説明

自動車の前部構造

【課題】本発明は、フロントウインドウガラスの下部を支持するカウルボックスを備えた自動車の前部構造において、フロントウインドウガラスの下端部を前方に延設できない場合であっても、部品点数を増加させることなく、カウルボックスの後壁とカバー部材の間からの水の吸い込みを防止して、カバー部材の防水機能を高めることができる自動車の前部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】カウルパネル61の上部に形成した段部63形状に沿って、防水延出部14がほぼ一致した状態で当接することで、側面視で上下方向に連続したクランク形状の当接面Fを構成して、いわゆるラビリンス形状を得ている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の前部構造に関し、特に、フロントウインドウガラスの下部を支持するカウルボックスにおける空調装置への水の吸い込みを防止する自動車の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の車体前部には、ダッシュパネルの上方でフロントウインドウガラスの下部を支持するカウルボックスを車幅方向に延びるように設置することが知られている。このカウルボックスは、空調装置等に対して外気を導入するエアボックスとしての機能やワイパー装置の収納空間として機能を有し、一般に上方を開放した、いわゆるオープンカウル構造として構成される。
【0003】
ところで、空調装置への空気導入の際には、できるだけ空調装置内への水の吸い込みを防止することが求められる。そこで、例えば、下記特許文献1では、カウルボックスのパネルに形成した空調用空気取入れ口の上方に「ひさし」状に延びるカバー部材(水切り板)を設置して水の吸込みを防止する構造が開示されている。
【0004】
この構造によると、カウルボックス上部のカウルグリルを通過した空気は、カバー部材により、一旦カウルボックスの下部空間を迂回してから、空調用空気取入れ口に吸い込まれることになり、水が除去された空気が空調装置に導入されることになる。
【特許文献1】特開2004−58722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般に、カウルボックスの上部では、フロントウインドウガラスを支持しており、このフロントウインドウガラスの下端部を前方に延設することにより、フロントウインドウガラスから流れ落ちる雨水等をカウルボックス内部に流れ落とすようにしている。
【0006】
しかし、フロントウインドウガラスの下端部を前方に延設できない場合には、カウルボックスのガラス支持部付近まで、フロントウインドウガラスの下端部が後退して、そのガラス支持部近傍、すなわち、カウルボックスの後壁上部に、雨水等が流れ落ちてしまうことになる。
【0007】
こうして、カウルボックスの後壁上部に雨水等が流れ落ちると、前述の特許文献1のような、ひさし状のカバー部材を、カウルボックスの後壁に設置したとしても、空調装置のブロアの吸引力により、そのカウルボックスの後壁とカバー部材との間の隙間から、雨水等が吸い込まれる可能性があり、カバー部材によって、空気を迂回させることにより水の吸い込みを防止するという防水機能が発揮できないおそれが生じる。
【0008】
この問題に対しては、カバー部材と後壁との間に水が浸入しないように別の防水部材を設けることが考えられるが、別途部材を設けると、部品点数の増加、組付け工数の増加を招くといった別の問題が生じる。
【0009】
そこで、本発明は、フロントウインドウガラスの下部を支持するカウルボックスを備えた自動車の前部構造において、フロントウインドウガラスの下端部を前方に延設できない場合であっても、部品点数を増加させることなく、カウルボックスの後壁とカバー部材の間からの水の吸い込みを防止して、カバー部材の防水機能を高めることができる自動車の前部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の自動車の前部構造は、下部がダッシュロアパネルに接合されて車室内への空気取入れ口を形成した縦壁部と該縦壁部の上端から後方に後退してフロントウインドウガラスの下部を支持する後退壁部とを備えるカウルパネルと、該カウルパネルに下部が接合されるともに上端が該カウルパネルの後退壁に接合されて該カウルパネルとの間で閉断面を構成するするダッシュアッパーパネルと、前記カウルパネルの下端から前方に延びるカウルクロスメンバと、前記フロントウインドウガラスに後端が当接して前端が前記カウルクロスメンバに固定されるとともに外気取り入れ口を設けたカウルグリルと、該カウルグリルの下方であって前記空気取入れ口の上方で前方に延びるカバー部材と、該カバー部材に形成されて前記カウルパネルの縦壁部及び後退壁部に当接する防水当接部とを備えたものである。
【0011】
上記構成によれば、カウルパネルの縦壁部と後退壁部に対して当接する防水当接部をカバー部材に形成したことで、カバー部材の防水当接部がカウルパネルの形状に応じて側面視逆L字状に当接することになる。
このため、カバー部材とカウルパネルの当接部分が、いわゆるラビリンス形状を有することになり、この当接部分からの水の吸い込みをラビリンス効果によって防止できる。
【0012】
なお、カバー部材は、カウルパネルにラビリンス形状に当接すれば、何に取り付けられていてもよく、例えば、カウルグリルやカウルクロスメンバ等に取り付けられていてもよい。
また、カバー部材の形状についても、空気取入れ口の上方に位置するものであれば、どのようなものであってもよい。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記フロントウインドウガラスの下端縁を平面視で車幅方向側部が後退するように略円弧形状に形成し、前記防水当接部をカバー部材の車幅方向側部に形成したものである。
上記構成によれば、自動車の車体形状により、フロントウインドウガラスの車幅方向側部が後退する場合において、防水当接部をカバー部材の側部に形成することにより、車幅方向外方側での雨水等の流れ込みに対して、防水当接部が適切に水の浸入を防止できる。
よって、車体形状により生じる車幅方向外方側での雨水等の浸入を、適切に防止するため、カバー部材の防水機能を高めることができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記カウルパネルの縦壁部に当接する防水当接部に、カバー部材の取付け部を設定したものである。
上記構成によれば、防水当接部にカバー部材の取付け部を設けたことにより、防水当接部におけるカウルパネルとの密着性を高めることができ、防水当接部による防水性をより向上できる。
よって、防水当接部による水の吸い込み防止機能を高めることができ、確実にカバー部材の防水機能を高めることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記カウルパネルの後退壁部の前端に、縦面と横面とからなる段部を形成し、該段部に対応するように、前記防水当接部を形成して、該防水当接部に上方に延びるリブを設けたものである。
上記構成によれば、カウルボックスの捩れ剛性を高める等のために、カウルパネルの前端に段部を形成した場合には、その段部に沿って車幅方向に水が流れることになる。この水の流れに対して、防水当接部の上方に延びるリブが、水の流れを遮断して、防水当接部を乗り越える水の流れを防止できる。
このため、フロントウインドウガラスより覆われる車幅方向中央側への水の流れを抑制でき、車幅方向中央位置における水の流れ込みを完全に排除できる。
よって、防水当接部をカバー部材の車幅方向全域に形成しなくても、カウルパネルとカバー部材との間からの水の浸入を防ぐことができ、水の吸い込みを防止できる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、前記防水当接部に、前記段部の縦面と横面に対応するように縦部と横部を形成し、該縦部と横部を前記リブで連結したものである。
上記構成によれば、車幅方向の水の流れを防ぐリブで、防水当接部の縦部と横部を連結したことにより、縦部と横部の剛性が高まり、段部への密着性を高めることができる。
よって、カウルパネルの後退壁部の前端に段部を設けた場合であっても、防水当接部を確実に密着させることができ、防水当接部の防水性を向上できる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記カウルパネルの後退壁部を正面視で車幅方向外方端部が下方に位置するように傾斜して形成したものである。
上記構成によれば、カウルパネルの後退壁部の車幅方向外方端部が下方に傾斜するため、後退壁部上の水は、車幅方向外方側に流れることになる。
このため、車幅方向内方側へ水が流れ込みにくくなり、車幅方向内方側に位置する防水当接部への水の飛散を抑制できる。
よって、防水当接部への水の飛散を抑制して、防水当接部における防水性をさらに向上することができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記防水当接部をカバー部材の車幅方向両側位置に形成したものである。
上記構成によれば、カバー部材の車幅方向両側に防水当接部を設けたことにより、カバー部材の車幅方向両側方からの水の浸入に対して、それぞれの防水当接部が各々車幅方向の水の流れを遮断することになる。
よって、カバー部材の両側方、いずれの方向から水が流れ込んだとしても、カバー部材の上方には水が流れ込まないため、より確実にカバー部材の防水性を高めることができる。
また、この両側の防水当接部を、組付け作業時に、カウルパネルに預ける係止片としても利用できるため、カバー部材の組付け作業性も向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、カバー部材とカウルパネルの当接部分が、いわゆるラビリンス形状を有することになり、この当接部分からの水の吸い込みをラビリンス効果によって防止できる。
よって、フロントウインドウガラスの下部を支持するカウルボックスを備えた自動車の前部構造において、フロントウインドウガラスの下端部を前方に延設できない場合であっても、部品点数を増加させることなく、カウルボックスのカウルパネルとカバー部材の間からの水の吸い込みを防止して、カバー部材の防水機能を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
まず、図1、図2により、本発明の第一実施形態の全体構造について説明する。図1は自動車の前部構造の斜視図、図2はカウルボックス部分の全体斜視図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の自動車Vの前部には、エンジンルームERの上方を覆うボンネット1と、ボンネット1前方で車幅方向に配置されるフロントバンパー2と、車体側部の外表面を構成するフロントフェンダー3と、ボンネット1後方で前傾配置されるフロントウインドウガラス4と、フロントウインドウガラス4の両側で前傾配置されるフロントピラー5とを備えている。
【0022】
このうち、ボンネット1後端の下方位置には、フロントウインドウガラス4の下部を車幅方向に延びて支持するカウルボックス6を設置している。
【0023】
このカウルボックス6は、図2に示すように、車幅方向に延びて、上部を開放したいわゆるオープンカウル構造の略樋形状のボックス体で構成している。このカウルボックス6の後部上端において、フロントウインドウガラス4の下部4aを車幅方向にわたって支持している。
【0024】
このカウルボックス6は、後述するように、複数の構成要素を組み合わせることで構成している。また、このカウルボックス6は、中央部と車幅方向両側部に、前後方向に延びるワイパー支持ブラケット7とサイドブラケット8,8を設けることで、カウルボックス6の捩れ剛性を高めている。
【0025】
このカウルボックス6内の後縦壁であるカウルパネル61の車幅方向左側側部には、車室内に設置した空調装置(図示せず)へ空気を導入するための空気取入れ口62を形成している。また、この空気取入れ口62の上方位置には、前方側に延びる防水カバー10を設置している。
【0026】
この防水カバー10の構造について、図3〜図7により説明する。図3はカウルボックス6内に防水カバー10を組み付けた状態の正面図、図4はその平面図、図5は図3のA−A線に対応する矢視断面図、図6は図3のB−B線に対応する矢視断面図、図7は防水カバー10の単品斜視図である。なお、図5、図6の各断面図は、車両組付け状態における断面図を示しており、フロントウインドウガラス4や、カウルグリル9についても、それぞれ図示している。
【0027】
防水カバー10は、図3に示すように、車幅方向且つ前後方向に延びる「ひさし」状の部材で構成しており、空気取入れ口62の上方位置のカウルパネル61に取り付けられている。
【0028】
この防水カバー10は、合成樹脂で成形されており、図7に示すように、前方に延びて前下がりに傾斜する傾斜部11と、その前端で折り返されて後下がりに傾斜する前端フランジ部12と、傾斜部11の後端でカウルパネル61に当接する当接フランジ部13と、その当接フランジ部13の左側側部の上部で上方に突出する防水延出部14とを備えている。
【0029】
前述の傾斜部11には、前後方向に延びる複数の補強隆起部15…を車幅方向に並ぶように形成して、その補強隆起部15…と当接フランジ部13の間を、前後方向に延びる複数のリブ16…で連結している。このように、補強隆起部15とリブ16を設けることにより、傾斜部11の面剛性を高めて、傾斜部11が大量の雨水等を受けた場合でも、容易に撓まないように構成している。
【0030】
前述の前端フランジ部12は、図5、図6に示すように、上方に延びる上側フランジ12aと下方に延びる下側フランジ12bとからなり、この上側フランジ12aと下側フランジ12bが、上下方向に連続することにより、上方から導入した導入空気の迂回経路を形成している。
【0031】
すなわち、図5に示すように、上方のカウルグリル9の外気導入口9aからカウルボックス6内に取り込まれた空気は、一旦、傾斜部11で車両前方側に案内された後、上側フランジ12aと下側フランジ12bを回避するようにして、カウルボックス6の下部に案内され、カウルボックス6の下部を経由した後に、空気取入れ口62に導入される。
【0032】
このとき、上側フランジ12aと下側フランジ12bが上下方向に連続していることで、空気が必ずカウルボックス6の下部に案内されることになり、即座に空気取入れ口62に吸い込まれるおそれをなくしているのである。
【0033】
また、この前端フランジ部12は、傾斜部11との間で断面V字状の樋部17を形成している。この樋部17は、傾斜部11で受けた水を防水カバー10の車幅方向側部に案内して排水するように構成しており、これにより、空調ブロア(図示せず)の吸引力が作用している空気取入れ口62前方への水の落ち込みを防いで、空調装置への水の吸い込みを防止している。
【0034】
前述の当接フランジ部13には、図7に示すように、車幅方向中央側に形成した右側取付け穴18と、車幅方向側端側に形成した左側取付け穴19と、各取付け穴の中間位置に形成した中央取付け穴20を形成している。また、この各取付け穴18,19,20に対応して取付け工具(図示せず)の作業性を高めるために、逃げ部21…を形成している。
【0035】
この各取付け穴18,19,20には、図6に示すようにクリップ部材Nが差し込まれ、このクリップ部材Nによって、防水カバー10をカウルボックス6に組み付けるように構成している。このように、クリップ部材Nによって防水カバー10が組み付けられることにより、当接フランジ部13がカウルパネル61に当接する。なお、具体的に図示はしないが、この当接フランジ部13とカウルパネル61の間にはシール材を介装している。
【0036】
前述の防水延出部14は、図7に示すように、当接フランジ部13の左側側部の上部に、当接フランジ部13と連続的に形成されており、当接フランジ部13から後方側に延びて、その後端から上方側に延びるように形成されている。具体的には、後方に延びる横部14aと上方に延びる縦部14bとを備えており、その横部14aと縦部14bを、上方且つ後方に延びる略三角形状の連結リブ14cで連結して構成している。
【0037】
このように、防水延出部14を構成したことにより、図6に示すように、カウルパネル61の上部に形成した段部63形状に沿って、防水延出部14がほぼ一致した状態で当接することになる。
【0038】
このように、防水延出部14が当接することで、防水カバー10と側面視で上下方向に連続したクランク形状の当接面Fを構成して、いわゆるラビリンス形状を得ている。
【0039】
次に、この防水カバー10を取り付けるカウルボックス6の構造について説明する。
カウルボックス6は、図5に示すように、上下方向に延びるダッシュロアパネル70に下部が接合されて中央に空気取入れ口62を形成した縦壁部61aとその上端から後方側に後退してフロントウインドウガラス4の下部4aを支持する後退壁部61bとを備えるカウルパネル61と、そのカウルパネル61に対して下部と上部が接合されてカウルパネル61との間で第一閉断面αを構成するダッシュアッパーパネル64と、ダッシュアッパーパネル64の下端にシール部材65を介して固定されて前方に延びる水平壁部66aとその前端から上方に延びる前縦壁部66bとその上端から前方に延びる上面部66cとを備えるカウルクロスメンバ66と、そのカウルクロスメンバ66に対して上部と下部が接合されてカウルクロスメンバ66との間で第二閉断面βを構成するカウルクロスレイン67とで構成している。
【0040】
なお、これらの構成要素は、車幅方向において形状が変化するように構成されており、図6に示すように、場所によっては、カウルパネル61とダッシュアッパーパネル64だけでカウルボックス6を形成するように構成している。
【0041】
また、カウルパネル61の後退壁部61bの前端には、前述した段部63を形成している。この段部63は横面63aと縦面63bを有して車幅方向に延びており、カウルパネル61の捩れ剛性を高めている。このようにカウルパネル61の捩れ剛性を高めることで、前述の第一閉断面αの剛性も高めることができ、カウルボックス6全体の捩れ剛性を高めることができる。
【0042】
このように構成されるカウルボックス6に対して、本実施形態では、前述のように、防水カバー10を車幅方向左側側部に取り付けている。
【0043】
このため、図4に示すように、平面視でフロントウインドウガラス4の下端縁ラインLよりも、防水カバー10の左側側部が外方側に位置することになる。特防水カバー10の側端部では、防水カバー10とカウルパネル61との間の当接部分Pがフロントウインドウガラス4の下端縁ラインLより外方に位置することになる。
【0044】
フロントウインドウガラス4の下端縁ラインLは、一般に自動車の車体形状によって決定され、フロントピラー(図示せず)を後方側に位置させる場合には、本実施形態のように、中央部より外方側部が後方側に後退した略円弧状に形成されることになる。
【0045】
こうしたことから、防水カバー10の側部においては、フロントウインドウガラス4によって覆われない領域が生じ、このように覆われない領域において、上方から雨水等が流れ落ちることになり、防水カバー10とカウルパネル61の当接部分Pから水の浸入が生じ易くなる。特に、空調装置のブロアの吸引力によって、水の吸い込みの可能性が高くなる。このように当接部分Pから水の浸入があると、前述した防水カバー10の空気経路の迂回による防水効果が半減して、空調装置に水が吸い込まれてしまうことになる。
【0046】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、フロントウインドウガラス4の下端縁ラインLより内方側位置に、前述の防水延出部14を設定している。この位置に防水延出部14を設定したことにより、防水カバー10がカウルパネル61にラビリンス形状で当接することになるため、いわゆるラビリンス効果により水の吸い込みが防止される。
【0047】
また、防水延出部14は、カウルパネル61の車幅方向に延びる段部63に沿うようにして当接しているが、この段部63では、フロントウインドウガラス4等から流れ落ちた水が車幅方向に流れる。この水の流れに対しても、防水延出部14に設けた連結リブ14cが堰き止めるため、車幅方向内方側への水の流れ込みを抑制することができる。
【0048】
さらに、この防水延出部14が当接する段部63は、図3に示すように、車幅方向外方端部63cが下方に位置するように傾斜して形成している。このため、フロントウインドウガラス4から流れ落ちた水が車幅方向内方側へ流れにくくなり、防水延出部14自体への水の飛散も抑制することができる。
【0049】
加えて、防水延出部14に連結リブ14cを設けていることで、横部14aと縦部14bの剛性が高まり、カウルパネル61に形成した段部63との密着性を常時高めておくことができる。
【0050】
特に、この防水延出部14の直下位置の当接フランジ部13に左側取付け穴19を設け、クリップ部材Nで取り付け固定しているため、より防水延出部14の密着力を高めることができる。よって、防水延出部14のラビリンス効果をさらに高めることができる。
【0051】
次に、本実施形態の作用効果について、詳述する。
この実施形態の自動車の前部構造は、車幅方向に延びるカウルボックス6のカウルパネル61に、空調装置へ空気を取り入れる空気取入れ口62を形成し、その空気取入れ口62の上方に、防水カバー10を設置して、その防水カバー10にカウルパネル61の縦壁部61a及び後退壁部61bに当接する当接フランジ部13と防水延出部14を形成している。
【0052】
これにより、カウルパネル61の縦壁部61aと後退壁部61bに対して、防水カバー10の当接フランジ部13と防水延出部14が少なくとも側面視逆L字状で当接することになる。
このため、防水カバー10とカウルパネル61の当接部分(当接面F)が、いわゆるラビリンス形状を有することになり、この当接部分からの水の吸い込みをラビリンス効果によって防止できる。
よって、フロントウインドウガラス4の下部4aを支持するカウルボックス6を備えた自動車の前部構造において、フロントウインドウガラス4の下端部を前方に延設できない場合であっても、部品点数を増加させることなく、カウルボックス6のカウルパネル61と防水カバー10の間からの水の吸い込みを防止して、防水カバー10の防水機能を高めることができる。
【0053】
なお、本実施形態の具体的構造では、カウルパネル61の段部63に対応して防水延出部14を形成しているため、防水カバー10とカウルパネル61の当接部分は側面視「略クランク状」で当接しているが、段部63がない場合には、当然、側面視逆L字状で当接することになる。
【0054】
また、本実施形態では、防水カバー10をカウルパネル61に取り付けているが、その他の実施形態としては、カウルパネル61に当接していれば、防水カバー10をカウルグリル9やカウルクロスメンバ66等に取り付けるように構成してもよい。
さらに、防水カバー10についても、空気取入れ口62の上方に位置するものであれば、略L字断面形状のブラケット、平板状のブラケット等、特に限定されるものでもない。
【0055】
また、この実施形態では、フロントウインドウガラス4の下端縁ラインLを平面視で車幅方向側部が後退するように略円弧形状に形成して、防水延出部14を防水カバー10の車幅方向側部に形成している。
これにより、フロントウインドウガラス4の車幅方向側部が後退して、カウルパネル61の車幅方向外方側に雨水等が流れ込むような車体形状であっても、防水カバー10の側部に設けた防水延出部14と当接フランジ部13とで適切に水の浸入を防止できる。
よって、車体形状により生じる車幅方向外方側の雨水の浸入を、側部位置で防止できるため、防水カバー10の防水機能を高めることができる。
【0056】
また、この実施形態では、カウルパネル61の縦壁部61aに当接する当接フランジ部13のうち防水延出部14の直下位置に、防水カバー10の取付け部(左側取付け穴19)を設定している。
これにより、当接フランジ部13と防水延出部14におけるカウルパネル61との密着性を高めることができ、より当接フランジ部13と防水延出部14による防水性を向上できる。
よって、当接フランジ部13と防水延出部14による水の吸い込み防止機能を高めることができ、確実に防水カバー10の防水機能を高めることができる。
【0057】
また、この実施形態では、カウルパネル61の後退壁部61bの前端に、横面63aと縦面63bとからなる段部63を形成し、段部63に対応するように、防水延出部14を形成して、その防水延出部14に上方に延びる連結リブ14cを設けている。
これにより、段部63に沿って水が車幅方向に流れる場合に、この車幅方向の水の流れに対して、防水延出部14に上方に延びる連結リブ14cを設けたことで、水の流れを遮断して、水が防水延出部14を乗り越えて車幅方向に流れるのを防止できる。
このため、フロントウインドウガラス4より覆われた車幅方向中央側への水の流れ込みを抑制でき、車幅方向中央位置における水の流れ込みを完全に排除できる。
よって、防水延出部14を防水カバー10の車幅方向全域に形成しなくても、カウルパネル61と防水カバー10との間からの水の浸入を防ぐことができ、段部63により水が車幅方向に流れる場合でも、水の吸い込みを防止できる。
【0058】
また、この実施形態では、防水延出部14に、段部63の縦面63bと横面63aに対応するように縦部14bと横部14aを形成し、その縦部14bと横部14aを連結リブ14cで連結している。
これにより、縦部14bと横部14aの剛性が高まり、防水延出部14と段部63との密着性を高めることができる。
よって、カウルパネル61の後退壁部61bの前端に段部63を設けた場合であっても、防水延出部14を確実に密着させることができ、防水延出部14の防水性を向上できる。
【0059】
また、この実施形態では、前記カウルパネル61の後退壁部61bを正面視で車幅方向外方端部(63c)が下方に位置するように傾斜して形成している。
これにより、カウルパネル61の後退壁部61bが車幅方向外方端部(63c)で下方に傾斜するため、後退壁部61b上の水は、車幅方向外方側に流れることになる。
このため、車幅方向内方側に位置する防水延出部14側に後退壁部61bの水が流れ込みにくくなり、防水延出部14への水の飛散も抑制できる。
よって、防水延出部14への水の飛散を抑制して、防水延出部14における防水性をさらに向上することができる。
【0060】
次に、第二実施形態について、図8、図9で説明する。図8は図7に対応する防水カバー10の単品側面図、図9は図3に対応するカウルボックス6内に防水カバー100を組み付けた状態の正面図である。なお、同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
この実施形態では、防水延出部を左側(14)だけではなく、右側(114)にも設けて、左右二つの防水延出部14、114で、防水カバー100の防水性を図っている。
【0062】
具体的には、図8に示すように、防水カバー100の右側上部に、前述の防水延出部14と同様に、横部114aと縦部114bと連結リブ114cとを備える防水延出部114を形成して、カウルパネル61とラビリンス形状の当接面を構成するようにしている。
【0063】
この防水カバー100を、カウルボックス6に組み付けると、図9の状態で組み付けられることになるが、防水延出部14、114が防水カバー100の両側に位置することになるため、左側の車幅方向外方側からだけではなく、右側の車幅方向内方側からの水の流れも遮断することができる。
【0064】
このため、例えば、車幅方向内方側から水が流れ込んだとしても、防水カバー100の上方には水が流れ込まないため、より確実に、水の吸い込みを防止することができる。
よって、防水カバー100の両側方いずれから水が流れ込んでも、防水カバー100の上方には水が流れ込まないため、より確実に防水カバー100の防水性を高めることができる。
【0065】
また、防水延出部14,114を、左右両側に形成していることで、防水カバー100の組付けの際に、この両側の防水延出部14,114をカウルパネル61に預ける係止片としても利用できる。よって、防水カバー10のカウルボックス6への組付け性も向上させることができる。
その他の作用効果については、第一実施形態と同様である。
【0066】
なお、これらの実施形態では、防水カバー10,100を合成樹脂で成形したが、その他、ステンレス板等の金属材料で成形してもよい。
【0067】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明のカバー部材は、実施形態の防水カバー10,100に対応し、
以下同様に、
防水当接部は、防水延出部14,114、当接フランジ部13に対応し、
取付け部は、左側取付け穴19に対応し、
リブは、連結リブ14cに対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる自動車の前部構造に適用する実施形態を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】第一実施形態の自動車の前部構造の斜視図。
【図2】カウルボックスの全体斜視図。
【図3】カウルボックス内に防水カバーを組み付けた状態の正面図。
【図4】カウルボックス内に防水カバーを組み付けた状態の平面図。
【図5】図3のA−A線に対応する車両組付け状態における矢視断面図。
【図6】図3のB−B線に対応する車両組付け状態における矢視断面図。
【図7】防水カバーの単品斜視図。
【図8】第二実施形態の防水カバーの単品斜視図。
【図9】第二実施形態の防水カバーを組み付けた状態の正面図。
【符号の説明】
【0069】
4…フロントウインドウガラス
6…カウルボックス
9…カウルグリル
10…防水カバー
13…当接フランジ部
14…防水延出部
14c…連結リブ
100…防止カバー
114…防水延出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の前部構造において、
下部がダッシュロアパネルに接合されて車室内への空気取入れ口を形成した縦壁部と該縦壁部の上端から後方に後退してフロントウインドウガラスの下部を支持する後退壁部とを備えるカウルパネルと、
該カウルパネルに下部が接合されるともに上端が該カウルパネルの後退壁部に接合されて該カウルパネルとの間で閉断面を構成するするダッシュアッパーパネルと、前記カウルパネルの下端から前方に延びるカウルクロスメンバと、
前記フロントウインドウガラスに後端が当接して前端が前記カウルクロスメンバに固定されるとともに外気取り入れ口を設けたカウルグリルと、
該カウルグリルの下方であって前記空気取入れ口の上方で前方に延びるカバー部材と、
該カバー部材に形成されて前記カウルパネルの縦壁部及び後退壁部に当接する防水当接部とを備えた
を備えた自動車の前部構造。
【請求項2】
前記フロントウインドウガラスの下端縁を平面視で車幅方向側部が後退するように略円弧形状に形成し、
前記防水当接部をカバー部材の車幅方向側部に形成した
請求項1記載の自動車の前部構造。
【請求項3】
前記カウルパネルの縦壁部に当接する防水当接部に、カバー部材の取付け部を設定した
請求項2記載の自動車の前部構造。
【請求項4】
前記カウルパネルの後退壁部の前端に、縦面と横面とからなる段部を形成し、
該段部に対応するように、前記防水当接部を形成して、
該防水当接部に上方に延びるリブを設けた
請求項1〜3いずれか記載の自動車の前部構造。
【請求項5】
前記防水当接部に、前記段部の縦面と横面に対応するように縦部と横部を形成し、
該縦部と横部を前記リブで連結した
請求項4記載の自動車の前部構造。
【請求項6】
前記カウルパネルの後退壁部を正面視で車幅方向外方端部が下方に位置するように傾斜して形成した
請求項1〜5いずれか記載の自動車の前部構造。
【請求項7】
前記防水当接部をカバー部材の車幅方向両側位置に形成した
請求項4記載の自動車の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−326385(P2007−326385A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157057(P2006−157057)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】