説明

自動車の衝撃吸収構造

【課題】側面衝突時に車体側部のロッカー部の内側への変形を低減すると共に、ステップ部の領域における変形をできるだけ排除するようにした、自動車の衝撃吸収構造を提供する。
【解決手段】自動車の衝撃吸収構造10において、車室ドア11のインナーパネル11bの前後方向両端下部付近の領域が、横方向に関して斜めに延びている傾斜領域13を形成し、この傾斜領域13の内端が、フロアパネル14に取り付けられた骨格部材12の側端面に対向するように配置され、側面衝突時に車室ドア11に側方から水平方向内側へ向かう荷重が加わったとき、この傾斜領域13の内端が骨格部材12の側端部に支持されて傾斜領域13が座屈することで、衝突エネルギーが吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝撃吸収構造に係り、特に側面衝突時の車体側部のロッカー部の室内側への変形を低減するようにした衝撃吸収構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車等の自動車においては、側面衝突時における衝突エネルギーを吸収するために、図3に示すような衝撃吸収構造が採用されている。図3において、衝撃吸収構造1は、自動車の車体側面に設けられたドア用開口部1aの領域にて、この開口部1aを閉じる車室ドア2とこの車室ドア2の閉鎖時に車室ドア2の下端が横方向外側から対向するロッカー部3とを含んでいる。
【0003】
車室ドア2は、アウターパネル2aとインナーパネル2bとから構成されており、これらのアウターパネル2a及びインナーパネル2bの間にて、アウターパネル2a側に、車両前後方向に延びるインパクトビーム2cが設けられている。ここで、インパクトビーム2cは、側面衝突評価試験で使用される評価用バリアMDBの上端より下側の高さ位置に配置されている。
【0004】
ロッカー部3は、車室フロアを構成するフロアパネル4の両側縁に沿って配置されており、フロアパネル4に取り付けられた横方向に延びる骨格部材としてのクロスメンバ5の両端に固定されている。ここで、ロッカー部3は、前述した評価用バリアMDBの下端(地面Gから所定高さH)付近に対応する高さ位置に配置されている。
【0005】
図3においては、車室ドア2の前端付近の断面が示されており、車室ドア2の後端付近では、ロッカー部3は骨格部材としてのセンターピラー下部と連結している。これによりロッカー部3は、車室ドア2の前後端付近にてそれぞれ骨格部材に対して取り付けられていることになる。
【0006】
図示の場合、車体装飾のため、車室ドア2のアウターパネル2aの下端には外装モール2dが取り付けられ、またインナーパネル2bの内面にはドアトリム2eが装着されていると共に、車室フロアには、フロアパネル4の上面から両側でロッカー部3の側面に沿って立ち上がるようにカーペット6が敷設され、さらにカーペット6の側縁が、ロッカー部3の上面にてスカッフプレート7により隠蔽されるようになっている。
【0007】
このような構成の衝撃吸収構造1によれば、側面衝突評価において、側方から図3にて矢印Aで示すように、水平方向に評価用バリアMDBが車室ドア2に側面衝突したとき、衝突エネルギーによる荷重は、車室ドア2のインパクトビーム2cを介して車室ドア2の前後端に伝達され、さらに車室ドア2の前後端の下部が内側に変形してロッカー部3を介してクロスメンバ5に伝達される。その際、車室ドア2の下部及びロッカー部3が横方向内側に変形することにより、上述した衝突エネルギーが吸収される。
【0008】
これに対して、特許文献1には、クロスメンバの両端付近にクラッシュボックスを固定すると共に、このクラッシュボックスに対向する車室ドアの内部に外力伝達部材を設けることにより、側面衝突時に、車室ドアに側方から加えられる衝撃をこの外力伝達部材からクラッシュボックスに伝達して、車室ドアと車体の永久変形を防止するようにした自動車が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、上端がインパクトビームに結合されたリインフォースメントに関して、その上端部近傍及び下端部近傍の強度が中間部の強度より小さく選定された車両用ドアの側突対応構造が開示されている。
この側突対応構造においては、側面衝突時に衝撃エネルギーによる荷重がインパクトビーム又はリインフォースメントの少なくとも一方に作用したとき、先ずリインフォースメントの上端部近傍が変形することで、インパクトビームとリインフォースメントとの結合部への応力集中が回避される。これによりこの結合部の破断が防止され、リインフォースメントの下端部近傍がこの結合部を回転中心として外側に回転することが効果的に防止される。従って、車両用ドアと車体との係合が解除されにくく、不用意に車室ドアが解放されないようになっている。
【特許文献1】特開平07−323867号公報
【特許文献2】特開2005−041333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前述した衝撃吸収構造1においては、車体側のロッカー部3が、評価用バリアMDBの下端付近に対応する高さ位置に配置されている。このため、評価用バリアMDBが側方から車室ドア2に側面衝突したとき、衝突エネルギーによる荷重がインパクトビーム2cから車室ドア2の前後端へ伝わり、さらに車室ドア2の前後端から車室ドア2の下縁を介して車体側のロッカー部3に伝達されることになる。従って、この荷重によって、ロッカー部3が車体の横方向内側に向かって変形することがあり、これに伴って車室ドア2も車体の横方向内側に向かって変形することがある。
【0011】
これに対して、特許文献1による自動車においては、車室ドアと車体の永久変形を防止するために、車体側のクロスメンバにクラッシュボックスを設けると共に、このクラッシュボックスに対向する車室ドアの内部に、外力伝達部材を設けることにより構成されている。このため、クラッシュボックス及び外力伝達部材が必要であり、構造が複雑となり、コストが高くなってしまう。
【0012】
また、特許文献2による車両用ドアの側突対応構造においては、車室ドア内のインパクトビームとリインフォースと結合部の側面衝突による破壊を防止することにより、車両用ドアと車体との係合を解除しにくく、不用意に車室ドアが解放されないようにしたものである。この場合、側面衝突時の衝撃エネルギーによる横方向の荷重は、インパクトビームを介して車体側のロッカー部に伝達されるので、前述した衝撃吸収構造1の場合と同様に、この荷重によってロッカー部3が車体の横方向内側に向かって変形することがあり、これに伴って車室ドア2も車体の横方向内側に向かって変形することがある。
【0013】
さらに、例えば車体のドア用開口部1aの下端付近に、乗降を容易にするためのステップ部を備えたミニバンタイプやリムジンタイプの自動車においては、ロッカー部付近にステップ部が配置されているので、側面衝突時に、ロッカー部及び車室ドアが横方向内側に向かって変形すると、ステップ部及びその周辺領域が損傷してしまい、ステップ部が利用できなくなることから、乗員が車外に避難しにくくなってしまう。
【0014】
本発明は、以上の点に鑑み、側面衝突時に車体側部のロッカー部の内側への変形を低減すると共に、ステップ部の領域における変形をできるだけ排除するようにした、自動車の衝撃吸収構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、本発明によれば、自動車の車体側面に設けられたドア用開口部の領域にて当該開口部を閉じる車室ドア内に設けられた前後方向に延びるインパクトビームを含んでおり、側面衝突時に車室ドアに側方から加えられる衝撃をこのインパクトビームを介して車体側に伝達することにより吸収する自動車の衝撃吸収構造において、車室ドアのインナーパネルの前後方向両端下部付近の領域が横方向に関して斜めに延びている傾斜領域を形成しており、この傾斜領域の内端が、フロアパネルに取り付けられた骨格部材の側端面に対向するように配置され、側面衝突時に、車室ドアに側方から水平方向内側へ向かう荷重が加えられたとき、この傾斜領域の内端が骨格部材の側端部に支持されて傾斜領域が座屈することで衝突エネルギーが吸収されることを特徴とする。
【0016】
本発明による自動車の衝撃吸収構造は、好ましくは、前記骨格部材がクロスメンバ又はピラー下部である。
フロアパネルの両側縁付近に取り付けられたロッカー部の少なくとも一部は、骨格部材及び車室ドアより下方にて横方向外側に張り出して配置されていてもよい。この場合、好ましくはロッカー部の張り出し部分の上側にステップ部を備えている。
【発明の効果】
【0017】
上記構成によれば、側面衝突評価において、側方から水平方向に評価用バリアMDBが車室ドアに衝突したとき、衝突エネルギーによる荷重が車室ドアのインパクトビームを介して車室ドアの前後端に伝達され、さらに車室ドアの前後端の下部におけるインナーパネルを介して車体側のクロスメンバ又はピラー下部等の骨格部材に伝達される。その際、車室ドアのインナーパネルの傾斜領域が骨格部材に支持され、衝突エネルギーによる荷重によって座屈することによって、衝突エネルギーが吸収される。また、側面衝突時の荷重はクロスメンバ等を介して車室側に分散する。
【0018】
従って、側面衝突時には車室ドア内部で衝突エネルギーが吸収されることになるので、車両ボデー、特にロッカー部材が車体内側に向かって変形せず、車室内の乗員の安全がより一層確実に確保される。
【0019】
フロアパネルの両側縁付近に取り付けられたロッカー部の少なくとも一部が、前記骨格部材及び車室ドアより下方にて横方向外側に張り出して配置され、ロッカー部の張り出し部分の上側にステップ部を備えている場合には、側面衝突時に車室ドアの下部が車体側のロッカー部に当接することがないので、側面衝突時に、ロッカー部の上側に備えられたステップ部が損傷することはなく、乗員がステップ部を利用して容易に車外に退避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に示した実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
図1は本発明による自動車の衝撃吸収構造の一実施形態の構成を示している。図1に示す自動車の衝撃吸収構造10は、自動車の車体側面に設けられたドア用開口部10aの領域において、開口部10aを開閉可能に閉じる車室ドア11と、この車室ドア11の閉鎖時に車室ドア11の下端が横方向外側から対向する骨格部材12と、を含んでいる。
【0021】
車室ドア11は、薄い鋼板から成り互いに接合されたアウターパネル11a及びインナーパネル11bから構成されており、これらのアウターパネル11a及びインナーパネル11bの間にて、アウターパネル11a側に車両前後方向に延びるインパクトビーム11cが設けられている。インパクトビーム11cは、例えば中空円筒状の鉄製パイプから構成され、側面衝突評価試験で使用される評価用バリアMDBの上端より下側の高さ位置に配置される。
【0022】
車室ドア11は、図3に示した従来の衝撃吸収構造1における車室ドア2と比較して厚く、即ちアウターパネル11aとインナーパネル11bとの間の間隙が大きく形成されていると共に、このインナーパネル11bの下部にて、図2に示すように、その前後端付近に傾斜領域13が形成され、さらに、前後の傾斜領域13の間に一対の端壁13aにより画成された、車室内側から見て凹状の凹陥部13bを備えている。これらの端壁13aは、実質的に自動車の横方向に沿って延びており、傾斜領域13に所定の剛性を付与するようになっている。これらの傾斜領域13は、それぞれ車体側のドア用開口部10aの前後端付近に配置された骨格部材12に対向するようになっている。
【0023】
骨格部材12は、図1においては、車室フロアを構成するフロアパネル14に取り付けられた横方向に延びるクロスメンバ12aとして構成されている。そして、骨格部材12は、前述した評価用バリアMDBの下端、すなわち地面Gから所定高さH付近に対応する高さ位置に配置されている。なお、この骨格部材12は、クロスメンバ12aに限らず、フロアパネル14に取り付けられ、横方向の剛性を備えた骨格部材であればよく、例えばセンターピラー下部や他のピラー下部であってもよい。
【0024】
例えば、前席用の車室ドア11に関しては、その前端に対応する骨格部材12は例えばクロスメンバ12aであり、その後端に対応する骨格部材12は例えばセンターピラー下部である。また、後席用の車室ドア11に関しては、その前端に対応する骨格部材12は例えばセンターピラー下部であり、その後端に対応する骨格部材12は所謂Cピラー下部である。
【0025】
図1においては、車室フロアを構成するフロアパネル14の両側縁に沿って、それぞれロッカー部15が配置されており、骨格部材12としてのクロスメンバ12aの両端に固定されている。そして、ロッカー部15は、その一部が骨格部材12及び車室ドア11より下方にて横方向外側に張り出すように、さらに前述した評価用バリアMDBの下端より下方に対応する高さ位置に配置されている。これによりロッカー部15の張り出し部分の上側にステップ部16が画成され、車室内への乗降が容易に行なわれる。
【0026】
図示の場合、車体装飾のため、車室ドア11のアウターパネル11aの下端には外装モール11dが取り付けられ、またインナーパネル11bの内面にはドアトリム11eが装着されていると共に、ドアガラス11fが昇降可能に支持されている。また、車室フロアには、クロスメンバ12aの上側においてカーペット17が敷設され、さらにカーペット17の側縁がロッカー部15の外側面に回り込んで、ステップ部16の装飾部材16aにより隠蔽されるようになっている。
【0027】
ステップ部16の水平面上には、ステップ板16bが備えられている。このステップ板16bは、例えば金属,樹脂等から構成されており、好ましくは表面が滑り止め加工されている。
【0028】
本発明実施形態による自動車の衝撃吸収構造10は、以上のように構成されており、側面衝突評価において、側方から図1にて矢印Aで示すように、水平方向に評価用バリアMDBが車室ドア11に側面衝突したとき、衝突エネルギーによる荷重は、車室ドア11のインパクトビーム11cを介して車室ドア11の前後端に伝達され、さらに車室ドア11の前後端の下部におけるインナーパネル11bを介して骨格部材12に伝達される。
【0029】
その際、車室ドア11の下部に在るインナーパネル11bの傾斜領域13が衝突エネルギーによる荷重に基づいて横方向の応力を受け、傾斜領域13の内端が骨格部材の側端部に支持されて傾斜領域13が座屈する。また、傾斜領域13は、端壁13aにより付与された剛性に抗して座屈する。これにより、上述した衝突エネルギーが吸収されることになる。なお、車体側のロッカー部15の張り出し部分は、骨格部材12であるクロスメンバ12aより下方にて横方向外側に張り出していることから、車室ドア11のインナーパネル11bがロッカー部15の張り出し部分に当接するようなことはない。
【0030】
この場合、側面衝突時における衝撃エネルギーは、車室ドア11内部で吸収されることになるため、車室ドア11が車体内側に向かって変形せず、またロッカー部15も内側に向かって変形しない。従って、車室内の乗員の安全性がより一層確実に確保され、また、ロッカー部15の張り出し部分に設けられたステップ部16の意匠を構成する装飾部材16a及びステップ板16bの損傷が低減されると共に、車室内の乗員がステップ部16を利用して容易に車外に退避することができる。
【0031】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。例えば、上述した実施形態においては、ロッカー部15の張り出し部分がステップ部16を構成しているが、これに限らず、ステップ部16は省略されてもよい。
【0032】
また、上述した実施形態においては、車室ドア11はドア用開口部10aに回転式に開閉可能に構成されているが、車室ドア11は、揺動式またはスライド式に開閉可能に構成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による自動車の衝撃吸収構造の一実施形態の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の自動車の衝撃吸収構造における車室ドアの要部を示す一部破断斜視図である。
【図3】従来の自動車の衝撃吸収構造の一例の構成を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0034】
10 自動車の衝撃吸収構造
10a ドア用開口部
11 車室ドア
11a アウターパネル
11b インナーパネル
11c インパクトビーム
11d 外装モール
11e ドアトリム
11f ドアガラス
12 骨格部材
12a クロスメンバ
13 傾斜領域
13a 端壁
13b 凹陥部
14 フロアパネル
15 ロッカー部
16 ステップ部
16a 装飾部材
16b ステップ板
17 カーペット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車体側面に設けられたドア用開口部の領域にて当該開口部を閉じる車室ドア内に設けられた前後方向に延びるインパクトビームを含んでおり、側面衝突時に車室ドアに側方から加えられる衝撃を、上記インパクトビームを介して車体側に伝達することにより吸収する自動車の衝撃吸収構造において、
車室ドアのインナーパネルの前後方向両端下部付近の領域が、横方向に関して斜めに延びている傾斜領域を形成しており、
この傾斜領域の内端が、フロアパネルに取り付けられた骨格部材の側端面に対向するように配置され、
側面衝突時に、車室ドアに側方から水平方向内側へ向かう荷重が加えられたとき、この傾斜領域の内端が骨格部材の側端部に支持されて傾斜領域が座屈することで衝突エネルギーが吸収されることを特徴とする、自動車の衝撃吸収構造。
【請求項2】
前記骨格部材がクロスメンバ又はピラー下部であることを特徴とする、請求項1に記載の自動車の衝撃吸収構造。
【請求項3】
フロアパネルの両側縁付近に取り付けたロッカー部の少なくとも一部が、前記骨格部材及び車室ドアより下方にて横方向外側に張り出して配置されていることを特徴とする、請求項1又は2の何れかに記載の自動車の衝撃吸収構造。
【請求項4】
ロッカー部の張り出し部分の上側にステップ部を備えていることを特徴とする、請求項3に記載の自動車の衝撃吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−12932(P2008−12932A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182766(P2006−182766)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】