説明

自動車の車体下部構造

【課題】振動吸収性と操縦安定性を両立させることができる車体下部構造を提供する。
【解決手段】車体11の幅方向に延びるクロスメンバ30に、弾性ブッシュ部材61,62と支持部材81,82が設けられている。第1の支持部材81の下端側は、第1の弾性ブッシュ部材61の内筒70に固定されている。第1の支持部材81の上端側は、第1のサイドメンバ12に固定されている。第2の支持部材82の下端側は、第2の弾性ブッシュ部材62の内筒70に固定されている。第2の支持部材82の上端側は、第2のサイドメンバ13に固定されている。クロスメンバ30に沿って連結バー部材100が設けられている。連結バー部材100の一方の端部101が第1の支持部材81の下端部81aに固定され、連結バー部材100の他方の端部102が第2の支持部材82の下端部82aに固定されている。この連結バー部材100によって、第1の支持部材81と第2の支持部材82が互いに結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体下部構造に係り、特にクロスメンバを含む車体下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体下部構造は、例えば左右一対のサイドメンバと、これらサイドメンバ間にわたって配置されたクロスメンバとを有している。サイドメンバは車体の前後方向に延びている。クロスメンバは車体の幅方向に延びている。このクロスメンバの両端部に、サスペンションの一部をなすアーム部材等が取付けられている。クロスメンバの両端部には、上方に延出する金属パイプからなる支持部材が溶接されている。これら支持部材が左右一対のサイドメンバに接続されることにより、クロスメンバの両端部が左右一対のサイドメンバによって支持されている。
【0003】
自動車が走行すると、路面の凹凸などによって発生する車輪の振動がサスペンションのアーム部材等を介してクロスメンバに伝わる。そしてこの振動が前記支持部材とサイドメンバを介して車室内に伝わるため、車室内の振動や騒音の原因となる。
【0004】
下記の特許文献1に開示されている従来の車体下部構造では、クロスメンバの両端部に設けられた一対の支持部材の上端が、それぞれゴムブッシュを介して、各サイドメンバの下面に弾性的に取付けられている。走行中にクロスメンバに入力する微小な振動がこのゴムブッシュによって吸収されるため、車室内に振動や騒音が伝わることを抑制できる。
【特許文献1】特開2004−203331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載されているように、クロスメンバに溶接された支持部材とサイドメンバとの間にゴムブッシュが設けられている場合、サイドメンバ間の剛性がゴムブッシュの影響を受ける。例えば一方のサイドメンバに車体の幅方向の荷重が入力したときに、その荷重が前記ゴムブッシュを介して他方のサイドメンバに伝わるため、進路変更時等の応答性に影響が出ることがある。
【0006】
従って本発明の目的は、振動吸収性と操縦安定性を両立させることができる自動車の車体下部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車体下部構造は、車体の幅方向に互いに離間して配置され、前記車体の前後方向に延びる第1および第2のサイドメンバと、前記第1および第2のサイドメンバ間にわたって設けられ、車体の幅方向に延びるクロスメンバと、前記クロスメンバの一端側に設けられ、内筒と外筒と弾性体とを有する第1の弾性ブッシュ部材と、前記クロスメンバの他端側に設けられ、内筒と外筒と弾性体とを有する第2の弾性ブッシュ部材と、上下方向に延びるパイプ部を有し、該パイプ部の下端側が前記第1の弾性ブッシュ部材の前記内筒に固定され、該パイプ部の上端側が前記第1のサイドメンバに固定される第1の支持部材と、上下方向に延びるパイプ部を有し、該パイプ部の下端側が前記第2の弾性ブッシュ部材の前記内筒に固定され、該パイプ部の上端側が前記第2のサイドメンバに固定される第2の支持部材と、前記クロスメンバに沿って前記車体の幅方向に延びる連結バー部材であって、一方の端部が前記第1の支持部材に固定されかつ他方の端部が前記第2の支持部材に固定されることにより前記第1の支持部材と前記第2の支持部材を互いに結合する連結バー部材とを具備している。
【0008】
本発明の1つの形態では、前記第1の支持部材と第2の支持部材のそれぞれの下端部が前記クロスメンバの下面から下方に突出し、前記連結バー部材が前記クロスメンバの下面よりも低い位置において該クロスメンバの下面に沿って配置され、前記連結バー部材の一方の端部が前記第1の支持部材の下端部に固定され、前記連結バー部材の他方の端部が前記第2の支持部材の下端部に固定されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、クロスメンバと支持部材との間に弾性ブッシュ部材の弾性体が介在するため、走行中にクロスメンバに入力する振動が吸収される。このため、クロスメンバに入力した振動や騒音が、支持部材からサイドメンバを介して車室内に伝わることを抑制できる。そして一対の支持部材どうしが連結バー部材によって結合されているため、サイドメンバ間の剛性が向上することにより、進路変更時等における応答性と操縦安定性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明の一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。
図1は自動車10の一例を示している。図2と図3に車体11の一部が示されている。この車体11は、左右一対のサイドメンバ12,13を備えている。これらサイドメンバ12,13は、車体11の幅方向に互いに離間して配置され、それぞれ車体11の前後方向に延びている。この明細書では説明の都合上、一方のサイドメンバ12を第1のサイドメンバと称し、他方のサイドメンバ13を第2のサイドメンバと称している。車体11の前部に、以下に説明する車体下部構造15が構成されている。
【0011】
図2に示されるように第1のサイドメンバ12は、互いに溶接された板金部材12a,12b等によって構成され、閉断面を有している。第1のサイドメンバ12に、上下方向に延びるアンカー部材20が溶接されている。アンカー部材20の下部に、ボルト状のねじ部21が設けられている。ねじ部21は、第1のサイドメンバ12の下面から下方に突出している。
【0012】
第2のサイドメンバ13も、互いに溶接された板金部材13a,13b等によって構成され、閉断面を有している。第2のサイドメンバ13に、上下方向に延びるアンカー部材22が溶接されている。アンカー部材22の下部に、ボルト状のねじ部23が設けられている。ねじ部23は、第2のサイドメンバ13の下面から下方に突出している。
【0013】
第1のサイドメンバ12と第2のサイドメンバ13とにわたって、クロスメンバ30が設けられている。クロスメンバ30は車体11の幅方向に延びている。クロスメンバ30は、下側の板金部材31と上側の板金部材32とを重ね合わせ、その周縁部等を互いに溶接することによって、閉断面を有する中空の形状に形成されている。クロスメンバ30の上方に、エンジン35(図1に模式的に示す)を収納するエンジンルーム36が形成されている。
【0014】
図3に示すようにクロスメンバ30の一方の端部に設けられたアーム取付部37a,37bに、フロントサスペンション40の一部をなすアーム部材41が取付けられている。クロスメンバ30の他方の端部に設けられたアーム取付部38a,38bにも、アーム部材42が取付けられている。
【0015】
これらのアーム部材41,42は、クロスメンバ30に対して上下方向に揺動可能に取付けられている。アーム部材41,42の先端に、ナックル部材43,44を介して車輪45,46が支持されている。ナックル部材43,44は、ステアリング機構47(図3に一部のみ示す)によって、水平方向に旋回させることができるようになっている。
【0016】
図1に示すように、アーム部材41,42の上側に、懸架ばね50,51を備えたストラット52,53が設けられている。アーム部材41,42は懸架ばね50,51によって上下方向に弾性的に支持されている。ストラット52,53の上端は、車体11のエンジンルーム36に設けられたストラット支持部(図示せず)に固定されている。
【0017】
図3に示すように、クロスメンバ30の一端側のアーム取付部37b付近に、第1の弾性ブッシュ部材(ゴムブッシュ)61が設けられている。クロスメンバ30の他端側のアーム取付部38b付近に、第2の弾性ブッシュ部材(ゴムブッシュ)62が設けられている。
【0018】
図2に示すように、弾性ブッシュ部材61,62は、それぞれ、内筒70と、外筒71と、ゴムあるいはエラストマ等の弾性材料からなる弾性体72によって構成されている。弾性体72は、内筒70と外筒71との間に収容され、加硫接着によって内筒70と外筒71に固定されている。クロスメンバ30に形成された取付孔75,76に外筒71を圧入することなどにより、弾性ブッシュ部材61,62がクロスメンバ30に固定されている。
【0019】
クロスメンバ30の一端側のアーム取付部37b付近に、第1の支持部材81が設けられている。クロスメンバ30の他端側のアーム取付部38b付近に、第2の支持部材82が設けられている。これら支持部材81,82は互いに共通の構成であり、図4に第1の支持部材81が示されている。
【0020】
第1の支持部材81は、第1の弾性ブッシュ部材61の内筒70に挿入される軸部85と、軸部85の上端に固定された金属パイプからなるパイプ部86と、パイプ部86の上端に固定された円筒形のスリーブ87を備えている。上下方向に延びるパイプ部86は、第1の弾性ブッシュ部材61の上面から第1のサイドメンバ12に向って、車体外側に湾曲した形状をなしている。
【0021】
第1の支持部材81のスリーブ87に、第1のサイドメンバ12の前記アンカー部材20のねじ部21が挿入され、このねじ部21にナット等の締結用部材90を螺合させ締付けることにより、第1の支持部材81の上端側が第1のサイドメンバ12に固定されている。すなわちパイプ部86の上端側に位置するスリーブ87が、第1のサイドメンバ12に固定されている。第1の支持部材81の下端部81aは、クロスメンバ30の下面から下方に突出している。
【0022】
第2の支持部材82は、第1の支持部材81と左右対称形である。第2の支持部材82は、第2の弾性ブッシュ部材62の内筒70に挿入される軸部85と、軸部85の上端に固定された金属パイプからなるパイプ部86と、パイプ部86の上端に固定された円筒形のスリーブ87などを備えている。パイプ部86は、第2の弾性ブッシュ部材62の上面から第2のサイドメンバ13に向って、車体外側に湾曲した形状をなしている。
【0023】
第2の支持部材82のスリーブ87は、締結用部材90によって、第2のサイドメンバ13に固定されている。すなわち、第2の支持部材82のパイプ部86の上端側に位置するスリーブ87が、第2のサイドメンバ13に固定されている。第2の支持部材82のパイプ部86の下端側に位置する軸部85は、第2の弾性ブッシュ部材62の内筒70に挿入されている。第2の支持部材82の下端部82aは、クロスメンバ30の下面から下方に突出している。
【0024】
クロスメンバ30の下面30aに沿って、連結バー部材100が設けられている。連結バー部材100は、一方の端部101と他方の端部102とを有している。一方の端部101に貫通孔103(図4に示す)が形成されている。他方の端部102にも前記貫通孔103と同様の貫通孔(図示せず)が形成されている。
【0025】
第1の支持部材81の下端部81aに雄ねじ部が形成されている。この下端部81aを連結バー部材100の一方の端部101に形成された貫通孔103(図4に示す)に挿入し、ナット等の締結用部材110を螺合させて締付けることにより、連結バー部材100の一方の端部101が第1の支持部材81の下端部81aに固定されている。すなわちこの締結用部材110によって、第1の支持部材81の軸部85が第1の弾性ブッシュ部材61の内筒70に固定されるとともに、連結バー部材100の一方の端部101が第1の支持部材81の軸部85に共締めされている。
【0026】
第2の支持部材82の下端部82aに雄ねじ部が形成されている。この下端部82aを連結バー部材100の他方の端部102に形成された貫通孔(図示せず)に挿入し、ナット等の締結用部材111を螺合させて締付けることにより、連結バー部材100の他方の端部102が第2の支持部材82の下端部82aに固定されている。すなわちこの締結用部材111によって、第2の支持部材82の軸部85が第2の弾性ブッシュ部材62の内筒70に固定されるとともに、連結バー部材100の他方の端部102が第2の支持部材82の軸部85に共締めされている。
【0027】
以上説明したように連結バー部材100は、クロスメンバ30の下面30aよりも低い位置において、クロスメンバ30の下面30aに沿って車体11の幅方向に配置されている。そして連結バー部材100の一方の端部101が第1の支持部材81の下端部81aに固定され、連結バー部材100の他方の端部102が第2の支持部材82の下端部82aに固定されている。この連結バー部材100によって、第1の支持部材81と第2の支持部材82が互いに結合されているため、サイドメンバ12,13間の剛性を高めることができる。
【0028】
次に前記構成の車体下部構造15を備えた自動車10の作用について説明する。
サイドメンバ12,13の上方から加わる車体11の前部側の荷重は、懸架ばね50,51を介してサスペンション40のアーム部材41,42に入力し、車輪45,46によって支持される。自動車10が走行すると、路面の凹凸などによって発生する車輪45,46の振動がアーム部材41,42を介してクロスメンバ30に伝わる。この振動は弾性ブッシュ部材61,62の弾性体72によって吸収され、支持部材81,82に伝わることが抑制される。このため、振動や騒音が支持部材81,82を介してサイドメンバ12,13に伝わることを抑制でき、車室内に振動や騒音が伝わることが抑制される。
【0029】
自動車10の進路が変わるときなど、車体11に横方向の荷重が加わると、サイドメンバ12,13に横方向の荷重が入力する。例えば第1のサイドメンバ12(または第2のサイドメンバ13)に横方向の荷重が入力すると、この荷重の一部はクロスメンバ30と連結バー部材100などを介して、第2のサイドメンバ13(または第1のサイドメンバ12)に伝達される。このためサイドメンバ12,13が協働して荷重を支えることにより、横方向の剛性が大きくなる。
【0030】
以上説明したように本実施形態の車体下部構造15は、弾性ブッシュ部材61,62を介して支持部材81,82がクロスメンバ30に取付けられているため、走行中の振動や騒音が車室内に入ることを抑制できるとともに、支持部材81,82どうしが連結バー部材100によって結合(剛結)されていることにより、サイドメンバ12,13間の剛性を高めることができ、進路変更時の応答性や操縦安定性を改善することができた。
【0031】
なお本発明を実施するに当たって、車体下部構造を構成するサイドメンバやクロスメンバ、弾性ブッシュ部材、第1および第2の支持部材、連結バー部材をはじめとして、発明の構成要素の形状や配置などを適宜変形して実施できることは言うまでもない。また連結バー部材は、クロスメンバの上面側に配置されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態に係る車体下部構造を備えた自動車の斜視図。
【図2】図1に示された自動車の車体下部構造の一部の正面図。
【図3】図2に示された車体下部構造の一部を上方から見た平面図。
【図4】図2中に矢印F4で示された部分の断面図。
【符号の説明】
【0033】
10…自動車
11…車体
12…第1のサイドメンバ
13…第2のサイドメンバ
30…クロスメンバ
61…第1の弾性ブッシュ部材
62…第2の弾性ブッシュ部材
70…内筒
71…外筒
72…弾性体
81…第1の支持部材
82…第2の支持部材
86…パイプ部
100…連結バー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の幅方向に互いに離間して配置され、前記車体の前後方向に延びる第1および第2のサイドメンバと、
前記第1および第2のサイドメンバ間にわたって設けられ、車体の幅方向に延びるクロスメンバと、
前記クロスメンバの一端側に設けられ、内筒と外筒と弾性体とを有する第1の弾性ブッシュ部材と、
前記クロスメンバの他端側に設けられ、内筒と外筒と弾性体とを有する第2の弾性ブッシュ部材と、
上下方向に延びるパイプ部を有し、該パイプ部の下端側が前記第1の弾性ブッシュ部材の前記内筒に固定され、該パイプ部の上端側が前記第1のサイドメンバに固定される第1の支持部材と、
上下方向に延びるパイプ部を有し、該パイプ部の下端側が前記第2の弾性ブッシュ部材の前記内筒に固定され、該パイプ部の上端側が前記第2のサイドメンバに固定される第2の支持部材と、
前記クロスメンバに沿って前記車体の幅方向に延びる連結バー部材であって、一方の端部が前記第1の支持部材に固定されかつ他方の端部が前記第2の支持部材に固定されることにより前記第1の支持部材と前記第2の支持部材を互いに結合する連結バー部材と、
を具備したことを特徴とする自動車の車体下部構造。
【請求項2】
前記第1の支持部材と第2の支持部材のそれぞれの下端部が前記クロスメンバの下面から下方に突出し、前記連結バー部材が前記クロスメンバの下面よりも低い位置において該クロスメンバの下面に沿って配置され、前記連結バー部材の一方の端部が前記第1の支持部材の下端部に固定され、前記連結バー部材の他方の端部が前記第2の支持部材の下端部に固定されたことを特徴とする請求項1に記載の自動車の車体下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−23719(P2010−23719A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188894(P2008−188894)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】