する。
【0035】
このように、互いに平行な一対のフランジと、前記フランジに対し垂直な一対のウエブからなり、両フランジが矩形の閉断面部から左右に突出する突出フランジ部を有するアルミニウム合金押出材において、上下方向の曲げの中立軸Xcが断面の高さ中央のラインHよりも下方に位置している場合に、高い曲げ強度が得られ、又は軽量化が可能である。従って、このアルミニウム合金押出材をルーフリインフォースとして用い、ルーフパネルの下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在させたとき、圧縮荷重に対する高い強度が得られ、又は軽量化が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るルーフ構造の断面図(a)、及び焼き付け塗装前後の形状変化を示す断面図(b),(c)である。
【図2】本発明に係るルーフ構造におけるルーフリインフォース及びブラケットの斜視図(a)、及び側面図(b)である。
【図3】本発明に係るルーフ構造におけるルーフリインフォースとブラケットの斜視図(固定前)である。
【図4】本発明に係るルーフ構造におけるルーフリインフォースとブラケットの斜視図(固定前)である。
【図5】本発明に係るルーフ構造におけるルーフリインフォースのブラケットの斜視図である。
【図6】従来のルーフ構造におけるルーフリインフォース及びブラケットの斜視図(a)、及び側面図(b)である。
【図7】従来のルーフ構造におけるルーフリインフォース及びブラケットの斜視図(a)、及び側面図(b)である。
【図8】従来のルーフ構造の平面図(a)、及び断面図(b)である。
【図9】従来のルーフ構造の平面図(a)、及び焼き付け塗装前後の形状変化を示す平面図(b)〜(e)である。
【図10】ルーフリインフォースの曲げ変形時に上下断面に掛かる荷重を説明する図である。
【図11】本発明に係るルーフリインフォースに用いられるアルミニウム合金押出材の望ましい断面形状を示す図である。
【図12】本発明に係るルーフリインフォースに用いられるアルミニウム合金押出材の望ましい他の断面を示す図である。
【図13】本発明に係るルーフリインフォースに用いられるアルミニウム合金押出材の従来断面を示す図である。
【図14】FEM解析条件を説明するための模式図(左半部のみ図示)である。
【図15】FEM解析に用いた断面形状を示す図である。
【図16】FEM解析の結果得られた荷重P−変形量δのグラフである。
【図17】FEM解析に用いた他の断面形状を示す図である。
【図18】FEM解析の結果得られた荷重P−変形量δのグラフである。
【符号の説明】
【0037】
11 ルーフリインフォース
12 ブラケット
12a 伸縮部
4 ルーフサイドレール
5 ルーフパネル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内を囲む鋼製ボデーの左右のルーフサイドレールに車体幅方向に延在するアルミニウム合金製ルーフリインフォースが接合された自動車のルーフ構造において、前記ルーフリインフォースが両端にブラケットを有し、前記ブラケットを介して前記ルーフサイドレールに接合され、前記ブラケットに前記ルーフサイドレールとルーフリインフォースの車体幅方向の熱膨張の差を吸収する伸縮部が形成されていることを特徴とする自動車のルーフ構造。
【請求項2】
前記ブラケットは、前記伸縮部において車体幅方向に沿って波状又は溝状に成形されていることを特徴とする請求項1に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項3】
前記ブラケットが前記ルーフリインフォースの両端に一体成形されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項4】
前記ブラケットが別体で成形されたもので前記ルーフリインフォースの両端に固定されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項5】
前記ルーフリインフォースがアルミニウム合金押出材からなることを特徴とする請求項4に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項6】
前記ルーフリインフォースがルーフパネルの下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在し、前記アルミニウム合金押出材は、押出方向に垂直な断面でみたとき、互いに略平行で車体上側及び下側に配置される一対のフランジと、前記両フランジに対し略垂直で車体上下方向を向く一対のウエブからなり、前記一対のフランジ及び一対のウエブにより略矩形の閉断面部が構成され、かつ各フランジは前記閉断面部から車体前後方向に突き出し、さらに前記断面において上下方向の曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置することを特徴とする請求項5に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項7】
前記アルミニウム合金押出材の閉断面部に、両端が前記両フランジに連結し、かつ両フランジに対し略垂直で車体上下方向を向く1以上の中ウエブが形成されていることを特徴とする請求項6に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項1】
車室内を囲む鋼製ボデーの左右のルーフサイドレールに車体幅方向に延在するアルミニウム合金製ルーフリインフォースが接合された自動車のルーフ構造において、前記ルーフリインフォースが両端にブラケットを有し、前記ブラケットを介して前記ルーフサイドレールに接合され、前記ブラケットに前記ルーフサイドレールとルーフリインフォースの車体幅方向の熱膨張の差を吸収する伸縮部が形成されていることを特徴とする自動車のルーフ構造。
【請求項2】
前記ブラケットは、前記伸縮部において車体幅方向に沿って波状又は溝状に成形されていることを特徴とする請求項1に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項3】
前記ブラケットが前記ルーフリインフォースの両端に一体成形されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項4】
前記ブラケットが別体で成形されたもので前記ルーフリインフォースの両端に固定されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項5】
前記ルーフリインフォースがアルミニウム合金押出材からなることを特徴とする請求項4に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項6】
前記ルーフリインフォースがルーフパネルの下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在し、前記アルミニウム合金押出材は、押出方向に垂直な断面でみたとき、互いに略平行で車体上側及び下側に配置される一対のフランジと、前記両フランジに対し略垂直で車体上下方向を向く一対のウエブからなり、前記一対のフランジ及び一対のウエブにより略矩形の閉断面部が構成され、かつ各フランジは前記閉断面部から車体前後方向に突き出し、さらに前記断面において上下方向の曲げの中立軸が断面の高さ中央よりも下方に位置することを特徴とする請求項5に記載された自動車のルーフ構造。
【請求項7】
前記アルミニウム合金押出材の閉断面部に、両端が前記両フランジに連結し、かつ両フランジに対し略垂直で車体上下方向を向く1以上の中ウエブが形成されていることを特徴とする請求項6に記載された自動車のルーフ構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−36746(P2010−36746A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202592(P2008−202592)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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