説明

自動車の車載部品取付構造

【課題】本発明は、電子制御ユニット等の車載部品をエンジンルーム内に取付ける自動車の車載部品取付構造において、車両衝突時に、電子制御ユニット等の車載部品と後退する部品との干渉を回避して、電子制御ユニット等の車載部品の破損を防ぎ、車載部品の再利用を可能として、車載部品の記録データの保護を図ることができる自動車の車載部品取付構造を提供することを目的とする。
【解決手段】フロントサイドフレーム3に、アシスト片部14を取付けていることから、取付ブラケット10のベースプレート部11もアシスト片部14から押上力を受けて上方へ移動する。こうして、ベースプレート部11が上方に移動することで、ベースプレート部11に固定したECU1も上方へ移動することになり、変速機8が後退してきてもECU1との干渉を回避することができ、ECU1の破損を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の車載部品取付構造に関し、特に、エンジンルーム内に設置されるECU(エンジン・コントロール・ユニット)等の電子制御ユニットについての取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両衝突時における、エンジンルーム内に設置する車載部品とエンジン等のパワートレインとの干渉を防いで、車載部品の損傷を防ぐ技術が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、エンジンルーム内に設置されるフューエルフィルターを、フロントサイドフレームとダッシュパネル側部との間に橋渡すように取付けると共に、その上方にABSユニット等の金属製ユニットを配置する構造が開示されている。
【0004】
このような構造を採用することにより、車両衝突時にエンジン等のパワートレインが後退したとしても、金属製ユニットがパワートレインに当接して、パワートレインの後退を抑制するため、フューエルフィルターとパワートレインとの干渉を防ぐことができる。
【特許文献1】特開2005−247027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両衝突後には、破損した車両を修復して再度走行できるようにすることがある。このとき、車載部品のうち高価な車載部品については、できるだけ交換することなく、そのまま再利用することで、修復に掛かる修理コストをできるだけ削減したいという要求がある。
【0006】
こうした要求に対して、前述の特許文献1の構造の場合、ABSユニット等の高価な電子制御ユニットをパワートレインに当接させため、電子制御ユニットが破損してしまい、電子制御ユニットを再度利用することができなくなるという問題がある。
【0007】
また、近年では、衝突直前の車両の運転状態を映像等により記憶することで、後の事故処理等に役立てようとする技術が開発されているが、こうした車両の運転状態を記憶する記憶手段として、エンジン等の電子制御ユニットを用いる場合がある。
この場合においても、前述の特許文献1の構造のように電子制御ユニットをパワートレインに当接させると、電子制御ユニットに記録された運転データ等が解析できなくなるといった問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、電子制御ユニット等の車載部品をエンジンルーム内に取付ける自動車の車載部品取付構造において、車両衝突時に、電子制御ユニット等の車載部品と後退する部品との干渉を回避して、電子制御ユニット等の車載部品の破損を防ぎ、車載部品の再利用を可能として、車載部品の記録データの保護を図ることができる自動車の車載部品取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の自動車の車載部品取付構造は、エンジンルームの後壁を構成するダッシュパネルと、該ダッシュパネルの車両前方側から後方に向って延びダッシュパネルの下方を通って車両後方側に延びるサイドフレームと、前記ダッシュパネルの前方で且つ前記サイドフレームよりも上方に位置する車載部品と、該車載部品から後方に向って延びダッシュパネルに取付けられる取付脚部と、前記車載部品から下方に向って延びサイドフレームに取付けられ該サイドフレームの車両衝突時の変位を車載部品に伝達する変位伝達脚部とを備えるものである。
【0010】
上記構成によれば、サイドフレームの車両衝突時の変位を車載部品に伝達する変位伝達脚部を設けたため、サイドフレームの車両衝突時の上方変位が車載部品に伝達されることになり、車両衝突時には車載部品が上方に移動することになる。
このため、車載部品は、車両衝突時に前方から後退してくる部品を避けて、上方に移動することになり、車両衝突時に後退する部品、例えばエンジン、変速機等のパワートレインとの干渉を防ぐことができる。
【0011】
なお、ここでの「車載部品」には、ECU、ABSユニット、TRCユニット、ATユニット、ハイブリッド車用の制御ユニット等の高価な電子制御ユニットが含まれる。
また、「変位伝達脚部」は、サイドフレームの車両衝突時の変位を、車載部品に確実に伝達できるものであれば、どのような形状であってもよい。
【0012】
この発明の一実施態様においては、前記サイドフレームが、車両前方側から略水平方向に延びる水平部と、該水平部の後端から前記ダッシュパネルの下方に向って斜め下方に延びる傾斜部とを備え、前記変位伝達脚部を、該傾斜部に取付けたものである。
上記構成によれば、変位伝達脚部を、ダッシュパネル下方に向って斜め下方に延びる傾斜部に取付けたことにより、車両衝突時にダッシュパネル下部近傍を起点として上方に立ち上がろうとする傾斜部の変位を利用して、車載部品を上方に移動させることができる。
すなわち、水平部と傾斜部を備えるサイドフレームの場合、車両衝突時、特に前面衝突時には、水平部では上下左右何れの方向にも変位する可能性があるのに対して、傾斜部では必ず後端のダッシュパネル下部近傍を起点として上方に変位する。このため、この上方に変位する傾斜部に変位伝達脚部を取付けることで、車載部品の上方移動を確実なものとしているのである。
よって、サイドフレームの傾斜部から、より確実に押上力を得て、車載部品を上方に移動させることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記変位伝達脚部のサイドフレームへの取付け点を前後に複数設定したものである。
上記構成によれば、変位伝達脚部のサイドフレームへの取付け位置を、前後複数に設定することで、サイドフレームの車両衝突時の角度変化も、車載部品に伝達することができる。
よって、車両衝突時に車載部品の設置角度も変化させることができ、車両衝突時の車載部品の設置角度を、より適切なものにすることができる。例えば、傾斜配置していた車載部品を鉛直配置に変化させることで、前後方向スペースをコンパクトしてダッシュパネル側への後退量を少なくすること等ができる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、前記変位伝達脚部の剛性を、前記取付脚部の剛性より大きくしたものである。
上記構成によれば、変位伝達脚部の剛性を取付脚部の剛性より大きくしたため、車両衝突時に、変位伝達脚部が変形することなく、取付脚部が先に変形することになる。
このため、変位伝達脚部の押上力の伝達機能が確保され、車載部品の上方移動を確実に生じさせることができる。
よって、車両衝突時に、確実に車載部品を上方に移動させることができ、より確実に車両衝突時に後退する部品との干渉を回避することができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記変位伝達脚部に、上下方向に延びる補強ビードを設けたものである。
上記構成によれば、変位伝達脚部に上下方向の補強ビードを設けることで、変位伝達脚部の上下方向剛性を高めることができる。
よって、簡単な構成によって、変位伝達脚部の上下方向剛性を高めることができ、変位伝達脚部の押上力の伝達性能を高めることができ、確実に車載部品を上方に移動させることができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、前記取付脚部に、剛性の低下する脆弱部を設けたものである。
上記構成によれば、取付脚部に脆弱部を設けることで、変位伝達脚部から押上力を受けた際に、その脆弱部で変形が生じて、取付脚部が容易に変形することになる。
よって、車両衝突時に、より確実に取付脚部が変形して、車載部品を上方に移動させることができる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記変位伝達脚部を、前記取付脚部に連結したものである。
上記構成によれば、取付脚部に変位伝達脚部を連結することで、直接、取付脚部に変位伝達脚部の押上力を伝達することができ、より確実に取付脚部を変形させることができる。また、車載部品を介さずに、直接変位伝達脚部の押上力を取付脚部に伝達するため、上方移動時に車載部品に押上力が作用することもない。
よって、車両衝突時に、取付脚部が確実に変形して、車載部品がより上方に移動しやすくなる。また、移動時に車載部品に押上力が作用しないため、車載部品が破損するおそれもない。
【0018】
この発明の一実施態様においては、前記車載部品を取付けるプレート状の取付ベース部を備え、該取付ベース部の両側にダッシュパネルに向って延びる前記取付脚部を設け、該取付ベース部に前記サイドフレームに向って延びる前記変位伝達脚部を設けたものである。
上記構成によれば、両側に取付脚部を設けたプレート状の取付ベース部に、車載部品を取付けることで、通常時の車載部品の支持剛性を高めることができる。また、取付ベース部に変位伝達脚部を設けることで、両側の取付脚部に対して、確実に変位伝達脚部からの押上力を伝達することができ、両側の取付脚部を確実に変形させることができる。
よって、車載部品を安定して支持することができ、変位伝達脚部からの押上力によって、確実に車載部品を上方に移動させることができる。
また、この場合も、変位伝達脚部の押上力が直接車載部品に作用しないため、車載部品が押上力で破損することもない。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、車載部品は、サイドフレームの車両衝突時の変位を利用して上方に移動することになり、車両衝突時に後退する部品との干渉を回避することができる。
よって、電子制御ユニット等の車載部品をエンジンルーム内に取付ける自動車の車載部品取付構造において、車両衝突時に、電子制御ユニット等の車載部品と後退する部品との干渉を回避して、電子制御ユニット等の車載部品の破損を防ぎ、車載部品の再利用を可能として、車載部品の記録データの保護を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は、第一の実施形態の車載部品の取付構造を前方斜め上方から見た全体斜視図。図2は、その取付構造の要部詳細斜視図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の車載部品であるECU(エンジン・コントロール・ユニット)1は、エンジンルームERの後壁を構成するダッシュパネル2の前面側部に取付けている。このダッシュパネル2の側部側前方には、車両前後方向に延びるフロントサイドフレーム3(図面では左側のフロントサイドフレームのみ開示)を延設し、その外側側方(左側側方)には、上下方向に立設するサスタワー4aを中央位置に形成したホイールハウスエプロン4を張設している。
【0022】
ダッシュパネル2には、その下部中央にフロアトンネル部に対応する上凹の凹部5を形成している。また、ダッシュパネル2上部には、図示しないカウルボックスに対応して車幅方向に延びる前方側に傾斜した傾斜面6を形成している。
【0023】
ダッシュパネル2の左側前面には、ブレーキ装置のマスターバック7を設置している。このマスターバック7は、運転席のブレーキペダル(図示せず)位置に対応して設置され、比較的大きな略円盤形状のケーシング部材で構成している。
【0024】
前述のECU1は、このマスターバック7の前方位置に、取付ブラケット11を介して、ダッシュパネル2から離間した位置に取付けている。このECU1は、エンジンの燃焼制御等を行なうものであり、内部にはメモリ等の制御基板を設けており、上面にハーネスを差込む二つの結線ソケット1a、1aを設けている。
【0025】
ECU1の前方位置には、横置き配置したパワートレインの変速機8を配置している。この変速機8は、重量を有する構造体であり、車両の前面衝突時には、衝突荷重を受けて車両後方側に後退する。
【0026】
図2で、ECU1を取付ける取付ブラケット10について説明する。
この取付ブラケット10は、金属プレス成形部品で構成し、中央にECU1を取付ける平板状のベースプレート部11を設け、その両側に車両後方側に延びてダッシュパネル2に締結固定される二つの取付片部12、13を折曲形成している。
【0027】
そして、ベースプレート部11の左側下部には、下方側に延びてフロントサイドフレーム3に締結固定されるアシスト片部14を溶接固定している。このアシスト片部14は、後述するように、車両衝突時にECU1を上方側に移動させる機能を有する。
【0028】
図3、図4、図5にECU1を組付けた状態の取付ブラケット10の単品斜視図を示す。図3が右側前方斜視図、図4が左側前方斜視図、図5が右側後方斜視図である。
【0029】
前述したように、この取付ブラケット10は、ECU1が設置される平板状のベースプレート部11と、ダッシュパネル2に取付けられる車両後方側に延びる二つの取付片部12,13と、フロントサイドフレーム3に取付けられる下側に延びるアシスト片部14とを備える。
【0030】
ベースプレート部11は、横長の長方形形状に形成しており、前面に四つの締結ナットN…でECU1を固定している。このベースプレート部11は、ダッシュパネル2に組付けた状態でやや前方に傾斜するように形成されており、ECU1がやや前傾するように設定している。
【0031】
取付片部12,13は、ベースプレート部11の右端下部から後方に延びる第一取付片部12と、ベースプレート部11の左端中央部から後方に延びる第二取付片部13とからなり、各取付片部12,13は、それぞれ前後方向に延びる腕部12a,13aと、ダッシュパネル2に取付けられるフランジ部12b,13bとを備えている。
【0032】
このように、左右二つの取付片部12,13を設けることで、取付ブラケット10を両持ち支持として構成することができ、ECU1の支持剛性を高めることができる。また、長い腕部12a,13aによってダッシュパネル2から離間した位置にベースプレート部11を位置させるため、ECU1をマスターバック7の前方で且つ変速機8の後方の位置のデッドスペース空間に配置することができる。
【0033】
なお、本実施形態では、二つの取付片部12,13で両持ち支持とすることでECU1をダッシュパネル2に取付けているが、支持剛性が確保できる場合には、一つの取付片部で片持ち支持としてECU1をダッシュパネル2に取付けてもよい。
【0034】
また、第一取付片部12と第二取付片部13の腕部12a,13aの前後方向中央部には、上方に稜線が広がった三角折れビード15,16を形成している。三角折れビード15,16は、ベースプレート部11に前方下部から押上力が荷重が作用した際に、腕部12a,13aを側面視で「略くの字」状に折れ曲がる折れビードである。
【0035】
また、第一取付片部12と第二取付片部13のフランジ部12b,13bには、ダッシュパネル2に立設したスタッドボルト21(図6参照)を挿通する挿通穴17,18を形成している。この挿通穴17,18にスタッドボルト21を挿通して、締結ナット19,20で締結固定することで、第一取付片部12と第二取付片部13をダッシュパネル2に取付ける。
【0036】
アシスト片部14は、ベースプレート部11や取付片部12,13よりも板厚を厚くした金属プレス成形部品で構成し、図5に示すように、ベースプレート部11の背面に接合する接合部14aと、その接合部14aから下方側に延びる縦片部14bとを備えている。
【0037】
接合部14aは、略正方形形状に形成し、ベースプレート部11背面の左側下部に四つの溶接ポイントp…で接合している。
【0038】
縦片部14bは、側面視略くの字状に形成し、下端に締結ボルト22を挿通する挿通穴23を形成している。また、縦片部14bの中央には、上下方向に延びる縦ビード24を形成している。これにより、上下方向荷重に対する剛性を高めている。
【0039】
このアシスト片部14は、後述するように、フロントサイドフレーム3からの押上力を伝達する機能を有するため、板厚を厚くすることで押上力の伝達機能を高め、さらに、縦ビード24を設けることで、さらにこの機能を高めている。
なお、アシスト片部14の上下方向剛性を、板厚を厚くするだけで十分に確保できる場合には、縦ビード24を設けなくてもよい。
【0040】
次に、このように構成した、ECU1の取付構造における車両前面衝突時の挙動変化について、図6、図7、図8により説明する。
図6は、衝突前におけるECU1の取付構造を示した側面簡略図である。
この図に示すように、ECU1はダッシュパネル2の前方位置でフロントサイドフレーム3よりもやや上方位置に、マスターバック7と変速機8とで前後を挟まれる状態に配置している。
【0041】
この図からも分かるように、ECU1は、上部が前方側に位置する前傾状態で配置している。このように前傾配置することにより、マスターバック7の下方空間と変速機8の上方空間のデッドスペース空間を利用して、有効にECU1を配置している。
【0042】
もっとも、こうした位置にECU1を配置すると、車両の前面衝突時には、前方に位置する変速機8が、衝突荷重を受けて後退し、ECU1に干渉してしまうことになる。また、さらに大きな衝突荷重を受けた際には、変速機8は、さらに車両後方側に後退して、ECU1を介してマスターバック7にも干渉することになる。
【0043】
このように変速機8がECU1に干渉すると、ECU1を破損させることになり、ECU1を再利用することができなくなり、また、その後のECU1の記録データの解析も行えなくなる。さらに、マスターバック7にまで干渉すると、ダッシュパネル2を後退させるといった問題も生じる。
【0044】
そこで、本実施形態では、アシスト片部14を設けることによって、車両の前面衝突時にECU1が上方へ移動するようにしている。
【0045】
図7は、衝突中期におけるECU1の取付構造を示した側面簡略図である。
この図に示すように、車体に前方からの衝突荷重が作用すると、フロントサイドフレーム3には、前部3aが相対的に上方に変位するような挙動が生じる。これは、主として、フロントサイドフレーム3がダッシュパネル2下方位置に沈み込むように設けられることから生じる挙動であり、一般的なフロントサイドフレーム3に生じる変位挙動である。
【0046】
このフロントサイドフレーム3に、アシスト片部14を取付けていることから、アシスト片部14も上方へ移動する。これにより、取付ブラケット10のベースプレート部11もアシスト片部14から押上力を受けて上方へ移動する。この上方移動の際に、押上力を受けて取付片部13も三角折れビード16を起点として略くの字状に折れ曲る。
【0047】
こうして、取付ブラケット10が上方に移動することで、ベースプレート部11に固定したECU1も上方へ移動することになり、変速機8が後退してきてもECU1との干渉を回避することができ、ECU1の破損を防止することができる。
【0048】
なお、本実施形態では、アシスト片部14を、フロントサイドフレーム3の傾斜部3B中央に取付けている。これは、衝突時に確実に上方へ変位して、上方への移動量を確保できる位置を考慮して、この位置に設定しているのである。すなわち、フロントサイドフレーム3前部に形成した水平部3Aでは、衝突挙動によって変位方向が下方や左右方向になる可能性があり変位挙動が不安定である。一方、傾斜部下部3Cでは、ダッシュパネル2に近接しすぎて大きな上方変位が生じず、変速機8を回避できるだけの上方移動量を確保できない。そこで、フロントサイドフレーム3の傾斜部3B中央にアシスト片部14を取付けているのである。
【0049】
図8は、衝突後期におけるECU1の取付構造を示した側面簡略図である。
さらに、大きな衝突荷重が作用すると、この図に示すように、フロントサイドフレーム3には、さらに前部3aが上方に変位するような挙動が生じる。この挙動によって、アシスト片部14は、さらにベースプレート部11に押上力を伝達して、ベースプレート部11を上方に移動させる。このとき、取付片部13も、さらに略くの字状に折れ曲る。
【0050】
こうして、さらに取付ブラケット10が上方に移動することで、ECU1もさらに上方へ移動することになり、変速機8とマスターバック7の間にECU1が挟まることが回避され、変速機8がECU1を介してマスターバック7に干渉するのを防ぐことができ、ダッシュパネル2の後退を抑制することができる。
【0051】
次に、本実施形態の作用効果について、詳述する。
この実施形態の車載部品の取付構造は、ダッシュパネル2の前方で且つフロントサイドフレーム3よりも上方に位置するECU1と、ECU1から後方に向って延びダッシュパネル2に取付けられる取付片部と、ECU1から下方に向かって延びフロントサイドフレーム3に取付けられ、フロントサイドフレーム3の車両衝突時の変位をECU1に伝達するアシスト片部14とを備えている。
【0052】
これにより、フロントサイドフレーム3の車両衝突時の上方変位が、アシスト片部14によって、ECU1に伝達されることになり、車両衝突時に、ECU1が上方に移動することになる。
このため、ECU1は、車両衝突時に前方から後退してくる変速機8を避けて、上方に移動することになり、変速機8との干渉を防ぐことができる。
【0053】
よって、ECU1をエンジンルームER内に取付ける取付構造において、車両衝突時に、ECU1と変速機8との干渉を防いで、ECU1の破損を防ぎ、ECU1の再利用を可能として、ECU1の記録データの保護を図ることができる。
【0054】
なお、このECU1の代わりに、ABSユニット、TRCユニット、ATユニット、ハイブリッド車用の制御ユニット等の電子制御ユニットを取付けるように構成してもよい。
【0055】
また、この実施形態では、フロントサイドフレーム3が、車両前方側から略水平方向に延びる水平部3Aと、その水平部3Aの後端からダッシュパネル2の下方に向って斜め下方に延びる傾斜部3Bとを備えており、アシスト片部14の下端を、その傾斜部3Bに取付けている。
これにより、車両衝突時にダッシュパネル2下部近傍を起点として上方に立ち上がろうとする傾斜部3Bの変位を利用して、ECU1を上方に移動させることができる。
よって、フロントサイドフレーム3の傾斜部3Bから、より確実に押上力を得て、ECU1を上方に移動させることができる。
【0056】
また、この実施形態では、アシスト片部14の剛性を、板厚を厚くすることにより取付片部12,13の剛性より大きくしている。
これにより、車両衝突時に、アシスト片部14が変形することなく、取付片部12,13が先に変形することになる。
このため、アシスト片部14の押上力の伝達機能が確実に確保され、ECU1の上方移動を確実に生じさせることができる。
よって、車両衝突時に、確実にECU1を上方に移動させることができ、より確実に変速機8との干渉を防ぐことができる。
【0057】
また、この実施形態では、アシスト片部14に、上下方向に延びる縦ビード24を設けている。
これにより、アシスト片部14の上下方向剛性を高めることができる。
よって、簡単な構成によって、アシスト片部14の上下方向剛性をさらに高めることができ、アシスト片部14の押上力の伝達性能を高めることができ、確実にECU1を上方に移動させることができる。
【0058】
また、この実施形態では、取付片部12,13に、剛性の低下する三角折れビード15,16を設けている。
これにより、アシスト片部14から押上力を受けた際に、三角折れビード15,16で折り曲げ変形が生じて、取付片部12,13が容易に変形することになる。
よって、車両衝突時に、より確実に取付片部12,13が変形して、ECU1を上方に移動させることができる。
【0059】
なお、この三角折れビード15,16に代わる取付片部12,13の脆弱構造としては、図9に示す構造が考えられる。例えば、(a)のように、取付片部13の中央部に、逆三角形のスリット開口30を形成する構造や、(b)のように、上半分に円形の貫通穴31を形成する構造、さらには(c)のように、上半分に薄肉部32(ハッチング領域)を形成する構造が考えられる。
いずれの構造も、アシスト片部14から押上力を受けた際には、取付片部12,13を略くの字状に折り曲げ変形させることができる。
【0060】
また、この実施形態では、ベースプレート部11を介してアシスト片部14を取付片部12,13に連結している。
これにより、アシスト片部14の押上力を確実に取付片部12,13に伝達することができ、より確実に取付片部12,13を変形させることができる。また、ECU1を介さずに、直接押上力を取付片部12,13に伝達するため、上方移動時に、ECU1に押上力が作用することもない。
よって、車両衝突時に、取付片部12,13が確実に変形して、ECU1が上方により移動しやすくなる。また、上方移動時にECU1に押上力が作用しないため、ECU1に応力が生じることがなく、ECU1を保護することもできる。
【0061】
また、この実施形態では、ECU1を取付けるベースプレート部11を備え、ベースプレート部11の両側位置にダッシュパネル2に向かって延びる第一取付片部12と第二取付片部13を設け、ベースプレート部11の左側端部にアシスト片部14を接合固定している。
これにより、両側に取付片部12,13を設けたベースプレート部11でECU1を取付けることで、ダッシュパネル2に両持ち支持で取付けることができるため、ECU1の支持剛性を高めることができる。
また、ベースプレート部11にアシスト片部14を接合固定することで、二つの取付片部12,13に対して確実に押上力を伝達することができ、取付片部12,13を確実に変形させることができる。特に、本実施形態のように、左側端部だけにアシスト片部14を接合していても、離間した右側の第一取付片部12にも押上力を伝達できるため、第一取付片部12も確実に変形させることができる。
【0062】
よって、取付ブラケット10でECU1を安定して支持することができ、また、アシスト片部14からの押上力によって、確実にECU1を上方に移動させることができる。
なお、本実施形態では、ベースプレート部11を有する取付ブラケット10で説明したが、本発明は、必ずしもベースプレート部11を有する必要はなく、例えば、ECU1自体にアシスト片部14や取付片部12,13を直接設けるようにしてもよい。
【0063】
次に、第二の実施形態について、図10の側面簡略図を利用して説明する。この側面簡略図は、第一実施形態の図6に対応する図であり、同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。また、その他の前提の構成要素については、第一の実施形態と同様である。
【0064】
この実施形態では、アシスト片部114のフロントサイドフレーム3への取付位置を、前後二ヶ所(115,116)に設定することで、フロントサイドフレーム3の上方変位だけでなく、車両衝突時の角度変化についてもECU1に伝達して、ECU1の傾斜角度についても、適切な角度となるように設定したものである。
【0065】
具体的には、アシスト片部114の下端部を二又形状114a,114bに形成して、その二又形状の下端部114a,114bに、フロントサイドフレーム3に締結固定する取付部115,116(ボルト挿通穴)を設けている。
【0066】
このように、アシスト片部114の取付部115,116を、前後に離間して複数設けることにより、フロントサイドフレーム3の角度変位に対しても、一体的にアシスト片部114を変位させることができる。
【0067】
すなわち、第一の実施形態では、アシスト片部14をフロントサイドフレーム3に一点で取付けているため、上下方向の動きのみを、ECU1に伝達することになるが、この第二の実施形態では、アシスト片部114をフロントサイドフレーム3に二点で取付けているため、回転方向(角度)の動きも、ECU1に伝達することができるのである。
【0068】
このため、通常時には、前傾配置しているECU1を、車両衝突時には、二点鎖線の仮想線1′で示すように、鉛直方向に立つように移動させることができ、ECU1の占有する前後方向スペースをコンパクトにすることができる。これにより、ECU1が存在することによるダッシュパネル2の後退量もより少なくすることができる。
【0069】
よって、この実施形態によると、車両衝突時におけるECU1の設置角度も適切に変化させることができ、ダッシュパネル2の後退量を少なくすることができる。
その他の作用効果については、第一の実施形態と同様である。
【0070】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明のサイドフレームは、実施形態のフロントサイドフレームに対応し、
以下、同様に、
車載部品は、ECU1に対応し、
取付脚部は、取付片部12,13に対応し、
変位伝達脚部は、アシスト片部14,114に対応し、
補強ビードは、縦ビード24に対応し、
脆弱部は、三角折れビード15,16、スリット開口30、貫通穴31、薄肉部32に対応し、
取付ベース部は、ベースプレート部11に対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる自動車の車載部品の取付構造に適用する実施形態を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第一の実施形態を前方斜め上方から見た全体斜視図。
【図2】要部詳細斜視図。
【図3】ECUを組付けた状態の取付ブラケットの右側前方斜視図。
【図4】ECUを組付けた状態の取付ブラケットの左側前方斜視図。
【図5】ECUを組付けた状態の取付ブラケットの右側後方斜視図。
【図6】衝突前におけるECUの取付構造を示した側面簡略図。
【図7】衝突中期におけるECUの取付構造を示した側面簡略図。
【図8】衝突後期におけるECUの取付構造を示した側面簡略図。
【図9】取付片部の他の脆弱構造を示した側面簡略図。
【図10】第二の実施形態のECUの取付構造を示した側面簡略図。
【符号の説明】
【0072】
1…ECU
2…ダッシュパネル
3…フロントサイドフレーム
8…変速機
10…取付ブラケット
11…ベースプレート部
12…第一取付片部
13…第二取付片部
14,114…アシスト片部
15、16…三角折れビード
24…縦ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の車載部品取付構造であって、
エンジンルームの後壁を構成するダッシュパネルと、
該ダッシュパネルの車両前方側から後方に向って延びダッシュパネルの下方を通って車両後方側に延びるサイドフレームと、
前記ダッシュパネルの前方で且つ前記サイドフレームよりも上方に位置する車載部品と、
該車載部品から後方に向って延びダッシュパネルに取付けられる取付脚部と、
前記車載部品から下方に向って延びサイドフレームに取付けられ該サイドフレームの車両衝突時の変位を車載部品に伝達する変位伝達脚部とを備える
自動車の車載部品取付構造。
【請求項2】
前記サイドフレームが、車両前方側から略水平方向に延びる水平部と、
該水平部の後端から前記ダッシュパネルの下方に向って斜め下方に延びる傾斜部とを備え、
前記変位伝達脚部を、該傾斜部に取付けた
請求項1記載の自動車の車載部品取付構造。
【請求項3】
前記変位伝達脚部のサイドフレームへの取付け点を前後に複数設定した
請求項1又は2記載の自動車の車載部品取付構造。
【請求項4】
前記変位伝達脚部の剛性を、前記取付脚部の剛性より大きくした
請求項1〜3いずれか記載の自動車の車載部品取付構造。
【請求項5】
前記変位伝達脚部に、上下方向に延びる補強ビードを設けた
請求項4記載の自動車の車載部品取付構造。
【請求項6】
前記取付脚部に、剛性の低下する脆弱部を設けた
請求項4記載の自動車の車載部品取付構造。
【請求項7】
前記変位伝達脚部を、前記取付脚部に連結した
請求項1〜6いずれか記載の自動車の車載部品取付構造。
【請求項8】
前記車載部品を取付けるプレート状の取付ベース部を備え、
該取付ベース部の両側にダッシュパネルに向って延びる前記取付脚部を設け、
該取付ベース部に前記サイドフレームに向って延びる前記変位伝達脚部を設けた
請求項1〜6いずれか記載の自動車の車載部品取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−37300(P2008−37300A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−215559(P2006−215559)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】