説明

自動車両のレーダ方法および自動車両用のレーダ装置

【解決手段】自動車両のレーダ装置(10)がレーダ波を放射して受信し、物体(16)と自動車両との距離が、発信されたレーダ波と受信されたレーダ波との間の周波数シフトから確定され、物体の速度が、受信されたレーダ波の位相位置から確定される、FMCWのレーダ方法が示される。方法は、この方法が、第1の時間区間(T_A、T_B)で、自動車両の周囲(36)の少なくとも1つの第1の部分区域(A,B)にある物体に対して実行され、第2の時間区間(T_C、T_D、T_E、T_F、T_G)で、周囲(36)の少なくとも1つの第2の部分区域(C、
D、E、F、G)にある物体に関して速度ではなく、距離が確定されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車両のレーダ装置がレーダ波を放射しかつ受信し、物体と自動車両との距離が、発信されたレーダ波と受信されたレーダ波との間の周波数変位(Frequenzverschiebung)から確定され、物体の速度が、受信されたレーダ波の位相位置から確定される、FMCW(FMCW=frequency modulated continuous wave)のレーダ方法に関する。
【0002】
さらに、この発明は、この方法を実行する自動車両用のレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0003】
このような方法およびこのようなレーダ装置は、DE 196 10 970 A1から公知である。全く一般的には、FMCWレーダの場合、放射されたレーダ波の周波数は、所定のパターンに従って、時間的に周期的に変化される。物体で反射されたレーダ波は、レーダ装置による受信の際に、物体との2倍の距離を進んだ後、物体との距離に比例した遅延をもって、再度レーダ装置に届く。
【0004】
放射されるレーダ波の周波数が、この遅延の間に変化したので、所定の時点でレーダ装置中に伝搬する発信信号および受信信号は、物体との距離rおよび発信周波数の変化の種類(Art)に左右される周波数差d f(r)を有する。時間的に線形の変化およびレーダ装置に対し停止している物体の場合、d f(r)は、物体との距離に正比例している。相対速度vでの相対移動の場合、さらに、周波数の、速度に依存するドップラ変位が生じる。周波数の符号は、速度の方向および発信周波数変化の符号に依存している。
【0005】
周波数差を算出確定する(Ermittlung)ために、発信信号は、通常、受信信号と混合されて、中間周波数信号を形成する。この中間周波数信号は、結果として、周波数差の値の場合には、スペクトル信号成分を有し、それより高い周波数の場合には、他の成分を有する。低域濾波によって、高い周波数の成分は分離され、残りの信号は、スペクトルに応じて分析される。残りの信号には、実行時間に依存しかつ速度に依存する周波数変位が写像(abbilden)される。
【0006】
DE 196 10 970 A1によれば、発信周波数の周期的な増大のためには、距離に依存しかつ速度に依存する周波数変位の合計の場合に、実質的に周波数値(スペクトル線)が得られ、他方、発信周波数の周期的な減少のためには、上記周波数シフトの差の場合に、周波数値が得られる。これらの周波数値の平均値および差を形成することによって、距離に依存しかつ速度に依存する周波数変位の値が個々に確定される。従って、この評価の際には、距離のみならず速度も、最終的には、中間周波数信号の周波数から確定される。しかしながら、このことは、スペクトル線および物体の明確な割り当てを要する。このことは、類似の距離にある複数の反射する物体の場合には、容易には当てはまらない。
【0007】
複数の物体の場合でも、物体に個別に距離および速度を確定するために、明細書の最初の部分に記載のDE 196 10 970 A1は、中間周波数信号の周波数からは距離を、中間周波数信号からなる位相情報から速度を導き出すことを提案する。DE 196 10 970 A1では、中間周波数信号の偏角、従って中間周波数信号の位相は、特に、距離に依存する項を含む。レーダ装置と物体との間の相対移動の際に、距離が、発信周波数変位の2つの周期の間でわずかに変化するので、中間周波数信号の位相で、距離に依存する項も変化する。DE 196 10 970 A1によれば、発信周波数変位の少なくとも2つの周期の間での位相の変化の範囲からは、相対速度が推論されることが意図される。この場合、位相情報は、その都度、中間周波数信号のフーリエ変換の結果の位相から得られる。従って、2つの位相値を得るためには、各々の物体に関し、発信信号の変化の2つの周期が通過されなければならず、各々の周期に関しては、フーリエ変換が実行されなければならない。
【0008】
自動車両の場合、レーダ装置は、車両の周囲をモニタするために用いられる。隙間駐車補助、死角モニタ、車線変更補助、ドア開放補助、エアバッグ解除のための事故予知(衝突予知)、ベルト緊張、ロールバーの作動、開始/停止動作または車両間距離のモニタおよび/または車両間距離制御(クルーズ・コントロール支援)のような用途が適切である。
【0009】
所定の交通状況では、例えば、複数車線の道路上での混雑した交通では、多数の物体が、自動車両の周囲にあることがある。この場合、種々の物体が、類似の距離、しかし異なった速度を有することがある。物体の位置および速度に従って、運転者および/または運転者補助装置のために、適切な走行車線および走行速度の選択のための種々の推論が生じる。所定の走行車線への交換が意図される際に、衝突を回避するためには、他の車両の位置および速度を、比較的大きな角度範囲で評価しなければならない。自分の車両の後部に接近するか後部から遠ざかる車両と、側方の周囲にある車両と、走行方向に接近するか遠ざかる車両とを検知するために、角度範囲は、約180°を有する。このとき、すべての位置および速度の正確な検知は、一定の時間を要する。隣り合った複数の物体同士の、通常は異なった距離の故に、自動車両の周囲における全状況は、比較的即座に著しく変化することがある。従って、自動車両用のレーダ装置のためには、高い情報更新率(アップデート率)が必要とされる。
【0010】
大きな角度範囲に位置する、有り得る多数の物体との関連での、高い情報更新率への要求は、個々の物体の速度の、出来る限り良好な解像度への要求とは逆である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような背景から、この発明の課題は、運転者補助装置、または運転者に車両の周囲にある物体に関する、衝突の回避のために重要な情報を、高い情報更新率でおよび個々の物体との距離および個々の物体の速度の良好な解像度とともに提供する、自動車両用のレーダ装置のレーダ方法を示すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、明細書の最初の部分に記載のタイプのレーダ方法では、この方法が、第1の時間区間で、自動車両の周囲の少なくとも1つの第1の部分区域にある物体に対して実行され、第2の時間区間で、周囲の少なくとも1つの第2の部分区域にある物体に関して、速度ではなく距離が確定されることを特徴とする。
【0013】
第1の自動車両とともに移動するレーダ装置によって原理的に確定可能である速度は、常に、相対速度である。このような速度は、第1の自動車両と他の自動車両または物体との間の径方向距離がいかに迅速に変化するかを示す。種々の走行車線上での種々の自動車両は、この方向に沿って、非常に異なる速度で移動することができる。第1の自動車両の走行方向に平行にまたは逆平行に、非常に異なった径方向の相対速度が生じることがある。他方、第1の車両の脇にある他の車両に対する放射方向の相対速度は、通常、ほぼゼロに等しい。従って、後者の場合は、距離情報、または物体がいったい第1の車両の脇にあるか否かの情報が十分である部分区域の、その例である。
【0014】
この発明が第1の部分区域と第2の部分区域とを区別することによって、任意の或る時間区間で処理される情報の数が減少される。このことは、信号処理を容易にする。例えば、同一の距離にあるが、異なった角度位置にある物体を、他の物体よりも容易に検知することができる。
【0015】
しかしながら、種々の部分区域の連続的なスキャンは、所定の部分区域からの情報が、他の部分区域のスキャンの後にはじめて実現化されるという欠点を有する。原則的には、このことは、情報更新率の望ましくない減少をもたらす。さらに、情報更新率を鑑みると、速度の確定が、明細書の最初の部分に記載のFMCWのレーダ方法では、距離の確定よりも時間的にコストがかかることも、欠点である。従って、要約すれば、すべての物体の速度の完全な検知は、車両の周囲の、連続的にスキャンされる部分区域への区分との関連で、自動車両への適用のためには最早十分でない情報更新率をもたらす。
【0016】
この発明は、このことを、速度の、時間のかかる確定が、第1の部分区域でのみなされることによって回避する。速度が少なくとも1つの第1の部分区域でのみ検知されることによって、レーダ方法を、第1の部分区域と、第2の部分区域とで異なって最適化することができる。このような異なった最適化が、従属請求項の主題である。
【0017】
この場合、放射されたレーダ波の周波数が周期的に変調され、変調の周期の第1の数に関する位相位置が算出確定され、変調の周期の第2の数に関する周波数変位が算出確定されることは好ましい。
【0018】
変調の周期の数は、時間区間の長さに影響を及ぼす最適化パラメータである。時間区分の長さは、周期の数と共に増大する。周期の第1の数をベースにした速度の、および周期の第2の数をベースにした距離の確定は、第1の数および第2の数が等しくないという前提の下で、第1の周期と第2の周期の長さの違いをもたらす。
【0019】
高い解像度を有しかつ正確な速度測定のためには、原則的に、周期の、距離の測定のためより大きい数が必要である。従って、第1の数が第2の数よりも大きいことが好ましい。
【0020】
さらに、第1の数が16より大きいか、16に等しいこと、および第2の数が1に等しいことは好ましい。
【0021】
これらの数が、距離および速度の高い情報更新率への、および出来る限り高い解像度への逆の要求の間の良好な折り合い(Kompromiss)を可能にすることが明らかになった。
【0022】
他の好ましい実施の形態は、第1の数が32に等しいことを特徴とする。
【0023】
原則的には、異なった物体の速度の解像度は、第1の数の値が増加するにつれて、改善される。他方では、このとき、情報更新率が再度減少する。従って、数32は、適正な情報更新率の際の一層改善された解像度を供する折り合いを意味する。
【0024】
距離が、発信信号および受信信号の低域濾波された混合生成物(Mischungprodukt)に適用される第1のフーリエ変換によって確定されること、および、速度が、複数の第1のフーリエ変換の結果の位相位置に適用される第2のフーリエ変換によって確定されることも好ましい。
【0025】
この場合、位相位置は、受信器において反射されたレーダ信号の位相を確定する元になる数値を意味する。第1のフーリエ変換の結果は、一般的には、知られるようにベクトル図では大きさ(Betrag)および位相を特徴とするフェーザ表示(Zeigerdarstellung)である。従って、本願では、位相は、関連に応じて、複素数または複素数の偏角(Winkelargument)を意味する。
【0026】
第1のフーリエ変換は、今後さらに物体との距離の尺度として用いられる周波数変位を供する。第2のフーリエ変換の意味は、例えば、ベクトル線図で位相位置をベクトル位置として表わすことによって、推理される。多数の物体があるとき、相応の多数のベクトルが生じる。第2のフーリエ変換は、この図では、すべてのベクトルの回転周波数の形態のフーリエ変換の結果として、すべての求められる速度を供する。ベクトルの回転周波数は、位相の個々の変化、従ってまた物体の位置または物体との距離を写像する。
【0027】
他の実施の形態は、異なった物体同士が、その距離および/または速度によって区別されることを提案する。
【0028】
一般的には、異なった速度の確定、および確定された物体への速度の割り当てによって、複数の物体同士も区別される。これらの物体は、距離の確定のみでは、まだ解像されない。
【0029】
実際の試みでは、半分のミリ秒よりも小さい、放射されたレーダ波の変調の周期が、高い情報更新率への、および速度の高い解像度への要求の間の良好な折り合いを供することが明らかになった。
【0030】
個々の部分区域が、レーダ装置の関連ある検知区域を覆うこと、および第1の部分区域の数が、第2の部分区域の数よりも小さいことも好ましい。
【0031】
関連によって、検知区域での死角が回避される。第1の部分区域の数が小さければ小さいほど、情報更新率が一層増大する。従って、この実施の形態は、情報更新率を最適化する。
【0032】
レーダ装置のこれらの実施の形態を鑑みれば、レーダ装置が、方法のこれらの好ましい実施の形態の1つを実行することは好ましい。
【0033】
他の利点は、記述および添付された図から明らかである。
【0034】
前記の特徴および以下にこれから説明する特徴を、この発明の枠を離れることなく、それぞれの組合せだけでなく、他の組合せでも、あるいは単独で用いることができることは自明である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
図示したこの発明の実施の形態を、以下の図面を参照して詳述する。図1は、FMCW原理に基づいて作動する、自動車両のレーダ装置10を詳細に示す。信号発生器12は、周期的に変調された周波数を有する発信信号を発生する。このような発信信号は、レーダ波の形態で、発信アンテナ装置14によって放射される。物体16から反射されかつレーダ装置へ戻るレーダ波は、受信アンテナ装置18によって、電気的な受信信号へ変換される。ミキサ20は、このような受信信号を、発信アンテナ14へ導かれる発信信号と混合する。明細書の初めの部分に記載したように、混合生成物は、差分周波数および位相位置の信号成分を含む。差分周波数および位相位置からは、原則的に、物体との距離および物体の速度が確定可能である。この差分周波数は、発信信号と受信信号の間の周波数変位に対応し、従って、発信信号の周波数よりも低い。
【0036】
低域フィルタ22では、差分周波数よりも高い周波数を有する信号成分が分離され(abgetrennt)、次に、残余の信号が、アナログ・ディジタル変換器24によって離散化され、離散化された形態で、ディジタル式の信号処理手段26で、さらに処理される。表示装置28は、運転者に、さらなる処理の結果を表示する。制御装置30は、ディジタル式の信号処理手段26の、信号発生器12の、および発信アンテナ装置14を制御するために用いられるアンテナ回路32の、および/または受信アンテナ装置18を制御するために用いられるアンテナ回路34の動作を同期化する。
【0037】
実施の形態では、発信アンテナ装置14は、この発信アンテナ装置が、自動車両の周囲36の互いに異なる部分区域A、B、C、D、E、F、Gを照射するように、制御される。通常は、この目的のために、フェーズドアレー原理に基づく発信アンテナ装置14の発信ローブが、電子的に旋回される。この場合、受信アンテナ装置18は、幅の広い受信特性を有することができる。この受信特性をもって、周囲36全体が覆われる。複数の他の実施の形態は、その代わりにまたは補足的に、幅の広い発信ローブとの関連で、幅の狭い受信角度範囲を実現化することができる。いずれにせよ、発信アンテナ装置14および/または受信アンテナ装置18の制御がなされる。それ故に、周囲36の異なった部分区域B,Gにある物体16、37を、時間的に互いに別々に検知することができる。任意の区域からは、所定の時点で、レーダ信号が受信され、かつ処理される。以下、この区域をアクティブな区域と呼ぶ。
【0038】
アンテナ装置14および18は、実施の形態では、自動車両の後部で、側方左に設けられている。この自動車両は、矢印38で示された走行方向に動く。レーダ装置によって部分的に周期的にスキャンされる周囲36は、例えば、約180°の角度に亘って延びている。例えば、走行方向38および走行方向の反対方向は、この角度を含む。図1の実施の形態では、周囲36は、7つの部分区域A、B、C、D、E、F、Gに等間隔に区分されている。しかしながら、この区分が等間隔である必要はなく、それより多いか少ない部分区域を有してもよいことは明らかである。いかなる場合でも、レーダ装置10を駆動するために用いるレーダ方法が、第1の時間区間では、自動車両の周囲の少なくとも1つの第1の部分区域にある物体に対して実行され、第2の時間区間では、周囲の少なくとも1つの第2の部分区域にある物体に関して、速度ではなく、距離が確定されることが重要である。
【0039】
図1の実施の形態では、部分区域AおよびBが、この意味で、第1の部分区域であり、他方、残余の部分区域C、D、E、FおよびGが第2の部分区域である。部分区域Dの場合に、他の車両のラジアル速度は、通常無視できる。しかしながら、車線変更を意図する際に、物体が、一体そこにあるか否かを確認することが重要である。このことは、実質的に、部分区域CおよびEにも当てはまる。部分区域FおよびGは、運転者の視界にある。それ故に、そこには同様に、レーダ装置10による速度の確定を省略することができる。
【0040】
他方では、状況によっては、例えば、車線変更を意図する際に、重要であるのは、他の車両の速度および他の車両との距離を認識することである。この他の車両は、運転者の視界の外側で後方から接近し、レーダ装置10によって部分区域AまたはBで検知される。従って、ここでは、距離の確定よりもコストがかかる速度の確定がなされ、他方、第1の部分区域A、Bおよび第2の部分区域C、D、E、FおよびGにあるすべての物体に関して、距離が確定される。しかしながら、部分区域AないしGの、第1の部分区域および第2の部分区域へのこのような割り当てが、必ずしも必要という訳ではなく、区分が他の方法でなされてもよいことは明らかである。
【0041】
図2は、周囲36の連続的なスキャンのサイクルの際の、発信信号の周波数の、この場合になされる変調との関連での、アンテナ装置14および/または18の制御における相違を示す。発信信号の周波数fは、この実施の形態では、周期的に、上方の限界値f oに斜面状に増大され、続いて、下方の限界値f uに段状に減少される。個々の斜面状の周波数40を、チャープ(chirp)とも呼ぶ。
【0042】
発信信号の周波数の、斜面状の増大および段状の減少から結果として生じる推移42に平行に、アンテナ装置14および/または18の制御がなされる。それ故に、周波数変調の周期(n 1チャープ)の第1の数n 1に亘って延びている第1の時間区間T Aの間に、第1の部分区域Aにおける物体との距離および物体の速度が算出確定される。次に、これに応じて、他の第1の時間区間T Bの間に、他の第1の部分区域Bにおける物体との距離および物体の速度が算出確定される。
【0043】
これに対して、第2の時間区間T C、 T D、 T E、 T FおよびT Gに関するアンテナ装置14および/または18の制御がなされる。それ故に、推移40における変調の周期の第2の数n 2の後には常に、周囲36における他の区分への切換がなされ、常に、これらの区分にある物体の速度ではなく、物体との距離のみが確定される。第2の数n 2は、第1の数n 1よりも小さく、好ましくは、かつ図2の例でも値1を有する。これに対し、第1の数n 1の値は、好ましくは、16よりも大きく、例えば、値32を有する。図2の例とは異なり、変換は、部分区域A、B、C、・・・の他の順番でもなされることができる。
【0044】
距離を、少なくとも近似的に、既にチャープ40から確定することが可能である。原則的には、発信信号と受信信号との間の、評価される周波数変位は、物体との距離および物体の速度に左右される。変調の帯域幅が小さければ小さいほど、かつ変調が緩慢に生じれば生じるほど、距離依存性が一層少なくなる。消滅する変調の極端な場合には、すなわち、受信信号の周波数が、任意の周波数のみで連続的に発信されるときは、受信信号の周波数は、速度依存性のドップラ効果によって引き起こされるオフセットを除いて、発信周波数に対応する。これに対して、周波数変調が迅速にかつ大きな帯域幅に亘ってなされるとき、距離による周波数シフトへの影響が支配的である。
【0045】
実施の形態では、各々のチャープ40は、256マイクロ秒で通過される24.05GHzから24.35GHzまでの斜面状の周波数からなる。かくて、チャープは十分に短く、かつ急勾配である。それ故に、支配的である距離依存性が前提となることが可能である。異なった距離からの複数の物体から反射されたレーダ波が、受信アンテナ装置に届くとき、受信信号は、相応に複数の差分周波数成分を有する。
【0046】
受信信号の評価は、図1に示すディジタル式の信号処理手段26で、AD変換器24からの離散値の出力信号列Sの処理によってなされる。発信信号の各々のチャープ40に対して、割り当てられた出力信号列が生じる。各々の検知された物体に関して、出力信号列は、この物体からの反射によって発生される信号成分を含む。この信号成分は、(経時変化の)周波数および距離依存性の位相位置を有する。位相位置は、距離が、一般的に、レーダ波の波長の整数倍ではないことから、結果として生じる。
【0047】
ディジタル式の信号処理手段26は、実際のスキャン値から、この出力信号列sの第1のフーリエ変換の結果Sを形成する。このような一般的には複素数型のフーリエ変換の結果Sは、知られるように、大きさスペクトル(Betragsspektrum)すなわち振幅スペクトル(Amplitudenspektrum)および位相スペクトルを有する。
【0048】
図3aは、大きさスペクトル44の例を示し、図3bは、受信信号の第1のフーリエ変換の結果Sの、対応の位相スペクトル46の例を示す。
【0049】
大きさスペクトル44は、受信信号中の所定の周波数が、どの相対荷重Aで適正であるかを示す。第1のフーリエ変換の複素数型の結果値のベクトル図では、ベクトルの長さは、相対荷重Aに対応する。従って、荷重Aは周波数fの上方に描かれている。異なった距離に2つの反射する物体を有する状況を、例と見なすとき、2つの周波数f 48、f 50のところで、ピーク48、50が生じる。短い距離にある物体の信号は、受信アンテナ装置18において比較的弱い。このことは、大きさスペクトル44において、周波数のピーク48の少ない振幅に写像される。
【0050】
位相スペクトル46では、信号成分の位相位置φ 48、φ 50、すなわち、対応の複素ベクトルの角度位置が、同様に、周波数fの上方の描写に写像される。この場合、位相位置φ 48、φ 50は、信号成分の各々の周波数f 48、f 50に割り当てられている。
【0051】
チャープの、第1のフーリエ変換の結果Sの振幅スペクトルから、アクティブな部分区域で検知されたすべての物との距離が確定される。このことは、第1の部分区域および第2の部分区域に当てはまる。距離は、変調の帯域幅および係数2によって割られる、光速を有する周波数変位と、変調の周期との積として生じる。
【0052】
これに対し、速度は、第1の分部区域でのみ確定される。物体の速度を確定するためには、第1の部分区域n 1に関して、指数i、i=1、2、・・・を有する連続的なチャープn 1が通過され、それぞれのチャープに関して、実際の出力信号列siのフーリエ変換の結果Siおよびフーリエ変換の結果の位相スペクトルが確定かつ記憶される。この場合、位相スペクトルは、位相情報を含む数値の各々のスペクトルを意味する。従って、位相スペクトルは、特に、第1のフーリエ変換の複素数型の結果のスペクトルであってもよい。さらに、反射する物体との距離は、この目的のために評価される少なくとも1つの振幅スペクトルから確定される。
【0053】
レーダ装置10および物体が相対移動するとき、物体に関連する受信信号成分の位相が、チャープからチャープヘ変化する。これらの位相変化は、フーリエ変換の結果の位相に従ってまたフーリエ変換の結果の位相スペクトルに写像される。各々のチャープに関して、他の位相スペクトルが生じる。
【0054】
図4は、チャープが8つの場合に2つの物体から反射された信号の、その信号の第1のフーリエ変換の結果の可能な実数部 Reを概略的に示す。ここでは、各々の実数部は、周波数fおよび時間すなわちチャープの数P 1ないしP 8の上方に描かれた。周波数f 48、f 50において描かれた実数部は、夫々、物体に関連する。関連の複素数のベクトル図では、各々の実数部は、複素ベクトルの実軸への投影を表わす。複素ベクトルの角速度が一定である場合、調和振動が生じる。この角速度は、時間範囲における相対的な物体速度の尺度であり、自動車両用のレーダ装置では、少なくとも近似的に一定と見なされることができる。実数部の周期的な変化の周期は、特に、レーダ装置10と物体との間隔がレーダ放射の半分の波長だけ変化してなる時間に対応する。図4から読み取れるように、周波数f 48を特徴とする距離を有する物体の、その周期は、周波数f 50の場合の周期よりも大きい。周期が大きくなればなるほど、結果として、時間範囲では、一層低い速度が生じる。
【0055】
約24Ghzのレーダ周波数では、波長は約1.25cmである。例えば90Km/hの相対速度では、間隔は、約25マイクロ秒毎に、半分の波長だけ変化する。それ故に、約40KHzの位相変位周波数が生じる。
【0056】
この位相シフト周波数は、第2のフーリエ変換の結果として(より正確には、振幅スペクトルまたは大きさスペクトルとして)生じる。第2のフーリエ変換は、関連の物体に関する第1のフーリエ変換の離散型の位相値または関連の複素数型の結果値に適用される。第2のフーリエ変換は、同様に、ディジタル式の信号処理手段28によって、高速フーリエ変換(FFT)の知られた方法で算出される。類推的に、各々の他の物体に対する適切な位相シフト周波数が、他の第2のフーリエ変換の結果として生じる。多数の第2のフーリエ変換の別個の算出の代わりに、求められる位相変位周波数を、2次元のフーリエ変換によって算出することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明に係るレーダ装置のブロック回路図を示す。
【図2】この発明に係る方法を実施する際の、発信信号の時間的推移を示す。
【図3】受信信号の第1のフーリエ変換の結果の振幅スペクトルおよび位相スペクトルを示す。
【図4】この発明に係る方法の実施の形態で記録されかつ評価される、複数の第1のフーリエ変換の結果の実数部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車両のレーダ装置(10)がレーダ波を放射して受信し、物体(16)と前記自動車両との距離が、発信されたレーダ波と受信されたレーダ波との間の周波数変位から確定され、物体の速度が、受信されたレーダ波の位相位置から確定される、FMCWのレーダ方法において、
前記方法は、第1の時間区間(T A, T B)で、前記自動車両の周囲(36)の少なくとも1つの第1の部分区域(A,B)にある物体に対して実行され、第2の時間区間(T C,T D,T E,T F,T G)で、前記周囲(36)の少なくとも1つの第2の部分区域(C,D,E,F,G)にある物体に関して速度ではなく、距離が確定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記放射されたレーダ波の周波数を周期的に変調し、周期の第1の数(n 1)に関する位相位置を算出確定し、変調の周期の第2の数(n 2)に関する周波数変位を算出確定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の数(n 2)は、前記第1の数(n 1)よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の数(n 2)は、1に等しく、前記第1の数(n 1)は、16よりも大きいか16に等しいことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の数(n 1)は、32に等しいことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記距離を、発信信号および受信信号の低域濾波された混合生成物に適用される第1のフーリエ変換によって、確定すること、および、前記速度を、前記第1のフーリエ変換の結果の位相位置に適用される少なくとも1つの第2のフーリエ変換によって確定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1に記載の方法。
【請求項7】
異なった物体同士を、その距離および/または速度によって区別することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
放射されたレーダ波の変調の周期が、半分のミリ秒よりも小さいことを特徴とする請求項2ないし7のいずれか1に記載の方法。
【請求項9】
前記個々の部分区域は、前記レーダ装置の関連ある検知区域を覆うこと、および前記第1の部分区域の数が、前記第2の部分区域の数よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1に記載の方法。
【請求項10】
レーダ波を放射しかつ受信し、物体と自動車両との距離を、発信されたレーダ波と受信されたレーダ波との間の周波数変位から確定し、物体の速度を、受信されたレーダ波の位相位置から確定する、自動車両用のレーダ装置(10)において、
このレーダ装置(10)は、第1の時間区間(T A,T B)で、前記自動車両の周囲(36)の少なくとも1つの第1の部分区域(A,B)にある物体に関して距離および速度を確定し、前記周囲(36)の少なくとも第2の部分区域(C,D,E,F,G)にある物体に関して、速度ではなく、距離を確定することを特徴とするレーダ装置(10)。
【請求項11】
前記レーダ装置は、前記請求項2ないし9のいずれか1に記載の方法を実行することを特徴とする請求項10に記載のレーダ装置(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−510410(P2009−510410A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532616(P2008−532616)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008325
【国際公開番号】WO2007/036273
【国際公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(303049337)バレオ・シャルター・ウント・ゼンゾーレン・ゲーエムベーハー (18)
【Fターム(参考)】