説明

自動車の衝突エネルギー吸収部材の補強構造

【課題】自動車のフロントサイドメンバー等の衝突エネルギー吸収部材について、その衝突エネルギー吸収性能を効果的に向上させることができる、自動車の衝突エネルギー吸収部材の補強構造を提供する。
【解決手段】一端が開放されたU字形の横断面を有する衝突エネルギー吸収部材(フロントサイドメンバー等)12において、該衝突エネルギー吸収部材12に長手方向の衝撃力が加わった際に当該衝突エネルギー吸収部材12の開放端側で最も変形すると予測される個所P点に対して、金属板材を2枚折りにして作製したクリップ状の補強部材13を差し込んでスポット溶接で接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝突時の衝突エネルギーを吸収してキャビン(客室)への衝撃力を緩和する衝突エネルギー吸収部材(衝撃吸収部材)の性能を向上させるための、自動車の衝突エネルギー吸収部材の補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の衝突時の衝突エネルギーを吸収してキャビンへの衝撃力を緩和することによって乗員の保護を図るためには、例えばエンジンルームやトランクルームといったキャビン以外のスペースを優先的に潰すことが有効である。そこで、自動車の車体の前部、後部あるいは側部等の適切な個所に、衝突エネルギー吸収部材が配置され、衝突時の衝撃荷重が負荷されると、衝突エネルギー吸収部材が軸方向(衝突エネルギー吸収部材の長手方向)へ変形することによって衝突エネルギーを吸収するようになっている。このような衝突エネルギー吸収部材として、フロントサイドメンバー、サイドシル、リアサイドメンバ等が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような衝突エネルギー吸収部材について、以下では、フロントサイドメンバーを例にして述べることにする。
【0004】
フロントサイドメンバーは、図1(a)に示すように、キャビン10より前方の車体を構成する主要骨格11であり、クワガタの大顎のように前方に飛び出した二本のフレーム(骨格)で、ここにエンジンやサスペンション等が取り付けられるとともに、衝突時の衝撃(衝突エネルギー)を吸収する役割を与えられている。
【0005】
なお、フロントサイドメンバー11は、通常、上部が開放されたU字形(コの字形)の横断面を有しているので、ここでは、図1(b)に示すような形状にモデル化したフロントサイドメンバー12で説明することにする。
【0006】
ここで、自動車の衝突時の衝撃吸収性能(衝突エネルギー吸収性能)については、例えばオフセット前面衝突において、ギャビン10まわりの変形を抑えるために、衝突による変形を抑え、かつ衝突吸収エネルギーを向上させるには、フロントサイドメンバー12が長手方向に折れ難くかつ衝突エネルギーの吸収量が大きくなるような構造であることが望ましい。
【0007】
そこで、このような構造にするために、フロントサイドメンバー12全体の板厚を厚くしたり、図2(a)、(b)に示すように、フロントサイドメンバー12とほぼ同じ大きさのU字形断面を有する補強部材19をフロントサイドメンバー12の内側に重合固着したりすることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−155749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、フロントサイドメンバーの衝突エネルギー吸収性能を向上させるために、フロントサイドメンバー全体の板厚を厚くしたり、フロントサイドメンバーとほぼ同じ大きさのU字形断面を有する補強部材をフロントサイドメンバーの内側に重合固着したりする方法は、車体の重量が増加し、燃費の観点から好ましくない。
【0010】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、自動車のフロントサイドメンバー等の衝突エネルギー吸収部材について、その衝突エネルギー吸収性能を効果的に向上させることができる、自動車の衝突エネルギー吸収部材の補強構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有している。
【0012】
[1]自動車の衝突エネルギー吸収部材で、一端が開放されたU字形の横断面を有する衝突エネルギー吸収部材において、該衝突エネルギー吸収部材に長手方向の衝撃力が加わった際に当該衝突エネルギー吸収部材の開放端側で最も変形すると予測される個所に対して、金属板材を2枚折りにして作製したクリップ状の補強部材を差し込んで固着したことを特徴とする自動車の衝突エネルギー吸収部材の補強構造。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、U字形の横断面を備えた衝突エネルギー吸収部材について、その衝突エネルギー吸収性能を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】フロントサイドメンバーを示す図である。
【図2】従来技術を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における変形予測シミュレーションを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態における補強構造を示す図である。
【図5】本発明の実施例1におけるフロントサイドメンバーを示す図である。
【図6】本発明の実施例1における変位−断面力曲線を示す図である。
【図7】本発明の実施例1における最大断面力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、ここでも、図1(b)に示したモデル化したフロントサイドメンバー12を対象にして述べることにする。
【0016】
まず、本発明の一実施形態においては、フロントサイドメンバー12に対して長手方向に衝撃力が加わった際に、U字形横断面の開放端側(ここでは、上端側)で最も変形する個所を有限要素法によるシミュレーション計算によって予測する。
【0017】
その一例を図3に示す。ここでは、フロントサイドメンバー12の材質は強度が590MPa級の鋼であるとし、図3(a)に示すように、フロントサイドメンバー12の後端を固定した状態で、先端部の下端側のS点に衝撃力による1m/sの強制変位を与えている。
【0018】
その結果、図3(b)に、S点が40mm変位した際の塑性ひずみ分布を示すように、開放端側では図中のP点において最も塑性ひずみが大きい(最も変形する)ことが分かる。
【0019】
そこで、開放端側での最大変形個所であるP点に対して、図4(a)に示すように、鉄鋼やアルミ等の金属板材を2枚折りして作製したクリップ状の補強部材13を差し込み、スポット溶接で接合する。これにより、図4(b)に示すように、P点とその近傍がクリップ状補強部材13で補強された構造となる。
【0020】
これによって、開放端側での最大変形個所P点とその近傍が変形し難くなり、フロントサイドメンバー12の衝突エネルギーの吸収量が増加する。
【0021】
しかも、P点とその近傍のみを覆うようなクリップ状の補強部材13を用いているので、図2に示したような、フロントサイドメンバー12とほぼ同じ大きさのU字形断面を有する補強部材19をフロントサイドメンバー12に重合固着する場合に比べて、ほとんど車体重量の増加にはならない。見方を変えれば、クリップ状の補強部材13で補強する前と同程度の衝突エネルギー吸収量を有すればよい場合には、フロントサイドメンバー12の板厚を薄くすることができ、重量を軽減することが可能になる。
【0022】
なお、上記の効果を得るために、フロントサイドメンバー12の内側と外側にそれぞれ別々の板材(板状の補強部材)を溶接することも考えられるが、この実施形態のように、クリップ状の補強部材13をフロントサイドメンバー12に差し込んで溶接する方が、補強部材のハンドリングが容易であるとともに、フロントサイドメンバー12の内側と外側の溶接個所を同時に溶接することができ、施工性に優れている。
【0023】
ちなみに、クリップ状の補強部材13の寸法については、フロントサイドメンバー12の寸法やP点の予測変形量の大きさ等を考慮して定めればよい。
【0024】
このようにして、この実施形態においては、衝突エネルギー吸収部材であるフロントサイドメンバー12の衝突エネルギー吸収性能を効果的に向上させることができる。
【0025】
なお、この実施形態では、フロントサイドメンバーを例にして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、それ以外のU字形横断面を有する衝突エネルギー吸収部材にも適用できることはいうまでもない。
【実施例1】
【0026】
本発明の実施例1として、図5(a)に示すような、補強を行う前のフロントサイドメンバー12を従来例とし、図5(b)に示すような、上記の本発明の一実施形態に基づいて、フロントサイドメンバー12をクリップ状補強部材13によって補強した場合を本発明例として、両者の衝突エネルギー吸収性能を比較した。なお、フロントサイドメンバー12およびクリップ状補強部材13の材質は、強度が590MPa級の鋼とした。
【0027】
そして、従来例では、フロントサイドメンバー12の板厚を2.3mmとし、本発明例では、フロントサイドメンバー12の板厚を2.1mm、クリップ状補強部材13の板厚を1.6mmとした。
【0028】
図6は、従来例と本発明例について、長手方向に衝撃力が作用したときの変位−断面力曲線を示すものである。そして、その際の最大断面力を比較したものが図7である。
【0029】
図6、図7に示すように、本発明例は、従来例に比べて、最大断面力が大きくなっているとともに、衝突エネルギーの吸収量(変位−断面力曲線の下方の面積)も大きくなっている。しかも、重量は3.5%の軽量化がなされている。
【0030】
これによって、本発明の有効性を確認することができた。
【符号の説明】
【0031】
10 キャビン(客室)
11 フロントサイドメンバー
12 フロントサイドメンバー(モデル化)
13 クリップ状の補強部材
19 U字形断面を有する補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の衝突エネルギー吸収部材で、一端が開放されたU字形の横断面を有する衝突エネルギー吸収部材において、該衝突エネルギー吸収部材に長手方向の衝撃力が加わった際に当該衝突エネルギー吸収部材の開放端側で最も変形すると予測される個所に対して、金属板材を2枚折りにして作製したクリップ状の補強部材を差し込んで固着したことを特徴とする自動車の衝突エネルギー吸収部材の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−207263(P2011−207263A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74500(P2010−74500)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】