説明

自動車の前部車体構造

【課題】フロントフェンダに関係する補強部材の合理的な設置によって、フロントフェンダ自体の剛性向上を図ると共に、車体前部の曲げ剛性、ねじれ剛性の向上を図ること。
【解決手段】フロントフェンダ21の内側に剛性部材25を設ける。剛性部材25は、フロントフェンダ21の造形面に沿う形状に形成されて当該フロントフェンダ21に接合されるフェンダ接合部27と、フェンダ接合部27の上縁側から折曲して車幅方向内側に延出し、ホイールハウス5の上部を車体前後方向に延在するフロントアッパメンバ11に接合されたフロントアッパメンバ接合部29とを一体に有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部車体構造に関し、特に、フロントフェンダ部分の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントフェンダは、フロントピラーのロアメンバやフロントホイールハウス、フロントアッパメンバ等に取り付けられてフロントホイールハウス上部の車体外板を成している。このフロントフェンダとしては、鋼板によるプレス成形品のものと、プラスチックスによる樹脂成形品のものとが知られている。
樹脂成形品によるフロントフェンダでは、フェンダ内側に複数個の縦リブを一体成形し、縦リブをホイールエプロン等の車体構成部材に当接させてフロントフェンダの剛性向上を図ったものがある(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−96169号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のプレス成形品によるフロントフェンダは、鋼板製で、車体外板としてだけに存在し、車体前部の剛性部材としては活用されていない。鋼板製のフロントフェンダは、車体の軽量化のために、益々板厚が薄くなる傾向があり、このために、重量増加を抑えてフロントフェンダ自体の剛性を高めることが要望されている。
【0004】
樹脂成形品によるフロントフェンダは、縦リブの設置によってフロントフェンダ自体の剛性は向上するが、縦リブは、単に車幅方向に延在するものであるため、車体の上下方向の曲げ荷重に対しては効果的な剛性を持たない。また、車体のねじれ剛性についても耐力を持たない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、フロントフェンダに関係する補強部材の合理的な設置によって、フロントフェンダ自体の剛性向上はもとより、車体前部の曲げ剛性、ねじれ剛性の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による自動車の前部車体構造は、フロントフェンダの内側に剛性部材が設けられ、前記剛性部材は、前記フロントフェンダの造形面に沿う形状に形成されて当該フロントフェンダに接合されるフェンダ接合部と、前記フェンダ接合部の上縁側から折曲して車幅方向内側に延出し、ホイールハウスの上部を車体前後方向に延在するフロントアッパメンバに接合されたフロントアッパメンバ接合部とを一体に有する。
【0007】
本発明による自動車の前部車体構造は、好ましくは、前記剛性部材の前記フェンダ接合部は、前記フロントフェンダのタイヤハウスに倣った円弧状下縁に整合する円弧状下縁を有し、当該フェンダ接合部の前記円弧状下縁は、前記フロントフェンダの前記円弧状下縁のヘミング加工によって前記フロントフェンダに固定され、前記フロントフェンダの造形面に沿う形状をして当該フロントフェンダの造形面に面接触する部分を接着剤によって前記フロントフェンダに面状に接着されている。
【0008】
本発明による自動車の前部車体構造は、好ましくは、前記剛性部材の前記フェンダ接合部は、車体前後方向に延在するサイドシルに接続する部位まで延長されている。
【0009】
本発明による自動車の前部車体構造は、好ましくは、前記剛性部材の前記フェンダ接合部と前記フロントアッパメンバ接合部とは、折曲稜線によって互いに接続されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明による自動車の前部車体構造によれば、剛性部材のフェンダ接合部がフロントフェンダの造形面に沿う形状に形成されて当該フロントフェンダに接合されていることにより、フロントフェンダの面剛性が向上し、フロントフェンダを車体前部の剛性部材として活用できるようになる。その上で、同剛性部材のフロントアッパメンバ接合部が、フロントアッパメンバに接合されていることにより、更にはサイドシルに接続する部位まで延びていることにより、車体前部の曲げ剛性、ねじれ剛性が向上する。
【0011】
特に、剛性部材のフェンダ接合部の円弧状下縁がフロントフェンダの円弧状下縁のヘミング加工によってフロントフェンダに固定され、フェンダ接合部がフロントフェンダの造形面に沿う形状をして当該フロントフェンダの造形面に面接触する部分を接着剤によってフロントフェンダに面状に接着されていることにより、フロントフェンダの面剛性が効果的に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明による自動車の前部車体構造の一つの実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0013】
これらの図において、1は車体前後方向に延在するフロントサイドメンバを、3はフロントサイドメンバ1の後端と接続されて車体前後方向に延在するサイドシルを、5はホイールハウス部7を一体的に有するダンバハウジングを、9はフロントピラーアッパメンバを、11は後端をフロントピラーアッパメンバ9の下端に接続されてホイールハウス部7の上部を車体前後方向に延在するフロントアッパメンバを、13はエンジンルームと車室とを車体前後に区画する隔壁としてのロアダッシュボードを、15は車幅方向に延在して左右のフロントサイドメンバ1の先端を互いに接続するフロントロアークロスメンバを、17はホイールハウス部7に配置されるフロントホイール(前輪)を各々示している。
【0014】
フロントフェンダ21は、鋼板によるプレス成形品、つまり板金製のものであり、サイドシル3やフロントピラーアッパメンバ9に接続されている。フロントフェンダ21は、タイヤハウス部7に倣った円弧状下縁に整合する円弧状下縁21Aを有する。
【0015】
フロントフェンダ21の内側には鋼板製の剛性部材(補強板)25が設けられている。剛性部材25は、フロントフェンダ21の造形面(意匠面)に沿う形状に形成されてフロントフェンダ21に接合されるフェンダ接合部27と、フェンダ接合部27の上縁側27Aから折曲して車幅方向内側に延出し、ホイールハウス部7の上部をフロントアッパメンバ11に接合されたフロントアッパメンバ接合部29とを、プレス成形品として一体に有する。
【0016】
剛性部材25のフェンダ接合部27とフロントアッパメンバ接合部29とは、直角あるいは直角に近い角度をもった折曲稜線bによって互いに接続されている。
【0017】
フロントアッパメンバ接合部29のフロントアッパメンバ11に対する接合は、図3、図4に、符号wによって示されているように、フロントアッパメンバ11の下面に対するスポット溶接により行われている。
【0018】
剛性部材25のフェンダ接合部27は、フロントフェンダ21の円弧状下縁21Aに整合する円弧状下縁27Bを有し、フェンダ接合部27の円弧状下縁27Bは、フロントフェンダ21の円弧状下縁21Aのヘミング加工(ヘム加工)によってフロントフェンダ21に固定されている。このヘミング加工部は、図4に符号hに示されている。
【0019】
剛性部材25のフェンダ接合部27がフロントフェンダ21の造形面に沿う形状をして部分27Cは、フロントフェンダ21の造形面に面接触し、当該部分を接着剤(図示省略)によってフロントフェンダ21に面状に接着されている。この接着面は、フェンダ接合部27のフロントフェンダ21との接触面(図2にクロスハッチングにより示す領域)全体あるいはヘミング加工部hを除いたフロントフェンダ21との接触面全周の何れであってもよい。
【0020】
剛性部材25のフェンダ接合部27は、延長部27Aをもってサイドシル3に接続する部位まで延長されている。
【0021】
上述したように、フロントフェンダ21に剛性部材25が取り付けられ、剛性部材25のフェンダ接合部27がフロントフェンダ21の造形面に沿う形状に形成されて当該フロントフェンダ21に接合されていることにより、フロントフェンダ21の面剛性が向上し、フロントフェンダ21を車体前部の剛性部材として活用できるようになる。
【0022】
特に、剛性部材25のフェンダ接合部27の円弧状下縁27Bが、フロントフェンダ21の円弧状下縁21Aのヘミング加工によって、フロントフェンダ21に固定され、フェンダ接合部27がフロントフェンダ21の造形面に沿う形状をして当該フロントフェンダ21の造形面に面接触する部分を接着剤によってフロントフェンダ21に面状に接着されていることにより、フロントフェンダの面剛性が効果的に向上する。
【0023】
その上で、剛性部材25のフロントアッパメンバ接合部29が、フロントアッパメンバ11に接合されていることにより、車体前部の曲げ剛性、ねじれ剛性が向上する。
【0024】
剛性部材25が折曲稜線bを有することにより、剛性部材25自体の剛性も高いことにのより、剛性部材25は、車体前部の曲げ剛性、ねじれ剛性の向上に大きく寄与する。
【0025】
更には、剛性部材25のフェンダ接合部27が延長部27Aをもってサイドシル3に接続する部位まで延びていることにより、車体前部の曲げ剛性、ねじれ剛性が、更に効果的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による自動車の前部車体構造の一つの実施形態を示す要部の平面図である。
【図2】本発明による自動車の前部車体構造の一つの実施形態を示す要部の側面図である。
【図3】本発明による自動車の前部車体構造の一つの実施形態を示す要部の拡大底面図である。
【図4】図1の線IV−IVに沿った断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 フロントサイドメンバ
3 サイドシル
5 ホイールハウス
9 フロントピラーアッパメンバ
11 フロントアッパメンバ
17 フロントホイール
21 フロントフェンダ
25 剛性部材
27 フェンダ接合部
29 フロントアッパメンバ接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフェンダの内側に剛性部材が設けられ、
前記剛性部材は、前記フロントフェンダの造形面に沿う形状に形成されて当該フロントフェンダに接合されるフェンダ接合部と、前記フェンダ接合部の上縁側から折曲して車幅方向内側に延出し、ホイールハウスの上部を車体前後方向に延在するフロントアッパメンバに接合されたフロントアッパメンバ接合部とを一体に有する自動車の前部車体構造。
【請求項2】
前記剛性部材の前記フェンダ接合部は、前記フロントフェンダのタイヤハウスに倣った円弧状下縁に整合する円弧状下縁を有し、当該フェンダ接合部の前記円弧状下縁は、前記フロントフェンダの前記円弧状下縁のヘミング加工によって前記フロントフェンダに固定され、前記フロントフェンダの造形面に沿う形状をして当該フロントフェンダの造形面に面接触する部分を接着剤によって前記フロントフェンダに面状に接着されている請求項1に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
前記剛性部材の前記フェンダ接合部は、車体前後方向に延在するサイドシルに接続する部位まで延長されている請求項1または2に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項4】
前記剛性部材の前記フェンダ接合部と前記フロントアッパメンバ接合部とは、折曲稜線によって互いに接続されている請求項1から3の何れか一項に記載の自動車の前部車体構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−179310(P2009−179310A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22901(P2008−22901)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】