説明

自動車の側部車体構造

【課題】車両衝突時にノーズダウン現象が生じた場合にも、入力をベルトラインリインホースに効率よく、かつ確実に伝達できる自動車の側部車体構造を提供する。
【解決手段】少なくともベルトラインL上におけるフロントドア4の前壁面4dとフロントピラー2の後壁面2fとを、車両前後方向に隙間Sを設けて対向させ、かつベルトラインLと直交する垂直線Aに対して車両後方に傾斜させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前面衝突時の入力をアッパメンバからフロントピラーを介してフロントドア内に配設されたベルトラインリインホースに伝達するようにした自動車の側部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車両前面衝突時の入力をアッパメンバからベルトラインリインホースを介して車体後部に伝達することにより、車室への影響を回避する構造を採用している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、フロントドアの組付け時のばらつき等を吸収するとともに、ドアシール部材の配置スペースを確保する観点から、フロントピラーの後壁面とフロントドアの前壁面との間に所定の隙間を設けるようにしている。一方、車両衝突時の入力をフロントピラーからベルトラインリインホースに効率よく伝達するには、前記隙間はできるだけ小さくするのが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−26041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記フロントピラーの後壁面及びフロントドアの前壁面の前記隙間が形成される部分は略垂直方向に延びている。そして車両前面衝突時には、車体前側が沈み、後側が浮き上がるというノーズダウン現象が生じ易い。このノーズダウン現象が生じると、フロントピラー,フロントドアが前傾する傾向があるため前記隙間の前後方向間隔が広くなる。このように前後間隔が広くなるとそれだけフロントピラーからベルトラインリインホースへの入力伝達に時間がかかってしまうこととなり、入力をベルトラインリインホースに効率よく伝達できなくなるおそれがある。
【0006】
また前記入力伝達時間の遅れにより、前輪が先にフロントピラーに当たることになれば、前輪からの入力によりフロントピラーが車内側に倒れるように変形するおそれがある。その結果、入力をベルトラインリインホースに確実に伝達することができなくなり、車室への影響が大きくなるという懸念がある。
【0007】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、車両前面衝突時にノーズダウン現象が生じた場合にも、入力をベルトラインリインホースに効率よく、かつ確実に伝達できる自動車の側部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両上下方向に延びるフロントピラーと、車両前後方向に延び、その後端部が前記フロントピラーの前壁部に接続されたアッパメンバと、前記フロントピラーの後側にヒンジを介して開閉可能に支持されたフロントドアと、該フロントドア内に、ベルトラインに沿って車両前後方向に延び、かつ車両前後方向に見たとき前記フロントピラーを挟んで前記アッパメンバに対向するよう配設されたベルトラインリインホースとを備え、車両前面衝突時の入力を、前記アッパメンバからフロントピラーを介して前記ベルトラインリインホースに伝達するようにした自動車の側部車体構造であって、少なくとも前記ベルトライン上における前記フロントドアの前壁面と前記フロントピラーの後壁面とを、車両前後方向に所定の隙間を設けて対向させ、かつ前記ベルトラインと直交する垂直線に対して車両後方に傾斜させたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る側部車体構造によれば、ベルトライン上におけるフロントドアの前壁面とフロントピラーの後壁面とを、車両前後方向に所定の隙間を設けて対向させ、かつベルトラインと直交する垂直線に対して車両後方に傾斜させる構成とした。
【0010】
このように構成したので、車両前面衝突時のノーズダウン現象により、フロントピラー及びフロントドアが前記傾斜状態から垂直状態に近くなるように前傾する。これにより後壁面及び前壁面が垂直方向に起立することとなり、ベルトライン部での前後方向隙間、つまり前後方向間隔が小さくなる。この前後方向の隙間が小さくなる分だけベルトラインリインホースへの入力伝達時間を短くすることができ、入力をベルトラインリインホースに効率よく伝達することができる。
【0011】
また前記ベルトラインリインホースへの入力伝達時間を短くできることから、前輪が先にフロントピラーに当たるのを回避でき、該フロントピラーの車内側への倒れ込みを防止することができる。これにより、入力をベルトラインリインホースに確実に伝達することができ、車室への影響を抑制できる。
【0012】
また車両衝突時にフロントピラーによりベルトラインリインホースを下方に抑えようとする力が働くこととなり、車体後側の浮き上がりを抑制することができるとともに、衝突時の入力をベルトラインリインホースから車体後部に効率よく伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例1による自動車の側部車体の斜視図である。
【図2】前記側部車体の概略平面図である。
【図3】前記側部車体の側面図である。
【図4】前記側部車体のベルトライン部の断面図(図3のIV-IV線断面図)である。
【図5】前記側部車体のベルトライン部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1ないし図5は、本発明の実施例1による自動車の側部車体構造を説明するための図である。なお、本実施例の説明の中で、前後,左右という場合は、シートに着座した状態で車両前進方向に見た場合の前後,左右を意味する。
【0016】
図において、1はオープンカーの側部車体を示している。この側部車体1は、左,右対称をなしており、車両上下方向に延びる左,右のフロントピラー2,2と、車両前後方向に延び、その後端部3aが前記フロントピラー2に接続された左,右のアッパメンバ3,3と、前記左,右のフロントピラー2の後側に上,下一対のヒンジ5,5を介して開閉可能に支持されたフロントドア4,4とを備えている。なお、5aは、ヒンジ5のフロントドア回動中心である(図4参照)。
【0017】
また前記側部車体1は、車両前後方向に延び、その前端部8aに前記フロントピラー2の下端部が接続されたロッカパネル8と、車両上下方向に延び、その下端部が前記ロッカパネル8の後端部8bに接続されたセンターピラー9とを備えている。
【0018】
前記フロントピラー2,ロッカパネル8及びセンターピラー9によりドア開口1aが形成され、該ドア開口1aに前記フロントドア4が配設されている。
【0019】
前記左,右のセンターピラー9には、後方に延びるクォータパネル14,14の前端部が接続され、該左,右のクォータパネル14の後端部間には車幅方向に延びるロアバックパネル15が接続されている。
【0020】
前記左,右のロッカパネル8の車内側には、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ10,10が配設されている。この左,右のサイドメンバ10の前端部間にはラジエータサポート11が接続されている。
【0021】
また前記左,右のロッカパネル8間にはフロアパネル12が配設されており、該フロアパネル12の前縁部には、エンジン室と車室とを画成するダッシュパネル13の下縁部が接続されている。
【0022】
前記左,右のサイドメンバ10の車外側の前記アッパメンバ3の下方には、前輪16,16が配設されており、前記左,右のクォータパネル4の下方には、不図示の後輪が配設されている。また左,右のアッパメンバ3間の上方には、前記エンジン室を開閉するフード18が低所に位置するよう配設されている。
【0023】
前記左,右のアッパメンバ3は、アウタ部材3bとインナ部材3cとを角筒状の閉断面をなすよう結合した構造を有する。このアッパメンバ3の前端部3dと前記サイドメンバ10とは、上下方向に延びる結合部材17により連結されている。この結合部材17により、車両前面衝突時の入力の一部はサイドメンバ10からアッパメンバ3に分散させて伝達される。
【0024】
前記左,右のフロントドア4は、ドアアウタ4aとドアインナ4bとを中空状をなすよう外縁部同士をヘミング結合した概略構造を有する(図4参照)。
【0025】
前記ドアインナ4bは、前縁部から車内側に屈曲して延びるヒンジ取付け壁4cと、該ヒンジ取付け壁4cに続いて車内側に段付き状に屈曲して延びる前壁4dとを有し、該前壁4dは、車両前後方向に見たとき前記フロントピラー2に対向するよう形成されている。
【0026】
前記フロントドア4内には、ベルトラインLに沿って車両前後方向に延びるベルトラインリインホース20が配設されている。ここで、ベルトラインLとは、ベルトラインリインホース20の上縁を通る直線をいう。
【0027】
前記ベルトラインリインホース20は、鋼管材20aの前端部及び後端部にそれぞれ前方及び後方に突出する板状のチップ部材20b,20cを固着した構造を有し、前記ドアインナ4bに結合されている。この前側のチップ部材20bは、これの前端面20dが前記ドアインナ4bの前壁4dに近接又は当接するよう配置されている。
【0028】
車両側方から見たとき、前記アッパメンバ3及びベルトラインリインホース20は、略同じ高さ位置をなし、かつ前記ベルトラインL上に直線状をなすよう配置されている。
【0029】
これにより車両前面衝突時の入力は、アッパメンバ3からフロントピラー2を介してベルトラインリインホース20に伝達され、該ベルトラインリインホース20からセンターピラー9を介してクォータパネル14に伝達される。
【0030】
前記左,右のフロントピラー2は、前記ロッカパネル8から垂直方向上方に延びる下半部22と、該下半部22の上端に続いて後斜め上方に傾斜して延びる上半部23とを有する。
【0031】
この左,右の下半部22の上端部間には、車幅方向に延びるカウルパネル24が接続されており、前記左,右の上半部23の上端部間には、車幅方向に延びるヘッドアッパパネル25が一体に接続形成されている。これによりウインド開口1bが形成され、該ウインド開口1bにはウインドシールドガラス26が配設されている。
【0032】
車両側方から見たとき、前記フロントピラー2の上半部23は、これの上端がドア開口1aの前後方向中央部付近に位置するよう大きく傾斜しており、前記ウインドシールドガラス26は、前縁に対して左,右側縁が後方に大きく回り込むように湾曲形成されている。この種のオープンカーでは、ウインドシールドガラス26の曲率を大きくし、かつフード18を低所に位置させる意匠となっている。このためフロントピラー2がダッシュパネル13より後方に離れた位置に配置されることから、それだけアッパメンバ3の前後方向長さが長くなっている。
【0033】
前記左,右のフロントピラー2は、横断面視ハット形状のピラーアウタ2aと平板形状のピラーインナ2bとを角筒状の閉断面をなすよう前フランジ部2c,2c同士及び後フランジ部2d,2d同士を結合した構造を有する。
【0034】
前記フロントピラー2内には、前記ピラーアウタ2aに沿うように形成された横断面視ハット形状のピラーリインホース21が配設されている。このピラーリインホース21は、前記前フランジ部2c及び後フランジ部2dに一体に結合されている。
【0035】
前記フロントピラー2のピラーアウタ2aには、前記アッパメンバ3のアウタ部材3bが接続固定され、前フランジ部2cには、前記アッパメンバ3のインナ部材3cが接続固定されている。
【0036】
前記ピラーリインホース21の後壁部21aには、横断面コ字形状のパッチ部材27が接続固定されている(図4参照)。このパッチ部材27は、ベルトラインLの延長線上に位置し、かつ前記ピラーアウタ2aの後壁2fに近接又は当接するよう配置されている。
【0037】
前記パッチ部材27は、矩形状の底板27aに上,下辺部27b及び外辺部27cを一体に折り曲げ形成した構造を有する。
【0038】
車両衝突時に、ベルトラインリインホース20のチップ部材20bが、ドアインナ4bの前壁4d,ピラーアウタ2aの後壁2fに相対的に食い込んでパッチ部材27に突き当たるとともに、上,下辺部27b,外辺部27cの何れかに係合することとなる。これによりフロントピラー2の車内側への倒れ込みを防止している。
【0039】
前記フロントドア4の前壁4dの前面と、前記フロントピラー2の後壁2fの後面とは、これの上下方向略全長に渡って車両前後方向に所定の隙間Sを設けて対向している。この隙間Sは、略平行をなしており、フロントドア4をフロントピラー2に組付ける際のばらつきを吸収するとともに、フロントドア4とドア開口1aとの間をシールするシール部材28の配置スペースを確保するのに必要な寸法に設定されている。
【0040】
そして前記ベルトラインL部分におけるフロントドア4の前壁4dと、フロントピラー2の後壁2fとは全体として見ると曲率の大きい円弧状をなしており、かつベルトラインリインホース20のチップ部材20bが対向する部分同士は垂直線Aに対して車両後方に所定角度をなすよう傾斜している。前記隙間Sは、前記フロントドア4の前壁4dと、フロントピラー2の後壁2fとの前記傾斜している部分同士を略水平方向に計測した場合の間隔を意味している。
【0041】
ここで、前記アッパメンバ3に設定されたバリア衝突時の軸方向変形量と前記隙間Sとの和は、バリアと前輪16の前端との間隔、該前輪16の後端とロッカパネル8の前端との間隔及び前輪16のタイヤの変形量の和より小さい値に設定されている。
【0042】
このように設定することにより、前輪16からの入力がフロントピラー2に伝わる前に、アッパメンバ3からの入力がフロントピラー2からベルトラインリインホース20に伝わることとなり、ルーフのないオープンカーにおけるベルトライン部での衝突エネルギーの伝達効率を高めることができる。
【0043】
本実施例によれば、ベルトラインL上におけるフロントドア4の前壁4dとフロントピラー2の後壁2fとを、車両前後方向に所定の隙間Sを設けて対向させ、かつベルトラインLと直交する垂直線Aに対して車両後方に所定角度をなすよう傾斜させている。そして車両前面衝突時にノーズダウン現象が発生すると、前記フロントピラー2及びフロントドア4は、前記所定角度が小さくなる方向に前傾し、つまり後壁2f及び前壁4dが垂直線Aに近くなるように起き上がることとなる。これにより、ベルトラインL部での前後方向隙間SがS′に小さくなる(図5参照)。この前後方向の隙間が小さくなる分だけ、フロントピラー2からベルトラインリインホース20への入力伝達時間を短くすることができ、アッパメンバ3からの入力をベルトラインリインホース20に瞬時にかつ効率よく伝達することができる。
【0044】
特に車高の低いオープンカーの場合は、前述のようにフロントピラー2がダッシュパネル13より後方に回り込んでおり、アッパメンバ3の前後寸法が大きくなることから、ノーズダウン現象が生じ易い。
【0045】
本実施例では、前記ベルトラインリインホース20への入力伝達時間を短くできることから、前輪16が先にフロントピラー2に当たるのを回避でき、フロントピラー2の車内側への倒れ込みを防止することができる。これにより、入力をベルトラインリインホース20に確実に伝達することができ、車室への影響を抑制できる。
【0046】
また車両衝突時に前記フロントピラー2によりベルトラインリインホース20を下方に抑えようとする力が働くこととなり、車体後部の浮き上がりを抑制することができるとともに、入力をベルトラインリインホース20からクォータパネル14に効率よく伝達することができる。
【0047】
なお、前記実施例では、本発明をルーフのないオープンカーの側部車体に適用した場合を例に説明したが、本発明は、ルーフを備えた自動車の側部車体にも適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 側部車体
2 フロントピラー
2f 後壁
3 アッパメンバ
3a 後端部
4 フロントドア
4d 前壁
5 上,下ヒンジ
20 ベルトラインリインホース
A 垂直線
L ベルトライン
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両上下方向に延びるフロントピラーと、
車両前後方向に延び、その後端部が前記フロントピラーの前壁部に接続されたアッパメンバと、
前記フロントピラーの後側にヒンジを介して開閉可能に支持されたフロントドアと、
該フロントドア内に、ベルトラインに沿って車両前後方向に延び、かつ車両前後方向に見たとき前記フロントピラーを挟んで前記アッパメンバに対向するよう配設されたベルトラインリインホースとを備え、
車両前面衝突時の入力を、前記アッパメンバからフロントピラーを介して前記ベルトラインリインホースに伝達するようにした自動車の側部車体構造であって、
少なくとも前記ベルトライン上における前記フロントドアの前壁面と前記フロントピラーの後壁面とを、車両前後方向に隙間を設けて対向させ、かつ前記ベルトラインと直交する垂直線に対して車両後方に傾斜させた
ことを特徴とする自動車の側部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−6525(P2013−6525A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140602(P2011−140602)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】