説明

自動車の車体前部構造

【課題】狭いエンジン房内のスペースを有効に利用しつつ、特に、補強等を加えることなく、軽衝突による衝撃を適切に吸収して主骨格の損傷を確実に防止する。
【解決手段】アッパサイドフレーム10の前端に着脱自在に連結し、該アッパサイドフレーム10の前端から斜め下前方に向け延出してフロントサイドフレームと着脱自在に連結部材80を連結し、アッパサイドラジエータパネル90の後端部を連結部材80の連結部材80とアッパサイドフレーム10との連結部近傍に連結し、連結部材80とフロントサイドフレームとの連結部より前方に車載部品100を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の軽衝突時の衝撃を適切に吸収して損傷を最小にする自動車の車体前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の車体前部構造に関しては、種々の提案がなされている。例えば、特開2002−193144号公報(以下、特許文献1)では、ラジエータコアアッパレールを車幅方向に略直状に延在するセンター部と、該センター部から湾曲したコーナー部を介して斜め後方に向けて延在するサイド部とで構成して、サイド部の後端部をアッパサイドフレームの前端部に結合すると共に、センター部とファーストクロスメンバに跨って結合したラジエータコアサイドメンバの上下方向骨格部の上下方向中間部分と、サイド部の湾曲コーナー部近傍とに跨ってステイ部材を斜状に連結配置して、湾曲コーナー部分に三角トラス部を構成した自動車の車体前部構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−193144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1に開示されるような従来の自動車の車体前部構造では、トーボード側からエンジンルームの左右下縁に沿って前方に向けて延出されるフロントサイドフレームに対し、前端側に設けられるクラッシュボックスやラジエータパネルはボルト結合にして、軽衝突の際、容易に交換できる構造にしている。その一方で、フロントフェンダの支持部材等は、フロントサイドフレームと溶接にて接合しているため、ある程度強度を持たせて損傷させないような構造となっている。このため、質量が増加し、また、フロントフェンダの支持部材より前側には、軽衝突の際に後退して、該支持部材に衝撃を与える部品等を配置することができないという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、狭いエンジン房内のスペースを有効に利用しつつ、特に、補強等を加えることなく、軽衝突による衝撃を適切に吸収して主骨格の損傷を確実に防止することができる自動車の車体前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フロントピラーからエンジンルームの左右上縁に沿って車体前方に向けて延出したアッパサイドフレームと、トーボード側からエンジンルームの左右下縁に沿って車体前方に向けて延出したフロントサイドフレームと、上記アッパサイドフレームの前端部に着脱自在に連結して上記アッパサイドフレームの前端部から斜め下前方に向け延出して上記フロントサイドフレームと着脱自在に連結する連結部材と、ラジエータパネルの上側部から車体後方に向けて延出して後端部が上記連結部材の上記連結部材と上記アッパサイドフレームとの連結部より車体前方側に連結したアッパサイドラジエータパネルと、上記連結部材と上記フロントサイドフレームとの連結部より前方に配設した車載部品とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による自動車の車体前部構造によれば、狭いエンジン房内のスペースを有効に利用しつつ、特に、補強等を加えることなく、軽衝突による衝撃を適切に吸収して主骨格の損傷を確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態に係る車体の前部構造の斜視図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る車体の前部構造の側面図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る軽衝突の際の変形モードに関する説明図である。
【図4】本発明の実施の一形態に係る軽衝突の際の変形予想図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1及び図2は車体の前部構造を示し、これらの図において、符号10は、図示しないフロントピラーの中途部からエンジンルームREの左右上縁に沿って車体前方に向けて延出されたアッパサイドフレームであり、このアッパサイドフレーム10の下方には、図示しないトーボード側からエンジンルームREの左右下縁に沿って、車体前方に向けてフロントサイドフレーム20が延出されている。
【0010】
そして、アッパサイドフレーム10とフロントサイドフレーム20との間には、フロントサスペンションのストラットタワー30が固設されている。
【0011】
フロントサイドフレーム20の前端部21には、ボルト結合されたクラッシュボックス40を介して車幅方向に長尺なバンパービーム50が架設されている。
【0012】
バンパービーム50の後方の、エンジンルームREの前端部位には、ラジエータパネル60が、その側部をボルトによりフロントサイドフレーム20と結合されて配設されている。
【0013】
フロントサイドフレーム20の前端部21の側面には、車幅方向外側に向けて略水平に延出し、図示しないフロントフェンダを裏面より支持するフェンダブラケット70が溶接等により固定されている。
【0014】
アッパサイドフレーム10の前端部11には、ボルト結合等により該アッパサイドフレーム10から着脱自在で、上述のフェンダブラケット70の車幅方向外側端部71に向けて、アッパサイドフレーム10の前端部11から斜め下前方に延出して、フェンダブラケット70の車幅方向外側端部71とボルト結合等により着脱自在に連結される連結部材80が設けられている。
【0015】
ラジエータパネル60の上部には、後側方にむけて延出されるアッパサイドラジエータパネル90の前端部91が連結されており、該アッパサイドラジエータパネル90の後端部92は、上述の連結部材80とアッパサイドフレーム10との連結点P1より車体前方に位置する連結点P2において連結部材80に連結されている。
【0016】
また、上述の連結部材80とフェンダブラケット70との連結部より前方の空間には、ブラケットによりフェンダブラケット70に固定されたウォッシャータンク等の車載部品100が配設されている。
【0017】
上述のように構成される車体の前部構造での作用を、図2乃至図4で説明する。尚、図中、連結部材80のアッパサイドフレーム10との連結点をP1、アッパサイドラジエータパネル90との連結点をP2とし、アッパサイドラジエータパネル90におけるランプ(図示せず)の固定点をP3、フェンダブラケット70の車幅方向外側端部71におけるウォッシャータンク等の車載部品100及びフェンダの固定点をP4とする。
【0018】
車両の前面に軽衝突が生じた場合、例えば、ラジエータパネル60及びランプには、図2中、矢印Aで示す荷重入力Aが発生し、バンパービーム50には、図2中、矢印Bで示す荷重入力Bが発生する。
【0019】
そして、荷重入力Aは、ラジエータパネル60を介してアッパサイドラジエータパネル90に、更にランプ等を介して固定点P3からアッパサイドラジエータパネル90に伝達され、図2中、矢印A’で示す斜め上後方への入力荷重A’となって車体後方に伝達される。また、荷重入力Bは、図4に示すように、バンパービーム50が後退することで車載部品100に荷重が伝達し、フェンダブラケット70及びフェンダブラケット70の車幅方向外側端部71における車載部品100との固定点P4を介して連結部材80に伝達され、連結部材80は矢印B’で示す水平方向の入力荷重となって車体後方に伝達される。
【0020】
これら入力荷重A’、B’は、それぞれ図3に示すような変形モードで、連結部材80のアッパサイドフレーム10との連結点P1、及び、連結部材80のアッパサイドラジエータパネル90との連結点P2に作用することになる。尚、(1)はアッパサイドラジエータパネル90の前端部91から連結部材80との連結点P2までの領域、(2)は連結部材80の前端部すなわち固定点P4から連結点P2までの領域、(3)は連結部材80の連結点P2から連結点P1までの領域を示している。図3(b)に示すように、先ず、入力荷重A’のみに着目すると、連結点P2には時計回りにモーメントが発生する。すなわち(1)、(3)は時計回りに回転しようとする。次に、図3(c)に示すように、入力荷重B’のみに着目すると、連結点P1には入力荷重B’の連結部材80の垂直方向分力により反時計回りにモーメントが発生する。すなわち(2)、(3)は反時計回りに回転しようとする。ここで、入力荷重A’によるモーメントと入力荷重B’によるモーメントを合成すると、図3(d)に示すように、(3)の領域では、お互いが逆方向に回転しようとする為、打ち消し合うことになる。つまり、図3(e)に示すように、(3)の領域では、打ち消しあい、モーメントは小さくなる。すなわち、連結点P2のモーメントが最大である為、ここで連結点P2の車体前方で連結部材80は安定して変形させることができ、軽衝突による衝撃を連結部材80とアッパサイドラジエータパネル90により吸収してアッパサイドフレーム10やフロントサイドフレーム20の主骨格の損傷を防止することができる。
【0021】
よって、アッパサイドフレーム10との連結点P1への荷重伝達を減らして、連結点P1では水平方向の荷重のみを考慮して、主骨格側の変形を適切に抑制すれば良いこととなる。また、部材は、一般的に、モーメントには弱く、軸力には強度を出しやすいため、理想的な荷重入力形態となり、特に補強部材を追加する必要もなく、結合部の補強等による質量増やコストアップ等を招くこともない。
【0022】
このように、本発明の実施の形態によれば、アッパサイドフレーム10の前端部11に着脱自在に連結し、該アッパサイドフレーム10の前端部11から斜め下前方に向け延出してフロントサイドフレーム20と着脱自在に連結部材80を連結し、アッパサイドラジエータパネル90の後端部92を連結部材80とアッパサイドフレーム10との連結部P1より車体前方側に連結し、連結部材80とフロントサイドフレーム20との連結部より車体前方に車載部品100を配設して構成したので、特に、補強等を加えることなく、軽衝突による衝撃を適切に吸収して主骨格の損傷を確実に防止することが可能となっている。また、フェンダブラケット70の車体前方にウォッシャータンク等の車載部品100を配置することが可能となり、フロントオーバーハングが短い車両でも狭いエンジンルームRE内のスペースを有効に活用することが可能となる。
【0023】
また、本発明の実施の形態で説明したように、フロントサイドフレーム20の側部に車幅方向外側に向けて延出するフェンダブラケット70と連結部材80とアッパサイドフレーム10とを連結するようにしたので車体剛性が高まり、サスペンション入力によるサスペンション(ストラットタワー30)とフロントサイドフレーム20との間の相対変位を抑制することができ、走行時のサスペンションジオメトリの変動が抑制されて操縦安定性向上を図ることが可能となっている。
【符号の説明】
【0024】
10 アッパサイドフレーム
11 前端部
20 フロントサイドフレーム
21 前端部
30 ストラットタワー
40 クラッシュボックス
50 バンパービーム
60 ラジエータパネル
70 フェンダブラケット
71 外側端部
80 連結部材
90 アッパサイドラジエータパネル
91 前端部
92 後端部
100 車載部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントピラーからエンジンルームの左右上縁に沿って車体前方に向けて延出したアッパサイドフレームと、
トーボード側からエンジンルームの左右下縁に沿って車体前方に向けて延出したフロントサイドフレームと、
上記アッパサイドフレームの前端部に着脱自在に連結して上記アッパサイドフレームの前端部から斜め下前方に向け延出して上記フロントサイドフレームと着脱自在に連結する連結部材と、
ラジエータパネルの上側部から車体後方に向けて延出して後端部が上記連結部材の上記連結部材と上記アッパサイドフレームとの連結部より車体前方側に連結したアッパサイドラジエータパネルと、
上記連結部材と上記フロントサイドフレームとの連結部より前方に配設した車載部品と、
を備えたことを特徴とする自動車の車体前部構造。
【請求項2】
上記フロントサイドフレームの側部に車幅方向外側に向けて延出するブラケットを設け、上記連結部材の先端を該ブラケットと着脱自在に連結したことを特徴とする請求項1記載の自動車の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−71783(P2012−71783A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219654(P2010−219654)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】